(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ペプチドのライブラリーまたはペプチドを調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C07K 5/12 20060101AFI20240423BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20240423BHJP
C07K 5/08 20060101ALI20240423BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20240423BHJP
C07K 1/04 20060101ALI20240423BHJP
C40B 10/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C07K5/12
C07K1/14 ZNA
C07K5/08
C07K5/10
C07K1/04
C40B10/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571576
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2022061138
(87)【国際公開番号】W WO2022242993
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ハイニス,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ハベシアン,セヴァン
(72)【発明者】
【氏名】モツクリ,ガネシュ・クマール
(72)【発明者】
【氏名】シュッテル,ミッシャ
(72)【発明者】
【氏名】メルツ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】サングアール,ゴントラン
(72)【発明者】
【氏名】ボグナール,ゾルト
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,アレクサンダー・ランド
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA32
4H045EA34
4H045EA60
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、ペプチドのライブラリーまたは単離されたペプチドを調製するための方法であって、(a)1つまたは複数のペプチドのN末端領域にスルフヒドリル基を有し、1つまたは複数のペプチドのC末端領域にジスルフィド架橋を介して固相に固定化されている1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを、(i)ジスルフィド架橋を還元し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを固相から遊離する薬剤であって、揮発性であり、蒸発により除去可能である薬剤、または(ii)1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドのN末端領域のスルフヒドリル基を脱プロトン化し、それにより分子内ジスルフィド交換を誘導し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを1つもしくは複数の環状ペプチドの形態で固相から遊離する塩基によって固相から遊離させるステップを含む、方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドのライブラリーまたは単離されたペプチドを調製するための方法であって、
(a)1つまたは複数のペプチドのN末端領域にスルフヒドリル基を有し、1つまたは複数のペプチドのC末端領域にジスルフィド架橋を介して固相に固定化されている1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを、
(i)ジスルフィド架橋を還元し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを固相から遊離する薬剤であって、揮発性であり、蒸発により除去可能である薬剤、または
(ii)1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドのN末端領域のスルフヒドリル基を脱プロトン化し、それにより分子内ジスルフィド交換を誘導し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを1つもしくは複数の環状ペプチドの形態で固相から遊離する塩基
によって固相から遊離させるステップを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)の後に、蒸発によって薬剤を除去するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬剤によって遊離される1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを環化するステップ(b)をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数のジチオールペプチドが、少なくとも1つのビス求電子試薬によって、またはジスルフィド酸化によって環化される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
項目(ii)の1つまたは複数の環状ペプチドのジスルフィド結合が還元され、ペプチドがビス求電子試薬によって再環化される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬剤が、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,4-ペンタンジチオール、エタン-1-チオール、プロパン-1-チオール、ブタン-1-チオール、プロパン-2-チオール、2-メチル-1-プロパンチオール、ブタン-2-チオール、2-メチルプロパン-2-チオール、2-ヒドロキシ-1-エタンチオール、1,2-エタンジチオール、2-プロペン-1-チオール、3-メチル-1-ブタンチオール、チオフェノール、ベンジルチオール、2-ブテン-1-チオール、3-ブテン-1-チオール、2-メチル-2-プロペン-1-チオールおよび3-メチル-2-ブテン-1-チオールから選択され、好ましくは1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオールもしくは2,4-ペンタンジチオールであり、最も好ましくは1,4-ブタンジチオール(BDT)であり、ならびに/あるいは
塩基が、第三級アミン、第二級アミンまたは第一級アミン、ホウ素、アルミニウムまたは水素化ケイ素(silicon hybride)、および酸素アニオン、窒素アニオンまたは炭素アニオンを持つ塩基から選択され、好ましくは第三級アミン、第二級アミンまたは第一級アミンであり、より好ましくは第三級アミンであり、さらにより好ましくはトリ-アルキルアミンであり、最も好ましくはN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の前に、固相上で直鎖状ジチオールペプチドを合成するステップ(a’)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
直鎖状ジチオールペプチドのアミノ酸の側鎖が保護基によって保護され、方法が、ステップ(a)の前に、また存在する場合にはステップ(a’)の後に、直鎖状ジチオールペプチドが固相に固定化されている間に保護基を除去するステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
直鎖状ジチオールペプチドの少なくとも一部が第一級アミンまたは第二級アミンを含み、方法が、第一級または第二級アミンをカルボン酸で修飾するステップをさらに含み、第一級アミンまたは第二級アミンおよびカルボン酸を含む環状ペプチドが、好ましくはアコースティック分注によって移送される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(c)好ましくはペプチドライブラリーを事前精製することなく、ペプチドライブラリーを標的分子と接触させるステップと、
(d)標的分子に結合し、好ましくは標的分子を阻害するペプチドについてペプチドライブラリーをスクリーニングするステップと
をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)およびステップ(d)が、第一級アミンまたは第二級アミンがカルボン酸で修飾されている同一のウェル内で実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
標的分子が、タンパク質、ペプチド、核酸分子、炭水化物、または脂肪酸であり、好ましくはタンパク質またはペプチドである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
固相が樹脂を含み、好ましくは無極性樹脂、より好ましくはポリスチレン樹脂を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
直鎖状ジチオールペプチドが、
1000Da未満、好ましくは600Da未満の分子量を有する直鎖状ジチオールペプチド、および/または
3もしくは4アミノ酸、好ましくは3アミノ酸を含む直鎖状ジチオールペプチド
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
大環状化合物ライブラリー、好ましくは環状ペプチドライブラリーを多様化するための方法であって、少なくともいくつかの大環状化合物、好ましくは環状ペプチドが第一級アミンまたは第二級アミンを含み、方法が第一級アミンまたは第二級アミンをカルボン酸で修飾するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドのライブラリーまたは単離されたペプチドを調製するための方法であって、(a)1つまたは複数のペプチドのN末端領域にスルフヒドリル基を有し、1つまたは複数のペプチドのC末端領域にジスルフィド架橋を介して固相に固定化されている1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを、(i)ジスルフィド架橋を還元し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを固相から遊離する薬剤であって、揮発性であり、蒸発により除去可能である薬剤、または(ii)1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドのN末端領域のスルフヒドリル基を脱プロトン化し、それにより分子内ジスルフィド交換を誘導し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを1つもしくは複数の環状ペプチドの形態で固相から遊離する塩基によって固相から遊離させるステップを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の文書が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとは考えられないが、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。より詳しくは、参照されたすべての文書は、それぞれの個々の文書が参照により組み込まれることが詳しくかつ個別に示されている場合と同程度に、参照により組み込まれる。
【0003】
ペプチドライブラリー、特に環状ペプチド(大環状分子の一種)のライブラリーは、製薬業界から大きな関心を集めているが、それは、古典的な低分子をベースとしたリガンドの生成ではこれまで困難または不可能であった、難度の高い標的に結合する能力を有するペプチドをスクリーニングすることができるからである。
【0004】
現在、40種を超える環状ペプチドが薬物として承認されており、100種を超える環状ペプチドが臨床試験の様々な段階で評価されている(A.Zorziら、Curr.Opin.Chem.Biol.、2017、38、24~29頁)。タンパク質エピトープをベースとした環状ペプチドリガンドを設計する、または遺伝子コード化ペプチドの大規模なコンビナトリアルなライブラリーから標的特異的環状ペプチドを単離する革新的な方策は、この分野の発展にさらなる拍車をかけてきた(A.Lutherら、Curr.Opin.Chem.Biol.、2017、38、45~51頁;C.Sohrabiら、Nat.Rev.Chem.、2020、4、90~101頁)。
【0005】
特に関心が持たれるのは、理想的には1キロダルトン(kDA)をかなり下回る十分に小さいサイズと、小さな極性表面積を有し、細胞内標的を届く範囲に置く大環状分子である。関心の高い大環状分子には、小環状ペプチド、ペプチドをベースとしない大環状構造、またはペプチド成分および非ペプチド成分を含有する大環状構造が含まれる。しかし、目的の標的に結合し、細胞内標的に到達するように膜透過性である大環状リガンドの開発は、商業的に提供されているコレクションに大環状化合物の数が比較的少ないことから、または新しい大環状ライブラリーを効率的に合成する方法がないことから困難である。
【0006】
大環状化合物の合成における困難なステップは、直鎖状分子を環状分子に変換することである。ほとんどの反応は、大環状化収率が90%をはるかに下回り、様々な前駆体(例えば、様々な直鎖状ペプチド配列)に対する収率に大きなばらつきを示し、これがライブラリーの合成において問題となる。Asinex、ChemBridge、Polyphorなどの主要プロバイダーが提供する大環状化合物ライブラリーは、すべて大環状化ステップ後に個別に精製された分子をベースとしているが、これは、精製なしの生成物はほとんどの化合物にとって十分な純度が得られないからである。精製が必要なことから、並行して生成され得る大環状分子の数が制限されるため、ライブラリーのサイズも制限され、市販で提供されるライブラリーでは30,000分子未満である。
【0007】
一般的に幅広い基質範囲に対して、典型的には90%を超える高い環化収率を示す大環状化反応は、ビス求電子試薬、例えば、ビス-(ブロモメチル)ベンゼン(SN2反応)、ビス-(ブロモアセトアミド)ベンゼン(SN2反応)、ハロアセトン(SN2反応)、ビニルスルホキシド(Michael付加)またはヘキサフルオロベンゼン(SNAr反応)などによるペプチド内の遠位の末端に配置された2個のチオール基を介したペプチドの環化である(H.Joら、J.Am.Chem.Soc.、2012、134、17704~17713頁;P.Timmermanら、ChemBioChem、2005、6、821~824頁;N.Assemら、Angew.Chemie-Int.Ed.、2015、54、8665~8668頁;S.S.Kaleら、Nat.Chem.、2018、10、715~723頁)。このような反応は、直鎖状または非直鎖状エピトープを模倣する(二)環状ペプチドを開発するため(P.Timmermanら、ChemBioChem、2005、6、821~824頁)、ファージディスプレイ(C.Heinisら、Nat.Chem.Biol.、2009、5、502~507頁)もしくは他のディスプレイにより(二)環状ペプチドを展開するため、α-ヘリックスペプチドをらせん構造で安定化させるため(H.Joら、J.Am.Chem.Soc.、2012、134、17704~17713頁)、または他の目的のために、ペプチドを環化するのに使用された。
【0008】
最近、約20種類の異なるビス求電子試薬で多数の直鎖状ジチオールペプチドをコンビナトリアルに環化することによって、1キロダルトン未満の分子量を有する環状ペプチドの大規模ライブラリーが合成された(Laboratory of Therapeutic Proteins and Peptides、EPFL、Group Heinisの未発表の結果)。ジチオールペプチドと環化試薬の様々な組合せが、384マイクロウェルプレートの別々のウェルで混合された。高環化収率により、本発明者らは、事前精製を行うことなく、タンパク質標的結合用の環状ペプチドをスクリーニングすることができた。スループットを制限する精製ステップを省くことにより、大規模ライブラリーのスクリーニングが可能になった。
【0009】
ビス求電子試薬を使用するコンビナトリアルなペプチドの環化の方策は、異なる配列を有する多数のジチオールペプチドを必要とする。
リードペプチドの同定に使用される方法に関係なく、ペプチドライブラリーおよびペプチド薬の開発には、典型的には、結合親和性、特異性、安定性、薬物動態学的特性などの重要な特性を改善するために、数十から数百のペプチドバリアントを合成する複数の反復サイクルが含まれ、それにより多数のペプチドが調製される。
【0010】
環状ペプチド治療薬の開発におけるさらなる大きな障害は、合成後のペプチドのクロマトグラフィー精製であり、これは、自動化および最適化されていたとしても、各ペプチドの逐次処理と試薬消費量(溶媒)が多いためにコストがかかる。精製を必要とする主な理由は、典型的に環状ペプチド合成において最も困難なステップである大環状化反応である(C.J.Whiteら、Nat.Chem.、2011、3、509~524頁)。ほとんどの大環状化反応は90%未満の収率を示し、その効率はペプチドの配列および長さによって激しく変動することが多い。クロマトグラフィー精製はまた、ペプチドを遊離するために添加された試薬およびスカベンジャー、ならびに全体的な脱保護の際に生成された側鎖保護基副生成物を除去するために必要である。
【発明の概要】
【0011】
新規な方法、特に、大規模ペプチドライブラリー、またはペプチドライブラリーに追加することができる1つもしくは複数のペプチドを生成するための、複雑化された調製ステップを必要としない方法であって、そのペプチドライブラリーが、その後、ペプチド治療薬についてスクリーニングすることができる方法が直ちに必要とされていることは上記のことから明らかである。この必要性が本発明によって解決される。
【0012】
本発明は、第1の態様において、ペプチドのライブラリーまたは単離されたペプチドを調製するための方法であって、(a)1つまたは複数のペプチドのN末端領域にスルフヒドリル基を有し、1つまたは複数のペプチドのC末端領域にジスルフィド架橋を介して固相に固定化されている1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを、(i)ジスルフィド架橋を還元し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを固相から遊離する薬剤であって、揮発性であり、蒸発により除去可能である薬剤、または(ii)1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドのN末端領域のスルフヒドリル基を脱プロトン化し、それにより分子内ジスルフィド交換を誘導し、それにより1つもしくは複数の直鎖状ジチオールペプチドを1つもしくは複数の環状ペプチドの形態で固相から遊離する塩基によって固相から遊離させるステップを含む、方法に関する。
【0013】
「含む(comprise)/含む(comprising)」という用語は、包含する(include)/包含する(including)という意味で、すなわち、1つまたは複数の特徴または構成要素の存在を許容するという意味で一般的に使用される。「含む(comprise)」および「含む(comprising)」という用語はまた、より限定された用語の「からなる(consist of)」および「からなる(consisting of)」も含む。
【0014】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別段の明示がない限り、複数の言及を包含する。
本明細書で使用される場合の「ペプチド」という用語は、少なくとも1つのアミノ酸および少なくとも1つのペプチド結合を含むポリマーを指す。ペプチドは、好ましくは、複数の、例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上のアミノ酸を含む。ペプチドはまた、非アミノ酸ビルディングブロックおよび非ペプチド結合も含み得る。添付の実施例に記載のペプチドの多くは、メルカプトプロパン酸(MPA)およびシステアミン(MEA)などのそれらの末端にビルディングブロックを含有し、それらは、アミノ基(MPAの場合)を含まない、またはカルボン酸(MEAの場合)を含まないのでアミノ酸ではない。
【0015】
チオール基を含有し、特にC末端のペプチドに(MEAとして)組み込むのに適した非アミノ酸ビルディングブロックのさらなる例は、3-アミノプロパン-1-チオール、3-(メチルアミノ)プロパン-1-チオール、(Z)-4-アミノブタ-2-エン-1-チオール、ピペリジン-4-チオール、4-(メルカプトメチル)ピペリジン、および3-(メルカプトメチル)アゼチジンである。以下の表および式を参照されたい。これらの非アミノ酸ビルディングブロックのうち、第二級アミンを有するものは、第二級アミンと(隣接するアミノ酸の)カルボン酸とのカップリングにより、水素結合供与基を持たないアミド結合が得られることから、膜透過性大環状化合物の開発において特に好ましい。
【表A】
【0016】
【0017】
チオール基を含有し、特にN末端のペプチドに(MPAとして)組み込むのに適した非アミノ酸ビルディングブロックのさらなる例は、2-メルカプト酢酸、(R)-2-メルカプトプロパン酸、5-(メルカプトメチル)フラン-2-カルボン酸、および3-(メルカプトメチル)安息香酸である。以下の表および式を参照されたい。
【表B】
【0018】
【0019】
様々な他の非アミノ酸ビルディングブロックが、特に内部位置のジチオールペプチドに組み込むのに適している。例えば、ビルディングブロックA-COOHを固相上の前の残基のアミノ基に結合させ、次にビルディングブロックB-NFhを付加することができ、この場合、AおよびBの官能基は相互に反応して共有結合を形成する。この後者の反応は、ペプチド結合ではない連結が生じることがある。このような反応の例は、確立された、いわゆる「サブモノマー」方策であり、この方策では、ハロ酢酸、典型的には、(例えば、ジイソプロピルカルボジイミドによって)活性化されたブロモ酢酸が、最初に固相上で成長するペプチドのアミノ基に結合される(ハロ酢酸はビルディングブロックA-COOHを表す)。第2のステップおよび化学反応では、アミン(B-NH
2を表す)がハロゲン化物を置換して、(古典的なSN2反応により)N-置換グリシン残基を形成する。サブモノマーアプローチでは、市販のアミンまたは合成的に入手可能なアミンを使用することができ、これは、多くのアミンを並行して使用でき、大規模なペプチド多様性をもたらし得るので非常に有利である。ハロ酢酸の代わりに、好ましい例として、4-(ブロモメチル)安息香酸、3-(ブロモメチル)安息香酸、2-(クロロメチル)オキサゾール-4-カルボン酸、2-(クロロメチル)チアゾール-4-カルボン酸、5-(ブロモメチル)イソオキサゾール-3-カルボン酸、5-(ブロモメチル)ピラジン-2-カルボン酸、2-(ブロモメチル)フラン-3-カルボン酸、(R,E)-5-クロロ-2,4-ジメチルペンタ-3-エン酸、および(S,E)-5-クロロ-2,4-ジメチルペンタ-3-エン酸を含む、他の多くの試薬を使用することができる。以下の表および式を参照されたい。
【表C】
【0020】
【0021】
「ペプチド」という用語は、好ましくは、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の短鎖を指す。また、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の短鎖は、その末端にMPAおよびシステアミンMEAなどの非アミノ酸ビルディングブロックを含有し得る。ペプチドは、サイズに基づいてタンパク質またはポリペプチドと区別され、好ましくは50アミノ酸未満、好ましくは40アミノ酸未満、30アミノ酸未満、20アミノ酸未満、10アミノ酸未満、および5アミノ酸未満を含む。
【0022】
本明細書で使用される場合の「単離されたペプチド」という用語は、ペプチドが固相に結合されておらず、固相から遊離されていることを示す。単離されたペプチドは、一般的に、例えば、溶液中で遊離ペプチドの形態である。溶液中には、単離されたペプチドの1つまたは複数のコピーが存在し得る。したがって、固相上にもまた、単離されるペプチドの1つまたは複数のコピーが、そのペプチドが単離される前に存在し得る。
【0023】
本明細書で使用される場合の「アミノ酸」という用語は、一般的に各アミノ酸に特有の側鎖を伴う、アミン(-NH2または-NH)官能基およびカルボン酸(-COOH)官能基から構成される有機化合物を指す。最もシンプルなアミノ酸のグリシンには側鎖がない(式はH2NCH2COOH)。α-炭素に炭素鎖が結合しているアミノ酸(リジンなど)では、炭素はα、β、γ、δなどの順序で標識される。一部のアミノ酸では、アミン基が、例えば、α-炭素、β-炭素、またはγ-炭素に結合されていてもよく、したがって、これらはそれぞれ、α-アミノ酸、β-アミノ酸、またはγ-アミノ酸と呼ばれる。「アミノ酸」という用語は、好ましくは、一般式H2NCHRCOOH(式中、Rは「側鎖」と呼ばれる有機置換基である)を一般的に有するα-アミノ酸(2-アミノ酸またはα-アミノ酸とも呼ばれる)を表し、またアミンとカルボン酸の間に複数の炭素原子を含有するβ-アミノ酸、γ-アミノ酸およびδ-アミノ酸も表す。最もシンプルなα-アミノ酸のアラニン(式:H2NCHCH3COOH)では、側鎖はメチル基である。本発明によるアミノ酸は、L-アミノ酸またはD-アミノ酸である。
【0024】
アミノ酸は、いわゆる標準または正準のアミノ酸を含む。これら21種のα-アミノ酸は、普遍的遺伝コードのコドンによって直接コードされている。それらは、真核生物において確認されるタンパク質原性αアミノ酸である。これらのアミノ酸は、本明細書においていわゆる1文字コードで呼ばれる:
【表D】
【0025】
前述のように、アミノ酸の側鎖は有機置換基であり、α-アミノ酸の場合にはα-炭素原子に連結されている。したがって、側鎖は、アミノ酸の親構造からの分岐である。アミノ酸は、通常、それらの側鎖の特性によって分類される。例えば、側鎖はアミノ酸を弱酸性(例えば、アミノ酸Dおよびアミノ酸E)または弱塩基性(例えば、アミノ酸Kおよびアミノ酸R)にすることができ、側鎖が極性である場合には親水性(例えば、アミノ酸Lおよびアミノ酸I)、または非極性である場合には疎水性(例えば、アミノ酸Sおよびアミノ酸C)にすることができる。脂肪族アミノ酸は、脂肪族基である側鎖を有する。脂肪族基は、アミノ酸を非極性および疎水性にする。脂肪族基は、好ましくは、非置換の分岐鎖状アルキルまたは直鎖状アルキルである。脂肪族アミノ酸の非限定的な例は、A、V、L、およびIである。環状アミノ酸では、側鎖中の1つまたは複数の一連の原子が連結して環を形成する。環状アミノ酸の非限定的な例は、P、F、W、YおよびHである。前記環は、本明細書で以下にさらに詳述するように、環状ペプチドの場合に形成される環とは区別して保持されなければならないことを理解されたい。環状アミノ酸の前者の環は単一アミノ酸の側鎖の一部であるが、後者の環はジチオールペプチドの2つのチオール基の間に形成される。芳香族アミノ酸は、環状アミノ酸の好ましい形態である。芳香族アミノ酸では、環は芳香環である。分子の電子的性質の観点から、芳香族性は、不飽和結合の共役環、電子の単独対、または空の分子軌道が、共役の安定化のみによって予想されるものよりも強い安定化を示す方向性を示す。芳香族性は、環状非局在化と共鳴の現れであると考えることができる。疎水性アミノ酸には、アミノ酸を疎水性にする非極性側鎖を有する。疎水性アミノ酸の非限定的な例は、M、P、F、W、G、A、V、LおよびIである。極性の非荷電アミノ酸は、荷電残基を持たない非極性側鎖を有する。極性の非荷電アミノ酸の限定的な例は、S、T、N、Q、C、UおよびYである。極性の荷電アミノ酸は、少なくとも1つの荷電残基を持つ非極性側鎖を有する。極性の荷電アミノ酸の非限定的な例は、D、E、H、K、およびRである。
【0026】
「ジチオールペプチド」は、2つ以上のチオール基、好ましくは2つのみのチオール基を含むペプチドである。チオール基は、ペプチドのアミノ酸ビルディングブロックまたは非アミノ酸ビルディングブロックのいずれかの一部である。チオール基を有するアミノ酸ビルディングブロックまたは非アミノ酸ビルディングブロックは、以下のうちのいずれかであり得る:
・システインまたはシステイン類似体、例えば、ホモシステイン、ペニシラミン、D-システインなど、
・チオール基とカルボン酸を含有するビルディングブロック、例えばメルカプトプロパン酸(MPA)など、
・チオール基とアミンを含有するビルディングブロック、例えばシステアミン(MEA)など。
【0027】
直鎖状ジチオールペプチドが固相に固定化される場合、1つのチオール基は「遊離」され、まずは保護されたスルフヒドリル基(R-S-PG;PG=保護基)、チオール保護基の除去後はスルフヒドリル基(R-SH)となるが、他のチオール基はペプチドを固相に連結するジスルフィド結合(R1-S-S-R2)に関与する。ジスルフィド架橋は、(固相に連結されている)1つのチオール含有ビルディングブロックの硫黄原子が、ペプチドのC末端領域にあるチオール含有ビルディングブロックの硫黄原子と単共有結合を形成する場合に形成される。固相へのジスルフィド結合を介してペプチドを合成するための手段および方法は、当技術分野において公知であり、本明細書で以下にさらに詳述し、添付の実施例により説明する。
【0028】
「直鎖状ペプチド」という用語は、本発明による「ペプチド」と関連して本明細書で上述した非アミノ酸および非ペプチド結合も含み得る、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸の直鎖状短鎖を指す。直鎖状ペプチドでは、ペプチド内の一連の原子が結合して大環状のリングまたは環を形成することはない。
【0029】
「環状ペプチド」という用語は、ペプチド内の一連の12個以上の原子が連結して大環状のリングまたは環を形成していることを意味する。環状ペプチドは、好ましくは単環状ペプチドであり、これはペプチド内の2つの部位のみが連結してリングまたは環を形成していることを意味する。リングまたは環は、ジチオールペプチドの2つのチオール基が関与することにより、本発明に従って形成される。2つのチオール基が直接結合している場合、リングまたは環はジスルフィド架橋によって形成される。ジチオールペプチドの2つのチオール基はまた、本明細書で以下により詳細に説明するように、ビス求電子試薬によって連結され得る。
【0030】
ペプチドのライブラリーとは、複数の異なるペプチドを含む組成物または製造品を指す。
ライブラリーが組成物である場合、組成物は異なるペプチドの混合物を含む。組成物は、好ましくは溶液であり、より好ましくはDMSOまたは水溶液である。溶液は、例えば、凍結乾燥または遠心真空蒸発(例えば、SpeedVacシステムの使用)によって乾燥させることができる。この場合、組成物は、望ましい溶媒によって溶解させることができる乾燥粉末の形態であり得る。このような組成物の場合、ライブラリー中の異なるペプチドの数は、固体支持体上に固定化されている異なるペプチドの数によって、および/または1つもしくは2つ以上の異なるペプチドが合成された固体支持体を混合することによって決定することができる。
【0031】
製造品は異なるウェルを含み、好ましくはマイクロタイタープレートであり、より好ましくは96ウェルプレート、384ウェルプレート、1536ウェルプレートまたは3456ウェルプレートである。異なるペプチドは、好ましくは、異なるウェル内で並行して(一般的に固体支持体上で)合成され、その結果、1種類のペプチドが(多数のコピー中で)1ウェルにつき確認され得る。製造品の複数のウェルは、一緒になってペプチドのライブラリーを形成する。製造品のフォーマットのライブラリーが好ましいが、その理由は、そのようなライブラリーが(本明細書で後述する)特定の標的分子に対する結合剤または阻害剤についてスクリーニングされる場合、所望のライブラリーメンバーがどのウェルで確認され得るかがすぐにわかり、所望のライブラリーメンバーについてのさらに複雑な単離または同定を必要としないからである。
【0032】
ウェル当たり1種類のペプチドが好ましいが、ウェル当たり2種類以上のペプチド、例えば、2、3、4または5種類の異なるペプチドを(一般的に固体支持体上で)各ウェルで並行して合成することも可能であり、それによって、ウェル当たり2、3、4、または5種類の異なるペプチドを有するウェルを得ることができる。ウェル当たりの異なるペプチドの数は、例えば、固体支持体上に固定化される異なるペプチドの数によって、および/または1つもしくは2つ以上の異なるペプチドが合成された固体支持体を混合することによって、必要に応じて調整することができる。
【0033】
異なるペプチドのライブラリーは、好ましくは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも96、少なくとも100、少なくとも384、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも1536、少なくとも3456、少なくとも10000、および少なくとも100000種類の異なるペプチドを含む。
【0034】
N末端領域は、好ましくは、1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドの最高3つのN末端アミノ酸またはビルディングブロックのうちの1つ、より好ましくは、最高2つのN末端アミノ酸またはビルディングブロックのうちの1つ、最も好ましくは、最高1つのN末端アミノ酸またはビルディングブロックを意味する。最も好ましい場合では、スルフヒドリル基は、1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドのN末端位置のアミノ酸またはビルディングブロックの一部である。
【0035】
同様に、C末端領域は、好ましくは、1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドの最高3つのC末端アミノ酸またはビルディングブロックのうちの1つ、より好ましくは、最高2つのC末端アミノ酸またはビルディングブロックのうちの1つ、最も好ましくは、最高1つのC末端アミノ酸またはビルディングブロックを意味する。最も好ましい場合では、1つまたは複数のペプチドは、C末端のジスルフィド架橋を介して固相に固定化される。
【0036】
「固相」という用語は、ジスルフィド結合を介して、例えば固相ペプチド合成(SPPS)を介して、ペプチドを合成することができる任意の固体材料または支持体を意味する。
【0037】
本明細書で使用される場合の「薬剤」という用語は、ジスルフィド架橋を還元し、それによって1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを固相から遊離させることができる任意の分子を意味する。この薬剤は、したがって還元剤または遊離剤と呼ばれ得る。様々な還元剤が従来技術において公知である。生化学では、β-メルカプトエタノール(β-ME)またはジチオスレイトール(DTT)などのチオールが還元剤として機能する。本発明によれば、薬剤は揮発性であり、蒸発により、好ましくは真空下での蒸発により、最も好ましくは遠心真空蒸発により除去可能である。揮発性物質は、蒸発によって容易に気体に変化する。蒸発は、液体が気相に変化する際に液体の表面で起こる蒸発の一種である。液体の分子が蒸発する能力は、主として個々の粒子が持つ運動エネルギーの量に基づく。蒸発速度は温度が高くなると増すが、低温でも、液体の個々の分子が蒸発に必要な最小量を超える運動エネルギーを有していれば蒸発することができる。揮発性であり、蒸発により除去可能である薬剤を使用することは、本発明の方法によって生成されるペプチドのライブラリーまたは単離ペプチドを含む組成物から薬剤を除去することができるので技術的に有利である。薬剤による固体支持体からの1つまたは複数のペプチドの除去は、本明細書では「還元的遊離」とも呼ばれ、
図1bに示されている。
図1bから明らかなように、1つまたは複数のペプチドは1つまたは複数の直鎖状ペプチドの形態で薬剤により遊離され、ここで2つのチオール基は「遊離」スルフヒドリル基である。
【0038】
塩基は、プロトンを受容することができる物質(ブレンステッド塩基など)、電子を供与することができる物質(ルイス塩基など)、または水溶液中で水酸化物イオン(OH
-)を生成する任意の化学化合物である。本発明に従って使用される塩基は、1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチド(R-S
-)のN末端領域のスルフヒドリル基を脱プロトン化することができる。脱プロトン化されたスルフヒドリル基は分子内ジスルフィド交換を誘導し、それにより1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドが1つまたは複数の環状ペプチドの形態で固相から遊離される。脱プロトン化されたスルフヒドリル基は、ジスルフィド結合でチオール-ジスルフィド交換反応を誘導する求核剤として作用する反応性Sを含む。塩基による固体支持体からの1つまたは複数のペプチドの除去は、本明細書では「環化的遊離」とも呼ばれ、
図1aにより示されている。
図1aから明らかなように、1つまたは複数のペプチドは環状ペプチドの形態で塩基によって遊離され、ジチオールペプチドの2つのチオール基はジスルフィド結合によって連結される。
【0039】
上で論じたように、請求項1の項目(i)の方法は、直鎖状ジチオールペプチドをもたらす「還元的遊離」アプローチであるが、請求項1の項目(ii)の方法は、環状ジチオールペプチドをもたらす「環化的遊離」アプローチである。以下から明らかになるように、両選択肢は、ペプチドのライブラリーまたは単離されたペプチドを調製するための従来技術の方法を著しく進歩させる。
【0040】
固体支持体上のジスルフィド架橋を介して固定化されているジチオールペプチドが、樹脂からのジスルフィド還元によって固相から遊離される「還元的遊離」方策を
図1bに模式的に示した。環化的遊離とは対照的に、還元的遊離の効率は、ペプチドの長さおよびアミノ酸組成に依存しない。特に、このアプローチは、ジスルフィド形成を介して効率的に環化することができない短いペプチドにも効率的に作用する(しかし、この環化は、追加の原子がリンカーによって大環状骨格に付加されるため立体的に要求されることが少ないので、ビス求電子リンカーを介して環化することができる)。還元的ペプチド遊離における課題は、還元剤をペプチドに添加する必要があり、この試薬がその後のビス求電子試薬による環化的反応(すなわち、求電子基との反応)を妨げることであった。この欠点は、例えば真空下で比較的簡単なステップで蒸発させることによってペプチドから除去可能である揮発性還元剤を使用することによって克服される。例えば、揮発性還元剤は、96ウェルプレート内でペプチドを遠心真空蒸発させることによって除去することができる。
【0041】
ジスルフィド架橋を還元的に切断することによって固相からペプチドを遊離することを記述しているのは、ほんのわずかの研究だけであり、それらすべては、単一のチオール基を有するペプチドを遊離し、ペプチド・タンパク質コンジュゲートの生成などの他の用途を念頭に置いているもの(J.Meryら、Int.J.Pept.Protein Res.、1993、42、44~52頁)、ペプチドヘテロダイマーの合成(A.Taguchiら、Org.Biomol.Chem.、2015、13、3186~3189頁)、チオールハンドルを含有するヘッドからテイルまで環化されたペプチドの生成(W.Teggeら、J.Pept.Sci.、2007、13、693~699頁)、1個のチオール基を介したペプチドの環化(A.A.Virgilioら、Tetrahedron Lett.、1996、37、6961~6964頁)、質量分析による遊離されたペプチドの同定(O.Lackら、Helv.Chim.Acta、2002、85、495~501頁)、およびペプチド合成中の一時的な固定化(D.S.Kempら、J.Org.Chem.、1986、51、1821~1829頁)である。これらのアプローチのほとんどは、還元剤であるトリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(J.Meryら、Int.J.Pept.Protein Res.、1993、42、44~52頁;A.A.Virgilioら、Tetrahedron Lett.、1996、37、6961~6964頁)、ジチオスレイトール(DTT)(J.Meryら、Int.J.Pept.Protein Res.、1993、42、44~52頁;W.Teggeら、J.Pept.Sci.、2007、13、693~699頁)およびトリ-n-ブチルホスフィン(P(n-Bu)3)(D.S.Kempら、J.Org.Chem.、1986、51、1821~1829頁)を使用しており、したがって、試薬を蒸発によって除去することができず、精製ステップを必要とする。これらの研究のうち、ただ1つの研究で、揮発性還元剤であるβ-メルカプトエタノール(β-Me)が固体支持体からジスルフィド結合されたペプチドを遊離するのに使用された(O.Lackら、Helv.Chim.Acta、2002、85、495~501頁)。しかし、この用途では、ペプチドは単一ビーズから遊離されたが、極性(PEGA)で、充填が少なく(0.2mmol/グラム)、高膨潤体積を有する樹脂からの遊離は少量であり、これは現在想定している用途には適していなかった。ジチオールペプチドの合成および還元的遊離を報告した研究はなく、環状ペプチドライブラリーの生成にこのアプローチを適用した研究もない。
【0042】
本発明者らの知る限り、環状ジスルフィド遊離の方策は全く新しいものであり、環状ペプチドの生成には使用されたことはない。環化的遊離に最も近い方策は、チオエーテル固定化ペプチドの酸化的遊離である(B.H.Rietmanら、Int.J.Pept.Protein Res.、1994、44、199~206頁;T.Zollerら、Tetrahedron Lett.、2000、41、9989~9992頁)。しかし、これらのアプローチは、収率が低く、二量体の副生成物があり、精製による除去が必要な酸化剤が溶出生成物中に存在するため、ライブラリー生成には適していない。ここで、環化的遊離は、N末端スルフヒドリル基を脱プロトン化する塩基によって引き起こされる。揮発性塩基を使用する場合、揮発性塩基は蒸発によって除去され得るが、それにより反応チューブまたはマイクロタイタープレートのウェル内の唯一の生成物が1つまたは複数の純粋な環状ペプチドになる。不揮発性塩基を使用する場合は、それはまた酸によって中和され得る。環化的方策にとって重要な要件は、ジスルフィド架橋を介して固定化された固相上でペプチドを合成できることであり、ジスルフィド架橋はペプチド合成中、特にピペリジンによるFmoc脱保護中、十分に安定である必要があることである。いくつかの研究は、ペプチド・タンパク質コンジュゲートの生成から、質量分析同定のためのペプチドの還元的遊離までの範囲の用途に関するジスルフィド架橋固定化ペプチドの固相合成を報告している(J.Meryら、Int.J.Pept.Protein Res.、1993、42、44~52頁;A.Taguchiら、Org.Biomol.Chem.、2015、13、3186~3189頁;W.Teggeら、J.Pept.Sci.、2007、13、693~699頁;A.A.Virgilioら、Tetrahedron Lett.、1996、37、6961~6964頁;O.Lackら、Helv.Chim.Acta、2002、85、495~501頁;D.S.Kempら、J.Org.Chem.、1986、51、1821~1829頁)。Mery,J.および共同研究者は、ジスルフィド架橋の安定性は、硫黄に隣接する炭素原子上の置換基と、嵩高いメチル基を持つリンカーNH2-CH2-CH2-S-S-C(CH3)2-COOHに依存し、これはFmocペプチド合成にとって十分に安定的であったことを報告した(J.Meryら、Int.J.Pept.Protein Res.、1993、42、44~52頁;W.Teggeら、J.Pept.Sci.、2007、13、693~699頁;J.Meryら、Pept.Res.、1992、5、233~240頁)。以前、ジスルフィドリンカーNH2-CH2-CH2-S-S-CH2-C(NH2)H-COOHを介してジスルフィド固定化されたペプチドが合成されたが、短いペプチドの場合、どちらかと言えばリンカーが妨げられていないにもかかわらず、おそらくはビーズがピペリジンに曝露される回数が制限されるために、相当量のペプチドが存在しないことが確認された(Y.Wuら、Chem.Commun.、2020、56、2917~2920頁)。
【0043】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、方法は、ステップ(a)の後に、蒸発によって薬剤を除去するステップを含む。
上述のように、請求項で使用される薬剤は揮発性であり、蒸発により除去可能である。この好ましい実施形態によれば、蒸発によって薬剤を除去するステップは、本方法の一部を形成する。蒸発は、好ましくは、真空下で行われる(例えば、SpeedVacシステムの使用)。この薬剤は、最も好ましくは、遠心真空蒸発によって除去される。
【0044】
また、本発明による塩基は、好ましくは揮発性であり、蒸発により除去可能である。この場合、本発明の第1の態様の方法は、好ましくは、ステップ(a)の後に、蒸発によって塩基を除去するステップを含む。
【0045】
蒸発によって薬剤を除去する代わりに、薬剤は凍結乾燥によっても除去され得る。
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によれば、方法は、薬剤によって遊離される1つまたは複数の直鎖状ジチオールペプチドを環化するステップ(b)をさらに含む。
【0046】
上述のように、薬剤による「還元的遊離」の場合、1つまたは複数のペプチドは、薬剤によって直鎖状ペプチドの形態で遊離され、ここで2つのチオール基は「遊離」スルフヒドリル基である。2つのスルフヒドリル基を使用してペプチドを環化することができる。
【0047】
本発明の第1の態様のより好ましい実施形態によれば、1つまたは複数のジチオールペプチドは、少なくとも1つのビス求電子試薬によって、またはジスルフィド酸化によって環化される。
【0048】
2つのスルフヒドリル基は、直接結合してジスルフィド結合を形成することができるか(ジスルフィド酸化)、または連結分子を介して、特にビス求電子試薬を介して結合することもできる。様々なビス求電子試薬は市販されているか、または日常的な化学反応によって容易に合成することができる。異なるビス求電子試薬を並行反応で使用し、1つのジチオールペプチドから多くの異なる環状ペプチドを生成することができる。
【0049】
求電子試薬は、新しい結合の形成において電子対アクセプターとして作用する。求核置換の場合、脱離基は負に帯電した種として脱離する。ビス求電子試薬は、2つのスルフヒドリル基と反応することができる少なくとも2つの官能基を含む化合物であり、それによりスルフヒドリル基はビス求電子試薬を介して連結される。
【0050】
ジスルフィド酸化により、ジチオールペプチドの2つのスルフヒドリル基が直接ジスルフィド結合で連結される。
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によれば、項目(ii)の1つまたは複数の環状ペプチドのジスルフィド結合は還元され、ペプチドはビス求電子試薬によって再環化される。
【0051】
本明細書で上述したように、本発明の第1の態様の項目(ii)によれば、1つまたは複数のペプチドは、環状ペプチドの形態で塩基によって遊離され、ジチオールペプチドの2つのチオール基はジスルフィド結合によって連結される。
【0052】
これらのジスルフィド結合は、好ましくは、本発明の第1の態様の項目(i)に関連して記載した薬剤によって還元され、その結果、2つの「遊離」スルフヒドリル基を持つ直鎖状ペプチドが得られる。次いで、これらの直鎖状ペプチドは、本明細書の上記で説明したビス求電子試薬によって再環化することができる。
【0053】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態によれば、この薬剤は、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,4-ペンタンジチオール、エタン-1-チオール、プロパン-1-チオール、ブタン-1-チオール、プロパン-2-チオール、2-メチル-1-プロパンチオール、ブタン-2-チオール、2-メチルプロパン-2-チオール、2-ヒドロキシ-1-エタンチオール、1,2-エタンジチオール、2-プロペン-1-チオール、3-メチル-1-ブタンチオール、チオフェノール、ベンジルチオール、2-ブテン-1-チオール、3-ブテン-1-チオール、2-メチル-2-プロペン-1-チオールおよび3-メチル-2-ブテン-1-チオールから選択され、好ましくは1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオールまたは2,4-ペンタンジチオールであり、最も好ましくは1,4-ブタンジチオール(BDT)であり、ならびに/あるいは塩基は、第三級アミン、第二級アミンまたは第一級アミン、ホウ素、アルミニウムまたは水素化ケイ素、および酸素アニオン、窒素アニオンもしくは炭素アニオンを持つ塩基から選択され、好ましくは第三級アミン、第二級アミンもしくは第一級アミンであり、より好ましくは第三級アミンであり、さらにより好ましくはトリ-アルキルアミンであり、最も好ましくはN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)である。
【0054】
蒸発により除去可能である還元剤の好ましい例を表1に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
1,4-ブタンジチオール(BDT)は、添付の実施例で薬剤として使用されており、したがって、最も好ましい薬剤である。
スルフヒドリル基を脱プロトン化してジスルフィド交換および環化ペプチド遊離を誘導するための塩基の好ましい例を表2に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表2のリストは完全なものではないが、各タイプ/サブタイプの有用な試薬の例を示している。好ましいのは、トリアルキル第三級アミンであり、特にその具体例である。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)は、添付の実施例で塩基として使用されており、したがって、最も好ましい塩基である。
【0061】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態によれば、方法は、ステップ(a)の前に、固相上で直鎖状ジチオールペプチドを合成するステップ(a’)を含む。
固相ペプチド合成(SPPS)は、ペプチド合成の慣用の技術である。通常、ペプチドは、SPPS法ではアミノ酸鎖のカルボニル基側(C末端)からアミノ基側(N末端)に向けて合成されるが、細胞内ではペプチドは生物学的に逆方向に合成される。ペプチド合成では、アミノ保護されたアミノ酸は固相材料に結合され、カルボニル基と固相材料の間に共有結合を形成する。次いで、アミノ基が脱保護され、次のN-保護されたアミノ酸のカルボニル基と反応する。固相にはその時ジペプチドが担持されている。このサイクルが繰り返され、所望のペプチド鎖が形成される。
【0062】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によれば、直鎖状ジチオールペプチドのアミノ酸の側鎖は保護基によって保護されており、方法は、ステップ(a)の前に、また存在する場合にはステップ(a’)の後に、直鎖状ジチオールペプチドが固相に固定化されている間に保護基を除去するステップをさらに含む。
【0063】
アミノ酸には複数の反応性基があるので、ペプチド合成は、ペプチド鎖の長さを短くし、分岐を引き起こし得る副反応を回避するために、慎重に実施しなければならない。副反応を最小限に抑えてペプチド形成を促進するため、アミノ酸反応性基に結合し、官能基を非特異的反応から遮断または保護する化学基が開発されてきた。
【0064】
一般に、ペプチドの合成に使用される精製された個々のアミノ酸は、合成前にこれらの保護基と反応させられ、次いで、特定の保護基が、カップリング直後に新たに付加されたアミノ酸から除去され(脱保護と呼ばれるステップ)、次に来るアミノ酸が適切な方向で成長するペプチド鎖に結合することができるようになる。ペプチド合成が完了すると、残りのすべての保護基は新生ペプチドから除去される。
【0065】
3種類の保護基が当技術分野ではペプチド合成の方法に応じて一般的に使用されており、以下に説明されている。
アミノ酸のN末端は「一時的」保護基と呼ばれる基によって保護されるが、その理由はこれがペプチド結合の形成を可能にするために比較的容易に除去されるからである。2つの一般的なN末端保護基は、tert-ブトキシカルボニル(Boc)および9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)であり、各基はそれらの用途を決定する明確な特徴を有する。Bocは、新しく付加されたアミノ酸から除去するためにトリフルオロ酢酸(TFA)などの中程度に強い酸を必要とするが、Fmocは塩基に不安定な保護基であり、ピペリジンなどの弱塩基で除去される。Boc化学は脱保護のために酸性条件を必要とし、一方、Fmocは、さらに20年間報告されていなかったが、穏やかな塩基性条件下で切断される。穏やかな脱保護条件のため、Fmoc化学は、より高品質で収率が高いことから商業的状況でより一般的に使用されているが、Bocは、複雑なペプチド合成にとって、または塩基感受性の非天然ペプチドもしくは類似体が必要な場合に好ましい。
【0066】
C末端保護基の使用は、使用されるペプチド合成の種類に依存する。液相ペプチド合成では、最初のアミノ酸(C末端アミノ酸)のC末端の保護が必要であるが、固相ペプチド合成では、固体支持体(例えば樹脂)がその必要はなく、それは保護が必要な唯一のC末端アミノ酸の保護基として機能するからである。
【0067】
アミノ酸側鎖は広範囲の官能基を表し、そのため、ペプチド合成中に側鎖反応性が著しい部位である。このため、多くの異なる保護基が必要であるが、それらは、通常、ベンジル(Bzl)基またはtert-ブチル(tBu)基に基づいている。所与のペプチドの合成中に使用することができる特定の保護基は、ペプチド配列と使用されるN末端保護の種類に応じて異なる。側鎖保護基は永久保護基として知られているが、その理由は、これらが合成段階中で複数サイクルの化学的処理に耐えることができ、合成完了後の強酸による処理中にのみ除去されるからである。
【0068】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態によれば、直鎖状ジチオールペプチドの少なくとも一部は第一級アミンまたは第二級アミンを含み、方法は、第一級アミンまたは第二級アミンをカルボン酸で修飾するステップをさらに含み、第一級アミンまたは第二級アミンおよびカルボン酸を含む環状ペプチドは、好ましくは、アコースティック分注(acoustic dispensing)によって移送される。
【0069】
第一級アミンまたは第二級アミンをカルボン酸で修飾することにより、ペプチドライブラリーの複雑性をさらに高めることができる。すなわち、ライブラリー内の異なるペプチドの数を大幅に増やすことができる。これにより、次に、ペプチドライブラリーが特定の標的分子に対する結合剤または阻害剤についてスクリーニングする場合、理想的な阻害剤または結合分子を同定する可能性が高まる。このことは、本明細書で以下に本発明の第2の態様に関連してさらに詳細に説明する。
【0070】
アコースティック分注は、非常に少量の容量で、実施例3に示されているようにわずか80ナノリットルの容量で反応を行うことができる、液体移送技術である。アコースティック分注は、アコースティック超音波エネルギーを使用して液体を移送することによる、非接触、高精度、高速能力での液体取扱いを可能にする。
【0071】
環状ペプチドが第一級アミンまたは第二級アミンおよびカルボン酸を含む、第一級アミンまたは第二級アミンのカルボン酸による修飾もまた、以下の本明細書に記載する本発明の第2の態様の主題である。本発明の第2の態様の好ましい実施形態および定義は、本発明の第1の態様の上記のさらに好ましい実施形態に対して必要な変更を施して適用される。
【0072】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態によれば、方法は、(c)好ましくはペプチドライブラリーを事前精製することなく、ペプチドライブラリーを標的分子と接触させるステップと、(d)標的分子に結合し、好ましくは標的分子を阻害するペプチドについてペプチドライブラリーをスクリーニングするステップとをさらに含む。
【0073】
標的分子に結合し、標的分子をモジュレートし、好ましくは標的分子を阻害するペプチドについてペプチドライブラリーをスクリーニングするための手段および方法は、当技術分野において公知である。好ましい実施形態では、標的は、タンパク質などのアミノ酸ベースの標的である。一般的に、標的はまた、非アミノ酸ベースの化合物、例えば、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドであり得る。
【0074】
この関連において、「標的分子を阻害する」という用語は、生物学的活性が阻害され、好ましくは、完全に消失されることを意味する。生物学的活性は、特定の分子実体が標的に対して規定の生物学的効果を達成する能力である。それは、効果を得るのに必要な分子実体の効力または濃度の観点から測定される。生物学的活性は、生物学的アッセイによって測定される。
【0075】
本発明の第1の態様のより好ましい実施形態によれば、ステップ(c)およびステップ(d)は、第一級アミンまたは第二級アミンがカルボン酸で修飾されている同一のウェル内で実施される。
【0076】
このアプローチは、材料および時間を節約する。ウェルは、例えば、96ウェルプレート、384ウェルプレート、または1536ウェルプレートなどのマルチウェルプレートのフォーマットであり得る。
【0077】
本発明の第1の態様のさらにより好ましい実施形態によれば、標的分子はタンパク質または核酸分子であり、好ましくはタンパク質である。
これらの選択肢のうち、標的は、好ましくは、タンパク質などのアミノ酸ベースの標的である。
【0078】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によれば、固相は樹脂を含み、好ましくは無極性樹脂、より好ましくはポリスチレン樹脂を含む。
ペプチド合成用のいくつかの樹脂は公知であり、市販されている。非限定的な例は、2-アクリルアミドプロパ-1-イル-(2-アミノプロパ-1-イル)ポリエチレングリコール800からなるPEGA樹脂、セバシン酸と架橋されたポリ-ε-リジンの樹脂、架橋されたヒドロキシエチルポリスチレンとポリエチレングリコールの樹脂、およびポリエチレングリコールベースの樹脂である。上述の樹脂マトリックスはいずれも、限定するものではないが、塩化アミノメチル、塩化チオメチル、塩化チオエチル、塩化クロロアルキル、塩化トリチル、HMBA、およびRinkアミドを含む反応基で官能基化することができる。ポリスチレン樹脂は、本願の実施例において使用されているので好ましい。
【0079】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態によれば、直鎖状ジチオールペプチドは、1000Da未満、好ましくは600Da未満の分子量を有する直鎖状ジチオールペプチド、および/または3つもしくは4つのアミノ酸もしくはビルディングブロック、好ましくは3つのアミノ酸もしくはビルディングブロックを含む直鎖状ジチオールペプチドを含む。
【0080】
この好ましい実施形態のジチオールペプチドは、請求項に記載の方法の項目(i)による「還元的遊離」に特に適している。これは、このようなペプチドではジチオールペプチド内の2つのチオール基が相互に接近しているため、構造上の制約から環化的遊離によって効果的に遊離させることができないという理由による。
【0081】
図1aに示す環化的遊離方策では、ペプチドは、ジスルフィドリンカーを介して固相上で合成され、環化的ジスルフィド交換反応を介して遊離される。環化的遊離の主な制限は、特に短いジチオールペプチドが、構造的に制約されるジスルフィド環化ペプチドを介した経路のため効率的に生成され得ないということである。
図1aに示すように、1つのアミノ酸と各側のチオール含有ビルディングブロックから構成されるペプチド(合計3つのビルディングブロック/アミノ酸)は、効率的に遊離されない。チオール含有ビルディングブロックの間に2つのアミノ酸を含有するペプチド(合計4つのビルディングブロック/アミノ酸)の一部であっても、ペプチドの構造的柔軟性が(例えば、Phi角とPsi角に制約を有するアミノ酸によって)制限される場合、効率的に遊離されなかった。3つまたは4つのビルディングブロックよりも長いジチオールペプチドのみを送達するという環状遊離アプローチの制限により、分子量が約600Da未満の大環状化合物の生成は妨げられ、したがって、経口薬または細胞透過性薬の開発において特に注目される大環状化合物の生成が妨げられる。
【0082】
したがって、請求項に記載の方法の項目(ii)による「環化的遊離」において使用されるジチオールペプチドは、好ましくは600Daを超える分子量を有し、および/または3アミノ酸より多くを含み、より好ましくはより多くのアミノ酸を含む。
【0083】
本発明は、第2の態様において、大環状化合物ライブラリー、好ましくは環状ペプチドライブラリーを多様化するための方法であって、少なくともいくつかの大環状化合物、好ましくは環状ペプチドが第一級アミンまたは第二級アミンを含み、方法が第一級アミンまたは第二級アミンを1つまたは複数のカルボン酸で修飾するステップを含む、方法に関する。
【0084】
本発明の第1の態様の定義および好ましい実施形態は、修正可能な限り、本発明の第2の態様に必要な変更を施して適用される。
「大環状分子」という用語は、一連の12個以上の原子が連結して大環状のリングまたは環を形成している分子を指す。大環状分子は、好ましくは、本発明の第1の態様に関連して定義した環状ペプチドであるが、大環状分子は必ずしもペプチドをベースとしたものではなく、大環状分子はペプチド成分と非ペプチド成分を含有する構造も有し得る。非ペプチド成分の例としては、炭化水素、エーテル、エステル、アミド、アリール、糖、ケトン、エポキシドおよびアミンが挙げられる。非ペプチド大環状分子の例としては、ラパマイシン、マクロライド系抗生物質、ロルラチニブ、およびシメプレビルが挙げられる。
【0085】
使用されるカルボン酸の性質は特に限定されず、好ましい例を
図8cおよび
図10aに示す。ライブラリーの複雑性は、使用される異なるカルボン酸の数によって調整することができる。
【0086】
修飾される環状ペプチドまたは大環状化合物は、好ましくは2倍から20倍、好ましくは3倍から15倍、最も好ましくは4倍から12倍過剰のカルボン酸と接触されるが、それは、この過剰が反応効率を高めるという理由による。
【0087】
カルボン酸は、好ましくは、活性化カルボン酸である。活性化カルボン酸は、遊離カルボキシル基よりも求核攻撃を受けやすいカルボキシル基の誘導体であり、例えば、酸無水物、塩化アシル、チオエステル、およびエステルである。
【0088】
カルボン酸を活性化するため、酸活性化剤を使用することができる。本発明の第2の態様の方法は、好ましくは、1つまたは複数のカルボン酸を活性化することができる酸活性化剤を含むということになる。
【0089】
酸活性化剤は、好ましくは、実施例で使用される、HBTU((2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート;ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウラニウム)である。使用することができる他の適切な酸活性化剤は、HATU((1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート)、HSTU(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TSTU(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート)、TPTU(O-(2-オキソ-1(2H)ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、およびDMTMM BF4(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムテトラフルオロボレート)である。
【0090】
本発明の第2の態様の方法は、好ましくは、塩基を含む。塩基は、カルボン酸の活性化およびカップリングを促進する。その好ましい例を本明細書の以下で説明する。
環状ペプチドまたは大環状化合物は、好ましくは、周辺基として第一級アミンもしくは第二級アミンを含むか(
図8に図示)、または骨格内に第二級アミンを含む。環状ペプチドの場合、アミノ基は、アミノ酸の側鎖を通じて、またはN末端アミノ酸を通じて導入され得る。
【0091】
大環状分子ベースのリガンドの生成は、現在、大環状分子の大規模ライブラリーが欠如していることが妨げとなっており、選択された標的に高親和性で結合する大環状分子ベースのリガンドをライブラリーから単離できる可能性が、ライブラリーに異なる潜在的な結合パートナーの数が多くなるほど高くなることが指摘されている。大環状分子の大規模ライブラリーを得る際の制限は、本発明の第2の態様の方法によって克服される。この方法のアプローチは、化学的に異なるフラグメントを、コンビナトリアルな方式で構造的に異なる大環状分子足場の周辺基に繋ぐことに基づいている。概念実証として、104個を超えるカルボン酸フラグメントを192個の大環状分子足場にコンジュゲートさせることによる19,968個の大環状分子ライブラリーの生成について実施例3に示す。アシル化反応の高反応効率と少ない副生成物により、事前精製することなくライブラリーのハイスループットスクリーニング(HTS)が可能になった。実施例3はまた、低ナノモルのトロンビン阻害剤(Ki=44nM)と高ナノモルのMDM2/p53タンパク質間相互作用阻害剤(Ki=390nM)のライブラリーから単離が成功したことを示す。
【0092】
本発明の第2の態様のアプローチは、大環状化合物を合成およびスクリーニングすることができ、またいずれの標的にも一般的に適用可能である割合の飛躍的な増大を提供する。
【0093】
本発明の第2の態様の好ましい実施形態によれば、ライブラリーは、本発明の第1の態様に関連して説明した製造品のフォーマットである。
第1の態様に関連して説明した製造品の好ましい実施形態は、第2の態様に必要な変更を施して適用される。本発明の第2の態様のこの好ましい実施形態によれば、第一級アミンまたは第二級アミンを含む環状ペプチドまたは大環状化合物を、製造品のウェル内でカルボン酸と反応させる。
【0094】
本発明の第2の態様のより好ましい実施形態によれば、1つまたは複数の環状ペプチド、1つもしくは複数のカルボン酸、酸活性化剤、および/または塩基は、アコースティック分注によって製造品に移送される。
【0095】
アコースティック分注に関するさらなる詳細は、第1の態様に関連して本明細書で上述されている。アコースティック分注の使用は、以下の本明細書の実施例3.2で示している。
【0096】
アコースティック分注は音波を使用し、好ましくはアコースティック液滴放出技術である。アコースティック分注は、特にナノモル量の試薬を非接触で移すことができるという大きな利点を有しており、これによりピペッティングチップが不要で、分注スピードが速くなり、廃棄物およびコストが削減される。
【0097】
本発明の第2の態様のさらに好ましい実施形態によれば、大環状化合物、好ましくは、環状ペプチドは、事前精製することなく、多様化後にスクリーニングされる。
本スクリーニングは、好ましくは、(a)大環状化合物、好ましくは環状ペプチドライブラリーを標的分子と接触させるステップと、(b)本発明の第1の態様に関連して本明細書の上記で説明したような標的分子に結合し、好ましくは標的分子を阻害する化合物、好ましくはペプチドについて、大環状化合物、好ましくは環状ペプチドライブラリーをスクリーニングするステップを含む。
【0098】
本発明の第2の態様、特に事前精製を行わない上記の好ましい実施形態に関連して、環状ペプチドライブラリーが本発明の第1の態様の環化的遊離によって生成されていること、または第2の態様の方法が、環状ペプチドライブラリーの多様化の前に、本発明の第1の態様に従って環状ペプチドライブラリーを生成するステップを含むことが好ましい。
【0099】
また、本発明の第1の態様の環化的遊離によって生成された環状ペプチドライブラリーは、事前精製することなくスクリーニングすることができる。したがって、環状ペプチドライブラリーが本発明の第1の態様の環化的遊離によって生成された場合、または第2の態様の方法が、環状ペプチドライブラリーの多様化の前に、本発明の第1の態様に従って環状ペプチドライブラリーを生成するステップを含む場合、環状ペプチドライブラリーは、スクリーニングの前に精製ステップを必要とすることなく生成され、多様化され得る。
【0100】
本発明の第2の態様のより好ましい実施形態によれば、大環状化合物、好ましくは、環状ペプチドは、したがって、1つ以上のカルボン酸で修飾され、それらが合成された製造品の同一ウェル内でスクリーニングされる。
【0101】
これは、ウェルに標的分子(例えばタンパク質)および必要に応じて他の必要とされるスクリーニングアッセイ試薬を分注し、例えばプレートリーダーによって結合を測定することにより達成することができる。この文脈における環化は、再度好ましくは、本発明の第1の態様の環化的遊離に従って実施される。
【0102】
本発明の第2の態様のさらに好ましい実施形態によれば、塩基は、DABCO、HEPESのナトリウム塩、またはNMMであり、最も好ましくはDABCOである。
またDIPEAなどの揮発性塩基も使用することができるが、揮発性塩基は、特に2.5nlの液滴中に音波により分注される場合に蒸発され得る。したがって、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、またはHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)のナトリウム塩などの不揮発性塩基の使用が本明細書では好ましい。揮発性塩基のうち、NMM(N-メチルモルホリン)は、より過剰に適用される場合に適していることが確認された。最良の結果は、DABCOの使用により得られた。実施例3を参照されたい。
【0103】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾が生じた場合、定義を含む本特許明細書が優先される。
【0104】
本明細書、特に特許請求の範囲において特徴づけられる実施形態に関して、従属請求項で言及される各実施形態は、前記従属請求項が従属する各請求項(独立または従属)の各実施形態と組み合わされることが意図される。例えば、3つの選択肢A、BおよびCを列挙する独立請求項1、3つの選択肢D、EおよびFを列挙する従属請求項2、ならびに請求項1および2に従属し、3つの選択肢G、HおよびIを列挙する請求項3の場合、本明細書は、特に記載のない限り、A、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iの組合せに対応する実施形態を明確に開示していることを理解されたい。
【0105】
同様に、独立請求項および/または従属請求項が代替案を記載していない場合においても、従属請求項が複数の先行する請求項に言及している場合、それによって網羅される主題の任意の組合せが明示的に開示されているとみなされることを理解されたい。例えば、独立請求項1、請求項1に言及する従属請求項2、ならびに請求項2および1の両方に言及する従属請求項3の場合、請求項3および1の主題の組合せは、請求項3、2および1の主題の組合せと同様に、明確かつ明瞭に開示されていることになる。請求項1から3のいずれか一項に言及するさらなる従属請求項4が存在する場合、請求項4および1の主題、請求項4、2および1の主題、請求項4、3および1の主題、ならびに請求項4、3、2および1の主題の組合せが明確かつ明瞭に開示されていることになる。
【0106】
上記の考察は、添付のすべての特許請求の範囲に準用して適用される。
図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1】ジスルフィド架橋を介して固相上で合成されたペプチドの還元的遊離のための方策を示す図である。(a)最近開発された「環化的ジスルフィド遊離」反応。短いペプチド、例えば2つの隣接するチオール含有構造(3つのビルディングブロック)の間に1個のみのアミノ酸を含有するペプチドは、立体構造上の制約により効率的に遊離されない(破線で示す)。(b)ジスルフィド架橋の還元による短いジチオールペプチドの遊離。
【
図2】固相にジスルフィド架橋を介して連結したペプチドの還元的遊離を示す図である。(a)固相からのペプチドの還元的遊離の試験に使用した4種のペプチドの化学構造。(b)塩基TEA(100mM TEA)を含有するDMF中でBDT(100mM)を使用してジスルフィド架橋の還元によって遊離された4種のペプチドのHPLCクロマトグラム(左)。同じ固定化ペプチドを、環化的遊離を介してジチオールペプチドを切り離すために以前使用した条件であるDMSO中のTEA(100mM)に曝露した際、少量のジスルフィド二量体化ペプチドのみが溶出された(右)。所望のペプチドのピークが赤色で強調されている。観察された唯一の副生成物は、ジスルフィド架橋を介して二量体化されたペプチド(二量体)である。
【
図3】ジスルフィド架橋を介して固相に結合したジチオールペプチドの還元的遊離を示す図である。(a)固相上のジチオールペプチドの構造。(b)塩基TEA(100mM)を含有するDMF中のBDT(100mM)を使用するジスルフィド架橋の還元によって遊離された8種のジチオールペプチドのHPLCクロマトグラム。所望のペプチドは赤色で強調されている。BDTおよび副生成物が示されている。
【
図4-1】ビス求電子試薬によるジチオールペプチドの環化を示す図である。(a)Mpa-Trp-Meaおよび試薬2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジンの使用を示した環化反応(1)。(b)ビス求電子試薬2~10。所望の環状生成物は赤色で強調されている。副生成物s1~s7を補足
図7に示す。L=ビス求電子環化試薬。L
*は加水分解されたLである。
【
図4-2】
図4の続き。(c)大環状分子の化学構造および環化反応のHPLCクロマトグラフィー分析。
【
図5】環化的ジスルフィド遊離の方策を示す図である。(a)方策の概略図。短いペプチドが固相上でジスルフィド架橋を介して合成される。固相上の保護基(赤色)を除去することにより効率的な除去が可能になる。塩基による処理により、N末端チオールが脱プロトン化され、分子内ジスルフィド交換が誘導され、環状生成物が得られる。(b)固体支持体にジスルフィド結合した試験ペプチドMpa-Gly-Gln-Trp-Meaの化学構造および使用した市販樹脂。(c)樹脂4および樹脂5上で合成され、DMSO中の150mM DIPEAで遊離されたジスルフィド環化ペプチドMpa-Gly-Gln-Trp-Meaの回収。濃度は280nmでの吸光度を測定することにより決定した。反応は3連で実施した。(d)パネルdのジスルフィド環化ペプチドの純度。純度は、220nmのUV吸光度ですべての種のAUCを測定するLCMSにより決定した。
【
図6-1】可変配列を持つペプチドの環化的遊離を示す図である。(a)所望の4種の環状ペプチドの化学構造。ペプチドは、直鎖状配列Mpa-Gly-Ala-Xaa-Meaをベースとしており、Xaaは骨格内の可変性構造的フレキシビリティを持つアミノ酸である。(b)環化的遊離後の粗ペプチドの分析用HPLCクロマトグラム。右側のクロマトグラムは、TCEPによるジスルフィド結合還元後のペプチドを示す。同定されなかった不純物については、質量が示されている(その種が単一荷電していると仮定)。
【
図6-2】
図6の続き。(c)同定された不純物の分子量と一致する化学構造の例。
【
図7】環状ペプチドライブラリーのライブラリー設計、吸収によるペプチド回収定量、およびトロンビン阻害を示す図である。(a)96種の異なるペプチドを含むライブラリーの設計およびライブラリーに使用される非天然アミノ酸の構造。(b)280nmでの吸収によって定量した96種の合成環状ペプチドについての環状ペプチド濃度(DMSO中のmM)の散布図。平均回収率と、この値の1.5xおよび0.67xをグラフに示す。(c)平均環状ペプチド濃度11μMで測定したトロンビン阻害。ペプチドは、最初のスクリーニングにおけるトロンビン阻害活性に従って並べられている(黒色の点;最も高い活性から最も低い活性へ)。緑色の点は、同じ条件を使用して2回目のスクリーニングで測定された同じ環状ペプチドのトロンビン阻害を示す。最も活性のある阻害剤の化学構造を示す(K
i=13±1μM)。
【
図8】周辺基にフラグメントをコンビナトリアルに付加することによる大環状化合物の多様化。a、アプローチの一般原則。b、周辺の第一級アミンを含有するモデル大環状化合物はアシル化により修飾される。c、モデル大環状化合物と表示した酸との反応。上の数字はピペッティングによる4μL容量での変換を示し、下の数字は80nlとアコースティック液体移送での変換を示し、最初の数字はDIPEAで、2番目の数字はDABCOである。スケールの違いを示すために、96ウェルプレート内の2つの液滴の画像を示す。液滴はフルオレセインを含有しており、可視化のためにUV光に曝露される。
【
図9-1】周辺アミノ基を含有する大環状分子の調製を示す図である。a、側鎖脱保護ペプチドの環化的ジスルフィド遊離。b、ライブラリー1の足場のフォーマット。
【
図9-2】
図9の続き。c、足場ライブラリー合成に使用したアミノ酸。d、吸収測定により決定された45種のトリプトファン含有足場の収率。
【
図10-1】トロンビンに対する大環状化合物ライブラリーのスクリーニングおよびヒットの同定を示す図である。a、足場ライブラリー1a~f(
図2に示す)を多様化するために酸1~3とともに使用されたカルボン酸9~16。b、アコースティック液体移送による大環状ライブラリー合成の概略手順。反応条件を示す。c、各大環状分子のトロンビン阻害を示すヒートマップ。すべての大環状分子のアミノ酸組成を補足表1に示す。
【
図10-2】
図10の続き。d、酸14を含有するすべての化合物のレプリカ反応およびスクリーニング。e、上位3つのヒットM1からM3の化学構造および活性。3つの独立した測定の平均値とSDを示す。f、M1が得られるクロマトグラフィー分離アシル化反応およびトロンビン阻害種の分画の分析。
【
図11-1】トロンビンに対するスクリーニングを示す図である。384種の大環状分子は、前述の手順に従って合成した(利用したFmocアミノ酸およびそれらの対応する1文字コードは、補足
図1bに示す)。各大環状分子は12種のカルボン酸と反応した。反応およびクエンチの後、トロンビンおよび蛍光発生基質をウェルに添加し、蛍光の増加を30分間にわたり測定した。最終の大環状分子濃度は10μMであった。残存トロンビン活性は、各ウェルの経時的な蛍光強度の傾きを、大環状分子を含まない対照ウェルの傾きで割ることにより決定した。
【
図12-1】MDM2結合剤を示す図である。a、M6からM8が得られるクロマトグラフィー分離アシル化反応およびトロンビン阻害種の分画の分析。b、蛍光偏光を使用して蛍光MDM2プローブ(直鎖状ペプチド)の置換を試験することにより測定された、精製大環状分子のMDM2への結合。3つの独立した測定の平均値およびSDを示す。
【
図12-2】
図12の続き。c、フルオレセイン(F)で標識した大環状分子の化学構造および蛍光偏光により測定したMDM2への結合。3つの独立した測定の平均値およびSDを示す。
【
図13】周辺基にフラグメントをコンビナトリアルに付加することによる大環状化合物の多様化を示す図である。a、すべてアミノ基を含有する大環状化合物の化学構造。b、大環状化合物の多様化に使用したカルボン酸。c、反応の収率。
【
図14】Ro5のエッジで大環状ライブラリーを合成するための方策を示す図である。(a)以前の大環状分子の方策と本明細書で報告した改良型の方策。円形は、ビルディングブロックの3つの群:アミノ酸(灰色)、システアミンおよび類似体(赤色)、ならびにビス求電子リンカー(白色)を表す。(b)末端チオール基をビス電気泳動試薬で反応させることにより直鎖状ペプチドを環化する方策の模式図。直鎖状前駆体のC末端ビルディングブロックとして使用される、新しく開発されたシステアミン類似体の化学構造を示す。(c)ジスルフィド架橋を介して連結したシステアミン類似体を担持するポリスチレン樹脂を合成する方策。システアミン類似体は、活性化したチオスルホネート・ビルディングブロックとして樹脂に充填される。
【
図15】フェニルスルホンにより活性化されたシステアミン・ビルディングブロックの合成およびクロマトグラフィーステップなしの精製を示す図である。(a)ジチオール樹脂を合成する概略図。X=BrまたはCl。(b)ジチオールペプチドの精製なしの合成の簡略図。(c)7種の異なる樹脂ビルディングブロックを用いて合成したモデルペプチド(MPA-Trp-Ala)の粗ペプチド品質の積み重ねたHPLCクロマトグラム(UV220)。
【
図16-1】トリプシン様セリンプロテアーゼの阻害剤を生成するために調整した大環状ライブラリーの設計を示す図である。(a)設計した環状ペプチドライブラリーのフォーマット。DataWarrior(vers.5.5.0)を使用して算出された大環状ライブラリーの予測される物理化学的特性。(b)ライブラリー合成に使用したアミノ酸およびリンカー。(c)生成された大環状ライブラリーの選択された特性のヒストグラム。緑色でマークされているのは、ro5に準拠した領域、および/または細胞透過性大環状分子が可能であると予測される範囲内にある領域である。
【
図17】ライブラリー生成の実験ステップを示す図である。マイクロタイタープレートにおける大環状ライブラリーを合成するためのワークフロー。
【
図18-1】MDM2:p53阻害剤の親和性最適化を示す図である。a、ライブラリー3の足場はM8をベースとし、青色で示したアミノ酸が多様化されている。アミノ酸ビルディングブロックを3つのフレーム内に示す。
【
図18-2】
図18の続き。b、30pmolスケールで15種のカルボン酸によりコンビナトリアルにアシル化された63種の足場に結合するMDM2のヒートマップ。MDM2への結合は、750nMの濃度の大環状分子による蛍光ペプチドプローブの置換アッセイによって測定した。
【
図18-3】
図18の続き。c、以前のスクリーニングからの最良の9種の足場と15種の追加のカルボン酸をベースとしたライブラリー4のスクリーニング。
【
図18-4】
図18の続き。d、FPにより測定した、フルオレセイン標識し、HPLC精製した大環状分子M10(F-M10)のMDM2への結合。3つの独立した測定の平均値およびSDを示す。e、SPRにより測定した、非標識大環状分子M8およびM10のMDM2への結合。
【
図19-1】塩基としてDIPEAを使用するピペッティング(4μl容量)およびアコースティック移送(80nl容量)によるアシル化反応の比較を示す図である。反応物を水で100倍希釈し、5μlのサンプルを、RPカラムと5分間かけた0~60%のMeCN/H20勾配を使用するLC-MSによって分析した。80nl反応容量の場合、2つのサンプルをプールした。
【
図20-1】アコースティック分注および異なる塩基を使用する80nl容量でのアシル化反応を示す図である。80mM濃度の2つの不揮発性塩基(DABCOおよびHEPESナトリウム塩)ならびに500mM濃度の揮発性塩基(NMM)を、3種のカルボン酸によるモデル足場のアシル化のために、80mM DIPEAの代替品として試験した。反応物を水で100倍希釈し、5μlのサンプルを、RPカラムおよび5分間かけた0~60%のMeCN/H20勾配を使用するLC-MSにより分析した(2つのプールした反応物)。DIPEAとの反応は完了しなかったが、他のすべての塩基は生成物に定量的に変換された。
【
図21】アコースティック分注および塩基としてのDABCOを使用する80nL容量でのアシル化反応の比較を示す図である。モデル足場1を、塩基としてDABCO(80mM)を使用して、80nl容量のカルボン酸1~8と反応させた。反応物を水で100倍希釈し、分析した5μlのサンプル(2つのプールした反応物)を、RPカラムおよび5分間かけた0~60%のMeCN/H
20勾配を使用するLC-MSによって分析した。
【
図22-1】80nl容量でのモデル足場2~5のアシル化およびアコースティック分注を示す図である。a、モデル足場のLC-MS分析。反応物を水で100倍希釈し、5μlのサンプルを分析した。溶媒Bの勾配:モデル足場2の場合、0~60%のMeCN、5分。モデル足場3~5の場合、10~100%のMeCN、5分。b、酸のLC-MS分析。反応物を水で100倍希釈し、5μlのサンプルを分析した。溶媒Bの勾配:0~60%のMeCN、5分。TMU=テトラメチル尿素。
【
図22-3】
図22の続き。c~f、モデル足場2(c)、3(d)、5(e)および5(f)のアシル化反応のUHPLC分析。反応物を水で100倍希釈し、5μLのサンプルを分析した。溶媒Bの勾配:モデル足場2の場合、0~60%のMeCN、5分。モデル足場3~5の場合、10~100%のMeCN、5分。
【
図23】N末端アミノ基を含有する環状ペプチド足場の調製を示す図である。a、6つの異なる足場フォーマット。b、足場合成に使用したアミノ酸。
【
図24】ライブラリー1(トロンビンスクリーニング)およびライブラリー2(MDM2スクリーニング)の物理化学的特性を示す図である。特性は、DataWarriorソフトウェアを使用して算出した。キールバーグの透過性規則(P.Matssonら、Adv.Drug Deliv.Rev.2016、101、42~61頁;B.Doakら、Chem.Biol.2014、21、1115~1142頁)に準拠した領域は、緑色に着色されている。両ライブラリーの大部分は、細胞透過性であると予測される空間にある。MW=分子量、cLogP=算出したn-オクタノール/水分配係数、HBD=水素結合供与体、HBA=水素結合受容体、PSA=極性表面積、NRotB=回転可能な結合の数。a、ライブラリー1(トロンビンスクリーニング用)。b、ライブラリー2(MDM2スクリーニング用)。
【
図25-1】トロンビン阻害剤M1~M5を示す図である。a、化学構造および15分間かけた0~100%のMeCN/H2O勾配を使用して得られた分析用HPLCクロマトグラム。
【
図25-2】
図25の続き。b、すべての大環状分子について、18点の2倍連続希釈を50μl容量で行った。トロンビンを添加し(50μl、最終濃度2nM)、続いて10分後に蛍光発生基質Z-Gly-Gly-Arg-AMC(50μl、最終濃度50μM)を添加した。蛍光の増加を30分間にわたり測定した。残存トロンビン活性は、各ウェルの経時的な蛍光強度の傾きを、大環状分子を含まない対照ウェルの傾きで割ることにより決定した。3つの独立した測定の平均値およびSDを示す。
【
図26-1】トロンビンに結合したM1の構造を示す図である。a、トロンビンに結合したM1のX線構造。M1は拡大され、H結合相互作用が示されている。
【
図26-2】
図26の続き。b、M1の化学構造およびトロンビンと形成されるH結合相互作用。
【
図27】ライブラリー2(MDM2スクリーニング)用に合成された足場を示す図である。a、ライブラリー2の足場のフォーマット。b、足場ライブラリーの合成に使用したアミノ酸。4種のジアミノ酸、4種の骨格アミノ酸、2種の側鎖アミノ酸、および6種のサブライブラリーフォーマットのすべての組合せを合成した。c、環化的遊離後のトリプトファン含有足場の収率。ナノドロップ吸光度により測定した場合の足場の平均濃度は12.9mMであった。LC-MSで測定した平均純度は、約90%であった。
【
図28-1】環状ペプチド足場の周辺アミンをアシル化するために使用したカルボン酸の概要を示す図である。
【
図29】競合結合実験によるM10の結合部位の研究を示す図である。a、蛍光偏光で測定したM10およびnutlin-3aによるFP53直鎖状ペプチドプローブの置換。b、M10およびnutlin-3aによるF-M10大環状ペプチドプローブの置換。
【
図30-1】SPRにより測定した大環状分子のMDM2への結合を示す図である。a、フルオレセイン標識大環状分子、陽性対照nutlin-3a(フルオレセイン標識なし)、および陰性対照(トロンビン阻害剤;フルオレセイン標識なし)のシングルサイクルSPRセンサーグラム。RU、応答ユニット。
【
図30-3】
図30の続き。b、大環状分子M6、M7、M8、およびM10(フルオレセイン標識なし)のシングルサイクルSPRセンサーグラム、3連で実施。
【発明を実施するための形態】
【0108】
実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0109】
実施例1-還元的遊離
1.1.固相からのジスルフィド固定化ペプチドの還元的遊離
最初に、固体支持体上にジスルフィド架橋を介して固定化されたペプチドが揮発性還元剤により定量的に遊離され得るかどうかを評価した。この目的のため、
図2aに示す4種類のペプチド、Ala-Trp-Mea、Trp-Ala-Mea、Ala-Tyr-Mea、およびTyr-Ala-Mea(Mea=2-メルカプト-エチルアミン、システアミンとも呼ばれる)を合成した。このペプチドにはトリプトファン残基またはチロシン残基が含有されており、220nmまたは280nmでの吸光度測定によって、遊離されたペプチドの量を正確に測定することができる。本発明者らは、環化的ジスルフィド交換などの他のいかなるメカニズムも介さずに、ジスルフィド架橋の還元によって遊離されたペプチドを定量するために、ジチオールペプチドで確認されるN末端チオール基を省いた。ペプチドは、高充填容量(約1mmol/グラム)を有し、ペプチド合成に一般的に使用されるポリスチレン(PS)樹脂上で合成した。まず、PSチオール樹脂を過剰のピリジルジチオエチルアミンとインキュベートすることによってジスルフィド架橋を確立し、標準的なFmoc化学によってペプチドを合成した。すべてのペプチドは、96ウェルプレートのウェル内で、5μmolスケールで合成し、後にハイスループットでジチオールペプチドライブラリーを合成することが予定されている条件を試験した。
【0110】
PS樹脂からのジスルフィド固定化ペプチドの遊離は、20当量のβ-Me(0.5M)および20当量のトリメチルアミン(TEA;0.5M)を含有する200μLのDMFでビーズを一晩インキュベートすることにより試験した。ペプチドのLC-MS分析は、効率的な遊離を示したが、生成物の約40%がβ-Meとのジスルフィド付加物として生じたことも示した。付加物の程度は、より多量のモル過剰β-Meを使用すること、および/または還元を繰り返すことによって低減することができる可能性があると推論されたが、これは追加の作業ステップを必要とするため、最も関心が寄せられる経路ではなかった。樹脂からペプチドを遊離させ、ジスルフィド付加物を単一のステップで除去するために、ジチオスレイトール(DTT)のような還元剤を使用することが提案されたが、これは、環状DTTを形成することで自らを除去するので、ジスルフィド付加物を形成しない。ペプチドAla-Trp-MeaまたはTyr-Ala-Meaのいずれかを担持する樹脂を4当量のDTTでインキュベートすることにより、ペプチド還元剤付加物を形成することなくペプチドが効率的に遊離されたが、DTTは標準的なスピードバックでの真空蒸発では除去できなかった。195℃で蒸発し、したがってより低い沸点を有する関連の還元剤は、1,4-ブタンジチオール(BDT)である(PubChem(https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/1_4-Butanedithiol)、20.04.21にアクセス)。5μmolの樹脂結合ペプチドを、4当量のBDT(100mM)および4当量のTEA(100mM)を含有する200μlのDMFとインキュベートした。対照として、4つの樹脂結合ペプチドをDMSO中250mM TEAである環化的遊離の条件で処理する、並行反応を実施した。ペプチドをLC-MSにより分析したところ、BDTによって効率的に遊離された。4つのペプチドすべてについて、所望の生成物に対応する主要なピークが観察された(
図2b)。2つのペプチドで確認された唯一の副生成物はペプチド二量体であり、これは3%未満の少量で生じた。所望の生成物の収率は、それぞれ3.4μmol、1.3μmol、4.2μmolおよび4.3μmolであり、これは68%、25%、84%および86%の収率に相当した(ビーズ上で合成されたペプチドの量を5μmolと仮定)。
【0111】
1.2.固相からの短いジチオールペプチドの還元的遊離
次に、フォーマットMpa-Xaa-Mea(Mpa=メルカプトプロパン酸)の8つの短いジチオールペプチドのパネルを合成したが、式中、Xaaアミノ酸はTrp、Tyr、Ser、His、Phe、Arg、Asp、およびAlaであった。これらのペプチドに関しては、ジスルフィド架橋の還元によって遊離されるが、ジスルフィド環化メカニズムを介した効率的な遊離はないことが予想された。対照として、ジスルフィド環化を介して効率的に遊離されることが予想される、より長いペプチドMpa-Lys-Trp-Gly-βAla-Meaも合成した。樹脂を還元剤BDTとインキュベートすると、すべてのペプチドが効率的に遊離された(
図3)。主な生成物は、所望のジチオールペプチドであった。副生成物は少量しか確認されず、トリチル保護基およびtert-ブチル保護基を持つジチオールペプチドであった(
図3)。環化的遊離のために樹脂をDMSO中のTEAとインキュベートすることにより、約10~100分の1の量の短いペプチドが得られ、多くの副生成物が生じた。予想したように、より長いペプチドのMpa-Lys-Trp-Gly-βAla-Meaは、おそらくは構造上の制約が小さいことから、環化的遊離メカニズムを介して効率的に遊離された。280nmでの吸光度測定によって定量され得るペプチドMpa-Trp-MeaおよびMpa-Trp-Meaの収量は、それぞれ3.6μmolおよび4.3μmolであり、これはそれぞれ、ペプチドが5μmolの量で樹脂上に存在することを仮定した際、71%および85%の収率に相当する。
【0112】
1.3.真空下での溶媒および還元剤の蒸発
次に、還元剤BDTが真空下での遠心分離によって除去され得るかどうかを試験した。5μmolのスケールで合成され、100mMのBDTおよび100mMのTEAを含有する200mLのDMF中に遊離されたペプチドを、96ウェルプレートのウェル内で0.1mbar、30℃および400×gにて遠心分離を行った。溶媒は、マイクロウェルプレートのすべてのウェルが充填されていた場合、1時間で効率的に除去された。ペプチドのLC-MS分析からは、すべてのBDTが除去されたことが明らかであった。しかし、一部のペプチドについては、最大10%の生成物の一部が逆酸化されていることも確認された。酸化は高pHによって起こり得ることが推測されたため、TEAに対して2当量のTFA(200mM TFA)を遠心真空蒸発の前に各ウェルに加えた。この手順により、酸化ペプチドの分画を効率的に抑制することができた。
【0113】
1.4.ビス求電子試薬によるジチオールペプチドの環化
図4aに示したように、短いジチオールペプチドのMpa-Trp-MeaおよびMpa-Tyr-Meaをビス求電子試薬によって環化することができるかどうかについて試験した。求電子リンカー試薬による2つまたは3つのシステインを介したペプチドの環化は、ペプチドを約1mM(またはそれ未満)の希釈濃度で実施し、環化試薬を少し過剰で適用した場合、非常に効率的でありクリーンである(P.Timmermanら、ChemBioChem、2005、6、821~824頁;S.S.Kaleら、Nat.Chem.、2018、10、715~723頁)。ペプチドを1:1のアセトニトリル:水1mlに溶解し、3mlの90%NH
4HCO
3バッファー(100mM、pH8.0)、10%アセトニトリルを添加し、アセトニトリル(10mM)中の1mlビス求電子試薬を直ちに添加した。
図4bに示した合計10種のビス求電子試薬を試験した。ペプチドおよび環化試薬の最終濃度は、それぞれ、約1mMおよび2mMであった。ペプチドMpa-Trp-Meaによる環化反応のHPLCクロマトグラムを
図4cに示す。ほとんどの反応において、ジチオールペプチドはほぼ定量的に環化され、収率は90%を超えていた。少量の副生成物は、チオール基の1つがトリチルで保護されていたので、主として1つのチオール基だけと反応したペプチドであった。過剰のビス求電子試薬をクエンチするために、これらの試薬とは反応するが、大環状分子には影響しない6当量(ペプチドに対して)のβ-Meを添加した。
【0114】
1.5.考察
本明細書では、ジチオールペプチドを高純度かつ高濃度で供給することにより、ビス求電子試薬で容易に環化して大環状化合物およびライブラリーを合成することができるという固相ペプチド合成および溶出の方策が確立された。この方策における重要な要素は、i)ジスルフィドリンカーを介したペプチドの合成、ii)固相での側鎖の脱保護、iii)ジスルフィド還元によるペプチドの遊離、およびiv)蒸発によって除去することができ、その結果、ビス求電子試薬による環化を可能にする揮発性還元剤の使用、である。ジチオールペプチドを合成した後の精製ステップの省略とビス求電子試薬による環化により、多数の大環状化合物へのアクセスと、ハイスループットスクリーニングへのそれらの適用が可能になる。
【0115】
1.6.材料および方法
2-(2-ピリジルジチオ)エチルアミン塩酸塩の合成
2,2’-ジピリジルジスルフィド(4.41g、20mmol)のMeOH(2%[v/v]AcOHを含む16ml)中の撹拌溶液に、MeOH(10ml、2%(v/v)AcOHを含む)に溶解したシステアミン塩酸塩(1.14g、10mmol)を滴下添加し、これを2%(v/v)AcOHを含む10mlのMeOHに15分間かけて溶解させる。反応混合物を室温(RT)で一晩撹拌し、減圧下で濃縮し、黄色のグリース状油を得た。残渣をMeOH(16ml)に溶解し、8本の50mlファルコンチューブに分注し、氷冷ジエチルエーテル(各チューブに48ml)を添加することにより沈殿させた。このチューブを、-20℃で30分間インキュベートし、3400xg(Sorvall 75006445ローターを備えたThermo Scientific Heraeus Multifuge 3L-R遠心分離機で4000rpm、半径=19.2cm、防爆性)で、30分間4℃にて遠心分離を行った。沈殿を8回繰り返した後に、生成物が無色生成物として得られた(収率=90%)。
【0116】
システアミン-ポリスチレン樹脂の調製
以下の手順では、ジスルフィドリンカーを介して固定化された約2mmolのシステアミンを有するポリスチレン樹脂の調製について説明するが、これは、5μmolスケールでの4×96ペプチドの合成に十分である。4本の20mlプラスチックシリンジにそれぞれ563mgの樹脂(Rapp Polymere ポリスチレンA SH樹脂、200~400メッシュ、0.95mmol/グラム充填)を加えた。樹脂をDCM(15ml)で洗浄し、次いでMeOH/DCM(7:3;15ml)中で20分間膨潤させた。ピリジル-システアミンジスルフィド(2.10グラム、9.42mmol、4.4当量)をMeOH(23ml)に溶解し、次いでDCM(53ml)に溶解した。その後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA;410μl)を添加した。この溶液の19ml容量をそれぞれのシリンジに注入し、次いでシリンジをRTで3時間振盪した。ピリジル-システアミン溶液を廃棄し、樹脂をMeOH/DCM(7:3;2×20ml)で洗浄し、次いでDMF(2×20ml)で洗浄した。樹脂をDMF中の懸濁液として単一シリンジに合わせ、1.2MのDIPEAのDMF溶液(11.8ml)で5分間洗浄し、すべてのアミンを確実に中和させた。この溶液を廃棄し、樹脂をDMF(2×20ml)で洗浄し、次いでDCM(4×20ml)で洗浄し、真空下に一晩保持し、流動性粉末を得た。
【0117】
96ウェルプレートにおけるFmocペプチド合成
ペプチドを、自動ペプチド合成装置(Intavis MultiPep RSi)を使用して、96ウェルペプチド合成フィルタープレート(Orochem、cat.# OF1100)で5μmolスケールにて合成した。システアミン-PS樹脂(約5mg、0.95mmol/g、5μmolスケール)をプレートの各ウェルに粉末として分配した。樹脂をDMF(3×225μl)で洗浄した。この洗浄ステップと後のすべての洗浄ステップにおいて、樹脂を1分間インキュベートした。以下の試薬を指示した順序でチューブに移し、混合し、1分間インキュベートし、マイクロウェルプレート内の樹脂に移し、振盪することなく45分間インキュベートした。試薬:50μlのHATU(DMF中500mM、5当量)、5μlのN-メチルピロリドン(NMP)、12.5μlのN-メチルモルホリン(DMF中NMM、4M、10当量)および53μlのアミノ酸(DMF中500mM、5.3当量)。カップリング反応の最終容量は120.5μlであり、試薬の最終濃度は、208mM HATU、415mM NMMおよび220mM アミノ酸であった。カップリングは2回実施した。樹脂は、DMF(1×225μl)を用いて洗浄した。未反応アミノ基は、5%無水酢酸および6%の2,6-ルチジンのDMF(100μl)と、振盪することなく5分間インキュベートすることによってキャップ付加した。樹脂をDMF(8×225μl)で洗浄した。Fmoc基は、20%(v/v)ピペリジンを含有するDMF(120μL)で2回、それぞれ振盪することなく5分間インキュベートすることにより除去した。より長いペプチド配列の合成については、塩基への曝露を低減するため、インキュベーション時間を5分から2分に短縮した。樹脂をDMF(8×225μl)で洗浄した。ペプチド合成の最後に、樹脂をDCM(2×200μl)で洗浄した。
【0118】
96ウェルプレートにおけるペプチド側鎖脱保護
アミノ酸側鎖から、ならびにMeaから保護基を除去するために、96ウェル合成プレートの底を、厚さ6mmの柔らかいエチレン-酢酸ビニルパッドにプレートを押し付けて密閉し、各ウェル内の樹脂をTFA:TIPS:H20(95:2.5:2.5[v/v/v]、約300μl)の溶液とインキュベートした。プレートを粘着シールフィルム(iST Scientific、QuickSeal Micro、cat.# IST-125-080-LS)で覆い、漏れを防ぐために重り(1kg)を上部に置いて重くした。1時間インキュベーションした後、合成プレートを2mlディープウェルプレート上に置き、TFA混合物を排出させた。合成プレートを再度密閉し、脱保護の手順を繰り返した。重力流によってウェルに流すDCM(3×500μl;シリンジにより添加)でウェルを洗浄した。合成プレートを真空マニホールドに5分間置くことにより、樹脂を乾燥させた。
【0119】
β-Me、DTT、またはBDTによる還化的ペプチド遊離
ペプチドを樹脂から遊離させるため、96ウェル合成プレートの底を、厚さ6mmの柔らかいエチレン-酢酸ビニルパッドにプレートを押し付けて密閉し、各ウェル内の樹脂を、500mMのβ-Me、または100mMのDTT、または100mMのBDT、および100mMのTEAを含有する200mlのDMF溶液で4時間RTにてインキュベートした。この後、250×g(Sorvall 75006445ローターを備えたThermo Scientific Heraeus Multifuge 3L-R遠心機で1100rpm、半径=19.2cmローター)で、2時間RTにて遠心分離を行うことにより、サンプルを96ディープウェルプレート内で回収した。
【0120】
ペプチドの環化的遊離
96ウェル合成プレートを上記のようにして密閉し、250mMのTEA(10当量)を含有する200μlのDMSO溶液で一晩RTにてインキュベートすることにより、ペプチドを樹脂から遊離させた。この後、250×g(Sorvall 75006445ローターを備えたThermo Scientific Heraeus Multifuge 3L-R遠心機で1100rpm、半径=19.2cmローター)で、2時間RTにて遠心分離を行うことにより、サンプルを96ディープウェルプレート内で回収した。
【0121】
固相遊離または環化後のペプチドのLC-MS分析
固相から遊離されたペプチド(DMFまたはDMSO中の濃度は最大25mM)については、1μlのペプチドを、0.05%ギ酸を含有する60μlのmilliQ H2Oで希釈した。環化反応からのペプチド(濃度は約1mM)については、10μlの反応混合物を、0.05%ギ酸を含有する10μlのmilliQ H2Oと混合した。サンプル(10μl注入)は、逆相C18カラム(Phenomenex Kinetex(登録商標)、2.6μm、100Å、50×2.1mm)と、溶媒B(MeCN、0.05%ギ酸))の溶媒A(H2O、0.05%ギ酸)に対する直線勾配を使用し、Shimadzu 2020シングル四重極LC-MSシステムで、1ml/分の流速で5分間0から60%まで分析した。吸光度を220nmで記録し、質量はポジティブモードで分析した。
【0122】
還元剤および溶媒の真空遠心蒸発
以下の例では、還元的遊離の後に20mMの濃度を有していたペプチドについて説明する。還元によって固相から遊離された200μlのペプチド(100mMのBDTおよび100mMのTEAを含有するDMF中)のうち、5μl(0.1μmol)をV底96ウェルプレート(Ratiolab、6018321、PP、未滅菌)のウェルに移した。7μl容量の1%TFA水溶液(v/v)を各ウェルに添加し、TEAに対してTFAが2当量になるようにした。このサンプルを、Christ RVC 2-33 CDplus IR装置を使用して真空遠心蒸発に供し、溶媒(DMF)および還元剤(BDT)を除去した。サンプルを、0.1mbar、30℃、400×g(124708プレートホルダーインサートを備えたChrist 124700ローターで1750rpm、半径=10.5cm)で遠心分離を行った。ペプチドは、このステップの後に見えなくなった。
【0123】
ペプチドの環化
還元し乾燥したペプチド(0.1μmol)を20μlの50%アセトニトリル、50%H2Oに溶解し、濃度を5mMとした。この溶液に、60μlの反応バッファー(10%アセトニトリル[v/v]を含有する100mMの重炭酸アンモニウム、pH8.0)を添加し、続いてアセトニトリル中の10mM環化リンカー20μl(2当量)を添加した。反応液の最終濃度は、1mMのペプチド、2mMの環化リンカー、60mMの重炭酸アンモニウムバッファー、および35%のアセトニトリルであった。プレートをホイルシールで覆い、反応物をRTで2時間インキュベートした。
【0124】
環化反応におけるリンカー試薬のクエンチング
環化反応の完了後、アセトニトリル中の150mM β-Me(0.6μmol、ペプチドに対して6当量)の4μlを反応混合物に添加し、RTで1時間インキュベートした。溶媒(MeCN)、バッファー(重炭酸塩)および過剰のβ-Meを、Christ RVC 2-33 CDplus IR装置を使用して真空遠心蒸発により除去した。サンプルを、0.1mbar、30℃、400×g(124708プレートホルダーインサートを備えたChrist 124700ローターで1750rpm、半径=10.5cm)で遠心分離した。ペプチドは、このステップの後に見えなくなった。
【実施例2】
【0125】
実施例2-環化的遊離
2.1.結果および考察
最初の実験で、ジスルフィド架橋を介して固相に繋がれた短いペプチドの合成について、様々な樹脂を試験した。ペプチドMpa-Gly-Gln-Trp-Meaが5種類の異なる樹脂上で合成されたが、式中、Mpaはメルカプトプロパン酸(アミノ基を持たないシステイン)、Meaは2-メルカプト-エチルアミン(システアミン;カルボン酸を持たないシステイン)である(
図5b)。極性である2つのポリエチレングリコール(PEG)樹脂(1、2)、同じく極性である1つのPEG修飾ポリスチレン(PS)樹脂、および無極性である2つのPS樹脂(4および5)を使用した。樹脂5は既にチオール基を含んでおり、樹脂1~4に関しては、アミド化によりトリチル保護されたMpaを付加することでチオール基が導入された。ジスルフィド結合したMeaは、過剰の2-(2-ピリジニルジチオ)-エタンアミンと樹脂をインキュベートすることによって導入された。ジスルフィド交換反応は、メタノール(MeOH)/ジクロロメタン(DCM)混合物中で、およびDMF中で、塩基または酸の存在下で試験され、30%のMeOH、70%のDCMおよび1当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA;2-(2-ピリジニルジチオ)-エタンアミンに対して)の条件が最適であることが確認された。3つのアミノ酸Trp、Gin、Gly、およびMpaを、標準的なFmoc化学を使用して付加し、95%のTFA、2.5%のTIS、および2.5%の水と樹脂を1時間インキュベートすることによって側鎖保護基を除去した。
【0126】
次に、DIPEAを塩基として使用して、ペプチドのN末端のスルフヒドリル基を脱プロトン化することにより、環化ジスルフィド遊離を試験した。150mMのDIPEAを含むDMSO中で樹脂をインキュベーションすることにより、無極性樹脂4および5の場合、非常に効率的な遊離がもたらされた(
図5c)。溶出液中のペプチドの濃度は、それぞれ、5.1mM(樹脂4)および11.6mM(樹脂5)であった。遊離されたペプチドの量は、樹脂の充填量に基づいて合成されると予想される量の21±5%(樹脂4)および44±4%(樹脂5)であった。ジスルフィドリンカーの導入が定量的ではなかった可能性が高いことを考えると、既にチオール基を持った樹脂(樹脂5)であっても、環化的遊離メカニズムによって回収されたペプチドのパーセンテージは、44%より高かったと思われる。生成物のLC-MS分析から、ジスルフィド環化ペプチドについては、95±4%(樹脂4)および93±1%(樹脂5)の高純度であることが示された(
図5d)。唯一の副生成物は環状ペプチド二量体であり、平均6%と少量しか確認されなかった。この二量体環状生成物は、ジスルフィド交換を介した樹脂上の1つのペプチドの隣接するペプチドへの転移と、それに続く環状二量体の環化的遊離によって形成された可能性が最も高い。
【0127】
環化的ジスルフィド遊離方策の基質範囲を評価するため、フォーマットMpa-Gly-Ala-Xaa-Meaの4つのペプチドを25μmolスケールで合成した(
図6a)。4つのペプチドのうち3つの「Xaa」の位置に、ペプチドの骨格に剛性を与えるアミノ酸ビルディングブロックが挿入された。塩基誘導性の環化的遊離によって得られた生成物のHPLC分析では、4つのペプチドのそれぞれに主要なピークが見られ、MS分析によって、これらの主な生成物が所望の環状ペプチドであることが確認された。吸光度測定により、4つのペプチドはすべて2桁のミリモル濃度で得られたことが明らかであった。過度の凍結乾燥後の重量測定による生成物の定量により、13.5~26μmolの範囲の収率であることが明らかとなったが、これは樹脂充填量に基づいて予想される収率の54%~100%に相当する。4つのペプチドすべてについて、数の限られた副生成物しか確認されず、それらは少量であった(
図6bおよび
図6c)。主な副生成物は環状二量体であり、今回は2つの近接したピークとして溶出したが、これは、2つの可能性のある二量体、1つはヘッド・トゥー・ヘッド/テール・トゥー・テールに連結したもの、もう1つはヘッド・トゥー・テールに連結したものに対応している可能性が高いと考えられる。TCEPによる生成物の直鎖化およびHPLC分析により、ペプチド1~4について、それぞれ96%、96%、100%および92%の純度を持つ直鎖状ペプチド生成物が示された(
図6b、右のクロマトグラム)。TCEP直鎖化実験からは、二量体環状ペプチドが、分子内環化に有利な濃度で還元とそれに続く酸化的再環化によって除去できることが示唆された。環化的遊離方策に従ってさらに短いペプチドが生成できるかどうかを試験するため、フォーマットMpa-Ala-Xaa-Meaで、したがって1アミノ酸短い4つのペプチドで実験を繰り返した。4つのペプチドもまた効率的に遊離され、HPLCプロファイルのメインピークは所望の環状ペプチドであった。環状二量体の割合は全体的にわずかに高かったが、おそらくは、短い骨格によって妨げられた環状化の効率が低いことと、その結果生じる立体構造上の制約による可能性が高いと思われる。
【0128】
環化的ジスルフィド遊離方策がライブラリーの合成およびスクリーニングに適用され得るかどうかを評価するため、環状ペプチドを設計し、96ウェルプレート内で、5μmolスケールで合成した。3つのフォーマットの96個のランダムなジスルフィド環化ペプチドが、
図7aに示すように調製された。このペプチドは、MpaとMeaに隣接された3つのランダムなアミノ酸Xaaを含有する。各ペプチド内のランダムアミノ酸のうち2つは、高度に多様な環状ペプチド骨格をもたらす構造的に多様な4つのアミノ酸から選択された。ランダムアミノ酸の1つはTrpまたはTyrであり、280nmでの吸収測定によるペプチド収率の定量化が可能になった。200μlのDMSO中の150mMのDIPEAを添加することによるペプチドの環化的遊離と、それに続く吸収測定によって、13.3mMの高い平均ペプチド濃度と、90個のペプチドに関して8.9mM(平均より1.5倍低い)から20mM(平均より1.5倍高い)の間の狭い濃度分布が示された。ペプチドのうち3つは、合成されず、まったく遊離されなかった。12のランダムに選択した環状ペプチドをLC-MSにより分析することにより、平均84%の高純度が示された。
【0129】
環状ペプチドの数がわずか96個と比較的少なく、したがって活性化合物を発見する可能性が低いにもかかわらず、本発明者らは、抗凝固治療薬開発の重要な標的であるトロンビンに対して、約10μMの化合物濃度を使用してスクリーニングを実施した。最も活性のあるペプチドはトロンビン活性を52%低下させたが、これは、ペプチドがトロンビン特異性ポケットS1に結合するアミノ酸ArgおよびLysを含有しないことを考慮すると注目すべきことであった(
図7c)。スクリーニングの繰返しにより、同じ環状ペプチドが最も活性の高いヒットとして同定された(
図7cの緑色の点)。HPLC精製されたジスルフィド環化ペプチドMpa-Tyr-II-Pro-Meaは、13±1μMのK
iでトロンビンを阻害した。小規模スクリーニングでは、ほとんどの環状ペプチドがトロンビン活性に影響を及ぼさないことが明らかになったが、このことは、環化的遊離後のペプチドストック中に存在するDMSOおよびDIPEAを含め、ペプチドとともに溶出された、生物学的アッセイを妨げる成分が存在しなかったことを示唆している。生物学的スクリーニングは、典型的には、約10μMの化合物濃度で実施され、これは、約10mMのペプチドストック中の100%DMSOおよび150mMのDIPEAが1000倍希釈されて、それぞれ0.1%および150μMの濃度に達するが、ほとんどの生物学的アッセイに影響を及ぼすことはまずないことを意味する。
【0130】
2.2.結論
要約すると、固体支持体から直接的に高純度のジスルフィド環化ペプチドを得るという、ジスルフィド交換反応に基づいた環化的ペプチド遊離方策が本明細書で開発された。本発明者らの知る限り、これは、環状ペプチドライブラリーが高純度で、しかも蒸発により除去され得る切断試薬を用いて遊離される初めてのアプローチであり、その結果、ペプチドは、事前精製することなく、バイオアッセイを使用して容易にスクリーニングされ得る。重要なのは、異なる配列を持つペプチドの収率が狭い分布を示したことであり、濃度を決定または調整しなくとも環状ペプチドのスクリーニングが可能になったことである。このアプローチは、数百のペプチドを含むライブラリーの生成に適用可能であることを示している。
【実施例3】
【0131】
実施例3-環状ペプチドライブラリーのサイズの大規模な拡張
3.1.周辺アミンを介した環状ペプチド足場のアシル化
図8aに示したコンビナトリアルで多様化する大環状ライブラリーについては、周辺基として機能するアミンと、カルボン酸であるフラグメントを修飾することを選択した。N-アセチル化反応は効率的かつ選択的であり、DNAコード化の化学ライブラリーの合成に広く適用されている(P.R.Fitzgeraldら、Chem.Rev.、2020)。N-アセチル化は、溶液中のカルボン酸のパネルによって、続いて粗反応の活性スクリーニングによって(A.Brikら、Chem.Biol.、2002、9、891~896頁)、またはX線結晶学的分析によって(M.R.Bentleyら、J.Med.Chem.、2020、63、6863~6875頁)、リード構造の多様化にも使用された。この反応は、周辺基として第一級アミンを持つモデル足場シクロ(Mea-Lys-Xaa-Mpa)(
図8b)と、8つの構造的に多様なカルボン酸(
図8c)を用いて試験した。足場を所望の生成物に効率的に変換するため、足場を4倍モル過剰のカルボン酸と反応させることを選択した。足場の生成物へのほぼ定量的な変換が望まれていたが、それは、非修飾足場がアシル化足場よりも豊富であった場合、結合が弱くスクリーニングの妨げになる可能性があるからである。カルボン酸の過剰は、スクリーニングの際に存在し得る非反応性カルボン酸につながるが、ほとんどのカルボン酸はそのサイズが小さいため、それ自体では標的に結合しないと推察された。予想されるアシル化反応の唯一の副生成物は、過剰のカルボン酸、HOBt、およびテトラメチル尿素であり、いずれも生化学的アッセイには適合しないはずである。環状ペプチド足場(最終濃度10mM)を、活性化剤としてHBTUを、塩基としてDIPEAを使用し、4μlの容量で4倍モル過剰の8つの酸と3時間インキュベートしたところ、ほぼすべての酸で足場の完全な変換が確認された(
図8cの上の数字)。
【0132】
3.2.ナノリットル容量での大環状ライブラリー合成
同じ環状ペプチド足場のコンビナトリアル多様化を、80nl、したがって50分の1の容量で続いて試験した。このステップは、少量のナノモルスケールでライブラリーを生成することを計画したので不可欠であったが、その結果、96ウェルプレートのウェル(5μmolスケール)で容易に合成することができるマイクロモル量の足場は、1つの足場から100を超える大環状分子を合成するのに十分であった。さらに、試薬を移すのにアコースティック分注技術を適用することを目指したが、これはナノリットル容量を移すのに適しているものの、マイクロリットル容量を移すのには適していない。アコースティック分注には、試薬を非接触で移すことができるという大きな利点があり、ピペッティングチップは必要なく、分注のスピードが速く、廃棄物およびコストが削減される。同じ反応条件の適用により、収率が大幅に低下し(
図8cの2つの下の数値のうちの最初の数値)、アシル化反応の最適化が求められた。低収率はDIPEAの使用に関連していると仮説を立てたが、それは、塩基が比較的揮発性であり、音波によって2.5nlの液滴として分注された場合に部分的に失われるからである。試験は、不揮発性塩基のDABCOとHEPESのナトリウム塩、および使用される溶媒系への溶解度が高く、より高濃度で適用され得る揮発性NMMを用いて実施した。3つの塩基すべてで、大環状分子は、試験した3つの酸で定量的にアシル化され、さらなる酸にDABCOを適用すると、その条件が環状ペプチドの周辺アミンの効率的な修飾に適していることが示された(
図8cの2つの下の数字のうち2番目)。
【0133】
次のステップにおいて、アシル化反応を他の大環状化合物を使用して試験した。詳しくは、モデル足場のシクロ(Mpa-Lys-Xaa-Mea)の1つよりもアミノ基の露出が少ない大環状骨格を選択した。この目的のために、Enamine社により提供される4つの大環状化合物をオーダーした(13a)。これらのすべての化合物は、アミノ酸以外のビルディングブロックを含有する、非ペプチド大環状化合物である。同じ反応条件および酸を使用したアシル化反応(
図13b)は、大環状足場からカルボン酸を持つ大環状分子への効率的な変換を示した(
図13c)。
【0134】
3.3.アミン基を持つ環状ペプチド足場の合成
次に、96ウェルプレートで多数の小さな環状ペプチドを効率的に生成するために最近開発されたアプローチを使用して、ランダム構造と1つの周辺アミノ基を有する環状ペプチド足場を合成した。簡単に説明すると、短いペプチドを固相上で合成し、ジスルフィド環化反応によって遊離させて、さらなる精製の必要のない本質的に純粋な足場を得る(
図9a)。変化した次の3つのアミノ酸、1つは側鎖に第一級アミンを持つアミノ酸(7個のaaから選択)、1つはランダムな側鎖を持つα-アミノ酸(15個のaaから選択)、および1つはランダムな骨格構造を有するもの(6個のaaから選択)を含有する環状ペプチド足場の第1のライブラリーを生成した(
図9bおよび
図9c;サブライブラリー1a~f)。また、第一級アミノ基がシステイン残基を介して導入された第2のライブラリーを合成した。示したアミノ酸を使用してコンビナトリアルな方法で理論的に組み立てることができる3,240種(ライブラリー1)および540種(ライブラリー2)の異なる足場のうち、384種をランダムに選択し、それらを4つの96ウェルプレートで合成した。Trp残基を含有する45個の環状ペプチドを吸収により定量したところ、ほとんどの分子が十分な量で得られたことが示された(平均濃度=8.1mM;
図9d)。収率の分布が比較的狭い状況から、さらなる使用のために濃度は正規化しなかった。
【0135】
3.4.コンビナトリアル大環状ライブラリーの合成およびトロンビンスクリーニング
384個の足場を12個のカルボン酸とコンビナトリアルに反応させ(
図10a)、4,608種の異なる大環状分子を得て、このライブラリーを凝固プロテアーゼおよび治療標的トロンビンに対してスクリーニングした。トロンビン阻害剤は、抗血栓症薬として既に臨床において使用されているが、経口での利用可能性が低いという問題がある。カルボン酸として、トロンビンのS1(H結合)およびS2(疎水性相互作用)特異性ポケットに結合する可能性のあるいくつかのフラグメントを含む、構造的に多様な分子を選択した(
図10a)。グアニジンなどの正電荷を含有する基は、S1サブサイトに特に良好に結合することが知られているが、経口的に適用される可能性がある、極性表面が限定され、電荷を持たない大環状分子の開発に関心があったため、それらは省いた。実際、承認されたトロンビン阻害剤の活性型は、そのような正電荷を帯びた基を含有しており、プロドラッグとして適用する必要があり、これが経口的な利用可能性を制限する根拠であり得る。アコースティック分注を使用して、20nlの足場(平均8.1mM)および20nlの事前に活性化した酸(80mM)を組み合わせて、最終濃度を約4mMの足場および40mMのカルボン酸に到達させた(
図10b)。10倍モル過剰のカルボン酸(以前の4倍に対して)を適用することを選択したが、それは、足場内のアミノ基の一部が、上記のモデルペプチドのα-アミノ基よりもアクセスしにくいためである。5時間後、一晩の反応を5μlの100mMトリスバッファーを添加することによりクエンチし、5μl容量のトロンビン(最終濃度2nM)を添加し、蛍光発生基質(5μl)を使用して残りのトロンビン活性を測定した。スクリーニングにおける大環状化合物の濃度は約10μMであった。反応の0.2%の分画(9/4277)が50%を超えてトロンビンを阻害し、それらのすべてがクロロチオフェン酸(14)を含有する大環状分子であった(
図10c)。クロロチオフェン酸(384足場×14)およびトロンビンを含むすべての大環状合成反応の繰返しを独立した実験で行うことにより、本質的に同じトップヒットが同定され、したがって、多様化反応と活性スクリーニングの両方において高い再現性が確認された(
図10d)。
【0136】
ほとんどのヒットを与えたクロロチオフェン酸(14)は、トリプシン様セリンプロテアーゼFXaのS1サブサイト結合基として機能することが既に報告されており(P.M.Fischer、J.Med.Chem.、2018、61、3799~3822頁)、したがって、ヒットはクロロチオフェン基をS1ポケットに向ける大環状分子であることが予想された。酸14で修飾されたすべての大環状分子がトロンビンを阻害したわけではなく、このことは大環状分子が結合に実質的に寄与していることを示唆している。アシル化反応に使用したカルボン酸が10倍過剰であったという状況から、未反応の14は、トロンビンスクリーニングのすべてのウェルで約100μMの濃度で存在した。この濃度では、14は添加したが大環状足場は添加しなかった対照反応と、14および足場は含有したがトロンビン阻害を示さなかった384ウェルの多数で明らかなように、トロンビンを阻害しなかった(
図10c)。14はアミノ基と反応した後にカルボキサミドとして生じるので、トロンビンの阻害をクロロチオフェンアミドによって試験したところ、K
i=380μMであることが確認された。阻害が弱いことにより、大環状足場が、同定された大環状化合物の活性に実質的に寄与していることが確認された。最良の3つのヒットであるM1、M2、およびM3は、構造において高度に関連し、すべてフォーマットシクロ(Mpa-D3-B5-Xaa-Mea)の足場をベースにしており、式中、アミノ酸Xaaはすべて疎水性側鎖を持つα-アミノ酸であった(D-Val、L-Phe、L-Val;
図10e)。
【0137】
3.5.アシル化された足場は活性種である
次に、スクリーニングで観察された活性が、予想された大環状化合物に由来するか、または、例えばカルボン酸もしくは大環状二量体の付加物などの副生成物に由来するかどうかを評価した。この目的のために、足場とカルボン酸14の反応を、2つのトップヒットM1およびM2について、250倍のラージスケール(濃度は同じだが容量は大きい)で繰り返し、反応をRP-HPLCカラムにかけ、1分以内に溶出した生成物をそれぞれ組み合わせた20分画を単離し、その分画を凍結乾燥し、トロンビン阻害活性を測定した(
図10f)。どちらの反応においても、所望の大環状生成物を含有する分画が極めて最も高い活性を示し、ヒットが大環状分子のM1およびM2の活性に基づいて同定されたことが示された。
【0138】
精製した大環状分子のM1、M2、およびM3は、それぞれ、44nM、165nM、および125nMのK
iでトロンビンを阻害した(
図10e)。治療用途によっては、本明細書でスクリーニングしたすべての足場に存在する還元可能なジスルフィド結合は望ましくないため、より安定な結合で置き換えることができるかどうかについて試験した。ジチオアセタールリンカーまたはチオエーテルリンカーを含有するM4およびM5を合成した。M4およびM5は、83±8nMおよび135±16nMのK
iでトロンビンを阻害し、したがって、親和性はわずかに2倍および3倍で弱かった。
【0139】
3.6.タンパク質間相互作用阻害剤の開発
大環状分子は、タンパク質間相互作用(PPI)の阻害剤として多くの関心を集めており、MDM2:p53であるPPI疾患の標的のプロトタイプについて、阻害剤を開発する多くの試みがなされてきた(M.Konoplevaら、Leukemia、2020、34、2858~2874頁;L.Skalniakら、Expert Opin.Ther.Pat.、2019、29、151~170頁)。MDM2の過剰発現は腫瘍抑制因子p53の活性を阻害し、MDM2-P53相互作用を遮断するMDM2結合剤は、新たな抗がん療法の開発において注目されている(P.Chene、Nat.Rev.Cancer、2003、3、102~109頁)。この難易度の高いPPI標的を用いて新しいアプローチを試験するため、192種の構造的に多様な環状ペプチド足場が合成したところ、これらはすべて3つのランダムなアミノ酸をベースにしており、そのうちの1つは側面方向多様化のアミノ基を含有していた。結合剤を同定する可能性を高めるために、すべての足場には、MDM2に結合し、MDM2:p53相互作用を阻害するステープルペプチド(stapled peptides)の重要な相互作用を形成する2つのアミノ酸、トリプトファンまたはフェニルアラニンのいずれかが含まれていた。環状ペプチド足場は、上記のライブラリー1について記載したように96ウェルプレートで合成し、平均濃度12.9mM、平均純度90%で得た。前と同様に、今回は104種のカルボン酸を使用し、足場をコンビナトリアルな方式でフラグメントによるアシル化によって修飾した。したがって、足場ライブラリーのサイズは、192個の構造から19,968個の大環状化合物に拡張され、したがって100倍を超えて拡張された。
【0140】
ライブラリーは、384マイクロウェルプレート内の反応に標的タンパク質MDM2および大環状分子の結合を測定するレポーターペプチドを分注することによってスクリーニングした。蛍光レポーターペプチドは、MDM2上のPPIインターフェースに結合し(K
d=0.5μM)、大環状分子によるその置換は蛍光偏光を測定することにより追跡することができる。スクリーニング結果は、足場(垂直)とフラグメント(水平)の組合せのアレイで再度表示され、色はMDM2からのレポーターペプチド置換の程度を示した(
図11)。2つのヒットグループが最も興味深く、1つは水平方向で確認されたものであるため、同じ足場であるシクロ(Mpa-Trp-D3-B4-Mea)を共有する大環状分子であり、もう1つは垂直線上で確認されたものであるため、同じカルボン酸(9)を共有する大環状分子である。192個すべての足場と最良のヒットを与えた4つのカルボン酸(9、14、25、91)を使用して、アシル化反応とスクリーニングを繰り返し、最初のスクリーニングの結果を確認した。2つのヒットグループそれぞれの3つの反応における活性種を分析したところ、第1のグループ(ヒットM6、M7、およびM8)では、活性種は予想された大環状構造であったが、第2のグループではそうではなかったことが判明した(
図12a)。
【0141】
3.7.ナノモルMDM2結合剤の同定
精製した大環状分子のM6、M7およびM8は、効率的にMDM2から蛍光ペプチドプローブを置き換え、約1μMの同様のIC
50値を示したが(
図12b)、競合アッセイは、アッセイに必要とされるMDM2濃度が高いことから(1.2μM)、低マイクロモルまたはナノモル領域での結合定数を決定するのには適していなかった。したがって、3つの大環状分子を、ペプチド足場のN末端領域に連結したフルオレセインとのコンジュゲートとして合成し、直接蛍光偏光アッセイで結合親和性を測定した(
図12c)。コンジュゲートは、650±50nM(F-M6)、790±80nM(F-M7)、および340±40nM(F-M8)のK
d値を示した。
【0142】
3.8 ピコモルスケールの繰返し合成およびスクリーニング
大環状化合物の容易な合成により、結合親和性を改善することができるヒット化合物に基づいたサブライブラリーを繰り返し合成することができる。最初のスクリーニングで本発明者らが同定した大環状分子M8の効力を増強するため、本発明者らは、M8のアミノ酸と同様のアミノ酸を使用して63個の足場(
図18a)を合成したが、これらは、ニペコチン酸(Nip)の3つの類似体、ジアミノプロピオン酸(Dap)の3つの類似体)、およびトリプトファン(Trp)の7つの類似体であった(3×3×7=63)。次いで、本発明者らは、63個の足場を14個のカルボン酸で多様化したが、それには、最初のライブラリーヒット(カルボン酸14、25、91)からの繰返し、ならびに大環状ヒットM8のカルボン酸である桂皮酸91の類似体である関連構造が含まれていた(105~115;
図28)。ナノモル親和性を持つ結合剤を同定するため、本発明者らは最初のスクリーニングよりも13倍低い濃度(750nM)で882個の大環状分子(63×14)をスクリーニングしたが、それは30pmolスケールに相当した(
図18b)。最も活性のある大環状分子はオリジナルの足場に基づいていたが、本発明者らは、このスクリーニングにおいて、より強力な大環状分子、すなわち、M8では21%であったの比べて(酸91;
図18b)、750nMでレポーターペプチドを68%まで置き換えた109(大環状分子M9)をもたらすカルボン酸を同定した。本発明者らは、この足場を改良することはしなかったが、63個の足場を使用してスクリーニングから大環状環に関する意味のある構造活性相関データを得て、すべてのビルディングブロックが必須であることを示した。
【0143】
続いて、本発明者らは、ライブラリー合成とスクリーニングの第3サイクルを実施し、前回のスクリーニングで最も有望な9個の足場を15個の追加のカルボン酸でアシル化し、そのほとんどは、より大きな置換基を持つ桂皮酸誘導体であった。続いて、本発明者らは、オリジナルの足場をベースとし、酸120でアシル化された大環状分子であるM10を同定したが、これは、使用した蛍光プローブのF-M8を750nMでMDM2から84%置き換え、親化合物のM8およびM9よりも効率よく置き換えた(
図18c)。本発明者らは、大環状分子M10をフルオレセインに結合させ、FPを使用してMDM2への結合を43±18nMのKdと測定した(
図18d)。フルオレセインコンジュゲートを用いて、本発明者らはまた、MDM2の定義された疎水性ポケット(B.Anilら、Acta Crystallogr.Sect.D Biol.Crystallogr.2013、69、1358~1366頁)に結合し、nutlinベースの臨床候補の前駆体であるNutlin-3aとの競合実験も実施した。2つのリガンドは競合しなかったが、このことは、大環状分子が異なる部位に結合し、新たな阻害メカニズムを有する可能性があることを示唆している(
図29)。直交法としての表面プラズモン共鳴(SPR)による大環状分子の結合測定を繰り返したところ、Kdは600±300nM(M6)、550±190nM(M7)、169±93nM(M8)、および29±14nM(M10)であることが示され、FPアッセイで確認された親和性範囲を確認した(
図18eおよび
図30)。
【0144】
3.9 結論
本明細書には、活性化カルボン酸のアコースティック分注を使用した、ピコモルスケールで大環状骨格を多様化するための方法が記載されている。SPPSから出発して、わずか4日間で、粗反応混合物としての数千もの多様な大環状分子が得られた。次いで、これらの混合物は、タンパク質標的に対して直接スクリーニングされ、阻害剤が首尾よく同定された。ナノリットル容量のアシル化反応は頑強であり、多くの異なるカルボン酸および大環状分子において生成物への高い変換率を生じた。予期せぬ副生成物は観察されなかった。本発明者らの自動化されたプラットフォームにより、この最終多様化ステップを1時間以内に実施できるようになった。これは、手間のかかる精製が必要な従来の大環状ライブラリーの合成とは対照的である。アコースティック分注はこれまで合成に使用されてきたが、スクリーニング化合物の直接合成というよりはむしろ、合成反応範囲の精緻化に限られてきた。本発明者らのスモールスケールの反応は、それらの比較的高い純度から、同じマイクロタイタープレート内でタンパク質標的に対する大環状分子の直接スクリーニングが可能となった。これらのスクリーニングから阻害剤を同定できること、および観察された活性が不純物ではなく所望の生成物によるものであることが証明された。粗混合物のスクリーニングは、文献では依然として限られている。本発明者らは、同じスケールの、または特に大環状分子に関連した既存のいかなる取り組みについても知らない。本発明者らの方法の手軽な性質を考えると、多くのタンパク質標的のスクリーニングに適用できるはずである。さらに、多くの様々な化学反応はADEに基づく多様化に利用され得る。アミド結合形成は、その簡易さと、粗スクリーニングの反応としてのこれまでの使用から、最初の例として選択された。本発明者らによって合成された最大のライブラリーは20,000個の大環状分子であったが、数十万個まで比較的容易に拡張することができた。今後より多くのリード様化合物を生成するために、この方法は、非還元性結合を介して環化された骨格構造に適用され得る。ライブラリーの薬物様特性をさらに高めるため、ビルディングブロックセットをアミノ酸以外にも拡張することができる。この方法を使用して、臨床候補を開発することが望まれる、より治療に関連した標的をスクリーニングすることができる。
【0145】
3.10 補足結果
M1との複合体化したヒトα-トロンビンの全体構造
ヒトα-トロンビンは、ジスルフィド架橋(H鎖のCys122とL鎖のCys1)を介して共有結合した36アミノ酸残基(軽鎖)と259アミノ酸残基(重鎖)の2本のポリペプチド鎖から構成される。α-トロンビン(軽鎖および重鎖)および大環状分子M1によって形成された結晶のX線構造解析では、ヒトα-トロンビンの重鎖および軽鎖のほぼ同一の4つのコピーが非対称ユニットにあることが示された。α-トロンビンの4つの軽鎖/重鎖は、A/B、C/D、E/F、およびH/Lと称する。H/Lの構造がすべての計算と構造図の作成に使用された。ヒトα-トロンビンの軽鎖は、Glu1CからIle14Kまで明確に追跡され得る。アミノ末端残基(Thr1HからGly1D)およびカルボキシル末端残基Asp14L(軽鎖CおよびEを除く)、Gly14MおよびArg15は明確でなく、フーリエマップでは見えない。重鎖の電子密度は、表面のフレキシブルな自己分解ループの一部である数個のアミノ酸を除き(Trp148からVal149C)、すべての残基ではっきりと見ることができる。カルボキシル末端残基Glu247は、適切な電子密度が欠如している。わずかな違いは、フレキシブルで、あまり明確でないループのレベルで、または露出した周辺側鎖の方向で生じる。大環状分子に結合したヒトα-トロンビンの全体構造は、アポ型であっても阻害剤との複合体であっても、他のヒトα-トロンビン構造と比較した場合に主骨格の顕著な再配列はいずれも見られない。
【0146】
大環状分子M1の全体構造
大環状分子M1の電子密度は十分に定義されており、非対称ユニットに存在する4つのタンパク質複合体すべてについて基の配向を明確に割り当てることができる。M1の原子の番号付与を
図26bに示す。古典的な二次構造要素および非共有結合性分子内相互作用は、大環状分子には確認されない。この分子は、触媒ポケットの形状によく適合するイスのような立体構造をとっているように思われる。
【0147】
ヒトαトロンビンとM1の相互作用
M1大環状分子は、活性部位と400.5Å2のタンパク質表面を覆うその周囲の基質ポケットによって形成された間隙に良好に適合する(N.Vossら、Nucleic Acids Res.2010、38、W555~W562頁)。大環状分子の立体構造と相互作用は、非対称ユニットに存在する4つのトロンビン分子の4つの活性部位において同等である。M1とヒトα-トロンビンの相互作用の大部分は、一次特異性S1ポケットに収まる5-クロロチオフェン-2-カルボキサミド官能基によって媒介される。この基は、Gly219の主鎖(M1 N7とGly219 O)と、M1の酸素09とGly193 Nの主鎖窒素およびSer195の主鎖窒素を架橋するH2O分子との水素結合によってポケットに捕捉される。5-クロロチオフェン-2-カルボキサミドは、Cys191(M1 09とCys191 O)、Glu192(M1 09とGlu192 N)、Gly216(M1 N7とGly216 OおよびM1 S15とGly216 N)、Trp215(M1 S15とTrp215 N)近傍の主鎖、ならびにCys220の側鎖(M1 N7とCys220 S)との極性接触のネットワークにさらに関与している。塩素原子5-クロロチオフェン-2-カルボキサミド官能基は、S1ポケットの底部を向いており、そこでTyr228の芳香環とのハロゲン芳香族π相互作用(4.0Å)を形成しているようである。M1の主鎖窒素N4および酸素O17は、それぞれ、Gly216の主鎖酸素(Gly216 O)およびGly216の窒素(Gly216 N)と水素結合を形成する。さらに、M1の主鎖窒素N4および酸素017は、それぞれ、Gly219の主鎖窒素(Gly219 N)およびGly216の酸素(Gly216 O)と極性接触を形成し得る。同様に、M1の主鎖窒素N18は、Glu192の側鎖カルボキシル基(Glu192 OE1およびOE2)と2つの極性接触を形成し得る。最後に、H2Oの1分子がM1の主鎖窒素N27とGlu97Aの主鎖酸素(Glu97A O)を架橋する。重要なことは、M1のヒトα-トロンビンへの結合は、隣接する酵素残基の主鎖および側鎖による複数の疎水性接触によって媒介されることである。ジスルフィド架橋S21-S22を含む大環状骨格(C20-C24)は、残基His57、Tyr60A、Trp60D(近位S2ポケット)およびLeu99(遠位S3ポケット)の側鎖によって形成された疎水性ケージに向かって横たわっている。バリン側鎖(C28-C31)は、Ile174とTrp215によって形成された疎水性ポケットに向かって環の反対側を曲げる。最後に、C35-C40のフェニル環がトロンビンループ(Gly216-Cys220)の上部にのびる。
【0148】
3.11 補足材料および方法
一般的な検討事項
特に明記のない限り、すべての試薬は市販の供給元から購入し、さらに精製を行うことなく使用した。溶媒は無水ではなく、使用前に乾燥させてもいない。以下の略語を使用する:DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、NMM(4-メチルモルホリン)、HBTU(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-ウロニウム-ヘキサフルオロホスフェート)、HATU(N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム-ヘキサフルオロホスフェート)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸)。
【0149】
モデル足場1の合成
環状ペプチドモデル足場1は、既に記載されている環状ジスルフィド遊離方策(CDR)を使用して合成した(S.Habeshianら、ACS Chem.Biol.2022、17、181~186頁)。直鎖状ペプチド前駆体は、Rapp Polymere HA40004.0 ポリスチレンA SH樹脂(200~400メッシュ)、0.95mmol/グラムの充填樹脂およびHabeshian,S.ら、20222に記載されている以下の手順を使用して、5mlポリプロピレン合成カラム(MultiSyntech GmbH、V051PE076)中、25μmolスケールで合成した。ペプチドは以下のようにして遊離した。側鎖を脱保護するため、樹脂を2mlの38:1:1 TFA/TIS/ddH2O v/v/vと1時間インキュベートし、次いで5×4mlのDCMで洗浄した。環状ペプチドを遊離するため、樹脂を、150mMのDIPEA(6当量)を含有する1mlのDMSOで一晩処理した。樹脂を濾過により除去した。粗混合物を、Waters HPLCシステム(2489 UV検出器、2535ポンプ、フラクションコレクターIII)、19mm×250mmのWaters XTerra MS C18 OBD Prep Column C18カラム(細孔125Å、粒子10μm)、溶媒系A(H2O、0.1% v/v TFA)および溶媒系B(MeCN、0.1% v/v TFA)、および30分間かけた0~25%溶媒Bの勾配を使用するRP-HPLCによって精製した。モデル足場を含有する分画を凍結乾燥し、40mMの濃度に達するようにDMSOに溶解した。
【0150】
試薬のピペット操作によるモデル足場1のアシル化
モデル足場は、40nmolスケールで、以下のように4μl容量でアシル化した。足場(DMSO中40mMストックの20μl)に塩基(DMSOに溶解した160mMのDIPEA 20μl)を補充し、混合物2μlをPCRプレートのウェルに移した。カルボン酸は、160mMのDIPEAを含有するDMSO中の160mMストックとして調製した。等量のHBTU(DMSO中160mM)をそれぞれの酸ストックに添加し、得られた活性エステル(80mM)2μlを同じPCRプレートに加えた。反応を室温で3時間進行させた。この後、反応液1μlを、99mlの100mM Tris-HCl水溶液pH7.5に移し、6時間インキュベートし、活性化酸をTrisでクエンチし、反応液をLC-MSにより分析した。
【0151】
アコースティック試薬移送によるモデル足場1のアシル化
モデル足場は、以下のように80nlの容量で、800pmolスケールでアシル化した。足場1(DMSO中40mMストックの20μL)に、塩基(DMSOに溶解した、20μLの160mM DIPEA、20μLの160mM DABCO、20μLの160mM HEPESナトリウム塩、または20μLの1M NMM)を補充し、10μlの混合物をECHOソースプレート(Labcyte Echo Qualified 384ウェル・ロウデッドボリュームマイクロプレート)に移した。ソースプレート中の濃度は、20mMのモデル足場および80mMのDIPE(4当量)、または80mMのDABCO(4当量)、または800mMのNMM(40当量)であった。カルボン酸は、160mMのDIPEA、160mMのDABCO、または1MのNMMのいずれかを含有するDMSO中の160mMストックとして調製した。等量のHBTU(DMSO中160mM)を各酸ストックに添加し、活性エステル(80mM)を同じソースプレートに加えた。ソースプレートを3分間950g(Thermo Heraeus Multifuge 3L-R遠心機で2,000rpm)で遠心分離し、潜在的な気泡を除去した。Labcyte Echo 650アコースティックディスペンサーを使用して、40nlのモデル足場1(800pmol)をNunc 384ウェル低容量ポリスチレンプレートに移し、続いて40nlの活性エステル(3.2nmol、4当量)を移した。LC-MS分析に十分な材料を得るため、移送は二連で実施した。プレートを密閉し、反応を6時間室温で進行させた。この後、8μlの100mM Tris-HCl水溶液(pH7.5)を二連反応物のそれぞれに添加し、二連反応物をプールし、3時間インキュベートし、活性化酸をTrisでクエンチし、反応物をLC-MSにより分析した。
【0152】
アコースティック試薬移送によるモデル足場2~5のアシル化
Enamine社から購入したモデル足場2~5は、1.1~1.2mgの粉末として得た。足場を62~88μlのDMSOに溶解し、40mMのストックを得た。足場を、上記のモデル足場1について説明したように、DABCOを塩基として使用してアシル化したが、以下が異なる:反応時間が6時間。LC-MS分析の前に、720nlのDMSOを各ウェルに分注し、次いで7.2μlの100mM Tris-HCl水溶液(pH7.5)を分注した。クエンチングを一晩行った。
【0153】
足場とアミノ酸配列の設計
ライブラリー1に使用した環状ペプチドの足場は、アミノ酸配列をランダムに選択することにより調製した。選択した足場フォーマットとアミノ酸ビルディングブロックに基づいて理論的に生成され得る様々な配列の数は、以下に説明するように、ライブラリー1で合成された足場の数(384)よりもはるかに多かった。
【0154】
ライブラリー1の理論上の足場の数:
・ジアミノ酸を含有する足場:3,240
足場フォーマットの数(6)×ジアミノ酸の数(6)×骨格アミノ酸の数(6)×側鎖アミノ酸の数(15)
・システインを含有する足場:540
足場フォーマットの数(6)×骨格アミノ酸の数(6)×側鎖アミノ酸の数(15)。
【0155】
384個のアミノ酸配列をランダムに選択するために、すべてのビルディングブロックに英数字の識別子を割り当て、可能なすべての順列を手作業で列挙した。ペプチドには1~3,780の番号が割り当てられた。次いで、ランダムシーケンスジェネレーター(https://www.random.org/sequences/)を使用し、番号を並べ替え、最初の384個を合成用に選択した。
【0156】
ライブラリー合成用のポリスチレン-S-S-システアミン樹脂の調製
以下の手順を適用して、ライブラリー1(トロンビンスクリーニング)の足場の合成に必要な、4×96ペプチドを4枚の96ウェルプレートにおいて5μmolスケールで合成するためのポリスチレン-S-S-システアミン樹脂を調製した。4本のそれぞれの20mlプラスチックシリンジ(CEM、99.278)に、589mgの樹脂(Rapp Polymere HA40004.0 ポリスチレンA SH樹脂、200~400メッシュ)を、0.5mmolスケールに相当する0.85mmol/グラムの充填で加えた。樹脂を15mLのDCMで洗浄し、次いで15mlの3:7 MeOH/DCM v/v中で20分間膨潤させた。2-(2-ピリジニルジチオ)-エタンアミン塩酸塩(1.96グラム、8.8ミリモル、4.4当量)を21.12mlのMeOHに溶解し、次いで49.28mlのDCMおよび1.53mlのDIPEAを添加した。17.7mlのこの溶液を各シリンジに入れ、次いでこれを室温で3時間振盪した。この後、2-(2-ピリジニルジチオ)-エタンアミン溶液を廃棄し、樹脂を2×20mlの3:7 MeOH/DCM v/vで洗浄し、次いで2×20mlのDMFで洗浄した。樹脂をDMF中の懸濁液として単一シリンジにまとめ、次いでDMF中の1.2M DIPEA溶液11.8mlで5分間洗浄し、すべてのアミンが確実に中性であるようにした。この溶液を廃棄し、樹脂を2×20mlのDMFで洗浄し、4×20mlのDCMで洗浄した後、真空下で一晩保持し、流動性粉末を得た。ライブラリー用足場(MDM2スクリーニング)の合成においては、樹脂の装填量は0.95ミリモル/グラムであり、したがって526mgの樹脂を2本のそれぞれのシリンジに加えた。
【0157】
96ウェルプレートにおけるペプチドライブラリー合成
自動固相ペプチド合成をIntavis Multipep RSi合成装置で実施した。トロンビンライブラリーについては、50mlチューブに、565mgのポリスチレン-S-S-システアミン樹脂(チオール基がシステアミンで定量的に修飾されたと仮定した0.48mmolのシステアミン)および20mlのDMFを加えた。MDM2ライブラリーについては、505mgの官能基化樹脂を代わりに加えた。樹脂が確実に均一に懸濁するようにチューブを振盪し、200μl(5.88mg樹脂、5μmol)を96ウェル固相合成プレート(Orochem OF 1100)の各ウェルに移した。樹脂を6×150μlのDMFで洗浄した。カップリングは、53μlのアミノ酸(500mM、5.3当量)、50μlのHATU(500mM、5当量)、12.5μlのN-メチルモルホリン(4M、10当量)、および5μlのN-メチルピロリドンで実施した。すべての成分を1分間事前混合し、次いで樹脂に加えた(1時間反応、振盪なし)。カップリング反応の最終容量は120.5μlであり、試薬の最終濃度は220mMのアミノ酸、208mMのHATUおよび415のN-メチルモルホリンであった。カップリングを2回実施し、次いで樹脂を6×225μlのDMFで洗浄した。Fmoc脱保護は、120μlの1:5ピペリジン/DMF v/vを使用して5分間実施し、2回実施した。樹脂を8×225μlのDMFで洗浄した。ペプチド合成の最後に、樹脂を2×200μlのDCMで洗浄した。
【0158】
ライブラリー側鎖保護基の除去
側鎖保護基を除去するため、96ウェル合成プレートの底を、柔らかい厚さ6mmのエチレン-酢酸ビニル発泡パッド(Rayher Hobby GmbH、78 263 01)上にプレートを押し付けることにより密閉し、各ウェルの樹脂を約500μlの38:1:1 TFA/TIS/ddH2O v/v/vと1時間インキュベートした。プレートをポリプロピレン粘着シールで覆い、次いで重り(1kg)を上に載せることにより加重し、漏れが生じないようにした。1.5時間後、合成プレートを2mlのディープウェルプレート(Thermo Scientific、278752)上に置き、TFA混合物を排出させた。ウェルを3×500μlのDCM(シリンジで添加)で洗浄し、次いで3時間風乾させた。
【0159】
96ウェルプレートにおけるライブラリーペプチドのライブラリー環化的遊離
プレートを上記のように発泡パッドに押し付けて開口部を塞ぎ、DMSO中の150mM DABCO(6当量)の200μlを各ウェルに添加した。プレートを接着ホイルで密封し、加重し(1kg)、一晩置いた。翌日、合成プレートを2mlのディープウェルプレート(Thermo Scientific、278752)上に置き、約200g(Thermo Heraeus Multifuge 3L-R遠心分離機で1,000rpm)で1分間遠心分離を行い、DMSO中の切断された大環状分子を回収した。
【0160】
吸収によるライブラリーペプチドの定量
吸光度測定は、Nanodrop 8000分光光度計(Thermo Scientific社)を使用し、10mmの光路長を使用し、280nmの波長で実施した。TrpおよびD-Trpを含有する切断されたペプチドを、トロンビンライブラリーについては、水で250倍希釈し、MDM2ライブラリーについては、水で125倍希釈した。Beer-Lambertの法則を使用してペプチドの濃度を算出した。吸光係数Trp ε280=5,500M-1cm-1を使用した。
【0161】
LC-MS分析
ペプチドは、C18逆相カラム(Phenomenex Kinetex 2.1mm×50mm C18カラム、100Å細孔、2.6μm粒子)および溶媒A(H2O、0.05%ギ酸)に対する溶媒B(アセトニトリル、0.05%ギ酸)の線形勾配を用いて1ml/分の流速で行うUHPLCおよびシングル四重極MSシステム(Shimazu LCMS-2020)でLC-MS分析により分析した。質量分析は陽イオンモードで実施した。
【0162】
LC-MS分析のために、様々な実験のサンプルを以下のように調製した。アシル化の概念実証反応を分析するために、160nlの反応混合物を16μlのTris-HClバッファーpH7.5で希釈して、ペプチド濃度100μMを得た。ライブラリー1用に合成された足場を分析するために、1μlのDMSO/DABCO溶出液を80μlの水で希釈して、約120μMの環状ペプチド濃度を得た。ライブラリー2用に合成された足場を分析するために、1μlのDMSO/DABCO溶出液を128μlの水で希釈して、約120μMの環状ペプチド濃度を得た。すべての分析において、5μlのサンプルは、典型的には、5分かけて溶媒Bの0~60%勾配を使用し、注入した。
【0163】
大環状分子の物理化学的特性の計算
物理化学的特性の分子量、計算した水/n-オクタノール分配係数(cLogP)、水素結合供与体(HBD)の数、水素結合受容体(HBA)の数、極性表面積(PSA)、および回転可能な結合の数(NRotB)は、DataWarriorソフトウェア(www.openmolecules.org)を使用して計算した。足場とカルボン酸の構造はChemDrawで描画され、1つは足場用、もう1つは酸用として、SMILES文字列としてSDファイルに保存した。SDファイルは両方とも、DataWarriorで開く。「コンビナトリアルライブラリーを列挙する」機能を使用して、大環状骨格とカルボン酸の間の所望のアミド結合形成反応を定義した。以下の定義を行った:アミドは「除外基」として定義した。窒素原子は、芳香環の一部ではなく、0より大きい水素原子数を有するものとして定義した。アミンの隣の炭素原子は芳香族ではなく、パイ電子を含まないものとして定義した。次いで、出発物質と生成物の原子をマッピングした。コンビナトリアル列挙後に、構造から所望の特性を計算した。
【0164】
ライブラリー1を生成するための足場のアシル化
ペプチドを樹脂から遊離させるために使用した溶媒(150mMのDABCOを含有するDMSO)中の環状ペプチド足場を、Labcyte Echo Qualified 384ウェル・ロウ・デッド・ボリューム・マイクロプレート(1ウェルにつき10μl)に移した。環状ペプチド足場の濃度は、平均で約8.1mMであった。カルボン酸を、160mMのDABCOを含有するDMSOに160mMまで溶解した。等量のHBTU(DMSO中に160mM)を各酸のストックに添加した。活性エステル(80mM)を別のロウ・デッド・ボリュームソースプレートに加えた。このソースプレートを850g(Thermo Heraeus Multifuge 3L-R遠心分離機による2,000rpm)で3分間遠心分離を行い、潜在的な気泡を除去した。Labcyte Echo 650アコースティックディスペンサーを使用して、20nlの足場(160pmol)を384ウェル低容量ポリスチレンプレート(Nunc、264705)に移し、続いて20nlの活性エステル(1.6nmol、10当量)を移した。プレートを密閉し、反応を6時間、室温で進行させた。この後、5μlのTrisバッファー(100mM Tris-Cl、pH7.5、150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM CaCl2、0.1% w/v BSA、0.01% v/v Triton-X100)を各ウェルにBioTek MultiFlo社のマイクロプレートディスペンサーを使用して分注した。反応を室温で一晩クエンチした。
【0165】
トロンビン阻害スクリーニング
ライブラリー1の大環状分子によるトロンビン阻害は、平均最終濃度11μMの環状ペプチドの存在下でのトロンビンの残存活性を測定することにより評価した。アッセイは、384ウェルプレートで、pH7.4のTrisバッファー(100mM Tris-Cl、150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM CaCl2、0.1% w/v BSA、0.01% v/v Triton-X100、および0.6% v/v DMSO)を使用し、最終濃度2nMのトロンビンおよび最終濃度50μMの蛍光発生基質Z-Gly-Gly-Arg-AMCを用いて実施した。上記のTris-Clバッファー中のトロンビン(5μl、6nM)は、BioTek MultiFlo社マイクロプレートディスペンサーを使用して各ペプチドに添加し、室温で10分間インキュベートした。同じバッファー中の蛍光基質(5μL、150μM)を、BioTek MultiFlo社マイクロプレートディスペンサーを使用して添加し、蛍光強度をTecan Infinite社のM200 Pro蛍光プレートリーダー(360nmで励起、465nmで発光)を用いて、25℃で30分間、3分ごとに読み取ることにより測定した。各活性測定曲線の傾きは、Excelで計算した。陰性対照(DMSOを含有するが大環状分子は含有しない20ウェル)については、平均傾きを算出した。トロンビン阻害のパーセントは、傾きを割って、100を乗じることにより算出した。
【0166】
ライブラリー2を生成するための足場のアシル化
ペプチドを樹脂から遊離させるために使用した溶媒(150mM DABCOを含有するDMSO)中の環状ペプチド足場を、Labcyte Echo認定384ウェル・ポリプロピレンマイクロプレート(1ウェル当たり40μL)に移した。環状ペプチド足場の濃度は、平均で約12.9mMであった。カルボン酸をDABCOの184mM DMSO溶液に184mMまで溶解した。等量のHBTU(DMSO中に184mM)を各酸のストックに添加した。活性エステル(92mM)を同じポリプロピレンソースプレートに添加した。このソースプレートを、950g(Thermo Heraeus Multifuge 3L-R遠心分離機で2,000rpm)で3分間遠心分離を行い、潜在的な気泡を除去した。Labcyte Echo 650アコースティックディスペンサーを使用して、12.5nlの大環状分子(161pmol)を、384ウェル低容量ポリスチレンプレート(Nunc、264705)に移し、続いて17.5nlの活性エステル(1.61nmol、10当量)を移した。プレートを密閉し、反応を6時間、室温で進行させた。この後、5μmlのTrisバッファーを、Gyger Certus Flex液体ディスペンサーを使用して各ウェルに分注し、反応を一晩、室温でクエンチした。
【0167】
MDM2結合スクリーニング
環状ペプチドによるMDM2結合は、平均最終濃度11μMの環状ペプチドの存在下での蛍光p53ペプチドプローブの置換を測定することによって評価した。アッセイは、384ウェルプレートで、pH7.4のPBSバッファー(100mM Na2HPO4、18mM KH2PO4、137mM NaCl、2.7mM KCl、0.01% v/v Tween-20、および3% v/v DMSO)、最終濃度1.2μMのMDM2、および最終濃度25nMの蛍光p53ペプチドプローブ(FP53、配列=5(6)-FAM-GSGSSQETFSDLWKLLPEN)を使用して実施した。上述のPBSバッファー中で事前混合したMDM2およびFP53(10μl、1.8mM MDM2、37.5nM FP53)を、Gyger Certus Flex液体バルクディスペンサーを使用して各ペプチドに添加し、30分間、暗所で室温にてインキュベートした。蛍光異方性の1回の読み取りは、Tecan Infinite F200 Pro蛍光プレートリーダー(485nmで励起、535nmで発光)を使用して25℃で行った。プローブ置換のパーセンテージは、次式
【0168】
【0169】
(式中、Nは陰性対照(阻害なし)の平均異方性であり、Xは各ウェルについて得られた値であり、Pはプローブのみの平均異方性である)を使用して算出した。
ヒットからの反応における活性種の特定
トロンビンスクリーニングにおいてヒットとして同定された大環状分子は、150mMのDABCOを含有するDMSO中の8mM環状ペプチド足場5μlを、80mMのカルボン酸、80mMのHBTUおよび80mMのDABCOの5μlと5時間、室温で反応させることにより、40nmolスケールで再合成した。残存する活性化エステルを、1.25mlのTrisバッファー(100mM Tris-Cl、150mM NaCl、10mM MgCl2、1mM CaCl2)を添加し、一晩インキュベートすることによりクエンチした。翌日、240μlのMeCNおよび1mlの水を添加し、反応は、溶媒A(H2O、0.1% v/v TFA)および溶媒B(MeCN、0.1% v/v TFA)の10~80%勾配を20分間使用するThermo Dionex HPLC上のC18カラム(7.8mm×300mm Waters NovaPak C-18カラム、60Å細孔、6μm粒子)上で実施し、分画を毎分回収した。分画を凍結乾燥し、2%のDMSO水溶液120μlに溶解した。分画中の生成物の活性は、96ウェルプレート以外は、上記と同じアッセイを使用して測定した。各分画の50μlを96ウェルアッセイプレート(Greiner、655101)に移し、続いて50μlのトロンビン(バッファー中6nM)を移した。10分間インキュベーションした後、50μlの蛍光発生トロンビン基質(Z-Gly-Gly-Arg-AMC、バッファー1%DMSO中150μM)を添加し、プレートを読み取り、データを上記のように処理した。活性分画中の化合物は、質量分析により同定した。
【0170】
MDM2スクリーニングからのヒットについては、50nmolスケール以外は同じ方法で反応を実施し、溶媒Bの10~80%勾配および22分間かけること以外は同じ方法で精製した。分画を凍結乾燥し、40μlのDMSOに溶解し、160μlの水を添加し、5μlの各分画を384ウェルプレート(Nunc、264705)に移し、15μlの事前混合したMDM2/FP53ペプチドを加えた(最終濃度:1.2μM MDM2、50nM FP53、5%DMSO)。
【0171】
M1によるトロンビンの結晶化
ヒトα-トロンビンは、Haematologic Technologies社から購入した(カタログ番号:HCT-0020)。タンパク質安定化剤は、20mMのTris-HCl、200mMのNaCl、pH8.0、および溶媒としての同じバッファーで平衡化したPD-10脱塩カラム(GE Healthcare社)を使用して除去した。バッファー交換したヒトα-トロンビンを、大環状分子M1とモル比1:3でインキュベートし、続いて3,000MWCO Vivaspin限外濾過装置(Sartorius-Stedim Biotech GmbH社)を使用して、7.5mg/mlまで濃縮した。さらに、M1大環状化合物を濃縮中に添加し、確実に3倍モル過剰が保持されるようにした。複合体の結晶化試験は、96ウェル2滴MRCプレート(Hampton Research社、CA、米国)において293Kで、シッティング・ドロップ蒸気拡散法とMorpheusおよびLMB結晶化スクリーン(Molecular Dimensions Ltd社、サフォーク、英国)を使用して実施した。600nl容量の液滴(1:1のタンパク質:沈殿剤比で)は、Oryx 8結晶化ロボット(Douglas Instruments Ltd社、バークシャー、英国)を使用して設定し、80μlのリザーバー溶液に対して平衡化した。最良の結晶は、沈殿剤として以下の混合物を使用し、2~3日間平衡化させた新鮮な液滴にマイクロシーディングを適用することによって得た:20mMのギ酸ナトリウム、20mMの酢酸アンモニウム、20mMのクエン酸三塩基性二水和物、20mMの酒石酸ナトリウムカリウム四水和物、20mMのオキサム酸ナトリウム、100mMのMOPS/HEPESナトリウム pH7.5、12.5% w/v PEG 1000、12.5% w/v PEG 3350、12.5% v/v MPD。
【0172】
結晶化、データ収集および構造決定
X線データを収集するため、結晶をLithoLoops(Molecular Dimensions Ltd社、サフォーク、英国)にマウントし、液体窒素で瞬間冷却した。M1と複合体化したヒトα-トロンビンのX線回折データは、Diamond Light Source Ltd社(DLS、オックスフォードシャー、英国)のi04ビームラインで収集した。最良の結晶は、最大解像度2.27Åまで回折した。結晶はP21空間群に属し、単位格子の寸法は、a=56.25Å、b=100.57Å、c=108.90Å、α=90°、β=90.11°、γ=90°である。非対称ユニットは4つの分子を含有し、2.78Å3/DaのMatthews係数と結晶体積の約48%の溶媒含量に相当する。フレームは、ソフトウェアXIA2でインデックス付けと統合が行われ、AIMLESS(CCP4i2結晶学パッケージ)でマージとスケーリングを行った(M.Winnら、Acta Crystallogr.D 2011、67、235~242頁)。構造は、モデル6GWE(S.Kaleら、Sci.Adv.2019、5、eaaw2851)をテンプレートとして使用して、ソフトウェアPHASER(A.McCoyら、J.Appl.Crystallogr.2007、40、658~674頁)を用いた分子置換により解明した。精密化は、REFMAC(A.Vaginら Acta Crystallogr.D 2004、60、2184~2195頁)およびPHENIX(P.Adamsら、Acta Crystallogr.D 2010、66、213~221頁)を使用して行った。精密化の最初のサイクルから、結合したリガンドに対応する幅広い電子密度が電子密度マップで明確に認識された。大環状分子のビルディングはMolviewによって実施され、拘束ファイルはPhenix eLBOWによって生成および最適化された。大環状分子は、グラフィックソフトウェアCOOTにより手動でフィッティングした(P.Emsleyら、Acta Crystallogr.D 2010、66、486~501頁)。最終モデルには、9,098個のタンパク質原子、160個の大環状原子、4個のNa+原子、および399個の水分子が含まれている。最終的な結晶学的Rファクターは、0.189(Rfree0.243)に達した。モデルの幾何学的パラメーターは、この解像度で予想通りであるか、より良好である。溶媒排除容積および対応する埋没表面は、PISAソフトウェアおよび半径1.4Åの球状プローブを使用して算出した。分子内および分子間の水素結合相互作用は、PROFUNC(R.Laskowskiら、Nucleic Acids Res.2005、33、W89~W93頁)、LIGPLOT+(R.Laskowskiら、J.Chem.Inf.Model.2011、5、2778~2786頁)、およびPYMOLソフトウェアにより解析した。
【0173】
ライブラリー3および4を生成するための足場のアシル化
ライブラリー3および4に必要な環状ペプチド足場は、ライブラリー2において使用したものについて説明したように合成した。カップリングがより困難なN-メチル化アミノ酸が多く存在するため、200mMのHOAtをHATUと一緒に適用した。足場をDMSOで2mMに希釈し、アコースティック分注を使用して15nLを移し、続いてカルボン酸(40mM、20当量)、HBTU(40mM)およびDABCO(40mM)を含有する15nlのDMSOを移した。室温で6時間反応させた後、370nlのDMSOを各ウェルに添加し、続いて0.01% v/vのTween20を含有する5μlの100mM Tris-Cl pH7.4を添加して一晩クエンチした。MDM2結合スクリーニングについては、MDM2に対する親和性が高いことから、F-M8を蛍光プローブとして使用し、標的タンパク質を低濃度(720nM、約55%の結合プローブ)で使用することができるようにした。35μl容量のpH7.4のPBSバッファー(100mMのNa2HPO4、18mMのKH2PO4、137mMのNaCl、2.7mMのKCl、28.6nMのF-M8と823nM MDM2を含有する0.01% v/v Tween-20)をそれぞれのウェルに添加し、レポータープローブの置換を上記のようにして決定した。大環状分子の濃度は、750nMであった。
【0174】
mgスケールでの大環状分子の合成
自動固相ペプチド合成は、Intavis Multipep RSi合成装置で実施した。5mlシリンジ(MultiSyntech GmbH、V051 PE076)に25μmolのポリスチレン-S-S-システアミン樹脂を加えた。樹脂を6×150μlのDMFで洗浄した。カップリングは、210μLのアミノ酸(500mM、4.2当量)、200μLのHATU(500mM、4当量)、50μLのN-メチルモルホリン(4M、8当量)、および5μLのN-メチルピロリドンを用いて実施した。すべての成分を1分間事前混合し、次いで樹脂に添加した(1時間反応、振盪なし)。カップリング反応の最終容量は465μlであり、試薬の最終濃度は226mMのアミノ酸、215mMのHATUおよび430のN-メチルモルホリンであった。カップリングを2回実施し、次いで樹脂を2×600μlのDMFで洗浄した。Fmoc脱保護は、450μlの1:5 ピペリジン/DMF(v/v)を使用して5分間実施し、これを2回実施した。樹脂を7×600μlのDMFで洗浄した。ペプチド合成の最後に、樹脂を2×600μlのDCMで洗浄した。
【0175】
SPPSの後、樹脂を2mlの38:1:1 TFA/TIS/ddH2O v/v/vと1時間インキュベートした。TFA溶液を廃棄し、樹脂を5×4mlのDCMで洗浄した。3時間風乾した後、DMSO中の150mM DIPEAの1mlを吸引し、シリンジを室温で一晩振盪した。翌日、DMSO溶液を50mLのコニカルチューブに押し入れた。
【0176】
カルボン酸を、典型的には、DMSO中の事前混合した酸(100mM、2当量)、HBTU(100mM)およびDABCO(100mM)の500μlを添加することによりカップリングした。室温で3時間後、水8mlを添加し、チューブを凍結し、次いで2日間凍結乾燥してDMSOを除去した。チューブの内容物を3mlのMeCNに溶解し、続いて7mlの水を添加した。
【0177】
粗混合物は、Waters HPLCシステム(2489 UV検出器、2535ポンプ、Fraction Collector III)、19mm×250mm Waters XTerra MS C18 OBD Prepカラム(125A細孔、10μm粒子)、溶媒系A(H2O、0.1% v/v TFA)およびB(MeCN、0.1% v/v TFA)、典型的には30分かけた30~70%溶媒Bの勾配を使用するRP-HPLCによって精製した。
【0178】
トロンビン阻害剤のKiの決定
精製トロンビン阻害剤(DMSO中10mM)を、0.1% w/vのBSA、0.01% v/vのTriton-X100および0.2%のDMSOを含有する125μlのTrisバッファー(100mMのTris-Cl、150mMのNaCl、10mMのMgCl2、1mMのCaCl2)で80mMに希釈した。大環状分子を、バッファー中に0.1% w/vのBSA、0.01% v/vのTriton-X100および1%のDMSOを含有するTrisバッファーで2倍に希釈した。トロンビン活性を96ウェルプレート(Greiner、655101)で測定し、スクリーニングヒットのHPLC分離分画の活性を測定するために使用されるアッセイで上記のようにして残存活性を算出した。残存活性は対応する大環状分子濃度のLogに対してプロットし、GraphPad Prism 6で以下の4パラメーター式を使用してシグモイド曲線をフィッティングした:
【0179】
【0180】
Ki値は、Cheng-Prusoffの式を使用してIC50値から決定した(トロンビンおよび適用した基質の場合Km=168μM):
【0181】
【0182】
MDM2結合性大環状分子のIC50の決定
MDM2大環状分子がタンパク質の50%についてレポーターペプチドを置換する濃度(IC50)を、上記の蛍光偏光競合アッセイで決定した。5μL容量の精製大環状分子(DMSO中20mM)を、低デッドボリュームECHOソースプレート内で、100%DMSOで2倍に段階希釈した。アコースティック液滴移送を使用して、各希釈液150nlを384ウェルの低容量ポリスチレンプレート(Nunc、264705)に移送した。1% v/vのDMSOを含有するPBSバッファーpH7.4(100mMのNa2HPO4、18mMのKH2PO4、137mMのNaCl、2.7mMのKCl、0.01% v/vのTween-20)中のMDM2/FP53プローブプレミックス(1.2μM MDM2、25nM FP53プローブ)の15μL容量を各ウェルに添加し、暗所で30分間インキュベートした。蛍光異方性は、上記のようにして測定した。結合した阻害剤のパーセンテージは、以下の式を使用して算出した。
【0183】
【0184】
式中、NはDMSO対照の平均異方性であり、Xは各ウェルで得られた異方性の値であり、Pは未結合プローブの平均異方性である。IC50は、対応する大環状分子濃度の対数に対して結合阻害剤のパーセントをプロットすることによって決定され、曲線を上記のようにGraphPad Prism 6でフィッティングした。
【0185】
フルオレセイン標識大環状分子の合成
フルオレセイン標識大環状分子は、本質的には、mgスケールの大環状分子の合成手順に記載されているようにして合成した。5(6)-FAMについては、手動カップリングを、すべてDMF中の4当量の酸(180mM、556μl)、4当量のHATU(500mM、200μl)、10当量のNMM(4M、62.5μl)を使用して実施した。カップリングを1×2時間実施し、次いで、前述のように洗浄した。
【0186】
FPによるフルオレセイン標識MDM2結合剤のKdの決定
フルオレセイン標識した大環状分子ストック(DMSO中20mM)は、0.5μlを999.5mlのPBSに添加することによって10μMの濃度に希釈した。これらの希釈液は、10μlを990μlのPBSに移すことにより100nMの濃度にさらに希釈し、7.5μlを384ウェル低容量ポリスチレンプレート(Nunc、264705)のウェルに移した。PBS中のMDM2の2倍希釈液7.5μL容量をウェルにピペットで加えた。蛍光大環状分子の最終濃度は50nMであった。プレートを室温の暗所で30分間インキュベートした後、蛍光異方性を、25℃でTecan Infinite F200 Pro蛍光プレートリーダー(485nmで励起、535nmで発光)で測定した。異方性を、対応するMDM2濃度の対数に対してプロットし、シグモイド曲線を上記のようにしてフィッティングした。
【0187】
チオエーテル結合を含むトロンビン阻害剤の合成
3つのアミノ酸およびC末端システアミンを含有する直鎖ペプチドを、50μmolスケールで、システアミン4-メトキシトリチル樹脂(Novabiochem 856087、200~400メッシュ、1% DVB、0.92mmol/グラム)を使用すること以外、mgスケールの環状ペプチドの合成について上述したようにして、自動化SPPSにより合成した。まだ樹脂上のこのペプチドに、4-ブロモ酪酸(500μL、500mM、10当量)を、活性化試薬としてのN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、500μL、500mM、10当量)と溶媒としてのDMFを使用して、手動でカップリングさせた。酸およびカップリング試薬を1分間事前混合し、次いで樹脂に添加した(1時間反応、振盪あり)。カップリング反応の最終容量は1mlであり、試薬の最終濃度は250mMのアミノ酸、250mMのDICであった。カップリングを2回実施し、次いで樹脂を4×4mlのDMFで洗浄し、次いで2×4mlのDCMで洗浄した。
【0188】
側鎖保護基の除去および切断は、2mlの38:1:1 TFA/TIS/ddH2O v/v/vと樹脂を振盪しながら1時間インキュベートすることにより実施した。この後、50mlの冷ジエチルエーテルを溶液に加え、ペプチドを沈殿させた。混合物を-20℃で30分間保存し、次いで3,800g(Thermo Heraeus Multifuge 3L-R遠心分離機で4,000rpm)で30分間、4℃で遠心分離を行った。エーテルをデカントし、ペプチドペレットを15分間風乾させた。
【0189】
ペプチドを50mlの新たに脱気した1:4の水/アセトニトリルに溶解し、200μl(1.15mmol、23当量)の純DIPEAを加えた。環化反応を室温で90分間進行させ、次いで凍結し、凍結乾燥した。
【0190】
カルボン酸14を以下のようにして結合した。大環状分子を、100mMのDABCOを含有する1mlのDMSOに再溶解させた。カルボン酸は、典型的には、DMSO中の事前混合した酸(100mM、2当量)、HBTU(100mM)およびDABCO(100mM)を500μL添加することによってカップリングした。室温で3時間後、8mlの水を添加し、チューブを凍結し、2日間凍結乾燥してDMSOを除去した。チューブの内容物を3mlのMeCNに溶解し、続いて7mlの水を添加した。粗混合物をRP-HPLCにより上記のようにして精製した。
【0191】
SPRによるMDM2結合剤のKdの決定
実験は、GE Healthcare社のBiacore 8K装置を使用して実施した。MDM2(10μg/mL)を10mMのMESバッファー(pH6.0)に溶解し、ランニングバッファー(10mMのPBS pH7.4、150mMのNaCl、3mMのKCl、および0.005% v/vのTween-20)中でEDC/NHSアミンカップリング条件を使用して、CM5シリーズSチップ(Cytiva、29104988)の3つのチャネルに固定化した。典型的には、固定化レベルは、6,000~7,000共鳴単位(RU)であった。参照セルは、MDM2を用いることなく同じ方法で処理した。結合動態および解離定数の測定については、大環状分子の5連続希釈液(3倍)とDMSOブランクをランニングバッファー(10mMのPBS pH7.4、150mMのNaCl、3mMのKCl、および0.005% v/vのTween-20、および0.5% v/vのDMSO)で調製し、接触時間と解離時間がそれぞれ120秒と60秒であるシングルサイクル・カイネティクスモードで分析した。
【実施例4】
【0192】
実施例4-ルール・オブ・ファイブのエッジにある大規模大環状化合物ライブラリーの合成およびスクリーニング
4.1. 結果
実施例1では、1(
図14b;システアミンとも呼ばれる)を、過剰のピリジルジチオエチルアミンとのジチオール交換反応によってチオール官能基化樹脂上に結合させた。ここでは、クロマトグラフィーによる精製ステップなしで合成することができ、より簡易に大量に合成できることから、活性化チオスルホネートを代わりに使用した。この目的のため、N-Bocアルキルハロゲンを得ることができるビルディングブロックを市販の業者を探し、ベンゼンチオノスルホン酸ナトリウムとの置換反応を行い、グラムスケールでBoc保護前駆体を優れた収率で得ることができた(87%定量、合成については材料および方法のセクションを参照されたい)。アミノハロゲンの市販品の入手が限られているにもかかわらず、シリカカラム精製を必要とすることなく、6つの新しい多様化ビルディングブロックが合成された。これらはさらに進展させることができ、高充填SH PS樹脂に直接充填して、樹脂上にジチオール架橋により固定化された2~7を得ることができた(
図15a)。
【0193】
ビルディングブロックが、自動FmocベースSPPSに適合し得るかどうかを試験するため、モデルのジチオールペプチド:MPA-Trp-Ala-(1~7)(MPA=3-メルカプトプロピオン酸)を96ウェルプレートフォーマットで合成した(
図15b)。合成およびTFA処理による保護基の除去の後、樹脂結合ペプチドを2×200μlの還元的遊離切断カクテル(1,4-ブタンジチオール(BDT)およびNEt3、両方ともDMF中100mM)とインキュベートした。ペプチドを樹脂から遊離させ、回転真空濃縮(RVC)によりDMFおよび揮発性BDTを除去した後にHPLC-MSで分析した。ペプチドは効率的に遊離され、LC-MSにより分析した。すべてのペプチドについて、所望の生成物が優れた品質で確認された(
図15c)。
【0194】
検討中の樹脂に結合した多様化要素を用いて、これらのフラグメントを大環状ライブラリーの合成に利用し、血液凝固経路に関与するトリプシン様セリンプロテアーゼに対する結合剤を追求した。トリプシン様セリンプロテアーゼの剪断量と様々な疾患におけるその役割から、これらのプロテアーゼは、このクラスのプロテアーゼに対する強力で特異的な阻害剤の開発に向けた重要な標的として機能する。この課題の複雑性は、正に荷電した残基を認識して切断するその能力と、S1ポケットの深くに埋め込まれた保存型アスパラギン酸塩により、このグループの多くのメンバーに共有される構造的同一性から生じる。したがって、このモデル系を強力で選択的な大環状阻害剤を開発することに使用することが期待されたが、それはこの結果が今後、環状ペプチド研究の他の部分に応用され得るからである。
【0195】
したがって、384個のジチオールペプチドを、96ウェル・フィルタープレートで自動SPPSにより5μmolスケールで調製した。ペプチドは、7つの異なる多様化要素(1~7)のうちの1つ、ランダムなアミノ酸(27の異なるα、β、γ、およびN-メチル化アミノ酸から)と、文献から公知であるS1ポケット結合モチーフからなるランダムに選択された配列を含有する3つの異なる足場(1a~c、
図16a)で合成された。
【0196】
ペプチドを固体支持体上で合成し、付随する保護基をTFAによる酸性処理によって除去した。続いて、ペプチドを還元的遊離によって樹脂から遊離させ、直鎖状ジチオールペプチドを得た。酸性化し、RVCによって揮発性還元剤を除去した後、ペプチドの濃度を、エルマン試薬を使用して測定した(平均濃度=24.9mM、ペプチドを均等に分散させる樹脂充填からの20%平均は7つの異なる誘導体すべてによる)。
【0197】
研究室での本発明者らの最新のアプローチは、アッセイの準備が整ったマイクロタイタープレートで直接使用するためのピコモルスケールでのライブラリーの調製に重点を置いた。化合物ライブラリーの調製は、複数の標的を一度にスクリーニングするために使用できるように構想したため、煩雑で手間のかかるピペット移送を必要とすることなく、大規模な化合物の調製を可能にしながら、なおも複数のリンカーで大規模な化合物の多様化を可能にするアプローチが必要であった。そのため、注目したのはアコースティック液滴放出(ADE)技術の分注の使用である。この技術は、主にnl容量の移送に利用されるが、さらに大きなμl容量をこのシステムの使用により移送することができるため、ピペット操作が不要になることが既に明らかにされている。したがって、40nmolの直鎖状ペプチドを、複数のEcho(登録商標)ADE対応384ポリプロピレン(PP)プレートに分注した(
図17)。還元されたジチオールペプチドは、DMSO中で溶解する際、ゆっくりと酸化を受けるので、DMF:BDT溶液をウェルに添加することによってペプチドを速やかに再還元し、酸性化とRVCの後、これをMeCN/NH4HCO3バッファー中で、7つの多様なリンカーを用いて直ちに環化した(選択については
図16Bを参照)。これは、直鎖状種を最初に可溶化し、続いてリンカー溶液を添加するという従来使用されている方法とは対照的である。新しい方法論は、発生する再酸化の量を最小限に抑え、より純粋な反応混合物をもたらす。最後に、過剰なリンカーをβ-メルカプトエタノール(β-ME)でクエンチした。
【0198】
4.2. 材料および方法
すべての試薬および溶媒は分析グレードのものであり、市販の供給業者から入手したものをさらに精製することなく使用した。反応は、シリカゲル被覆プレート(分析用SiO2-60、F-254)を使用する薄層クロマトグラフィー(TLC)により、および/またはHPLC-MS分析によりモニターした。TLCプレートをUV光下で可視化するか、または過マンガン酸カリウム溶液(10g/L)に浸漬し、続いてヒートガンで可視化した。溶媒のロータリーエバポレーションは、減圧下で、40℃未満の温度で実施した。HPLC-MS分析は、C18逆相カラム(Phenomenex Kinetex 2.1×50mm C18カラム、100Å細孔、2.6μm粒子)を使用するUHPLCおよびシングル四重極MSシステム(Shimadzu LCMS-2020)で実施した。t=1.00~6.00分の間に0%から60%まで直線的に上昇する溶媒A(水中0.05%HCOOH)に対する溶媒B(MeCN中0.05%HCOOH)の直線勾配を、流速1.00ml/分で適用した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、極低温冷却プローブを備えたBruker社のAvance IIIで記録した(1H NMRおよび13C NMRをそれぞれ400MHzおよび101MHzで記録した)。すべてのスペクトルは298Kで記録した。化学シフトは、内部標準として重水素化溶媒に対するppmで報告されている(δH DMSO-d6 2.50ppm;δC DMSO 39.52ppm;δH CDCl3 7.26ppm;δC CDCl3 77.16ppm)。
【0199】
高分解能質量分析(HRMS)測定は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を備えたmaXis G3四重極飛行時間型(TOF)質量分析計(Bruker Daltonics社、ブレーメン、ドイツ)で記録した。
【0200】
ビルディングブロックおよびアミノ酸の化学合成
S-(3-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)プロピル)ベンゼンスルホノチオエート(S1、ALN-1-31)
【0201】
【0202】
DMF(120ml)中の3-(Boc-アミノ)プロピルブロミド(6.02g、25.3mmol、1.0当量)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(7.48g、38.0mmol、1.5当量;tech.85%)を加え、溶液を80℃で一晩撹拌した。冷却後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(100ml)に再懸濁し、EtOAc:ヘキサン(2×150ml、10:1、v/v)で抽出した。合わせた有機層を水(3×150ml)およびブライン(150ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮し、粗S1(8.21g、24.8mmol、98%)を黄色がかった油として得た。TLC(ヘキサン中25%EtOAc):Rf=0.25(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.98-7.90 (m, 2H), 7.70-7.61 (m, 1H), 7.60-7.52 (m, 2H), 3.16 (q, J = 6.4 Hz, 2H), 3.02 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.83 (p, J = 6.8 Hz, 2H), 1.43 (s, 9H).
tert-ブチル(3-クロロプロピル)(メチル)カルバメート(S2、VC-1-1)
【0203】
【0204】
CH2Cl2(150ml)中の3-クロロプロピル-N-メチルアミン塩酸塩(4.32g、30.0mmol、1.0当量)およびジ-tert-ブチルジカーボネート(6.58g、30.0mmol、1.0当量)の撹拌溶液を、アルゴン雰囲気下で0℃に冷却した。NEt3(4.16ml、30.0mmol、1.0当量)を5分間かけて滴下し、溶液を室温に向けて一晩撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、EtOAc(120ml)に再懸濁した。溶液をHCl水溶液(1M、2×120ml)、飽和NaHCO3(120ml)およびブライン(120ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗S2(6.22g、30.0mmol、quant.)を無色の結晶性固体として得た。TLC(ヘキサン中25%EtOAc):Rf=0.45(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 3.55 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.36 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 2.87 (s, 3H), 2.06-1.91 (m, 2H), 1.46 (s, 9H).CAS RN:114326-14-6。
【0205】
S-(3-((tert-ブトキシカルボニル)(メチル)アミノ)プロピル)ベンゼンスルホノチオエート(S3、VC-1-3)
【0206】
【0207】
DMF(25ml)中のVC-1-1(3.51g、16.9mmol)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(5.50g、27.9mmol、1.65当量;tech.85%)を加え、溶液を80℃で一晩撹拌した。冷却した後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(100ml)に再懸濁し、EtOAc:ヘキサン(2×75ml、10:1、v/v)で抽出した。合わせた有機層を水(3×75ml)およびブライン(75ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗S3(5.07g、16.2mmol、95%)を黄色がかった油として得た。TLC(ヘキサン中12.5%EtOAc):Rf=0.30(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.01-7.88 (m, 2H), 7.69-7.50 (m, 3H), 3.24 (t, J = 6.7 Hz, 2H), 2.96 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 2.77 (s, 3H), 1.85 (p, J = 6.8 Hz, 2H), 1.42 (s, 9H).
tert-ブチル(Z)-(4-クロロブタ-2-エン-1-イル)カルバメート(S4、P1_N2_E29/E46)
【0208】
【0209】
CH2Cl2(75mL)中のcis-4-クロロ-2-ブテニルアミン塩酸塩(2.50g、17.6mmol、1.0当量)およびジ-tert-ブチルジカルボネート(3.84g、17.6mmol、1.0当量)の撹拌溶液をアルゴン雰囲気下で0℃に冷却した。NEt3(2.45ml、17.6mmol、1.0当量)を5分間かけて滴下し、溶液を室温に向けて一晩撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、CH2Cl2(100ml)に再懸濁した。溶液をHCl水溶液(1M、2×100ml)、飽和NaHCO3(100ml)およびブライン(100ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗S4(3.55g、17.3mmol、98%)を淡褐色の固体として得た。TLC(ヘキサン中25%EtOAc):Rf=0.30(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.82-5.70 (m, 1H), 5.70-5.56 (m, 1H), 4.59 (br s, 1H), 4.12 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 3.83 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 1.44 (s, 9H).CAS RN:123642-28-4。NMRスペクトルは文献と一致。
【0210】
(Z)-S-(4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)ブタ-2-エン-1-イル)ベンゼンスルホノチオエート(S5、P1_N2_E30)
【0211】
【0212】
DMF(70ml)中のS4(3.55g、17.3mmol、1.0当量)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(6.81g、34.5mmol、2.0当量;tech.85%)を添加し、溶液を80℃で一晩撹拌した。冷却後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(400mL)に再懸濁し、EtOAc(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を水(3×200mL)およびブライン(200mL)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗S5(5.03g、14.6mmol、85%*)を褐色油として得た。TLC(ヘキサン中25%EtOAc):Rf=0.20(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.94-7.87 (m, 2H), 7.68-7.60 (m, 1H), 7.60-7.49 (m, 2H), 5.67-5.57 (m, 1H), 5.51-5.40 (m, 1H), 4.43 (br s, 1H), 3.67 (dq, J = 7.0, 1.1 Hz, 2H), 3.60 (t, J = 6.1 Hz, 2H), 1.43 (s, 9H).*粗化合物の純度は他のチオスルホネート・ビルディングブロックよりも低いが、その後の樹脂充填ステップで優れた樹脂品質を提供する。
【0213】
tert-ブチル3-(((フェニルスルホニル)チオ)メチル)アゼチジン-1-カルボキシレート(S6、ALN-1-57)
【0214】
【0215】
DMF(25ml)中の1-Boc-3-ブロモメチルアゼチジン(1.93g、7.71mmol、1.0当量)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(2.43g、12.3mmol、1.6当量;tech.85%)を添加し、溶液を80℃で一晩撹拌した。冷却後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(100ml)に再懸濁し、EtOAc:ヘキサン(2×75ml;10:1、v/v)で抽出した。合わせた有機層を水(2×75ml)、飽和NaHCO3(75ml)およびブライン(75ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗S6(2.65g、7.71mmol、quant.)を黄色がかった油として得た。TLC(ヘキサン中33%EtOAc):Rf=0.30(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.93 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.66 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.58 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 3.96 (t, J = 8.6 Hz, 2H), 3.52 (dd, J = 9.0, 5.3 Hz, 2H), 3.23 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 2.85-2.70 (m, 1H), 1.41 (s, 9H).
tert-ブチル4-((フェニルスルホニル)チオ)ピペリジン-1-カルボキシレート(S7、ALN-1-41)
【0216】
【0217】
DMF(25mL)中の1-N-Boc-4-ブロモピペリジン(2.25g、8.51mmol、1.0当量)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(2.77g、14.0mmol、1.65当量;tech.85%)を加え、溶液を80℃で一晩撹拌した。一晩の反応が不完全であったため(TLCでモニター)、追加のベンジルチオスルホン酸ナトリウム(1.38g、7.00mmol;tech.85%)を加え、反応物を80℃でさらに24時間撹拌した。冷却後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(100mL)に再懸濁し、EtOAc:ヘキサン(2×75mL;10:1、v/v)で抽出した。合わせた有機層を水(2×75ml)、飽和NaHCO3(75ml)およびブライン(75ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗S7(2.65g、7.43mmol、87%*)を黄色がかった油として得た。TLC(ヘキサン中33%EtOAc):Rf=0.44(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.01-7.89 (m, 2H), 7.71-7.61 (m, 1H), 7.60-7.50 (m, 2H), 3.89-3.63 (m, 2H), 3.55-3.39 (m, 1H), 3.11-2.91 (m, 2H), 1.96-1.86 (m, 2H), 1.64-1.51 (m, 2H), 1.42 (s, 9H).*置換反応は、他のチオスルホネート・ビルディングブロックの調製に比べて著しく遅く進行する。さらに、粗純度は低いが、その後の樹脂充填ステップで優れた樹脂品質が得られる。
【0218】
tert-ブチル4-(((フェニルスルホニル)チオ)メチル)ピペリジン-1-カルボキシレート(S8、ALN-1-38)
【0219】
【0220】
DMF(50ml)中の1-N-Boc-4-(ブロモメチル)ピペリジン(2.16g、7.76mmol、1.0当量)の撹拌溶液に、ベンジルチオスルホン酸ナトリウム(2.52g、12.8ミリモル、1.65当量;tech.85%)を加え、溶液を80℃で一晩撹拌した。冷却後、反応混合物を減圧下で濃縮し、水(100ml)に再懸濁し、EtOAc:ヘキサン(2×75ml;10:1、v/v)で抽出した。合わせた有機層を水(2×75ml)、飽和NaHCO3(75ml)およびブライン(75ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗S8(2.76g、7.76mmol、quant.)を透明な油として得た。TLC(ヘキサン中25%EtOAc):Rf=0.30(KMnO4染色)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.01-7.87 (m, 2H), 7.70-7.61 (m, 1H), 7.61-7.51 (m, 2H), 4.20-3.94 (m, 2H), 2.91 (d, J = 6.5 Hz, 2H), 2.58 (t, J = 12.8 Hz, 2H), 1.73-1.57 (m, 3H), 1.43 (s, 9H), 1.14-0.98 (m, 2H).
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(5-クロロフラン-2-カルボキサミド)プロパン酸(Thio、ALN-1-77)。
【0221】
【0222】
この合成は、類似のアミノ酸の以前の手順を適用した:5-クロロチオフェン-2-カルボン酸(2.44g、15.0mmol、1.5当量)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(1.61g、14.0mmol、1.4当量)をTHF(100ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下で撹拌した。この溶液を0℃に冷却し、その後、THF(30ml)に溶解したDCC(2.89g、14.0mmol、1.4当量)の溶液をこの反応混合物にゆっくりと添加した。溶液は徐々に混濁し、室温に向けて一晩撹拌し、その後、溶液を濾過した。一方、Fmoc-Dap(Boc)-OH(4.26g、10.0mmol、1.0当量)をCH2Cl2(20ml;混濁溶液)中で撹拌し、TFA(20ml)をその溶液にゆっくりと添加した。溶液はすぐに黄色がかった透明になり、泡が発生した。泡発生が停止した後、溶液を室温でさらに30分間撹拌し、その後、溶媒を窒素流下で除去した。過剰のTFAをCH2Cl2:トルエン(50ml、1:1、v/v)との共蒸発により除去した。残渣をTHF(40ml)に再懸濁し、続いてi-Pr2NEt(5.75ml、60.0mmol、6.0当量)を添加した。次いでこの溶液を、NHS活性化チオフェンを含有する母液に注ぎ、室温で一晩撹拌した。完了後、この溶液を減圧下で濃縮し、EtOAc:ヘキサン(300ml、10:1、v/v)に再溶解し、水(100ml)およびブライン(100ml)で2回洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカカラムクロマトグラフィーで精製し、Fmoc保護アミノ酸ビルディングブロック(4.06g、8.62mmol、86%)をオフホワイトの固体*として得た。TLC(CH2Cl2中5%MeOHおよび0.5%AcOH):Rf=0.2(UV)。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 12.74 (br s, 1H), 8.68 (t, J = 5.8 Hz, 1H), 7.89 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.70 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.65 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.61 (d, J = 4.1 Hz, 1H), 7.41 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 7.30 (q, J = 7.6 Hz, 2H), 7.18 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 4.43-4.11 (m, 4H), 3.68-3.50 (m, 2H, 残存水と重なっている). 13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 171.9, 160.5, 156.0, 143.80, 143.77, 140.7, 138.7, 133.1, 128.2, 128.1, 127.6, 127.1, 125.24, 125.21, 120.1, 65.7, 53.5, 46.6, 40.3 (溶媒ピークと重なっている).C23H2OClN205S+[M+H]+のHRMS m/zの計算値、471.0776;実測値471.0786。
【0223】
ジチオール樹脂の合成
高充填チオール樹脂の調製
【0224】
【0225】
事前洗浄:各25mlフリットシリンジに、約0.8g(1.11mmol)のアミノメチルポリスチレン樹脂(AM PS樹脂;1.39mmol/g、100~200メッシュ;Aapptec、cat.#RAZ001)を充填し、MeOH(2×10ml)、CH2Cl2(3×10ml)、CH2Cl2中の1%(v/v)TFA(2×10ml)、CH2Cl2中のi-Pr2NEt(1.2M;2×10ml、5分間)、CH2Cl2(2×10ml)およびDMF(2×10ml)を使用して事前洗浄した。カップリング:DMF(10ml)中の3-(トリチルチオ)プロピオン酸(1.16g、3.33mmol、3.0当量)およびHBTU(1.27g、3.33mmol、3.0当量)の溶液を、i-Pr2NEt(1.10ml、6.66mmol、6.0当量)で活性化し、フリットシリンジに加え、室温で3時間撹拌した。樹脂を濾過し、DMF(3×10ml)およびCH2Cl2(3×10ml)で洗浄し、続いてビーズを乾燥させた(最初は吸引下で、次いで減圧下で一晩(<0.5mbar))。MPA(Trt)樹脂の充填は、約1.20mmol/g*(重量ベース)決定された。キャップ付加:5%のAc2Oおよび6%のルチジンのDMF(12ml;v/v/v)中溶液を樹脂に添加し、室温で5分間インキュベートした。樹脂を排出し、DMF(3×10ml)およびCH2Cl2(3×10ml)で洗浄した。脱保護:10%TFAおよび1%TIPSのCH2Cl2(15ml、v/v/v)中溶液を樹脂に加え、1時間室温で撹拌した。樹脂をCH2Cl2(3×10ml)で洗浄し、この手順を1回繰り返し、ポリスチレンの高充填チオール樹脂(SH PS樹脂)が得られ、これはその後のジスルフィド交換およびシステアミン誘導体の充填に利用することができた。
【0226】
樹脂1(res1)の調製
【0227】
【0228】
ジチオール交換:各25ミリフリットシリンジに約0.4g(0.48ミリモル)のSH PS樹脂を充填し、CH2Cl2(10ml)中で膨潤させ、次いで排水した。2-ピリジルチオシステアミン塩酸塩(0.48g、0.96mmol、2.0当量)をMeOH:CH2Cl2(19ml、3:7、v/v)に溶解し、続いてi-Pr2NEt(167μl、0.96mmol、2.0当量)を添加した。溶液を樹脂に添加し、室温で3時間撹拌した。樹脂を排水し、MeOH:CH2Cl2(2×10ml、3:7、v/v)、DMF(2×10ml)、DMF中のi-Pr2NEt(1.2M;10mlで5分間)、DMF(3×10ml)およびCH2Cl2(2×10ml)で洗浄し、続いてビーズを乾燥させた(最初は吸引下で、次に減圧下で一晩(<0.5mbar))。定性的コントロール:(1)Kaiserテスト;ビーズの完全な紫/青の着色。(2)ビーズ上のエルマン試薬;着色なし。
【0229】
樹脂2~7(res2~7)の調製
【0230】
【0231】
脱保護:N-Boc保護チオスルホネート中間体(S2、S3、S5、S6、S7またはS8;約7.0mmol)をCH2Cl2(10ml)に溶解し、続いて、激しいCO2の泡発生が観察されるまでTFAを滴下した(約10ml)。溶液を室温でさらに1時間撹拌し、その後、溶媒を窒素流下で除去した。過剰のTFAを、減圧下でCH2Cl2:MeOH溶液(1:1、v/v)との共蒸発により除去し、樹脂に取り付けるためのチオスルホン酸塩を得た。ジチオール交換:25mlフリットシリンジのそれぞれに約0.8g(0.96mmol)のSH PS樹脂を充填し、THF(15ml)で膨潤させた後、排水した。所望のチオスルホン酸TFA塩(2.40~2.88ミリモル、2.5~3.0当量)をTHF(15ml)に溶解し、NEt3(803μl、5.76mmol、6.0当量)を加えた。この溶液を樹脂に加え、室温で一晩撹拌した。樹脂を排水し、THF(3×15ml)およびCH2Cl2(2×15ml)で洗浄し、続いてビーズを乾燥した(最初は吸引下で、次に減圧下で一晩(<0.5mbar))。定性的コントロール:(1)Kaiserテスト;ビーズの完全な紫/青の着色。(2)ビーズ上のエルマン試薬;着色なし。
【0232】
プレートを使用する方法
ポリプロピレン(PP)96ウェルフィルタープレートに5μmol/ウェルのポリスチレンジチオール樹脂(res1~res7;推定充填約1.20mmol/g)を装備し、DMF(6×225μl)で洗浄した。カップリングは、53μlのアミノ酸(500mM、5.3当量)、50μlのHATU(500mM、5.0当量)、13μlのN-メチルモルホリン(4M、10当量)、および5μlのN-メチルピロリドンを用いて実施した。Thio、t-acha、4amPipおよび2amのカップリングの場合、75μlのアミノ酸(170mM、2.55当量)、25μlのHATU(500mM、2.5当量)、7μlのN-メチルモルホリン(4M、5.6当量)、および5μlのN-メチルピロリドンを使用した。すべての成分を1分間事前混合し、次いで樹脂に加えた(2時間反応、振盪なし)。カップリングを2回実施し、樹脂をDMF(6×225μl)で洗浄した。Fmoc脱保護は、DMF中の20%(v/v)ピペリジン(120μl、2×2分)を使用して実施し、樹脂をDMF(6×225μl)で洗浄した。ペプチド合成の最後に、樹脂をCH2Cl2(2×200μl)で洗浄し、樹脂ビーズを吸引下で乾燥させた。
【0233】
シリンジを使用する方法
5mlシリンジリアクターにポリスチレンジチオール樹脂(res1~res7;推定装填約1.20mmol/g)を加え、樹脂をDMF(6×150μl)で洗浄した。カップリングは、210μlのアミノ酸(500mM、4.2当量)、200μlのHATU(500mM、4.0当量)、50μlのN-メチルモルホリン(4.0M、8.0当量)および5μlのN-メチルピロリドンを用いて実施した。すべての成分を1分間事前混合し、次いで樹脂に加えた(2時間反応、振盪あり)。カップリングを2回実施し、次いで樹脂をDMF(2×600μl)で洗浄した。DMF中の20%ピペリジン(450μl、2×2分)を使用してFmoc脱保護を実施し、樹脂をDMF(7×600μl)で洗浄した。ペプチド合成の最後に、樹脂をCH2Cl2(2×600μl)で洗浄し、樹脂ビーズを吸引下で乾燥させた。
【0234】
還元的遊離手順
側鎖保護基の除去:自動化SPPS(5μmol/ウェルスケール)後、96ウェル合成プレートの底を、6mm厚さの柔らかいエチレン酢酸ビニルパッドに押し付けることにより密閉した。この樹脂をTFA/TIPS/H2O(300μl、95:2.5:2.5、v/v/v)と1時間インキュベートし、接着性PPプレートの蓋で覆った。TFA溶液を廃棄し、樹脂をCH2Cl2(3×300μl)で洗浄し、この手順を1回繰り返した。還元的遊離:少なくとも1時間風乾した後、1,4-ブタンジチオール(BDT)およびNEt3のDMF中溶液(両方とも100mM、200μl、樹脂充填に対して4当量)を樹脂に加え、プレートを室温で一晩撹拌した。翌日、DMF溶液を遠心分離(1000rpm)により96ウェルのディープウェルプレートに押し込み、還元的遊離手順を5時間で1回繰り返し、同じ96ウェルのディープウェルプレートにまとめた。濃縮:TFAのmilliQ水溶液(10%(v/v)、62μl、NEt3に対して2当量)をウェルに添加し、Speedvac濃縮装置を使用してペプチドを乾燥させた(30℃、1750rpm、0.1mbar)。再可溶化および移送:乾燥ペプチドペレットをDMSO(40μl)に溶解し、Echo認定384ウェルPPソースプレートに移した。濃度測定:エルマンアッセイを実施して、ジチオールペプチドストックの濃度を決定した。エルマン試薬5(DTNB)をアッセイバッファー(水中の150mM NH4HCO3:MeCN(90:10、v/v)、pH8)に10mMの濃度まで溶解させた。底が透明な384ウェルの黒色マイクロプレートに、アコースティック液滴放出(ADE)を使用するEchoによりDMSO中のジチオールペプチド135nl)を移した。CERTUSを使用してアッセイバッファー(24μl)を分注した後、DTNB溶液(6μl)を添加した。プレートを遠心分離にかけ(400g、2分)、吸光度(412nm)をTECAN M200プレートリーダーで測定した。ジチオールペプチドの濃度は、以前に記録した検量線を使用して算出した:
【0235】
【0236】
シリンジを使用する方法
側鎖保護基の除去:自動化SPPS(25μmolスケール)の後、樹脂を含有するフリットシリンジをTFA/TIPS/H2O(4ml、95:2.5:2.5、v/v/v)と2時間室温でインキュベートした。TFA溶液を廃棄し、樹脂をCH2Cl2(5×4ml)およびDMF(4ml)で洗浄した。還元的遊離:少なくとも1時間風乾した後、BDTおよびNEt3のDMF中溶液(両方とも100mM、2.0ml、樹脂充填に対して4当量)をシリンジに加え、室温で一晩撹拌した。翌日、DMF溶液を50mlコニカルファルコンチューブに押し込んだ。濃縮:TFAのmilliQ水溶液(10%(v/v)、312μl、NEt3に対して2当量)をペプチド溶液に添加し、Speedvac濃縮装置を使用してこれを乾燥し(30℃、1750rpm、0.1mbar)、次のステップですぐに環化できる粗直鎖状ジチオールペプチドを得た。
【0237】
大環状化手順
プレートを使用する方法
マイクロタイタープレートへの移送:DMSO中の個々のジチオールペプチドの決定された濃度に基づき、DMSO中の40nmolのジチオールペプチドを384PPプレート(リンカー当たり1プレート)にADEを使用して移した。ペプチド還元:ジチオールペプチドはDMSO中で時間とともに酸化するので、BDTおよびNEt3のDMF中溶液(両方とも100mM、20μl)を各ウェルに添加し、その後30分間室温でインキュベートすることによって、ペプチドが完全に還元されたことを確認した。TFAのmilliQ水溶液(10%(v/v)、6μl、NEt3に対して2当量)を各ウェルに添加し、Speedvac濃縮装置を使用してペプチドを乾燥させ(30℃、1750rpm、0.1mbar)、完全に還元されたジチオールペプチドペレットを得た。環化:ビス求電子リンカー(L1~L7)を、NH4HCO3のMeCN:H2O(1:1(v/v)、pH8)中の脱気した60mM溶液に、最終濃度4mMまで溶解した。調製したリンカー溶液(40μL、ジチオールペプチドに対して4当量)を384PPプレートに液体ディスペンサーを使用して添加し、これを粘着性PP蓋で密封し、2時間室温で撹拌した。リンカーのクエンチング:β-メルカプトエタノール(β-ME)を、調製した環化バッファーで最終濃度が32mMとなるように溶解した。調製した溶液(20μl、リンカーに対して4当量)を各ウェルに添加し、プレートに蓋をすることなく、室温で1時間インキュベートした。濃縮および再可溶化:溶媒を、Speedvac濃縮装置(40℃、1750rpm、0.1mbar)を使用して除去し、ペプチド大環状分子をペレットとして得て、これをDMSO(10μl)に溶解し、384LDVプレートに移し、その後のプロテアーゼスクリーニングアッセイですぐに適用することができる4mMの大環状ペプチドライブラリーを得た。
【0238】
コニカルチューブでの方法:
環化:二求電子リンカーを、NH4HCO3のMeCN:H2O(1:1(v/v)、pH8)中の脱気した60mM溶液で、最終濃度が4mMになるように溶解した。調製したリンカー溶液(12.5ml、ジチオールペプチドに対して2当量)を、所望のジチオールペプチドペレットを含むコニカルチューブに加え、溶液を室温で2時間撹拌した。リンカーのクエンチング:反応完了後(LCMSにより決定)、過剰なリンカーを、β-ME(14μl、200μmol、リンカーに対して4当量)を添加することによりクエンチし、コニカルフラスコに加え、少なくとも1時間撹拌し、続いて精製した。大環状分子の精製:サンプルは、C18 RP Waters OBDカラムを装備した分取HPLCで精製した。溶媒B(MeCN中0.1%TFA)の溶媒A(水中0.1%TFA)に対する直線勾配は、t=2.00~32.00分間に15%から60%まで直線的に上昇し、14.0ml/分の流速で適用された。所望の生成物を含有する純粋な分画を統合し、凍結乾燥し、生成物を無色の綿毛状物質として得た。DMSOストック:精製した大環状分子をエッペンドルフチューブに移し、DMSOを添加し、5mMまたは20mMの化合物ストックを得た。
【0239】
生化学的アッセイ
大環状ライブラリーのプロテアーゼスクリーニング
化合物ライブラリーの酵素阻害は、1%最終DMSO濃度の環状ペプチド(トロンビンについては平均濃度10μM、FXI、FXII、KLK5およびPKalについては平均濃度20μM)の存在下で、残存酵素活性を測定することにより評価した。粗大環状ライブラリー(384ウェルLDVプレート内に4mMのDMSOストック)を、ADEを介して1536ウェルマイクロタイターOptiPlateに移した。適用したバッファー溶液をPTFEシリンジフィルター(0.22μm)で濾過することにより調製し、ウシ血清アルブミン(BSA;0.1% w/v)を補充した適切なバッファー(以下のリストを参照)中のプロテアーゼ(4.41μm/ウェル)を添加することによってアッセイを開始し、CERTUS自動化リキッドハンドラーを使用して分注した。プレートを室温で10分間インキュベートした後、CERTUS自動化リキッドハンドラーを使用して、適切なバッファー中の蛍光発生基質(4.5μl)を添加した。プレートを遠心分離し(800g、2分)、PHERAstarプレートリーダー(励起384nm、発光440nm)を使用して蛍光強度を15分間にわたり150秒の時間増分で測定した。蛍光増加の傾き(m)は、Microsoft Excel(vers.16.56)で算出した。陰性対照は、大環状分子なしで調製した。12個の陰性対照の平均値を使用し、以下の式Iを使用して残存活性を算出した:
【0240】
【0241】
【0242】
ヒットからの粗大環状生成物の活性種の同定
ライブラリースクリーニングから選択したヒット(化合物 195_L6、237_L6および293L6)を再合成し、環化した(40nmolスケール)。乾燥した大環状生成物をMeCN:H2O(1.5ml、1:1、v/v)に溶解し、C18 NovaPak逆相カラム(10×150mm、125Å細孔、5μm粒子)を使用してThermo Fisher Dionex UltiMate 3000システムで分画した。溶媒B(MeCN中0.1%TFA)の溶媒A(水中0.1%TFA)に対する直線勾配は、t=2.00~22.0分の間に0%から80%(トロンビンヒットの場合)または0%から95%(PKalヒットの場合)に直線的に上昇し、流速4.00mL/分でアプライした。分画(1分画/分)を回収チューブに回収し、SpeedVac濃縮装置(30℃、1750rpm、0.1mbar)を使用して溶媒を除去した。乾燥内容物をDMSO(50μl)に再溶解し、384ウェルPPソースプレートに移し、SpeedVac濃縮装置(30℃、1750rpm、0.1mbar)を使用して乾燥させた。分画をDMSO(トロンビンについては5μl、PKalについては2μl)に再溶解させ、続いてアッセイを底が透明な黒色384ウェルポリスチレンプレート中で実施した。DMSO分画溶液(0.5μl)をマイクロタイタープレートにピペットで移し、適切な酵素バッファー(49.5μl;前のページに記載したものと同様の組成、厳密には2nMのトロンビンを使用)を加え、室温で10分間インキュベートした。バッファー中の基質(25μl、前のページに記載したものと同様の組成)を加え、プレートを遠心分離にかけ(800g、2分間)、PHERAstarプレートリーダー(励起384nm、発光440nm)を使用し、15分間にわたり150秒の時間増分で蛍光強度を測定した。蛍光増加の傾き(m)は、Microsoft Excel(vers.16.56)で算出した。陰性対照は、分画サンプルの代わりにDMSO(0.5μl)を含まずに調製した。6個の陰性対照の平均を使用し、式Iを使用して残効性を算出した。
【0243】
IC50の決定
最大半阻害濃度(IC50)値は、ライブラリースクリーニングを行ったのと同様のアッセイにおいてプロテアーゼ阻害から決定した。精製した大環状化合物の倍希釈系列を384ウェルのLDVソースプレートで調製し、ADEを使用して1536ウェルOptiPlateに移した(最終容量:45nl大環状化合物/DMSO)。Certusを使用してバッファー中の酵素溶液(4.5μl)を添加し、10分間インキュベートした。続いて、バッファー中の基質(4.5μl)を添加し、プレートを遠心分離にかけ(700g、2分間)、PHERAstarプレートリーダー(励起384nm、発光440nm)を使用し、15分間にわたって150秒の時間増分で蛍光強度を測定した。蛍光増加の傾き(m)は、Microsoft Excel(vers.16.56)で算出した。陰性対照は、大環状分子なしで調製した。12個の陰性対照の平均を使用し、式Iを使用して残効性を算出した。IC50値は、GraphPad Prism(バージョン6.0.1)を使用し、得られたデータを濃度反応式[制約数?]に当てはめることにより得て、ki値は、Cheng-Prusoff式11を用いてIC50に基づいて算出した:
【0244】
【0245】
式中、[S]0は、初期基質濃度であり、KMは、酵素と基質のミカエリス・メンテン定数12である。
【配列表】
【国際調査報告】