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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】電磁放射線と相互作用するデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01P 11/00 20060101AFI20240426BHJP
   H01Q 15/00 20060101ALI20240426BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
H01P11/00
H01Q15/00
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570425
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 AU2022050458
(87)【国際公開番号】W WO2022236380
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】2021901438
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・スクワイアーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジア・ドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・アントニー・ヴァン・ダー・ラーン
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA00
5J020BA06
5J020DA01
5J020EA01
5J020EA06
5J020EA09
(57)【要約】
本開示は、電磁放射線と相互作用するチップ、及び電磁放射線と相互作用するデバイスを製造するための方法に関する。デバイスを製造するための方法は、パターン化されていない金属層を含む基板上に、パターン化されていないグラフェン層を配置して、基板の表面に付着したパターン化されていないグラフェン-金属二重層を形成することを含む。次いで、方法は、グラフェン層及び金属層を通して、1つ以上の重畳トレンチを含む設計で、二重層をパターン化することを含む。1つ以上のトレンチの各々は、グラフェン層及び金属層を通って延在して、電磁放射線との相互作用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスを製造するための方法であって、前記方法が、
パターン化されていない金属層を含む基板上に、パターン化されていないグラフェン層を配置して、前記基板の表面に付着したパターン化されていないグラフェン-金属二重層を形成することと、
1つ以上の重畳トレンチを含む設計で、前記グラフェン層及び前記金属層を通して前記二重層をパターン化することと、を含み、
前記1つ以上のトレンチの各々が、前記グラフェン層及び前記金属層を通って延在して、電磁放射線との相互作用を提供する、方法。
【請求項2】
前記パターン化することが、前記設計を画定する単一のマスクを使用して実行され、それによって、単一のパターン化ステップで、前記グラフェン層及び前記金属層を通して前記トレンチを作成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、前記グラフェン層のエッチング及び前記金属層のエッチングの両方を実行するために前記単一のマスクを使用することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、
前記グラフェン層を第1のエッチング剤でエッチングすることと、
前記グラフェン層をエッチングした後、前記金属層を第2のエッチング剤でエッチングすることと、を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グラフェン層をエッチングすることが、酸素プラズマの使用を含み、前記金属層をエッチングすることが、アルゴンプラズマの使用を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、前記基板上に前記パターン化されていない金属層を配置することを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、第1の電極及び第2の電極を画定するために、前記金属層内にギャップを作成することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ギャップを作成することが、前記金属層上でマスクを使用し、前記金属層をエッチングすること、又は前記金属層を配置している間被覆マスクを使用すること、又は指向性ビーム書き込みを使用することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ギャップが、前記基板上に前記パターン化されていないグラフェン層を配置する前に作成される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記パターン化中又は後に、酸素プラズマで前記デバイスを洗浄することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記二重層をパターン化することが、指向性ビームを使用して、前記二重層の前記グラフェン層及び前記金属層内に前記1つ以上のトレンチを作成することを含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
デバイスであって、
第1の表面を有する支持層と、
前記第1の表面に付着した金属層及び前記金属層上に付着したグラフェン層を含む、パターン化されたグラフェン-金属二重層であって、前記二重層が、前記グラフェン層及び前記金属層を通って延在して、電磁放射線との相互作用を提供する、1つ以上の重畳トレンチを含む、パターン化されたグラフェン-金属二重層と、を含み、
前記重畳トレンチが、前記二重層をパターン化することによって、前記グラフェン層及び金属層にわたって整列し、
前記金属層が、前記1つ以上の重畳トレンチを含む第1の電極と、第2の電極と、を画定するためのギャップを含み、
前記第1の電極が、前記グラフェン層によって前記第2の電極に接続されて、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、かつ前記第1の表面に平行な前記グラフェン層にわたって印加された電圧を変更することによって、調整可能性を提供する、デバイス。
【請求項13】
前記第2の電極が、前記グラフェンの上にある、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記1つ以上のトレンチが、アレイを画定し、
前記アレイが、前記二重層にわたって延在する、請求項12又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記アレイが、前記デバイスによる電磁放射線との前記相互作用を提供するための周期的な設計である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記パターン化された二重層が、メタマテリアル構造体を形成する、請求項12~15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記支持層が、誘電体層である、請求項12~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記デバイスが、前記誘電体層を含む共振構造体であって、前記グラフェン層にわたって印加された前記電圧によって調整可能であり、それによって、前記電磁放射線との前記相互作用を調整する、共振構造体を含む、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記誘電体層が、前記第1の表面の反対側の第2の表面を有し、
前記デバイスが、前記誘電体層を通って伝搬した電磁放射線を反射し、前記誘電体層に戻して前記誘電体層内に共振を形成するために、前記第2の表面上に配置された反射導電層を更に含む、請求項17又は18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記支持層が、ガラス繊維及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)複合材料から構成されている、請求項12~19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
前記電磁放射線が、1GHz~3THzの周波数を有する、請求項12~20のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
前記電磁放射線が、100GHz~3THzの周波数を有する、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記電磁放射線が、100GHzを超える周波数を有する、請求項12~22のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項24】
前記金属層が、金から構成されている、請求項12~23のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項25】
前記金属層が、前記金属層における前記電磁放射線の表皮深さよりも厚い、請求項12~24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
前記グラフェン層が、前記金属層を超えて延在して、前記支持層に直接付着する、請求項12~25のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
前記グラフェン層が、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記ギャップ、及び
前記金属層の周囲の領域のうちの1つ以上において、前記支持層に直接付着する、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
デバイスであって、
第1の表面を有する支持層と、
前記第1の表面上に配置された金属層と、
前記金属層上に配置されたグラフェン層と、を含み、
前記金属層及び前記グラフェン層が、二重層を形成し、
前記グラフェン層が、前記金属層を超えて延在して、前記支持層に直接付着する、デバイス。
【請求項29】
前記支持層が、誘電体層である、請求項28に記載のデバイス。
【請求項30】
前記グラフェン層が、前記グラフェン層と前記支持層との間の吸着力によって、前記支持層に直接付着している、請求項28又は29に記載のデバイス。
【請求項31】
前記二重層が、電磁放射線との相互作用を前記二重層に提供するための1つ以上のトレンチを含み、
前記1つ以上のトレンチが、前記グラフェン層及び前記金属層を通って延在する、請求項28~30のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項32】
デバイスを製造するための方法であって、前記方法が、
支持層上に金属層を配置することであって、前記支持層の領域が露出している、配置することと、
前記金属層上にグラフェン層を配置して、前記金属層及び前記グラフェン層を含む二重層を形成し、前記支持層の露出領域に前記グラフェン層を直接接触させることと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月14日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2021/901438号からの優先権を主張し、その内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、電磁放射線と相互作用するチップ、及びチップを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電磁放射線を吸収する広範なアンテナ及び他のデバイスは、様々な異なるアプリケーションシナリオで使用可能だが、設計上の課題が依然として残っている。具体的には、デバイスによる吸収対象である電磁放射線の周波数が高くなると、従来の設計は役に立たなくなる。すなわち、主に、従来のアンテナで使用されている金属導体は高周波数で損失が多くなり、したがって、有効性の低下につながるため、デバイスによって吸収される電磁放射線からのエネルギーの量が不十分になる。
【0004】
テラヘルツ(THz)の範囲では、電磁放射線を吸収することをシミュレーションにおいて示す新材料及びデバイスの理論的設計があるが、それらの製造は依然として困難である。結果として、使用可能な実験結果及び例示的な物理アンテナはほとんどない。したがって、調整可能性又は再構成可能性を備えた、有効であり、かつ物理的に実現可能な設計を有する、吸収体が求められている。
【0005】
本明細書に含まれている文書、行為、物質、デバイス、物品などの任意の議論は、これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術基盤の一部を形成するか、又は添付の特許請求の範囲の各々の優先日の前に存在していたために、本開示に関連する分野における共通の一般的知識であることを認めるものとはみなされない。
【0006】
本明細書全体を通して、「備える(comprise)」という語、又は「備える(comprise)」若しくは「備える(comprising)」などの変形は、述べられた要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を除外することを意味しないと理解されるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、例えば、サブテラヘルツ波長範囲の電磁放射線と相互作用するデバイスを提供する。開示されたデバイスは、吸収などの周波数選択性相互作用のための金などの金属性導電材料と、調整可能性のためのグラフェンと、からなる二重層によって覆われた、誘電体層を備える。二重層を一緒にパターン化して、導電性金属及びグラフェン上に重ね合わせたパターンを提供する。結果として、チップは、グラフェンに印加されるバイアス電圧を調整することによって、調整可能な振幅及び周波数で相互作用を提供し、1番目に導電性金属を堆積させ、2番目にグラフェンを堆積させ、次いで、2ステップエッチングプロセスによって両方をパターニングすることによって、製造することができる。更に、いくつかの領域では、グラフェンは誘電体層と直接接触し、グラフェンのチップへの改善された接着性がもたらされる。
【0008】
デバイスを製造するための方法は、
パターン化されていない金属層を含む基板上に、パターン化されていないグラフェン層を配置して、基板の表面に付着したパターン化されていないグラフェン-金属二重層を形成することと、
1つ以上の重畳トレンチを含む設計で、グラフェン層及び金属層を通して二重層をパターン化することと、を含み、
1つ以上のトレンチの各々が、グラフェン層及び金属層を通って延在して、電磁放射線との相互作用を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、パターン化することは、設計を画定する単一のマスクを使用して実行され、それによって、単一のパターン化ステップで、グラフェン層及び金属層を通してトレンチを作成する。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法は、グラフェン層のエッチング及び金属層のエッチングの両方を実行するために単一のマスクを使用することを更に含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本方法は、
グラフェン層を第1のエッチング剤でエッチングすることと、
グラフェン層をエッチングした後、金属層を第2のエッチング剤でエッチングすることと、を更に含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、グラフェン層をエッチングすることは、酸素プラズマの使用を含み、金属層をエッチングすることは、アルゴンプラズマの使用を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、本方法は、基板上にパターン化されていない金属層を配置することを更に含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、本方法は、第1の電極及び第2の電極を画定するために、金属層内にギャップを作成することを更に含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、ギャップを作成することは、金属層上でマスクを使用し、金属層をエッチングすること、又は指向性ビームを使用することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、ギャップは、基板上にパターン化されていないグラフェン層を配置する前に作成される。
【0017】
いくつかの実施形態では、本方法は、パターン化中又は後に、酸素プラズマでデバイスを洗浄することを更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、二重層をパターン化することが、指向性ビームを使用して、二重層のグラフェン層及び金属層内に1つ以上のトレンチを作成することを含む。
【0019】
デバイスは、
第1の表面を有する支持層と、
第1の表面に付着した金属層及び金属層上に付着したグラフェン層を含む、パターン化されたグラフェン-金属二重層であって、二重層が、グラフェン層及び金属層を通って延在して、電磁放射線との相互作用を提供する、1つ以上の重畳トレンチを含む、パターン化されたグラフェン-金属二重層と、を含み、
重畳トレンチが、二重層をパターン化することによって、グラフェン層及び金属層にわたって整列し、
金属層が、1つ以上の重畳トレンチを含む第1の電極と、第2の電極と、を画定するためのギャップを含み、
第1の電極が、グラフェン層によって第2の電極に接続されて、第1の電極と第2の電極との間に、かつ第1の表面に平行なグラフェン層にわたって印加された電圧を変更することによって、調整可能性を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態では、第2の電極は、グラフェンの上にある。
【0021】
いくつかの実施形態では、1つ以上のトレンチは、アレイを画定し、アレイは、二重層にわたって延在する。
【0022】
いくつかの実施形態では、アレイは、デバイスによる電磁放射線との相互作用を提供するための周期的な設計である。
【0023】
いくつかの実施形態では、パターン化された二重層が、メタマテリアル構造体を形成する。
【0024】
いくつかの実施形態では、支持層は、誘電体層である。
【0025】
いくつかの実施形態では、デバイスは、誘電体層を含む共振構造体であって、グラフェン層にわたって印加された電圧によって調整可能であり、それによって、電磁放射線との相互作用を調整する、共振構造体を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、誘電体層は、第1の表面の反対側の第2の表面を有し、
デバイスは、誘電体層を通って伝搬した電磁放射線を反射し、誘電体層に戻して誘電体層内に共振を形成するために、第2の表面上に配置された反射導電層を更に含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、支持層が、ガラス繊維及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)複合材料から構成されている。
【0028】
いくつかの実施形態では、電磁放射線は、1GHz~3THzの周波数を有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、電磁放射線は、100GHz~3THzの周波数を有する。
【0030】
いくつかの実施形態では、電磁放射線は、100GHzを超える周波数を有する。
【0031】
いくつかの実施形態では、金属層は、金から構成されている。
【0032】
いくつかの実施形態では、金属層は、金属層における電磁放射線の表皮深さよりも厚い。
【0033】
いくつかの実施形態では、グラフェン層は、金属層を超えて延在して、支持層に直接付着する。
【0034】
いくつかの実施形態では、グラフェン層は、
第1の電極と第2の電極との間のギャップ、及び
金属層の周囲の領域のうちの1つ以上において、支持層に直接付着する。
【0035】
デバイスは、
第1の表面を有する支持層と、
第1の表面上に配置された金属層と、
金属層上に配置されたグラフェン層と、を含み、
金属層及びグラフェン層が、二重層を形成し、
グラフェン層が、金属層を超えて延在して、支持層に直接付着する。
【0036】
いくつかの実施形態では、支持層は、誘電体層である。
【0037】
いくつかの実施形態では、グラフェン層は、グラフェン層と支持層との間の吸着力によって、支持層に直接付着している。
【0038】
いくつかの実施形態では、二重層は、電磁放射線との相互作用を二重層に提供するための1つ以上のトレンチを含み、
1つ以上のトレンチが、グラフェン層及び金属層を通って延在する。
【0039】
デバイスを製造するための方法は、
支持層上に金属層を配置することであって、支持層の領域が露出している、配置することと、
金属層上にグラフェン層を配置して、金属層及びグラフェン層を含む二重層を形成し、支持層の露出領域にグラフェン層を直接接触させることと、を含む。
【0040】
ここで、実施例を、以下の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】電磁放射線を吸収するためのチップを示す図である。
図2】更なる例示的なチップを示す図である。
図3】なお更なる例示的なチップを示す図である。
図4】チップを製造するための方法を示す図である。
図5】チップを製造するための別の方法を示す図である。
図6】反射配置におけるテラヘルツ時間領域分光法の実験設定を示す図である。テラヘルツ波は、単一ポートデバイスとして機能するグラフェン/金二重層メタ表面から反射される。
図7】0.2THz周波数選択性吸収体に組み込まれたグラフェン/金二重層メタ表面の概略図を提供する図である。上のパネルは、ユニットセル及びアレイ構造を示し、右下のパネルは、0.254mmのRogers5880LZ基板上のグラフェン/金構造を描写し、左下のパネルは、製造されたデバイスの画像を表示する。
図8図7の交差する黒色平面から示される、0.2THz周波数選択性吸収体の断面を示す図である。
図9】パターン108のSEM画像を示す図である。各クロスのアームの長さは、約100μmである。写真は、EHT=5kV、Mag=118X、WD=5.1mm、開口サイズ=30.00μmで撮影した。
図10図6の実験設定から得られた、S11パラメータを示す図である。0.2THz共振の5GHzの明確な周波数調整及び16dB(およそ97.5%)の振幅調整が、1~6Vの印加直流電圧で観察される。
図11】0V及び6Vの印加電圧に対する、デバイスの広帯域応答を示す図である。明確な共振及び広帯域変調が観察される。
図12】設計された0.2THz共振のS11パラメータを示し、5GHzの明確な周波数調整及び16dB(およそ97.5%)の振幅調整を示す図である。上下のパネルは、電圧接続の反転を表す。
図13】0.2THzモードの電圧特性を示す図である。ピーク位置、S11パラメータ、FWHM及びピーク面積は全て、3Vの印加電圧を超える領域における系統的変化を伴う非線形挙動を示す。
図14】吸収体の広帯域応答を示す図である。左のパネルは、金/グラフェン二重層メタ表面(赤)と、金のみの対応物(黒)との比較を提示する。0.2~0.6THzの全てのプラズモニックモードは、増加した損失及びわずかな周波数シフトで再現される。0.6THzを超えるモードは、二重層では再現されない。右のパネルは、印加電圧での二重層の全周波数応答を示す。周波数及び振幅調整は、広帯域変調に重ね合わせた各共振について観察される。
図15】0.2THzにおける金のみのメタ表面応答のシミュレートされたS11パラメータを示す図である。
図16】二重層の広帯域変調度を示す図である。印加電界でのこれらのモードの周波数シフトに起因する不連続性が、共振周波数で見られる。
図17】(a)グラフェン/金二重層メタ表面(下の線)と、その金のみの対応物(上の線)との実験的比較を示す図である。0.2THzの吸収は、増加した振幅及びわずかな周波数の赤方シフトで再現される。(b)グラフェン/金メタ表面のシミュレートされたS11パラメータ(下の線)と、その金のみの対応物(上の線)。共振振幅の増加及びモードの赤方シフトは、実験結果及びシミュレーション結果の両方で生成され、両者の間に強い一致が観察される。
【発明を実施するための形態】
【0042】
THz周波数帯域における電子システムは、通常、周波数逓倍、ヘテロダインミキシング及び増幅ネットワークに起因する、比較的高いスプリアストーン及び寄生的相互変調を伴う。利用可能な信号にほとんど減衰を与えずに、特定の周波数でこれらの望ましくない干渉を排除するための、最先端の周波数選択性吸収体が望まれている。それぞれの吸収振幅又は周波数は、寄生的干渉の予測不可能性を克服し、したがって、信号処理の柔軟性を大幅に増加させるために、電気的に調整可能である必要がある。しかしながら、適度に高品質の因子共振を有する電気的に調整可能な周波数選択性THz吸収体は、依然としてとらえどころがないままである。このような所望の高品質の共振を実現する上で可能性のあるアーキタイプは、本明細書に開示されるようなTHzメタマテリアルの領域にある。
【0043】
メタマテリアルは、サブ波長ユニットセルの周期的なアレイからなり、天然材料から得られない特性を呈する。このような構造は、結晶格子の周期性を模倣しており、電磁放射線の振幅、偏波、及び位相への応答の制御と、振幅、偏波、及び位相の操作とを可能にする。
【0044】
グラフェンは、それを次世代のTHz電子デバイスの有力な候補とする、独自の特徴を備えた、二次元(2D)材料であり、特徴は、(i)THz周波数で必要とされる、電場及び磁場への超高速応答を可能にする高電荷キャリア移動度、(ii)無質量ディラックフェルミオンとして振る舞う電荷をもたらす線形分散を有するディラックバンド構造であって、フェルミ準位及び、したがって、導電率は、外部場の適用で調整され得る。
【0045】
テラヘルツ放射
本開示は、THzの電磁放射線を吸収するためのパターン化されたデバイスチップを提供する。一般的な意味では、チップは、その上に特定の機能が実装された材料の小片である。多くの実施例では、チップは、同じ基板上に集積化されている機能要素用のキャリアとして使用される、誘電体基板を有する。多くのチップは、リソグラフィを使用して、シリコン基板上のデジタル処理チップとして製造されるが、他の用途及び基板も可能である。ここで、開示されたチップはまた、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの基板上でも製造され、機能要素は、チップによる電磁放射線の吸収を提供するために、基板上に適用される。一実施例では、基板は、Rogers5880高周波積層回路基板である。それは、ガラスマイクロファイバで強化されたPTFE複合材料であり、約70%のPTFEからなる。他の実施例では、基板は、PTFE、ポリイミド及び他のポリマー/プラスチック、又はサファイア、MgO、シリコンなどの可撓性基板であってもよい。開示されたチップは、サブミリメートル(サブミリ)波長帯域において特に有用であるが、より長い波長へ適用するための厳密な物理的制限はない。この意味では、開示されたチップは、ミリメートル又はより長い波で動作するように設計され得るが、他の技術は、提案されたチップをコストで凌駕することが予想される。したがって、主な適用領域は、サブミリ帯域にあると予想される。
【0046】
国際電気通信連合(ITU)は、極高周波(EHF)を、10~1mmの波長に関する30~300ギガヘルツ(GHz)として定義する。次いで、サブミリ波(Tremendously High Frequency、THF)は、0.3~3テラヘルツ(THz)の周波数として定義され、おおよそ、マイクロ波と赤外光との間の帯域を占有する。このようなITU定義内では、本開示のいくつかの実施例は、EHF周波数帯域の上端及びTHF周波数帯域を適用することが予想される。この帯域はまた、テラヘルツ帯域とも呼ばれており、0.1~10THzとして定義され得る。テラヘルツ帯域では、電磁放射線の吸収技術は初期の段階である。本明細書に開示されるいくつかの実施例は、テラヘルツ帯域内の電磁放射線を吸収することができる。しかしながら、本明細書に開示される原理は、テラヘルツ帯域外で適用され得ることに留意されたい。
【0047】
1つの例示的なアプリケーションは、モバイル通信の第6世代(6G)にある。現在の第5世代(5G)は、30~300GHzの帯域を占有しているが、将来の5G帯域及び6G帯域は、テラヘルツ帯域にあると予想される。ミリ帯域通信と同様に、テラヘルツ帯域は、基地局間で広帯域信号を伝送するための移動バックホールとして使用され得る。ファイバ又は銅の交換を行う別の場所は、農村環境におけるポイントツーポイントリンク、及びマクロセル通信である。
【0048】
更に重要なことには、テラヘルツ帯域は、ウィスパーラジオアプリケーションとしても知られている、近接通信で用いることができる。これには、回路基板及び伝達手段、ナノセンサ、並びに無線パーソナルエリアネットワーク(PAN)におけるワイヤリングハーネスが含まれる。次いで、コーディング、冗長性、周波数ダイバシティなどの重要な分野において、エラー率がゼロの大規模な帯域幅チャネルの形態で短距離通信を使用する、高分解能分光法並びに画像及び通信研究などの用途がある。
【0049】
チップ
図1は、THz帯域内の放射線などの電磁放射線と相互作用する(吸収を含むが、これに限定されない)ためのチップ100を示す。この文脈におけるチップは、薄型基板上で製造される小型電子デバイスである。一用途では、チップ100は、その相互作用として放射線を吸収するように設計されてもよく、したがって、電磁放射線の吸収体又は単に吸収体と呼ばれる。他の用途では、チップ100は、例えば、センサとして機能してもよい。なお更なる実施例では、チップ100は、反射、屈折、回折、及び偏向のために設計されている。全ての波-物質相互作用は、上記これら4つの相互作用に要約することができる。したがって、チップ100はまた、吸収、干渉、変調、ステアリング、透過、偏波、位相シフト、増幅、減衰、集束、及び潜在的に更なる相互作用のために設計されてもよい。本明細書で開示されるように、チップの幾何学的設計は、上記の機能のうちのどれが実装されるかを決定する。チップ100はそのままで示されているが、チップ100は、電気的接続によってインターフェースを取り、好適なケーシングでパッケージ化されてもよく、又は同じ基板上若しくは別個の基板上の他の構成要素と一体化されてもよいことを理解されたい。
【0050】
支持層
チップ100は、本明細書では誘電体層101とも呼ばれ、底面102と、底面102の反対側の上面103とを有する、支持層101を含む。本明細書に記載のいくつかの例では、上面103は、「第1の表面」と呼ばれ、底面102は、「第2の表面」と呼ばれている。誘電体層101は、チップ100によって吸収される電磁放射線に対して本質的に透明である、すなわち、低吸収を有する、様々な材料で作製され得る。典型的には、誘電体材料は、絶縁性であるか、又はほとんど電流を伝導しない。いくつかの実施例では、誘電体材料の誘電率は、
【0051】
【数1】
【0052】
以下であり得、散逸係数は、10GHzで0.002~0.003であり得る。セラミック、空気、及びポリマーを含む、広範な材料が使用され得る。誘電体層101は、例えば、SiO及びMgOなどのほとんどの金属酸化物、ガラス繊維又はサファイアなどの多くの誘電体材料から作製され得る。いくつかの実施例では、誘電体層101は、誘電体材料の複数の層を含み得る。誘電体層はまた、真空層であってもよいが、その場合、機械的配置は困難になり得る。他の実施例では、誘電体層101は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作製され、複合材料又は積層材料であり得る。本明細書で開示されるいくつかの実施例では、誘電体層101は、Rogers Corporation製のRT/duroid 5880LZ積層基板である。センサ100の製造時、以下でより詳細に説明されるように、誘電体層は、開始点として使用され得る。したがって、誘電体層はまた、本明細書では「基板」とも呼ばれている。
【0053】
反射層
チップ100は、誘電体層101を通って伝搬した電磁放射線を反射し、誘電体層101に戻して誘電体層101内に共振を形成するために、底面102上に配置された本質的に反射導電層である、接地電極104を更に含む。接地電極104は、アルミニウム、銅、及びその他などの金属を含む、様々な異なる反射導電性材料で作製されてもよい。別の実施例では、反射層は、グラフェン、又はグラフェン/金属二重層であり得る。接地電極104はまた、ドープ半導体で作製されてもよい。一実施例では、接地電極104は、良好な導電率及び製造の容易さの利点を有する、金で作製されている。使用時に、接地電極104は、接地又は別の基準電位に接続され得る。
【0054】
二重層
ともに二重層107を形成する、金属層105及びグラフェン層106もまた存在する。金属層105は、上面103上に配置され、スロットアンテナのアレイをパターン化することによって、底部反射層104による反射として誘電体層101内で共振している電磁放射線と相互作用するように構成されており、これは、グラフェン層306に電圧を印加することによって調整され得る。
【0055】
また、金属層105は、Ti/Au、Cr(クロム)、W(タングステン)、アルミニウム及び銅を含む、金属及び金属合金の範囲で作製され得る。本明細書で開示されるいくつかの実施例では、金属層103は金で作製されており、底部反射層104及び上部金属層105は同じ材料又は異なる材料で作製され得ることに留意されたい。金属層の厚さは、金属層における電磁放射線の表皮深さよりも大きく、例えば、金の場合、0.2THzで167nmである。表皮深さは、電磁波の振幅が、導体の表面で振幅の1/e未満に減衰された、表面からの深さである。
【0056】
上部金属層105上に配置されているのは、グラフェン層106である。グラフェン層106は、直流バイアス電圧で印加されたときの共振と、それによって、グラフェン/金属二重層メタ構造107の吸収と、に調整可能性を提供する。グラフェン層106が金属層105上に配置された結果として、金属層105及びグラフェン層106は、二重層107を形成する。「二重層」という用語は、本明細書において、グラフェン106及び金属105が、2つの部分、すなわち、金属層105及びグラフェン層106を有する単一の電極層を本質的に形成することを示すために使用される。金属層105及びグラフェン層106は、二重層107として、電磁THz放射線の吸収に特に有利であり、振幅及び周波数の調節可能性を有するという特性を有する、同じメタ構造又はメタマテリアルをともに形成する。メタ構造又はメタマテリアル(単にメタマテリアル構造体と呼ばれ得る)は、典型的には、天然に存在する材料には見られない特性を有するように操作された任意の材料である。グラフェン/金属二重層107などのメタマテリアル構造体はまた、特定の境界条件を通して電磁波の挙動を変調することができる、メタ表面を含んでもよい。
【0057】
金属層105及びグラフェン層106が二重層107を形成するので、二重層は連続しており、これは、単一の電極を形成することを意味する。これは、不連続である金属層及びグラフェン層からなる複数の島状構造が存在する、他の設計とは対照的である。このような島状構造は、別個のワイヤ又は他の手段によって接続され得るが、そのような場合、二重層は連続していない。ここで、金属層105及びグラフェン層106の両方は、連続した二重層として連続している(すなわち、途切れない)。換言すれば、パターン108は、二重層の一部が除去された空隙を含む。結果として、このような空隙は、連続した二重層に囲まれており、これは、二重層がパターンによって分割されていないことを意味する。幾何学的な意味では、パターンの周りの二重層の活性領域内の全ての点は、二重層のみを介して、その領域内の他の全ての点から到達可能である。すなわち、パターンの周りの二重層の活性領域内の任意の2点間にワイヤ又は他の構造は不要である。上記の開示を考慮すると、二重層が連続した相互作用層であると言及するのも妥当と考えられる。
【0058】
換言すれば、二重層は連続しており、パターン化の前に第1の表面のかなりの部分にまたがり、パターンの大部分を覆う。更に、二重層をパターン化した後、二重層は依然として連続しており、支持層の第1の表面のかなりの部分にまたがっている。二重層はまた、連続した調節可能な導電層を形成する基板の表面にわたる、結合された、又はしっかりと結合されたグラフェン-金属メタ構造も構成する。上から見ると、二重層が左から右に、並びに上から下に連続していることがわかる。二重層は、二重層の左端で始まり二重層の右端で終わる、途切れない/連続した線又は経路が存在するという意味で、左から右に連続している。二重層は、同じ意味で上から下に連続している。
【0059】
電圧がグラフェン層106に印加されると、グラフェン層106の導電率が変化する。この目的のために、デバイス100は、ギャップ111によって金属層105から分離又は隔離されている、電極110を含む。結果として、金属層105が第2の電極として機能し、電圧が電極110と金属層105との間に印加され得、二重層107に略平行な電界を生成する。グラフェン層106が、金属層106及び電極110に接続されていることに留意されたい。グラフェン層の導電率は、電磁放射線との相互作用のために十分に高いが、金属層105と電極110との間に電圧が生じることを可能にするのに十分に低い。すなわち、グラフェン層106は、電圧をゼロに強制する短絡を呈しない。いくつかの実施例では、グラフェン層106の抵抗は、数十オーム(10~100Ω)の範囲にある。このような挙動は、完全(垂直)接続炭素原子の層とは対照的に、グラフェン層106を形成する転位グラフェンシートによって支持され得る。
【0060】
グラフェンは、六角形格子状のsp結合炭素原子の二次元層のシートである。グラフェンのキャリアダイナミクスは、久保形式によって表されたバンド内電子遷移によって支配されている。これらは、超高速キャリア移動度(低温で最大200000cm-1-1)を生成し、シリコン(1400cm-1-1)で観察される値をはるかに超えている。更に、グラフェンのフェルミ準位Eは、外部電界を介して制御され得る。このように、グラフェン膜の複素導電率は、印加電圧で調整され得、これは、本明細書に開示される調整可能性を提供する。
【0061】
「グラフェン層」という用語は、層がグラフェンを含有するが、グラフェン層が、単一原子厚を有するグラフェンの単層とは限らないことを意味する。その意味では、グラフェン層は、単層(単層のグラフェン)、数層(1~100層のグラフェン)、又は多層(100層より多いグラフェン)であり得る。一実施例では、グラフェン層106は、約50層のグラフェンを有する。上記の「層」は、同義的にシートと呼ばれ得る。金属層105以外に、デバイスに含まれる基板又は支持体はないことに留意されたい。
【0062】
パターン化された二重層
二重層107は、チップによる電磁放射線との相互作用を提供するために、パターン108によってパターン化されている。パターンは、重畳トレンチ又は重畳トレンチのアレイであると考えることができる。重畳トレンチは、二重層を同時にパターン化することによって、グラフェン層及び金属層にわたって整列し得る。換言すれば、重畳トレンチは、二重層を同時にパターン化することによって、金属層及びグラフェン層の境界を超えて整列される。1つ以上のトレンチの各々は、グラフェン層及び金属層を通って延在して、チップによる電磁放射線との相互作用を提供する。「トレンチ」という語は、材料又は構造を通って延在する、垂直壁及び長尺寸法を有する材料又は構造の比較的狭い開口部を指すために使用される。トレンチは、材料の垂直な「切り欠き」と考えられ得るが、一方、本開示では、重畳トレンチは、この構成に限定されない。本開示では、トレンチは、二重層を通って延在する任意の形状又は設計であり得る。このことはまた、グラフェン層及び金属層にトレンチ又は切り込みをもたらし、単一の設計として重畳をもたらす、二重層のパターン化としてもみなされ得る。トレンチはまた、「スロット」としてもみなされ得る。
【0063】
パターン化された二重層はまた、誘電体基板の第1の表面のサブ領域である活性領域又は相互作用領域も画定し得る。この活性領域は、重畳トレンチを含有する領域にわたる二重層により、電磁放射線との相互作用が生じる領域である。
【0064】
図1の番号109で見られるように、パターン108は、グラフェン層106及び金属層105を通って延在する。このことは、パターンが、二重層107を通って誘電体層(101)に至るまでずっと延在することを意味する。結果として、グラフェン層106のパターン及び金属層(105)のパターンが、二重層107を通して単一のパターンとして互いに重畳する。金属層及び金層の両方は、二重層の形成後にのみパターン化される。
【0065】
「少なくとも部分的に」という用語は、パターンが、チップ100上のあらゆる所で二重層107を通って延在する必要がないことを意味する。図1の実施例では、基本的に以下の3つの領域がある。(1)パターン108は、クロス形状が作成される二重層107全体を通って延在し、(2)111において、グラフェン層は、基板101の上に延在し、(3)電極110は、金属層の別個の領域によって形成される。
【0066】
本明細書における「パターン」という用語は、一般に、他の領域と比較して、材料が存在する又は存在しない領域、形状、又はジオメトリを指すことに留意されたい。これは、それらの領域に材料を追加又は削除することによって達成され得る。多くの実施例では、使用される製造プロセスのために、第1のステップは、金属/グラフェン二重層107などの材料の連続層を堆積させ、次いで、画定された領域で材料を除去して「パターン」を作成することであり得る。「パターン」という用語は、必ずしも繰り返しの又は規則的なものに関するわけではないことに留意されたい。それどころか、「パターン」は、完全に不規則であり得る。典型的には、パターンは、物理的なレイアウトとしてコンピューター支援設計(CAD)ツールを使って設計され、シミュレートされ、次いで、マスクを用いたリソグラフィなどの製造プロセスを使用して実現される。この意味では、デバイスを製造することは、1つ以上の重畳トレンチを含む設計で、同時にグラフェン層及び金属層を通して二重層をパターン化することを含み得る。
【0067】
いくつかの実施例では、パターンは、図1に示すように、周期的な2Dアレイ構造を含む。これには、図1のエルサレムクロスなどの、同一構造の規則的な繰り返しを伴い得る。このような周期構造の結果として、パターンは、材料の原子構造と電磁放射線との相互作用を模倣する。しかしながら、そのような材料は、大抵の場合、そのような材料として存在しない。したがって、そのような場合、パターン化された二重層は、メタマテリアルと呼ばれている。
【0068】
共振器アンテナ
本質的に、チップ100は、誘電体共振器アンテナ(DRA)を提示し、電波は、パターン108スロットの開口部を通って誘電体層101に入り、次いで、反射層104と二重層107との間を何回も往復し、定在波を形成する。その定在波の周波数、したがって吸収周波数は、二重層107及び設計されたメタ構造108の材料特性によって決まる。換言すれば、誘電体層の厚さは、その誘電率とともに、設計されたメタ構造の共振器周波数を決定する。誘電体層101の厚さ及び誘電率、並びに反射層104の材料特性は、動作中に変化しないが、二重層107の材料特性は、上記で考察されたように、グラフェン層106、すなわち、電極110と金属層105との間に電圧を印加することによって調整され得る。
【0069】
調整
電極110と金属層105との間の電圧は、グラフェン層106の導電率を変化させ、したがって、チップ内への電磁波のインピーダンス整合を変化させ、共振挙動を変化させる。換言すれば、デバイスは、RLC共振構造体を表し、グラフェン層106が、抵抗Rを表し、コネクタ及び金属層が、インダクタンスLを形成し、誘電体層101及び接地電極104が、静電容量Cを表す。電極110と金属層105との間へ電圧を印加することは、抵抗Rを変化させる。その結果、グラフェンの導電率の変化は、電磁波のバンド内吸収を変化させ、デバイスを通る広帯域相互作用を変化させる。
【0070】
換言すれば、デバイスは、誘電体層を含む共振構造体であって、グラフェン層にわたって印加された電圧によって調整可能であり、それによって、電磁放射線との相互作用を調整する、共振構造体を含む。一実施例では、共振構造体は、2つの電極の間に挟まれた誘電体層からなる。グラフェン/金属二重層メタ表面の導電率は、バイアス電圧を変化させることによって(電極に印加される電圧を変化させることによって)調節可能であり、共振特性(ピーク、周波数、Q因子など)を変化させる。
【0071】
電極110は、製造を簡素化するために、導電性材料で、有利には、金などの金属層105と同じ材料で作製され得る。一実施例では、電極110は、トレンチ又はギャップなどの開口部111によって、金属層105から分離されている。この意味では、金属層105は、電磁放射線と相互作用するための1つ以上のトレンチを含む第1の電極と、バイアス電圧を印加するための第2の電極と、を画定するための開口部(又はギャップ)を含む。第1の電極は、二重層の一部である電極に対応し、したがって、パターン化(重畳トレンチ)を含有する。開口部111によって画定された第2の電極は、電極110に対応する。開口部111が第1の電極及び第2の電極を分離しているにも関わらず、第1の電極は、グラフェン層106によって第2の電極に接続されている。これにより、第1の電極と第2の電極との間に、かつ基板の第1の表面に平行に電圧を印加することが可能になり、これにより、グラフェンの導電率の調整が可能になる。図1は、バイアス電圧が回路112によってどのように印加されるかを示す。第1の表面に平行とは、電極間の電界のベクトル(等電位線)が、第1の表面に略平行であることを意味する。すなわち、電界が一般的に並んで位置する2つの電極の間にある限り、電界ベクトルと第1の表面との間に小さな角度はあり得る。このことは、金属層105と接地電極104との間の電界など、第1の表面と交差する電界とは対照的である。
【0072】
一実施例では、開口部111のために、グラフェン層106は、支持層に直接付着することができる。結果として、グラフェン層106は、グラフェンと支持層との間に力(ファンデルワールス力など)を確立することができるので、デバイスに強く付着する。このような力は、吸着力とも呼ばれ得る。このことは、グラフェン層106が、開口部111を介した支持層への直接付着に起因してデバイスに強く付着するので、金属層105が支持層により良好に付着することを可能にする。
【0073】
開口部111は、マスクによって開口部111を画定しながら、電極110と同時に金属層105を形成することによって、製造することができる。一実施例では、開口部111は、金属層上でマスクを使用し、金属層をエッチングすること、又は指向性ビームを使用することによって、形成され得る。集束イオンビームなどの指向性ビームを使用することは、開口部111を作成するためにマスクを必要としない。本実施例では、開口部111は、基板上にパターン化されていないグラフェン層を配置する前に作成される。
【0074】
電極110と金属層105との間の距離、すなわち、ギャップ111の幅は、105から110への放電が生じない限り、非常に小さくできる。いくつかの実施例では、距離は3~4mmであるが、100nm程度と小さくすることができる。
【0075】
別の実施例では、金属層をエッチングすることによってギャップを作成することとは対照的に、電極110は、グラフェン層106の上に形成されてもよい。バイアス電圧は、依然として、電極110と、グラフェンの導電率を調整するために使用される二重層の一部を形成する電極との間に作成され得る。本実施例は、第1の表面に平行な電圧とも呼ばれている。本実施例では、電極110は、グラフェン層上でマスクを使用し、デバイス上に金属を堆積させることによって形成されてもよい。金属は、例えば、スパッタリング技術を使用して、デバイス上に堆積され得る。結果として、電極110は、依然として、第1の電極(二重層を形成する金属層の一部)及び第2の電極(電極110)を画定するギャップを有する金属層の一部としてみなされ得る。この意味では、ギャップは、第1の電極及び第2の電極を互いに絶縁するような方法で画定される。この画定は、同様に、開口部111が第1の電極及び第2の電極を画定する実施例に適用される。電極110がグラフェン層の上にある実施例では、第1の電極及び第2の電極は、垂直に重なってもよく、又は2つの電極の間に水平分離があってもよい。
【0076】
なお更なる実施例では、グラフェン層106の上に2つの電極を形成することができ、同様に、グラフェン層106の各側面に1つの電極を形成することができる。しかしながら、本実施例は、一部の電磁放射線がグラフェン層の上に配列された金属電極によって反射されるので、デバイスと電磁放射線との相互作用の減少につながり得る。このような構成はまた、バイアス電圧でグラフェン層を調整する能力を低下させ得、第1の電極がグラフェン層に容易に付着しないため、製造が困難となり得る。
【0077】
チップ100は印加電圧によって調整されるので、吸収特性を急速に変化させることができる。例えば、チップ100は、QPSK変調スキームを使うなどして、通信用のデータシンボルを抽出するために、受信した電磁放射線をベースバンドに復調するための変調周波数に基づいて、調整され得る。
【0078】
パターン108は、所望の電磁波をフィルタリングするように設計され得る。パターンのサイズ及び形状は、特定の偏波又は特定の波長の波が透過する一方で、他の波がチップ100を離れて反射されるように選択することができる。パターン108は、スロットアンテナの原理と同様に、波が透過し得る方向を更に決定し、その場からの設計方法論は、ここで、設計パターン108に適用され得る。
【0079】
グラフェン層106及び金属層105の両方が一緒にパターン化されると、金属層105をパターン化し、金属層105の上にパターンのない連続したグラフェン層を配置するだけの場合と比較して、電磁放射線の吸収が著しく増加することが見出されている。しかしながら、最初に金属層105をパターン化し、次いでグラフェンをパターンに追加して、同じパターンがグラフェン層106に作成されるようにすることは、グラフェンの厳しい取り扱い特性のため、達成することが非常に困難である。提案された解決策は、現実的な製造プロセスで容易に複製することができるパターン化された二重層(金属層及びグラフェン層を含む)をもたらす方法を提供する。
【0080】
上記の実施例のいくつかは、誘電体層101及び接地電極104を伴う共振構造体を使用するが、他の実施例は、電磁放射線との相互作用を実現するための他の効果を使用し得る。例えば、1THzを超えるより高い周波数では、二重層107の表面上のプラズモン共振が相互作用の主な要因であり得、誘電体層101及び接地電極104は必要ではない場合がある。それにも関わらず、プラズモン共振などの相互作用は、依然として、グラフェン層106にわたって電圧を印加することによって調整することができる。結果として、二重層の適用可能性の全範囲は、1GHz~3THzであり得、100GHz~3THzの範囲内の他のアプローチよりも具体的な利点がある。換言すれば、開示されたアプローチは、100GHzを超えると特に有用である。
【0081】
付着領域
図2は、上記のような誘電体層201を含み、底面202及び上面203を有する、更なる例示的なチップ200を示す。また、反射導電層204は、電磁放射線を反射し、共振を促進するために、底面202上に配置されている。金属層205は、上面203上に配置されており、かつ誘電体層201内で共振している電磁放射線を吸収するように構成されている。グラフェン層206は、共振と、それによって、金属層205の吸収と、に調整可能性を提供するために、金属層205上に配置されている。図1を参照して説明するように、金属層205及びグラフェン層206は、二重層207を形成する。図2の本実施例では、金属層205が誘電体層201上に延在していない領域212が存在する。これは、その領域上に金属を堆積させないことによって、又は金属を堆積させた後に、その領域から金属を除去することによって、達成され得る。いくつかの実施例では、領域212は、金属層205の開口部とみなされ得る。実際には、領域212では、誘電体層201が金属層205によって覆われていないため、誘電体層201が露出している。結果として、グラフェン層206は金属層205を覆い、グラフェン層206は金属層205を超えて延在する。結果として、グラフェン層206は、誘電体層201に直接付着する。
【0082】
物理的に、このことは、グラフェン層206の炭素(C)原子が、誘電体層の原子に非常に近接していることを意味する。一実施例では、この近接性は、短距離ファンデルワールス力がグラフェン層206を金属層201に引き付けるように十分に近い。このことは、グラフェンが非常に規則的な構造体であり、高密度のC原子を提供し、原子の各々が単一原子に対しては非常に弱いであろう引力を加えるため、グラフェンにとって特に有用である。一実施例では、C原子と誘電体層201の原子との間の距離は、1nm未満、又は0.6nm~0.4nmである。
【0083】
誘電体層201に直接付着することは、グラフェン層206が誘電体層と直接接触しており、これは、グラフェン層206と誘電体層201との間に、接着剤などの他の物質がないことを意味する。結果として、ファンデルワールス力は、グラフェン層206を誘電体層201から遠ざけることによって克服することができるため、グラフェン層206及び誘電体層は不可分ではない。しかしながら、これは逆転させることができ、グラフェン層206は、両方の層を再び直接接触させることによって、再度付着する。
【0084】
グラフェン層206と誘電体層201との間の引力の結果として、グラフェン層206は、チップ200から剥がれる可能性が低い。特に、グラフェン層206が誘電体層201に直接付着しており、これらの領域がチップ200にわたって分布し得る、複数の領域を設計することが可能である。このようにして、グラフェン層206は、複数の点で付着しており、これは、グラフェン層206の確実な機械的接続を提供する。金属層206は導電性であり、したがって、ファンデルワールス力は有意な引力を提供しないことに留意されたい。結果として、グラフェンが金表面を剥がすことが観察されており、これにより、後続の処理がほとんど不可能となる。提案されたチップは、グラフェン層をよりしっかりと固定することによって、その問題に対する解決策を提供する。
【0085】
結果として生じる二重層207は、比較的確実な機械的接続の利点を有し、グラフェン層206がパターン化中に剥がれる危険性が低いため、二重層207をパターン化することが著しく容易になる。具体的には、グラフェン層及び金属層205を通って誘電体層101に至るまでずっと延在する二重層207上に、図1に示すようなパターンを作成して、電磁THz放射線の吸収体を作成することが可能である。
【0086】
図3は、金属層305内のギャップ111が、図1を参照して説明するように、グラフェン層306が誘電体層301に直接付着する露出領域312を画定するために使用される、なお更なる実施例を示す。その意味では、ギャップ111は、電極110と金属層305との間の絶縁距離として、並びにグラフェン層306を誘電体層301に固定するための「付着領域」として、2つの目的を達成する。チップの他の側面に更なる付着領域を提供することによって、機械的付着を更に改善することができる。図3では、参照番号313、314は、金のスパッタリングプロセスでマスクを使用することによって製造することができる、金属層305の潜在的な境界を示す。グラフェン層306がこれらの境界313、314上に延在する場合、グラフェン層306は、誘電体層301に直接付着している。図3の実施例では、境界313、314、及び、したがって、付着領域は、チップ200の周囲にある。本明細書では、誘電体層301は、図1を参照して説明するグラフェン層及びパターン108よりも有意に大きくてもよいことに留意されたい。結果として、金属層305によって画定されるように、誘電体層301の非常に小さな領域のみが、電磁放射線の吸収に積極的に寄与する。次いで、グラフェン層306は、金属層305の周囲の誘電体層301に直接付着している。
【0087】
チップの一端に第3の境界315がある。しかしながら、本実施例では、金属層305は、その境界を越えて、かつグラフェン層306を越えて延在するため、金属層305は、露出したままである。このことは、金属層305に電気接点を追加して、ギャップ111の他の側面の金属層305と電極110との間にバイアス電圧を印加するのに有用である。換言すれば、金属層305が露出している領域は、接触領域と呼ばれ得る。接触領域及び付着領域の様々な異なるレイアウトが存在し得ることに留意されたい。具体的には、接触領域は比較的小さいが、付着領域は不連続であり得、チップ中に散在され得る。付着領域及び接触領域の異なるレイアウトは、個別に及び組み合わせて、チップ100、200、及び300、並びに他の実施形態に適用される。
【0088】
グラフェン転写
チップ100、200、及び300に適用される一実施例では、グラフェンは、最初に、化学蒸着を使用して別個に成長し、次いで、金属層305に転写される。これは、熱剥離テープを使用することによって、又はポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)を使用することにより、グラフェンを金属層305に転写することによって達成することができる。PMMA法は、支持体としてグラフェン上にPMMAの層をスピンコーティングすることを含む。次いで、グラフェンが成長する金属触媒がエッチング除去される。次いで、PMMA/グラフェンスタックは、グラフェンが金属層305に面した状態で、金属層305上に転写され得る。次いで、PMMAを溶媒によって除去することができる。詳細は、以下に記載される。
【0089】
一実施例として、前の段落の方法を伴わない、異なるタイプのグラフェンを使用することができる。しかしながら、異なるグラフェンタイプが使用される場合、第2の電極は、導電率を調整するためにグラフェンにわたってバイアス電圧を印加するために、グラフェンの上に配列される必要があり得る。このことは、金属層をエッチングすることによって金属層から第2の電極を画定するための開口部111(又は、ギャップ)を作成することとは対照的である。
【0090】
製造方法
図4は、図1のチップ100などのチップを製造するための方法400を示す。これは、チップ製造の主要原理を説明するために使用される、チップの製造方法の一実施例である。しかしながら、チップの製造は、ここで提示される例示的な方法に限定されない。
【0091】
チップは、誘電体基板上に金属層105を配置すること(401)によって、製造される。これは、スパッタリング又は熱蒸着によって達成することができる。金属層105は、所望の形状に成形されてもよく、有利には、誘電体層101のいくつかの領域を露出させたままにしてもよい。
【0092】
一実施例では、金属層を誘電体基板上に堆積させる必要がない、金属素材層/誘電体基板構成が得られ得る。次いで、この構成に対して進行中の製造を実行して、チップを得ることができる。しかしながら、誘電体基板上に金属層を配置することは、金属層105が所望の形状であるなどの利点を有する。そのような利点は、チップの特定の使用に有用であり得る。したがって、チップを製造するために金属素材層/誘電体基板構成を使用することは、必ずしも望ましいとは限らない。
【0093】
次のステップは、グラフェン層106を金属層105上に配置することである(402)。これにより、二重層107と接地電極104との間の共振が、グラフェン層106に電圧を印加することによって調整され得るという意味で、金属層105及びグラフェン層106を含む二重層107を形成する。次いで、二重層107は、チップによる電磁放射線の吸収を提供するために、パターン化される(403)。パターン化は、フォトレジスト(マスク)を用いて実行され、次いで、酸素プラズマを適用してグラフェン層106をエッチングし、続いて、その下の金属層105のアルゴンエッチングを行うことができる。フォトレジストは、二重層パターンを形成する1つ以上の重畳トレンチの形状を画定する。結果として、パターンは、少なくともパターンの一部で、グラフェン層106及び金属層105を通って誘電体層105に至るまで延在する。換言すれば、1つ以上の重畳トレンチを含む設計で、グラフェン層及び金属層を通して二重層を同時にパターン化する。二重層が一緒にエッチングされ、後続のエッチングステップ中に分離しないことに留意することが重要である。
【0094】
別の実施例では、グラフェン層106は、誘電体基板上に堆積されてもよく、次いで、金属層105は、グラフェン層106上に堆積されてもよい。この構成は、依然として二重層を構成し、二重層は、本明細書に記載の方法を使用してパターン化され得る。本実施例では、グラフェン層を誘電体基板上に堆積させる必要がない、グラフェン素材層/誘電体基板構成が得られ得る。次いで、金属層106は、グラフェン層上に堆積されて、二重層を形成し、次いで、二重層のパターン化が生じ得る。
【0095】
上述したように、二重層をパターン化することは、二重層をエッチングすることを伴い、二重層をエッチングすることは、グラフェン層を第1のエッチング剤でエッチングすることと、グラフェン層をエッチングした後、金属層を第2のエッチング剤でエッチングすることと、を含む。一実施例では、第1のエッチング剤及び第2のエッチング剤は、同じエッチング剤である。具体的には、エッチング剤は、酸素プラズマ及びアルゴンプラズマの混合物であり得る。この意味では、二重層は、単一のエッチング剤を使用して同時にパターン化される。第1のエッチング剤及び第2のエッチング剤が異なっていても、二重層をパターン化するプロセスは、依然として同時とみなすことができる。例えば、酸素プラズマを使用してグラフェンをエッチングし、アルゴンプラズマを使用して金属層をエッチングする場合、まず酸素ガスをプラズマチャンバ内に導入してチップを保持する。ガスをプラズマにすることによってグラフェンをエッチングした後、酸素ガスがプラズマチャンバに入るのを止め、アルゴンガスを導入する。二重層をパターン化する本プロセスは、二重層を有するチップがプラズマチャンバを離れることなく、マスクがチップ上に残るため、同時とみなされる。
【0096】
別の実施例では、二重層パターンはまた、集束イオンビーム(FIB)又はレーザー切断などの、直描作製方法又はリソグラフィ技術によって形成することもできる。換言すれば、二重層をパターン化することは、指向性ビームを使用して、二重層のグラフェン層及び金属層内に1つ以上のトレンチを作成することを含む。本実施例では、パターン設計は、物理マスクを使用する必要なく、自動制御ソフトウェアに書き込まれる。
【0097】
図5は、図2のチップ200又は図3のチップ300などのチップを製造するための方法500を示す。チップは、チップ200による電磁放射線の吸収を提供するために、誘電体基板201上に金属層205を配置すること(501)によって、製造される。誘電体基板201は、誘電体層の領域212上に露出している。次いで、グラフェン層が金属層205上に配置され(502)、金属層205及びグラフェン層206を含む二重層を形成し、グラフェン層206を、グラフェン層206が露出領域212上に延在する誘電体層201と直接接触させる。
【0098】
例示的なチップ
本開示は、グラフェンの成長、転写、デバイスの製造、及び特性評価のための方法を提供する。0.2THzの設計周波数で動作する調整可能な周波数選択性吸収体を実装した。調整可能性は以下の3つに関する。(1)設計されたプラズモニックモードの共振振幅、(2)プラズマ共振の周波数調整、及び(3)0.1~1THzの利用可能な範囲全体にわたる広帯域変調。注目すべきは、デバイスの活性領域は、グラフェン/金メタ表面二重層からなり、金は、グラフェンの固体調整可能性から補完される、強い共振応答を示す。例示的なデバイスは、高周波通信デバイス用に合わせた市販のRogers5880積層体上に構築されている。本開示は、設計されたメタ表面にグラフェン自体がパターン化されている、大面積グラフェンTHzデバイスの実験的な実現を提供する。
【0099】
本開示は、広範囲にわたる調整可能なTHzメタ表面デバイスを実現するために使用され得る。提示されたアプローチは、多くの異なる基板上の多くのメタ表面設計に適合させることができ、THz通信における広範な用途と、目的のために構築された非常に望ましい再構成可能THzコンポーネントの開発と、を実現する。
【0100】
図7は、接地された254μm厚のRogers 5880LZ基板上に周期的に配列されたエルサレムクロススロットからなる金薄膜パターンを特徴とする、0.2THzメタ表面ベースの共振吸収体の概略図を示す。接地されたメタ表面ユニットの第1の(0.2THz)共振モードでは、吸収体はRLC並列共振回路と同等であり、抵抗は、0.2THz帯域で2.3の損失正接を有する散逸性の金膜及びRogers基板から派生する。インダクタンス及び静電容量は、共振構造体によって決定される。結果として、提示された設計は、周波数選択性共振吸収体として機能することができる。この吸収体の応答は、有限要素法(FEM)解析を使用してシミュレートされた。
【0101】
設計されたエルサレムクロススロットユニットは、高品質の因子共振及びTHz放射線の入射角に対する不感受性を実現するのに有利である、450μm×450μmのコンパクトな寸法を特徴としている。THzメタ表面吸収体は、共振周波数で最大電力吸収が生じ、共振抵抗がTHz放射線の波動インピーダンスとよく一致する、RLC共振回路の等価物としてモデル化することができる。この場合、等価インダクタンス及び静電容量は、メタ表面構造体から生成され、対応する抵抗は、グラフェン/金二重層の導電率及びRogers5880基板の散逸特性から生成される。周波数選択性メタ表面吸収体の電磁気的挙動を調査し、その全体的性能を最適化するために、ソフトウェアCST Microwave Studioを使用して、詳細な三次元全波モデリング及びシミュレーションを実行する。
【0102】
モデル内では、グラフェンは、表面インピーダンスとして扱われ、THz時間領域分光法によって得られた複素導電率を通して定量化される(方法を参照のこと)。関心領域(0.1~0.3THz)における導電率の実部及び虚部は、それぞれ37mS及び10mSであることが観察された。補助測定は、およそ20%の複素導電率の両方の部分の調整を示した。
【0103】
良好なTHz吸収体デバイスを実現することには、図7に示すように、2つの態様がある。第一に、デバイスは、所望の特性を有する適切な基板上に構築される。このデバイスでは、市販のRogers5880LZ Duroidが、誘電率2.2の理想的な候補として選択された。第二に、グラフェン膜は、Rogers積層体だけでなく、メタ表面及び電気接点の金領域にも付着する。このことは、グラフェンの金への付着が難しいことで有名であるため、問題となる可能性がある。好適な膜を、Rogers5880/金ベース構造体にうまく転写した。グラフェン膜は、少なくとも3cm×3cmのサイズであり、高い均一性(最小限のしわ)と、空孔/欠陥がない状態と、からなる。膜又は空孔欠陥のしわは、その後の製造ステップで、デバイスの故障をもたらし得る。
【0104】
グラフェン膜を金及びRogers基板にうまく直接転写することにより、メタ表面領域(図7を参照のこと)を金及びグラフェンの両方に直接パターン化することを可能にした。このような製造アプローチ及び二重層メタ表面設計は、有利な特性を有する機能デバイスを可能にした。金及びグラフェン二重層のパターンを一緒にすることにより、金の部分は、プラズモン共振活性の大部分を支援し、一方、グラフェンは、デバイスに調整可能性を提供する。このような調整はまた、場を構築するための誘電体層、又はゲート電極を必要とせずに達成され、両方ともデバイス性能に有害である。
【0105】
更に、二重層の結果は、金及びグラフェンのメタ表面を分けて考えた場合のものを上回る。グラフェンがないと、金は調整できず、金がないと、グラフェンはプラズモニック共振を支援しない。このようなデバイスにとって、誘電体層を追加すること、又はパターン化されていないグラフェン膜を追加することは困難であるため、良好な二重層もまた重要である。金のスクリーンの上に誘電体を含むTHz場は、金メタ表面上に完全なグラフェンシートを追加しても、共振挙動を完全に減衰させることが観察された。実際には、完全なグラフェンシートが上に転写された金メタ表面については、プラズモニックモードの証拠は観察できなかった。
【0106】
興味深いことに、金メタ表面から二重層への採用では、0.1~0.6THzの全ての共振モードがデバイスで対応されていた。これは図2(c)に詳述される。重要なことには、これには、このデバイスが設計された、基本0.2THz吸光度が含まれる。各モードの周波数が極めてわずかにシフトし、モードの強度が増加した。金メタ表面に存在する0.6THzを超える高次モードは、二重層構造では抑制されている。しかしながら、これらは、この構造が設計された関心領域から十分距離を置いている。
【0107】
モードの周波数及び振幅のこのような変化にも関わらず、二重層メタ表面は、モードの強度、それらの共振エネルギー、及び総合的広帯域変調の高度な調整可能性をここで可能にする。選択吸収体の調整可能性を解析するために、デバイスは、対応するS11パラメータを有する単一ポートを含有すると想定される。そうすることで、図1(a)に図形で提示された時間領域THz分光設定でデバイスを特徴付けることができる。ここで、S11パラメータでは、入射電磁力に対する反射電磁力の比率は、時間領域分光設定で測定されたパワースペクトルを通して直接得ることができる。このプロセスは、方法のセクションに詳述される。
【0108】
図1(c)は、0~6Vの印加電圧のために、デバイスS11パラメータを与える。金メタ表面から金/グラフェン二重層への移行において、構造体の全体的な共振挙動は残っている。
【0109】
グラフェンメタ表面を含むことは、共振周波数を0.01THz減少させ、損失を18dBに増加させた。周波数のこのようなわずかなシフトは、金層及びグラフェン層の伝導率の相対的な差を考慮すると顕著である。したがって、二重層構造の慎重な製造により、金のみのデバイスの所望の特性を支援することができ、グラフェン含有物から調整する能力が追加される。
【0110】
電圧の増加とともに、デバイスの明確な調整可能性が示される。第一に、5dBの広帯域応答がピークショルダに反映される。第二に、7dBの共振モードの強化(12dBの総変化は両方の効果の集計である)があり、第三に、0~6Vの電圧範囲にわたる0.05THzの系統的周波数調整がある。
【0111】
デバイス性能の完全な電圧依存は、図2(a)及び(b)に更に詳述される。ここで、非線形のデバイスの応答を明らかにする。0~3Vの電圧については、ピーク位置、S11パラメータ、FWHM又はピーク面積のいずれにおいても、ほとんど又はまったく系統的変化は見られない。しかしながら、3~6Vでは、ピーク位置は0.192THzから0.187THzで、S11パラメータは-18dBから-25dBで、FWHMは0.017THzから0.010THzで、及びピーク面積は0.47から0.38でシフトする。図2(b)に提示されるSパラメータは、省略された広帯域応答と一致していることに留意すべきである。したがって、それらは、任意のより広い周波数効果とは無関係に、共振モードの直接的な強化を反映する。したがって、図1に示されるピーク強度の総変化は、グラフェン部分からの二重応答、すなわち、5~6dBの広帯域変調と、7dBの共振振幅の直接的な強化と、によって支配されている。したがって、広帯域グラフェン吸収からの信号の単純な減少ではなく、設計されたプラズモニック共鳴の直接増幅があると結論付けることができる。
【0112】
興味深いことに、FWHMは、電圧範囲にわたるピーク面積(21.2%)よりも強い減少(37.5%)を呈する。これは、印加された6Vで11.8から18.7まで増加するモードのQ値の改善に反映される。したがって、バイアスされたグラフェンは、共振モード内で失われるエネルギーを減少させる効果を有する。バイアスされたグラフェンは、吸収帯域を増幅するだけでなく、帯域幅を減少させてその品質を向上させる。
【0113】
デバイスの周波数調整はまた、非線形特性にも従う。共振周波数は、より低い光子エネルギーへのシフトが観察される3Vを超えるまで、一貫している。0.191THzでの0V共振周波数と比較して、6V印加電圧にわたる総シフトは、5GHz、すなわち、2.5%である。
【0114】
二重層の特性は、極性を反転させて繰り返されたことに留意すべきである(図10の第2のパネル)。更に、6Vを超える電圧については、デバイスが劣化することが観察された。このことの詳細は、0.1~0.6THzで観察された全ての共振モードの包括的なデータとともに、ESIに記載される。
【0115】
広帯域変調器
共振モードに重畳されるのは、THz波形の広帯域変調である。これは、図7に示される、利用可能なスペクトル全体にわたって明らかである。0.19THz及び0.56THzにおける曲線の漸近形状は、電圧の変化に伴う共振モードの相対的なシフトから生じる。変調は、これらの領域では不明確であるが、二重層の周波数の調整可能性の実験的検証を提供する。この効果はまた、0.36THz及び0.40THzの共振についても、より少ない程度に存在する。このような挙動は、THz変調器としての二重層の使用を招く。
【0116】
3つの透過窓が、0.23~0.32THz、0.43~0.50THz、及び0.72~1THzに存在する。前者では、変調度は、
【0117】
【数2】
【0118】
と定義され、80~90%である。0.43~0.50THzの窓では、90~93%に増加する。0.72THzから1THzまででは、変調度は94%から96%で変化する。これは、グラフェン層と金属層との間に誘電体がなく、そのような低い印加電圧がない場合には桁外れである。6.2Vにおける変調度の全周波数特性を図8に示す。二重層の変調挙動には、全体的な周波数依存性がある。すなわち、変調度は、光子エネルギーとともに増加する。提示された(6.2Vにおける)範囲では、変調度は、0.1THzで65%であり、0.31THzで90%に着実に増加し、0.73THzを超える周波数では95%を超えたままである。周波数調整特性から生じる、プラズマ共振周波数に近いスペクトルの中断により、この電圧での全範囲にわたる変調度と周波数との間の数学的関係を確認することは困難である。
【0119】
グラフェンの合成及び特性評価
グラフェン膜は、ニッケル触媒によるCVDプロセス(99%純度、焼きなまし)を使用して生成される。このプロセスは、より高品質のグラフェン膜を生成するための初期の真空ステップを含み、エタノール(60%v/v)に溶解したリネオール酸は、大豆油に置き換えられる。
【0120】
一実施例では、以下のグラフェン製造プロトコルが使用されてもよい。
1.ニッケル箔(純度99%、焼きなまし)15cm×12cmをIPAで洗浄し、次いで、12cmの長さが反対側に触れるようにシリンダーに圧延する。
2.2つのセラミックボート(3*3*0.2cm)に、60μLのリネオール酸(エタノール中60%)を搭載する。
3.ボート及び箔は、30cmのホットゾーンを有する内径50mmのチューブ炉リアクタに積み込まれ、ボートが、1cmのギャップを有する箔の両側にあるように配向され、箔はホットゾーンの中心に配列される。
4.次いで、炉は密封される。
5.炉は、150℃に加熱され、チューブは、基圧50mTorrまで排気される。
6.真空を閉じ、温度を5分間保持する。
7.その後、真空ラインを開き、圧力は50mTorrに戻る。
8.次いで、真空を閉じ、炉を950℃にする。
9.次いで、温度を2分間保持する。
10.時間が経過すると、炉のスイッチを切り、真空を開く。
11.温度が850℃に達すると、箔が収容されたチューブの領域が、炉のホットゾーンではなく、外気に露出するように、炉からチューブがシフトされる。
12.試料を放置して室温に冷却する。
13.室温になると、真空ラインを閉じ、チューブは気圧に戻る。
14.次いで、チューブを開け、箔を取り外す。
15.ニッケル箔は、ここで、薄いグラフェンのような膜でコーティングされている。
【0121】
更なる実施例では、以下の転写プロトコルが使用されてもよい。
1.グラフェンシートは、所望のサイズ、25×25mmに切断される。
2.次いで、アニソール(5g/L)中に溶解したPMMA 950K Mwを箔上にスピンコーティングする。
3.使用する回転速度は2000rpmである。
4.コーティングしたら、試料を24時間乾燥させる。
5.乾燥したら、コーティングされた箔の端を約500μmトリミングする。
6.次いで、この箔を、水に溶解した0.5MのFeClのエッチング溶液中に配列する。
7.試料を24時間放置する。
8.ニッケルが溶解すると、PMMAコーティングされたグラフェン膜が、清浄なDI水に転写される。
9.ここから転写され、デバイスを作成するために使用され得る。
【0122】
なお更なる実施例では、グラフェンは、国際公開第2017/027908号又は第2018/161116号に記載されているように製造され得、グラフェンを作製する他の方法及びそれらの結果が使用され得ることに留意されたい。
【0123】
グラフェン膜のテラヘルツ特性評価を、透過配置のファイバ結合型Batop時間領域分光法(TDS)システムに対して実行した。光伝導アンテナ(PCA)を、THz産生及び光検出の両方に利用した。グラフェン膜を、特性評価のために、PTFE基板上に転写した。基板は、測定信号と、時間領域信号の背面反射を回避することとの間の最適なトレードオフを達成するために、3mmの厚さになるように設計された。グラフェン膜の複素導電率が抽出され、その後、散乱率、キャリア移動度、及びキャリア密度が抽出される。THz-TDSから、キャリア移動度及びキャリア密度は、それぞれ1393cm-1-1及び17×1013cm-2である。これらは、37mSの直流導電率及び209fsの散乱時間(散乱率0.76THz)から得られた。
【0124】
グラフェン/金二重層デバイスの製造
市販の0.254mm厚Rogers 5880LZ積層体が、デバイス基板として使用された。接地面は、220nmのスパッタされた金膜で調製された。表側は、メタ表面二重層及び接触領域を画定するために、ハードマスクを有する同じ金堆積を受けた。堆積後、表側を30Wのアルゴン反応性イオンエッチングで1分間処理した。ニッケル/グラフェン箔(25mm×25mm)を、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)ポリマーでスピンコーティングした。次いで、ニッケル箔をFeCl溶液槽中に溶解した。後続のグラフェン/PMMA構造体を、事前に調製したRogers基板上に転写した。最後に、PMMAをアニソール中に溶解し、試料を乾燥させた。次いで、グラフェン膜を、湿式転写技術を使用して、Rogers積層体に転写した。
【0125】
グラフェン/金二重層パターンは、標準的なフォトリソグラフィ手順、すなわち、スピンコーティングフォトレジスト、UV光暴露、及びフォトレジスト現像を使用して実現された。フォトマスク保護層を有するパターン化されたデバイスチップは、新規の反応性イオンエッチングプロセスを使用してエッチングされた。まず、保護されていないグラフェンを除去するためのOプラズマ、続いてAr(化学的に不活性なガス)でエッチングして保護されていない金層を除去し、最後に、短い最終的なOプラズマエッチングを適用してデバイスチップを洗浄した。メタ表面の金接点への外部ワイヤの電気接続は、銀エポキシを使用して行った。Oプラズマを使用してグラフェンをエッチングし、Arプラズマを使用して金層をエッチングするが、開示された方法は、これらのプラズマに限定されない。化学反応性ガスと化学的に不活性なガスとの任意の組み合わせは、デバイスチップをパターン化するのに十分であることに留意されたい。
【0126】
二重層メタ表面のテラヘルツ特性評価
デバイスのテラヘルツ(THz)特性評価を、反射配置のファイバ結合型Batop時間領域分光法(TDS)システムに対して実行した。光伝導アンテナ(PCA)を、THz産生及び光検出の両方に利用した。吸収体の性能を定量化するために、メタ表面デバイスの電磁波の反射電力
【0127】
【数3】
【0128】
(電磁波の反射電力は
【0129】
【数4】
【0130】
)は、二重層メタ表面のない金背のRogers5880LZ基板で行われた基準測定値(
【0131】
【数5】
【0132】
)に対比される。吸収体は、関係式S11=10log(R)を通して与えられる、対応するS11パラメータを有する単一ポートデバイスであると考えられる。ここで、Rは、試料及び基準パワースペクトルの比(反射率)、
【0133】
【数6】
【0134】
である。
【0135】
0.2THzにおける調整可能な性能
THz-時間領域分光法が、吸収体の性能を検討するために使用される(測定設定は図6に示される)。反射配置において、反射THz電力(デバイスと相互作用した後の電磁波)は、単一のポートデバイスのS11-パラメータによって特徴付けられる、入射THzビーム(デバイスと相互作用する前の電磁波)に対する比率として同等である。このように、吸収体の実際の性能は、CSTで理論的にモデル化された応答と直接比較することができる(図17)。
【0136】
図17aは、金のみのメタ表面層を有する同じ設計と比較した、グラフェン/金二重層メタ表面の実験的周波数応答を示す。両方の場合で0.2THzにおいて高品質の共振が生成し、図17bに提示された、CSTを使用して計算されたシミュレートされたS11パラメータと密接に一致する。実験結果とシミュレーション結果との間に非常に良好な一致が得られ、新規のグラフェン/金二重層メタ表面デバイスの設計及び実験実装の妥当性が良好であることが確認される。
【0137】
図12は、0~6Vの印加電圧で設計された0.2THz共振での吸収体のTHz電力比S11を示す。電圧の増加とともに、デバイスの共振振幅及び周波数の系統的な調整可能性が表示される。まず、共振時の信号電力の16dBの変化があり、グラフェンを通して調整されたTHzメタマテリアルについての以前に概説された報告よりも有意に強い。更に、印加される0~6Vにわたる5GHzの周波数調整として観察される位相シフトがある。調整は、単純なバイアススキームを使用して、非常に低い電圧(0~6V)で達成され、これは、より複雑なゲート電極スキームと、通常、はるかに高いバイアス電圧と、を使用する文献で報告されているものと比較して有利である。
【0138】
デバイス調整可能性の電圧依存を図13に示す。興味深いことに、電圧依存は非線形である。0~3Vの電圧の場合、共振ピーク位置又は振幅のいずれかで、変化はほとんど観察されない。しかしながら、3Vから6Vで変化はより激しくなり、共振位置は、0.192THz~0.187THzで、電力振幅は、-18dB~-25dBでシフトする。また、共振FWHMは0.017THzから0.010THzに低下し、対応する面積は0.47から0.38に低下する。これは、印加電圧による共振Q値の12から19への増加を反映している。
【0139】
吸収体の調整機構は、2つの主要な効果に起因し、両方とも二重層内のグラフェンに依存する。第一に、調整されたグラフェン導電率は、RLC共振回路モデルにおける二重層の等価抵抗(R)を変化させ、したがって、共振周波数及び振幅の両方を変化させる。換言すれば、調整は、0.2THz放射線のインピーダンス整合を、共振周波数と、共振周波数での最大電力吸収と、に影響を与える、メタマテリアル共振器構造に変更する。電圧の増加とともに、デバイスの改善されたインピーダンス整合は、0.2THzにおいて7dBのより強い共振、並びに5GHzの周波数シフトをもたらす。同様に、改善された整合条件は、0.2THzモードのQ値の上昇を通して検証される。
【0140】
第二に、入射THz波形の広帯域吸収は、グラフェンのフェルミ準位の変化、したがって、そのバンド内導電率の変化を通して調整される。このことは、電圧の増加とともに、共振ピーク(共振周波数の外側)に隣接する9dBの信号電力低下で実験的に示される。このような効果はまた、次のセクションで考察されるように、より広いTHzスペクトルにおいても観察される。図13に詳述される、合計16dBの振幅及び5GHzの周波数調整可能性は、上述した2つの効果の重畳である。
【0141】
最大1THzの広帯域動作
設計された0.2THzの共振とは別に、デバイスは興味深い広帯域応答を提示する。一連の補助モードは、図14(右のパネル)に見ることができるように、0.36THz、0.40THz、及び0.56THzで見出される。これらのモードはまた、金のみのデバイスでも観察されるため、共振回路設計によるものである。0.2THzの特徴と同様に、これらの共振はまた、印加電圧で、有意な振幅及び周波数調整可能性を呈する。しかし、この調整は、0.2THzの共振ピークでの調整よりもはっきりしない。印加された0V及び6Vにおける各共振及びその挙動の集計は、表1に見出すことができる。
【0142】
【表1】
【0143】
共振モードに重畳される、THz波形の広帯域変調がある。これは、図16に示される、利用可能なスペクトル全体にわたって明らかである。3つの透過窓が、0.23~0.32THz、0.43~0.50THz、及び0.72~1THzに存在する。前者では、変調度は
【0144】
【数7】
【0145】
と定義され、80%~90%である。0.43~0.50THzの窓では、90%~93%に増加する。0.72THzから1THzで、変調度は94%から96%で変化する。図16で見られるように、二重層の変調挙動には、全体的な周波数依存性がある。すなわち、変調度は、光子エネルギーとともに増加する。測定されたTHz周波数帯域全体にわたる有効な調整効果の観察は、二重層設計が、0.1~1THz範囲全体をカバーする調整可能なメタマテリアルデバイスに適合され得ることを検証する。これは、1THzを超えて動作する同様の構造にも適用されると予想される。
【0146】
グラフェンET122~124製造プロトコル
以下の説明は、グラフェン層106/206/306の製造に関する更なる詳細を提供する。
【0147】
まず、ニッケル箔(純度99%、焼きなまし)15cm×12cmをIPAで洗浄し、次いで、12cmの長さが反対側に触れるようにシリンダーに圧延する。次に、2つのセラミックボート(3*3*0.2cm)に、60μLのリネオール酸(エタノール中60%)を搭載する。ボート及び箔は、30cmのホットゾーンを有する内径50mmのチューブ炉リアクタに積み込まれ、ボートが、1cmのギャップを有する箔の両側にあるように配向され、箔はホットゾーンの中心に配列される。
【0148】
その後、炉は、密封され、150℃に加熱され、チューブは、50mTorrの基圧まで排気される。次いで、真空を閉じ、温度を5分間保持する。
【0149】
その後、真空ラインを開き、圧力は50mTorrに戻る。次いで、真空を閉じ、炉を950℃にする。次いで、温度を2分間保持する。時間が経過すると、炉のスイッチを切り、真空を開く。
【0150】
温度が850℃に達すると、箔が収容されたチューブの領域が、炉のホットゾーンではなく、外気に露出するように、炉からチューブがシフトされる。次いで、試料を放置して室温に冷却する。
【0151】
室温になると、真空ラインを閉じ、チューブは気圧に戻る。次いで、チューブを開け、箔を取り外す。ニッケル箔は、ここで、薄いグラフェンのような膜でコーティングされている。
【0152】
転写プロトコル
以下の説明は、金属層105上へのグラフェンの転写に関する更なる詳細を提供する。上記の方法に従って作成されたグラフェンシートは、25mm×25mmなどの所望のサイズに切断される。次いで、PMMA 950K Mwをアニソール(5g/L)中に溶解し、箔上にスピンコーティングする。使用する回転速度は2000rpmであってもよい。
【0153】
回転後、コーティングされた試料を24時間乾燥させる。乾燥したら、コーティングされた箔の端を約500μmトリミングする。次いで、この箔を、水に溶解した0.5MのFeClのエッチング溶液に配列する。その後、試料を24時間放置する。ニッケルが溶解すると、PMMAコーティングされたグラフェン膜が、清浄なDI水に転写される。ここから転写され、デバイスを作成するために使用され得る。
【0154】
概要
本開示は、高度に調整可能なTHz周波数選択性吸収体ベースのグラフェン/金二重層メタ表面構造体を提供する。二重層設計は、理論的モデリング及び最適化、続いてグラフェンの製造、転写、デバイスのパターン化、及び特性評価をカバーする全体的な実験アプローチを通して開発された。設計された0.2THz周波数選択性吸収体では、16dBの大振幅調整及び5GHz周波数調整とともに、(印加された6Vで)19のベンチマーク共振Q値が観察される。デバイスは、シミュレーションから予想されるように動作し、二重層実装が予測可能な応答を提供することを証明する。これは、商業的に実行可能で拡張可能な電子機器の製造に有用である。
【0155】
加えて、高次共振モードは、0.36THz、0.40THz、及び0.56THzで明らかにされ、また、最大1THz、90%を一貫して上回る広帯域変調での振幅及び周波数の調整可能性も呈する。グラフェン/金二重層デバイスの良好な実験実装は、影響力の大きい調整可能で、フレキシブルな、再構成可能な、及びプログラム可能な様々なTHzメタマテリアルデバイスを実現する機会をもたらす。
【0156】
観察された調整効果は、2つの主要な機構に起因し得る。第一に、電圧バイアスされたグラフェン/金二重層(上部電極)の導電率の変化は、THz放射線の波動インピーダンスに対する共振構造のインピーダンス整合を変化させ、したがって、RLC共振回路モデルによって予測されるように、共振周波数及びその振幅を変化させる。第二に、グラフェン表面導電率の変化は、THz放射線のグラフェンのバンド内吸収を変化させる。このことは、共振ピーク及び非共振領域を含む測定されたTHz帯域全体にわたって観察された調整効果によって確認される。RLC共振器効果に基づいた第1の機構は、より低い周波数側に向かってより優位であり(他のピークよりも0.2THzで強い変化)、グラフェンのバンド内THz吸収の第2の効果は、より高いTHz周波数帯に向かってより強くなり、図16に示すように、広帯域振幅変調は、より高い周波数で増加する。
【0157】
本デバイスは、フレキシブルな商用高周波積層体上に構築されているため、実用的なTHz電子回路及びフレキシブルな電子機器に潜在的に実装可能である。グラフェン/金二重層アーキタイプは、現在、調節可能なTHz電子デバイスに関する文献にある多数の数値的にモデル化されたメタマテリアル構造に直ちに適合させることができる。
【0158】
本開示の広範な一般的な範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に対して多数の変形及び/又は修正が行われ得ることが当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】