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特表2024-518902近赤外光学部品のためのカルコゲニドハイブリッド無機/有機ポリマーおよびそれらの用途
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  • 特表-近赤外光学部品のためのカルコゲニドハイブリッド無機/有機ポリマーおよびそれらの用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】近赤外光学部品のためのカルコゲニドハイブリッド無機/有機ポリマーおよびそれらの用途
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20240426BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566491
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 US2022026622
(87)【国際公開番号】W WO2022232330
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】63/182,102
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/182,573
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/182,627
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523405786
【氏名又は名称】ノーコン テクノロジーズ ホールディング インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】リーボウィッツ ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ノーウッド ロバート エー
(72)【発明者】
【氏名】キム キュンヨ
(72)【発明者】
【氏名】ショウギー ササアン
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087KA12
2H087LA00
2H087NA03
2H087RA44
2H087UA01
(57)【要約】
赤外スペクトルにおける用途にS-NBD2を使用する方法を提供する。方法は、S-NBD2を提供するステップと、S-NBD2で光学装置を形成するステップと、近赤外スペクトルにおいて光学装置を使用するステップとを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外スペクトルにおける用途にS-NBD2を使用する方法であって、
(a)S-NBD2を提供するステップ
(b)前記S-NBD2で光学装置を形成するステップ、および
(c)前記近赤外スペクトルにおいて前記光学装置を使用するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)が、以下の特性
(1)50×10-6/℃未満である熱膨張係数
(2)前記近赤外スペクトルにおいて1.7超の屈折率、および
(3)前記近赤外スペクトルにわたって0.05cm-1以下である吸収係数
を有するS-NBD2を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)が、少なくとも85℃のTgを有する前記S-NBD2を提供することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)が、前記近赤外スペクトルにおいて1.9未満の屈折率を有する前記S-NBD2を提供することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)が、30×10-6/℃から50×10-6/℃の間の熱膨張係数を有する前記S-NBD2を提供することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)でS-NBD2を提供することが、S50-NBD250を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)が、光学レンズにおいて前記S-NBD2を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルミフレームに前記レンズを取り付けることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)が、測距装置において前記S-NBD2を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記測距装置を使用することが、単一画素および複数画素の焦点面アレイ光検出器のうち1つを使用することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(c)が、アクティブイメージング装置において前記S-NBD2を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(c)が、前記S-NBD2を使用して、画像として、または現実世界の3Dシーンの奥行き知覚マップとして2次元レンダリングを生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(c)が、計測装置において前記S-NBD2を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(c)が、分光装置において前記S-NBD2を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
近赤外スペクトルにおける用途に光学ポリマーを使用する方法であって、
(a)以下の特性を有する前記光学ポリマーを提供するステップ
(1)50×10-6/℃未満である熱膨張係数
(2)前記近赤外スペクトルにおいて1.7超の屈折率、および
(3)前記近赤外スペクトルにわたって0.05cm-1以下である吸収係数
(d)前記ポリマーで光学装置を形成するステップ、および
(e)前記近赤外波長スペクトルにおいて前記光学装置を使用するステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究または開発に関する陳述
本発明は、SBIR契約番号2016089のもと、2020年9月1日に授与された米国政府の支援によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、近赤外(NIR)光学用途のカルコゲニドハイブリッド無機/有機ポリマー(「CHIP」または有機カルコゲニドポリマー)を使用する。本願は、1つまたは複数のレンズからなる光学アセンブリの設計と構造に関連して、近赤外用途におけるCHIPの熱膨張特性、高屈折率、および低光吸収が、近赤外域で透過性を有する現在の光学ポリマーと比較して重要であることを明らかにするものである。本願において、NIRは波長700~1600nmと定義される。
【背景技術】
【0003】
CHIPはカルコゲニドガラスのポリマー版として開発され、その後、ゲルマニウム、硫化亜鉛およびセレン化亜鉛などのII-VI化合物、ならびに臭化カリウムおよびフッ化カルシウムなどの赤外線透過塩などの赤外光学材料を、低コストで、加工性を高め、より頑丈にしたものである。CHIPの原特許である特許文献1では、波長300~1500nmで1.7~2.2の高屈折率、透過率、およびレンズについて検討する中で、赤外用途の材料の使用を認識している。同特許は、光透過性または光吸収について明確にしていない。原特許の対象となっている材料のガラス転移温度は、わずか55℃で、研究所外での用途には一般に有用ではない。
【0004】
現在の無機材料に付随する問題、特にコストや加工にかかわる問題を軽減する材料を提供することは有益であろう。
【0005】
また、高屈折率ガラス光学部品は、レンズメーカーの式1/f=(n-1)/Rに従って、単レンズとしてイメージングやセンシングの用途に使用されている。上式で、fは焦点距離、nは光学媒体の屈折率、Rはレンズの曲率半径であり、Rを大きくするためには、fを短くする、開口数を大きくする、またはf/#およびシャッター速度を小さくする。複レンズおよびそれより複雑なレンズアセンブリでは、色収差を抑えるために、高屈折率ガラスレンズが低屈折率ガラスレンズと共に使用され、そのような複レンズはアクロマートレンズとしても知られている。低屈折率とは1.45~1.6の範囲、高屈折率は1.7~1.9の範囲を言う。一般にこれらのガラスレンズは、屈折率の高低にかかわらず、1mmあたりの内部透過率が少なくとも99.9%、熱膨張係数が10ppm/℃未満、熱光学係数(dn/dT)が5ppm/℃未満である。最も一般的な光学グレードのガラスは、屈折率1.51の低屈折率ホウケイ酸ガラスN-BK7である。一般的な高屈折率ガラスは、屈折率1.71のランタンクラウンガラスN-LAK10、および屈折率1.83のランタンフリントガラスN-LASF9である(940nmでの屈折率)。
【0006】
場合によっては、光学ポリマー製レンズを、N-BK7などの低屈折率ガラス製レンズの代わりに使用することができる。透過率要件が低く、光熱要件がそれほど厳しくない穏やかな環境であれば、こうした代用は可能である。NIR光学ポリマーは内部透過率が低く、一般に厚さ1mmで90%超である。屈折率は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)の1.48からポリカーボネートの1.57までの幅である(屈折率が1.6を超えるポリマーもあるが、通常、近赤外域では透過率が十分でなく、微小光学用途に限定される)。屈折率が1.7を超え、かつ厚さ1mmの内部透過率が90%を超える光学ポリマーは存在しない。典型的な光学ポリマーのCTE値は65ppm/℃超、dn/dT値は80~130ppm/℃の範囲である。
【0007】
それにもかかわらず、光学設計者は、複雑なレンズ形状の採用、重量の削減、あるいはコスト削減の必要がある場合にはポリマーレンズを使用する。ポリマーは200℃未満の温度で自由形状の光学部品に成形できるのに対し、ガラスはガラス転移温度(500℃超)をゆうに超える温度で成形される。このような高温での成形は難しく、ポリマーレンズと比べてコストが大幅に上昇する。ポリマーの密度が一般に1.2g/ccの範囲であるのに対し、ガラスの密度は2.5g/ccの範囲であるため、同じ寸法であればポリマーレンズはガラスレンズよりも50%軽い。妥当な光学性能と十分な高屈折率を有する光学ポリマーが存在しないため、光学ポリマーは高屈折率ガラスの代替品として使用されてこなかった。
【0008】
高屈折率ガラスに代わる高屈折率の光学ポリマーを提供することは有益であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,306,218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本概要は概念の一部を簡略的に紹介するものであり、これについては以下の「発明を実施するための形態」で詳述する。本概要は、特許請求される主題の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求される主題の範囲を限定して用いることを意図したものでもない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態において、本発明は、赤外スペクトルにおける用途にS-NBD2を使用する方法を提供する。方法は、S-NBD2を提供するステップと、S-NBD2で光学装置を形成するステップと、近赤外スペクトルにおいて光学装置を使用するステップとを含む。
【0012】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、現時点で好ましい本発明の実施形態を示すものであり、上述した一般的な説明および以下に示す詳細な説明とともに、本発明の特徴を説明するのに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】S50-NBD250の例示的なポリマー鎖を示す図である。
図2】S50-NBD250の熱膨張係数(CTE)を、他の光学ポリマーと比較して示すグラフである。
図3】プリズム結合法と偏光解析法によって測定したS50-NBD250の屈折率を示すグラフである。
図4】S50-NBD250とS70-NBD230の屈折率を比較したグラフである。
図5】吸収制限透過および1550nm用の単層ARコーティングを施した透過における吸収制限透過スペクトルの透過率と波長を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面において、同様の数字は全体を通して同様の要素を指す。本明細書において、特定の用語は便宜上使用されているに過ぎず、本発明を限定するものとみなされるべきでない。用語には、具体的に言及された語、その派生語、および類似の意味を有する語が含まれる。本出願において、近赤外(「NIR」)は波長700~1600nmと定義される。また、式S50-NBD250における「50」は、そのポリマー鎖中の硫黄およびNBD2の重量%である。同様に、S70-NBD230における「70」および「30」は、それぞれ、そのポリマー鎖中の硫黄およびNBD2の重量%である。ポリマー鎖S50-NBD250において、NBD2はノルボルナジエンの二量体である。硫黄原子は、図1に示す鎖と同様の鎖でNBD2ポリマーに連結されている。
【0015】
以下に例示する実施形態は、網羅的であること、または開示された正確な形態に本発明を限定することを意図するものではない。これらの実施形態は、本発明の原理およびその適用と実用性を最もよく説明するために、また当業者が本発明を最もよく利用できるように選択され、記述されている。
【0016】
本明細書における「一実施形態」または「ある実施形態」への言及は、当該実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれ得ることを意味する。本明細書のさまざまな箇所で「一実施形態において」という句が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではなく、他の実施形態と必ずしも相互に排他的な別の、または代替的な実施形態であるわけでもない。「実施」という用語についても同様である。
【0017】
本願で使用する「例示的な」という語は、本明細書において、例、実例、または説明として用いていることを意味する。本明細書において「例示的」として記載される任意の態様または構想は、必ずしも、他の態様または構想よりも好ましい、または有利であると解釈されるべきではない。むしろ、例示的という語の使用は、具体的な方法で概念を提示することを意図している。
【0018】
「約」という語は、本明細書での使用において、「約」という語が付された数値の±10%の値を含み、「一般に」という語は、本明細書での使用において、「詳細または例外にかかわらず」ことを意味する。
【0019】
「または」という用語は、排他的な「または」ではなく、包括的な「または」を意味する。すなわち、別段の定めがない限り、または文脈から明らかでない限り、「XはAまたはBを採用する」は、自然な包括的順列のいずれかを意味することを意図している。つまり、XはAを採用する、XはBを採用する、またはXはAとBの両方を採用する、のいずれの例においても、「XはAまたはBを採用する」が満たされる。加えて、本願および添付の特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、別段の定めがない限り、または文脈から単数形を指すことが明らかでない限り、一般に「1つまたは複数」を意味すると解釈されるべきである。
【0020】
明示的に別段の記載がない限り、各数値および範囲は、「約」または「おおよそ」という語がその数値または範囲の前にあるかのように、近似値であると解釈されるべきである。
【0021】
特許請求の範囲における図の番号および/または図の参照表示の使用は、特許請求の範囲の解釈を容易にするために、特許請求される主題の1つまたは複数の可能な実施形態を特定することを意図している。そのような使用は、それらの特許請求の範囲を、対応する図に示される実施形態に必ずしも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0022】
本明細書に記載する例示的な方法のステップは、必ずしも記載された順序で実行する必要はなく、そのような方法のステップの順序は、単に例示的なものであると理解されるべきである。同様に、本発明のさまざまな実施形態と一致する方法において、そのような方法にステップを追加することができ、また特定のステップを省略または組み合わせることができる。
【0023】
以下の方法クレームにおける要素は、もしあれば、対応する表示とともに特定の順序で記載されるが、クレームの記述が、特にそれらの要素の一部または全部を実施する特定の順序を含意するものでない限り、それらの要素は、必ずしもその特定の順序での実施に限定されることを意図するものではない。
【0024】
適切なIRイメージングシステムで使用する上で望ましいIR透過特性も熱機械特性も備えていない第1世代のCHIP材料の欠点を補うために、新配合のCHIPが開発された。
【0025】
主に波長域700~1600nmで有用な種類の有機カルコゲニドポリマーを使用する方法を提供する。熱硬化性ポリマーの特性を有するS-NBD2について、この波長域で使用するための光学特性、材料特性、および化学特性の評価を行った。S-NBD2は光学的に安定であり、Tgは少なくとも85℃である。
【実施例
【0026】
70-NBD230とS50-NBD250の両方の測定により、波長800~1600nm、特に臨界波長である940nmおよび1550nmにおいて、厚さ1mmの内部透過率が85%以下であることが示された。この同じ材料について、1/λ2のミー散乱法に従った、波長1200nmから始まり波長450nmまで低下する吸収の増加が観察されている。しかし、広く商用利用するには、この波長帯で内部吸収が0.05cm-1以下でなければならない。同様に重要なこととして、ミー散乱は、撮像される物体からの放射が焦点面で過度に歪むため許容されない。代わりに、減衰は1/λ4のレイリー散乱挙動に従ったものであると理想的だが、1/λ3と比べると確実に悪くない。これらの値は、光学材料がS-NBD2が使用可能なアクティブイメージング用途に使用される場合に特に重要である。これにより、ターゲットが通常850、905、940、1060、1064、1310、1400、1535、または1550nmの波長のレーザーで照射され、反射された放射が、同じくS-NBD2が使用可能な単一画素または複数画素の焦点面アレイ光検出器に結像される。光学材料による光吸収が増加すると、検出および撮像範囲が低下し、散乱により位置決め誤差が増大し、画質が劣化する。
【0027】
S-NDB2は、IRイメージングシステムに組み込む上で望ましいIR透過特性または熱機械特性を備えていない他のCHIP
の欠点を軽減するために使用される。近赤外波長域におけるS-NDB2の使用にとって重要であるS-NDB2の以下の特性を測定した。
【0028】
熱膨張係数
光学設計に必要とされる重要な機械特性は熱膨張係数(「CTE」)である。S50-NBD250のCTEは、社内での干渉計測法と、第三者による推奨ASTM E831-19法の両方で測定した。2つの方法は5%以内で一致し、ASTM E831-19法では、図2に示すように、典型的な光学ポリマーの値よりも大幅に低い39×10-6/℃の値が得られた。S50-NBD250のCTEは約30×10-6/℃と約50×10-6/℃の範囲にあり、これは、近赤外用途にS50-NBD250を使用する明確な利点である。熱機械特性の点では、ポリマーの熱硬化性および広範なサイクル測定(-45~85℃で100サイクル)に基づいて、ガラス転移温度が約105℃であり、おおよそ85℃の使用温度で実用可能で、透過率に変化が認められないことがさらに確認された。
【0029】
50-NBD250のCTEが39×10-6/℃(または少なくとも50×10-6/℃)であることは、2つの点で重要である。第一に、多くの場合、レンズは金属ハウジングに機械的に固定される。光学アセンブリを使用できる温度範囲は、光学材料と金属のCTEの近さにいくらか依存する。これが離れすぎていると、温度範囲にわたってサイクルの回数をある程度重ねたときに、金属とレンズの接合が弱くなる。そうするとレンズが適切に固定されず、そのため焦点調節がうまくいかず画質が低下する。一例として、一般的なアセンブリ材料であるアルミニウムのCTEは23ppm/℃、最も一般的な光学グレードであるN-BK7ガラスのCTEは7ppm/℃、最も一般的なステンレス鋼である304のCTEは17ppm/℃である。アルミニウムが望ましい用途では、アルミニウムとガラスの差は、絶対値でアルミニウムとS50-NBD250の差と同じであり、同様に、アルミニウムとS50-NBD250の比が+70%であるのに対し、アルミニウムとガラスの比は-70%である。値と比率が同様であることから、S50-NBD250レンズの使用は、図2に示すように、従来の光学ポリマーとは異なり、実用可能な選択肢となる。
【0030】
第二に、CTEは、所定の温度範囲内にわたる光学設計において、レンズの焦点位置のシフトの尺度となる。図2からわかるように、S50-NBD250のCTEは、他の光学ポリマーのCTE値よりも少なくとも40%低い。CTEがこのように低いと、焦点のシフトが比例して小さくなる、または、許容される同じシフトに対して、1/(1-0.40)、すなわち67%大きな温度変化が可能になるという効果がある。例えば、CTEが約68×10-6/℃のレンズを使用した光学系を、CTEが39×10-6/℃のレンズに置き換えると、±20℃の温度範囲を±35℃に拡大することができる。この温度範囲の拡大は、可視スペクトル2D画像のオートフォーカス機構の一部としてNIR 3Dセンシングを使用するスマートフォンにおいて特に価値がある。CTEが小さいS-NBD2レンズを使用した3D奥行き知覚の性能により、奥行き判定の正確性が向上し、CTE値が大きい光学ポリマー製のレンズで可能であったよりも広い温度範囲にわたってより鮮明な可視2D画像が得られる。温度範囲の拡大は、測距装置においても価値があり、レーザービームが平行であればあるほど、検出装置の距離範囲が拡大する。この距離範囲の拡大は、レンズの焦点距離のシフトによりレーザービームが距離に従って拡散する可能性があるという観察から理解できる。ビームが拡散しすぎると、ターゲットに到達する光子が少なすぎるため、測距装置の光検出器が集めて測定できるほどの光が戻ってこない。CTEが小さいと、広い温度範囲にわたってビームが平行に保たれるため、所定の温度範囲でより長い距離に対して測距装置が使用可能となる。
【0031】
これらが、CTEが小さい光学ポリマー製レンズの新たな用途である。S50-NBD250のCTEを測定するまで、ガラスと従来のポリマーの間に位置する光学材料のCTEがアルミニウム(Al)と熱的に非常によく一致する可能性に関して、当業者は予想していなかった。また、広い温度範囲で奥行きを正確に測定するポリマーレンズも予想されていなかった。
【0032】
50-NBD250のCTEは、高屈折率ガラスの<10ppm/℃ほど小さくはないが、Al製ハウジングを使用する用途では、S-NBD2とAlのCTE(CTE=23ppm/℃)の一致は、ガラスとAlのCTEよりも一致性が高いとは言わないまでも、光学エンジニアには同等とみなされていることに注意が必要である。さらに、Alは軽量化のために鋼の代わりに使用されることが多いため、S-NBD2の密度がガラスに比べて低いことも有利である。
【0033】
屈折率
近赤外スペクトルにおいてS50-NBD250を特に有用なものとしているS50-NBD250のもう一つの重要な特性は、その屈折率である。近赤外スペクトルにわたるS50-NBD250の屈折率を図3に、S50-NBD250とS70-NBD230の屈折率の比較を図4に示す。厚さL、屈折率nの光学材料サンプルに光が入射すると、通常、光はサンプルを通り抜ける際にさまざまな物理現象、すなわち反射、散乱、および吸収を生じる。光学部品が最先端の方法で製造されていれば、表面光散乱とバルク光散乱は共に無視できるものとみなせる。
【0034】
光学ポリマーの散乱要件を満たすS-NBD2レンズは、本発明の方法で使用することができる。さらに、S-NBD2は現在使用されている高屈折率ガラスレンズに代わる光学ポリマーを提供する。S50-NBD250の屈折率は、図3に示すように、波長850nmで1.73、波長1250nmで1.72であり、近赤外スペクトル全体にわたって1.7超かつ1.9未満である。硫黄が70重量%のS70-NBD230の屈折率は、波長940nmで1.77、波長1550nmで1.76である。
【0035】
吸収
波長λを有し、サンプルに正常に入射する近赤外光では、材料の光学特性は、波長依存屈折率n(λ)および吸収係数α(λ)によって特徴付けることができる。フレネル反射が入射界面で起こり、界面で反射された入射パワーの割合は反射率Rで表される。
R=((n(λ)-1)/(n(λ)+1))^2 式1
上式で、吸収係数は、反射への寄与が無視できるほど非常に小さいものとみなされる。フレネル反射は入射界面と出射界面の両方で起こり、透過率(T)に(1-R)2の係数が与えられ、その最大値は1となる。例えば、屈折率が1.5の一般的な光学ガラスでは、R=0.04であるため、吸収が無視できるガラス片の透過率は、TF=(0.96)2×1=0.92で得られる。下付き文字のFは、これが両方の界面での正常入射光のフレネル反射で予想される透過率であることを示す。
【0036】
吸収が無視できない場合、透過率はe^(-α(λ)L)で得られる係数によってさらに減少する。これはベールの法則として知られている。全透過率(Tt)は次のように求められる。
t=[(1-R)]^2 e^(-α(λ)L) 式2
【0037】
この全透過率は、すべての散乱寄与がゼロであるとみなされているため、吸収制限透過率と呼ぶことができる。これは、長さLのサンプルに対して吸収係数α(λ)を有する材料で実現できる最高の透過率である。
【0038】
従来の光学ポリマーでは、800~2000nmの近赤外領域における吸収制限透過率は、炭素-水素、酸素-水素、および炭素-炭素の分子振動倍音からの吸収寄与によって決定される。特に、一般的な適用波長である1550nmでは、PMMAやポリカーボネートなどの光学ポリマーの吸収係数は約0.1~0.2cm-1である。分子振動倍音のスペクトル位置は、振動に関与する原子の質量に関連している。原子2個が関与する分子振動の単純な質量-ばねモデルでは、分子振動の周波数がこの原子2個の換算質量の平方根に反比例すると予測される。したがって、水素のような軽い原子が関与する振動は周波数が高く(波長が短く)、上で引用したような吸収係数をもたらす。カルコゲニドハイブリッド無機/有機ポリマーの重要な利点は、高屈折率および低熱膨張係数に加えて、硫黄結合の割合が大きいことである。硫黄原子(原子量32)は炭素(12)および特に水素(1)と比べて重いため、硫黄-硫黄結合の振動周波数が非常に小さく、10ミクロン超の波長に対応し、近赤外での吸収はごくわずかとなる。すなわち、50重量%の硫黄を含む一般的なカルコゲナイドポリマーでは、1550nmにおける吸収係数は、一般的な光学ポリマーよりも2分の1以下の0.05cm-1のオーダーとなり、光学設計および製造の柔軟性が向上する。
【0039】
図5は、S50-NBD250の吸収制限透過スペクトルを示すグラフである。厚さ1.4mm(対象となる近赤外用途に必要な一般的な厚さ)の平面窓形状について、理論透過率を波長に対してプロットした。一例として、1550nmにおける最大透過率は約86%であり、透過率の低下は実質的にすべて(100%未満)、吸収ではなく界面でのフレネル反射によって起こる。図5は、1550nmの理想的な反射防止コーティングを両面に施した同じ窓の理論透過率も示している。この場合、透過率は99%近くに上昇している。
【0040】
近赤外スペクトル用途におけるS-NBD2の使用の利点に以下がある。
高屈折率ガラスレンズに代わる光学ポリマーとしての使用。
計測装置における光学ポリマーとしての使用。
分光装置における光学ポリマーとしての使用。
球面レンズもしくは非球面レンズ、自由形状の光学レンズもしくは一体型レンズアセンブリ、ライトパイプ、複合放物面集光器、または当業者に明らかなその他の光学設計などの個別素子としての使用。
焦点距離の短縮、レンズハウジングのサイズおよび重量の削減、高屈折率による利点としての材料消費の削減、シャッター速度の低下、視野の拡大、検出範囲の拡大、および当業者には明らかなその他の利点など、高屈折率ガラス光学部品で実現されるのと同様の利点を達成するための、個別型または一体型のS-NBD2光学部品の製造における使用。
高価な単一素子の非球面ガラスから、総費用がより低いペアの球面ポリマーレンズへの置き換え。
元のレンズのサイズ、重量、またはコストの削減となる、複数の個別ガラスレンズの、単一の一体型レンズアセンブリへの統合。
質量およびサイズにより慣性モーメントが減少することで、人間工学が向上し、様式の選択肢が増え、回転速度が上がり、さらに当業者に明らかなその他の利点が得られるような、ガラスレンズアセンブリからポリマー一体型レンズアセンブリへの置き換えによる質量およびサイズの削減。
無人航空機(別名ドローン)のバッテリー消費が抑えられることで、より長時間の飛行および操作を可能にする、軽量の光学レンズアセンブリ。
【0041】
以下の特許請求の範囲に記載する本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の性質を説明するために記載および図示した部品の細部、材料、および配置におけるさまざまな変更が当業者によって行われ得ることがさらに理解されよう。




図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】