(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/58 20060101AFI20240426BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240426BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/24 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/30 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/66 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/44 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20240426BHJP
B01D 71/60 20060101ALI20240426BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
B01D71/58
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/26
B01D71/68
B01D71/24
B01D71/30
B01D71/66
B01D71/64
B01D71/44
B01D71/28
B01D71/42
B01D71/62
B01D71/34
B01D71/36
B01D71/38
B01D71/52
B01D71/40
B01D71/10
B01D71/60
C25B13/08 301
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570450
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 KR2022006988
(87)【国際公開番号】W WO2022245080
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2021-0063659
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0066403
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン スン クォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジュ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ハン ス
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA16
4D006KA31
4D006KB01
4D006MA03
4D006MA08
4D006MA09
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4D006MA21
4D006MA31
4D006MB16
4D006MB17
4D006MB19
4D006MC11
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4D006MC24
4D006MC27
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC34
4D006MC36
4D006MC39
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4D006MC47
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4D006MC60
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4D006MC62
4D006MC63
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4D006MC68
4D006NA41
4D006NA49
4D006PA10
4D006PB20
4D006PC80
(57)【要約】
本発明は、アルカリ水電解用薄膜複合体分離膜を製造する方法及びアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜に関し、本発明は、従来の高密度分離膜及び多孔性分離膜に比べて物質伝達抵抗が低く、イオン伝導度が高く、水電解性能に優れながらも、気体透過性を低くして気体混合を最小化し、高い安全性を有する薄膜複合体分離膜を提供しうる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を通じて多孔性支持体上に、または多孔性支持体の気孔内に架橋された第4級アンモニウム高分子選択層を形成する段階を含む、アルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項2】
多孔性支持体は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリメチルペンテン(polymethylpentene)、ポリブテン-1(polybutene-1)、ポリオレフィンエラストマー(polyolefin elastomer)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)、エチレンプロピレンゴム(ethylene propylene rubber)、ポリスルホン(polysulfone)、ポリアセチレン(polyacetylene)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)、ポリ塩化ビニル(polyvinylchloride)、テフロン(polytetrafluoroethyne)、ポリフェニレンスルファイド(polyphenylene sulfide)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリスチレン(polystyrene)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane)、ポリビニルフルオライド(polyvinylfluoride)、エチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリベンジミダゾール(polybenzimidazole)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリエーテルイミド(polyetherimide)、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidene fluoride)及びポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)からなる群から選ばれる少なくとも1つの高分子成分を含む、請求項1に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項3】
架橋された第4級アンモニウム高分子選択層を形成する前に、前記多孔性支持体を親水化処理する段階を含む、請求項1に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項4】
多孔性支持体の親水化処理は、プラズマ(plasma)、単原子層蒸着(atomic layer deposition)、化学気相蒸着(chemical vapor deposition)、無機物コーティング、有機物コーティングまたは化学酸化処理のうち少なくとも1つで行われる、請求項3に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項5】
多孔性支持体の親水化処理は有機物コーティング処理であり、有機物コーティングは、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、エチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)、ポリドーパミン(polydopamine)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリメタクリル酸(polymethacrylic acid)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、ポリエーテルイミド(polyetherimide)、タンニン酸(tannic acid)、ポリビニルアミン(polyvinyl amine)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)(poly(4-styrene sulfonic acid))、ポリ(ビニルスルホン酸)(poly(vinylsulfonic acid))、ポリエチレンイミン(polyethylenimine)、ポリアニリン(polyaniline)、ポリベンジミダゾール(polybenzimidazole)、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone)及びセルロース(cellulose)系高分子からなる群から選ばれる少なくとも1つの高分子成分をコーティングすることを特徴とする、請求項4に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項6】
有機物コーティング処理は、有機物をコーティングした後、コーティングされた有機物を架橋する段階を含む、請求項5に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記メンシュトキン重合反応は、界面重合法、浸漬コーティング(dip coating)法、回転コーティング(spin coating)法、交互吸着(layer-by-layer)法、スロットコーティング(slot coating)法または噴射コーティング(spray coating)法で行われる、請求項1に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項8】
選択層は、多孔性支持体に第3級アミン系のモノマーを含む第1の溶液とアルキルハライド系のモノマーを含む第2の溶液を含浸または塗布し、前記第1の溶液及び第2の溶液のモノマー間の重合反応を通じて形成されるものである、請求項1に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項9】
第3級アミン系のモノマーは、第3級アミン基を少なくとも2つ含み、及び/又はアルキルハライド系のモノマーは、アルキルハライド基を少なくとも2つ含む、請求項8に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項10】
第3級アミン系のモノマーは、N,N,N’,N’-テトラメチルメチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethylmethylenediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine)、N,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N,N,N’,N’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(1,1,4,7,10,10-hexamethyltriethylenetetramine)、トリス-(2-(ジメチルアミノ)エチル)アミン(tris[2-(dimethylamino)ethyl]amine)、トリス(ジメチルアミノ)メタン(tris(dimethylamino)methane)、テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン(tetramethyl-1,3-diaminopropane)、テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン(tetramethyl-1,3-diaminopropane)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,4-butanediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,6-hexamethylenediamine)、1,4-ジメチルピペラジン(1,4-dimethylpiperazine)、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン(1,4,7-trimethyl-1,4,7-triazacyclononane)、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(1,4,8,11-tetramethyl-1,4,8,11-tetraazacylcotetradecane)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,4-phenylenediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-フェニレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,3-phenylenediamine)、1,4-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゼン(1,4-bis(diphenylamino)benzene)、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)(4,4’ヘキサミン(hexamine)、アルトレタミン(altretamine)及びポリエチレンイミン(polyethyleneimine)から選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項11】
第1の溶液の溶媒は、水、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、ブタノール(butanol)、イソプロパノール(isopropanol)、酢酸エチル(ethyl acetate)、アセトン(acetone)、クロロホルム(chloroform)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、フタル酸ジメチル(dimethyl phthalate)、フタル酸ジエチル(diethyl phthalate)、フタル酸ジブチル(dibutyl phthalate)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)、アセトフェノン(acetophenone)及びアセトニトリル(acetonitrile)からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用する、請求項8に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項12】
アルキルハライド系のモノマーは、1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)、1,3-ジクロロプロパン(1,3-dichloropropane)、1,3-ジブロモプロパン(1,3-dibromopane)、1,4-ジクロロブタン(1,4-dichlorobutane)、1,4-ジブロモブタン(1,4-dibromobutane)、1,4-ジヨードブタン(1,4-diodobutane)、1,6-ジクロロヘキサン(1,6-dichlorohexane)、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,2-bis(bromomethyl)benzene)、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3-bis(bromomethyl)benzene)、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,4-bis(bromomethyl)benzene)、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3,5-tris(bromomethyl)benzene)、2,6-ビス(ブロモメチル)ナフタレン(2,6-bis(bromomethyl)naphthalene)及び1,4-ビス(1,2-ジブロモエチル)ベンゼン(1,4-bis(1,2-dibromoethyl)benzene)から選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項13】
第2の溶液の溶媒は、n-ヘキサン(n-hexane)、ペンタン(pentane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、ヘプタン(heptane)、オクタン(octane)、デカン(decane)、ドデカン(dodecane)、四塩化炭素(tetrachloromethane)、ベンゼン(benzene)、キシレン(xylene)、トルエン(toluene)、クロロホルム(chloroform)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)、アセトフェノン(acetophenone)、アセトニトリル(acetonitrile)、フタル酸ジメチル(dimethyl phthalate)、フタル酸ジエチル(diethyl phthalate)、フタル酸ジブチル(dibutylphthalate)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)及びイソパラフィン(isoparaffin)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項14】
多孔性支持体と、
前記多孔性支持体の片面、両面または気孔内に形成された選択層と、を含み、
前記選択層は、メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を通じて、多孔性支持体上に形成されるか、または多孔性支持体の気孔内に細孔充填された形態を有する架橋された第4級アンモニウム高分子であるアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜。
【請求項15】
前記多孔性支持体は、親水化処理された多孔性支持体である、請求項14に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜。
【請求項16】
多孔性支持体を親水化処理する段階を含む、アルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項17】
前記多孔性支持体は、ポリオレフィン(polyolefin)であり、前記親水化処理は、ポリオレフィン上にエチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)をコーティングさせるものである、請求項16に記載のアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載の親水化処理された多孔性支持体を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用薄膜複合体分離膜を製造する方法及びそれによって製造されたアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解システムは、水を電気分解して水素を得る方法である。それぞれの電極に電解質溶液が持続的に供給され、カソード(cathode)とアノード(anode)ではそれぞれ水素と酸素ガスが発生する。
【0003】
アルカリ水電解は、水酸化イオンを含むアルカリ電解質溶液を使用する水電解技術をいい、水酸化イオンがカソードとアノードの間で移動し、両電極の反応を媒介する。アルカリ電解質環境は塩基性雰囲気であるので、価格が比較的安価な非貴金属系のニッケル(Ni)または銀(Ag)などを触媒として使用できるという長所がある。
【0004】
アルカリ水電解工程では、両電極間に分離膜が配置され、これは電極間の物質及びイオンの伝達を制御する核心的な役割を果たす。分離膜がアルカリ水電解システムに効率的に適用されるためには、高い水酸化イオン伝導度を有し、水電解時に必要な電圧負荷を下げる必要がある。また、酸素内の水素の濃度が4%以上に増加すると爆発危険性があるため、分離膜は、カソードとアノードでそれぞれ生成される水素及び酸素ガスに対する低い透過性を持たなければならない。
【0005】
従来のアルカリ水電解では、主に多孔性分離膜を使用した。代表的な商用化されたアルカリ水電解分離膜としては、ベルギーのAgfa社のZirfon(登録商標)があり、これはポリフェニレンスルファイド(polyphenylene sulfide)支持体に酸化ジルコニウム(ZrO2)ナノ粒子/ポリスルホン(polysulfone)の溶液を塗布し、相転移を通じて多孔性の構造で製造される。
【0006】
Zirfon(登録商標)は、アルカリ安定性に優れ、多孔性構造を有して物質伝達抵抗が低いという長所を有する。しかし、大きな表面気孔のサイズ(150nm)と高い気孔度(55%)により高い気体透過性を有し、生成された酸素と水素が容易に透過し、気体混合による爆発の危険性が高い。また、厚い(500~600μm)分離膜構造により電極間の間隔が大きくなるため、高い面積比抵抗を示すという問題がある。
【0007】
そこで、従来の多孔性分離膜が有する高い気体透過性によるリスクを低減するために気体透過性が低い高密度分離膜が研究されているが、高密度分離膜は、高い物質伝達抵抗を有し、高い電圧負荷を有し、機械的強度と熱化学的安定性が低いので、運転条件が制限されるという限界を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の多孔性分離膜と高密度分離膜が有する短所を同時に解決するためのもので、機械的強度と熱化学的安定性を高めて物質移動抵抗を下げながら、高いイオン伝導度を示すとともに、同時に水電解時に発生する気体の透過性を下げて気体混合を最小化し、安全性を確保した薄膜複合体分離膜を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を通じて多孔性支持体上にまたは多孔性支持体の気孔内に架橋された第4級アンモニウム高分子選択層を形成する段階を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、さらに、多孔性支持体、及び
前記多孔性支持体の片面、両面または気孔内に形成された選択層を含み、
前記選択層は、メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を通じて、多孔性支持体上に形成されるか、または多孔性支持体の気孔内に細孔充填された形態を有する架橋された第4級アンモニウム高分子である薄膜複合体分離膜を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、多孔性支持体を親水化処理する段階を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法、及び親水化処理された多孔性支持体を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による薄膜複合体分離膜は、多孔性支持体を親水化処理することにより熱化学的に安定したアルカリ水電解用分離膜を提供し、多孔性支持体に薄膜選択層をコーティングすることにより、低い物質移動抵抗及び高いイオン伝導度を有し、水電解性能に優れながらも気体透過度を下げて気体の透過及び混合を防止しうる。これにより、高い安全性と水素生産効率を有するアルカリ水電解工程を具現できる薄膜複合体分離膜を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】メンシュトキン重合反応を活用したアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法を示す図である。
【
図2】20μm厚さの多孔性支持体の表面構造を走査電子顕微鏡を通じて確認したイメージを示すものである。
【
図3】実験例1による実施例2の親水化処理前及び後の支持体の表面構造を走査電子顕微鏡を通じて確認したイメージを示すものである。
【
図4】実験例1による実施例2及び実施例3の分離膜の表面構造を走査電子顕微鏡を通じて確認したイメージを示すものである。
【
図5】実験例6による1M水酸化カリウム溶液において水電解システム駆動時の電圧負荷値を比較したグラフである。
【
図6】実験例6による6M水酸化カリウム溶液において水電解システム駆動時の電圧負荷値を比較したグラフである。
【
図7】実験例6による6M水酸化カリウム溶液において水電解システム駆動時の電圧負荷値を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
一方、本願に開示されるそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されてもよい。すなわち、本願に開示されている様々な要素のすべての組み合わせが本発明の範囲に属する。また、後述する具体的な説明によって本発明の範囲が制限されるとは言えない。
【0016】
ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに備えることができることを意味する。
【0017】
本発明は、メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を活用した薄膜複合体分離膜の製造方法を提供する。
【0018】
具体的には、多孔性支持体上に、または多孔性支持体の気孔内にメンシュトキン重合反応を通じて第4級アンモニウム高分子薄膜選択層を形成する段階を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法を提供する。
【0019】
メンシュトキン反応(Menshutkin reaction)は、第3級アミンとアルキルハライドが反応して第4級アンモニウムを生成させる反応である。本発明によるメンシュトキン重合反応は、前記メンシュトキン反応を通じて架橋された第4級アンモニウム高分子を形成することを意味する。メンシュトキン重合反応により高密度の架橋された第4級アンモニウム高分子選択層を多孔性支持体上に、または多孔性支持体の気孔内に形成させる場合、気体透過度を下げて安全性を確保することができ、強いアルカリ安定性及び高いイオン伝導度を有し、水電解性能を向上させることができる。
【0020】
本発明において多孔性支持体は、ポリオレフィンであってもよく、市販の製品を使用するか、または合成して使用してもよい。
【0021】
一具体例において、多孔性支持体は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリメチルペンテン(polymethylpentene)、ポリブテン-1(polybutene-1)、ポリオレフィンエラストマー(polyolefin elastomer)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)、エチレンプロピレンゴム(ethylene propylene rubber)、ポリスルホン(polysulfone)、ポリアセチレン(polyacetylene)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)、ポリ塩化ビニル(polyvinylchloride)、テフロン(登録商標)(polytetrafluoroethyne)、ポリフェニレンスルファイド(polyphenylene sulfide)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリスチレン(polystyrene)、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane)、ポリビニルフルオライド(polyvinylfluoride)、エチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリベンジミダゾール(polybenzimidazole)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリエーテルイミド(polyetherimide)、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidene fluoride)及びポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)からなる群から選ばれる少なくとも1つの高分子成分を使用してもよい。
【0022】
一具体例において、多孔性支持体の種類は特に制限されないが、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン支持体を使用してもよい。
【0023】
一具体例において、多孔性ポリオレフィン支持体の重量平均分子量は、10,000~5,000,000g mol-1であってもよい。
【0024】
一具体例において、多孔性ポリオレフィン支持体の水接触角は、120度以下であってもよい。
【0025】
一具体例において、多孔性ポリオレフィン支持体は、延伸工程に基づく乾式工法(dry process)と抽出工程に基づく湿式工法(wet process)を通じて製造されてもよく、より好ましくは、湿式工法を通じて製造されてもよい。
【0026】
一具体例において、多孔性ポリオレフィン支持体は、それを構成する高分子と希釈剤を溶融押出し、液-液相分離を行ってシート状に製造した後、延伸する方法を通じて製造されてもよい。ここで、前記希釈剤の含量は、全重量に対して10~80重量%であってもよく、希釈剤は、ノナン(nonane)、デカン(decane)、パラフィンオイル(paraffin oil)、デカリン(decalin)などの脂肪族(aliphatic)または環状炭化水素(cyclic hydrocarbon)またはフタル酸ジブチル(dibutyl phthalate)、フタル酸ジオクチル(dioctyl phthalate)などのフタル酸エステル(phthalic acid ester)などの有機液状化合物であってもよい。
【0027】
前記多孔性ポリオレフィン支持体を製造する際、必要に応じてUV安定剤、帯電防止剤、酸化安定剤、有/無機核剤(nucleating agent)などの特定機能の向上のための一般的な添加剤をさらに含んでもよい。
【0028】
一具体例において、多孔性支持体の気孔サイズは、特に制限されないが、0.5nm~100μmであってもよい。具体的には、気孔サイズが10μm以下、1μm以下、500nm以下、200nm以下、100nm以下であってもよく、より具体的には、1nm~10μm、1nm~1μm、または1~100nmであってもよい。
【0029】
一具体例において、多孔性支持体の気孔度は特に制限されないが、0.5~90%であってもよく、具体的には、10~90%であってもよい。
【0030】
一具体例において、多孔性支持体の厚さは特に制限されないが、1~1000μmであってもよい。より具体的には、1~100μm、1~50μm、3~40μm、または5~30μmの厚さを有してもよい。
【0031】
本発明の製造方法は、架橋された第4級アンモニウム高分子選択層を形成する前に、前記多孔性支持体を親水化処理する段階をさらに含んでもよい。
【0032】
親水化処理を行う場合、疎水性の多孔性支持体に親水性を付与してもよく、気体透過度を下げながら水酸化イオンの伝導度を向上させることができ、選択層の形成が容易になる。
【0033】
親水化処理は、多孔性支持体の片面、両面または気孔内の表面に処理されてもよい。
【0034】
多孔性支持体の親水化処理は、プラズマ(plasma)、単原子層蒸着(atomic layer deposition)、化学気相蒸着(chemical vapor deposition)、無機物コーティング、有機物コーティングまたは化学酸化処理のうち少なくとも1つで行われてもよく、より好ましくは、有機物コーティング処理であってもよい。
【0035】
前記有機物コーティングは、ヒドロキシル(hydroxyl)、カルボキシル(carboxyl)、アミン(amine)などの親水性官能基を含むオリゴマーまたは高分子物質をコーティングするものであってもよい。例えば、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、エチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)、ポリドーパミン(polydopamine)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリメタクリル酸(polymethacrylic acid)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、ポリプロピレングリコール(polypropylene glycol)、ポリエーテルイミド(polyetherimide)、タンニン酸(tannic acid)、ポリビニルアミン(polyvinyl amine)、ポリ(4-スチレンスルホン酸)(poly(4-styrene sulfonic acid))、ポリ(ビニルスルホン酸)(poly(vinylsulfonic acid))、ポリエチレンイミン(polyethylenimine)、ポリアニリン(polyaniline)、ポリビニルピロリドン(polyvinyl pyrrolidone)及びセルロース(cellulose)系高分子からなる群から選ばれる少なくとも1つの高分子成分をコーティングするものであってもよい。
【0036】
前記親水化処理において、有機物コーティングの安定性を高めるために、有機物をコーティングした後、架橋する段階をさらに含んでもよい。
【0037】
前記架橋は、グリオキサール(glyoxal)、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)、エピクロロヒドリン(epichlorohydrin)、ホウ酸(boric acid)、マレイン酸(maleic acid)、クエン酸(citric acid)及びテトラエチルオルトシリケート(tetraethylorthosilicate)からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分を活用して架橋するものであってもよい。
【0038】
本発明において、親水化処理後に多孔性支持体を洗浄する段階をさらに含んでもよい。前記洗浄溶媒としては、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、水またはそれらの混合溶媒を使用してもよい。
【0039】
前記選択層は、親水化された多孔性支持体上に、または親水化された多孔性支持体の気孔内にメンシュトキン重合反応を通じて製造されてもよい。選択層は、多孔性支持体上の片面、両面または気孔内に製造されてもよい。
【0040】
多孔性支持体の気孔内に選択層が形成される場合、多孔性支持体の気孔内に選択層が細孔充填された形態を示すことができる。
【0041】
多孔性支持体上に選択層が形成される場合、選択層の厚さは、1~100μm、1~50μm、3nm~1μm、5~500nmまたは5~200nmであってもよい。
【0042】
前記メンシュトキン重合反応は、界面重合法、浸漬コーティング(dip coating)法、回転コーティング(spin coating)法、交互吸着(layer-by-layer)法、スロットコーティング(slot coating)法または噴射コーティング(spray coating)法で行われてもよく、より好ましくは、界面重合法で行われてもよい。
【0043】
本発明による選択層は、多孔性支持体に第3級アミン系のモノマーを含む第1の溶液とアルキルハライド系のモノマーを含む第2の溶液を含浸または塗布し、前記第1の溶液及び第2の溶液のモノマー間の重合反応を通じて形成されてもよい。
【0044】
ここで、前記第1の溶液及び第2の溶液の含浸または塗布は、多孔性支持体に第3級アミン系のモノマーを含む第1の溶液を先に含浸または塗布した後、アルキルハライド系のモノマーを含む第2の溶液を含浸または塗布するものであってもよい。または、逆に、前記第2の溶液を先に含浸または塗布した後、第1の溶液を含浸または塗布するものであってもよく、または、第1の溶液及び第2の溶液を同時に含浸または塗布するものであってもよい。
【0045】
重合反応のための前記第1の溶液の溶媒と第2の溶液の溶媒は互いに異なり、互いに混合しない性質を示すことができる。
【0046】
前記第3級アミン系のモノマーは、メンシュトキン重合反応の反応物として架橋された第4級アンモニウム高分子を形成できる第3級アミン基を含むモノマーであれば、特に制限されるものではない。
【0047】
前記第3級アミン系のモノマーは、第3級アミン基を2つ以上含んでもよい。第3級アミン系を2つ以上含む場合、アルキルハライドモノマーと反応して架橋された形態のポリマーを容易に形成しうる。
【0048】
前記第3級アミン系のモノマーは、分子量が50~1,000,000g mol-1範囲の物質であってもよい。
【0049】
前記第3級アミン系のモノマーは、N,N,N’,N’-テトラメチルメチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethylmethylenediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethylethylenediamine)、N,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N,N,N’,N’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(1,1,4,7,10,10-hexamethyltriethylenetetramine)、トリス-(2-(ジメチルアミノ)エチル)アミン(tris[2-(dimethylamino)ethyl]amine)、トリス(ジメチルアミノ)メタン(tris(dimethylamino)methane)、テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン(tetramethyl-1,3-diaminopropane)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,4-butanediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,6-hexamethylenediamine)、1,4-ジメチルピペラジン(1,4-dimethylpiperazine)、1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン(1,4,7-trimethyl-1,4,7-triazacyclononane)、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(1,4,8,11-tetramethyl-1,4,8,11-tetraazacylcotetradecane)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,4-phenylenediamine)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-フェニレンジアミン(N,N,N’,N’-tetramethyl-1,3-phenylenediamine)、1,4-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゼン(1,4-bis(diphenylamino)benzene)、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)(4,4’ヘキサミン(hexamine)、アルトレタミン(altretamine)及びポリエチレンイミン(polyethyleneimine)から選ばれる少なくとも1つであってもよく、最も好ましくは、N,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N,N,N’,N’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine)であってもよい。
【0050】
一具体例において、第3級アミン系のモノマーを含む第1の溶液の溶媒の種類は特に制限されず、例えば、水、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、ブタノール(butanol)、イソプロパノール(isopropanol)、酢酸エチル(ethyl acetate)、アセトン(acetone)、クロロホルム(chloroform)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)、フタル酸ジメチル(dimethyl phthalate)、フタル酸ジエチル(diethyl phthalate)、フタル酸ジブチル(dibutyl phthalate)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)、アセトフェノン(acetophenone)及びアセトニトリル(acetonitrile)からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用してもよい。第3級アミン系のモノマーがN,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N,N,N’,N’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine)の場合、好ましい第1溶液の溶媒としては、フタル酸ジメチルであってもよい。
【0051】
前記アルキルハライド系のモノマーは、メンシュトキン重合反応の反応物として架橋された第4級アンモニウム高分子薄膜を形成できるアルキルハライド基を含むモノマーであれば、特に制限されるものではない。
【0052】
前記アルキルハライド系のモノマーは、アルキルハライド基を少なくとも2つ含んでもよい。アルキルハライド基を2つ以上含む場合、第3級アミン系のモノマーと反応して架橋された形態のポリマーを容易に形成しうる。
【0053】
前記アルキルハライド系のモノマーは、分子量が50~1,000,000g mol-1範囲の物質であってもよい。
【0054】
前記アルキルハライド系のモノマーは、1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane)、1,3-ジクロロプロパン(1,3-dichloropropane)、1,3-ジブロモプロパン(1,3-dibromopane)、1,4-ジクロロブタン(1,4-dichlorobutane)、1,4-ジブロモブタン(1,4-dibromobutane)、1,4-ジヨードブタン(1,4-diodobutane)、1,6-ジクロロヘキサン(1,6-dichlorohexane)、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,2-bis(bromomethyl)benzene)、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3-bis(bromomethyl)benzene)、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1,4-bis(bromomethyl)benzene)、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3,5-tris(bromomethyl)benzene)、
2,6-ビス(ブロモメチル)ナフタレン(2,6-bis(bromomethyl)naphthalene)及び1,4-ビス(1,2-ジブロモエチル)ベンゼン(1,4-bis(1,2-dibromoethyl)benzene)から選ばれる少なくとも1つであってもよく、最も好ましくは、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3,5-tris(bromomethyl)benzene)であってもよい。
【0055】
一具体例において、アルキルハライド系のモノマーを含む第2の溶液の溶媒の種類は特に制限されず、例えば、n-ヘキサン(n-hexane)、ペンタン(pentane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、ヘプタン(heptane)、オクタン(octane)、デカン(decane)、ドデカン(dodecane)、四塩化炭素(tetrachloromethane)、ベンゼン(benzene)、キシレン(xylene)、トルエン(toluene)、クロロホルム(chloroform)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)、アセトフェノン(acetophenone)、アセトニトリル(acetonitrile)、フタル酸ジメチル(dimethyl phthalate)、フタル酸ジエチル(diethyl phthalate)、フタル酸ジブチル(dibutylphthalate)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)及びイソパラフィン(isoparaffin)からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用してもよい。アルキルハライド系のモノマーが1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンの場合、好ましい第2の溶液の溶媒としては、n-ヘキサンであってもよい。
【0056】
一具体例において、界面重合の際に、第1の溶液の溶媒と第2の溶液の溶媒の混合を増加させる場合、選択層が多孔性支持体内に細孔充填された形態の薄膜複合体分離膜も製造してもよい。
【0057】
本発明は、さらに多孔性支持体、及び前記多孔性支持体の片面、両面または気孔内に形成された選択層を含み、前記選択層は、メンシュトキン重合反応(Menshutkin polymerization)を通じて多孔性支持体上に形成されるか、または多孔性支持体の気孔内に細工充填された形態を有する架橋された第4級アンモニウム高分子薄膜複合体分離膜を提供する。
【0058】
本発明による薄膜複合体分離膜は、前述した薄膜複合体の製造方法により製造されてもよい。本発明による薄膜複合体分離膜は、高いイオン伝導度及び低い物質伝達抵抗を有し、高い水電解性能を示すとともに、低い気体透過度を有し、気体混合を防止して安全性を確保しうる。
【0059】
本発明の薄膜複合体分離膜に関する内容は、前記薄膜複合体分離膜の製造方法に前述した内容を同様に適用してもよい。
【0060】
一具体例において、本発明による多孔性支持体は、親水化処理された多孔性支持体であってもよい。前記親水化処理は、前記薄膜複合体分離膜の製造方法において、前述した通りである。
【0061】
また、本発明は、多孔性支持体を親水化処理する段階を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜の製造方法を提供する。
【0062】
ここで、親水化処理及び多孔性支持体に関する説明は、前記メンシュトキン重合反応を活用した薄膜複合体分離膜の製造方法において前述した内容を同様に適用してもよい。
【0063】
選択層なしに多孔性支持体の親水化処理だけでも商用されている多孔性分離膜より優れた水電解性能と低い気体透過度及び高い安全性を示すことができる。
【0064】
前記親水化処理は、有機物コーティングで行われるものであってもよい。有機物コーティングは、疎水性相互作用(hydrophobic interaction)によって多孔性支持体に親水性高分子が結合し、形成方法が容易である。
【0065】
一具体例において、前記多孔性支持体は、ポリオレフィン(polyolefin)であり、前記親水化処理は、ポリオレフィン上にエチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)をコーティングさせるものであってもよい。
【0066】
本発明は、さらに親水化処理された多孔性支持体を含むアルカリ水電解用薄膜複合体分離膜を提供する。このような薄膜複合体分離膜は、多孔性支持体を親水化処理する段階を含む製造方法により製造されてもよい。また、親水化処理及び多孔性支持体に対する説明は、前記メンシュトキン重合反応を活用した薄膜複合体分離膜の製造方法において前述した内容を同様に適用してもよい。
【0067】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例及び実験例を提示する。しかし、以下の実施例及び実験例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、以下の実施例及び実験例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0068】
実施例
材料選定
(1)多孔性支持体:湿式工法で製造された多孔性ポリエチレン(polyethylene)支持体を使用した。構造は類似しており、9μm厚さ(表面気孔のサイズ<100nm、気孔度51%)のポリエチレン支持体と20μm厚さ(表面気孔のサイズ<100nm、気孔度47%)のポリエチレン支持体を準備した。
【0069】
図2には20μm厚さのポリエチレン支持体の断面図を示し、ポリエチレン支持体は、表面と裏面の構造が類似し、均一でありながらも気孔連結度に優れた断面構造を有する。
【0070】
(2)親水化処理用物質:支持体の親水化コーティング物質としてエチレンビニルアルコール(ethylene vinyl alcohol)を使用し、親水化コーティング物質を溶かすための溶媒としては、イソプロパノール(isopropanol)と水を使用した。
【0071】
(3)選択層製造のためのメンシュトキン重合反応モノマー及び溶媒:互いに混じり合わない2つの溶媒に溶けているモノマー間の重合反応である界面重合を活用した。使用された溶媒としては、フタル酸ジメチル(dimethyl phthalate)、n-ヘキサン(n-hexane)、及びそれらに含まれる第3級アミン系モノマーは、N、N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(N、N,N’,N’,N’’-pentamethyldiethylenetriamine)、アルキルハライド系モノマーとしては、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1,3,5-tris(bromomethyl)benzene)を使用した。
【0072】
(4)比較例1及び2
比較例1として商用多孔性分離膜であるAgfa社のZirfon(登録商標)分離膜を準備した。
比較例2として、商用高密度分離膜であるフマテック社のFAA-3-50分離膜を準備した。
【0073】
製造例1.実施例1の支持体の製造
下記(1)段階を経て実施例1の支持体を製造した。
【0074】
(1)多孔性支持体の親水化処理段階
エチレンビニルアルコールをイソプロパノール(isopropanol)と水が同じ体積比で混合された溶媒に0.5gL-1の濃度で80℃の熱を加えて溶かした後、25℃まで冷やした。製造された溶液に9μm厚さ(表面気孔のサイズ<100nm、気孔度51%)のポリエチレン支持体を24時間担持した。担持後、残留溶媒を除去するために水を用いて洗浄した後、90℃のオーブンで1時間乾燥した。
【0075】
製造例2.実施例2の支持体の製造
前記製造例1による実施例1の製造において、ポリエチレン支持体を20μm厚さ(表面気孔のサイズ<100nm、気孔度47%)のポリエチレン支持体に変更したこと以外は、同じ方式で実施例2の支持体を製造した。
【0076】
製造例3.実施例3の分離膜の製造
前記製造例2にさらに下記(2)段階を経て実施例3の分離膜を製造した。
【0077】
(2)メンシュトキン界面重合反応を用いた多孔性支持体上に選択層の形成段階
先に作製した親水化処理された多孔性ポリエチレン支持体上に、メンシュトキン界面重合反応を用いて高密度の薄膜選択層を合成した。
【0078】
1)N、N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンをフタル酸ジメチル溶媒に100g L-1で溶かした後、親水化されたポリエチレン支持体を1時間担持した。
【0079】
2)担持した支持体を取り出して表面の過剰溶液をローラーで適当に除去した後、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンをn-ヘキサンに2gL-1で溶かした溶液に担持して25℃で24時間反応させた。
【0080】
3)反応後、分離膜を取り出して表面に残った溶液をn-ヘキサンで洗浄し、25℃で5分間乾燥した。
【0081】
4)未反応の単分子をさらに架橋反応させるために、70℃のオーブンで5分間反応させた。
【0082】
5)その後、1M水酸化カリウム溶液に1時間以上担持し、反応後に生成されたブロモイオン(Br-)を水酸化イオン(OH-)に交換した。
【0083】
実験例1.支持体/分離膜の表面観察
前記製造例2で製造された実施例2の支持体の表面を走査電子顕微鏡を通じて確認し、様々な位置で確認して
図3に示した。
【0084】
図3に示すように、親水性コーティング後もポリエチレン支持体の多孔性構造が維持されることが確認できる。特に、親水化されたポリエチレン支持体の表面気孔のサイズは、約100nm以下で商用のZirfon(登録商標)分離膜である比較例1の表面気孔のサイズ(約150nm)より小さく、気体透過を低減できることが分かる。
【0085】
一方、前記製造例3で製造された実施例3の分離膜の表面を走査電子顕微鏡を通じて確認し、様々な位置で確認して
図4に示した。
図4に示すように、親水性多孔性支持体に選択層を合成する場合、表面気孔構造が詰まったことから薄膜複合体が形成されたことが確認できる。
【0086】
実験例2.支持体の親水性の確認
前記製造例1及び2においてエチレンビニルアルコールで親水性コーティングする前と後のポリエチレン支持体の親水性を水接触角を通じて確認し、その結果を下記表1に示した。
【0087】
【0088】
表1に示すように、厚さが9μmと20μmで互いに異なる実施例1及び2のポリエチレン支持体は、すべてエチレンビニルアルコールコーティング後の水接触角が大きく低くなり、コーティングを通じて親水性が向上したことが確認できる。
【0089】
実験例3.気体透過特性
実施例1~3と比較例1の気体透過特性を評価するために溶存水素透過度を測定した。溶存水素透過度は、水透過度を用いて評価し、水透過度は、蒸留水を原水として使用し、25℃でデッドエンドセル装備を用いて測定した。
【0090】
具体的には、測定圧力(差圧)で透過された蒸留水の量を測定して水透過度を計算し、蒸留水に水素ガスが飽和したと仮定して溶存水素透過度を算出し、その結果を下記表2に示した。
【0091】
【0092】
表2に示すように、実施例1~3の支持体または薄膜複合体分離膜は、商用多孔性分離膜(Zirfon)である比較例1に比べて溶存水素透過度が非常に低いことが確認できる。この結果を通じてポリエチレン支持体またはこれに基づく薄膜複合体分離膜を水電解システムに適用する場合、低い気体透過性を有して安全性を確保でき、低負荷運転でも気体がよく透過しないため、負荷変動に対応して柔軟に作動が可能であることを確認した。
【0093】
実験例4.面積比抵抗の測定
実施例1~3と比較例1の面積比抵抗をH型電解セルを使用し、インピーダンス分光法で測定した。アルカリ電解質としては、2M水酸化カリウム溶液25℃を使用した。測定された面積比抵抗を下記表3に示した。
【0094】
【0095】
表3に示すように、本発明の実施例1~3の支持体または分離膜は、商用多孔性分離膜(Zirfon)である比較例1に比べて面積比抵抗が非常に低いことが確認できる。この結果を通じて、ポリエチレン支持体またはそれに基づく薄膜複合体分離膜を水電解システムに適用する場合、低い面積比抵抗を有し、効率的な水電解システムの運用が可能である。
【0096】
実験例5.機械的強度の測定
実施例2及び3と比較例1及び2の機械的強度を万能材料試験機を用いて測定した。機械的強度は、面積75mm2(5mm×15mm)の支持体または分離膜を蒸留水に濡れた状態で20mm/分の速度で延伸して測定し、測定された機械的強度を下記表4に示した。
【0097】
【0098】
表4に示すように、本発明の実施例2及び3の支持体または分離膜は、商用多孔性分離膜(Zirfon)である比較例1及び商用高密度分離膜(FAA-3-50)である比較例2に比べて高い機械的強度を有することが分かる。この結果を通じて、ポリエチレン支持体またはこれに基づく薄膜複合体分離膜を水電解システムに適用する場合、高い機械的強度による寸法安定性を確保でき、安定した水電解システムの運用が可能である。
【0099】
実験例6.電圧の負荷特性
実施例1~3及び比較例1及び2の性能を電流による電圧を測定して評価した。
【0100】
具体的には、反応面積20cm
2を有し、締結圧(200kgf)を一定に保ちながら、性能を評価できるload cellを用いて測定し、電解質としては1M(商用高密度分離膜測定条件)、6M(商用多孔性分離膜測定条件)水酸化カリウム溶液80℃を使用した。電極触媒としてカソードはレイニーニッケル(Raney nickel)を、アノードはニッケル(nickel)-鉄層状二重水酸化物(layered double hodroxide)を使用した。また、ニッケルフォーム(110ppi)拡散体を電極支持体として使用し、直線状のチャネルが形成されたニッケル分離板を適用した。まず、実施例3と比較例2について、1M水酸化カリウム溶液80℃で水電解システム駆動時の性能を比較した。ここで、比較例2は、熱化学的安定性が低く80℃条件で分解され、比較例2の性能は60℃で測定し、実施例3はそのまま80℃条件で測定し、その結果を
図5に示した。
【0101】
図5に示すように、実施例3は、比較例2と同じ電流密度で類似の電圧負荷値を示した。また、80℃で分解される比較例2と異なり、実施例3は80℃で駆動が可能であり、より低い温度(60℃)での比較例2と類似の程度の水電解効率を示すことができた。
【0102】
一方、実施例1~3と比較例1について、6M水酸化カリウム溶液80℃で水電解システム駆動時に性能を比較し、その結果を
図6及び
図7に示した。
図6及び
図7に示すように、実施例1~3が比較例1に比べて同じ電流密度で低い電圧負荷値を示すことが確認でき、これは実施例1~3がすべて比較例1に比べて高い水電解効率を有することを示す。
【0103】
その結果を通じて、ポリエチレン支持体またはそれに基づく薄膜複合体分離膜を水電解システムに適用する場合、様々な運転条件で駆動が可能であり、高い水素生産効率が期待できる。
【国際調査報告】