(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】濾過プロセスを監視するための方法
(51)【国際特許分類】
B01D 37/02 20060101AFI20240426BHJP
B01D 65/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B01D37/02 Z
B01D65/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570030
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022062448
(87)【国際公開番号】W WO2022238309
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520477463
【氏名又は名称】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ティル・ブリスコット
(72)【発明者】
【氏名】ニルス・ヒッレブラント
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ハーン
(72)【発明者】
【氏名】ティーモ・フーク
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・フッブーフ
【テーマコード(参考)】
4D006
4D116
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA13
4D006JA70Z
4D006KE11P
4D006KE15P
4D006KE16P
4D006PB02
4D006PC41
4D116AA09
4D116QC05
4D116QC13
4D116QC20
4D116VV08
(57)【要約】
少なくとも1つの実施形態において、第1の溶液がフィルタシステム(100)によって処理される濾過プロセスを監視するための方法は、 少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)を示す第1の測定データを受信することであって、少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)は、測定ユニット(11、31)の助けを借りて濾過プロセスにおいて測定可能である濾過プロセスのプロセス変数である、受信することと、濾過プロセスモデル(4)を実行し、第1の測定データを使用することによって出力データを決定することであって、濾過プロセスモデル(4)を実行することは、第1の溶液の溶質の間の相互作用を記述する少なくとも1つの物理方程式を解くことを含み、濾過プロセスモデル(4)の少なくとも1つのパラメータは、第1の測定データから導出された少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)に依存し、出力データは、濾過プロセスの少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V3_P、V4_P)を示す、決定することとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溶液がフィルタシステム(100)によって処理される濾過プロセスを監視するための方法であって、
少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)を示す第1の測定データを受信するステップであって、前記少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)は、測定ユニット(11、31)によって前記濾過プロセスにおいて測定可能である前記濾過プロセスのプロセス変数である、ステップと、
濾過プロセスモデル(4)を実行し、前記第1の測定データを使用することによって出力データを決定するステップと、を含み、
前記濾過プロセスモデル(4)を実行することは、前記第1の溶液の溶質の間の相互作用を記述する少なくとも1つの物理方程式を解くことを含み、
前記濾過プロセスモデル(4)の少なくとも1つのパラメータは、前記第1の測定データから導出された前記少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)に依存し、
前記出力データは、前記濾過プロセスの少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V3_P、V4_P)を示す、方法。
【請求項2】
必要に応じて前記濾過プロセスを調整するために前記出力データを分析するステップをさらに含み、および/または
前記出力データを決定するステップは、前記濾過プロセスにおいておよび/またはリアルタイムで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの物理方程式は、ポアソン‐ボルツマン方程式に基づく、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記濾過プロセスモデル(4)は、細胞モデルアプローチに基づいており、
前記細胞モデルアプローチでは、前記第1の溶液は、中心において前記第1の溶液の産物の1つの分子を含む単一のウィグナーザイツ胞に還元され、
前記ウィグナーザイツ胞の半径R
WSは、前記第1の溶液中の前記産物の濃度c
Mによって定義され、
【数1】
であり、
N
Aはアボガドロ定数である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記濾過プロセスモデル(4)の少なくとも1つのさらなるパラメータは、
前記濾過プロセスにおける前記第1の溶液および/または前記第1の溶液に混合された第2の溶液の組成に依存し、ならびに/または
前記第1の溶液中の溶質の電荷および/または表面電荷密度に依存する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記出力データから抽出可能な前記少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V3_P)は、前記第1の溶液の溶質および/もしくは前記濾過プロセスの透過液の濃度であり、ならびに/または
前記少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V4_P)は、測定可能なプロセス変数であり、
前記少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V4_P)は、前記第1の溶液および/または前記濾過プロセスの透過液のpH値である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの参照プロセス変数(V4_R)を示す第2の測定データを受信するステップであって、前記少なくとも1つの参照プロセス変数(V4_R)は、測定ユニット(21)によって前記濾過プロセスにおいて測定可能である前記濾過プロセスのプロセス変数であり、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V4_P)と同じプロセス変数を表す、ステップと、
前記少なくとも1つの参照プロセス変数(V4_R)を前記少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V4_P)と比較するステップと、
前記少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数(V4_P)を前記少なくとも1つの参照プロセス変数(V4_R)に適合させるために前記濾過プロセスモデル(4)の少なくとも1つのパラメータを前記比較に基づき調整するステップと、をさらに含む請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記出力データに基づき制御信号を生成するステップをさらに含み、前記制御信号は、前記濾過プロセスの少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータを制御するように構成され、および/または前記少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータの制御を呼び出すように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の溶液の少なくとも1つの溶質は、タンパク質、ペプチド、核酸、ウイルスのうちの少なくとも1つを含む生体分子である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの入力プロセス変数(V1_M、V2_M)は、
前記第1の溶液のpH値、
前記濾過プロセスにおいて前記第1の溶液に混合された第2の溶液のpH値、
前記第1の溶液および/または前記第2の溶液の電気伝導度、
前記第1の溶液および/または第2の溶液の吸収および/または吸光度、
前記第1の溶液および/または第2の溶液の温度、
前記第1の溶液に混合する際の前記第1の溶液および/または前記第2の溶液の流量、
前記第2の溶液が前記第1の溶液に現在混合されているかどうかを示す情報
のうちの少なくとも1つである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されているプロセッサを備えるデバイス(10)。
【請求項12】
命令を含むコンピュータプログラムであって、前記命令は、前記コンピュータプログラムがコンピュータによって実行されたときに、前記コンピュータに請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータによって実行されたときに、前記コンピュータに請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を実行させる命令を含むコンピュータ可読データキャリア。
【請求項14】
濾過プロセスのためのフィルタシステム(100)であって、
請求項11に記載のデバイス(10)と、
前記濾過プロセスのプロセス変数(V1_M、V2_M、V4_R)を測定するための少なくとも1つの測定ユニット(11、21、31)と、
第1の溶液を貯蔵するための第1の溶液リザーバ(1)と、
前記第1の溶液リザーバ(1)に流体的に結合された入口および前記濾過プロセスの透過液を除去するための出口を備えるフィルタモジュール(2)と、を備えるフィルタシステム(100)。
【請求項15】
第2の溶液を貯蔵するための第2の溶液リザーバ(3)をさらに備え、
前記第2の溶液リザーバ(3)は、前記第1の溶液リザーバ(1)に流体的に結合され、
少なくとも1つの測定ユニット(11)は、前記第1の溶液のプロセス変数(V1_M)を測定するように構成され、
少なくとも1つの測定ユニット(21)は、前記濾過プロセスの前記透過液のプロセス変数(V4_R)を測定するように構成されている、請求項14に記載のフィルタシステム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
濾過プロセス(filtration process)を監視するための方法が指定される。さらに、デバイス、コンピュータプログラム、コンピュータ可読データキャリア、およびフィルタシステム(filter system)が指定される。
【背景技術】
【0002】
抗体などのバイオ医薬品有効成分は、複雑な工業的バイオプロセスにおいて生産される。まず、以下では産物とも称される、標的分子が遺伝子組換え細胞で生産される。次いで、産物は、通常クロマトグラフィーによって精製される。クロマトグラフィーによる産物の精製後、組合せのUFDF(限外濾過および透析濾過、ultrafiltration and diafiltration)プロセスが最終的な生産工程となることが多い。これは、産物を濃縮し、医薬品有効成分を最終製剤緩衝液に移すことを可能にする。
【0003】
患者に薬物を皮下投与することを可能にするために、バイオ医薬品業界は、常に、たとえばUFDFプロセスの最後に高産物濃度を目指す。高産物濃度を伴うこの投薬形態は、患者にとって有益であるが、UFDFプロセスの展開および運用に著しい難題を課す。
【0004】
実際に溶解された産物と他の溶解された賦形剤との間の相互作用に起因して、UFDFプロセスにおいて望ましい賦形剤の枯渇および望ましくない賦形剤の蓄積が溶液中に生じ得る。この影響は、最終的に得られた溶液が品質要件を満たさない原因となり得る。したがって、UFDFプロセスの効果的な展開および制御のために、特定の賦形剤および/または産物の濃度などの溶液のクリティカルな品質属性がリアルタイムで測定され得ることが望ましい。
【0005】
しかしながら、この時点では、品質属性のリアルタイム定量化は、ハードウェアセンサを使用して直接的に測定され得る少数の属性のみに限られている。これらは、溶液のpH値および伝導度を含む。濃度のような、直接的に測定可能でないプロセス変数のリアルタイム決定は、多変量センサ信号の統計的評価によって実現され得る。UV(紫外線)/Vis(可視光)分光計および光散乱光度計は、そのようなセンサとして使用され得る。しかしながら、説明されている方法の欠点は、統計的評価が限られたプロセスウィンドウ内でのみ有効であり、各産物に対して複雑なセットアップ手順を必要とすることである。さらに、これは、産物の定量化および特性評価のみを可能にし、緩衝液成分のような潜在的に重要な賦形剤を含まない。これらの賦形剤はプロセスで直接的に測定され得ないので、分析クロマトグラフィーなどの複雑なオフライン分析によって決定されなければならない。オフライン分析という用語は、分析されるべきサンプルを手作業で抽出し、その後、さらなる実験室でサンプルの調製、測定、および評価を行うことを特徴付ける。サンプリングから分析結果が利用可能になるまでの間の時間に起因して、オフライン測定に基づくプロセスの直接的制御および監視は可能でない。
【0006】
賦形剤および/または産物のリアルタイム定量化は、フーリエ変換赤外分光計を用いて行われ得る。上で説明されている分析技術と同様に、リアルタイム定量化は、多変量センサ信号の統計的評価によって実現される。説明されているリアルタイム定量化は、定量化されるべき賦形剤および/または産物が赤外領域で検出され得ることを必要とする。この要件は、すべての物質について必ずしも保証されるものではない。それに加えて、センサの評価された信号は、十分な信号対雑音比を有していなければならないが、これは多くの賦形剤の濃度が低いことに起因して必ずしも満たされるわけではない。信号評価は統計モデルを使用して実行されるので、モデルは、産物と賦形剤との組合せ毎にオフラインでキャリブレートされなければならず、キャリブレートされたプロセス範囲内でのみ有効である。UV/Vis分光計、光散乱光度計、およびフーリエ変換赤外分光計などの多変量ハードウェアセンサは、また、既存の生産設備(フィルタシステム)に統合されることはめったになく、説明されているアプローチを実際の生産設備に実装することを複雑な作業にする。
【0007】
なお、上記の記述は、先行技術として認められるものと解釈されるべきではないことに留意されたい。これらは、現在開示されている概念の背景を例示するためになされたに過ぎず、まだ一般に公開されていないこともあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
達成されるべき一目的は、濾過プロセスを監視するための改良された方法を提供することである。好ましくは、この方法は、溶液中の異なる溶質の濃度をリアルタイムで監視することを可能にする。達成されるべきさらなる目的は、この方法を実行するように構成されたデバイス、コンピュータプログラム、およびコンピュータ可読データキャリア、さらにはこの方法が実行され得るフィルタシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、とりわけ、独立請求項の主題によって達成される。有利な実施形態およびさらなる展開は、従属請求項の対象であり、次の説明および図にも提示されている。
【0010】
最初に、濾過プロセスを監視するための方法が指定される。濾過プロセスにおいて、第1の溶液がフィルタシステムによって処理される。特に、第1の溶液は、フィルタシステムを使用することによって濾過される。第1の溶液は、少なくとも1つの溶質、すなわち1つまたは複数の溶質を含んでもよい。第1の溶液は、1つの溶質として少なくとも1つの産物を含む溶液として定義され、したがって産物溶液とも称され得る。産物は、特に、バイオ医薬品有効成分である。第1の溶液は、少なくとも1つの産物の他に、賦形剤のようなさらなる溶質を含んでもよい。賦形剤は、最終的に得られた第1の溶液中の産物を安定させるために使用され得る。
【0011】
フィルタプロセスでは、第1の溶液は、フィルタシステムのフィルタモジュールに誘導され得る。フィルタモジュールは、第1の溶液の溶質および/または第1の溶液の溶媒の一部に対しては透過性であるが、少なくとも1つの産物に対しては不透過性である少なくとも1つの膜、たとえば半透膜を含み得る。膜を透過する第1の溶液の部分は透過液と称される。膜を通過しない第1の溶液の部分は保持液(retentate)と称される。透過液は、第1の溶液から除去され、フィルタシステムを出るものとしてよい。透過液は、もはや第1の溶液を構成しない。保持液は、フィルタシステム内に留まり、フィルタモジュールにまだ誘導されていない第1の溶液のその部分と再び混合され得る。保持液は、まだ少なくとも1つの産物を含んでいるので、それはまだ第1の溶液の一部である。最初の第1の溶液全体がフィルタモジュールを通して処理された場合、保持液は、最初の第1の溶液を完璧に置き換え、第1の溶液を形成する。したがって、本明細書では、保持液および第1の溶液という表現は同義語として使用される。次いで、保持液/第1の溶液は、再びフィルタモジュールへ誘導され、再び濾過され得る。これは、第1の溶液中の少なくとも1つの産物の濃度を高めるために数回繰り返されるか、または連続的に行われ得る。
【0012】
少なくとも1つの産物を含まない透過液と少なくとも1つの産物を含む保持液との分離に起因して、第1の溶液の組成は、濾過プロセスにおいて変化し得る。特に、賦形剤の量は、第1の溶液中で変化し得る。それに加えて、濾過プロセスにおいて、第2の溶液が第1の溶液に添加されるか、または混合され得る。第2の溶液の添加された部分は、第1の溶液の一部となる。したがって、この混合も、第1の溶液の組成を変化させる。
【0013】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、第1の測定データが受信されるステップを含む。第1の測定データは、少なくとも1つの入力プロセス変数を示す。少なくとも1つの入力プロセス変数は、測定ユニットの助けを借りて、たとえばリアルタイムおよび/またはインラインで、濾過プロセスにおいて測定可能なまたは測定される濾過プロセスのプロセス変数であってよい。入力プロセス変数は、たとえば、第1の測定データから抽出可能である。少なくとも1つの入力プロセス変数は、濾過プロセスにおいて1回だけ、たとえば濾過プロセスの開始時(t=0)に、または濾過プロセスにおいて繰り返しもしくは連続的に測定され得る。
【0014】
ここで、以下において、測定ユニットは、センサ、特にフィルタシステムのインラインハードウェアセンサであってもよい。プロセス変数は、濾過プロセスに対して特徴的な物理量であってもよい。測定データを受信することは、特に、測定データがコンピュータまたはプロセッサのインターフェースによって受信されることを意味する。
【0015】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、濾過プロセスモデルを実行し、第1の測定データを使用することによって出力データが決定されるステップを含む。したがって、出力データは、第1の測定データに応じて、濾過プロセスモデルを実行することによって、決定される。濾過プロセスモデルは、特に、濾過プロセスをシミュレートするモデルである。たとえば、濾過プロセスモデルは数学的モデルである。濾過プロセスモデルは、特に、たとえば、第1の溶液の特定の特性を考慮することによって、第1の溶液中の一部またはすべての溶質間の相互作用をシミュレートし得る。濾過プロセスモデルは、機械的モデルおよび/または第一原理モデルであってもよい。濾過プロセスモデルを実行するときに、出力データを決定するために、第1の測定データの情報が使用され得る。
【0016】
少なくとも1つの実施形態によれば、濾過プロセスモデルを実行することは、少なくとも1つの物理方程式を解くことを含む。少なくとも1つの物理方程式は、第1の溶液の溶質の間、たとえばすべての溶質の間の相互作用を記述し得る。特に、物理方程式は、第1の溶液の少なくとも1つの溶解された産物と第1の溶液中の溶解された賦形剤のような他の溶質との間の相互作用を記述し得る。物理方程式は、散乱方程式および/または平均場方程式であってもよい。溶質の間の説明されている相互作用は、電磁相互作用であってもよい。
【0017】
さらに、濾過プロセスモデルは、保持液側における少なくとも1つの産物のマスバランス、および/または保持液側における電気的中性条件、および/または透過液側における電気的中性条件、および/または第2の溶液における電気的中性条件、および/または透過液と保持液との間の熱力学的平衡を考慮するように選択され得る。
【0018】
少なくとも1つの実施形態によれば、濾過プロセスモデル、たとえば少なくとも1つの物理方程式の少なくとも1つのパラメータは、第1の測定データから導出された少なくとも1つの入力プロセス変数に依存する。言い換えると、モデルを実行するために、第1の測定データから抽出された入力プロセス変数が使用され、濾過プロセスモデルの少なくとも1つのパラメータを決定し得る。
【0019】
少なくとも1つの実施形態によれば、出力データは、濾過プロセスの少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数を示す。モデル化されたプロセス変数は、濾過プロセスモデルによって、それぞれ、予測されるかまたはモデル化された濾過プロセスのプロセス変数である。モデル化されたプロセス変数は、出力データから抽出可能であり得る。モデル化されたプロセス変数は、それぞれ、測定ユニットの助けを借りて、たとえばインラインまたはリアルタイムで測定可能である、または測定ユニットの助けを借りてインラインでは測定できない、またはオフラインでのみ測定できる、濾過プロセスのプロセス変数を表し得る。
【0020】
少なくとも1つの実施形態において、第1の溶液がフィルタシステムによって処理される濾過プロセスを監視するための方法は、
‐ 少なくとも1つの入力プロセス変数を示す、第1の測定データを受信することであって、少なくとも1つの入力プロセス変数は、測定ユニットの助けを借りて濾過プロセスにおいて測定可能である濾過プロセスのプロセス変数である、受信することと、
‐ 濾過プロセスモデルを実行し、第1の測定データを使用することによって出力データを決定することであって、
‐ 濾過プロセスモデルを実行することは、第1の溶液の溶質の間の相互作用を記述する少なくとも1つの物理方程式を解くことを含み、
‐ 濾過プロセスモデルの少なくとも1つのパラメータは、第1の測定データから導出された少なくとも1つの入力プロセス変数に依存し、
‐ 出力データは、濾過プロセスの少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数を示す、決定することとを含む。
【0021】
本発明は、とりわけ、濾過プロセスの基礎物理学を適切に考慮した濾過プロセスモデルの助けを借りてプロセス変数をモデル化するという考え方に基づく。これは、第1の溶液の溶質の間の相互作用を記述する1つまたは複数の物理方程式を解き、それに加えて、濾過プロセスモデルへの入力として測定データを使用する濾過プロセスモデルによって達成される。これに起因して、濾過プロセスモデルは、異なる産物を含む溶液に適用され、またたとえば統計モデルよりもかなり広いプロセスウィンドウにおいて適用され得る。さらに、そのような濾過プロセスモデルでは、濾過プロセスの実際の状態が記述され得るだけでなく、過去の状態が再構築され、および/または将来の状態が予測され得る。望ましい濾過プロセスからの濾過プロセスの逸脱は、初期段階で検出され得る。さらに、濾過プロセスモデルの予測は、濾過プロセスを制御して、識別されたプロセス逸脱に対抗するために使用され得る。本発明のさらなる利点は、第1の測定データが、フィルタシステム内に容易に実装され得る一変量ハードウェアセンサを用いて取得され得ることである。
【0022】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、必要に応じて濾過プロセスを調整するために出力データが分析されるステップを含む。たとえば、出力データを分析するときに、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数が、参照プロセス変数と比較される。モデル化されたプロセス変数と参照プロセス変数との間の偏差が特定の閾値を超える場合、濾過プロセスは、たとえば、濾過プロセスの制御可能なプロセスパラメータを制御することによって、たとえば、フィルタシステムのアクチュエータを制御することによって、調整され得る。制御可能なプロセスパラメータは、第1の溶液から取り除かれる透過液の量および/または(体積)流量であってもよい。それに加えてまたは代替的に、少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータは、第1の溶液に混合される第2の溶液の量および/または(容積)流量であってもよい。また、濾過プロセスの他の制御可能なプロセスパラメータ、たとえば、第1および/もしくは第2の溶液の温度ならびに/または濾過プロセスの異なるステップの持続時間が、濾過プロセスを調整するために制御され得る。モデル化されたプロセス変数と参照プロセス変数との間の偏差が特定の閾値より小さい場合、濾過プロセスは、調整されないことがある。
【0023】
少なくとも1つの実施形態によれば、出力データは、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数の時間独立性を示す。言い換えると、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数の時間依存性は、濾過プロセスモデルでモデル化される。特に、出力データは、モデル化されたプロセス変数の将来の展開を示し得る。したがって、濾過プロセスモデルは、モデル化されたプロセス変数が将来、たとえば現在の状態から濾過プロセスの終了までどのように発展するか、または変化するかを予測し得る。
【0024】
少なくとも1つの実施形態によれば、出力データを決定することは、濾過プロセスにおいて行われる。それに加えてまたは代替的に、出力データを決定することは、リアルタイムで行われる。特に、出力データは、濾過プロセスが終了する前に取得される。好ましくは、出力データは、入力プロセス変数が測定される同じ濾過プロセスにおいて決定される。たとえば、測定ユニットの助けを借りて少なくとも1つの入力プロセス変数を測定することと、出力データを決定することとの間の時間窓は、長くても1分または長くても10秒または長くても1秒である。
【0025】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの物理方程式は、ポアソン‐ボルツマン方程式に基づくか、またはポアソン‐ボルツマン方程式から導出されるか、またはポアソン‐ボルツマン方程式である。それに加えてまたは代替的に、濾過プロセスモデルは、細胞モデルアプローチに基づく。たとえば、保持液側のポアソン‐ボルツマン方程式が解かれる。ポアソン‐ボルツマン方程式は、数値計算により解かれ得る。
【0026】
球形細胞モデルアプローチを使用するときに、ポアソン‐ボルツマン方程式は、
【0027】
【0028】
として定式化されるものとしてよく、ここで、ψは半径rの静電ポテンシャルであり、εは比誘電率であり、ε0は真空誘電率である。rは細胞の中心に関する半径を表す。細胞は、ウィグナーザイツ胞であってよい。
【0029】
【0030】
は細胞体積中の平均マイクロイオン濃度であり、ziは対応するマイクロイオンの電荷である。
【0031】
【0032】
はウィグナーザイツ胞内の平均静電ポテンシャルを表す。kbはボルツマン定数を表し、Tは温度である。
【0033】
少なくとも1つの実施形態によれば、このモデルは、フィルタモジュールにおいてドナン平衡を仮定する。特に、フィルタモジュールは、半透膜を備える。
【0034】
少なくとも1つの実施形態によれば、細胞モデルアプローチにおいて、第1の溶液は単一のウィグナーザイツ胞に還元される。たとえば、ウィグナーザイツ胞は、産物の1分子、特に1つの分子のみを含む。たとえば、この分子は細胞の中心に配置される。
【0035】
少なくとも1つの実施形態によれば、ウィグナーザイツ胞の半径RWSは、第1の溶液中の産物の濃度cMによって定義され、
【0036】
【0037】
であってよく、ここで、NAはアボガドロ定数である。ウィグナーザイツ胞は、球形ウィグナーザイツ胞であってよい。代替的に、ウィグナーザイツ胞は、非球形、たとえば、円筒形または立方形であってよい。
【0038】
ウィグナーザイツ胞の半径に対してこの式を使用することによって、ポアソン‐ボルツマン方程式が非常に効率的に解くことができ、それにより計算時間が短縮され、したがって出力データをリアルタイムで決定することを可能にする。
【0039】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの入力プロセス変数は、濾過プロセスにおいて第1の溶液および/または第1の溶液に混合される第2の溶液のpH値である。たとえば、濾過プロセスの開始時(時刻t=0)に測定された第1の溶液のpH値は、第1の入力プロセス変数として使用され得る。濾過プロセスにおいて、たとえば第1の溶液への混合中に、1回だけまたは連続的にまたは繰り返し測定された第2の溶液のpH値は、第2の入力プロセス変数として使用され得る。
【0040】
少なくとも1つの実施形態によれば、濾過プロセスモデル、たとえば少なくとも1つの物理方程式の少なくとも1つのさらなるパラメータは、濾過プロセスにおいて第1の溶液および/または第1の溶液に混合される第2の溶液の組成に依存する。それ加えてまたは代替的に、濾過プロセスモデルの少なくとも1つのさらなるパラメータは、第1の溶液中の溶質、たとえば少なくとも1つの産物の電荷および/または表面電荷密度に依存する。モデルの少なくとも1つのさらなるパラメータが、溶質の間の、たとえば少なくとも産物と他の溶質との間の相互作用を示すことも可能である。
【0041】
モデルの少なくとも1つのさらなるパラメータは、予め決定されているものとしてよい。たとえば、モデルの少なくとも1つのさらなるパラメータは、濾過プロセスにおいて測定されず、および/またはオフラインで決定される。たとえば、少なくとも1つのさらなるパラメータは、濾過プロセスを開始する前に推測されるかまたは計算されるかまたは決定される。しかしながら、少なくとも1つのさらなるパラメータは、この方法において、および/または以前の濾過プロセスにおいて、検証され得る。たとえば、モデルの少なくとも1つのさらなるパラメータは、この方法において、たとえば出力データから抽出されたモデル化されたプロセス変数が参照プロセス変数からある閾値を超えて逸脱したときに調整される。たとえば、濾過プロセスの開始時(時刻t=0)における第1の溶液中の少なくとも1つの産物または別の溶質の濃度は、オフラインで決定され得る。それ加えてまたは代替的に、t=0における第2の溶液中の溶質の濃度は、オフラインで決定され得る。
【0042】
少なくとも1つの実施形態によれば、出力データから抽出可能な少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、濾過プロセスの第1の溶液の溶質および/または透過液の溶質の濃度である。たとえば、出力データから抽出可能な少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、第1の溶液中の少なくとも1つの産物の濃度である。それに加えてまたは代替的に、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、第1の溶液中および/または透過液中の賦形剤の濃度であってもよい。モデル化されたプロセス変数は、時間の関数としての溶質の濃度であってもよく、すなわち、濃度の将来の展開も抽出可能であり得る。
【0043】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、測定可能なプロセス変数、たとえば、測定ユニットの助けを借りて濾過プロセスにおいて測定可能なプロセス変数である。特に、測定可能なプロセス変数は、濾過プロセスにおいてインラインおよび/またはリアルタイムで測定され得るプロセス変数であってもよい。
【0044】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、第1の溶液および/または濾過プロセスの透過液のpH値である。それに加えてまたは代替的に、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、第1の溶液および/または透過液の電気伝導度であってもよい。さらなる可能性は、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数が、放射線、たとえばUV放射線、可視光線、またはIR放射線に対する第1の溶液および/または透過液の吸収であることである。
【0045】
濾過プロセスモデルは、特に、本明細書において言及されているモデル化されたプロセス変数のいくつかまたはすべてをモデル化し得る。
【0046】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、第2の測定データが受信されるステップをさらに含む。第2の測定データは、少なくとも1つの参照プロセス変数を示し得る。少なくとも1つの参照プロセス変数は、測定ユニットの助けを借りて、たとえばインラインおよび/またはリアルタイムで、濾過プロセスにおいて測定可能なまたは測定される濾過プロセスのプロセス変数であってよい。たとえば、少なくとも1つの参照プロセス変数は、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数と同じプロセス変数を表す。少なくとも1つの参照プロセス変数は、濾過プロセスにおいて1回だけ測定され得るか、または濾過プロセスにおいて繰り返しまたは連続的に測定され得る。
【0047】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つの参照プロセス変数が少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数と比較されるステップを含む。
【0048】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数を少なくとも1つの参照プロセス変数に適合させるために濾過プロセスモデルの、たとえば少なくとも1つの物理方程式の、少なくとも1つのパラメータが比較に基づき調整されるステップを含む。たとえば、少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数が、少なくとも1つの参照プロセス変数からある閾値を超えて逸脱するときに、少なくとも1つの物理方程式の少なくとも1つのパラメータが適合される。
【0049】
たとえば、少なくとも1つの参照プロセス変数および少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数は、濾過プロセスの第1の溶液および/または透過液のpH値および/または電気伝導度および/または吸収を表す。比較に基づき調整されるモデルの少なくとも1つのパラメータは、モデルの上述の少なくとも1つのさらなるパラメータ、たとえば、濾過プロセスの開始時の第1の溶液の組成および/または第2の溶液の組成および/または溶質の電荷および/または表面電荷密度であってもよい。
【0050】
比較に基づき濾過プロセスモデルの少なくとも1つのパラメータを調整することに加えて、またはそれに対して代替的に、上で説明されているように、この比較に基づき濾過プロセスも調整され得る。
【0051】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、出力データに基づき制御信号が生成されるステップを含む。たとえば、制御信号は、上で説明されているように出力データの自動分析に基づき自動的に生成される。
【0052】
少なくとも1つの実施形態によれば、制御信号は、濾過プロセスの少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータを制御するように、および/または少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータの制御を呼び出すように、構成される。たとえば、アクチュエータは、たとえば制御信号によって制御され得る。それに加えてまたは代替的に、制御信号は、たとえばコンピュータ画面を介して、または可聴表示によって、ユーザが少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータまたはアクチュエータをそれぞれ手動で制御するべきであることをユーザに通知し得る。制御可能なプロセスパラメータは、透過液および/または第1の溶液に添加される第2の溶液の(体積)流量であってもよい。それに加えてまたは代替的に、制御可能なプロセスパラメータは、濾過プロセスの1つまたは複数のステップの持続時間であってもよい。
【0053】
少なくとも1つの実施形態によれば、濾過プロセスは、限外濾過プロセスおよび/または透析濾過プロセスである。限外濾過工程/プロセスでは、第2の溶液は第1の溶液に混合されない。第1の溶液から透過液を除去することによって、第1の溶液の体積は減少し、少なくとも1つの産物は、第1の溶液中でその初期濃度から所望の中間濃度または最終濃度まで濃縮される。透析濾過プロセスでは、第2の溶液は、第1の溶液に混合される。通常、第1の溶液に混合される第2の溶液の流量および第1の溶液から除去される透過液の流量は、第1の溶液の体積およびこれとともに第1の溶液中の少なくとも1つの産物の濃度が一定に保たれるように、等しくなるように選択される。しかしながら、第1の溶液中の他の賦形剤の濃度は変化してもよい。
【0054】
限外濾過および透析濾過(UFDF)プロセスでは、少なくとも1つの産物をその初期濃度から所望の中間濃度まで濃縮するために第1の限外濾過工程が実行され得る。その後、透析濾過工程が実行され、ここでは、少なくとも1つの産物の濃度は一定のままであり得るが、第1の溶液中の他の溶質または賦形剤の濃度は変化し得る。次いで、第2の限外濾過工程において、少なくとも1つの産物は、その最終濃度まで第1の溶液中で濃縮される。
【0055】
少なくとも1つの実施形態によれば、濾過プロセスは、第1の溶液中の少なくとも1つの溶質の濃度を増大させおよび/または減少させるように構成される。たとえば、濾過プロセスは、第1の溶液中の少なくとも1つの産物の濃度を増大させるように構成される。
【0056】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1の溶液の少なくとも1つの溶質、たとえば少なくとも1つの産物は、生体分子である。生体分子は、タンパク質、ペプチド、核酸、ウイルス、ウイルス断片のうちの1つまたは複数であってもよい。
【0057】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1の溶液および/または第2の溶液の少なくとも1つのさらなる溶質、たとえば賦形剤は、アミノ酸、緩衝液成分、炭水化物、塩イオンのうちの1つまたは複数であってよい。特に、第2の溶液は、第1の溶液に混合されたときに第1の溶液のpH値を調整するために、緩衝液成分を含み得る。
【0058】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの入力プロセス変数は、第1の溶液のpH値(たとえば濾過プロセスの開始時の)、濾過プロセスにおいて第1の溶液に混合される第2の溶液のpH値(第2の溶液のpH値は、濾過プロセスにおいて変化し得ない)、第1の溶液および/または第2の溶液の電気伝導度、第1の溶液および/または第2の溶液の吸収および/または吸光度、第1の溶液および/または第2の溶液の温度、第1の溶液に混合しているときの第1の溶液および/または第2の溶液の流量、第2の溶液が現在第1の溶液に混合されているかどうかの情報、のうちの1つまたは複数である。
【0059】
第1の溶液および/または第2の溶液の吸収または吸光度は、UV放射線および/または可視光線および/またはIR放射線に対する吸収/吸光度であってもよい。
【0060】
少なくとも1つの実施形態によれば、この方法は、コンピュータ実装方法である。特に、この方法のいくつかまたはすべてのステップは、コンピュータによって、またはコンピュータのプロセッサによって実行される。
【0061】
次に、デバイス、コンピュータプログラム、およびコンピュータ可読データキャリアが指定される。
【0062】
少なくとも1つの実施形態によれば、デバイスは、本明細書において指定されているような濾過プロセスを監視するための方法を実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサを備える。
【0063】
少なくとも1つの実施形態によれば、コンピュータプログラムは、プログラムがコンピュータによって実行されたときに、本明細書において指定されているような濾過プロセスを監視するための方法をコンピュータに実行させる命令を含む。
【0064】
少なくとも1つの実施形態によれば、コンピュータ可読データキャリアは、コンピュータによって実行されたときに、本明細書において指定されているような濾過プロセスを監視するための方法をコンピュータに実行させる命令を含む。
【0065】
次に、濾過プロセス用のフィルタシステムが指定される。フィルタシステムは、濾過プロセスおよび本明細書において指定されているような濾過プロセスを監視するための方法に使用され得る。したがって、濾過プロセスを監視するための方法および本明細書において開示されている濾過プロセスに関連して開示されるすべての特徴は、フィルタシステムについても開示され、その逆もまた同様である。
【0066】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタシステムは、本明細書において指定されるデバイスを備える。
【0067】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタシステムは、濾過プロセスのプロセス変数を測定するための少なくとも1つの測定ユニットを備える。測定ユニットは、たとえば溶液の電気伝導度を測定することによって、および/もしくは溶液中の電位差を測定することによってpH値を測定するように、ならびに/または溶液の温度を測定するように、および/もしくは溶液の電気伝導度を測定するように、および/もしくは溶液の吸収/吸光度を測定するように、構成され得る。特に、少なくとも1つの測定ユニットは、本明細書において指定されている少なくとも1つの入力プロセス変数および/または少なくとも1つの参照プロセス変数を測定するように構成される。フィルタシステムは、上述のプロセス変数のいくつかまたはすべてに対する測定ユニットを含み得る。
【0068】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタシステムは、第1の溶液を貯蔵するための第1の溶液リザーバを備える。
【0069】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つのフィルタシステムは、フィルタモジュールを備える。フィルタモジュールは、第1の溶液リザーバに流体的に結合された入口を備え得る。たとえば、第1の溶液リザーバは、第1の接続部を介してフィルタモジュールの入口に接続される。フィルタモジュールは、濾過プロセスの透過液を除去するための出口を備え得る。フィルタモジュールは、保持液がフィルタモジュールを出る際に通るさらなる出口を備え得る。第2の出口は、第2の接続部を介して第1の溶液リザーバに流体的に接続されてよく、これにより保持液が再び第1の溶液リザーバ内に誘導され得る。
【0070】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタシステムは、第2の溶液を貯蔵するための第2の溶液リザーバを備える。
【0071】
少なくとも1つの実施形態によれば、第2の溶液リザーバは、たとえば第3の接続部によって、第1の溶液リザーバに流体的に結合される。第2の溶液リザーバは、第1の溶液リザーバに直接的に流体的に、またはたとえば第1もしくは第2の接続部を介して間接的に結合され得る。
【0072】
少なくとも1つの実施形態によれば、第1および/または第2および/または第3の接続部は、それぞれの接続部を通る(体積)流量を制御するためのバルブおよび/またはポンプを備え得る。バルブおよび/またはポンプは、フィルタモジュールから除去される透過液の流量を制御するためにフィルタモジュールの出口にも割り当てられてもよい。
【0073】
フィルタシステムの1つまたは複数の測定ユニットは、第1および/または第2および/または第3の接続部および/またはフィルタモジュールの出口に割り当てられ得る。
【0074】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの測定ユニットは、第1の溶液のプロセス変数を測定するように配置構成される。たとえば、少なくとも1つの測定ユニットは、第1の溶液リザーバに割り当てられるか、もしくは中に配置され、および/または第1の接続部に割り当てられるか、もしくは中に配置される。少なくとも1つの入力プロセス変数は、この測定ユニットで測定可能であるものとしてよい。
【0075】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの測定ユニットは、第2の溶液のプロセス変数を測定するように配置構成される。たとえば、この少なくとも1つの測定ユニットは、第2の溶液リザーバおよび/または第2の溶液リザーバと第1の溶液リザーバとの間の第3の接続部に割り当てられるか、または中に配置される。少なくとも1つの入力プロセス変数は、この測定ユニットで測定可能であるものとしてよい。
【0076】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの測定ユニットは、濾過プロセスの透過液のプロセス変数を測定するように配置構成される。この少なくとも1つの測定ユニットは、フィルタモジュールの出口に割り当てられ得る。少なくとも1つの参照プロセス変数は、この測定ユニットで測定可能であるものとしてよい。
【0077】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの測定ユニットは、たとえば、保持液のプロセス変数を測定するために、フィルタモジュールと第1の溶液リザーバとの間の第2の接続部に割り当てられるか、または中に配置される。
【0078】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタシステムは、濾過プロセスの少なくとも1つの制御可能なプロセスパラメータを制御するための少なくとも1つのアクチュエータを備える。たとえば、アクチュエータは、流量を制御するためにフィルタシステム内のポンプおよび/またはバルブを制御し得る。
【0079】
少なくとも1つの実施形態によれば、フィルタモジュールは、交差流濾過モジュールおよび/またはデッドエンド濾過部を備える。フィルタモジュールは、少なくとも1つの中空繊維膜および/または少なくとも1つの平板膜を備え得る。
【0080】
以下、本明細書において説明されている濾過プロセスを監視するための方法、デバイス、およびフィルタシステムが、例示的な実施形態に基づき、図面を参照しつつ、より詳細に説明される。同じ参照記号は、個別の図内で同じ要素を示す。しかしながら、関わるサイズ比は、必ずしも縮尺通りではなく、個別の要素は、理解しやすいように、むしろ誇張されたサイズで例示され得る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】フィルタシステムの例示的な実施形態を示す図である。
【
図2】濾過プロセスを監視するための方法の例示的な実施形態の結果を示す図である。
【
図3】濾過プロセスを監視するための方法の例示的な実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図4】濾過プロセスを監視するための方法の例示的な実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図5】濾過プロセスを監視するための方法の例示的な実施形態のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、濾過プロセスのためのフィルタシステム100の例示的な実施形態を示している。フィルタシステム100は、第1の溶液を貯蔵するための第1の溶液リザーバ1と、フィルタモジュール2と、第2の溶液リザーバ3とを備える。第1の溶液リザーバ1は、第1の接続部17を介してフィルタモジュール2の入口に流体的に接続される。いくつかの測定ユニット11、12、13、14が第1の接続部17に割り当てられている。測定ユニット11は、第1の接続部17を通って流れる第1の溶液のpH値を測定するためのpHセンサであってもよい。測定ユニット12は、第1の接続部17を通って流れる第1の溶液の電気伝導度を測定するための伝導度センサであってよい。測定ユニット13は、第1の接続部17を通って流れる第1の溶液による放射線、たとえばUV放射線または可視光線またはIR放射線の吸収/吸光度を測定するための吸収/吸光度センサであってもよい。測定ユニット14は、第1の接続部17内の第1の溶液の圧力を測定するための圧力センサであってもよい。ポンプ16は、第1の接続部17に割り当てられ、第1の溶液リザーバ1からフィルタモジュール2へポンプで送られる第1の溶液の流量を制御し得る。それに加えて、第1の接続部17を通って流れる第1の溶液の流量を測定するための流量計の形態の測定ユニットがあってもよい。
【0083】
フィルタモジュール2は、半透膜を備え得る。半透膜は、第1の溶液の溶媒および第1の溶液中のいくつかの溶質、たとえば賦形剤を通過させるが、第1の溶液中の溶解された産物を保持するように構成され得る。フィルタモジュール2は、半透膜を通過する透過液を除去するための出口を備える。測定ユニット21、22、23、24は、それぞれ、この出口またはこの出口からの接続部に割り当てられる。測定ユニット21は、透過液のpH値を測定するためのpHセンサであってよく、測定ユニット22は、透過液の圧力を測定するように構成されていてよく、測定ユニット23は、透過液の電気伝導度を測定するための伝導度センサであってよく、測定ユニット24は、透過液の流量を測定するための流量計であってよい。透過液を除去するためにポンプ26がフィルタモジュール2の出口に割り当てられている。
【0084】
フィルタモジュール2は、保持液がフィルタモジュールを出る際に通るさらなる出口を備える。さらなる出口は、第2の接続部18を介して第1の溶液リザーバ1に流体的に接続され、この接続部を通して保持液が第1の溶液リザーバ1内に誘導される。圧力センサおよび/または流量計の形態の測定ユニット15が、第2の接続部18に割り当てられる。さらに、バルブ19が、第2の接続部18に割り当てられている。
【0085】
第2の溶液を貯蔵するための第2の溶液リザーバ3は、第3の接続部37を介して第1の溶液リザーバ1に流体的に接続される。第2の溶液は、第3の接続部37を通って第1の溶液リザーバ1に誘導される。たとえばpHセンサまたは電気伝導度センサまたは吸収センサまたは圧力センサまたは流量計の形態の測定ユニット31が、第3の接続部37に割り当てられ得る。第2の溶液の特性を測定するために、言及されているセンサを2つまたはそれ以上使用することも可能である。さらに、ポンプ36は、第2の溶液リザーバ3から第1の溶液リザーバ1へ第2の溶液をポンプで送るために第3の接続部37に割り当てられる。
【0086】
図1を見るとわかるように、それぞれ、異なる測定単位で測定された、測定信号または測定データは、デバイス10によって受信される。デバイス10は、本明細書において説明されているような濾過プロセスを監視する方法を実行するための少なくとも1つのプロセッサを備え得る。
【0087】
図1に示されているフィルタシステム100は、限外濾過および透析濾過(UFDF)プロセスを実行するためのフィルタシステムであってもよい。濾過プロセスの開始時に、初期の第1の溶液が第1の溶液リザーバ1に貯蔵され、第2の溶液が第2の溶液リザーバ3に貯蔵される。初期の第1の溶液は、溶解された産物を含み得る。産物は、タンパク質、ペプチド、核酸、またはウイルスのような、生体分子であってもよい。産物の他に、初期の第1の溶液は、アミノ酸、炭水化物、および/または塩イオンのような、さらなる溶質を含み得る。第2の溶液は、緩衝液成分の形態で溶質を含み得る。
【0088】
第1の限外濾過工程では、第2の溶液が第1の溶液リザーバ1内にポンプで送られることはない。初期の第1の溶液は、第1の溶液リザーバ1からフィルタモジュール2にポンプで送られる。フィルタモジュール2の半透膜は、溶質のいくつかを通すが、産物を通さない。通された溶質を含む透過液は、ポンプ26の助けを借りて汲み上げられ得る。半透膜を通過しなかった第1の溶液の残り(保持液)は産物を含み、第1の溶液リザーバ1へと誘導される。保持液は、初期の第1の溶液を徐々に置き換え、それにより第1の溶液の組成は変化する。この限外濾過工程において、第1の溶液中の産物の濃度は増大する。
【0089】
その後、緩衝液成分を含む第2の溶液がポンプ36の助けを借りて第1の溶液リザーバ1に送り込まれ、第1の溶液に混合される透析濾過工程が実施され得る。それと同時に、第1の溶液は、第1の溶液リザーバ1からフィルタモジュール2を通してポンプで送られる。たとえば、第1の溶液リザーバ1にポンプで送り込まれる第2の溶液の流量は、ポンプ26の助けを借りてフィルタモジュール2から送り出される透過液の流量と同じである。したがって、産物を含む第1の溶液の体積は一定のままである。さらに、流量が等しいときに、第1の溶液中の産物の濃度も一定のままである。しかしながら、産物を含む第1の溶液の組成は、溶質を含む透過液の除去および緩衝液成分を含む第2の溶液の添加に起因して、変化する。
【0090】
透析濾過工程の後、第2の限外濾過工程が実行されるものとしてよく、この濾過工程で再び第2の溶液がポンプで第1の溶液リザーバ1に送り込まれることはなく、透過液のみが除去される。この濾過工程では、産物は、第1の溶液中で最終濃度まで濃縮され得る。
【0091】
デバイス10は、濾過プロセスを監視するための方法を実行するように構成され得る。方法の例示的な実施形態は次の通りである。一ステップにおいて、第1の測定データがデバイス10によって受信される。第1の測定データは、少なくとも1つの入力プロセス変数、たとえば第2の溶液のpH値および濾過プロセスの開始時の第1の溶液のpH値、すなわち初期の第1の溶液のpH値を示す。この方法のさらなるステップにおいて、出力データは、第1の測定データを使用して濾過プロセスモデル4を実行することによって決定される。濾過プロセスモデル4の実行は、第1の溶液の溶質の間の相互作用を記述する物理方程式を解くことを含み、プロセス濾過モデル、たとえば物理方程式の少なくとも1つのパラメータは、第1の測定データから抽出可能な少なくとも1つの入力プロセス変数に依存する。出力データは、濾過プロセスの少なくとも1つのモデル化されたプロセス変数、たとえば、時間の関数としての第1の溶液中の産物の濃度および/または透過液のpH値を示す。
【0092】
濾過プロセスモデル4の例示的な実施形態は次の通りであり得る。
【0093】
1.マスバランス
濾過プロセスモデル4は、フィルタシステム100の大域的マスバランス方程式を解くことによって、保持液/第1の溶液中の溶質の濃度を予測するものとしてよい。マスバランス方程式は、第2の溶液および第1の溶液における測定値に基づき解かれる。マスバランス方程式は、産物と他の溶質、たとえば賦形剤との間の相互作用を考慮したものである。
【0094】
フィルタモジュール2を出入りする溶液の流れは、濃度ciの緩衝物質、炭水化物、およびアミノ酸のような小さな溶質を含むと考えられる。他方で、産物、たとえばタンパク質は、半透膜を通過することができず、したがって、保持液中に完全に保持される。したがって、保持液中の産物濃度cMは、マスバランス
【0095】
【0096】
によって定義され、ここで、tはプロセス時間を表し、VRetはシステム内の総保持液量であり、QDFは第1の溶液に加えられる第2の溶液の流量であり、QPermは透過液の流量である。本明細書において、インデックス「Ret」は保持液/第1の溶液に使用され、インデックス「DF」は第2の溶液に使用され、インデックス「Perm」は透過液に使用される。流量QDFおよびQPermは、たとえば流量計を使用して、測定され得る。VRetの時間変化は、バランス
【0097】
【0098】
によって定義される。
【0099】
限外濾過では、第2の溶液が第1の溶液に加えられることはなく(QDF=0)、産物は濃縮される。透析濾過では、第2の溶液の体積流量は透過液の体積流量に等しく(QDF=QPerm)、VRetは一定であると仮定される。
【0100】
第1の溶液中の緩衝液成分およびアミノ酸のような、小さな溶質、特に賦形剤は、フィルタモジュール2によって保持されず、式
【0101】
【0102】
によって記述されるようにフィルタモジュール2の出口を介してフィルタシステム100を出ることができる。
【0103】
上記の常微分方程式を解くと、産物濃度cM(t)、第1の溶液量VRet(t)、および賦形剤濃度cRet,i(t)は、プロセス時間の関数として記述され得る。透過液の中の賦形剤の濃度
cPerm,i=f(t,cM,cRet,pHRet) (4)
は、それによって、保持液中の現在の濃度cRet、産物濃度cM、および保持液中のpH値pHretの関数である。第2の溶液の中の賦形剤の濃度
cDF,i=f(pHDF) (5)
は、第2の溶液中の測定されたpH値(pHDF)の関数であり得る。
【0104】
2.溶液の組成
濾過プロセスモデル4は、第2の溶液のpH値、平衡方程式、および第2の溶液リザーバ3内の電気的中性の条件を使用して、ポンプ36を介して第1の溶液に混合される第2の溶液の組成を決定し得る。同様に、第1の溶液の組成も決定することができる。したがって、次の式は、第1の溶液にも適用可能である。
【0105】
第2の溶液(さらには第1の溶液および透過液)は、様々な溶質、特に緩衝液成分、アミノ酸、および塩などの、賦形剤を含み得る。pH値に応じて、これらの賦形剤のいくつかは、異なるプロトン化状態、したがってイオン化形態で存在し得る。したがって、第2の溶液の正確なイオン組成はpH値に依存する。たとえば、知られている総濃度ciを有する緩衝液成分iを含む第2の溶液を考える。この緩衝液成分はn個の解離部位を有する。この場合、緩衝液成分iそれ自体は、n+1個のイオン化状態で存在することができる。したがって、緩衝液成分iの総濃度は
【0106】
【0107】
に等しく、ここで、ci,jは、pH値の関数である。第1のイオン化状態j=1はHnAmによって示される完全プロトン化状態を表し、mは完全プロトン化状態の電荷を表す。緩衝物質の一般的な解離反応
【0108】
【0109】
およびその平衡定数
【0110】
【0111】
を考えると、イオン化状態の濃度は、
【0112】
【0113】
および
【0114】
【0115】
に従って、測定済みpH値によって定義される。
【0116】
第2の溶液中では、すべてのイオン化形態の電荷は対イオンによって平衡する。上記のマスバランス方程式に入るこれらの対イオンの濃度は知られていないが、第2の溶液リザーバ3における電気的中性の条件から導出され得る。第jのイオン化状態の電荷がzi,jによって表される場合、対イオンの濃度cCは、電気的中性条件から結果として
【0117】
【0118】
となる。
【0119】
3.産物と賦形剤との相互作用
濾過プロセスモデル4は、ポアソン‐ボルツマン方程式を使用して、第1の溶液中の産物とより小さな溶質(賦形剤)との間の相互作用を記述し得る。
【0120】
保持液/第1の溶液および透過液が熱力学的平衡(ドナン平衡)にあると仮定する場合、上記のマスバランスにおける関係cPerm,i=f(t,cM,cRet,pHRet)は、ボルツマン関係式
【0121】
【0122】
によって与えられ、ここで、
【0123】
【0124】
は第1の溶液中の平均静電ポテンシャルであり、kbはボルツマン定数を表し、Tは絶対温度であり、NAはアボガドロ数であり、
【0125】
【0126】
は知られている半径aMを有する産物によって占有される第1の溶液の体積分率を記述するものである。指数関数の中の積
【0127】
【0128】
は、賦形剤と産物との間の相互作用に対する尺度である。この項が正の場合、賦形剤は、産物の反発を受ける。この項が負の場合、賦形剤は、産物によって引き付けられ、保持液内に保持される。平均静電ポテンシャル
【0129】
【0130】
は、産物と他の溶質との相互作用に起因する膜全体にわたる不等溶質濃度分布を記述するドナンポテンシャルとして解釈することができる。これは、透過液側の電気的中性条件
【0131】
【0132】
、および保持液側のポアソン‐ボルツマン方程式
【0133】
【0134】
を満たさなければならない。
【0135】
ポアソン‐ボルツマン方程式は、細胞モデルを使用して解かれ得る。細胞モデル内では、第1の溶液は、その中心のところに1つの産物分子を含む単一のウィグナーザイツ(WS)胞に還元される。WS胞は球形であってもよい。この場合、WS胞RWSの半径は、
【0136】
【0137】
に従って産物濃度によって定義される。
【0138】
細胞モデルを使用することで、ポアソン‐ボルツマン方程式は、産物分子の表面における境界条件
【0139】
【0140】
およびRWSにおける条件
【0141】
【0142】
を使用して数値解法により解くことができ、ここでzMは産物分子の正味荷電である。ポアソン‐ボルツマン方程式を解くと、マスバランス方程式に対して
【0143】
【0144】
、したがってcPerm,i=f(t,cM,cRet,pHRet)が得られる。
【0145】
産物の電荷
濾過プロセスモデル4は、産物がタンパク質であるときに知られている一次配列に基づき上記のポアソン‐ボルツマン方程式において使用される産物の電荷zM(pHret)を計算する。
【0146】
タンパク質の正味電荷zMは、タンパク質の知られている一次配列から理論的に導出され得る。タンパク質は、構成単位としてのアミノ酸に基づく生体高分子である。アミノ酸がポリペプチド鎖に配置構成される順序は、タンパク質の一次配列を定義する。正味電荷は、一次配列中のイオン性アミノ酸の数およびそのpKa値に依存する。プロトン化形式
【0147】
【0148】
の電荷ζjを有するイオン性アミノ酸側鎖jを考えると、解離反応
【0149】
【0150】
は、アミノ酸の平衡定数
【0151】
【0152】
によって定義され、ここで、角括弧はモル濃度を表す。イオン性アミノ酸は、たとえば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸を含み得る。この場合、zMは式
【0153】
【0154】
によって定義され、ここで、Njは一次配列中の第jのイオン性側鎖の数を表し、pH0は、
【0155】
【0156】
によって定義されるタンパク質の表面のpH値である。
【0157】
図2は、この濾過プロセスモデル4を使用することによって取得される出力データから抽出されたモデル化されたプロセス変数を示す。濾過プロセスモデル4は、第1の溶液の産物としてのタンパク質グルコースオキシダーゼの限外濾過および透析濾過(UFDF)プロセスを記述するために適用された。産物であるグルコースオキシダーゼの電荷は、次の表を使用して計算された。
【0158】
【0159】
UFDFプロセスの開始時に、タンパク質は、50mMの塩化ナトリウムを含む50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)中に溶解された。初期の第1の溶液中の初期タンパク質濃度は、5g/Lであった。第1の限外濾過工程(UF1)において、タンパク質は、50g/Lの中間濃度まで濃縮された。その後、タンパク質は、20mMのコハク酸塩を第2の溶液(pH7.0)として使用して10ダイア容量(DV)にわたって透析濾過された。第2の限外濾過工程(UF2)では、第1の溶液は、180g/Lの最終的なタンパク質濃度まで濃縮された。
【0160】
常微分方程式(ODE)式(1)~式(3)は、ODEソルバーode15sを使用し、MATLAB(登録商標)(The Mathworks、米国マサチューセッツ州ナティック所在)により解かれた。時間ステップ毎に、pHretおよび
【0161】
【0162】
は、
【0163】
【0164】
が透過液中の電気的中性条件[式(13)]および第1の溶液におけるポアソン‐ボルツマン方程式[式(14)]の両方に従うように反復的に決定された。まず、pHretが推測され、緩衝液平衡の式(9)~式(10)に従って保持液/第1の溶液中のマイクロイオンの濃度cRet,i,jを決定するために使用された。cRet,i,jを知り、
【0165】
【0166】
が、透過液側の電気的中性条件を満たすように決定された[式(13)]。その後、WS胞内でのポアソン‐ボルツマン方程式が、グルコースオキシダーゼのzMについて式(18)を使用して解かれた。たとえば、挟みうち法を使用することで、未知のpHretは、
【0167】
【0168】
が電気的中性条件[式(13)]およびWS胞内におけるポアソン‐ボルツマン方程式の両方を満たすまで変化させられ得る。代替的に、第1の溶液中のpHretは、pHretを示す測定データから導出され得る。
【0169】
この例示的な実施形態の濾過プロセスモデル4は、透過液および保持液のpH値および異なる溶質の濃度であるモデル化されたプロセス変数を示す出力データを決定する。
【0170】
図2の上側写真は、透過液(破線)と保持液(実線)のpH値を、保持液または第1の溶液中の産物濃度の関数として示している。産物濃度は濾過プロセスにおいて時間とともに増大するので、X軸は時間軸も表している。濾過プロセスの異なる工程UF1、DF、UF2も示されている。
【0171】
図2の第2の写真では、透過液(破線)および保持液(実線)中の賦形剤、すなわち酢酸塩の濃度を、保持液中の産物濃度の関数として示している。
【0172】
図2の第3の写真では、透過液(破線)および保持液(実線)中の賦形剤、すなわちコハク酸塩の濃度を、保持液中の産物濃度の関数として示している。
【0173】
図2の第4の写真では、透過液(破線)および保持液(実線)中の賦形剤、すなわち塩化物の濃度を、第1の保持液中の産物濃度の関数として示している。
【0174】
図3は、濾過プロセスを監視するための方法の例示的な実施形態のフローチャートを示している。濾過プロセスは、たとえば、
図1のフィルタシステム100を用いて行われる。2つの測定ユニット11、31の助けを借りて測定された2つの入力プロセス変数V1_M、V2_Mを示す第1の測定データが受信され、濾過プロセスモデル4の入力として使用される。入力プロセス変数は、たとえば、濾過プロセスの開始時における第2の溶液のpH値V2_Mおよび第1の溶液のpH値V1_Mであってもよい。しかしながら、第1の溶液および第2の溶液の電気伝導度および/または吸収のような、追加のまたは他の入力プロセス変数が使用され得る。濾過プロセスモデル4は、たとえば、前に説明されているようなモデルである。この濾過プロセスモデル4のパラメータは、入力プロセス変数V1_M、V2_Mに依存する。
【0175】
濾過プロセスモデル4の助けを借りて、モデル化されたプロセス変数V3_P、V4_Pを示す出力データが生成される。モデル化されたプロセス変数V3_Pは、たとえば、時間の関数としての第1の溶液中の産物および/または賦形剤の濃度であってよい。モデル化されたプロセス変数V4_Pは、たとえば、保持液および/または透過液のpH値であってもよい(
図2の第1の写真も参照)。それに加えてまたは代替的に、モデル化されたプロセス変数V4_Pは、透過液および/または保持液の吸収および/または電気伝導度であり得る。モデル化されたプロセス変数は、たとえば、画面上に表示され得る。ユーザは、次いで、モデル化されたプロセスパラメータV3_P、V4_Pを調べるものとしてよい。
【0176】
図4は、濾過プロセスを監視するための方法のさらなる例示的な実施形態のフローチャートを示している。この方法は、
図3に関連して説明されているものに類似している。しかしながら、
図4において、測定ユニット21で測定された参照プロセス変数V4_Rを示す第2の測定データがそれに加えて受信される。参照プロセス変数V4_Rは、たとえば、濾過プロセスにおける特定の時間の透過液のpH値であってもよい。この方法のさらなるステップにおいて、その特定の時間におけるモデル化されたプロセス変数V4_Pは、参照プロセス変数V4_Pと比較され得る。この比較に基づき、濾過プロセスモデル4は適合され得る。たとえば、濾過プロセスモデルのパラメータ、たとえば、濾過プロセスの開始時における第1の溶液および/または第2の溶液の組成に関する仮定は、この比較に基づき適合される。このようにして、モデル化されたプロセス変数V4_Pは、参照プロセス変数V4_Rに適合され得る。このようにして、濾過プロセスモデル4は、実際の測定された参照プロセス変数をより適切に記述するために濾過プロセスにおいて最適化され得る。
【0177】
図5は、濾過プロセスを監視するための方法のなおも別の例示的な実施形態を示している。この例示的な実施形態は、
図4のものに類似している。しかしながら、
図5の場合、モデル4の出力データに基づき、特に、モデル化されたプロセス変数V3_Pに基づき、制御信号が生成される。たとえば、モデル化されたプロセス変数V3_Pは、時間の関数として、第1の溶液および/または透過液中の産物または別の溶質の濃度を表す。モデル化されたプロセス変数V3_Pは、濾過プロセスの間または終了時に、産物または溶質の所望の濃度と比較され得る。この比較は、たとえばデバイス10によって自動的に行われ得る。モデル化されたプロセス変数V3_Pと所望の値との間の偏差が特定の閾値を超えた場合、濾過プロセスを調整するために、または濾過プロセスの調整を要求するために、制御信号が生成され得る。制御信号の生成は、デバイス10によっても行われ得る。たとえば、制御信号は、フィルタシステム100の制御可能なプロセスパラメータおよび/またはアクチュエータを制御するために使用されてもよい。たとえば、制御可能なプロセスパラメータは、異なる濾過工程UF1、DF、UF2の時間、および/または、透過液がフィルタモジュール2から除去される流量、および/または第2の溶液が透析濾過工程DFにおいて第1の溶液に混合される流量であってもよい。これは、ポンプ26および36ならびに/またはバルブ19の少なくとも1つを制御することによって行われ得る。また、ポンプの制御は自動的に行われてもよい。
【0178】
本明細書において説明されている本発明は、例示的な実施形態と併せた説明によって限定されない。むしろ、本発明は、任意の新しい特徴、さらには特徴の任意の組合せ、特に特許請求項における特徴の任意の組合せを、前記特徴または前記組合せ自体が特許請求項または例示的な実施形態において明示的に述べられていなくても、含む。
【符号の説明】
【0179】
1 第1の溶液リザーバ
2 フィルタモジュール
3 第2の溶液リザーバ
4 濾過プロセスモデル
10 デバイス
11~15 測定ユニット
16 ポンプ/アクチュエータ
17 第1の接続部
18 第2の接続部
21~24 測定ユニット
26 ポンプ
31 測定ユニット
36 ポンプ
37 第3の接続部
100 フィルタシステム
V1_M、V2_M 入力プロセス変数
V3_P、V4_P モデル化されたプロセス変数
V4_R 参照プロセス変数
UF1 第1の限外濾過工程
UF2 第2の限外濾過工程
DF 透析濾過工程
【国際調査報告】