(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ポリマー組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 5/08 20060101AFI20240423BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20240423BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20240423BHJP
A61L 17/10 20060101ALI20240423BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240423BHJP
A61K 8/84 20060101ALI20240423BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240423BHJP
C08L 5/04 20060101ALI20240423BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08L5/08
A61L15/28 100
A61L15/26 100
A61L17/10
A61K8/73
A61K8/84
A61Q19/00
C08L5/04
C08K5/098
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570274
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 KR2022006946
(87)【国際公開番号】W WO2022240264
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2021-0063040
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519340019
【氏名又は名称】ユーレー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YOUREH CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】オム,ヒャンメ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ウイジン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C083
4J002
【Fターム(参考)】
4C081AA01
4C081AC02
4C081BA11
4C081CA08
4C081CA24
4C081CD02
4C081CD03
4C081CD04
4C081CD08
4C081DA02
4C081DA15
4C081DA16
4C081DB03
4C083AD071
4C083AD191
4C083AD271
4C083AD301
4C083AD331
4C083AD411
4C083CC03
4C083DD11
4C083DD12
4C083DD17
4C083DD23
4J002AB05W
4J002AB05X
4J002DD066
4J002EG026
4J002FD206
4J002GB00
4J002GB01
4J002HA04
(57)【要約】
本発明は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーを水溶液上で凝集/懸濁現象なしに溶解させ、混合水溶液から様々な分野に活用可能な形態および用途の組成物を製造する方法に関し、前記方法は、(1)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]≦イオン強度≦(30×アニオン性ポリマーのモル数)の条件を満たす量で添加すること;または、(2)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が0.001<イオン強度<[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]の条件を満たす量で添加し、pHを7.0~8.3に調整することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法であって、
(1)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)
2]≦イオン強度(I)≦(30×アニオン性ポリマーのモル数)の条件を満たす量で添加すること;または、
(2)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が0.001<イオン強度(I)<[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)
2]の条件を満たす量で添加し、pHを7.0~8.3に調整することを含み、
前記(1)および(2)で、ポリマーのモル数は、ポリマーの重量/ポリマー繰り返し単位の質量で計算される値であり、NIGは、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの繰り返し単位内電荷団数のうち大きい数を示す、ポリマー組成物の製造方法。
【請求項2】
アニオン性ポリマー水溶液を製造し、これに電解質を前記(1)または(2)の条件を満たすように添加し、次に、カチオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの水溶液を添加することを含む、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーは、ポリマー繰り返し単位モル数を基準として1.5:0.001-0.01:2.4のモル比で混合される、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストランナトリウム、カルボキシメチルβ-グルカンナトリウムおよびカルボキシメチルデンプンナトリウムから成る群から選ばれる、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーは、ポリリジン、キトサン、プロタミン、ポリアルギニン、ポリ(エチレンイミン)およびポリ(2-ジメチル(アミノエチル)メタクリレート)から成る群から選ばれる、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項6】
前記電解質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビルリン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルクロン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、アスコルビルリン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウムから成る群から選ばれる有機塩または無機塩である、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項7】
前記アニオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの数平均分子量が1,000Da~3,000,000Daである、請求項1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項8】
アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーおよび電解質を含み、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法で製造される、ポリマー組成物。
【請求項9】
前記アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの混合比は、ポリマー繰り返し単位モル数を基準として1.5:0.001-0.01:2.4のモル比である、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
液状、またはフォーム、パッド、フィルム、棒、スポンジ、糸または粉末状の乾燥物で提供される、請求項8に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
創傷被覆材、止血材、縫合糸、化粧品または女性衛生用品に使用される、請求項10に記載のポリマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーおよび電解質を含むポリマー組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性高分子は、その用途によって「生体吸収性医用材料」、「生分解性プラスチック」および「バイオベース素材」という3つの形態で開発された。最初に開発された生分解性高分子は、生体内で吸収される医用材料であり、1970年代後半にポリグリコール酸を用いて溶ける手術用糸の実用化が始まった。この分野において生分解性高分子の重要性は、再生医療分野への応用においてより一層大きくなっている。去る2世紀の間生分解性高分子材料を生体医療用に応用するために多くの開発が行われてきた。生分解性高分子材料は、治療用ツールを開発するための優れた代表物質である。臨時人工臓器、細胞組織工学用支持体を作る3次元空隙材料、調節/徐放用薬物送達手段などが代表的である。これらの用途に適用されるには、特定の物理的、化学的、生物学的、生医学的および分解特性を有する物質が要求される。加水分解あるいは酵素作用によって分解される様々な天然および合成高分子が検討されている。現在市販されるほとんどの生分解性高分子は、コラーゲンのような天然高分子、ポリ(α-エステル)のような合成高分子である。生分解性高分子インプラントの成功した開発は、適切な生体適合性、生分解性および物理的特性を達成するために従来のバイオ材料をどのようにデザインし、改質するかに依存する。生体安定性バイオ材料から生分解性バイオ材料に移るパラダイム変化が起きている。現在の傾向では、一時的な治療のための永久補綴材料の大部分は、損傷した細胞を治療し再生させる生分解性ツールに交替されるように思われる。コラーゲンのような酵素に分解される天然高分子物質を生医学的に使用したのは、数千年になったが、生分解性合成高分子が使用されたのは、1960年代後半からである。特に最近20年間、画期的な発展がなされている。牽引車の役割を果たしたのは、新しい生医学技術の出現である。生体組織工学(tissue engineering)、再生医薬品、遺伝子治療、薬物送達調節、生体ナノ技術などの分野において生分解性基盤物質を必要とするためである。高分子材料を生体に応用するためには、優れた生体適合性が必須条件である。生分解性材料は、それ自体が徐々に分解され、結果的には、生体に無害な物質に変換されなければならない。そうでなければ、生体内で炎症反応、線維化反応などの様々な異物反応を起こす。したがって、材料が分解されて排出されることが非常に重要である。生分解性材料は、医薬および薬学領域に応用が拡大しており、マイクロ、ナノテクノロジーの進展に伴い、ますます応用が拡大されることが予想される。高分子材料は、多様性があり、従来バイオ材料として使用された金属、合金、セラミックのような他の素材に取って代わられる。
【0003】
なお、化粧品市場は、毎年急成長をしているが、このような市場の成長は、化粧品技術の飛躍的発展に基づいている。美容を目的とする従来のアプローチも拡大されており、病気の予防と治療の概念が導入された高機能性、美白、シワ改善、紫外線遮断、抗炎、肥満抑制などのような様々な機能を発揮する機能性化粧品市場も最近急速に成長している。このような化粧品産業の変化発展に合わせて、新素材と新技術の開発、他産業と技術融合を通じた新しい概念の化粧品が絶えず市場に現れている。韓国化粧品技術の発展は、1960年代から始まったと言える。当時の化粧品技術は、ほとんど化粧品の製造に焦点を当てて進められ、特に乳化と関連した界面研究が主力であった。初期には乳化剤を用いて製品の分散安定度を高める研究、製造工程制御の研究、使用感を改善する研究が主になされた。1980年代には皮膚の老化、美白に対する関心が非常に高まり、これを解決しようとする研究が多く進められた。生物学的方法による効能素材の開発とそれを効率的に皮膚に送達するために、リポソーム(liposome)のようなカプセル化(encapsulation)技術が導入された製品が発売された。1990年代に入り、より効能指向の製品が発売され、保湿、保護機能に加えて、美白、シワ予防などの効能が重要視された。このような効能を付与するために、ビタミン、天然抽出物などを含む様々な素材の開発が行われ、このような成分を製品内で安定化し、皮膚に効果的に吸収させることができる製材技術の開発に多くの努力が集中してきた。21世紀に入り、化粧品産業の技術は、皮膚科学分野では老化抑制、メラニン生成抑制、および脱毛、にきび、皮膚刺激などの緩和に関する研究が活発に進められており、素材分野ではこのような効能のある天然成分の探索、新たな効能を有する新物質および誘導体合成が活発に進められている。現在、トーキ、高麗人参などから得た漢方植物抽出物、およびカモミール、バラなどから得た植物抽出物が広く用いられており、角質細胞間脂質成分であるセラミドのようなバイオ分子も商用化されている。また、このように開発された効能成分を皮膚に吸収させるための薬物送達技術、不安定な効能物質を安定化する技術および難溶性効能物質を可溶化する剤形化技術が、流体およびナノ技術と結合されて発展されており、製品に活用されている。
【0004】
このように、生体適合性ポリマーの長所を用いて様々な分野における活用が期待されているが、互いに反対の電荷を有するポリマーの混合時に沈殿が生成したり、濁度が発生し、正確な含有量の溶液の製造が不可能であり、正電荷あるいは負電荷を用いる機能性ポリマーの特性が消失または減少するので、これに対する解決の必要性がある。
【0005】
米国登録特許第9220761号、Materials 2020,13,5309,Biomaterials.2004 Aug;25(17):3583-92、カナダ公開特許第2739499号などには、ポリ-L-リジンと対イオン(counterion)ポリマーの混合過程が記述されている。このような従来技術は、反応条件でpHを調整して、沈殿の生成を回避するものであり、pH調整は、反応条件の設定において必須である。pHを調整する場合、イオン性ポリマーのpKa値によるイオン化傾向が調節されるので、沈殿の生成を回避することは可能である。しかしながら、イオン性ポリマーの電荷特性を用いる場合、例えば、ポリ-L-リジンは、正電荷特性によって抗微生物(Antibiotics)あるいは静菌(Bacteriostatics)機能を示すが、イオン化傾向が減少または抑制されれば、このような機能が消えるので、ポリ-L-リジンの初期使用目的に符合しない。したがって、イオン性ポリマーの電荷特性から得られる機能を維持しながらも、互いに反対の電荷を有するイオン性ポリマーを均質な状態で混合する技術の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリマー複合素材の開発において、上記のような問題点を解決するためのものであって、互いに反対の電荷を有するポリマーの混合時に発生しうる沈殿あるいは懸濁現象を防止し、正確な含有量の溶液を製造し、これによって、正電荷あるいは負電荷を用いる機能性ポリマーの特性維持が可能なポリマー組成物の製造方法、およびこのような方法で製造されるポリマー組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記ポリマー組成物を液状、またはフォーム、パッド、フィルム、スティック、スポンジ、糸、粉末などを含む乾燥物の形態で提供し、創傷被覆材、止血材、縫合糸、化粧品、女性衛生用品などに使用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において上記のような技術的課題を解決する手段は、次の通りである。
【0009】
1.アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含むポリマー組成物の製造方法であって、
(1)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]≦イオン強度(I)≦(30×アニオン性ポリマーのモル数)の条件を満たす量で添加すること;または、
(2)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が0.001<イオン強度(I)<[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]の条件を満たす量で添加し、pHを7.0~8.3に調整することを含み、
前記(1)および(2)で、ポリマーのモル数は、ポリマーの重量/ポリマー繰り返し単位の質量で計算される値であり、NIGは、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの繰り返し単位内電荷団数のうち大きい数を示す、ポリマー組成物の製造方法。
【0010】
2.アニオン性ポリマー水溶液を製造し、これに電解質を前記(1)または(2)の条件を満たすように添加し、次に、カチオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの水溶液を添加することを含む、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0011】
3.アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーは、ポリマー繰り返し単位モル数を基準として1.5:0.001-0.01:2.4のモル比で混合される、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0012】
4.アニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストランナトリウム、カルボキシメチルβ-グルカンナトリウムおよびカルボキシメチルデンプンナトリウムから成るから選ばれる、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0013】
5.カチオン性ポリマーは、ポリリジン、キトサン、プロタミン、ポリアルギニン、ポリ(エチレンイミン)およびポリ(2-ジメチル(アミノエチル)メタクリレート)から成る群から選ばれる、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0014】
6.電解質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビルリン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルクロン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、アスコルビルリン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウムから成る群から選ばれる有機塩または無機塩である、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0015】
7.アニオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの数平均分子量が1,000Da~3,000,000Daである、前記1に記載のポリマー組成物の製造方法。
【0016】
8.アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーおよび電解質を含み、前記1から7のうちいずれか一項に記載の方法で製造されたポリマー組成物。
【0017】
9.アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの混合比がポリマー繰り返し単位モル数を基準として1.5:0.001-0.01:2.4のモル比である、前記8に記載のポリマー組成物。
【0018】
10.液状、またはフォーム、パッド、フィルム、棒、スポンジ、糸または粉末状の乾燥物で提供される、前記8に記載のポリマー組成物。
【0019】
11.創傷被覆材、止血材、縫合糸、化粧品または女性衛生用品に使用される、前記10に記載のポリマー組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの混合水溶液の製造およびその乾燥物を提供することによって、反対の電荷を有するポリマーを混合し、複合成分の乾燥物を製造するとき、沈殿または部分的な凝集(aggregation)による懸濁(suspension)現象を回避することができるので、目的に符合する複合水溶液を製造し、これから液状組成物、またはフォーム、パッド、フィルム、棒(stick),スポンジ、糸、粉末など様々な形態の乾燥物を提供することができる。
【0021】
本発明において提供する液状組成物、またはフォーム、パッド、フィルム、棒(stick)、スポンジ、糸、粉末などの乾燥物は、創傷被覆材、止血材、縫合糸、化粧品、女性衛生用品などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1a】
図1aは、本発明の実施例1で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1a:実施例1)。
【
図1b】
図1bは、本発明の実施例5で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1b:実施例5)。
【
図1c】
図1cは、本発明の実施例7で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1c:実施例7)。
【
図1d】
図1dは、本発明の実施例13で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1d:実施例13)。
【
図1e】
図1eは、本発明の実施例15で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1e:実施例15)。
【
図1f】
図1fは、比較例1で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1f:比較例1)。
【
図2a】
図2aは、本発明の実施例1で製造したヒアルロン酸とポリリジン混合水溶液の写真である(
図2a:実施例1)。
【
図2b】
図2bは、本発明の比較例1で製造したヒアルロン酸とポリリジン混合水溶液の写真である(
図2b:比較例1)。
【
図3a】
図3aは、本発明の実施例1および比較例1で製造したパッドの抗微生物効果を比較した結果である(
図3a:実施例1、
図3b:比較例1)。
【
図3b】
図3bは、本発明の実施例1および比較例1で製造したパッドの抗微生物効果を比較した結果である(
図3a:実施例1、
図3b:比較例1)。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1で製造したパッド状乾燥物の外形写真である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1で製造したフィルム状乾燥物の外形写真である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例1で製造した棒状乾燥物の外形写真である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例1で製造した錠剤形状の乾燥物のブリスター包装された写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとを水溶液上で凝集または懸濁現象なしに混合し、溶解させ、混合水溶液から様々な分野において活用できる形態および用途のポリマー組成物を製造する方法に関し、前記方法は、
(1)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]≦イオン強度(I)≦[30×アニオン性ポリマーのモル数]の条件を満たす量で添加すること;または、
(2)電解質をアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーを含む混合水溶液に対して前記水溶液中の電解質のイオン強度(I)値が0.001<イオン強度(I)<[16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2]の条件を満たす量で添加し、pHを7.0~8.3に調整することを含み、
前記(1)および(2)で、ポリマーのモル数は、ポリマーの重量/ポリマー繰り返し単位の質量で計算される値であり、NIGは、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの繰り返し単位内電荷団数のうち大きい数を示す。したがって、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの繰り返し単位内電荷団数が全て1である場合、NIGは、1となり、アニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーのうちいずれか一方の繰り返し単位内電荷団数が1であり、他方の繰り返し単位内電荷団数が2であるか、またはアニオン性ポリマーおよびカチオン性ポリマーの繰り返し単位内電荷団数が全て2である場合、NIGは、2となる。
【0024】
なお、前記電解質のイオン強度(I)は、下記式1によって計算される値であり、
【0025】
【0026】
式中、nは、溶液中の電解質イオン個数、iは、電解質の特定イオン、Ciは、溶液中の電解質イオンのモル数、Ziは、電解質イオンの原子価(valence)を示す。
【0027】
本発明において、前記(1)の条件では、ポリマー混合水溶液に対して前記式1によって計算される電解質のイオン強度値が16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2以上、アニオン性ポリマーのモル数の30倍以下となる量で電解質を添加する。本発明では、電解質のイオン強度値が16.5×(アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーのうち少なく使用されたポリマーのモル数)×(NIG)2以上となる量で電解質を添加することによって、沈殿または懸濁現象の発生なしに互いに反対の電荷を有するイオン性ポリマーの混合水溶液を製造することができる。イオン強度値がこれより低くなる量で電解質を添加する場合、混合水溶液の製造時にpH、温度、濃度などの微細変化にも沈殿が発生するなど、混合水溶液の安定性の確保が難しくなるので、好ましくない。アニオン性ポリマーは、混合水溶液の粘度を左右し、凍結乾燥時に張力(tension)を有する。したがって、張力を維持し、混合水溶液の乾燥物が壊れるのを防止するために、イオン強度値がアニオン性ポリマーのモル数の30倍を超えない量で電解質の添加量を制限することが好ましい。
【0028】
本発明において、前記(2)の条件では、電解質のイオン強度値が0.001より大きく、16.5×(ポリマーのモル数)×(NIG)2未満となる量で電解質を添加し、混合水溶液のpHを7.0~8.3に調整する。これは、前記(1)の条件に比べて電解質を少量で添加しても、混合水溶液のpHを7.0~8.3に調整すれば、(1)の条件と同じ効果を得ることができるためである。
【0029】
本発明において、前記アニオン性ポリマーは、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストランナトリウム、カルボキシメチルβ-グルカンナトリウムおよびカルボキシメチルデンプンナトリウムから成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではなく、繰り返し単位内に負電荷団を1つ以上有するものであれば、いずれも使用可能である。
【0030】
本発明において、前記カチオン性ポリマーは、ポリリジン、キトサン、プロタミン、ポリアルギニン、ポリ(エチレンイミン)およびポリ(2-ジメチル(アミノエチル)メタクリレート)から成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではなく、繰り返し単位内に正電荷団を1つ以上有するものであれば、いずれも使用可能である。
【0031】
本発明によるポリマー組成物の一具体例では、まず、アニオン性ポリマー水溶液を製造し、これに電解質を前記(1)または、(2)の条件を満たすように添加し、次に、カチオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーの水溶液を添加して、混合水溶液を得る。この際、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの混合比は、ポリマー繰り返し単位を基準としてモル比で1.5:0.001-0.01:2.4、好ましくは、1.0:0.002-0.1:2.0、より好ましくは、0.5:0.01-0.01:1.0、最も好ましくは、0.1:0.003-0.01:0.01である。本発明では、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーをこのような割合で混合することによって、アニオン性ポリマーからは、混合水溶液の粘度、および凍結乾燥後に乾燥物の張力(tension)、抗炎、保湿能などを確保し、カチオン性ポリマーからは静菌活性などを確保することができる。
【0032】
本発明において、前記電解質は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビルリン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルクロン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、アスコルビルリン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウムから成る群から選ばれる有機塩または無機塩であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0033】
ヒアルロン酸(以下、「HA」ともいう)は、β-D-グルクロン酸(β-D-glucuronic acid)とβ-D-N-アセチルグルコサミン(β-D-N-acetylglucosamine)が相互ベータ結合を形成した長い線状多糖類であり、分子量が1,000Daから10,000,000Daの広い分布を有する自然系に広く存在する生分解性および生体適合性天然高分子である。
【0034】
下記化学式1は、ヒアルロン酸の繰り返し単位構造を示すものであり、繰り返し単位中の電荷団(アニオングループ)の数は1である。
【0035】
【0036】
ヒアルロン酸は、多量の水と結合し、高い粘性を有するゲル状態で、目の硝子体、関節液、軟骨および皮膚に多量存在し、関節の潤滑作用、皮膚の柔軟性付与および高い粘性によって細菌の皮膚浸透を防ぐ保護の役割をすることが知られている。したがって、現在まで退行性関節炎、白内障、シワ改善、薬物送達、幹細胞支持体、化粧品保湿など多くの分野において使用されている。また、組織の細胞外基質に多量存在し、細胞の分化と増殖を調節し、傷治癒効果(Erika Nyman et al.,J.Plasr Surg Hand Surg.2013;47;89-92)および傷治癒機転(Richard D Price et al.,Am J Clin Dermatol;2005;6(6)393-402)が報告されている。
【0037】
最近の研究では、低分子量のヒアルロン酸が損傷した組織周辺の血管再生を誘導し、これによって、傷を効率的に回復させることができるという薬理作用も報告されている。このような特性を基に、ヒアルロン酸は、創傷治療剤、関節炎治療剤、薬物送達システムおよび組織工学分野に広く活用されている。これに加えて、優れた生体適合性、生分解性、組織癒着を防止する特性によって癒着防止剤として使用されることもある。しかしながら、ナトリウム塩の形態で提供される従来のヒアルロン酸は、止血作用がないことが知られている。
【0038】
ポリ-ガンマ-グルタミン酸(polyγ-glutamic acid(γ-PGA))は、自然的にBacillus subtilisから生産される安全かつ食用可能な生体適合素材(biomaterial)である。γ-PGAは、アニオン性ポリペプチド(anionic polypeptide)であって、D-あるいはL-glutamateがγ-アミド結合(amide linkages)で重合される構造を有する。現在まで化学構造的にD-グルタメートで構成されたホモ重合体(homopolymer)、L-グルタメートで構成されたホモ重合体、D-グルタメートとL-グルタメートが無作為で配列された混合重合体(copolymer)の互いに異なる3つのタイプのγ-PGAが発見された。これらのうち、混合重合体の構造を有する代表的なBacillus subtilisの系統がナット(Natto)とチョングッチャン(Chungkookjang)である。ナットから分離したBacillus subtilisを用いて10~10,000kDaの分子量を有するγ-PGAが生産され、最近では、韓国の伝統料理であるチョングッチャンから抽出したBacillus subtilisを用いて1,000kDa以上の高分子量のγ-PGAが生産されている。γPGAは、骨粗しょう症の予防のための健康食品や食品安定剤、廃水処理用キレート化剤(chelating agent)、バイオ新素材、保湿剤、化粧品、液晶ディスプレイ(LCD)素材、薬物送達体(drug deliverer)、遺伝子ベクター(gene vector)など様々な食品、工業、環境、医薬分野において用いられている。
【0039】
アルギン酸(alginic acid)は、ワカメ、昆布のような褐藻類から抽出され、様々な医工学的な応用に用いられる天然高分子である。アルギン酸は、生体適合性に優れ、毒性が低く、価格が安い長所がある。また、2価カチオン(例:Ca2+)と結合し、ヒドロゲルを比較的容易に生成する。特にアルギン酸の分子構造は、D-マンヌロン酸とL-グルロン酸がブロック共重合体の形態を成しており、L-グルロン酸ブロックが2価カチオンと結合し、ヒドロゲルを形成するので、L-グルロン酸ブロックの長さがアルギン酸ヒドロゲルの物理的な性質を決定する重要な要素である。
【0040】
下記化学式2は、アルギン酸の繰り返し単位の構造を示すものであり、繰り返し単位中の電荷団(アニオングループ)の数は2である。
【0041】
【0042】
アルギン酸は、医療用材料として、組織工学だけでなく、様々な分野において使用されてき、生体外(in vitro)および生体内(in vivo)の条件で優れた生体親和性と低い毒性を有することが知られている。商業的に市販されるアルギン酸の場合、動物実験で毒性が低く、免疫反応をほとんど誘発しないことが報告された。アルギン酸は、生理学的条件で分解されないことが知られており、アルギン酸ヒドロゲルで架橋剤の役割をする2価カチオンが生体内に存在する1価カチオン(例:Na+)と交換反応で放出されることにより、ゲルが崩壊し、溶解することができる。しかしながら、商業的に市販されるアルギン酸は、分子量が大きいので、溶解した後、腎臓を通過し、体外に排出され難い。アルギン酸に分解性を付与する代表的な方法は、部分酸化(partial oxidation)である。アルギン酸を部分酸化させて、主鎖にアルデヒド基を導入すれば、生理食塩水内で分解可能である。部分酸化されたアルギン酸の生分解速度は、酸化度(degree of oxidation)、pHおよび温度によって調節可能である。
【0043】
ポリリジン(ε-poly-L-lysine、以下、「PLL」ともいう)は、強塩基性アミノ酸であるL-リジン(L-Lysine)25~35個が結合したものであり、正(+)電荷を帯びる。
【0044】
下記化学式3は、ポリリジンの繰り返し単位構造を示すものであり、繰り返し単位中の電荷団(カルボン酸とのイオン結合で塩の生成が可能なカチオングループ)の数は1である。
【0045】
【0046】
このように正電荷を有するポリリジンは、負(-)電荷を帯びる微生物の細胞膜とイオン結合し、これによって、微生物の増殖を抑制する抗菌力を示す。このような特性によって、PLLは、天然抗菌剤(天然保存剤、天然防腐剤)または食品保存料(natural preservative)として広く使用される。ポリリジンは、広い抗菌スペクトルを有していて、すべての菌(グラム陽性、グラム陰性、真菌類)に対する抗菌性を示し、pH変化にも安定し、弱酸性~中性(pH4.0~8.0)の領域で最小抑制濃度(MIC)の大きな変化なく、抗菌活性が維持される。熱に対しても安定していて、熱による抗菌力の減少もない。その他にも、ポリリジンは、血小板の凝集を誘導すること、および分子サイズによって血小板の凝集誘導能が異なることが知られている。
【0047】
キチンは、N-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)がβ-1,4結合した直鎖状多糖類であって、セルロースと類似した化学構造および結晶構造を有するムコ多糖類である。キチンは、生体内消化性、生体適合性、表皮細胞成長促進因子の刺激作用などを有する低毒性物質であるにもかかわらず、ほとんど利用されず、ただキトサン中間物質として位置を維持していることは、一般溶媒に溶けないので、成形加工が難しいためである。キトサンは、脱アセチル化したキチンを指し、水や塩基に溶けないのに対し、乳酸、クエン酸、酢酸などの弱酸によく溶け、酵素の作用で分解され、容易に吸収されるなどの特性を保有している。最も理想的なものは、100%脱アセチル化したものであり、効能に決定的な差異を示す。一般的には、60%以上をキトサンと呼ぶ。
【0048】
下記化学式4は、キトサン(chitosan)の繰り返し単位の構造を示すものであり、キトサンの繰り返し単位(二量体)中の電荷団(カルボン酸とのイオン結合で塩生成が可能なカチオングループ)の数は2である。
【0049】
【0050】
なお、アルギン酸のように繰り返し単位でアニオングループ(カルボン酸基)の相対的な電荷密度(charge density)が大きいポリマーの場合は、原子価(valence)と同様に、イオン強度を考慮すべきであるが、アルギン酸の繰り返し単位(dimer)でアニオングループ(電荷団)の数は2であり、ヒアルロン酸の繰り返し単位(dimer)でアニオングループ(電荷団)の数は1である。
【0051】
したがって、イオン強度と同じ概念として考えると、溶液中のポリマーのモル濃度が0.01Mと等しい場合、ヒアルロン酸繰り返し単位中のカルボン酸基のイオン強度=0.01M×(-1)2であり、アルギン酸繰り返し単位のカルボン酸基のイオン強度=0.01M×(-2)2となるので、アルギン酸に必要な電解質の量は、HAと比べて、約4倍となる。すなわち、ヒアルロン酸で、例えば、クエン酸ナトリウムのイオン強度とPLL濃度の割合が17:1の場合、アルギン酸とPLL混合溶液では、17の4倍である約68倍イオン強度に相当する濃度のクエン酸ナトリウムが必要となる。他のアニオンあるいはカチオン性ポリマーの場合も、これと同一である。
【0052】
また、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどのように1価イオンを含む塩と、アスコルビルリン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのように2価イオンを含む塩を添加する場合、溶液中の電解質のイオン強度がカチオン性ポリマーのモル濃度の16.5倍未満の場合、例えば、15~1倍の場合には、pHを7.0~8.3に調整した後、前述した割合でアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの水溶液を混合しても、同じ結果を得ることができる。このような酸度の調整は、カチオン性ポリマーのpKaを考慮して、活性を示すことができるほどの十分な電荷を有するので、配合目的に符合した水溶液の製造が可能である。
【0053】
本発明では、電解質の添加量を該イオン強度を基準として決定することによって、混合水溶液内ポリマーの反対の電荷間相互作用による凝集が抑制されるようにし、これによって、前記(1)または(2)の条件を満たすように混合する場合、使用される電解質の種類に関係なく、凝集または懸濁現象なく、均一な混合水溶液を得ることができる。
【0054】
本発明において、前記アニオン性ポリマーまたはカチオン性ポリマーとしては、数平均分子量が1,000Da~3,000,000Da、好ましくは、3,000Da~2,000,000Da、より好ましくは、4,000Da~1,000,000Daであるものを使用する。
【0055】
本発明では、上記のように様々なポリマーの混合水溶液を用いて様々な分野に活用するために様々な形状の乾燥物を提供する。
【0056】
したがって、本発明は、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーおよび電解質を含み、前述した方法で製造されたポリマー組成物に関する。
【0057】
本発明の一具体例では、前述した方法で製造したポリマー組成物を液状でそのまま使用することもでき、凍結乾燥、減圧乾燥、スプレー乾燥方式など本発明の分野によく知られている方式で乾燥し、適用分野によって多孔性乾燥フォーム、パッド、フィルム、棒(stick)、スポンジ、糸、粉末、錠剤(tablet)などの形状で提供することができ、これを創傷被覆材、止血材、縫合糸、化粧品、女性衛生用品などの用途に使用することができる。
【実施例】
【0058】
実施例
以下では、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。しかしながら、以下に提示された実施例は、ただ本発明を実施するための例示であり、本発明の範囲がこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0059】
実施例1~6:ヒアルロン酸ポリリジン混合乾燥物の製造
アニオン性ポリマーとしてヒアルロン酸(分子量1,000KDa)4g~40gを精製水1,000mlに加え、12時間撹拌した。これに電解質としてクエン酸ナトリウムまたは塩化マグネシウムを様々なイオン強度で混合し、カチオン性ポリマーとしてポリリジン(分子量4,500Da)の水溶液を加えて溶解させた結果、沈殿や懸濁現象なしに混合水溶液を得た。
【0060】
沈殿あるいは懸濁現象が発生しない混合水溶液を乾燥物の形状に応じたモールドに分注し、凍結乾燥、減圧乾燥またはスプレー乾燥方式で乾燥して、多孔性乾燥パッド、フィルム、棒(stick)および錠剤形状の乾燥物を製造した。
【0061】
図1aおよび
図1bは、本発明の実施例1および5で製造したパッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である(
図1a:実施例1、
図1b:実施例5)。
【0062】
なお、
図4~
図7は、それぞれ、本発明の実施例1で製造したパッド状、フィルム状、棒状および錠剤形状の乾燥物の外形写真である。
【0063】
混合水溶液中のHA含有量(モル濃度)、電解質添加量およびイオン強度、PLL含有量(モル濃度)、電解質イオン強度とポリマーモル濃度の比を下記表1に示した。
【0064】
【0065】
実施例7~12:アルギン酸ポリリジン混合乾燥物の製造
アニオン性ポリマーとしてアルギン酸(分子量800KDa)3.98gを精製水1,000mlに加え、12時間撹拌した。これに表2のようにクエン酸ナトリウムまたはアスコルビルリン酸マグネシウム(MAP)を混合し、カチオン性ポリマーとしてポリリジン(分子量4,500Da)の水溶液を加えて溶解させた結果、沈殿や懸濁現象なしに混合水溶液を得た。
【0066】
沈殿あるいは懸濁現象が発生しない水溶液を乾燥物の形状に応じたモールドに分注し、凍結乾燥して、多孔性乾燥パッドまたはフィルム状の乾燥物を製造した。
図1cは、本発明の実施例7で製造した乾燥パッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である。
【0067】
混合水溶液中のアルギン酸含有量(モル濃度)、電解質添加量およびイオン強度、PLL含有量(モル濃度)、電解質イオン強度とポリマーモル濃度の比を下記表2に示した。
【0068】
【0069】
実施例13~14:ヒアルロン酸キトサン混合乾燥物の製造
アニオン性ポリマーとしてヒアルルロンサニアルルロンサン(分子量1,000KDa)4gを精製水1,000mlに加え、12時間撹拌した。これにクエン酸ナトリウムあるいはアスコルビルリン酸マグネシウム(MAP)を様々なイオン強度で混合し、カチオン性ポリマーとしてキトサン(分子量300KDa)を表3のように溶解させた後、pHを4.0以下に調整し、沈殿の有無を確認した。キトサンは、pHによって溶解度に差異があるので、キトサンを水に溶解させた後、pHを3.0に調整し、アニオン性ポリマーおよび電解質溶液のpHを上記のように調整した後に混合した。
【0070】
沈殿あるいは懸濁現象が発生しない水溶液を乾燥物の形状に応じたモールドに分注し、実施例1~6と同一に凍結乾燥あるいは減圧乾燥して、パッド状、フィルム状、棒状および錠剤形状の乾燥物を製造した。
図1dは、本発明の実施例13で製造した乾燥パッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である。
【0071】
混合水溶液中のHA含有量(モル濃度)、電解質添加量およびイオン強度、キトサン含有量(モル濃度)、電解質イオン強度とポリマーモル濃度の比を下記表3に示した。
【0072】
【0073】
実施例15、16:ヒアルロン酸ポリリジン混合乾燥物の製造
アニオン性ポリマーとしてヒアルロン酸(分子量1,000KDa)4gを精製水1,000mlに加え、12時間撹拌した。表4のようにクエン酸ナトリウムおよびアスコルビルリン酸マグネシウム(MAP)をそれぞれ混合し、pHを8.0および8.3に調整した。次に、カチオン性ポリマーとしてポリリジン(分子量4,500Da)0.5gを溶解させた後、沈殿の有無を確認した。沈殿あるいは懸濁現象が発生しない水溶液を乾燥物の形状に応じたモールドに分注し、実施例1~6と同一に凍結乾燥あるいは減圧乾燥して、パッド状、フィルム状、棒状および錠剤形状の乾燥物を製造した。
図1eは、本発明の実施例15で製造した乾燥パッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である。
【0074】
混合水溶液中のHA含有量(モル濃度)、電解質添加量、イオン強度、水溶液のpH,PLL含有量(モル濃度)、電解質イオン強度とポリマーモル濃度の比を下記表4に示した。
【0075】
【0076】
比較例1、2:沈殿発生ヒアルロン酸ポリリジン混合水溶液の製造
アニオン性ポリマーとしてヒアルロン酸(分子量1,000KDa)4gを精製水1,000mlに加え、12時間撹拌した。表5のようにクエン酸ナトリウムおよび塩化マグネシウムを混合し、カチオン性ポリマーとしてポリリジン0.5gを溶解させた後、沈殿の有無を確認した。沈殿が発生し、ポリリジン(分子量4,500Da)をヒアルロン酸と同じ濃度となるまでさらに投入しても、沈殿反応が持続した。沈殿物をパッド状のモールドに注入し、凍結乾燥した。
【0077】
図1fは、比較例1で製造した凍結乾燥パッドの高分解能走査型電子顕微鏡(透過電子顕微鏡、SEM)写真である。
図1a~
図1eから分かるように、本発明の実施例のように混合時に沈殿現象が発生しない混合水溶液から製造した凍結乾燥パッドは、多孔性マトリックス構造を有するのに対し、
図1fは、混合中に沈殿現象が発生した混合水溶液から製造した凍結乾燥パッドは、多孔性構造を有さないことを示す。
【0078】
図2bは、比較例1で製造したヒアルロン酸とポリリジン混合水溶液の写真である。
図2aから分かるように、実施例1で製造した混合水溶液は、沈殿が発生せず、混濁もしないが、
図2bから分かるように、比較例1で製造した混合水溶液は、混濁していて、沈殿現象が発生した。
【0079】
【0080】
実験例1:抗菌活性試験ASTM E 2315-16
前記実施例1および2と比較例1および2で製造した凍結乾燥パッドの重さを測定し、当該重さの約10倍で菌培養液を入れ、試験に使用した。培養温度は、37℃、培地としては、tryptic soy mediaを使用した。テスト菌株は、ATCC 6538 Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、ATCC 4352 Klebsiella peumoniae(肺炎菌)、ATCC 8739 Escherichia coli(大腸菌)、ATCC 10145 Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)である。
【0081】
図3aおよび
図3bは、本発明の実施例1および比較例1で製造した凍結乾燥パッドの黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗微生物効果を比較した写真である(
図3a:実施例1、
図3b:比較例1)。
図3aは、実施例1で製造した凍結乾燥パッドでは、静菌および抗菌能を有するPLLが混合水溶液中で沈殿せず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌活性が維持され、その結果、微生物の生育が観察されないことを示す。しかしながら、
図3bは、比較例1で製造した凍結乾燥パッドでは、混合水溶液中でPLLが沈殿したことにより、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する抗菌活性が低下し、その結果、微生物の生育が観察されたことを示す。
【0082】
下記表6は、本発明の実施例1および2と比較例1および2で製造した凍結乾燥パッドの抗菌活性試験結果である。表6から分かるように、実施例1および2で製造した凍結乾燥パッドでは、抗菌活性が現れたが、比較例1および2で製造した凍結乾燥パッドでは、抗菌活性が弱いか、現れないことが確認された。
【0083】
【0084】
実験例2:癒着防止試験
実施例で製造したパッド状乾燥物の癒着防止性能を評価するために、ラット盲腸/腹壁擦過傷モデルを利用した。実験動物としては、7週齢の雄Sparague-Dawleyマウスを1群当たり5匹ずつ使用した。癒着誘発のために、実験動物にKetamin HCLを腹腔注射(0.1ml/100g)して麻酔した後、腹部の毛を除去し、70%エタノールで消毒した後、4~5cm程度で中央線に沿って開腹した。盲腸を取り出して、1.2cm×1.2cmのサイズで滅菌ガーゼを用いて腸膜に出血が起こるほどの損傷を加え、対向する腹腔膜に同じサイズで損傷を加えた。摩擦損傷部位から1cm離れた2個の部位を損傷した面が互いに対向するように5-0ナイロン縫合糸で固定し、癒着の形成を促進させた。
【0085】
陰性対照群には、損傷部位に生理食塩水を、実験群には損傷部位に実施例1、2、7および13で製造したパッド状乾燥物をそれぞれ1cm×1cmのサイズに切って付着した後、腹腔膜と皮膚を縫い合わせた。手術が終わった動物は、水と餌を十分に提供し、1週間成長させた後、犠牲にさせて、癒着評価システムで成績を合算して、平均値を得た。その結果を下記表7に示した。すべての結果は、各実験群の平均±標準誤差で表示し、各群の有意性は、p<0.05レベルで検定した。
【0086】
癒着程度を基準によって0から5まで評価した(0:癒着がない場合、1:1つの薄いフィルム状癒着、2:2つ以上の薄いフィルム状癒着、3:点状の集中化した厚い癒着、4:板状の集中化した癒着、5:血管が形成された非常に厚い癒着あるいは1つ以上の板状の厚い癒着)。
【0087】
癒着の強度を基準によって1から4まで評価した(1:フィルム状であり、非常に弱い力でも剥離する癒着、2:中間程度の力が要求される癒着、3:相当な圧力が作用して剥離する癒着、4:癒着が非常に強くて剥離しにくいか、または非常に大きい圧力が要求される癒着)
【0088】
【0089】
前記表7に示されたように、実施例1、2、7および13で製造したパッド状乾燥物をそれぞれ適用した群では、陰性対照群に比べて、組織癒着面積が顕著に減少した。
【0090】
実験例3:感染損傷モデル(Infected Wound Model)で感染-予防試験
重さが280gの雄Sparague-Dawleyマウス(n=10)をイソフルランで麻酔した後、長さ約1cmで背中の両側2cm以上の間隔で切開した。E.coli.溶液(0.2ml、1×108CFU/ml)を切開された皮下に注入した。ポリリジングループ(PLL)に対しては、実施例2で製造したパッドを挿入し、傷を縫い合わせた。陰性対照群としてヒアルロン酸パッド(出願人がヒアルロン酸だけで直接製造)を用いて縫い合わせた。動物を食べ物と水に自由に接近できる個別ケージ(cage)に移し、体重、体温および行動変化を毎日確認した。動物を移植4日後に犠牲させ、組織標本を2個の部位で切開して、微生物学的検査を実施した。
【0091】
【0092】
表8から分かるように、本発明の実施例で製造したパッドは、人為的な感染モデルでも感染の予防に効果的であることが確認された。
【0093】
以上説明したように、本発明の属する技術分野における通常の技術者は、多様に変形された形態で実施され得ることが理解できる。したがって、上述した実施形態は、すべての面において例示的なものと理解すべきである。本発明の範囲は、詳細な説明よりは、後述する請求範囲によって示され、請求範囲の意味と範囲、および等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解すべきである。
【国際調査報告】