(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-01
(54)【発明の名称】等間隔のエシェレットを有する多焦点回折眼科レンズ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572645
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 IB2022054971
(87)【国際公開番号】W WO2022249128
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ベーザッド ボードバー
(72)【発明者】
【氏名】カマル ケー.ダス
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097SA02
(57)【要約】
本明細書に記載の特定の実施形態は、多焦点眼科レンズであって、基本度数に対応する基本曲率を有する基本レンズと、基本レンズの第一の表面上に形成された中央領域及び複数の環状エシェレットを含む回折構造とを含む多焦点眼科レンズに関する。複数の環状エシェレットの各々の半径方向間隔は、回折構造全体を通して一定である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多焦点眼科レンズであって、
基本度数に対応する基本曲率を有する基本レンズと、
前記基本レンズの第一の表面上に形成された中央領域及び複数の環状エシェレットを含む回折構造であって、前記複数の環状エシェレットの各々の半径方向間隔は、前記回折構造全体を通して一定である、回折構造と
を含む多焦点眼科レンズ。
【請求項2】
前記第一の表面は、前記多焦点眼科レンズの前面である、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項3】
前記第一の表面は、前記多焦点眼科レンズの後面である、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項4】
前記複数の環状エシェレットの各々の一定の前記半径方向間隔は、前記基本レンズの直径の1/60~1/20である、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項5】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々のサグは、設計波長の単位で-1.0~1.0である、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項6】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の位相遅れは、前記設計波長の前記単位で-1.0~1.0である、請求項5に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項7】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の、前記基本レンズの前記第一の表面からのサグは、その内半径から外半径へと、前記内半径からの半径方向距離rに関して多項式的に変化する、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項8】
j番目のエシェレット(j=1、2、3、...)の、前記基本レンズの前記第一の表面からのサグは、内半径r
j-1から外半径r
jへと、前記内半径r
j-1からの半径方向距離rに関して、
【数1】
ここで、z
jは、1以上の正数である(z
j≧1))、又は、
【数2】
ここで、z
jは、負数である(z
j<0)、として多項式的に変化し、
第一のエシェレットは、前記中央領域であり、
前記複数の環状エシェレットは、j番目のエシェレット(j=2、3、...)であり、
a
jは、前記j番目のエシェレットの段差の高さであり、及び
φ
jは、前記j番目のエシェレットの位相遅れに対応する、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項9】
前記回折構造の面積は、前記基本レンズの前記第一の表面の表面積の40%~100%である、請求項1に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項10】
多焦点眼科レンズであって、
基本度数に対応する基本曲率を有する基本レンズと、
前記基本レンズの第一の表面上に形成された回折構造であって、前記基本度数によって特定される遠方視焦点を有するゼロ次回折、一次回折、中間視焦点を有する二次回折及び近方視焦点に対応する三次回折を生成する回折構造と
を含み、
前記ゼロ次回折の回折効率は、35%~50%であり、
前記一次回折の回折効率は、3%~10%であり、
前記二次回折の回折効率は、10%~15%であり、及び
前記三次回折の回折効率は、15%~25%である、多焦点眼科レンズ。
【請求項11】
前記第一の表面は、前記多焦点眼科レンズの前面又は前記多焦点眼科レンズの後面である、請求項10に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項12】
前記回折構造は、前記基本レンズの第一の表面上に形成された中央領域及び複数の環状エシェレットを含み、及び
前記複数の環状エシェレットの各々の一定の半径方向間隔は、前記基本レンズの直径の1/60~1/20である、請求項10に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項13】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々のサグは、設計波長の単位で-1.0~1.0であり、及び
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の位相遅れは、前記設計波長の前記単位で-1.0~1.0である、請求項12に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項14】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の、前記基本レンズの前記第一の表面からのサグは、その内半径から外半径へと、前記内半径からの半径方向距離rに関して多項式的に変化する、請求項12に記載の多焦点眼科レンズ。
【請求項15】
眼科レンズを構成する方法であって、
基本レンズの第一の表面上に形成される中央領域及び複数の環状エシェレットの各々の一定の半径方向間隔を所定の加入度数に基づいて計算するステップと、
前記計算された一定の半径方向間隔に基づいて、前記眼科レンズ上に前記複数の環状エシェレットを形成するか、又は前記複数の環状エシェレットが形成されるようにするステップと
を含む方法。
【請求項16】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々のサグを、ゼロ次回折の回折効率が35%~50%であり、一次回折の回折効率が3%~10%であり、二次回折の回折効率が10%~15%であり、及び三次回折の回折効率が15%~25%であるように計算するステップをさらに含み、前記形成するステップは、前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の前記計算されたサグにさらに基づく、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の表面は、前記多焦点眼科レンズの前面又は前記多焦点眼科レンズの後面である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の環状エシェレットの各々の前記一定の半径方向間隔は、前記基本レンズの直径の1/60~1/20である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々のサグは、設計波長の単位で-1.0~1.0であり、及び
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の位相遅れは、前記設計波長の前記単位で-1.0~1.0である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記中央領域及び前記複数の環状エシェレットの各々の、前記基本レンズの前記第一の表面からのサグは、その内半径から外半径へと、前記内半径からの半径方向距離rに関して多項式的に変化する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、Behzad Bordbar及びKamal K. Dasを発明者とする、2021年5月28日に出願された「MULTIFOCAL DIFFRACTIVE OPHTHALMIC LENSES WITH EVENLY SPACED ECHELETTES」という名称の米国仮特許出願第63/194,461号明細書の優先権の利益を主張するものであり、これは、全体的且つ完全に本明細書に記載されているように、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本明細書に記載の実施形態は、概して、多焦点眼科レンズに関し、より詳細には、多焦点回折眼科レンズ及びかかるレンズを構成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
眼内レンズ(IOL)及びコンタクトレンズ等の眼科レンズは、度数が1つの単焦点眼科レンズ及び2つ以上の焦点距離を有する多焦点眼科レンズを含む。例えば、二焦点眼科レンズは、遠方視と近方視とを提供する。三焦点眼科レンズは、遠方視、近方視及びそれに加えて中間視を提供する。
【0004】
従来、多焦点眼科レンズは、回折を利用し、多焦点眼科レンズの表面のベースカーブ上の回折構造を用いて複数の焦点距離を提供する。回折構造は、典型的には、中央領域(中央エシェレットとも呼ばれる)及び中央領域を取り囲む複数の環状の回折段差(環状エシェレットとも呼ばれる)を含む。環状エシェレットは、典型的には、半径方向間隔(すなわちエシェレットの外半径と内半径との間の半径方向距離)が、レンズの中心により近いエシェレットに関連する半径方向間隔と比較して、レンズの縁辺に向かって減少するように設計される。半径方向間隔が減少することは、レンズの縁辺付近に非常に薄いエシェレットが形成されることを意味する。この設計上の要件により、様々な製造上の課題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、改良された又は次世代(NG)多焦点眼科レンズ及びその構成方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の特定の実施形態は、多焦点眼科レンズを提供する。この多焦点眼科レンズは、基本度数に対応する基本曲率を有する基本レンズと、基本レンズの第一の表面上に形成された中央領域及び複数の環状エシェレットを含む回折構造とを含む。複数の環状エシェレットの各々の半径方向間隔は、回折構造全体を通して一定である。
【0007】
本開示の特定の実施形態は、多焦点眼科レンズも提供する。この多焦点眼科レンズは、基本度数に対応する基本曲率を有する基本レンズと、基本レンズの第一の表面上に形成された回折構造であって、基本度数によって特定される遠方視焦点を有するゼロ次回折、一次回折、中間視焦点を有する二次回折及び近方視焦点に対応する三次回折を生じさせる回折構造とを含む。ゼロ次回折の回折効率は、35%~50%であり、一次回折の回折効率は、3%~10%であり、二次回折の回折効率は、10%~15%であり、及び三次回折の回折効率は、15%~25%である。
【0008】
本開示の特定の実施形態は、眼科レンズを構成する方法をさらに提供する。この方法は、基本レンズの第一の表面上に形成される中央領域及び複数の環状エシェレットの各々の一定の半径方向間隔を所定の加入度数に基づいて計算するステップと、計算された一定の半径方向間隔に基づいて、眼科レンズ上に複数の環状エシェレットを形成するか、又は複数の環状エシェレットが形成されるようにするステップとを含む。
【0009】
上述の本開示の特徴を詳細に理解できるようにするために、上記で簡単に概述された本開示のより具体的な説明を実施形態に関して行うことができ、その幾つかが添付の図面に示されている。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態を示すものにすぎず、したがってその範囲を限定するとみなされるべきでなく、なぜなら、本開示では、同等に有効な他の実施形態も認められ得るためであることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】特定の実施形態による例示的な多焦点眼科レンズの断面図を示す。
【
図2】特定の実施形態による
図1の多焦点眼科レンズの上面図を示す。
【
図3】特定の実施形態による回折構造の側面図を示す。
【
図4】特定の実施形態による多焦点眼科レンズを設計するための例示的なシステムを示す。
【
図5】特定の実施形態による多焦点眼科レンズを形成するための例示的な動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
理解しやすくするために、可能な場合、図面間で共通する同じ要素を指すために同じ参照番号が使用される。1つの実施形態の要素及び特徴は、さらなる明示なしに他の実施形態に有利に組み込まれ得ることが想定される。
【0012】
本明細書に記載の実施形態では、改良された又は(NG)多焦点レンズ、特に多焦点眼科レンズ、例えばIOL及びコンタクトレンズ並びにその設計方法が提供される。本開示による(NG)多焦点レンズ及びその設計方法は、多焦点を調整することが有利となるイメージングシステム、例えばカメラ、ビデオカメラ及び携帯電話並びに外科処置中に使用されるシステム及び装置にも使用され得る。
【0013】
図1は、特定の実施形態による例示的な多焦点眼科レンズ100の断面図を示す。レンズ100の形状及び曲率は、図解の目的のためにのみ示されており、他の形状及び曲率も本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
図2は、
図1の多焦点眼科レンズ100の上面図を示す。多焦点眼科レンズ100は、基本曲率を有する基本レンズ102と、基本レンズ102上に形成された、少なくとも連続する四次の強め合いの干渉を生じさせる回折構造104とを含む。基本レンズ102の基本曲率により、基本レンズ102の基本屈折力(単純に「基本度数」又は「遠方視屈折力」と呼ばれる)が決まり、これは、遠くを見ることに対応する。
【0014】
基本レンズ102は、前面106と後面108とを有する。
図1に示される例では、前面106と後面108とは、基本度数に対応する基本曲率を有する。しかしながら、他の特定の実施形態(図示せず)では、前面106及び後面108の一方のみが、基本度数に対応する基本曲率を有する。さらに、
図1の例において、回折構造104が基本レンズ102の前面106に形成されている。しかしながら、他の特定の実施形態(図示せず)では、回折構造104は、後面108にのみ又は前面106と後面108との両方に形成され得る。
【0015】
回折構造104は、基本レンズ102の中心の第一の中央領域(第一のエシェレットとも呼ばれる)110と、第一のエシェレット110を取り囲む複数の環状エシェレットとを含む。エシェレットの各々は、基本レンズ102の基本曲率からの距離を指すサグを有する。環状エシェレットの各々のサグは、その内半径から外半径に向かって増大する。
図1及び2に示されるように、回折構造104は、13の環状エシェレットを含み、これは、第一のエシェレット110を取り囲む第二のエシェレット112、第二のエシェレット112を取り囲む第三のエシェレット114、第三のエシェレット114を取り囲む第四のエシェレット116、第四のエシェレット116を取り囲む第五のエシェレット118、第五のエシェレット118を取り囲む第六のエシェレット120等を含む。他の環状エシェレットは、参照番号を用いて言及されないが、本明細書に記載の実施形態の1つ又は複数によって同様に形成されることに留意されたい。
図1及び2に示される13の環状エシェレットは、単なる例であることにも留意されたい。特定の実施形態では、13より多い環状エシェレットが形成され得る。他の特定の実施形態では、13より少ない環状エシェレットが形成され得る。
【0016】
本明細書に記載の特定の実施形態において、環状エシェレットは、環状エシェレットの各々の半径方向間隔S(すなわち内半径と外半径との間の半径方向の距離)が回折構造104全体を通して一定(すなわち同じ)又は少なくとも実質的に一定(すなわち少なくとも実質的に同じ)であるように形成される。換言すれば、
図1及び2の例において、環状エシェレットの各々の半径方向間隔Sは、他の全ての環状エシェレットの半径方向間隔Sと等しい。特定の実施形態において、環状エシェレットの半径方向間隔Sは、製造公差によって実質的に一定(例えば、一定と異なる)であり得る。例えば、特定の実施形態において、環状エシェレットの半径方向間隔Sは、相互の10%未満であり得る。
【0017】
回折構造104は、入射する光エネルギを、異なる回折次数に対応する少なくとも4つの異なる焦点に分割する。ゼロ次回折(すなわち基本レンズ102の直進透過)では、基本レンズ102の基本曲率によって特定される遠方視力が提供される。特定の実施形態において、一次回折は、何れの所望の焦点にも対応せず、そのため、グレア又はハロー(すなわち使用される焦点像に重ねられる、使用されない焦点及び非焦点像)等の望ましくない視覚的障害を回避するために抑制される。特定の実施形態において、二次回折及び三次回折では、それぞれ中間視の焦点及び近方視の焦点が提供される。典型的には、中間視焦点は、60cmの距離にあり得、これは、デジタルスクリーンを用いた仕事を行うための最適範囲内にあり、近方視焦点は、40cmの距離にあり得、これは、読書及び他の近見作業のための理想的な距離である。入射する光エネルギの遠方視、中間視及び近方視焦点への分配(「回折効率」と呼ばれる)は、環状エシェレットの構成を調整することによって調整することができる。
【0018】
特定の実施形態において、遠方視、中間視及び近方視焦点に所望の回折効率を提供するために、エシェレットの各々の半径方向間隔S及びサグが調整され得る。
図3は、回折構造104の一例の側面図を示す。
図3では、横軸rは、第一のエシェレット110の中心(r
0で示される)からの半径方向距離を示し、縦軸は、エシェレットの各々のサグを示す。第一の半径方向距離r
1は、第一のエシェレット110の外半径及び半径方向間隔S
1を有する第二のエシェレット112の内半径に対応する。第二の半径方向距離r
2は、第二のエシェレット112の外半径(すなわちr
2=r
1+S
1)及び半径方向間隔S
2を有する第三のエシェレット114の内半径に対応する。第三の半径方向距離r
3は、第三のエシェレット114の外半径(すなわちr
3=r
2+S
2)及び半径方向間隔S
3を有する第四のエシェレット116の内半径に対応する。第四の半径方向距離r
4は、第四のエシェレット116の外半径(すなわちr
4=r
3+S
3)及び半径方向間隔S
4を有する第五のエシェレット118の内半径に対応する。第五の半径方向距離r
5は、第五のエシェレット118の外半径(すなわちr
5=r
4+S
4)及び半径方向間隔S
5を有する第六のエシェレット120の内半径に対応する。第六の半径方向距離r
6は、半径方向間隔S
6を有する第六のエシェレット120の外半径(すなわちr
6=r
5+S
5)に対応する等である。半径方向間隔S
1、S
2、S
3、S
4及びS
5は、全て同じであるか又は少なくとも実質的に同じである。図示されていないが、他の環状エシェレットの各々もS
1、S
2、S
3、S
4及びS
5等と同じ半径方向間隔Sを有することに留意されたい。
【0019】
幾つかの実施形態において、直径Dlensの基本レンズ102上に形成され得る環状エシェレットの最大数は、N=(Dlens-2r1)/Sによって特定される。幾つかの実施形態において、環状エシェレットの一定の半径方向間隔Sは、基本レンズ102の直径Dlensの約1/60~約1/20である。基本レンズ102の直径Dlensは、典型的には、約3mm~約10mmである。特定の実施形態において、回折構造104の面積は、基本レンズ102の表面積の約40%~100%であり得る。
【0020】
所望の回折効率を提供するための回折構造104(その一例が
図3に示されている)の設計において、第一の半径方向距離r
1(すなわち第一のエシェレット110の半径)が特定される。近方視焦点での所与の加入度数D
addについて、第一の半径方向距離r
1は、
【数1】
として特定され、式中、λは、設計波長である。特定の実施形態において、第二の半径方向距離r
2(すなわち第二のエシェレット112の外半径)は、一定の半径方向間隔Sと第一の半径方向距離r
1との和、すなわちr
2=S+r
1として設定される。それ以降の半径方向距離r
j(j=3、4、...)について、隣接する2つの半径方向距離の差r
j-1-及びr
jは、一定の半径方向間隔Sと等しくなるように設定され、そのため、j番目の半径方向距離(j=2、3、...)は、r
j=(j-1)r
2-(j-2)r
1=(j-1)S+r
1として設定される。
【0021】
j番目の環状エシェレット(j=1、2、3、...)の基本レンズ102の基本曲率に関するサグh
jは、j-1番目の半径方向距離r
j-1及び(j)番目の半径方向距離r
jで異なり得る。j番目のエシェレット(j=1、2、3、...)のサグh
jは、半径方向距離r
j-1と半径方向距離r
jの間の半径方向距離rに関する多項式関数(次数z
j)に基づいて計算され得る。例えば、特定の実施形態において、サグh
jは、
【数2】
(式中、z
jは、1以上の正数である(z
j≧1))、又は
【数3】
(式中z
jは、負数である(z
j<0))
として定義され得る。上記の例示的な関数では、a
jは、j番目のエシェレットの段差の高さに対応し、φ
jは、j番目のエシェレットの位相遅れに対応する。そのため、j番目のエシェレットの段差の高さa
j、j番目のエシェレットの位相遅れφ
j、j番目のエシェレットのサグh
jの多項式関数の次数z
j及び環状エシェレットの一定の半径方向間隔Sは、遠方視、中間視及び近方視焦点に所望の回折効率を提供するための制御パラメータとして調整することができる。特定の実施形態において、制御パラメータ、段差の高さa
j、位相遅れφ
j、サグh
jの多項式関数の次数z
jは、全てエシェレットごとに異なるようにすることができる。幾つかの実施形態において、j番目のエシェレットの段差の高さa
jは、設計波長λの単位で約0.25~約0.7であり、j番目のエシェレットの位相遅れφ
jは、設計波長λの単位で約-1.0~約1.0であり、j番目のエシェレットのサグh
jは、設計波長λの単位で約-1.0~約1.0である。
【0022】
表1は、加入度数D
add=3.25Dであるときの、
図3に示される回折構造104の制御パラメータa
j、φ
j、z
j及びS(S=S
1=S
2=S
3=S
4=S
5)の例示的組合せを示す。制御パラメータa
j、φ
j、z
j及びSのこの例示的組合せでは、ゼロ次回折(すなわち遠方視焦点)の回折効率は、35%~50%であり、一次回折の回折効率は、約10%未満、例えば3%~10%に抑制され、三次回折(すなわち中間視焦点)の回折効率は、10%~15%であり、四次回折(すなわち近方視焦点)の回折効率は、15%~25%である。
【0023】
【0024】
図4は、中央領域及び複数の環状エシェレットを有し、その回折構造全体を通して半径方向間隔が一定である多焦点眼科レンズ100を設計、構成及び/又は形成するための例示的なシステム400を示す。図示のように、システム400は、限定ではないが、制御モジュール402、ユーザインタフェースディスプレイ404、相互配線408、出力デバイス410、各種のI/O装置(例えば、キーボード、ディスプレイ、マウスデバイス、ペン入力等)をシステム400に接続できるようにし得る少なくとも1つのI/Oデバイスインタフェース412を含む。
【0025】
制御モジュール402は、中央処理ユニット(CPU)414、メモリ416及びストレージ418を含む。CPU 414は、メモリ416内に記憶されたプログラミング命令を読み出して実行し得る。同様に、CPU 414は、メモリ416内にあるアプリケーションデータを読み出して記憶し得る。相互配線408は、プログラミング命令及びアプリケーションデータをCPU 414、I/Oデバイスインタフェース412、ユーザインタフェースディスプレイ404、メモリ416、ストレージ418、出力デバイス410等の間で伝送する。CPU 414は、1つのCPU、複数のCPU、複数の処理コアを有する1つのCPU等を表し得る。追加的に、特定の実施形態において、メモリ416は、ランダムアクセスメモリを表す。さらに、特定の実施形態において、ストレージ418は、ディスクドライブであり得る。単体のユニットとして示されているが、ストレージ418は、固定又は取り外し可能な記憶装置、例えば固定のディスクドライブ、取り外し可能なメモリカード若しくは光学ストレージ、ネットワーク接続ストレージ(NAS)又はストレージエリアネットワーク(SAN)等の組合せであり得る。
【0026】
図示のように、ストレージ418は、入力パラメータ420を含む。入力パラメータ420は、加入度数Dadd、基本レンズ102の直径Dlens及び所望の回折効率を含む。メモリ416は、j番目のエシェレットの段差の高さaj、j番目のエシェレットの位相遅れφj、j番目のエシェレットのサグhjの多項式変化の次数zj及びエシェレット(例えば、第一のエシェレット110並びに環状エシェレット112、114、116、118及び120)の一定の半径方向間隔Sを、所望の回折効率を提供できるように計算するための制御パラメータ計算モジュール422を含む。加えて、メモリ416は、入力パラメータ424を含む。
【0027】
特定の実施形態において、入力パラメータ424は、入力パラメータ420又は少なくともその一部に対応する。このような実施形態では、制御パラメータaj、φj、zj及びSの計算中、入力パラメータ424は、ストレージ418から読み出され、メモリ416内で実行される。このような例において、制御パラメータ計算モジュール422は、制御パラメータaj、φj、zj及びSを入力パラメータ424に基づいて計算するための実行可能命令(例えば、本明細書に記載の式の1つ又は複数を含む)を含む。他の特定の実施形態において、入力パラメータ424は、ユーザインタフェースディスプレイ404を通してユーザから受け取ったパラメータに対応する。このような実施形態では、制御パラメータ計算モジュール422は、制御パラメータaj、φj、zj及びSを、ユーザインタフェースディスプレイ404から受け取った情報に基づいて計算するための実行可能命令を含む。
【0028】
特定の実施形態において、計算された制御パラメータaj、φj、zj及びSは、出力デバイス410を介してレンズ製造システムに出力され、これは、制御パラメータを受け取り、それに従ってレンズを形成するように構成される。他の特定の実施形態において、システム400自体がレンズ製造システムの少なくとも一部を表す。このような実施形態において、制御モジュール402は、その後、システム400のハードウェアコンポーネント(図示せず)に、制御パラメータに従ってレンズを形成させる。レンズ製造システムの詳細及び動作は、当業者に知られており、簡潔にするためにここでは省略する。
【0029】
図5は、全体を通して一定の半径方向間隔を有する複数の環状エシェレットを有する多焦点眼科レンズ100を形成するための例示的な動作500を示す。幾つかの実施形態において、動作500のステップ510は、1つのシステム(例えば、システム400)によって実行され、ステップ520は、レンズ製造システムによって実行される。他の幾つかの実施形態において、ステップ510及び520の両方がレンズ製造システムによって実行される。
【0030】
ステップ510では、制御パラメータ(すなわちj番目のエシェレットの段差の高さaj、j番目のエシェレットの位相遅れφj、j番目のエシェレットのサグhjの多項式変化の次数zj並びに環状エシェレット112、114、116、118及び120の一定の半径方向間隔S)は、入力パラメータ(すなわち加入度数Dadd、基本レンズ102の直径Dlens、形成される環状エシェレットの数及び所望の回折効率)に基づいて、所望の回折効率を提供できるように計算される。ステップ510で行われる計算は、本明細書に記載の式を含む実施形態の1つ又は複数に基づく。
【0031】
ステップ520では、計算された制御パラメータに基づく回折構造104を有する多焦点眼科レンズ100は、当業者に知られている、レンズの製造に典型的に使用される適切な方法、システム及び装置を用いて形成される。
【0032】
本明細書に記載の実施形態は、等間隔の環状エシェレットを有する改良された多焦点眼科レンズを提供する。このような多焦点眼科レンズの構成において、様々な制御パラメータ、例えばエシェレットの半径方向間隔、段差の高さ、サグ及び位相遅れ等は、遠方視、中間視及び近方視焦点に関する所望の回折効率が提供されるように調整することができる。特定の実施形態において、本明細書に記載の方法及び技術を利用することは、既存の技術を用いて形成される特定の既存の多焦点眼科レンズと比較して、より少ない数のエシェレットを含む多焦点眼科レンズを形成するのに役立ち得る。特定の実施形態において、エシェレットの数がより少ないと、ハロー等の視覚的障害を減少させることになる。
【0033】
上記は、本開示の実施形態に関するが、本開示の他の及びさらなる実施形態も本願の基本的範囲から逸脱せずに考案され得、その範囲は、以下の特許請求項によって特定される。
【国際調査報告】