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特表2024-518601新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240423BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571265
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 KR2022006996
(87)【国際公開番号】W WO2022245086
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2021-0063593
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0135996
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522051971
【氏名又は名称】エピ バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン メェィ
(72)【発明者】
【氏名】チョェ ナヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョェ ヨンジン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジュヨン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB21
4B065BB31
4B065BC06
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法に関する。さらに詳しくは、本発明の分離及び培養方法では、頭皮から分離した毛乳頭組織を低酸素条件下で培養することにより、毛乳頭組織から分離した毛乳頭細胞が速やかに培養プレートに付着し、毛乳頭細胞の確立(収得)期間が短くなるといった効果があり、分離及び培養された毛乳頭細胞は、免疫適合性を有するため、毛乳頭細胞の同種移植に有効に利用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭皮から分離した毛乳頭組織(dermal papilla)を低酸素条件下で培養し、毛乳頭細胞を培養プレートに付着させるステップを含む、毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項2】
前記低酸素条件が、0.5~5%の酸素飽和度を有することを特徴とする、請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項3】
前記低酸素条件が、2%の酸素飽和度を有することを特徴とする、請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項4】
正常条件下で前記毛乳頭組織を培養する場合と比較して、前記毛乳頭細胞が培養プレートに付着するまでの期間が5日以上短縮されることを特徴とする、請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項5】
前記毛乳頭細胞が、免疫適合性毛乳頭細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項6】
前記免疫適合性毛乳頭細胞が、HLA-A、HLA-B、CD55、IL-1RA、及びCCL2からなる群から選択される少なくとも1つのmRNA発現を阻害することを特徴とする、請求項5に記載の毛乳頭細胞の分離及び培養方法。
【請求項7】
請求項1に記載の分離及び培養方法による、免疫適合性毛乳頭細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法に関する。さらに詳しくは、本発明の分離及び培養方法では、頭皮から分離した毛乳頭組織(dermal papilla)を低酸素条件下で培養することにより、毛乳頭組織から脱離した毛乳頭細胞が速やかに培養プレートに付着し、毛乳頭細胞の確立(収得)期間が短くなるといった効果があり、分離及び培養された毛乳頭細胞は、免疫適合性を有する。
【背景技術】
【0002】
人間の毛髪は、約100,000個の個々の毛髪の集合体であり、毛髪は、毛包(hair follicle)によって生成される。毛包は、毛包自身で、上皮及び皮脂腺を再構成するために必要なすべての細胞株を生成することができる幹細胞の貯蔵所として機能する。毛包の基部には、毛包球根(hair follicle bulb)があり、毛包球根から増殖する基質細胞(matrix cells)が毛髪となる。毛包球根には、毛球部毛根鞘(dermal sheath cup;DSC)細胞及び毛乳頭細胞(dermal papilla cell;DRM)が含まれる。毛乳頭細胞は、毛包の基部に位置する間葉由来繊維芽細胞(mesenchymally-derived fibroblasts)であり、毛髪の発生と成長を担う重要な細胞である。特許文献1には、毛髪から毛乳頭細胞を分離する方法が開示されている。
【0003】
毛髪は、成長期(anagen)、退行期(catagen)及び休止期(telogen)の3段階周期を経て成長、維持及び脱落される。毛髪が成長する期間である成長期には、成人の場合、1日平均0.3mm程度の毛髪が伸び、月に1cm程度伸び、通常3年~7年間持続することが知られている。一般に、成長期の後に10日~14日間、毛包細胞の全般的なアポトーシス(apoptosis)が起こることで、毛包が縮小する段階である退行期、平均3ヶ月の次の成長期を準備する段階である休止期を経て、毛髪が抜け落ちることになる。部位によって毛髪の長さが異なる理由は、各部位によって毛包の固有の特徴である成長期の持続期間が互いに異なるためである。
【0004】
このように、人の髪の毛は一定の毛髪成長周期(hair growth cycle)を持っているので、常に一定の本数の毛髪を維持している。しかしながら、脱毛が進行すると、毛根に存在する毛乳頭細胞が小さくなり、毛乳頭細胞が小さくなると毛髪の太さが細くなると共に、毛髪成長周期も短くなる。よって、脱毛が進行すると、髪は非常に細くなり、髪の成長周期はさらに短くなることから、少し生えてから抜け落ちてしまう。
【0005】
脱毛症の原因としては、遺伝的な原因や男性ホルモンの作用のみならず、内分泌疾患、栄養不足、薬物使用、出産、発熱、手術などの重度の肉体的・精神的ストレスなどの要因が複合的に作用することが知られている。近年では、男性型脱毛症のみならず、食生活の変化や社会環境などによるストレスの増加により、脱毛症に悩む女性も増加している傾向であり、年齢もまた低くなっている。
【0006】
現在、韓国で最も頻繁に使われている脱毛治療剤としては、フィナステリド(finasteride;商品名Propecia(商標登録))、デュタステリド(dutasteride;商品名Avodart(登録商標))、ミノキシジル(minoxidil;商品名マイノキシルまたはRogaine)などがある。しかしながら、前記治療剤には、性欲減退、勃起不全、運転及び遂行能力の喪失、塗布部位のかゆみ、紅斑、皮膚刺激、目の刺激などの副作用があり、頭部以外の他の身体部位における望ましくない毛の成長が観察されることもある。また最近、重度の脱毛症患者を対象に毛髪移植術が試みられているが、高価な費用と施術後の副作用などの限界が指摘されている。
【0007】
一方、皮膚に直接薬物を塗布する方法以外にも、脱毛治療法として、毛包細胞を生体外で培養して移植する技術が試みられているが、毛乳頭細胞を脱毛治療剤として利用するにはいくつかの困難がある。まず、頭皮からの分離が難しく、培養条件が厳しく、十分な量の細胞を培養することが難しいのみならず、何度も継代培養する場合、毛髪の再生能力が著しく低下するといった限界がある。標準的な毛乳頭細胞の分離過程を要約すると(図1を参照、非特許文献2)、頭皮組織から毛球(hair bulb)を分離し、毛乳頭細胞が多く存在する毛乳頭組織(dermal papilla)を分離するステップ;(a→b)、毛乳頭組織から毛乳頭細胞を培養プレートに付着(attachment)させるステップ;(b→c)、継代培養するステップ(c→d)であり、それにより得られた毛乳頭細胞から、細胞治療剤または細胞を用いたエキソソームなどを分離することができる。そのうち、毛乳頭細胞が毛乳頭組織からプレートに付着するまで平均12日以上かかり、毛乳頭細胞による治療剤の生産期間及び生産コストの相乗効果を招くため、細胞治療剤の開発において、毛乳頭組織から分離されて付着する毛乳頭細胞の付着率の増加と、付着時間の短縮とが切望されている。
【0008】
そこで、本発明者らは、毛乳頭細胞の分離及び培養において、毛乳頭組織から毛乳頭細胞を確立する過程で、低酸素(0.5~5%の酸素飽和度)培養により、毛乳頭細胞の培養プレートへの付着(attachment)を増加させ、毛乳頭細胞の確立期間を短縮することができる新規な毛乳頭細胞の分離方法を見出し、本発明の完成に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8227244号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】TGF-β2 and collagen play pivotal roles in the spheroid formation and antiaging of human dermal papilla cells.Kim H,Choi N,Kim DY,Kim SY,Song SY,Sung JH.Aging (Albany NY).2021 Aug 17;13(16):19978 19995.
【非特許文献2】Archives of Dermatological Research 301(5):357-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法を提供することを目的とする。さらに、本発明の分離及び培養方法で得られた毛乳頭細胞、または毛乳頭細胞から得られた細胞培養液もしくはエキソソームを含む脱毛の予防または治療用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、頭皮から分離した毛乳頭組織(dermal papilla)を低酸素条件下で培養し、毛乳頭細胞(dermal papilla cell)を培養プレートに付着させるステップを含む、毛乳頭細胞の分離及び培養方法を提供する。
【0013】
本発明の低酸素条件は、0.5~5%の酸素飽和度を有してもよく、好ましくは、2%の酸素飽和度を有してもよい。
【0014】
発明の毛乳頭細胞の分離及び培養方法は、正常条件下で毛乳頭組織を培養する場合と比較して、毛乳頭細胞が培養プレートに付着するまでの期間が5日以上短縮されてもよい。
【0015】
本発明に従って分離及び培養された毛乳頭細胞は、免疫適合性毛乳頭細胞であってもよく、前記免疫適合性毛乳頭細胞は、免疫応答に関連するHLA-A、HLA-B、CD55、IL-1RA、及びCCL2からなる群から選択される少なくとも1つのmRNA発現を阻害してもよい。
【0016】
本発明は、頭皮から分離した毛乳頭組織を低酸素条件下で培養し、毛乳頭細胞を培養プレートに付着させるステップを含む、毛乳頭細胞の分離及び培養方法により得られた毛乳頭細胞を提供し、前記毛乳頭細胞は、免疫適合性毛乳頭細胞であってもよい。
【0017】
本発明は、頭皮から分離した毛乳頭組織を低酸素条件下で培養し、毛乳頭細胞を培養プレートに付着させるステップを含む、毛乳頭細胞の分離及び培養方法により得られた毛乳頭細胞を含む、脱毛の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0018】
本発明は、頭皮から分離した毛乳頭組織を低酸素条件下で培養し、毛乳頭細胞を培養プレートに付着させるステップを含む、毛乳頭細胞の分離及び培養方法により得られた毛乳頭細胞から取得した細胞培養液またはエキソソームを含む、脱毛の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法によると、頭皮組織から毛乳頭細胞を分離する過程において、毛乳頭組織を低酸素条件下(0.5~5%、好ましくは2%の酸素飽和度)で培養すると、毛乳頭組織から脱離した毛乳頭細胞が速やかに培養プレートに付着(attachment)し、毛乳頭細胞の一次細胞(primary cell)を迅速に確立することができる。毛乳頭細胞の一次細胞を分離した後、継代培養による毛乳頭細胞の大量生産が可能であり、細胞治療剤の生産期間を短縮することができる。また、脱毛治療過程に必要な十分な毛乳頭細胞の確保が可能となり、脱毛治療に有用に利用することができる。
【0020】
さらに、本発明に従って分離及び培養された毛乳頭細胞は、免疫適合性を有することから、毛乳頭細胞の同種移植の際に起こり得る免疫応答を減少させ、毛乳頭細胞の移植による脱毛治療に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】頭皮からの毛乳頭細胞の標準的な分離過程を示す図である(非特許文献2)。
図2】正常条件(20%の酸素飽和度)及び低酸素条件(2%の酸素飽和度)において、毛乳頭組織から脱離した毛乳頭細胞の培養プレート付着(attachment)レベルを示す図である。
図3】塩基配列(NGS)及びオントロジー(Ontology)分析による、低酸素条件(2%の酸素飽和度)によって増加した細胞付着関連コラーゲン遺伝子を示す図である。
図4】正常条件(20%の酸素飽和度)及び低酸素条件(2%の酸素飽和度)において、培養した毛乳頭細胞の細胞外マトリックス及び付着分子の分解に関連するmRNA発現を比較した結果図である。
図5】正常条件(20%の酸素飽和度)及び低酸素条件(2%の酸素飽和度)において、培養された毛乳頭細胞の免疫応答活性関連遺伝子のmRNA発現の程度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態及び実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は、様々な形態で実施され得るので、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【0023】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0024】
本発明は、新規な毛乳頭細胞の分離及び培養方法を提供する。
【0025】
本発明において、「毛乳頭細胞(dermal papilla cell;DRM)」は、毛包の基部に位置する間葉由来繊維芽細胞(mesenchymally-derived fibroblasts)であり、毛髪の発生と成長を担う重要な細胞である。
【0026】
本発明に用いられる「脱毛」なる用語は、その原因とは関係なく、毛髪が通常存在しなければならない部位に毛髪がない状態を指し、円形脱毛症、遺伝性男性型脱毛症、休止期脱毛症、外傷性脱毛症、抜毛癖、圧迫性脱毛症、生長期脱毛症、粃糠性脱毛症、梅毒性脱毛症、脂漏性脱毛症、症候性脱毛症、瘢痕性脱毛症、または先天性脱毛症であってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0027】
本発明に用いられる「治療」なる用語は、組成物の投与により脱毛の進行が遅延もしくは停止することで、脱毛症状を改善したり、あるいは毛髪の成長、数が多くなるなどの発毛や育毛が促進されるなどの脱毛症状を有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0028】
本発明に用いられる「フローサイトメトリー(flow cytometry)」は、細胞または粒子の特性を分析するために広く使用されているレーザーベースの技術であり、細胞のサイズ、複雑さ、細胞の数、細胞の周期などを測定することができる。測定対象の細胞が流れる乳液にレーザーを照射し、細胞を通過したり、散乱した光線を検出して分析することにより、母集団から特定の細胞群のみを分離することもできる。
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、下記の実施例は説明を目的とするものに過ぎず、本願発明の範囲を限定しようとする意図ではない。
【実施例
【0030】
[実施例1]
組織の分離
滅菌済みの100mmペトリ皿(petri dish)の底面上に、20mLの4%FBS含有の分離/培地を、ドナーから収集した頭皮組織が浸漬するように充填し、頭皮組織が乾燥しないように保管した。組織をペトリ皿の底面上に載せた後、使い捨てメスを用いてストリップ(strip)状で毛包が重ならないように切り出し、切り取った組織ストリップを、組織を保管した分離用培地が入ったペトリ皿に保管した。切り取った組織ストリップを新しいペトリ皿の底面に載せた後、使い捨てメスを用いて毛包を1つずつ分離し、新しい培地の入ったペトリ皿に保管した。
【0031】
[実施例2]
毛球から毛乳頭組織の分離
実体顕微鏡製物台に150mmのペトリ皿(petri dish)を載せ、実施例1で分離した毛包1個を載せた後、乾燥を防ぐために、1mLのシリンジ(syringe)を用いて分離用培地を一滴落とした。使い捨てメスを用いて、毛包の毛球部毛根鞘(DSC;dermal sheath cup)と上部真皮毛根鞘(UDS;upper dermal sheath)の境界を切り出した。切り出した毛球部毛根鞘の乾燥を防ぐために、分離用培地を一滴加えてから、2つの1mLシリンジを用いて、1つは毛球部毛根鞘を固定し、もう1つは毛球部毛根鞘の最も尖った部分である鞘の底部を突いて、鞘をひっくり返った形にした。ひっくり返った毛球部毛根鞘の内部から細長い菱形または水滴形の毛乳頭組織(dermal papilla;DP)が突出すると、シリンジを用いて毛乳頭組織のみを切り出した。
【0032】
[実施例3]
毛乳頭組織における毛乳頭細胞のプレート付着
実施例2で分離した毛乳頭組織(DP)をシリンジ針の先端に載せ、6ウェル(well)プレート(CellBind surface)に移した。ウェル当たり毛乳頭組織12個を接種し、プレートを振らずに37℃、正常条件(5%CO:21%O)及び低酸素条件(5%CO:2%O)の培養器に入れ、5~10日間培養してから、培養密度(confluency)が60%になるまで培地を2~3日に1回、2回交換した(p0)。分離(p0)及び第5継代(p5)までの培養培地は、CellCor(XCELL therapeutics)またはFollicle dermal papilla cell growth medium(Promaocell)/4%のFetal bovine serum(Hyclone(登録商標))/1%のpenicillin streptomycin(Thermo Fisher scientific)を使用した。
【0033】
[実施例4]
毛乳頭細胞の継代培養
実施例3で接種した毛乳頭組織から離脱した毛乳頭細胞がウェル(well)内に約60%程満たされた時点で、T75フラスコ(flask)に継代培養した。6ウェルプレートの培地を捨て、1×DPBSで1回洗浄し、次いでウェル当たり0.5mLのアキュターゼ(Accutase)を加えて、各条件の培養器で10分間反応させた。その後、分離用培地をウェル当たり2mLずつ分注し、その後、50mLのチューブに全て回収した後、常温及び1300rpmで3分間遠心分離して上清を除去した。下層に残った細胞を1mLの培地で浮遊させ、その後、トリパンブルー(trypan blue)染色により細胞数をカウントした。回収した細胞の数に基づいて、継代培養するT75フラスコの数を決定した(2.5×10セル/フラスコ)。新しい培地15mLをT75フラスコに加え、懸濁した細胞溶液を計算して分注し、その後、フラスコを慎重に3回以上回転して細胞を均一に混合した。その後、正常条件(5%CO:21%O)及び低酸素条件(5%CO:2%O)の培養器に4日間培養し、4日間隔で第1継代から第5継代まで(p1~p5)1:5倍率で継代培養した。
【0034】
[実験例1]
毛乳頭細胞のプレート付着(attachment)レベルの比較
実施例3と同様に、頭皮から分離された毛乳頭組織(DP)を低酸素条件(5%CO:2%O)と正常条件(5%CO:21%O)で培養し、その後、5~10日目における毛乳頭細胞(dermal papilla cell;DRM)の培養プレート付着レベルを比較した。その結果を図2に示す。
【0035】
図2に示すように、培養後6日目の付着率を比較したところ、正常条件よりも低酸素条件下で培養した場合、培養プレートに付着した毛乳頭細胞の数が大きく増加することが確認された。これは、正常条件(20%の酸素飽和度)で平均12日以上かかる毛乳頭細胞の一次細胞(primary cell)の確立(収得)期間が平均5日程度短縮される結果を意味し、継代培養時の更なる生産工程を短縮することができる。
【0036】
[実験例2]
毛乳頭細胞の付着機構の分析
実験例1で確認したように、本発明に従って分離及び培養された毛乳頭細胞は、培養プレートへの付着レベルが増加することが分かる。そこで、毛乳頭細胞が培養プレートに付着する機構を確認するために、以下のことを行った。
【0037】
2-1.塩基配列(NGS)及びオントロジー(Ontology)の分析
本発明による低酸素条件下で分離及び培養された毛乳頭細胞遺伝子の塩基配列及びオントロジーの分析を行った。その結果、図3に示すように、低酸素条件が細胞外マトリックス(ECM)タンパク質に影響を及ぼすことを確認し、そのうち、Col18A1、Col13A1及びCol23A1のコラーゲン発現量を増加させることが確認された。前記コラーゲンは、毛乳頭細胞の活性に影響を及ぼすものであり(非特許文献1を参照)、それによって、低酸素条件によって増加した前記コラーゲンの発現が、毛乳頭細胞の培養プレートへの付着に影響を与えることが分かる。
【0038】
2-2.細胞外マトリックス及び付着分子のmRNA発現の分析
本発明による低酸素条件下で分離及び培養された毛乳頭細胞遺伝子の細胞外マトリックス及び付着分子のmRNA発現レベルを分析した。その結果、図4に示すように、様々な遺伝子のうち、MMP1、MMP3、MMP11、MMP12及びLAMA1の発現が減少することが確認された。特に、MMP(matrix metalloproteinase)は、コラーゲンを分解する酵素であり、それにより低酸素条件により減少したMMP発現がコラーゲン分解を阻害し、毛乳頭細胞が培養プレートに付着するのに影響を及ぼすことが分かる。
【0039】
[実験例3]
毛乳頭細胞分離及び工程短縮期間の評価
本発明に従って分離及び培養された毛乳頭細胞の確立(収得)期間を評価するために、以下のように実験を行った。
【0040】
毛包から分離された毛乳頭組織(DP)を培養プレートに接種し、低酸素条件(5%CO:2%O)及び正常条件(5%CO:21%O)で培養し、第3継代で細胞ストックとして保存した(充填)。6ウェル(well)プレートにおいて、ウェル当たり接種された総毛乳頭組織(DP)のうち、80%以上付着するまでにかかる期間を「分離→付着」、細胞密度が1ウェルの60%以上となり、第1継代培養までにかかる期間を「分離→第1継代」、第1継代培養の後、細胞密度が80%以上となり、第2継代培養までにかかる期間を「分離→第2継代」、第2継代培養の後、細胞密度が80%以上となり、第3継代培養までにかかる期間を「分離→第3継代」、第3継代培養の後、ストックとして充填するまでの期間を「分離→充填」に区分し、必要な期間を評価した。その結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、毛乳頭組織が分離して充填されるまでに必要な期間を測定したところ、正常条件下で培養した場合は41日かかったが、低酸素条件で培養した場合は26日がかかることが分かり、約15日が短縮されることが確認された。また、分離した毛乳頭組織から毛乳頭細胞が付着するまでに必要な期間も、低酸素条件で培養した場合は5日短縮され、著しく短いことが分かった。
【0043】
従って、毛乳頭細胞の確立(収得)において、分離された毛乳頭組織を低酸素条件下で培養する場合、正常条件下で培養する場合と比較して、期間が著しく短縮され、最終充填まで15日以上短縮されることが分かる。
【0044】
[実験例4]
毛乳頭細胞のマーカー発現の評価
本発明に従って分離及び培養された細胞が毛乳頭細胞であることを確認するために、毛乳頭細胞の表面抗原と結合する抗体を用いて、フローサイトメトリーで分析した。
【0045】
DPBSを用いて、培養液に解離している各継代の毛乳頭細胞を2回洗浄した。1×10個の細胞当たり500μLのcell staining buffer(1%BSA in DPBS)で細胞を再懸濁し、その後、細胞懸濁液を試験群チューブ当たり100μLずつ分注した。各試験群に対応する抗体を1μLずつ分注し、その後、光を遮断して4℃で15分間反応させた。DPBSを用いて、抗体で染色した試験群を1回洗浄し、その後、DPBS100μLで細胞を再浮遊させてフローサイトメトリーを用いて分析した。その結果を下記表2に示す。
【0046】
各試験群に対応する抗体は以下のとおりである:異型抗体対照群(APC Mouse IgG1_κ Isotype Ctrl Antibody)、発現評価染色群(毛乳頭細胞確認用:APC anti-human CD34 Antibody、APC anti-human CD45 Antibody)、純度評価染色群(APC anti-human CD44 Antibody、APC anti-human CD90 Antibody)。
【0047】
対照群の分布率が0.1%未満のゲート(gate)において、確認用発現評価染色群の分布率が90%以上、純度評価染色群の分布率が10%未満の場合、適したものと評価した。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、各継代(p)の毛乳頭細胞におけるマーカー発現を評価したところ、全ての継代の毛乳頭細胞における純度用抗体発現が1%未満であり、確認用抗体発現が90%以上であることが分かった。従って、本発明に従って分離及び培養された細胞は、毛乳頭細胞であることが確認された。
【0050】
[実験例5]
毛乳頭細胞の免疫応答活性遺伝子の発現の評価
本発明に従って分離及び培養された細胞の免疫応答活性関連遺伝子の発現の程度を評価するために、以下のように実験した。
【0051】
20代及び30代の男性供与者の毛包(毛乳頭組織)から毛乳頭細胞を分離し、低酸素条件(5%CO:2%O)と正常条件(5%CO:20%O)で培養した。第3継代培養の後、培養した毛乳頭細胞のRNAを抽出してT細胞の免疫反応活性関連遺伝子のmRNA発現レベルを分析した。その結果を図5に示す。対照群として、皮膚線維芽細胞(mRNA 発現レベル:1)を用いた。
【0052】
図5に示すように、毛乳頭細胞のRNAを介して免疫反応活性関連遺伝子の発現程度を分析したところ、毛乳頭細胞を低酸素条件で分離及び培養した場合、正常条件の場合と比較して、HLA-A、HLA-B、CD55、IL-1RA及びCCL2の発現が有意に減少することが確認された。特に、HLA-A、HLA-B及びCD55の発現が著しく減少し、それにより、低酸素条件下で分離及び培養した毛乳頭細胞は、T細胞による免疫応答活性を低下できることが分かる。
【0053】
従って、本発明に従って毛乳頭細胞を低酸素条件下で分離及び培養する場合、毛乳頭細胞の免疫特権、すなわち免疫調節(immune modulation)機能を向上させることにより、毛乳頭細胞の同種移植の際に起こり得る免疫応答を減少させ得ることが分かる。結局のところ、本発明に従って分離及び培養された毛乳頭細胞は、免疫適合性を有することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】