(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ナノ積層被膜、関連する被膜付き物品及び使用、本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法、医療デバイス
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
C23C16/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571413
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2022063195
(87)【国際公開番号】W WO2022243246
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510275024
【氏名又は名称】ピコサン オーワイ
【氏名又は名称原語表記】PICOSUN OY
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3, FI-02150 Espoo, Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】リーナ リタサロ
(72)【発明者】
【氏名】トム ブロンベルグ
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA42
4K030BA43
4K030BA46
4K030BB12
4K030CA04
4K030CA05
4K030CA07
(57)【要約】
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内で腐食しやすい基体のための耐腐食性被膜が提供される。第1組成物を有する堆積層が、第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、被膜は蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された複数の堆積層を含むナノ積層構造として提供される。これにより製造されたナノ積層スタックが拡散障壁を形成し、拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、基体と接触するのを効率的に防止する。本質的に含塩性の媒体中の基体の耐腐食性を改善するための関連方法、及びナノ積層被膜の使用がさらに提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜であって、
前記被膜は、第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するようにして、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された、複数の堆積層を含んでおり、
前記複数の堆積層は、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が前記基体と接触するのを防止する拡散障壁を形成する、
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜。
【請求項2】
個々の前記堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項3】
少なくとも1つのイオン伝導性堆積層を含み、前記イオン伝導性堆積層が、前記イオン伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする、請求項1又は2に記載の積層被膜。
【請求項4】
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層をさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項5】
前記イオン伝導性堆積層が、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層と交互に位置する、請求項1から4のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項6】
前記反応性堆積層と、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種との間の相互作用が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する少なくとも1つの付加的な障壁層の形成をもたらす、請求項1から5のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項7】
前記付加的な障壁層が、前記伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項8】
個々の前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、及び二酸化ケイ素(SiO
2)から成る群から選択された任意の化合物で構成される、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項9】
基体隣接層として、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る堆積層を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項10】
酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)で構成される前記堆積層を含む、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項11】
二酸化ケイ素(SiO
2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)で構成される前記堆積層を含む、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項12】
複数の堆積層で形成されたスタックの厚さが、約10nm~約300nmの範囲内、好ましくは約50nm~約150nmの範囲内にある、請求項1から11のいずれか1項に記載の積層被膜。
【請求項13】
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法であって、前記方法が、(i)基体を得、そして(ii)第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、複数の堆積層を堆積することによって、前記基体上に積層被膜を形成することを含み、前記複数の堆積層が拡散障壁を形成し、前記拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記基体と接触するのを防止する、
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法。
【請求項14】
複数の堆積層を堆積し、前記複数の堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする少なくとも1つの伝導性堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、請求項13から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記拡散障壁の形成が、前記堆積層と、拡散する腐食性種との間の化学的な相互作用を伴う、請求項13から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
(iii)前記積層被膜で堆積された前記基体を、本質的に含塩性の環境に暴露することをさらに含む、請求項13から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記本質的に含塩性の環境がin vivo環境である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記積層被膜で堆積された前記基体が前記本質的に含塩性の環境に暴露されると、付加的な障壁層が形成され、前記付加的な障壁層が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する、請求項13から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記付加的な障壁層が、前記イオン伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層の個々の堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、二酸化ケイ素(SiO
2)、及びこれらの任意の組み合わせから成る群から選択された任意の化合物から成る、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
基体表面上に酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る堆積層を形成することを含む、請求項13から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る前記堆積層を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、二酸化ケイ素(SiO
2)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)から成る前記堆積層を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内の前記基体へ向かう腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散に対する障壁としての、請求項1から12のいずれか1項に記載の積層被膜の使用。
【請求項27】
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境に暴露された基体の寿命を長くするための、請求項1から12のいずれか1項に記載の積層被膜の使用。
【請求項28】
請求項1から12のいずれか1項に記載の積層被膜を含む物品であって、前記被膜が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記積層被膜を貫通するのを防止するための拡散障壁を形成する、物品。
【請求項29】
請求項28に記載の物品として形成された植え込み型医療デバイスのような医療デバイスであって、前記医療デバイスが、前記積層被膜を形成する複数の堆積層の化学組成によって抗菌性にされ、そしてカブトガニ血球抽出成分(LAL)アッセイによって判定して、被膜付きデバイス1つ当たり2.15エンドトキシン単位(EU)以下のエンドトキシン放出値を有する、医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、化学堆積法によって被膜付き物品を製造することに関する。具体的には、本発明は、本質的に含塩性の媒体中の基体を耐腐食性にするために、基体上へ多層積層被膜を堆積することに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気相の化学堆積法、例えば化学蒸着(CVD)及び原子層堆積(ALD)が当該技術分野において幅広く記述されている。概してCVDプロセスのサブクラスとみなされるALD技術が、種々の三次元基体構造上に高品質のコンフォーマル被膜を製造するための効率的なツールであることが判っている。
【0003】
ALDは、交互の自己飽和表面反応に基づく。非反応性(不活性)気体状キャリア中の分子化合物又は元素として提供された種々異なる反応物質(プリカーサー)が、基体を収容する反応空間内へ連続的にパルスされる。反応物質の堆積に続いて、基体を不活性ガスによりパージする。従来のALDサイクル(堆積サイクル)は2つの半反応(第1プリカーサーのパルス-パージ;第2プリカーサーのパルス-パージ)で進行し、これにより材料層(堆積層)が自己制限的(自己飽和的)に形成され、その厚さは典型的には0.05~0.2nmである。サイクルは、所定の厚さを有する膜を得るために必要な回数だけ繰り返される。各プリカーサーの典型的な基体暴露時間は、0.01~1秒間である。一般的なプリカーサーは、金属酸化物、元素金属、金属窒化物、及び金属硫化物を堆積するために使用されるようなものを含む。
【0004】
構造的及び電気的な構成部分の腐食保護は、寿命を長くする上で、そしてこれらの構成部分の故障率を低減するために必須である。電気化学的攻撃による材料の徐々の劣化である腐食は、いわゆる生体電子デバイス、具体的には患者の体内へ植え込み可能なデバイスの製作分野において特に懸念される問題になった。
【0005】
人体内では、例えば水性媒体は、種々のアニオン、例えば水酸化物、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、及び重炭酸イオン、カチオン(Na+,K+,Ca2+,Mg2+など)、低分子量種の有機物質、溶解酸素、及びこれに類するものから成る。
【0006】
植え込み型デバイスは、上述のイオン種及び分子種によって生成された深刻な腐食性環境に直面し、ひいては、腐食性要素の拡散及びデバイスの劣化に耐えるのに適した密封カプセル化被膜を必要とする。しかしながら、被膜表面上の僅かな亀裂でさえも、腐食性環境に暴露された生物医学的デバイス、例えばバイオインプラントを機能しないようにするおそれがある。最悪のシナリオの場合、生物医学的デバイス、例えば心臓ペースメーカー又はモニターの故障は、例えば患者の生命を脅かすおそれがある。
【0007】
典型的には金属及び合金、例えばステンレス鋼、チタン、及びその合金から作られる医療/外科用インプラントはまた、局所的な腐食に起因してしばしば故障しやすく、インプラントの交換は多くの場合、修正手術と関連する。外科用等級のインプラント(例えば骨を固定するために使用される)は、人体環境内で腐食すると、Fe、Cr及びNiイオンを放出することがある。これらのイオンは強力なアレルゲンである。
【0008】
体内での植え込み型デバイスの動作を成功させるための基本的な要件は、体液中及び組織内の化学的安定性、機械的挙動、及び生物適合性である。これらの要件を満たすことはしばしば難しく、大抵の事例では、インプラント材料及び/又は表面被膜を綿密に選択し、そして表面改質のための技術(例えばレーザー加工、イオン注入)を注意深く選択することを介して解決される。しかしながら、多くの場合厳しい地域標準によって定められた生体適合性要件に準拠することは、植え込み型生体電子解決手段の製造業者に著しい難題をなおも課す。身体植え込み型医療デバイスの圧倒的大部分は、人体内での長期間、すなわち数か月から数年間にわたって使用するように構成されていることを考えると、関連する材料の生体適合性は、研究・開発するべき最重要事項の1つである。
【0009】
これに関連して、生物医学的デバイス、例えば植え込み型生体電子解決手段の製造時に耐腐食性被膜を適用することに関連する難題に対処することに照らして、耐腐食性被膜の製作分野における最新化が今なお望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、関連技術分野の制約及び欠点から生じる問題点のそれぞれを解決すること、又は少なくとも軽減することである。この目的は、独立請求項1に定義されたものに基づく積層被膜の種々の実施態様によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1実施態様では、本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜であって、第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、前記被膜が、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された複数の堆積層を含み、前記複数の堆積層が拡散障壁を形成し、前記拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記基体と接触するのを防止する、本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜が提供される。
【0012】
1実施態様では、前記積層被膜内の前記個々の堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する。いくつかの形態では、積層被膜は、被膜の表面において腐食性種の拡散を密封状態で遮断するように配置されている。
【0013】
1実施態様では、積層被膜は、少なくとも1つのイオン伝導性堆積層又は選択的透過性堆積層を含み、前記イオン伝導性堆積層又は選択的透過性堆積層が、前記イオン伝導性堆積層又は選択的透過性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする。積層被膜は、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層をさらに含む。
【0014】
1実施態様では、前記積層被膜内で、前記イオン伝導性堆積層が、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層と交互に位置する。
【0015】
1実施態様では、前記積層被膜内で、前記反応性堆積層と、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記イオン伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種との間の相互作用が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する少なくとも1つの付加的な障壁層の形成をもたらす。
【0016】
1実施態様では、前記付加的な障壁層が、前記イオン伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される。
【0017】
実施態様において、前記積層被膜内の前記個々の堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)、酸化チタン(IV)(TiO2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO2)、酸化タンタル(V)(Ta2O5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、及び二酸化ケイ素(SiO2)から成る群から選択された任意の化合物で構成される。
【0018】
1実施態様では、積層被膜が、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)で構成される前記堆積層を含む。
【0019】
1実施態様では、積層被膜が基体隣接層として、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)で構成される堆積層を含む。実施態様において、前記Al2O3層は前記基体と境を接し、基体に対する積層被膜の付着を媒介又は少なくとも容易にするために、付着層として作用する。実施態様において、Al2O3層は基体表面上に直接に堆積される。
【0020】
別の実施態様では、積層被膜は、二酸化ケイ素(SiO2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO2)で構成される前記堆積層を含む。
【0021】
積層被膜の厚さは、約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約500nmの範囲内にあってよい。形態において、積層被膜の厚さは、約10nm~約300nmの範囲内、好ましくは約50nm~約150nmの範囲内にある。
【0022】
1態様では、本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜であって、第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、前記被膜が、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された複数の堆積層を含み、前記複数の堆積層が拡散障壁を形成し、前記拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記基体と接触するのを防止し、そして、前記被膜が酸化アルミニウム(III)(Al2O3)で構成される堆積層を含み、前記堆積層は前記基体と境を接し、付着層として作用する、本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜が提供される。
【0023】
1態様では、本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法が、独立請求項13に定義されたものに基づいて提供される。
【0024】
さらなる態様では、本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内の前記基体へ向かう腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散に対する障壁としての、実施態様に基づく積層被膜の使用が、独立請求項26に定義されたものに基づいて提供される。
【0025】
さらなる態様では、本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境に暴露された基体の寿命を長くするための、実施態様に基づく積層被膜の使用が、独立請求項27に定義されたものに基づいて提供される。
【0026】
本発明の態様はさらに、実施態様に基づいて実現された積層被膜を含む、独立請求項28に定義されたものに基づく物品、及び、独立請求項29に定義されたものに基づく医療デバイス、例えば植え込み型医療デバイスに関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の有用性は、本発明のそれぞれの具体的な実施態様に応じて、種々の理由から生じる。
【0028】
ALD法によって堆積された堆積層はピンホールフリーであり、且つ完全にコンフォーマルであり、したがってALD技術は、種々の用途、具体的には医療用途のために必要とされる高品質被膜の製造において高い可能性を有する。ALD堆積中に利用される温度が比較的低い(100~150℃)ことにより、被膜は、鋭敏な基体材料上にもコンフォーマルに堆積することができる。加えて、ALD被膜は概ね非晶質である(結晶性でない)ため、これらの被膜は、被膜を通る腐食性種、例えば腐食性イオン種のための容易な経路を提供しない。
【0029】
全体的に見れば、本発明は、体液を含む本質的に含塩性の媒体中で腐食に対して感受性の基体のために、耐腐食性(ナノ)積層被膜を提供する。多層被膜はイオン拡散障壁を形成し、イオン拡散障壁は、含塩性媒体(例えばNa+,K+,H+;Cl-,OH-,PO3
3-,PO4
3-,SO4
2-,CO3
2-など)中で典型的には腐食を招くイオン種が、基体に達するのを効率的に防止する。加えて、多層被膜は亀裂及び粒界の形成を低減し、このことは被膜を通るアクティブな拡散経路の数を低減する。複数の堆積層として実現された積層構造が「スタック(stack)」を形成することにより、層集成体全体を貫通するようには拡散経路を形成することができず、ひいてはより高い障壁性能を達成することができる。
【0030】
(ナノ)積層被膜は、保護作用を有する、非毒性の、そして長持ちする医療用被膜解決手段として役立つように、医療部門における使用、例えば心臓学及び神経学における植え込み型電子装置のための使用に特に適している。本開示に基づき(ナノ)積層被膜で被覆された基体は、極端な試験条件(PBS中で87℃において1か月間~2か月間、そしてPBS中で85℃において100日間実施される種々異なる試験)でも、腐食性環境(本質的に含塩性の媒体)に対する耐性を有する。この耐性は、医療デバイスのための被膜として使用されるこれらの可能性を示している。試験中に得られた結果は、ここに開示された(ナノ)積層被膜が、37℃の体液環境内で5~約15年の等価寿命を有することを示した。
【0031】
動作の信頼性を改善すること、及び寿命を長くすることは、植え込み型医療デバイスにとって特に重要である。それというのも、インプラントの交換はしばしば外科処置を伴うからであり、したがって性能特性とともにこのようなデバイスの信頼性を改善することは、患者及びヘルスケア・システムの双方にとって極めて有益である。
【0032】
積層被膜解決手段は、たとえ補助的な金属被膜材料及び/又はポリマー被膜材料が存在していなくても、基体のための完全なカプセル化を可能にする。
【0033】
提案された(ナノ)積層被膜は生体適合性であることが判っている。すべての被膜は、いくつかの国際標準に基づいて、2.15EU/デバイス未満の低エンドトキシン放出値を示した。さらに、いくつかの被膜は、0.075~0.1EU/デバイスの範囲内のさらに低いエンドトキシン値を示した。
【0034】
加えて、すべての被膜は、顕著な抗菌特性を有している。細胞毒性、エンドトキシン性、抗菌特性、障壁性能、血液適合性、バイオバーデン及びその他の特徴に基づいて、提案された(ナノ)積層被膜は、種々の生命工学産業において使用する被膜付き物品を製造する際の、そして具体的に言えば、数十年の使用期間にわたって身体環境と適合性を有する、高性能の、任意にはナノスケールの医療デバイスを製作する際の、スマート且つコスト効率の良い解決手段を提供する。
【0035】
本開示において、1マイクロメートル(μm)未満の層厚を有する材料は、「薄膜(thin films)」と呼ばれる。
【0036】
「反応性流体」及び「プリカーサー流体」という表現は、本開示では、不活性キャリア中の少なくとも1種の化合物(プリカーサー化合物)(以後プリカーサー)を含む流体流を示す。
【0037】
「含塩性媒体(saline media)」及び「含塩性環境(saline environment)」という用語は、溶解塩化合物を含有する種々の媒体を示すために、本開示において使用される。アルカリ度の観点からは、含塩性媒体は、酸性、中性、又はアルカリ性のいずれか1つであり得る。
【0038】
本開示において、「生体適合性」という用語はその一般的な意味において使用され、つまり、生物学的環境に暴露されたデバイス又は技術的性質を有するシステムが、短期及び長期の両方にわたって主要且つ臨床的に不都合な兆候を示すことなしに、その機能を発揮する能力と定義される。生体適合性の評価は主として、デバイス/システムを構成する材料が、体内に望まれない炎症又は合併症を発生させることなしに、生物学的環境と相互作用する能力を分析することを伴う。
【0039】
本開示において、(「身体植え込み型(body implantable)」、「身体環境(body environment)」などという表現の文脈における)「身体(body)」という用語は、主として人間に関して使用される。しかしながら、本発明の概念は、人間以外の哺乳類又は他の動物に関して構成され且つ/又は使用される物品、例えば医療デバイスに十分に適用することができる。
【0040】
「いくつかの(a number of)」という用語は、本明細書中では1から出発して例えば1、2、又は3までの任意の正の整数を意味するのに対して、「複数の(a plurality of)」という用語は、本明細書中では2から出発して例えば2、3、又は4までの任意の正の整数を意味する。
【0041】
「第1」及び「第2」という表現はいかなる順番、量、又は重要性をも意味しようとするものではなく、別段の明示がない限り、1つのエレメントを別のエレメントから区別するだけのために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1A及び1Bは、基体20上の、実施態様に基づく積層被膜10,10Aを示す概略図である。
【
図2】
図2A及び2Bは、実施態様に基づく積層被膜10の断面を示す明視野及び暗視野の走査型透過電子顕微鏡法(TEM/STEM)画像である(それぞれ参照試料及びPBSで浸漬された試料)。
【
図3】
図3A及び3Bは、実施態様に基づく、積層被膜10のエネルギー分散型X線分光法(EDS)線プロフィールである(それぞれ参照試料及びPBSで浸漬された試料)。
【
図4】
図4Aは、実施態様に基づく、積層被膜10内のナトリウム(Na
+)とカリウム(K
+)との二次イオン質量分析法(SIMS)(参照試料及びPBSで浸漬された試料)の比較であるのに対して、
図4Bは、塩素(Cl-)イオン種及びリン酸(P)イオン種の濃度間のSIMS比較である。
【
図5】
図5は、実施態様に基づく積層被膜10Aの断面を示す明視野画像TEM画像である(参照試料及びPBSで浸漬された試料)。
【
図6】
図6A及び6Bは、実施態様に基づく積層被膜10AのEDSマッピング画像である(それぞれ参照試料及びPBSで浸漬された試料)。
【
図7】
図7A及び7Bは、実施態様に基づく積層被膜10AのSIMS深さプロフィールである(それぞれ参照試料及びPBSで浸漬された試料)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1A及び1Bは実施態様に基づく積層被膜(以後、被膜)をそれぞれ符号10及び10Aで示している。
【0044】
被膜10,10Aは有利には、本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体、例えば溶解塩を含有する腐食性媒体に暴露するように意図された基体のために構成されている。
【0045】
塩はカチオン(正荷電イオン)とアニオン(負荷電イオン)とのイオン集成体から成る化合物である。水溶液中では、塩はアニオンとカチオンとの分離によって解離する。イオン種が、本質的に含塩性の水性媒体中で最も一般的な腐食性物質である。
【0046】
本質的に含塩性の腐食性媒体の一例としては、塩の一般的に使用される水溶液(緩衝溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化ナトリウムなど)、海水、並びに種々のin vitro(例えば細胞培養物)及びin vivo媒体が挙げられる。in vivo腐食性媒体は、体液及び組織によって代表される。
【0047】
被膜10,10Aは、「スタック」を形成するために互いの上側に配置された複数の堆積層(
図1Aでは層10-1~10-4、
図1Bでは層10A-1~10A-3)を含む。明確にするために念のために述べておくが、堆積層の数(n)は、層の組成、被覆されるべき基体、基体の適用分野に応じて変化し得る。例えば、堆積層の総数(n)は2~100の範囲内で変化してよい。大抵の事例では、nは3~20の範囲内で変化する。300nmスタックを例えば60堆積サイクルで堆積することができ、各材料層が厚さ2.5nmを有する状態で、2つのサブ層(M1,M2)の「サブスタック(sub-stack)」が各堆積サイクルにおいて堆積される。こうして、式:(2.5nm+2.5nm)
n,(ここでn=60)にしたがって、(ナノ)積層構造が形成される。当業者には明らかなように、反応条件に応じて、例えば複数の1~3nmサブ層を堆積し、ひいてはナノ積層スタックの総スタック厚/深さを調整してよい。
【0048】
被膜10,10Aにおいては、複数の堆積層で形成されたスタックの厚さは、約10nm~約1000nmの範囲内にあり、したがってここに提示された積層構造は「ナノ積層体」とも呼ばれる。被膜10,10Aに関して、「構造」(ナノ積層構造)という表現と、「スタック」(ナノ積層スタック)という表現とは、本開示において相互に置き換え可能に使用される。厚さが約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは50nm~500nmの範囲内、さらに好ましくは100~300nmの範囲内にあるナノ積層スタックを製造することができる。堆積されたナノ積層構造10,10Aの最も典型的な、そしていくつかの事例では好ましい範囲は、50~300nm、つまり50nm、100nm、150nm、200nm、250nm、及び300nmを含む。さらに、300nmを超える厚さ(最大約1000nm)を有するナノ積層構造を、所定の堆積サイクル数(n)で製造することができる。
【0049】
図1A及び1Bに示されているように、積層体の最上層10-1,10A-1は、周囲の媒体と直接に接触しているのに対して、最下層10-4,10A-3は、基体20の表面の上に、任意には付着層(図示せず)の上に堆積されている。とは言え、本開示に基づく積層被膜の大部分において、基体に対する付着をもたらすのは最下層である。いくつかのALD膜が、基体に付着する能力に関して研究されている。
【0050】
堆積層は、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して基体上に形成される。
【0051】
ALD成長メカニズムの基本は当業者に知られている。ALDは、少なくとも2種の反応性プリカーサー種を少なくとも1つの基体へ連続的に導入することに基づいた特別な化学堆積法である。しかしながら、例えばフォトン増強型ALD又はプラズマ増強型ALD、例えばPEALDを用いると、これらの反応性プリカーサーの1つをエネルギーによって置換することができ、これは単一プリカーサーALDプロセスにつながることを理解するべきである。例えば、純粋元素、例えば金属の堆積はただ1つのプリカーサーを必要とする。プリカーサー化学物質が堆積されるべき二元材料の元素の両方を含有すると、二元化合物、例えば酸化物を1種のプリカーサー化学物質で形成することができる。ALDによって成長させられた薄膜は緻密であり、ピンホールフリーであり、そして均一な厚さを有する。
【0052】
ALDの場合、少なくとも1つの基体を典型的には、反応容器内の一時的に分離されたプリカーサーパルスに暴露することにより、連続的な自己飽和表面反応によって基体表面上に材料を堆積する。本開示の文脈において、ALDという用語は、ALDに基づくすべての適用可能な技術、及びあらゆる同等の又は密接に関連する技術、例えば次のALDサブタイプ、すなわちプラズマ支援型ALD、PEALD(プラズマ増強型原子層堆積)及びフォトン増強型原子層堆積(フォトALD又はフラッシュ増強型ALDとしても知られる)を含む。
【0053】
堆積設定は、例えば米国特許第8211235号明細書(Lindfors)に記載されたALD設備、又はフィンランド国Picosun Oyから入手可能なPicosun R-200 Advanced ALDシステムとして商標登録された設備に基づくものであってよい。とは言え、本発明の概念の根底を成す特徴は、例えばALD、PEALD、分子層堆積(MLD)、又は化学蒸着(CVD)デバイスとして具体化された任意の他の化学堆積反応器内へ組み込むことができる。
【0054】
模範的ALD反応器は、反応空間(堆積空間)を確立する反応チャンバを含む。この反応空間内では、本明細書に記載されるナノ積層被膜の製造が行われる。反応器は、流体流(プリカーサー化合物P1,P2を含有する不活性流体及び反応性流体)を反応チャンバ内へ媒介するように形成されたいくつかの器具をさらに含む。これらの器具は、例えばいくつかの取り込みライン/供給ライン、及び関連の切り換え及び/又は調整デバイス、例えば弁として提供される。
【0055】
基本的なALD堆積サイクルは、4つの連続ステップ、すなわちパルスA、パージA、パルスB、及びパージBで構成される。パルスA及びBの期間中に反応チャンバに入る反応性流体は、好ましくは不活性キャリア(ガス)によって運ばれた所定のプリカーサー化学物質(P1,P2)を含む気体状物質である。反応空間内へのプリカーサー化学物質の送達、及び基体上の膜成長は、前記の調整器具、例えば三方向ALD弁、質量流コントローラ、又はこの目的に適した任意の他のデバイスによって調整される。
【0056】
上記堆積サイクルは、堆積シーケンスが所期厚の薄膜又は被膜を製造するまで繰り返すことができる。堆積サイクルはより単純又はより複雑であってもよい。例えば、サイクルは、パージ・ステップによって分離された3つ又は4つ以上の反応物質蒸気パルスを含むことができ、或いはある特定のパージ・ステップを省くこともできる。他方において、フォト増強型ALDは、種々のパージ選択肢とともに、ただ1つの活性プリカーサーのような種々の選択肢を有している。これらすべての堆積サイクルは、論理ユニット又はマイクロプロセッサによって制御されるタイミング型堆積シーケンスを形成する。
【0057】
(ナノ)積層10,10Aを製造するために利用されるALDプロセスは、約80~250℃の範囲内の堆積温度を採用する。約100~150℃の範囲内の堆積は、熱感受性基体、例えばポリマー及び/又は電気的回路を含有する基体への被覆を可能又は容易にする。
【0058】
図1A,1Bを参照すると、個々の堆積層(10-1~10-n;10A-1~10A-n)が、1つの堆積サイクル(P1-パージ-P2-パージの順序を有する)内で、単層として形成されてよい。大抵の事例では、いくつかの連続的な堆積サイクルを採用して、所期厚の堆積層(例えば10-1又は10A-1)を製造することができる。
【0059】
積層被膜10,10Aは、複数の堆積層で形成されている。これらの堆積層において、第1組成物を有する層(例えば10-1,10-3;10A-1,10A-3)が、第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層(例えばそれぞれ10-2,10-4;10A-2)と交互に位置している。
【0060】
図1A及び1Bに示された被膜10,10Aの場合、第1の化合物又は化合物群(「材料1(Material 1)」を表すM1)で堆積された層が、第1材料とは同一でない第2の化合物又は化合物群(「材料2(Material 2)」を表すM2)で堆積された層と交互に位置する。
【0061】
ナノ積層構造10,10Aを製造するために、堆積層は、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)、酸化チタン(IV)(TiO2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO2)、酸化タンタル(V)(Ta2O5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)、酸化ニオブ(V)(Nb2O5)、及び二酸化ケイ素(SiO2)を含む(金属)酸化物種から選択されたものから製造された。金属窒化物化合物、例えば窒化チタン、窒化アルミニウム、又は窒化ケイ素を利用することもできる。いかなる他の適宜の化合物を利用することも排除されない。
【0062】
積層構造10,10Aにおいて、複数の堆積層は障壁を形成し、この障壁は、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種が、構造内へ深く貫入し、基体と接触するのを防止する。本質的に含塩性の媒体において、腐食性種は典型的にはイオンであるが、しかし例えば低分子化合物の構造内への拡散を防止することもできる。
【0063】
いくつかの形態において、異なる化学組成を有する堆積層の組み合わせによって、被膜10,10Aは、基体を腐食性媒体から効率的に保護する拡散障壁として作用する。被膜10,10A内の複数の堆積層はこのように、イオン拡散障壁を形成するように構成することができる。
【0064】
個々の堆積層の(化学)組成に関して、被膜は、前記層を通した腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散を少なくとも部分的に遮断するように構成され、そして任意には、拡散するイオン種に対する化学反応性を有している。
【0065】
いくつかの形態では、被膜はナノ積層体の表面において、つまりナノ積層体の最上層と周囲媒体との間の表面境界において、腐食性種の拡散を完全に遮断するように構成されている。
【0066】
含塩性環境内で通常発生するイオン種は、種々異なるサイズと、種々異なる(モル)イオン伝導率とを有している。裸イオンのサイズが小さければ小さいほど、イオン伝導性(選択的透過性又はイオン選択性とも呼ばれる)材料層を通るその予想拡散速度は高くなる。このように、より小さいサイズのイオン種(例えばLi+,Na+,K+,NH4
+,H+,OH-,Cl-など)は、より大きいイオン種(例えばPO4
3-,PO3
3-,NO3
-,ClO4
-,SO4
2-など)よりも高速でイオン伝導性材料を貫通する。またイオン種の電荷は、材料(正及び負イオン伝導体)を通る拡散速度をもたらす。加えて、材料界面の近くの電場の存在は材料、具体的には薄膜のイオン伝導性を変更することができる。それというのも、この電場は、界面における電荷の符号に応じて、イオンのためのドリフト力を引き起こし得るからである。
【0067】
本開示はこのように、腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散を積層体表面において効率的に遮断する完全に密封状態の被膜と、積層構造内部に発生する化学的相互作用を介してイオン拡散障壁を形成する被膜とを提供するための多層構造を提示する。
【0068】
図2~4は、腐食性(例えばイオン)種の拡散を積層体表面において遮断するように構成された、いわゆる密封積層被膜(hermetic laminate coating)の概念を示している。被膜は
図1Aに示された形態に基づいて実現される。
【0069】
例えば、被膜10は、酸化アルミニウム(III)(Al2O3)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO2)で構成される交互の堆積層を含む層状構造として、基体上に実現された。
【0070】
Al2O3層を堆積するためにテトラメチルアンモニウム(TMA)及びH2Oプリカーサーを使用し、そしてZrO2層を堆積するためにテトラキス(エチルメチル-アミノ)ジルコニウム(TEMAZr)及びH2Oのプリカーサーを使用して、ALDを介して、積層ナノ層を堆積した。
【0071】
図2A及び2Bは、基体20上の、実施態様に基づく被膜10の、PBS溶液(87℃)に対する2か月間の暴露の前(
図2A)及び後(
図2B)の状態を示す、明視野(BF)及び暗視野(DF)のTEM/STEM画像である。被膜10はAl
2O
3-ZrO
2ナノ積層被膜として実現される。BF画像では、明るい層はAl
2O
3であり、そして暗い層はZrO
2である。DF画像では、これらは逆になる。層は、TiN導電ラインを備えたSi/SiO
2チップ上に150℃でALD堆積された(基体のサイズはほぼ3cm×1cm)。
【0072】
浸漬済み試料と参照との間には相違は認められなかった。このことは被膜10が完全に密封状態であることを示している。
【0073】
図3A及び3Bは、参照試料及び浸漬済み試料のEDS線プロフィールを相応に示す。積層被膜10、基体、及び浸漬条件は、
図2A及び2Bを参照しながら説明したものと同じであった。EDSプロフィールから、参照試料及び試験試料中には、最上層の下で相違は発生しないことが観察できる。
【0074】
図4A及び4Bは、参照試料中及び試験試料(浸漬済み試料)中の、それぞれカチオン(Na
+,K
+種)濃度と、アニオン(Cl
-,PO
4
3-種)濃度との比較を示すSIMSグラフである。積層被膜10、基体、及び浸漬条件は、上記のもの(
図2及び3)と同じであった。試料表面上のNa及びKのイオン含量は、暴露された試料が僅かに高かったが、しかし約20~30nmの深さ(トップ層から3番目の堆積層)では、暴露された試料と参照との間の相違を観察することはできなかった。
【0075】
図4A及び4Bの結果は、複数の交互のAl
2O
3-ZrO
2層を含むナノ積層膜10(約100nm)が、含塩性環境内で最も一般的に発生するイオン種(例えばNa
+,K
+,Cl
-,PO
4
3-)の拡散を効率的に遮断し、ひいては前記イオン種が基体と接触するのを防止することを裏付ける。
図4Aはまた、ALD膜内部のNa
+及びK
+イオン種の濃度が、下側に位置する基体(Siウエハー)内の前記種の濃度よりもさらに低いことを示している。
【0076】
注目すべきなのは、PBS中で87℃において行われた2か月間の試験(いわゆる加速暴露試験)が、37℃の体液環境内の約5.3年間の暴露と相関することである。
【0077】
さらに、PBS中で85℃において100日間にわたって、(125℃でALD堆積された)Al2O3-ZrO2ナノ積層体で被覆された5つの試料(Si/SiO2/Alチップ)に対して行われたオンライン抵抗測定による加速暴露試験は、試験終了時にすべての被験試料中に腐食が不在であることを示した(図示せず)。これらの暴露条件は、37℃の体液環境における8年を上回る期間と相関する。
【0078】
一例としてAl2O3及び/又はZrO2と、TiO2、HfO2、Ta2O5及びSiO2のいずれか1つとの組み合わせを含むナノ積層被膜10によって、密封ナノ積層被膜10の形成を達成することもできる。
【0079】
上記組み合わせの中で、Al
2O
3-HfO
2ナノ積層体及びAl
2O
3-Ta
2O
5ナノ積層体も、腐食性の含塩性環境に暴露されたときに高い耐腐食性を有することが判った。
図2A及び2Bに関して説明したものと同様に、TiN導電ラインを備えたSi/SiO
2チップ上で、PBS浸漬試験(87℃のPBS中で4~8週間)を行った。
図2A及び2Bに示されたAl
2O
3-ZrO
2ナノ積層体と同様に、Al
2O
3-HfO
2及びAl
2O
3-Ta
2O
5の積層被膜は、5つの酸化アルミニウム層と、5つのそれぞれ酸化ハフニウム層又は酸化タンタル層とを交互に含んだ(すなわち全部で10層)。すべての被膜(Al
2O
3-ZrO
2、Al
2O
3-HfO
2、及びAl
2O
3-Ta
2O
5)において、アルミナ層が、基体と界面を形成する最下層であった。各ALD層の厚さは約10nmであり、そしていくつかの連続的な堆積サイクルから生じたナノ積層被膜の総厚は約100nmであった。
【0080】
積層体断面上のTEM分析は、例えばAl2O3-HfO2ナノ積層体が、腐食性処理後に変化していないことを明らかにした(図示せず)。5*(10+10)層の積層体の厚さは、処理前には106.7nm、そして処理後には106.9nmと測定され、また最上部のハフニア層の厚さは処理前には11.7nm、そして処理後には11.9nmと測定された。積層体は10*(5+5)層として堆積することもできる。被膜はいかなる顕著な表面欠陥も示さなかった。このことは、本発明による種々異なる積層被膜が完全に密封状態であるという見解を支持する。
【0081】
基体上に直接に堆積される最下層として、ナノ積層被膜内に設けられたアルミナ(Al2O3)層が、基体上の積層スタックの付着を容易にすることがさらに観察された。
【0082】
全体的に見れば、最も下側のアルミナ層が、いかなる他の被験金属酸化物層よりも良好な、基体に対する付着性を提供した。アルミナを基体界面層として有すると、層間剥離も可視の欠陥もALD被膜内には観察されなかった。したがって、いくつかの実施態様によれば、ナノ積層被膜は、基体と境を接するように、そして付着層として機能するように、基体上に堆積された酸化アルミニウム(III)(Al2O3)層を含む。
【0083】
個々の金属酸化物(Al2O3、HfO2及びTa2O5、被膜総厚約100nm)でALD被膜された試料上で、同じ浸漬試験(87℃のPBS中で4~6週間)を行った。これらの試験中、純粋Al2O3で被覆された試料は2日で失格し(PBS中に溶解された)、これに対して純粋Ta2O5及び純粋HfO2で被覆された試料は、顕著な表面欠陥を示した。このことは、個々の金属酸化物、例えば100nmHfOx膜で堆積されたALD被膜が、部分的に結晶挙動を示すという観察に起因するといえる。結晶挙動は堆積された膜の無秩序を増大させ、膜に対するイオンの貫入/貫通を容易にする。
【0084】
しかしながら、本開示に基づく層状(ナノ)積層被膜構造を形成することによって、結晶成長を完全に防止することができる。さらに、種々異なる堆積層間の境界は、ALDスタック全体を通るイオン貫通の容易なアクセスを防止する。加えて、Al2O3はスタックの構造及び機能において不可欠な役割を果たすと思われる。
【0085】
加えて、125℃及び150℃でALDを用いてLCP(液晶ポリマー)基体上に被覆された100nmナノ積層体、すなわちAl2O3-ZrO2、Al2O3-HfO2、及びAl2O3-Ta2O5に対して行われた一連の試験は、これらの被膜が最大2桁だけ、被膜を通した湿分の拡散を低減することを示した。結果は、湿分(水)蒸気透過率(MVTR)測定によって裏付けられた。例えば、Al2O3-HfO2積層体の場合、湿分蒸気透過率(拡散係数)は、裸LCPシートの0.3μm2/sから0.003μm2/sへ減少した。
【0086】
図1B、5~7は、イオン拡散障壁の形成が、堆積層と拡散するイオン種との化学的相互作用を伴う、積層被膜(10A)の概念を示している。
【0087】
積層被膜10A(
図1B)は、少なくとも1つのイオン伝導性(イオン選択性)堆積層を含む。イオン伝導性(イオン選択性)堆積層は、堆積層を通した腐食性種の選択的拡散を可能にする。積層被膜10Aは、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意にはイオン伝導性の選択的透過性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層をさらに含む。前記反応性層はさらに、拡散する腐食性種に対して選択的反応性を有するようにされてよい。
【0088】
腐食性種がイオン種である場合、選択的透過性層はイオン伝導性層と呼ばれ、そして反応性層はイオン反応性層と呼ばれる。これに加えて又はこの代わりに、層は、被膜付き基体を取り囲む環境内で発生する分子又は元素の腐食性種に対して選択的イオン伝導性/反応性であるように構成することもできる。
【0089】
記載した実施態様において、イオン伝導性堆積層はイオン反応性層に隣接して配置される。(ナノ)積層スタック内で、これらの層は交互に位置する。
【0090】
図1Bに示された形態は、積層体10A内への腐食性イオン種の拡散を表す。多層構造において、最も上側のイオン伝導性層(10A-1)の下に、イオン反応性層(10A-2)が配置されている。イオン伝導性層とイオン反応性層とは、反応性層がイオン伝導性層間に堆積される仕方で、交互に位置する。本実施例では、反応性層10A-2の下の層(10A-3)は、再びイオン伝導性にされる。層の数(n)は、具体的は被膜組成、基体、適用分野などに応じて変化する。
【0091】
いくつかの事例では、積層被膜10Aは反応性層を最上層として含んでよい。このような場合、腐食性種は、本質的に液状の環境から反応性層内へ直接に拡散するので、拡散は(イオン反応性層で上塗りされた)積層被膜と、被膜付き基体を取り囲む媒体との間の界面で発生する。
【0092】
反応性堆積層と、本質的に含塩性の媒体を起源とし、且つ任意にはイオン伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種、例えば腐食性イオン種との相互作用は、積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する少なくとも1つの付加的な障壁層の形成をもたらす。相互作用は選択性にされてよい。このようにすると、反応性層はある特定の腐食性種とだけ相互作用することになる。ナノ積層体形態に応じて、付加的な障壁層は、伝導性層と、拡散する腐食性種に対して反応性の堆積層との間の界面に形成することができる。これに加えて又はこの代わりに、付加的な障壁層は、反応性堆積層と、被膜付き基体を取り囲む媒体との間の境界に形成されてもよい(反応性層が積層構造全体の上側に堆積される場合)。
【0093】
選択的イオン伝導性、及び任意には腐食性種、例えば腐食性イオン種に対する選択的イオン反応性は、堆積層の化学組成によって、すなわち前記層を構成する化合物又は化合物群によって達成される。上述のように、交互に位置する堆積層は、区別可能な材料(M1,M2)から形成される。
図1Bの形態において、イオン伝導性層10A-1(M1)は物質ZO
a1から成っており、そしてイオン反応性層10A-2(M2)は物質XO
a2から成っており、X及びZのいずれか一方は、金属種及び半導体種から選択される。
【0094】
図1Bの形態において、環境からイオン伝導性層10A-1(M1=ZO
a1)内へ拡散する腐食性種(イオン種H
+,Na
+,K
+,OH
-)は、隣接するイオン反応性層10A-2(M2=XO
a2)に達し、そして前記反応性層10A-2を形成する化合物(XO
a2)と相互作用する。反応性堆積層(前記層を形成する化合物又は化合物群)と、伝導性層(10A-1)を通して選択的に拡散された腐食性種との相互作用は、積層被膜内部に、イオン伝導性層及び反応性層10A-1,10A-2のいずれか1つの層を構成する化合物種とは異なる新たな化合物種の形成をもたらす。積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する付加的な障壁層が、ナノ積層体内部で、反応性層と伝導性層との間の界面に、こうして形成される(すなわち堆積層10A-1,10A-2の間に「サンドイッチされる」)。
【0095】
付加的な障壁層は、本質的に含塩性の環境に暴露された積層被膜10Aのイオン拡散障壁効率を改善する。
【0096】
図1Bの実施例では、付加的な障壁層は下記メカニズムにしたがって形成されたナトリウム塩又はカリウム塩である。
【化1】
係数a2は、化合物XO
a2を形成する種Xの酸化状態に応じて変化する。同じことが化合物ZO
a1における係数a1にも当てはまる。
【0097】
当業者であれば、種々異なるイオン種又は分子種を伴う相互作用メカニズムを解明する際に困難に遭遇することはなく、反応性堆積層を適宜に設計するものと想定される。
【0098】
模範的形態において、被膜10Aは、酸化ハフニウム(IV)(HfO2)と二酸化ケイ素(SiO2)とで構成される交互の堆積層を含む層状構造として、基体上に実現された。このような場合には、材料1から形成されるイオン伝導性層(10A-1,10A-3)は、HfO2(ZOa1=HfO2)から成り、これに対して材料2から形成されるイオン反応性層(10A-2)はSiO2(XOa2=SiO2)から成った。
【0099】
付加的な障壁層の形成は、下記シナリオにしたがって行われる。
【化2】
【0100】
提示された実施例では、付加的な障壁層はケイ酸塩で構成される。付加的な障壁層は、腐食性種が積層体内へより深く拡散するのを完全又は部分的に防止する。いくつかの事例では、腐食性種、例えば腐食性イオン種が、積層構造内へより深く貫入し、そして積層体内により深く配置された反応性堆積層と相互作用し得る。
【0101】
図5は、基体20上の実施態様に基づく被膜10Aを、PBS溶液(87℃)に1か月間にわたって暴露する前(左の画像)及び暴露した後(右の画像)の状態で示す明視野TEM画像である。被膜10Aは、HfO
2-SiO
2ナノ積層被膜として実現される。層はSi/SiO
2/TiN基体上にALD堆積した。暗い層はイオン伝導性層(HfO
2)であり、そして明るい層はイオン反応性層(SiO
2)である。右側の試験画像からは、酸化ケイ素と、拡散するイオン種との相互作用の結果として、最上堆積層(イオン反応性層、SiO
2)の深さ/厚さが概ね増大した(参照試料における10.4nmと比較して12.6nm)ことを観察し得る。
【0102】
図6A及び6Bは、
図5を参照しながら説明したHfO
2-SiO
2ナノ積層被膜のEDSマッピング画像である。最上層はSiO
2であった。試験試料(
図6B)からは、前記最上SiO
2層が、本質的に含塩性の環境(ここではPBS緩衝溶液)を起源とするイオン種と反応し、膨張してきたことを観察し得る(破線の四角参照)。
【0103】
図7A及び7Bは、
図5及び6を参照しながら説明した、HfO
2-SiO
2ナノ積層被膜中のイオン種(Na
+,K
+,Cl
-及びPO
4
3-)の相対含量を、PBS溶液に対する暴露前及び暴露後の状態で示すSIMS深さプロフィールである。
図7Bからは、ナノ積層体内の深くに位置するナトリウム及びカリウムイオンの相対含量が著しく増大したのに対して、塩素及びリン酸イオンの相対含量は僅かしか増大せず、又は全く増大しなかったことを観察し得る。
【0104】
図5~7に示された結果はこのように、積層被膜内部の新しい化合物層の形成を示す。
【0105】
ナノ積層被膜10A内部に内部障壁層を形成するための他の実施例は、交互に位置するZrO2及びSiO2を備えた複数の堆積層で構成される被膜を含む。
【0106】
下記表1は、腐食防止ナノ積層被膜10,10A及びこれらのALD堆積温度の非排他的概観を示す。
【表1】
【0107】
上記実施例は、(ナノ)積層被膜10,10Aであって、ある特定の化合物又は化合物群で構成される堆積層が積層スタック内で1層おきに重複された、(ナノ)積層被膜10,10Aに関するものであった。堆積(サブ)層(M1-M2)nで形成されたスタックがこうして製造された。ここで採用された堆積技術、例えばALDは、「サブスタック(sub-stack)」内で3つ、4つ、又は5つ以上の異なる材料(M)サブ層を含む、より複雑な積層体解決手段を構築することを可能にする。サブスタックは所望のとおりにn回繰り返すことができる。
【0108】
いくつかのナノ積層体を、電気的カプセル化に密接に関連する電気的な障壁/絶縁機能を提供するためのこれらの能力に関して研究した。電気的カプセル化は植え込み型生体電気的デバイス(いわゆるスマート・インプラント)において特に重要である。したがって、Al2O3-ZrO2、Al2O3-HfO2、及びAl2O3-Ta2O5ナノ積層体で被覆されたシリコン基体(ALD堆積150℃、水プロセス、5*(10+10)層被膜;100nm)を、印加電界6MV/cmでこれらの漏れ電流密度に関して試験した。これらの試験は、選ばれた積層体がほとんどゼロの漏れ(10-8の範囲)を実証することを示唆し、ひいてはこれらを生物医学デバイス内に使用し得ることを証明した。
【0109】
別の態様では、本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法が提供される。この方法では、適宜の基体20が上記実施態様に基づいて、積層被膜10,10Aで堆積される。
【0110】
被膜は好ましくは蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、形成される。全体的に見れば、第1組成物を有する堆積層が、第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、複数の堆積層が形成される。前記複数のナノ積層体層(10-1~10-n;10A-1~10A-n)を堆積することによって、拡散障壁が形成される。拡散障壁は、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、基体と接触するのを防止する。
【0111】
実施態様において、この方法は複数の堆積層を堆積することを含み、これらの堆積層は、堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する。
【0112】
実施態様において、拡散障壁の形成は、堆積層と、拡散する腐食性種との化学的相互作用を伴う。
【0113】
こうして、ある特定のナノ積層体形態を製造するために、この方法は、当該イオン伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種の選択的拡散を可能にする少なくとも1つのイオン伝導性堆積層と、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された前記腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層とを備えた被膜を形成することを含む。伝導性層は、拡散する腐食性種に対して反応性の堆積層と交互に位置する。これらの層はナノ積層スタック内で互いに隣接して形成される。
【0114】
いくつかの実施態様では、方法は、積層被膜で堆積された基体を、本質的に含塩性の環境に暴露する工程をさらに含む。基体はこうして液状含塩性溶液(例えばPBS、NaCl;海水)中に浸すことができる。本質的に含塩性の環境は、in vitro細胞培養物又はこれに類するものとして提供することもできる。
【0115】
いくつかの特定の実施態様では、本質的に含塩性の環境はin vivo環境、例えば体液又は組織である。
【0116】
いくつかの実施態様では、この方法は、(ナノ)積層被膜で堆積された基体が前記本質的に含塩性の環境に暴露されると、付加的な障壁層が形成されることをさらに含む。上記のものによれば、付加的な障壁層は、積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する。
【0117】
付加的な障壁層は、イオン伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の堆積層との間の境界に形成されてよい。これに加えて又はこの代わりに、付加的な層は本質的に、被膜付き基体を取り囲む媒体と、拡散する腐食性種に対して(選択的)反応性の被膜の堆積層との間の境界に形成されてもよい。
【0118】
さらなる態様では、本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内の基体へ向かう腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散に対する障壁としての、実施態様に基づく積層被膜の使用が提供される。さらなる態様では、本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境に暴露された基体の寿命を長くするための、実施態様に基づく積層被膜の使用が提供される。
【0119】
本質的に含塩性の媒体中の(ナノ)積層被膜10,10Aの耐腐食性を評価するために、いくつかの試験を行った。ALDプロセスを介して堆積された被膜10,10Aを、植え込み型生体電気的デバイス及び刺激デバイスを含む医療デバイス、具体的には植え込み型医療デバイス上で、in vivoの長い使用期間にわたって耐腐食性層として使用し得ることが立証されている。
【0120】
被膜10,10Aは、基体の一部又は基体全体を被覆するように設けることができる。後者の事例では、被膜は、基体全体(例えば医療デバイス)をカプセル化するための、そしてデバイスを例えば体液中の腐食性環境から保護することにより、デバイスの故障を防止するためのシーリングとして作用する。同時に、被膜10,10Aは、植え込み可能な材料を起源とする金属イオンが体内へ漏れるのを防止する。
【0121】
加速暴露試験(PBS中87℃で2か月)中、反復する金属酸化物層(Al2O3及びZrO2;SiO2及びHfO2)で構成される、ALD堆積された(ナノ)積層体は、被膜自体の劣化を効率的に防止し、そして同時に、イオン種が堆積層を貫通するのを防止し、且つ基体へ達するのを防止した。上述の加速暴露試験は、37℃の体液環境中の約5.3年間の暴露とよく相関する。
【0122】
ナノ積層被膜10,10Aの生体適合性を評価するために、以下の化合物、すなわちAl2O3、(種々異なるプリカーサーを用いて堆積された)TiO2、HfO2、Ta2O5、SiO2及びZrO2を採用して、試験を行った。これらの材料のそれぞれを、クリーンルームISO 6-7内でthe R-200 Advance ALDシステム(Picosun)を使用して、125℃でシリカウエハー基体上にALD堆積することにより、厚さがほぼ100nmの被膜を製造した。これらの被膜をさらに下に説明するように分析した。
【0123】
上記化合物を用いてエンドトキシン性試験を行った。被膜(約100nm)を堆積することにより、100mm(直径)のシリカウエハー(総表面積約157cm2)をカプセル化した。各試料化合物を3部複製してエンドトキシン性に関して試験した。
【0124】
動的比濁法(kinetic turbidimetric method)によるカブトガニ血球抽出成分(LAL)試験を用いて、そして規制文書ANSI/AAMI ST72:2019、USP<161>、USP<85>、EP2.6.14及びJP4.01にしたがって、エンドトキシン性を評価した。脳脊髄液に接触することのない完成した医療デバイスに対して設定された(許容可能な)限界内のエンドトキシン放出値(K)(K=20 エンドトキシン単位(EU)/デバイス)と、脳脊髄液と接触し得る医療デバイスに対して設定された(許容可能な)限界内のエンドトキシン放出値(K)(K=2.15EU/デバイス)とを示すことにより、研究されたすべての化合物がエンドトキシン試験に合格した(USP第<161>章参照)。試験されたすべての化合物は、平均K値<0.5EU/デバイス(抽出体積約100mL/デバイスで<0.005EU/ml)を示した。
【0125】
加えて、(より小さなサイズの基体を有する)SiO2及びHfO2に関する追跡研究は、これらの化合物が眼球内デバイスのためのエンドトキシン性要件をも満たすことを裏付けた。試験された化合物は、0.075~0.100EU/デバイスの範囲内(抽出体積約15mL/デバイスで<0.005EU/ml)のK値を示した。眼内眼科用デバイスに関しては、エンドトキシン放出値限界は0.2EU/デバイス以下であり、SiO2及びHfO2に関して観察されるK値は、所要閾値よりも明らかに低い。
【0126】
したがって、本開示に基づくナノ積層被膜は、植え込み型医療デバイスを含む種々異なるタイプの医療デバイスと一緒に使用するのに適した低エンドトキシン放出材料である。
【0127】
さらに、被膜10,10Aが、グラム陰性菌及びグラム陽性菌の両方に対して顕著な抗菌活性を有することが立証されている。エンドトキシン性試験のために使用されたものと同じ化合物でALD堆積された試料をISO 22196:2011(プラスチック及び他の無孔質表面上の抗菌活性の測定)にしたがって研究した。2種の菌株を使用して、ALD堆積された膜の表面抗菌特性を試験した。グラム陽性菌株は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(S.aureus;ATCC6538)であり、そしてグラム陰性菌株は大腸菌(Escherichia coli)(E.coli;ATCC8739)であった。被膜なしのガラス板を参照として使用した。
【0128】
参照(対照)表面及び試験表面(50mm×50mm)に微生物を接種し、そして接種材料を薄い滅菌フィルム(40mm×40mm)でカバーした。溶出、これに続いて希釈、及び寒天へのプレーティングによって、微生物濃度を「時間ゼロ」において判定した。接種されカバーされた表面を、24時間±1時間にわたって36℃±1℃で、高湿環境内で妨げなしにインキュベートさせておいた。インキュベーション後、微生物濃度を判定し、そして対照表面に対する微生物の減少を計算した。判定は二重の複製で行った。
【0129】
結果によれば、Al2O3被膜は、24時間の接触時間後に、S.aureus及びE.coliの両方の量の減少を示し、低減パーセンテージはそれぞれ36.00%及び38.03%であった。
【0130】
全体的に見れば、Al2O3及びSiO2は、S.aureusで試験すると、24時間の接触時間後に、生存微生物量の減少を示した。減少率は対照試料と比較すると、それぞれ36.00%及び37.14%であった。E.coliを用いた場合には、Al2O3、TiO2(第1試料)、TiO2(異なるプリカーサーで堆積された第2試料)、Ta2O5、ZrO2、及びHfO2が示す減少率値はそれぞれ38.03%、20.77%、54.23%、33.80%、47.54%及び36.97%であった(24時間の接触時間)。
【0131】
シリカウエハーマトリックス(100mm直径)上のALD膜として提供された上記のものと同じ化合物を、さらに総バイオバーデン及び細胞毒性に関して試験した。
【0132】
総バイオバーデン分析は、EN ISO 11737-1:2018規格(ヘルスケア製品の滅菌-微生物学的方法-第1部:DIN EN 150/IEC 17025:2005認定ラボラトリーにおける製品上の微生物の個体数の判定(Sterilization of health care products-Microbiological methods-Part 1:Determination of a population of microorganisms on products in a DIN EN 150/IEC 17025:2005 accredited laboratory))にしたがって、製品上の微生物の個体数を判定することに関する。その結果は、試験条件下で試験された製品において、好気性細菌、嫌気性細菌、酵母、黴、又は胞子は検出されないことを示した。
【0133】
細胞毒性試験は、上記の化合物に加えて、酸化ニオブ(V)(Nb2O5)、窒化チタン(TIN)、及び窒化アルミニウム(AlN)膜にも関する。適宜の生物学的パラメータを使用して、in vitroの哺乳類細胞の生物学的応答を判定するように構成されたISO 10993-5規格に基づいて、細胞の生存を評価した。37℃の10%FBS(ウシ胎児血清)を含有する媒体中で、72時間にわたって被験試料と接触した状態で、培養細胞(BJ線維芽細胞株:ヒト二倍体包皮線維芽細胞)をインキュベートした。その結果は、すべての試験化合物が非細胞毒性であることを裏付けた。
【0134】
シリカウエハーマトリックス上のALD膜として提供された、エンドトキシン性に関して試験されたものと同じ化合物を、規格ISO 10993-4:2017に基づいて直接及び間接の溶血に関してさらに分析した。参照試料は、被膜なしのSi-ウエハーであった。溶血は、破壊された赤血球(erythrocytes)から血漿中へのヘモグロビンの放出である。溶血はプロテーゼの植え込みに伴う、よく見られる合併症である。この合併症は、ヘモグロビン血症のリスクに起因して治癒の著しい障害となり、そして先天性免疫に対するその阻害効果により、感染のリスクを高めるおそれがある。標準的な方法の場合、ヘモグロビンの放出は、所与の血液試料中に存在する総ヘモグロビン量を測定し、そしてこれを、損傷されていない赤血球を遠心分離により除去した後の血漿中の遊離ヘモグロビンと比較することにより、判定される。残りの血漿をドラブキン溶液と反応させることにより、シアンメトヘモグロビンを形成する。
【0135】
この分析では、ウサギの血液を使用して、血漿中及び全血画分中に存在する総ヘモグロビン量を判定した。高密度ポリエチレン(HDPE)を陰性対照として使用し、そしてニトリルゴム(Buna-Nゴム)を陽性対照として使用することにより、試験の信頼性を保証した。
【0136】
被験物品の補正溶血%から陰性対照の補正溶血%を引き算することにより計算された溶血指数を、試験片に割り当てた。(陰性対照を上回ること)0~2%以内の範囲の溶血指数は、非溶血性等級を示唆し、2~5%は軽度溶血性等級を示唆し、そして5%超は溶血性等級を示唆すると解釈される。
【0137】
結果は、すべての被膜が血液適合性であることを示した。試料SiO2は、軽度溶血性であることが見出され、他のすべての試料及び被膜なしの参照は非溶血性であった。
【0138】
上に提示された結果は、生物学的液体、具体的には体液媒体に連続的に暴露されるように意図された医療デバイスを保護する上で、本開示による積層被膜解決手段が適していることを明示している。被験被膜化合物は生体適合性であり、非毒性であり、そして加えて抗菌活性を有した。
【0139】
本発明はさらに、実施態様に基づく積層被膜を含む物品に関する。被膜は有利には、本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境を起源とするイオン種が、被膜を形成する複数の堆積層を貫通するのを防止するためのイオン拡散障壁を形成する。
【0140】
物品は、任意にはいわゆる(生体)電子解決手段を開発するための機能性電子構成部分を含む医療デバイス、具体的には身体植え込み型医療デバイスとして形成することができる。物品はこのように、電子構成部分が不在のインプラント(ワンパート又はマルチパート型インプラント)として、又は電気/電子システム、任意には電源内蔵式システムを含有する身体植え込み型医療デバイスとして形成することができる。植え込み型医療デバイスは、体内に完全に存在するように構成されてよく、或いは体外に提供し、そして内臓器官又は別の身体部分に接続してもよい。このようなデバイスの一例としては、植え込み型心臓ペースメーカー、モニター、及び除細動器(例えば植え込み型除細動器ICD)、人工内耳、種々の神経学的インプラント及び刺激装置、輸液ポンプ、血液力学的システム、マイクロ電気機械的システム(MEMS)、及び圧力、流量、歪みなどを測定するためのバイオセンサを含む種々の(小型)センサ、並びに(生物)化学的センサ、例えば糖尿病の治療時に使用するためのセンサ(例えば連続的グルコース監視(CGM)のためのセンサ)、及び他の化学的に調整された条件において使用するためのセンサ、が挙げられる。
【0141】
機能に関しては、植え込み型デバイスは種々の監視及び/又は計測デバイス、例えば生体液中の、ある特定の疾患のためのマーカーとして役立つ化学物質のレベルを測定するデバイス、及び神経調節を介して、又は生体液中の前記化学物質のレベルを調整することを介して、ある特定の状態又は症候群の治療に適用可能なデバイス(例えば、片頭痛の治療に使用される刺激装置)を含む。
【0142】
物品は、任意には小型のセンサ及び/又は半導体デバイスの製作に際して使用される部分又は構成部分として提供することもできる。物品はプリント基板(PCB)又はPCB集成体(PCBA)としてさらに提供することもできる。物品はさらに、非侵襲性(医療)デバイス、又はその一部(例えば着用可能なセンサ(センサシステム)又は半導体構成部分/PCB(A))として提供することもできる。
【0143】
さらに、本発明は医療デバイス、例えば身体植え込み型医療デバイスに関する。上記医療デバイス及びこれらに類する医療デバイス、並びに体内へ植え込み可能であるように形成された任意の関連物品が考えられる。実施態様では、医療デバイスは、医療デバイス上に堆積された積層被膜を形成する複数の堆積層の化学組成によって抗菌性にされ、そしてカブトガニ血球抽出成分(LAL)アッセイによって判定して、被膜付きデバイス1つ当たり20エンドトキシン単位(EU)以下の、好ましくは被膜付きデバイス1つ当たり2.15エンドトキシン単位(EU)以下のエンドトキシン放出値を有する。
【0144】
当業者には明らかなように、技術の進歩に伴って、本発明の基本理念が種々の方法で実行され組み合わされてよい。本発明及びその実施態様はこのように上記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲の中で全体的に変化してよい。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0144
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0144】
当業者には明らかなように、技術の進歩に伴って、本発明の基本理念が種々の方法で実行され組み合わされてよい。本発明及びその実施態様はこのように上記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲の中で全体的に変化してよい。
本開示は更に以下の態様を含んでいる:
《態様1》
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜であって、
前記被膜は、第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するようにして、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された、複数の堆積層を含んでおり、
前記複数の堆積層は、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が前記基体と接触するのを防止する拡散障壁を形成する、
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜。
《態様2》
個々の前記堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、態様1に記載の積層被膜。
《態様3》
少なくとも1つのイオン伝導性堆積層を含み、前記イオン伝導性堆積層が、前記イオン伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする、態様1又は2に記載の積層被膜。
《態様4》
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層をさらに含む、態様1から3のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様5》
前記イオン伝導性堆積層が、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層と交互に位置する、態様1から4のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様6》
前記反応性堆積層と、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種との間の相互作用が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する少なくとも1つの付加的な障壁層の形成をもたらす、態様1から5のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様7》
前記付加的な障壁層が、前記伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、態様1から6のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様8》
個々の前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)、酸化チタン(IV)(TiO
2
)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2
)、酸化タンタル(V)(Ta
2
O
5
)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2
)、及び二酸化ケイ素(SiO
2
)から成る群から選択された任意の化合物で構成される、態様1に記載の積層被膜。
《態様9》
基体隣接層として、酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)から成る堆積層を含む、態様1から8のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様10》
酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2
)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)で構成される前記堆積層を含む、態様1に記載の積層被膜。
《態様11》
二酸化ケイ素(SiO
2
)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2
)で構成される前記堆積層を含む、態様1に記載の積層被膜。
《態様12》
複数の堆積層で形成されたスタックの厚さが、約10nm~約300nmの範囲内、好ましくは約50nm~約150nmの範囲内にある、態様1から11のいずれか一つに記載の積層被膜。
《態様13》
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法であって、前記方法が、(i)基体を得、そして(ii)第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、複数の堆積層を堆積することによって、前記基体上に積層被膜を形成することを含み、前記複数の堆積層が拡散障壁を形成し、前記拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記基体と接触するのを防止する、
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法。
《態様14》
複数の堆積層を堆積し、前記複数の堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、態様13に記載の方法。
《態様15》
伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする少なくとも1つの伝導性堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、態様13又は14に記載の方法。
《態様16》
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、態様13から15のいずれか一つに記載の方法。
《態様17》
前記拡散障壁の形成が、前記堆積層と、拡散する腐食性種との間の化学的な相互作用を伴う、態様13から16のいずれか一つに記載の方法。
《態様18》
(iii)前記積層被膜で堆積された前記基体を、本質的に含塩性の環境に暴露することをさらに含む、態様13から17のいずれか一つに記載の方法。
《態様19》
前記本質的に含塩性の環境がin vivo環境である、態様18に記載の方法。
《態様20》
前記積層被膜で堆積された前記基体が前記本質的に含塩性の環境に暴露されると、付加的な障壁層が形成され、前記付加的な障壁層が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する、態様13から19のいずれか一つに記載の方法。
《態様21》
前記付加的な障壁層が、前記イオン伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、態様20に記載の方法。
《態様22》
前記基体上に形成された前記複数の堆積層の個々の堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)、酸化チタン(IV)(TiO
2
)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2
)、酸化タンタル(V)(Ta
2
O
5
)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2
)、二酸化ケイ素(SiO
2
)、及びこれらの任意の組み合わせから成る群から選択された任意の化合物から成る、態様13に記載の方法。
《態様23》
基体表面上に酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)から成る堆積層を形成することを含む、態様13から22のいずれか一つに記載の方法。
《態様24》
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2
)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2
O
3
)から成る前記堆積層を含む、態様13に記載の方法。
《態様25》
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、二酸化ケイ素(SiO
2
)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2
)から成る前記堆積層を含む、態様13に記載の方法。
《態様26》
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内の前記基体へ向かう腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散に対する障壁としての、態様1から12のいずれか一つに記載の積層被膜の使用。
《態様27》
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境に暴露された基体の寿命を長くするための、態様1から12のいずれか一つに記載の積層被膜の使用。
《態様28》
態様1から12のいずれか一つに記載の積層被膜を含む物品であって、前記被膜が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記積層被膜を貫通するのを防止するための拡散障壁を形成する、物品。
《態様29》
態様28に記載の物品として形成された植え込み型医療デバイスのような医療デバイスであって、前記医療デバイスが、前記積層被膜を形成する複数の堆積層の化学組成によって抗菌性にされ、そしてカブトガニ血球抽出成分(LAL)アッセイによって判定して、被膜付きデバイス1つ当たり2.15エンドトキシン単位(EU)以下のエンドトキシン放出値を有する、医療デバイス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜であって、
前記被膜は、第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するようにして、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して形成された、複数の堆積層を含んでおり、
前記複数の堆積層は、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が前記基体と接触するのを防止する拡散障壁を形成する、
本質的に含塩性の環境内で腐食しやすい基体のための積層被膜。
【請求項2】
個々の前記堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項3】
少なくとも1つのイオン伝導性堆積層を含み、前記イオン伝導性堆積層が、前記イオン伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする、請求項1又は2に記載の積層被膜。
【請求項4】
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層をさらに含む、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項5】
前記イオン伝導性堆積層が、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層と交互に位置する、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項6】
前記反応性堆積層と、本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種との間の相互作用が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する少なくとも1つの付加的な障壁層の形成をもたらす、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項7】
前記付加的な障壁層が、前記伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項8】
個々の前記堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、及び二酸化ケイ素(SiO
2)から成る群から選択された任意の化合物で構成される、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項9】
基体隣接層として、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る堆積層を含む、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項10】
酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)で構成される前記堆積層を含む、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項11】
二酸化ケイ素(SiO
2)で構成される前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)で構成される前記堆積層を含む、請求項1に記載の積層被膜。
【請求項12】
複数の堆積層で形成されたスタックの厚さが、約10nm~約300nmの範囲内、好ましくは約50nm~約150nmの範囲内にある、請求項
1又は2に記載の積層被膜。
【請求項13】
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法であって、前記方法が、(i)基体を得、そして(ii)第1組成物を有する堆積層が、前記第1組成物とは異なる第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように、蒸気相の化学堆積のプロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、複数の堆積層を堆積することによって、前記基体上に積層被膜を形成することを含み、前記複数の堆積層が拡散障壁を形成し、前記拡散障壁が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記基体と接触するのを防止する、
本質的に含塩性の環境内の基体の耐腐食性を改善する方法。
【請求項14】
複数の堆積層を堆積し、前記複数の堆積層が、前記堆積層を通した腐食性種の拡散を少なくとも部分的に遮断し、そして任意には前記種に対する化学反応性を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
伝導性堆積層を通した、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性種の選択的拡散を可能にする少なくとも1つの伝導性堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
本質的に含塩性の環境を起源とし、且つ任意には前記伝導性堆積層を通して拡散された腐食性種に対して反応性の少なくとも1つの堆積層を備えた前記積層被膜を形成することを含む、請求項
13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記拡散障壁の形成が、前記堆積層と、拡散する腐食性種との間の化学的な相互作用を伴う、請求項
13又は14に記載の方法。
【請求項18】
(iii)前記積層被膜で堆積された前記基体を、本質的に含塩性の環境に暴露することをさらに含む、請求項
13又は14に記載の方法。
【請求項19】
前記本質的に含塩性の環境がin vivo環境である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記積層被膜で堆積された前記基体が前記本質的に含塩性の環境に暴露されると、付加的な障壁層が形成され、前記付加的な障壁層が、前記積層被膜を形成する堆積層のいずれか1つの層の組成とは異なる組成を有する、請求項
13又は14に記載の方法。
【請求項21】
前記付加的な障壁層が、前記イオン伝導性堆積層と、拡散する腐食性種に対して反応性の前記堆積層との間の界面に形成される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層の個々の堆積層が、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)、酸化チタン(IV)(TiO
2)、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)、酸化タンタル(V)(Ta
2O
5)、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)、二酸化ケイ素(SiO
2)、及びこれらの任意の組み合わせから成る群から選択された任意の化合物から成る、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
基体表面上に酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る堆積層を形成することを含む、請求項
13、14、又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化アルミニウム(III)(Al
2O
3)から成る前記堆積層を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記基体上に形成された前記複数の堆積層が、二酸化ケイ素(SiO
2)から成る前記堆積層と交互に位置する、酸化ハフニウム(IV)(HfO
2)から成る前記堆積層を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境内の前記基体へ向かう腐食性種、例えば腐食性イオン種の拡散に対する障壁としての、請求項
1又は2に記載の積層被膜の使用。
【請求項27】
本質的に含塩性の環境、任意にはin vivo環境に暴露された基体の寿命を長くするための、請求項
1又は2に記載の積層被膜の使用。
【請求項28】
請求項
1又は2に記載の積層被膜を含む物品であって、前記被膜が、本質的に含塩性の環境を起源とする腐食性イオン種のような腐食性種が、前記積層被膜を貫通するのを防止するための拡散障壁を形成する、物品。
【請求項29】
請求項28に記載の物品として形成された植え込み型医療デバイスのような医療デバイスであって、前記医療デバイスが、前記積層被膜を形成する複数の堆積層の化学組成によって抗菌性にされ、そしてカブトガニ血球抽出成分(LAL)アッセイによって判定して、被膜付きデバイス1つ当たり2.15エンドトキシン単位(EU)以下のエンドトキシン放出値を有する、医療デバイス。
【国際調査報告】