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特表2024-518899無方向性電磁鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240426BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240426BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240426BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/06
C22C38/60
C21D8/12 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566005
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 KR2022020887
(87)【国際公開番号】W WO2023121256
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184549
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, フォン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】シン, ス-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ユンス
【テーマコード(参考)】
4K033
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA05
4K033CA06
4K033CA08
4K033CA09
4K033DA01
4K033FA01
4K033FA03
4K033FA10
4K033FA13
4K033FA14
4K033HA02
4K033KA03
(57)【要約】
【課題】2回の熱延板焼鈍および2回の冷延板焼鈍時、特定温度範囲での滞留時間調節を通じて結晶粒粒径分布を調節することによって、磁性および低温および高温での降伏強度を向上させた無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%でSi:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり平均結晶粒粒径が50~100μmであり、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上であり、
SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.1重量%さらに含み、
C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含み、
P:0.05重量%以下、B:0.002重量%以下、Mo:0.01重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含み、-40℃と210℃温度で引張試験した時に得られる降伏強度YS(-40℃)とYS(210℃)がYS(210℃)/YS(-40℃)≧0.71を満足することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%でSi:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
平均結晶粒粒径が50~100μmであり、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.1重量%さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
P:0.05重量%以下、B:0.002重量%以下、Mo:0.01重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
-40℃と210℃温度で引張試験した時に得られる降伏強度YS(-40℃)とYS(210℃)がYS(210℃)/YS(-40℃)≧0.71を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
重量%で、Si:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を950~1150℃の温度範囲で70秒以下の間焼鈍する第1熱延板焼鈍段階、
前記熱延板を900℃以上および950℃未満の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する第2熱延板焼鈍段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を900~1100℃の温度範囲で50秒以下の間焼鈍する第1冷延板焼鈍段階および
前記冷延板を700~850℃の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する第2冷延板焼鈍段階を含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
下記式1を満足することを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
|(THA1-THA2)×(TCA1-TCA2)|≦1000
(式1中、THA1は第1熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、THA2は第2熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA1は第1冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA2は第2冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示す。)
【請求項8】
前記熱延板を製造する段階以前に、スラブを1200℃以下で加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延板を製造する段階は、800℃以上で仕上げ圧延する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記第1冷延板焼鈍段階および前記第2冷延板焼鈍段階は水素(H)40体積%以下、および窒素60体積%以上含み、露点が0~-40℃である雰囲気下で焼鈍することを特徴とする請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より具体的には、2回の熱延板焼鈍および2回の冷延板焼鈍時、特定温度範囲での滞留時間調節を通じて結晶粒粒径分布を調節することによって、磁性および低温および高温での降伏強度を向上させた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は電気エネルギーを機械的エネルギーに変換させるモータに主に使用され、その過程で高い効率を発揮するために無方向性電磁鋼板の優れた磁気的特性を要求する。特に最近では環境にやさしい技術が注目されるようになるにつれて全体電気エネルギー使用量の過半を占めるモータの効率を増加させることが非常に重要に考えられており、このために優れた磁気的特性を有する無方向性電磁鋼板の需要も増加している。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性は、主に鉄損と磁束密度で評価する。鉄損は特定磁束密度と周波数で発生するエネルギー損失を意味し、磁束密度は特定磁場下で得られる磁化の程度を意味する。鉄損が低いほど同一条件でエネルギー効率の高いモータを製造することができ、磁束密度が高いほどモータを小型化させるか銅損を減少させることができるので、低い鉄損と高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板を使用して効率とトルクが優れた駆動モーターを製造することができ、これによって環境にやさしい自動車の走行距離と出力を向上させることができる。
【0003】
モータの作動条件によって考慮しなければならない無方向性電磁鋼板の特性も変わるようになる。モータに使用される無方向性電磁鋼板の特性を評価するための基準として多数のモータが商用周波数50Hzで1.5T磁場が印加された時の鉄損であるW15/50が最も重要と思われている。しかし、多様な用途のモータが全てW15/50鉄損を最も重要に思っているのではなく、主作動条件によって他の周波数や印加磁場での鉄損を評価することもある。特に、最近の電気自動車駆動モータに使用される無方向性電磁鋼板では1.0Tまたはそれ以下の低磁場と400Hz以上の高周波で磁気的特性が重要な場合が多いので、W10/400などの鉄損で無方向性電磁鋼板の特性を評価するようになる。
【0004】
環境にやさしい自動車駆動モータ用無方向性電磁鋼板は、磁気的特性だけ優れた強度も要求される。環境にやさしい車用駆動モータは主に回転子に永久磁石を挿入した形態に設計され、永久磁石挿入型モータが優れた性能を発揮するためには永久磁石が最大限固定子に近くなるように回転子の外側に位置しなければならない。しかし、モータが高速で回転する時、電磁鋼板の強度が低ければ回転子に挿入されている永久磁石が遠心力によって離脱することがあるので、モータの性能と耐久性を確保するために高い強度を有する電磁鋼板が要求され、特にモータ作動による温度上昇を考慮する時、170~250℃での優れた強度が要求される。
【0005】
無方向性電磁鋼板の磁気的特性と強度を同時に増加させるために通常使用される方法は、Si、Al、Mnなどの合金元素を添加することである。このような合金元素の添加を通じて鋼の比抵抗が増加すれば、渦電流損失が減少して全体鉄損を低めることができる。また、合金元素が鉄に置換型元素として固溶されて強化効果を起こして強度を高めることができる。反面、Si、Al、Mnなどの合金元素添加量が増加するほど磁束密度が劣位になり脆性が増加する短所があり、一定量以上添加すれば冷間圧延が不可能であって商業的生産が不可能になる。特に、電磁鋼板は厚さを薄くするほど高周波鉄損が優れるようになり、脆性による圧延性低下は致命的な問題になる。
【0006】
モータの設計意図によって磁気的特性は多少劣化しても強度が改善された電磁鋼板を使用することがあり、このような用途の電磁鋼板を製造するための方法としては侵入型元素の析出を用いる方法と結晶粒大きさを減少させる方法がある。主にモータを小型化して回転速度を上向させるか回転子に挿入される永久磁石の効果を高めようとする時、電磁鋼板の磁気的特性が多少劣化しても強度が顕著に上向された電磁鋼板で製造された回転子を使用する。この時、C、N、Sなど侵入型固溶元素が含まれている微細析出物を形成させるようになると、強度上向効果はよいが、鉄損が急激に劣化して、むしろモータの効率を低下させる短所がある。そして、結晶粒大きさを減少させる方法は未再結晶部混入による鋼板材質不均一度が増加して量産製品の品質偏差が大きくなる短所がある。その他にも磁性と強度を同時に改善するために従来提案された大部分の技術が製造費用増加、生産性および実収率下落、改善効果不十分などの理由で使用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が目的とするところは、2回の熱延板焼鈍および2回の冷延板焼鈍時、特定温度範囲での滞留時間調節を通じて結晶粒粒径分布を調節することによって、磁性および低温および高温での降伏強度を向上させた無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は、重量%でSi:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒粒径が50~100μmであり、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上である。
SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.1重量%さらに含み、
C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含む。
【0009】
本発明の無方向性電磁鋼板は、P:0.05重量%以下、B:0.002重量%以下、Mo:0.01重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含む。
本発明の無方向性電磁鋼板は、-40℃と210℃温度で引張試験した時に得られる降伏強度YS(-40℃)とYS(210℃)がYS(210℃)/YS(-40℃)≧0.71を満足する。
【0010】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を950~1150℃の温度範囲で70秒以下の間焼鈍する第1熱延板焼鈍段階、熱延板を900℃以上および950℃未満の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する第2熱延板焼鈍段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を900~1100℃の温度範囲で50秒以下の間焼鈍する第1冷延板焼鈍段階、および冷延板を700~850℃の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する第2冷延板焼鈍段階を含む。
スラブは、SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.1重量%さらに含むことができる。
スラブは、C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含み、
P:0.05重量%以下、B:0.002重量%以下、Mo:0.01重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含む。
【0011】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記式1を満足することとする。
[式1]
|(THA1-THA2)×(TCA1-TCA2)|≦1000
(式1中、THA1は第1熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、THA2は第2熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA1は第1冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA2は第2冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示す。)
熱延板を製造する段階以前に、スラブを1200℃以下で加熱する段階をさらに含む。
熱延板を製造する段階は、800℃以上で仕上げ圧延する段階を含む。
第1冷延板焼鈍段階および第2冷延板焼鈍段階は水素(H)40体積%以下、および窒素60体積%以上含み、露点が0~-40℃である雰囲気下で焼鈍することとする。
第2冷延板焼鈍段階以後、平均結晶粒粒径が50~100μmであり、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上であってもよい。
第2冷延板焼鈍段階以後、-40℃と210℃温度で引張試験した時に得られる降伏強度YS(-40℃)とYS(210℃)がYS(210℃)/YS(-40℃)≧0.71を満足する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉄損に優れると共にモータ作動温度での降伏強度に優れる無方向性電磁鋼板を製造することができる。
また本発明によれば、環境にやさしい自動車駆動モータの性能向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0014】
本発明で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
異なって定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0015】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%でSi:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる。
【0016】
以下では無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
Si:2.5~4.0重量%
シリコン(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低め、固溶強化によって強度を高める役割を果たす。Siが過度に少なく添加される場合、鉄損および強度改善効果が不足することがある。Siを過度に多く添加する場合、材料の脆性が増加して圧延生産性が急激に低下し磁性に有害な表層部酸化層および酸化物を形成することがある。したがって、Siを2.5~4.0重量%含むこととする。さらに具体的に、2.6~3.8重量%含むこととする。さらに具体的に、2.7~3.7重量%含むこととする。
【0017】
Al:0.1~1.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低め、固溶強化によって強度を高める役割を果たす。Alが過度に少なく添加される場合、微細窒化物が形成されて磁性改善効果を得にくいことがある。Alが過度に多く添加されれば、窒化物が過多に形成されて磁性を劣化させ、製鋼と連続鋳造などの全ての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させることがある。したがって、Alを0.1~1.5重量%含むこととする。さらに具体的に、0.3~1.4重量%含むこととする。
Mn:0.1~1.5重量%
【0018】
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し硫化物を形成させる役割を果たす。Mnが過度に少なく添加される場合、硫化物が微細に形成されて磁性劣化を起こし、Mnが過度に多く添加される場合、微細なMnSが過多に析出され、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が急激に減少するようになる。したがって、Mnを0.1~1.5重量%含むこととする。さらに具体的に、0.2~1.3重量%含むこととする。
【0019】
本発明の無方向性電磁鋼板は、SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.1重量%さらに含む。
SnおよびSbのうちの1種以上:0.006~0.100重量%
スズ(Sn)およびアンチモン(Sb)は、粒界と表面に偏析して再結晶初期に磁性に有害な{111}集合組織の発達を遅延させ、内部酸化層の形成を抑制する役割を果たす。SnおよびSbが過度に少なく添加される場合、前述の効果が充分でないことがある。SnおよびSbが過度に多く添加される場合、表面に不良を起こすことがある。したがって、SnおよびSbのうちの1種以上を0.006~0.100重量%含むこととする。さらに具体的に、0.010~0.070重量%含むこととする。SnおよびSbのうちの1種以上とは、SnまたはSbが単独で含まれる場合、その単独含量、SnおよびSbが同時に含まれる場合、SnおよびSbの合計量を意味する。
【0020】
本発明の無方向性電磁鋼板は、C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含む。
C:0.0050重量%以下
炭素(C)は、磁気時効を起こしその他の不純物元素と結合して炭化物を生成して磁気的特性を低下させるが、電位移動を妨害して強度を向上する。Cが過度に多く含まれる場合、微細な炭化物分率が増加して磁性が劣化することがある。したがって、Cを0.0050重量%以下で含むこととする。Cの下限は特に限定されないが、生産性を考慮する時、0.0010重量%以上含むこととする。即ち、Cを0.0010~0.0050重量%含むこととする。
【0021】
N:0.0050重量%以下
窒素(N)は、母材内部に微細なAlN析出物を形成するだけでなく、その他の不純物と結合して微細な析出物を形成して結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させる。したがって、Nを0.0050重量%以下で含むこととする。Nの下限は特に限定されないが、Nが強度を向上させるのに役立つので、下限を0.0003重量%とする。即ち、Nを0.0003~0.0050重量%含むこととする。
S:0.0050重量%以下
【0022】
硫黄(S)は、微細な析出物であるMnSおよびCuSを形成して磁気特性を悪化させ熱間加工性を悪化させる。したがって、Sを0.0050重量%以下で含むこととする。Sの下限は特に限定されないが、Sが磁束密度向上に役立つので、下限を0.0003重量%とする。即ち、Sを0.0003~0.0050重量%含むこととする。
【0023】
Ti、Nb、V:それぞれ0.0050重量%以下
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)は、鋼内析出物形成傾向が非常に強く、母材内部に微細な炭化物、窒化物または硫化物を形成して結晶粒成長および磁壁移動を抑制することによって鉄損を劣化させる。したがって、Ti、Nb、V含量はそれぞれ0.0050重量%以下であってもよい。その下限は特に限定されないが、製鋼費用によって0.0003重量%とする。即ち、Ti、Nb、Vをそれぞれ0.0003~0.0050重量%含むこととする。
【0024】
本発明の無方向性電磁鋼板は、P:0.05重量%以下、B:0.002重量%以下、Mo:0.01重量%以下、Mg:0.005重量%以下、Zr:0.005重量%以下のうちの1種以上をさらに含むこととする。
P:0.050重量%以下
リン(P)は、熱間加工特性を劣化させて磁性改善に対比して生産性を低下させる役割を果たす。したがって、Pを0.050重量%以下で含むこととする。その下限は特に限定されないが、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時に表面酸化を抑制し、結晶粒界を通じた元素の拡散を妨害し、{111}//ND方位の再結晶を妨害して集合組織を改善させる役割を果たすこともあるので、0.005%とする。即ち、Pを0.005~0.050重量%含むこととする。
B:0.002重量%以下
【0025】
ホウ素(B)を過量添加する場合、鋼内介在物形成などを通じた磁性悪化を引き起こすことがある。したがって、Bを0.002重量%以下で含むこととする。その下限は特に限定されないが、製鋼費用によって0.0001重量%とする。即ち、Bを0.0001~0.0020重量%含むこととする。
【0026】
Mo:0.01重量%以下
モリブデン(Mo)は、過量添加する場合、SnとPの偏析を抑制して集合組織改善効果が減少することがある。したがって、Moを0.01重量%以下で含むこととする。その下限は特に限定されないが、表面と粒界に偏析して集合組織を改善させる役割を果たすので、0.001重量%以上含むこととする。即ち、Moを0.001~0.010重量%含むこととする。
【0027】
Mg:0.005重量%以下
マグネシウム(Mg)は主にSと結合して硫化物を形成する元素であり、素地鉄表面酸化層に影響を与える。したがって、Mgを0.005重量%以下含むこととする。その下限は特に限定されないが、製鋼費用によって0.0001重量%とする。即ち、Mgを0.0001~0.0050重量%含むこととする。
【0028】
Zr:0.005重量%以下
ジルコニウム(Zr)を過量添加する場合、鋼内介在物形成などを通じた磁性悪化を引き起こすことがある。したがって、Zrを0.005重量%以下で含むこととする。その下限は特に限定されないが、製鋼費用によって0.0001重量%とする。即ち、Zrを0.0001~0.0050重量%含むこととする。
【0029】
残部はFeおよび不可避不純物からなる。不可避不純物については製鋼段階および方向性電磁鋼板の製造工程過程で混入される不純物であり、これは当該分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の前述の合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含まれてもよい。追加元素をさらに含む場合、残部であるFeを代替して含む。
【0030】
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒粒径が50~100μmであり、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上である。
本発明では平均結晶粒粒径を50~100μmと確保して、磁性を向上させることができる。特に、高周波鉄損を向上させることができる。本発明の結晶粒粒径とは、結晶粒面積と同一な面積を有する仮想の円を仮定してその原の直径を意味する。平均結晶粒粒径は、(測定面積÷結晶粒個数)0.5で計算することができる。結晶粒粒径は、圧延垂直方向断面(TD面)と平行な面を基準にして測定することができる。さらに具体的に、平均結晶粒径が60~95μmであってもよい。
本発明で、粒径が20μm以下である結晶粒の面積比率が0.5%以上である。粒径が小さい微細結晶粒を多量確保することによって、強度を向上させることができ、特に高温での降伏強度を向上させることができる。
本発明で、平均結晶粒粒径および微細結晶粒面積比率を同時に確保することによって、磁性と共に強度を同時に確保することができる。
【0031】
本発明の無方向性電磁鋼板は、-40℃と210℃温度で引張試験した時に得られる降伏強度YS(-40℃)とYS(210℃)がYS(210℃)/YS(-40℃)≧0.710を満足することができる。さらに具体的に、前記値が0.710~0.730であってもよい。
降伏強度YS(-40℃)は450~550MPaであってもよい。降伏強度YS(210℃)は325~400MPaであってもよい。
このように、特定温度条件で降伏強度を確保することによって、本発明の無方向性電磁鋼板を用いて環境にやさしい自動車駆動用モータを製造する時、広い温度領域で安定した高速回転が可能になってモータの効率を画期的に向上させることができる。
具体的に、無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が12.5W/kg以下、磁束密度(B50)が1.650T以上であってもよい。鉄損(W10/400)は400HZの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。磁束密度(B50)は5000A/mの磁場で誘導される磁束密度である。さらに具体的に、無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が10.0~12.0W/kg、磁束密度(B50)が1.660~1.680Tであってもよい。
【0032】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を第1熱延板焼鈍する段階、熱延板を第2熱延板焼鈍する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を第1冷延板焼鈍する段階、および冷延板を第2冷延板焼鈍する段階を含む。
まず、スラブを熱間圧延する。
スラブの合金成分については前述の無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したので、重複する説明は略する。無方向性電磁鋼板の製造過程で合金成分が実質的に変動しないので、無方向性電磁鋼板とスラブの合金成分は実質的に同一である。
具体的に、スラブは重量%で、Si:2.5~4.0%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~1.5%を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる。
その他の追加元素については無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したので、重複する説明は省略する。
【0033】
スラブを熱間圧延する前に加熱することができる。スラブの加熱温度は制限されないが、スラブを1200℃以下で加熱する。スラブ加熱温度が過度に高ければ、スラブ内に存在するAlN、MnSなどの析出物が再固溶された後、熱間圧延および焼鈍時に微細析出されて結晶粒成長を抑制し磁性を低下させることがある。
その次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱延板厚さは2~2.3mmであってもよい。熱延板を製造する段階で、仕上げ圧延温度は800℃以上であってもよい。具体的に、800~1000℃であってもよい。熱延板は、700℃以下の温度で巻き取られる。
【0034】
熱延板を製造する段階以後、第1熱延板焼鈍する。この時、熱延板を950~1150℃の温度範囲で70秒以下の間焼鈍する。前述の温度範囲では熱延板の再結晶および粒成長を通じて最適の結晶粒大きさを形成する。したがって、この温度範囲区間での滞留時間を短くすることにより、鋼板の結晶粒大きさを適切に制御して優れた強度と磁性を同時に確保することができる。さらに具体的に、熱延板を950~1150℃の温度範囲で35~65秒間焼鈍する。
本発明で、鋼板を焼鈍する温度は鋼板表面の温度を意味する。
その次に、熱延板を第2熱延板焼鈍する。この時、熱延板を900℃以上および950℃未満の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する。第1熱延板焼鈍段階で適正大きさの粒径を有する微細組織を形成し、第2熱延板焼鈍する段階で微細析出物を成長させるようになり、前述の温度範囲では熱延板内に微細な大きさで存在する窒化物、硫化物などが再固溶されないながら成長するようになる。したがって、この温度範囲区間での滞留時間を長くすることによって、数十nmの微細な析出物分率を低減することができる。さらに具体的に、熱延板を900℃以上および950℃未満の温度範囲で20~60秒間焼鈍する。
【0035】
その次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延は、0.1mm~0.35mmの厚さで最終圧延する。冷間圧延する段階で、圧下率を85%以上に調節することができる。さらに具体的に、圧下率は85~95%であってもよい。圧下率が過度に低い場合、鋼板幅方向への厚さ差が発生することがある。
その次に、冷延板を第1冷延板焼鈍する。この時、冷延板を900~1100℃の温度範囲で50秒以下の間焼鈍する。前述の温度範囲では冷延板の再結晶および粒成長を通じて最適結晶粒径を有する微細組織を形成する。したがって、この温度範囲区間での滞留時間を短くすることによって、優れた強度と磁性を同時に有する微細組織を形成することができる。さらに具体的に、冷延板を900~1100℃の温度範囲で30~50秒間焼鈍する。
【0036】
その次に、冷延板を第2冷延板焼鈍する。この時、冷延板を700~850℃の温度範囲で15秒以上の間焼鈍する。第2冷延板焼鈍段階で適切な大きさの結晶粒大きさを有する微細組織を維持しながら、磁性を劣化させる微細な析出物を粗大化させ鋼板の冷却過程で発生する板内部応力を減少させることができる。したがって、この温度範囲区間での滞留時間を長くすることによって、同一な微細組織を有しながらも鉄損を改善することができる。さらに具体的に、冷延板を700~850℃の温度範囲で20~50秒間焼鈍する。
【0037】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は下記式1を満足する。
[式1]
|(THA1-THA2)×(TCA1-TCA2)|≦1000
(式1中、THA1は第1熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、THA2は第2熱延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA1は第1冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示し、TCA2は第2冷延板焼鈍段階で滞留時間(秒)を示す。)
式1を満足するように各焼鈍段階の滞留時間を調節する時、適切な平均結晶粒粒径および微細結晶粒分率を確保することができ、これは無方向性電磁鋼板の強度および磁性向上につながる。
第1冷延板焼鈍段階および第2冷延板焼鈍段階は冷延板を水素(H)40体積%以下および窒素60体積%以上含み、露点が0~-40℃である雰囲気下で焼鈍する。具体的に、水素5~40体積%および窒素60~95体積%含む雰囲気で焼鈍する。第2冷延板焼鈍過程では、冷間圧延段階で形成された加工組織が全て(即ち、99%以上)再結晶される。
最終焼鈍後、絶縁被膜を形成することができる。前記絶縁被膜は有機質、無機質および有機-無機複合被膜で処理でき、その他絶縁が可能な被膜剤で処理することも可能である。
【0038】
以下では実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
〔実施例〕
実施例1
表1および残部Feおよび不可避不純物を含む成分でスラブを製造した。これを1150℃で加熱し880℃の仕上げ温度で熱間圧延して、板厚さ2.0mの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は表2の条件で1000℃、930℃でそれぞれ第1および第2熱延板焼鈍後、冷間圧延して厚さを0.25mmとした。これを表2の条件で1000℃、800℃でそれぞれ第1および第2冷延板を焼鈍した。
各試片に対する熱延板焼鈍1次および2次均熱時間、最終焼鈍1次および2次均熱時間、平均結晶粒直径、直径が20μm以下である結晶粒の面積率、YS(-40℃)、YS(210℃)、YS(210℃)/YS(-40℃)、W10/400鉄損、B50磁束密度を表3に整理した。
【0039】
各成分含量はICP湿式分析法で測定した。
結晶粒の平均粒径および面積率は試片のTD断面を研磨して100mm以上の面積になるようにEBSDで測定後、OIM softwareのMerge機能で併合し、Grain Size(diameter)機能で計算した時に出るAverage NumberとArea fraction値を使用した。
-40℃と210℃での引張試験は、ISO6892-2規格に基づいて試験した。磁束密度、鉄損などの磁気的特性はそれぞれの試片に対して幅60mm×の長さ60mm×枚数5枚の試片を切断してSingle sheet testerで圧延方向と圧延垂直方向を測定し、その平均値を示した。この時、W10/400は400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損であり、B50は5000A/mの磁場で誘導される磁束密度を意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表1~表3に示すように、第1、第2熱延板焼鈍、第1、第2冷延板焼鈍滞留時間が適切に調節されたA3、A4、B3、B4、C3、C4、D3、D4は優れたW10/400鉄損と共に高いYS(210℃)/YS(-40℃)が示された。
反面、A1、A2、C2、D2は熱延板焼鈍と冷延板焼鈍の1次均熱時間が範囲を逸脱して平均結晶粒直径が100μmを超過するか直径20μm以下の結晶粒面積率が0.5%より低かったため、YS(210℃)/YS(-40℃)値が低く示された。
また、B1、B2、C1、D1は熱延板焼鈍と冷延板焼鈍の2次均熱時間が範囲を逸脱して、平均結晶粒直径が50μmを超えないか直径20μm以下の結晶粒面積率が0.5%より低く、残留応力や微細析出物が適切に制御されなかったため、W10/400が劣位になる特性を示した。
本発明は実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【国際調査報告】