(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】非対称ミラーを有する光学レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/08 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G02B5/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572593
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022064050
(87)【国際公開番号】W WO2022248469
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
【住所又は居所原語表記】147,rue de Paris,F-94277 Charenton-le-Pont,France
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】シンチャオ ティン
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042DD01
2H042DD05
(57)【要約】
前面主面及び背面主面を定めるベース材料を有する光学物品であって、少なくとも1つの主面が、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1層の低屈折率層との積層体を含む干渉多層コーティングでコーティングされており、屈折率は550nmの波長について表現したものであり、例えば、物品を前面から見たときに高反射特性を定め、物品を背面から見たときに反射防止特性を定めて、非対称ミラーと呼ばれ、非対称ミラーの層のうちの少なくとも1層が可視光吸収性の準化学量論的無機材料である、光学物品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面主面及び背面主面を定めるベース材料を有する光学物品であって、少なくとも1つの主面が、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層との積層体を含む干渉多層コーティングでコーティングされており、前記屈折率は550nmの波長について表現したものであり、前記物品を前記前面から見たときに高反射特性を定め、前記物品を前記背面から見たときに反射防止特性を定めて、非対称ミラーと呼ばれ、前記非対称ミラーの前記層のうちの少なくとも1層が可視光吸収性の準化学量論的無機材料である、光学物品。
【請求項2】
光吸収性の前記準化学量論的無機材料は、0.1以上の減衰係数を有する準化学量論的誘電酸化物又は窒化物材料を含む、請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
光吸収性の前記準化学量論的無機材料は、200nm未満、好ましくは150nm未満の厚さを有する、請求項2に記載の光学物品。
【請求項4】
少なくとも1つの準化学量論的無機材料が、30nm未満、好ましくは20nm未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満、且つ4nmを超える厚さを有する、請求項3に記載の光学物品。
【請求項5】
前記準化学量論的無機材料は、xが1未満の所定の数であるSiNx、又はxが2未満の所定の数であるSiOx、又はx及びyが所定の数であって、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)であるSiNxOyを含む、請求項4に記載の光学物品。
【請求項6】
前記非対称ミラーの前記可視光吸収層のうちの少なくとも1層が、20nm未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満、且つ4nmを超える厚さを有する金属層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項7】
前記金属層は、前記干渉コーティングのうちの、2層の低屈折率層の間に、又は2層の高屈折率層の間に、又は1層の低屈折率層と1層の高屈折率層との間に挟まれている、請求項6に記載の光学物品。
【請求項8】
前記金属層は、Al、Cr、Ta、Nb、Ti及びZrのうちの少なくとも1つである金属種を含む、請求項7に記載の光学物品。
【請求項9】
前記前面主面は、前記非対称ミラーでコーティングされ、前記背面主面は、前記物品を前記背面から見たときに反射防止特性を有する干渉多層コーティングでコーティングされている、請求項1~8のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項10】
前記物品を前記背面から見たときに反射防止特性を有する前記干渉多層コーティングは、反射防止コーティングである、請求項9に記載の光学物品。
【請求項11】
前記反射防止コーティングは、少なくとも1層の光吸収材料を含み、前記光吸収材料は、準化学量論的な無機材料、好ましくは準化学量論的な誘電酸化物又は窒化物材料を含み、xが1未満の所定の数であるSiNx、又はxが2未満の所定の数であるSiOx、又はx及びyが所定の数であって、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)であるSiNxOyを好ましくは含む、請求項10に記載の光学物品。
【請求項12】
- 15°未満の入射角にて前記前面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、前方反射率Rfと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%を超える、加重スペクトル反射平均と、
- 15°未満の入射角にて前記背面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、後方反射率Rbと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1.5%未満、好ましくは1%未満、好ましくは0.7%未満、好ましくは0.6%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.4%未満、好ましくは0.3%未満、好ましくは0.2%未満である、加重スペクトル反射平均と、を有し、
- 15°の入射角における前記前方反射率と前記後方反射率との比、すなわちRf/Rbが、10以上である、好ましくは20を超える、好ましくは30を超える、請求項1~11のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項13】
35°~45°の入射角における前記後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1.5%未満、好ましくは1.4%未満、好ましくは1.3%未満である、請求項12に記載の光学物品。
【請求項14】
0°~45°の入射角における前記後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2.3%未満、好ましくは2.2%未満、好ましくは2.1%未満である、請求項12又は13に記載の光学物品。
【請求項15】
35°~50°の入射角における前記後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2.3%未満、好ましくは2.2%未満、好ましくは2.1%未満である、請求項12~14のいずれか一項に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前面主面及び背面主面を定めるベース材料を含む光学物品であって、少なくとも1つの主面が、その物品をその前面から見たときに高反射特性を定め、その物品をその背面から見たときに反射防止特性を定める、非対称ミラーと呼ばれる干渉多層コーティングでコーティングされている、光学物品と、その製造方法とに関する。
【0002】
より正確には、本発明は、レンズ上で反射面を定めて、着用者の目を観察者が認知し難くするためミラーコーティングであって、同時に、ミラーの及び新構造の背面に向かって来るアレイの、着用者の目に対する前述したミラーコーティング上での不必要な反射を回避する、ミラーコーティング、を有する光学物品に関する。
【背景技術】
【0003】
欧州特許第3118658号明細書は、前面主面及び背面主面を定めるベース材料を含む光学物品であって、少なくとも1つの主面が、その物品をその前面から見たときに高反射特性を定め、その物品をその背面から見たときに反射防止特性を定める、干渉多層コーティングでコーティングされている、光学物品を開示している。
【0004】
この目的のため、本明細書は、光学物品の前面に、干渉性の積層体に追加された1層又は2層の吸収性金属層(Cr、Ta、Nb、Ti又はZr)で構成される吸収性非対称ミラーコーティングを付与し、その背面に、従来の、可視光に対して透明な反射防止コーティングを付与することを教示する。
【0005】
前述した金属を含有する吸収性非対称ミラーコーティングは、高い前方反射と比較して、非常に低い後方反射を有することができ、これが、光学物品の背面から来て基材を透過し、次いで前面上のミラーコーティングから反射されて着用者の目に向かう光を効果的に減らすことができる。
【0006】
しかしながら、使用される金属材料の非常に強い光吸収特性に起因して、この光学物品では、着用者の目への光透過を最小限に抑えることを保証するために、数ナノメートル厚の非常に薄い金属層だけが使用されるべきであるが、そのような薄い金属層の厚さは、到達することが困難である、又は得ることが不可能である、又は特定の方法を必要とする、及び/又は制御が容易ではない。
【0007】
したがって、従来の製造方法を伴う非対称ミラーコーティングの非対称な反射及び透過特性を柔軟に容易に制御する実現されていない必要性が存在する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来の製造方法で得ることができ、柔軟に容易に制御される非対称な反射及び透過特性を有する非対称ミラーコーティングを含む、光学物品を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、従来の製造方法を伴いながら、非対称ミラーコーティングの透過率を最も広い性能範囲内で柔軟に制御することである。
【0010】
本発明の別の目的は、上記で定められた物品を製造するプロセスを提供することである、このプロセスは、古典的な製造チェーンに容易に組み込むことができるプロセスであり、ミラーコーティングの組成において使用される一般的な材料との互換性を有し、その材料中に容易に組み込むことができる材料を伴う。
【0011】
これらの目的及び必要性が、コーティングミラーで構成され、準化学量論的材料を伴う、層の特定の組合せを用いることにより達成され得ることを本発明者らは見出した。これにより、特に、従来の実証された方法により製造されると共に、ミラーコーティングに非対称反射特性を定めることが可能になる。
【0012】
古典的な非対称ミラーコーティングと比較して、本発明の非対称ミラーコーティングは、従来の実証された製造方法のおかげで柔軟な非対称反射特性を有する。
【0013】
したがって、本発明は、前面主面及び背面主面を定めるベース材料を有する光学物品であって、少なくとも1つの主面が、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1つの高屈折率層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1つの低屈折率層との積層体を含む干渉多層コーティングでコーティングされており、屈折率は550nmの波長について表現したものであり、例えば、その物品をその前面から見たときに高反射特性を定め、その物品をその背面から見たときに反射防止特性を定めて、非対称ミラーと呼ばれ、非対称ミラーの層のうちの少なくとも1層が可視光吸収性の準化学量論的無機材料である、光学物品に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の特徴のいずれか1つを単独で又は組み合わせて考慮したものにも関する:
- 光吸収性の準化学量論的無機材料は、0.1以上の減衰係数を有する準化学量論的誘電酸化物又は窒化物材料を含む、
- この光吸収性の準化学量論的無機材料は、200nm未満、好ましくは150nm未満の厚さを有する、
- この準化学量論的無機材料は、xが1未満の所定の数であるSiNx、又はxが2未満の所定の数であるSiOx、又はx及びyが所定の数であって、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)であるSiNxOyを含む、
- 少なくとも1つの準化学量論的無機材料が、30nm未満、好ましくは20nm未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満、且つ4nmを超える厚さを有する、
- 非対称ミラーの可視光吸収層のうちの少なくとも1層が、20nm未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満、且つ4nmを超える厚さを有する金属層である、
- 金属層は、干渉コーティングのうちの、2層の低屈折率層の間に、又は2層の高屈折率層の間に、又は1層の低屈折率層と1層の高屈折率層との間に挟まれている、
- 干渉コーティングが2層の連続する金属層を含む場合、2層の連続する金属層は、1層の低屈折率層により、又は1層の高屈折率層により、又は数層の交互に連続する低屈折率層及び高屈折率層により分離されている。
- 金属層は、Al、Cr、Ta、Nb、Ti及びZrのうちの少なくとも1つである金属種を含む、
- 前面主面は、非対称ミラーでコーティングされ、背面主面は、物品を背面から見たときに反射防止特性を有する干渉多層コーティングでコーティングされている、
- 物品を背面から見たときに反射防止特性を有する干渉多層コーティングは、反射防止コーティングである。
- 反射防止コーティングは、少なくとも1層の光吸収材料を含み、光吸収材料は、準化学量論的無機材料、好ましくは準化学量論的誘電酸化物又は窒化物材料を含み、xが1未満の所定の数であるSiNx、又はxが2未満の所定の数であるSiOx、又はx及びyが所定の数であって、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)であるSiNxOyを含む。
- 本発明による光学物品は、
・ 15°未満の入射角にて前記前面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、前方反射率Rfと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%を超える、加重スペクトル反射平均と、
・ 15°未満の入射角にて前記背面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、後方反射率Rfと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1.5%未満、好ましくは1%未満、好ましくは0.7%未満、好ましくは0.6%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.4%未満、好ましくは0.3%未満、好ましくは0.2%未満である、加重スペクトル反射平均と、を有し、
・ 15°の入射角における前方反射率と後方反射率との比、すなわちRf/Rbが、10以上である、好ましくは20を超える、好ましくは30を超える。
- 35°~45°の入射角における後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1.5%未満、好ましくは1.4%未満、好ましくは1.3%未満である。
- 0°~45°の入射角における後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2.3%未満、好ましくは2.2%未満、好ましくは2.1%未満である。
- 35°~50°の入射角における後方反射率Rbは、2.5%未満、好ましくは2.3%未満、好ましくは2.2%未満、好ましくは2.1%未満である。
【0015】
本発明の前述の及び他の、目的、特徴及び利点が、添付の図面と併せて以降の詳細な説明を読むことにより、当業者にとって容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】その前面が非対称ミラーでコーティングされ、その背面が反射防止(AR)コーティングで覆われている、光学物品の全ての前方反射及び後方反射を示す概略図を表す。
【
図2】比較例1(金色の反射色)のミラーコーティングの15°の入射角で取られた280~780nmにおける反射カーブ(a)と、0~50°を含む入射角における同じ比較例1の平均光反射係数(b)とを示す。
【
図3】0°~50°を含む入射角における平均光前面反射係数Rf及び平均光背面反射係数Rbを、それぞれ、本発明による非対称ミラーコーティングの第1の実施形態(金色の反射色)、第3の実施形態(青色の反射色)、第4の実施形態(緑色の反射色)、第5の実施形態(銀色の反射色)、第6の実施形態、第7の実施形態、及び第8の実施形態について示す。
【
図4】入射角15°にて取られた280~780nmにおける、ベース材料MR8(登録商標)を含む光学物品の前面反射カーブ(Rf)及び背面反射カーブ(Rb)を示し、その前面上には、本発明の第2の実施形態による非対称ミラーコーティング(実施例2、銀色の反射色)が、そしてその背面上には、従来の透明反射防止コーティングがそれぞれ堆積されており、また、MR8(登録商標)基材の前面上に堆積された第2の比較ミラー実施例2についての同じ(Rf)及び背面反射(Rb)カーブが示され、背面は、従来の透明反射防止コーティングでコーティングされている。
【
図5】
図4の革新的な光学物品及び比較例の0°~50°を含む入射角における平均光反射係数を表す。
【
図6-8】0°~50°を含む入射角における平均光前面反射係数Rf及び平均光背面反射係数Rbを、それぞれ、本発明による非対称ミラーコーティングの第1の実施形態(金色の反射色)、第3の実施形態(青色の反射色)、第4の実施形態(緑色の反射色)、第5の実施形態(銀色の反射色)、第6の実施形態、第7の実施形態、及び第8の実施形態について示す。
【
図9】同様のものを吸収性反射防止コーティングについて示す。
【
図10】MR8(登録商標)基材を含む光学物品のミラーコーティングの、入射角15°にて取られた280~780nmにおける反射カーブを示し、その前面上には、本発明の第5の実施形態(Ex5)による非対称ミラーコーティングが堆積され、その背面上には、吸収性反射防止コーティングが堆積され(a)、本発明のこの実施形態による革新的な光学物品の0°~50°を含む入射角における平均光反射係数(b)。
【
図11】
図5aによる光学物品の0°~45°を含む入射角における平均光反射係数(実施例2/MR8/透明AR)と、
図10による光学物品(実施例5/MR8/吸収性AR2)とを示す。
【
図12a-12b】0°~50°を含む入射角における平均光前面反射係数Rf及び平均光背面反射係数Rbを、それぞれ、本発明による非対称ミラーコーティングの第1の実施形態(金色の反射色)、第3の実施形態(青色の反射色)、第4の実施形態(緑色の反射色)、第5の実施形態(銀色の反射色)、第6の実施形態、第7の実施形態、及び第8の実施形態について示す。
【
図13】本発明の一実施形態による非対称ミラーにおいて使用する準化学量論的単分子層の堆積プロセスを示す概略図である。
【
図14】複数のレンズ基材の典型的な透過率スペクトルの一組のグラフを示し、各基材には、本発明の異なる実施形態による非対称ミラーにおいて使用される準化学量論的SiNx単分子層が設けられている。
【
図15】特定の実施形態による吸収性SiNx単分子層コーティングについての測定された平均発光透過係数Tvのグラフを示し、堆積中のN
2/Arガス流量比率に対するTvの依存性を示す。
【
図16】
図15におけるものと同じSiNx単分子層コーティングについてのTvの変動を、そのようなコーティングの厚さの関数として示すグラフであり、コーティングの厚さに対するTvの依存性を示す。
【
図17】複数のレンズ基材の典型的な透過率スペクトルの一組のグラフを示し、各基材には、本発明の異なる実施形態による非対称ミラーにおいて使用される準化学量論的SiOx単分子層が設けられている。
【
図18】SiOx単分子層コーティングについての測定されたTvのグラフを示し、堆積中のO
2/Arガス流量比率に対するTvの依存性を示す。
【
図19】
図7におけるものと同じSiOx単分子層コーティングについてのTvの変動を、そのようなコーティングの厚さの関数として示すグラフであり、コーティングの厚さに対するTvの依存性を示す。
【
図20】特定の実施形態における、本開示による、マグネトロンスパッタリングによって堆積された光吸収性SiNx及びSiOxコーティングの550nmにおける屈折率を示す2つのグラフのセットである。
【
図21】0°~50°を含む入射角における平均光前面反射係数Rf及び平均光背面反射係数Rbを、それぞれ、本発明による非対称ミラーコーティングの第1の実施形態(金色の反射色)、第3の実施形態(青色の反射色)、第4の実施形態(緑色の反射色)、第5の実施形態(銀色の反射色)、第6の実施形態、第7の実施形態、及び第8の実施形態について示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
一般的定義
用語「備える(comprise)」(並びに「備える(comprises)」及び「備える(comprising)」等のその文法的変形形態)、「有する(have)」(並びに「有する(has)」及び「有する(having)」等のその文法的変形形態)、「含有する(contain)」(並びに「含有する(contains)」及び「含有する(containing)」等のその文法的変形形態)並びに「含む(include)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(including)」等のその文法的変形形態)は、オープンエンドの連結動詞である。これらは、述べられる特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在を規定するために使用されるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はこれらの群の存在又は追加を排除するものではない。その結果、1つ以上の工程又は要素を「備える(comprises)」、「有する」、「含有する(contains)」、又は「含む(includes)」方法又は方法における工程が、それらの1つ以上の工程又は要素を有するが、それらの1つ以上の工程又は要素のみを有することに限定されない。
【0018】
別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを指す全ての数字又は表現は、全ての場合において用語「約」によって修飾されているものとして理解される。
【0019】
光学物品が1つ以上の表面コーティングを含む場合、「光学物品上にコーティング又は層を堆積する」という語句は、コーティング又は層が光学物品の最も外側のコーティング上に、すなわち空気に最も近いコーティング上に堆積されることを意味する。
【0020】
レンズの片面「上」にあるコーティングは、(a)その面の上に配置されている、(b)その面と接触する必要がない、すなわち、その面と対象のコーティングとの間に1つ以上の介在するコーティングが配置されていてもよい(ただし、好ましくはその面と接触している)、及び(c)その面を完全に被覆している必要はない、コーティングとして定義される。
【0021】
「コーティング」という用語は、基材、及び/又は別のコーティング、例えば、ゾル-ゲルコーティング若しくは有機樹脂で作製されたコーティングと接触し得る任意の層、層積層体若しくは膜を意味することが理解される。コーティングは、ウェット処理、ガス処理、及びフィルム転写を含む様々な方法によって堆積又は形成されてもよい。
【0022】
「シート」という用語は、単一層(単層)、又は二重層、すなわち互いに直接接触している2つの層のセットを意味すると理解される。(1.55より高い屈折率を有する)高屈折率シートが2層を有する場合、両方の層が高屈折率層である。同様に、(1.55以下の屈折率を有する)低屈折率シートが2層を有する場合、両方の層が低屈折率層である。
【0023】
本出願では、材料に基づく層は、少なくとも80重量%のその材料、より好ましくは少なくとも90重量%のその材料、更に好ましくはその材料の層からなる層として定義される。例えば、SiO2ベースの層又はZrO2ベースの層は、少なくとも80重量%のSiO2又はZrO2を含む。
【0024】
光学物品
本開示による光学物品は、少なくとも1つの眼科用レンズ、又は光学フィルタ、又は光学ガラス、又は人間の視覚に適した光学材料を備え、例えば、少なくとも1つの眼科用レンズ、又は光学フィルタ、又は光学フィルムは各々が、基材、又は基材若しくは光学ガラス上に固定されることを意図したパッチを備え、又は、光学材料は、例えば対象者の視力及び/又は屈折を決定するための眼科器具、又は、個人の目に面することを意図した安全ガラス又は安全壁を含む任意の種類の安全装置、例えば、安全レンズ又はマスク又はシールドなど保護装置、での使用を意図したのものである。
【0025】
光学物品は、1つ以上の眼科用レンズを少なくとも部分的に取り囲むフレームを有するアイウェア機器として実装され得る。非限定的な例として、光学物品は、眼鏡、サングラス、安全ゴーグル、スポーツゴーグル、コンタクトレンズ、眼内インプラント、偏光レンズなどの振幅変調を有する又はオートフォーカスレンズなどの位相変調を有するアクティブレンズであり得る。
【0026】
本明細書において、「レンズ」という用語は、様々な性質の1つ以上のコーティングでコーティングされ得るレンズ基材を含む、有機又は無機ガラスレンズを意味する。
【0027】
「眼科用レンズ」という用語は、例えば目を保護し及び/又は視力を矯正するために眼鏡フレームに適合されたレンズを意味するために使用される。このレンズは、無限焦点レンズ、一焦点レンズ、二焦点レンズ、三焦点レンズ、累進レンズから選択することができる。眼用の光学系が本発明の好ましい分野であるが、本発明は、例えば、写真又は天文学における光学機器用のレンズ、光学照準レンズ、眼用バイザー、照明システムの光学系、安全レンズ等などの、他のタイプの光学物品に適用できることが理解されるであろう。
【0028】
人間の視覚に適した少なくとも1つの眼科用レンズ又は光学ガラス又は光学材料は、ユーザ、すなわちレンズの着用者に光学機能を提供することができる。
【0029】
それは、例えば、近視、遠視、乱視及び/又は老眼を処置するための矯正レンズ、すなわち屈折異常のユーザのための球面、円柱及び/又は付加型の屈折力レンズであり得る。レンズは、一定の屈折力を有することができるので、レンズは、単焦点レンズが提供するのと同じように屈折力を提供する、又は可変屈折力を有する累進レンズであり得る。
【0030】
ベース材料/基材
本明細書で使用する場合、ベース材料は、非対称ミラー特性を提供する干渉多層コーティングでコーティングされている少なくとも1つの表面、すなわち一方の側の表面を有する。
【0031】
このベース材料は、前述したようなレンズ、フィルタ、ガラス、眼科材料などの基材を構成できる、又はそのような基材上に固定されて、基材に非対称ミラー特性を提供するように意図されるパッチの主要部分を構成できる。
【0032】
このベース材料又は基材は、反対側の面もコーティングされている、すなわち、他方の面上の表面もコーティングされている場合があり、その結果、そのような場合、光学物品の互いに反対側の2つの面がコーティングされている場合がある。
【0033】
ベース材料が眼科用レンズの基材を構成する場合、その前面は、好ましくは本発明による非対称ミラーでコーティングされ、背面は、好ましくは反射防止コーティングでコーティングされている。
【0034】
ベース材料が眼科用レンズの基材上に固定されることが意図されるパッチの主要部分を構成する場合、その前面は、好ましくは本発明による非対称ミラーでコーティングされ、その背面は、その背面上に反射防止コーティングが設けられることになるその基材上に固定されるように調整されることになる。
【0035】
本明細書で使用される場合、ベース材料又は基材の背面は、眼科用レンズの場合、物品を使用するときに着用者の目から最も近い面を意味するように意図されている。これは一般的に凹面である。逆に基材の前面は、物品を使用するときに、着用者の目から最も遠く離れている面である。これは一般的に凸面である。光学物品は、平面物品であることも可能である。
【0036】
透明な/着色されたベース材料/基材
本明細書では、特に明記しない限り、ベース材料、基材、干渉コーティングは、光学物品を通した画像の観察が、その画像の品質に悪影響を与えることなく着用者及び/又は観察者により認められる場合に透明であると理解される。「透明」という用語のこの定義は、特に明記しない限り、説明においてそのように修飾された全ての対象物に対して適用され得る。
【0037】
本明細書では、特に明記しない限り、ベース材料、基材は、選択的/機能的フィルタとして機能する1つの着色成分(b)により着色されていると理解される。
【0038】
本明細書で使用する場合、「選択的/機能的フィルタ」は、可視スペクトルの少なくとも1つのバンドを吸収を介して削除することが可能な着色成分に対応する。実際、着色成分(b)は、それを用いてレンズ基材を着色するために使用され、それにより、特定の波長を有する光が吸収されてレンズ基材の透過率が減少するフィルタ効果により、所与の色覚矯正スペクトル特性曲線が実現される。
【0039】
ベース材料は、95%を超える可視光平均透過係数を有してもよく、したがって可視光に対して透過性であってもよい。これとは反対に、ベース材料は、選択的波面又はより広い範囲の波面について着色されている。すなわち、95%未満の可視光平均透過係数を有し得る。
【0040】
本明細書で使用する場合、「着色基材」は、基材を透過した光が白色ではなく、着色されていること、すなわち、白色蛍光光源からの光が、観察者にとって光が着色されているように基材を透過することを意味する。
【0041】
好ましい実施形態では、着色成分は吸収性染料である。
【0042】
本明細書で使用する場合、吸収性染料は、顔料及び着色剤の両方を指す場合があり、すなわち、その媒体中で不溶性又は溶解性であり得る。
【0043】
一般に、吸収性染料は、(a)基材中に直接組み込まれる、及び/又は基材表面に直接的若しくは間接的に堆積された1つのコーティング中に組み込まれる。
【0044】
基材
基材は、本発明の意味において、未コーティングの基材を意味するものとして理解されるべきであり、一般に2つの主面を有する。基材は、特に、光学物品、例えばガラスに取り付けられる予定の眼科用レンズの形状を有する光学的に透明な材料であり得る。これに関連して、「基材」という用語は、光学レンズの、より具体的には眼科用レンズのベース成分材料を意味するものとして理解される。この材料は、1つ以上のコーティング又は層の積層体に対する支持体として機能する。
【0045】
基材は、無機ガラス製又は有機ガラス製であってもよく、好ましくは有機ガラス製であってもよい。有機ガラスは、ポリカーボネート及び熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性材料、又はジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマー及びコポリマー(特に、PPG IndustriesのCR-39(登録商標))などの熱硬化性(架橋)材料、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、好ましくは、1.60又は1.67の屈折率を有するポリチオウレタン樹脂、ポリエポキシド、1.74の屈折率を有するものなどのポリエピスルフィド、(メタ)アクリルポリマー及びビスフェノール-A由来のコポリマーを含む基材などのポリ(メタ)アクリレート及びコポリマーに基づく基材、ポリチオ(メタ)アクリレート、並びに、これらのコポリマー及びこれらのブレンド、のいずれかであり得る。レンズ基材用の好ましい材料は、ポリカーボネート(PC)、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマー、及び熱硬化性ポリチオウレタン樹脂から得られた基材であり、この樹脂は、Mitsui Toatsu Chemicals companyからMRシリーズ、特にMR6(登録商標)、MR7(登録商標)、MR8(登録商標)樹脂として販売されている。後者の基材、並びにそれらの作製に使用されるモノマーは特に、米国特許第4,689,387号明細書、米国特許第4,775,733号明細書、米国特許第5,059,673号明細書、米国特許第5,087,758号明細書、及び米国特許第5,191,055号明細書に記載されている。
【0046】
ベース材料/基材に一体化される干渉コーティング
干渉コーティング、すなわち、本発明による非対称ミラー、又は透明若しくは吸収性の反射防止コーティングのいずれかは、透明ベース材料/基材、すなわち、96%を超える可視光平均透過係数Tvを有するベース材料/基材、若しくは(透明でないものを含む)任意の他のベース材料/基材への、コーティング又はラミネーションのいずれかにより会合されることができ、後者を用いて、好ましくは96%~4%の範囲の、より好ましくは90%~4%の範囲の可視光平均透過係数Tvを有する光学物品を定める。ほとんどの場合、結果として生じる光学物品は着色光学物品である。
【0047】
系の可視スペクトルにおける相対光透過係数、相対可視光平均透過係数、又は「視感透過率」とも呼ばれるTv因子は、例えば標準NF EN 1836で定義されているものであり、範囲内の各波長における人間の目の感度に応じて重み付けされ、D65照明条件(昼光)で測定された、380~780nmの波長範囲における平均に関する。
【0048】
したがって、本発明による干渉コーティングは、関連する基材に対して、以下の異なる可視光平均透過係数Tvを有するサングラスの異なる色合いを定めるように、調整することができる:
- 80%を超える、
- 43~80%(カテゴリ又はクラス1のサングラスとして知られている)、
- 18~43%(クラス2のサングラスとして公知の)まで、
- 8~18%(クラス3のサングラスとして知られている)、
- 8%未満(クラス4のサングラスとして知られている)。
【0049】
干渉コーティング
干渉コーティングは、光学系、特に眼用光学系の分野で従来使用されている事実上全ての干渉コーティングであり得る。干渉コーティングは、非限定的な形で、反射防止コーティング、赤外線、可視光又は紫外光を反射するミラーなどの反射(ミラー)コーティング、ブルーカットフィルタ又はブルーパスフィルタなどの、可視スペクトルにおけるフィルタ、であってもよい。
【0050】
本発明の多層干渉コーティングは、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1層の低屈折率層との積層体を含む。
【0051】
より好ましくは、多層干渉コーティングは、低屈折率(LI)を有する少なくとも2層の層と、高屈折率(HI)を有する少なくとも2層の層とを含む。干渉コーティングにおける層の総数は、好ましくは3層以上、より好ましくは4層以上、及び好ましくは8層又は7層以下、より好ましくは7層以下、更により好ましくは5層以下、及び最も好ましくは5層又は7層に等しい。
【0052】
本明細書で使用する場合、干渉コーティングの層は、1nm以上の厚さを有する層として定義される。したがって、干渉コーティングにおける層数を数える場合、1nm未満の厚さを有するいかなる層も考慮されないことになる。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、HI層及びLI層は、積層体において必ずしも互いに交互である必要はないが、交互であってもよい。2層(又はそれ以上)のHI層が互いの上に堆積されてもよく、並びに2層(又はそれ以上)のLI層が互いの上に堆積されてもよい。
【0054】
本出願では、干渉コーティングの層は、その屈折率が1.55を超える、好ましくは1.6以上、更により好ましくは1.8又は1.9以上、及び最も好ましくは2以上である場合に、高屈折率(HI)を有する層であるとされる。このHI層は、好ましくは、3.3以下の屈折率を有する。干渉コーティングの層は、その屈折率が1.55以下、好ましくは1.52以下、より好ましくは1.48又は1.47以下である場合に、低屈折率層(LI)であるとされる。このLI層は、好ましくは1.1以上の屈折率を有する。
【0055】
視感反射率
Rvと表される「平均光反射係数」は「視感反射係数」とも呼ばれ、ISO 13666:1998規格において定義されているとおりであり、ISO 8980-4規格に従って(17°未満、典型的には15°の入射角で)測定される。すなわち、これは、380~780nmの全可視スペクトルにわたる加重スペクトル反射平均である。これは全ての入射角θに対して測定され得るため、関数Rv(θ)が定義される。
【0056】
平均光反射係数Rvは、以下の式で定義できる:
【数1】
式中、R(λ)は、波長λにおける反射率であり、V(λ)は、1931年にCIE(Commission on Illumination、仏語の“Commission Internationale de l’Eclairage”にて)により定義された色空間における目の感度関数であり、D65(λ)は、CIE S005/E-1998標準において定義される昼光イルミナントである。
【0057】
高反射コーティング又は「ミラー」コーティングの平均光反射係数Rvは、2.5%よりも大きい。
【0058】
本発明による反射防止コーティングの平均光反射係数Rvは、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2%又は1%以下、更により好ましくは≦0.85%である。
【0059】
本発明による干渉コーティング
ベース材料又は基材の主面上に堆積されて、光学物品を構成する、本発明による非対称ミラーの特異性は、その物品をその前面から見たときにミラーとして振る舞い、その物品をその背面又は裏面から見たときに反射防止コーティングとして振る舞うことである。
【0060】
したがって、それは、観察方向に応じて、異なる反射係数Rv、すなわち、Rfと記される高い(2.5%を超える)前方反射係数、及びRbと記される低い(2.5%未満の)後方反射係数を定める。
図1において、基材3の前面2上に堆積された非対称ミラー1の前方反射係数はRf1と記され、非対称ミラー1の後方反射係数はRb2と記される。この目的ために特に設計されるミラーの可視光吸収特性に起因して、後方反射係数Rb2は前方反射係数Rf1とは異なり、より正確に言うと、後方反射係数Rb2は最小化され(2.5%未満)、前方反射係数Rf1は最大化される。
【0061】
この目的のため、本発明による主干渉コーティングは、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率HI層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1層の低屈折率LI層との積層体を含み、屈折率は550nmの波長について表現したものであり、その物品をその前面から見たときに高反射特性を定め、その物品をその背面から見たときに反射防止特性を定めるように設計され、非対称ミラーと呼ばれる。
【0062】
このミラーは、従来の製造方法を用いて非対称ミラー効果を柔軟に実現するために、可視光吸収性の準化学量論的無機材料である少なくとも1層の層を含む。
【0063】
異なるHI層及びLI層、並びに可視光吸収性の準化学量論的無機材料層の、順序、組合せ、材料及び厚さは、特に、本発明による干渉コーティングが上述した非対称ミラー特性を示すように選ばれる。
【0064】
本発明によるこの非対称ミラーは、ベース材料又は基材の主面の一方に、好ましくは前面に堆積され、反対面、好ましくは背面上に堆積された第2の干渉コーティングと組み合わせることができ、その物品をその背面から見たときに反射防止特性を定めるように設計される。
【0065】
反対面上に堆積されるこの第2の干渉コーティングは、可視光に対する透過率の点で透明である、又は可視光吸収性の種類である、反射防止コーティングにより構成され得る。
【0066】
より正確に言うと、
図1に示すように、基材の背面上に堆積され、着用者の顔に面するように設けられた、この第2の干渉コーティング4は、1.55より高い屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率HI層と、1.55以下の屈折率を有する少なくとも1層の低屈折率LI層との積層体を含み、屈折率は550nmの波長について表現したものであり、その物品をその背面から見たときに反射防止特性Rb1(2.5%未満)を定め、更にこのコーティングを光学物品の前面から見たときに反射防止特性Rf2(2.5%未満)を定めるように設計されている。
【0067】
更に、本発明の興味深い実施形態によれば、背面に向かって非対称ミラー2に来る光の透過率を減らし、したがってRB2の最小化に寄与すること、及び背面界面における後方反射Rb1を減らすことの両方のために、可視光吸収特性を定めるように反射防止コーティングを設計することができる。
【0068】
可視光吸収特性の効果を、従来の製造方法を用いて柔軟性も伴って実現するための、可視光吸収特性の準化学量論的無機材料である反射防止コーティングの少なくとも1層の層のおかげで、反射防止コーティングのこれら可視光吸収特性が、本発明の有利な実施形態により更に得られる。
【0069】
異なるHI層及びLI層、並びに、存在する場合は、本発明による第2の干渉コーティングの可視光吸収性の準化学量論的無機材料層の、順序、組合せ、材料及び厚さは、特に、本発明による干渉コーティングが上述した反射防止特性及び可視光吸収特性を示すように選ばれる。
【0070】
本発明による非対称ミラーコーティング1と、可視光に対して透明な又は吸収性のいずれかである、好ましくは反射防止の種類である、低い背面反射を定める第2の干渉コーティング4とが、主面上に堆積された非対称ミラーコーティングと、反対面上に堆積された第2の干渉コーティングとを含む、光学物品全体が、2.5%よりも優れた、非対称ミラーの前方反射係数Rf1と第2の干渉コーティング4の前方反射係数Rf2との加算により生じる合計前方反射係数Rf、及び2.5%よりも劣る、非対称ミラーの後方反射係数Rb1と第2の干渉コーティング4の後方反射係数Rb2との加算により生じる合計前方反射係数Rf、を定めるように設計される。
【0071】
非対称ミラーコーティング、第2の干渉コーティングは、それ自体の透過係数を定めており、基材又は(着色又は非着色)ベース材料の透過係数も考慮すると、光学物品全体が、所定の透過係数Tvを定めることができるように設計されている。
【0072】
HI層及びLI層の以下の例を、可視光吸収性の準化学量論的無機材料である少なくとも1層の層を含む非対称ミラーのために、そして、可視光吸収性の準化学量論的無機材料である少なくとも1層の反射防止コーティングを任意選択で含み得る本発明による第2の干渉コーティングのために、使用することができる。したがって、それらの層は、本発明による干渉コーティングのHI層及びLI層と称される。
【0073】
本発明で使用される、非対称ミラー又は反射防止コーティングのいずれかの干渉積層体は、この少なくとも準化学量論的無機材料層及び/又は所望の透過係数を、光学物品全体に対して又は干渉コーティングを単独で考慮して、周知のマトリックス方法に基づいて、特定のTv、Rv、Rf、Rbの目標値を用いて連続する層をモデル化して、本発明による非対称ミラーの所望の非対称ミラー効果を得ることを含む、光学コーティングの従来のモデリングプロセスにより設計できる。ソフトウェアのモデル化プロセスのおかげで、後方反射を計算するための特定の関数が利用可能であり、前方反射Rv、h*、及びC*、並びに他のパラメータに加えて、後方反射Rvのターゲットを設定することもできる。
【0074】
マトリックス方法は当該技術分野においてよく知られており、その工程の説明が、例えば、LaroucheらによりApplied Optics,2008,47,13,C219-C230にて提供されている。
【0075】
HI層
HI層は、一般に、1つ以上の金属酸化物、例えば、限定するわけではないが、酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、タンタル五酸化物(Ta2O5)、酸化ネオジム(Nd2O5)、プラセオジミウム酸化物(Pr2O3)、プラセオジミウムチタン酸塩(PrTiO3)、La2O3、Nb2O5、Y2O3、SiN、Si3N4、HfO2、Ce2O3、準化学量論的酸化チタン(TiOx、x<2、xは好ましくは0.2~1.2で変化し、例えばTiO、Ti2O3、又はTi3O5)、準化学量論的酸化ジルコニウム(ZrOx、x<2、xは好ましくは0.2~1.2で変化)、準化学量論的シリコン酸化物(SiOx、x<2、xは好ましくは0.2~1.2、より好ましくは0.9~1.1で変化し、例えばSiO)、準化学量論的窒化ケイ素(SiNy、y<1、yは好ましくは0.1~0.6で変化)、又は準化学量論的窒化ケイ素酸化物SiNxOy、x及びyは所定の数であり、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)、及びこれらの混合物である。
【0076】
上で挙げた準化学量論的材料は、層の厚さ、層数、及び/又は堆積中に使用される条件に応じて、可視範囲において吸収特性を示すことができる。
【0077】
本発明では、可視光吸収層は、透明な基材(例えば、ポリカーボネート基材)の表面上に単分子層として直接堆積された場合に、その透明な基材の視感透過率Tvを吸収により、当該の層がない同じ透明な基材と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、減らす層として定義される。吸収は、反射を含まない。
【0078】
本発明による多層干渉コーティングの層のうちの少なくとも1層は、可視光吸収材料を含む層であり、「可視光吸収層」、「光吸収層」、又は「吸収体層」と称され、可視光吸収材料、すなわち1種以上の可視光吸収化合物を含む。その機能は、可視光の透過を吸収により減らすことである。
【0079】
吸収体層は、当業者にとって既知の、可視光(380~780nm)の少なくとも一部を吸収するのに好適な、いかなる層であってもよい。
【0080】
減衰係数k
この光吸収材料の層は、好ましくは、550nmにおいて、0.1以上、0.3以上、又は0.5以上の減衰係数kを有する。一実施形態では、光吸収材料の層は、400~800nmの範囲の全ての波長に対して、0.1以上、0.3以上、又は0.5以上の減衰係数kを有する。特定の物質の吸光係数(減衰係数としても知られる)は、kで示され、この媒体中を横切る電磁放射のエネルギー損失を測定する。これは、複素屈折率の虚数部分である。
【0081】
干渉積層体は、少なくとも1層、又は少なくとも2層、又は少なくとも3層の吸収体層を含んでもよい。干渉積層体は、好ましくは1~3層の可視光吸収層を含む。
【0082】
可視光吸収層は、一般に、高屈折率を有する層であり、少なくとも1.55、好ましくは少なくとも1.80、特に少なくとも2.0の屈折率を有する。
【0083】
本開示によれば、光吸収層の組成及び/又は厚さ及び/又は層数は、光学レンズの可視光平均透過係数Tvが、好ましくは96%~4%の範囲になるように、及び/又は、非対称ミラー効果を干渉性の積層体に付与するように調整できる。例えば、SiOx又はSiNy層におけるx又はyの値は堆積条件(例えば、前駆体ガスの量)を変えることにより変動させることができる。なぜなら、SiN及びSiO2などの化学量論的材料は可視範囲では光吸収材料ではないからである。準化学量論的SiNy及びSiOx層の屈折率は、対応する化学量論的SiN及びSiO2コーティングの屈折率よりも高い。低い値のx及び/又はyは、より厚い光吸収層と同様に、より低い透過率Tvを有するレンズを提供する(層における窒素又は酸素が益々減るにつれて、屈折率は徐々に増加する)。
【0084】
本発明による干渉コーティングの光吸収層の層数及び/又は厚さは、可視光平均透過係数Tv及び/又は非対称ミラー効果の値を上記の範囲に調整するために制御することもできる。その結果、結果として生じるコーティングされたレンズに対して、クラス1~4の透過率を実現することができ、異なる非対称ミラー効果を定めることができる。
【0085】
吸収体層の材料は、当該技術分野において既知であって所望の光吸収特性を付与するいかなる材料でもあり得る。例えば、光吸収材料は、概ね1.55よりも高い屈折率を有する準化学量論的無機材料であり得る。
【0086】
準化学量論的無機材料は、酸素及び/又は窒素と少なくとも1つの金属元素又は半金属元素との反応から生じ得る。好適な金属及び半金属元素は、Mg、Y、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Nb、Ta、W、Zn、Al、In、Sn、Sb、SiGe及びBiを含む。
【0087】
準化学量論的無機材料の非限定的な例は、準化学量論的な酸化物、酸窒化物又は窒化物、例えば、準化学量論的酸化チタン、準化学量論的酸化ケイ素、準化学量論的酸化ジルコニウム、準化学量論的窒化ケイ素であって、これら全てが上記で定義されており、NiO、TiN、WOなどの準化学量論的タングステン酸化物、準化学量論的酸窒化チタン、準化学量論的酸窒化ケイ素、及びそれらの任意の混合物である。
【0088】
準化学量論的無機材料はまた、その材料の屈折率及び吸光係数kを増加させる、Ti、Fe及びCuなどの元素の、酸化物、窒化物及び酸化窒化物によってドープされ得る。
【0089】
好ましい実施形態では、準化学量論的無機材料は、SiNy、SiOx、TiOx、及びZrOx、y<1及びx<2、から選択される。x及びyの好ましい範囲は上記で定めたとおりであり、又はSiNxOyであって、x及びyは所定の数であり、例えばx<1-y/2、且つy<2(1-x)である。
【0090】
一実施形態では、多層干渉コーティングは、上記で定めたような少なくとも1層のSiOx層を含む。別の実施形態では、多層干渉コーティングは、上記で定めたような少なくとも1層のSiNy層を含む。
【0091】
一実施形態では、6nmを超える厚さを有する干渉コーティングの全ての高屈折率層は、可視光吸収層である。
【0092】
一実施形態では、追加の吸収体層の材料は、非対称ミラーの挙動に関与するAl、Cr、Ta、Nb、Ti及びZrのうちの少なくとも1つである金属層であり得る。
【0093】
一実施形態では、導電性でない干渉コーティングの全ての高屈折率層(例えば、SnO2又はITO層)が可視光吸収層である。
【0094】
任意選択で、HI層は、上で示したように1.55よりも高い屈折率を有するならば、低屈折率のシリカ又は他の材料を更に含んでもよい。好ましい材料は、ZrO2、PrTiO3、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、Y2O3、上述したようなSiOx、上述したようなSiNy、及びそれらの混合物を含む。一実施形態では、干渉コーティングは、少なくとも1層のTa2O5ベースの層を含む。
【0095】
LI層
LI層もよく知られており、限定するものではないが、SiO2、MgF2、ZrF4、AIF3、Na5AI3F14、Na3[AIF6]、又はシリカとアルミナとの混合物、特にアルミナでドープされたシリカが含まれ得る。後者は干渉コーティングの耐熱性の増加に寄与する。LI層は、好ましくは、層の総重量に対して、少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含む層であり、更に好ましくは、シリカ層からなる。
【0096】
任意選択で、得られる層の屈折率が1.55以下であれば、LI層は、高屈折率の材料を更に含んでいてもよい。
【0097】
干渉コーティングの外層、すなわち、基材から最も遠いその層は、通常、層の総重量に対して、少なくとも80重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも90重量%のシリカを含むシリカベースの層(例えばアルミナでドープされたシリカ層)であり、更に好ましくはシリカ層からなる。
【0098】
干渉コーティングの最も内側の層、すなわち、ハードコーティングと直接接触しているその層は、好ましくは高屈折率層である。
【0099】
通常、HI層及び/又はLI層は、5~250nm、好ましくは6~120nmの範囲の物理的厚さを有する。それらの厚さは、例えば、層の所望の特性に、層の材料に、堆積技術に、及び/又は積層体における層位置に応じて、かなりの程度まで変動する場合がある。
【0100】
一般に、干渉コーティングの総厚は、1μm未満、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、更により好ましくは450nm以下である。干渉コーティングの総厚は、一般に、100nmよりも大きく、好ましくは200nmよりも大きく、及び好ましくは1μm、500nm、又は400nmよりも小さい。
【0101】
更に、光学物品は、熱及び温度変動に対する良好な耐性、すなわち高い臨界温度を有する。本特許出願では、物品の臨界温度は、基材の(いずれかの主面上の)表面に存在するコーティングにクラックが現れ始め、コーティング(一般には干渉コーティング)の劣化をもたらす、開始温度として定義される。本発明に従ってコーティングされた物品の臨界温度は、好ましくは≧70℃、より好ましくは、≧75℃、80℃、90℃、100℃、又は110℃である。
【0102】
帯電防止層
本発明の光学物品は、物品の表面上に存在する積層体中に、好ましくは干渉コーティング中に、少なくとも1層の導電層を組み込むことによって、帯電防止に、すなわち、多量の静電荷を保持及び/又は発生させないようにすることができる。
【0103】
布切れでこすった後に、又は任意の他の手順を使用して静電荷(コロナによって付与された電荷など)を発生させた後に生じる静電荷を、レンズが除去する能力は、レンズがその電荷を散逸させるために要する時間を測定することにより定量化することができる。したがって、帯電防止レンズは、約数百ミリ秒、好ましくは500ms以下の放電時間を有する一方で、帯電レンズについては放電時間は約数十秒である。本出願では、放電時間は、仏国特許出願第2943798号明細書に公開されている方法に従って測定される。
【0104】
本明細書で使用する場合、「導電層」又は「帯電防止層」は、これが基材の表面上に存在することに起因して、電荷蓄積に起因して埃/粒子を引き付ける光学物品の能力を低下させる層を意味することを意図している。好ましくは、非帯電防止基材(すなわち500msより長い放電時間を有する)の上に設けられる場合、帯電防止層は、光学物品が多量の静電荷を保持及び/又は発生させないように、例えばその表面上に静電荷が加えられた後に500ms以下の放電時間を有するようにすることが可能であり、その結果、静電気の影響を防ぐことに起因して、小さな埃の光学物品への付着が防止される。
【0105】
導電層は、その反射特性又は反射防止特性が影響を受けることがなければ、積層体内の様々な位置に、通常は干渉コーティング中に、又は干渉コーティングと接触して、配置されてもよい。導電層は、好ましくは、干渉コーティングの2つの層の間に配置される、及び/又はそのような干渉コーティングの高屈折率を有する層に隣接している。一実施形態では、導電層は、干渉コーティングの低屈折率を有する層の直下に配置され、最も好ましくは、干渉コーティングのLI外層の直下に配置されることによる、干渉コーティングの最後から2番目の層である。
【0106】
一実施形態では、導電層は、1.55以下の屈折率を有する2つの層と直接接触しており、この導電層は、好ましくは、基材から離れる方向に干渉コーティングの最後から2番目の位置に配置されている。
【0107】
導電層は、干渉コーティングの透明性を変えないように十分に薄い必要がある。導電層は、好ましくは、導電性且つ透明性の高い材料、通常は任意選択でドープされていてもよい金属酸化物から作製される。この場合、導電層の厚さは、好ましくは1~15nm、より好ましくは1~10nm、理想的には2~8nmの範囲にある。好ましくは、導電層は、インジウム、スズ、亜鉛酸化物、及びこれらの混合物から選択される、任意選択でドープされていてもよい金属酸化物を含む。インジウム-スズ酸化物(In2O3:Sn、スズでドープされたインジウム酸化物であり、ITOと記される)、アルミニウムでドープされた亜鉛酸化物(ZnO:Al)、インジウム酸化物(In2O3)、及びスズ酸化物(SnO2)が好ましい。最も好ましい実施形態では、導電性且つ透明性の高い層は、SnO2層である。
【0108】
一般に、導電層は、積層体内で、ただしその薄い厚さゆえに限定的な形で、干渉特性を得ることに寄与し、典型的には、前述のコーティングにおいて高屈折率を有する層を表す。これは、ITO又はSnO2層などの導電性且つ透明性の高い材料から作製された層の場合である。したがって、導電層が存在する場合は、導電層は、好ましくは、干渉コーティングの最も外側の高屈折率層である、又は導電層が1つ以上の高屈折率層に隣接する場合は、干渉コーティングの最も外側の高屈折率層のうちの1層である。
【0109】
導電層は、任意の適切な方法に従って、例えば、好ましくは、その透明性を高めるためのイオンビーム支援真空蒸着(特に米国特許出願第2006/017011号明細書及び米国特許第5268781号明細書に記載されているIAD)によって、又はカソードスパッタリングによって、堆積することができる。
【0110】
導電層はまた、典型的には厚さ1nm未満、好ましくは厚さ0.5nm未満の貴金属(Ag、Au、Ptなど)の非常に薄い層であってもよい。
【0111】
堆積の方法
干渉コーティングの様々な層が、好ましくは、真空下での気相堆積により、以下の方法のいずれかに従って堆積される。i)任意選択のイオンビーム支援下での、蒸着によって、;ii)イオンビーム噴霧によって;iii)カソードスパッタリングによって;iv)プラズマ支援化学蒸着によって。これらの様々な方法は、参考文献「Thin Film Processes」及び「Thin Film Processes II」、Vossen&Kern編、Academic Press、それぞれ1978年及び1991年、に記載されている。特に推奨される方法は、真空下での蒸着である。好ましくは、上述した各層の堆積は、真空下での蒸着によって行われる。そのようなプロセスは、基材の加熱を有利に回避し、これは、有機ガラスなどの熱の影響を受けやすい基材をコーティングするために特に興味深い。
【0112】
光吸収層は、準化学量論的無機材料を含む場合、既知の方法に従って形成することができる。材料の準化学量論的組成は、典型的にはマグネトロンスパッタリングによる前駆体物質の物理蒸着又は化学蒸着のおかげで得ることができる。
【0113】
例えば、SiNy層は、所定のN2/Ar流量比を有するN2とアルゴンとの混合物を含む雰囲気中でのシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングによって堆積できる。別の実施形態では、SiOx層は、所定のO2/Ar流量比を有するO2とアルゴンとの混合物を含む雰囲気中でのシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングによって堆積できる。Tvの値及び/又は最終的な物品の非対称ミラー効果は、そのような比の値に、及び/又は厚さの値に、及び/又は層数に依存する。
【0114】
上述したシリコンターゲットは、SiNx及び/又はSiOx可視光吸収材料を堆積させるための原料材料の非限定的な例である。
【0115】
マグネトロンスパッタリングによる薄膜堆積プロセスでは、原料材料は、固体ブロックである場合があり、スパッタリングターゲットと呼ばれる。非限定的な例として、スパッタリングターゲットは、
図13に示すような純粋なシリコンディスクであってもよい。
【0116】
一実施形態では、堆積プロセス中、高エネルギーアルゴンプラズマが発生し、Siターゲット表面に衝突する。その結果、高エネルギーAr+イオンによってSiターゲットからSi原子又はクラスタが弾き出され、次いで、これらが基材表面上に堆積されて、層又は薄膜が形成される。
【0117】
スパッタリングプロセス中、堆積チャンバ内に窒素又は酸素ガスが導入されると、窒化ケイ素又は酸化ケイ素材料が堆積されることになる。
【0118】
充分な量の窒素又は酸素が導入されると、化学量論的組成を有する光学的に透明なSiN又はSiO2材料が堆積され得る。
【0119】
本開示によれば、他方では、不十分な量の窒素又は酸素が導入される限り、準化学量論的組成を有する光吸収性のSiNy(y<1)又はSiOx(x<2)材料が堆積され得る。
【0120】
本発明による、非対称ミラー又は吸収性反射防止コーティングの非対称ミラー効果又は透過係数の柔軟性及び制御
光吸収層の堆積と、異なる堆積パラメータが前述した層の特性に及ぼす影響とに関する更なる詳細が以下で詳述される。
【0121】
コーティングが、HI吸収層として、準化学量論的HI層を含む一実施形態では、材料の準化学量論的組成は、材料の物理蒸着又は化学蒸着のおかげで、より好ましくはマグネトロンスパッタリングにより得られる。
【0122】
例えば、コーティングがSiNxでできている一実施形態では、SiNx層の所定の厚さが、所定のN2/Ar比を有するN2とArとの混合物を含む雰囲気中でシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングにより堆積されてもよい。
【0123】
このような一実施形態では、コーティングの可視光平均透過係数の値は、SiNx層の厚さの値、及びN2/Ar比の値に依存する。
【0124】
コーティングが、HI吸収層として、SiOxでできている層を含む一実施形態では、SiOx層の所定の厚さが、所定のO2/Ar比を有するO2とArとの混合物を含む雰囲気中でシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングにより堆積されてもよい。
【0125】
このような一実施形態では、コーティングの可視光平均透過係数の値は、SiOx層の厚さの値、及びO2/Ar比の値に依存する。
【0126】
上述したシリコンターゲットは、SiNx及び/又はSiOx光吸収材料を堆積させるための原料材料の非限定的な例である。
【0127】
マグネトロンスパッタリングによる薄膜堆積プロセスでは、原料材料は、固体ブロックである場合があり、スパッタリングターゲットと呼ばれる。非限定的な例として、スパッタリングターゲットは、純粋なシリコンディスクであってもよい。
【0128】
一実施形態では、堆積プロセス中、高エネルギーアルゴンプラズマが発生し、Siターゲット表面に衝突する。その結果、高エネルギーAr+イオンによってSiターゲットからSi原子又はクラスタが弾き出され、次いで、これらが基材表面上に堆積されて、層又は薄膜が形成される。
【0129】
スパッタリングプロセス中、堆積チャンバ内に窒素又は酸素ガスが導入されると、窒化ケイ素又は酸化ケイ素材料が堆積されることになる。
【0130】
充分な量の窒素又は酸素が導入されると、化学量論的組成を有する光学的に透明なSiN又はSiO2材料が堆積され得る。
【0131】
本開示によれば、他方では、不十分な量の窒素又は酸素が導入される限り、準化学量論的組成を有する光吸収性のSiNx(x<1)又はSiOx(x<2)材料が堆積され得る。
【0132】
本開示によると、コーティングは複数の層を含む。すなわちコーティングは多層膜コーティングである。
【0133】
いくつかの実施形態では、コーティングは、少なくとも1層の準化学量論的SiNx及び/又はSiOx層を含んでもよく、xは所定の数である。
【0134】
そのような場合、所定の厚さのSiNx及びSiN層が、所定のN2/Ar比を有するN2とArとの混合物を含む雰囲気中でのシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングにより堆積できる。同様に、所定の厚さのSiOx及びSiO2層が、所定のO2/Ar比を有するO2とArとの混合物を含む雰囲気中でのシリコンターゲットのマグネトロンスパッタリングにより堆積できる。
【0135】
そのような吸収層を有する本発明による干渉コーティングでコーティングされたベース材料の非対称ミラー効果及び/又は透過率は、その組成及び/又はその厚さを選択することにより制御できる。その結果、結果として生じるコーティングされたレンズに対して、クラス1~4の透過率が実現できる。
【0136】
すなわち、干渉コーティングの非対称ミラー効果、及び/又は可視光平均透過係数の値は、以下に依存する:
- SiNx及びSiN層の厚さ、及び/又はそれらの数、及び/又は、
- SiOx及びSiO2層の厚さ、及び/又はそれらの数、及び/又は、
- N2/Ar及びO2/Ar比の値。
【0137】
一実施形態では、本開示によるコーティングは着色ミラーコーティングであってもよい。すなわち、ミラーコーティングは所定の色を有する。
【0138】
ミラーの色は非常に柔軟な形態で設計することができ、それにより、ミラーは少なくとも1つの所定の色を示すことができ、その色は、青及び/又は緑及び/又は金及び/又は紫及び/又はピンク及び/又は赤及び/又は任意の他の所望の色、又は混合色を含む、可視波長範囲の波長を有する。
【0139】
本開示によるサングラスは、上述したような光学物品の特徴を有するもう1つ(一般に2つ)のレンズを備えてもよい。
【0140】
本開示はまた、上述したような光学物品を製造する方法を提供する。
【0141】
いくつかの実施形態では、光学物品は、高反射性特性又は反射防止特性のいずれかを提供する干渉多層コーティングでコーティングされている少なくとも1つの表面を有するベース材料を含み、コーティングは、調整可能な構成要素及び厚さを有する光吸収材料の少なくとも1層を含み、その結果、非対称ミラー効果が形成され、前述したコーティングの可視光平均透過係数は、95%~5%の値を有するように制御可能であり、光学物品を製造する方法は、ベース材料上に、所定の厚さの光吸収材料の少なくとも1層を堆積させることを含む。
【0142】
いくつかの実施形態では、堆積工程は、所定のN2/Ar比を有するN2とArとの混合物を含む雰囲気中で、所定の厚さのSiNxを堆積させることを含んでもよい。
【0143】
このような実施形態では、コーティングの可視光平均透過係数の値は以下に依存する:
- 堆積されたSiNxの厚さの値、及び、
- N2/Ar比の値。
【0144】
代替的実施形態では、堆積工程は、所定のO2/Ar比を有するO2とArとの混合物を含む雰囲気中で、所定の厚さのSiOxを堆積させることを含んでもよい。
【0145】
そのような代替的実施形態では、コーティングの可視光平均透過係数の値は以下に依存する:
- 堆積されたSiOxの厚さの値、及び、
- O2/Ar比の値。
【0146】
図14は、N
2/Arガス流量の異なる比率を有するN
2/Ar混合雰囲気中で堆積された260nmのSiNx単分子層コーティングを有する8レンズOrma/Titus-2.00基材の典型的な透過スペクトルを示す。
【0147】
レンズの片面、例えばCxで示す凸面を、約260nmの厚さを有する単分子層SiNxコーティングでコーティングした。この層は、N2/Arガス流量の異なる比率を有するN2+Ar混合物の雰囲気中でマグネトロンスパッタリングにより堆積した。
【0148】
N2/Ar比が減少するにつれて、コーティングされたレンズの透過率が著しく減少することが分かる。平均視感透過係数Tv(%)は、以下の数式に従って計算できる:
【数2】
T(λ)は
図14で示すようなレンズのスペクトル透過率であり、V(λ)は人の目の感度関数であり、D65(λ)は太陽スペクトルである。
【0149】
上述した吸収性SiNx単分子層のTv値を
図15に示す。Tvは、コーティング堆積中のN2/Arガス流量の比率にほぼ比例することが分かる。
【0150】
コーティング組成物に対するTvの依存性に加えて、SiNxコーティングの透過率はコーティング厚さにも依存し、それにより、コーティング厚さが増加するにつれてTvが減少する。この点で、
図16は、平均可視透過係数Tvの変動を、0.2に固定されたN2/Arガス流量の比率にてマグネトロンスパッタリングにより堆積されたSiNxコーティングの厚さの関数として示す。
【0151】
同様に、反応性マグネトロンスパッタリングにより堆積された準化学量論的SiOx(x<2)コーティングは、光学吸収を示す。
【0152】
この点で、
図17は、8つのOrma/Titus基材の典型的な透過率スペクトルを示し、その前面は約370nmの厚さを有する単分子層SiOxコーティングでコーティングされ、異なる比率のO
2/Arガス流量にてO
2/Ar混合物雰囲気で堆積された。
【0153】
O2/Ar比率が減少するにつれて、特に短波長範囲では、レンズの透過率が著しく減少することが分かる。
【0154】
図18は、O
2/Arガス流量が減少するにつれて、SiOx単分子層コーティングのTvが減少することを示し、したがって、堆積中に、SiOx単分子層コーティングのTvがO2/Arガス流量の比率に依存することが分かる。
【0155】
図19は、Tvの変動を、0.2に固定されたO2/Arガス流量の比率にてマグネトロンスパッタリングにより堆積されたSiOxコーティングの厚さの関数として示す。
【0156】
SiOxコーティングの厚さが増加するにつれてTvが減少することが分かる。
【0157】
上述した全ての方法において、堆積工程は、シリコンターゲットを使用するマグネトロンスパッタリングを含むことができる。
【0158】
されど、マグネトロンスパッタリングは、材料層の堆積の従来方法の非限定的な実施例としてのみ言及されている。変形形態として、本開示による干渉コーティングを形成するために、電子ビーム蒸着技術が使用されてもよい。
【0159】
このような変形形態では、N2及び/又はO2を供給するための追加ガスラインが、電子ビーム蒸着用反射防止コーティング機械に設けられてもよい。
【0160】
より一般的には、堆積工程は、化学又は物理蒸着技術を使用することを含んでもよい。
【0161】
上で詳述したように、多層干渉AR又はミラーコーティングに吸収材料を組み込むことができる。そのような吸収性干渉コーティングは、色付け工程が必要ないので、従来技術と同様のより単純な生産フローで、サングラスに適用可能である。
【0162】
吸収性SiOx及び/若しくはSiNx材料を伴うAR又はミラー積層体を設計するために、マグネトロンスパッタリングにより堆積される異なる単分子層コーティングの光学特性が分光偏光解析法により決定できる。
【0163】
化学量論的SiN(1.0を超えるN2/Arガス流量の比にてN2+Ar混合物雰囲気中で堆積された)及びSiO2(1.25を超えるO2/Arガス流量の比率にてO2+Ar混合物雰囲気中で堆積された)コーティングは、可視光領域(380~780nm)において明らかな吸収を示さなかった。550nmでのそれらの屈折率は、それぞれ、1.968及び1.462である。
【0164】
図20は、マグネトロンスパッタリングにより堆積された吸収性SiNx及びSiOxコーティングの550nmでの屈折率を示す。
【0165】
準化学量論的SiNx及びSiOxコーティングの屈折率は、対応する化学量論的SiN及びSiO2コーティングの屈折率よりも高いことに留意されたい。通常、N2/Ar又はO2/Arガス流量の比率を減少させると、屈折率は増加する。換言すれば、コーティングにおける窒素又は酸素が欠乏するにつれて、屈折率は徐々に増加する。
【0166】
そのような吸収材料は、化学量論的SiO2及び/又はSiN材料と組み合わせて多層干渉AR又はミラーコーティングに組み込むことができる。
【0167】
別の実施形態では、可視光吸収層を堆積させるために低温プラズマCVD法が使用される。原料ガスとして、シランガス(モノシラン、ジクロロシラン等)及び水素ガス、窒素ガス、酸素ガス、又はアンモニウムガスが、所定の流量比にてサンプルチャンバ内で混合され、それにより、例えば、SiOx及び/又はSiNy層が形成される。
【0168】
干渉コーティングの最も外側の低屈折率層は、好ましくは、イオンの支援なしで、好ましくは高エネルギー種を用いた付随処理なしで堆積される。別の実施形態では、干渉コーティングの低屈折率層は、イオン支援なしで、好ましくは高エネルギー種を用いた付随処理なしで堆積される。
【0169】
一実施形態では、導電層を除いて(干渉コーティング中に存在する場合)、いずれの干渉コーティングの層もイオン支援下で堆積されない(好ましくは、いずれの干渉コーティングの層も高エネルギー種を用いた付随処理下で堆積されない)。
【0170】
別の実施形態では、干渉コーティングの少なくとも1層のHI層、例えば、導電層又はTa2O5層(干渉コーティング中に存在する場合)が、イオン支援下で堆積される。
【0171】
任意選択で、層のうちの1層以上の堆積は、米国特許出願公開第2008/206470号明細書に開示されているように、真空チャンバ内での層の堆積工程中に(補助)ガスを供給することによって行われる。具体的には、稀ガス、例えばアルゴン、クリプトン、キセノン、ネオン;酸素、窒素などのガス、又はこれらのうちの2種以上のガスの混合物、などの追加ガスが、層が堆積されている間に真空堆積チャンバ中に導入される。この堆積工程中に使用されるガスは、イオン化ガスではなく、より好ましくは活性ガスではない。
【0172】
このガス供給により圧力の調整が可能になり、これはイオン支援などのイオン衝撃処理とは異なる。これは、通常、干渉コーティングの応力を制限し、層の付着を強化することを可能にする。ガス圧調整下での堆積と呼ばれるこのような堆積方法を使用する場合には、酸素雰囲気(いわゆる「パッシブ酸素」)下で作業することが好ましい。層の堆積中に追加のガス供給を使用すると、追加のガス供給なしで堆積される層とは構造的に異なる層が生成される。
【0173】
一実施形態では、干渉コーティングの最も外側の高屈折率層は、導電層を除いて(最も外側の位置に存在する場合)、真空チャンバ中で堆積され、その場合、堆積中に少なくとも1種の補助ガスが供給される。別の実施形態では、干渉コーティングの高屈折率層は、導電層(最も外側の位置に存在する場合)を除いて、真空チャンバ中で堆積され、その場合、堆積中に少なくとも1種の補助ガスが供給される。
【0174】
プライマーコーティング
本発明で使用され得る耐衝撃性プライマーコーティングは、完成した光学物品の耐衝撃性を改善するために典型的に使用される任意のコーティングであってもよい。定義上は、耐衝撃性プライマーコーティングは、完成した光学物品の耐衝撃性を、同じ光学物品であるが耐衝撃性プライマーコーティングがない物品と比較して改善するコーティングである。
【0175】
典型的な耐衝撃性プライマーコーティングは、(メタ)アクリル系コーティング及びポリウレタン系コーティングである。具体的には、本発明による耐衝撃性プライマーコーティングは、ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス、又はポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から作製できる。
【0176】
好ましいプライマー組成物としては、特開昭63-141001号公報及び特開昭63-87223号公報に記載されているものなどの熱可塑性ポリウレタンに基づく組成物、米国特許第5,015,523号明細書及び米国特許第6,503,631号明細書に記載されているものなどのポリ(メタ)アクリルプライマー組成物、欧州特許第0404111号明細書に記載されているものなどの熱硬化性ポリウレタンに基づく組成物、並びに米国特許第5,316,791号明細書及び欧州特許第0680492号明細書に記載されているものなどのポリ(メタ)アクリルラテックス又はポリウレタンラテックスに基づく組成物が挙げられる。好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンに基づく組成物、及びラテックスに基づく組成物、特にポリウレタンラテックス、ポリ(メタ)アクリルラテックス、及びポリエステルラテックス、並びにこれらの組合せに基づく組成物である。一実施形態では、耐衝撃性プライマーはコロイド状フィラーを含む。
【0177】
ポリ(メタ)アクリルラテックスは、例えばエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、又はエトキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートから本質的に作製されたコポリマーに、例えばスチレンなどの少なくとも1種の他のコモノマーを典型的には少量で含めたものに基づくラテックスである。
【0178】
本発明における使用に好適な市販のプライマー組成物としては、Witcobond(登録商標)232、Witcobond(登録商標)234、Witcobond(登録商標)240、Witcobond(登録商標)242組成物(BAXENDEN CHEMICALSから販売)、Neorez(登録商標)R-962、Neorez(登録商標)R-972、Neorez(登録商標)R-986、及びNeorez(登録商標)R-9603(ZENECA RESINSから販売)、並びにNeocryl(登録商標)A-639(DSM coating resinsから販売)が挙げられる。
【0179】
硬化後の耐衝撃性プライマーコーティングの厚さは、典型的には0.05~30μm、好ましくは0.2~20μm、より具体的には0.5~10μm、更には0.6~5μm又は0.6~3μm、最も好ましくは0.8~1.5μmの範囲にある。
【0180】
耐衝撃性プライマーコーティングは、好ましくは、耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングに直接接触している。一実施形態では、その屈折率は、1.45~1.55の範囲にある。別の実施形態では、その屈折率は、1.55以上である。
【0181】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティング
抗摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングは、光学レンズの分野で耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングとして従来使用されているいかなる層であってもよい。このコーティングが存在する場合、それは通常、第1の高屈折率シート(A)の下で、第1の高屈折率シートに直接接触して位置する。
【0182】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングは、好ましくは、ポリ(メタ)アクリレート又はシランに基づくハードコーティングであり、通常、硬化後のコーティングの硬度及び/又は屈折率を高めることを意図している1種以上の無機フィラーを含む。
【0183】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングは、好ましくは、少なくとも1種のアルコキシシラン、及び/又はその加水分解物であって、例えば、塩酸溶液、並びに任意選択の縮合及び/又は硬化触媒を用いた加水分解によって得られる加水分解物、を含有する組成物から作製される。
【0184】
本発明に推奨される好適なコーティングとしては、欧州特許第0614957号明細書、米国特許第4211823号明細書、及び米国特許第5015523号明細書に記載されているものなどのエポキシシラン加水分解物に基づくコーティングが挙げられる。
【0185】
好ましい耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティング組成物は、出願人名義の欧州特許第0614957号明細書に開示されているものである。これは、エポキシトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状シリカ、及び触媒量のアルミニウム系硬化触媒、例えばアルミニウムアセチルアセトネートを含み、残部はそのような組成物を配合するために従来使用されている溶媒から本質的に構成される。好ましくは、使用される加水分解物は、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)及びジメチルジエトキシシラン(DMDES)の加水分解物である。
【0186】
耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティング組成物は、公知の方法によって堆積することができ、その後、好ましくは熱又は紫外線照射を使用して硬化される。(硬化した)耐摩耗性及び/又は耐擦傷性コーティングの厚さは、通常、2~10μm、好ましくは3~5μmで変動する。
【0187】
疎水性及び/又は疎油性コーティング(防汚トップコート)
本発明による光学物品はまた、干渉コーティング上に形成され、その表面特性を変更することが可能なコーティング、例えば、疎水性及び/又は疎油性コーティング(防汚トップコート)を含んでもよい。これらのコーティングは、好ましくは、干渉コーティングの外層上に堆積される。通常、それらの厚さは10nm以下であり、好ましくは1~10nm、より好ましくは1~5nmの範囲にある。汚防トップコートは、一般にフルオロシラン又はフルオロシラザン型のコーティングであり、好ましくはフルオロポリエーテル部分、より好ましくはパーフルオロポリエーテル部分を含むものである。これらのコーティングに関するより詳細な情報は、国際公開第2012076714号パンフレットに開示されている。
【0188】
疎水性コーティングの代わりに、防曇特性を付与する親水性コーティング(防曇コーティング)、又は界面活性剤と結び付いたときに防曇特性を付与する防曇コーティング前駆体が使用されてもよい。そのような防曇前駆体コーティングの例は、特許出願国際公開第2011/080472号パンフレットに記載されている。
【0189】
プライマー、ハードコート、及び防汚トップコートなどの追加のコーティングは、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、蒸着、スパッタリング、化学蒸着、及びラミネーションを含む当該技術分野において既知の方法を使用して基材の主面上に堆積させることができる。
【0190】
典型的には、本発明による光学物品は、ベース材料又は基材を含み、その主表面が、耐衝撃性プライマー層、抗摩耗性及び/又は耐擦傷性層、本発明による非対称ミラー型の光吸収性干渉コーティング、並びに、疎水性及び/又は疎油性コーティング、又は防曇特性を付与する親水性コーティング、又は防曇前駆体コーティング、で連続的にコーティングされる。
【0191】
存在、本発明による非対称ミラーに起因して、光学物品が得られ、その光学物品は、その前面からその物品を見たときに高反射特性を定め、その背面からその物品を見たときに反射防止特性を定める一方で、従来の製造方法で得られ、柔軟に制御することができる可視光透過率を有する。
【0192】
本発明によると、光学物品の主面、好ましくは前面は、本発明による非対称ミラーによって覆われており、15°未満の入射角にて前面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、前方反射率Rfと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%を超える、加重スペクトル反射平均と、
- 15°未満の入射角にて背面主面上に到達する光に関する、380~780nmの全可視スペクトルにわたる、後方反射率Rfと呼ばれる加重スペクトル反射平均であって、2.5%未満、好ましくは2%未満、好ましくは1.5%未満、好ましくは1%未満、好ましくは0.7%未満、好ましくは0.6%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.4%未満、好ましくは0.3%未満、好ましくは0.2%未満である、加重スペクトル反射平均と、を有し、
- 15°の入射角における前方反射率と後方反射率との比、すなわちRf/Rbが、10以上である、好ましくは20を超える、好ましくは30を超える。
【0193】
着用者の観点からは、[30°~45°]の入射角範囲に含まれる光線の反射を減らすことが重要であり、それは、そのような入射角を有する光が、レンズの裏面からの反射と不快感を生み出すからである。
【0194】
現在の吸収性干渉コーティングは、基材又はコーティングに色付けする必要なく、いかなる種類の基材上でも、サングラス生産のために直接使用することができ、したがって製造プロセスが簡略化される。加えて、コーティングされた光学物品の透過率は、クラス1からクラス4まで柔軟に制御できる。
【0195】
可視光吸収性能は、基材の1つの主面上の本発明の干渉コーティング、又は基材の両方の表面上の同一の若しくは異なる本発明の干渉コーティングを用いることにより、他の光学的性能、例えば、UV範囲における高反射又は低反射、可視範囲における高反射又は低反射、反射における多角度効率、例えば、広範囲の入射角にわたる可視光の低い視覚的反射と組み合わせることができる。
【0196】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、干渉コーティング、好ましくは非対称反射防止コーティングにおける層の総数は、好ましくは3以上、好ましくは7以下又は5以下、及び/又は干渉コーティング(好ましくは非対称ミラーコーティング)の総厚は、好ましくは1マイクロメートル未満、より好ましくは800nm以下又は500nm以下である。
【0197】
干渉コーティングを、それらの色相角(h)に関する制限なしに設計することが可能であり、色相角は、前述した干渉コーティング(反射光の色)によって表示される残留色に関するものであり、好ましくは40°~355°、より好ましくは100°~300°の範囲にある。いくつかの実施形態では、光学物品は、240°~300°、好ましくは250°~290°、より好ましくは260°~280°の範囲の色相角(h)を有し、したがって知覚される残留反射色は青色から紫色、好ましくは紫色に近くなる。別の実施形態では、光学物品は、135°以上、より好ましくは140°以上、更に好ましくは140°~160°の範囲の色相角(h)を有し、それによって緑色の反射を有する干渉コーティングが得られる。別の実施形態では、光学物品は、40°~90°、好ましくは50°~90°、更に好ましくは50°~70°の範囲の色相角(h)を有し、そのため金色の反射を有する干渉コーティングが得られる。
【0198】
本発明のレンズの表色係数は、良好なロバスト性を有する。国際公開第2015/000534号パンフレットで定義されている光学物品のロバスト性σhは満足できるものであり、緑色に対応する色相角hについては、好ましくは8°以下、より好ましくは7.5°以下である。
【0199】
本発明は、前述したような光学物品の製造方法に更に関し、これは以下を含む:
- 前面主面及び背面主面を有する基材を含む光学レンズを提供すること、
- 基材の少なくとも1つの主面上、及び、1.55を超える屈折率を有する少なくとも1層の高屈折率層、及び1.55以下の屈折率を有する少なくとも1層の低屈折率層の積層体を含む、非対称ミラー効果を定める多層干渉コーティング上に堆積することであって、多層干渉コーティングの層のうちの少なくとも1層が、準化学量論的光吸収層である、こと。
【0200】
一実施形態では、本光学物品は、基材上にプライマーコーティング並びに/又は耐摩耗性及び/若しくは耐擦傷性コーティングを第1の製造場所で形成する一方で、他のコーティングを第2の製造場所で形成することによって作製される。
【0201】
以下の実施例は、より詳細であるが非限定的な形で本発明を説明するものである。別段の規定がない限り、本出願で開示される全ての厚さは、物理的厚さに関する。表中で与えられる百分率は、重量百分率である。特に明記しない限り、本発明で言及される屈折率は、550nmの波長について20~25℃で表現したものである。
【実施例】
【0202】
6.基本手順
実施例で使用した物品は、高屈折率コロイドの添加により屈折率が1.6になるように変更された国際公開第2010/109154号パンフレットの実験項に開示されている耐衝撃性プライマーコーティングと、欧州特許第0614957号明細書の実施例3に開示されている耐摩耗性及び耐擦傷性コーティング(ハードコート)(高屈折率コロイドの添加により1.5ではなく1.6の屈折率を有するように変更された)と、前面上の本発明による非対称ミラーと、国際公開第2010/109154号パンフレットの実験項に開示されている防汚コーティング、すなわちDaikin Industriesから販売されているOptool DSX(登録商標)化合物の真空下での蒸着による防汚コーティング(厚さ:2~5nm)とで、その凸面又は前面主面がコーティングされている、明示しているときは-2.00ジオプターの屈折力を有し、明示していないときは屈折力を全く有することがない、1.2mmの厚さを有する、直径65mmのポリチオウレタンMR8(登録商標)レンズ基材(Mitsui Toatsu Chemicals Inc.より、屈折率=1.59)を含む。この物品は、吸収性反射防止コーティング又は透明反射防止コーティングが非対称ミラーにより置換されることを除いて、凹面又は背面主面上に同じ積層体を有する。
【0203】
指定された場合、堆積中に、任意選択で酸素ビーム、場合によってはアルゴンイオンビームにより支援された真空蒸着(IAD)により(蒸着源:電子ガン)、及び、示される場合、O2ガス、又はO2/Ar、N2/Arのガス混合物をチャンバ内に(受動的)供給することによる、任意選択の圧力調整下で、基材を加熱することなく、様々な層を堆積した。
【0204】
様々な反射防止層を堆積させることを可能にする真空蒸着装置は、材料を蒸発させるための2つのシステム、つまり電子銃蒸着システム及び熱蒸着器(ジュール効果蒸着システム)を有するBulher Leybold Optics製の真空コーターSyrus3、並びに、アルゴンイオン衝撃(IPC)による基材表面の準備の予備段階において及び層のイオン支援堆積(IAD)において使用するためのVeeco製のMark2イオン銃を有する。
【0205】
2.光学物品の作製
レンズは、処理するレンズを、その凹面が蒸着源及びイオン銃に向くように収容することを意図している円形の開口部を備えるカルーセル上に置いた。
【0206】
光学物品を製造するための方法は、プライマー及び耐摩耗性コーティングを含むレンズ基材を真空堆積チャンバ内に導入し、高真空が形成されるまでポンピング工程を行い、続いてイオン銃のコンディショニング工程(仏国特許第2957454号明細書に開示されているようなIGC、開始圧力として3.5×10-5mBar、140V、3.5A、アルゴン、60秒)を行い、開始圧力5.10-4mBarでアルゴンイオンビームによる衝撃を使用する基材表面活性化工程(IPC)(イオン銃を1.8A、100V、60秒に設定)を行い、イオン照射を停止し、その後0.4~3nm/sの範囲の速度で必要な数の層、コーティング層、及び防汚コーティング)を逐次的に蒸着し、最後に通気工程を行うことを含む。
【0207】
本発明による非対称ミラーを形成することは、例えば、HI層(表1及び表2に示すように、ZrO2を2nm/sの速度、及びSnO2層を、1nm/sの速度で、SiOx又はSiNを1~2nm/sの速度で、且つそれぞれ、0.2に等しいO2/Ar、又は0.2、0.1及び0.05に等しいN2/Arのガス流量比にて)と、LI層(SiO2を2nm/sの速度で)とを含む干渉層の堆積工程、そして最後に、層の必要な所定の厚さ/透過係数に達するまで0.4nm/sの速度にて行われるOptool DSX(登録商標)層の堆積工程、を含む。
【0208】
光可視吸収タイプの反射防止積層体(AR1又はAR2)を形成することは、例えば、HI層(表3に示すように、SiOx又はSiNを1~2nm/sの速度で、且つそれぞれ、0.2に等しいO2/Ar、又は0.2、0.15及び0.05に等しいN2/Arのガス流量比にて)と、LI層(SiO2を2nm/sの速度で)とを含む反射防止層の堆積工程、そして最後に、層の必要な所定の厚さ/透過係数に達するまで0.4nm/sの速度にて行われるOptool DSX(登録商標)層の堆積工程、を含む。
【0209】
透明タイプの反射防止積層体(従来の透明AR)を形成することは、例えば、例えば、2nm/sの速度でのSiO2層の堆積工程、7.0×10-5mBarのO2圧力下での1nm/sの速度でのZrO2層の堆積工程、30秒間のアルゴンイオンビームを用いるこのZrO2層の表面活性化工程(既に、直接、基材上に実施されているIPCと同じ処理)、任意選択でO2雰囲気(5×10-5mBarの圧力)下での、3nm/sの速度でのSiO2サブ層の堆積工程、30秒間のアルゴンイオンビームを用いる副層の表面活性化工程(既に、直接、基材上に実施されているIPCと同じ処理)、HI層(ZrO2を2nm/sの速度にて、及びSnO2層を1nm/sの速度にて)とLI層(SiO2を2nm/sの速度にて)とを含む反射防止層の堆積、そして最後に、0.4nm/sの速度でのOptool DSXR層の堆積工程、を含む。
【0210】
ZrO2層の堆積を、ガス供給下(O2、7.5×10-5mBarの圧力下)で行った。薄いSnO2導電層の堆積を、酸素イオン支援(イオン銃:2A、120V)で行った。
【0211】
3.革新的な非対称ミラー及び比較ミラーの実施例
以下の表1は、特定の厚さ及び層数を有する交互配置されたSiO2及び吸収性SiNx層からなる非対称ミラー積層体の5つの実施例と、比較例1及び2とを示す(比較例1は、追加でSiN層を含む。
【0212】
【0213】
以下の表2は、本発明による非対称ミラー積層体の2つの実施例を示し、それぞれ、SiO2、ZrO2、及び吸収性SiOxとCr、並びにSiO2、ZrO2、及び吸収性SiOxとCr層からなる。
【0214】
【0215】
表1及び表2では、光吸収性のSiOx又はSiNx層を、それぞれ、0.2及び0.15に等しいO2/Ar又は0.2及び0.15に等しいN2/Arのガス流量比で堆積させた(これら表において括弧で示すように)。
【0216】
4.反射防止コーティングの実施例
下記の表3は、それぞれ、SiO2、ZrO2、SnO2を有し、可視光吸収層を有しない従来の透明なARと、SiO2及び吸収性SiOx層により構成され、いわゆるAR1と呼ばれるもの、及びSiO2及び吸収性SiNx層により構成され、いわゆるAR2と呼ばれるもので構成される2層の可視光吸収性反射防止コーティングとからなる、反射防止積層体の3つの実施例を示す。
図9は、AR2の超低Rf及びRbを示す(0~30°の入射角ではほぼ0%、0~50°の入射角では2.5%を下回る。
【0217】
【0218】
表3では、光吸収性のSiOx又はSiNx層を、それぞれ、0.2に等しいO2/Ar又は0.15に等しいN2/Arのガス流量比で堆積させた。
【0219】
5.試験方法
本発明に従って作製した光学物品を評価するために以下の試験手順を使用した。各系について複数のサンプルを測定用に作製し、報告されたデータを様々なサンプルの平均を使用して計算した。
【0220】
本発明の積層体でコーティングされた面の(反射における)表色測定:国際表色CIE(L*,a*,b*)空間における反射係数Rv、色相角h、及び彩度C*を、標準光源D65及び10°の標準観察者を考慮して(h及びC*について)、Zeiss分光計を用いて行った。これらは15°の入射角について提供される。
【0221】
可視スペクトルにおける光透過係数Tvを、(中心において2mmの厚さの)レンズの(凹状の)裏面が検出器に面し、光がレンズの前面に入射する状態で、HunterからのCary 4000分光計を使用して着用者の視野角から透過率モードで測定した。Tvを、D65照明条件(昼光)下で測定した。
【0222】
層の厚さを、水晶振動子マイクロバランスにより制御した。
【0223】
本開示では、LI材料は、550nmの波長において1.60未満の、時には1.55未満の屈折率を有する材料として定義することができ、HI材料は、550nmにおいて1.60を超える、時には1.65を超える屈折率を有する材料として定義することができる。
【0224】
表1、表2、表3にて列挙されるAR/ミラーの全ての実施例について、550nmにおいて1.915の屈折率を有する化学量論的SiNはHI材料であるが、準化学量論的SiOx及びSiNxは高屈折率材料である。550nmにおいて2.0を超える屈折率を有する、表1、表2、表3における積層体の実施例の全ての準化学量論的材料は、HI材料である。
【0225】
550nmにおいて1.462の屈折率を有する化学量論的SiO2は、LI材料である。
【0226】
6.本発明による光学物品
透明の又は可視光吸収性のいずれかである、上記で定められた非対称ミラー及び3つの反射防止コーティングの実施例1~7から、本発明による光学物品のいくつかの実施形態を定めることができる。
【0227】
7.結果
7.1 本発明による非対称ミラーについて得られた結果
実施例1~7の非対称ミラーコーティングの前方反射係数Rf1及び後方反射係数Rb2、並びに反射彩度c*、及び色相h*、透過係数は、所定の値に固定されて、前述した非対称ミラーコーティングの前面から見たときに、青色、緑色、金色などの異なる可視色領域を有し、前面から見たときに、感知できない反射を有するような、非対称ミラーの挙動が定められた。
【0228】
非対称ミラーコーティングの反射スペクトル専用の異なる図から明らかなように、本発明によるミラーの実施例は、必要な、裏面から見たときの反射防止挙動、及び前面から見たときの高反射性挙動を有する。
-
図3:実施例1:0~60°の入射角について非常に強いRf(27~34%)、非常に低いRb(0~60°の入射角について2.5%未満、0~50°の入射角について1.5%未満
-
図6:実施例3:0~60°の入射角について非常に強いRf(10~18%)、非常に低いRb(0~60°の入射角について2.5%未満、0~50°の入射角について2%未満
-
図7:実施例4:0~60°の入射角について非常に強いRf(13~17%)、非常に低いRb(0~50°の入射角について2.5%未満、0~45°の入射角について2%未満
-
図8:実施例5:0~60°の入射角について非常に強いRf(11~25%)、非常に低いRb(0~55°の入射角について2.5%未満、0~50°の入射角について2%未満
-
図12a:実施例6:15°の入射角について非常に強いRf(380~780nmに含まれる波長について15~40%)、15°の入射角について非常に低いRb
-
図12b:実施例7:15°の入射角について極めて強いRf(380~780nmに含まれる波長について40~60%)、15°の入射角について非常に低いRb
【0229】
これとは反対に、上記の比較ミラー実施例1及び2の反射率を開示している
図2及び
図4から明らかなように、前述した比較ミラーは、たとえ準化学量論的吸収層を含む場合であっても、非対称ミラー効果を示すようには設計されておらず、不必要な高い後方反射を有する(比較例1については、0~50%の全ての入射角において10%を超える、比較例2については、0~50%の全ての入射角において5%を超え、裏面から見たときに不必要な高反射特性を示す。
【0230】
5.2 本発明による光学物品の異なる実施形態について得られた結果
上記の実施例1~8では、それぞれ、MR8(登録商標)基材の前面上に堆積し、この基材の反対側の背面は、それぞれ、上述した透明反射防止コーティングでコーティングした。以下で、15°におけるh*、c*、Rf、0~50°におけるRb、15°におけるRf/Rb比を得て、以下の表4に列挙する。
【0231】
【0232】
上記の実施例1~8では、それぞれ、MR8(登録商標)基材の前面上に堆積し、この基材の反対側の背面は、それぞれ、上述した吸収性反射防止コーティングAR1でコーティングした。以下で、15°におけるh*、c*、Rf、0~50°におけるRb、15°におけるRf/Rb比を得て、以下の表5に列挙する。
【0233】
【0234】
上記の実施例1~8では、それぞれ、MR8(登録商標)基材の前面上に堆積し、この基材の反対側の背面は、それぞれ、上述した吸収性反射防止コーティングAR2でコーティングした。以下で、15°におけるh*、c*、Rf、0~50°におけるRb、15°におけるRf/Rb比を得て、以下の表6に列挙する。
【0235】
【0236】
上記の表4~6、及び
図4、5、10、11及び21から明らかなように、そのように定められた光学物品の全てについて、非常に低いRbが得られ、高い又は非常に高いRfが得られている:
-
図4:実施例2及び比較例2のミラーコーティングのいくつかの試作品が、MR8/HC1.6基材上に作製された。レンズの凸面は、対応するミラーコーティングでコーティングされ、レンズの凹面は、電子ビーム蒸着により、従来の透明ARコーティング(又は他の任意の従来のAR、例えばSiN/SiO2等)でコーティングされている。固有の非対称反射機能を特徴付けるために、平面MR8基材上にミラーコーティングを塗布し、Cx表面及びCc表面の両方からSMR測定を行った。実際には、
図1に概略的に示すように、測定される反射は両方の面からの反射の合計である。
図4は、実施例2及び比較例2のミラーコーティングを有する平面MR8プロトタイプのCx及びCc表面上で15°にて測定されたSMR反射スペクトルを示す。両方のミラーコーティングサンプルのCx表面からの前方反射Rfは非常に強いことに留意されたい。比較例の(従来の)ミラーコーティングのCc表面からの後方反射Rbは非常に高いが、実施例2の(非対称の)ミラーコーティングのCc表面からの反射は非常に低い(表4によると、15°において0.77%、及び0°~50°において2%未満)。
-
図5は、平面MR8(登録商標)の前面又はCx面上に堆積されたミラーコーティングプロトタイプの実施例2及び比較例2のCx表面及びCc表面上で異なる入射角にて測定されたRf、Rbを示す一方で、Cc側又は背側は透明ARコーティングでコーティングされている。両方のミラーコーティングサンプルの(Cx表面又は前面から測定された)前方Rf値は、異なる入射角にて非常に高い(30%を超える)ことに留意されたい。比較例の(従来の)ミラーコーティングの(背面のCc表面から測定した)後方Rbは、0°~60°の入射角にて4~11.5%で変動する。実施例2の(非対称)ミラーコーティングの後方Rbは、これとは反対に非常に低い(0°~45°の入射角にて1.5%未満)。特にミラーコーティングが処方レンズ上に塗布される場合に、従来のミラーコーティングと比較して、不快な後方反射及びゴースト像を減らすために、非対称ミラーコーティングの著しく低い後方Rbは有望である。実際、比較例2の吸収性ミラーコーティング及び実施例2の非対称ミラーコーティングでそれぞれコーティングされた-2.00Dの球面屈折力を有する同じ非平面MR8(登録商標)基材の2つのプロトタイプに対して撮影された2つの写真から、従来のミラーコーティングを通して強いゴースト像が観察できる一方で、非対称ミラーコーティングを通すとゴースト像は著しく低減されるか又は更にキャンセルされる。
-
図10は、平面MR8(登録商標)の前面又はCx表面上に銀色の反射色が堆積されている一方で、Cc側又は背側が吸収性AR2コーティングでコーティングされている、実施例5のミラーコーティングのCx及びCc表面上で異なる入射角にて測定されたRf、Rbを示す。この積層体は、4層だけ、すなわち2層の吸収層と2層の透明層とで構成される。このミラー積層体の理論的な前方Rv及び後方Rvを
図8に示す。本発明による他の上述した実施例1~4の非対称ミラーコーティングと同様に、この光学物品の前方反射は高い一方で、後方反射は非常に低い。
-
図11は、非対称ミラーを吸収性反射防止コーティングと組み合わせた場合に得られる、0~50°での更に低い(1%未満の)Rbを示す。より正確には、レンズαの凸面は、実施例2の非対称ミラーコーティングでコーティングされ、このレンズの凹面は、従来の透明ARでコーティングされている。レンズβについては、凸面は、実施例5の非対称ミラーコーティングでコーティングされているが、その凹面は、
図9に示すような吸収性AR2コーティングでコーティングされている。これら2つのプロトタイプの透過率TvD65は類似している(10~12%)。両方のプロトタイプの後方Rbは非常に低いが、レンズβはレンズαよりも更に低い後方Rbを有する。この結果は、レンズβのCx表面からの副反射(すなわち、
図1のRb2)が、凹表面上の吸収性AR2によって部分的に吸収されるからと解釈できる。したがって、レンズβの測定された合計の後方反射Rbには、主にCc表面上のARコーティングからの副反射が寄与している(すなわち、非常に低いRB1)。-2.00DのMR8基材上のこれらプロトタイプは両方とも、明らかなゴースト像を示さない。
-
図21は、実施例8のタイプの非対称ミラーを吸収性反射防止コーティングAR2と組み合わせた場合に得られる、0~45°での低い(1.5%未満の)Rbを示す。本発明による他の上述した実施例の非対称ミラーコーティングと同様に、この光学物品の前方反射は高い(ほぼ15%)一方で、後方反射は非常に低い。この実施例8による非対称ミラーは、他の実施例よりも高い透過率を有し(15°にてTV 60%)、透明基材及びARコーティングを組み合わせた場合に、クラス1(15°にてTV=64%)の光学物品を得ることが可能になる。
【0237】
本発明の図示した異なる実施例により得られる光学物品は、以下のいくつかの興味深い光学特性を提示する:
- 15°未満の入射角における前方反射率Rfが以下のもの:2.5%を超える(全ての実施例)、10%を超える(全ての実施例)、20%を超える(使用される反射防止コーティングが何であれ実施例3~5以外の全ての実施例)、30%を超える(使用される反射防止コーティングが何であれ実施例2及び7)、
- 15°未満の入射角における後方反射率Rbが、以下のもの:2.5%未満(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、2%未満(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは1.5%未満(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは1%未満(透明ARコーティングを組み合わせた実施例1を除く、使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)好ましくは0.7%未満(AR2を有する全ての実施例、AR1を有する実施例2~7、透明なARを有する実施例3、6及び7)、好ましくは0.6%未満(AR2を有する全ての実施例、AR1を有する実施例2~7)、好ましくは0.5%未満(AR2を有する全ての実施例、AR1を有する実施例2~7)好ましくは0.4%未満(AR2を有する全ての実施例)、好ましくは0.3%未満(AR2を有する実施例2~7)、好ましくは0.2%未満(AR2を有する実施例3及び7)、
- 15°の入射角における前方反射率と後方反射率との比であって、Rf/Rbと記されるものが、10以上(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは20を超える(透明ARを有する実施例1~3、6及び7、AR1又はAR2を有する全ての実施例)、好ましくは30を超える(透明ARを有する実施例2、7、AR1又はAR2を有する全ての実施例)、
- 35°~45°の入射角におけるの後方反射率Rbが、2.5%未満(使用する反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは2%未満(透明ARを有する全ての実施例1~6、AR1を有する全ての実施例2~5、AR2を有する全ての実施例)、好ましくは1.5%未満(透明ARを有する全ての実施例2~5、AR2を有する全ての実施例)、好ましくは1.4%未満(透明なARを有する実施例2~3、AR2を有する実施例1~5)、好ましくは1.3%未満(AR2を有する実施例2~5)である、
- 0°~45°の入射角における後方反射率Rbが、2.5%未満(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは2,3%未満(使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは2.2%未満(実施例7/AR1を除いて、使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)、好ましくは2.1%未満(実施例6及び7/AR1を除いて、使用される反射防止コーティングが何であれ全ての実施例)である、
- 35°~50°の入射角における後方反射率Rbが、2.5%(透明ARを有する実施例1~5,AR2を有する全ての実施例)、好ましくは2.3%未満(透明ARを有する実施例1~5、AR2を有する全ての実施例)、好ましくは2.2%未満(AR2を有する全ての実施例1~6)、好ましくは2.1%未満(AR2を有する全ての実施例1~5)である。
【0238】
本発明による非対称ミラーの構造は、以下を、単独で又はそれらの任意の組合せで考慮したもののうちの少なくとも1つで定めることができる:
- 少なくとも2層の吸収層(両方が準化学量論的層である、又は一方が準化学量論的層であり他方が金属層である)を有する非対称ミラーについてこれら吸収層のうちの少なくとも1層の厚さが、20未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満であり、第2の吸収層の厚さが、60~130nm、好ましくは80~120nm、より好ましくは90~120nmである、
- 3層の吸収層を有する非対称ミラーについて、第3の吸収層の厚さは、5~120nm間、より好ましくは7~80nmである、
- 3層の吸収性準化学量論的層を有する非対称ミラーについて、これら層のうちの少なくとも1層の厚さは、20未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満である、
- 少なくとも1層の吸収性準化学量論的層と少なくとも1層の金属層を有する非対称ミラーについて、前述した少なくとも1層の吸収性準化学量論的層のうちの1層の厚さが、20nmを超える、好ましくは40nmを超える、好ましくは60nmを超える、好ましくは80nmを超え、前述した金属層のうちの1層の厚さが、20未満、好ましくは15nm未満、より好ましくは10nm未満であり、且つ好ましくは5nmを超える、
- 基材に最も近い第1の層は、好ましくはHI層である、
- 2層の吸収層の両方が準化学量論的層である場合、基材に最も近い第1の層が、好ましくは準化学量論的層である、
- 2層の吸収層が、1層の吸収性準化学量論的層、及び1層の金属層である場合、基材に最も近い第1の層は、好ましくは、金属層でも準化学量論的層でもなく、HI層、例えばZrO2である、
- 基材から最も遠い最後の層は、SiO2などのLI層、又はHI層のいずれかである、
- 非対称ミラー積層体は、非対称ミラー効果に関与する、少なくとも4層、好ましくは10層未満、より好ましくは8層未満、又は厳密には8層を含む。
【0239】
既に言及したように、本発明では、非対称の吸収性ミラーコーティングが開発される。準化学量論的層で設計されているが、後方反射を考慮することのない比較例のミラーコーティングと比較すると、非対称ミラーコーティングは、後方反射及びゴースト像の可視性を効果的に減らすことができる。凸面上の非対称ミラーコーティングを凹面上の吸収性ARコーティングと組み合わせると、後方反射とゴースト像の可視性とが更に最小化できる。
【0240】
上述したように、コーティングされた物品の透過率は、ヨーロッパ標準NF EN 1836+A1によるクラス1からクラス4まで柔軟に制御できるので、透過率は、光吸収層の厚さ及び/又は組成によってクラス1からクラス4まで柔軟に制御することができ、更にサングラス用途には非対称ミラー効果を使用することができる。
【0241】
3~60%の範囲の可視透過率(Tv)を有する1~3層の吸収層を使用して、いくつかの積層体を設計した。上述したように、透過率は、存在する場合は反射防止吸収コーティングの光吸収層の厚さ及び/又は組成によって、及び/又は非対称ミラーの存在のおかげで、クラス1からクラス4まで制御できる。
【0242】
代表的な光学物品、サングラス、及び製造方法が本明細書で詳細に説明されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって説明及び定義されているものの範囲から逸脱することなく、様々な置換及び修正が実施されてもよいことを認識するであろう。
【0243】
必要とされる仕様に応じて累積的な利点を得るために、レンズの両方の主面上に、上述したような非対称ミラー効果及び反射防止効果の調製されたコーティングのいくつかを組み合わせることが明らかに可能である。
【国際調査報告】