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特表2024-518741農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-02
(54)【発明の名称】農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240424BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
G06T7/00 640
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564493
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2022060409
(87)【国際公開番号】W WO2022223611
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21169924.4
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520222106
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】スナピール ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ジョアランド サミュエル
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096BA08
5L096FA32
5L096FA33
5L096GA51
(57)【要約】
本発明は、農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法であって、第1の収穫周期に農地区画の第1のデジタル画像を取得するステップであって、第1の収穫周期に、対象作物が農地区画で成長する、取得するステップと、基準収穫周期に農地区画の基準デジタル画像を取得するステップであって、基準収穫周期に、基準作物が農地区画で成長し、基準作物が、対象作物とは異なる、取得するステップと、第1のデジタル画像内の第1の画素に関連する第1の植生指数を計算するステップ、第1の画素と第1の画素の周囲の画素との間の第1の符号付き距離を第1の植生指数に基づいて判定するステップ、及び第1の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に第1の画素の第1の異常を検出するステップと、基準デジタル画像の基準画素についての基準異常を定義するステップと、第1の異常が基準異常と一致しない場合に、第1の画素の土壌媒介病原体を識別するステップと、を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法であって、
第1の収穫周期に前記農地区画の第1のデジタル画像を取得するステップであって、前記第1の収穫周期に、前記対象作物が前記農地区画で成長する、ステップと、
基準収穫周期に前記農地区画の基準デジタル画像を取得するステップであって、前記基準収穫周期に、基準作物が前記農地区画で成長し、前記基準作物が、前記対象作物とは異なる、ステップと、
前記第1のデジタル画像内の第1の画素に関連する第1の植生指数を計算するステップ、前記第1の画素と前記第1の画素の周囲の画素との間の第1の符号付き距離を前記第1の植生指数に基づいて判定するステップ、及び前記第1の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に前記第1の画素の第1の異常を検出するステップと、
前記基準デジタル画像の基準画素についての基準異常を定義するステップと、
前記第1の異常が前記基準異常と一致しない場合に、前記第1の画素の前記土壌媒介病原体を識別するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記基準異常を定義するステップが、
前記基準デジタル画像内の基準画素に関連する基準植生指数を計算するステップ、前記基準画素と前記基準画素の周囲の画素との間の基準符号付き距離を判定するステップ、及び前記基準符号付き距離が前記定義済み閾値未満である場合に前記基準画素の前記基準異常を検出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の収穫周期に前記農地区画の第2のデジタル画像を取得するステップであって、前記第2の収穫周期に、前記対象作物が前記農地区画で成長する、ステップと、
前記第2のデジタル画像内の第2の画素についての前記農地区画の植生活性度を示す第2の植生指数を計算するステップ、前記第2の画素と前記第2の画素の周囲の画素との間の第2の符号付き距離を判定するステップ、及び前記第2の符号付き距離が前記定義済み閾値未満である場合に前記第2の画素の第2の異常を検出するステップと
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の植生指数を前記第1の画素の前記周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、前記第1の符号付き距離を判定するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基準植生指数を前記基準画素の前記周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、前記基準符号付き距離を判定するステップ、並びに/又は
前記第2の植生指数を前記第2の画素の前記周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、前記第2の符号付き距離を判定するステップ
をさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
複数の前記第1の画素、前記基準画素、及び前記第2の画素の符号付き距離をそれぞれ含む第1の符号付き距離マップ、基準符号付き距離マップ、及び第2の符号付き距離マップを生成するステップをさらに含む、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の符号付き距離マップ、前記基準符号付き距離マップ、及び前記第2の符号付き距離マップが、複数の前記第1の収穫周期、前記基準収穫周期、及び前記第2の収穫周期をそれぞれ含み、
前記複数の前記第1の収穫周期、前記基準収穫周期、及び前記第2の収穫周期が、相互に交替する、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の前記基準作物のそれぞれについての目標ストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップ、
前記複数の前記基準作物のそれぞれについての基準ストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップ、
前記複数の基準作物のそれぞれの前記基準ストレス状態に最小演算子を適用することにより、前記基準符号付き距離マップを更新するステップ、及び/又は
前記複数の前記第2の作物のそれぞれについての第2のストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップ、
前記複数の前記第2の作物のそれぞれの前記第2のストレス状態に最小演算子を適用することにより、前記第2の符号付き距離マップを更新するステップ
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の異常が前記基準符号付き距離マップに存在しない場合に、前記対象作物の前記第1の画素の前記土壌媒介病原体を識別するステップをさらに含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の異常が前記第2の符号付き距離マップに存在する場合に、前記第1の異常が再発性土壌媒介病原体であることを識別するステップ、又は
前記第1の異常が前記第2の符号付き距離マップに存在しない場合に、前記第1の異常が非再発性土壌媒介病原体であることを識別するステップ
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記識別される土壌媒介病原体のレベルを調整するための前記定義済み閾値を変更するステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記定義済み閾値未満の符号付き距離を有する画素で前記対象作物の前記第1の画素を分離するステップをさらに含み、前記定義済み閾値が、フォールスアラームを示す確率に対応する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記土壌媒介病原体が、線虫ストレスであり、前記対象作物が、ダイズであり、前記基準作物が、非宿主作物である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のステップを実行するためのコンピュータプログラムを含む不揮発性メモリ。
【請求項15】
農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別するシステムであって、
第1の収穫周期における前記農地区画の第1のデジタル画像及び基準収穫周期における前記農地区画の基準デジタル画像を取得する画像キャプチャ装置であって、前記第1の収穫周期に、前記対象作物が前記農地区画で成長し、前記基準収穫周期に、基準作物が前記農地区画で成長し、前記基準作物が、前記対象作物とは異なる、画像キャプチャ装置と、
前記第1のデジタル画像内の第1の画素に関連する第1の植生指数を計算し、前記第1の画素と前記第1の画素の周囲の画素との間の第1の符号付き距離を前記第1の植生指数に基づいて判定し、前記第1の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に前記第1の画素の第1の異常を検出する、計算ユニットと
を備え、
前記計算ユニットが、前記基準デジタル画像の基準画素についての基準異常をさらに定義し、前記第1の異常が前記基準異常と一致しない場合に、前記第1の画素の前記土壌媒介病原体を識別する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法に関し、特に、ダイズの線虫圧力をマッピング及び管理するリモートセンシング方法に関する。より具体的には、本発明は、線虫によるダイズ畑の被害のリモートセンシング査定の方法に関し、より概略的には、圃場における作物の健康モニタリングの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病気又は害虫などの土壌媒介病原体を識別及びモニタリングすることは、圃場での高い生産性を確保するために極めて重要である。それらの病原体は、一般的に土壌の中で数年間生き延びることができ、宿主作物の存在によって急速に繁殖することができる。線虫は、23の科の200より多くの異なる植物種に感染し得る植物寄生土壌媒介病原体である。それらは、土壌の中に生息しており、植物の根を常食にしている。ダイズ作物は、約100の線虫種の宿主であり、中でも、ダイズシスト線虫(ヘテロデラ・グリシン(Heterodera glycines))、ネグサレ線虫(プラティレンクス・ブラキウルス(Pratylenchus brachyurus))、ネコブ線虫(メロイドギネ・インコグニタ/ジャバニカ(Meloidogyne incognita/javanica))、レニフォーム線虫(ロティレンチュルス・レニフォルミス(Rotylenchus reniformis))、及び螺旋線虫(ヘリコティレンクス属(Helicotylenchus spp.))が最も一般的なものである。線虫のライフサイクルは、種によってわずかに異なる。しかしながら、それらは全て根系を常食にする。
【0003】
線虫は、田畑の区画内で発生し、移動性が低い。作物被害は、線虫がダイズ根に侵入し餌とすると発生して、水及び栄養を入手する植物の能力を低下させ、生産性の低下を生じることがある。地上での感染症状は、線虫感染症に一意ではなく、養分欠乏、干ばつからのストレス、薬害、又は他の害虫及び病気と混同される場合がある。これが、線虫関連ストレスを査定する方法が限定される理由である。従来の方法は、線虫ストレスの典型的なむらのある形状の専門的な視覚的査定を用いた人間による偵察に依存している。そのような査定は、訓練された査定者の目に依存しており、これには偏りがあり、不正確で、反復可能でない場合があり、大きな地理的領域に拡張されない。最終的に、線虫の存在は、局所土壌サンプリングと、異なる線虫種を識別し、個体の数を数えるための実験室内での手順とによっても確認され得る。この場合も、そのような技術は、大きな地理的領域にうまく拡張されず、コストがかかり、線虫個体数の局所的な空間変動性を捉えることもできないことがある。線虫の影響を低下させるための対抗策には、輪作、耐性品種の使用、及び殺線虫剤の使用などの農業慣行が含まれる。特に、輪作は、土壌中の線虫の個体数を減少させるために、ダイズと、他の非宿主作物又は例えば限定ではないがトウモロコシなどの線虫の影響を受けにくい植物とを交互にすることを伴う。
【0004】
したがって、特に大きな地理的領域にわたって信頼性が高く効果的である、作物の線虫ストレスなどの土壌媒介病原体をマッピングするための改善された方法が必要である。そのような方法によって、より良い土壌媒介病原体管理が可能となり、最終的には、より高い作物生産がもたらされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、農地区画における対象作物に対する田畑内の土壌媒介病原体、特に、ダイズ作物に対する線虫ストレスの、高信頼且つ効果的で、コンピュータ支援型の査定を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、独立請求項1の特徴によって定義されるように、農地区画における対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法によって、この必要性が解決される。好適な実施形態は、従属項の対象である。
【0007】
一態様において、本発明は、農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法に関する。方法は、第1の収穫周期(crop cycle)に農地区画の第1のデジタル画像を取得するステップであって、第1の収穫周期に、対象作物が農地区画で成長する、取得するステップと、基準収穫周期に農地区画の基準デジタル画像を取得するステップであって、基準収穫周期に、基準作物が農地区画で成長し、基準作物が、対象作物とは異なる、取得するステップと、第1のデジタル画像内の第1の画素に関連する第1の植生(vegetation)指数を計算するステップ、第1の画素と第1の画素の周囲の画素との間の第1の符号付き距離を第1の植生指数に基づいて判定するステップ、及び第1の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に第1の画素の第1の異常を検出するステップと、基準デジタル画像の基準画素についての基準異常を定義するステップと、第1の異常が基準異常と一致しない場合に、第1の画素の土壌媒介病原体を識別するステップと、を含む。
【0008】
本発明による方法は、作物のデジタル画像を処理し、比較的人間の介入を少なくして、対象作物に対する土壌媒介病原体を検出するコンピュータプログラムとして実現され得る。言い換えると、方法は、コンピュータ実施発明に関し、上述及び後述の方法のステップは、コンピュータプログラムにおいて実施され得る。コンピュータプログラムは、不揮発性メモリに記憶され得る。コンピュータは、そのオペレーティングシステム及びハードウェアコンポーネントを利用して、農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別するためにコンピュータプログラムを実行し得る。「コンピュータ」という用語は、いくつかのコンピュータ又は計算ユニットを分散方式で含むだけでなく、デジタル画像を取得するためのカメラ及びドローンなどの他の電子デバイスを含むシステムに関連し得る。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、農地区画において対象作物に対する土壌媒介病原体を識別するシステムであって、第1の収穫周期における農地区画の第1のデジタル画像及び基準収穫周期における農地区画の基準デジタル画像を取得するように構成される、画像キャプチャ装置を備える、システムに関する。第1の収穫周期に、対象作物は、農地区画で成長する。基準収穫周期に、対象作物は、農地区画で成長する。基準作物は、対象作物とは異なる。システムは、第1のデジタル画像内の第1の画素に関連する第1の植生指数を計算し、第1の画素と第1の画素の周囲の画素との間の第1の符号付き距離を第1の植生指数に基づいて判定し、第1の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に第1の画素の第1の異常を検出するように構成される、計算ユニットをさらに備える。計算ユニットは、基準デジタル画像の基準画素についての基準異常を定義し、第1の異常が基準異常と一致しない場合に、第1の画素の土壌媒介病原体を識別するようにさらに構成される。
【0010】
「土壌媒介病原体」という用語は、通常土壌及び/又は根に生息し、繁殖する害虫又は病気に関する。それは、根系への被害及び植物群落への直接的又は間接的な被害を引き起こし得る。土壌媒介病原体は、典型的には、菌類、バクテリア、及び線虫を含む。土壌媒介病原体によって、特に線虫によって攻撃され、又はストレスが与えられる農地区画の作物は、発育阻害、葉の黄化及び萎れなどの症状を示す。作物に対するそのような被害は、収量の減少をもたらすこととなる。群落に対するこれらの症状は、人間の目又はコンピュータを使用した画像処理手段によって認識可能である。
【0011】
農地区画に関連する「デジタル画像」という用語は、農地区画内の作物の視覚的な写真表現であるデジタル画像又は写真に関する。デジタル画像は、画素とも呼ばれる写真要素を含む。各画素には、その強度についての数値表現の有限且つ離散量が与えられる。必要に応じて、代表的な発明におけるデジタル画像は、50メートルの空間解像度を有してもよい。この場合、デジタル画像の1つの画素は、50×50メートルの作物の領域を表す。より高度な分析の場合、空間解像度は、より精細であってもよく、即ち20メートル以下であってもよい。デジタル画像は、例えば、ドローン、気球、飛行機などの空中輸送プラットフォーム、又は衛星などの宇宙輸送プラットフォームによって取得され得る。デジタル画像は、対象の農地区画の境界を使用して切り取られてもよく、それにより、使用可能なもの、例えば、潜在的な雲のない画像を選択する。
【0012】
「対象作物」という用語は、査定の必要がある農地区画内で成長する作物に関する。言い換えると、対象作物は、その上の土壌媒介病原体の存在が本発明の方法を使用して識別される、候補作物である。例示的実施形態では、対象作物は、ダイズである。
【0013】
「基準作物」という用語は、基準収穫周期に成長する作物に関する。対象作物のデジタル画像を基準作物のデジタル画像と比較するために、基準作物は、対象作物とは異なる作物である。基準収穫周期は、対象収穫周期よりも最近の時期であり得る。例えば、12ヶ月前の田畑における対象作物に対する線虫圧力を査定するためには、それが存在する限り、6か月前からの基準収穫周期が使用され得る。代替として、基準収穫周期は、対象収穫周期の前にも成長され得る。例示的実施形態では、基準作物は、対象作物とは異なる非宿主作物である。
【0014】
「植生指数」という用語は、地表面、より具体的には地球の植生の観察及び分析のための指標の1つである。デジタル画像内の画素に関連して、植生指数は、画素によって表現された農地区画の植生活性度(vigour)を示す。植生の植生指数は、農地区画のデジタル画像から導出され得る。それは、農地区画の植生特性に関連する。植生指数は、土壌及びその上で成長する作物を含む農地区画の植生の健康を示すために使用され得る。典型的には、正規化差植生指数(NDVI:Normalised Difference Vegetation Index)は、ベンチマークとして使用されるが、緑正規化差植生指数(GNDVI:Green Normalised Difference Vegetation Index)又は単一スペクトル帯などの他の指数も使用され得る。
【0015】
「符号付き距離」という用語は、所与の画素の植生指数が周囲の画素の平均植生指数からどのくらい外れているかによって定量化するものであり、植生指数は、好ましくはNDVIである。符号付き距離は、式(1)によって定義されるように計算されてもよく、ここで、xは、査定する中心画素の植生指数値であり、μ及びσは、周囲の画素の平均及び標準偏差である。
【数1】
【0016】
「周囲の画素」は、所与の画素に直接隣接する又は隣にあるのではなく、所与の画素まで定義済み距離を有する近隣画素に関する。例えば、定義済み距離は、農地区画内の空間距離に関して少なくとも70メートル且つ多くとも310メートルであってもよく、即ち、近隣画素は、所与の画素まで70~310メートルの距離を有する。幾何学的観点から、周囲の画素は、ドーナツ形状のウィンドウを形成する。対象作物の種類に応じて、定義済み距離は、また、80~310メートル、又は100~250メートルであってもよい。
【0017】
デジタル画像の画素に関連する「異常」という用語は、土壌媒介病原体を有する可能性がある画素の状態に関する。例えば、線虫ストレス下のデジタル画像の画素は、第1の収穫周期の間に異常として検出され、且つ基準収穫周期のどこからも全く異常として検出されない画素である。線虫に関連しないストレス下の画素は、対象の第1の収穫周期の間及び基準収穫周期の間に、異常として検出される画素である。
【0018】
本発明は、区別可能な画像パターンを利用して、ダイズ作物などの対象作物に対する線虫ストレスのような、田畑内の土壌媒介病原体ストレスの信頼性の高い査定を提供する。本発明による方法は、リモートセンシング航空画像又は衛星画像に基づき、それを大きな地理的領域に拡張可能にする。特に、それは、ダイズなどの対象作物と非宿主植物などの基準作物との輪作をキャプチャして、線虫ストレスのような地上の土壌媒介病原体ストレスを他の非線虫ストレスから分離する、時系列の画像に依存する。基礎となる分離方策は、線虫ストレスが、田畑の同じ特定位置においてダイズ周期の間にのみ目に見え、非宿主植物周期の間は現れないが、ダイズ周期及び非宿主作物周期の両方の間、他のストレスが目に見えるということである。同じ分離方策は、ダイズのフザリウム・バーリフォルメ(Fusarium virguliforme)(突然死症候群)又はアブラナのキャベツ根こぶ病(Plasmodiophora brassicae)(根こぶ病)などの、他の作物固有の病原体にも当てはまる。
【0019】
好ましくは、基準異常は、基準デジタル画像内の基準画素についての農地区画の植生活性度を示す基準植生指数を計算するステップと、基準画素と基準画素の周囲の画素との間の基準符号付き距離を判定するステップと、基準符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に基準画素の基準異常を検出するステップと、によって定義され得る。代替として、基準異常は、従来の手法を使用して、例えば人間の介入に依存して、判定されてもよい。さらに、基準異常は、既に分類されて、履歴上のデータベースに記憶されてもよい。比較すると、本発明は、基準異常を検出するための計算手法を利用し、それによって、検出の信頼性がさらに改善され得る。上記ステップを使用する基準異常の検出は、人間の目に依存しないため、信頼性及び有効性がさらに改善され得る。しかしながら、基準異常が、人間の目などの従来手法を使用して既に分類されている場合、それらは、上記ステップに従って再分類することなく使用されてもよい。
【0020】
好ましくは、方法は、土壌媒介病原体の識別結果を精密化するために追加の収穫周期のデジタル画像を使用する、さらなるステップを含む。追加作物の使用は、第2の収穫周期に農地区画の第2のデジタル画像を取得するステップであって、第2の収穫周期に、対象作物が農地区画で成長する、取得するステップと、第2のデジタル画像内の第2の画素についての農地区画の植生活性度を示す第2の植生指数を計算するステップ、第2の画素と第2の画素の周囲の画素との間の第2の符号付き距離を判定するステップ、及び第2の符号付き距離が定義済み閾値未満である場合に第2の画素の第2の異常を検出するステップと、を含む。このように、土壌媒介病原体の識別結果は、例えば、対象作物の土壌媒介病原体検出の正確性を上昇させて、信頼性の観点においてさらに改善され得る。対象作物の追加の収穫周期、即ち第2の収穫周期からの画像を使用することによって、線虫ストレスを2つのカテゴリ、(i)線虫ストレスが第1の画素上のみで検出され、第2の画素上では検出されない場合の、非回帰性(非再発性;non-recurrent)線虫ストレス、(ii)線虫ストレスが第1の画素及び第2の画素の両方の上で検出される場合の、回帰性(再発性;recurrent)線虫ストレスにさらに分類することが可能となる。一般的に線虫が土壌の中で数年間生き延びることができるという事実に準じると、回帰性線虫ストレスは、より信頼性の高い分類としても考えられ得る。
【0021】
好ましくは、第1の符号付き距離は、第1の植生指数を第1の画素の周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、判定される。上述の通り、第1の符号付き距離は、式(1)を使用して計算されてもよく、又は植生指数に閾値を直接適用してもよく、例えば、異常に低い植生指数値で画素を分離することも使用されてもよい。
【0022】
好ましくは、基準符号付き距離及び第2の符号付き距離は、上記と同様に計算され得る。即ち、基準符号付き距離は、基準植生指数を基準画素の周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、判定され得る。第2の符号付き距離は、第2の植生指数を第2の画素の周囲の画素の植生指数の平均及び標準偏差と比較することにより、判定され得る。第1の符号付き距離と同様に、基準符号付き距離及び第2の符号付き距離は、式(1)を使用して計算されてもよく、又はそれぞれの植生指数にそれぞれの閾値を直接適用してもよく、例えば、異常に低い植生指数値で画素を分離することも使用されてもよい。
【0023】
好ましくは、第2の収穫周期は、第1の収穫周期の前又は後の適時に、対象作物の土壌媒介病原体の識別を助けるために使用され得る。複数の第2の収穫周期のデジタル画像が、データベースに記憶されてもよく、必要であればデータベースを検索してもよい。
【0024】
好ましくは、方法は、複数の第1の画素、基準画素、及び第2の画素の符号付き距離をそれぞれ含む第1の符号付き距離マップ、基準符号付き距離マップ、及び第2の符号付き距離マップを生成するステップをさらに含む。
【0025】
好ましくは、第1の符号付き距離マップ、基準符号付き距離マップ、及び第2の符号付き距離マップは、複数の基準収穫周期、及び第2の収穫周期をそれぞれ含み得る。例えば、平均基準符号付き距離マップは、数学演算子を使用して基準収穫周期毎に計算される。例えば、これらの複数の周期の符号付き距離は、最も厳しい過去のストレスを強調するために、最小演算子によってマージされてもよい。符号付き距離マップは、異常又は異常画素を視覚的に表現する画像でもある。特に、符号付き距離マップは、画素を有するデジタル画像であり、0に近い画素値は、正常画素を表し、0を超える画素値は、異常に高い植生指数に対応し、0未満の画素値は、異常に低い植生指数に対応する。平均符号付き距離マップを使用するさらなる利点は、単一画像上での低い符号付き距離の発生の影響を低下させることである。単一画像上の低い符号付き距離は、検出されない小さな雲又は雲の影を有する画像などのノイズに起因すると見られる。比較すると、線虫被害が複数の画像にわたって持続する植生ストレスをもたらすことが予期される。
【0026】
符号付き距離マップを使用する代わりに、異常に低い植生指数値を有する画素を分離する任意の他の方法も使用されてもよい。そのような代替方法は、例えば、固定閾値未満の植生指数値を有する異常画素を直接分離することを含む。
【0027】
好ましくは、方法は、複数の対象作物のそれぞれについての目標ストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップと、複数の対象作物のそれぞれの対象ストレス状態に最小演算子を適用することにより、対象符号付き距離マップを更新するステップと、をさらに含む。最小演算子を用いたステップは、必須ではない。対象周期内に複数の画像がやはり存在し得るため、平均演算子を用いたステップが必要とされる場合がある。
【0028】
好ましくは、方法は、複数の基準作物のそれぞれについての基準ストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップと、複数の基準作物のそれぞれの基準ストレス状態に最小演算子を適用することにより、基準符号付き距離マップを更新するステップと、をさらに含む。
【0029】
好ましくは、方法は、複数の第2の作物のそれぞれについての第2のストレス状態を、平均演算子を使用してそれぞれ計算するステップと、複数の第2の作物のそれぞれの第2のストレス状態に最小演算子を適用することにより、第2の符号付き距離マップを更新するステップと、をさらに含む。
【0030】
上述の通り、符号付き距離マップ内の低い値は、異常に低い植生指数に対応し、それは、植生の穴である。したがって、複数周期にわたって最小演算子を使用することによって、最も厳しいストレスの発生が維持されてもよく、所与の収穫周期に対して平均演算子を使用することは、ノイズに起因する誤ったストレス検出を低下させようとすることである。ここでの「ノイズ」は、単一画像、例えば、フィルタリング除去されなかった小さな雲のある画像のみの上での小さな符号付き距離につながる何かに対応する。比較すると、線虫ストレスが複数の画像にわたって持続することが予期され得る。
【0031】
好ましくは、方法は、第1の異常が基準符号付き距離マップに存在しない場合に、第1の画素の土壌媒介病原体を識別するステップをさらに含む。
【0032】
好ましくは、方法は、第1の異常が第2の符号付き距離マップに存在する場合に、第1の異常が回帰性土壌媒介病原体であることを識別するステップ、又は第1の異常が第2の符号付き距離マップに存在しない場合に、第1の異常が非回帰性土壌媒介病原体であることを識別するステップをさらに含む。特に、異常が第1の収穫周期の間にのみ発生し、第2の収穫周期の間には発生しない場合、異常は、非回帰性線虫として分類され得る。
【0033】
言い換えると、第1の符号付き距離マップと基準符号付き距離マップ及び第2の符号付き距離マップとの比較を用いて、土壌媒介病原体のより具体的な識別が説明され得る。特に、第1の異常が基準符号付き距離マップに存在しない場合、対象作物は、土壌媒介病原体を有する可能性がある。さらに、第1の異常が第2の符号付き距離マップに存在する場合、それは、対象作物が回帰性土壌媒介病原体を有する可能性があることを意味し、又は、第1の異常が第2の符号付き距離マップに存在しない場合、それは、対象作物が非回帰性土壌媒介病原体を有する可能性があることを意味する。第1の異常が基準符号付き距離マップに存在する場合、それは、対象作物が土壌媒介病原体を有しない可能性があることを意味する。
【0034】
好ましくは、方法は、識別される土壌媒介病原体のレベルを調整するための定義済み閾値を変更するステップをさらに含む。土壌媒介病原体のストレスのレベル上昇を定義するために、異なる閾値が有用であり得る。
【0035】
特に、それは、ある値より下である画素の分離に使用され得る。ゆえに、方法は、定義済み閾値未満の符号付き距離を有する画素で第1の画素を分離するステップであって、定義済み閾値が、フォールスアラームを示す確率に対応する、分離するステップをさらに含み得る。
【0036】
好ましくは、デジタル画像は、50メートル以下、好ましくは20メートル以下の空間解像度を有する。必要な画像解像度は、作物の種類及び査定される土壌媒介病原体に依存する。
【0037】
好ましくは、第1の植生指数、基準植生指数、及び第2の植生指数のそれぞれが、正規化差植生指数、緑正規化差植生指数、及び近赤外帯の少なくとも1つを含む。
【0038】
本発明は、所与の地理的領域についてのダイズ作物の線虫ストレスなどの土壌媒介病原体に起因する地上ストレスを有する領域を検出する方法を提供する。例えば、それによって、ダイズ畑をマッピングすること、及び線虫が寄生した領域を識別することが可能となる。方法は、地上の線虫ストレスを他の非線虫ストレスから分離するために、ダイズと非宿主植物との輪作をキャプチャする、時系列のリモートセンシング航空画像又は衛星画像に依存する。非線虫ストレスは、地盤締め固め、養分欠乏、干ばつストレス、及び他の非ダイズ固有ストレスを含み得る。方法は、大きな地理的領域にわたって、ダイズの線虫ストレスの信頼性の高いマップを提供する。そのような情報は、より良い線虫管理、及び最終的にはダイズ生産の改善に有用である。
【0039】
本発明による方法は、添付図面を参照して、本発明の例示的実施形態として以下に詳細に説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】線虫ストレス下のダイズ領域の識別のための例示的実施形態のステップのフロー図を示す。
図2】ダイズ及び非宿主植物の過去の周期を包含する、時系列のマルチスペクトルリモートセンシング画像に依存する例示的実施形態を示す。
図3】デジタル画像毎のNDVI及び、次いでドーナツ形状のスライディングウィンドウについての符号付き距離の計算の例示的実施形態を示す。
図4】ドーナツ形状のウィンドウが、中心画素の画素値を近隣画素の平均及び標準偏差と比較するために使用される、例示的実施形態を示す。
図5】第1の符号付き距離マップ、第2の符号付き距離マップ、及び基準符号付き距離マップが、定義済み閾値を使用してそれぞれ第1の異常マップ、第2の異常マップ、及び基準異常マップに変換される、例示的実施形態を示す。
図6】符号付き距離マップの、現在のダイズ周期についてのマップ、過去のダイズ周期についてのマップ、及び過去の非宿主植物周期についてのマップへの結合であり、結合が、平均演算子及び最小演算子を通して行われる、例示的実施形態を示す。
図7】現在のダイズ周期の間の画素のストレスが線虫に関連するか又は他の原因を有するかを判定するために決定木が使用される、例示的実施形態を示す。
図8】出力への異常マップの結合が高、中、及び低の3つのストレス強度を有する線虫ストレス下にある領域を示す、例示的実施形態を示す。
図9】方法の出力が、高、中、及び低の3つのストレス強度を有する線虫ストレス下にある領域を示し、現在のダイズ周期の間に撮られたドローン画像が出力マップ上で強調された線虫区画を示す、例示的実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
例示的実施形態では、土壌媒介病原体は線虫であり、対象作物はダイズである。これは、単により良く理解するためであり、対象作物に対する土壌媒介病原体を識別する方法の汎用アプリケーションを対象とする特許請求の範囲を限定すべきではない。
【0042】
以下の説明において、ある用語は、便宜上の理由から使用され、本発明を限定することを意図するものではない。「右(right)」、「左(left)」、「上方(up)」、「下方(down)」、「下(under)」、及び「上(above)」は、図面内の方向を指す。専門用語は、明示的に言及した用語だけでなく、それらの派生語及び類似の意味を有する用語を含む。また、「下(beneath)」、「下(below)」、「下位(lower)」、「上(above)」、「上位(upper)」、「近位(proximal)」、「遠位(distal)」などの空間的相対語は、1つの要素又は特徴の、図面に示された別の要素又は特徴に対する関係を説明するために使用され得る。これらの空間的相対語は、図面に示される位置及び向きに加えて、使用中又は動作中のデバイスの異なる位置及び向きを包含することを意図するものである。例えば、図面中のデバイスが反転されている場合、他の要素又は特徴の「下(below)」又は「下(beneath)」として説明される要素は、他の要素又は特徴の「上(above)」又は「上(over)」になる。したがって、例示的用語である「下(below)」は、上及び下の両方の位置及び向きを包含し得る。デバイスは、それ以外の向きに向けられて(90度回転され、又は他の向きに向けられて)もよく、本明細書で使用される空間的相対記述子は、それに従って解釈される。同様に、様々な軸に沿った、且つ様々な軸を中心とした移動の説明は、様々な空間的デバイス位置及び向きを含む。
【0043】
様々な態様及び例示的実施形態の図面及び説明の繰り返しを避けるために、多数の特徴が多数の態様及び実施形態に共通であることを理解されたい。説明又は図面からの態様の省略は、その態様を組み込む実施形態から態様が欠落していることを示唆しているわけではない。その代わりに、態様は、明確化のため、且つ冗長な説明を避けるために省略されている場合がある。この文脈では、以下は、この説明の残りの部分に当てはまる。図面を明確にするために、図面が、説明の直接関連する部分において説明されていない参照符号を含む場合、それは、前の説明セクション又は以下の説明セクションを参照する。さらに、明瞭性のために、図面において、部品の全ての特徴に参照符号が与えられているわけではない場合、それは、同じ部品を示す他の図面を参照する。2つ以上の図面内の類似の番号は、同一又は類似の要素を表す。
【0044】
以下は、本発明の例示的実施形態の詳細な説明であり、即ち、リモートセンシング航空画像又は衛星画像を使用して、ダイズ作物に対する線虫の影響の、田畑内の高信頼性且つ拡張可能な査定のための方法である。
【0045】
図1は、本発明の例示的実施形態のいくつかの主なステップ及び任意のステップに関するフローチャートを示しており、符号付き距離マップを組み立てるステップ及び線虫ストレスを分離するステップは、好適であるが、完全に任意である。
【0046】
第1のステップでは、時系列のマルチスペクトルリモートセンシング画像が取得される。これらのデジタル画像は、農地区画内の作物の視覚的写真表現である。第2のステップでは、包括的なストレスが、植生指数についての符号付き距離を計算することによって検出され得る。第3のステップでは、収穫周期のそれぞれについての符号付き距離マップが、組み立てられ得る。第4のステップでは、ストレスマップに適用された決定木に基づいて、線虫ストレスが分離され得る。
【0047】
特に、第1のステップは、分析される田畑についての時系列のマルチスペクトルリモートセンシング画像を準備することを含み得る。画像は、植生の健康に相関する植生指数を計算することを可能にする、スペクトル帯を含む。正規化差植生指数(NDVI)は、ここでは好適な指数として使用されるが、緑正規化差植生指数(GNDVI)又は単一スペクトル帯などの他の指数も、それらが植生活性度を強調する限り、使用され得る。NDVIは、以下の式(2)を使用して近赤外帯と赤色帯との正規化された差として定義される。
【数2】
【0048】
図2は、複数の収穫周期を包含する時系列画像を示す。ここで、最近のダイズ周期についての線虫ストレスを査定するために、時系列は、ダイズの3つの過去周期及びダイズとの輪作に使用される非宿主植物の3つの過去周期を包含する。いくつかの過去周期には、利用可能な雲のない画像がない場合もある。これは、作物の十分な視覚的表現を提供する雲のない画像を有するダイズ及び非宿主植物についての過去周期が少なくとも1つあれば、許容できる。最後に、全ての画像が、分析される田畑の境界までクロッピングされてもよく、画像をまたいでの画素比較を可能にするために、共通画素グリッド上で再サンプリングしてもよい。これは、任意の事前処理ステップと考えられてもよく、例えば、図2のデジタル画像は、区画内の画素のみを示す。区画外の画素は、マスクされているか又は黒くされており、田畑の境界までいわゆるクロッピングされている。次いで、何らかの衛星ソースの場合、又は異なる衛星が使用される場合、画像は、異なる画素グリッド上でサンプリングされてもよい。複数画像にまたがる所与の画素が分析されるべきであるため、画像は、同一の画素グリッド上で全てサンプリングされるべきである。最近では、衛星画像が、多時点比較を可能にするフォーマットで提供される傾向にある。
【0049】
この実施形態では、過去の第2の収穫周期として3つのダイズ周期、及び過去の基準収穫周期として3つの非宿主作物周期が存在する。これらの収穫周期は、時間スケールの非常に正しい場所に示されるように、現在のダイズである対象作物の線虫の可能性を判定するために使用される。他の実施形態では、第2の収穫周期は、対象収穫周期よりも最近の時期であり、基準収穫周期もまた、対象収穫周期よりも最近の時期であり得る。
【0050】
図1に示される第2のステップは、近隣画素と比較してストレス下にある田畑の画素を識別することを含み得る。まず、NDVIが、一般的な植生の健康を査定するために代理として画像毎に計算される。
【0051】
図3は、式(1)によって定義される、符号付き距離を計算するためにNDVI画像に適用されているスライディングウィンドウを示す。符号付き距離は、所与の画素のNDVIが近隣画素の平均NDVIからどのくらい外れているかによって定量化し得る。この量は、異なる成熟度レベルにある作物を有する画像を取り扱うために、近隣画素の標準偏差によって正規化されてもよい。符号付き距離を計算するために使用されるウィンドウは、ドーナツ形状を有してもよく、それによって、所与の中心画素に近く、またストレス下にあり得る画素を無視することが可能となる。ウィンドウのサイズは、予期される線虫ストレスの典型的なサイズより小さくなるべきではなく、他の大きなスケールの田畑の不均質性よりも大きくなるべきではない。
【0052】
特に、第1の植生指数を含む対象作物のNDVI画像は、撮られた対象作物のデジタル写真(デジタル画像)を使用して生成され得る。NDVI画像に基づいて、符号付き距離マップが計算され得る。
【0053】
図4は、310メートルの外半径及び70メートルの内半径を有する例示的なドーナツ形状ウィンドウを示している。第2のステップの出力は、時系列の各画像に対して1つである符号付き距離マップの集合である。査定される画素は、ドーナツの真ん中にある。この画素に隣接し、又はすぐ隣の近隣画素は、分析から無視されることとなる。査定される画素を取り囲む近隣画素は、査定される画素まで70~310メートルの距離を有し、画素の植生指数を計算するために使用される。
【0054】
図5は、第1の符号付き距離マップ(現在のダイズ)、第2の符号付き距離マップ(過去のダイズ)、及び基準符号付き距離マップ(過去の非宿主作物)をグレイスケールで示し(上の画像)、異常画素が灰色で強調された、即ち、定義済み閾値を使用した変換後の、それらのそれぞれの異常マップを示す(下の画像)。上述の通り、符号付き距離マップ内の低い値は、異常に低い植生指数に対応し、それは、植生の穴である。これに応じて、3つの符号付き距離マップは、穴を表す黒で強調された異常画素を示し、3つの異常マップは、(薄い)灰色で強調された異常画素を示す。第1の異常マップ上の例示的な線虫区画(np)が、白い矢印を用いて強調される。基準異常マップ上では、同一領域が、非線虫領域(nn)を含む。言い換えると、第1の異常マップは、この例示的な領域において基準異常マップと一致しない。
【0055】
図1に示される第3のステップは、収穫周期毎の複数の符号付き距離マップを3つのマップ、現在のダイズ周期についてのマップ、過去のダイズ周期についてのマップ、及び過去の非宿主植物周期についてのマップに結合することを含み得る。
【0056】
図6に示されるように、まず、平均符号付き距離マップが収穫周期毎に計算され、次いで、所与の作物についての過去の周期が、画素単位の最小演算子を用いて共に集約される。平均演算子は、所与の収穫周期の全体的なストレス状態を取り込み、可変数の入力画像を取り扱い得る。最小演算子は、全ての過去の周期の最悪なストレス事象を分離する。この場合、非宿主作物は、本発明による方法の一般定義における基準作物に対応する。さらに、本発明による方法の一般定義において、過去のダイズは第2の作物に対応し、現在のダイズは対象作物に対応する。
【0057】
図1に示される最後のステップは、図6に示されるように、決定木を通して3つの符号付き距離マップを結合して、現在のダイズ周期の間の所与の画素のストレスが、線虫に関連するか、又は他の原因を有するかを判定することを含み得る。それぞれの符号付き距離マップ上で、符号付き距離値が所与の閾値未満である場合に、画素はストレス下にあると考えられる。言い換えると、画素は、それが負のNDVI異常に対応する場合に、ストレス下にある。ストレスレベルの上昇を定義するために、異なる閾値が使用されてもよい。例えば、式(1)から、-2の閾値が、-2σ未満の画素を分離する。非ストレスNDVI画素が、ガウス統計分布に従うと仮定すると、そのような閾値は、2.3%のフォールスアラームの確率に対応する。式(3)は、閾値t、平均μ、及び標準偏差σの関数として、フォールスアラームの確率(PFA:Probability of False Alarm)を与える。関数erfは、誤差関数である。
【数3】
【0058】
図7は、現在のダイズ周期である対象収穫周期の符号付き距離画素を使用した、異常の決定木を示す。特に、異常が第1の収穫周期の間に発生し、第2の収穫周期の間にも発生する場合、異常は、回帰性線虫として分類される。線虫に関連しないストレス下の画素は、対象の第1の収穫周期の間及び基準収穫周期の間に、異常として検出される画素である。第1の異常が回帰性土壌媒介病原体であることは、対象作物が回帰性土壌媒介病原体を有することを意味する。第1の異常が非回帰性土壌媒介病原体であることは、(i)図7に示されるように第2の対象周期が第1の収穫周期の前の適時であるときに、対象作物が潜在的な新たな土壌媒介病原体を有すること、又は(ii)第2の対象周期が、第1の収穫周期としてより最近の時期であるときに、対象作物が非回帰性土壌媒介病原体を有すること、のいずれかを意味する。
【0059】
図8は、図7による決定木を使用した、第1の異常マップ、第2の異常マップ、及び基準異常マップの結合、並びに線虫ストレス下の領域を示す方法の出力マップの例を示す。線虫ストレスの3つの強度が、出力マップ上で強調される(低、中、高)。非線虫ストレス下の領域は示されていないが、本発明の方法の有益な副産物である。非線虫ストレスは、地盤締め固め、水ストレス、ウォーターロギング、養分欠乏、及び他の非ダイズ固有ストレスに対応し得る。ここで、3つのストレスの深刻レベル「低」、「中」、及び「高」は、3つの閾値t=-1.04(15%のPFA)、t=-1.44(7.5%のPFA)、及びt=-2.33(1%のPFA)にそれぞれ対応する。白い矢印は、出力マップ上の例示的な線虫区画(np)を指している。
【0060】
概して、本発明による方法を使用する多くの利点があり、例えば、それによって、より高い収穫及び減少した入力を意味する農場の利益が増加し得る。
【0061】
さらに、方法は、線虫が寄生した田畑の中の位置を識別し得る。寄生された領域のGPS座標を有する線虫寄生マップは、異なる目的のため、例えば、(i)処理された種子又は畝内の殺線虫剤の適用が、寄生された領域のみに適用される、直接的に標的を絞った殺線虫剤適用のため、(ii)診断を確認し、寄生された領域の線虫圧力を正確に評価するための、標的を絞った土壌サンプリングのため、(iii)特に、高い線虫圧力が予期される田畑において、線虫圧力を低下させるために田畑全体又はその一部に対して特定の輪作が選択され得る、輪作の最適化のため、(iv)田畑における経時的な線虫圧力の進展を査定するため、に使用され得る。
【0062】
加えて、方法は、異なる田畑間で線虫圧力を比較するために使用され得る。例えば、方法は、農場経営を最適化及び優先化するために、最も寄生された田畑を識別し得る。異なる田畑における経時的な線虫圧力の進展も、適用された対抗策の効果を評価するために査定され得る。
【0063】
最後に、図9は、線虫区画(np)を示す、現在のダイズ周期の間に撮られた航空ドローン画像を右側に示しており、線虫区画(np)は、左側の出力マップ上で矢印によって強調されている。出力マップ上で、線虫ストレス下の領域は、ここでも、高、中、及び低の3つのストレス強度で示されている。
【0064】
本発明の態様及び実施形態を示すこの説明及び添付図面は、保護される発明を定義する特許請求の範囲を限定すると取られるべきではない。言い換えると、本発明は、線虫及びダイズ作物、並びに図面及び前述の説明における標準符号付き距離マップなどの例を使用して詳細に図示され、説明されているが、そのような図示及び説明は、制限ではなく図示又は例示と考えられるべきである。この説明及び特許請求の範囲の思想及び範囲から逸脱することなく、様々な機械的、組成的、構造的、電気的、及び動作上の変更が行われてもよい。いくつかの事例では、周知の回路、構造、及び技術が、本発明を不明確にしないために詳細に示されていない。したがって、変更及び修正が、以下の特許請求の範囲の範囲及び思想内で当業者によって行われ得ると理解されたい。特に、本発明は、上述した、且つ後述する異なる実施形態からの特徴の任意の組み合わせを有するさらなる実施形態を包含する。例えば、本発明の請求項1に定義されるように、符号付き距離マップが使用されていない実施形態において本発明を動作させることが可能である。
【0065】
開示は、また、図面に示された全てのさらなる特徴を個々に包含するが、それらは、上記説明又は下記説明に記載されていない場合がある。また、図面及び説明に記載された実施形態の単一の代替手段、並びにそれらの特徴の単一の代替手段は、本発明の主題から、又は開示された主題から放棄され得る。開示は、特許請求の範囲又は例示的実施形態で定義される特徴から構成される主題、及び上記特徴を含む主題を含む。
【0066】
さらに、特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語は、他の要素又はステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は、複数性を除外するものではない。単一のユニット又はステップは、特許請求の範囲に列挙された複数の特徴の機能を実現し得る。ある手段が互いに異なる従属請求項で言及されているという事実だけで、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。属性又は値に関連する「本質的に」、「約」、「ほぼ」などの用語もそれぞれ、具体的には、属性を正確に定義し、又は値を正確に定義する。所与の計算できる値又は範囲の文脈における「約」という用語は、例えば、所与の値又は範囲の20%以内、10%以内、5%以内、又は2%以内である、値又は範囲を指す。結合若しくは接続されると記載されたコンポーネントは、電気的若しくは機械的に直接結合されてもよく、又は、それらが、1つ若しくは複数の中間コンポーネントを介して間接的に結合されてもよい。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0067】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアの一部と共に、又は他のハードウェアの一部として供給される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体などの適当な媒体上に記憶/分配されてもよいが、インターネット又は他の有線若しくは無線電気通信システムを介するなどの他の形態でも分配されてもよい。特に、例えば、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体上に記憶されたコンピュータプログラム製品であってもよく、そのコンピュータプログラム製品が、本発明による方法などの特定の方法を実施するために実行されるように適合されたコンピュータ実行可能プログラムコードを有し得る。さらに、コンピュータプログラムは、また、本発明による方法などの特定の方法を具現化するためのデータ構造製品又は信号であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】