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特表2024-518992高分子膜に基づく固体状態の参照電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】高分子膜に基づく固体状態の参照電極
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240426BHJP
   G01N 27/32 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/30 311A
G01N27/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570279
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 US2021033120
(87)【国際公開番号】W WO2022245347
(87)【国際公開日】2022-11-24
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501464761
【氏名又は名称】ノヴァ バイオメディカル コーポレイション
【住所又は居所原語表記】200 Prospect Street Waltham MA 02454(US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】クーリー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】グエン ジェウ-ツー
(72)【発明者】
【氏名】モスリー サマンサ
(72)【発明者】
【氏名】ペイ ジァンホン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン チュン チャン
(57)【要約】
全血、血清、血漿および/または他の生物学的流体中で用いられる固体状態の参照電極(10)は、絶縁支持基板(12)と、絶縁支持基板(12)上に配置された導電性材料(14)であって、導電性材料の第1部分は電極部(14a)であり、導電性材料の第2部分は電気接触部(14b)である、導電性材料(14)と、ウェル(16b)を形成する開口部を有する電極形成絶縁層(16)と、前記導電性材料が金属-金属塩ではない場合に、電極部(14a)にわたってウェル(16b)中に配置される金属-金属塩層(18)であって、金属-金属塩層(18)は銀-塩化銀または水銀-塩化水銀から選択される、金属-金属塩層(18)と、前記固体状態の参照電極(11)を形成する金属-金属塩層(18)に配置されるハイドロゲル高分子膜(20)であって、ハイドロゲル高分子膜(20)は、(i)塩化物の無機塩または塩化物の有機塩からの塩化物塩と、(ii)アニオン種の塩からの支持電解質と、を含む高分子ハイドロゲルネットワークである、ハイドロゲル高分子膜(20)と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血、血清、血漿、他の生物学的流体および/または水溶液中で用いられる固体状態の参照電極(11)であって、
絶縁支持基板(12)と、
前記絶縁支持基板(12)上に配置された導電性材料(14)であって、前記導電性材料の第1部分は電極部(14a)であり、前記導電性材料の第2部分は電気接触部(14b)であり、前記導電性材料(14)は、導電性貴金属、導電性インク、或いは金属-金属塩であって銀-塩化銀および水銀-塩化水銀からなる群から選択される金属-金属塩、のうちの1つを備える、前記導電性材料(14)と、
開口部を有する電極形成絶縁層(16)であって、前記電極形成絶縁層(16)は、前記絶縁基体層(12)上に配置され、前記開口部が所定の寸法を有し、前記導電性材料の前記電極部(14a)を露出させるウェル(16b)を形成する、電極形成絶縁層(16)と、
金属-金属塩層(18)であって、前記導電性材料(14)が前記金属-金属塩ではない場合に、前記導電性材料(14)の前記電極部(14a)にわたって、前記ウェル(16b)の中に配置される、金属-金属塩層(18)と、
ハイドロゲル高分子膜(20)であって、(a)前記導電性材料(14)が前記金属-金属塩ではない場合に、前記固体状態の参照電極(11)を形成する前記金属-金属塩層(18)上に配置され、または(b)前記導電性材料(14)が前記金属-金属塩である場合に、前記導電性材料(14)上に直接配置され、前記ハイドロゲル高分子膜(20)は、(i)塩化物の無機塩または塩化物の有機塩からの塩化物塩と、(ii)アニオン種の塩からの支持電解質と、を含む高分子ハイドロゲルネットワークである、ハイドロゲル高分子膜(20)と、
を備える、固体状態の参照電極(11)。
【請求項2】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ハイドロゲル高分子膜上に配置される第2高分子膜(22)をさらに備え、前記第2高分子膜は、親水性ケイ素化合物、または、親油性ポリマから選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項3】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記導電性貴金属は、金、白金、パラジウム、銅、インジウムおよび酸化スズからなる群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項4】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ハイドロゲル高分子膜の前記塩化物塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化コリン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジウムクロリド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムクロリドおよび1,3-ジメチルイミダゾリウムクロリドからなる群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項5】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記支持電解質は、リチウム塩、ナトリウム塩、またはカリウム塩からなる群であって、クエン酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩またはトリフラートの群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項6】
請求項2に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ケイ素化合物は、希釈四塩化ケイ素、アミノプロピルトリエトキシシラン、n-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、およびフェニルトリメトキシシランからなる群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項7】
請求項2に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記親油性ポリマは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、PVC、ポリ(メタクリル酸メチル)、寒天、ゼラチン、ポリ(ウレタン)、酢酸酪酸セルロース、酢酸セルロース、およびニトロセルロースからなる群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項8】
請求項2に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記金属-金属塩層(18)は、銀-塩化銀であり、前記ハイドロゲル高分子膜の前記塩化物塩は塩化カリウムであり、前記支持電解質は酢酸リチウムである、固体状態の参照電極(11)。
【請求項9】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ハイドロゲル高分子膜(20)は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル化合物、ポリウレタン、ポリカルバモイルスルホン酸塩、ポリウレア、ポリエーテル、架橋性PVA-SBQ、ゼラチン、絹フィブロイン、BSAなどの架橋タンパク質マトリックス、セルロース、デキストラン、シクロデキストラン、アルギン酸塩、キトサン、寒天などの架橋多糖類、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項10】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ハイドロゲル高分子膜(20)は、(a)前記高分子ハイドロゲルネットワークを満たし、前記ハイドロゲル高分子膜(20)を固化および可塑することができる親水性可塑剤と、(b)前記高分子ハイドロゲルネットワークを補強することができる高分子量ポリマと、をさらに備える。
【請求項11】
請求項10に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記親水性可塑剤は、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエステル、エチレングリコール、ホルムアミドの少なくとも1つから選択される、固体状態の参照電極(11)。
【請求項12】
請求項10に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記高分子量ポリマは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、および焼成シリカまたはラテックスなどの微粒子のうちの1つである、固体状態の参照電極(11)。
【請求項13】
請求項1に記載の固体状態の参照電極(11)であって、
前記ハイドロゲル高分子膜は、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、前記親水性可塑剤としてのエチレングリコールと、前記高分子量ポリマとしてのポリビニルピロリドンとを含む、固体状態の参照電極(11)。
【請求項14】
全血、血清、血漿、他の生物学的流体および/または水溶液中で用いられる固体状態の参照電極(11)を製造する方法であって、
(a)絶縁支持基板(12)の少なくとも1つの面上に導電性材料(14)を配置した前記絶縁支持基板(12)を得る、または(b)絶縁支持基板(12)を得て、前記絶縁支持基板(12)の少なくとも1つの面上に導電性材料(14)を配置する、いずれかの絶縁支持基板(12)を得る工程であって、前記導電性材料の第1部分が電極部(14a)であり、前記導電性材料の第2部分が電気接触部(14b)であり、(a)および(b)の前記導電性材料(14)は、導電性貴金属、導電性インク、または銀-塩化銀および水銀-塩化水銀からなる群から選択される金属-金属塩の1つを備える、絶縁支持基板(12)を得る工程と、
開口部を有する電極形成絶縁層(16)を前記絶縁支持基板上に配置する工程であって、前記開口部はウェル(16b)を形成し、前記ウェル(16b)は、前記導電性材料(14)の前記電極部(14a)を露出させる、前記電極形成絶縁層(16)を配置する工程と、
前記導電性材料(14)が前記金属-金属塩ではない場合に、前記ウェル(16b)において露出した前記導電性材料(14)の前記電極部(14a)上に金属-金属塩層(18)を形成する工程と、
所定量の前駆体溶液を前記ウェル(16b)に配置する工程であって、前記前駆体溶液は、塩化物塩溶液、支持電解質溶液、ハイドロゲルポリマ、親水性可塑剤、高分子量ポリマ、架橋試薬、およびラジカル開始剤を含む、前記前駆体溶液を配置する工程と、
前記ウェル(16b)中の前記前駆体溶液を、ハイドロゲル高分子膜(20)を形成する放射線にさらして、前記固体状態の参照電極(11)を形成する工程と、を備える、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記成形する工程は、銀-塩化銀層を形成することを含む、方法。
【請求項16】
請求項14の方法であって、
所定量の塩化物塩溶液と、所定量の支持電解質溶液と、所定量のヒドロキシエチルメタクリレートと、所定量のエチレングリコールと、所定量のポリビニルピロリドンと、所定量のテトラエチレングリコールジメタクリレートと、所定量の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンとを混合することによって前記前駆体溶液を形成する工程をさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、
架橋可能な前記ハイドロゲルポリマとして20~80重量%、30~70重量%および45~55重量%からなる群から選択される範囲の量のポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、前記親水性可塑剤として20~80重量%、30~60重量%および40~50重量%からなる群から選択される範囲の量のエチレングリコールと、前記高分子量ポリマとして0.5~10.0重量%および1~5重量%からなる群から選択される範囲の量のポリビニルピロリドンと、前記架橋試薬として0.1~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群から選択される範囲の量のテトラエチレングリコールジメタクリレートと、前記ラジカル開始剤として0.01~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群から選択される範囲の量の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンと、を混合して前記前駆体溶液を形成する工程をさらに含む、方法。
【請求項18】
固体状態の参照電極(11)に用いる請求項1に記載のハイドロゲル高分子膜(20)を作る方法であって、
前駆体溶液を形成する工程であって、
所定量の塩化物塩と、
所定量の支持電解質塩と、
所定量の架橋可能なハイドロゲルポリマと、
所定量の親水性可塑剤と、
所定量の高分子量ポリマと、
所定量の架橋試薬と、
所定量のラジカル開始剤と、を備える、前駆体溶液を形成する工程と、
金属-金属塩電解電極を含む固体電極上に所定量の前記前駆体溶液を配置する工程と、
所定量の前記前駆体溶液に紫外線を光照射する工程と、
を備える、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記方法は、
前記塩化物塩として塩化カリウムを選択することと、
前記支持電解質塩として酢酸リチウムを選択することと、
前記架橋可能なハイドロゲルポリマとしてポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートを選択することと、
前記親水性可塑剤としてエチレングリコールを選択することと、
前記高分子量ポリマとしてポリビニルピロリドンを選択することと、
前記架橋試薬としてテトラエチレングリコールジメタクリレートを選択することと、
前記ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを選択することと、
をさらに備える、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記方法は、
前記塩化物塩の量を0.1mM~飽和、10mM~500mM、200mMの濃度からなる群の範囲から選択することと、
前記支持電解質塩の量を、10mM~飽和、1M~6M、3M~5Mからなる群の範囲から選択することと、
前記架橋可能なハイドロゲルポリマとして、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートの量を20~80重量%、30~70重量%および、45~55重量%からなる群の範囲から選択することと、
前記親水性可塑剤としてのエチレングリコールの量を、20~80重量%、30~60重量%および40~50重量%からなる群の範囲から選択することと、
前記高分子量ポリマとしてのポリビニルピロリドンの量を、0.5~10.0重量%、および1~5重量%からなる群の範囲から選択することと、
前記架橋試薬としてのテトラエチレングリコールジメタクリレートの量を、0.1~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群の範囲から選択することと、
前記ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの量を、0.01~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群の範囲から選択することと、
をさらに備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
1.技術分野
本発明は概して、参照電極に関する。特に、本発明は、固体状態の参照電極に関する。
【0002】
2.先行技術の説明
幅広いスペクトルの分析物を電位差測定するために、このようなシステムは、分析物指示電極と参照電極とを含む測定セルを必要とする。改良された電位差測定センサにとって、分析結果は電位差測定センサの半分である参照電極に依存する。
【0003】
技術的に周知の参照電極の例としては、飽和カロメル電極および銀/塩化銀電極が挙げられる。これらの参照電極は通常、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム溶液を流出させる液絡部が管の末端部に設けられる。測定を行うのが生体中または体液の場合、飽和カロメル電極は、電極が水銀に依存するため、使用に懸念がある。銀/塩化銀参照電極であっても、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム溶液が流出すると、生体に影響を及ぼす。流出量を減らすため液絡部は多孔質材料で形成されるが、完全に満足な結果は得られない。
【0004】
参照電極を再設計する様々な試みが提案されている。ある装置では、ハロゲンイオン含有内部電解液の微量の流出を抑制した小型の固体状態の参照電極が開示されている。装置は、白金または銀からなる導電体と、導電体の周囲に形成され、ハロゲン化銀および酸化銀からなる焼結体と、電極部を囲み、ハロゲンイオンを含む含水ゲルと、含水ゲルを収容する中空管状体であって、多孔性セラミックまたは所定の拡散係数および容量のイオン透過部を有する隔壁のいずれかである液絡部により一端が閉塞されている中空管状体と、を備える。
【0005】
より最近の参照電極装置には、マイクロおよびナノ構造材料が使用される。参照電極の構造および品質は、電位差測定判定の簡便性、廃棄性、分析の品質に影響を与える(すなわち、それらを制限する)。しかし、従来の参照電極の構造(濃縮KCl中のAg/AgCl)は、実用上、依然として支配的である。
【0006】
参照電極の主な研究は、センサから液相を除去し、性能すなわち電位経時安定性を損なうことなく、完全固体状態にすることに焦点を当てている。
そのような装置の1つとして、参照電極の膜組成(すなわちPVC)へポリピロール微小血管を組み込んだものが開示されている。ポリピロール微小血管は、光重合方法によって調製された。ピロールを含んだ水/クロロホルム乳剤を照射し、水滴上にポリピロールを析出させ、ポリピロールマイクロカプセルを得た。KClおよびAgNO溶液を用いて、各乳剤を調製した。参照膜のポリピロール微小血管は、AgClおよび固体KClを含む。安定性データは、3MのKCl溶液に参照電極を約20日間、調整した後で測定した。電極層(すなわちガラス状炭素またはポリオクチルチフェン)に応じて、様々な濃度の試験溶液(すなわちKCl、NaCl、NaNOまたはKNO)での安定性は、4~9mVの範囲であった。特筆すべきは、いずれの試験も全血において行われず、しかもセンサは、安定性分析を行うために参照電極を20日間、3MのKCl溶液で調整する必要があった点である。さらに注目すべきは、安定性が依然として4~9mVと比較的高かったことである。
【発明の概要】
【0007】
電位差測定センサを使用した測定を行う場合、このような測定の精度は、センサの電位差測定セルの半分を担う参照電極の安定性に依存する。参照電極の構造と品質により、電位差測定の簡便性、廃棄性および分析品質が制限される。上述の通り、従来の参照電極の構造(すなわち濃縮KCl中のAg/AgCl)は、依然として支配的である。近年では、センサから液相を除去して、性能を損なうことなく全体を固体化する研究が多くなされている。しかし残念ながら、これを達成するのは比較的困難である。
【0008】
全血、血清、血漿、他の生物学的流体および/または水溶液の測定に使用するすべての先行技術による参照電極の欠点は、接合電位(液絡部電位)を安定して低いまま維持するために流出型の参照液絡部に依存すること、または電位差が比較的大きいことである。明らかに、これらの先行技術の参照電極は信頼性が無い。なぜなら、長期保管と接合電位の変動は、使い捨ての単回使用の参照電極として使用されるこれらの先行技術を悩ませる深刻な問題だからである。
【0009】
本発明の目的は、接合電位が比較的安定した固体状態の参照電極を提供することである。
本発明の目的は、残余接合電位が比較的小さい固体状態の参照電極を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、広範囲のイオン濃度の液体において、接合電位が比較的安定した固体状態の参照電極を提供することである。
本発明のさらなる目的は、使用前に塩化物溶液中で調整を必要としない固体状態の参照電極を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、参照電極の構成要素の体積が比較的小さい固体状態の参照電極を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、長期間保管できる固体状態の参照電極を提供することである。
【0012】
本発明は、高分子膜で覆われた金属/金属ハロゲン化物電極を有する固体状態の参照電極を提供することにより、これらおよび他の目的を達成する。
本発明の一実施形態において、全血、血清、血漿、他の生物学的流体および/または水溶液中で用いられる固体状態の参照電極が開示される。固体状態の参照電極は、絶縁支持基板と、絶縁支持基板上に配置された導電性材料と、ウェルを有する電極形成絶縁層と、ウェルの中に配置された金属-金属塩層と、金属-金属塩層上に配置されたハイドロゲル高分子膜とを含む。導電性材料は、電極部である第1部分と、電気接触部である第2部分とを有する。導電性材料は、導電性貴金属、導電性インクまたは銀-塩化銀、銀と塩化銀の混合物、塩化銀で被覆された銀金属、および水銀-塩化水銀からなる群から選択される金属-金属塩のうちの1つを備える。電極形成絶縁層は開口部を有し、この絶縁層は絶縁基板層上に配置され、開口部はウェルを形成し、導電性材料の電極部を露出させる。導電性材料が金属-金属塩ではない場合に、金属-金属塩層は、導電性材料の電極部にわたって、ウェルの中に配置される。ハイドロゲル高分子膜は、固体状態の参照電極を形成する金属-金属塩層上に配置される。ウェルは、所定の容積を有し、導電性材料の電極部を露出させる。ハイドロゲル高分子膜は(i)塩化物塩と、(ii)アニオン種の塩からの支持電解質と、を含む高分子ハイドロゲルネットワークを形成する。
【0013】
本発明の一実施形態において、金属-金属塩は、銀-塩化銀または水銀-塩化水銀のうちの1つである。
本発明の一実施形態において、塩化物塩は、塩化物の無機塩または塩化物の有機塩のうちの1つである。
【0014】
本発明の一実施形態において、固体状態の参照電極は、ハイドロゲル高分子膜上に配置される第2高分子膜をさらに備え、第2高分子膜は、親水性ケイ素化合物、または、親油性ポリマから選択される。
【0015】
本発明の一実施形態において、導電性貴金属は、金、白金、パラジウム、銅、インジウムおよび酸化スズのうちの1つから選択される。
本発明の一実施形態において、塩化物塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化コリン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジウムクロリド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムクロリド、および1,3-ジメチルイミダゾリウムクロリドからなる群から選択される。
【0016】
本発明の一実施形態において、支持電解質は、クエン酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩またはトリフラートのリチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩からなる群から選択される。
【0017】
本発明の一実施形態において、第2高分子膜のためのケイ素化合物は、希釈四塩化ケイ素、アミノプロピルトリエトキシシラン、n-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、およびフェニルトリメトキシシランからなる群から選択される。
【0018】
本発明の一実施形態において、親油性ポリマは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ(メタクリル酸メチル)、寒天、ゼラチン、ポリ(ウレタン)、酢酸酪酸セルロース、酢酸セルロース、およびニトロセルロースからなる群から選択される。
【0019】
本発明の一実施形態において、金属-金属塩層は銀-塩化銀であり、ハイドロゲル高分子膜の塩化物塩は塩化カリウムであり、支持電解質は酢酸リチウムである。
【0020】
本発明の一実施形態において、ハイドロゲル高分子膜は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル化合物、ポリウレタン、ポリカルバモイルスルホン酸塩、ポリウレア、ポリエーテル、スチリルピリジニウムペンダント基を有する架橋性ポリビニルアルコール(すなわちPVA-SBQ)、ゼラチン、絹フィブロイン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(すなわちBSA)などの架橋タンパク質マトリックス、セルロース、デキストラン、シクロデキストラン、アルギン酸塩、キトサン、寒天などの架橋多糖類、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0021】
一実施形態において、ハイドロゲル高分子膜は、(a)高分子ハイドロゲルネットワークを満たし、ハイドロゲル高分子膜を固化および可塑化することができる親水性可塑剤と、(b)高分子ハイドロゲルネットワークを補強することができる高分子量ポリマと、をさらに備える。
【0022】
一実施形態において、親水性可塑剤は、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエステル、エチレングリコール、ホルムアミドのうち少なくとも1つから選択される。
【0023】
一実施形態において、高分子量ポリマは、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、および焼成シリカまたはラテックスなどの微粒子のうちの1つである。
【0024】
一実施形態において、ハイドロゲル高分子膜は、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、親水性可塑剤としてのエチレングリコールと、高分子量ポリマとしてのポリビニルピロリドンとを含む。
【0025】
一実施形態において、全血、血清、血漿および/または他の生物学的流体中で用いられる固体状態の参照電極を製造する方法が開示される。本方法は、(a)絶縁支持基板の少なくとも1つの面上に導電性材料を配置した絶縁支持基板を得る、または(b)絶縁支持基板を得て、絶縁支持基板の少なくとも1つの面上に導電性材料を配置する、いずれかの絶縁支持基板を得る工程であって、導電性材料の第1部分が電極部であり、導電性材料の第2部分が電気接触部であり、(a)および(b)の導電性材料は、導電性貴金属、導電性インク、或いは金属-金属塩であって銀-塩化銀および水銀-塩化水銀からなる群から選択される金属-金属塩の1つを備える、絶縁支持基板を得る工程を含む。本方法は、開口部を有する電極形成絶縁層を前記絶縁支持基板上に配置する工程であって、開口部は導電性材料の電極部を露出させるウェルを形成する、前記電極形成絶縁層を配置する工程と、電極形成絶縁層の開口部において露出した導電性貴金属膜の部分上に金属-金属塩層を形成する工程と、所定量の前駆体溶液をウェルに配置する工程であって、前駆体溶液は、塩化物塩溶液、支持電解質溶液、ハイドロゲルポリマ、親水性可塑剤、高分子量ポリマ、架橋試薬、およびラジカル開始剤を含む、前駆体溶液を配置する工程と、ウェル中の前駆体溶液を、ハイドロゲル高分子膜を形成する放射線にさらして、固体状態の参照電極を形成する工程と、をさらに含む。
【0026】
一実施形態において、成形する工程は、銀-塩化銀層を形成することを含む。
一実施形態において、本方法は、所定量の塩化物塩溶液と、所定量の支持電解質溶液と、所定量のヒドロキシエチルメタクリレートと、所定量のエチレングリコールと、所定量のポリビニルピロリドンと、所定量のテトラエチレングリコールジメタクリレートと、所定量の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンとを混合することによって前駆体溶液を形成する工程を含む。
【0027】
一実施形態において、本方法は、塩化物塩の量を0.1mM~飽和、10mM~500mM、200mMの濃度からなる群の範囲から選択し、支持電解質塩の量を、10mM~飽和、1M~6M、3M~5Mからなる群の範囲から選択し、架橋可能なハイドロゲルポリマとして、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートの量を20~80重量%、30~70重量%および45~55重量%からなる群の範囲から選択し、親水性可塑剤としてのエチレングリコールの量を、20~80重量%、30~60重量%および40~50重量%からなる群の範囲から選択し、高分子量ポリマとしてのポリビニルピロリドンの量を、0.5~10.0重量%および1~5重量%からなる群の範囲から選択し、架橋試薬としてのテトラエチレングリコールジメタクリレートの量を、0.1~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群の範囲から選択し、ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの量を、0.01~2.0重量%および0.5-1.0重量%からなる群の範囲から選択し、混合することによって前駆体溶液を形成する工程を含む。
【0028】
一実施形態において、固体状態の参照電極に用いるハイドロゲル高分子膜を作る方法が開示される。本方法は、(a)前駆体溶液を形成する工程であって、所定量の塩化物塩と、所定量の支持電解質塩と、所定量の架橋可能なハイドロゲルポリマと、所定量の親水性可塑剤と、所定量の高分子量ポリマと、所定量の架橋試薬と、所定量のラジカル開始剤と、を含む、前駆体溶液を形成する工程と、(b)金属-金属塩電解電極を含む固体電極上に所定量の前駆体溶液を配置する工程と、(c)所定量の前駆体溶液に紫外線を光照射する工程と、を備える。
【0029】
一実施形態において、本方法は、塩化物塩として塩化カリウムを選択することと、支持電解質塩として酢酸リチウムを選択することと、架橋可能なハイドロゲルポリマとしてポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートを選択することと、親水性可塑剤としてエチレングリコールを選択することと、高分子量ポリマとしてポリビニルピロリドンを選択することと、架橋試薬としてテトラエチレングリコールジメタクリレートを選択することと、ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを選択することと、をさらに備える。
【0030】
一実施形態において、本方法は、塩化物塩の量を0.1mM~飽和、10mM~500mM、200mMの濃度からなる群の範囲から選択することと、支持電解質塩の量を、10mM~飽和、1M~6M、3M~5Mからなる群の範囲から選択することと、架橋可能なハイドロゲルポリマとして、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートの量を20~80重量%、30~70重量%および45~55重量%からなる群の範囲から選択することと、親水性可塑剤としてのエチレングリコールの量を、20~80重量%、30~60重量%および40~50重量%からなる群の範囲から選択することと、高分子量ポリマとしてのポリビニルピロリドンの量を、0.5~10.0重量%および1~5重量%からなる群の範囲から選択することと、架橋試薬としてのテトラエチレングリコールジメタクリレートの量を、0.1~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群の範囲から選択することと、ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンの量を、0.01~2.0重量%および0.5~1.0重量%からなる群の範囲から選択することと、をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態の斜視図であり、固体状態の参照電極を示す。
図1A図1に示す固体状態の参照電極の断面図である。
図1B】別の固体状態の参照電極の断面図であり、ハイドロゲル高分子膜上に配置された任意の第2高分子膜を示す。
図2】イオン選択電極と一体化された固体状態の参照電極を有する電位差測定センサの斜視図である。
図2A図2の電位差測定センサの断面図である。
図3】複数のイオン選択電極と一体化された固体状態の参照電極を有する電位差測定センサの斜視図である。
図3A図3の電位差測定センサの断面図である。
図4】固体状態の参照電極の断面図であり、一方は電極部、他方は接触部である窓が両側に配列された状態で2枚の電気絶縁基板に挟まれた導電性材料を示す。
図5】様々な濃度の塩化ナトリウム溶液での固体状態の参照電極の安定応答を示すグラフ図である。
図6】様々な濃度の塩化カルシウム溶液での固体状態の参照電極の安定応答を示すグラフ図である。
図7】広範なpH値溶液にわたる、固体状態の参照電極の安定応答を示すグラフ図である。
図8】固体状態の参照電極および固体状態のカリウムイオン選択センサを組み込んだ電位差測定センサの全血における反応を示すグラフ図である。
図9】固体状態の参照電極および固体状態のカルシウムイオン選択センサを組み込んだ電位差測定センサの全血における反応を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[発明の詳細な説明]
まず、図1図1Aおよび図1Bを参照して、固体状態の参照電極の一般的な構造を説明する。
【0033】
図1は、固体状態の参照電極11を有する、平面状の使い捨て参照電極10の一実施形態の斜視図である。参照電極図1Aは、固体状態の参照電極11の一実施形態の断面図を例示する。固体状態の参照電極11は、平面形状を有し、絶縁支持基板12(すなわちベース絶縁層)と、絶縁支持体12に配置された導電性材料14であって、導電性材料の第1部分が電極部14a(図1Aおよび1Bに図示)であり、導電性材料の第2部分が電気接触部14b(図1に図示)である導電性材料14と、所定の寸法を有し、導電性貴金属膜14の一部を露出させるウェル(井戸)16bを形成する開口部16aを有する電極形成絶縁層16と、を含む。すべての層は、誘電材料、好ましくはプラスチックでできている。好適な誘電材料の例は、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ナイロン、ポリウレタン、ニトロセルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ポリエステル、アクリルおよびポリスチレンである。導電性材料は、導電性の、貴金属フィルム、銀-塩化銀などの金属-金属塩フィルム、絶縁支持基板上へ印刷される導電性のインク、または導電性材料のトレーシングでもよい。導電性材料は、電極部と、接触部とを有し、電気接触部は、接触部を分析物測定回路に電気的に接続するために用いられる。
【0034】
ウェル16bの寸法だけでなく電極形成絶縁層16の厚さは、ウェル16bを満たす化学物質の厚さおよびアスペクト比を規定し、そのため、とりわけ電極とその界面の体積および表面積を制御するのに役立つ。電極形成絶縁層16の好適な厚みは0.004インチ(0.1mm)であり、開口部16aの好適な直径は0.035インチ(0.89mm)である。これにより、約0.033uL(33nL)の充填容積を有するウェル16bが形成される。電極形成絶縁層16は、好ましくは、グレンロック、ペンシルバニア州のAdhesive Research社、または台湾のGlobal Instrument社(GIC)から入手可能な、医療グレードの片側接着テープである。本発明に用いられるテープの厚みの許容範囲は、約0.001インチ(0.025mm)から約0.005インチ(0.13mm)までの範囲である。好適な厚みは、約0.004インチ(0.1mm)である。テープの使用は必須ではないことが理解されるべきである。電極形成絶縁被膜16は、プラスチックシートから作られてもよく、感圧接着剤、フォトポリマでコーティングされてもよく、絶縁性支持基板12に超音波接着されてもよく、絶縁性支持基板12にシルクスクリーン印刷されてもよく、または、絶縁性支持基板12に3D印刷されて上記のポリエステルテープを使用するのと同じ結果を達成してもよい。
【0035】
金属-金属塩層(M/MX)18は、電解電極を形成する導電性貴金属膜14の電極部に配置され、導電性貴金属膜14の露出部全体または導電性貴金属膜14の露出部の一部のみを覆ってもよい。ハイドロゲル高分子膜20は、金属-金属塩層18上に配置され、ウェル16bを満たす。金属-金属塩層は、導電性材料が金属-金属塩である場合は用いられないが、導電性材料がメタ-金属塩ではない場合に用いられることに留意すべきである。
【0036】
貴金属フィルム14に使用可能な材料は、金、白金、パラジウム、銅、インジウム、酸化スズなどを含むが、これらに限定されない。本発明において、好適な貴金属フィルム14は、金のフィルムである。通常、貴金属フィルム14は、絶縁支持基板12に蒸着されるか、または絶縁支持基板12にスポットコーティングされる。後述する電位差測定センサ30を製造する際、貴金属フィルム14は、互いに電気的に絶縁された異なる導電経路へ画定される。これらの導電経路は、貴金属フィルム14をけがくこと、または切り欠くことによって形成されてもよい。
【0037】
電解電極19は、通常、それぞれの塩に接した不溶性の銀塩または水銀塩を通じて、参照電位を生ずる。本発明においては、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電解電極が好適である。Ag/AgCl電解電極を作るには、様々な方法がある。1つの方法としてAg/AgClインクを用いる方法があるが、他の方法でもよい。インクを用いる方法の場合、市販の銀/塩化銀(Ag/AgCl)インクを少量、金フィルム14上へ吐出して熱硬化させ、金属-金属塩18ベースの電解電極とする。Ag/AgClトランスデューサを作成する他の方法は、少量のAgインクまたは銀エポキシを金表面へ吐出し、Agインクまたは銀エポキシを熱硬化させて表面上に銀を形成する方法である。その後、Ag面を塩化してAgClを形成する。電解電極の定電位を維持するため、通常、Clイオンの一定量の活性(活量)が用いられる。
【0038】
図1Bは、固体状態の参照電極11の他の実施形態の断面図を例示する。図1Aに図示したものと同様の本実施形態は、ハイドロゲル高分子膜20の上に配置され、二重層の固体状態の参照電極を形成する任意の第2高分子膜22を除いて、すべて同じ構成要素を有する。この任意の第2高分子膜22は、試料溶液中での電極の寿命および安定性を延長する。任意の第2高分子膜22の付加的な利点には、高分子参照電極膜20と電解電極19の間の接着を強化することと、電極汚れを除去して電極の長期間安定性を高めることが含まれる。任意の第2高分子膜22に適した材料は、希釈四塩化ケイ素、アミノプロピルトリエトキシシラン、n-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリメトキシシラン)等のケイ素化合物の群から選択される;またはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、PVC、ポリ(メタクリル酸メチル)、寒天、ゼラチン、ポリ(ウレタン)、酢酸酪酸セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース等の他の親油性ポリマから選択されるが、これらに限定されない。本願では、酢酸酪酸セルロースが用いられ、濃度は好ましくは0.001~5%の範囲であり、より好ましくは0.02~1%、最も好ましくは0.05~0.2%である。
【0039】
次に図2および図2Aを参照すると、単層の固体状態の参照電極11とイオン選択電極31とを組み込んだ電位差測定センサ30の一例が例示される。イオン選択電極31は、例えばNa、K、Ca2+、Mg2+、F、Clなどの試料中のイオンを測定可能なものであってもよい。図2は、電位差測定センサ30の一例を例示する。図2Aは、上述の図1Aに示す単層の固体状態の参照電極11およびイオン選択電極31の断面図である。
【0040】
図3および図3Aは、単層の固体状態の参照電極11および複数のイオン選択電極31を組み込んだマルチ電位差測定センサ40の一例を示す。図2および図2Aに関して説明した通り、各イオン選択電極31は例えばNa、K、Ca2+、Mg2+、F、Clなどの試料中の特定のイオンを測定可能である。図3はマルチ電位差測定センサ40の一例を示し、図3Aは単層の固体状態の参照電極11および3つのイオン選択電極32、34、36の断面図であり、イオン選択電極32、34、36のそれぞれは、Naイオン、Kイオン、Ca2+イオンなど異なるイオン種を測定できてもよい。
【0041】
図4は、平面状の使い捨て参照電極10’の他の実施形態を示す。本実施形態において、使い捨ての参照10’の構造は、使い捨て参照電極10と類似するが、構造に違いがある。その違いとは、電気接触部の位置である。本実施形態において、導電性材料の電気接触部は、電極部の反対側にあり、電極部と同一平面状にはない。絶縁支持基板はまた、電気接触部を露出させる開口部を有し、使い捨ての固体状態の参照電極を分析物測定回路に電気的に接続できるようにする。
【0042】
〔高分子膜前駆体〕
UV硬化性ハイドロゲルポリマベース膜前駆体溶液を塩化物溶液(ここではKCl)の塩と混合する。ここで、イオン源としての塩化物は銀/塩化銀電極および第2支持電解質(酢酸リチウム)に関係し、液絡部電位を除去して、塩化物イオンの活量を維持するために使用される。この混合された前駆体溶液は、Ag/AgCl電極表面の上に吐出される。当該溶液は次に、窒素雰囲気下、2%以下の酸素環境で、365umの紫外線を18mW/cmで5分間照射することにより、高分子ハイドロゲルへと光重合される。
【0043】
〔前駆体溶液の成分〕
前駆体溶液の成分は、塩化物溶液、支持電解質化合物溶液、モノマ、親水性可塑剤、親水性ポリマ、架橋試薬、およびラジカル開始剤を含む。
【0044】
〔塩化物塩溶液〕
本発明において、塩素化合物の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等の塩化物の無機塩、または塩化コリン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジウムクロリド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムクロリド、1,3-ジメチルイミダゾリウムクロリド等の塩化物の有機塩を含むが、これらに限定されるものではない。本発明の固体状態の参照電極において使用される塩は、説明の便宜上、KClである。KClの濃度は0.1mM~飽和溶液の範囲であり、好ましくは10mM~500mMの範囲であり、より好ましくは200mMの濃度である。
【0045】
〔支持電解質〕
ハイドロゲル高分子膜20の体積が非常に小さいため、そして固体状態の参照電極の良好な性能を維持し、液絡部電位を除去するために、本発明ではもう1つの支持電解質が使用される。支持電解質化合物溶液は、一定の液絡部電位を維持するために追加される。支持電解質は、クエン酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩、トリフラートまたは類似の化合物といったアニオン種の、リチウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩から選択される。本発明において、説明の便宜上、酢酸リチウムが本発明において用いられる。使用する酢酸リチウムの濃度は、10mM~飽和溶液の範囲、好ましくは1M~6.0Mの範囲、そして、より好ましくは、3M~5Mの範囲である。ネルンスト方程式が、濃度よりもむしろ塩化物イオンの「活量」を扱う場合、ハイドロゲル高分子膜20自体が十分な塩を含んでいれば、従来の飽和KCl電極と同等の電位を達成することが可能である。酢酸リチウムは、ハイドロゲル高分子膜20を形成する際に使用する高分子膜前駆体混合物においてより溶けやすいことがわかった。
【0046】
〔モノマ〕
モノマは、架橋高分子ネットワーク(ネットワーク構造)である、ハイドロゲル多孔性高分子マトリックスを形成するハイドロゲルポリマであり、水で膨潤可能である。ハイドロゲルの膨潤特性は、ポリマの多孔性および親水性特性を制御することによって調整可能である。任意の高分子ハイドロゲルマトリックスが使用できる。例えば、限定されるものではないが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル化合物、ポリウレタン、ポリカルバモイルスルホン酸塩、ポリウレア、ポリエーテル、架橋可能なPVA-SBQ、またはゼラチン、絹フィブロイン、BSA等の架橋タンパク質マトリックス、またはセルロース、デキストラン、シクロデキストラン、アルギン酸塩、キトサン、寒天等の架橋多糖類、または、これらを複合材料として任意に組み合わせたものが挙げられる。本発明の説明には、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(pHEMA)が選択された。ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートは、モノマであるヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から作られる。HEMAの濃度は、20%~80%の範囲、好ましくは30%~70%の範囲、より好ましくは、45%~55%の範囲である。ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートは、中性で非イオン性の親水性ヒドロキシエチルリガンドを有する安定したメタクリレート骨格であり、非毒性、生体適合性、防汚性を備えるというその固有の特性に基づいて選択され、血液および血清試料の検査において使用可能である。ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレートはHEMAから作られるため、HEMAモノマ溶液は、ウェル16bに容易に分注され、ウェル16bの形状をとり、そして、基板/Au/AgCl表面の微細構成に合わせて成形され、基板の様々な表面に良好に接着し、安定な界面を形成する。
【0047】
〔親水性可塑剤〕
pHEMAの乾燥状態、いわゆる「キセロゲル」状態において、pHEMAゲルは、柔軟性がない。より疎水性のメタクリレート骨格を有するため、乾燥したpHEMAキセロゲルがその容量を満たすのに十分な水を吸収するには、比較的長い時間がかかる。この長い吸収時間は、比較的急速に湿潤してパッケージから出してすぐに機能することが必要なものに対しては、あまり良い特徴ではない。親水性可塑剤は、高分子ハイドロゲルネットワークを満たし、ゲルを効果的に固化および可塑化する。親水性可塑剤は、イオンが膜を通過することも可能にする。親水性可塑剤は、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエステル、エチレングリコール、ホルムアミドなどを含む群から選択される。これらの物質は、ハイドロゲル高分子ネットワークの孔を満たすことができる、低分子量の吸湿性の材料であり、ゲルを効果的に可塑化する。さらに、これらの物質は蒸発せず、保管中にゲル構造にとどまる。エチレングリコールは、大きさおよび密度が水に最も近いので、本発明の実証の目的でエチレングリコール(EG)が選択された。親水性可塑剤はハイドロゲルを膨潤柔軟状態にし、試料がゲル構造内に入る際に、ポリマが試料とより容易に反応できるようにする。凍結防止剤として、これらの親水性可塑剤はさらに、低温保管における変化からハイドロゲルを保護するのに役立つ。形成時の親水性可塑剤の量は、センサの構成と基板の設計により決まる。
【0048】
形成時における親水性可塑剤のさらなる役割は、酢酸リチウムを解離させる水素結合供与体としての役割であり、この場合に酢酸リチウムは水素結合受容体として機能する。この組み合わせは、室温でイオン伝導性の液体であり、ハイドロゲルマトリックスの細孔を満たし、試料とゲルとの界面で膜電位を安定化させるのに役立ち、電極表面に近い二重層が高い金属イオン濃度を持つことを確実にする。エチレングリコール(EG)を使用するさらなる利点は、等しく移動する塩(equaly-transferring salt)(本発明ではLiAc)がEGに溶解し、ハイドロゲルマトリックスの細孔を満たすイオン伝導性液体を形成することである。エチレングリコールの濃度は、20%~80%の範囲、好ましくは30%~60%の範囲、より好ましくは、40%~50%の範囲である。
【0049】
〔親水性ポリマ〕
粘度が非常に低く、表面張力が低く、基板を濡らしやすいエチレングリコールまたはプロピレングリコールなどの低分子量の親水性可塑剤を使用すると、塗布時の再現性が低い、薄い層が形成される。不活性で高分子量の「充填剤」は、粘度を高め、基板に塗布された溶液を所定の位置に保ち、電極表面への接着性を高めるために必要である。PEG、PVA、PVP、さらにはpHEMA自体といった親水性中性ポリマ、ヒュームドシリカまたはラテックスなどの粒子はすべて、この目的のために使用することができる。本発明を説明する目的で、他の材料よりもHEMAモノマに溶解しやすいため、PVPが選択された。長いポリマ鎖はpHEMAマトリックスに絡みつくので、時間が経っても浸出することはない。また、PVPはゲルの構造を再強化するのにも役立つ。PVP(特にPVP K90)の濃度は、0.05%~10%の範囲、好ましくは1%~5%の範囲である。
【0050】
〔架橋剤〕
架橋試薬は、一級アミン、スルフヒドリル、カルボニル、炭水化物、およびカルボン酸などの官能基と結合する少なくとも2つの反応性基を含む。本願では、テトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)を架橋試薬として使用した。TEGDMAは、3Dゲル構造を形成するフリーラジカル連鎖重合の架橋剤として使用可能な二官能性メタクリレート分子である。TEGDMAは、揮発性が低く、不燃性で水への溶解度が高い製品である。架橋試薬の濃度は、0.1%~2%の範囲、より好ましくは、0.5%~1%の範囲である。
【0051】
〔ラジカル開始剤〕
光開始重合はモノマの重合技術の1つである。ここで、光照射によって生成されるラジカル、カチオン、またはアニオン等の反応性種によって、重合が開始される。重合により、液体モノマを固体または半固体にすることができる。光重合開始剤は、放射線(紫外線、または、可視光線)にさらされると、反応性種(フリーラジカル、カチオンまたはアニオン)を生成する分子である。合成光重合開始剤は、フォトポリマの主要成分である。2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)は光重合開始剤であり、例えばアクリレート重合体の調製において、ラジカル連鎖重合を初期化するために用いられる。紫外線の影響を受けて、分子はラジカル重合を開始するラジカルを形成し、これが本発明において用いられた。ラジカル開始剤の濃度は、0.01%~2%の範囲、より好ましくは、0.5%~1%の範囲である。
【0052】
表1は、ハイドロゲル高分子膜20を作るための前駆体溶液の一例を示す。
[表1]固体状の参照電極(SSRE)用参照膜
【0053】
【表1】
【0054】
図4を参照すると、固体状態の参照電極と市販の参照電極(飽和カロメル電極(SCE))との間で測定された、さまざまな濃度のNaCl溶液における安定性応答を示すグラフ図が示されている。本発明の固体状態の参照電極は、作用電極として用いられる。その結果、本発明の固体状態のハイドロゲル膜参照電極の電位は、試料溶液中のNaCl濃度の影響を受けず、非常に広い濃度範囲にわたって良好な安定性を示している。
【0055】
図5は、固体状態の参照電極と市販の参照電極(飽和カロメル電極(SCE))との間で測定された、さまざまな濃度のCaCl溶液における安定性応答を示すグラフ図である。本発明の固体状態の参照電極は、作用電極として用いられる。その結果、本発明の固体状態のハイドロゲル膜参照電極の電位は、試料溶液中のCaCl濃度の影響を受けず、非常に広い濃度範囲にわたって良好な安定性を示している。
【0056】
図6は、固体状態の参照電極と市販の参照電極(飽和カロメル電極(SCE))との間で測定された、広範囲のpH値の溶液における安定性応答を示すグラフ図である。本発明の固体状態の参照電極は、作用電極として用いられる。その結果、本発明の固体状態のハイドロゲル膜参照電極の電位は、溶液中のpH値の影響を受けず、非常に広いpH範囲にわたって良好な安定性を示している。
【0057】
図7は、本発明の固体状態の参照電極とカリウムイオン選択電極との間で測定したカリウムイオン濃度に対する応答を示すグラフ図である。本発明の固体状態の参照電極は参照電極として用いられ、カリウムイオン選択電極が作用電極として用いられる。カリウムイオン選択電極の電位応答E(mV)の、カリウム濃度の対数に対する出力は、傾き55.8mvの良好な直線性応答を示す。
【0058】
図8は、本発明の固体状態の参照電極とカルシウムイオン選択電極との間で測定したカルシウムイオン濃度への応答を示すグラフ図である。本発明の固体状態の参照電極は参照電極として用いられ、カルシウムイオン選択電極が作用電極として用いられる。カルシウムイオン選択電極の電位応答E(mV)の、カルシウム濃度の対数に対する出力は、傾き27.9mvの良好な直線性応答を示す。
【0059】
〔全血試料における精度〕
本発明の固体状態の参照電極を使用したすべての測定において、固体状態の参照電極の調整(すなわち水和)は、いずれの試験を実施する前にも実施されなかったか、または必要とされなかった。ノバ・バイオメディカル社の分析装置(ノバ・スタット・プロファイル・プライム)の参照は流動型の参照である。以下のデータ表は、全血、血清、血漿および/または他の生物学的流体における本発明の信頼性と精度とを示すもので、固体状態の参照の事前調整(すなわち水和)を行うことなく、固体状態の参照電極を乾燥保管から直接使用し、ノバ・バイオメディカル社の分析装置の参照と比較したものである。
【0060】
表2は、カリウムイオン選択作用電極と、固体状態のハイドロゲル膜参照である本発明の参照電極とを組み込んだ電位差測定センサによる、カリウムイオン再現性測定の応答を示す。図2、2Aに示すものと同様の20個のカリウムセンサ30を使用して、4.58mmol/Lのカリウムイオン濃度を有する全血試料を測定した。示すように、20個の測定値の平均は4.63mmol/Lのカリウムであり、変動係数は3.6%であった。
【0061】
【表2】
【0062】
表3は、ナトリウムイオン選択作用電極と、固体状態のハイドロゲル膜参照である本発明の参照電極とを組み込んだ電位差測定センサによる、ナトリウムイオン再現性測定の応答を示す。図2、2Aに示すものと同様の20個のナトリウムセンサ30を使用して、143.5mmol/Lのナトリウムイオン濃度を有する全血試料を測定した。示すように、20個の測定値の平均は144.8mmol/Lのナトリウムであり、変動係数は1.7%であった。
【0063】
【表3】
【0064】
表4は、30種類の全血試料に対するカリウム測定試験の一覧である。30種類の全血試料の参照値は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置、スタット・プロファイル・プライム・モデルを用いて測定した。全血試料の測定前に膜の調整を行っていないことに注意することが重要である。測定差は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置で測定した値と、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだカリウムイオン選択センサで測定した値との差であり、mmol/L単位である。パーセントバイアスは、ノバの測定結果のミリモル値と、固体参照(本発明)の測定結果のミリモル値との差の絶対値をとり、ノバの測定結果のミリモル値で割ることにより求められる。ナトリウムやカリウムなどの単電荷イオンの場合、1ミリボルトは4パーセント(4%)のバイアスに相当する。表に示すように、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだカリウムイオン選択センサで測定した結果、30種類の試料のパーセントバイアスの平均値は3%であり、そのパーセンテージバイアスの平均ミリボルト値は0.703mvである。興味深いことに、30種類の試料についてパーセントバイアスの最大値は7%で、ミリボルト差の最大値は1.813mvである。これは、全血試料中のカリウム濃度を測定する際の、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだ使い捨てストリップセンサの精度と信頼性を示すものである。
【0065】
[表4]カリウム全血測定の比較結果
【0066】
【表4】
【0067】
表5は、30種類の全血試料に対するナトリウム測定試験の一覧である。30種類の全血試料の参照値は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置、スタット・プロファイル・プライムモデルを用いて測定した。測定差は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置で測定した値と、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだナトリウムイオン選択センサで測定した値との差であり、mmol/L単位である。上述記したように、パーセントバイアスは、ノバの測定結果のミリモル値と、固体参照の測定結果のミリモル値との差の絶対値をとり、ノバの測定結果のミリモル値で割ることにより求められる。ナトリウムやカリウムなどの単電荷イオンの場合、1ミリボルトは4パーセント(4%)のバイアスに相当する。表に示すように、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだ図2、2Aに示すナトリウムイオン選択センサ30で測定した結果、30種類の試料のパーセントバイアスの平均値は1%であり、そのパーセンテージバイアスの平均ミリボルト値は0.008mvである。興味深いことに、30種類の試料についてパーセントバイアスの最大値は2%で、ミリボルト差の最大値は0.481mvである。これは、全血試料中のナトリウム濃度を測定する際の、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだ使い捨てストリップセンサの精度と信頼性を示すものである。
【0068】
[表5]ナトリウム全血測定の比較結果
【0069】
【表5】
【0070】
表6は、30種類の全血試料に対するカルシウム測定試験の一覧である。30種類の全血検体の参照値は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置、スタット・プロファイル・プライムモデルを用いて測定した。測定差は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置で測定した値と、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだカルシウムイオン選択センサで測定した値との差であり、mmol/L単位である。上述したように、パーセントバイアスは、ノバの測定結果のミリモル値と、固体参照の測定結果のミリモル値との差の絶対値をとり、ノバの測定結果のミリモル値で割ることにより求められる。カルシウムなどの二重電荷イオンの場合、1ミリボルトは8パーセント(8%)のバイアスに相当する。表に示すように、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだ図2、2Aに示すカルシウムイオン選択センサ30で測定した結果、30種類の試料のパーセントバイアスの平均値は5%であり、そのパーセンテージバイアスの平均ミリボルト値は0.668mvである。興味深いことに、30種類の試料についてパーセントバイアスの最大値は11%で、ミリボルト差の最大値は1.389mvである。これは、全血試料中のカルシウム濃度を測定する際の、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだ使い捨てストリップセンサの精度と信頼性を示すものである。
【0071】
[表6]カルシウム全血測定の比較結果
【0072】
【表6】
【0073】
表7~11は、本発明の固体参照を組み込んだナトリウムセンサについて、様々な保管シナリオの影響を示す10種類の全血試料のナトリウム測定試験を一覧にしたものである。10種類の全血試料の各参照値は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置、スタット・プロファイル・プライムモデルを使用して測定した。固体参照は、使用前に固体参照の調整(すなわち水和)を行うことなく、保管状態から直接使用した。測定差は、ノバ・バイオメディカル社の分析装置で測定した値と、本発明の固体状態の参照電極を組み込んだナトリウムイオン選択センサで測定した値との差であり、mmol/L単位である。上述のように、パーセントバイアスは、ノバの測定結果のミリモル値と、固体参照の測定結果のミリモル値との差の絶対値をとり、ノバの測定結果のミリモル値で割ることにより求められる。ナトリウムやカリウムなどの単電荷イオンの場合、1ミリボルトは4パーセント(4%)のバイアスに相当する。結果は、新規に製造されたセンサ(表7)、室温で6ヶ月間保管されたセンサ(表8)、4℃で6ヶ月間保管されたセンサ(表9)、室温で1年間保管されたセンサ(表10)、4℃で1年間保管されたセンサ(表11)のデータを含む。表に示すように、本発明の固体参照を組み込んだ図2、2Aに示すナトリウムイオン選択性センサ30で得られた測定結果によると、パーセントバイアスを代表する平均ミリボルト値は0.1mv未満である。
【0074】
[表7]新規に製造された固体状態の参照電極の比較
【0075】
【表7】
【0076】
[表8]固体状態の参照電極を室温で6ヶ月間保管した場合の濃度参照値の比較
【0077】
【表8】
【0078】
[表9]固体状態の参照電極を4℃で6ヶ月間保管した場合の濃度参照値の比較
【0079】
【表9】
【0080】
[表10]固体状態の参照電極を室温で1年間保管した場合の濃度参照値の比較
【0081】
【表10】
【0082】
[表11]固体状態の参照電極を4℃で1年間保管した場合の濃度参照値の比較
【0083】
【表11】
【0084】
本発明の好適な実施形態を説明してきたが、上記の説明は単なる例示に過ぎない。本明細書において開示された本発明のさらなる変更は、それぞれの技術分野の当業者に生じるものであり、そのような変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるものとみなされる。
図1
図1A
図1B
図2
図2A
図3
図3A
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】