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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-07
(54)【発明の名称】オリゴ糖の連続発酵生産
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/18 20060101AFI20240425BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20240425BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240425BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20240425BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240425BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20240425BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240425BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C12P19/18
C12P1/04 Z
C12N15/54
C12N1/19
C12N1/21
C12N9/10
C12N15/09 Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571877
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2021063444
(87)【国際公開番号】W WO2022242860
(87)【国際公開日】2022-11-24
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597145034
【氏名又は名称】クリスチャン・ハンセン・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Chr. Hansen A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】パーシャット,カチャ
(72)【発明者】
【氏名】イェンネバイン,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CA02
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA72X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
所望のオリゴ糖の生産のための方法であって、中間体オリゴ糖の取り込みのための糖取り込み輸送体、および単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることによって中間体オリゴ糖を変換することができる酵素を有する遺伝子操作微生物細胞を準備するステップ、中間体オリゴ糖の存在下で遺伝子操作微生物細胞を培養して、所望のオリゴ糖を生成するステップ、ならびに所望のオリゴ糖を回収するステップを含む方法が開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個より多い単糖部分を含む所望のオリゴ糖の生産のための方法であって、
- 少なくとも3個の単糖部分からなるが、所望のオリゴ糖よりも少ない単糖部分からなる中間体オリゴ糖の微生物細胞による取り込みのための糖取り込み輸送体、および
単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素
を有する遺伝子操作微生物細胞を準備するステップ、
- 遺伝子操作微生物細胞に、中間体オリゴ糖を取り込ませ、少なくとも1個の単糖部分を中間体オリゴ糖に転移させるために中間体オリゴ糖を含有する培養培地中で遺伝子操作微生物細胞を培養し、それによって所望のオリゴ糖を合成するステップ、ならびに
- 培養培地および/または遺伝子操作微生物細胞から所望のオリゴ糖を回収するステップを含む方法。
【請求項2】
単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素が、グリコシルトランスフェラーゼまたはトランスグリコシダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ドナー基質がヌクレオチド活性化糖またはオリゴ糖である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヌクレオチド活性化糖が、GDP-フコース、UDP-ガラクトース、UDP-グルコース、UDP-N-アセチルグルコサミン、UDP-N-アセチルガラクトサミン、CMP-N-アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ドナー基質が遺伝子操作微生物細胞によって合成され、および/または培養培地に外部から添加される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
中間体オリゴ糖が培養培地に外部から添加される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
中間体オリゴ糖が微生物発酵によって生産された、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子操作微生物細胞が中間体オリゴ糖を分解しやすい酵素活性を欠如している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
グリコシルトランスフェラーゼが、フコシルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、グルコサミニルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼからなる群より選択される、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
トランスグリコシダーゼが、アルファ-1,2-フコシダーゼ、アルファ-1,3/1,4-フコシダーゼ、アルファ-1,4-グルコシダーゼ、アルファ-1,6グルコシダーゼ、アルファ-1,3グルコシダーゼ、ベータ-グルコシダーゼ、および加水分解酵素活性を欠如しているトランスグリコシダーゼの変異体からなる群から選択される、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
中間体オリゴ糖がLNT-IIであり、所望のオリゴ糖がLNTおよびLNnTからなる群から選択される四糖である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
中間体オリゴ糖がLNnTであり、所望のオリゴ糖がLNFP-IIIであるか、または前記中間体オリゴ糖がLNTであり、所望のオリゴ糖がLNFP-IIである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
遺伝子操作微生物細胞が酵母細胞、好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属から選択される酵母細胞、または原核細胞、好ましくは、エシェリヒア(Escherichia)属の一種、バチルス(Bacillus)属の一種、およびカンピロバクター(Campylobacter)属の一種からなる群から選択される細菌細胞である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ドナー基質が、ヌクレオチド活性化糖、好ましくは、GDP-フコース、UDP-ガラクトース、UDP-グルコース、UDP-N-アセチルグルコサミン、UDP-N-アセチルガラクトサミン、およびCMP-N-アセチルノイラミン酸からなる群から選択されるヌクレオチド活性化糖、またはオリゴ糖である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ラクト-N-ネオテトラオースの生産のための方法であって、
- a.LNT-IIの取り込みを促進する輸送体、および
b.β-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼを有する遺伝子操作微生物細胞を準備するステップ、
- 遺伝子操作微生物細胞にNT-IIを取り込ませ、前記β-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼによってガラクトース部分をUDP-ガラクトースからLNT-IIに転移させるために、LNT-IIを含有する培養培地中で遺伝子操作微生物細胞を培養し、それによってLNnTを合成するステップ、ならびに、
- 培養培地および/または遺伝子操作微生物細胞からLNnTを回収するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類の生産のための方法に関する。より詳細には、本発明は、所望のオリゴ糖または所望の多糖の発酵生産、すなわち微生物細胞における所望のオリゴ糖または所望の多糖の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、デンプン、セルロース、およびサトウキビ以外の糖類の使用が多くの関心を集めている。例えば、ある特定のオリゴ糖は機能性食品成分、栄養添加物、または栄養補給食品として使用されている。特に、プレバイオティクスオリゴ糖は、ヒトの胃腸微生物叢の成長および発達を刺激する非齲蝕原性および非消化性の化合物であるため、高い関心が持たれている。
【0003】
ヒトの母乳は、乳糖のほかに、人乳オリゴ糖(HMO)と呼ばれるオリゴ糖の複合混合物を含むことも長い間知られてきた。そのオリゴ糖の組成および個々のオリゴ糖の量に関しては、ヒトの母乳は独特である。現在、150を超える構造的に異なる人乳オリゴ糖が特徴づけられている。人乳オリゴ糖の大部分は、還元末端に乳糖部分があることを特徴としている。多くの人乳オリゴ糖は、非還元末端にフコース部分および/またはシアル酸部分を含有する。より一般的に言うと、HMOが由来する単糖は、D-グルコース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、L-フコース、およびシアル酸である。
【0004】
最も有名な人乳オリゴ糖は2’-フコシルラクトース(2’-FL)および3-フコシルラクトース(3-FL)で、これらを合わせるとHMO画分全体の最大1/3を占める可能性がある。人乳中に存在するさらに有名なHMOは、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、およびラクト-N-フコペンタオース(LNFP)である。フコシル化またはフコシル化されていなくてもよいこれらの中性オリゴ糖に加えて、例えば、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、および3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ジシアリル-ラクト-N-テトラオースなどの少なくとも1個のシアル酸部分を含む酸性HMOも人乳中で発見されることがある。これらの酸性HMOの構造は、上皮細胞表面の複合糖質のエピトープであるルイス組織血液型抗原と密接に関連している。HMOと上皮エピトープの構造的類似性が、細菌性病原体に対するHMOの保護特性の理由となる。
【0005】
上述の腸管におけるHMOの局所的効果に加えて、HMOは体循環に入ることによって乳児に全身的効果を引き起こすことも示されている。さらに、タンパク質-炭水化物の相互作用、例えば、セレクチン-白血球の結合に対するHMOの影響は、免疫応答を調節し、炎症応答を低下させることができる。
【0006】
その優れた健康上の利点により、栄養補給食品としてのHMOへの関心はここ数年非常に高まっている。HMOが、病原体に対する人体の防御機構、特定の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の確立、および免疫系の出生後の刺激に関与していることは十分に立証されている。HMOは乳児によって自然に摂取されるが、これらのオリゴ糖の有益な効果は、人生の後半段階、すなわち、思春期中およびそれ以降に摂取された場合にも生じることが認められている。
【0007】
今日、多くのオリゴ糖が、グリコシルトランスフェラーゼを使用したin vitroにおける生体触媒グリコシル化反応によって新たに合成されている。あるいは、オリゴ糖は、多糖の化学的、物理的、および/または生物学的分解によって得られる。例えば、フラクトオリゴ糖(FOS)およびガラクトオリゴ糖(GOS)は、最も豊富に生産されるオリゴ糖である。それらは、合成されるか、または植物多糖から生産される。
【0008】
オリゴ糖の従来の化学的合成は、既存の糖鎖の伸長、中間体化合物の精製、および該当する場合は、限定はしないが、アセチル化反応および/または硫酸化反応などのさらなる反応ステップを含むいくつかの反応ステップを含む。このような多段階合成の概念は、オリゴ糖の微生物生産の分野では知られていない。
【0009】
プレバイオティクスオリゴ糖、特にHMOは、それらの有益な特性により需要が増加しているため、これらの糖類の低コストで大規模な生産が非常に望まれる。
しかし、今日、多くのプレバイオティクスおよび/または人乳オリゴ糖の広範な商業利用における主な欠点は、効果的なオリゴ糖生産が欠如していることである。上述したように、オリゴ糖は、生体触媒もしくは化学工学を使用した合成によって、または物理的、化学的、もしくは酵素的方法を使用した多糖の脱重合によって生成され得る。
【0010】
オリゴ糖の化学的合成は、糖分子中に類似の化学反応性のいくつかのヒドロキシル基が存在するため、困難であることが証明されている。したがって、オリゴ糖の化学的合成では、化学的に類似した基の反応性を制御するために糖の構成要素を最初に選択的に保護し、次にカップリングし、最後に脱保護して所望のオリゴ糖を得る必要がある。所望のオリゴ糖の小規模合成が可能であっても、そのように開発されたそれらの合成経路は全般的に時間がかかり、技術的に困難であり、とてつもなく高価であることが多い。したがって、化学的オリゴ糖合成を商業的に実行可能な工業規模生産に規模拡大することは事実上不可能である。
【0011】
酵素的合成、または化学的合成と酵素的合成の組合せは、単なる化学的合成経路よりも重大な利点をもたらす。2’-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、または3’-シアリルラクトースなどのいくつかの人乳オリゴ糖は、すでに酵素的合成によって得られている。しかし、オリゴ糖のこのような化学的または生化学的合成は、ペプチドまたは核酸などの他の生体高分子の合成よりも困難である。このため、生体触媒、またはオリゴ糖の化学的合成と酵素的合成の組合せを工業規模生産として合理的なコストで実行することはほぼ不可能である。
【0012】
オリゴ糖の大規模生産のコストにも大きく関与する主要な事態は、反応混合物から、望ましくないオリゴ糖、ドナー基質、およびアクセプター基質などの望ましくない化合物を除去する必要があることである。
【0013】
生体触媒のほかに、オリゴ糖の生産のための発酵アプローチが成功して、HMOを含むいくつかのオリゴ糖が発酵手段によってかなりの量で入手可能になっている。
国際公開第2014/048439号パンフレットは、遺伝子修飾細胞を使用して、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、脂質、より長いアルキル基、ポリエチレングリコール、α、β-不飽和アミド基、およびポリビニルアルコールからなる群から選択される非糖部分に共有結合したオリゴ糖部分を含む複合糖質を生産するための方法に関する。
【0014】
国際公開第2015/032413号パンフレットは、アクセプターとしてフコシル化、シアリル化、またはN-アセチルグルコサミル化ラクトース三糖が外部から培養培地に添加される、少なくとも4個の単糖単位のオリゴ糖を生産するための方法を開示している。アクセプターを修飾することができる酵素をコードする組換え遺伝子を有する遺伝子修飾細胞が培地中で培養される。
【0015】
欧州特許出願公開第3141610号は、少なくとも1つの組換えグリコシルトランスフェラーゼおよびオリゴ糖の排出を可能にするタンパク質をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む遺伝子修飾細菌細胞におけるオリゴ糖の生産のための方法に関する。
【0016】
国際公開第2010/070104号パンフレットは、フコースキナーゼ、フコース-1-リン酸グアニリルトランスフェラーゼ、およびフコシルトランスフェラーゼを発現するように細胞が形質転換される、フコシル化化合物を産生する能力を有する遺伝子修飾細胞を作製するための方法を開示する。
【0017】
国際公開第2007/101862号パンフレットは、CMP-Neu5Acシンテターゼ、シアル酸シンターゼ、GlcNAc-6-リン酸2エピメラーゼ、およびシアリルトランスフェラーゼをコードする異種遺伝子を含み、シアル酸アルドラーゼおよびManNacキナーゼをコードする遺伝子が欠失または不活化されている微生物が、乳糖などの外因性前駆体を含む可能性がある培養培地で培養される、シアル化オリゴ糖を生産する方法を開示する。
【0018】
欧州特許出願公開第3575404号は、遺伝子操作微生物細胞を使用した、シアル化糖の発酵生産のための方法を開示する。遺伝子操作微生物細胞は、(i)グルコサミン-6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼ、(ii)シチジン5’-モノホスホ-(CMP)-N-アセチルノイラミン酸シンテターゼ、および(iii)シアリルトランスフェラーゼを含むシアル酸生合成経路を含む。
【0019】
国際公開第2018/122225号パンフレットは、細胞内生合成経路を介してシアル化化合物を合成できる操作された微生物について記載している。これらの微生物は、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸をN-アセチルグルコサミンに脱リン酸化し、N-アセチルグルコサミンをN-アセチルマンノサミンに変換することができる。これらの微生物はまた、N-アセチルマンノサミンをN-アセチルノイラミン酸に変換する能力を有する。シアル化化合物のin vivo合成のための方法であって、操作された微生物が任意選択で外因性前駆体を含有する培地中で培養され、N-アセチルグルコサミン-6-リン酸を細胞内で脱リン酸化し、N-アセチルマンノサミンを介して、得られたN-アセチルグルコサミンをN-アセチルノイラミン酸へ変換する方法も開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特に、HMOの生産のための発酵アプローチは、化学的または生化学的合成方法と比較してコスト効率が高い。代謝的に操作された微生物を使用する2’-フコシルラクトースおよび3-フコシラトースなどの三糖HMOの発酵生産は、これらのオリゴ糖を大量に提供するためにすでに確立されている。しかし、発酵方法であっても、所望のオリゴ糖の微生物生産で使用される酵素の乱交雑、炭水化物の化学的修飾、および/または最終的なオリゴ糖産物において汚染物質となる残存出発物質のため、副産物が合成される。これらの汚染物質は副産物とも呼ばれ、所望のオリゴ糖と構造的に密接に関連していることが多い。したがって、副産物を所望のオリゴ糖から分離することは特に困難である。
【0021】
例えば、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)の発酵合成は、両方の分子が非還元末端にβ-1,4結合したガラクトース残基を有しているため、分子の非還元末端がラクトースの非還元末端によく似ているので、困難な方法である。注目すべきことに、LNnTの発酵生産では乳糖は出発材料または中間体のいずれかである。LNnTの発酵生産において微生物細胞によって使用されるグリコシルトランスフェラーゼの非特異的反応は、ペンタオースまたはヘキサオースなどの副産物の大量形成をまねく。
【0022】
さらに、ラクト-N-トリオースII(LNT-II)は、LNnTの生合成における中間体である。LNT-IIは、LNnTを合成する微生物細胞から効率的に排出され得る。LNT-IIおよびその他の三糖副産物、ならびにLNnT産物の鎖伸長のときに形成される副産物の除去は困難であり、費用がかかる。
【0023】
もう1つの関連する問題は、微生物細胞においてHMOラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)などのペンタオースを生産する場合の副産物の形成である。単一細胞を使用してラクトースからLNT-II、LNT-IIからLNnT、およびLNnTからLNFP-IIIを合成する発酵生産方法では、LNnTの合成ですでに生じている副産物は全て、LNnTをLNFP-IIIに変換する最終フコシル化反応の基質として作用する可能性がある。これは、フコシル化および非フコシル化トリオース、テトラオース、LNFP-III以外のペンタオース、ヘキサオース、さらにはより大きなオリゴ糖の細胞内混合物をもたらす。これらの望ましくない副産物は、所望のオリゴ糖が実質的に純粋な調製物で、すなわち、所望のオリゴ糖がヒト消費のために企図される場合には規制当局の要件を満たす純度で提供され得るように、所望のオリゴ糖の調製から除去される必要がある。好ましくは、所望のオリゴ糖は、前記所望のオリゴ糖の実質的に純粋な調製物において、≧80%、≧85%、≧90%、≧93%、≧95%、≧98%、またはさらに≧99%の純度を有する。
【0024】
HMOなどのオリゴ糖は、遺伝子操作微生物細胞を使用し、所望のオリゴ糖の酵素的合成のための最初の基質として乳糖を発酵培地に添加して、発酵によって生産され得る。このような発酵方法では、最大6個の単糖部分を有するオリゴ糖が生産され得る。しかし、使用したグリコシルトランスフェラーゼの乱交雑のため、または炭水化物の化学的修飾によって、または中間体オリゴ糖の不完全な転換のため、最終発酵ブロスのほとんどは、異なる長さおよび組成のオリゴ糖を大量に含有する。炭水化物に関して純粋な製品を得るには、特異的な加水分解酵素を添加することによって問題の一部を解決することができるが、これは特異的酵素の入手可能性によって制限される。場合によっては、構造的類似性のため、副産物を特異的に分解するが所望のオリゴ糖は分解しない酵素を見つけることはなおさら不可能であり、例えば、ラクトースおよびLNnTでは、両炭水化物中のベータ-1,4-グリコシド結合はベータ-ガラクトシダーゼによる加水分解を受ける。
【0025】
したがって、所望のオリゴ糖、好ましくはプレバイオティクスオリゴ糖、特に所望のHMOを生産するための費用効率の高い工業規模の方法が大いに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この問題は、所望のオリゴ糖の合成が、単一の微生物細胞における出発物質としての乳糖からではなく、少なくとも3個の単糖部分からなる中間体オリゴ糖から行われる、オリゴ糖のための発酵生産方法を提供することによって解決される。このような発酵生産方法は、中間体オリゴ糖および所望のオリゴ糖の合成のために異なる微生物細胞を利用して、所望のオリゴ糖の形成のための個々の生合成ステップを個々の発酵ステップに分割することを可能にする。別々の発酵ステップは、前記中間体オリゴ糖が次の発酵ステップに提供される前に、中間体オリゴ糖を回収および/または精製する方法ステップと組み合わせることができる。このアプローチを使用すると、発酵方法の最後での中間体オリゴ糖の望ましくないグリコシル化に起因する望ましくない糖副産物の存在を回避するか、または少なくとも低下させることが可能である。
【0027】
3個より多い単糖部分を含む所望のオリゴ糖の生産のための方法であって、(i)遺伝子操作微生物細胞による少なくとも3個の単糖部分からなるオリゴ糖の取り込みを促進する糖取り込み輸送体(importer)、および(ii)単糖部分をドナー基質から少なくとも3個の単糖部分からなるオリゴ糖に転移することができる酵素を有する遺伝子操作微生物細胞を準備するステップ、遺伝子操作微生物細胞が少なくとも3個の単糖部分からなるオリゴ糖を取り込み、少なくとも1個の単糖部分を少なくとも3個の単糖部分からなるオリゴ糖に転移するために、少なくとも3個の単糖部分からなるオリゴ糖を含有する培養培地中で遺伝子操作微生物細胞を培養し、それによって3個より多い単糖部分を含む所望の糖を合成するステップ、ならびに所望の糖を培養培地および/または遺伝子操作微生物細胞から回収するステップを含む方法を提供する。
【0028】
より詳細には、この方法は、より大きなオリゴ糖、すなわち、少なくとも4個の単糖部分からなるオリゴ糖を、別個の区画で培養される少なくとも2種類の異なる遺伝子操作微生物細胞を使用して段階的または連続的に生産するステップを含んでいてもよく、少なくとも2種類の異なる遺伝子操作微生物細胞の1種によって生産されたオリゴ糖は、別のオリゴ糖、例えば、所望のオリゴ糖または別の中間体オリゴ糖の、少なくとも2種類の遺伝子操作微生物細胞の他方による生産のための抽出物となる。
【0029】
この方法が連続的に実施される場合、発酵ステップは以前の発酵ステップの産物に基づいている。任意選択で望ましくないオリゴ糖副産物を含有するオリゴ糖産物が最初の発酵ステップで生成される。次の発酵ステップでは、望ましくないオリゴ糖副産物が分解され、および/または産物のオリゴ糖が抽出物として使用されるので、最初の発酵ステップのオリゴ糖産物はさらに処理される。連続発酵の最後に、所望のオリゴ糖は、異なる微生物を用いて単一画分で生産を実施する方法よりも、または所望のオリゴ糖を得るために必要な全酵素反応を実施する個々の微生物株を使用するよりも高純度で、すなわち、望ましくない副産物を余り伴わないで得られる。
【0030】
連続発酵方法は、異なる遺伝子操作微生物細胞(適切なオリゴ糖の取り込み、ならびに/または所望のオリゴ糖、中間体オリゴ糖、オリゴ糖副産物、および/もしくはその他の望ましくない微生物産物または炭水化物に対する排出特性を有する細菌および/または真核微生物(例えば酵母))を使用することによって、特定の生合成画分(合成および/または特定の分解反応を含む)を利用する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】連続発酵による所望のオリゴ糖の生産を例示する実施形態の概略を示す図である。
図2】連続発酵による所望のオリゴ糖の生産を例示する実施形態の概略を示す図である。
図3】連続発酵による所望のオリゴ糖の生産を例示する実施形態の概略を示す図である。
図4】連続発酵およびその後の回収による所望のオリゴ糖の生産を例示する実施形態の概略を示す図である。
図5】異なるLNFP-III試料のMRMスペクトルの比較を例示する図である。
図6】異なるLNnT試料のMRMスペクトルの比較を例示する図である。
図7】異なるLNT-II試料のMRMスペクトルの比較を例示する図である。
図8】異なるLNFP-II試料のMRMスペクトルの比較を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、所望のオリゴ糖の生産のための方法を提供する。本明細書で使用したように、「オリゴ糖」という用語は、典型的には、グリコシド結合によって互いに連結されている少なくとも3個の単糖部分からなるが、12個以下、好ましくは10個以下の単糖部分からなる多量体糖分子を意味する。多量体糖分子は、単糖部分の直鎖であってもよく、または、グリコシド結合によって少なくとも3個の単糖部分が少なくとも1個の単糖部分に結合している分枝状の分子であってもよい。。単糖部分は、アルドース(例えば、アラビノース、キシロース、リボース、デオキシリボース、リキソース、グルコース、イドース、ガラクトース、タロース、アロース、アルトロース、マンノースなど)、ケトース(例えば、リブロース、キシルロース、フルクトース、ソルボース、タガロースなど)、デオキシ糖(例えば、ラムロース、フコース、キノボースなど)、デオキシ-アミノ糖(例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチル-マンノサミン、N-アセチル-ガラクトサミンなど)、ウロン酸(例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸など)、およびケトアルドン酸(例えば、N-アセチルノイラミン酸)の群から選択され得る。
【0033】
本明細書で使用したように、「所望のオリゴ糖」という用語は、生産されることが意図されるオリゴ糖を意味する。本明細書で使用したように、「中間体オリゴ糖」という用語は、方法のためまたは方法中に使用および/または合成されるが、方法によって生産される最終産物を構成するオリゴ糖ではないオリゴ糖を意味する。特定の実施形態による方法では所与のオリゴ糖が所望のオリゴ糖であってもよく、別の特定の実施形態による方法では前記所与のオリゴ糖が中間体オリゴ糖であってもよいことが理解される。
【0034】
この方法は、少なくとも3個の単糖部分からなるが、所望のオリゴ糖よりも少ない単糖部分からなるオリゴ糖を含有する培養培地において、所望のオリゴ糖を合成することができる遺伝子操作微生物細胞を培養するステップを含む。少なくとも3個の単糖部分を含有する前記オリゴ糖を「中間体オリゴ糖」と呼ぶ。所望のオリゴ糖を生産する方法では、1個、2個、またはそれ以上の単糖部分が中間体オリゴ糖に連結して所望のオリゴ糖になるので、好ましくは、前記中間体オリゴ糖は、所望のオリゴ糖よりも1個または2個少ない単糖部分からなる。
【0035】
表1は、本発明の方法によって生産され得る所望のオリゴ糖および対応する中間体オリゴ糖の非限定的リストを示す。
【0036】
【表1-1】
【0037】
【表1-2】
【0038】
この方法は、少なくとも3個の単糖部分からなる中間体オリゴ糖の取り込みのために糖取り込み輸送体を有する遺伝子操作微生物細胞を準備するステップを含む。中間体オリゴ糖は、外因性源から得られる。したがって、中間体オリゴ糖は培養培地に提供され、遺伝子操作微生物細胞によって内部移行される(internalized)か、または取り込まれる。微生物細胞による中間体オリゴ糖の取り込みは、細胞膜を横断する拡散によって生じ得る。
【0039】
本明細書で開示した方法の重要な態様は、この方法で利用される微生物細胞の中および/または外への中間体オリゴ糖の効果的な輸送、ならびに所望のオリゴ糖の合成のための微生物細胞から外への所望のオリゴ糖の効果的な輸送である。この取り込み(取り込み輸送)および排出輸送(export)の機構は、微生物細胞において自然に生じるか、または適切な取り込み輸送体および/または排出輸送体(exporter)の発現につながる遺伝子操作によって微生物細胞に導入されてもよい。
【0040】
特定の実施形態では、遺伝子操作微生物細胞において中間体オリゴ糖の取り込み輸送系のための糖取り込み輸送系が実行されるので、所望のオリゴ糖の生産のために中間体オリゴ糖の遺伝子操作微生物細胞への内部移行が促進される。したがって、遺伝子操作微生物細胞は、中間体オリゴ糖の取り込みのための糖取り込み輸送体を有する。
【0041】
微生物細胞が糖取り込み輸送体を有するように遺伝子操作するために、HMOなどの複合オリゴ糖の糖取り込み輸送体をコードする遺伝子は、細胞内でそのようなオリゴ糖を分解する細菌のゲノムから得られ得る。このような細菌は、例えば哺乳動物の結腸または第一胃内に共生生物として見出され得るが、昆虫の腸内にも見出され得る。また、ラクト-N-トリオース、ラクト-N-テトラオース、またはラクト-N-ネオテトラオースなどの少なくとも3個の単糖部分を有する複合オリゴ糖の取り込みを効果的に促進する輸送タンパク質は、母乳で育てられた乳児の結腸に定着する細菌の中に見出され得る。
【0042】
好ましい実施形態では、細胞外中間体オリゴ糖の内部移行は、微生物細胞とは異種である糖取り込み輸送体によって促進される。糖取り込み輸送系を形成するタンパク質をコードする遺伝子または機能的DNA配列は、遺伝子操作微生物細胞で発現される。この目的のために、前記糖取り込み輸送体をコードし発現するヌクレオチド配列は微生物細胞のゲノムに組み込まれ得るか、またはそれらは染色体外および/またはエピソームベクターから転写され得る。
【0043】
いくつかの腸内定着細菌、例えば、ビフィズス菌(Bifidobacteria)および乳酸菌(Lactobacilli)は、人乳オリゴ糖を唯一の炭素源として増殖できることが知られている。複合人乳オリゴ糖の分解は、2つの方法で達成され得る。細菌は培地中にグリコシダーゼを分泌して、人乳オリゴ糖を単糖および二糖に加水分解することができ、これらは、その後よく知られ確立された炭水化物取り込み系によって取り込まれ得る。しかし、いくつかのビフィズス菌種は、複合オリゴ糖を内部移行させることが知られている(Garrido,D.他、(2015).Comparative transcriptomics reveals key differences in the response to milk oligosaccharides of infant gut-associated bifidobacteria.Scientific reports、5、13517);(Ozcan,E.& Sela,D.A.(2018).Inefficient metabolism of the human milk oligosaccharides lacto-N-tetraose and lacto-N-neotetraose shifts Bifidobacterium longum subsp.infantis physiology.Frontiers in Nutrition、5、46.);(James,K.他(2016).Bifidobacterium breve UCC2003 metabolises the human milk oligosaccharides lacto-N-tetraose and lacto-N-neotetraose through overlapping,yet distinct pathways.Scientific reports、6、38560)。これらの細菌によって使用される輸送系は、2~3個の補助膜/ATPaseサブユニットを備えたATP依存性パーミアーゼおよび関連する細胞質外溶質結合タンパク質を含む。この溶質結合タンパク質は、無差別に炭水化物鎖に結合し、2~8個の単糖単位を有するオリゴ糖を受け入れることが示された(Garrido,D.他(2011).Oligosaccharide binding proteins from Bifidobacterium longum subsp.infantis reveal a preference for host glycans.PLoS One、6(3)、e17315)。
【0044】
in vivoにおける取り込み輸送系は、細胞内で人乳オリゴ糖を切断する細胞質加水分解酵素を発現するB.ロンガム(B.longum)株で確立されている。オリゴ糖輸送体をコードする異種遺伝子の発現は、特定の人乳オリゴ糖で株が増殖するのを可能にする(Sakanaka,M.他(2019).Evolutionary adaptation in fucosyllactose uptake systems supports bifidobacteria-infant symbiosis.Science advances、5(8)、eaaw7696)。グラム陽性菌B.ロンガム由来のフルクトースABC取り込み輸送体は、フルクトース取り込み欠損大腸菌(E.coli)株を補完する可能性がある(Wei,X.他(2012).Fructose uptake in Bifidobacterium longum NCC2705 is mediated by an ATP-binding cassette transporter.Journal of Biological Chemistry、287(1)、357~367)。しかし、ビフィズス菌のHMO取り込み輸送系またはHMOを代謝することが知られている他の細菌は、これまで大腸菌に機能的方法でクローン化されたことがない。HMO取り込みのための輸送系に似たタンパク質をコードする遺伝子は、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびB.ブレーベ(B.breve)の種で記載されている。
【0045】
ヒトの腸内細菌叢の構成を定義しようとする場合、ヒト腸内に生息する大量の細菌種は培養不可能であると言わざるを得ないので、HMOの取り込み輸送系を含む代謝形質の全レパートリーは今日定義されていない(Almeida他(2019).A new genomic blueprint of the human gut microbiota.Nature、568(7753)、499)。母乳で育てられた乳児の便のメタゲノムを検索することによって、HMOの取り込み輸送を促進するタンパク質を見出す可能性は重要である。所望のオリゴ糖を生産するための細胞内でまだ記載されていない取り込み輸送系を特定し、機能的に発現させることによって、中間体オリゴ糖の内部移行の問題は解決され得る。
【0046】
少なくとも3個の単糖単位を有するオリゴ糖のための糖取り込み輸送体をコードする遺伝子またはヌクレオチド配列は、適切な環境から、またはそのようなオリゴ糖取り込み機構を有することが知られている細菌株から、またはそれらの組合せから単離されたメタゲノムから得られ得る。
【0047】
大腸菌などのグラム陰性菌は、二層の細胞膜を有し、ABC輸送体は細胞質と周辺質とを結びつけている。複合体オリゴ糖の外膜を通過する周辺質内への取り込みは、ポリンによって促進される。ポリンは、外膜を横断する大きな、または荷電した分子の拡散を可能にするチャネルを形成するタンパク質である。このようなオリゴ糖ポリンの例は、(GlcNAc)3-6のためのキトオリゴ糖特異的外膜ポリンである大腸菌のChiPである(Verma,S.C.,& Mahadevan,S.(2012).The chbG gene of the chitobiose(chb) operon of Escherichia coli encodes a chitooligosaccharide deacetylase.Journal of Bacteriology、194(18)、4959~4971)。ポリンの別の例は、大腸菌のRafYであり、ヘキソースまでのオリゴ糖の大腸菌の外膜を超える拡散を促進する、炭水化物に非特異的な大きな孔を形成することが示されている(Andersen,C.他(1998).The porin RafY encoded by the raffinose plasmid pRSD2 of Escherichia coli forms a general diffusion pore and not a carbohydrate-specific porin.European Journal of Biochemistry、254(3)、679~684)。
【0048】
内膜を横断した中間体オリゴ糖の細胞質への取り込みのための糖取り込み輸送体に加えて、大腸菌などの微生物細胞の外膜を横断した中間体オリゴ糖の輸送を促進する孔形成タンパク質が、微生物細胞による中間体オリゴ糖の取り込みを改善するための手段となり得る。
【0049】
一実施形態では、微生物細胞は、孔形成タンパク質をコードし、かつ発現するかまたは過剰発現する機能性遺伝子または同等のヌクレオチド配列を有する。この機能性遺伝子は、微生物細胞にとって内因性であってもよく、または前記遺伝子のタンパク質コード領域は異なる種に由来していてもよい。
【0050】
この方法は、提供される遺伝子操作微生物細胞による所望のオリゴ糖の合成を含む。前記遺伝子操作微生物細胞は、単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素を含む。ある特定の実施形態では、遺伝子操作微生物細胞は単糖をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素の発現のための機能性遺伝子を含むので、前記遺伝子操作微生物は単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素を有するように遺伝子操作された細胞である。
【0051】
単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素の発現のための機能性遺伝子は、前記酵素のアミノ酸配列をコードする核酸配列である。この機能的核酸配列は発現制御配列をさらに含む。前記発現制御配列は、前記酵素のアミノ酸配列をコードする前記核酸配列に作動可能に連結されており、前記酵素のアミノ酸配列をコードする核酸配列の発現を媒介する。この発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、およびターミネーターからなる群から選択され得る。
【0052】
内部移行された中間オリゴ糖に単糖部分を遺伝子改変細胞に付加する酵素能力を与える機能性遺伝子または同等のDNA配列は、植物、動物、細菌、古細菌、真菌、またはウイルスに由来する同族核酸配列または異種ヌクレオチド配列であってもよい。
【0053】
単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させることができる酵素は、グリコシルトランスフェラーゼまたはトランスグリコシダーゼであってもよい。グリコシルトランスフェラーゼおよびトランスグリコシダーゼの例は、炭水化物活性酵素データベース(CAZy)(http://www.cazy.org)および文献に記載されているが、天然に存在する、または操作されたグリコシルトランスフェラーゼおよびトランスグリコシダーゼの配列はこれらの例に限定されない。
【0054】
グリコシルトランスフェラーゼは、ドナー基質としてのヌクレオチド活性化糖からアクセプター分子、例えば、中間体オリゴ糖への単糖部分の転移を触媒する。グリコシルトランスフェラーゼは、ガラクトシルトランスフェラーゼ、グルコサミニルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、グルクロノシルトランスフェラーゼ、マンノシルトランスフェラーゼ、キシロシルトランスフェラーゼ、およびフコシルトランスフェラーゼからなるグリコシルトランスフェラーゼの群から選択され得る。特定の実施形態では、グリコシルトランスフェラーゼは、α-1,2-マンノシルトランスフェラーゼ、β-1,4-キシロシルトランスフェラーゼ、β-1,3-N-アセチル-グルコサミニルトランスフェラーゼ、β-1,6-N-アセチル-グルコサミニルトランスフェラーゼ、β-1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、β-1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、α-1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ、β-1,6-ガラクトシルトランスフェラーゼ、α-1,3-グルコシルトランスフェラーゼ、α-4-グルコシルトランスフェラーゼ、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ、α-2,8-シアリルトランスフェラーゼ、α-1、2-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、またはα-1,3/1,4-フコシルトランスフェラーゼである。
【0055】
単糖部分の転移のためのドナー基質は、ヌクレオチド活性化糖または糖、好ましくはオリゴ糖であってもよい。ヌクレオチド活性化糖は、グリコシルトランスフェラーゼによって使用される単糖部分のためのドナー基質である。ヌクレオチド活性化糖は、GDP-フコース、UDP-ガラクトース、UDP-グルコース、CMP-N-アセチルノイラミン酸、GDP-マンノース、UDP-N-アセチルガラクトサミン、またはUDP-N-アセチルグルコサミンであってもよい。フコシルトランスフェラーゼは、GDP-フコースからアクセプター分子へのフコース部分の転移のためのドナー基質としてGDP-フコースを利用する一方、ガラクトシルトランスフェラーゼはガラクトース部分のアクセプター基質への転移のためのドナー基質としてUDP-ガラクトースを利用するなどのことが理解されている。
【0056】
ドナー基質としてグリコシルトランスフェラーゼによって使用されるヌクレオチド活性化糖は、新規生合成経路において遺伝子操作微生物細胞によって、および/またはサルベージ経路を使用することによって、合成される。
【0057】
遺伝子操作微生物細胞がヌクレオチド活性化糖を新たに合成する場合、微生物細胞はグルコース、スクロース、フルクトース、グリセロールなどの単純な炭素源からヌクレオチド活性化糖を新たに合成するための代謝経路を構成する酵素を有している。
【0058】
ある特定の実施形態では、ヌクレオチド活性化糖を新たに合成する遺伝子操作微生物細胞は、ヌクレオチド活性化糖の新たな生合成のための全酵素をコードする遺伝子を含有し、発現するように遺伝子操作されている。前記遺伝子は微生物細胞にとって内因性であるか、または前記遺伝子のいずれか1つは他の生物に由来していてもよく、機能的方法で転写および翻訳されるために微生物細胞に導入されている。
【0059】
サルベージ経路におけるヌクレオチド活性化糖の形成のための基質として使用される単糖は、微生物細胞によって受動的に取り込まれ得るか、または輸送体によって、好ましくはそのような輸送体タンパク質をコードする内因性遺伝子の過剰発現および/またはそのような輸送体タンパク質をコードする異種遺伝子の発現によって、単糖の内部移行が促進され得る。微生物細胞による単糖の取り込みのための単糖輸送体の例は、大腸菌由来のフコースパーミアーゼFucPまたはシアル酸輸送体NanTである。
【0060】
ドナー基質としてヌクレオチド活性化糖の生合成のためのサルベージ経路を使用する場合、微生物細胞はヌクレオチドの単糖への転移を触媒する酵素を含む。このような酵素の例は、キナーゼおよびピロホスファターゼ反応を触媒してGDP-フコースを形成する二機能性フコキナーゼ/L-フコース-1-P-グアニリルトランスフェラーゼ(EC2.7.7.30)、例えば、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)由来のFKP(国際公開第2010/070104号パンフレット)およびCMP-ノイラミン酸を形成するN-アセチルノイラミン酸シチジルトランスフェラーゼ(EC2.7.7.43)である。
【0061】
前記遺伝子操作微生物細胞は、少なくとも3個の単糖部分からなるが、所望のオリゴ糖よりも少ない単糖部分からなる中間体オリゴ糖の取り込みを促進する輸送体のための機能的核酸配列を含む。
【0062】
別の実施形態では、遺伝子操作微生物細胞はトランスグリコシダーゼを含有する。このトランスグリコシダーゼは異種トランスグリコシダーゼであってもよい。したがって、遺伝子操作微生物細胞は、トランスグリコシダーゼをコードする機能性遺伝子または前記機能性遺伝子と同等のヌクレオチド配列を有していてもよい。トランスグリコシダーゼは、二糖またはオリゴ糖の加水分解(グリコシダーゼ活性)を触媒することができ、逆反応においてグリコシド残基をグリコシドドナーからアクセプター基質に転移させる酵素である。
【0063】
トランスグリコシダーゼ活性を有するグリコシダーゼは、炭水化物基質に対してエキソ作用またはエンド作用のいずれであってもよい。トランスグルコシダーゼ活性を有するグリコシダーゼの例は、例えば、セロビアーゼ、フコシダーゼ、シアリダーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、ラクト-N-ビオシダーゼ、およびキチナーゼについて記載されている。
【0064】
特定の実施形態では、人乳オリゴ糖の生合成のためのトランスグリコシダーゼは、β-1,3-ガラクトシダーゼ、β-1,4-ガラクトシダーゼ、β-1,6-ガラクトシダーゼ、α-1、2-フコシダーゼ、α-1,3-フコシダーゼ、α-2,3-シアリダーゼ、α-2,6-シアリダーゼ、およびβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼからなる群から選択され得る。
【0065】
遺伝子操作微生物細胞を所望のオリゴ糖の生産のために提供するためのトランスグリコシダーゼ酵素をコードするヌクレオチド配列は、自然界に見出されるか、または遺伝子技術を使用してグリコシダーゼ反応に対してトランスグリコシル化反応を促進するように修飾され得る。当業者は、トランスグリコシダーゼ活性が強化された酵素を得るためにヌクレオチド配列を修飾する方法を知っている(Zeuner,B.他(2019).Synthesis of human milk oligosaccharides:Protein engineering strategies for improved enzymatic transglycosylation.Molecules、24(11)、2033)。
【0066】
好ましくは、微生物細胞においてトランスグリコシル化に使用される酵素は、アクセプター基質に対してヒドロラーゼ活性を全く発現しないか、または非常に低いヒドロラーゼ活性のみを発現するべきである。ヒドロラーゼ活性は、トランスグリコシダーゼ活性と比較して10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%未満、好ましくは、0.01%未満であるべきである。
【0067】
一部の実施形態では、使用されるトランスグリコシダーゼは、ドナーオリゴ糖からN-アセチルグルコサミン部分を含有するオリゴ糖アクセプター、すなわち中間体オリゴ糖へのL-フコース部分の転移を触媒するα-1,3/4-フコシダーゼである。この中間体オリゴ糖は、α-1,3/4-フコシダーゼ活性を含む微生物細胞が増殖している培養培地に添加される。ドナーオリゴ糖は細胞によって合成されるか、または培養培地に同様に添加されて細胞内に内部移行される。
【0068】
好ましい実施形態では、α-1,3/4-フコシダーゼはビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)由来のAfcBであり、ドナー基質は3-フコシルラクトースである。酵素AfcBのヒドロラーゼ活性は、タンパク質操作によって消失されている(Zeuner,B.他(2018).Loop engineering of an α-1,3/4-l-fucosidase for improved synthesis of human milk oligosaccharides.Enzyme and microbial technology、115、37~44)。内部移行した中間体オリゴ糖に対する細胞内トランスグリコシル化反応から得られる産物は、α-1,3-フコシル化またはα-1,4-フコシル化オリゴ糖である。フコシル化オリゴ糖産物は、操作されたAfcBおよびドナー基質として3-FLを使用した場合、内部移行したアクセプター基質から得られ得る:1)LNFP-II、中間体オリゴ糖がLNTの場合、2)LNFP-III、中間体オリゴ糖がLNnTの場合、3)LNDFH-1、中間体オリゴ糖がLNFP-Iの場合。
【0069】
オリゴ糖の伸長のためにトランスグリコシダーゼを使用する場合、ドナー基質は二糖またはオリゴ糖である。ドナー基質は、遺伝子改変細胞によって合成されるか、または細胞外源から内部移行されるかのいずれかであってもよい。ドナー基質の取り込みは、拡散によって受動的であり得るか、またはドナー基質の取り込みは、宿主細胞にとって内因性の輸送系もしくは宿主細胞に対して組換え体である輸送系のいずれかによって達成され得る。このような糖輸送系は、二次輸送機構を含む主要な促進物質スーパーファミリー、またはATP依存性輸送系(AB輸送体)に見出され得るが、これらに限定されない。
【0070】
遺伝子操作微生物細胞は、原核細胞または真核細胞のいずれであってもよい。本明細書で開示した方法による所望のオリゴ糖の生産のための遺伝子操作真核細胞の非限定的な例は、酵母細胞である。酵母細胞は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、ピキア(Pichia)、ハネンスラ(Hanensula)およびヤロウィア(Yarrowia)からなる属の群から選択され得る。遺伝子操作原核細胞は、エシェリヒア(Escherichia)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、およびシュードモナス(Pseudomonas)からなる属の群から選択される細胞であり得る。所望のオリゴ糖の生産に特に適した原核細胞は、大腸菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、および枯草菌(Bacillus subtilis)である。
【0071】
遺伝子操作微生物細胞は、1つまたは複数の外因性機能性遺伝子を含む。外因性機能性遺伝子は、染色体外ベクターから転写されるか、または遺伝子操作微生物細胞のゲノムに組み込まれる。これらの機能性遺伝子の転写は、構成的であるか、または、例えば外部誘導物質の添加もしくは細胞によって合成される代謝物の誘導によって、誘導可能である。当業者は、構成的または誘導性の組換え発現を得るために、プロモーター、任意選択でオペレーター、リボソーム結合部位、目的のタンパク質コード配列、および転写ターミネーターを含む機能性遺伝子を構成するヌクレオチド配列を配置する方法を知っている。
【0072】
内因性遺伝子によってコードされる酵素の生合成は、微生物細胞を遺伝子改変することによって修飾され、例えば、発現の増強または低下をもたらすことができる。遺伝子改変は、転写プロモーターおよびオペレーター配列の修飾、リボソーム結合部位の修飾、コドン使用の修飾、または細胞内の目的の遺伝子のコピー数の修飾を含むが、これらに限定されない。機能的ヌクレオチド配列の修飾は、目的の遺伝子の過剰発現、または所望のオリゴ糖の合成のために最適な量のヌクレオチド活性化糖ドナー基質を得るために、異なる遺伝子のよりバランスの取れた発現を引き起こすことができる。
【0073】
目的の遺伝子の過剰発現を得るための遺伝子改変は、目的の遺伝子の発現が野生型細胞よりも高いことを意味する。遺伝子改変は、目的の遺伝子の発現を10%、20%、30%、40%、または50%増加させる。発現は、野生型における発現と比較して2倍または最大10倍増加することが好ましい。過剰発現は、構成的であってもよく、または外部誘導物質の添加もしくは細胞によって合成される代謝物の誘導によって誘導可能であってもよい。
【0074】
遺伝子操作微生物細胞は、細胞内に内部移行したアクセプター基質を分解しやすい酵素活性を含まないか、またはトランスグルコシル化反応を使用する場合、細胞に取り込まれたか、もしくは細胞によって合成されたドナー基質を含まない。
【0075】
本明細書で開示された方法によって人乳オリゴ糖を生産する方法において、遺伝子操作微生物細胞が培養され、前記遺伝子操作微生物細胞は以下のものを有することができる:
- グリコシルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1個の機能性遺伝子、ならびに
- 細胞が1個または複数のヌクレオチド活性化糖をドナー基質として合成できるようにする遺伝子もしくは単糖前駆体からヌクレオチド活性化糖を合成できる酵素をコードする遺伝子;ならびに/または
- トランスグリコシダーゼ活性を有する酵素をコードする少なくとも1種の機能性遺伝子およびトランスグリコシダーゼ反応においてドナー基質として使用されるオリゴ糖(二糖または三糖)を微生物細胞が取り込むことを可能にする機能性遺伝子;ならびに
- 4個、5個、もしくはそれ以上の単糖単位を有する所望のオリゴ糖を得るために、グリコシルトランスフェラーゼもしくはトランスグリコシダーゼ反応において中間体オリゴ糖として役立つ3個以上の単糖単位を有するオリゴ糖の取り込みを促進するオリゴ糖輸送系をコードする少なくとも1種の機能性遺伝子。
【0076】
前記遺伝子操作微生物細胞は、細胞内に内部移行されているアクセプター基質を分解しやすい酵素活性を含まないか、またはトランスグリコシル化反応を使用する場合、細胞に取り込まれたか、もしくは細胞によって合成されたドナー基質を含まない。
【0077】
この方法は、遺伝子操作微生物細胞が中間体オリゴ糖を取り込み、少なくとも1個の単糖部分をドナー基質から中間体オリゴ糖に転移させ、それによって所望のオリゴ糖を合成するために、中間体オリゴ糖を含有する培養培地において所望のオリゴ糖の生産のために遺伝子操作微生物細胞を培養するステップを含む。
【0078】
前記遺伝子操作微生物細胞を培養するステップは、炭素源および中間体オリゴ糖を含有する培養培地において微生物細胞を増殖させることを意味する。培養培地はさらなる化合物を含有していてもよい。単糖部分がトランスグリコシダーゼによって中間体オリゴ糖に転移された場合、単糖部分のためのドナー基質は培養培地に添加され、したがって培養培地に含有され得る。炭素源は、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、セルロース、グリコーゲン、ラクトース、または糖蜜および/またはコーンシロップなどのより多くの複合基質からなる群から選択され得る。好ましくは、炭素源は、グリセロール、グルコース、フルクトース、スクロースからなる群のうちの少なくとも1つから選択される。
【0079】
微生物細胞を培養するステップは、バッチ発酵法として、流加発酵法として、または連続発酵法のいずれかで実施することができる。好ましくは、培養は、過剰な炭素源による微生物細胞の指数関数的増殖段階、および炭素源の利用可能性によって制限されるその後の細胞増殖段階を含む流加発酵法として実施される。より好ましくは、中間体オリゴ糖の生産、所望のオリゴ糖の生産、および/または望ましくないオリゴ糖副産物の分解のための定義された区画を含む連続発酵方法である。
【0080】
所望のオリゴ糖は、最後の発酵ステップ、すなわち、所望のオリゴ糖が微生物細胞によって合成される発酵ステップの終了時に、培養培地および/または所望のオリゴ糖を生産するための微生物細胞から回収される。
【0081】
所望のオリゴ糖の回収は、遠心分離、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、イオン交換処理(陽イオン交換処理および/または陰イオン交換処理)、電気透析、逆浸透、溶媒蒸発、結晶化、噴霧乾燥、および/または活性炭処理を含むがそれだけに限定されない様々な回収ステップを含んでいてもよい。第1の回収ステップにおいて、微生物細胞が培養培地から分離されることがわかる。この分離は、遠心分離および/または精密濾過および限外濾過のステップによって得られ得る。
【0082】
所望のオリゴ糖は、所望のオリゴ糖を生産する微生物細胞を破壊し、微生物細胞の細胞質画分から所望のオリゴ糖を回収することによって、微生物細胞から得られ得る。
好ましい実施形態では、所望のオリゴ糖を生産する微生物細胞は前記オリゴ糖を培養培地中に分泌する。次に、微生物細胞は、遠心分離および/または濾過によって、発酵ステップの最後で培養培地から分離され、所望のオリゴ糖は無細胞培養培地から回収される。
【0083】
所望のオリゴ糖の分泌は、細胞膜を横断する受動拡散または能動輸送方法のいずれかによって起こり得る。所望のオリゴ糖の能動排出方法を促進するタンパク質をコードする機能性遺伝子またはこの機能性遺伝子と同等のヌクレオチド配列は、遺伝子操作微生物細胞にとって内因性であっても、組換え体であってもよい。機能性遺伝子またはそれと同等のヌクレオチド配列が組換え体の場合、それらは、ゲノムに組み込まれたコピー(発現断片(オペロン)のゲノムへの組み込みによる)または染色体外ベクターのいずれかによって微生物細胞で発現され得る。
【0084】
所望のオリゴ糖の回収のために、または回収中に、培養培地または細胞内画分は一連の濾過ステップを受け、i)例えば、精密濾過および限外濾過によって、培養培地からバイオマスを分離し、ii)例えば、ナノ濾過によって、水、単糖、もしくは塩などの低分子を除去し、iii)例えば、逆浸透または蒸発によって、オリゴ糖含有溶液を濃縮することができる。濃縮物は、例えば、濃縮物が活性炭上での処理を受けることによって、さらなる精製ステップを受けてもよい。必要に応じて、所望のオリゴ糖は、電気透析によって脱イオン化され、および/または回収方法において所望のオリゴ糖の処理中に実現されるエンドトキシンおよび微生物の除去のために濾過されて、微生物負荷が非常に低い産物を得ることができる。
【0085】
回収/精製された所望のオリゴ糖は、液状で、または乾燥物質として保存され、使用され得る。所望のオリゴ糖を固形状で得るために、凍結乾燥、噴霧乾燥、造粒、結晶化、ローラー乾燥機もしくはベルト乾燥機で乾燥されてもよい。
【0086】
回収/精製された所望のオリゴ糖が人乳オリゴ糖である場合、乳児用調製粉乳、幼児用調製粉乳、乳児用シリアル、飲料、バー、ヨーグルトなどとして提供される機能性食品、医療栄養、または一般食品における栄養補助剤として使用され得る。
【0087】
所望のオリゴ糖は、別々に使用されても、他のオリゴ糖と組み合わせて使用されてもよい。これらの他のオリゴ糖はまた、人乳オリゴ糖、またはガラクトオリゴ糖、マルトデキストリン、もしくはフラクトオリゴ糖などの他のオリゴ糖の群に属していてもよい。
【0088】
所望のオリゴ糖、または所望のオリゴ糖と他のオリゴ糖との組合せは、プロバイオティクス細菌と組み合わせて、上記で参照した食品のいずれか1つで使用され得る。好ましくは、前記プロバイオティクス細菌は、ビフィズス菌およびラクトバチルスの属の1つまたは複数の細菌株である。
【0089】
人乳オリゴ糖は、新生児の発育だけでなく成人の健康に対しても広範囲の正の効果があることが詳しく記載されていることが知られている。人乳オリゴ糖はプレバイオティクスであるため、新生児の腸内で健康なマイクロバイオームの発達を促進する(Chu,D.M.,& Aagaard,K.M.(2016).Microbiome:Eating for trillions.Nature、532(7599)、316)。さらに、これらのオリゴ糖は、細菌またはウイルス病原体によって引き起こされる感染性疾患のリスクを低下させ(Craft,K.M.,& Townsend,S.D.(2017).The human milk glycome as a defense against infectious diseases:rationale,challenges,and opportunities.ACS infectious diseases、4(2)、77~83)、抗微生物として直接作用することが示された(Craft,K.M.,& Townsend,S.D.(2019).Mother Knows Best:Deciphering the Antibacterial Properties of Human Milk Oligosaccharides.Accounts of chemical research、52(3)760~768)。シアル化オリゴ糖は、脳の発達にシアル酸を供給することが見出された(Wang,B.(2009).Sialic acid is an essential nutrient for brain development and cognition.Annual review of nutrition、29、177~222、Mudd,A.他(2017).Dietary sialyllactose influences sialic acid concentrations in the prefrontal cortex and magnetic resonance imaging measures in corpus callosum of young pigs.Nutrients、9(12)、1297)。成人では、人乳オリゴ糖はIBS患者の腸内細菌叢および代謝物組成を改善することが示された(Jackson,F.他(2018).Human Milk Oligosaccharides Are Able to Impact the Gut Microbiota and Metabolites in Irritable Bowel Syndrome Patients:2788.American Journal of Gastroenterology、113、S1548)。
【0090】
所望のオリゴ糖、または所望のオリゴ糖と他のオリゴ糖および/またはプロバイオティクスとの組合せは、ディスバイオシスの予防、特定の感染性疾患の予防、または免疫系を全般的に強化するための栄養補助食品として応用され得る。
【0091】
中間体オリゴ糖は、精製または濃縮された酵素調製物、または適切な酵素を合成する細胞の粗細胞抽出物を使用して、化学的合成または生体触媒によって得られ得る。好ましい実施形態では、中間オリゴ糖は、単純な炭素源、二糖、または別のオリゴ糖からの中間体オリゴ糖の生産のために遺伝子操作微生物細胞を使用して、微生物発酵によって得られる。
【0092】
連続発酵のステップが使用されるこのような実施形態では、中間体オリゴ糖および所望のオリゴ糖を生産するために異なる遺伝子操作微生物細胞が使用される。例えば、中間体オリゴ糖は遺伝子操作酵母細胞によって生産され、一方、所望のオリゴ糖は遺伝子操作細菌細胞によって中間体オリゴ糖から生産され、またはその逆の場合もある。
【0093】
一部の実施形態では、中間体オリゴ糖を提供する発酵ステップの最後に培養培地が1つまたは複数の精製ステップを受けるので、中間体オリゴ糖は培養培地から少なくとも部分的に精製される。中間体オリゴ糖を精製するための少なくとも1つの前記精製ステップは、遠心分離、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、イオン交換処理(陽イオン交換処理および/または陰イオン交換処理)、電気透析、逆浸透、溶媒蒸発、結晶化、噴霧乾燥および/または活性炭処理からなる群から選択され得る。
【0094】
所望のオリゴ糖の生産のための遺伝子操作微生物細胞の培養のための培養培地としてこのようにして得られた中間体オリゴ糖を含有する無細胞培養培地を使用する前に、中間体オリゴ糖を含有する培養培地から中間体オリゴ糖を生産するための微生物細胞が少なくとも除去されることが理解される。
【0095】
1発酵ステップから得られた中間体オリゴ糖は、i)発酵ステップの最後および微生物細胞の除去後に培養培地を、ii)例えば、中間体オリゴ糖を含有する無細胞培養培地は少なくとも1つの脱塩ステップおよび/もしくは少なくとも1つの脱色ステップを受けるので、培養培地と比較して中間体オリゴ糖が濃縮されるプロセス流として使用することによって、ならびに/またはiii)精製された中間体オリゴ糖を濃縮物または固体物質として添加することによって、次の発酵ステップに移され得る。
【0096】
方法の最後の発酵ステップ中に所望のオリゴ糖に変換されていない中間体オリゴ糖は、残存する中間体オリゴ糖および/または中間体オリゴ糖の分解産物に対して特異的な加水分解活性を示すが、所望のオリゴ糖には示さない酵素を添加することによって分解され得る。前記の特異的な加水分解活性を示すこれらの酵素は、純粋な酵素として、前記酵素を発現する細胞の粗抽出物として、またはそのような酵素を合成し、好ましくは前記の特異的な加水分解活性を示すこれらの酵素を培養培地に分泌する微生物細胞の第2セットの添加によって、添加され得る。所望のオリゴ糖および中間体オリゴ糖は互いに1個または2個の単糖部分しか異なっていないため、合理的なコストで工業規模で技術的手段によって互いに分離することが困難なので、培養培地からの所望のオリゴ糖の回収および精製は、残存する中間体オリゴ糖の加水分解によって促進される。
【0097】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、中間体オリゴ糖の生産のための第1の発酵ステップを含む。この中間オリゴ糖を生産するために使用される遺伝子操作微生物細胞は、単糖部分をドナー基質からアクセプター基質に転移するグリコシルトランスフェラーゼを含む。ドナー基質は、本明細書で以前に記載したようにヌクレオチド活性化糖であってもよい。アクセプター基質は乳糖である。乳糖は培養培地に添加され、それぞれの微生物細胞によって取り込まれて、乳糖を少なくとも3個の単糖単位からなる中間体オリゴ糖に変換する。
【0098】
別の実施形態では、アクセプター基質である乳糖は、第1の発酵ステップで使用されている遺伝子操作微生物細胞によって合成される。前記微生物細胞は、ガラクトース分子をグルコース分子に特異的に転移させるβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼを含む。微生物細胞はさらに、細胞内で生成された乳糖をアクセプター基質として使用する第2のグリコシルトランスフェラーゼを含有し、3個の単糖単位からなる中間体オリゴ糖を合成する。この微生物細胞を培養するために使用される培養培地は、炭素源としてスクロース、グルコース、またはグリセロールおよびグルコースの組合せを含有していてもよい。前記微生物細胞は、グルコースをグルコース-6-リン酸に変換する酵素が不活性化されるか、または微生物細胞のゲノムから欠失されるように操作されていてもよい。
【0099】
中間体オリゴ糖は、所望のオリゴ糖の生産のための微生物細胞を培養するために、i)発酵ステップ中に1回、ii)発酵ステップ中にボーラスとして数回、またはiii)発酵ステップ全体を通して連続的に培養培地に添加され得る。
【0100】
この方法は、所望のオリゴ糖の合成を少なくとも2つの別個の発酵ステップに分割することを含んでいてもよく、それぞれの発酵ステップは、その特定の発酵ステップで得られるオリゴ糖の合成に必要である酵素活性を有する異なる遺伝子操作微生物細胞を利用する。
【0101】
単一の遺伝子改変細胞を使用する所望のオリゴ糖の直接生産とは対照的に、所望のオリゴ糖よりも少ない少なくとも1個の単糖部分を含有する中間体オリゴ糖が前駆体として培養培地に添加され、遺伝子操作微生物細胞によって取り込まれて、1個または複数の単糖単位によって延長させることによって、所望のオリゴ糖に変換される。
【0102】
4個、5個またはそれ以上の単糖単位を有する所望のオリゴ糖の連続発酵の方法は、2つ以上の発酵ステップを含む。第1の発酵ステップでは、遺伝子操作微生物細胞が培養されて、乳糖などの外因性アクセプター基質を使用して3個以上の単糖単位を含む中間体オリゴ糖を生産する。この微生物細胞は、中間体オリゴ糖を培養培地中に分泌することが好ましい。中間体オリゴ糖は、培養培地から少なくとも部分的に精製され、汚染物質、特に他の炭水化物を除去することによって濃縮されることが可能で、または中間体オリゴ糖を含有する培養培地が第2の培養ステップのために直接使用され得る。第2の発酵ステップでは、第2の遺伝子操作微生物細胞が中間体オリゴ糖を含有する培養培地で培養され、微生物細胞によって1個または複数の単糖単位によって伸長される。任意選択の第3の発酵ステップでは、第2の発酵から得られたオリゴ糖は、そのオリゴ糖を取り込み、1つまたは複数の単糖単位を添加することによってそのオリゴ糖を修飾することができるさらに別の遺伝子操作微生物細胞の前駆体として使用され得る。
【0103】
本発明の特定の実施形態では、所望のオリゴ糖はトリオースであり、中間体オリゴ糖は、発酵方法に添加されるグルコースにガラクトース単位を連結させる特定のガラクトシルトランスフェラーゼを使用して乳糖を合成できる生物によって生産される乳糖である。添加されるグルコースは、同様にガラクトシルトランスフェラーゼ反応のC源および基質となり得るか、またはグルコースは、別のC源に追加して発酵培地に添加され得るか、またはグルコースは、炭素源としてスクロースを供給する場合のスクロース加水分解酵素などの別の酵素反応の変換によって達成され得る酵素的ガラクトシルトランスフェラーゼ反応の基質として使用され得る。
【0104】
他の実施形態では、2つの異なる中間体オリゴ糖は、別個の発酵ステップで異なる遺伝子操作微生物細胞を使用することによって生産される。これらの中間体オリゴ糖のいずれか1つまたは両方は、その培養培地から精製されるか、またはその培養培地から濃縮されるか、または培養培地が第3の発酵ステップのために直接使用され、第3の遺伝子操作微生物細胞が2種の中間体オリゴ糖を使用して所望のオリゴ糖を生産する。
【0105】
本発明の別の実施形態では、オリゴ糖生産の別個のステップは、空間的に分離された発酵容器ではなく、半透膜によって2つの区画に分離された単一の容器で実行される。前記半透膜の特質は、2つの区画のうちの1つの第1の遺伝子操作微生物細胞によって生産された中間体オリゴ糖を他方の区画に流れさせるが、第2の遺伝子操作微生物細胞によって生産されたより多くの複合オリゴ糖は流れさせない。したがって、例えば、1つの区画で増殖した微生物細胞は、発酵容器に添加された外因性アクセプター乳糖を、3個の単糖単位を含む中間体オリゴ糖に変換することができる。この三糖は半透膜を通過し、第2の区画で増殖している第2の微生物細胞によって取り込まれ、少なくとも4個の単糖を含むより多くの複合オリゴ糖に変換される。
【0106】
一実施形態では、4個以上の糖単位を含む所望のオリゴ糖はテトラオースである。遺伝子操作微生物細胞は、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼまたはβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼを含む。さらに、遺伝子操作微生物細胞はUDP-ガラクトースを生産することができる。中間体のオリゴ糖は、遺伝子操作微生物細胞によって内部移行され、ガラクトシル化されてテトラオースが得られるトリオースである。好ましい実施形態では、微生物細胞がβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼまたはβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼそれぞれを有する場合、中間体オリゴ糖は、LNT IIであり、所望のオリゴ糖はラクト-N-テトラオース(LNT)またはラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)である。
【0107】
別の実施形態では、所望のオリゴ糖は、少なくとも5個の単糖部分からなるフコシル化オリゴ糖である。遺伝子操作微生物細胞は、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、またはα-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを有する。さらに、遺伝子操作微生物細胞はGDP-フコースを合成することができる。遺伝子操作微生物細胞によって取り込まれる中間体オリゴ糖はテトラオースである。中間体オリゴ糖としてLNTを提供し、遺伝子操作微生物細胞がα-1,2-フコシルトランスフェラーゼを有する場合、生産された所望のオリゴ糖はLNFP-Iである。遺伝子操作微生物細胞がα-1,3/4-フコーストランスフェラーゼを有する場合、生産されるオリゴ糖はLNFP-IIまたはLNFP-Vである。遺伝子操作微生物細胞がα-1,3-フコーストランスフェラーゼを有する場合、所望のオリゴ糖はLNFP-Vである。
【0108】
中間体オリゴ糖としてLNnTを提供する場合、遺伝子操作微生物細胞がα-1,2-フコシルトランスフェラーゼまたはα-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼそれぞれを有するならば、得られる所望のオリゴ糖はLNnFP-IまたはLNFP-IIIである。
【0109】
別の実施形態では、所望のオリゴ糖は六糖である。六糖を生産する遺伝子操作微生物細胞は、二種類のグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子、α-1,2-フルクトシルトランスフェラーゼおよびα-1,3-N-アセチル-ガラクトサミニルトランスフェラーゼを有する。遺伝子操作微生物細胞はGDP-フコースおよびUDP-N-アセチルガラクトサミンを合成することができる。所望のオリゴ糖は、LNTが中間体オリゴ糖として提供される場合はヒト血液型抗原(HBGA)A1型であり、またはLNnTが中間オリゴ糖として提供される場合はHBGA A2型である。
【0110】
HBGA A1型およびA2型グリカンを生産する代替の実施形態では、遺伝子操作微生物細胞は、α-1,3N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼを有し、UDP-N-アセチルガラクトサミンを合成し、LNFP IまたはLNnFP Iを中間体オリゴ糖として内部移行することができる。したがって、所望のオリゴ糖がHBGA B1型またはHBGA B2型である場合、提供される中間オリゴ糖はLNFP IまたはLNnFP Iである。中間体オリゴ糖としてLNFP IまたはLNnFP Iを修飾するために使用される遺伝子操作微生物細胞は、α-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼを有し、ドナー基質としてUDP-ガラクトースを合成することができる。
【0111】
さらに別の実施形態では、所望のオリゴ糖はラクト-N-ヘキソース(LNH)である。第1の発酵ステップによって得られる第1の中間体オリゴ糖は、LNT IIである。次に、前記LNT IIは第2の発酵ステップに提供される。第2の発酵ステップで加工助剤として使用される遺伝子組み換え微生物細胞は、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼを含み、UDP-ガラクトースを合成することができる。第2の発酵ステップは、第3の発酵ステップで提供される/提供され得るLNTをもたらし、α-1,6N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを含み、UDP-N-アセチルグルコサミンを合成することができる遺伝子操作微生物細胞を使用して、LNTは1個のN-アセチルグルコサミン部分によって延長される。第4の発酵ステップでは、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼを含み、UDP-ガラクトースを合成することができる別の遺伝子操作微生物細胞を使用して/使用することが可能で、所望のオリゴ糖LNHを生産する。本明細書のこの段落で以前に記載した全酵素および代謝経路を含む遺伝子操作微生物細胞を使用することによって、単一の発酵ステップでラクトースからLNHを生産することは、ガラクトシルトランスフェラーゼの非特異的副反応が中間体としてLNTおよびLNnTを生じ、次にα-1,3およびα-1,6N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼによって様々な伸長を受けるので不可能である。したがって、単一の遺伝子操作微生物細胞による乳糖からのこのようなLNHの生産は、次に所望のLNH産物中の不純物を構成し、前記LNHの収率および純度に影響を与える、かなりの量の望ましくないオリゴ糖をもたらすだろう。
【0112】
追加および/または代替の実施形態では、所望のオリゴ糖は少なくとも1個のシアル酸部分を含む。内部移行およびシアル化されるために遺伝子操作微生物細胞に添加される中間体オリゴ糖は、少なくとも4個の単糖部分を含む。好ましくは、中間体オリゴ糖は、ラクトシアリルテトラオースaもしくはb(LSTaもしくはLSTb)を得るためのLNT、またはLSTcを得るためのLNnTである。これら所望のオリゴ糖の1つを生産する遺伝子操作微生物細胞は、α-2,3シアリルトランスフェラーゼまたはα-2,6シアリルトランスフェラーゼを有し、CMP-N-アセチルノイラミン酸を合成することができる。
【0113】
追加および/または代替の実施形態では、所望のオリゴ糖はフコース部分およびシアル酸部分を含む。遺伝子操作微生物細胞に提供され内部移行される中間体オリゴ糖が3-フコシルラクトースである場合、遺伝子操作微生物細胞はα-2,3シアリルトランスフェラーゼを有し、CMP-N-アセチルノイラミン酸を合成することができるため、所望のオリゴ糖としてフコシルシアリルラクトースが生産される。
【0114】
あるいは、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼを有し、GDP-フコースを合成することができる遺伝子操作微生物細胞に、中間体オリゴ糖として3-シアリルラクトースを提供することによって、所望のオリゴ糖としてフコシル-シアリルラクトースが生産される。
【0115】
内部移行された中間体オリゴ糖からの4個、5個、またはそれ以上の単糖部分を含む異なる所望のオリゴ糖の生産のためのさらなる実施形態を表1に示す。ドナー基質から中間体オリゴ糖への単糖部分の転移に適したドナー基質および酵素は、実施形態それぞれについて表1に明示的に特定されていなくても、本開示から推測され得る。
【0116】
本発明は、特定の実施形態に関して、図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、説明および特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、同様の要素の間を区別するために使用されており、必ずしも時間的、空間的、ランキング、または任意のその他の方法のいずれかで順序を説明するために使用されるわけではない。このように使用される用語は、適切な状況下では交換可能であり、本明細書で記載した本発明の実施形態は、本明細書に記載または例示された以外の順序で操作できることを理解されたい。
【0117】
特許請求の範囲で使用される「含む」という用語は、その後に列挙された手段に限定されるものとして解釈されるべきではなく、他の要素やステップを除外するものではないことに留意されたい。したがって、これは、記載された特徴、整数、ステップ、または言及された成分の存在を指定するものとして解釈されるべきであるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、または成分、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。したがって、「手段AおよびBを含む装置」という表現の範囲は、成分AおよびBのみからなる装置に限定されるべきではない。これは、本発明に関して、装置の関連成分のみがAおよびBであることを意味する。
【0118】
本明細書全体にわたって「一実施形態」または「ある実施形態」については、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特質が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたって様々な箇所における「一実施形態では」または「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を意味するわけではないが、そうであってもよい。さらに、本開示から当業者には明らかなように、1つまたは複数の実施形態では、特定の特徴、構造、または特質は、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0119】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、開示を簡素化し、1つまたは複数の様々な発明の態様の理解を助けるために、本発明の様々な特徴が単一の実施形態、図、またはその説明に一緒にまとめられる場合があることを理解されたい。しかし、この開示方法は、請求された発明が各請求項に明示的に説明されているよりも多い特徴を必要とするという意図を反映していると解釈されるものではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、前述の開示された単一の実施形態の全特徴よりも少ない部分にある。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は本発明の別個の実施形態として独立して存在する。
【0120】
さらに、本明細書で記載した一部の実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まない一方、当業者によって理解されるように、異なる実施形態の特徴の組合せは本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲では、請求した実施形態のいずれも任意の組合せで使用され得る。
【0121】
さらに、実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサまたは機能を実施する他の手段によって実行され得る方法または方法の要素の組合せとして本明細書で説明されている。したがって、そのような方法または方法の要素を実施するために必要な命令を備えたプロセッサは、方法または方法の要素を実施するための手段を形成する。さらに、機器の実施形態の本明細書で説明した要素は、本発明を実施するための要素によって実施される機能を実施する手段の一例である。
【0122】
本明細書で提供した説明および図面では、数多くの具体的な詳細が記載されている。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細がなくても実践され得ることが理解される。他の例では、この説明の理解を曖昧にしないために、周知の方法、構造、および技術は詳細に示されていない。
【0123】
本発明は、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によってこれから説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の精神または技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って設定され得ることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定される。
【0124】
ここで図1を参照すると、LNnTの生産のための方法に関して、連続発酵の原理が概略的に示されており、この方法は2つの発酵ステップを含む。第1の発酵ステップは、第1の発酵容器(A)で実施される。第1の発酵ステップでは、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを有し、培養培地中でUDP-N-アセチルグルコサミンを合成することができる遺伝子操作微生物細胞(示していない)が提供される。この遺伝子操作微生物細胞は、例えば、グルコース、フルクトース、グリセロール、またはスクロースなどの炭素源で増殖させる。この遺伝子操作微生物細胞は、N-アセチルグルコサミン部分のためのアクセプター基質として乳糖の存在化で培養される。第1の発酵容器内で増殖している微生物細胞はアクセプター基質を取り込み、それをラクト-N-トリオースIIなどの中間体オリゴ糖に変換する。中間体オリゴ糖は、第1の発酵容器から第2の発酵容器(B)へ移される。別の遺伝子操作微生物細胞が第2の発酵容器で培養される。別の前記遺伝子操作微生物細胞も、例えば、グルコース、フルクトース、グリセロール、またはスクロースなどの炭素源で増殖することが理解される。別の前記遺伝子操作微生物細胞は中間体オリゴ糖LNT IIを内部移行し、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼを有し、UDP-ガラクトースを合成することができ、それによってLNT IIを所望のオリゴ糖ラクト-N-ネオテトラオースに変換する。所望のLNnTは、第2の発酵容器の培養培地および/または後者の遺伝子操作微生物細胞から回収され得る。
【0125】
図2は、連続発酵の別の実施形態を例示する。この実施形態による方法は、五糖、例えば、LNFP Iの生産のための3つの発酵ステップを含む。この実施形態では、図1で例示された連続発酵方法が追加の発酵ステップによって拡張されており、図1による実施形態による所望のオリゴ糖が、別の発酵容器(C)の第3の発酵ステップに提供される第2の中間体オリゴ糖として使用される。遺伝子操作微生物細胞は第3の発酵ステップで培養される。前記遺伝子操作微生物細胞は、第3の発酵ステップ中に微生物細胞に提供されるLNnTを内部移行する。遺伝子操作微生物細胞はα-1,2-フコシル-トランスフェラーゼを有し、GDP-フコースを合成することができ、それによってLNnTをこの実施形態の所望のオリゴ糖としてのLNFP Iに変換する。所望のLNFP Iは、第2の発酵容器の培養培地および/または後者の遺伝子操作微生物細胞から回収され得る。
【0126】
所望のオリゴ糖の生産のための連続発酵の方法は、少なくとも2つの発酵ステップを含む。中間体オリゴ糖は最初の発酵ステップで生産され、所望のオリゴ糖は連続発酵方法の第2または最後の発酵ステップで生産される。
【0127】
少なくとも2つの発酵ステップは、互いに空間的および/または時間的に別々に実施され得る。そうは言っても、第1の発酵ステップおよびその後の1つまたは複数の発酵ステップの少なくとも1つは、第1の発酵ステップおよび任意選択のさらなる発酵ステップで生産された中間体オリゴ糖が、別の中間オリゴ糖または所望のオリゴ糖のその後の生産のために別の発酵容器に移されるので、別個の、すなわち、個別の発酵容器で実施され得ることが理解される。ある発酵ステップで使用されている遺伝子操作微生物細胞がその後の発酵ステップに移されないことが好ましいことも理解される。
【0128】
あるいは、連続発酵方法の全発酵ステップのために同じ発酵容器を使用することも可能である。連続発酵方法の発酵ステップのために単一の発酵容器を使用するには、発酵ステップの完了後に発酵容器の内容物全体を除去し、発酵容器を消毒し、その後の発酵ステップの全要素を消毒された発酵容器に提供する必要がある。
【0129】
別の実施形態では、少なくとも2つの発酵ステップは、互いに空間的に分離されているが、単一の発酵容器で同時に実施され得る。図3は、2種の異なる遺伝子操作微生物細胞を培養するために2つの空間的に分離された区画を含む1つの発酵容器内で実行される連続発酵の原理を例示する。単一の発酵容器内の2つの区画は、半透膜によって互いに分離されている。この半透膜は、異なる遺伝子操作微生物細胞がそれらの区画から他の区画へのうつるのを防止するが、中間体オリゴ糖が生産された区画から中間体オリゴ糖が使用される他の区画への中間体オリゴ糖の流れは可能にする。好ましくは、この半透膜はまた、所望のオリゴ糖が生産された区画から、中間体オリゴ糖が生成された区画への所望のオリゴ糖の流れを防止する。異なる区画内の異なる遺伝子操作微生物細胞は、微生物細胞が異なるオリゴ糖を変換するのを可能にさせる異なる酵素を有する。例えば、単一の発酵容器内で2つの発酵ステップを同時に実施する連続発酵の方法は、乳糖が遺伝子操作微生物細胞(黒い鞭毛のある細胞として示される)の第1の集団によってラクト-N-テトラオースIIに変換され、前記ラクト-N-トリオースIIが中間体オリゴ糖として半透膜(発酵容器内の点線で示される)を横断して他の区画に流れ、そこでLNT IIが別の遺伝子操作微生物細胞(白い鞭毛のある細胞として示される)の異なる集団によってラクト-N-テトラオースに変換されるので、LNTまたはLNnTの生産のために使用され得る。
【0130】
例えば、図4で例示したさらなる実施形態では、所望のオリゴ糖は、遠心分離、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、イオン交換処理、電気透析、逆浸透、溶媒の蒸発、乾燥などを含む複数の回収ステップが関与する回収手順を直接受ける、連続発酵方法で生産される。図4は、所望のオリゴ糖としてLNnTの生産に関する実施形態を例示する。LNT IIから所望のオリゴ糖LNnTを生産する発酵ステップ(B)の終了時(図1を参照)、所望のオリゴ糖を含有する培養培地は、培養培地からの細胞の除去のために精密濾過(I)および限外濾過(II)を受ける。その後、オリゴ糖を含有するプロセス流を得るために、水、単糖、および塩などの低分子がナノ濾過(III)によって無細胞培養培地から除去される。さらなる回収ステップでは、オリゴ糖を含有するプロセス流が、逆浸透または蒸発(IV)によって濃縮される。さらなる精製ステップは、濃縮されたプロセス流を活性炭素による処理(V)に接触させることによって実施される。このようにして得られた所望のオリゴ糖を含有するプロセス流は、任意選択で電気透析を使用して脱イオン化され、逆浸透または蒸発を使用して再度濃縮され、エンドトキシンの除去のために濾過され得る。回収方法の終了時に、所望のオリゴ糖産物を乾燥させて、粉末産物(VI)の形態で所望のオリゴ糖を得ることができる。
【0131】
要約すると、得られるオリゴ糖副産物は、所望のオリゴ糖と化学的に非常に密接に関連しており、したがって、所望のオリゴ糖から分離するのに問題があり、コストがかかるため、得られるオリゴ糖副産物は非常に望ましくないので、本明細書で記載した所望のオリゴ糖の生産のための方法は、副反応および競合反応(例えば、ラクト-N-トリオースIIのラクト-N-ネオテトラオースへの変換または無差別グルコサミルトランスフェラーゼによるさらなるグルコサミン残基のラクト-N-ネオテトラオースへの転移に使用されるβ1-4-ガラクトシルトランスフェラーゼによる乳糖のガラクトシル化)によって生じる、所望のオリゴ糖の調製における望ましくない副産物の存在を最小限に抑えることができるという点で有利である。
【実施例
【0132】
実施例1:細菌種の発酵によって生産されたオリゴ糖の同定のために使用されるLC/MS分析
細菌種発酵によって生産されたLNFP-IIおよびLNFP-IIIの分子特性は、LCMS-8050システムを使用してMRM(多重反応モニタリング)によって確認された。LCMSシステムは、8℃で動作するNexera X2 SIL-30ACMPオートサンプラー、LC-20AD HPLCポンプ、35℃で動作するCTO-20ACカラムオーブン、および3連四重極型(QQQ)質量分析器(LCMSシステムの全部分はShimadzu Corporation、京都、日本から購入した)を搭載した。LCMS分析の前に、培養上清および細胞内抽出物を濾過(孔径0.22μm)、次いでイオン交換マトリクス(Strata ABW;Phenomenex、Aschaffenburg、Germany)での固相抽出(SPE)によって精製した。各分析について、試料体積1μlを測定器に注入した。クロマトグラフィー分離は、XBridge Amide HPLCカラム(3.5μm、2.1Å50mm;Waters、Eschborn、Germany)を使用し、流速300μl/分で5分間の均一濃度溶出(0.1%(v/v)NHOHを含む60%アセトニトリル)を考慮して実施した。溶出した化合物は直接、エレクトロスプレーイオン化法を考慮した3連四重極型質量分析(ESI)に導入した。これにより、オリゴ糖前駆体イオンは測定器四重極1(Q1)で選択され、アルゴンを衝突ガスとして使用して衝突セル(Q2)で断片化され、続いて四重極3(Q3)で断片イオンが選択された。MRM分析はESI陰イオン化モードで実行され、測定器はユニット分解能で操作された。衝突エネルギー、Q1およびQ3のプリバイアスは、LNT II、LNnT、LNFP-II、およびIIIに対して個別に最適化された。選択されたMRMトランジションおよび衝突エネルギー(CE)の詳細を表2に示す。
【0133】
連続発酵方法に由来するLNT II、LNnT、LNFP-II、およびLNFP-IIIの特性を裏付けるために、これらの所望のオリゴ糖の対応するMRMプロファイルおよび保持時間を、市販の物質標準(Dextra Laboratories Ltd.、Reading)、PA、USA)のMRMプロファイルと比較した(図5~8)。
【0134】
【表2】
【0135】
図5は、LCMSベースのMRM分析によって、本明細書で記載した連続発酵方法で生産されたLNFP-IIIの特性を示す。図Aは、市販のLNFP-III標準(Dextra Laboratories Ltd.、Reading、PA、USA)のMRMプロファイルを示し、診断トランジション:TIC(全イオン電流);#1=[M-H]852,30>364、10m/z、CE=21;#2=[M-H]852,30>179,10m/z、CE=35;#3=[M-H]706,20>382,30m/z、CE=30を示す。図Bは、連続発酵によって生産され、最後の発酵ステップの培養培地から回収されたLNFP-IIIの対応するMRMプロファイルを示す。図Cは、連続発酵によって生産され、所望のオリゴ糖としてLNFP-IIIを生産する遺伝子操作微生物細胞の細胞内画分から回収されたLNFP-IIIの対応するMRMプロファイルを示す。
【0136】
図6は、LCMSベースのMRM分析によって、本明細書で記載した連続発酵プロセスで生産されたLNnTの特性を示す。図Aは、市販のLNnT標準(Carbosynth、Berkshire、UK)のMRMプロファイルを示し、診断トランジション:TIC(全イオン電流);#1=[M-H]706,10>179,20m/z、CE=29;#2=[M-H]706,20>263.25m/z、CE=21;#3=[M-H]852,30>161,15m/z、CE=17を示す。図Bは、連続発酵によって生産され、最後の発酵ステップの培養培地から回収されたLNnTの対応するMRMプロファイルを示す。図Cは、連続発酵により生産され、所望のオリゴ糖としてLNnTを生産する遺伝子操作微生物細胞の細胞内画分から回収されたLNnTの対応するMRMプロファイルを示す。
【0137】
図7は、LCMSベースのMRM分析によって確認されたように、LNT-IIの特性を示す。LNT IIは、大腸菌細胞の培養に添加されて、LNnTに変換される。図Aは、市販のLNT-II標準(Elicityl SA、Crolles、France)のMRMプロファイルを示し、診断トランジション:TIC(全イオン電流);#1=[M-H]544,20>161,00、CE=16;#2=[M-H]544,20>382,10m/z、CE=11;#3=[M-H]544,20>112,90m/z、CE=28を示す。図Bは、培養培地の上清から得られたLNT IIを示す。図Cは、中間体オリゴ糖としてLNT IIを生産するために遺伝子操作微生物細胞から得られた細胞内LNT IIを示す。
【0138】
図8は、LCMSベースのMRM分析によって、本明細書で記載した連続発酵方法で生産されたLNFP-IIの特性を示す。図Aは、市販のLNFP-II標準(Dextra Laboratories Ltd.、Reading、PA、USA)のMRMプロファイルを示し、診断トランジション:TIC(全イオン電流);#1=[M-H]852,30>348,20、CE=23;#2=[M-H]852,30>163,05m/z、CE=40;#3=[M-H]852,30>288,20m/z、CE=29を示す。図Bは、連続発酵によって生産され、最後の発酵ステップの培養培地から回収されたLNFP-IIの対応するMRMプロファイルを示す。図Cは、連続発酵により生産され、所望のオリゴ糖としてLNFP-IIを生産する遺伝子操作微生物細胞の細胞内画分から回収されたLNFP-IIの対応するMRMプロファイルを示す。
【0139】
実施例2:遺伝子改変大腸菌細胞を増殖させるために使用した培養培地
所望のオリゴ糖の生産のための細胞を増殖させるために使用した培養培地は、:1mL・L-1微量元素溶液(54.4g・L-1クエン酸鉄アンモニウム、9.8g・L-1MnCl×4HO、1.6g・L-1CoCl×6HO、1g・L-1CuCl×2HO、1.9g・L-1BO、9g・L-1ZnSO×7HO、1.1g・L-1NaMoO×2HO、1.5g・L-1NaSeO、1.5g・L-1NiSO×6HO)を補給した、3g・L-1KHPO、12g・L-1HPO、5g・L-1(NHSO、0.3g・L-1クエン酸、0.1g・L-1NaCl、2g・L-1MgSO×7HOおよび0.015・gL-CaCl×6HOを含有した。培地のpHは7.0である。
【0140】
実施例3:オリゴ糖を生産するための遺伝子改変大腸菌細胞
大腸菌BL21(DE3)は、アクセプター基質、ドナー基質を分解する、またはグリコシルトランスフェラーゼ反応において使用されるヌクレオチド活性化糖の合成を妨害する酵素をコードする遺伝子を欠失することによって、フコシル化オリゴ糖の生合成のために操作されており、したがって、β-ガラクトシダーゼをコードするlacZ遺伝子、それぞれフコースイソメラーゼおよびフコースキナーゼをコードする遺伝子fuclおよびfucK、ならびに大腸菌におけるコラン酸生合成経路の第1の酵素をコードする遺伝子wcaJは削除された。大腸菌におけるGDP-フコースの新規合成強化のために、ホスホマンノムターゼ、マンノース-1-リン酸グアニルトランスフェラーゼ、GDP-マンノース、4,6-デヒドラターゼ、およびGDP-L-フコースシンターゼをコードする遺伝子manB、manC、gmd、およびwcaGを細胞内で過剰発現させた。サルベージ経路を使用してこの株にGDP-フコースを合成する能力を与えるために、2機能性フコキナーゼ/グアノシン-5-リン酸ピロホスホリラーゼをコードするバクテロイデス・フラジリス由来の遺伝子fkpを大腸菌株(大腸菌株I)のゲノムに機能的に組み込んだ。
【0141】
大腸菌BL21(DE3)ΔlacZにおけるラクト-N-ネオテトラオースの合成のために、ホスホグルコムターゼをコードする遺伝子pgmならびにUDP-ガラクトースの合成を促進するUTPグルコース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼおよびUDP-グルコース-4-エピメラーゼをコードするgalUおよびgalEの遺伝子が過剰発現された。UDP-ガラクトースから中間体オリゴ糖LNT IIへのガラクトースの転移を触媒してラクト-N-ネオテトラオースを得るために、アグレゲイティバクター・アフロフィリス(Aggregatibacter aphrophilus)由来のβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼlex-1を大腸菌株(大腸菌株II)で構成的に発現させた。
【0142】
実施例4:トランスグリコシル化によるLNFP IIおよびLNFP IIIの合成
上記の大腸菌BL21(DE3)派生株Iは、ビフィドバクテリウム・ロンガム亜種インファンティス(Bifidobacterium longum subsp.infantis)由来のループ操作されたアルファ-1,3/4-L-フコシダーゼAfcB(Zeuner他、2018)をコードする機能性遺伝子のゲノム組み込みによって操作された。フコシダーゼ遺伝子は、プロモーターPtetから構成的に発現させた。この株を、唯一の炭素源およびエネルギー源として2%グリセロールを含有する無機塩培地中で、バッフル付き振盪フラスコ中で30℃で24時間増殖させた。炭素源として2%グリセロールならびに3-フコシルラクトース28mMおよびラクト-N-テトラオース28mMまたはラクト-N-ネオテトラオース28mMを含む同じ培地を含有する本培養には、前培養物から光学密度が0.2になるまで接種した。培養物は、好気条件下で30℃でインキュベートした。48時間のインキュベーション後、培養試料を採取し、遠心分離により細胞を沈降させ、冷NaCl(0.9%(w/v))で1回洗浄し、氷冷した50%(v/v)メタノールに再懸濁し、-20℃で冷凍した。細胞培養の上清はLC/MS分析を行い、培地中に分泌された反応産物LNFP IIおよびLNFP IIIを同定した。凍結した細胞を解凍し、再度遠心分離して細胞破片を沈殿させ、生産された細胞内LNFP IIおよびLNFP IIIをLC/MSによって分析した。
【0143】
LNFP IIおよびLNFP IIIは、大腸菌細胞の細胞質画分のように、それぞれの培養物中および上清中で検出された。ペンタオースは、市販の標準物質と比較して分画のパターンを比較することによって同定された。
【0144】
実施例5:フコシルトランスフェラーゼ反応を使用したLNnTおよびL-フコースからのLNFP IIIの生産
大腸菌BL21(DE3)株Iを使用して、適切なフコシルトランスフェラーゼを使用してLNFP IIIを生産するように細胞を操作した。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)由来のアルファ-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(Yu,H.他、(2017).H.pylori α1-3/4-fucosyltransferase(Hp3/4FT)-catalyzed one-pot multienzyme(OPME) synthesis of Lewis antigens and human milk fucosides.Chemical Communications、53(80)、11012~11015)は、大腸菌宿主のゲノムに組み込まれ、転写プロモーターPtetから構成的に発現させた。
【0145】
この株を、炭素源として2%グリセロールを含有する無機塩培地中で、30℃で約24時間増殖させた。同じ炭素源およびL-フコース10mMと同様に2%LNnTを含有する新鮮な培地に、前培養物から光学密度0.04まで接種し、好気条件下で30℃で48時間インキュベートした。
【0146】
48時間インキュベーション後、培養試料を採取し、遠心分離により細胞を沈殿させ、冷NaCl(0.9%(w/v))で1回洗浄し、氷冷した50%(v/v)メタノールに再懸濁し、-20℃で冷凍した。培地中に分泌された反応産物LNFP IIIの同定のために、細胞培養物の上清にLC/MS分析を行った。凍結細胞を解凍し、再度遠心分離して細胞破片を沈殿させ、細胞内LNFP IIIをLC/MSによって分析した。
【0147】
実施例6:ヒト糞便試料のメタゲノムDNAからのLNnT生産のために有効なLNT II取り込み輸送体の同定
母乳で育てられた乳児の糞便試料からのゲノムDNAを、(Quick-DNA Fecal/Soil Microbeキット、Zymogen、Freiburg、Germany)を使用して、製造業者の手順に従って単離した。ゲノムDNAを任意選択で約40kbpの断片に切断し、pCC1FOS(商標)ベクターを備えたCopyControl(商標)フォスミドライブラリー生成キット(Lucigen、Epicentre、Madison、USA)の手順に従って末端修復した。形質導入はまた、上述の大腸菌BL21(DE3)派生株IIにおいてLucigen手順に従って実施された。形質導入効率/ファージ力価1x10cfuが達成された。細胞を、クロラムフェニコール12.5μg/mlを含有する2YT培地(Sambrook and Russel、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor、NY2001))に播種して、フォスミドベクターの増殖のために選択した。コロニーを、炭素源として2%グルコースおよび抗生物質選択のためにクロラムフェニコール12.5μg/mlを含む無機塩培地200μlを含有する96ウェルプレートに移した。30℃で24時間増殖させた後、50μlの培養物を、2%グルコース、ラクト-N-トリオースII(HPLCによる測定で純度98%)20mM、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)0.1mMおよびクロラムフェニコール12.5μg/mlを含有する新鮮な培地に移した。30℃で約30時間増殖させた後、遠心分離によって細胞を収集し、上清を95℃で5分間加熱し、不溶性粒子を遠心分離によって沈殿させた。清澄な上清は、LNnT生産の検出のためにLC/MS分析を受けた。LNnT生産のためにスクリーニングされたクローンの約0.5%は、ベースラインと比較して3倍から5倍の増強されたLNnT生産を示した。
【0148】
LNnT生産を示すクローンのフォスミドDNAを細胞から単離し、同じ株に再形質転換し、再度試験した。増強されたLNnT生産が検証された場合、プラスミドDNAを配列決定し、目的の遺伝子をサブクローニングし、LNT II内部移行およびLNnT生産を測定することによって機能が再度証明された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】