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特表2024-518833ブレーキディスクとパッドとの間の距離の動的調整を備えたディスクブレーキ、および関連方法
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  • 特表-ブレーキディスクとパッドとの間の距離の動的調整を備えたディスクブレーキ、および関連方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ブレーキディスクとパッドとの間の距離の動的調整を備えたディスクブレーキ、および関連方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20240425BHJP
   F16D 65/62 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D65/62
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571296
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 IB2022054536
(87)【国際公開番号】W WO2022243841
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】102021000012968
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】マッツォーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】シェウチク,ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】タヴェルニーニ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】グルーバー,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ソルニオッティ,アルド
(72)【発明者】
【氏名】ビダル ムニョス,ビクトル
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
【Fターム(参考)】
3D048BB25
3D048BB29
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH66
3D048HH68
3D048QQ04
3D048QQ07
3D048RR35
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA02
3J058CC15
3J058CC76
3J058CC83
3J058DA03
3J058FA01
(57)【要約】
ディスクブレーキキャリパ(20)を有するブレーキディスク(16)と、作動軸方向(A-A)に沿って互いに対向する両側にある少なくとも1対のパッド(24)とを有する少なくとも一つのディスクブレーキ(12)と;前記パッド(24)の少なくとも一方の上でプッシャとして作用するピストン(36)に作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータ(32)と;前記電動アクチュエータ(32)に作動可能に連結され、制動要求時にパッド(24)をブレーキディスク(16)に接触させ、かつピストン(36)とパッド(24)とを静止位置または後退位置に戻すように、作動軸方向(A-A)に沿って前進位置に移動させるようにプログラムされた処理及び制御ユニット(40)を備え;パッド(24)とブレーキディスク(16)との間に隙間(44)が特定され;処理及び制御ユニット(40)が、制動要求がない場合に、制動動作に対する将来の要求の予測を定義する車両(8)の少なくとも1つの動的パラメータに従って前記隙間(44)を変化させることによって電動アクチュエータ(32)を作動させるアルゴリズムを実施するようにプログラムされている、車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(8)用のブレーキシステム(4)であって
ブレーキディスク(16)を跨ぐように配置されたディスクブレーキキャリパ(20)を有するブレーキディスク(16)と、互いに対向し、前記ブレーキディスク(16)の回転軸(X-X)と平行な作動軸方向(A-A)に沿って反対側から前記ブレーキディスク(16)に作用する少なくとも1対のパッド(24)と、を備える少なくとも1つのディスクブレーキ(12)と、
前記作動軸方向(A-A)に沿って前記パッド(24)の少なくとも1つに対してプッシャとして作用するピストン(36)に作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータ(32)と、
前記電動アクチュエータ(32)に作動的に接続され、前記ピストン(36)と相対するパッド(24)とを、前記作動軸方向(A-A)に沿って、制動要求時、前記パッド(24)を前記ブレーキディスク(16)に接触させて押圧するように前進位置に移動させ、かつ、前記パッド(24)と前記ブレーキディスク(16)との間に隙間(44)が特定される静止位置または後退位置に前記ピストン(36)を移動させるようにプログラムされた処理及び制御ユニット(40)と、を備え、
前記処理及び制御ユニット(40)は、制動要求が無い時、前記電動アクチュエータ(32)を、制動動作の要求の予測を規定する前記車両(8)の少なくとも1つの動的パラメータの関数として前記隙間(44)を変化させながら作動させ、制動動作の要求が差し迫っている場合には前記隙間(44)を大きくし、制動動作の要求が差し迫っていない場合には前記隙間(44)を小さくするアルゴリズムを実行するようにプログラムされていることを特徴とする車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項2】
前記ディスクブレーキキャリパ(20)は、前記パッド(24)において、ブレーキ作用の要求がない場合に、前記パッド(24)を前記ピストン(36)の方へ後退させるように、前記パッド(24)を前記ブレーキディスク(16)から軸方向に離間させる弾性作用を発揮するスプリングまたはスパイダ(48)のようなスラスト手段を備えている、請求項1に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項3】
前記パッド(24)が、前記作動軸方向(A-A)に沿って一体的に並進するように、前記ピストン(36)のそれぞれに連結されている、請求項1または2に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項4】
前記アルゴリズムが、前記隙間(44)を、定義された低い残留トルク及び高い応答時間に対応する最大値又は高い値に設定するか、又は前記隙間(44)を、高い残留トルク及び低い応答時間に対応する低い値に設定するかを決定する、請求項1、2又は3に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項5】
前記車両(8)の前記動的パラメータは、前記ブレーキシステム(4)を備えた車両(8)と前記車両(8)に先行する別の車両のそれぞれが速度及び軌道を変化させない場合において前記車両(8)と前記別の車両との間で衝突が発生するために要する時間として推定される衝突時間を含み、
前記推定される衝突時間が減少すれば前記隙間(44)が減少され、
前記推定される衝突時間が増加すれば前記隙間(44)が増加される、
請求項1、2、3又は4記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項6】
前記衝突時間は、前記ブレーキシステム(4)を備えた車両(8)が走行する路面の摩擦係数の関数として推定され、
前記摩擦係数が減少すれば前記隙間(44)が減少され、
前記摩擦係数が増加すれば前記隙間(44)が増加される、ことを特徴とする請求項5記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項7】
前記衝突時間が、前記ブレーキシステム(4)を備えた車両(8)と前記車両(8)に先行する前記別の車両との間の加速度の差の関数として推定され、
前記加速度の差が、制動が必要となる可能性又は衝突の可能性をもたらす場合には、前記隙間(44)が減少され、
前記加速度の差が、制動が必要となる可能性又は衝突の可能性をもたらさない場合には、前記隙間(44)が増加される、請求項5又は6に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項8】
前記車両(8)の前記動的パラメータが、ハザード指数、すなわち、臨界制動距離と臨界ハザード距離との間の関係として定義される2つの車両間の衝突リスクを定義する無次元指数を含み、
前記臨界制動距離が前記臨界ハザード距離より小さいときは前記隙間(44)が減少され、
前記臨界制動距離が前記臨界ハザード距離より大きいときは前記隙間(44)が増加される、請求項1から7のいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項9】
前記車両(8)の前記動的パラメータは、前記ブレーキシステム(4)を備えた車両(8)と前記車両(8)に先行する別の車両との間の所定の安全距離を含み、
前記安全距離が減少すれば前記隙間(44)が減少し、
前記安全距離が増加すれば前記隙間(44)が増加する、請求項1から8のいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項10】
前記ブレーキシステム(4)を備えた前記車両(8)の前記動的パラメータが、先行車両からの緊急信号を含み、前記先行車両に続く前記車両(8)が前記先行車両に接続している、請求項1から9のいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項11】
前記動的パラメータが、前記車両(8)の経路に沿ったリアルタイムの交通状況に関する情報を含む、請求項1から10のいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項12】
前記ブレーキシステム(4)を備えた前記車両(8)の前記動的パラメータが、速度制限および/または道路の傾斜および/またはカーブなどの、前記車両(8)の経路のリアルタイムの条件に関する情報を含む、請求項1から11までのいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項13】
前記車両(8)の前記動的パラメータは、乗客による快適性の要求を含み、
より快適性が必要な場合には前記隙間(44)を大きくし、その逆の場合には前記隙間(44)を小さくすることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項14】
前記電動アクチュエータ(32)による前記隙間(44)の変動が離散的である、請求項1から13までのいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項15】
前記アルゴリズムが、衝突時間の最小値と衝突時間の最大値とを特定し、前記衝突時間が、前記衝突時間の最小値と前記衝突時間の最大値とによってそれぞれ定義される閾値を超えたときに、前記隙間(44)の変動が離散的に実行されることを特徴とする、少なくとも請求項4と組み合わせた、請求項14に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項16】
前記衝突時間の最小値は4.5秒であり、前記衝突時間の最大値は5秒である、請求項15に記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項17】
前記電動アクチュエータ(32)による前記隙間(44)の前記変動は、前記隙間(44)を前記車両(8)の前記動的パラメータの関数として、最小値と最大値との間で変動させるように、連続的である、請求項1から13までのいずれかに記載の車両(8)用のブレーキシステム(4)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれかに記載のブレーキシステム(4)を備える車両(8)。
【請求項19】
車両(8)用のブレーキシステム(4)を提供するステップであって、
前記ブレーキシステム(4)は、
ブレーキディスク(16)を跨ぐように配置されたディスクブレーキキャリパ(20)を有するブレーキディスク(16)と、互いに対向して前記ブレーキディスク(16)の回転軸(X-X)と平行な軸方向の作動軸方向(A-A)に沿って反対側から前記ブレーキディスク(16)に作用する少なくとも1対のパッド(24)と、を備える少なくとも1つのディスクブレーキ(12)と、
前記作動軸方向(A-A)に沿って前記パッド(24)の少なくとも1つに対してプッシャとして作用するピストン(36)に作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータ(32)と、
記電動アクチュエータ(32)に作動的に接続され、前記ピストン(36)と相対する前記パッド(24)とを、前記軸方向の作動方軸向(A-A)に沿って、制動要求時に前記パッド(24)を前記ブレーキディスク(16)に接触させて押圧するように前進位置に移動させ、かつ前記ピストン(36)と相対する前記パッド(24)とを、前記パッド(24)と前記ブレーキディスク(16)との間に隙間(44)が特定される静止位置または後退位置に戻すようにプログラムされた、処理及び制御ユニット(40)と、を備え、
前記処理及び制御ユニット(40)は、前記制動要求がない場合に、前記電動アクチュエータ(32)を、制動動作の要求予測を規定する車両(8)の少なくとも1つの動的パラメータの関数として前記隙間(44)を変化させて作動させ、制動動作の可能性がないと判断された場合に前記隙間(44)を増大させ、制動動作の可能性があると判断された場合に前記隙間(44)を減少させるアルゴリズムを実施するようにプログラムされていることを特徴とする、ブレーキシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクとパッドとの間の距離の動的調整を備えたブレーキバイワイヤ(BBW)ディスクブレーキシステムに関する。さらに、本発明は、BBW型ブレーキシステムにおけるブレーキディスクとパッドとの間の距離を調整するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧式ディスクブレーキキャリパでは、ブレーキディスクとパッドとの間の距離は設計段階で定義され、能動的に変更することはできない。キャリパピストンは、ブレーキ制御、ひいてはブレーキシステム内の液圧が解放されたときに、シールの弾性変形によって受動的に引き出されたり引っ込められたりするだけである。ピストンシールとそのシートは、シールがより大きく変形するように設計することができ、その結果、解放時にピストンがより大きな力で戻りストローク(ロールバック)を達成することができる。しかし、このことは、ブレーキ液の移動/変位が少なく、ペダルの制動フィーリングが良好であるという制動要求を悪化させる(すなわち、ペダルの作動トラベルが減少する)結果となる。公知の解決策では、いずれにしても、ピストンの位置は、車両の使用中に任意に変更することができない。
【0003】
液圧流体を使用せず、したがって電気機械式キャリパーを備えたBBWタイプのブレーキシステムでは、ブレーキディスクとパッドの間の距離は、ソフトウェアによって制御され、いつでも変更することができるが、その値は、以下の異なる必要性の間の妥協から生じるため、任意に選択することはできない。
【0004】
クリアランスが大きいまたは高いと、ブレーキディスク上の残留ブレーキトルクとそれに伴うパッドの摩耗が減少するが、ユーザのブレーキ動作の要求と実際のブレーキ動作の開始との間に無視できない遅れが生じるため、ブレーキ応答時間が大幅に増加する。
【0005】
しかし同時に、制動要求がない場合の残留ブレーキトルク、パッドの摩耗を増加させ、車両の燃料消費を増加させ、その結果、車両の航続距離を減少させる(特に電動車両の場合)。また、消費されるエネルギーや、パッドの摩耗によるダストや粒子の排出という点で、車両の全体的な汚染も増加させる。
【0006】
したがって、ブレーキディスクとパッドとの間の距離は、一方では効果的な制動作用を達成し、他方では可能な限り低い残留トルクを達成するための妥協点である。
【0007】
従来技術の解決策では、ブレーキディスクとパッドとの間の距離を動的に、すなわちリアルタイムで変更することができないため、車両使用のあらゆる動的条件下で、制動作用の最適化と残留トルクの低減とを実現することができない。
【発明の概要】
【0008】
したがって、先行技術を参照して述べた技術的欠点を解決することができるブレーキシステムを提供する必要性が当技術分野において感じられる。
【0009】
この必要性は、請求項1に記載のブレーキシステムおよび請求項19に記載のブレーキディスクとパッドとの間の距離を調整する方法によって満たされる。
【0010】
特に、この必要性は、車両用のブレーキシステムによって満たされる。このブレーキシステムは、
ブレーキディスクを跨ぐように配置されたディスクブレーキキャリパを有するブレーキディスクと、互いに対向し、ブレーキディスクの回転軸に平行な作動軸方向に沿って反対側から前記ブレーキディスクに作用する少なくとも1対のパッドとを備える少なくとも1つのディスクブレーキと、
前記作動方向に沿って前記パッドの少なくとも一方にプッシャとして作用するピストンに作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータに作動的に接続され、軸方向に沿ってピストンと相対するパッドとを、制動要求時にパッドをブレーキディスクに接触させるように前進位置に移動させ、パッドとブレーキディスクとの間に隙間が特定されるようにピストンを静止位置または後退位置に移動させるようにプログラムされた、処理及び制御ユニットとを有し、
前記処理及び制御ユニットは、制動動作の要求がない場合、制動動作の要求が差し迫っているときには隙間を大きくし、制動動作の要求が差し迫っていないときには隙間を小さくするように、将来の制動動作の要求の予測を規定する車両の少なくとも1つの動的パラメータに従って前記隙間を変化させることによって前記電動アクチュエータを作動させるアルゴリズムを実施するようにプログラムされている。
【0011】
一実施形態によれば、前記パッドにおける前記ディスクブレーキキャリパは、制動作用の要求がない場合に、パッドを関連するピストンに向かって後退させるようにパッドをブレーキディスクから軸方向に離間させる弾性作用を発揮するスプリング又はスパイダ等のスラスト手段を備える。
【0012】
実施形態によれば、パッドは、作動軸方向に沿ってピストンと一体的に並進するように、関連するピストンに拘束される。
【0013】
実施形態によれば、前記アルゴリズムは、定義された低残留トルク及び高応答時間に対応する最大値又は高値で隙間を確立するか、又は高残留トルク及び低応答時間に対応する低値で隙間を確立するかを決定する。
【0014】
一実施形態によれば、車両の前記動的パラメータは、前記車両のそれぞれの速度及び軌道を変化させることなく、前記ブレーキシステムを備える車両とそれに先行する別の車両との間で衝突が発生するのに要する時間として推定される衝突時間を有する。推定衝突時間が短縮されれば、隙間も減少され、その逆もまた同様である。
【0015】
一実施形態によれば、前記衝突時間は、前記ブレーキシステムを備えた車両が走行する路面の摩擦係数の関数として推定される。摩擦係数が減少すれば、隙間も減少し、その逆もまた同様である。
【0016】
一実施形態によれば、前記衝突時間は、前記ブレーキシステムを備えた車両とそれに先行する別の車両との間の加速度の差の関数として推定される。加速度の差が制動の必要性または衝突の可能性をもたらす場合、隙間は減少され、その逆もまた同様である。
【0017】
実施形態によれば、車両の前記動的パラメータは、ハザード指数、すなわち、臨界制動距離と臨界ハザード距離との間の関係として定義される2つの車両間の衝突リスクを定義する無次元指数からなり、臨界制動距離が臨界ハザード距離より小さい場合、隙間が減少され、その逆もまた同様である。
【0018】
一実施形態によれば、車両の前記動的パラメータは、前記ブレーキシステムを備えた車両とそれに先行する別の車両との間の所定の安全距離からなる。明らかに、前記安全距離が減少すれば、隙間も減少し、その逆もまた同様である。
【0019】
一実施形態によれば、前記ブレーキシステムを装備した車両の前記動的パラメータは、後続車両が接続している先行車両からの緊急信号からなる。
【0020】
実施形態によれば、前記動的パラメータは、前記車両の経路に沿ったリアルタイムの交通状況に関する情報からなる。
【0021】
一実施形態によれば、前記ブレーキシステムを備えた車両の前記動的パラメータは、制限速度及び/又は道路の傾斜及び/又はカーブ等の車両の経路のリアルタイムの条件に関する情報からなる。
【0022】
実施形態によれば、前記車両の前記動的パラメータは、車両の乗客による快適性の要求から構成され、より快適性が必要な場合に隙間を大きくし、その逆も同様である。
【0023】
実施形態によれば、電動アクチュエータによる前記隙間変動は離散型である。
【0024】
一実施形態によれば、アルゴリズムは、最小衝突時間値と最大衝突時間値とを特定する。衝突時間の値がこの範囲内に維持される場合、隙間は現在の状態に維持され、一方、衝突時間が前記最小衝突時間値及び前記最大衝突時間値によって定義される前記閾値を超える場合、隙間は変更される。明らかに、特に、低い衝突時間は、短期的に制動が要求される可能性が高いことを意味し、高い衝突時間は、短期的に制動が要求される可能性が低いことを意味する。衝突時間が前記最大値を超える場合、隙間はその上限値に設定され、これはより低い残留トルクとより高い応答時間とに対応し、逆に、衝突時間が前記最小値より小さくなる場合、隙間はその下限値に設定され、これはより高い残留トルクとより低い応答時間とに対応する。
【0025】
実施形態によれば、衝突時間の最小値は4.5秒であり、衝突時間の最大値は5秒である。
【0026】
実施形態によれば、前記電動アクチュエータによる前記隙間の前記変動は、前記車両の前記動的パラメータに応じて、最小値と最大値との間で前記隙間を変動させるように、連続タイプである。
【0027】
本発明はまた、前述したようなブレーキシステムを含む車両を対象とする。
【0028】
本発明はまた、車両(8)のためのブレーキシステム(4)を設定するステップを含む、ブレーキシステムを制御するための方法に関する。
ブレーキシステム(4)は、
ブレーキディスクを跨ぐように配置されたディスクブレーキキャリパを有するブレーキディスクからなる少なくとも1つのディスクブレーキと、
前記ブレーキディスクの回転軸に平行な作動軸方向に沿って互いに対向する側で前記ブレーキディスクに作用する少なくとも1対のパッドと、
前記作動軸方向に沿って前記パッドの少なくとも一方にプッシャとして作用するピストンに作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータに作動的に接続され、制動要求時にパッドをブレーキディスクに接触させて押圧するように、ピストンとそれぞれのパッドを軸方向に沿って前進位置まで移動させ、ピストンとそれぞれのパッドを静止位置または後退位置まで移動させるようにプログラムされた処理及び制御ユニットであって、パッドとブレーキディスクとの間に隙間が特定される、処理及び制御ユニットとを備え、
前記処理及び制御ユニットは、制動要求がない場合に、制動動作が差し迫っているときに隙間を増加させ、制動動作が差し迫っていないときに隙間を減少させるように、制動動作の将来の要求の予測を規定する車両の少なくとも1つの動的パラメータの関数として前記隙間を変化させることによって前記電動アクチュエータを動作させるアルゴリズムを実施するようにプログラムされている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明のさらなる特徴および利点は、その好ましい非限定的な実施形態の以下の説明からより明らかになる。
【0030】
図1図1は、本発明の実施形態によるブレーキシステムを構成する車両の概略図である。
【0031】
以下に説明する実施形態に共通する要素または要素の部分は、同じ参照数字で示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
前述の図を参照すると、参照数字4は、グローバルに、車両8のためのブレーキシステムを示す。
【0033】
ブレーキシステム4は、ブレーキディスク16を跨ぐように配置されたディスクブレーキキャリパ20を有するブレーキディスク16と、互いに対向し、ブレーキディスク16の回転軸X-Xに平行な作動軸方向A-Aに沿って互いに対向する側で前記ブレーキディスク16に作用する少なくとも1対のパッド24,28とを備える少なくとも1つのディスクブレーキ12を備える。本発明は、当該技術分野で公知の固定式およびフローティング式の両方のディスクブレーキキャリパ20に適用されることに留意すべきである。
【0034】
ディスクブレーキ12はさらに、作動軸方向A-Aに沿ってパッド24の少なくとも1つのプッシャとして作用するピストン36に作動可能に連結された少なくとも1つの電動アクチュエータ32を備える。固定式ディスクブレーキキャリパ20の場合、ブレーキディスク16の両側の少なくとも一つのパッド24に作用する少なくとも一つのピストン36が存在する。フローティングタイプのディスクブレーキキャリパの場合、前記ブレーキディスク16の片側の少なくとも一つのパッド24に作用する少なくとも一つのピストン36が存在する。
【0035】
ブレーキシステム4は、電動アクチュエータ32に作動的に接続され、制動要求時にパッド28をブレーキディスク16に接触させるようにピストン36およびそれぞれのパッド28を作動軸A-Aに沿って前進位置に移動させ、パッド28とブレーキディスク16との間の隙間44が特定されるようにピストン36およびそれぞれのパッド28を静止位置または後退位置に戻すようにプログラムされた処理及び制御ユニット40をさらに備える。
【0036】
処理及び制御ユニット40は、スタンドアロンであってもよく、アクチュエータのパッケージングに物理的に統合されていてもよく、或いは、様々な機能を実行するために車両に既に搭載されている他の制御ユニットに統合されていてもよい。
【0037】
電動アクチュエータ32とピストンとの間の接続は、公知の方法で、直接的であってもよいし、中間運動学的なものを含んでもよい。
【0038】
ディスクブレーキキャリパ20は、ブレーキパッド24において、ブレーキ作用の要求がない場合に、パッド24をそれぞれのピストン36に向かって後退させるように、パッド24をブレーキディスク16から軸方向に離間させる弾性作用を発揮するスプリング又はスパイダ48のようなスラスト手段を含んでいてもよいことは注目に値する。
【0039】
さらなる実施形態によれば、パッド24をそれぞれのピストン36に拘束して、それと一体的に並進するようにすることが可能である。
【0040】
有利なことに、処理及び制御ユニット40は、車両8のユーザからの制動要求がない場合に、ユーザによる制動動作の将来の要求の予測を規定する車両の少なくとも1つの動的パラメータの関数として前記隙間44を変化させて電動アクチュエータ32を作動させ、制動動作の要求が差し迫っている場合に隙間44を増大させ、制動動作の要求が差し迫っていない場合に隙間44を減少させるアルゴリズムを実施するようにプログラムされている。
【0041】
具体的には、アルゴリズムは、隙間44を、残留トルクが無視できる最大値(または非常に小さい値以下)、すなわちブレーキディスク16にブレーキ作用が及ぼされない最大値と、残留トルクまたはブレーキディスク16へのブレーキ作用が許容される最小値との間の範囲に維持する。
【0042】
このようにして、ブレーキ作用の要求があり得ないとみなされる場合、隙間44は、ブレーキトルクがないことを保証するように増大される。これは、しかし、可能性がない、またはあり得ないとみなされる制動要求に対するディスクブレーキの応答性を犠牲にして行われる。
【0043】
一方、ブレーキ動作の要求があり得ると見なされる場合、隙間44は、小さなブレーキトルクを許容し得るように減少される。これは、見られるように、あり得ると見なされる制動要求に対するディスクブレーキの応答性を有利にするために行われる。
【0044】
処理及び制御ユニット40によって実施されるアルゴリズムは、車両の異なる動的パラメータから構成され得る。
【0045】
以下の動的パラメータは、互いの代替物ではなく、組み合わされてもよい。換言すれば、処理及び制御ユニット40は、車両8の実際及び偶発的な走行条件に従って隙間44を調整するための最良かつ最も効率的な戦略の定義に寄与する複数のパラメータを考慮する、多かれ少なかれ洗練されたアルゴリズムを実施するために、車両の1つ又は複数の動的パラメータを考慮してもよい。
【0046】
本発明の実施形態によれば、動的パラメータは、ブレーキシステム4を備えた車両8とそれに先行する別の車両との間で、車両のそれぞれの速度及び軌道を変更することなく、衝突が発生するのに必要な時間として推定される衝突時間からなる。推定衝突時間が短縮されれば、隙間44も減少され、その逆もまた同様である。
【0047】
本発明の可能な実施形態によれば、衝突時間は、ブレーキシステム4を備えた車両8が走行する路面の摩擦係数の関数として推定される。摩擦係数が減少すれば、隙間44も減少し、逆もまた同様である。
【0048】
本発明の可能な実施形態によれば、前記衝突時間は、ブレーキシステム4を備えた車両8とそれに先行する付加的な車両との間の加速度の差の関数として推定される。加速度差が増加すれば、隙間44も減少し、逆もまた同様である。
【0049】
本発明の可能な実施形態によれば、車両8の動的パラメータは、ハザード指数、すなわち、臨界制動距離と臨界ハザード距離との間の関係として定義される2つの車両間の衝突の危険性を定義する無次元指数からなり、臨界制動距離が臨界ハザード距離より小さい場合、隙間44は減少し、その逆もまた同様である。
【0050】
本発明のさらなる実施形態によれば、車両の前記動的パラメータは、ブレーキシステム4を備えた車両8とそれに先行するさらなる車両との間の所定の安全距離からなる。明らかに、安全距離が減少されれば、隙間44も減少され、その逆もまた同様である。
【0051】
さらなる実施形態によれば、ブレーキシステムを備えた車両の動的パラメータは、後続車両が接続している先行車両からの緊急信号を含んでいる。言い換えれば、先行車両が危険な状況を検出した場合、その先行車両は、隙間44を減少するために電動アクチュエータに命令する処理及び制御ユニット40によってピックアップされる危険信号を送信する。事実上、潜在的な危険状況が存在すると、制動要求が発生する確率が高くなるため、隙間44の減少が正当化される。
【0052】
さらなる実施形態によれば、動的パラメータは、車両の経路に沿ったリアルタイムの交通状況に関する情報から構成される。また、この場合、交通の激化、または車両8が通るルート沿いの減速または渋滞の接近に関する情報は、制動要求の確率を統計的に増加させるため、隙間44の減少を正当化し、またその逆も正当化する。
【0053】
可能な実施形態によれば、ブレーキシステム4を装備した車両8の動的パラメータは、制限速度及び/又は道路の傾斜及び/又はカーブ等の車両の経路上のリアルタイムの条件に関する情報から構成される。
【0054】
実際、制限速度の低下、道路の下り坂区間、またはカーブの存在はすべて、ユーザが制動動作を要求する確率を統計的に増加させる条件を構成するため、隙間44の減少をもたらし、その逆もまた同様である。
【0055】
本発明のさらなる実施形態によれば、車両の前記動的パラメータは、車両8の乗客に対する快適性の要求から構成され、より多くの快適性が必要な場合に隙間44を増加させ、またその逆も同様である。特に、快適性の要求が大きければ、急制動が少なくなり、逆に、快適性の要求が小さければ、急制動が少なくなる。
【0056】
本発明によれば、電動アクチュエータ32による隙間44の変動は、離散型であってもよい。
【0057】
例えば、アルゴリズムは衝突時間最小値と衝突時間最大値とを識別するので、隙間44の変化は、衝突時間がそれらの最小値と最大値とによってそれぞれ定義される閾値を超えたときに離散的に行われる。
【0058】
実施形態によれば、最小衝突時間値は4.5秒であり、最大衝突時間値は5秒である。
【0059】
本発明のさらなる実施形態によれば、電動アクチュエータ32による隙間44の変動は、車両8の前記動的パラメータに応じて隙間44を最小値と最大値との間で変動させるように、連続タイプである。
【0060】
これまで説明したことから理解されるように、本発明は従来技術の欠点を克服している。
【0061】
具体的には、本発明のブレーキシステムは、ブレーキディスクとそのパッドとの間の距離を、車両の複数の動的パラメータおよび実際の偶発的な運転条件の関数として、動的かつリアルタイムで調整することを可能にする。
【0062】
このようにして、ブレーキ動作に対する応答性は、交通状況、道路状況、危険状況、快適状況などに応じてユーザがブレーキ動作を必要とする可能性の大小を考慮した車両の複数の動的パラメータに応じて変化する。従って、制動動作の可能性が低い場合には、制動準備性を犠牲にして残留トルクを回避するように隙間を大きくし、一方、制動動作の可能性が高いと判断された場合には、わずかではあるが残留トルクを犠牲にして制動準備性を低減するように隙間を小さくする。全体として、通常、残留トルクは低減され、その結果、パッドの摩擦材の消費も低減され、車両の消費(燃料および/または電気)も低減されることは明らかである。
【0063】
このようにして、走行安全性を向上させることに加えて、パッドの摩耗を低減し、残留制動トルクを低減し、車両全体の航続距離を向上させ、パッドの摩耗による粒子状汚染物質の排出を低減し、車両の内燃機関からの汚染物質の排出を低減することも可能である。
【0064】
さらに、このシステムにより、ブレーキディスクとパッドとの間の隙間、ひいては制動要求とその開始との間の遅延を可能な限り低減することができるため、見ての通り、制動動作を要求する際に運転者が感じる運転フィーリングを改善することが可能である。
【0065】
また、図示のように、運転者、ひいては車両の乗客の快適性、及び一般に、当該車両の能動的な動的安全条件を改善することも可能である。
【0066】
当業者であれば、偶発的かつ特定のニーズを満たすために、上述したシステムおよび方法に対して多数の修正および変形を行うことができ、当該修正および変形は全て、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内に含まれる。
図1
【国際調査報告】