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▶ パブリックストックカンパニー “ヴイエスエムピーオー アヴィスマ コーポレーション”の特許一覧

特表2024-518681高強度ファスナを製造するための材料およびそれを製造するための方法
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  • 特表-高強度ファスナを製造するための材料およびそれを製造するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-02
(54)【発明の名称】高強度ファスナを製造するための材料およびそれを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20240424BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240424BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 604
C22F1/00 628
C22F1/00 621
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 631A
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 687
C22F1/00 692A
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 691C
C22F1/00 630K
C22F1/00 692B
C22F1/00 602
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023558199
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 RU2021000128
(87)【国際公開番号】W WO2022203535
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513073577
【氏名又は名称】パブリックストックカンパニー “ヴイエスエムピーオー アヴィスマ コーポレーション”
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】レダー ミクハイル オットヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ アナトリー ヴラディミロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】グレーベンシュチコフ アレクサンドル セルゲイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】シュチェトニコフ ニコライ ヴァシルイェヴィッチ
(57)【要約】
本発明は、冶金学、より具体的には、様々な産業分野、好ましくは航空宇宙産業に使用するためのファスナを製造するための特定の機械的特性を有するチタン合金ベースの材料を製造することに関する。高強度ファスナを製造するための特許請求された材料は、アルファ安定化元素、ベータ安定化元素、および中性強化元素の形態で合金元素を含み、残部はチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金から製造される。溶体化焼鈍および時効に供される当該材料の構造中のベータサブグレインのサイズは、15μmを超えない。高強度ファスナを製造するためのこの材料は、溶体化焼鈍および時効に供される、40mm以下の直径を有する丸棒または18mm以下の直径を有する丸線の形態で製造される。溶体化焼鈍および時効後、この材料は、1400MPa超の極限引張強度、11%超の伸び、35%超の断面減少率、および750MPa超の二面せん断強度を有する。引き抜きのための中間ブランクは、チタン合金のインゴットを溶融し、このインゴットを熱機械加工して鍛造ビレットを得て、次いでそれを圧延することによって得られる。引き抜きのための中間ブランクは、粉末冶金法により得ることもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ安定化元素、ベータ安定化元素、中性強化元素として合金元素を含み、残部がチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金から製造された高強度ファスナ材料であって、チタン合金アルファ相の固溶強化を保証する合金元素の総量が以下の式によって定義され、
[Al]eq=[Al]+[O]×10+[C]×10+[N]×20+[Zr]/6
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
3.0~6.5 アルミニウム、
最大0.05 窒素、
0.05~0.3 酸素
最大0.1 炭素
最大2.0 ジルコニウム
であり、[Al]eqはアルミニウム構造当量であり、前記合金におけるその値は5.1~9.3の範囲にあり、
固溶強化を保証し、また準安定ベータ相の体積分率を増加させる元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Mo]eq=[Mo]+[V]/1.4+[Cr]×1.67+[Fe]×2.5
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
4.0~6.5 バナジウム
4.0~6.5 モリブデン
2.0~3.5 クロム
0.2~1.0 鉄
であり、[Mo]eqはモリブデン構造当量であり、前記合金におけるその値は12.4~17.4の範囲にあり、
さらに、溶体化処理され時効処理された材料の構造における一次アルファの体積分率は15~27%の範囲にあることを特徴とする、高強度ファスナ材料。
【請求項2】
1400~1500MPaの引張強度範囲内の溶体化処理され時効処理された材料の塑性率(Kpm)が、以下の積分方程式によって定義され、
pm=∫Rdσв
式中、Rは断面減少率、%であり、
σは引張強度、MPaであり、
3.7×10~5.0×10の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項3】
溶体化処理され時効処理された材料の構造におけるベータサブグレインのサイズが、15μmを超えないことを特徴とする、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項4】
溶体化処理され時効処理された、40mm以下の直径を有する丸棒の形態で製造された、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項5】
溶体化処理され時効処理された、18mm以下の直径を有する丸線の形態で製造された、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項6】
溶体化処理および時効後、1400MPaを超える引張強度を有する、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項7】
溶体化処理および時効後、11%を超える伸び、および35%を超える断面減少率を有する、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項8】
溶体化処理および時効後、750MPaを超える二面せん断強度を有する、請求項1に記載の高強度ファスナ材料。
【請求項9】
チタン合金の中間引き抜きストックの製造、冷間引き抜きストックの製造、およびその最終熱処理を含む、高強度ファスナ材料の製造方法であって、アルファ安定化元素、ベータ安定化元素、中性強化元素として合金元素を含み、残部がチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金の引き抜きストックの製造を特徴とし、チタン合金アルファ相の固溶強化を保証する合金元素の総量が以下の式によって定義され、
[Al]eq=[Al]+[O]×10+[C]×10+[N]×20+[Zr]/6
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
3.0~6.5 アルミニウム、
最大0.05 窒素、
0.05~0.3 酸素
最大0.1 炭素
最大2.0 ジルコニウム
であり、[Al]eqはアルミニウム構造当量であり、前記合金におけるその値は5.1~9.3の範囲にあり、
固溶強化を保証し、また準安定ベータ相の体積分率を増加させる元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Mo]eq=[Mo]+[V]/1.4+[Cr]×1.67+[Fe]×2.5
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
4.0~6.5 バナジウム
4.0~6.5 モリブデン
2.0~3.5 クロム
0.2~1.0 鉄
であり、[Mo]eqはモリブデン構造当量であり、前記合金におけるその値は12.4~17.4の範囲にあり、
引き抜きの前に、前記中間ストックは、(BTT-20)℃~(BTT-50)℃(ここで、BTTはベータ変態温度である)の温度で焼鈍され、少なくとも15℃/分の算術平均速度で室温まで冷却され、1.8~5の延伸倍率で引き抜きにより冷間引き抜きストックが製造され、さらに、冷間引き抜きストックの最終熱処理を、(BTT-50)℃~(BTT-80)℃の温度までの金属加熱後の溶体化処理および1~8時間の保持、続いて、後の時効温度以下の温度まで10℃/分以上の算術平均速度での冷却、少なくとも8時間400~530℃の金属加熱の温度での時効、続いて、室温までの冷却の条件で実施する、高強度ファスナ材料の製造方法。
【請求項10】
チタン合金インゴットを溶融し、インゴットを熱機械的処理して、鍛造ビレットを製造し、その後圧延することにより前記中間引き抜きストックを製造することを特徴とする、請求項9に記載の高強度ファスナ材料の製造方法。
【請求項11】
粉末冶金法により前記中間引き抜きストックを製造することを特徴とする、請求項9に記載の高強度ファスナ材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金学、すなわち、様々な産業、主に航空機産業で使用されるファスナ(締結具)を製造するために設計された機械的特性を備えたチタン合金材料の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンベースの材料は、その高い強度重量比および高い耐食性により、様々な産業において用途の拡大が見出されている。有望な分野の1つは、航空機および自動車産業用のファスナの製造である。現代の航空機工学では、構造の軽量化を目的として、鋼製のファスナが高強度のチタン合金製の部品に置き換えられている。部品の信頼性の高い動作のために、ねじ付きファスナは、一連の高レベルの特性、特に高い値の引張強度および二面せん断強度を備えている必要がある。さらに、チタン合金は、極限強度σ1500MPa、二面せん断強度τsh900MPa、伸びδ12%を有する鋼材料の機械的特性に近似する必要がある。強度および延性は金属および合金の基本的な機械的特性であり、その組み合わせによってファスナ材料の加工特性および性能特性が直接決まる。
【0003】
ファスナの雄ねじの製造で最も費用効果の高いプロセスは、ねじ転造工具を使用してストックの塑性変形の結果としてねじを製造するプロセスである。転造ねじの輪郭は、工具をストック材料に押し付け、材料の一部を工具の空洞に押し込むことによって形成される。最先端の機器および適用可能な技術により、熱硬化したままの状態、すなわち焼き入れおよび人工時効後、材料にねじ山を転造することができる。さらに、ねじ山の内部巻きに圧縮応力が発生し、亀裂が発生するまでのサイクル数が大幅に増加し、材料全体のサイクル抵抗が確実に増加する。しかしながら、熱硬化したままの状態でのねじ転造は、材料の高強度により複雑になり、低い延性と併せて、プロセスの技術的能力が著しく制限され、使用される工具の耐久性が低下する。これに関して、関連する目的は、熱硬化したままの状態で高い強度と延性を組み合わせたチタンベースの材料を作製することである。
【0004】
アルファ-ベータチタン合金の公知のファスナおよびその製造方法が存在し、これには、重量%で以下から構成されるアルファ-ベータチタン合金の熱間圧延、溶体化処理および時効処理が含まれる。
3.9~4.5 アルミニウム;
2.2~3.0 バナジウム;
1.2~1.8 鉄;
0.24~0.3 酸素;
最大0.08 炭素;
最大0.05 窒素;
最大0.3 その他の元素(合計)、
ここで、その他の元素は、実際には、各々が0.005未満の濃度を有するホウ素、イットリウムの少なくともいずれか、および各々が0.1以下の濃度を有するスズ、ジルコニウム、モリブデン、クロム、ニッケル、ケイ素、銅、ニオブ、タンタル、マンガンおよびコバルトであり、残部はチタンおよび不可避の不純物であり、アルファ-ベータ領域でチタン合金を熱間圧延してストックを製造し;製造されたストックを1200°F(648.9℃)~1400°F(760℃)の温度で1~2時間焼鈍し;空冷し;所定の製品サイズに機械加工し;1500°F(815.6℃)~1700°F(926.7℃)の温度で0.5~2時間、溶体化処理し;空気中での冷却と少なくとも同等の速度で冷却し;800°F(426.7℃)~1000°F(537.8℃)の温度で4~16時間、時効処理し;空冷する(特許文献1、IPC C22C 14/00、C22F 1/18、2016年4月20日に公開)。
【0005】
しかしながら、熱硬化したままの状態でねじ転造が可能な既知の材料の引張強度のレベルは、1370MPaに制限されている。
【0006】
インゴットからストックの製造および熱間圧延棒のエッチング、その真空焼鈍、引き抜き(引き抜き加工)、引き抜かれた棒の焼鈍ならびに最終サイズへのその機械加工による、ストックの製造、棒へのその熱間圧延を含む、チタン合金棒の製造方法が知られており;その際に、引き抜かれた棒の空気焼鈍は2段階で実施され、最初は650~750℃の温度で15~60分間行われ、室温まで空冷され、次に180~280℃の温度で4~12時間行われ、室温まで空冷され;さらに、第2の選択肢では、最初に焼鈍が750~850℃の温度で15~45分間実施され、500~550℃まで炉内で冷却され、その後室温まで空冷され、次に400~500℃の温度で4~12時間行われ室温まで空冷される(特許文献2、IPC C22F 1/18、B21C 37/04、2007年11月27日に公開)。
【0007】
この公知の方法は、Vt16チタン合金のファスナストックの製造を目的としており、他の高強度材料および合金の加工特性を考慮していないため、低い引張強度および二面せん断強度が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】ロシア連邦特許第2581332号
【特許文献2】ロシア連邦特許第2311248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱硬化したままの状態でねじ転造の実施を可能にする一連の高レベルの機械的特性を備えたチタン合金の高強度ファスナ材料の製造を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態で達成される技術的成果は、高レベルの延性を維持しながら材料の強度特性が改良されることである。
【0011】
この技術的成果は、本発明によると、アルファ安定化元素(стабилизаторов、stabilizer)、ベータ安定化元素、中性強化元素(нейтральных упрочнителей、neutral strengthener)として合金元素を含み、残部がチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金から製造された高強度ファスナのための材料において、チタン合金アルファ相の固溶強化(твердо-растворное упрочнение、solution strengthening)を保証する合金元素の総量が以下の式によって定義され、
[Al]eq=[Al]+[O]×10+[C]×10+[N]×20+[Zr]/6
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
3.0~6.5 アルミニウム、
最大0.05 窒素、
0.05~0.3 酸素
最大0.1 炭素
最大2.0 ジルコニウム
であり、[Al]eqはアルミニウム構造当量(структурный алюминиевый эквивалент、aluminum structural equivalent)であり、当該合金におけるその値は5.1~9.3の範囲にあり、
固溶強化を保証し、また準安定ベータ相の体積分率を増加させる元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Mo]eq=[Mo]+[V]/1.4+[Cr]×1.67+[Fe]×2.5
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
4.0~6.5 バナジウム
4.0~6.5 モリブデン
2.0~3.5 クロム
0.2~1.0 鉄
であり、[Mo]eqはモリブデン構造当量(структурный молибденовый эквивалент、molybdenum structural equivalent)であり、当該合金におけるその値は12.4~17.4の範囲にあり、
さらに、溶体化処理され時効処理された材料の構造における一次アルファの体積分率は15~27%の範囲にある、という事実によって達成される。1400~1500MPaの引張強度範囲内の溶体化処理され時効処理された材料の塑性率(коэффициент пластичности、Kpm)は、以下の積分方程式によって定義され、
pm=∫Rdσв
式中、Rは断面減少率(相対収縮、относительное сужение、reduction of area)、%であり、
σは引張強度、MPaであり、
3.7×10~5.0×10の範囲にある。
【0012】
溶体化処理され時効処理された材料の構造におけるベータサブグレインのサイズは15μmを超えない。高強度ファスナ製造のための材料は、溶体化処理され時効処理された、40mm以下の直径を有する丸棒の形態で製造される。高強度ファスナ製造のための材料は、溶体化処理され時効処理された、18mm以下の直径を有する丸線の形態で製造される。溶体化処理され時効処理された高強度ファスナの材料は、1400MPa超の引張強度、11%超の伸び、および35%超の断面減少率を有する。溶体化処理され時効処理された高強度ファスナの材料は、750MPa超の二面せん断強度を有する。
【0013】
この技術的成果はまた、本発明によると、チタン合金の中間引き抜きストックの製造、冷間引き抜きストックの製造、およびその最終熱処理を含む、高強度ファスナ材料の製造方法であって、中間引き抜きストックは、アルファ安定化元素、ベータ安定化元素、中性強化元素として合金元素を含み、残部はチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金から製造され、さらに、チタン合金アルファ相の固溶強化を保証する合金元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Al]eq=[Al]+[O]×10+[C]×10+[N]×20+[Zr]/6
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
3.0~6.5 アルミニウム、
最大0.05 窒素、
0.05~0.3 酸素
最大0.1 炭素
最大2.0 ジルコニウム
であり、[Al]eqはアルミニウム構造当量であり、当該合金におけるその値は5.1~9.3の範囲にあり、
固溶強化を保証し、また準安定ベータ相の体積分率を増加させる元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Mo]eq=[Mo]+[V]/1.4+[Cr]×1.67+[Fe]×2.5
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
4.0~6.5 バナジウム
4.0~6.5 モリブデン
2.0~3.5 クロム
0.2~1.0 鉄
であり、[Mo]eqはモリブデン構造当量であり、当該合金におけるその値は12.4~17.4の範囲にあり、
引き抜きの前に、中間ストックは、(BTT-20)℃~(BTT-50)℃(ここで、BTTはベータ変態温度である)の温度で焼鈍され、その後少なくとも15℃/分の算術平均速度で室温まで冷却され、1.8~5の延伸倍率(коэффициентом вытяжки)で引き抜きにより冷間引き抜きストックが製造され、さらに、冷間引き抜きストックの最終熱処理を、(BTT-50)℃~(BTT-80)℃の温度までの金属加熱後の溶体化処理および1~8時間の保持、続いて、後の時効温度以下の温度まで10℃/分以上の算術平均速度での冷却、少なくとも8時間400~530℃の金属加熱の温度での時効、続いて、室温までの冷却の条件で実施する、高強度ファスナ材料の製造方法という事実によって達成される。中間引き抜きストックは、チタン合金インゴットを溶融し、インゴットを熱機械処理して鍛造ビレットを製造し、その後圧延することによって製造される。中間引き抜きストックは粉末冶金法により製造される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】倍率4000倍での長手方向の材料微細構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この材料を製造するために、アルファ安定化元素(アルミニウム、酸素、窒素、炭素)、ベータ安定化元素(バナジウム、モリブデン、クロム、鉄)、中性強化元素(ジルコニウム)を含むチタン合金が使用される。この材料の製造原理は、チタンに対する特定の合金元素群の様々な効果に基づく。アルミニウムと等価の元素(アルファ安定化元素および中性強化元素)は、主に固溶強化の結果としてチタン合金を強化するが、モリブデンと等価の元素(ベータ安定化元素)は、固溶強化の結果および準安定ベータ相の量の増加の結果の両方として、時効の間の合金の析出硬化を保証する。本明細書に開示される構造当量[Al]eqおよび[Mo]eqは、設計された加工条件と共に、高品質のファスナ材料の製造プロセスを調節する基準である。
【0016】
アルミニウム構造当量[Al]eqにより、合金中に存在するアルファ安定化元素:アルミニウム、酸素、炭素、窒素およびジルコニウムによって同時に影響を受けるアルファ相安定化度の評価が可能になる。チタン合金の固溶強化を保証する合金元素の総量の設定値[Al]eqは、5.1~9.3である。これにより、処理の温度および速度パラメータを考慮して、チタン合金の化学組成の指定範囲全体内で必要な量のアルファ相を得ることができる。
【0017】
各元素の濃度の値は以下の原理に基づいて定義される。アルミニウムは合金の強度重量比を高め、チタンの強度および弾性率を向上させる。合金中のアルミニウム濃度が3.0%未満である場合、必要な強度が達成されず、塑性挙動を低下させるω相の形成確率も高くなり、一方、合金中のアルミニウム濃度が6.5%を超えると、合金加工延性の低下につながり、材料の脆化を引き起こし得るTiAl粒子の形成の可能性につながる。0.05~0.3%の範囲の酸素の存在は、塑性を劣化させることなく強度を向上させる。合金中の0.05%を超えない濃度の窒素および0.1%を超えない濃度の炭素の存在は、室温での可塑性の減少に大きな影響を与えない。アルファ相の強度を増加させるために、当該合金は2.0%を超えないジルコニウムでさらに合金化され、これにより、合金の可塑性および耐亀裂性を実質的に低下させることなく、合金の強度が向上する。
【0018】
12.4~17.4のモリブデン当量[Mo]eqに相当するバナジウム、モリブデン、クロムおよび鉄の濃度を合金に添加すると、臨界冷却速度を低下させることができ、40mm以下およびそれ以上のセクションの空冷中に準安定ベータ相の維持を確保し、時効後の高強度および冷間加工の間の加工延性の向上を得るのに必要な大量の準安定ベータ相の形成を保証する。
【0019】
さらに、各元素の濃度はベータ安定化元素の間でさらに定義される。チタン中の4.0~6.5%の範囲の高溶解度を有するバナジウムは、熱硬化性を高め、ベータ相の安定化およびアルファ相の強化も保証する。4.0~6.5%の範囲のモリブデンで合金化すると、室温および高温での強度が効果的に向上し、クロムおよび鉄を含む合金の熱安定性も向上する。2.0~3.5%の範囲に設定されたクロム濃度は、この元素が強力なベータ安定化元素として作用し、チタン合金を大幅に強化する能力によるものである。3.5%を超えるクロムで合金化すると、合金の脆化を引き起こす金属間相TiCr2が形成する可能性がある。0.2~1.0%の範囲の鉄を添加すると、合金の熱間加工の間の加工延性が向上し、変形欠陥を防止することができる。1.0%を超える鉄の濃度は、合金の溶融および凝固の間の化学的不均一性が増大し、構造の不均一性が生じ、その結果として、機械的特性の不均一性が生じる。熱硬化したままの状態での材料の可塑性の増加により、15μm以下のベータサブグレインのサイズを有する多数の部分境界および境界/部分境界での粒界転位の存在の組み合わせが保証され、また体積分率15~27%で一次アルファ粒子によって保証される長い相間境界も保証される。
【0020】
1400MPaを超える引張強度で、破断することなくねじ転造する熱硬化材料の能力は、実験的に確立された以下の数学的関係によって特徴付けられる:
pm=∫Rdσв
式中、Kpmは、熱硬化材料の塑性率であり、3.7×10~5.0×10に相当し、
は断面減少率、%であり、
σは1400~1500MPaの範囲の引張強度である。
【0021】
提案された高強度ファスナ材料の製造方法の性質は、以下に述べるようなことに基づく。
【0022】
上記材料を製造するために、中間引き抜きストックが、アルファ安定化元素、ベータ安定化元素、中性強化元素として合金元素を含み、残部はチタンおよび不可避の不純物であるチタン合金から製造される。
【0023】
インゴットの設計化学組成は、チタン合金アルファ相の固溶強化を保証する合金元素の総量の値の関係に基づいて決定され、以下の式によって定義され、
[Al]eq=[Al]+[O]×10+[C]×10+[N]×20+[Zr]/6
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
3.0~6.5 アルミニウム、
最大0.05 窒素、
0.05~0.3 酸素
最大0.1 炭素
最大2.0 ジルコニウム
であり、[Al]eqはアルミニウム構造当量であり、当該合金におけるその値は5.1~9.3の範囲にあり、
固溶強化を保証し、また準安定ベータ相の体積分率を増加させる元素の総量は、以下の式によって定義され、
[Mo]eq=[Mo]+[V]/1.4+[Cr]×1.67+[Fe]×2.5
ここで、各々の特定の元素の濃度は重量%で以下の範囲
4.0~6.5 バナジウム
4.0~6.5 モリブデン
2.0~3.5 クロム
0.2~1.0 鉄
であり、[Mo]eqはモリブデン構造当量であり、合金におけるその値は12.4~17.4の範囲にある。
【0024】
中間ストック製造の任意選択の方法の1つは、インゴットの溶融、ベータおよび/またはアルファ-ベータ相領域の温度での鍛造ストック(ビレット)への変換による熱機械処理である。ガス飽和層および表面変形欠陥を除去するために、鍛造ビレットを機械加工するのが得策である。続いてビレットを圧延して、圧延棒の形の中間ストックを製造する。中間ストック製造の他の任意選択の方法には、粉末冶金法が含まれる。
【0025】
製造された引き抜きストックの最大直径は、冷間加工のために使用される引き抜き装置の能力によってのみ制限され得る。なぜなら、同じ程度の変形を確保しながらワークピースの直径が増加すると、変形工具にかかる負荷および特定の引き抜き力が大幅に増加するためである。
【0026】
さらに、中間引き抜きストックの直径が大きくなると、その後の引き抜きの間に外周および中央のストック層の変形不均一性が蓄積することにより、断面変形の不均一性が増大し、その結果として、最終製品の構造の不均一性につながる。
【0027】
引き抜き前に、中間ストックは、(BTT-20)℃~(BTT-50)℃の温度で真空焼鈍を含む、焼鈍が行われ、その後、少なくとも15℃/分の算術平均速度で冷却される。特定の化学組成を有する中間ストックを(BTT-20)℃~(BTT-50)℃の温度範囲で加熱すると、6~17%の範囲の一次アルファの割合を有する準安定マトリクスベータ相を含む構造を得ることができる。塑性冷間変形プロセスの間、一次アルファ相は、アルファ相粒子間の距離までそれらの距離を縮めるため転位の移動を妨げる。後の引き抜きの前の応力再配分および均質化に必要とされる一次アルファ相の6~17%の範囲の割合は、さらなる冷間変形の間の転位の効果的な蓄積に寄与し、その後の戻り、ポリゴン化(полигонизации、polygonization)および再結晶プロセスを決定する。焼鈍温度から15℃/分以上の算術平均速度で冷却すると、破壊することなく準安定ベータ相の維持が可能となり、また、確立された量の一次アルファ相の維持も可能になる。さらに、指定された速度は、二次アルファ相の形成を回避するのに役立ち、その存在により、強化率が大幅に増加し、塑性変形プロセスの後続の段階で高い引き抜き率を得ることが防がれる。
【0028】
中間ストックの引き抜きは室温で1.8~5の範囲の延伸倍率で実施される。引き抜き加工の間、転位密度は、ベータ相、ならびに相間境界およびアルファ相において大幅に増加する。6~17%の量の一次アルファ粒子により、フローラインに沿った転位の最適な分布が可能になり、したがって材料体積内にそれらの均一な分布が生じる。引き抜き率が1.8を超えると、材料中にセル状構造が形成され、安定化され、溶体化処理中に必要とされるベータサブグレインのサイズおよび数が保証される。1.8未満の引き抜き率では、ベータサブグレインに変換されるセルの特定の部分が少ないため、たとえ温度範囲を拡張しても、その後の溶体化処理中のセル状構造の安定性が保証されず、ベータサブグレインサイズの増加につながり、最終熱処理後の機械的特性の値を保証できない。最大引き抜き率は、破断前の材料の極度の損傷しやすさによって特徴付けられ、これは、引き抜きパラメータおよび開始ストックの構造に大きく依存する。引き抜き後、線または棒の形態の材料は、溶体化処理およびその後の人工時効からなる熱硬化に供される。
【0029】
溶体化処理は以下の条件下で実施される:(BTT-50)℃~(BTT-80)℃の温度への材料の加熱、所定の温度で1~8時間の保持、10℃/分以上の算術平均速度でのその後の時効温度以下の温度への冷却。
【0030】
上記指定された条件は、アルファ相およびベータ相の必要なパラメータを得ることを目的とする。この熱処理中に、変態および転位の再分布の結果として、一次アルファ相の体積分率が15~27%まで増加した構造が得られ、その構造中にサイズが15μmを超えないベータサブグレインが存在する。
【0031】
指定された温度範囲を超えて材料を加熱すると、ベータ粒子のサイズが大幅に増加し、アルファ相の体積分率が減少し、最終的に最終状態での材料の延性が低下する。アルファ相の体積分率は、材料を(BTT-80)℃未満の温度に加熱している間に増加するため、時効後に1450MPaを超える強度を得ることが困難になる。溶体化処理温度までの加熱中の最小保持時間が1時間であるのは、その時間でセル状構造がサブグレイン構造に変換するプロセスが十分に進行するためであり、8時間を超える材料の保持はサブグレインサイズを増加させるので、延性が低下する。10℃/分の算術平均冷却速度は、溶体化処理中に準安定ベータ相が破壊されず、一次アルファ相部分が維持され、したがって二次アルファ相の形成が抑制されることを保証する最小速度である。
【0032】
溶体化処理後、400~530℃の温度で8時間以上の材料の人工時効が実施される。
【0033】
400~530℃の温度で材料を人工時効することにより、溶体化処理温度範囲の値を考慮して、引張強度の値を1400MPaの範囲内で変化させることができ、また、溶体化処理と組み合わせて、可塑性が向上し少なくとも11%の材料伸びの値を保証する構造の形成を仕上げることができる。時効温度範囲は、製造されるファスナの強度をあとで決める当該材料の必要な強度を得ることで定められる(得ることを条件とする)。時効温度範囲の選択は、時効中に分解するアルファ相の安定性の程度、およびまた、高い材料強度値の取得をあらかじめ決定する、析出する二次アルファ相の分散によって定められる。少なくとも8時間の時効時間により、ベータ相が完全に分解され、材料が平衡状態になることが保証される。
【0034】
本発明の産業上の利用可能性は、具体的な実施例によって証明される。
【実施例
【0035】
8.05mmの直径を有するワイヤの形態のファスナ用の材料を製造するために、表1に示す化学組成を有するインゴットを溶融した。金属組織学的方法によって測定した合金ベータ変態温度(BTT)は838℃に等しかった。
【0036】
【表1】
【0037】
溶融したインゴットを、ベータおよびアルファ-ベータ相領域の温度で変換させた。ストックを最終変換に供して、圧延およびその後の機械加工のための鍛造ビレットを製造した。機械加工したビレットを圧延して、変形温度がベータ領域で終了する13.3mmの直径を有する圧延中間ストックを製造した。その結果、再結晶化された等軸ベータ粒子構造が得られる。7.9mmの直径を有する中間ストックを真空炉内で802℃(BTT-36)℃の温度で焼鈍し、15℃/分を超えない算術平均速度で室温まで冷却した。表面欠陥およびガス飽和層を除去するために、12.3mmの直径を有するストックを製造するための補助操作を実行した。12.3mmの直径のストックを室温で8.6mmの直径に引き抜き加工した。続いて研磨研削および酸洗いにより表面欠陥およびガス飽和層を除去し、その間にストックの直径は8.05mmまで縮小した。続いてワイヤ材料を以下の条件で熱硬化させた:768℃(BTT-70)°に加熱して4時間保持している間の溶体化処理、少なくとも10℃/分の算術平均速度で室温まで空冷;500℃の温度で8時間保持する人工時効、空冷。熱硬化したままの状態での8.05mmの直径を有するワイヤ材料の機械的試験の結果を表2に示す。倍率4000倍での長手方向の材料微細構造を図1に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
このように、特許請求された高強度ファスナのための材料は、チタン合金中の合金元素の化学組成および濃度の最適化、ならびにまた、特定の微細構造を得ることを保証する変換および熱処理のプロセス条件の最適化によって得られる向上したレベルの加工および性能特性を特徴としている。
図1
【国際調査報告】