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特表2024-518936多層バリアフィルム、その製造、及び光起電力用途におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】多層バリアフィルム、その製造、及び光起電力用途におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240426BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240426BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240426BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20240426BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20240426BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240426BHJP
   H01L 31/048 20140101ALI20240426BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B05D7/24 302P
B05D7/24 301T
B05D7/00 A
B05D1/38
B05D7/24 301R
B05D5/06 C
B05D3/10 E
H01L31/04 560
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568273
(86)(22)【出願日】2022-05-05
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2022062097
(87)【国際公開番号】W WO2022233992
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】21172453.9
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】メノッツィ,エドアルド
(72)【発明者】
【氏名】ゲべルス,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジラルド,アンドレア
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
5F251
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075AE17
4D075BB26Z
4D075BB42X
4D075BB42Z
4D075BB46Z
4D075BB85X
4D075CA13
4D075CA32
4D075CA42
4D075CB06
4D075DA04
4D075DB07
4D075DB11
4D075DB31
4D075DB39
4D075DB48
4D075DB50
4D075DB63
4D075DB64
4D075DC18
4D075DC21
4D075DC24
4D075EB23
4D075EB24
4F100AA01B
4F100AA12B
4F100AA17B
4F100AA19B
4F100AK01A
4F100AK01D
4F100AK17D
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK42A
4F100AK51D
4F100AR00B
4F100AR00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CA02D
4F100CA05
4F100CA06
4F100CA07
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ08
4F100EJ52
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JB13D
4F100JB14C
4F100JD02B
4F100JK15E
4F100JN01A
4F100JN01D
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
5F251JA03
5F251JA05
(57)【要約】
本発明は、透明ポリマー基材(A)をコーティングするための多層バリアフィルムに関し、多層バリアフィルム(MLBF)は、(B)、(C)、(D)の順に、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)、1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)、及び1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を含む。本発明はさらに、そのように被覆された基材、及びMLBF及びMLBF被覆基材の製造方法に関する。本発明はさらに、光起電力用途におけるMLBF被覆基材の使用方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリマー基材(A)をコーティングするための多層バリアフィルムであって、以下(B)、(C)、(D)の順で、
1つ以上の透明な、少なくとも部分的無機バリア層(B)、
1つ以上の透明な、放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)、及び
1つ以上の透明な、熱硬化コーティング層(D)
を含み、少なくとも1つの層(C)が1つの層(D)と直接接触している、多層バリアフィルム。
【請求項2】
前記1つ以上のバリア層(B)の厚さが10nm~1000nmの範囲であり、及び/又は
前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の厚さが1μm~100μmの範囲であり、及び/又は
前記1つ以上の熱硬化コーティング層(D)の厚さが10~100μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の多層バリアフィルム。
【請求項3】
前記透明ポリマー基材(A)を平坦化するための平坦化層(P)が前記バリア層(B)に先行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項4】
前記平坦化層(P)の厚さが1~30μmの範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の多層バリアフィルム。
【請求項5】
バリア層(B)が、原子層堆積によって形成され、且つ金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の無機材料からなる無機層(B)であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項6】
前記バリア層(B)が層積み重ね(B(Bからなり、Bが無機層であり、Bが分子層堆積によって形成された有機層であり、n=1~100であり、そしてt=0又は1であり、n個のB層のうちの最初の層が、平坦化層(P)上又は基材(A)上に形成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項7】
前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)が、少なくとも1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種及び少なくとも1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーを含む放射線硬化性コーティング組成物Cを放射線硬化することによって得られることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項8】
層(B)及び(C)の積み重ねが、[(B)-(C)]の形態でa回存在し、a=1~10であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか 一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項9】
前記1つ以上の熱硬化コーティング層(D)が、以下の成分、
ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマー及びヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つのヒドロキシル官能性ポリマー、及び
ポリイソシアネートの群から選択される、少なくとも架橋剤
を含むコーティング組成物Dを、最後に適用された放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の上に適用し、このようにして得られた層(複数可)を熱硬化させることによって得られるポリウレタン層であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項10】
層(C)及び/又は層(D)が、UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤からなる群の少なくとも1つの添加剤を含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に定義した多層バリアフィルムを含む多層バリアフィルム被覆基材であって、該多層バリアフィルムが前記透明ポリマー基材(A)を[基材(A)]-(B)-(C)-(D)の順で被覆していることを特徴とする、多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項12】
20μm~300μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項11に記載の多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項13】
前記基材が透明ポリエチレンテレフタレート基材であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に定義した多層バリアフィルムの製造方法であって、以下の工程、
a. 基材を提供し、前記多層バリアフィルムを該基材上へ、以下によって形成する工程、
b. 化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及びスパッタリングから選択される1つ以上の方法により、前記基材上に1つ以上の無機層を適用して、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)を形成する工程、及び
c. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物Cを前記1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)上に適用して1つ以上の透明な放射線硬化性(メタ)アクリレート層を形成し、そして前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を形成する工程、及び
d. 1つ以上の熱硬化性コーティング組成物Dを前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上に適用して1つ以上の熱硬化性コーティング層Dを形成し、前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を形成する工程
を含み、
工程a.及びb.、工程b.及びc.、工程c.及びd.の間の追加工程を排除するものではない、多層バリアフィルムの製造方法。
【請求項15】
透明ポリマー基材(A)を基材として用いて請求項14に定義した工程a.からd.を実施することにより、請求項11から13のいずれか一項に定義した多層バリアフィルム被覆基材を製造する方法。
【請求項16】
請求項11から13に定義した多層バリアフィルム被覆基材、又は請求項15の方法に従って得られた基材の、光起電力用途への使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリマー基材をコーティングするための多層バリアフィルム(MLBF)に関する。本発明はさらに、このようにして被覆された基材、そしてMLBF及びMLBF被覆基材の製造方法に関する。さらに、本発明は、光起電力用途におけるMLBF被覆基材の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムは広く使用されており、そして工業用途及び消費者用途の広範囲において有用である。このようなフィルムは、例えば、様々な種類の下地基材を保護するための透明な又は着色バリアフィルムとして用いることができる。ポリマーフィルム、特に例えばポリエステル材料のような半結晶性樹脂で作られたポリマーフィルムは、バリアフィルムに望ましい多くの特性を提供する。これらは、他の特性の中でも透明性、可撓性、耐久性、強靭性、柔軟性、成形性、軽量性及び手頃なコストなどの特性を呈する。
【0003】
しかし、最も望ましいポリマーフィルムのいくつかは、屋外用途、及びフィルムが光、湿気及び温度の源に長期的に曝される他の用途では、使用が厳しく制限されることがある。例えば、多くのポリマーフィルムは、紫外線に長時間曝されたとき(これは屋外での使用中に、又は蛍光灯又は他のUV発生光源への曝露により、自然に発生する)、又はガラス転移温度を超える温度で水分に曝されたときに、劣化する。
【0004】
CN109421334Aは、ポリマー基材、その上のアルミナ層又は二酸化ケイ素層、及びその上の黄色光吸収放射線硬化層を含むバリア材料を開示している。しかしながら、このような多層系は、光起電力用途における使用などの長期の屋外用途には適していない。
【0005】
US10665738B2は、圧力、熱などを適用する工程を経る製品に使用した場合であっても無機層の損傷を防止することができるガスバリアフィルムを提供する。US10665738B2はさらに、ガスバリアフィルムを用いた太陽電池、及びガスバリアフィルムの製造方法に関する。無機フィルムは、プラズマCVD、例えば容量結合プラズマ(CCP)-化学蒸着(CVD)及び誘導結合プラズマ(ICP)-CVD、スパッタリング、例えばマグネトロンスパッタリング及び反応性スパッタリング、又は真空蒸着などの気相堆積法により形成された酸化アルミニウムフィルムとすることができる。無機フィルム上に形成される保護層は、放射線硬化コーティング層である。しかし、太陽電池に使用することが意図されていても、外側層は、例えば以下の段落で論じるDE102011113160A1で証明されているように、長期安定性の屋外用途には十分な耐性がない。
【0006】
DE102011113160A1は、ポリイソシアネートで硬化させたヒドロキシル官能性フルオロポリマーで作られたポリウレタン層を開示し、これを放射線硬化コーティング層と比較している。これらは双方ともポリメチルメタクリレート基材の上に直接適用されるものである。このように、フルオロポリマーフィルムは、放射線硬化コーティングフィルムよりも頑丈な代替として提案されているが、このフィルムとの併用はできない。さらに、DE102011113160A1に開示されたバリアフィルムの構成、すなわち層の順序は、上記のCN109421334A及びUS10665738B2の層順序とは大きく異なる。
【0007】
US2011/0045193A1も、バリアフィルムにおけるフルオロポリマーベースの層の使用を開示している。しかしながら、この文献は、窒化ホウ素を組み込んで接着を促進することによってポリエステル樹脂などのバックシート基材上に直接このような層の接着を促進することに焦点を当てている。US2011/0045193A1に開示されたバリアフィルムでは、放射線硬化層は言及も想定もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】CN109421334A
【特許文献2】US10665738B2
【特許文献3】DE102011113160A1
【特許文献4】US2011/0045193A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
改善された光安定性と、より高い湿気及びガスに対するバリア特性とを併せ持つバリアフィルムを含有する物品に対する要望が明らかに残っている。特に屋外用途において長期安定であり、且つ良好な層間接着性及び低減された黄変を示すMLBF被覆基材に対する必要性が、依然として存在する。このようなMLBF被覆基材は、光起電力用途の保護シートとして好適である。
【0010】
この種の保護シートは、その軽量性、可撓性及び有利なコストに起因して、好ましくは、太陽電池モジュールのような用途において前面保護シート(フロントシート)又は背面保護シート(バックシート)として使用することができ、他の可能な用途として、携帯用照明装置、オプトエレクトロニクスの高度なパッケージング、及び例えばOLEDスクリーンのようなディスプレイが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、透明ポリマー基材(A)をコーティングするための多層バリアフィルム(MLBF)を提供することによって達成され、該多層バリアフィルムは、(B)、(C)、(D)の順で、
1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)、
1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)、及び
1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)
を含む。
【0012】
「透明ポリマー基材をコーティングするための」という用語は、多層バリアフィルムが透明ポリマー基材のコーティングとして好適であることを意味するが、このような基材のコーティングに限定されるものではない。
【0013】
図1は、基材(A)上のMLBFの典型的な構成(architecture)を示し、基材(A)は任意の平坦化層(P)でさらに被覆されている。
【0014】
3つの必須層の順が(B)、(C)、(D)であることは、さらなる層が存在して層(B)に先行する、層(D)に後続する、及び/又は層(B)と層(C)との間、及び層(C)と層(D)との間にそれぞれあることを排除するものではない。多層バリアフィルムが層(B)、(C)及び(D)からなる本発明の実施形態においてのみ、層(C)は層(B)及び(D)の間だけでなく、層(B)及び(D)と直接接触している。
【0015】
「少なくとも部分的無機バリア層(B)」に関する「少なくとも部分的無機」という用語は、層(単数又は複数)が完全に無機材料で構成されていてよいが、無機層及び有機層の好ましくは交互順で構成されていてもよいことを意味する。
【0016】
1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)に関する「放射線硬化」という用語は、放射線硬化(メタ)アクリレート層の製造に使用される架橋性モノマー、オリゴマー及びポリマーの放射線硬化性の性質を指し、すなわち、硬化、すなわち架橋の前に、互いに反応して放射線硬化(メタ)アクリレート層を形成する(メタ)アクリル基が存在することを指す。用語「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を表す。
【0017】
コーティング層(D)に関する「熱硬化」という用語は硬化機構を指し、放射線が関与せず、反応性官能基を有するバインダーと、バインダーの官能基に対して反応性である官能基を有する別個の架橋剤とが、該硬化機構に関与する。
【0018】
層及び基材に関する「透明」という用語は、層及び/又は基材が半透明である、すなわち光透過性であることを意味する。ここで使用される「透明」という用語は、ASTM D1003:2013に従って全光線透過率を決定することにより定量化できる。好ましくは、このようにして決定された全光線透過率は、MLBFの各層、MLBF自体及び以下に記載のMLBF被覆基材について、80%~99%の範囲、より好ましくは85%~98%の範囲及び最も好ましくは90%~97%の範囲である。
【0019】
以下では、多層バリアフィルムを「本発明の多層バリアフィルム」又は「本発明のMLBF」とも表記する。
【0020】
本発明の別の目的は、透明ポリマー基材(A)、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)、1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)、及び1つ以上の透明な熱硬化外側コーティング層(D)をこの順で含む、多層バリアフィルム被覆基材である。
【0021】
以下に、多層バリアフィルム被覆基材を「本発明の多層バリアフィルム被覆基材」又は「本発明のMLBF被覆基材」とも表記する。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、以下の工程、
a. 基材を提供する工程、
b. 化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及びスパッタリングから選択される1つ以上の方法により、基材上に1つ以上の無機層を適用して、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)を形成する工程、
c. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物Cを1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)上に適用して1つ以上の透明な放射線硬化性(メタ)アクリレート層を形成し、そして前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を形成する工程、及び
d. 1つ以上の熱硬化性コーティング組成物Dを1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上に適用して1つ以上の熱硬化性コーティング層Dを形成し、前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を形成する工程
を含み、
工程a.及びb.、工程b.及びc.、そして工程c.及びd.の間の追加工程を排除するものではない、
多層バリアフィルムの製造方法である。
【0023】
以下では、多層バリアフィルムの製造方法を「本発明の多層バリアフィルムの製造方法」又は「本発明のMLBFの製造方法」とも表記する。
【0024】
本発明のさらなる目的は、本発明による多層バリアフィルムの製造方法において、透明ポリマー基材(A)を提供することにより、多層バリアフィルム被覆基材を製造する方法である。
【0025】
以下では、多層バリアフィルム被覆基材の製造方法を、「本発明の多層バリアフィルム被覆基材の製造方法」又は「本発明のMLBF被覆基材の製造方法」とも表記する。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、本発明のMLBF又は本発明のMLBF被覆基材の光起電力用途における使用方法である。
【0027】
以下では、光起電力用途における本発明のMLBF又は本発明のMLBF被覆基材の使用方法を、「本発明の使用方法」とも表記する。
【0028】
本発明のさらに好ましい特徴及び実施形態は、従属請求項及び以下の詳細な説明に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、基材(A)上のMLBFの典型的な構成を示し、基材(A)は任意の平坦化層(P)でさらに被覆されている。
図2図2は、層(B)が層積み重ね(B(B(それぞれn=2及びt=1、0)からなる場合の、層(B)の可能な「マイクロ構成」を示す。
図3図3は、基材上のMLBF構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
多層バリアフィルム及び該フィルムで被覆した基材
上記に説明したように、本発明の多層バリアフィルムは、透明ポリマー基材をコーティングするのに好適であるが、このような基材に限定されるものではない。従って、以下では、多層バリアフィルムによって被覆することができる様々な種類の基材を開示する。
【0031】
基材
基材は任意の固体材料とすることができる。これらには、例えば金属、半金属、酸化物、窒化物、及びポリマーが含まれる。基材が様々な材料の混合物又は複合材料であることも可能である。
【0032】
しかしながら、ポリマー、及び特に透明ポリマーが、基材として好ましい。
【0033】
好適なポリマーには、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレン-ジカルボン酸(PEN)、ポリイミド、ポリアクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、例えばポリ(ビスフェノールAカーボネート)、ポリビニルアセテート又はポリビニルブチラールのようなポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルクロリド、ポリシクロオレフィンを含むポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)及びポリノルボルネン、ポリスルホン、例えばポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリカプロラクタム(PA6)又はポリ(ヘキサメチレンアジピンアミド)(ナイロン66)のようなポリアミド、セルロース誘導体、例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース又はニトロセルロース、ポリウレタン、エポキシ樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂が含まれる。「ポリマー」という用語には、ポリ(エチレン-コ-ノルボルネン)又はポリ(エチレン-コ-ビニルアセテート)などの、2種類以上の異なるモノマーで作られたコポリマーが含まれる。
【0034】
前述のポリマーの中でも、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリスルホンからなる群からの透明ポリマーが好ましく、PETなどのポリエステルが最も好ましい。
【0035】
好ましくは、基材、及び特にポリマー基材は、少なくとも140℃の熱に対して安定であるべきである。
【0036】
基材は、任意の寸法及び形状を有することができる。好ましくは、基材、最も好ましくはポリマー基材は、透明フィルムの形態である。好ましい膜厚は10~500μmの範囲、より好ましくは25~300μmの範囲、及びさらにより好ましくは50~150μmの範囲である。
【0037】
任意の平坦化層(P)
基材、特に透明ポリマーフィルムの形態の基材の表面は、好ましくは高い平坦性のものである。本発明の文脈における高い平坦性とは、表面上の最高点と表面上の最低点との差が100nmまで、好ましくは50nmまでであることを意味する。平坦性は、例えば原子間力顕微鏡を用いて、好ましくはタッピングモードで測定することができる。
【0038】
基材は、例えば小さな傷、又は表面に付着した埃などの粒子のせいで、高い平坦性を有していないことが多い。従って、平坦化層(P)をMLBFと基材との間に提供して、MLBFの穴あきなどの損傷を回避することが好ましい。平坦化層はさらに、特に曲げる又は加熱する際に、基材とMLBFとをより良好に保持する役割を果たすことができる。従って、平坦化が必要ではない場合でさえ、前述の理由から、基材上に平坦化層(P)を存在させることができる。このような場合、層順は、平坦化層を適用しない場合の[基材(A)]-(B)-(C)-(D)ではなく、[基材(A)]-(P)-(B)-(C)-(D)である。
【0039】
好ましくは、平坦化層(P)は、MLBFが適用される前に、平坦化層を構成する材料を基材上に堆積させることによって作られる。平坦化層が有機ポリマーベースである(これが好ましい)場合には、平坦化層は、基材上に液体有機コーティング組成物を適用し、それから、そのようにして形成された層を、例えば加熱又はUV放射などの放射線によって硬化させることにより、形成することができる。UV放射が好ましい。より好ましくは、平坦化層の製造に使用される液体有機コーティング組成物は、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の形成に使用される液体放射線硬化性コーティング組成物Cと同じ定義に該当する。このような場合、(P)は(C)と同一とすることができる。このような場合、MLBFの両層(C)は、それらが(C)の定義に該当する限り、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)
透明な、少なくとも部分的無機バリア層(B)は、良好な水分バリア特性をMLBFにもたらす役割を果たす。40℃及び相対湿度90%における水蒸気透過率(WVTR)は、好ましくは10-3g/m/日より低く、さらにより好ましくは5×10-4g/m/日未満である。
【0041】
上記で定義したように、「少なくとも部分的無機バリア層(複数可)(B)」に関する「少なくとも部分的無機」という用語は、層(単数又は複数)が完全に無機材料で構成されていてよいが、無機層及び有機層の好ましくは交互順で構成されていてもよいことを意味する。
【0042】
層(B)が1つ以上の無機層からなる場合、層(B)は、以下に(Bと表記され、式中、「i」は「無機」を表し、そしてmは層の数を表す。好ましくは、mは1~2000、より好ましくはm=10~1000、及び最も好ましくはm=20~500である。
【0043】
層(B)が、1つ以上の無機層の他に1つ以上の有機層をさらに含有する場合、層(B)は、以下に(B(Bと表記され、式中、「i」は「無機」を表し、「o」は「有機」を表し、nは(B)繰り返し層の数、そしてtは1又は0を表す。基材(A)又は任意の平坦化層(P)上に堆積されたバリア層の最初の層は常に無機層Bであるが、この積み重ねの最後の層は無機層(t=1)又は有機層(t=0)のいずれかとすることができる。このような有機層が無機層の間に存在することにより、特にMLBFが50nmを超える厚さを有する場合、バリアにさらなる可撓性がもたらされる。
【0044】
図2は、層(B)が層積み重ね(B(B(それぞれn=2及びt=1、0)からなる場合の、層(B)の可能な「マイクロ構成」を示す。
【0045】
無機層(複数可)(B)が、少なくとも部分的無機バリア層(B)に必須で存在することは、水蒸気透過率を損なうリスクなしに、MLBF全体の巻き取り能力及び可撓性に貢献する。
【0046】
無機層(複数可)(B)の堆積は、いくつかの様々な技術、例えば、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及び/又はスパッタリングによって達成することができ、一方で有機層(複数可)(B)の堆積は、例えば、化学蒸着(CVD)、分子層堆積(MLD)、有機(熱又は電子ビーム)蒸着、湿式コーティング蒸着によって達成することができる。無機層を得るためのPVD、CVD及びスパッタリングのような技術は当業者に知られており、例えばUS2013/0034689A1及びEP2692520A1に記載されている。
【0047】
1つ以上の無機層の形成に使用される無機材料は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0048】
無機層を形成するための最も好ましい無機材料は、金属酸化物、特に、アルミニウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、スズ、インジウム-スズ、タンタル及びカルシウムの金属酸化物であり、その中でもアルミニウム、ケイ素及びチタンが好ましい酸化物元素である。ここに記載の実施形態のいずれにおいても、無機層(複数可)を形成する無機材料として金属酸化物を使用することが特に好ましい。
【0049】
無機材料として金属窒化物を使用することがさらに可能である。金属窒化物の中でも、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及び窒化ホウ素からなる金属窒化物の群が好ましい。基材(A)及び/又は平坦化層(P)上の無機層(B)としての金属窒化物層の形成は、好ましくは、PE(プラズマエンハンスド)-CVD、CVD、ALD、又はスパッタリングによって達成される。好適な技術は、例えば、WO2011028119に記載されている。特に、文献(W.Mandersら、AIMCAL R2R Conference、2017年フロリダ)において、PET基材上にPE-CVDによって作製された薄い窒化ケイ素バリア層が、5×10-4g/m/日のWVTRを有することが示されている。
【0050】
さらに、無機材料として金属酸窒化物を使用することも可能である。金属酸窒化物の中でも、酸窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素、酸窒化ホウ素からなる金属酸窒化物の群が好ましい。基材(A)及び/又は平坦化層(P)上の無機層(B)としての金属酸窒化物層の形成は、好ましくはPE(プラズマエンハンスド)-CVD、CVD、ALD、又はスパッタリングによって達成される。好適な技術は、例えば、CN1899815Bに記載されている。
【0051】
無機層(B)内では、上記の無機材料の組み合わせを使用することができる。さらに、(Bなどの無機層の積み重ねでは、各無機層(B)は、上記の無機材料から独立して選択してよく、そして(B(Bなどの層積み重ねについても同様であり、m、n及びtの値は上記のものである。
【0052】
好ましくは、1つ以上の少なくとも部分的無機バリア層(B)の層厚は、合計で10~1000nmの範囲、より好ましくは20~500nmの範囲、及び最も好ましくは30~200nmの範囲である。
【0053】
無機層(複数可)(B)、好ましくは金属酸化物層(B)の堆積のための前述の技術の中で好ましいのは、(B)が(Bの場合はALDであり、(B)が(B(Bの場合はMLDと組み合わせたALDである。
【0054】
透明バリア層(B)の調製にALD技術を使用することが好ましく、これはALDを使用することにより、高度に共形で、良好な規則性を有し、規定された厚さで各々が密である、優れた厚さ制御を有する化学結合ナノラミネート自己制限層を段階的に形成することが可能なことが理由である。このような方法、特に金属酸化物層(B)を製造する方法は、例えばWO2011/099858A1に開示されているが、例えばWO2015/188990A2及びWO2015/188992A1に開示されているように、複合ALD/MLD技術の一部でもある。
【0055】
さらにより好ましい透明バリア層は(B(Bであり、層(複数可)(B)はALDによって得られ、そして層(B)はMLDによって調製される。ALDとMLD技術とを組み合わせることで、例えばWO2015/188990A2及びWO2015/188992A1に開示のように、無機材料への共有化学結合で堆積させた有機可撓化層の分子レベル(数ナノメートル厚さ)での交互堆積が可能となる。
【0056】
層(B)を得るためにMLD技術で使用される有機分子は、例えば、WO2015/030297A1、WO2015/188990A2及びWO2015/188992A1に記載のように、無機層(B)に化学的に結合することができる特別な官能基、例えばチオール、ジスルフィド、スルフィド、セレノール、アミン、カルボキシレート、ホスフェート又はホスホネート、又はそれらの誘導体を有する。
【0057】
層(B)を製造するための最も好ましい有機分子は、例えばメルカプト安息香酸、メルカプトフェノール、アミノメルカプトフェノールなどの芳香族チオールのファミリーに属する。この有機分子層の範囲は、可撓性プラスチックのロール上に電子デバイスを作成するプロセスであるロールツーロール加工(ウェブ加工、リールツーリール加工又はR2Rとしても知られる)で必要とされる可撓性及び曲げ性を、脆い無機酸化物バリアに与えることである。
【0058】
透明な少なくとも部分的無機バリア層(複数可)(B)の製造に関するいくつかのさらなる詳細は、以下で本発明のMLBFを製造するための方法を説明するセクションの下に記載する。
【0059】
透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)
上記のように、1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)に関する「放射線硬化」という用語は、放射線硬化(メタ)アクリレート層の製造に使用される架橋性モノマー、オリゴマー及びポリマーの放射線硬化性の性質を指し、すなわち、硬化、すなわち架橋前に、互いに反応して放射線硬化(メタ)アクリレート層を形成する前記種上の(メタ)アクリル基が存在することを指す。用語「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を表すが、好ましくは「アクリレート」を表す。用語「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリル((meth)acrylic)」の使用についても同様である。
【0060】
よって放射線硬化は、典型的には、電子ビーム(EB)又はUV放射などの活性放射線によって達成される。UV放射による硬化が特に好ましい。
【0061】
従って、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(複数可)(C)は、好ましくは、UV硬化無溶媒(メタ)アクリル系をベースとする。「無溶媒」という用語は、非反応性溶媒を含まないことを意味するが、反応性希釈剤はこの用語によって除外されない。
【0062】
好ましくは、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(複数可)(C)の製造に使用されるコーティング材料は、硬化前にキャピラリー粘度計又は回転レオメーターによって決定される25℃での粘度が500mPas未満、最も好ましくは300mPas未満である。
【0063】
1つ以上の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を形成するために使用される種は、好ましくは、
i. 1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種、
ii. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマー、
iii. 1つ以上の接着促進剤、
iv. UV硬化の場合、1つ以上の光開始剤、
v. UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の化合物、及び
vi. 任意に1つ以上のコーティング添加剤
を含む。
【0064】
放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種i.
1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種は、好ましくは、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族及び/又は芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくは脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリレートからなる群から選択され、中でもウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート及びポリエーテル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0065】
典型的には、放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種は、70mPasを超える25℃での粘度を有する。
【0066】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、典型的には、他のオリゴマーに比べて粘度が低く、一方でエポキシ(メタ)アクリレートは反応性が高く、そしてその使用により得られるコーティングは、良好な硬度及び耐薬品性を示す。(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリレートは、その良好な接着性で知られている。芳香族ウレタン(メタ)アクリレートは、これを用いて得られるコーティングに、向上した可撓性、伸び及び靭性、良好な硬度及び耐薬品性をもたらし、そして多官能芳香族ウレタン(メタ)アクリレートは反応性の向上を示す。脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートは、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートと同様の良好な特性を示すが、望ましくない黄変は少ない傾向にある。
【0067】
1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種の総量は、好ましくは、放射線硬化性コーティング組成物Cの総質量に対して、5質量%~30質量%、最も好ましくは5質量%~20質量%、及びさらにより好ましくは5質量%~15質量%の範囲である。
【0068】
放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーii.
1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーは、放射線硬化性組成物の当業者に既知のものである。このような放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーは、低粘度を有し、好ましくは25℃での粘度が1~50mPas、より好ましくは2~40mPas、又はさらには2~30mPasである。これらは放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種を希釈するために使用されるので放射線硬化性反応性希釈剤としても知られており、溶媒として作用するが、硬化後に硬化したコーティング中に残る。このようなモノマーは、場合によってジアルキレングリコール基又はトリアルキレングリコール基を含有してよいが、その明確な分子量及び25℃で50mPas未満の粘度により、ここでは依然としてモノマーとみなされる。
【0069】
ここで好ましく使用される(メタ)アクリレート官能性モノマーは、好ましくは疎水性骨格を有し、これらを含有する放射線硬化コーティング層に、プラスチック及び金属基材に対する優れた接着性、良好な耐薬品性及び耐水性、可撓性を提供し、揮発性有機化合物の放出が少ない。
【0070】
1つ以上の(メタ)アクリレート官能性モノマーは、モノ(メタ)アクリレート官能性モノマー、ジ(メタ)アクリレート官能性モノマー及びトリ-、テトラ-、ペンタ-及びヘキサ(メタ)アクリレート官能性モノマーを含み、中でもモノ(メタ)アクリレート官能性モノマー及びジ(メタ)アクリレート官能性モノマーが最も好ましい。
【0071】
モノ(メタ)アクリレート官能性モノマーの例には、(メタ)アクリル酸のヒドロカルビルエステルが含まれ、ヒドロカルビル残基は脂肪族又は芳香族、及び直鎖、分岐又は環状であってよく、好ましくはヒドロカルビル基は4~20個、より好ましくは6~18個の炭素原子を含有する。具体例として、例えばアルキル(メタ)アクリレート、例えばシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、tert-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、4-n-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、例えばアラルキル(メタ)アクリレート、例えばベンジル(メタ)アクリレート、例えばアリール(メタ)アクリレート、例えば4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート及び2,3,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。モノ(メタ)アクリレート官能性モノマーのさらなる例には、(メタ)アクリル酸のエーテル酸素含有ヒドロカルビルエステルが含まれ、エーテル酸素含有ヒドロカルビル残基は、脂肪族又は芳香族、及び直鎖、分岐又は環状であってよく、好ましくは、エーテル酸素含有ヒドロカルビル基は、4~20個、より好ましくは6~18個の炭素原子を含有する。具体例として、例えばアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、例えばフェノキシメチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパンホルマル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0072】
ジ(メタ)アクリレート官能性モノマーの例は、アルカンジオールジ(メタ)アクリレートであり、アルカンジオールは、好ましくは3~16個、より好ましくは4~14個の炭素原子を含有する。具体例として、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート及び1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。ジ(メタ)アクリレート官能性モノマーのさらなる例として、ジアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、例えばジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、例えばトリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びネオペンチルグリコール-プロポキシジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0073】
あまり好ましくないのは、以下のトリ-~ヘキサ(メタ)アクリレート官能性モノマーである。本発明におけるモノマーは、官能性が高いほど好ましくない。
【0074】
トリ(メタ)アクリレート官能性モノマーの具体例には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、ジペンタエリスリトールプロピオネートトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートが含まれる。
【0075】
テトラ(メタ)アクリレート官能性モノマーの具体例には、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールプロピオネートテトラ(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0076】
ペンタ(メタ)アクリレート官能性モノマーの具体例には、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0077】
ヘキサ(メタ)アクリレート官能性モノマーの具体例には、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0078】
好ましくは、本発明の放射線硬化性組成物は、放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーの群からii.モノ(メタ)アクリルモノマーのみを含む。
【0079】
1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーの総量は、好ましくは、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して、10質量%~90質量%、最も好ましくは15質量%~85質量%、及びさらにより好ましくは20質量%~80質量%の範囲である。
【0080】
接着促進剤iii.
1つ以上の接着促進剤は、好ましくは、官能化トリアルコキシシラン及び官能化ジアルコキシアルキルシラン、好ましくは官能化トリアルコキシシラン、例えば官能化トリメトキシシランからなる群から選択され、官能基は好ましくはチオール基、(メタ)アクリル基、アミノ基及びエポキシ基、及び(メタ)アクリル化リン酸エステルから選択される。
【0081】
1つ以上の接着促進剤iii.の総量は、好ましくは、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して、0.5質量%~10質量%、最も好ましくは1質量%~8質量%、及びさらにより好ましくは1.5質量%~7質量%の範囲である。
【0082】
光開始剤iv.
UV硬化の場合、好ましくは、アルファ-開裂性光開始剤、例えばアルファ-ヒドロキシケトン(例えばベンゾイン、アセトフェノン)、アルファ-アルコキシケトン(例えばベンゾインエーテル、ベンジルケタール)、アルファ-アミノケトン及びアシルホスフィンオキシドからなる群から選択される1つ以上の光開始剤が含有される。
【0083】
光開始剤は、アルファ-アルコキシケトンなどの「表面硬化型」及びアシルホスフィンオキシドなどの「バルク硬化型」という用語に包含され得る。両方が存在する場合、表面硬化型とバルク硬化型との間の光開始剤の質量比は、1:4~1:1の範囲であることが好ましい。
【0084】
1つ以上の光開始剤iv.の総量は、含有される場合、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%~6質量%、最も好ましくは2質量%~5質量%、及びさらにより好ましくは3質量%~4質量%の範囲である。
【0085】
UV吸収剤、光安定剤、酸化防止剤v.
UV吸収剤は、好ましくは、2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン、置換及び非置換の安息香酸のエステル、エチルアルファ-シアノ-ベータ,ベータ-ジフェニルアクリレートのようなアクリレート、2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン及びオキサミドからなる群から選択される。
【0086】
1つ以上のUV吸収剤v.の総量は、好ましくは、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して1質量%~5質量%、より好ましくは1.5~3.5質量%の範囲である。
【0087】
光安定剤v.は、好ましくは、NOR-HALSを含むヒンダードアミン光安定剤(HALS)である。NOR-HALSは、アミノキシルラジカルヒンダードアミン光安定剤とも呼ばれるHALSのサブクラスである。HALSは塩基として作用し、そして例えば塩酸などの酸によって中和され、NOR-HALSは強塩基ではなく、塩酸によって失活しない。
【0088】
1つ以上の光安定剤v.の総量は、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して、好ましくは0.2質量%~4質量%、より好ましくは0.5~3質量%、及び最も好ましくは0.8~2質量%の範囲である。
【0089】
酸化防止剤v.は、好ましくはtert-ブチルヒンダードフェノールであり、長時間の耐候性及び耐熱性を改善する役割を果たす。
【0090】
1つ以上の酸化防止剤v.の総量は、放射線硬化性コーティング組成物の総質量に対して、好ましくは0.1質量%~2質量%、より好ましくは0.2~1質量%の範囲である。
【0091】
コーティング添加剤vi.
コーティング組成物Cは、レベリング剤、消泡剤などの典型的なコーティング添加剤を含有してよく、好ましくは、必ずしもそうでなくてもよいが、放射線硬化に反応性である。
【0092】
透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層の厚さ(C)
透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の最終厚さは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μm、及び最も好ましくは5~30μmの範囲である。透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(複数可)(C)を形成するために適用されるコーティング材料は、標準的な湿式コーティング法によって適用することができる。
【0093】
透明な熱硬化コーティング層(D)
透明な熱硬化コーティング層(D)は、好ましくは、透明な熱硬化ポリウレタンコーティング層(D)である。
【0094】
透明な熱硬化コーティング層(D)は、高温及び低温、及び高湿度条件下での長期間のエージング前及びエージング後の両方で、その下の透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)に対する優れた接着性を特徴とする。
【0095】
光安定性、可撓性、耐湿性、化学的安定性及び温度安定性に関する、ヒドロキシ官能化した部分的フッ素化反応性ポリマーの使用は、異なる種類の硬化剤との迅速な反応性も考慮すると好ましい。透明な熱硬化コーティング層(D)は、ポリウレタン層であることが好ましく、好ましくは、ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマー及びヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つのヒドロキシル官能性ポリマーと、架橋剤、好ましくは1つ以上のポリイソシアネート、さらにより好ましくは1つ以上の疎水性ポリイソシアネートとを反応させることによって形成される。
【0096】
ラジカル重合により形成されるヒドロキシル官能性ポリマー
ラジカル重合により形成され、好ましくは透明な熱硬化コーティング層(D)の調製に使用されるヒドロキシル官能性ポリマーは、好ましくは、ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロ含有ポリマー(「ヒドロキシ官能性フルオロポリマー」)及びヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートの群から選択される。この文脈で使用される用語「ポリマー」には、「コポリマー」が含まれ、そして用語「コポリマー」には、少なくとも2つの異なるモノマー単位を含有する任意のポリマーが含まれる。
【0097】
好ましくは、ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマーは、ビニルフルオリドFCH=CH、ビニリデンフルオリドFC=CH、テトラフルオロエチレンFC=CF、FC=CF(OCF)、FC=CF(CF)及びヘキサフルオロプロピレン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは1つ以上のエチレン性不飽和フッ素含有モノマーを重合することによって形成される繰り返し単位を含有する。
【0098】
上記のフッ素含有モノマーと組み合わせて使用してよい他の好ましいモノマーは、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン、ビニルベンゾエート及びビニルエーテル、例えばHC=CH-O-R又はHC=CH-CH-O-Rであり、Rは直鎖、環状及び/又は分岐ヒドロカルビル基、例えばアルキル基又はシクロアルキル基である。このような基Rは、好ましくは1~20個、より好ましくは2~16個、例えば4~12個の炭素原子を含有する。
【0099】
フルオロポリマーはヒドロキシル基を含有するので、ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマーのラジカル重合にエチレン性不飽和ヒドロキシル官能性モノマーも用いる必要がある。ヒドロキシル官能性モノマーの例には、ヒドロキシル官能性ビニルエーテル、例えば2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル及び6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシル官能性アリルエーテル、例えば2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル及びグリセロールモノアリルエーテル、又は(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシル含有ビニルエーテル、特に4-ヒドロキシブチルビニルエーテル及び2-ヒドロキシエチルビニルエーテルが特に好ましい。
【0100】
或いは、エチレン性不飽和モノマーは、重合後の工程でヒドロキシル基を示すように修飾することができる。このようなモノマーは、例えば、ビニルエーテル又はエステル、例えばHC=CHO-(C=O)Rの群から選択してよく(Rはアルキル基であり、そしてm=0又は1である)、そして重合後にこのような基を加水分解してポリマー鎖中に残基-CH-CH(OH)-を得る。
【0101】
フルオロポリマー中のフッ素含有モノマーの割合が大きくなると、被覆したフィルムの耐候性が向上する。一方でこれが小さくなると、フルオロポリマーの溶解性が向上する。合計モノマー量に対するフッ素含有モノマーの割合は、好ましくは30~70モル%の間、より好ましくは40~60モル%の間である。
【0102】
フルオロポリマーのヒドロキシル基含有量は、好ましくは30~200mgKOH/g、より好ましくは40~150mgKOH/gである。
【0103】
好ましくは、フルオロポリマーのフッ素含有量は、ポリマーの質量に対して5質量%~35質量%、より好ましくは10質量%~35質量%の範囲である。
【0104】
ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマーは、例えば、ダイキン工業からZeffle(登録商標)GKポリマーとして、そして旭硝子からLUMIFLON(登録商標)ポリマーとして市販されている。
【0105】
前述のラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマーの代わりに、又はこれと組み合わせて、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートを使用して、透明な熱硬化ポリウレタンコーティング層(D)を形成することができる。
【0106】
このようなヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートは、好ましくは、ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレートの他に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート(アルキル基は好ましくは1~8個の炭素原子を有する)、スチレン、及び(メタ)アクリル酸及びそれらの酸官能性誘導体を含む。ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートに含有される後者の種類の好ましいモノマーには、限定するものではないが、(メタ)アクリル酸、2-アルキル(メタ)アクリル酸(アルキルは2~8個、好ましくは2~6個の炭素原子を有する、例えば2-エチル(メタ)アクリル酸、2-プロピル(メタ)アクリル酸、2-ブチル(メタ)アクリル酸及び2-ヘキサメチル(メタ)アクリル酸)、ハロゲン化アルキル(メタ)アクリル酸、例えば2-(トリフルオロメチル)(メタ)アクリル酸及びハロゲン化(メタ)アクリル酸、例えば2-ブロモ(メタ)アクリル酸、及び前述の酸の塩、好ましくはアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、又は亜鉛塩が含まれる。
【0107】
好ましくは、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートは、50~200mgKOH/g、より好ましくは60~160mgKOH/g、さらにより好ましくは70~150mgKOH/gのヒドロキシル価を有する。
【0108】
好ましくは、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートは、スチレン標準を用いたガス浸透クロマトグラフィーによって決定される5,000~50,000g/モル、より好ましくは10,000~40,000g/モル、さらにより好ましくは12,000~30,000g/モルの数平均分子量を有する。
【0109】
ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマー及びヒドロキシル官能性ポリ(メタ)アクリレートは、単独で、又は互いにブレンドして使用することができる。好ましいブレンド比は、要求される性能に応じて、90:10質量%~10:90質量%、及び最も好ましくは70:30質量%及び30:70質量%の範囲とすることができる。
【0110】
特に、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上の接着性に関して、驚くべきことに、ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマーの使用が、単独で、又はヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートと組み合わせて使用される場合に好ましく、単独で使用される場合に最も好ましいことが見出された。
【0111】
ポリイソシアネート
透明な熱硬化コーティング層(D)、好ましくは透明な熱硬化ポリウレタンコーティング層(D)を形成するためには、前述のヒドロキシル官能性ポリマーを架橋させる必要がある。これらのポリマーの架橋は、好ましくはポリイソシアネートなどの架橋剤によって達成される。
【0112】
本発明の文脈において、用語「ポリイソシアネート」は、少なくとも2つの遊離、すなわち非ブロック化イソシアネート基を含有する化合物を意味する。よってポリイソシアネートという用語は、例えば、ジイソシアネート及びトリイソシアネートを包含するが、そのようなジイソシアネート及びトリイソシアネートのオリゴマー、例えば、そのようなジイソシアネート及びトリイソシアネートの二量体及び三量体も包含する。
【0113】
「疎水性」という用語が「ポリイソシアネート」という用語と共に使用される場合、この用語は、ポリイソシアネートが典型的には、特に荷電基又はポリエチレンオキシド基などの親水性基を含有せず、むしろ、イソシアネート基自体及びイソシアネート基のオリゴマー化によって得られる基以外にヒドロカルビル基のみを含有することを表す。
【0114】
最も好ましいポリイソシアネートは疎水性ポリイソシアネートである。
【0115】
透明な熱硬化ポリウレタンコーティング層(D)の形成に使用されるポリイソシアネートは、脂環式ポリイソシアネートを含む脂肪族、芳香脂肪族(araliphatic)ポリイソシアネート及び芳香族ポリイソシアネートからなる群から選択される。ジイソシアネート及びトリイソシアネートのオリゴマーは、同じジイソシアネート又はトリイソシアネートから形成されるが、これらの混合物からも形成される。
【0116】
脂肪族ジイソシアネートの例は、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6-ジイソシアナト)ヘキサノエート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートであり、脂肪族トリイソシアネートは、例えば、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、又は2-イソシアナトエチル(2,6-ジイソシアナト)ヘキサノエートであり、脂環式ジイソシアネートは、例えば1,3-又は1,4-ビス(イソシアナトメチルシクロヘキサン)、ジシクロメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-又は1,4-ジイソシアナト-シクロヘキサン、3,5,5-トリメチル(3-イソシアナト-3-メチル)シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロ-ヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、又は2,5-又は2,6-ジイソシアナトメチルノルボルナンであり、そして脂環式トリイソシアネートは、例えば、2,5-又は2,6-ジイソシアナトメチル-2-イソシアナトプロピル-ノルボルナンである。
【0117】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの例は、例えば、アラルキレンジイソシアネート、例えばm-キシリレンジイソシアネート又はa,a,a’,a’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネートである。
【0118】
芳香族ジイソシアネートの例は、例えば、m-又はp-フェニレンジイソシアネート、トリレン-2,4-又は2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルジフェニル、3-メチル-ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、又はジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネートであり、芳香族トリイソシアネートは、例えばトリフェニルメタントリイソシアネート又はトリス(イソシアナトフェニル)-チオホスフェートである。
【0119】
オリゴマーポリイソシアネートは、例えば、上記の種々のジイソシアネート及びトリイソシアネートのイソシアネート基のシクロ二量化によって得られるウレトジオン構造を有するジイソシアネート又はポリイソシアネート、上記の種々のジイソシアネート及びトリイソシアネートのイソシアネート基のシクロ三量化によって得られるイソシアヌレート構造又はイミノオキサジアジンジオン構造を有するポリイソシアネート、上記の各種ジイソシアネート又はトリイソシアネートを水と反応させて得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート、種々のジイソシアネート又はトリイソシアネートを二酸化炭素と反応させて得られるオキサジアジントリオン構造を有するポリイソシアネート、及びアロファネート構造を有するポリイソシアネートである。
【0120】
好ましいポリイソシアネートは、脂肪族又は脂環式ジ-又はトリイソシアネート、アラルキレンジイソシアネート、又はそれらから誘導されるオリゴマーであり、これは水中でのイソシアネート基の安定性、及びこのようなポリイソシアネートを含有する硬化層の耐候性に関するものである。
【0121】
非常に好ましいポリイソシアネートは、3つ以上の官能基を有するポリイソシアネート、例えばイソシアヌレート型又はイミノオキサジアジンジオン型ポリイソシアネート、ビウレット構造を有するポリイソシアネート、ウレトジオン構造を有するポリイソシアネート、アロファネート構造を有するポリイソシアネート、又はジイソシアネートと3つ以上の官能基を有する多価アルコールとを反応させて得られるポリイソシアネートである。ポリイソシアネートのコアには、好ましくは脂肪族ポリイソシアネート又はそれから誘導される三量体が含まれる。
【0122】
芳香族ポリイソシアネートは、温湿度条件下での貯蔵時、又はUV放射に広範囲で曝露された後に、層の黄変が多くなることが観察されている。よって本発明では、脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。
【0123】
特に好ましいポリイソシアネート化合物には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、それから誘導されるイソシアヌレート三量体又はイミノオキサジアジンジオン三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びIPDIベースのイソシアヌレート又はイミノオキサジアジンジオン、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)及びH12MDIベースのイソシアヌレート又はイミノオキサジアジンジオンが含まれる。前記ジイソシアネートのイソシアヌレート又はイミノオキサジアジンジオンが好ましい。
【0124】
透明な熱硬化コーティング層(D)は、UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤のような添加剤をさらに含有してよく、これらは、UV及び熱安定性を向上させることにより耐候性性能及び寿命を改善するための透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)について記載したものと同じとすることができる。UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤は、好ましくは、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)について上述したのと同じ量範囲で存在する。
【0125】
透明な熱硬化コーティング層(D)は、好ましくは10℃より高く、より好ましくは50℃より高いが、好ましくは100℃未満のガラス転移温度を特徴とする。
【0126】
透明な熱硬化コーティング層(D)の最終厚さは、好ましくは10μm~100μmの範囲、より好ましくは20μm~80μmの範囲、及び最も好ましくは25μm~60μmの範囲である。
【0127】
MLBF及びMLBF被覆基材の具体的な実施形態
一実施形態では、基材上のMLBF構成(architecture)は以下の通りである:
[基材(A)]-(B)-(C)-(D)
この実施形態では、層(B)は、層(B)又は層(B(Bとすることができ、すべての定義は上記のとおりである。図1は、図1における任意の平坦化層(P)を省略した場合の本実施形態を示す。図2は、(B)の可能なマイクロ構成、すなわち、(B(Bを示し、図2において、それぞれn=2、そしてt=1及び0である。
【0128】
さらなる実施形態では、基材上のMLBF構成は以下の通りである:
[基材(A)]-(P)-(B)-(C)-(D)
この実施形態では、層(B)は、層(B)又は層(B(Bとすることができ、すべての定義は上記のとおりであり、層(P)は、層(C)と同じとすることができ、すべての定義は上記のとおりであり、そして両方の層(C)は同じ又は異なるものとすることができる。図1は、図1の任意の平坦化層(P)が存在する場合の、この実施形態を示す。図2は、(B)の可能なマイクロ構成、すなわち、(B(Bを示し、図2において、それぞれn=2、そしてt=1、0である。
【0129】
さらに別の実施形態では、基材上のMLBF構成は以下の通りである:
[基材(A)]-[(B)-(C)]-(D)
この実施形態では、層(B)は、層(B)又は層(B(Bとすることができ、すべての定義は上記の通りであり、そして、[(B)-(C)]の順序は、a回繰り返すことができ、aは1~10の整数である。a≧2の場合、a層(B)は同じ又は異なるものとすることができ、そしてa層(C)は同じ又は異なるものとすることができる。この実施形態は、a=2で図3に示され、そして図3においてbが0である場合、図2はやはり(B)の可能なマイクロ構成、すなわち、(B(Bを示し、図2において、それぞれn=2、そしてt=1、0である。
【0130】
一般的な実施形態では、基材上のMLBF構成は以下の通りである:
[基材(A)]-(P)-[(B)-(C)]-(D)
この実施形態では、層(B)は層(B)又は層(B(B) とすることができ、すべての定義は上記のとおりであり、そして層の順序[(B)-(C)]はa回繰り返すことができ、aは1~10の整数である。a≧2の場合、a層(B)は同じ又は異なるものとすることができ、そしてa層(C)は同じ又は異なるものとすることができ、そしてb=0又は1である。よって平坦化層が存在する(b=1)場合もあれば、存在しない(b=0)場合もある。この実施形態は、a=2及びp=1で図3に示される。この一般的な実施形態においても、本明細書に示すすべての具体的な実施形態においても、少なくとも1つの層(C)は1つの層(D)と直接接触している。
【0131】
前述したMLBF構成のすべてに共通するのは、[基材(A)]から始まる層の順序が、基材と最初の層(B)との間の平坦化層(P)によって先行されるという事実に関係なく(B)-(C)-(D)であること、又は、順序が最初の順序[(B)-(C)]の後の1つ以上の追加の順序[(B)-(C)]などのさらなる順序によって中断され得ること、又は、順序が層(B)及び層(C)及び/又は層(C)及び層(D)の間のさらなる層によって中断され得ることである。
【0132】
好ましくは、層(D)は層(C)の直接上であり、層(C)は層(B)の直接上であり、よってMLBFの3つの必須層はすべて直接接触している、すなわち、3つの必須層の間には層がない。
【0133】
前述の構成は、用途要件、所望のレベルの水分バリア(WVTR)、及び所望の種類のポリマーフィルム基材に応じて選択される。例えば、層(B)及び(C)を繰り返すと、複数の層(B)が存在するため、典型的には、改善された水分バリアが得られるが、基材としてのポリマーフィルムは、基材に表面の凹凸がある場合、平坦化層(P)を必要とすることがある。適用分野でより柔軟なMLBFが要求される場合、層(B)は(B(B) などの構造を有し得る。
【0134】
前述のすべての実施形態について、基材はポリマー基材であることが好ましく、透明なポリマー基材であることがさらにより好ましい。
【0135】
本発明のMLBFの特徴
本発明のMLBFは、典型的には、85℃及び85%の相対湿度において少なくとも2000時間の優れた長期熱安定性を有し、自己剥離又はクラック形成がない。特に、透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)及び透明な熱硬化コーティング層(D)の製造に脂肪族モノマー及びオリゴマーが使用された場合、広範な気候エージング後の黄色指数(YI)の増加は、典型的には<10未満である。
【0136】
本発明のMLBFは、少なくとも400時間、及びさらには800時間を超えるまでのUV加速メタルハライド照射試験において、400~1100nmの光の波長範囲における透過率の変動が5%未満であることから推定される、20年を超える屋外寿命を有する良好なUV安定性を示す。
【0137】
多層バリアフィルムの製造方法及びこのように被覆された基材の製造方法
本発明は、少なくとも以下の工程、
a. 基材を提供する工程、
b. 化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及びスパッタリングから選択される1つ以上の方法により、基材上に1つ以上の無機層を適用して、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)を形成する工程、及び
c. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物Cを1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)上に適用して1つ以上の透明な放射線硬化性(メタ)アクリレート層を形成し、そして前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を形成する工程、及び
d. 1つ以上の熱硬化性コーティング組成物Dを1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上に適用して1つ以上の熱硬化性コーティング層Dを形成し、前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を形成する工程
を含む、多層バリアフィルムの製造方法を提供する。
【0138】
工程a.
上記の方法で使用される基材は、上記の基材の任意とすることができるが、最も好ましくはポリマー基材であり、さらにより好ましくは、上記のものから選択される透明なポリマー基材である。
【0139】
基材、特にポリマー基材は、典型的には、支持体とその上に提供される層との間の接着性を高めるために、表面処理されてもよい。このような表面処理の例には、限定するものではないが、コロナ放電処理、火炎処理、UV処理、低圧プラズマ処理、及び大気圧プラズマ処理が含まれる。
【0140】
基材は、例えば、上述の及び上述した放射線硬化(メタ)アクリル層(C)と同種類であってよい平坦化層(P)を含む、プレコート基材であってもよい。
【0141】
基材にこのような平坦化層(P)を提供する場合、コーティング組成物は、好ましくは、上述の放射線硬化性コーティング組成物Cと同種類のものである。よってこのようなコーティング層は、放射線硬化性コーティング組成物Cについて後述するのと同様の方法で適用し、硬化させる。硬化させた平坦化層(P)の膜厚は、存在する場合、好ましくは0.5~10μmの範囲、より好ましくは1~5μmの範囲である。
【0142】
工程b.
無機層(単数又は複数)は、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及びスパッタリングから選択される1つ以上の方法によって基材に適用され、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)が形成される。
【0143】
前述の方法は当業者に公知である。このような層を製造するためのCVD法は、例えば、DE4035951C1又はCA2562914A1及びその参考文献に記載されており、このような層を製造するためのPVD法は、例えば、EP0645470A1又はUS5900271A及びその参考文献に記載されており、そしてこのような層を製造するためのスパッタリング法は、例えば、US2004/0005482A1に記載されている。さらに、無機材料、すなわち金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物について説明した上記の段落、及び好適な適用方法について説明している文献を参照されたい。
【0144】
しかしながら、透明バリア層又はバリア層は、そのような層が無機の、好ましくは金属酸化物層のみである場合、ALD法を用いて製造することが最も好ましい。この方法は、例えば、WO2011/099858A1に詳細に記載されている。
【0145】
1つ以上の無機層を適用する場合、2つ以上の無機層(例えばALDによって適用される)の間に、有機分子を含有する有機層を、例えば分子層堆積技術によって適用することも可能である。
【0146】
このような層(B)を得るためにMLD技術で使用される有機分子は、チオール、ジスルフィド、スルフィド、セレノール、アミン、カルボキシレート、ホスフェート又はホスホネート、又はそれらの誘導体などの、無機層(B)、好ましくは金属酸化物層(B)に化学的に結合できる特別な官能基を有する。
【0147】
層(B)を生成するための最も好ましい有機分子は、例えばメルカプト安息香酸、メルカプトフェノール、アミノメルカプトフェノールなどの芳香族チオールのファミリーに属する。
【0148】
MLDによるこのような層の適用は、例えば、WO2015/030297A1、WO2015/188990A2及びWO2015/188992A1に記載されており、これらは本明細書で参照される。
【0149】
工程c.
工程c.において、放射線硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物Cを適用する。このコーティング組成物Cは、以下の成分,
i. 1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種、
ii. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマー、
iii. 1つ以上の接着促進剤、
iv. UV硬化の場合、1つ以上の光開始剤、
v. UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の化合物、及び
vi. 任意に1つ以上のコーティング添加剤
を含むか、又はこれらからなる。
【0150】
これらの材料成分は、コーティング組成物Cにおけるその好ましい含有量と同様に、上記で詳細に説明した。
【0151】
放射線硬化性コーティング組成物Cは、透明な放射線硬化(メタ)アクリル層(複数可)(C)を形成するために放射線硬化性でなければならないので、この組成物は、好ましくは、光吸収顔料及び充填剤を実質的に含んではならない。
【0152】
コーティング組成物Cは、任意の好適な湿式コーティング法によって適用してよい。好適なコーティング方法として、例えばスピンコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、キスロールコーティング、キャストコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダイコーティング、ディッピング、ブラッシング、バーによるキャスティング、ローラーコーティング、フローコーティング、ワイヤーコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、ウィーラーコーティング、カスケードコーティング、カーテンコーティング、エアーナイフコーティング、ギャップコーティング、ロータリースクリーン、リバースロールコーティング、(リバース)グラビアコーティング、メータリングロッド(マイヤーバー)コーティング、スロットダイ(押出)コーティング、ホットメルトコーティング、ローラーコーティング、フレキソコーティングが挙げられる。好適な印刷方法には、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷などのレリーフ印刷、インクジェット印刷、ダイレクトグラビア印刷又はオフセットグラビア印刷などの凹版印刷、オフセット印刷などのリソグラフ印刷、又はスクリーン印刷などの孔版印刷が含まれる。
【0153】
好ましいUV硬化の場合、UV光の硬化波長範囲、強度及びエネルギーは、コーティング組成物Cの感光性に応じて選択される。典型的には、波長はUV-A、UV-B及び/又はUV-Cの範囲である。好ましくは、放射線は400nm未満の波長の光、より好ましくは380nm未満の波長の光を含む。特に好ましいのは、UV-Vis強度が少なくとも600mJ/cm、及びより良好には800mJ/cmのUV水銀ランプを放射線源として使用することである。
【0154】
MLBFのバリア機能を高めるために、工程b.及びc.を1回以上繰り返すことも可能である。
【0155】
工程d.
工程d.において、熱硬化性コーティング組成物Dを1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上に適用して1つ以上の熱硬化性コーティング層Dを形成し、前記層(単数又は複数)を硬化させて、1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を形成する。
【0156】
前記コーティング組成物Dは、以下の成分、
i. ヒドロキシル官能性フルオロポリマー及びヒドロキシル官能性ポリ(メタ)アクリレートから選択される1つ以上のヒドロキシル官能性ポリマー、
ii. 1つ以上のポリイソシアネート、
iii. 1つ以上の有機溶媒、
iv. UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の化合物、
v. 任意に、i.とii.との間の反応を触媒するための1つ以上の触媒、及び
vi. 任意に1つ以上のコーティング添加剤
を含むか、又はこれらからなる。
【0157】
材料成分i.及びii.は、上記で詳細に説明した。UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤iv.は、放射線硬化性コーティング組成物Cについて開示したのと同じ群から選択することができる。
【0158】
典型的には、コーティング組成物Dは、非プロトン性溶媒、例えばエステル、例えばブチルアセテート及びエチルアセテート、ケトン、例えばメチルエチルケトン、アルキルエーテル、例えばメトキシプロパノール又はグリコールエーテル、脂肪族又は芳香族炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレンの群から選択される溶媒iii.を含む。
【0159】
ヒドロキシル官能性ポリマー(複数可)i.とポリイソシアネート(複数可)ii.との間の架橋反応を触媒するために使用してよい触媒v.は、好ましくは、スズベースの触媒、例えばジブチルスズジラウレート(DBTL)又はジオクチルスズラウレートの群から選択される。しかしながら、一般的に使用されるスズベースの触媒の代わりに、亜鉛又はビスマスベースの触媒を使用することが有利である。亜鉛ベースの触媒として、例えばKing Industries社のK-KAT-XK-622及びXK-614、及びBorchers社のOcta-Soligen(登録商標)Zn触媒が挙げられる。ビスマスベースの触媒として、例えばBorchers社のBorchi(登録商標)Kat0243、Borchi(登録商標)Kat0244及びBorchi(登録商標)Kat315が挙げられる。
【0160】
コーティング組成物Dは、放射線硬化性コーティング組成物Cについて記載したものなどの典型的なコーティング添加剤をさらに含んでもよく、これらは、放射線硬化性コーティング組成物Cに好ましく使用されるものとは対照的に放射線硬化性ではない。
【0161】
早期架橋を避けるために、少なくとも材料成分i.及びii.は別々に貯蔵される。他の材料成分は貯蔵条件下でi.又はii.に含有させることができ、特に溶媒はi.及び/又はii.に含有させることができる。i.との予備混合物中に貯蔵する場合、材料成分がi.に対して反応性ではないように注意すべきであり、ii.との予備混合物中に貯蔵される材料成分についても同様である。
【0162】
上記の材料成分i.~vi.は、材料成分ii.に対して反応性である他の材料成分、例えば反応性希釈剤、又は反応性オリゴマー及びポリマー、又はii.以外の架橋剤の存在に対して排他的であることを意味するものではない。しかしながら、コーティング組成物Dは、材料成分i.~vi.からなることが好ましい。
【0163】
熱硬化性コーティング組成物Dは、透明な熱硬化層(複数可)(D)を形成するために熱硬化性でなければならないので、この組成物は、好ましくは、光吸収顔料及び充填剤を実質的に含んではならない。
【0164】
コーティング組成物Dに使用される材料成分i.~vi.の好ましい量は、以下の通りである:
i. 好ましくは10~60質量%、最も好ましくは20~50質量%の範囲、
ii. 好ましくは5~20質量%、最も好ましくは7~15質量%の範囲、
iii. 好ましくは20~70質量%、最も好ましくは30~質量%の範囲、
iv. 好ましくは0.1~10質量%、最も好ましくは0.2~5.0質量%の範囲、
v. 好ましくは0~0.1質量%、最も好ましくは0.02~0.07質量%の範囲、
vi. 好ましくは0~5質量%、最も好ましくは1~4質量%の範囲。
質量%の値はすべて、コーティング組成物Dの総質量に対するものである。
【0165】
コーティング組成物Dは、上記コーティング組成物Cについて既に記載したように、任意の好適な湿式コーティング法によって適用することができる。
【0166】
このようにして得られた層は、好ましくは周囲温度(25℃)~100℃の範囲、好ましくは50℃~90℃の範囲、さらにより好ましくは65~85℃の範囲の温度で、好ましくは1分~120分、より好ましくは1分~60分、さらにより好ましくは1分~30分、1分~15分又は2分~10分の範囲の時間、硬化させることができる。一般に、硬化温度が高いほど硬化時間は短くなる。
【0167】
多層バリアフィルム及びMLBF被覆基材の使用方法
このようなMLBF被覆基材は、光起電力用途の保護シートとして使用することができる。このような保護シートは、その軽量性、可撓性及び有利なコストに起因して、好ましくは、太陽電池モジュールのような用途において前面保護シート(フロントシート)又は背面保護シート(バックシート)として使用することができ、他の可能な用途として、携帯用照明装置、オプトエレクトロニクスの高度なパッケージング、及び例えばOLEDスクリーンのようなディスプレイが挙げられる。
【実施例
【0168】
以下に、本発明を実施例により説明する。特に断りのない限り、部はすべて質量部であり、組成物の材料成分に関する百分率値は質量パーセントである。
【0169】
試験手順
外側硬化性/硬化コーティング組成物Dの試験
コーティング組成物Dは、温度23±2℃、湿度管理なしの空気下で、密閉した褐色ガラス瓶中に少なくとも24時間保管した。
【0170】
粘度
粘度は、トルク回転粘度計Brookfield CAP2000+を用いて100rpm、25℃で混合後1時間に測定した。
【0171】
ガラス転移温度(DSC)
DSCは、Mettler Toledo Star System TGA/DSC1装置を用いて、最初の加熱サイクルの間、10℃/分の加熱速度で行った。
【0172】
熱重量分析(TGA)
TGAは、Mettler Toledo Star System TGA/DSC1装置を用いて行った。条件は加熱速度10℃/分であった。測定はN雰囲気下で行った。
【0173】
動的機械分析(DMA)
DMAは、Waters TA Instrument Discovery DMA850を用いて行った。測定は20℃で行った。
(a) 貯蔵弾性率
(b) 引張強度
(c) E-弾性率
(d) 破断伸度
【0174】
多層系の試験
MLBFで実施されたあらゆる試験は、23±2℃及び相対湿度50%で24時間の調整時間後に実施したが、サンプル調整の間に温度及び湿度の制御を行わなかったUV安定性データを除く。
【0175】
熱安定性/湿熱試験
MLBF被覆基材の熱安定性は、MLBF被覆基材を85℃及び相対湿度85%で2000時間保管することにより試験した。
【0176】
クロスカット接着性
テープのクロスカット粘着性は、ASTM D3359-17(2mm間隔で6枚のブレード)に従って測定した。
【0177】
ヘイズ、透明度及び透過率
ヘイズ、透明度、透過率は、ASTM1003D:2013に従って測定した。
【0178】
黄色指数
黄変指数は、DIN6167:1980-01に従って測定した。
【0179】
UV安定性
1.5kW/mのUV放射を、295~400nmの波長範囲で820時間、温度70℃及び相対湿度40%で、Super UV-W161メタルハライド装置を用いてMLBFに照射した。
【0180】
コーティング層の層厚
層厚は、乾燥層又は硬化層(P)、(B)、(C)及び(D)について、例えばByko-Test4200(BYK Instruments社から入手可能)のようなコーティング厚ゲージを用いた非破壊乾燥フィルム測定により、測定した。
【0181】
多層系及びその調製
材料成分の一覧
【0182】
【表1】
【0183】
透明ポリマー基材(A)
透明ポリマー基材として、膜厚125μmを有し、そしてDuPont Tijin Films社からMELINEX(登録商標)ST504という商標で入手可能な、澄み切った高光沢の熱安定化ポリエステルフィルム(ポリエチレンテレフタレート;PET)を使用した。
【0184】
透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)
透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)は、例えばWO2015/188990A2及びWO2015/188992A1に記載のように、層厚100nmの酸化アルミニウムの原子層堆積(ALD)によって透明ポリマー基材の上に適用した。
【0185】
透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)
2つの異なる放射線硬化性(メタ)アクリレート組成物C1及びC2を使用して透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を製造した。それぞれの組成物C1及びC2を、透明な無機バリア層(B)の上に、自動のバーコーター金属ブレード(ZEHNTNER ZAA2300)によって約20mm/秒の速度で適用し、そしてUV水銀ランプ(UVA:220mJ/cm、UV-Vis:580mJ/cm、速度:5.6m/分、ギャップ:6cm)によって硬化させて、約22.5±2.5μmの乾燥層厚を有する透明な放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を製造した。
【0186】
使用した組成物C1及びC2の材料成分を、以下の表1に要約する。量は、市販形態における質量部である。
【0187】
【表2】
【0188】
透明な熱硬化外側コーティング層(D)
8つの異なる熱硬化性コーティング組成物(D1~D8)を使用して多層系実施例1~9の透明な熱硬化外側コーティング層(D)を製造した。組成物を、バーコーター金属ブレードを用いて(20mm/分)放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の上に適用し、80℃で2分間(組成物D1~D6)及び3分間(組成物D7及びD8)それぞれ硬化させて、乾燥層厚47.5±2.5μmを有する透明な熱硬化外側コーティング層(D)を製造した。
【0189】
熱硬化性コーティング組成物D1~D8を製造するために、表2に示す架橋性ポリマーを溶媒成分と混合し、続いて架橋剤を添加して均一な混合物を製造した。その後、触媒、UV吸収剤及び光安定剤を加えた。組成物D3及びD6は、その適用前にさらに6gの量のブチルアセテートで希釈した。
【0190】
【表3】
【0191】
表3に、実施例1~9の多層系構成及びその特性を示す。
【0192】
【表4】
【0193】
表3の結果は、2000時間の熱安定性試験後、本発明のMLBF被覆基材のいずれについても、視覚的な自己剥離がないことを明確に示している。さらに、かなり厳しいクロスカット接着試験条件下において、層(D)にフルオロポリマーのみを使用したサンプル(実施例1~4)は、フィルムの完全性が100%であるので、この試験において優れた接着性を示した。層(D)にヒドロキシル官能性ポリ(メタ)アクリレートのみを使用したサンプルについても同様であった。予備的な結果(図示せず)は、フルオロポリマー含有層(D)は、高温高湿下での貯蔵後、クロスカット接着性でより良好な結果を示した。
【0194】
その他のすべての結果は、2000時間の湿熱試験条件下でも、ヘイズ、透明度、透過率、黄色指数及びUV安定性にほとんど変化がないか、あってもわずかであることを示し、MLBF被覆基材の優れた長期安定性を示す。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリマー基材(A)をコーティングするための多層バリアフィルムであって、以下(B)、(C)、(D)の順で、
1つ以上の透明な、少なくとも部分的無機バリア層(B)、
1つ以上の透明な、放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)、及び
1つ以上の透明な、熱硬化コーティング層(D)
を含み、少なくとも1つの層(C)が1つの層(D)と直接接触している、多層バリアフィルム。
【請求項2】
前記1つ以上のバリア層(B)の厚さが10nm~1000nmの範囲であり、及び/又は
前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の厚さが1μm~100μmの範囲であり、及び/又は
前記1つ以上の熱硬化コーティング層(D)の厚さが10~100μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の多層バリアフィルム。
【請求項3】
前記透明ポリマー基材(A)を平坦化するための平坦化層(P)が前記バリア層(B)に先行することを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項4】
前記平坦化層(P)の厚さが1~30μmの範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の多層バリアフィルム。
【請求項5】
バリア層(B)が、原子層堆積によって形成され、且つ金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の無機材料からなる無機層(B)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項6】
前記バリア層(B)が層積み重ね(B(Bからなり、Bが無機層であり、Bが分子層堆積によって形成された有機層であり、n=1~100であり、そしてt=0又は1であり、n個のB層のうちの最初の層が、平坦化層(P)上又は基材(A)上に形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項7】
前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)が、少なくとも1つ以上の放射線硬化性オリゴマー(メタ)アクリレート官能種及び少なくとも1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリレート官能性モノマーを含む放射線硬化性コーティング組成物Cを放射線硬化することによって得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項8】
層(B)及び(C)の積み重ねが、[(B)-(C)]の形態でa回存在し、a=1~10であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項9】
前記1つ以上の熱硬化コーティング層(D)が、以下の成分、
ラジカル重合されたヒドロキシル官能性フルオロポリマー及びヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つのヒドロキシル官能性ポリマー、及び
ポリイソシアネートの群から選択される、少なくとも架橋剤
を含むコーティング組成物Dを、最後に適用された放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)の上に適用し、このようにして得られた層(複数可)を熱硬化させることによって得られるポリウレタン層であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項10】
層(C)及び/又は層(D)が、UV吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤からなる群の少なくとも1つの添加剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多層バリアフィルム。
【請求項11】
請求項1又は2のいずれか一項に定義した多層バリアフィルムを含む多層バリアフィルム被覆基材であって、該多層バリアフィルムが前記透明ポリマー基材(A)を[基材(A)]-(B)-(C)-(D)の順で被覆していることを特徴とする、多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項12】
20μm~300μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項11に記載の多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項13】
前記基材が透明ポリエチレンテレフタレート基材であることを特徴とする、請求項11に記載の多層バリアフィルム被覆基材。
【請求項14】
請求項1又は2のいずれか一項に定義した多層バリアフィルムの製造方法であって、以下の工程、
a. 基材を提供し、前記多層バリアフィルムを該基材上へ、以下によって形成する工程、
b. 化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、原子層堆積(ALD)及びスパッタリングから選択される1つ以上の方法により、前記基材上に1つ以上の無機層を適用して、1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)を形成する工程、及び
c. 1つ以上の放射線硬化性(メタ)アクリルコーティング組成物Cを前記1つ以上の透明な少なくとも部分的無機バリア層(B)上に適用して1つ以上の透明な放射線硬化性(メタ)アクリレート層を形成し、そして前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)を形成する工程、及び
d. 1つ以上の熱硬化性コーティング組成物Dを前記1つ以上の放射線硬化(メタ)アクリレート層(C)上に適用して1つ以上の熱硬化性コーティング層Dを形成し、前記層(単数又は複数)を硬化させて1つ以上の透明な熱硬化コーティング層(D)を形成する工程
を含み、
工程a.及びb.、工程b.及びc.、工程c.及びd.の間の追加工程を排除するものではない、多層バリアフィルムの製造方法。
【請求項15】
透明ポリマー基材(A)を基材として用いて請求項14に定義した工程a.からd.を実施することにより、請求項11に定義した多層バリアフィルム被覆基材を製造する方法。
【請求項16】
請求項11に定義した多層バリアフィルム被覆基材の、光起電力用途への使用方法。
【国際調査報告】