(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ワクチン、その使用、及びがんワクチン混合物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240423BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240423BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240423BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240423BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20240423BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240423BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240423BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240423BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240423BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240423BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240423BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20240423BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240423BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20240423BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240423BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240423BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K39/00 H
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N15/863 Z
C12N15/864 100Z
A61P35/00
A61P37/04
A61K41/00
A61K45/00
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A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K35/76
A61K38/21
A61K38/20
A61K38/19
A61K39/395 U
A61K35/17
A61K35/15
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571587
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 CN2022093380
(87)【国際公開番号】W WO2022242652
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523231093
【氏名又は名称】ホン,ミェン―チェ
【氏名又は名称原語表記】HUNG,Mien―chie
【住所又は居所原語表記】No.91,Hsueh―Shih Road,North District,Taichung City 404,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャオ,クン-サン
(72)【発明者】
【氏名】フアン,ケヴィン チー-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チアン,シュー-フェン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA11
4C084AA13
4C084AA22
4C084AA23
4C084DA12
4C084DA19
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4C087AA01
4C087BB37
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4C087MA02
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4C087ZB09
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】
ベクターと導入遺伝子とを備えるワクチンを提供する。
【解決手段】
導入遺伝子は複数のペプチドをコードし、且つベクターに封入され、前記ペプチドは順に、分泌シグナルペプチド、少なくとも1つの腫瘍抗原、少なくとも1つの共阻害ペプチド、及びToll様受容体9アンタゴニスト配列(TLR9)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターと、
複数のペプチドをコードし、且つ前記ベクターに封入される導入遺伝子と、
を含み、
前記ペプチドは、
分泌シグナルペプチドと、
腫瘍細胞と正常細胞との差分である少なくとも1つの腫瘍抗原と、
プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む少なくとも1つの共阻害ペプチドと、
Toll様受容体9(TLR9)アンタゴニスト配列と、
を順に含む、ワクチン。
【請求項2】
前記少なくとも一つの共阻害ペプチドと前記TLR9アンタゴニスト配列との間に共刺激ペプチドを更に含み、前記共刺激ペプチドは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン12(IL12)、及びインターフェロン(IFNs)から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記ベクターは、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、又はナノ粒子である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
前記分泌シグナルペプチドは、インターロイキン2シグナルペプチド(IL2 sp)又はインターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項6】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍特異体細胞突然変異を同定するために、前記対象の前記正常細胞及び対応する前記腫瘍細胞の全エクソームシーケンシングを比較することによって選択されるDNA配列である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項7】
前記PD-L1アンタゴニストは、PL-L1トラップ及びPD-1ペプチドを含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項8】
前記PD-1アンタゴニストは、PD-1トラップ及びPD-L1/PD-L2ペプチドを含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項9】
前記CTLA4アンタゴニストは、CTLA4トラップ及びCTLA4アンタゴニスト抗体を含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項10】
前記TLR9アンタゴニスト配列は、CpGオリゴヌクレオチドTLR9結合ドメイン、TLRデコイペプチド、及びCpG結合配列から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項11】
がん治療を必要とする対象において抗腫瘍免疫応答を誘導するために用いられる、がん治療における使用のための請求項1に記載のワクチン。
【請求項12】
前記ワクチンが放射線と組み合わせて用いられる、請求項11に記載の使用のためのワクチン。
【請求項13】
がん治療を必要とする対象における前記少なくとも一つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられる請求項1に記載のワクチンと、
前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられる増強剤と、
前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる免疫増強剤とを含む、がんワクチン混合物。
【請求項14】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項15】
前記増強剤は、放射線、化学療法剤、免疫調節剤、標的療法薬、抗体薬、又はそれらの組み合わせである、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項16】
前記免疫増強剤は、前記少なくとも一つの腫瘍抗原を含むがんワクチン又は前記少なくとも一つの腫瘍抗原を含む治療細胞である、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項17】
前記がんワクチンは、樹状細胞に基づくがんワクチン又はウイルスに基づくがんワクチンであり、前記治療細胞は、サイトカイン誘導キラー細胞(cytokine-induced killer cell;CIK)、樹状細胞結合サイトカイン誘導キラー細胞、又はneoAg負荷DC-CIKである、請求項16に記載のがんワクチン混合物。
【請求項18】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項16に記載のがんワクチン混合物。
【請求項19】
前記免疫増強剤は、免疫チェックポイントタンパク質、免疫抑制因子、及び/又は免疫刺激因子を含む、治療細胞である、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項20】
前記治療細胞は、キメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体-ナチュラルキラー細胞(CAR-NK)、又は養子T細胞である、請求項19に記載のがんワクチン混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワクチン、その使用、及びがんワクチン混合物に関し、特に、腫瘍抗原に特異的なワクチン、その使用、及び前記ワクチンを含むがんワクチン混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療は、放射線療法、化学療法、標的療法、及び手術を主として、近年の薬剤や手術技術の進歩にもかかわらず、末期患者の5年間生存率がまだかなり低く、これはがん免疫療法等の新しい治療戦略を開発する重要性を示している。免疫療法は、免疫反応を強化して腫瘍細胞を排除することを主として、免疫チェックポイント阻害剤、細胞療法、がんワクチン等を含む。免疫チェックポイント阻害剤は様々ながんにおいて良好な臨床反応を示しているが、その適用はDNAミスマッチによる修復欠損の状態(がん患者の10-15%)と免疫細胞浸潤の程度によって制限され、ほとんどのがん患者は免疫チェックポイント阻害に適用しないことを示している。したがって、ネオ抗原に基づく免疫療法等の新しいタイプの免疫療法戦略を開発することが非常に重要である。
【0003】
ネオ抗原は、がん進行中の体細胞突然変異に由来し、腫瘍特異的免疫反応を誘発することができるため、次世代遺伝子配列決定技術の画期的な進歩により、個別化されたネオ抗原を同定することで腫瘍特異的免疫反応を活性化することによってがんワクチンを開発することが可能となるが、放射線療法(RT)と化学療法(CT)は、腫瘍抗原の放出を増加させるだけでなく、腫瘍微小環境を、より許容できる微小環境に変えることもできる。ネオ抗原に基づくがんワクチンを放射線療法及び免疫原性化学療法を組み合わせることで、従来の治療に抵抗性の患者でも持続可能な疾患制御を達成できる可能性があると期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのうえ、腫瘍ネオ抗原ペプチドワクチンを単独で使用する単一の療法は、腫瘍を除去するのに十分な効果がなく、ほとんどの突然変異は患者によって異なり、ネオ抗原がより個別化され、結果として高コストと長期間がかかる。したがって、頻度の高い共有ネオ抗原(shared neoantigen)をターゲットにし、ネオ抗原に基づく免疫療法の送達効果を最適化することは、前述の問題を解決するための新しい方向である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ベクターおよび導入遺伝子を含むワクチンを提供することである。導入遺伝子は、複数のペプチドをコードし、且つベクターに封入されており、前記ペプチドは順に、分泌シグナルペプチド、少なくとも1つの腫瘍抗原、少なくとも1つの共阻害ペプチド、及びToll様受容体9アンタゴニスト配列(TLR9)を含む。前記少なくとも1つの腫瘍抗原は、腫瘍細胞と正常細胞との差分である。前記少なくとも1つの共阻害ペプチドは、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む。
【0006】
本開示の別の態様は、がんの治療に用いられ、がん治療を必要とする対象に抗腫瘍免疫応答を誘導するための、前段落に記載のワクチンの使用である。
【0007】
本開示の更なる態様は、前段落に記載のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を含むがんワクチン混合物を提供することである。前記ワクチンは、がん治療を必要とする対象における少なくとも1つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられ、増強剤は、前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられ、免疫増強剤は、前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の目的をより明確にするために、以下、図面を参照しながら実施例を詳細に説明する。
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態のワクチンの構築を示す概略図である。
【
図2A-2C】
図2A、
図2B、及び
図2Cは、本開示のワクチンが対象に導入遺伝子を送達し、コードされたペプチドが対象の体内で相互作用するメカニズムを示す概略図である。
【
図3A】
図3Aは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの構築を示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図3C】
図3Cは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果を示す。
【
図5A】
図5Aは、生体外(ex vivo)免疫分析の実験プロセスを示す概略図である。
【
図6A-6B】
図6A及び
図6Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果を示す。
【
図6C-6D】
図6C及び
図6Dは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、放射線療法後の腫瘍微小環境(TME)に対する影響の分析結果を示す。
【
図7A】
図7Aは、実施例4、実施例6及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの構築及び治療戦略を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、本開示の実施例10のワクチンの構築を示す概略図である。
【
図8B】
図8Bは、本開示の実施例10のワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図8C】
図8Cは、本開示の実施例10のワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果を示す。
【
図9】
図9は、本開示の実施例10のワクチンで治療した結腸直腸がんマウスの生存曲線を示す。
【
図10A】
図10Aは、本開示の実施例13のワクチンの構築及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図11A】
図11Aは、本開示の実施例16のワクチンの構築及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図12A】
図12Aは、本開示の一実施形態のがんワクチン混合物のがん治療のための治療戦略を示す概略図である。
【
図12B】
図12Bは、本開示の一実施形態の一実施例のがんワクチン混合物を示す概略図である。
【
図13A】
図13Aは、本開示の一実施例のがんワクチン混合物の動物治療試験における治療戦略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照されたい。それは本開示の一実施形態のワクチン100の構築概略図を示す。ワクチン100は、ベクター110と、ベクター110に封入された導入遺伝子120とを含む。
【0010】
ベクター110は、異なる異方性を有する腫瘍抗原の発現を増強するために用いられ、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、又はナノ粒子であってよい。好ましくは、AAVベクターは、アデノ随伴ウイルス2(AAV2)ベクター又はアデノ随伴ウイルス6(AAV6)ベクターであってよい。ナノ粒子は、リポソーム送達システム[例えば、リン酸セチル-テトラエチレンペンタミンに基づくポリカチオン性リポソーム(TEPA-PCL)、リポプレックス(例えば、DOTMA:コレステロール:TPGSリポプレックス又はDDAB:コレステロール:TPGSリポプレックス)、カチオン性リポソーム-ヒアルロン酸(LPH)ナノ粒子]、脂質ナノ粒子(LNP)、ポリエチレンイミン(PEI)又はポリエチレンイミン複合体、デンドリマーナノ粒子、ポリアミド(PAMAM)ナノ粒子、ポリ乳酸及びポリグリコール酸コポリマー(PLGA)ナノ粒子、アテロコラーゲンナノ粒子、及びシリカナノ粒子を含むが、それらに限定されない。
【0011】
導入遺伝子120は複数のペプチドをコードし、前記ペプチドは順に、分泌シグナルペプチド121、少なくとも1つの腫瘍抗原122、共阻害ペプチド123、及びToll様受容体9(TLR9)アンタゴニスト配列124を含む。
【0012】
分泌シグナルペプチド121は、腫瘍抗原の分泌を補助するために用いられる。好ましくは、分泌シグナルペプチド121は、インターロイキン2シグナルペプチド(IL2 sp)又はインターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)であってよい。
【0013】
少なくとも1つの腫瘍抗原122は、がん治療を必要とする対象に抗腫瘍免疫応答を増加させるために用いられ、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍細胞と正常細胞との差分である。好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択されてよい。また、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍特異体細胞突然変異(ネオ抗原)を同定するように、対象からの正常細胞及び対応する腫瘍細胞のDNA配列を全エクソーム配列によって比較して選別され、そして既存のネオ抗原データベースからネオ抗原をコードするポリヌクレオチドを選択することができる。TAAは腫瘍細胞では過剰発現されるが、正常細胞では発現量が低くなる。例えば、乳がんにおけるTAAは、乳がんで過剰発現されるマンマグロビン-A、前立腺特異抗原(PSA)、T細胞によって認識される黒色腫抗原(MART1)、メラノサイトタンパク質PMEL、Bcr/Ablチロシンキナーゼ、HPVE6、E7、MZ2-E、MAGE-1、及びMUC-1を含むが、これらに限定されない。一方、TSAはがん細胞のみで発見され、健康な細胞では発見されない。例えば、TSAは、ドライバー遺伝子KRAS-G12/13コドン突然変異ホットスポット、TP53突然変異ホットスポット、PIK3CA突然変異ホットスポット、BRAF突然変異、及びフレームシフト突然変異を含むが、これらに限定されない。aeTSAは、中枢免疫寛容を調整する胸腺髄質表皮細胞(mTEC)等を含むいずれの正常な体細胞では発現されない、突然変異していない転写産物の異常な発現から由来する。
【0014】
共阻害ペプチド123は、樹状細胞(DC)における共阻害シグナルを遮断してDCの抗原提示能力を増加させるためのものである。共阻害ペプチド123は、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む。好ましくは、前記PD-L1アンタゴニストは、PL-L1トラップとPD-1ペプチドを含んでよく、前記PD-1アンタゴニストは、PD-1トラップとPD-L1/PD-L2ペプチドを含んでよく、前記CTLA4アンタゴニストは、CTLA4トラップとCTLA4アンタゴニスト抗体を含んでよい。
【0015】
TLR9アンタゴニスト配列124は、自然免疫系によるウイルスクリアランスを弱め、高い抗原負荷を維持するための抗ウイルスクリアランス配列である。好ましくは、TLR9アンタゴニスト配列124は、CpGオリゴヌクレオチドTLR9結合ドメイン、TLRデコイペプチド、及びCpG結合配列から選択されてよい。
【0016】
また、本開示のワクチン100は、DCのリクルート及び活性化を増加させるための共刺激ペプチドを更に含んでよく、ここで共刺激ペプチドは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン12(IL12)、及びインターフェロン(IFNs)から選択されてよい。
【0017】
一実施形態によれば、がん治療のための方法は、前段落に記載のワクチンを、がん治療を必要とする対象に投与することで、対象における抗腫瘍免疫反応を誘導することを含む。好ましくは、この実施形態におけるがん治療のための方法は更に、放射線療法を対象へ施すことを含むことができる。また、本開示のワクチンは、ペプチドが発現される条件下で、対象の腫瘍特異的免疫反応を相乗的に促進し、対象の生存期間を相乗的に延長することができる。
【0018】
「がん」とは、細胞増殖の無秩序性を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指す。「腫瘍」は、1つ又は複数種類のがん細胞を含む。がんの例は、上皮がん、リンパ腫、芽腫、肉腫、及び白血病、又はリンパ悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。より具体的には、乳がん、大腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、肺腺腫、肺扁平上皮がんを含む肺がん、扁平上皮がん(例えば、上皮性扁平上皮がん)、腹膜がん、肝細胞がん、消化管がんを含む胃がん、膵がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝細胞がん、膀胱がん、子宮内膜がん又は子宮体がん、唾液腺がん、腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肛門がん、陰茎がん、頭頸部がん等が挙げられる。
【0019】
「有効量」とは、対象の疾患/障害を「治療」するのに有効な本開示のワクチンの量を意味する。有効量は、投与された組織、システム、動物又はヒトの生物学的又は医学的反応とある程度の相関関係があり、例えば、投与された場合、1つ又は複数の疾患/障害の進行をある程度予防したり、1つ又は複数の治療された疾患/障害の症状を軽減したりするのに十分である。治療有効量は、疾患及びその重篤度、並びに治療される哺乳動物の年齢及び体重等によって異なる。
【0020】
図2A、
図2B、及び
図2Cを参照されたい。それらは、本開示のワクチンが対象に導入遺伝子を送達し、コードされたペプチドが対象の体内で相互作用するメカニズムを示す概略図である。本開示のワクチンは、免疫チェックポイントの阻害、腫瘍抗原提示量の増加、腫瘍免疫反応の活性化に有効である。
【0021】
以下、具体的な実施例を挙げて図面を組み合わせて本開示を更に例示的に説明するが、これらの実施例は説明のためのものに過ぎず、本開示はこれらに限定されない。例えば、以下の実施例で使用されるベクターはAAVベクターであるが、前記ベクターは導入遺伝子をターゲット細胞に伝達するためのものであるため、ワクシニアウイルスベクター又はナノ粒子のような他のベクターを使用しても同様の効果が期待できる。
【0022】
実施例と比較例
【0023】
[実施例1-3]
【0024】
まず、われわれは、化学療法及び放射線療法を受けた後に残っている腫瘍には、共有ネオ抗原(以下、「neoAg(s)」と略称する)が存在することを発見し、そして難治性及び再発性腫瘍のneoAgsマップを確立した。これらのneoAgsは体外診断(IVD)テストや、抗体に基づく免疫治療薬の開発に使用できる。また、これらのneoAgsは、DCワクチン及びDC-DIK細胞療法を改善するための腫瘍特異的主要成分とし、放射線療法、化学療法、細胞療法の効果を向上させるためのneoAgsペプチドに基づくがんワクチン免疫療法を更に開発するために使用できる。表1を参照されたい。それは、マウス大腸がんCT26細胞株(以下、「CT26細胞」と略称する)におけるneoAgsのリストである。
表1、CT26細胞におけるneoAgs
【表1】
また、われわれは上記neoAgsを含むneoAgペプチドに基づくがんワクチンを開発し、がんに対するその治療効果を確認した。
【0025】
図3Aを参照されたい。それは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの構築概略図を示す。
図3Aに示すように、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片をCMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する、インターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)、neoAgs、及び2つのオボアルブミン配列(OVA-CD4とOVA-CD8)を含む。IL12 spは、細胞に分泌されるneoAgsの量を増加させるために用いられ、IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。neoAgsは、表1に示すneoAgs 1-8を含み、且つRERKリンカーを介して融合される。OVA-CD4及びOVA-CD8を陽性対照群とし、OVA-CD4及びOVA-CD8のアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:9及びSEQ ID NO:10に示される。また、比較例1は、空のpAAV-CMV発現ベクターであり、IL12 spをコードするヌクレオチド断片を含むが、neoAgsをコードするヌクレオチド断片を含まない。
【0026】
図3B及び表2を参照されたい。
図3Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表2は、実施例1-2及び比較例1-2の治療戦略である。
表2、実施例1-2及び比較例1-2の治療戦略
【表2】
【0027】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの治療効果を検証するために、実験では、結腸直腸がんのマウスモデルを確立しておく。2×105個のCT26細胞及び20%マトリゲル(Corning,Union City,CA,USA)を、6週齢の雌BALB/cマウスの右下肢に皮下接種する。8日後、結腸直腸がんマウスをランダムに異なる群に分け、実施例1又は比較例1(1×108 vg)を6日ごとに計3回筋肉内注射し、25日目に4回目の補強剤を注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を行い、放射線療法の回数は1回である。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、28日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。採取した腫瘍組織は、後続の免疫分析に用いられる。
【0028】
図3Cを参照されたい。それは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図である。
図3Cの結果によると、比較例1と比較して、実施例1でneoAgペプチドに基づくがんワクチンを単独で投与する治療は、腫瘍増殖を顕著に阻害することができ、比較例2(放射線療法を単独で投与する)と同様の効果を達成することができる。実施例2では、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンと放射線療法を同時に投与して、腫瘍増殖阻害効果がより顕著である。上記結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが放射線療法の治療効果を向上できることを示す。
【0029】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響を検証するために、腫瘍浸潤リンパ球を更に単離する。試験では、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の結腸直腸がんマウスから新鮮な腫瘍を単離し、室温で腫瘍を5 mlのRPMI 1640培地を含む6 cmシャーレに置き、滅菌ナイフで腫瘍を約1-2 mmの大きさの塊に切る。50 mlの遠心チューブを1個用意し、その頂部に70 μmの細胞ストレーナーを置き、滅菌スポイトで全ての腫瘍組織をストレーナーに移し、組織断片が残っていれば、5 mLプラスチックシリンジでRPMI 1640培地を注入し、組織断片をストレーナーに通す。全ての細胞溶液を、底部にFicoll-Paqueが入っている15 mLコニカルチューブに慎重に移し、20℃、遠心力1025×gで20分間遠心分離しながら、ゆっくり加速して、ブレーキをかけてオフにする。滅菌ピペットで単核細胞層を新しい50 ml遠心チューブに慎重に移し、10 mLのRPMI 1640培地を加え、20℃、遠心力650×gで10分間遠心分離する。上清を除去し、10 mlの完全RPMI 1640培地に細胞を軽く再懸濁し、20℃、650×gで10分間再度遠心分離する。上清を除去し、1mLのRPMI 1640培地を加えて改めて懸濁し、そして得られたものが単離した腫瘍浸潤リンパ球(TILs)である。
【0030】
図4A、
図4B、
図4C、
図4D、及び
図4Eを参照されたい。それらは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果図であり、ここで*はp<0.05、**はp<0.01を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析した。
図4A-
図4Eの結果によると、比較例1、比較例2、及び実施例1と比較して、実施例2で実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチン及び放射線療法を同時に投与する治療は、CD4
+細胞、CD8
+細胞、CD44
+細胞、Treg細胞、及び骨髄由来抑制細胞(MDSC)の数を顕著に増加させることができ、ここで、CD4
+細胞の数はヘルパーTリンパ球(Th)反応を表し、CD8
+細胞の数は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を表し、CD44
+細胞の細胞数はエフェクター/メモリーT細胞反応を表し、Treg細胞及びMDSCの細胞数は免疫抑制細胞反応を表す。上記結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが、免疫細胞の浸潤を促進することにより抗腫瘍免疫を得ることを示す。
【0031】
図5A、
図5B、
図5C、
図5D、
図5E、及び
図5Fを参照されたい。
図5Aは、生体外(ex vivo)免疫分析の実験フローの概略図を示し、
図5B、
図5C、
図5D、
図5E、及び
図5Fは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの生体外免疫分析の分析結果図である。試験では、マウス脾臓の単一細胞懸濁液をIFNγ ELISpot検出キット(Abcam)で生体外免疫分析を行う。脾臓細胞を、2 mM L-グルタミン、0.5 ug/mLコンカナバリンA、及び2 ng/mL m-IL2の完全RPMI 1640培地を含む96ウェルプレートに2.5×10
5/ウェルの密度で播種し、2日間培養する。付着していない細胞を除去した後、培地を1 μg/mLペプチドを添加した培地に交換し、脾臓細胞を24時間刺激する。陽性対照群は、1 ng/mL PMAと500ng/mLイオノマイシンを添加したRPMI 1640培地で培養した脾臓細胞である。最後に、定性的測定を行い、IFNγの産生及び分泌の部位を検出する。
図5B-
図5Fに示すように、結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンがneoAg特異的CD8
+T細胞応答を誘導できることを示す。
【0032】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの腫瘍微小環境における作用を検証するために、実験では、腫瘍浸潤リンパ球の単離を実施する。確立された結腸直腸がんマウスをランダムに割り当てた異なる群の結腸直腸がんマウスには、それぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に実施例1、比較例1(1×10
8 vg)、及びPBSを計4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目と18日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を2回行う。28日目に結腸直腸がんマウスを犠牲にし、収集した腫瘍組織に免疫分析を行う。実施例1及び3、比較例1及び3、並びに対照群1及び3の治療戦略は表3を参照されたい。
表3、実施例1及び3、比較例1及び3、並びに対照群1及び3の治療戦略
【表3】
【0033】
図6A、
図6B、
図6C、及び
図6Dを参照されたい。
図6A及び
図6Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果図であり、
図6C及び
図6Dは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、放射線療法投与後の腫瘍微小環境(TME)に対する影響の分析結果図である。
図6A、
図6B、及び
図6Dにおいて、*はp<0.05を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。
図6A-
図6Dに示すように、対照群1、対照群3、比較例1、比較例3、及び実施例1と比較して、実施例3で実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチン及び放射線療法を同時に投与して、CD8
+T
EMの細胞数、及びIFNγ
+CD8
+TILsとIFNγ
+CD8
+TIL/Tregの比率を顕著に増加させる。上記結果は、放射線療法が腫瘍浸潤エフェクター/メモリー及び細胞傷害性CD8
+T細胞を増加させ、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが放射線療法投与後の腫瘍微小環境における免疫抑制状態を逆転できることを示す。
【0034】
[実施例4-9]
【0035】
次に、われわれは、TLR9アンタゴニスト配列と様々な腫瘍抗原を含むAAVに基づくがんワクチンを、がんに対する治療効果を確認するために開発した。
図7Aを参照されたい。それは実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの構築及び治療戦略の概略図を示す。
【0036】
図7Aに示すように、3種類のAAVに基づくがんワクチン(実施例4、実施例6、及び実施例8)は、自然免疫系によるウイルスクリアランスを回避し、且つ腫瘍抗原発現を延長するために、2つの短いTLR9阻害配列(
図7Aでは「TLR9i」として示す)をIL12 spを含むpAAV-CMV発現ベクターに挿入するように設計される。実施例4のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、少なくとも1つの腫瘍抗原としてTAAがん胎児性抗原(CEA)を含み、CEAのアミノ酸配列はSEQ ID NO:12に示される。実施例6のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、表1に列挙されるneoAgs 1-8を含み、且つRERKリンカーで融合されて少なくとも1つの腫瘍抗原(
図7Aでは「neoAg」で示す)とする。実施例8のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、少なくとも1つの腫瘍抗原(
図7Aでは「aeTSA」で示す)として表4に列挙される異常発現腫瘍特異抗原1-7を含み、ここでEREは内因性逆転写因子の略称である。2つの短いTLR9阻害配列のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示される。また、比較例1は、空のpAAV-CMV発現ベクターであり、IL12 spをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片を含まない。
表4、CT26細胞におけるaeTSAs
【表4】
【0037】
実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。実施例4、実施例6、実施例8のAAVに基づくがんワクチン、及び比較例1(1×10
8 vg)のものをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、30日目に犠牲にするまで、式V=(L×W
2)/2で腫瘍体積を計算する。収集した腫瘍組織は、後続の免疫分析に用いられる。実施例4-9及び比較例1-2の治療戦略は、表5を参照されたい。
表5、実施例4-9及び比較例1-2の治療戦略
【表5】
【0038】
図7B、
図7C、
図7D、
図7E、及び
図7Fを参照されたい。それらは、実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの結腸直腸がんの治療効果の分析結果図であり、ここで、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。
図7B-
図7Eに示すように、実施例4のAAVに基づくがんワクチンを単独で投与すると、腫瘍の進行から結腸直腸がんマウスを保護することができないが、実施例6又は実施例8のAAVに基づくがんワクチンを単独で投与する群では、腫瘍の増殖がわずかに遅延する。しかしながら、AAVに基づくがんワクチンと放射線療法を同時に投与する群(実施例5、実施例7、及び実施例9)では、腫瘍の増殖を顕著に阻害する効果が見られる。
図7Fの結果は、実施例7及び実施例9では、増殖細胞マーカーKi67の発現量も顕著に減少していることを示す。上記結果は、実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンが、放射線療法の治療効果を顕著に向上させ、且つ腫瘍抗原特異的免疫反応を引き起こして腫瘍の増殖を遅延させることを示す。
【0039】
[実施例10-12]
【0040】
われわれは、本開示のワクチンを更に構築し、がんに対するその治療効果を確認した。
図8Aを参照されたい。それは本開示の実施例10のワクチンの構築概略図を示す。
図8Aに示すように、本開示の実施例10のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原として表1に列挙されるneoAgs 1-8、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップとCTLA4トラップ、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含む。上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片をCMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。PD-1トラップ及びCTLA4トラップのアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:22及びSEQ ID NO:23に示される。TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例4は、IL12 sp、PD-1トラップ、CTLA4トラップ、及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むpAAV-CMV発現ベクターである。
【0041】
図8B及び表6を参照されたい。
図8Bは、本開示の実施例10のワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表6は、実施例10-12及び比較例4-6の治療戦略である。
表6、実施例10-12及び比較例4-6の治療戦略
【表6】
【0042】
本開示の実施例10のワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。本開示の実施例10のワクチン及び比較例4(1×108 vg)のものをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。又は11日目と17日目に同様の方法で放射線療法を計2回投与する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、28日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。
【0043】
図8C、
図9、及び表7を参照されたい。
図8Cは、本開示の実施例10のワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図であり、
図9は、本開示の実施例10のワクチンで治療した結腸直腸がんマウスの生存曲線であり、表7は、実施例10-12及び比較例4-6の完全寛解(complete response;CR)率である。
表7、実施例10-12及び比較例4-6の完全寛解率
【表7】
【0044】
図8Cの結果は、他の群と比較して、実施例12(本開示の実施例10のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積が顕著に減少し、本開示の実施例10のワクチンが放射線療法の治療効果を顕著に促進することを示す。
図9及び表7の結果は、40%の結腸直腸がんマウスが、本開示の実施例10のワクチンを投与した後、完全寛解(2/5)に達し、本開示の実施例10のワクチンが結腸直腸がんマウスの生存時間を顕著に延長することを示す。
【0045】
[実施例13-15]
【0046】
われわれは、本開示の別の実施例のワクチンを更に構築し、がんに対するその効果を確認した。
図10A及び表8を参照されたい。
図10Aは、本開示の実施例13のワクチンの構築概略図、及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表8は、実施例13-15、比較例7-9、及び対照群1-3の治療戦略である。
表8、実施例13-15、比較例7-9、及び対照群1-3の治療戦略
【表8】
【0047】
図10Aに示すように、本開示の実施例13のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原としてneoAg/asTSA、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップ及びPD-L1 miRNA(
図10Aでは「miR」で示す)、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含み、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片を、CMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。neoAg/asTSAは、表1に列挙されたneoAgs 1-8及び表4に列挙されたasTSAs 1-7を含む。PD-1トラップのアミノ酸配列はSEQ ID NO:22に示され、PD-L1 miRNAのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:24に示される。TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例7は、IL12 sp、PD-1トラップ及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片、及びPD-L1 miRNAのpAAV-CMV発現ベクターを含まない。
【0048】
本開示の実施例13のワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。実施例13のワクチン、比較例7(1×108 vg)のもの、及びPBSをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。又は11日目と18日目に分割放射線療法を計2回投与する。また、結腸直腸がんマウスに、第2腫瘍が生成するように、3×105個のCT26細胞及び20%マトリゲルを56日目に皮下接種する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。試験の30日目に、フローサイトメトリーで分析する。また、本開示の実施例13のワクチンと比較例7のワクチンを筋肉内注射によって接種した後、結腸直腸がんマウスの血液中のGlud1+CD8細胞の発現レベルを、Glud1/MHC-I特異的四量体アッセイで測定する。
【0049】
図10B、
図10C、
図10D、
図10E、
図10F、
図10G、表9及び表10を参照されたい。
図10B、
図10C、
図10D、
図10E、
図10F、
図10Gは、本開示の実施例13のワクチンを放射線療法と組み合わせて結腸直腸がんを治療した効果の分析結果図であり、ここで、*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。表9は、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の完全寛解率であり、表10は、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の生存時間の中央値である。
表9、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の完全寛解率
【表9】
表10、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の生存時間の中央値
【表10】
【0050】
図10B-
図10Dの結果は、他の群と比較して、比較例9(比較例7のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積及び腫瘍重量は約70%顕著に減少することを示す。しかしながら、実施例15(本開示の実施例13のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積及び腫瘍重量は、約90%顕著に減少する。
図10E、
図10F、表9、及び表10の結果は、40%の結腸直腸がんマウスが、本開示の実施例13のワクチンを投与した後、完全寛解(3/7)に達し、その生存時間が顕著に延長することを示す。また、腫瘍のない結腸直腸がんマウスにCT26細胞を再植してから370日後でも第2腫瘍がまったく生成せず、これは本開示の実施例13のワクチンを投与することにより、放射線療法の治療効果を向上できるだけでなく、腫瘍の再生を阻害できることを示す。
図10Gの結果は、本開示の実施例13のワクチンを接種した結腸直腸がんマウスの単球において、ネオ抗原特異的T細胞免疫反応が顕著に増加することを示す。したがって、上記結果は、本開示の実施例13のワクチンを放射線療法と組み合わせることにより、完全応答を達成し、且つ腫瘍再発を阻害できることを示す。
【0051】
[実施例16-17]
【0052】
本開示のワクチンが高いネオ抗原免疫原性を引き起こして放射線療法の治療効果を向上させることを更に証明するために、実験では、8つの突然変異型TSAを含む別のワクチンを更に構築し、4T1腫瘍を有するBALB/cマウスに接種する。
図11A及び表11を参照されたい。
図11Aは、本開示の実施例16のワクチンの構築概略図、及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表11は、実施例16-17、比較例10-11、及び対照群4-5の治療戦略である。
表11、実施例16-17、比較例10-11、及び対照群4-5の治療戦略
【表11】
【0053】
図11Aに示すように、本開示の実施例16のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原としてneoAg、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップ及びPD-L1 miRNA(
図11Aでは「miR」で示す)、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含み、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片を、CMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示され、neoAgは、表12に列挙されたneoAgs 9-16を含む。PD-1トラップのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:22に示され、PD-L1 miRNAのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:24に示され、TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例10は、IL12 sp、PD-1トラップ及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片、及びPD-L1 miRNAのpAAV-CMV発現ベクターを含まない。
表12、マウス乳腺4T1細胞株(以下、「4T1細胞」と略称する)におけるneoAgs
【表12】
【0054】
本開示の実施例16のワクチンの治療効果を検証するために、実験では、乳がんマウスモデルを確立しておく。3×105個の4T1細胞及び20%マトリゲル(Corning,Union City,CA,USA)を、6週齢の雌BALB/cマウスに皮下接種し、免疫原性の低い乳がん細胞である4T1腫瘍を有するBALB/cマウスを得る。8日後、乳がんマウスをランダムに異なる群に分け、本開示の実施例16のワクチン、比較例10(1×108 vg)のもの、及びPBSをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目と18日目に乳がんマウスを完全に麻酔した後、放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を2回行う。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。試験の31日目に、フローサイトメトリーで分析する。
【0055】
図11B、
図11C、
図11D、
図11E、
図11F、及び
図11Gを参照されたい。それらは、本開示の実施例16のワクチンの乳がんに対する治療効果の分析結果図であり、ここで*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析する。
図11B及び
図11Cに示すように、実施例17(本開示の実施例16のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍退縮率及び腫瘍重量は、約80%顕著に減少する。
図11D-
図11Fの結果は、実施例17における残存腫瘍中の腫瘍浸潤CD4
+細胞、CD8
+細胞、CD4
+T
EM細胞、CD8
+T
EM細胞、及びIFNγ
+CD8
+T細胞の細胞数が顕著に増加することを示す。
図11Gの結果は、実施例17では、腫瘍浸潤DCsにおけるPD-L1発現レベルも顕著に減少することを示す。上記結果は、本開示の実施例16のワクチンがDCsにおけるPD-L1発現を阻害することことができ、その結果、より良好な抗原提示及びT細胞媒介免疫反応がもたらされることを示す。これは、本開示の実施例16のワクチンが、免疫原性の低い乳がん動物モデルにおいて放射線療法の治療効果を向上させることを示す。
【0056】
[実施例18-22]
【0057】
図12A及び
図12Bを参照されたい。
図12Aは、本開示の一実施形態のがんワクチン混合物のがん治療のための治療戦略の概略図を示し、
図12Bは、本開示の一実施形態の一実施例のがんワクチン混合物の概略図を示す。
【0058】
本開示の別の実施形態によれば、本開示は、前段落に記載のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を含むがんワクチン混合物を提供する。前記ワクチンは、がん治療を必要とする対象における少なくとも1つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられる。増強剤は、前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられる。免疫増強剤は、前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる。
【0059】
前記少なくとも1つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択されてよい。前記増強剤は、放射線、化学療法剤、免疫調節剤、標的療法薬、抗体薬、又はそれらの組み合わせであってよい。前記免疫増強剤は、少なくとも1つの腫瘍抗原を含むがんワクチン又は少なくとも1つの腫瘍抗原を含む治療細胞であってよい。好ましくは、前記がんワクチンは樹状細胞に基づくがんワクチン又はウイルスに基づくがんワクチンであってよく、前記少なくとも1つの腫瘍抗原を含む治療細胞は、サイトカイン誘導キラー細胞(cytokine-induced killer cell;CIK)、樹状細胞結合サイトカイン誘導キラー細胞(DC-CIK)、又はneoAg負荷DC-CIK(neoAg-pulsed DC-CIK)であってよい。免疫増強剤は、免疫チェックポイントタンパク質、免疫抑制因子及び/又は免疫刺激因子を含む治療細胞であってよい。好ましくは、免疫チェックポイントタンパク質を含む前記治療細胞は、キメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体-ナチュラルキラー細胞(CAR-NK)、又は養子T細胞であってよい。
【0060】
図13A及び表13を参照されたい。
図13Aは、本開示の一実施例のがんワクチン混合物の動物治療試験における治療戦略の概略図を示し、表13は、実施例18-22及び比較例12の治療戦略である。
表13、実施例18-22及び比較例12の治療戦略
【表13】
【0061】
本開示のがんワクチン混合物の治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。本開示の実施例13のワクチン及び比較例7(1×108 vg)のものをそれぞれ8日目及び14日目に2回筋肉内注射する。この試験では放射線療法を増強剤とし、増強剤を投与する群では、11日目、18日目、及び25日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を3回行う。この試験ではneoAg-DC-CIKを免疫増強剤とし、免疫増強剤を投与する群では、21日目及び31日目にneoAg-DC-CIKを計2回筋肉内注射する。また、αPD-1を免疫チェックポイント阻害剤(ICB)として16日目及び23日目に計2回投与する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、40日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。
【0062】
図13B、
図13C、
図13D、及び表14を参照されたい。
図13B、
図13C、及び
図13Dは、本開示のがんワクチン混合物の結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図であり、ここで***はp<0.001を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析する。表14は、実施例18-22及び比較例12の完全寛解率である。
表14、実施例18-22及び比較例12の完全寛解率
【表14】
【0063】
図13Bの結果は、他の群と比較して、実施例19-実施例22の腫瘍体積はいずれも顕著に縮小することを示す。また、実施例20では約33%の結腸直腸がんマウスが完全寛解(2/6)であり、実施例22では約83%の結腸直腸がんマウスが完全寛解(5/6)である。
図13C及び
図13Dの結果は、実施例22の結腸直腸がんマウスの単核細胞では、腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答が顕著に増加することを示す。以上の結果は、本開示のがんワクチン混合物が、完全応答を達成でき、且つ腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答を誘導できることを示す。
【0064】
以上のように、本開示のワクチンは、少なくとも1つの共阻害ペプチドとTLR9アンタゴニスト配列を共発現して、少なくとも1つの腫瘍抗原の発現を増加させ、且つ腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答を活性化する。したがって、本開示のワクチンは、十分な導入遺伝子発現を有し、ウイルスクリアランスを減少させ、腫瘍抗原発現量を増加させることができ、臨床的に安全であり、大きな将来性と優位性がある。また、本開示のワクチンは、がんに対する放射線療法の治療効果を向上させ、放射線療法と共阻害ペプチドを含む本開示のワクチンの治療効果を相乗的に増加させることができ、新規、安全且つ効果的な腫瘍抗原に基づく免疫療法を提供する。また、本開示のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を投与することを含む本開示のがんワクチン混合物での療法は、腫瘍増殖の阻害及び腫瘍再発の阻害に有効である。
【0065】
本開示は、実施形態で以上のように詳細に開示されたが、他の実施形態も可能である。したがって、特許請求の範囲の精神及び範囲は、本明細書の実施形態の説明に限定されるべきではない。
【0066】
当然ながら、当業者にとって、本開示の範囲又は精神から逸脱することなく、本開示の構成に対して様々な変更や修飾を行うことができる。以上の内容に鑑み、本明細書は、添付の特許請求の範囲に入る本開示の修正及び変更を網羅することを意図する。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターと、
複数のペプチドをコードし、且つ前記ベクターに封入される導入遺伝子と、
を含み、
前記ペプチドは、
分泌シグナルペプチドと、
腫瘍細胞と正常細胞との差分である少なくとも1つの腫瘍抗原と、
プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む少なくとも1つの共阻害ペプチドと、
Toll様受容体9(TLR9)アンタゴニスト配列と、
を順に含む、ワクチン。
【請求項2】
前記少なくとも一つの共阻害ペプチドと前記TLR9アンタゴニスト配列との間に共刺激ペプチドを更に含み、前記共刺激ペプチドは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン12(IL12)、及びインターフェロン(IFNs)から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記ベクターは、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、又はナノ粒子である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
前記分泌シグナルペプチドは、インターロイキン2シグナルペプチド(IL2 sp)又はインターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項6】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍特異体細胞突然変異を同定するために、前記対象の前記正常細胞及び対応する前記腫瘍細胞の全エクソームシーケンシングを比較することによって選択されるDNA配列である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項7】
前記PD-L1アンタゴニストは、P
D-L1トラップ及びPD-1ペプチドを含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項8】
前記PD-1アンタゴニストは、PD-1トラップ及びPD-L1
ペプチドまたはPD-L2ペプチドを含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項9】
前記CTLA4アンタゴニストは、CTLA4トラップ及びCTLA4アンタゴニスト抗体を含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項10】
前記TLR9アンタゴニスト配列は、CpGオリゴヌクレオチドTLR9結合ドメイン、TLRデコイペプチド、及びCpG結合配列から選択される、請求項1に記載のワクチン。
【請求項11】
がん治療を必要とする対象において抗腫瘍免疫応答を誘導するために用いられる、がん治療における使用のための請求項1に記載のワクチン。
【請求項12】
前記ワクチンが放射線と組み合わせて用いられる、請求項11に記載の使用のためのワクチン。
【請求項13】
がん治療を必要とする対象における前記少なくとも一つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられる請求項1に記載のワクチンと、
前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられる増強剤と、
前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる免疫増強剤とを含む、がんワクチン混合物。
【請求項14】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項15】
前記増強剤は、放射線、化学療法剤、免疫調節剤、標的療法薬、抗体薬、又はそれらの組み合わせである、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項16】
前記免疫増強剤は、前記少なくとも一つの腫瘍抗原を含むがんワクチン又は前記少なくとも一つの腫瘍抗原を含む治療細胞である、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項17】
前記がんワクチンは、樹状細胞に基づくがんワクチン又はウイルスに基づくがんワクチンであり、前記治療細胞は、サイトカイン誘導キラー細胞(cytokine-induced killer cell;CIK)、樹状細胞結合サイトカイン誘導キラー細胞、又はneoAg負荷DC-CIKである、請求項16に記載のがんワクチン混合物。
【請求項18】
前記少なくとも一つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択される、請求項16に記載のがんワクチン混合物。
【請求項19】
前記免疫増強剤は、免疫チェックポイントタンパク質、免疫抑制因子、及び/又は免疫刺激因子を含む、治療細胞である、請求項13に記載のがんワクチン混合物。
【請求項20】
前記治療細胞は、キメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体-ナチュラルキラー細胞(CAR-NK)、又は養子T細胞である、請求項19に記載のがんワクチン混合物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワクチン、その使用、及びがんワクチン混合物に関し、特に、腫瘍抗原に特異的なワクチン、その使用、及び前記ワクチンを含むがんワクチン混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療は、放射線療法、化学療法、標的療法、及び手術を主として、近年の薬剤や手術技術の進歩にもかかわらず、末期患者の5年間生存率がまだかなり低く、これはがん免疫療法等の新しい治療戦略を開発する重要性を示している。免疫療法は、免疫反応を強化して腫瘍細胞を排除することを主として、免疫チェックポイント阻害剤、細胞療法、がんワクチン等を含む。免疫チェックポイント阻害剤は様々ながんにおいて良好な臨床反応を示しているが、その適用はDNAミスマッチによる修復欠損の状態(がん患者の10-15%)と免疫細胞浸潤の程度によって制限され、ほとんどのがん患者は免疫チェックポイント阻害に適用しないことを示している。したがって、ネオ抗原に基づく免疫療法等の新しいタイプの免疫療法戦略を開発することが非常に重要である。
【0003】
ネオ抗原は、がん進行中の体細胞突然変異に由来し、腫瘍特異的免疫反応を誘発することができるため、次世代遺伝子配列決定技術の画期的な進歩により、個別化されたネオ抗原を同定することで腫瘍特異的免疫反応を活性化することによってがんワクチンを開発することが可能となるが、放射線療法(RT)と化学療法(CT)は、腫瘍抗原の放出を増加させるだけでなく、腫瘍微小環境を、より許容できる微小環境に変えることもできる。ネオ抗原に基づくがんワクチンを放射線療法及び免疫原性化学療法を組み合わせることで、従来の治療に抵抗性の患者でも持続可能な疾患制御を達成できる可能性があると期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのうえ、腫瘍ネオ抗原ペプチドワクチンを単独で使用する単一の療法は、腫瘍を除去するのに十分な効果がなく、ほとんどの突然変異は患者によって異なり、ネオ抗原がより個別化され、結果として高コストと長期間がかかる。したがって、頻度の高い共有ネオ抗原(shared neoantigen)をターゲットにし、ネオ抗原に基づく免疫療法の送達効果を最適化することは、前述の問題を解決するための新しい方向である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ベクターおよび導入遺伝子を含むワクチンを提供することである。導入遺伝子は、複数のペプチドをコードし、且つベクターに封入されており、前記ペプチドは順に、分泌シグナルペプチド、少なくとも1つの腫瘍抗原、少なくとも1つの共阻害ペプチド、及びToll様受容体9アンタゴニスト配列(TLR9)を含む。前記少なくとも1つの腫瘍抗原は、腫瘍細胞と正常細胞との差分である。前記少なくとも1つの共阻害ペプチドは、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む。
【0006】
本開示の別の態様は、がんの治療に用いられ、がん治療を必要とする対象に抗腫瘍免疫応答を誘導するための、前段落に記載のワクチンの使用である。
【0007】
本開示の更なる態様は、前段落に記載のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を含むがんワクチン混合物を提供することである。前記ワクチンは、がん治療を必要とする対象における少なくとも1つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられ、増強剤は、前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられ、免疫増強剤は、前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の目的をより明確にするために、以下、図面を参照しながら実施例を詳細に説明する。
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態のワクチンの構築を示す概略図である。
【
図2A-2C】
図2A、
図2B、及び
図2Cは、本開示のワクチンが対象に導入遺伝子を送達し、コードされたペプチドが対象の体内で相互作用するメカニズムを示す概略図である。
【
図3A】
図3Aは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの構築を示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図3C】
図3Cは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果を示す。
【
図5A】
図5Aは、生体外(ex vivo)免疫分析の実験プロセスを示す概略図である。
【
図6A-6B】
図6A及び
図6Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果を示す。
【
図6C-6D】
図6C及び
図6Dは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、放射線療法後の腫瘍微小環境(TME)に対する影響の分析結果を示す。
【
図7A】
図7Aは、実施例4、実施例6及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの構築及び治療戦略を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、本開示の実施例10のワクチンの構築を示す概略図である。
【
図8B】
図8Bは、本開示の実施例10のワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図8C】
図8Cは、本開示の実施例10のワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果を示す。
【
図9】
図9は、本開示の実施例10のワクチンで治療した結腸直腸がんマウスの生存曲線を示す。
【
図10A】
図10Aは、本開示の実施例13のワクチンの構築及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図11A】
図11Aは、本開示の実施例16のワクチンの構築及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略を示す概略図である。
【
図12A】
図12Aは、本開示の一実施形態のがんワクチン混合物のがん治療のための治療戦略を示す概略図である。
【
図12B】
図12Bは、本開示の一実施形態の一実施例のがんワクチン混合物を示す概略図である。
【
図13A】
図13Aは、本開示の一実施例のがんワクチン混合物の動物治療試験における治療戦略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照されたい。それは本開示の一実施形態のワクチン100の構築概略図を示す。ワクチン100は、ベクター110と、ベクター110に封入された導入遺伝子120とを含む。
【0010】
ベクター110は、異なる異方性を有する腫瘍抗原の発現を増強するために用いられ、ワクシニアウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、又はナノ粒子であってよい。好ましくは、AAVベクターは、アデノ随伴ウイルス2(AAV2)ベクター又はアデノ随伴ウイルス6(AAV6)ベクターであってよい。ナノ粒子は、リポソーム送達システム[例えば、リン酸セチル-テトラエチレンペンタミンに基づくポリカチオン性リポソーム(TEPA-PCL)、リポプレックス(例えば、DOTMA:コレステロール:TPGSリポプレックス又はDDAB:コレステロール:TPGSリポプレックス)、カチオン性リポソーム-ヒアルロン酸(LPH)ナノ粒子]、脂質ナノ粒子(LNP)、ポリエチレンイミン(PEI)又はポリエチレンイミン複合体、デンドリマーナノ粒子、ポリアミド(PAMAM)ナノ粒子、ポリ乳酸及びポリグリコール酸コポリマー(PLGA)ナノ粒子、アテロコラーゲンナノ粒子、及びシリカナノ粒子を含むが、それらに限定されない。
【0011】
導入遺伝子120は複数のペプチドをコードし、前記ペプチドは順に、分泌シグナルペプチド121、少なくとも1つの腫瘍抗原122、共阻害ペプチド123、及びToll様受容体9(TLR9)アンタゴニスト配列124を含む。
【0012】
分泌シグナルペプチド121は、腫瘍抗原の分泌を補助するために用いられる。好ましくは、分泌シグナルペプチド121は、インターロイキン2シグナルペプチド(IL2 sp)又はインターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)であってよい。
【0013】
少なくとも1つの腫瘍抗原122は、がん治療を必要とする対象に抗腫瘍免疫応答を増加させるために用いられ、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍細胞と正常細胞との差分である。好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択されてよい。また、少なくとも1つの腫瘍抗原122は、腫瘍特異体細胞突然変異(ネオ抗原)を同定するように、対象からの正常細胞及び対応する腫瘍細胞のDNA配列を全エクソーム配列によって比較して選別され、そして既存のネオ抗原データベースからネオ抗原をコードするポリヌクレオチドを選択することができる。TAAは腫瘍細胞では過剰発現されるが、正常細胞では発現量が低くなる。例えば、乳がんにおけるTAAは、乳がんで過剰発現されるマンマグロビン-A、前立腺特異抗原(PSA)、T細胞によって認識される黒色腫抗原(MART1)、メラノサイトタンパク質PMEL、Bcr/Ablチロシンキナーゼ、HPVE6、E7、MZ2-E、MAGE-1、及びMUC-1を含むが、これらに限定されない。一方、TSAはがん細胞のみで発見され、健康な細胞では発見されない。例えば、TSAは、ドライバー遺伝子KRAS-G12/13コドン突然変異ホットスポット、TP53突然変異ホットスポット、PIK3CA突然変異ホットスポット、BRAF突然変異、及びフレームシフト突然変異を含むが、これらに限定されない。aeTSAは、中枢免疫寛容を調整する胸腺髄質表皮細胞(mTEC)等を含むいずれの正常な体細胞では発現されない、突然変異していない転写産物の異常な発現から由来する。
【0014】
共阻害ペプチド123は、樹状細胞(DC)における共阻害シグナルを遮断してDCの抗原提示能力を増加させるためのものである。共阻害ペプチド123は、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)アンタゴニスト、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)アンタゴニスト、又は細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)アンタゴニストを含む。好ましくは、前記PD-L1アンタゴニストは、PD-L1トラップとPD-1ペプチドを含んでよく、前記PD-1アンタゴニストは、PD-1トラップとPD-L1/PD-L2ペプチドを含んでよく、前記CTLA4アンタゴニストは、CTLA4トラップとCTLA4アンタゴニスト抗体を含んでよい。
【0015】
TLR9アンタゴニスト配列124は、自然免疫系によるウイルスクリアランスを弱め、高い抗原負荷を維持するための抗ウイルスクリアランス配列である。好ましくは、TLR9アンタゴニスト配列124は、CpGオリゴヌクレオチドTLR9結合ドメイン、TLRデコイペプチド、及びCpG結合配列から選択されてよい。
【0016】
また、本開示のワクチン100は、DCのリクルート及び活性化を増加させるための共刺激ペプチドを更に含んでよく、ここで共刺激ペプチドは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン12(IL12)、及びインターフェロン(IFNs)から選択されてよい。
【0017】
一実施形態によれば、がん治療のための方法は、前段落に記載のワクチンを、がん治療を必要とする対象に投与することで、対象における抗腫瘍免疫反応を誘導することを含む。好ましくは、この実施形態におけるがん治療のための方法は更に、放射線療法を対象へ施すことを含むことができる。また、本開示のワクチンは、ペプチドが発現される条件下で、対象の腫瘍特異的免疫反応を相乗的に促進し、対象の生存期間を相乗的に延長することができる。
【0018】
「がん」とは、細胞増殖の無秩序性を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指す。「腫瘍」は、1つ又は複数種類のがん細胞を含む。がんの例は、上皮がん、リンパ腫、芽腫、肉腫、及び白血病、又はリンパ悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。より具体的には、乳がん、大腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、肺腺腫、肺扁平上皮がんを含む肺がん、扁平上皮がん(例えば、上皮性扁平上皮がん)、腹膜がん、肝細胞がん、消化管がんを含む胃がん、膵がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝細胞がん、膀胱がん、子宮内膜がん又は子宮体がん、唾液腺がん、腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肛門がん、陰茎がん、頭頸部がん等が挙げられる。
【0019】
「有効量」とは、対象の疾患/障害を「治療」するのに有効な本開示のワクチンの量を意味する。有効量は、投与された組織、システム、動物又はヒトの生物学的又は医学的反応とある程度の相関関係があり、例えば、投与された場合、1つ又は複数の疾患/障害の進行をある程度予防したり、1つ又は複数の治療された疾患/障害の症状を軽減したりするのに十分である。治療有効量は、疾患及びその重篤度、並びに治療される哺乳動物の年齢及び体重等によって異なる。
【0020】
図2A、
図2B、及び
図2Cを参照されたい。それらは、本開示のワクチンが対象に導入遺伝子を送達し、コードされたペプチドが対象の体内で相互作用するメカニズムを示す概略図である。本開示のワクチンは、免疫チェックポイントの阻害、腫瘍抗原提示量の増加、腫瘍免疫反応の活性化に有効である。
【0021】
以下、具体的な実施例を挙げて図面を組み合わせて本開示を更に例示的に説明するが、これらの実施例は説明のためのものに過ぎず、本開示はこれらに限定されない。例えば、以下の実施例で使用されるベクターはAAVベクターであるが、前記ベクターは導入遺伝子をターゲット細胞に伝達するためのものであるため、ワクシニアウイルスベクター又はナノ粒子のような他のベクターを使用しても同様の効果が期待できる。
【0022】
実施例と比較例
【0023】
[実施例1-3]
【0024】
まず、われわれは、化学療法及び放射線療法を受けた後に残っている腫瘍には、共有ネオ抗原(以下、「neoAg(s)」と略称する)が存在することを発見し、そして難治性及び再発性腫瘍のneoAgsマップを確立した。これらのneoAgsは体外診断(IVD)テストや、抗体に基づく免疫治療薬の開発に使用できる。また、これらのneoAgsは、DCワクチン及びDC-DIK細胞療法を改善するための腫瘍特異的主要成分とし、放射線療法、化学療法、細胞療法の効果を向上させるためのneoA
gペプチドに基づくがんワクチン免疫療法を更に開発するために使用できる。表1を参照されたい。それは、マウス大腸がんCT26細胞株(以下、「CT26細胞」と略称する)におけるneoAgsのリストである。
表1、CT26細胞におけるneoAgs
【表1】
また、われわれは上記neoAgsを含むneoAgペプチドに基づくがんワクチンを開発し、がんに対するその治療効果を確認した。
【0025】
図3Aを参照されたい。それは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの構築概略図を示す。
図3Aに示すように、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片をCMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する、インターロイキン12シグナルペプチド(IL12 sp)、neoAgs、及び2つのオボアルブミン配列(OVA-CD4とOVA-CD8)を含む。IL12 spは、細胞に分泌されるneoAgsの量を増加させるために用いられ、IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。neoAgsは、表1に示すneoAgs 1-8を含み、且つRERKリンカーを介して融合される。OVA-CD4及びOVA-CD8を陽性対照群とし、OVA-CD4及びOVA-CD8のアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:9及びSEQ ID NO:10に示される。また、比較例1は、空のpAAV-CMV発現ベクターであり、IL12 spをコードするヌクレオチド断片を含むが、neoAgsをコードするヌクレオチド断片を含まない。
【0026】
図3B及び表2を参照されたい。
図3Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表2は、実施例1-2及び比較例1-2の治療戦略である。
表2、実施例1-2及び比較例1-2の治療戦略
【表2】
【0027】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの治療効果を検証するために、実験では、結腸直腸がんのマウスモデルを確立しておく。2×105個のCT26細胞及び20%マトリゲル(Corning,Union City,CA,USA)を、6週齢の雌BALB/cマウスの右下肢に皮下接種する。8日後、結腸直腸がんマウスをランダムに異なる群に分け、実施例1又は比較例1(1×108 vg)を6日ごとに計3回筋肉内注射し、25日目に4回目の補強剤を注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を行い、放射線療法の回数は1回である。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、28日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。採取した腫瘍組織は、後続の免疫分析に用いられる。
【0028】
図3Cを参照されたい。それは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図である。
図3Cの結果によると、比較例1と比較して、実施例1でneoAgペプチドに基づくがんワクチンを単独で投与する治療は、腫瘍増殖を顕著に阻害することができ、比較例2(放射線療法を単独で投与する)と同様の効果を達成することができる。実施例2では、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンと放射線療法を同時に投与して、腫瘍増殖阻害効果がより顕著である。上記結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが放射線療法の治療効果を向上できることを示す。
【0029】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響を検証するために、腫瘍浸潤リンパ球を更に単離する。試験では、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の結腸直腸がんマウスから新鮮な腫瘍を単離し、室温で腫瘍を5 mLのRPMI 1640培地を含む6 cmシャーレに置き、滅菌ナイフで腫瘍を約1-2 mmの大きさの塊に切る。50 mLの遠心チューブを1個用意し、その頂部に70 μmの細胞ストレーナーを置き、滅菌スポイトで全ての腫瘍組織をストレーナーに移し、組織断片が残っていれば、5 mLプラスチックシリンジでRPMI 1640培地を注入し、組織断片をストレーナーに通す。全ての細胞溶液を、底部にFicoll-Paqueが入っている15 mLコニカルチューブに慎重に移し、20℃、遠心力1025×gで20分間遠心分離しながら、ゆっくり加速して、ブレーキをかけてオフにする。滅菌ピペットで単核細胞層を新しい50 mL遠心チューブに慎重に移し、10 mLのRPMI 1640培地を加え、20℃、遠心力650×gで10分間遠心分離する。上清を除去し、10 mLの完全RPMI 1640培地に細胞を軽く再懸濁し、20℃、650×gで10分間再度遠心分離する。上清を除去し、1 mLのRPMI 1640培地を加えて改めて懸濁し、そして得られたものが単離した腫瘍浸潤リンパ球(TILs)である。
【0030】
図4A、
図4B、
図4C、
図4D、及び
図4Eを参照されたい。それらは実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果図であり、ここで*はp<0.05、**はp<0.01を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析した。
図4A-
図4Eの結果によると、比較例1、比較例2、及び実施例1と比較して、実施例2で実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチン及び放射線療法を同時に投与する治療は、CD4
+細胞、CD8
+細胞、CD44
+細胞、Treg細胞、及び骨髄由来抑制細胞(MDSC)の数を顕著に増加させることができ、ここで、CD4
+細胞の数はヘルパーTリンパ球(Th)反応を表し、CD8
+細胞の数は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を表し、CD44
+細胞の細胞数はエフェクター/メモリーT細胞反応を表し、Treg細胞及びMDSCの細胞数は免疫抑制細胞反応を表す。上記結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが、免疫細胞の浸潤を促進することにより抗腫瘍免疫を得ることを示す。
【0031】
図5A、
図5B、
図5C、
図5D、
図5E、及び
図5Fを参照されたい。
図5Aは、生体外(ex vivo)免疫分析の実験フローの概略図を示し、
図5B、
図5C、
図5D、
図5E、及び
図5Fは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの生体外免疫分析の分析結果図である。試験では、マウス脾臓の単一細胞懸濁液をIFNγ ELISpot検出キット(Abcam)で生体外免疫分析を行う。脾臓細胞を、2 mM L-グルタミン、0.5
μg/mLコンカナバリンA、及び2 ng/mL m-IL2の完全RPMI 1640培地を含む96ウェルプレートに2.5×10
5/ウェルの密度で播種し、2日間培養する。付着していない細胞を除去した後、培地を1 μg/mLペプチドを添加した培地に交換し、脾臓細胞を24時間刺激する。陽性対照群は、1 ng/mL PMAと500
ng/mLイオノマイシンを添加したRPMI 1640培地で培養した脾臓細胞である。最後に、定性的測定を行い、IFNγの産生及び分泌の部位を検出する。
図5B-
図5Fに示すように、結果は、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンがneoAg特異的CD8
+T細胞応答を誘導できることを示す。
【0032】
実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの腫瘍微小環境における作用を検証するために、実験では、腫瘍浸潤リンパ球の単離を実施する。確立された結腸直腸がんマウスをランダムに割り当てた異なる群の結腸直腸がんマウスには、それぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に実施例1、比較例1(1×10
8 vg)、及びPBSを計4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目と18日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を2回行う。28日目に結腸直腸がんマウスを犠牲にし、収集した腫瘍組織に免疫分析を行う。実施例1及び3、比較例1及び3、並びに対照群1及び3の治療戦略は表3を参照されたい。
表3、実施例1及び3、比較例1及び3、並びに対照群1及び3の治療戦略
【表3】
【0033】
図6A、
図6B、
図6C、及び
図6Dを参照されたい。
図6A及び
図6Bは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの免疫細胞浸潤による抗腫瘍免疫作用に対する影響の分析結果図であり、
図6C及び
図6Dは、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンの、放射線療法投与後の腫瘍微小環境(TME)に対する影響の分析結果図である。
図6A、
図6B、及び
図6Dにおいて、*はp<0.05を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。
図6A-
図6Dに示すように、対照群1、対照群3、比較例1、比較例3、及び実施例1と比較して、実施例3で実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチン及び放射線療法を同時に投与して、CD8
+T
EMの細胞数、及びIFNγ
+CD8
+TILsとIFNγ
+CD8
+TIL/Tregの比率を顕著に増加させる。上記結果は、放射線療法が腫瘍浸潤エフェクター/メモリー及び細胞傷害性CD8
+T細胞を増加させ、実施例1のneoAgペプチドに基づくがんワクチンが放射線療法投与後の腫瘍微小環境における免疫抑制状態を逆転できることを示す。
【0034】
[実施例4-9]
【0035】
次に、われわれは、TLR9アンタゴニスト配列と様々な腫瘍抗原を含むAAVに基づくがんワクチンを、がんに対する治療効果を確認するために開発した。
図7Aを参照されたい。それは実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの構築及び治療戦略の概略図を示す。
【0036】
図7Aに示すように、3種類のAAVに基づくがんワクチン(実施例4、実施例6、及び実施例8)は、自然免疫系によるウイルスクリアランスを回避し、且つ腫瘍抗原発現を延長するために、2つの短いTLR9阻害配列(
図7Aでは「TLR9i」として示す)をIL12 spを含むpAAV-CMV発現ベクターに挿入するように設計される。実施例4のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、少なくとも1つの腫瘍抗原としてTAAがん胎児性抗原(CEA)を含み、CEAのアミノ酸配列はSEQ ID NO:12に示される。実施例6のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、表1に列挙されるneoAgs 1-8を含み、且つRERKリンカーで融合されて少なくとも1つの腫瘍抗原(
図7Aでは「neoAg」で示す)とする。実施例8のAAVに基づくがんワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、少なくとも1つの腫瘍抗原(
図7Aでは「aeTSA」で示す)として表4に列挙される異常発現腫瘍特異抗原1-7を含み、ここでEREは内因性逆転写因子の略称である。2つの短いTLR9阻害配列のアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示される。また、比較例1は、空のpAAV-CMV発現ベクターであり、IL12 spをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片を含まない。
表4、CT26細胞におけるaeTSAs
【表4】
【0037】
実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。実施例4、実施例6、実施例8のAAVに基づくがんワクチン、及び比較例1(1×10
8 vg)のものをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、30日目に犠牲にするまで、式V=(L×W
2)/2で腫瘍体積を計算する。収集した腫瘍組織は、後続の免疫分析に用いられる。実施例4-9及び比較例1-2の治療戦略は、表5を参照されたい。
表5、実施例4-9及び比較例1-2の治療戦略
【表5】
【0038】
図7B、
図7C、
図7D、
図7E、及び
図7Fを参照されたい。それらは、実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンの結腸直腸がんの治療効果の分析結果図であり、ここで、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。
図7B-
図7Eに示すように、実施例4のAAVに基づくがんワクチンを単独で投与すると、腫瘍の進行から結腸直腸がんマウスを保護することができないが、実施例6又は実施例8のAAVに基づくがんワクチンを単独で投与する群では、腫瘍の増殖がわずかに遅延する。しかしながら、AAVに基づくがんワクチンと放射線療法を同時に投与する群(実施例5、実施例7、及び実施例9)では、腫瘍の増殖を顕著に阻害する効果が見られる。
図7Fの結果は、実施例7及び実施例9では、増殖細胞マーカーKi67の発現量も顕著に減少していることを示す。上記結果は、実施例4、実施例6、及び実施例8のAAVに基づくがんワクチンが、放射線療法の治療効果を顕著に向上させ、且つ腫瘍抗原特異的免疫反応を引き起こして腫瘍の増殖を遅延させることを示す。
【0039】
[実施例10-12]
【0040】
われわれは、本開示のワクチンを更に構築し、がんに対するその治療効果を確認した。
図8Aを参照されたい。それは本開示の実施例10のワクチンの構築概略図を示す。
図8Aに示すように、本開示の実施例10のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原として表1に列挙されるneoAgs 1-8、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップとCTLA4トラップ、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含む。上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片をCMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。PD-1トラップ及びCTLA4トラップのアミノ酸配列はそれぞれ、SEQ ID NO:22及びSEQ ID NO:23に示される。TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例4は、IL12 sp、PD-1トラップ、CTLA4トラップ、及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むpAAV-CMV発現ベクターである。
【0041】
図8B及び表6を参照されたい。
図8Bは、本開示の実施例10のワクチンの、動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表6は、実施例10-12及び比較例4-6の治療戦略である。
表6、実施例10-12及び比較例4-6の治療戦略
【表6】
【0042】
本開示の実施例10のワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。本開示の実施例10のワクチン及び比較例4(1×108 vg)のものをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。又は11日目と17日目に同様の方法で放射線療法を計2回投与する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、28日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。
【0043】
図8C、
図9、及び表7を参照されたい。
図8Cは、本開示の実施例10のワクチンの結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図であり、
図9は、本開示の実施例10のワクチンで治療した結腸直腸がんマウスの生存曲線であり、表7は、実施例10-12及び比較例4-6の完全寛解(complete response;CR)率である。
表7、実施例10-12及び比較例4-6の完全寛解率
【表7】
【0044】
図8Cの結果は、他の群と比較して、実施例12(本開示の実施例10のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積が顕著に減少し、本開示の実施例10のワクチンが放射線療法の治療効果を顕著に促進することを示す。
図9及び表7の結果は、40%の結腸直腸がんマウスが、本開示の実施例10のワクチンを投与した後、完全寛解(2/5)に達し、本開示の実施例10のワクチンが結腸直腸がんマウスの生存時間を顕著に延長することを示す。
【0045】
[実施例13-15]
【0046】
われわれは、本開示の別の実施例のワクチンを更に構築し、がんに対するその効果を確認した。
図10A及び表8を参照されたい。
図10Aは、本開示の実施例13のワクチンの構築概略図、及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表8は、実施例13-15、比較例7-9、及び対照群1-3の治療戦略である。
表8、実施例13-15、比較例7-9、及び対照群1-3の治療戦略
【表8】
【0047】
図10Aに示すように、本開示の実施例13のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原としてneoAg/a
eTSA、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップ及びPD-L1 miRNA(
図10Aでは「miR」で示す)、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含み、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片を、CMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示される。neoAg/a
eTSAは、表1に列挙されたneoAgs 1-8及び表4に列挙されたa
eTSAs 1-7を含む。PD-1トラップのアミノ酸配列はSEQ ID NO:22に示され、PD-L1 miRNAのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:24に示される。TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例7は、IL12 sp、PD-1トラップ及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片、及びPD-L1 miRNAのpAAV-CMV発現ベクターを含まない。
【0048】
本開示の実施例13のワクチンの治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。実施例13のワクチン、比較例7(1×108 vg)のもの、及びPBSをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を1回行う。又は11日目と18日目に分割放射線療法を計2回投与する。また、結腸直腸がんマウスに、第2腫瘍が生成するように、3×105個のCT26細胞及び20%マトリゲルを56日目に皮下接種する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。試験の30日目に、フローサイトメトリーで分析する。また、本開示の実施例13のワクチンと比較例7のワクチンを筋肉内注射によって接種した後、結腸直腸がんマウスの血液中のGlud1+CD8細胞の発現レベルを、Glud1/MHC-I特異的四量体アッセイで測定する。
【0049】
図10B、
図10C、
図10D、
図10E、
図10F、
図10G、表9及び表10を参照されたい。
図10B、
図10C、
図10D、
図10E、
図10F、
図10Gは、本開示の実施例13のワクチンを放射線療法と組み合わせて結腸直腸がんを治療した効果の分析結果図であり、ここで、*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、***はp<0.001を表し、データは一元配置独立分散分析で分析する。表9は、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の完全寛解率であり、表10は、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の生存時間の中央値である。
表9、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の完全寛解率
【表9】
表10、実施例13及び15、比較例7及び9、並びに対照群1及び3の生存時間の中央値
【表10】
【0050】
図10B-
図10Dの結果は、他の群と比較して、比較例9(比較例7のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積及び腫瘍重量は約70%顕著に減少することを示す。しかしながら、実施例15(本開示の実施例13のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍体積及び腫瘍重量は、約90%顕著に減少する。
図10E、
図10F、表9、及び表10の結果は、40%の結腸直腸がんマウスが、本開示の実施例13のワクチンを投与した後、完全寛解(3/7)に達し、その生存時間が顕著に延長することを示す。また、腫瘍のない結腸直腸がんマウスにCT26細胞を再植してから370日後でも第2腫瘍がまったく生成せず、これは本開示の実施例13のワクチンを投与することにより、放射線療法の治療効果を向上できるだけでなく、腫瘍の再生を阻害できることを示す。
図10Gの結果は、本開示の実施例13のワクチンを接種した結腸直腸がんマウスの単球において、ネオ抗原特異的T細胞免疫反応が顕著に増加することを示す。したがって、上記結果は、本開示の実施例13のワクチンを放射線療法と組み合わせることにより、完全応答を達成し、且つ腫瘍再発を阻害できることを示す。
【0051】
[実施例16-17]
【0052】
本開示のワクチンが高いネオ抗原免疫原性を引き起こして放射線療法の治療効果を向上させることを更に証明するために、実験では、8つの突然変異型TSAを含む別のワクチンを更に構築し、4T1腫瘍を有するBALB/cマウスに接種する。
図11A及び表11を参照されたい。
図11Aは、本開示の実施例16のワクチンの構築概略図、及びその動物治療試験における放射線療法と組み合わせた治療戦略の概略図を示し、表11は、実施例16-17、比較例10-11、及び対照群4-5の治療戦略である。
表11、実施例16-17、比較例10-11、及び対照群4-5の治療戦略
【表11】
【0053】
図11Aに示すように、本開示の実施例16のワクチンにおける導入遺伝子にコードされるペプチドは、分泌シグナルペプチドとしてIL12 sp、少なくとも1つの腫瘍抗原としてneoAg、少なくとも1つの共阻害ペプチドとしてPD-1トラップ及びPD-L1 miRNA(
図11Aでは「miR」で示す)、及びTLR9アンタゴニスト配列としてTLR9iを含み、上記ペプチドに対応するヌクレオチド断片を、CMVによって開始されるpAAV-CMV発現ベクターに構築する。IL12 spのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11に示され、neoAgは、表12に列挙されたneoAgs 9-16を含む。PD-1トラップのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:22に示され、PD-L1 miRNAのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:24に示され、TLR9iは、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含む。また、比較例10は、IL12 sp、PD-1トラップ及びTLR9iをコードするヌクレオチド断片を含むが、腫瘍抗原をコードするヌクレオチド断片、及びPD-L1 miRNAのpAAV-CMV発現ベクターを含まない。
表12、マウス乳腺4T1細胞株(以下、「4T1細胞」と略称する)におけるneoAgs
【表12】
【0054】
本開示の実施例16のワクチンの治療効果を検証するために、実験では、乳がんマウスモデルを確立しておく。3×105個の4T1細胞及び20%マトリゲル(Corning,Union City,CA,USA)を、6週齢の雌BALB/cマウスに皮下接種し、免疫原性の低い乳がん細胞である4T1腫瘍を有するBALB/cマウスを得る。8日後、乳がんマウスをランダムに異なる群に分け、本開示の実施例16のワクチン、比較例10(1×108 vg)のもの、及びPBSをそれぞれ8日目、14日目、21日目、及び25日目に4回筋肉内注射する。放射線療法を投与する群では、11日目と18日目に乳がんマウスを完全に麻酔した後、放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を2回行う。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。試験の31日目に、フローサイトメトリーで分析する。
【0055】
図11B、
図11C、
図11D、
図11E、
図11F、及び
図11Gを参照されたい。それらは、本開示の実施例16のワクチンの乳がんに対する治療効果の分析結果図であり、ここで*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析する。
図11B及び
図11Cに示すように、実施例17(本開示の実施例16のワクチン及び放射線療法を同時に投与する)の腫瘍退縮率及び腫瘍重量は、約80%顕著に減少する。
図11D-
図11Fの結果は、実施例17における残存腫瘍中の腫瘍浸潤CD4
+細胞、CD8
+細胞、CD4
+T
EM細胞、CD8
+T
EM細胞、及びIFNγ
+CD8
+T細胞の細胞数が顕著に増加することを示す。
図11Gの結果は、実施例17では、腫瘍浸潤DCsにおけるPD-L1発現レベルも顕著に減少することを示す。上記結果は、本開示の実施例16のワクチンがDCsにおけるPD-L1発現を阻害することができ、その結果、より良好な抗原提示及びT細胞媒介免疫反応がもたらされることを示す。これは、本開示の実施例16のワクチンが、免疫原性の低い乳がん動物モデルにおいて放射線療法の治療効果を向上させることを示す。
【0056】
[実施例18-22]
【0057】
図12A及び
図12Bを参照されたい。
図12Aは、本開示の一実施形態のがんワクチン混合物のがん治療のための治療戦略の概略図を示し、
図12Bは、本開示の一実施形態の一実施例のがんワクチン混合物の概略図を示す。
【0058】
本開示の別の実施形態によれば、本開示は、前段落に記載のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を含むがんワクチン混合物を提供する。前記ワクチンは、がん治療を必要とする対象における少なくとも1つの腫瘍抗原に対する免疫反応を誘導するために用いられる。増強剤は、前記対象における局所腫瘍制御を増強するために用いられる。免疫増強剤は、前記対象における局所再発及び転移を防止するために用いられる。
【0059】
前記少なくとも1つの腫瘍抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍特異抗原(TSA)、発がん性突然変異、異常発現腫瘍特異抗原(aeTSA)、及び共有ネオ抗原(neoAg)から選択されてよい。前記増強剤は、放射線、化学療法剤、免疫調節剤、標的療法薬、抗体薬、又はそれらの組み合わせであってよい。前記免疫増強剤は、少なくとも1つの腫瘍抗原を含むがんワクチン又は少なくとも1つの腫瘍抗原を含む治療細胞であってよい。好ましくは、前記がんワクチンは樹状細胞に基づくがんワクチン又はウイルスに基づくがんワクチンであってよく、前記少なくとも1つの腫瘍抗原を含む治療細胞は、サイトカイン誘導キラー細胞(cytokine-induced killer cell;CIK)、樹状細胞結合サイトカイン誘導キラー細胞(DC-CIK)、又はneoAg負荷DC-CIK(neoAg-pulsed DC-CIK)であってよい。免疫増強剤は、免疫チェックポイントタンパク質、免疫抑制因子及び/又は免疫刺激因子を含む治療細胞であってよい。好ましくは、免疫チェックポイントタンパク質を含む前記治療細胞は、キメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)、キメラ抗原受容体-ナチュラルキラー細胞(CAR-NK)、又は養子T細胞であってよい。
【0060】
図13A及び表13を参照されたい。
図13Aは、本開示の一実施例のがんワクチン混合物の動物治療試験における治療戦略の概略図を示し、表13は、実施例18-22及び比較例12の治療戦略である。
表13、実施例18-22及び比較例12の治療戦略
【表13】
【0061】
本開示のがんワクチン混合物の治療効果を検証するために、結腸直腸がんマウスを異なる群にランダムに割り当てる。本開示の実施例13のワクチン及び比較例7(1×108 vg)のものをそれぞれ8日目及び14日目に2回筋肉内注射する。この試験では放射線療法を増強剤とし、増強剤を投与する群では、11日目、18日目、及び25日目に結腸直腸がんマウスを完全に麻酔した後、右肢を放射線照射野に置き、局所腫瘍に5 Gyの分割放射線療法を3回行う。この試験ではneoAg-DC-CIKを免疫増強剤とし、免疫増強剤を投与する群では、21日目及び31日目にneoAg-DC-CIKを計2回筋肉内注射する。また、αPD-1を免疫チェックポイント阻害剤(ICB)として16日目及び23日目に計2回投与する。それと同時に腫瘍体積を3日ごとに1回測定し、40日目に犠牲にするまで、式V=(L×W2)/2で腫瘍体積を計算する。
【0062】
図13B、
図13C、
図13D、及び表14を参照されたい。
図13B、
図13C、及び
図13Dは、本開示のがんワクチン混合物の結腸直腸がんに対する治療効果の分析結果図であり、ここで***はp<0.001を表し、データは、一元配置独立分散分析で分析する。表14は、実施例18-22及び比較例12の完全寛解率である。
表14、実施例18-22及び比較例12の完全寛解率
【表14】
【0063】
図13Bの結果は、他の群と比較して、実施例19-実施例22の腫瘍体積はいずれも顕著に縮小することを示す。また、実施例20では約33%の結腸直腸がんマウスが完全寛解(2/6)であり、実施例22では約83%の結腸直腸がんマウスが完全寛解(5/6)である。
図13C及び
図13Dの結果は、実施例22の結腸直腸がんマウスの単核細胞では、腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答が顕著に増加することを示す。以上の結果は、本開示のがんワクチン混合物が、完全応答を達成でき、且つ腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答を誘導できることを示す。
【0064】
以上のように、本開示のワクチンは、少なくとも1つの共阻害ペプチドとTLR9アンタゴニスト配列を共発現して、少なくとも1つの腫瘍抗原の発現を増加させ、且つ腫瘍抗原特異的T細胞免疫応答を活性化する。したがって、本開示のワクチンは、十分な導入遺伝子発現を有し、ウイルスクリアランスを減少させ、腫瘍抗原発現量を増加させることができ、臨床的に安全であり、大きな将来性と優位性がある。また、本開示のワクチンは、がんに対する放射線療法の治療効果を向上させ、放射線療法と共阻害ペプチドを含む本開示のワクチンの治療効果を相乗的に増加させることができ、新規、安全且つ効果的な腫瘍抗原に基づく免疫療法を提供する。また、また、本開示のワクチン、増強剤、及び免疫増強剤を投与することを含む本開示のがんワクチン混合物での療法は、腫瘍増殖の阻害及び腫瘍再発の阻害に有効である。
【0065】
本開示は、実施形態で以上のように詳細に開示されたが、他の実施形態も可能である。したがって、特許請求の範囲の精神及び範囲は、本明細書の実施形態の説明に限定されるべきではない。
【0066】
当然ながら、当業者にとって、本開示の範囲又は精神から逸脱することなく、本開示の構成に対して様々な変更や修飾を行うことができる。以上の内容に鑑み、本明細書は、添付の特許請求の範囲に入る本開示の修正及び変更を網羅することを意図する。
【符号の説明】
【0067】
100 ワクチン
110 ベクター
120 導入遺伝子
121 分泌シグナルペプチド
122 腫瘍抗原
123 共阻害ペプチド
124 Toll様受容体9アンタゴニスト配列
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】