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特表2024-518727架橋双性イオン性ポリマーネットワークおよび膜フィルターにおけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-02
(54)【発明の名称】架橋双性イオン性ポリマーネットワークおよび膜フィルターにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20240424BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240424BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240424BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240424BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240424BHJP
   B01D 71/80 20060101ALI20240424BHJP
   B01D 71/74 20060101ALI20240424BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20240424BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20240424BHJP
【FI】
C08G75/045
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/80
B01D71/74
C08F220/34
A23L5/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564469
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 US2022025981
(87)【国際公開番号】W WO2022226329
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】63/178,072
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】アレクシーウ,アイシェ アサテキン
(72)【発明者】
【氏名】モンダル,アビシェーク ナラヤン
(72)【発明者】
【氏名】ラウンダー,サミュエル ジェイ
【テーマコード(参考)】
4B035
4D006
4J030
4J100
【Fターム(参考)】
4B035LC05
4B035LP22
4D006GA06
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB06
4D006MB11
4D006MB19
4D006MB20
4D006MC24
4D006MC28
4D006MC37
4D006MC38
4D006MC39
4D006MC69
4D006MC81
4D006NA04
4D006NA42
4D006PA01
4D006PB24
4D006PB27
4D006PB52
4D006PB55
4D006PB70
4D006PC11
4D006PC41
4D006PC80
4J030BA03
4J030BA04
4J030BA42
4J030BB06
4J030BB07
4J030BC43
4J030BG23
4J100AL08P
4J100AL08R
4J100AL75Q
4J100BA32P
4J100BA51H
4J100BA56P
4J100BA64P
4J100BB18R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA31
4J100FA08
4J100GC07
4J100HA37
4J100HA53
4J100HC70
4J100HE22
4J100JA15
(57)【要約】
複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマー;複数の架橋単位;および複数の架橋を含み、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含み、各疎水性繰り返し単位はアルケンを含み、各架橋は、(i)架橋単位の第1の末端チオール部分と、第1の疎水性繰り返し単位のアルケン、および(ii)架橋単位の第2の末端チオール部分と、第2の疎水性繰り返し単位のアルケンから形成される、架橋コポリマーネットワーク;ならびにそのような架橋コポリマーネットワークを作製する方法を開示する。また、架橋コポリマーネットワークを含む薄膜複合膜;およびそのような薄膜複合膜を使用する方法も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋コポリマーネットワークであって、
複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマー;
複数の架橋単位;および
複数の架橋
を含み、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含み、各疎水性繰り返し単位はアルケンを含み、各架橋は、(i)前記架橋単位の第1の末端チオール部分と、前記第1の疎水性繰り返し単位のアルケン、および(ii)前記架橋単位の第2の末端チオール部分と、前記第2の疎水性繰り返し単位のアルケンから形成される、架橋コポリマーネットワーク。
【請求項2】
前記双性イオン性繰り返し単位の各々は、独立して、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ホスホリルコリン、イミダゾリウムアルキルスルホネート、またはピリジニウムアルキルスルホネートを含む、請求項1に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項3】
前記双性イオン性繰り返し単位の各々は、独立して、スルホベタインアクリレート、スルホベタインアクリルアミド、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、アクリロキシホスホリルコリン、ホスホリルコリンアクリルアミド、ホスホリルコリンメタクリルアミド、カルボキシベタインアクリルアミド、3-(2-ビニルピリジニウム-l-イル)プロパン-1-スルホネート、3-(4-ビニルピリジニウム-l-イル)プロパン-l-スルホネート、またはスルホベタインメタクリレートから形成される、請求項1に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項4】
前記疎水性繰り返し単位の各々は、独立して、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項5】
前記コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))またはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))またはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))である、請求項1~4のいずれか一項に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項6】
複数の第2のタイプの疎水性繰り返し単位をさらに含み、前記第2のタイプの疎水性繰り返し単位は、それぞれ独立して、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項7】
前記第2のタイプの疎水性繰り返し単位は、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートから形成される、請求項6に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項8】
前記コポリマーは、ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-トリフルオロエチルメタクリレート-ランダム-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)である、請求項7に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項9】
前記コポリマーは、約3,000~約10,000,000ダルトンの分子量を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のコポリマーネットワーク。
【請求項10】
前記コポリマーは、約5,000~約500,000ダルトンの分子量を有する、請求項9に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項11】
前記双性イオン性繰り返し単位および前記疎水性繰り返し単位はそれぞれ、コポリマーの20~80重量%を構成する、請求項1~10のいずれか一項に記載のコポリマーネットワーク。
【請求項12】
前記双性イオン性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、前記疎水性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成する、請求項11に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項13】
前記コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート)であり、前記双性イオン性繰り返し単位は、コポリマーの25~75重量%を構成し、前記コポリマーは、約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載のコポリマーネットワーク。
【請求項14】
前記複数の架橋単位は、FG-CL-FGで表され、ここで、FGはリンカー-チオール部分であり、CLは、C~C20二価脂肪族ラジカル、C~C20二価ヘテロ脂肪族ラジカル、二価アリールラジカル、または二価ヘテロアリールラジカルである、請求項1~13のいずれか一項に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項15】
CLは、C~C20二価脂肪族ラジカルまたはC~C20二価ヘテロ脂肪族ラジカルである、請求項14に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項16】
FG-CL-FGは、-S-(CH-S-、または -S-(CH-O-(CH-O-(CH-S-である、請求項14に記載の架橋コポリマーネットワーク。
【請求項17】
多孔質基材と請求項1に記載の架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含む薄膜複合膜であって、前記多孔質基材の平均有効孔径は前記選択層の平均有効孔径よりも大きく、前記選択層は前記多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜。
【請求項18】
前記選択層は、約0.1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項19】
前記選択層は、約0.1nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項20】
前記選択層は、約0.7nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する、請求項17に記載の薄膜複合膜。
【請求項21】
前記選択層は、約10nm~約10μmの厚さを有する、請求項17~20のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項22】
前記選択層は、約100nm~約2μmの厚さを有する、請求項21に記載の薄膜複合膜。
【請求項23】
前記薄膜複合膜は、荷電溶質および塩を阻止する、請求項17~22のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項24】
前記選択層は、95%超の硫酸イオン(SO 2-)阻止率を示す、請求項23に記載の薄膜複合膜。
【請求項25】
前記選択層は、35%未満の塩化物イオン(Cl)阻止率を示す、請求項23または24に記載の薄膜複合膜。
【請求項26】
前記選択層は、50超の硫酸イオン(SO 2-)/塩化物イオン(Cl)分離係数を示す、請求項25に記載の薄膜複合膜。
【請求項27】
前記選択層は、約75の硫酸イオン(SO 2-)/塩化物イオン(Cl)分離係数を示す、請求項26に記載の薄膜複合膜。
【請求項28】
前記選択層は、同じカチオンを有する塩に対して異なるアニオン阻止率を示す、請求項17~27のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項29】
前記選択層は、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaSO、およびNaClOから選択される塩に対して異なる陰イオン阻止率を示す、請求項17~28のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項30】
前記選択層は、異なるアニオン性染料に対して異なる阻止率を示す、請求項17~29のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項31】
前記選択層は、約10のシカゴスカイブルー6B/メチルオレンジ分離係数を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項32】
前記選択層は、約95%超のビタミンB12阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項33】
前記選択層は、約35%超のリボフラビン阻止率を示す、請求項17~23のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項34】
前記選択層は抗ファウリング特性を示す、請求項17~33に記載の薄膜複合膜。
【請求項35】
前記選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す、請求項17~34のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項36】
前記選択層は、ウシ血清アルブミン溶液によるファウリングに対する耐性を示す、請求項17~34のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項37】
前記選択層は塩素漂白剤に曝したときに安定である、請求項17~35のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項38】
前記選択層は、非荷電有機分子間のサイズに基づく選択性を示す、請求項17~37のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項39】
前記選択層は、約1.5nm以上の水和直径を有する中性分子に対して、>95%または>99%の阻止率を示す、請求項38に記載の薄膜複合膜。
【請求項40】
請求項1に記載の架橋コポリマーネットワークを作製する方法であって、
複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマーを提供するステップであって、各疎水性繰り返し単位はアルケンを含む、ステップ;
複数の架橋単位を提供するステップであって、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含む、ステップ;
光開始剤を提供するステップ;
前記コポリマーと、前記複数の架橋単位と、前記光開始剤とを混合し、それによって混合物を形成するステップ;および
前記混合物にUV光を照射し、それによって架橋コポリマーを形成するステップ
を含む方法。
【請求項41】
前記混合物は溶剤をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記溶剤はイソプロパノールとヘキサンの混合物である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記照射は室温で行われる、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記光開始剤は2-フェニルアセトフェノンである、請求項38~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記照射は約10秒~約20分間行われる、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記照射は約30秒間行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記照射は約60秒間行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記照射は約90秒間行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記照射は約120秒間行われる、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
医薬品の製造方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、1つまたは複数の医薬化合物を含む混合物と接触させること;および
サイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数の医薬化合物を分離すること
を含む、方法。
【請求項51】
テキスタイルの染色および加工の方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、1つまたは複数のテキスタイル染料を含む混合物と接触させること;および
サイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数のテキスタイル染料を分離すること
を含む方法。
【請求項52】
緩衝液交換の方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を第1の緩衝溶液と接触させること;および
前記第1の緩衝溶液を第2の緩衝溶液で置き換えること
を含む方法。
【請求項53】
ペプチドの精製方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、1つまたは複数のペプチドを含む混合物と接触させること;および
サイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数のペプチドを分離すること
を含む方法。
【請求項54】
水から二価イオンを除去する方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、二価イオンを含む水性混合物と接触させること;および
サイズ選択ろ過を介して前記水性混合物から二価イオンの一部または全てを除去すること
を含む方法。
【請求項55】
水から有機溶質を除去する方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、有機溶質を含む水溶液と接触させること;および
サイズ選択ろ過を介して有機溶質を分離すること
を含む方法。
【請求項56】
病原微生物を除去する方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、1つまたは複数の病原微生物を含む混合物と接触させること;および
逆浸透を介して1つまたは複数の病原微生物を分離すること
を含む方法。
【請求項57】
サイズ選択的分離の方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、異なるサイズの1つまたは複数の粒子を含む混合物と接触させること;および
サイズ選択ろ過を介して1つまたは複数の粒子を分離すること
を含む方法。
【請求項58】
食品を加工する方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、不純な食品成分と接触させること;および
サイズ選択的ろ過を介して前記不純な食品成分から汚染物質を分離すること
を含む方法。
【請求項59】
プリント方法であって、
請求項17~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を1つまたは複数のインクと接触させること;および
前記1つまたは複数のインクを物品の表面に塗布すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年4月22日に出願された米国仮出願第63/178,072号 に対する優先権の利益を主張する;その内容は参照により組み込まれる。
【政府の支援】
【0002】
本発明は、米国エネルギー省(United States Department of Energy)によって授与された認可番号第DE-FE0031851号および米国国立科学財団(National Science Foundation)によって授与された認可番号第1553661号の下、米国政府の支援によりなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
膜ろ過は、水の精製、再生および再利用の重要かつ有望な方法である。様々な孔径の膜を、単純に病原微生物を除去することから逆浸透(RO)による脱塩まで、幅広い目的のために使用することができる。膜はまた、食品、飲料、乳製品、およびバイオ/医薬品産業などの様々な産業において、効率的で単純なスケーラブルな分離方法として役立つ。
【0004】
改善された選択性またはより良好な精度で溶質を分離する能力を有する膜は、いくつかの他のプロセスの経済的実行可能性およびエネルギー効率の改善をもたらす。例えば、硫酸アニオンと塩化物アニオンとの間の選択性が改善された膜は、より低い印加圧力で作動しながら、海洋油井における掘削流体として使用するための海水および廃水の組成を変化させることができる。極めて小さい孔径を有するが塩阻止率が低い膜は、困難な廃水流、特に食品産業からのものなどの有機物含有量が高い廃水流に対して、非常に改善された流出物品質をもたらすことができる。
【0005】
上述の膜プロセスの全てが、しばしば、膜表面への供給成分の吸着および蓄積による膜性能の劣化として定義されるファウリング(fouling)によって深刻な影響を受ける。膜の透過性が著しく低下し、膜選択性が変化することはよくあることである。ファウリング管理は、膜システムに関連するコストの重要な要素であり、エネルギー使用の増大、ダウンタイム(休止時間)、メインテナンスおよび化学薬品の使用を伴う定期的なクリーニング、ならびにより複雑なプロセスを必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、調整可能なサイズに基づく有機小分子に対する選択性および溶存イオン間の選択性を有する膜を作製するように設計された架橋コポリマーネットワークが提供される。
【0007】
ある態様において、架橋コポリマーネットワーク(crosslinked copolymer network)であって、
複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマー;
複数の架橋単位(crosslinking unit);および
複数の架橋
を含み、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含み;各疎水性繰り返し単位はアルケンを含み;各架橋は、(i)架橋単位の第1の末端チオール部分と、第1の疎水性繰り返し単位のアルケン、および(ii)架橋単位の第2の末端チオール部分と、第2の疎水性繰り返し単位のアルケンから形成される、架橋コポリマーネットワークが開示される。
【0008】
一態様では、多孔質基材と、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含み、多孔質基材の平均有効孔径が選択層の平均有効孔径よりも大きく、選択層が多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜(thin film composite membrane)が開示される。
【0009】
ある態様では、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを作製する方法であって、
複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマーを提供するステップであって、各疎水性繰り返し単位はアルケンを含む、ステップ;
複数の架橋単位を提供するステップであって、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含む、ステップ;
光開始剤を提供するステップ;
コポリマーと、複数の架橋単位と、光開始剤とを混合し、それによって混合物を形成するステップ;
前記混合物にUV光を照射し、それによって架橋コポリマーを形成するステップ
を含む方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】双性イオン性(プラス(+)およびマイナス(-)の荷電基で示される)ドメインおよび架橋性の疎水性(ストライプを有する円)ドメインの共連続ネットワーク(bicontinuous network)を生成するための分子自己組織化の概略図である。水およびより小さい溶質は双性イオン性チャネルを通過できるが、より大きい溶質は保持される。
図1B】架橋性双性イオン性ランダムコポリマー(ZAC)の合成スキーム、ならびにチオール-エンクリックケミストリーによるその架橋反応を示す。
図1C】架橋性双性イオン性ランダムコポリマー(ZAC)の合成スキーム、ならびにチオール-エンクリックケミストリーによるその架橋反応を示す。
図1D】共重合を示す構造-PAM-r-SBMAのNMRスペクトルである
図1E】共重合を示す構造-PAM-r-SBMAのIRスペクトルである。
図1F】関連するUV支援架橋(UV assisted cross-linking)の概略図である。
図2A】コーティングされていないPS-35支持膜のSEM画像を示す。倍率7000倍。
図2B】ランダム双性イオン性支持層と共に未架橋(TCZ-0)膜のSEM画像を示す。倍率7000倍。
図2C】TFEに24時間浸漬した後の架橋(TCZ-40)膜のSEM画像を示す。倍率7000倍。架橋は、未架橋コポリマーを容易に溶解させる溶剤であるTFEに選択的層が溶解するのを防止した。
図3A】共重合を示す構造-P(AM-r-TFEMA-r-MPC)のNMRスペクトルである。
図3B】共重合を示す構造-P(AM-r-TFEMA-r-MPC)のIRスペクトルである。
図4】異なる分子直径のアニオン性染料の阻止率を示す。
図5】異なる分子直径のアニオン性染料の阻止率を示す。
図6】2つの異なる染料(それぞれ0.05mM)であるシカゴスカイブルー(Chicago sky blue)6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm)を混合してダイアフィルトレーション実験の供給液とした際にモニターしたTCZ-40膜のサイズに基づく小分子分離能力を示す。
図7A】TERP-C-0(未架橋)およびTERP-C-14(架橋)膜による様々なサイズのアニオン性染料の阻止率を示す、直径(nm)に対する阻止率(%)のグラフである。両方の膜は、シャープなサイズカットオフを示した。架橋膜は、未架橋膜よりも高い阻止率を示し、架橋がより小さい有効孔径をもたらすことを確認した。
図7B】TERP-C-14の阻止性能を示す、直径(nm)に対する阻止率(%)のグラフである。
図7C】TERP-C-14による、2つの染料、シカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm)の分画を示す吸光度対波長(nm)のグラフであり、参照のために供給液、透過液、および各染料のUVスペクトルを記録した。メチルオレンジのみがTERP-C-14膜を透過し、シカゴスカイブルー6Bは完全に保持された。
図8A】未架橋TCZ-0膜および架橋TCZ膜についての様々な印加圧力での20mM NaCl塩の阻止性能を示す。
図8A】未架橋TCZ-0膜および架橋TCZ膜についての様々な印加圧力での20mM NaSO塩の阻止性能を示す。
図8A】未架橋TCZ-0膜および架橋TCZ膜についての様々な印加圧力での20mM MgSO塩の阻止性能を示す。
図9A】架橋TERP膜についての様々な印加圧力での20mM NaSOの阻止率を示す。
図9B】架橋TERP膜についての様々な印加圧力での20mM NaClの阻止率を示す。
図10A】TCZ-30を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。
図10B】TCZ-40を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。
図10C】市販の膜NP-30を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。
図11A】TCZ-40を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。
図11B】市販の膜NP-30を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。
図12A】市販の膜NP-30についての水中油型エマルジョン溶液でのデッドエンドファウリングデータを示す、時間(時間(hr))に対するJ/Jのグラフである。プロットは、初期純水フラックス(Jo)によって正規化された所与の時点におけるフラックス(または透過流束)(J)の比として定義される正規化フラックスの変化を示す。初期水フラックス(青色)の安定化後、汚染物質溶液のろ過中の正規化フラックスをモニターする(丸)。次いで、膜を水で数回すすぎ、正規化水フラックスを再度測定する(コーン)。
図12B】TERP-C-14についてのデータを示す。TERP-C-14膜は、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にフラックス損失を示さないが、市販の膜は、顕著な(約48%)不可逆的フラックス損失を示す。汚染物質溶液は、1500mg/Lの水中油型(9:1)エマルジョンから構成された。全ての膜について、Jo=2.75Lm-2hr-1
図13A】10mM CaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンによる市販の膜NP-30のファウリングを示す、時間(時間(hr))に対するJ/Jのグラフである。
図13B】10mM CaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンによるTERP-C-14膜のデータを示す。TERP-C-14膜は、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にフラックス損失を示さなかったが、市販のNP-30膜は、顕著な(約27%)不可逆的フラックス損失を示した。Jo=2.75Lm-2 hr-1
図14A】TFEに24時間浸漬した後のコーティングされていないPS-35支持膜のSEM断面画像である。倍率7000倍。
図14B】TFEに24時間浸漬した後のキャストとしての未架橋(TERP-C-0)膜のSEM断面画像である。倍率7000倍。
図14C】TFEに24時間浸漬した後の架橋TERP-C-14膜のSEM断面画像である。架橋が、未架橋コポリマーを容易に溶解させる溶剤であるTFEに選択層が溶解するのを防止したことを示す。倍率7000倍。
図15】膜パーミアンスの減少に対する架橋時間の影響を示す、架橋時間(分)に対するパーミアンスの減少(%)のグラフである。
図16】実施例17~20で使用したポリマー、架橋剤、および光開始剤を示す。
図17】P(AM-r-SBMA)の自己組織化ナノ構造の明視野TEM画像を示す。双性イオン性ドメインはCu2+イオンで陽性染色され、暗く見える。挿入図は、画像の高速フーリエ変換を示す。
図18】ランダム双性イオン性コポリマーP(AM-r-SBMA)の未架橋(TCZ-0)および架橋(TCZ-40)フィルムのATR-FTIRスペクトルを示す。
図19A】TCZ-0およびTCZ-40膜のXPSスペクトルを示す。サーベイスキャン(Survey Scan)を示す。
図19B】TCZ-0およびTCZ-40膜のXPSスペクトルを示す。S2p領域の高分解能スペクトルを示す。
図20】膜パーミアンスの減少に対する架橋時間の影響を示す。
図21A】PBS中の1g/LのBSAによるTCZ-30膜のファウリングを示し、これは、汚染物質のろ過中(丸)および水ですすいだ後(三角および正方形)の正規化水フラックスの変化によって実証される。TCZ-30およびTCZ-40膜の両方とも無視できる程度である。
図21B】PBS中の1g/LのBSAによるTCZ-40膜のファウリングを示し、これは、汚染物質のろ過中(丸)および水ですすいだ後(三角および正方形)の正規化水フラックスの変化によって実証される。TCZ-30およびTCZ-40膜の両方とも無視できる程度である。
図22】酸/塩基処理前後の膜TCZ-20の純水パーミアンスの比較を示す。膜を0.5MのNaOHおよびHClにそれぞれ浸漬し、その後、純水パーミアンスを記録して、データを未処理TCZ-20と比較した。
図23】タンパク質染色された市販のNP-30およびTCZ-40膜の画像を示す。NP-30は、我々のTCZ-40膜よりも多くのタンパク質吸着を示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
有効孔径を調整し、化学的、熱的および機械的安定性を改善し、ならびに追加の官能基を組み込むために、チオール-エンクリックケミストリーを使用する、特に膜選択層の形態での双性イオン含有両親媒性コポリマーの化学修飾が開示される。
【0012】
クリック架橋反応の一実施形態は、チオール(R-SH)+アルケン(CH=CH-)->R-S-CH-CH-によって表され得る。この表現では、いったん形成されると、架橋はチオール基もアルケンも含まない;これがそれらの反応生成物である。言い換えれば、ジチオール含有化合物は、その構成チオールと少なくとも2つの疎水性繰り返し単位のアルケンとの反応により、架橋コポリマーネットワークの一部である架橋を形成する架橋試薬と考えることができる。
【0013】
本発明は、以下の少なくとも2つのタイプの繰り返し単位を含む特別に設計されたランダム双性イオン性コポリマー(rZAC)を利用する:
- 双性イオン性繰り返し単位(すなわち、等しい数の正および負の電荷基を保持する部分)
- アルケン基を含有する疎水性繰り返し単位(例えば、アリルメタクリレート)。
【0014】
材料は、架橋性でない追加の疎水性繰り返し単位を含むこともできる。疎水性繰り返し単位(または疎水性モノマー)と双性イオン性繰り返し単位(または親水性双性イオン性モノマー)との多彩な組み合わせによって調製されるrZACは、ミクロ相分離して、広い組成物範囲にわたって疎水性ドメインおよび双性イオン性ドメインの古典的な共連続ネットワーク(bicontinuous network)を形成する。親水性双性イオンナノドメインは、コポリマーの疎水性ドメインによって結合された、水および侵入するのに十分に小さい溶質の透過のための双性イオンナノチャネルから構成されるネットワークとして形成される(図1A)。
【0015】
これらのコポリマーは、原子移動ラジカル重合(ATRP)またはラジカル付加開裂連鎖移動(radical addition fragmentation chain transfer)(RAFT)重合などのポリマー化学の分野で公知の方法によって合成される。本発明は、このrZACを薄膜複合(TFC)膜または薄膜に形成することを含む。薄膜は、rZACを所望の形状(例えば、多孔質支持体を覆うrZAC膜を含む、フリースタンディング薄膜またはTFC膜)に形成し;rZACを複数の架橋単位ならびに光開始剤に曝し(各架橋単位は、少なくとも2つの末端チオール部分、例えば、チオールまたはジチオールを含む);フィルムにUV光を照射し、それによってチオール基とコポリマーの疎水性繰り返し単位のアルケン基との間の反応がもたらされることによって、調製される(図1B)。チオール-エンクリック反応と呼ばれるこの反応は、所望の官能基をrZACに付けるために使用することができる。好ましい一実施形態では、ジチオールが使用され、反応はコポリマーの架橋をもたらす。チオール-エン「クリック」化学は、非常に高い反応速度、高い転化率および選択的収率を特徴とする。これらの特徴により、高い収率と共に短い滞留時間が要求されるロールツーロールシステム(roll-to-roll system)における膜の後官能化のための良好な選択肢とされる。この反応の反応メカニズムは、膜の製造速度に合わせた時間スケールで、高い信頼性で広範囲の官能性の組み込みを許容する。報告されたチオール-エンクリック反応の時間スケールは、ロールツーロール製造およびスケールアップの主要なボトルネックを構成する。細孔直径を正確に調整するために数秒で自己組織化膜の効果的な架橋を達成するための迅速なチオール-エンクリック反応の使用が開示される。
【0016】
複合ろ過膜の選択層としてのrZACの使用も開示される。一実施形態において、rZACは、膜産業においてよく理解されている方法(例えば、ドクターブレードコーティング、スプレーコーティング)によって多孔質支持体上にコーティングされる。堆積の際、双性イオン性基は自己組織化してミクロ相分離ドメインまたは双性イオン性クラスターを生成すると予想される。次いで、少なくとも2つのチオール基(例えば、ジチオール、テトラチオール)を有する架橋試薬を用いるクリック反応を使用してrZAC層を架橋し、その架橋をもたらす。この架橋は、改善された熱的および化学的安定性をもたらす。重要かつ珍しく、架橋は、膜の有効孔径の変化をもたらし、約1nm程度に小さくし、小分子間および塩イオン間の選択性を可能にする。この反応の重要かつ予想外の特徴は、高い架橋度および膜選択性の大きな変化が、わずか約5~40秒のUV曝露で達成され得ることである。このような短い時間スケールは、本技術のスケーラビリティにとって重要であり、膜のための他のクリックベースの修飾方法に関して報告された時間スケールよりも著しく短い。最後に、得られた膜はファウリングに対して極めて耐性であり、水の脱塩および軟化、水からの金属イオンおよび有機汚染物質の除去、水に溶解した有機分子の分離、困難な廃水流の処理を含む廃水処理などの、多くの分野における有用性を高める。
【0017】
一態様では、複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマー;複数の架橋単位;および複数の架橋;を含み、各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含み;各疎水性繰り返し単位はアルケンを含み;各架橋は、(i)架橋単位の第1の末端チオール部分と、第1の疎水性繰り返し単位のアルケン、および(ii)架橋単位の第2の末端チオール部分と、第2の疎水性繰り返し単位のアルケンから形成される、架橋コポリマーネットワークが開示される。換言すれば、形成された架橋コポリマーネットワークにおいて、各架橋単位は、第1の末端チオエーテル部分および第2の末端チオエーテル部分を含み;各架橋は、(i)第1の疎水性繰り返し単位のアルケンと反応した架橋試薬の第1の末端チオール部分、および(i)第2の疎水性繰り返し単位のアルケンと反応した架橋試薬の第2の末端チオール部分から形成される。
【0018】
特定の実施形態において、双性イオン性繰り返し単位の各々は、独立して、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ホスホリルコリン、イミダゾリウムアルキルスルホネート、またはピリジニウムアルキルスルホネートを含む。特定の実施形態において、双性イオン性繰り返し単位の各々は、独立して、スルホベタインアクリレート、スルホベタインアクリルアミド、カルボキシベタインアクリレート、カルボキシベタインメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、アクリロキシホスホリルコリン(acryloxy phosphorylcholine)、ホスホリルコリンアクリルアミド、ホスホリルコリンメタクリルアミド、カルボキシベタインアクリルアミド、3-(2-ビニルピリジニウム-l-イル)プロパン-1-スルホネート、3-(4-ビニルピリジニウム-l-イル)プロパン-l-スルホネート、またはスルホベタインメタクリレートから形成される。
【0019】
特定の実施形態では、疎水性繰り返し単位の各々は、独立して、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される。
【0020】
特定の実施形態において、コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))、またはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン))である。
【0021】
特定の実施形態において、架橋コポリマーネットワークは、複数の第2のタイプの疎水性繰り返し単位をさらに含み、第2のタイプの疎水性繰り返し単位は、それぞれ独立して、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アルキルアクリルアミド、アクリロニトリル、アリールアクリレート、アリールメタクリレート、およびアリールアクリルアミドから形成される。特定の実施形態では、第2のタイプの疎水性繰り返し単位は、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートから形成される。
【0022】
特定の実施形態では、複数の疎水性繰り返し単位は、炭素-炭素二重結合(アルケン)を含む。特定の実施形態では、架橋性部分は、アリル(CH-CH=CH)、ビニル(-CH=CHもしくは-CH=CH-)、ビニルエーテル(-O-CH=CH)、またはビニルエステル(-CO-O-CH=CH)を含む。
【0023】
特定の実施形態において、コポリマーは、ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-トリフルオロエチルメタクリレート-ランダム-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)である。特定の実施形態では、コポリマーは、約3,000~約10,000,000ダルトン、約5,000~約9,000,000ダルトン、約10,000~約8,000,000ダルトン、約20,000~約7,000,000ダルトン、または約10,000~約10,000,000ダルトンの分子量を有する。例えば、約20,000~約9,000,000ダルトン、約30,000~約8,000,000ダルトン、約40,000~約7,000,000ダルトン、約50,000~約6,000,000ダルトン、約60,000~約5,000,000ダルトン、約70,000~約4,000,000ダルトン、約80,000~約3,000,000ダルトン、約90,000~約2,000,000ダルトン、約100,000~約1,000,000ダルトン、約20,000~約900,000ダルトン、約20,000~約800,000ダルトン、約20,000~約700,000ダルトン、約20,000~約600,000ダルトン、約20,000~約500,000ダルトン、約20,000~約400,000ダルトン、約20,000~約300,000ダルトン、約20,000~約200,000ダルトン、または約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する。特定の実施形態では、コポリマーは、約20,000~約500,000ダルトンの分子量を有する。
【0024】
特定の実施形態では、双性イオン性繰り返し単位および疎水性繰り返し単位は各々、コポリマーの20~80重量%を構成する。特定の実施形態では、双性イオン性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、疎水性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成する。
【0025】
特定の実施形態において、コポリマーはポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))であり、双性イオン性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、コポリマーは約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する。
【0026】
特定の実施形態において、コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-(スルホベタインメタクリレート))であり、双性イオン性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、コポリマーは約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する。
【0027】
特定の実施形態において、コポリマーは、ポリ((アリルメタクリレート)-ランダム-(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-(メタクリロキシホスホリルコリン))であり、双性イオン性繰り返し単位はコポリマーの25~75重量%を構成し、コポリマーは約20,000~約100,000ダルトンの分子量を有する。
【0028】
ある特定の実施形態では、複数の架橋単位は、FG-CL-FGによって表され、FGは、リンカー-チオール部分であり、CLは、C~C20二価脂肪族ラジカル、C~C20二価ヘテロ脂肪族ラジカル、二価アリールラジカル、または二価ヘテロアリールラジカルである。特定の実施形態では、CLは、C~C20二価脂肪族ラジカルまたはC~C20二価ヘテロ脂肪族ラジカルである。特定の実施形態において、FG-CL-FGは、-S-(CH-S-、または-S-(CH-O-(CH-O-(CH-S-である。
【0029】
さらに別の態様では、多孔質基材と、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを含む選択層とを含む薄膜複合膜であって、多孔質基材の平均有効孔径が選択層の平均有効孔径よりも大きく;選択層は、多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜が開示される。
【0030】
ある実施形態では、選択層は、約0.1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する。例えば、選択層は、約0.1nm~約1.8nm、約0.1nm~約1.6nm、約0.1nm~約1.4nm、約0.1nm~約1.2nm、約0.1nm~約1.0nm、約0.1nm~約0.8、約0.1nm~約0.6nm、約0.1nm~約0.4nm、約0.1nm~約0.2nm、約0.3nm~約2.0nm、約0.5nm~約2.0nm、約0.7nm~約2.0nm、約0.7nm~約1.2nm、約0.9nm~約2.0nm、または約1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する。ある実施形態では、選択層は、約0.1nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する。ある実施形態では、選択層は、約0.7nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する。
【0031】
ある実施形態では、選択層は、約10nm~約10μmの厚さを有する。例えば、約20nm~約9μm、約30nm~約8μm、約40nm~約7μm、約50nm~約6μm、約60nm~約5μm、約70nm~約4μm、約80nm~約3μm、約90nm~約2μm、または約100nm~約1μmの厚さを有する。ある実施形態では、選択層は、約100nm~約2μmの厚さを有する。
【0032】
ある実施形態では、薄膜複合膜は、荷電溶質および塩を阻止する。ある実施形態では、選択層は、95%超の硫酸イオン(SO 2-)の阻止率を示す。ある実施形態では、選択層は、35%未満の塩化物イオン(Cl)の阻止率を示す。特定の実施形態において、選択層は、50超の硫酸イオン(SO 2-)/塩化物イオン(C1)分離係数を示す。特定の実施形態において、選択層は、約75の硫酸イオン(SO 2-)/塩化物イオン(C1)分離係数を示す。
【0033】
特定の実施形態では、選択層は、同じカチオンを有する塩に対して異なるアニオン阻止率を示す。ある実施形態では、選択層は、NaF、NaCl、NaBr、NaI、NaSO、およびNaClOから選択される塩に対して異なるアニオン阻止率を示し、ある実施形態では、選択層は、異なるアニオン染料に対して異なる阻止率を示す。
【0034】
特定の実施形態において、選択層は、約10のシカゴスカイブルー6B/メチルオレンジ分離係数を示す。
【0035】
ある実施形態では、選択層は、約95%超のビタミンB12の阻止率を示す。特定の実施形態では、選択層は、約35%超のリボフラビンの阻止率を示す。
【0036】
特定の実施形態では、選択層は抗ファウリング特性(防汚性)を示す。特定の実施形態では、選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す。特定の実施形態において、選択層は、ウシ血清アルブミン溶液によるファウリングに対する耐性を示す。ある実施形態では、選択層は、塩素漂白剤に曝したときに安定である。特定の実施形態では、選択層は、非荷電有機分子間のサイズに基づく選択性を示す。ある実施形態では、選択層は、約1.5nm以上の水和直径(hydrated diameter)を有する中性分子に対して>95%または>99%の阻止率を示す。
【0037】
さらに別の態様では、本明細書に開示される架橋コポリマーネットワークを作製する方法が開示され、その方法は、複数の双性イオン性繰り返し単位と複数の第1のタイプの疎水性繰り返し単位とを含むコポリマーを提供すること(各疎水性繰り返し単位はアルケンを含む)、および複数の架橋単位を提供すること(各架橋単位は、第1の末端チオール部分および第2の末端チオール部分を含む);光開始剤を提供すること、およびコポリマー、複数の架橋単位、および光開始剤を混合し、それによって混合物を形成すること;およびこの混合物にUV光を照射し、それによって架橋コポリマーを形成すること;を含む。
【0038】
特定の実施形態では、混合物は溶剤をさらに含む。特定の実施形態において、溶剤はイソプロパノールとヘキサンの混合物である。特定の実施形態において、照射は室温で実施される。特定の実施形態において、光開始剤は2-フェニルアセトフェノンである。
【0039】
特定の実施形態において、照射は約10秒~約20分間実施される。特定の実施形態において、照射は約30秒間実施される。特定の実施形態において、照射は約60秒間実施される。特定の実施形態において、照射は約90秒間実施される。特定の実施形態において、照射は約120秒間実施される。
【0040】
さらに別の態様では、医薬品製造の方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、1つまたは複数の医薬化合物を含む混合物と接触させること;およびサイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数の医薬化合物を分離することを含む方法が開示される。
【0041】
さらに別の態様では、テキスタイルの染色および加工の方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、1つまたは複数のテキスタイル染料を含む混合物と接触させること;およびサイズ選択ろ過を介して1つまたは複数のテキスタイル染料を分離することを含む方法が開示される。
【0042】
さらに別の態様では、緩衝液交換の方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を第1の緩衝溶液と接触させること;および第1の緩衝溶液を第2の緩衝溶液で置き換えることを含む方法が開示される。
【0043】
さらに別の態様では、ペプチドの精製方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、1つまたは複数のペプチドを含む混合物と接触させること;およびサイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数のペプチドを分離することを含む方法が開示される。
【0044】
さらに別の態様では、水から二価イオンを除去する方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、二価イオンを含む水性混合物と接触させること;およびサイズ選択的ろ過を介して水性混合物から二価イオンの一部または全てを除去することを含む方法が開示される。
【0045】
さらに別の態様では、水から有機溶質を除去する方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、有機溶質を含む水溶液と接触させること;およびサイズ選択ろ過により有機溶質を分離することを含む方法が開示される。
【0046】
さらに別の態様では、病原微生物(disease-causing microorganism)を除去する方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、1つまたは複数の病原微生物を含む混合物と接触させること;および逆浸透を介して1つまたは複数の病原微生物を分離することを含む方法が開示される。
【0047】
さらに別の態様では、サイズ選択的分離の方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を、異なるサイズの1つまたは複数の粒子を含む混合物と接触させること;およびサイズ選択的ろ過を介して1つまたは複数の粒子を分離することを含む方法が開示される。
【0048】
さらに別の態様では、食品を加工する方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を不純な食品成分(impure food ingredient)と接触させること;およびサイズ選択的ろ過を介して不純な食品成分から汚染物質を分離することを含む方法が開示される。
【0049】
さらに別の態様では、プリント方法であって、本明細書に開示される薄膜複合膜を1つまたは複数のインクと接触させること;および1つまたは複数のインクを物品の表面に塗布(apply)することを含む方法が開示される。
【実施例
【0050】
本明細書に記載される本発明がより完全に理解され得るように、以下の実施例が記載される。本出願に記載される実施例は、本明細書に提供される化合物、組成物、材料、デバイス、および方法を例示するために提供され、その範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0051】
材料
材料スルホベタインメタクリレート(SBMA、95%)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、97%)、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA、99%)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA、99%)、1,6-ヘキサンジチオール(≧97%、FG)、α-α-ブロモイソ酪酸エチル(EBIB、98%)、CuBr(99%)、硫酸ナトリウム、アシッドブルー45(Acid blue 45)、ブリリアントブルーR、シカゴスカイブルー6B、ダイレクトレッド80(Direct red 80)、メチルオレンジ、エチルオレンジおよび活性化酸化アルミニウム(塩基性、Brockmann I、標準グレード)は、Sigma-Aldrichから購入した。アリルメタクリレート(またはメタクリル酸アリル)(AMA、≧98.0%)、メタノール(>99.8%)、アセトニトリル(≧99.5%)、イソプロピルアルコール(IPA、99.5%)、トリフルオロエタノール(TFE、≧99.0%)、塩化ナトリウム(ACS認定)、エタノールおよびリボフラビン(98%)は、Fisher scientificから購入した。ビタミンB12はMP Biomedicalsから購入した。d4-メタノール(99.5%)およびd6-DMSO(99.5%)はCambridge Isotope Laboratories Incから購入した。アスコルビン酸はGBiosciencesから購入した。市販のナノろ過膜NP-30(パーミアンス:1.75LMH/b)はSterlitechから入手した。限外ろ過支持膜であるUE-50は、Solecta membranesから得た。
【0052】
実施例1.ポリ(アリルメタクリレート)-ランダム-ポリ(スルホベタインメタクリレート)P(AM-r-SBMA)の合成
この実施例では、本発明の特定の膜の調製に使用される、ポリ(アリルメタクリレート)(AM)主鎖(backbone)および双性イオン性側基(side group)を有するランダムコポリマーを以下のように合成した。まず、2000mLの三つ口丸底フラスコ中において、60gのAMおよび40gのSBMAを、750mLの1:1のアセトニトリル:メタノールの存在下で混合した。その後、1.55mmolのα-ブロモイソ酪酸エチルを混合物に添加し、窒素環境下で激しく撹拌した。ATRP反応は、CuBr(0.0614mmol)、アスコルビン酸(0.619mmol)およびN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(0.619mmol)を含有する1:1のアセトニトリル:メタノール溶液(50mL)を、モノマーとα-ブロモイソ酪酸エチルの予め撹拌した溶液にカニューレで移したときに開始された。モノマー混合物への触媒溶液の添加後、反応物の色は薄青色に変化した。反応は室温で20時間行った。その後、反応を停止させ、ロータリーエバポレーターを使用してポリマー溶液を濃縮した。最後に、残ったポリマー混合物を5:3(v/v)のヘキサン:エタノールの混合物に沈殿させた。得られたポリマーを1:1のアセトニトリル:メタノールに再溶解させ、さらにヘキサン:エタノール混合物に再沈殿させ、これを3回連続して行った、最後に、得られたポリマーを周囲温度で真空下において3日間乾燥させた。得られたコポリマーを、H NMR(図1D)およびIR分光法(図1E)によって特徴付けた。
【0053】
実施例2.P(AM-r-SBMA)からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例1に記載のポリマーを用いて膜を作製した。P(AM-r-SBMA)コポリマーをまず室温でTFE(5重量%)に溶解し、1μmおよび0.45μmフィルターの両方に連続的に通過させた。得られた最終ポリマー溶液を、密封バイアル中で終夜脱気した後、選択層をコーティングした。その後、市販の限外ろ過支持膜(Solecta製のPS35)をガラスプレートの上部にテープで貼った。最後に、コポリマー溶液を用い、ワイヤー巻き計量ロッド(wire-wound metering rod (Gardco))(Gardco)を使用して、選択層を支持膜の上部にコーティングした。コーティング直後に、ガラスプレートを180°回転させ、予熱したオーブン(65℃)に12分間入れた。その後、乾燥TFC膜を直ちにDI水に一晩浸漬した。
【0054】
実施例3.チオール-エン架橋薄膜複合膜の合成
この実施例では、ランダムコポリマーPAM-r-SBMAの選択層を有する実施例2の膜を以下のように架橋した。未処理の膜(pristine membrane)(TCZ-0)の架橋は、UV支援チオール-エンクリックケミストリーによって行った。P(AM-r-SBMA)コポリマーでコーティングしたTCZ-0膜を、まず、それぞれ1重量%の1,6-ヘキサンジチオールおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを含有するイソプロパノール(20mL)の溶液に10分間浸漬した。浸漬は、疎水性ドメインを光開始剤およびチオールで飽和させるために行った。次いで、大部分の溶液(90%)をガラス容器から取り出し、残りの溶液を有する膜を、10秒~40秒の範囲の異なる時間スケールで即時UV硬化(365nm、9W/バルブ、4つのバルブ)させた。UV硬化後、膜をガラス容器から取り出し、イソプロパノールおよびDI水で大規模に洗浄した。最後に、洗浄した膜を、任意の実験の前に脱イオン水中に保持した。
【0055】
膜の形態は、膜の凍結割断断面(freeze-fractured cross-section)のSEMイメージングによって決定した。
【0056】
図2A~2Cには、膜の3つの異なる試料のSEM画像が示されている。コーティング層は、図2Bおよび2Cについて観察することができる。図2AはコーティングされていないPS-35支持膜を表し、図2Bはランダム双性イオン性支持層と共に未架橋(TCZ-0)膜を表し、図2Cは架橋(TCZ-40)膜を表す。TCZ-40膜は、TFE中に24時間保持した後にSEMを撮影した。TFE溶剤に浸漬した後でさえもTCZ-40膜上に選択層が存在することは、膜が首尾よく架橋されたことを意味する。(図2A~2C)7000×倍率。
【0057】
実施例4.ポリ(アリルメタクリレート-ランダム-ポリ(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)[P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)ターポリマー]の合成
まず、アリルメタクリレート(AMA)およびトリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)モノマーを、塩基性アルミナカラムを通して精製し、さらなる使用のために窒素下で維持した。11.81gの2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を1000mLの三口丸底フラスコ中の260mLのメタノールに溶解した。次に、11gのAMAおよび11.1gのTFEMAを添加し、完全に混合した。混合物から溶存酸素を除去するために、溶液を窒素で連続してパージした。α-ブロモイソ酪酸エチル(0.48mmol)開始剤を反応混合物に添加し、窒素環境下で激しく攪拌した。CuBr、アスコルビン酸およびN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミンを窒素パージ下でメタノールに溶解することにより、触媒溶液を別個の容器で調製した。モノマー:開始剤:触媒:配位子:還元剤の間のモル比は、402:1:0.0391:0.396:0.398を選択した。この触媒溶液を、カニューレを用いてモノマーおよびα-ブロモイソ酪酸エチルの予め撹拌した溶液に移すと、反応が開始された。反応混合物は、モノマーと開始剤の混合物への触媒溶液の添加後に淡青色に変化した。反応を室温で20時間行い、その後、反応混合物を空気に曝すことによって反応を停止させた。ロータリーエバポレーターを使用してポリマー溶液を濃縮した。次いで、3:2(v/v)のイソプロパノール:ヘキサンの混合物中でポリマーを沈殿させた。得られたポリマーをメタノールに再溶解し、イソプロパノール:ヘキサンの混合物中で再沈殿させ、これを3回連続して行った。最後に、得られたポリマーを周囲温度で真空下において3日間乾燥させた。得られたコポリマーを、H NMR(図3A)およびIR(図3B)分光法によって特徴付けた。
【0058】
実施例5.P(AM-r-TFEMA-r-MPC)からの薄膜複合膜の形成
まず、実施例4からのP(AMA-r-TFEMA-r-MPC)ターポリマーを室温でメタノールに溶解し(4重量%)、1.2μmのTitan 3、HPLCフィルター、GMF膜および0.45μmのPTFE(ThermoScientific)に連続的に通した。選択層をコーティングする前に、得られたポリマー溶液を密封バイアル中で終夜脱気した。清浄なガラスプレートの上に、市販の限外ろ過支持膜(SterlitechのUE50)をテープで貼った。その後、脱気したポリマー溶液を、ワイヤー巻き計量ロッド(Gardco、#8、湿潤膜厚20μm)を用いて支持膜上に注意深くコーティングした。コーティングが完了すると、ガラスプレートを予熱したオーブン(80℃)に4分間入れた。その後、乾燥TFC膜を直ちにDI水に一晩浸漬した。
【0059】
実施例6.チオール-エン架橋薄膜複合膜の合成
UV支援チオール-エンクリックケミストリーを用いて、実施例5に記載の膜の架橋を行った。P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)ターポリマーで均一にコーティングされた実施例5からの膜を、まず、それぞれ2重量%の1,6-ヘキサンジチオールおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを含有する1:1のイソプロパノール:ヘキサンの溶液(20mL)に20分間浸漬した。浸漬は、疎水性ドメインを光開始剤およびチオールで飽和させるために行った。次いで、大部分の溶液(約90%)をガラス容器から取り出し、残りの溶液を有する膜を、300秒~14分の範囲の異なる時間スケールで即時UV硬化(365nm、9W/バルブ、および4つのバルブ)させた。UV硬化後、膜をガラス容器から取り出し、イソプロパノール:ヘキサン混合物、続いてDI水で大規模に洗浄した。最後に、洗浄した膜を、任意の実験の前に脱イオン水中に保持した。
【0060】
膜の特徴付け
減衰全反射フーリエ変換赤外(ATR-FTIR)分光法、走査型電子顕微鏡法(SEM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、およびX線光電子分光法(XPS)を使用して、膜を特徴付けした。5kVで動作するPhenom G2 Pure Tabletop Scanning Electron Microscope(SEM)を使用して、膜の形態を特徴付けた。液体窒素を使用して、断面画像用の試料を凍結割断した。イメージングの前に、試料を金-パラジウムでスパッタコーティングした。
【0061】
コポリマーの自己組織化ナノ構造
透過型電子顕微鏡法(TEM)を使用して、ランダムコポリマーの自己組織化ナノ構造の形態を特徴付けした。TEM画像は、80keVで操作される明視野モードでのFEI Technai Spiritによって得られた。8%(w/v)コポリマー溶液をトリフルオロエタノール(TFE)溶液中で作製した。テフロン(登録商標)皿で蒸発させることによって、この溶液からフィルムをキャストした。2%塩化銅(II)(CuCl)水溶液を、双性イオン性ドメインの陽性染色のために4時間使用した。CuClを選択する理由は、スルホベタインと銅の間の安定な錯体の形成であった。染色された膜を、Embed 812エポキシ樹脂中に2晩、頻繁なエポキシ置換で包埋し、ウルトラミクロトームを用いて切削した50nmの超薄切片を銅グリッド(200メッシュ、Electron Microscopy Sciences)上に置いた。Harvard CNSセンターのNicki Watsonが、TEM画像の取得を担当した。高速フーリエ変換分析は、ImageJソフトウェアを用いてTEM画像で行った。
【0062】
コポリマーの分子量
動的光散乱(DLS)を、Brookhaven Instruments Nanobrook ZetaPALS機器を使用して実施して、合成されたコポリマーのおおよその分子量を推定した。光源は、公称波長659nmの35mW赤色ダイオードレーザであった。まず、コポリマーを1mg/mlの濃度でTFEに溶解した。DLS測定は、90°の散乱角および25℃の温度で行い、これをサーモスタットによって制御した。0.45mmのフィルターを使用して、光散乱実験の前に塵埃を除去した。試料溶液が安定化した時点で測定を行った。ジメチルホルムアミド(DMF)中のポリアクリロニトリル標準を、機器ソフトウェア(BIC Particle Solutions v.2.5)による有効流体力学的半径および相対分子量の計算に使用した。
【0063】
異なる膜のXPS
異なる膜の表面元素組成を評価するために、X線光電子分光法(XPS)を、単色A1Kα源を使用する分光計で行った。サーベイスペクトルでは、10eV~1350eVの結合エネルギーを200eVで通過させ、1eVステップで5回のスキャンの平均をとることによってスキャンを完了した。高分解能スペクトルでは、S2p、N 1s、O 1s、およびC 1s光電子線について50eVの通過エネルギーで0.1eVステップで平均10回のスキャンを行うことによってデータを収集した。
【0064】
コポリマーおよび膜のFTIR特性評価
ランダム双性イオン性コポリマーおよび対応する膜のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを、2cm-1の分解能および400~4000cm-1の広いスペクトル範囲を有するFTIR分光計による減衰全反射(ATR)技術を用いて記録した。
【0065】
コポリマーのNMRによる解析
合成したランダム双性イオン性コポリマーを、溶剤としてd-DMSO(内部参照としてテトラメチルシランを含む)を使用して、AV III 500 NMR分光計(500MHz;Bruker、USA)によるH NMR分光法によって特徴付けた。
【0066】
パーミアンス測定および単一溶質ろ過
膜ろ過実験は、1ガロン(gal)容量のリザーバに取り付けられた、4.1cmの有効ろ過面積を有する10mlのAmicon 8010攪拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)において直径25mmの膜を使用して実施した。透過液の質量を、コンピューターに接続された電子天秤(Scout Pro)を用いてモニターした。43.5psi(3バール)の膜間差圧(transmembrane pressure)を全てのろ過実験に利用した。ろ過中、濃度分極を最小限に抑えるために、撹拌プレートを用いてAmiconセルを連続的に撹拌した。最初に、フラックスが安定するまで、膜を通して脱イオン水をろ過した。その後、透過液質量を30秒間隔で所望の時間記録し、これを使用して膜透過フラックス(transmembrane flux)を決定した。フラックスは、膜面積によって正規化された膜を通る流速として定義される。パーミアンスは、印加された膜間圧力差を考慮するためにフラックスを正規化する膜特性であり、以下の式によって得られる:
【数1】
式中、Lは膜パーミアンス(Lm-2-1bar-1)であり、Jは膜を横切る水のフラックス(Lm-2-1)であり、ΔPは膜間差圧(バール(bar))であり、mは質量流量として知られ、pは透過液密度(1.0g/mLと仮定)であり、Aは膜面積である。
【0067】
異なる染料および塩の阻止率を決定するために、10mLの供給溶液を使用し、次いで2mL超をろ過し、最後にさらなる分析のために透過液(permeate)を収集した。染料濃度の測定のために、UV-vis分光計(Genesys 10)を使用した。塩濃度の測定には、導電率計(高範囲、VWR)を用いた。まずストック供給溶液を用いて検量線を作成することによって、塩濃度と伝導率との関係を決定した。阻止率は、以下の式によって計算した:
【数2】
ここで、C透過液は透過液の濃度であり、C供給液は供給液の濃度である。
【0068】
ファウリング実験
ファウリング実験は、パーミアンスと同じ装置を用いて行ったが、膜表面で同様の流体力学的条件を達成するために、全ての膜が2.75 L/m.h.barの初期水フラックスを有するように膜間差圧を調節した。3つの汚染物質溶液:(1)1500mg/Lの水中油型エマルジョン(9:1の比の大豆油:DC193界面活性剤)、(2)PBS緩衝液(pH7.4)中の1g/Lのウシ血清アルブミン、および(3)10mMのCaCl中の1g/Lのウシ血清アルブミン:を用いて実験を行った。各ファウリング実験において、まず、膜を通して脱イオン(DI)水を6時間ろ過し、純水フラックス(J)を測定した。次いで、セルおよびリザーバを汚染物質溶液で満たした。所望の時間、汚染物質溶液をろ過した後、経時的に得られたフラックス(J)を計算した。セルおよびリザーバを洗浄のためにDI水で数回すすぎ、DI水で再度満たし、ファウリングの可逆性(最終パーミアンス)を決定した。
【0069】
酸および塩基安定性試験
まず、TCZ-20膜を0.5MのNaOHに24時間注意深く浸漬した。その後、微量の塩基が膜表面から除去され得るように、膜をDI水で注意深く洗浄した。最後に、塩基処理後、純水パーミアンスおよびB12阻止率を試験し、塩基処理前のデータと比較した。塩基処理後に有意な変化が見られないことが観察され、これは、調製した膜の塩基安定性に関する適切なアイデアを提供する。また、酸安定性については、同じプロトコルに従ったが、唯一の例外は、0.5MのNaOHを使用する代わりに0.5MのHCl溶液を使用したことである。この場合も、酸安定性試験後の純水パーミアンスまたはB12阻止率に有意な変化は見られない。
【0070】
膜の試験
P(AM-r-SBMA)コポリマーを用いた膜について:膜ろ過実験は、1ガロン(gal)リザーバに取り付けた10mLのAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)を用いて4.1cm膜ディスク上で行った。透過液の重量を、コンピューターに接続された電子天秤(Ohaus Scout Pro)によってモニターした。膜パーミアンス(L)は、L=J/ΔP(式中、Jは透過液の体積フラックスであり、ΔPは適用された膜間差圧である)によって決定した。阻止率測定(塩および染料の両方)のために、10mLの供給溶液を入れて、ろ過し、約2mLの透過液を捨て、その後、分析のためにさらなる透過液画分を収集した。これは、信頼性のある安定した阻止率値をもたらすことが見出された。阻止率(R)は、R=(1-CP/CF)100%によって決定され、式中、CFおよびCPはそれぞれ、供給液濃度および透過液濃度である。ファウリング研究のために、本発明者らは最初に初期フラックスを決定し、膜を18~20時間ファウリングし、最後に最終フラックスを測定する前に膜を水で穏やかにすすいだ。
【0071】
P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)ターポリマーを用いた膜について:膜ろ過実験は、上記のプロトコルを使用して、デッドエンド撹拌式セルろ過を使用して実施した。塩および染料の両方の阻止率を推定するために、セルに10mLの供給溶液を入れて、最初の約1.5~2mLの透過液を捨て、定常状態の阻止率を表すことが以前に示されているその後の画分を分析のために収集した(Bengani-Lutz, et at., High Flux Membranes with Ultrathin Zwitterionic Copolymer Selective Layers with ~1 nm Pores Using an Ionic Liquid Cosolvent. ACS Applied Polymer Materials 1, 1954-1959, (2019))。ファウリング試験のために、まず、一定のパーミアンスに達するまで膜を通して脱イオン水をろ過した。次いで、汚染物質溶液を18~20時間ろ過し、パーミアンスをモニターした。最後に、セルおよび膜を脱イオン水で穏やかにすすぎ、最終純水フラックスを測定した。
【0072】
実施例7.架橋P(AM-r-SBMA)膜による染料の阻止率
本実施例では、実施例3に記載されるように調製された膜を、それらの有効孔径またはサイズカットオフを同定することを目的とした実験において使用した。染料分子は剛性であり、それらの濃度はUV-Vis分光法によって容易に測定されるので、染料分子を使用してこの特性を調べた。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。試験は43.5psiで行った。濃度分極効果を最小限にするためにセルを撹拌し、純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、水中のプローブ染料の100mg/L溶液をセルに入れた。少なくとも1時間の平衡化期間の後、UV-可視分光光度法による分析に十分となるまで試料を収集した。セルを水で数回すすいだ。新しいプローブ染料に切り替える前に、透過液が完全に透明になるまで膜を通して純水をろ過した。図4は、実施例1に記載のコポリマーから作製された膜による、様々な負に荷電した染料の保持率を示す。これらのアニオン性染料のろ過に基づいて、膜のサイズカットオフは1~1.2nmであると推定される。さらに、これらの染料の阻止率は、その電荷ではなく、染料の分子サイズに直接関連する。したがって、そのような膜は、サイズ選択的分離のために使用され得る。図4は、異なる分子直径のアニオン性染料の阻止率を示す。表1は、有効孔径を試験する際に使用される染料の分子サイズおよび電荷、ならびに実施例3に記載される膜によるそれらの阻止を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例8.架橋P(AM-r-TFEMA-r-MPC)膜による染料の阻止
本実施例では、実施例6に記載されるように調製された膜を、それらの有効孔径またはサイズカットオフを同定することを目的とした実験において使用した。染料分子は剛性であり、それらの濃度はUV-Vis分光法によって容易に測定されるので、染料分子を使用してこの特性を調べた。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。試験は43.5psiで行った。濃度分極効果を最小限にするためにセルを撹拌し、純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、100mg/Lのプローブ染料の水溶液をセルに入れた。少なくとも1時間の平衡化期間の後、UV-可視分光光度法による分析に十分になるまで試料を収集した。セルを水で数回すすいだ。新しいプローブ染料に切り替える前に、透過液が完全に透明になるまで、膜を通して純水をろ過した。図5は、実施例4に記載のコポリマーから作製された膜による、様々な負に荷電した染料の保持を示す。これらのアニオン性染料のろ過に基づいて、膜のサイズカットオフは1~1.2nmであると推定される。さらに、これらの染料の阻止率は、その電荷ではなく、染料の分子サイズに直接関連する。したがって、そのような膜は、サイズ選択的分離のために使用され得る。図5は、異なる分子直径のアニオン性染料の阻止率を示す。
【0075】
実施例9.架橋P(AM-r-SBMA)膜による小分子の分離
この実施例では、実施例3に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの小分子分離能力を決定した。膜の小分子分離能力を推定するために、それぞれ0.05mMのアニオン性染料(シカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm))の混合溶液を、TCZ-40膜を通してろ過した。図6は、両方の染料、供給液、ならびに透過液についてのUVスペクトルを示す。図から、透過液のスペクトルがシカゴスカイブルー6Bのピーク(597nm)を含まず、染料が完全に保持され、膜によって分離されたことを示すことが明らかである。しかし、メチルオレンジのピークは依然として観察することができ、これは、膜のサイズに基づく適切な分離効率を示唆する。図6は、2つの異なる染料(それぞれ0.05mM)であるシカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm)を混合してダイアフィルトレーション実験用の供給液とした際にモニターしたTCZ-40膜のサイズに基づく小分子分離能力を示す。画像は、供給液、透過液、および参照用の各単一染料のUVスペクトルを示す。メチルオレンジのみがTCZ-40膜を透過し、シカゴスカイブルー6Bは完全に保持された。
【0076】
実施例10.架橋(AM-r-TFEMA-r-MPC)膜による小分子の分離
本実施例では、実施例6に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの小分子分離能力を決定した。小分子分離のための膜能力を推定するために、それぞれ0.05mMのアニオン性染料(シカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm))の混合溶液を、TCZ-40膜を通してろ過した。図6は、両方の染料、供給液、ならびに透過液についてのUVスペクトルを示す。図から、透過液のスペクトルがシカゴスカイブルー6Bのピーク(597nm)を含まず、染料が完全に保持され、膜によって分離されたことを示すことが明らかである。しかし、メチルオレンジのピークは依然として観察することができ、これは、膜のサイズに基づく適切な分離効率を示唆する。図7Cは、2つの異なる染料(それぞれ0.05mM)であるシカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm)をダイアフィルトレーション実験のための供給液として混合した場合に、TERP-C-14膜のサイズに基づく小分子分離能力をモニターしたことを示す。画像は、供給液、透過液、および参照用の各単一染料のUVスペクトルを示す。メチルオレンジのみがTERP-C-14膜を透過し、シカゴスカイブルー6Bは完全に保持された。図7Aは、TERP-C-0(未架橋)およびTERP-C-14(架橋)膜による様々なサイズのアニオン性染料の阻止率を示す。両方の膜は、シャープなサイズカットオフを示した。架橋膜は、未架橋膜よりも高い阻止率を示し、架橋がより小さい有効孔径をもたらすことを確認した。図7Bは、TERP-C-14の阻止性能のみを示す。
【0077】
実施例11.架橋P(AM-r-SBMA)膜による塩の阻止
この実施例では、実施例3に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの塩保持特性を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを450rpmで撹拌し、試験を異なる圧力、例えばそれぞれ2、3、4バール(bar)で行った。セルを撹拌して、濃度分極効果を最小限にした。純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(NaSO)および硫酸マグネシウム(MgSO、Aldrich)の20mM水溶液を別々にセルに入れた。少なくとも1時間の平衡化期間の後、標準伝導率プローブによる分析のために試料を収集した。セルを水で数回すすぎ、純水を膜に通した後、他の供給溶液に切り替えた。図8A~8Cは、未架橋TCZ-0膜および架橋TCZ膜についての、様々な印加圧力での20mM NaCl(図8A)、NaSO図8B)およびMgSO図8C)塩の阻止性能を示す。
【0078】
実施例12.架橋P(AM-r-TFEMA-r-MPC)膜による塩の阻止
この実施例では、実施例6に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの塩保持特性を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを450rpmで撹拌し、試験を異なる圧力、例えばそれぞれ3、4バールで行った。セルを撹拌して、濃度分極効果を最小限にした。純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、塩化ナトリウム(NaCl)および硫酸ナトリウム(NaSO)の20mM水溶液を別々にセルに入れた。少なくとも1時間の平衡化期間の後、標準伝導率プローブによる分析のために試料を収集した。セルを水で数回すすぎ、純水を膜に通した後、他の供給溶液に切り替えた。図9Aおよび9Bは、架橋TERP-C-X(X=5、10、12、14)膜についての様々な印加圧力での20mMのNaSO(左)およびNaCl(右)塩の阻止性能を示す。
【0079】
実施例13.油-水エマルジョンを用いた架橋P(AM-r-SBMA)膜によるファウリング試験
この実施例では、実施例3に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの抗ファウリング特性(防汚性)を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを撹拌し、2.75Lm-2hr-1のフラックスで試験を実施した。膜の純水パーミアンスを少なくとも6時間測定し、次いでセルを空にし、1500mg/Lの水中油型(9:1)エマルジョンから構成される汚染物質溶液を20時間ろ過した。最後に、再び純水パーミアンスを測定した。図10A~10Cは、TCZ-30(図10A)、TCZ-40(図10B)、および市販の膜NP-30(図10C)を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。画像は、初期水パーミアンス(三角および正方形)、続いて汚染物質溶液のパーミアンス(丸)を示した。次いで、膜を水で数回すすぎ、再び水パーミアンスを測定する(三角および正方形)。TCZ-30およびTCZ-40膜の場合、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にフラックス損失は観察されなかったが、市販の膜は有意な(約48%)不可逆的フラックス損失を示す。汚染物質溶液は、1500mg/Lの水中油型(9:1)エマルジョンから構成された。J=2.75Lm-2hr-1
【0080】
実施例14.BSA/CaCl 溶液を用いた架橋P(AM-r-SBMA)膜によるファウリング試験
この実施例では、実施例3に記載されるように調製された膜を実験に使用して、BSAタンパク質をろ過することによってそれらの抗ファウリング特性(防汚性)を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを撹拌し、2.75Lm-2hr-1のフラックスで試験を実施した。最初に、膜の純水パーミアンスを少なくとも5時間膜を通して確認し、セルを空にし、10mMのCaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンから構成される汚染物質溶液をセルに入れた。タンパク質のろ過を18時間行い、その後再び純水パーミアンスを確認した。純水パーミアンスの前に、セルを水で数回すすいだ。図11A~11Bは、TCZ-40(図11A)および市販の膜NP-30(図11B)を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。TCZ-40膜の場合、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にごくわずかなフラックス損失が観察されたが、市販の膜は有意な(約27%)不可逆的フラックス損失を示す。汚染物質溶液は、10mMのCaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンから構成された。J=2.75Lm-2hr-1
【0081】
実施例15.油-水エマルジョンを用いた架橋P(AM-r-TFEMA-r-MPC)膜によるファウリング試験
この実施例では、実施例6に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの抗ファウリング特性(防汚性)を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを撹拌し、2.75Lm-2hr-1のフラックスで試験を実施した。膜の純水パーミアンスを少なくとも6時間測定し、次いでセルを空にし、1500mg/Lの水中油型(9:1)エマルジョンから構成される汚染物質溶液を18時間ろ過した。最後に、再び純水パーミアンスを測定した。図12Aおよび12Bは、市販の膜NP-30(図12A)およびTERP-C-14(図12B)を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。画像は、初期水パーミアンス(黒)、続いて汚染物質溶液のパーミアンス(赤)を示した。次いで、膜を水で数回すすぎ、再びパーミアンスを測定する(青色)。TERP-C-14膜の場合、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にフラックス損失は観察されなかったが、市販の膜は有意な(約48%)不可逆的フラックス損失を示す。汚染物質溶液は、1500mg/Lの水中油型(9:1)エマルジョンから構成された。J=2.75Lm-2hr-1
【0082】
実施例16.BSA/CaCl 溶液を用いた架橋P(AM-r-TFEMA-r-MPC)膜によるファウリング試験
この実施例では、実施例6に記載されるように調製された膜を実験に使用して、BSAタンパク質をろ過することによってそれらの抗ファウリング特性(防汚性)を決定した。保持実験は、10mLのセル体積および4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンドろ過セル(Millipore)で実施した。セルを撹拌し、2.75Lm-2hr-1のフラックスで試験を実施した。最初に、膜の純水パーミアンスを少なくとも5時間膜を通して確認し、セルを空にし、10mMのCaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンから構成される汚染物質溶液をセルに入れた。タンパク質のろ過を20時間行い、その後再び純水パーミアンスを確認した。純水パーミアンスの前に、セルを水で数回すすいだ。図13Aおよび13Bは、市販の膜NP-30(図13A)とともに、膜TERP-C-14(図13B)を通した汚染物質溶液のデッドエンドろ過を示す。TERP-C-14膜の場合、汚染物質溶液への曝露中および曝露後にフラックス損失は観察されなかったが、市販の膜は有意な(約27%)不可逆的フラックス損失を示す。汚染物質溶液は、10mMのCaCl溶液中の1g/Lのウシ血清アルブミンから構成された。J=2.75Lm-2hr-1
【0083】
実施例17.P(AM-r-TFEMA-r-MPC)の非水性架橋
架橋技術:1:1のイソプロパノール:ヘキサン混合物(20mL)中の2重量%の光開始剤および架橋剤(図16参照)の溶液に膜を20分間浸漬し、次いで、膜がガラス容器の内側にあり、その面がガラスプレートで覆われている状態で30秒間UV硬化させた。
【0084】
実施例18.P(AM-r-TFEMA-r-MPC)の非水性架橋
架橋技術:1:1のイソプロパノール:ヘキサン混合物(20mL)中の2重量%の光開始剤および架橋剤(図16参照)の溶液に膜を20分間浸漬し、次いで、膜がガラス容器の内側にあり、その面がガラスプレートで覆われている状態で60秒間UV硬化させた。
【0085】
実施例19.P(AM-r-TFEMA-r-MPC)の非水性架橋
架橋技術:1:1のイソプロパノール:ヘキサン混合物(20mL)中の2重量%の光開始剤および架橋剤(図16参照)の溶液に膜を20分間浸漬し、次いで、膜がガラス容器の内側にあり、その面がガラスプレートで覆われている状態で90秒間UV硬化させた。
【0086】
実施例20.P(AM-r-TFEMA-r-MPC)の非水性架橋
架橋技術:1:1のイソプロパノール:ヘキサン混合物(20mL)中の2重量%の光開始剤および架橋剤(図16参照)の溶液に膜を20分間浸漬し、次いで、膜がガラス容器の内側にあり、その面がガラスプレートで覆われている状態で120秒間UV硬化させた。
【0087】
膜の合成および架橋(P(AM-r-TFEMA-r-MPC))
ここで表される統計的/ランダムコポリマーは、3つの異なるモノマーの組み合わせである:双性イオン性モノマーである、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC);高疎水性のモノマーである、トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA);および、チオール-エンクリック反応を容易に受けることができるC-C二重結合を有する疎水性モノマーである、アリルメタクリレート(AM)(図1B)。AMA単位に存在する二重結合は、ジチオールの存在下でチオール-エンクリック反応によって架橋され得る(図1B)。この架橋反応は、疎水性ドメインには優先的に分配されるが、双性イオン性ドメインには分配されない溶剤中で行われる。溶剤はまた、TFEMA/AMAドメインを可塑化し、官能基の移動性を十分に高めて架橋反応を可能にする。架橋された疎水性ドメインはより剛性であり、水に浸漬した際に双性イオン性ドメインの膨潤を制限する。したがって、水中の未架橋コポリマー選択層よりも、架橋ZAC系膜において有効孔径が小さくなる。
【0088】
P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)ターポリマーは、電子移動により活性化剤が再生する原子移動ラジカル重合(the activator regenerated by electron transfer atom transfer radical polymerization)(ARGET-ATRP)によって首尾よく合成された(図1B)。この制御された重合反応は、ほぼ排他的に反応性の高いメタクリレート基のみを重合させ、反応性の低いアリル側基をほとんどそのまま残す。ターポリマー中のアリル二重結合(δ=5.3ppm;δ=5.8ppm)の存在を、P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)のH NMR(図3A)およびIR(図3B)分析によって確認した。調製されたコポリマーは白色固体であり、トリフルオロエタノール(TFE)およびメタノールに可溶である。
【0089】
P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)を市販の支持膜(Sterlitech、UE50)上にコーティングして、TFC膜を形成した。これを達成するために、P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)をメタノールに溶解して4重量%溶液を形成し、次いでこれをワイヤー巻き計量ロッド(wire-wound metering rod)を使用することによって支持膜の上部にコーティングした。このコーティングされた膜を、80℃に予熱したオーブンに4分間入れた。最後に、膜をオーブンから取り出し、蒸留水に一晩浸漬した。この薄膜複合(TFC)膜は、いかなる架橋もなしに製造された場合、TERP-C-0と呼ばれる。TFEMAおよびMPCミクロ相のランダムコポリマーは分離して、約1.3nmの無秩序な共連続ドメイン(bicontinuous domain)を形成する(Bengani-Lutz, et al., Self-Assembling Zwitterionic Copolymers as Membrane Selective Layers with Excellent Fouling Resistance: Effect of Zwitterion Chemistry. ACS Applied Materials & Interfaces 9, 20859-20872, (2017))。AMAと、類似の双性イオン性モノマーであるスルホベタインメタクリレート(SBMA)とのコポリマーも非常に類似の形態を形成した(Lounder, et al., Zwitterionic Ion-Selective Membranes with Tunable Subnanometer Pores and Excellent Fouling Resistance. Chemistry of Materials 33, 4408-4416, (2021))。したがって、キャストすると、P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)は自己組織化して同様の形態を形成し、疎水性TFEMA/AMAリッチドメインによって一緒に保持された、これらの「ナノチャネル」に適合するのに十分小さい水および溶質の透過を可能にするMPCリッチナノドメインのネットワークをもたらすことが予想された(図1A)。これらのTFC膜の形成後、疎水性AM繰り返し単位を、ジチオールとのチオール-エンクリック反応を用いて架橋した(図1B)。未架橋TERP-C-0膜を、各2重量%の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA、光開始剤)および1,6-ヘキサンジチオールを含有するイソプロパノール:ヘキサン混合物の溶液に20分間浸漬した。その後、300秒~14分の範囲の様々な時間、膜をUV光に曝露した。膜をそれぞれ、TERP-C-5、TERP-C-10、TERP-C-12、およびTERP-C-14と標識し、最後の2桁がUV硬化時間を指定する(表2)。UV硬化中、光開始剤であるDMPAは、1,6-ヘキサンジチオールからラジカルを生成し、これは次いで、AM繰り返し単位のアリル二重結合と反応した。これは、疎水性ドメインの架橋をもたらし、剛性を高め、水性環境における双性イオン性ナノチャネルの膨潤を、反応の程度に関連する程度まで防止した。
【0090】
【表2】
【0091】
架橋TFC膜および未架橋TFC膜の形態を、走査型電子顕微鏡(SEM)イメージングによって調べた(図14A~14C)。TERP-C-0およびTERP-C-14膜の両方において、支持膜の上部に薄い選択層が明確に見える。この層の厚さは、コーティングプロセスを改善することによって潜在的にさらに減少させることができ、最大50倍高い膜パーミアンスをもたらすことができる。重要なこととして、図2Cは、未架橋P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)を容易に溶解させる溶剤であるTFEにTERP-C-14膜を浸漬した後に得た。選択層が視覚的に変化しないという事実は、架橋がこの層の溶剤安定性を改善することを示す。これは、耐溶剤性ナノろ過および有機溶剤ナノろ過(OSN)を含む、さらなる用途における架橋ZAC膜の将来の潜在的使用に対する扉を開く。
【0092】
膜のパーミアンスおよび選択性
新しく製造された膜の性能を、デッドエンド撹拌式セルろ過を使用して特徴付けた(表3)。未架橋TERP-C-0膜は、以前のZACベースの膜と同様に、6.66±0.45L/m.h.barの純水パーミアンスを示した。膜の純水パーミアンスは、架橋時間の増加と共に減少し、様々な溶質の阻止率の急激な上昇を伴った(表3)。300秒~14分までのUV硬化時間の漸進的な増加は、未架橋膜と比較して純水パーミアンスの約93%の減少をもたらす(図15)。この現象は、利用可能なAMA基のほとんどが、その所与の時間枠において首尾よく架橋されたことを意味する。これらの反応時間は、これらのアリル基の光重合などの他の架橋化学よりも著しく短い。
【0093】
膜の選択性は、関連分野における最終性能および用途を決定するための最も重要なパラメータの1つと考えられている。架橋膜の選択性に対するUV照射の影響を、2つの中性小分子溶質、ビタミンB12(VB12;ストークス直径(Stokes diameter)1.48nm)およびリボフラビン(ストークス直径 約1nm)の阻止率を追跡することによってまずスクリーニングした。未架橋TERP-C-0膜は、それぞれ87.5%および18%のビタミンB12およびリボフラビンの阻止率を示し、これは以前の研究と一致した。UV曝露時間の増加は、両方の溶質の阻止率の上昇をもたらし、12~14分後に安定化し、パーミアンスデータと一致した(表3)。
【0094】
P(AMA-r-TFEMA-r-MPC)は、いかなる官能基も有さず、本質的に静電的に中性である。その結果、その選択性は溶質の電荷に大きく影響されることはなく、ほとんどサイズに基づく選択性を示すと予想された。TERP-C-0およびTERP-C-14膜のサイズ選択的性質を検証するために、様々な数の負電荷を有する異なる染料の阻止率を調査した(表3;図7A)。この染料のセットは以前に使用されており、ZACベースの膜選択性の良好な予測因子であることが示された。この特定の研究では、これらの染料の多くのストークス半径が文献に一貫して報告されていないため、分子体積から推定された計算直径を使用した。これらの計算された直径は、各分子の分子体積を計算し(Molecular Modeling Pro)、次いで同じ体積の球の直径を計算することによって推定された。したがって、それは、幾何学的形状または水和を考慮しない著しい過小評価であるが、それは信頼でき、ZACベースの膜による溶質の阻止曲線を予測することが確立されている。未架橋膜TERP-C-0および高度に架橋された(高架橋)TERP-C-14は共に一貫した阻止率を示し、各染料の阻止率はアニオン性電荷の数とは無関係にそのサイズと結びついている(図7A)。これは、電荷が選択性に有意な影響を及ぼさないことを意味する。全ての染料のTERP-C-14による阻止率は、未架橋TERP-C-0の阻止率と比較して高く、架橋時の有効孔径の減少をさらに確認した。
【0095】
【表3】
【0096】
小分子混合物の分離についてのTERP-C-14膜の能力を実証するために、2つの染料(メチルオレンジ(0.79nm)およびシカゴスカイブルー6B(0.88nm))の等モル混合物(0.05mM)をろ過した。597nmにおける特徴的なUV-可視スペクトルピークがないことから明らかであるように(図7C)、透過液中にシカゴスカイブルー6Bの痕跡は見られず、膜が染料を完全に保持できることを示唆する。メチルオレンジは依然として膜を透過することができ、この溶液混合物の分画を実証した。
【0097】
高度に架橋されたTERP-C-14膜の有効孔径が非常に小さいことから、立体効果とイオン-双性イオン相互作用の組み合わせにより優れたアニオン選択性を示すこれらの架橋r-ZAC膜のイオン分離能力を試験することにした。3バールおよび4バールの膜間差圧で20mM溶液を使用したナトリウムの一価および二価アニオン塩、具体的にはNaClおよびNaSOの阻止率を測定した(図9Aおよび9B)。未架橋TERP-C-0膜は、他の未架橋ZACに関する以前の報告37と一致して、非常に低い塩除去率(<10%)を示した。わずか5分のUV曝露で、塩阻止率は顕著に上昇し、NaSOについて約95%、NaClについては約20%であった。より長いUV硬化は、両方の塩について、漸進的であるがゆっくりと阻止率の上昇をもたらした。14分間の架橋は、NaSOの阻止率を98%まで高め、NaClの阻止率を32%まで高めた。より短いUV曝露でさえも、高い塩選択性を有する膜をもたらすことができ、迅速かつスケーラブルな製造を可能にする。
【0098】
ファウリング耐性(Fouling resistance)
ファウリングは、多くの重要な用途における膜の長期使用に対する最大の障害の1つである。ファウリングは、膜表面への様々な供給成分の蓄積および吸着によって広く定義され、性能損失をもたらす。定期的な洗浄および膜交換によるファウリングの管理は、膜操作のコストの最大の要因の1つである。このため、新しい膜材料についてファウリング耐性が強く望まれる。様々なZAC選択層を有する膜は、ファウリングに対する優れた耐性を示し、非常に困難な供給液であっても不可逆的なファウリングに完全に抵抗する。結果として、様々な汚染物質溶液によるファウリングに対するこれらのチオール-エン架橋ZAC膜の耐性が検証された。最先端の市販のナノろ過膜(NP-30)もベンチマークとして使用した。
【0099】
ファウリング耐性を特徴付けるために、デッドエンドろ過実験を実施した。各実験において、最初に、フラックスが安定するまで脱イオン水をろ過することによって、初期純水パーミアンスを測定した。次いで、代表的な汚染物質溶液を20時間ろ過する。その後、膜およびろ過セルを脱イオン水で数回洗浄した。最後に、脱イオン水を再度ろ過し、物理的な洗浄方法のみでのパーミアンス減少の可逆性を決定した。ファウリングの可逆性を検証するために純水パーミアンスを再度測定した。開示された架橋膜は、油滴の高い除去の程度を示した。供給溶液は、油滴による光散乱によって半透明で灰色がかった色であることが観察された。
【0100】
研究した汚染物質の第1のタイプは、水中油型エマルジョンであった。石油ガス産業は、大量の油性廃水を生成し、それは、精製廃水、フラック水(frac water)、および随伴水(produced water)の形態で常に生成される。これらのタイプの流れをシミュレートするために、9:1比のダイズ油対DC193界面活性剤を使用して調製した1.5h/Lの水中油型エマルジョンを使用した。市販のNF膜およびTERP-C-14の両方が油を効果的に除去し、予想通り透明な透過液を生成した。市販のナノろ過(NP-30)膜(図12A)は、顕著なファウリングを示し、汚染物質ろ過中のその初期フラックスのほぼ約48%を損なった。この不可逆的なフラックス損失は、単純な物理的洗浄プロセスによって回復可能ではなかった。このデータは、今日市場に出回っている最先端の膜の典型的なものである。対照的に、TERP-C-14架橋膜は、油エマルジョンのろ過中であっても有意なフラックス損失を示さなかった。汚染溶液のろ過後、単純な水洗いで、純水フラックスはその初期値と同じように見えた。この傾向は驚くべきことであり、架橋膜の優れた抗ファウリング特性(防汚特性)を示すが、一方、ほとんどの報告された膜はろ過工程中に少なくともいくらかのフラックス損失を示す傾向がある。
【0101】
第2シリーズのファウリング実験は、表面上に容易に吸着するその強い傾向のために膜のファウリング傾向を特徴付けるためにしばしば使用される周知のタンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)を用いて行った。BSAおよび他のタンパク質によるファウリングの程度は、イオン強度、pH、および他の溶液特性を含む溶液組成によって大きく影響される。この実験のために、10mMのCaCl(pH:6.4)中の1g/LのBSA溶液を使用した。カルシウムイオンは、膜材料に共通の様々なアニオン性基との錯体形成を通じてゲル形成をもたらすことができ、溶液のファウリング傾向を高める。したがって、この溶液は、膜にとって特に困難な汚染物質を構成すると予想される。
【0102】
図13Aおよび13Bは、NP-30(図13A)およびTERP-C-14(図13B)による10mM CaCl溶液中の1g/LのBSA(ウシ血清アルブミン)タンパク質のデッドエンドろ過を示す。油性水実験と同様に、市販のナノろ過NP-30膜は、汚染物質のろ過中にその初期フラックスの約27%を損なった。この不可逆的なフラックス損失は、純水ですすいだ後に回復しなかった。対照的に、TERP-C-14膜を通したこのBSA溶液のろ過中にフラックスの減少は見られなかった。このファウリング運転の前後の水フラックスは同じであった。これは、これらの双性イオン性膜の改善されたファウリング耐性をさらに実証する。
【0103】
膜の製造および架橋(P(AM-r-SBMA))
この研究における架橋性ZACは、双性イオン性モノマーであるスルホベタインメタクリレート(SBMA)と、チオール-エン反応を受けることができるその側基におけるC=C二重結合を特徴とする疎水性モノマーであるアリルメタクリレート(AM)との統計的/ランダムコポリマーであった。ジチオールとのチオール-エン反応により、AM単位が架橋される(図1C図1F)。この架橋反応は、特に疎水性ドメインに優先的に分配される溶剤/可塑剤中で実施される場合、水に浸漬された際に双性イオン性ドメインの膨潤を防止する。その結果、水中の架橋ZACベースの膜の有効孔径は、その未架橋対応物の有効孔径よりも小さい。疎水性相を架橋するために必要とされる時間スケールは、ロールツーロール製造(roll-to-roll manufacturing)において実施するには長すぎた。
【0104】
電子移動により活性化剤が再生する原子移動ラジカル重合(ARGET-ATRP)を使用して、P(AM-r-SBMA)を合成した(図1C)。この制御された重合反応スキームにおけるアリル基のより低い反応性は、アリル側基を無傷に保ちながら、そのより反応性のメタクリレート基を介してのみAMを重合することを可能にした。ARGET-ATRPは、水およびプロトン性種を除去する必要なく、低温で設計されたポリマーおよびコポリマーの合成を可能にするロバストな重合技術であるため、この合成スキームは非常にスケーラブルである。H NMRは、P(AM-r-SBMA)の構造中におけるアリル二重結合(δ=5.3ppm;δ=5.8ppm)の活性な存在を確認した(図1D)。コポリマーの全SBMA含有量は、このスペクトルから47重量%であると計算された。これは、反応混合物中の我々のSBMAの含有量と密接に一致する。10%の比較的低い転化率を考えると、コポリマーと反応混合物の組成との間の密接な一致は、ポリマー主鎖に沿ったAMおよびSBMA繰り返し単位のほぼランダムな配置を意味する。溶液が架橋ゲルを形成しないことを確実にするために、この低い転化率を提示されたデータセットにおいて使用したが、AMおよび双性イオン性モノマーを含む類似の架橋性コポリマーを用いたその後の実験において、ゲル化なしに50%を超える転化率が達成されている。これは、この技術を、ほとんどの特殊ポリマー製品を大幅に上回る環境への影響なしに、このコポリマーの信頼できるスケーラブルな合成に将来使用し得ることを示す。調製されたコポリマーは、トリフルオロエタノール(TFE)およびジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶な白色固体である。
【0105】
P(AM-r-SBMA)の一般的な溶剤への溶解度が低いため、そのモル質量を測定するためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の使用が制限された。コポリマーの相対分子量を推定するために、TFE中のコポリマーの希釈溶液に対して動的光散乱(DLS)を行った。コポリマーは、ジメチルホルムアミド中のポリアクリロニトリル標準に基づいて、2.6x10g/molのモル質量に対応する60.8±1nmの有効流体力学半径を示した。ここで表される分子量は、同等の流体力学的半径を有するポリマーセグメントの相対値であると述べることが重要である。ポリマー鎖の凝集およびポリマー-溶剤相互作用は、絶対モル質量と流体力学半径との間の関係に大きく影響するが、GPCによって計算される相対モル質量も同様の制限を受ける。したがって、この比較的高い相対モル質量は、合成されたコポリマーが長鎖ポリマーであることを裏付ける。
【0106】
合成されたZAC、P(AM-r-SBMA)の自己組織化ナノ構造の形態を、TEMを使用して特徴付けた。スルホベタイン基と銅(II)イオンが安定な錯体を形成するので、2%のCuCl水溶液に4時間浸漬することによって陽性染色して、双性イオン性ナノドメインを染色した。図17の明視野TEM画像に見られるように、P(AM-r-SBMA)は自己組織化して疎水性(明るい)ナノドメインおよび双性イオン性(暗い)ナノドメインの相互接続した共連続ネットワークを形成する。暗い双性イオン性ドメインは相互に連結しており、水の透過を可能にするフィルムを貫通するパーコレーション(浸透)ネットワークを示している。高速フーリエ変換(FFT)分析(図17、挿入図)は、1.4nmの平均ドメインサイズを示す。この形態は、他のZACについて観察されるものに類似する。
【0107】
P(AM-r-SBMA)を市販の支持膜(Solecta、PS-35)上にコーティングして、TFC膜を形成した。この目的のために、P(AM-r-SBMA)をTFEに溶解して5重量%溶液を形成し、これをワイヤー巻き計量ロッドを用いて支持体の上部にコーティングした。このコーティングされた膜を、65℃に予熱したオーブンに12分間入れた。最後に、膜をオーブンから取り出し、直ちにDI水に一晩浸漬した。このTFC膜は、架橋なしで製造され、TCZ-0と呼ばれる。キャストすると、ZACの自己組織化により、双性イオン性ナノドメインのネットワークが形成され、これは、疎水性AMリッチドメインによって一緒に保持された、双性イオン性ナノチャネルに入るのに十分に小さい水および溶質の透過を可能にする(図17)。
【0108】
これらのTFC膜の形成後、疎水性AM繰り返し単位を、ジチオールとのチオール-エンクリック反応を用いて架橋した(図1C)。未架橋TCZ-0膜を、各1重量%のDMPA(光開始剤)および1,6-ヘキサンジチオールを含有するIPAの溶液に10分間浸漬した。その後、10~40秒の範囲の様々な時間、膜をUV光に曝露した。膜は、それぞれTCZ-10、TCZ-20、TCZ-30、およびTCZ-40として識別され、最後の2桁が秒単位のUV硬化時間を指定する。UV硬化中、DMPAは、光開始剤として作用し、1,6-ヘキサンジチオール上にラジカルを生成し、次いで、それがAM繰り返し単位のアリル二重結合と反応した(図1F)。これは、疎水性ドメインの架橋をもたらし、剛性を高め、水性環境における双性イオン性ナノチャネルの膨潤を防止するが、それは反応の程度によって決定される。
【0109】
選択層の架橋は、ATR-FTIR分光法を用いて選択層の化学組成を分析することによって確認した(図18)。C-O-Cおよび-SO-伸縮(stretching)に関連する約1050および約1070~1090cm-1でのシャープなピークを含む、SBMA基および主鎖に対応するほとんどのピークが、予想通りTCZ-0膜とTCZ-40膜で類似したままであった。スペクトル間の主な差は、-CH=C変角(blending)に関与するピーク(985~1004cm-1)の強度であった。TCZ-0と比較してTCZ-40膜のピーク強度が低いことは、UV硬化時のチオール-エン架橋によるアリル二重結合の消費に起因し得る。
【0110】
これら2つの膜の表面元素組成を、XPSを用いてさらに特徴付けた(図19A~19B)。O1s、N1s、C1s,およびS2pの特徴的ピークは、両方の膜のサーベイスペクトルに存在し(図19A)、選択層の元素組成とよく一致している。S2p領域についての高分解能スペクトル(図19B)は、硫黄基の周囲の結合構造のより深い特徴付けを可能にした。TCZ-0膜は、SBMA繰り返し単位上のSO 基から生じる1つのみのS2pピーク(168.2eV)を示した。架橋TCZ-40膜のスペクトルは、2つの異なるS2pピークを示し、一方は163.5eV、もう一方は168.2eVであった。追加のピークは、チオール-エンクリック反応で形成されたチオエーテル基(R-S-R)と関連していた。これらの結果は、予想される架橋反応をさらに裏付ける。
【0111】
コーティングされた膜の形態をSEM画像化によって調べた(図2A~2C)。支持膜の上部の薄い選択層は、TCZ-0およびTCZ-40膜の両方において明確に見ることができる。この層は、ポリマーが支持体の細孔に部分的に浸透して物理的アンカーを形成することによって、ならびに分子間相互作用によって、支持体に接着する。ポリスルホンは、UV照射するとコポリマー中のアリル基と反応し得るフリーラジカルを生成することが知られているので、架橋の際、支持体と層との間にいくらかの化学結合がある可能性もある。この層の厚さは、潜在的に、コーティングプロセスを改善することによってさらに減少させることができ、他のZAC膜化学で実証されるように、最大50倍高い膜パーミアンスをもたらす。
【0112】
未架橋P(AM-r-SBMA)を容易に溶解する溶剤であるTFEに膜を浸漬した。選択層が視覚的に変化しないという事実は、架橋がこの層の溶剤安定性を改善することを示す。これは、耐溶剤性ナノろ過および有機溶剤ナノろ過(OSN)を含む、さらなる用途における架橋ZAC膜の将来の潜在的使用に対する扉を開く。
【0113】
膜の透過性および選択性
デッドエンド撹拌式セルろ過実験を用いて膜性能を特徴付けた(表4)。
【表4】
【0114】
未架橋TCZ-0膜の平均パーミアンスは5.5±0.9Lm-2.h.barであった。P(AM-r-SBMA)の疎水性ドメインの架橋は、溶質の阻止率の上昇に伴う水パーミアンスの減少によって実証されるように、有効孔径の減少をもたらす。10秒から40秒へのUV硬化時間の増加は、未架橋の系と比較して、約80%のパーミアンスの減少をもたらし(図20)、わずか約30~40秒の暴露時間で変化がプラトーになる。この傾向は、1分未満で利用可能なAM基の完全に近い架橋を意味し、これらのアリル基の光重合などの他の架橋化学を使用する場合に必要とされるよりも1桁少ない。
【0115】
膜の最も重要なパラメータの1つは、膜の選択性である。UV照射時間がこれらの膜の選択性にどのように影響を及ぼすかを特徴付けるための初期スクリーニングとして、2つの中性小分子溶質、ビタミンB12(VB12;ストークス直径 1.48nm)およびリボフラビン(ストークス直径 約1nm)をプローブとして使用した。TCZ-0膜によるビタミンB12およびリボフラビンの阻止率はそれぞれ82%および33%であり、これは以前の研究と一致した。両方の溶質の阻止率は、曝露時間の増加と共に上昇し、30~40秒後に再び安定化し、パーミアンスの結果と一致した(表4)。
【0116】
未架橋ZAC膜の選択性は、溶質サイズによって支配される。合成された双性イオン性コポリマーは、静電的に中性であるので、膜の選択性は、溶質電荷によって大きく影響されることはなく、ほぼ同様の幾何学形状の荷電溶質と中性溶質は、低い塩阻止率とともに阻止曲線を共有する。TCZ-0およびTCZ-40膜のサイズに基づく選択性を特徴付けるために、様々な負に荷電した染料の阻止率を測定した(表1)。ここで使用された計算直径は、ストークス直径ではなく、molecular Modelling Proソフトウェアを使用して取得された、分子体積から計算された分子サイズの推定値であることに留意されたい。この尺度は、水和または分子幾何学的効果を考慮しないため、実際のストークス直径の過小評価であるが、信頼でき、ZACベースの膜による溶質の阻止特性を予測することが証明されている。
【0117】
図4は、TCZ-0およびTCZ-40膜による異なるアニオン性染料の阻止率を示す。異なる電荷を有する異なるアニオン性染料の阻止率は、膜TCZ-0およびTCZ-40の両方について単一の阻止曲線に適合し(図4)、これは、先に論じたように、限定された電荷効果を暗示している。TCZ-40膜は、TCZ-0膜よりも高い程度まですべての染料を阻止し、有効孔径の減少をさらに裏付ける。これらの染料の最終阻止率はすべて85%超であり、立体効果および双性イオン-イオン相互作用に基づく塩阻止を潜在的に示し得る非常に小さい細孔を意味する。
【0118】
TCZ-40膜が染料混合物を分離する能力を実証するために、本発明者らは、同じ濃度(0.05mM)で、2つの染料、シカゴスカイブルー6B(0.88nm)およびメチルオレンジ(0.79nm)の混合物を含有する溶液をろ過した。得られた透過液は、シカゴスカイブルー6Bを含まず、これは、597nmにおけるこの染料の特徴的なピークを欠くUV-可視スペクトルによって記録された(図6)。メチルオレンジは依然として膜を透過し、この混合物の分画を示した。
【0119】
化学洗浄にしばしば使用される強酸および強塩基におけるこれらの膜の安定性を試験した。チオール-エン架橋ZAC膜の1つであるTCZ-20のパーミアンスおよびビタミンB12の阻止率は、0.5M NaOHまたは0.5M HClのいずれかに24時間浸漬した後、測定可能な変化を示さなかった(図22)。これにより、これらの選択層の化学的安定性が確認される。これらの膜は、架橋性ZACポリ(アリルメタクリレート-ランダム-スルホベタインメタクリレート)(P(AM-r-SBMA))から製造された選択層を特徴とし、その化学構造を図1Cに示す。UV曝露時間>5分で変化を観察する;暴露時間のさらなる増加は、より小さい細孔サイズをもたらす。この研究の重要な特徴は、新しい架橋化学、ジチオールとのチオールエンクリックケミストリーを利用して、UV曝露時間を数秒まで減少させることである。わずか10秒間の架橋は、細孔径の有意な変化をもたらし、10~40秒の間の曝露時間の変化は、有効細孔径、塩除去率、および一価/二価イオン選択性をさらに調整することを示した。得られた膜は、多くの最新技術の膜と比較して、高いCl/SO 2-選択性を示した(表5)。
【0120】
【表5】
【0121】
本明細書で言及されるように、TCZ-40による最小プローブ染料の阻止率でさえ非常に高い。これは、選択性を示し得る極めて小さい細孔を意味する。最近の研究で論じたように、高度に架橋されたZAC選択層を有する膜は、立体効果ならびに双性イオン-イオン相互作用に関連するアニオン選択性を示す。したがって、本明細書で論じるチオール-エン架橋膜における塩イオン間の選択性を予想することは合理的である。この仮説を試験するために、本発明者らは、2~4バールの膜間差圧で20mM溶液を使用して、様々な塩、具体的にはNaCl、MgSO、およびNaSOの阻止率を測定した(図8A~8C)。未架橋TCZ-0膜は、非常に低い塩阻止率(全ての塩について<20%)および1に非常に近い分離係数を示し(表6)、これは、以前の未架橋ZAC膜と一致した。UV硬化は、4つの塩全ての阻止率の上昇をもたらしたが、これらの変化におけるパターンは、各塩の性質に依存した。わずか10秒のUV曝露において、本発明者らは、架橋による塩阻止率の有意な上昇を観察した。このような選択性の迅速な調整は、この系に特有であり、チオール-エン化学における高い反応速度ならびにZACベースの膜における特有の分離機構によって可能になる。
【0122】
【表6】
【0123】
全ての膜を室温で試験した。分離係数は、Clイオンの通過率(passage rate)とSO 2-イオンの通過率との比として定義され、次式により算出される:
【数3】
式中、RNaClはNaClの阻止率であり、RNa2SO4はNaSOイオンの阻止率である。言い換えれば、高い分離係数は、同じ対イオンが存在する場合に、塩化物のより低い阻止率、および硫酸塩のより高い阻止率に対応する。
【0124】
最短時間での最も顕著な変化はNaSOであり、その2バールでの阻止率はわずか10秒の曝露で約4%から約70%に上昇した。NaSOの阻止率は、さらなる架橋で顕著には上昇せず、40秒後に78%の阻止率であった。興味深いことに、NaSOの阻止率は、MgSOの阻止率よりも一貫して高かったが、この差は、10および20秒の最短露光時間についてより顕著であった。MgSOの阻止率はまた、パーミアンスおよび有機溶質阻止率の傾向と同様に、より緩やかに上昇し、30~40秒後に比較的安定した。サイズに基づく選択性は、これらの傾向に寄与するが、架橋ZAC膜が、ある状況下では、同様の電荷およびサイズのイオン間で選択性を示すことができるという事実は、双性イオン-イオン相互作用も重要な役割を果たすことを意味する。言い換えれば、イオンのサイズとそれらのSBMAに対する親和性の両方が選択性に影響を及ぼす。この場合、傾向の差異は、双性イオン性ナノチャネルへのカチオン分配の差異から生じる可能性があり、これはまた、電気的中性に起因して硫酸塩の透過性に影響を及ぼす。より高い架橋度では、マグネシウムの阻止率はサイズ排除のために上昇する。
【0125】
NaClの阻止率は、NaSOおよびMgSOの阻止率よりも、架橋時間による上昇ははるかに少なく、40秒の架橋後に最大29%に達した。その結果、NaCl/NaSO分離係数は照射時間の増加と共に増加した(表6)。最大のジャンプは10秒以内に観察され、分離係数は40秒までにほぼプラトーになった。結果として、これらのチオール-エン架橋膜は、迅速かつ容易な製造とともに、高度に調整可能な一価/二価イオン選択性を有する。例えば、より短い時間架橋された膜(例えば、TCZ-10)は、限定されたカチオン分離で二価アニオンを除去することができるが、一方、高度に架橋された膜(例えば、TCZ-40)を使用して、比較的低いNaCl阻止率で全ての二価イオンを選択的に除去することができる。
【0126】
ファウリング耐性
膜表面上の供給成分の吸着および蓄積に関連するファウリングは、多くの用途における膜のより広範な使用を妨げる最も重要な障壁の1つである。したがって、新規な膜は、その表面への有機汚染物質の吸着を防止することによってファウリングに抵抗する必要がある。ZAC膜は、それらの表面を覆う高度に水和した双性イオン性基の存在により、比類のないファウリング耐性を示すことが証明されている。
【0127】
本発明者らは、様々な汚染物質によるファウリングに対するこれらのチオール-エン架橋ZAC膜の耐性を試験した。市販の最新技術のナノろ過膜(NP-30)も、本発明者らの架橋膜とファウリングデータを比較するためのベンチマークとして使用した。
【0128】
本発明者らは、チオール-エン架橋ZAC膜TCZ-40を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のタンパク質ウシ血清アルブミン(BSA)の溶液に浸漬することを含む静的ファウリング実験を行った。BSAは、表面に容易に吸着する傾向があるため、膜のファウリング傾向を試験するために頻繁に使用される。この溶液中での24時間後、膜を取り出し、DI水ですすいだ。次いで、膜に吸着したタンパク質をGelcode Blue Safe Protein Stainを用いて染色した。汚れたNP30膜の濃い青色は顕著なタンパク質吸着を示したが、TCZ-40膜では青色染色はあったとしてもほとんど観察されなかった(図23)。これは、架橋ZAC膜TCZ-40が、あったとしてもタンパク質ファウリングが最小限であり、この単純化された系においてさえ、ファウリング耐性に関して市販の膜を上回ることを示した。
【0129】
静的ファウリング実験は有望であるが、運転中の膜のファウリングははるかに複雑である。ファウリングは、供給液に応じて広範囲の化学種で生じる可能性があり、ろ過中の濃度分極および流体力学は、ファウリング傾向をさらに高める。したがって、我々のファウリング分析の大部分は、ろ過セル内に汚染物質が徐々に蓄積するためファウリングの最悪のシナリオとしばしば考えられる、デッドエンド撹拌式セルろ過実験を利用した。本発明者らはまた、複数の汚染物質をスクリーニングした。
【0130】
選択した第1の汚染物質は水中油型エマルジョンであった。石油ガス産業によって、随伴水、フラック水、および精製廃水の形態で、大量の油性廃水が定期的に生成される。これらの廃水流の適切な処分は、依然として重大な課題である。したがって、このような油性廃水流を代表するために選択された、大豆油とDC193界面活性剤の比率が9:1である1.5 g/Lの水中油型エマルションを用いて、当社の架橋膜2種(TCZ-30およびTCZ-40)に挑戦した。
【0131】
図10A~10Cは、TCZ-30(図10A)、TCZ-40(図10B)、および市販のナノろ過膜NP-30(図10C)について、デッドエンド撹拌式セルろ過モードで実施した水中油型エマルジョンファウリング実験からのデータを示す。それぞれの場合において、脱イオン水をろ過して初期純水パーミアンスを決定した後、汚染物質溶液を20時間ろ過した。次いで、ろ過セルおよび膜を水で数回すすいで、清浄な水での順方向フラッシュによる物理的洗浄をシミュレートした。その後、再度、純水パーミアンスを測定し、ファウリングの可逆性を調べた。3つの膜はすべて、供給液および透過液の外観によって示されるように、油滴の高い除去率を示した。供給液は液滴による光散乱により半透明で灰色がかったが、透過液は透明であった。図10A(挿入図)は、TCZ-30膜についてこれを示す。他の3つの膜からの透過液も同様であった。
【0132】
ファウリング実験中、TCZ-30およびTCZ-40膜は両方とも、汚染物質のろ過中であってもフラックスの有意な減少を示さなかった。水洗後、純水フラックスは初期値と同じままである。ほとんどの膜はろ過ステップ中に少なくともいくらかのフラックスの減少を示すので、この性能は例外的である。市販のNP-30膜から得られたデータ(図10C)は、最先端技術の代表的なものである。この膜は著しくファウリングし、汚染物質のろ過中にその初期フラックスのほぼ約48%を失った。この損失は、物理的洗浄プロセスによって可逆的ではなかった。
【0133】
本発明者らはまた、BSAを含む2つの供給液を用いてファウリング実験を実施した。BSAおよび他のタンパク質のファウリングポテンシャルは、イオン強度およびpHを含む溶液特性に大きく依存する。したがって、本発明者らは、2つの異なるマトリックス中の1g/LのBSA溶液を調製した。第1の溶液は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に溶解したBSAを含み、これは文献における初期ファウリングスクリーニングのための非常に一般的な系である。さらなる課題として、本発明者らは、10mMのCaCl(pH:6.4)中の1g/LのBSA溶液を調製した。カルシウムイオンは、複数のアニオンとの錯体形成によってゲルを形成する傾向を有し、溶液の高いファウリング傾向をもたらす。
【0134】
図21A~21Bは、TCZ-30(図21A)およびTCZ-40(図21B)によるPBS中の1g/LのBSAタンパク質のデッドエンドろ過を示す。両方の膜を通して汚染物質溶液を18時間ろ過した。いずれの膜についても汚染物質ろ過中にフラックスの減少は観察されなかった。穏やかな水洗の後、不可逆的なフラックス損失は測定されなかった。この現象は、これらのZAC膜の非常に優れたファウリング耐性を明らかに示す。
【0135】
さらに、本発明者らはまた、上記のより困難なタンパク質溶液である10mMのCaCl溶液中の1g/LのBSAを20時間使用して、これらの膜のファウリングを研究した(図11A~11B)。TCZ-40膜は、20時間にわたる汚染物質のろ過中にごくわずかなフラックスの減少を示し、これは、単純な水洗後に完全に回復した。対照的に、市販のNP-30は、汚染物質のろ過中にほぼ27%のその初期フラックスの減少を示した。この不可逆フラックス損失は、水洗後に回復しなかった。
【0136】
これらの実験は、たとえ困難な供給液であっても、この新しい膜ファミリーが示すファウリング耐性の程度が向上していることを実証する。汚染物質のろ過中の最小限の膜フラックス損失は、物理的洗浄、すなわち水ですすぐことによって容易に回復させることができる。ファウリング性の高い供給液のデッドエンドろ過中であっても膜フラックスがほとんど保持されるこのファウリング耐性の程度に匹敵するのは他のZACベースの膜のみであり、最新技術を大きく上回っている。
【0137】
調製したZAC膜の選択性を調整するために、迅速なチオール-エンクリック架橋戦略を開発した。これは、ロールツーロールの工業的スケールアップのための効率的なスケーラブルな様式で、高度に架橋されたZAC膜の比較的迅速な製造を容易にする。これは、自己組織化ナノろ過膜の多孔性を大幅に変化させるためにチオール-エンクリックケミストリーを幅広くスケーラブルに使用できることを実証する。5~14分の間のUV曝露時間の増加は、イオンおよび小分子の高い阻止率を示し、0~300秒の間で顕著な変化が見られたことから、より短い時間スケールでも反応速度が超高速であることが検証された。最大架橋膜であるTERP-C-14は、極めて優れた一価/二価選択性を示した。一方、作製した架橋膜によって、長期運転に必要な驚異的な抗ファウリング特性が示された。油/水エマルジョンのデッドエンドろ過またはBSAタンパク質の阻止は、不可逆的フラックス損失を示さなかった。これらの重要な知見は、軟水化、生体分子の分離、繊維廃水処理、および石油掘削のための海水からの硫酸塩除去などに及ぶ、様々な産業のためのこれらの高度に架橋されたZACベースの膜の潜在的な使用を裏付ける。さらに、チオール-エンクリックケミストリーの多用途性および官能基寛容性は、広範囲の用途のための新規クラスの架橋ランダム双性イオン性コポリマー膜を設計および作製することを可能にした。
【0138】
参照による組み入れ
本明細書で言及される全ての米国およびPCT特許公報ならびに米国特許は、あたかも各個々の特許公報または特許が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されるかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書の任意の定義を含めて本出願が優先する。
【0139】
他の実施形態
当業者は、単なる日常的な実験を使用して、本明細書に記載される特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するかまたは確認することができるであろう。本明細書に記載される本実施形態の範囲は、上記の説明に限定されることを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲に記載される通りである。当業者は、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の精神または範囲から逸脱することなく、この説明に対する様々な変更および修正を行うことができることを理解するであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21A
図21B
図22
図23
【国際調査報告】