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特表2024-518918含水量が低減されたヒュームドアルミナ粉末
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  • 特表-含水量が低減されたヒュームドアルミナ粉末 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】含水量が低減されたヒュームドアルミナ粉末
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20240426BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20240426BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C01F7/021
C09C1/40
C09C3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567054
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022061778
(87)【国際公開番号】W WO2022238171
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】21173827.3
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マレイケ ギーズゼーラー
(72)【発明者】
【氏名】フランク メンゼル
(72)【発明者】
【氏名】アレグサンダー リギン
(72)【発明者】
【氏名】レーナー ゴルチャルト
【テーマコード(参考)】
4G076
4J037
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076BA38
4G076CA26
4G076CA28
4G076DA01
4G076DA02
4G076DA16
4J037AA25
4J037CB23
4J037DD05
4J037DD07
4J037EE47
(57)【要約】
含水量が低減されたヒュームドアルミナ粉末
XRD分析により測定して5重量%未満のアルファ?Alを含み、SLSにより測定して5μm未満の数値平均粒径d50を有し、ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対する、ヒュームドアルミナ粉末を150℃で2時間乾燥させた後、カール・フィッシャー滴定法で測定した含水量KF150の比R150=KF150/BETが0.0122重量%×g/m以下である表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末、その調製方法およびその使用。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)XRD分析で測定して、5重量%未満のアルファ-Alを含み、
b)アルミナの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、5μm未満の数値平均粒径d50を有し、
c)ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対する、前記ヒュームドアルミナ粉末を150℃で2時間乾燥させた後、カール・フィッシャー滴定法で測定した含水量KF150の比R150=KF150/BETが0.0122重量%×g/m以下である、
表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末。
【請求項2】
XRD分析で測定されるアルファ?Alを実質的に含まない、請求項1記載のヒュームドアルミナ。
【請求項3】
前記アルミナのBET表面積が20m/g~220m/gである、請求項1または請求項2記載のヒュームドアルミナ。
【請求項4】
前記アルミナのタンピング密度が250g/L以下である、請求項1~請求項3のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ。
【請求項5】
ISO 21363に準拠した透過型電子顕微鏡法(TEM)により測定して、前記アルミナの一次粒子の数平均円相当径dp-ECD(ナノメートル単位)が、少なくとも1100/(m/g単位の前記アルミナの表面積BETalumina)である、請求項1~請求項4のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ。
【請求項6】
前記アルミナは、BET表面積に対する、カール・フィッシャー滴定により測定される含水量KFの比KF/BETが0.0385重量%×g/m以下である、請求項1~請求項5のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ粉末。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項記載のヒュームドアルミナを、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサンおよびこれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理して得られる表面修飾ヒュームドアルミナ粉末。
【請求項8】
水性分散液を120秒間超音波処理した後、静的光散乱法により測定して、5μm未満の粒径d50を有し、かつXRD分析で測定して、5重量%未満のアルファ-Alを含む表面未処理ヒュームドアルミナ粉末に、250℃~1,250℃で5分~5時間熱処理を施す工程(A)を含み、
前記工程(A)の実施前、実施中または実施後には実質的に水は添加されず、
前記熱処理の温度および継続時間は、使用される熱未処理および表面未処理ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対して、アルミナのBETが最大23%減少するように選択される、
請求項1~請求項7のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ粉末の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理は、前記ヒュームドアルミナ粉末が動いている間に行われる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ヒュームドアルミナ粉末は、前記熱処理工程(A)中、少なくとも1cm/分の運動速度で動いている、請求項8または請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理は、ロータリーキルン内で行われる、請求項8~請求項10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記工程(A)で得られたヒュームドアルミナ粉末を、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理する工程(B)をさらに含む、請求項7記載の表面修飾ヒュームドアルミナ粉末を製造するための、請求項8~請求項11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記工程(B)の実施前、実施中または実施後には実質的に水は添加されない、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1~請求項7のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ粉末を含む組成物。
【請求項15】
塗料またはコーティング、シリコーン、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナー組成物、リチウムイオン電池、特にそのセパレータ、電極および/または電解質の成分としての、液体系のレオロジー特性を変えるための、沈降防止剤としての、粉末の流動性を向上するための、シリコーン組成物の機械的および/または光学的特性を向上するための、触媒担体としての、化学機械平坦化(CMP)での、および断熱のための、請求項1~請求項7のいずれか一項記載のヒュームドアルミナ粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が比較的小さく、含水量が少ないヒュームドアルミナ粉末、その調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒュームドアルミナ粉末は、さまざまな用途に非常に有用な添加剤である。これらの用途のほんの一部を挙げると、ヒュームドアルミナは、塗料、コーティング、シリコーン、その他の液体系のレオロジー調整剤または沈降防止剤として使用できる。アルミナ粉末は、粉末の流動性を改善したり、シリコーン組成物の機械的特性または光学的特性を最適化したりできるほか、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナーおよびその他の組成物の充填剤としても使用できる。ヒュームドアルミナは、触媒担体として、化学機械平坦化(CMP)用途で、断熱材中で、およびリチウムイオン電池中で使用できる。
【0003】
ヒュームドアルミナは、アルファ-、シータ-、デルタ-、およびガンマ-Alなどのさまざまな結晶相を含み得る。これらの結晶相の存在と比率によって、ヒュームドアルミナの物理化学的特性とさまざまな分野でのその応用性が大幅に決定される。
【0004】
未処理のヒュームド酸化アルミニウムは、その表面に極性ヒドロキシル基が存在するため親水性である。このような未処理のヒュームドアルミナは、かなりの量の水を吸収する傾向があり、そのような材料の含水量を増加させる。吸収された水の一部は、Alに弱く結合しており、例えば約100℃で1~2時間乾燥した後に除去できる。このような弱結合水の含有量は、アルミナが調製後に保管される環境の湿度に依存し得る。吸収された水の別の部分は、Alとより強く結合しており、150℃で2時間乾燥しても除去できない。この強く結合した水の含有量は、保管条件にほとんど左右されない。両方のタイプの吸収水を含む酸化アルミニウムの総含水量は、カール・フィッシャー滴定法によって確実に測定され得る。
【0005】
いくつかの用途、例えば、セパレータ、電極、電解質などのリチウムイオン電池用部品では、水の存在は望ましくない。
【0006】
したがって、国際公開第2018/149834号パンフレットは、ヒュームド酸化アルミニウムと二酸化チタンによって被覆された混合リチウム金属酸化物粒子の調製、およびリチウムイオン電池におけるこの材料の使用を開示している。
【0007】
国際公開第2020/225018号パンフレットは、結合剤と表面処理ヒュームドアルミナとを含むコーティング層で被覆された有機基材を含む、リチウムイオン電池用セパレータを開示している。
【0008】
このようなアルミナ添加剤中に存在する水は、リチウムイオン電池の水に敏感な成分のいくつか、例えばLiPFと反応する可能性がある。LiPFは電解質に含まれることが多く、電解質の分解を引き起こし、HFなどの反応性物質を放出して、そのような電池の不活性化を促進する。したがって、水に敏感な成分が関与する用途には、含水量が低減されたヒュームドアルミナが必要であるか、または有用であり得る。
【0009】
多くの場合、ヒュームドアルミナに弱く結合している水は、温和な条件下で乾燥させることにより除去できるが、Alに強く結合している水は、通常、使用されるヒュームドアルミナの構造や物理化学的性質を著しく変化させなければ除去することができない。
したがって、含水量が少ないこのようなヒュームドアルミナ粉末をどのようにして入手するかという問題は未解決のままである。
【0010】
従来技術の説明
ヒュームドアルミナ粉末を製造するための典型的な方法は、国際公開第2005/061385号パンフレットに記載されている。塩化アルミニウム蒸気を火炎加水分解した後、ガス流から固体酸化アルミニウムを分離し、続いて固体生成物を蒸気で処理して塩化水素の残留物からアルミナを精製する。調製されるアルミナ粉末試料は、タンピング密度が24~31g/L、BET表面積が101~195m/gであり、主に非晶質であるか、またはガンマ相にあり、水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定してヒドロキシル基含有量が8.1~11.4OH/nmである。火炎加水分解工程、およびその後の蒸気や湿った空気によるヒュームドアルミナの後処理中に水が存在すると、含水量が比較的多いヒュームド酸化アルミニウムが生成される(105℃で2時間の乾燥減量が最大5重量%)。
【0011】
同様に、国際公開第2006/067127号パンフレットは、BET表面積が49~175m/g、タンピング密度が26~64g/Lであるヒュームドアルミナ粉末の製造方法を開示している。調製されるアルミナ粉末は、最大で100%のガンマ-Al、最大で5~10%のシータ-Al、および残部デルタ-Alを含んでいる。調製される試料のヒドロキシル基含有量は、水素化アルミニウムリチウムとの反応によって測定して、9.1~10.2OH/nmの範囲で変化する。繰り返すが、火炎加水分解工程、およびその後の蒸気や湿った空気によるヒュームドアルミナの後処理中に水が存在すると、得られるアルミナの含水量を減らすことができない。
【0012】
BET表面積が21m/gであり、典型的には約70%のアルファ-Al、20%のデルタ-Al、10%のガンマ-Alを含むヒュームドアルミナ粉末は、欧州特許出願公開第0395925号明細書に従って、1,200~1,400℃の比較的高い火炎温度を使用する火炎プロセスによって調製することができる。欧州特許出願公開第0395925号明細書では、得られるヒュームド酸化アルミニウムの含水量を低減するための特別な措置は講じられていない。
【0013】
ヒュームド酸化アルミニウム粉末の含水量、特に強く吸収された水の含量を低減させる1つの可能な方法は、水を排除した状態でのアルミナの熱処理であり得る。しかし、そのような熱処理は、含水量の低減に加えて、多くの場合、例えば酸化アルミニウムの大幅なBET表面の減少、粒子の凝集、および結晶構造相の変化に反映される実質的な構造の変化を引き起こす。
【0014】
したがって、欧州特許出願公開第0355481号明細書によれば、BET表面積が約100m/gである主にガンマヒュームドアルミナ粉末を、1,200℃を超える温度の火炎中で熱処理して、BET表面積を40m/gまで減少させ、70~90%のアルファ-Alを含むアルミナを得ることができる。
【0015】
国際公開第2010/069690号パンフレットは、BET表面積が3~30m/gであり、少なくとも85重量%のアルファ-酸化アルミニウムを含み、非常に広い粒径分布を有するヒュームド酸化アルミニウム粉末の調製方法を開示している。このアルミナ粉末は、主にガンマ-Al相を有し、タンピング密度が少なくとも250g/Lであるヒュームドアルミナ顆粒を、1300℃以上で熱処理し、その後粉砕する方法によって製造される。国際公開第2010/069690号パンフレットでは、少なくとも250g/Lのタンピング密度を有する緻密化アルミナ前駆体(例えば、顆粒)のみが、上記の方法において前駆体として使用できることが強調されている。
【0016】
したがって、従来技術は、含水量とアルファ-酸化アルミニウム含量との両方が低い未処理(親水性)ヒュームドアルミナ粉末を得る方法を教示していない。
【0017】
従来技術から、ヒュームド酸化アルミニウムの含水量は、親水性アルミナをオルガノシランで表面処理することによってさらに低減できることが知られている。例として、国際公開第2004/108595号パンフレットは、熱分解法で調製された表面修飾酸化アルミニウムの製造方法を開示しており、この方法は、アルミナに蒸気形態の表面修飾剤を噴霧し、その後、得られた混合物を50~800℃で0.5~6時間かけて熱処理する工程を含む。この表面処理アルミナの熱処理により、表面処理反応が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2018/149834号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2020/225018号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/061385号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/067127号パンフレット
【特許文献5】欧州特許出願公開第0395925号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0355481号明細書
【特許文献7】国際公開第2010/069690号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2004/108595号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
課題および解決策
調製条件に応じて、ヒュームドアルミナは、熱力学的に安定なアルファ-Alなどのさまざまな同素体形態(結晶相)、またはガンマ-、デルタ-、シータ-Alなどの異なる遷移状態を含み得る。アルミナのこれらの異なる同素体形態はそれぞれ独自の物理化学的特性を有しており、それがその応用され得る分野を大いに決定する。例として、Alの遷移形態は、通常、密度が低く、BET表面積が大きいため、例えば触媒担体またはリチウムイオン電池への添加剤として特に有用である。したがって、本発明が取り組むべき1つの課題は、主に遷移アルミニウム酸化物のみからなる、すなわち、アルファ-Alを実質的に含まない、上記の用途、特にリチウムイオン電池での使用に特に適したヒュームドアルミナを提供することである。
【0020】
リチウムイオン電池のような水に敏感な用途に特に適したヒュームドアルミナを提供するには、アルミナの含水量を低減させることがさらに望ましい。特に、ヒュームドアルミナ中の強結合水、すなわち150℃で2時間乾燥しても除去できない水の含量を減らす必要がある。ヒュームドアルミナの通常の保管条件下、例えば空気中の湿気の存在下では、ヒュームドアルミナ中の含水量の低減は当然さらに低いままである。
【0021】
本発明が取り組むさらに別の課題は、種々の組成物、例えばシリコーンまたは欠乏組成物中におけるヒュームドアルミナ粒子の良好な分散性およびチキソトロピー特性を提供することである。ヒュームドアルミナの分散性とチキソトロピー特性は、主に比較的小さいアルミナ粒径、狭い粒径分布および粒子の強凝集と弱凝集に関係している。
【0022】
熱処理による含水量の低減は、多くの場合、結晶相の変化、緻密化、大幅な BET表面の減少および粒子の弱凝集と密接に関わっている。したがって、含水量が大幅に低減されると同時に、BET表面積が大きく、密度が低く、アルミナ粒子が小さく、かつその粒径分布が狭く保たれたヒュームド遷移アルミナを入手することは非常に困難である。したがって、ヒュームドアルミナ粒子の良好な分散性と、そのようなアルミナが充填された組成物の粘度上昇(増粘効果)を低くすることと、を同時に達成するのは非常に困難である。
【0023】
したがって、本発明が取り組む全体的な技術的課題は、主として遷移アルミナ相からなり、組成物中での良好な分散性を有し、特に、湿気の多い環境で保管された後の含水量が低減されたヒュームドアルミナ粉末を提供することである。本発明が取り組むさらなる課題は、そのようなアルミナ粉末を効率的に製造するのに適した方法を提供することである。
様々な試みの失敗を経て、本発明者らは驚くべきことに、最適化された本発明の方法によってそのようなヒュームドアルミナ粉末の製造が可能であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0024】
表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末
本発明は、
a)XRD分析で測定して、5%未満のアルファ-Alを含み、
b)アルミナの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、5μm未満の数値平均粒径d50を有し、
c)ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対する、ヒュームドアルミナ粉末を150℃で2時間乾燥させた後、カール・フィッシャー滴定法で測定した含水量KF150の比R150=KF150/BETが0.0122重量%×g/m以下である、
表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末を提供する。
【0025】
本明細書の文脈における用語「アルミナ」は、個々の化合物(酸化アルミニウム、Al)、アルミナ系の混合酸化物、アルミナ系のドープ酸化物、またはそれらの混合物に関する。「アルミナ系」とは、対応するアルミナ材料が少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%の酸化アルミニウムを含むことを意味する。
【0026】
本明細書の文脈における用語「粉末」は、微粒子、すなわち、典型的には50μm未満、好ましくは10μm未満の平均粒径d50を有する粒子を包含する。
【0027】
「熱分解法」または「熱分解法で製造された」アルミナとしても知られる「ヒュームド」アルミナは、火炎加水分解または火炎酸化などの熱分解法によってt調製される。これには、一般に水素/酸素炎中での、加水分解性または酸化性出発物質の酸化または加水分解が含まれる。熱分解法に使用される出発物質には、有機物質と無機物質が含まれる。三塩化アルミニウムが特に適している。このようにして得られる親水性アルミナは、通常、強凝集した状態である。「強凝集」とは、ヒュームド法で最初に生成されるいわゆる一次粒子が、後の反応で互いに強固に結合して三次元ネットワークを形成することを意味すると理解される。一次粒子には実質的に細孔がなく、その表面に遊離ヒドロキシル基を有する。このような親水性アルミナは、必要に応じて、例えば反応性シランで処理することにより疎水化することができる。
【0028】
揮発性金属化合物、例えば塩化物の形態の少なくとも2つの異なる金属源を、H/O火炎中で同時に反応させることによって熱分解法混合酸化物を生成することが知られている。このように調製された混合酸化物の全成分は、いくつかの金属酸化物の機械的混合物、ドープ金属酸化物などの他の種類の材料とは対照的に、一般に混合酸化物材料全体に均一に分布する。後者の場合、例えばいくつかの金属酸化物の混合物の場合、対応する純粋酸化物の分離領域が存在してよく、それがそのような混合物の特性を決定する。
【0029】
本発明のヒュームドアルミナ粉末は、アルファ-、シータ-、デルタ-、ガンマ-Alなどの結晶相および非晶質アルミナを含み得る。これらの相の含有量は、X線回折分析法(XRD)によって測定できる。このような定量的測定では、試験試料の測定されたX線回折パターンが、既知量の対応結晶相を含有する比較試料のX線回折パターンと比較される。
【0030】
本発明のヒュームドアルミナ粉末は、XRD分析で測定して、5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満のアルファ-Alを含み、より好ましくは実質的にアルファ-Alを含まない。「XRD分析で測定してアルファ-Alを実質的に含まない」とは、本明細書の文脈では、試料のX線結晶学的画像中でアルファ-Alに対応するピークが識別できないことを意味する。
【0031】
本発明による表面未処理ヒュームドアルミナ粉末は、一次結晶子とも呼ばれる一次粒子の数平均円相当径(ECD)dp_ECDが5nm~150nm、好ましくは8nm~100nm、より好ましくは10nm~80nmであることが好ましい。一次粒子の平均円相当径(ECD)dp_ECDは、ISO 21363に準拠した透過型電子顕微鏡(TEM)分析によって測定でき、dp_ECDの代表値を計算するには、少なくとも100個の粒子、好ましくは少なくとも300個の粒子、より好ましくは少なくとも500個の粒子を分析する必要がある。
【0032】
従来技術から一般に知られているように、ヒュームドアルミナの平均一次粒径は、そのBET表面積にほぼ可逆的に比例する。すなわち、BET表面積がより大きいヒュームドアルミナは、比例して平均一次粒径がより小さい。本発明による表面未処理ヒュームドアルミナ粉末は、ISO 21363に準拠した透過型電子顕微鏡(TEM)分析により測定して、一次粒子の数平均円相当径(ECD)dp_ECD(ナノメートル単位)が少なくとも1100/(m/g単位のBETアルミナ)、より好ましくは1100/(m/g単位のBETアルミナ)~1500/(m/g単位のBETアルミナ)、より好ましくは1120/(m/g単位のBETアルミナ)~1400/(m/g単位のBETアルミナ)、より好ましくは1150/(m/g単位のBETアルミナ)~1300/(m/g単位のBETアルミナ)、より好ましくは1170/(m/g単位のBETアルミナ)~1280/(m/g単位のBETアルミナ)、より好ましくは1200/(m/g単位のBETアルミナ)~1260/(m/g単位のBETアルミナ)であることが好ましい。BETアルミナは、m/g単位でのアルミナの表面積である。したがって、本発明による熱処理により、得られる本発明のヒュームドアルミナの一次粒径がわずかに増大する。
【0033】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、従来のヒュームド酸化アルミニウムと比較した場合、吸収した水の含量が低減している。
この吸収水の一部は、Alに弱結合しており、例えば150℃で2時間乾燥させることで除去できる。吸収水の別の部分は、Alとより強固に結合しており、150℃で2時間乾燥しても除去できない。
この強固に結合した水の含有量は、保管条件には実質的に左右されず、通常の条件、すなわち周囲温度および典型的な空気湿度下での保管では、ほぼ一定のままであることがわかっている。
【0034】
150℃で2時間乾燥した本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナの含水量KF150は、カール・フィッシャー滴定法により測定することができる。このカール・フィッシャー滴定は、すべての適切なカール・フィッシャー滴定装置、例えば、STN ISO 760に準拠したものを使用して実施され得る。
【0035】
本発明のヒュームドアルミナ粉末の絶対含水量は、そのBET表面積にほぼ直線的に依存する。驚くべきことに、ヒュームドアルミナの表面積に対するヒュームドアルミナの含水量の特定の減少比Rは、BET表面積とは無関係に、本発明によるすべてのヒュームドアルミナ粉末に特有であることがわかっている。
【0036】
したがって、本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積(m/g単位)に対する、本発明の表面未処理ヒュームドアルミナ粉末を150℃で2時間乾燥させた後、カール・フィッシャー滴定法で測定した含水量KF150(重量%単位)の比R150=KF150/BETは、0.0122重量%×g/m以下、より好ましくは0.0120重量%×g/m以下、より好ましくは0.0118重量%×g/m以下、より好ましくは0.0116重量%×g/m以下、より好ましくは0.0114重量%×g/m以下、より好ましくは0.0112重量%×g/m以下、より好ましくは0.0110重量%×g/m以下、より好ましくは0.0108重量%×g/m以下、より好ましくは0.0106重量%×g/m以下、より好ましくは0.0104重量%×g/m以下、より好ましくは0.0102重量%×g/m以下、より好ましくは0.0100重量%×g/m以下、より好ましくは0.0098重量%×g/m以下、より好ましくは0.0096重量%×g/m以下、より好ましくは0.0094重量%以下×g/m以下、より好ましくは0.0092重量%×g/m以下、より好ましくは0.0090重量%×g/m以下、より好ましくは0.0088重量%×g/m以下、より好ましくは0.0086重量%×g/m以下、より好ましくは0.0084重量%×g/m以下である。
【0037】
弱結合水と強結合水の両方を含む本発明の表面未処理ヒュームドアルミナ粉末の総含水量KFは、予備乾燥を行わずに、アルミナのカール・フィッシャー滴定法により測定することができる。
【0038】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積(m/g単位)に対する、カール・フィッシャー滴定法で測定した総含水量KFの比R=KF/BETは、好ましくは0.0385重量%×g/m以下、より好ましくは0.0380重量%×g/m以下、より好ましくは0.0375重量%×g/m以下、より好ましくは0.0370重量%×g/m以下、より好ましくは0.0360重量%×g/m以下、より好ましくは0.0340重量%×g/m以下、より好ましくは0.0300重量%×g/m以下、より好ましくは0.0290重量%×g/m以下、より好ましくは0.0280重量%×g/m以下、より好ましくは0.0270重量%×g/m以下、より好ましくは0.0260重量%×g/m以下、より好ましくは0.0250重量%×g/m以下、より好ましくは0.0240重量%×g/m以下、より好ましくは0.0230重量%×g/m以下、より好ましくは0.0220重量%×g/m以下である。
【0039】
用語「表面未修飾」は、ヒュームドアルミナ粉末に関する本明細書の文脈において、アルミナが表面処理されていないこと、すなわち、いかなる表面処理剤によっても修飾されておらず、したがって実質的に親水性であることを意味する。
【0040】
本発明による表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、よりいっそう好ましくは0.1重量%未満、さらにいっそう好ましくは0.05重量%未満の炭素含有量を有することが好ましい。炭素含有量は、EN ISO3262-20:2000(第8章)に準拠した元素分析により測定できる。
【0041】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、メタノール/水混合物中のメタノールが15体積%以下、より好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、特に好ましくは約0体積%であるメタノール湿潤性を有することが好ましい。本発明のヒュームドアルミナなどの金属酸化物粉末のメタノール湿潤性は、例えば国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳細に記載されているように測定することができる。
【0042】
本発明による表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、アルミナの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、5μm未満、より好ましくは0.01μm~5.0μm、より好ましくは0.03μm~3.0μm、より好ましくは0.05μm~2.0μm、より好ましくは0.06μm~1.5μm、より好ましくは0.07μm~1.0μm、より好ましくは0.08μm~0.90μm、より好ましくは0.10μm~0.80μmの数値平均粒径d50を有する。得られた測定粒径分布は、全粒子のうちの50%が超えていない粒径を反映した平均値d50を数平均粒径として定義するために使用される。
【0043】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、アルミナの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、静的光散乱(SLS)により測定して、12μm未満、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、より好ましくは6μm以下、より好ましくは4μm以下、より好ましくは0.20μm~4μm、より好ましくは0.20μm~2μmの粒径d90を有することが好ましい。得られた測定粒径分布は、全粒子のうちの90%が超えていない粒径を反映したd90値を定義するために使用される。
【0044】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、比較的狭い粒径分布を有することが好ましく、これは、好ましくは20.0未満、より好ましくは15.0未満、より好ましくは0.8~5.0、より好ましくは1.0~4.0、より好ましくは1.0~3.0の粒径分布のスパン(d90-d10)/d50の値によって特徴付けることができる。上記の粒径が比較的小さく、粒径分布が狭い表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、種々の組成物中で分散性が特に良好であるため好ましい。
【0045】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、より好ましくは20g/L~250g/L、より好ましくは20g/L~200g/L、より好ましくは25g/L~150g/L、より好ましくは30g/L~130g/Lのタンピング密度を有することが好ましい。タンピング密度は、DIN ISO 787-11:1995 に準拠して測定できる。
【0046】
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、10m/gを超え、好ましくは20m/g~220m/g、より好ましくは25m/g~200m/g、30m/g~180m/g、より好ましくは40m/g~140m/gのBET表面積を有することができる。比表面積は、単にBET表面積とも呼ばれ、DIN 9277:2014に準拠して、ブルナウアー・エメット・テラー法による窒素吸着により測定できる。
【0047】
本発明の表面未修飾アルミナ粉末は、欧州特許出願公開第0725037 号明細書の第8頁第17行目~第9頁第12行目に詳述されているように、水素化アルミニウムリチウムとの反応により測定して、BET表面積dOHに対するヒドロキシル基数が7.5OH/nm~11.0OH/nm、より好ましくは8.0OH/nm~10.0OH/nmであることが好ましい。この方法は、Journal of Colloid and Interface Scienceの第125巻第1号(1988年)第61~68頁にも記載されている。
【0048】
本発明による表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末は、以下に説明する本発明の方法の工程(A)を実施した後に得ることができる。
【0049】
表面修飾ヒュームドアルミナ粉末
本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナの低減後の含水量は、アルミナの表面処理によりさらに大幅に低減させることができる。
本発明はさらに、本発明の表面未処理ヒュームドアルミナを、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理することによって得られる表面修飾ヒュームドアルミナ粉末を提供する。
【0050】
本明細書において、用語「表面修飾」は、用語「表面処理」と同じように使用され、表面未処理の親水性アルミナと、アルミナの遊離ヒドロキシル基を完全にまたは部分的に修飾する対応する表面処理剤との化学反応に関する。
【0051】
本発明の表面処理ヒュームドアルミナ粉末を得るのに適したいくつかの特に有用な表面処理剤を、本発明の方法の表面処理工程(B)に関連して以下に記載する。
本発明の表面修飾アルミナ粉末は、使用される表面処理剤の化学構造に応じて、親水性または疎水性とすることができる。好ましくは、疎水性を付与する表面処理剤が使用され、疎水性を有する表面処理アルミナ粉末が生成される。
【0052】
本明細書の文脈における用語「疎水性」は、水などの極性媒体に対して親和性が低い表面処理アルミナ粒子に関係する。表面処理アルミナ粉末の疎水性の程度は、国際公開第2011/076518号パンフレットの第5~6頁に詳述されている通り、そのメタノール湿潤性などのパラメータによって測定できる。純水中では、疎水性無機酸化物(例:シリカまたはアルミナ)は、水から完全に分離し、その溶媒で濡れることなくその表面に浮く。対照的に、純粋なメタノール中では、疎水性酸化物は溶媒全体に分布し、完全な湿潤が生じる。メタノール湿潤性の測定では、試験対象の酸化物試料をさまざまなメタノール/水混合物と混合し、酸化物がまだ濡れていない状態、すなわち、試験対象の酸化物の100%が試験混合物から分離した状態での最大メタノール含量を測定する。メタノール/水混合物中のこのメタノール含量(体積%単位)がメタノール湿潤性と呼ばれる。このようなメタノール湿潤性のレベルが高いほど、無機酸化物はより疎水性である。
【0053】
本発明の表面修飾ヒュームドアルミナ粉末は、メタノール/水混合物中のメタノール含量が20体積%を超え、より好ましくは30体積%~90体積%、より好ましくは30体積%~80体積%、特に好ましくは35体積%~75体積%、最も好ましくは40体積%~70体積%であるメタノール湿潤性を有することが好ましい。
【0054】
本発明による表面修飾ヒュームドアルミナ粉末は、元素分析で測定して炭素含有量が0.2重量%~10重量%、好ましくは0.3重量%~7重量%、より好ましくは0.4重量%~5重量%、より好ましくは0.5重量%~4重量%、より好ましくは0.5重量%~3.5重量%、より好ましくは0.5重量%~3.2重量%、より好ましくは0.5重量%~3.0重量%、より好ましくは0.5重量%~2.5重量%、より好ましくは0.5重量%~2.0重量%、より好ましくは0.5重量%~1.5重量%であり得る。元素分析は、EN ISO3262-20:2000(第8章)に従って実施できる。分析対象の試料は、セラミックるつぼに秤量され、燃焼添加剤が加えられ、酸素流下、誘導炉内で加熱される。存在する炭素は酸化されてCOになる。COガス量は赤外線検出器によって定量化される。
【0055】
本発明の表面修飾ヒュームドアルミナの粉末のBET表面積に対する、カール・フィッシャー滴定法で測定した総含水量KFの比R=KF/BETは、好ましくは0.025重量%×g/m以下、より好ましくは0.022重量%×g/m以下、より好ましくは0.020重量%×g/m以下、より好ましくは0.015重量%×g/m以下、より好ましくは0.010重量%×g/m以下、より好ましくは0.005重量%×g/m以下である。
【0056】
本発明の表面修飾ヒュームドアルミナの多くの物理化学的特性は、その前駆体である本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナについて上述したものに対応する。
したがって、上で詳述した本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナの結晶相組成は、通常、その表面修飾中に大きく変化せず、したがって、本発明の表面修飾ヒュームドアルミナの結晶相組成に対応する。
【0057】
同じことが、SLS法により測定される粒径d50、d90、粒径分布のスパン(d90-d10)/d50の値にも当てはまる。ただし、これらの値は、表面未修飾ヒュームドアルミナの静的光散乱(SLS)測定に使用される水の代わりに、表面修飾アルミナの5重量%メタノール分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、SLSによって測定されることが好ましい。
上述した本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積、タンピング密度、平均一次粒径dp_ECDの好ましい値の範囲は、本発明の表面修飾ヒュームドアルミナ粉末のものに対応する。
【0058】
ヒュームドアルミナ粉末の製造方法
本発明の方法の工程(A)
本発明はさらに、水性分散液を120秒間超音波処理した後、静的光散乱法により測定して、5μm未満の粒径d50を有し、かつXRD分析で測定して、5重量%未満のアルファ-Alを含む表面未処理ヒュームドアルミナ粉末に、250℃~1,250℃で5分~5時間熱処理を施す工程(A)を含み、
工程(A)の実施前、実施中または実施後には実質的に水は添加されず、
熱処理の温度および継続時間は、使用される熱未処理および表面未処理ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対して、アルミナのBETが最大23%減少するように選択される、本発明によるヒュームドアルミナ粉末の製造方法を提供する。
【0059】
本発明の方法における表面未処理ヒュームドアルミナ粉末の熱処理は、250℃~1,250℃、好ましくは300℃~1,250℃、より好ましくは400℃~1,200℃、より好ましくは500℃~1,200℃、より好ましくは500℃~1,100℃、より好ましくは700℃~1,200℃、より好ましくは700℃~1,100℃、より好ましくは1,000℃~1,200℃、より好ましくは1,000℃~1,100℃の温度で実施される。この熱処理の継続時間は、適用される温度に左右され、一般に5分~5時間、好ましくは10分~4時間、より好ましくは20分~3時間、さらに好ましくは30分~2時間である。
【0060】
熱処理工程の継続時間は、得られるヒュームドアルミナ粉末の特性に大きな影響を与え得ることが観察されている。したがって、250~1,250℃で行われる熱処理工程の継続時間が5分未満の場合、特に熱処理用の出発物質が熱処理前に予備乾燥されており、それ自体が濡れていなければ(例えば、カール・フィッシャー滴定法で測定して含水量が3重量%以下であれば)、通常、アルミナの含水量の大幅な低減は観察されない。逆に、熱処理工程の継続時間が5時間を超えると、通常、得られるアルミナの含水量にさらなる大きな変化はもたらされないが、得られる粒子の粒径は大きくなり得る。
【0061】
本発明の方法における熱処理は、遊離ヒドロキシル基の縮合およびO-Al-O架橋の形成によって遊離ヒドロキシル基の数を減少させ得る。
この方法は、得られるフュームドアルミナのBET表面積の減少を伴い得る。
重要なことだが、本発明の方法で使用される条件下では、ヒュームドアルミナのBET表面積を実質的に減少させることなく、含水量の大幅な低減を達成できることが分かった。
【0062】
したがって、本発明の方法の工程(A)における熱処理の温度と継続時間は、使用される熱未処理および表面未処理ヒュームドアルミナ粉末のBET表面積に対して、アルミナのBETが最大23%、好ましくは最大20%、より好ましくは最大17%、より好ましくは最大14%、より好ましくは最大11%減少するように選択される。
【0063】
熱処理はまた、得られる熱処理ヒュームドアルミナの一次粒子を大きくするだけでなく、ヒュームドアルミナの結晶相変化および高密度化ももたらし得る。
【0064】
本発明の方法における熱処理は、不連続的(バッチ式)、半連続的、または好ましくは連続的に実施され得る。
不連続的方法における「熱処理の継続時間」は、表面未処理ヒュームドアルミナが規定温度で加熱されている全時間として定義される。半連続的または連続的方法の場合、「熱処理の継続時間」は、規定の熱処理温度における表面未処理ヒュームドアルミナ粉末の平均滞留時間に相当する。
本発明の方法は、熱処理工程(A)における表面未処理ヒュームドアルミナ粉末の平均滞留時間を10分~3時間として連続的に実施されることが好ましい。
【0065】
本発明の方法において、熱処理は、ヒュームドアルミナ粉末が移動している間、好ましくは方法中絶えず移動している間、すなわち、熱処理中にアルミナが移動している間に実施されることが好ましい。このような「動的」方法は、アルミナ粒子が移動しない(例えば、マッフル炉内などでの熱処理中にアルミナ粒子が層内に存在している)「静的」熱処理方法とは正反対である。
【0066】
驚くべきことだが、このような動的熱処理方法を、熱処理の適切な温度および継続時間と組み合わせることにより、様々な組成物中で特に良好な分散性を示す、粒径分布が比較的狭い均一な小粒子を製造できることが分かった。
【0067】
本発明の方法は、アルミナ粉末を移動させながら、アルミナ粉末を上記の規定温度に規定時間維持することができるすべての適切な装置内で実施されることが好ましい。適切な装置の中には、流動床反応器およびロータリーキルンがある。ロータリーキルン、特に直径が1cm~2m、好ましくは5cm~1m、より好ましくは10cm~50cmのロータリーキルンが本発明の方法で使用されることが好ましい。
【0068】
ヒュームドアルミナ粉末は、熱処理工程(A)の間、少なくとも1cm/分、より好ましくは少なくとも10cm/分、より好ましくは少なくとも25cm/分、より好ましくは少なくとも50cm/分の運動速度で、少なくとも一時的に移動させられることが好ましい。アルミナは、熱処理工程の全期間にわたってこの運動速度で連続的に移動させられることが好ましい。ロータリーキルン内の運動速度は、このタイプの反応器の周速度に対応する。流動床反応器内の運動速度は、キャリアガスの流量(流動速度)に対応する。
【0069】
本発明の方法の工程(A)の実施前、実施中または実施後には、実質的に水は添加されない。このようにして、ヒュームドアルミナのさらなる水の吸収を回避することができ、より含水量の低い熱処理アルミナ粉末を得られ得る。
「実質的に水を含まない」とは、本発明の方法に関して、本発明の方法の工程(A)の実施前、実施中または実施後に添加される水の量が、ヒュームドアルミナの重量に対して、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、より好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満であることを意味する。
【0070】
熱処理工程(A)は、空気または窒素などのガス流下で実施することができ、そのガスは実質的に水を含まないか、または予備乾燥させたものであることが好ましい。
「実質的に水を含まない」とは、ガスに関して、本発明の方法の工程(A)で使用されるガスの含水量が、好ましくは5体積%未満、より好ましくは3体積%未満、より好ましくは1体積%未満、より好ましくは0.5体積%未満であること、より好ましくは使用前のガスに蒸気または水蒸気が全く添加されないことを意味する。
【0071】
本発明の方法の工程(B)
ヒュームドアルミナ粉末を製造する本発明の方法はさらに、工程(A)で得られたヒュームドアルミナ粉末を、オルガノシラン、シラザン、非環状ポリシロキサン、環状ポリシロキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される表面処理剤で表面処理する工程(B)を含む。
【0072】
好ましいオルガノシランは、例えば、一般式(Ia)および(Ib)のアルキルオルガノシランである。
R’(RO)Si(C2n+1) (Ia)
R’(RO)Si(C2n-1) (Ib)
(式中、Rは、例えばメチル-、エチル-、n-プロピル-、i-プロピル-、ブチル-などのアルキルであり、
R’は、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、シクロヘキシル、オクチル、ヘキサデシルなどのアルキルまたはシクロアルキルであり、
nは1~20、x+yは3、xは0~2、およびyは1~3である。)
【0073】
式(Ia)および(Ib)のアルキルオルガノシランの中で、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0074】
表面処理に使用されるオルガノシランには、ClまたはBrなどのハロゲンが含まれ得る。以下のタイプのハロゲン化オルガノシランが特に好ましい。
‐一般式(IIa)および(IIb)のオルガノシラン:
Si(C2n+1) (IIa)
Si(C2n-1) (IIb)
(式中、XはCl、Br、nは1~20である。)
‐一般式(IIIa)および(IIIb)のオルガノシラン:
(R’)Si(C2n+1) (IIIa)
(R’)Si(C2n-1) (IIIb)
(式中、XはCl、Br、
R’は、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチルなどのアルキル、シクロヘキシルなどのシクロアルキルであり、
nは1~20である。)
‐一般式(IVa)および(IVb)のオルガノシラン:
X(R’)Si(C2n+1) (IVa)
X(R’)Si(C2n-1) (IVb)
(式中、XはCl、Br、
R’は、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチルなどのアルキル、シクロヘキシルなどのシクロアルキルであり、
nは1~20である。)
【0075】
式(II)~(IV)のハロゲン化オルガノシランの中で、特に好ましいのは、ジメチルジクロロシランとクロロトリメチルシランである。
【0076】
使用されるオルガノシランは、アルキルまたはハロゲン置換基以外、例えばフッ素置換基またはいくつかの官能基を含むことができる。好ましくは、一般式(V)の官能化オルガノシランが使用される。
(R’ ’)(RO)Si(CHR’ (V)
(式中、R’ ’はメチル、エチル、プロピルなどのアルキル、またはClもしくはBrなどのハロゲンであり、
Rは、メチル、エチル、プロピルなどのアルキルであり、
x+yは3、xは0~2、yは1~3、mは1~20、
R’は、メチル-、アリール(例えば、フェニルまたは置換フェニル残基)、ヘテロアリール-C、OCF-CHF-CF、-C13、-O-CF-CHF、-NH、-N、-SCN、-CH=CH、-NH-CH-CH-NH、-N-(CH-CH-NH、-OOC(CH)C=CH、-OCH-CH(O)CH、-NH-CO-N-CO-(CH、-NH COO-CH、-NH-COO-CH-CH、-NH-(CHSi(OR)、-S-(CHSi(OR)、-SH、-NR(Rはアルキル、アリール;RはH、アルキル、アリール;RはH、アルキル、アリール、ベンジル、CNR(式中、RはH、アルキル、RはH、アルキルである。))
【0077】
式(V)の官能化オルガノシランの中で、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0078】
一般式R’RSi-NH?SiRR’(VI)(式中、Rはメチル、エチル、プロピルなどのアルキル;R’はアルキル、ビニルである。)のシラザンも表面処理剤として適している。最も好ましい式(VI)のシラザンは、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)である。
【0079】
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D6)などの環状ポリシロキサンも表面処理剤として適している。環状ポリシロキサンの中で最も好ましくは、D4が使用される。
【0080】
別の有用なタイプの表面処理剤は、一般式(VII)のポリシロキサンまたはシリコーン油である。
【0081】
【化1】
【0082】
(式中、YはH、CH、C2n+1(式中、nは1~20である。)、Si(CH(式中、aは2~3、bは0または1、a+bは3である。)であり、
XはH、OH、OCH、C2m+1(式中、mは1~20である。)であり、
R、R’はC2o+1(式中、oは1~20である。)などのアルキル、フェニルおよび置換フェニル残基などアリール、ヘテロアリール、(CH-NH(式中、kは1~10である。)、Hであり、
uは2~1,000、好ましくは3~100である。)
【0083】
式(VII)のポリシロキサンおよびシリコーン油中、最も好ましくは、ポリジメチルシロキサンが表面処理剤として使用される。このようなポリジメチルシロキサンは、通常、モル質量が162g/モル~7,500g/モル、密度が0.76g/mL~1.07g/mL、および粘度が0.6mPa・s~1000000mPa・sである。
【0084】
本発明の方法の工程(B)では、表面処理剤に加えて水を使用することができる。本発明の方法の工程(B)における表面処理剤に対する水のモル比は、好ましくは0.1~100、より好ましくは0.5~50、より好ましくは1.0~10、より好ましくは1.2~9、より好ましくは1.5~8、より好ましくは2~7である。
【0085】
ただし、含水量の低い表面処理アルミナ粉末を得る必要がある場合には、方法で使用される水の量を最小限に抑える必要があり、理想的には方法中に水が一切添加されるべきでない。したがって、工程(B)の実施前、実施中または実施後には、実質的に水が添加されないことが好ましい。
用語「実質的に水を含まない」は、本明細書の文脈では、工程(B)で使用されるヒュームドアルミナ粉末の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満の量の水が添加されること、最も好ましくは水が一切添加されないことに関する。
表面処理剤および必要に応じて水は、本発明の方法中、蒸気および液体の両方の形態で使用することができる。
【0086】
本発明の方法の工程(B)は、10℃~250℃の温度で1分~24時間実施することができる。工程(B)の時間および継続時間は、方法および/または目標とするアルミナ特性に関する特定の要件に従って選択することができる。 したがって、処理温度が低いほど、通常はより長い疎水化時間が必要になる。本発明の好ましい一実施形態では、ヒュームドアルミナ粉末の疎水化は、10℃~80℃で3時間~24時間、好ましくは5時間~24時間行われる。本発明の別の好ましい実施形態では、本方法の工程(B)は、90℃~200℃、好ましくは100℃~180℃、最も好ましくは120℃~160℃で0.5時間~10時間、好ましくは1時間~8時間実施される。本発明による方法の工程(B)は、0.1バール~10バール、好ましくは0.5バール~8バール、より好ましくは1バール~7バール、最も好ましくは1.1バール~5バールの圧力下で実施することができる。工程(B)は、反応温度で、使用される表面処理剤の自然蒸気圧下、閉鎖系で行われることが最も好ましい。
【0087】
本発明の方法の工程(B)では、工程(A)で熱処理を施したヒュームドアルミナ粉末に、周囲温度(約25℃)で液体表面処理剤を噴霧し、続いてその混合物を50℃~400℃の温度で1時間~6時間かけて熱処理する。
【0088】
工程(B)における表面処理の代替方法は、工程(A)で熱処理を施したヒュームドアルミナ粉末を表面処理剤で処理することにより行うことができる。その表面処理剤は、蒸気の形態であり、その後混合物を50℃~800℃の温度で0.5時間~6時間かけて熱処理する。
【0089】
工程(B)での表面処理後の熱処理は、例えば窒素などの保護ガス下で行うことができる。表面処理は、噴霧装置を備えた加熱可能なミキサーおよび乾燥機で、連続的にまたはバッチ式で実施できる。適切な装置は、例えば、プラウシェアミキサーもしくはプレート、サイクロン、または流動床乾燥機であり得る。
【0090】
表面処理剤の使用量は、粒子の種類および塗布する表面処理剤の種類によって異なる。しかしながら、工程(A)で熱処理を施したヒュームドアルミナ粉末の量に対して、通常は1重量%~25重量%、好ましくは2重量%~20重量%、より好ましくは5重量%~18重量%の表面処理剤が使用される。
【0091】
表面処理剤の必要量は、使用されるヒュームドアルミナ粉末のBET表面積によって異なる。したがって、工程(A)で熱処理を施したヒュームドアルミナ粉末のBET比表面積1m当たり、0.1μモル~100μモル、より好ましくは1μモル~50μモル、より好ましくは3.0μモル~20μモルの表面処理剤が使用されることが好ましい。
【0092】
本発明の方法の任意工程(C)では、方法の工程(A)で熱処理を施したヒュームドアルミナ粉末および/または方法の工程(B)で得られたヒュームドアルミナ粉末を圧砕し、すり砕き、または粉砕して、得られたアルミナ粒子の平均粒径を小さくする。
本発明の方法の任意工程(C)における圧砕は、この目的に適したすべての機械(例えば、適切なミル)よって実現できる。
ただし、ほとんどの場合、本発明の方法の任意工程(C)の実施は不要であり、望ましくさえない。粗いアルミナ粒子を圧砕または粉砕すると、通常、平均粒径が小さくなったアルミナ粒子が得られるが、そのような粒子は比較的広い粒径分布を示す。このような粒子には通常、比較的大きな割合の微粉が含まれており、これらの圧砕/粉砕粒子の取り扱いが複雑になる。
したがって、本発明の方法は、圧砕、すり砕きおよび/または粉砕工程を含まないことが好ましい。
【0093】
ヒュームドアルミナ粉末を含む組成物
本発明の別の目的は、本発明の表面未修飾ヒュームドアルミナ粉末および/または本発明の表面修飾ヒュームドアルミナ粉末を含む組成物である。
本発明による組成物は、組成物の個々の部分を互いに結合し、場合により1つまたは複数の充填剤および/または他の添加剤に結合する少なくとも1つの結合剤を含むことができ、そのため、組成物の機械的特性を改善することができる。このような結合剤は、有機物質または無機物質を含むことができる。結合剤は、必要に応じて反応性有機物質を含む。有機結合剤は、例えば、(メタ)アクリレート、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アラビアゴム、カゼイン、植物油、ポリウレタン、シリコーン樹脂、ワックス、セルロース接着剤、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。このような有機物質は、例えば溶媒の蒸発、重合、架橋反応、または別のタイプの物理的もしくは化学的変化によって、使用される組成物の硬化を引き起こし得る。このような硬化は、例えば、熱的に、またはUV放射線もしくは他の放射線の作用下で起こり得る。単一の(一)成分系(1-C)と多成分系、特に二成分系(2-C)との両方を結合剤として適用することができる。結合剤に加えて、または結合剤の代わりに、本発明の組成物は、ポリオレフィン樹脂(例:ポリエチレンまたはポリプロピレン)、ポリエステル樹脂(例:ポリエチレンテレフタレート)、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、またはこれらの混合物などのマトリックスポリマーを含有することもできる。本発明のヒュームドアルミナ粉末は、そのようなマトリックスポリマーに組み込まれることもでき、またはその表面にコーティングを形成することもできる。
【0094】
ヒュームドアルミナ粉末および結合剤とは別に、本発明による組成物は、少なくとも1つの溶媒および/または充填剤および/または他の添加剤をさらに含有することができる。
本発明の組成物に使用される溶媒は、水、アルコール、脂肪族および芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトンおよびそれらの混合物からなる群から選択することができる。例えば、使用される溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、酢酸エチルおよびアセトンであり得る。特に好ましくは、組成物に使用される溶媒は、300℃未満、特に好ましくは200℃未満の沸点を有する。このような比較的揮発性の溶媒は、本発明による組成物の硬化中に容易に蒸発または気化することができる。
【0095】
ヒュームドアルミナ粉末の使用
本発明の表面修飾および/または本発明の表面修飾アルミナ粉末は、塗料またはコーティング、シリコーン、医薬品または化粧品、接着剤またはシーラント、トナー組成物、リチウムイオン電池、特にそのセパレータ、電極および/または電解質の成分として、液体系のレオロジー特性を変えるために、沈降防止剤として、粉末の流動性を向上するために、シリコーン組成物の機械的および/または光学的特性を向上するために、触媒担体として、化学機械平坦化(CMP)において、そして断熱のために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1A図1Aは、出発物質2の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図1B図1Bは、出発物質2の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図2A図2Aは、1,200℃で熱処理された出発物質2(実施例9)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図2B図2Bは、1,200℃で熱処理された出発物質2(実施例9)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図3図3は、1,200℃で熱処理された出発物質2(実施例9)のXRD画像を示す。
図4図4は、1,300℃で熱処理された出発物質2(比較例3)のXRD画像を示す。
【実施例
【0097】
分析方法
BET比表面積[m/g]については、DIN 9277:2014に準拠し、ブルナウアー・エメット・テラー法による窒素吸着により測定した。
BET表面積に対するヒドロキシル基数dOH[OH/nm]については、欧州特許出願公開第0725037号明細書の第8頁第17行目~第9頁第12行目に詳述されているように、アルミナ粉末の予備乾燥試料を水素化アルミニウムリチウム溶液と反応させることにより測定した。この方法は、Journal of Colloid and Interface Scienceの第125巻第1号(1988年)第61~68頁にも記載されている。
タンピング密度[g/L]については、DIN ISO 787-11:1995「顔料および体質顔料の一般的試験方法-第11部:タンピング後のタンピング体積および見掛け密度の測定」に従って測定した。
粒径分布、すなわち、d10値、d50値、d90値、およびスパン(d90-d10)/d50[μm]については、表面処理アルミナの5重量%水分散液を25℃で120秒間超音波処理した後、レーザー回折粒径分析装置(HORIBA LA-950)を使用して静的光散乱(SLS)により測定した。
含水量[重量%]については、カール・フィッシャー滴定装置を使用したカール・フィッシャー滴定により測定した。
一次粒子の平均円相当径(ECD)dp_ECDについては、ISO 21363 と同様に透過電子顕微鏡(TEM)により測定した。
X線回折分析(XRD)については、CuKアルファ放射線(励起:30mA、45kV、OED)を使用して、Stoe&Cie社(ドイツ、ドルトムント)製の透過型回折計を用いて実施した。アルファ-Alの定量的測定のために、試験試料の測定されたX線回折パターンを、100%および80%のアルファ-Alを含む比較試料のX線回折パターンと比較した。
【0098】
出発物質
BET表面積が121m/gであるヒュームドアルミナを、国際公開第2004/108595号パンフレットの第35頁の記載(酸化アルミニウムI)に従って調製し、出発物質1として使用した。
BET表面積が50m/gであるヒュームドアルミナを、国際公開第2006/067127号パンフレットの実施例3に従って調製し、出発物質2として使用した。TEM分析で測定した粒子の平均一次粒径dp_ECD(一次粒子の平均円相当径ECD)は、21.2nm(=1062/BET)であることが分かった。
【0099】
実施例1
出発物質1に、直径約160mm、長さ約2mのロータリーキルン内で400℃の熱処理を施した。アルミナのロータリーキルン内の平均滞留時間は1時間であった。回転速度を5rpmに設定し、アルミナの処理量を約1kg/時間とした。乾燥した除菌圧縮空気を、約1m/時間の流量でキルン出口に連続的に(熱処理アルミナ流に対し逆流で)供給し、チューブ内の対流に調温空気を供給した。この過程は円滑に行われた。ロータリーキルンの目詰まりは見られなかった。得られた熱処理アルミナの物理化学的性質を表1に示す。
【0100】
実施例2~4および比較例1~2については、700~1,300℃の熱処理温度を適用したこと以外は実施例1と同様に実施した。700~1,100℃の実施例2~4ではロータリーキルンの目詰まりは見られなかったが、比較例1(1,200℃の熱処理)では若干の目詰まりが見られた。比較例2(1,300℃の熱処理)では、非常に多くの目詰まりが見られたため、実験を中止しなければならなかった。そのため、得られた生成物をそれ以上分析しなかった。得られた熱処理アルミナ(比較例2を除く)の物理化学的性質を表1に示す。
【0101】
表1は、出発物質1(BET:121m/g、タンピング密度:52g/L)の熱処理により得られたヒュームドアルミナ粉末の物理化学的特性を示す。
【0102】
出発物質1のBET表面積、タンピング密度および粒径、ならびに結晶相の組成は、熱処理が1,100℃以下の温度で行われる実施例1~4ではあまり変化しない。実施例1~4では、出発物質1の総含水量は4.76重量%から1.93~2.72重量%に減少し、強結合水の含有量は1.54重量%から約1重量%に減少した。
【0103】
逆に、1,200℃(比較例1)では、BET表面積の急激な減少(25.6%)と、タンピング密度(26.9%増加)および粒径、例えばd50値(0.11μmから3.63μmへの劇的な増加)の両方の大幅な増加とが見られた(表1)。実施例1~4および比較例1からの試料のXRD画像では、Alのアルファ相は見られなかった。
1,300℃で実施した比較例2は、使用したロータリーキルンが目詰まりして実験をさらに行うことができなかったため、中止しなければならなかった。
【0104】
実施例5
出発物質2に、直径約160mm、長さ約2mのロータリーキルン内で400℃の熱処理を施した。アルミナのロータリーキルン内の平均滞留時間は1時間であった。回転速度を5rpmに設定し、アルミナの処理量を約1kg/時間とした。乾燥した除菌圧縮空気を、約1m/時間の流量でキルン出口に連続的に(熱処理アルミナ流に対し逆流で)供給し、チューブ内の対流に調温空気を供給した。この過程は円滑に行われた。ロータリーキルンの目詰まりは見られなかった。得られた熱処理アルミナの物理化学的性質を表2に示す。
【0105】
実施例6~9および比較例3については、700~1,300℃の熱処理温度を適用したこと以外は実施例5と同様に実施した。実施例6~9ではロータリーキルンの目詰まりは見られなかったが、比較例3では著しい目詰まりが見られた。得られた熱処理アルミナの物理化学的性質を表2に示す。実施例9で得られた粒子のTEM分析により求めた平均一次粒径dp_ECD(一次粒子の平均円相当径、ECD)は、27.6nm(=1243/BET)であった。
表2は、出発物質2を熱処理して得られたヒュームドアルミナ粉末の物理化学的特性を示す(BET:50m/g、タンピング密度=95g/L)。
【0106】
出発物質2のBET表面積、タンピング密度および粒径、ならびに結晶相の組成は、熱処理を1,200℃以下の温度で行った実施例5~9(実施例9については図3)ではあまり変化しなかった。実施例5~9では、出発物質2の総含水量は2.09重量%から0.98~1.25重量%に減少し、強結合水の含有量は0.62重量%から約0.45~0.55重量%に減少した。
【0107】
逆に、1,300℃(比較例3)では、BET表面積の急激な減少(24%)と、タンピング密度(42%増加)および粒径、例えばd50値(0.11μmから2.48μmへの劇的な増加)の両方の大幅な増加とが見られた。同時に、結晶相組成の顕著な変化、特に大量のアルファ-Alの出現が見られた(表2、図4)。
【0108】
図1Aおよび図1Bは、出発物質2の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図2Aおよび図2Bは、1,200℃で熱処理された出発物質2(実施例9)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。TEM分析から分かるように、アルミナの一次粒子の平均円相当径dp_ECDは、21.2nm(出発物質2)から27.6nm(実施例9)に増加している。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
【国際調査報告】