(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品を分解するための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/44 20060101AFI20240426BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20240426BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20240426BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20240426BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C12P7/44 ZNA
C08G63/91
C08J11/10 ZAB
C12N9/16
C12N15/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571274
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2022063798
(87)【国際公開番号】W WO2022243547
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514245373
【氏名又は名称】キャルビオス
【氏名又は名称原語表記】CARBIOS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】マルティ,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ボーセンベルジェ,ヴァンシアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルニエ,ヴァンサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4F401
4J029
【Fターム(参考)】
4B064AD21
4B064CB03
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4F401FA01Z
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4J029CB06A
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4J029KG01
4J029KG03
(57)【要約】
本発明は、プラスチックを分解するための方法に関し、前記プラスチック製品は、テレフタル酸モノマーを少なくとも含むポリエステルを含むプラスチック及び/又は繊維製品から選択される。本発明の方法は、特に、pH3~6の酸性条件で行われる酵素的脱重合工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品を分解するための方法であって、
反応媒体中のプラスチック製品と前記少なくとも1種のポリエステルを分解可能な酵素、例えば、デポリメラーゼとを接触させることにより、3~6のpHで行われる前記少なくとも1種のポリエステルの脱重合工程を含む、
方法。
【請求項2】
デポリメラーゼが、エステラーゼ、好ましくは、リパーゼまたはクチナーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脱重合工程のpHを、該反応媒体に塩基を加えることにより、4.00~5.5、好ましくは4.50~5.50、より好ましくは、5.00~5.50、さらにより好ましくは、5.2+/-0.05にレギュレーションする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塩基が、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)又はアンモニア(NH
4OH)からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
脱重合工程のpHがレギュレーションされず、かつ3~5に含まれる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
50℃~72℃、65℃~72℃、60℃~65℃、50℃~65℃又は50℃~60℃に含まれる温度で実施する、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
脱重合工程を、プラスチック製品とポリエステル分解活性を示す少なくとも1種の酵素とを、3~6のpHで接触させることにより行う、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
脱重合工程の前に、該反応媒体に導入されるポリエステルの濃度が、該反応媒体の総重量に基づいて、150g/kg超、好ましくは、200g/kg超、より好ましくは、300g/kg超である、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
ポリエステルが、PET、PTT、PBT、PEIT、PBAT、PCT、PETG、PBST、PBSTIL、より好ましくは、PETから選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
ポリエステルが、PETから選択され、ここで、脱重合工程を、プラスチック製品と少なくとも2種の酵素、好ましくは、少なくとも1種のPETase及び少なくとも1種のMHETaseとを接触させることにより行う、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
プラスチック製品とPETase及びMHETaseとを同時に接触させる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
PETase及びMHETaseが、多酵素系、特に、2酵素系に含まれる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
プラスチック製品をまずPETaseと接触させ、MHETaseをPETaseの後に、該反応媒体に導入する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
追加量のMHETaseを該反応媒体に1回又は複数回加える、請求項10~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
MHETaseは、リパーゼ、クチナーゼ、クラスEC:3.1.1.102に属する酵素、配列番号:2に示される全長アミノ酸配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する酵素及びIdeonella sakaiensisから単離されもしくはこれに由来するMHETase又はその任意の機能的変異体からなる群より選択される、請求項10~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
脱重合工程を5.2+/-0.05にレギュレーションされたpH及び55℃+/-1℃に維持された温度で行う、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記ポリエステルを脱重合工程の前に、非晶質化工程及び/又は発泡工程に供する、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記ポリエステルの脱重合により生じるオリゴマー及び/又はモノマーを回収し、場合により、精製する工程をさらに含み、ここで、前記精製を好ましくは、溶媒、例えば、水、DMF、NMP、DMSO、DMACを使用して行う、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種のTAモノマーを有する少なくとも1種のポリエステルを含有するプラスチック成形品からTAを製造するための方法であって、
プラスチック物品を3~6のpHで行われる酵素的脱重合工程に供すること、及び
モノマー及び/又はオリゴマーを回収し、場合により、精製することを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、工業的又は半工業的規模でポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法に関し、前記プラスチック製品は、テレフタル酸モノマーを少なくとも含むポリエステルを含むプラスチック及び/又は繊維製品から選択される。本発明の方法は、特に、pH3~6の酸性条件で行われる酵素的脱重合工程を含む。本発明の方法は、ポリエチレンテレフタレートを含むプラスチック製品を分解するのに特に有用である。また、本発明は、少なくとも1種のテレフタル酸モノマーを含むポリエステルを含むプラスチック製品からモノマー及び/又はオリゴマーを製造するための方法に関する。
【0002】
背景
プラスチックは安価で、耐久性のある材料であり、幅広い用途(食品包装、繊維製品等)での使用が見出される各種の製品の製造に使用することができる。したがって、プラスチックの生産量は、ここ数十年で劇的に増加した。さらに、そのほとんどが、使い捨ての用途、例えば、包装、農業用フィルム、使い捨て消費財又は製造から1年以内に廃棄される短命製品に使用されている。含まれるポリマーの耐久性のために、大量のプラスチックが、世界中の埋立地及び自然生息地に堆積し、環境問題が深刻化している。例えば、近年、テレフタル酸とエチレングリコールとから製造される芳香族ポリエステルであるポリエチレンテレフタラート(PET)は、人間が消費する幾つかの製品、例えば、食品及び飲料の包装(例:ボトル、都合の良いサイズのソフトドリンク、栄養食品用パウチ)又は繊維製品、布地、敷物、カーペット等の製造に広く使用されている。
【0003】
プラスチック廃棄物の蓄積に関連する環境的及び経済的影響を軽減するために、プラスチック分解からプラスチックリサイクルまで、種々の解決策が研究されてきた。機械的リサイクル技術は、依然として最も使用されている技術であるが、幾つかの欠点がある。実際、機械的リサイクル技術には、大規模かつコストのかかる選別が必要であり、プロセス中に分子量が全体的に低下し、リサイクル製品中に添加剤が無秩序に存在するため、用途のグレードダウンにつながる。また、現在のリサイクル技術は高価である。その結果、再生プラスチック製品は、一般的には、未使用プラスチックと比較して競争力がない。
【0004】
近年、プラスチック製品の酵素的リサイクルの革新的な方法が開発され、記載されている(例えば、WO第2014/079844号、同第2015/097104号、同第2015/173265号、同第2017/198786号、同第2020/094661号及び同第2020/094646号)。伝統的なリサイクル技術とは対照的に、このような酵素的脱重合プロセスでは、高価な選別の必要性を取り除かれ、ポリマーの化学成分(すなわち、モノマー及び/又はオリゴマー)の回収が可能となる。得られたモノマー/オリゴマーを回収し、精製し、未使用プラスチック製品と同等の品質を有するプラスチック製品を再製造するのに使用することができる。このため、このような方法により、プラスチックの無限のリサイクルがもたらされる。これらの方法は、PETを含むプラスチック製品からテレフタル酸及びエチレングリコールを回収するのに特に有用である。これらの方法において、前記モノマー及び/又はオリゴマーの製造並びに特に、テレフタル酸の製造では、反応媒体のpHが低下し、これは、分解酵素活性に有害である場合がある。pHを維持し、それにより、最適な酵素活性を維持するために、塩基が、大量に使用される。しかしながら、テレフタル酸を沈殿により回収するためには、強酸が使用され、ほとんど価値のない塩が大量に生成される。加えて、塩基及び酸の使用並びに塩の無価値化は、これらの方法のコストに大きく影響を及ぼす。
【0005】
この問題に取り組むことにより、本発明者らは、このようなプラスチック製品の最適化された酵素的分解方法を開発した。このような方法では、経済的及び工業的観点から満足のいく脱重合収率を維持しながら、プロセスにおける塩基の添加量を少なくし又は添加しない(かつ塩の形成を少なくし又は塩の形成をなくす)必要がある。
【0006】
発明の概要
本発明者らは、ポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法の改善に取り組むことにより、酸性条件下で脱重合工程を行うことが可能であることを発見した。
【0007】
このため、工業的規模で許容し得る塩基消費量と脱重合収率との良好なバランスを可能にする特定の条件を決定したことが、本発明者らの長所である。
【0008】
この点に関して、本発明の目的は、テレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法であって、前記ポリエステル含有材料(例えば、プラスチック製品)と前記ポリエステルを分解可能な酵素とを少なくとも接触させることにより、3~6のpHで行われる前記少なくとも1種のポリエステルの脱重合工程を含む、方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、テレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法であって、反応媒体に塩基を加えることにより、5~5.5、好ましくは、pH5.2+/-0.05にレギュレーションされたpHで行われる酵素的脱重合工程を含む、方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、テレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法であって、酵素的脱重合工程をレギュレーションせず、3~4のpHで行う、方法を提供することでもある。
【0011】
発明の詳細な説明
定義
本発明の文脈において、「ポリエステル含有材料」又は「ポリエステル含有製品」は、結晶性、半結晶性又は全体が非晶質の形態にある少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品等の製品を指す。特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、少なくとも1種のプラスチック材料製の任意の品目、例えば、プラスチックシート、チューブ、ロッド、プロファイル、型、フィルム、塊状ブロック、繊維等を指す。これらは、少なくとも1種のポリエステル及び場合により、他の物質又は添加剤、例えば、可塑剤、鉱物もしくは有機充填剤を含有する。別の特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、プラスチック製品を製造するのに適した、溶融状態又は固体状態にあるプラスチックコンパウンド又はプラスチック配合物を指す。別の特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、少なくとも1種のポリエステルを含む繊維製品、布地又は繊維を指す。別の特定の実施態様では、ポリエステル含有材料は、少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック廃棄物又は繊維廃棄物を指す。特に、ポリエステル含有材料は、プラスチック製品である。
【0012】
本発明の文脈において、「プラスチック物品」又は「プラスチック製品」という用語は、少なくとも1種のポリマーを含む任意の品目又は製品、例えば、プラスチックシート、チューブ、ロッド、プロファイル、型、塊状ブロック、繊維等を指すのに使用される。好ましくは、プラスチック物品は、製造品、例えば、硬質又は軟質包装(ボトル、トレイ、カップ等)、農業用フィルム、バッグ及びサック、使い捨て品目等、カーペットくず、布地、繊維製品等である。プラスチック物品は、追加の物質又は添加剤、例えば、可塑剤、鉱物、有機充填剤又は染料を含有する場合がある。本発明の文脈において、プラスチック物品は、半結晶性及び/もしくは非晶質ポリマー並びに/又は添加剤の混合物を含む場合がある。
【0013】
「ポリマー」は、その構造が共有化学結合により連結された複数の繰り返し単位(すなわち、「モノマー」)で構成されている化合物又は化合物の混合物を指す。本発明の文脈において、「ポリマー」という用語は、プラスチック製品の組成に使用されるこのような化合物を指す。
【0014】
「ポリエステル」という用語は、主鎖にエステル官能基を含有するポリマーを指す。エステル官能基は、3つの他の原子に結合した炭素:炭素に単結合、酸素に二重結合及び酸素に単結合を特徴とする。単結合した酸素は、別の炭素に結合している。主鎖の組成に応じて、ポリエステルは、脂肪族、芳香族又は半芳香族となる場合がある。ポリエステルは、ホモポリマー又はコポリマーである場合がある。例として、ポリエチレンテレフタラートは、2つのモノマー:テレフタル酸及びエチレングリコールで構成される半芳香族コポリマーである。
【0015】
「脱重合」という用語は、ポリマー又はポリマーを含有するプラスチック物品に関連して、ポリマー又は前記プラスチック物品の少なくとも1種のポリマーが脱重合されかつ/又は分解されて、より小さな分子、例えば、モノマー及び/もしくはオリゴマー並びに/又は任意の分解生成物になるプロセスを指す。
【0016】
本発明によれば、「オリゴマー」は、2~約20のモノマー単位を含有する分子を指す。例として、PETから回収されるオリゴマーは、メチル-2-ヒドロキシエチルテレフタラート(MHET)並びに/又はビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタラート(BHET)並びに/又は1-(2-ヒドロキシエチル)及び/もしくは4-メチルテレフタラート(HEMT)並びに/又はジメチルテレフタラート(DMT)を含む。
【0017】
「反応媒体」という用語は、脱重合工程中に反応器に存在する全ての要素及び化合物(液体、酵素、ポリエステル、前記ポリエステルの脱重合により生じるモノマー及びオリゴマーを含む)を指し、反応器の内容物とも呼ばれる。
【0018】
本発明によれば、「反応媒体の液相」は、固体及び/又は懸濁粒子を何ら含まない反応媒体を指す。前記液相は、液体と、その中に溶解している全ての化合物(酵素、モノマー、塩等を含む)を含む。この液相を当業者に公知の手段、例えば、ろ過、デカンテーション、遠心分離等を使用して、該反応媒体の固相から分離し、回収することができる。本発明の文脈において、液相は、特に、残留ポリエステル(すなわち、非分解性及び不溶性のポリエステル)及び沈殿モノマーを含まない。
【0019】
本発明の方法
本発明者らは、プラスチック製品の酵素的分解プロセスの最適化に取り組むことにより、工業的性能に適合する酵素活性を維持しながら、塩基の消費量を低減することにより、共生成物(塩)の生成を回避し、プラスチック製品の分解プロセスの経済的利益を改善することが可能であることを発見した。とりわけ、本発明者らは、ポリエステルの酵素的脱重合を、塩基の添加を少なくして、酸性pHで行うことができることを発見した。代替的には、前記酸性での脱重合工程を反応媒体中のpHを何らレギュレーションすることなく、すなわち、塩基を加えることなく行う。
【0020】
このため、本発明の目的は、テレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法であって、ポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品と前記ポリエステルを分解可能な酵素とを少なくとも接触させることにより、3~6のpHで行われる前記少なくとも1種のポリエステルの脱重合工程を含む、方法を提供することである。
【0021】
好ましい実施態様では、該酵素は、デポリメラーゼ、より好ましくは、エステラーゼ、さらにより好ましくは、リパーゼ又はクチナーゼである。
【0022】
本発明によれば、酵素的脱重合工程を40℃~80℃、好ましくは、50℃~72℃、より好ましくは、50℃~65℃、さらにより好ましくは、50℃~60℃の温度で行う。実施態様において、酵素的脱重合工程を55℃~60℃又は50℃~55℃の温度で行う。別の実施態様では、酵素的脱重合工程を55℃~65℃で行う。別の実施態様では、脱重合工程を60℃~72℃、好ましくは、60℃~70℃で行う。実施態様において、酵素的脱重合工程の温度は、目的のポリエステルのTg未満に維持する。本発明の文脈において、「目的のポリエステル」は、該分解方法のターゲットとなるテレフタル酸モノマー(TA)を少なくとも含むポリエステルを指す。有利には、温度は、所定の温度+/-1℃に維持される。
【0023】
レギュレーションを伴う所定のpH
特定の実施態様では、前記脱重合工程の間に、pHを塩基の添加により、3~6+/-0.5の所定のpHにレギュレーションする。当業者に公知の任意の塩基を使用することができる。特に、pHを水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)又はアンモニア(NH4OH)からなる群より選択される塩基を該反応媒体に加えることによりレギュレーションすることができる。有利には、塩基は、水酸化ナトリウム(NaOH)である。好ましくは、pHを所定のpH+/-0.1、好ましくは、+/-0.05にレギュレーションする。すなわち、塩基を、前記所定のpH未満のpHへの任意の低下を防止するのに必要な量で、該反応媒体に加える。特に、脱重合工程の所定のpHを4~6、好ましくは、5~6にレギュレーションする。
【0024】
別の実施態様では、所定のpHを、該反応媒体に塩基を加えることにより、4~5.5、好ましくは、4.5~5.5、より好ましくは、5~5.5にレギュレーションする。特に、所定のpHを5.1~5.3にレギュレーションし、好ましくは、pH5.2+/-0.5、好ましくは、+/-0.1、より好ましくは、+/-0.05にレギュレーションする。代替的には、所定のpHを5.3~5.5にレギュレーションし、好ましくは、pH5.4+/-0.5、好ましくは、+/-0.1、より好ましくは、+/-0.05にレギュレーションする。代替的には、所定のpHを5.5~6にレギュレーションする。
【0025】
実施態様において、脱重合工程を5.0~5.5にレギュレーションされたpH及び50℃~72℃、好ましくは、50℃~65℃、より好ましくは、50℃~60℃に含まれる温度で行う。代替的には、脱重合工程を5.0~5.5にレギュレーションされたpH及び65℃~72℃に含まれる温度で行う。代替的には、脱重合工程を5.0~5.5にレギュレーションされたpH及び60℃~65℃に含まれる温度で行う。
【0026】
レギュレーションを何ら行わない
別の特定の実施態様では、脱重合工程のpHをレギュレーションしない、すなわち、脱重合工程の間に、pHを制御するために、塩基を該反応媒体に加えない。
【0027】
したがって、脱重合工程を3~5のpHで行う。特に、脱重合工程を3~4、好ましくは、3.5~4のpHで行う。代替的には、脱重合工程を4~5、好ましくは、4.5~5のpHで行う。実施態様において、脱重合工程を4.5~5のpH及び50℃~60℃の温度で行う。代替的には、脱重合工程を4.5~5のpH及び60℃~65℃の温度で行う。代替的には、脱重合工程を4.5~5のpH及び65℃~72℃の温度で行う。
【0028】
酵素及び微生物
本発明によれば、脱重合工程を、TAモノマーを少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品と前記ポリエステルを分解可能な酵素とを少なくとも接触させることにより行う。実施態様において、脱重合工程を、TAモノマーを少なくとも含む少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品と前記ポリエステルを分解可能な前記酵素を発現し、分泌する微生物とを少なくとも接触させることにより行う。
【0029】
実施態様において、前記少なくとも1種の酵素は、3~6のpHでポリエステル分解活性を示しかつ/又は3~6の至適pHを有する。「酵素の至適pH」とは、所定の温度条件及び所定の媒体中で酵素が最高の分解率を示すpHを指す。別の実施態様では、前記少なくとも1種の酵素は、6~10の至適pHを有し、3~6のpH及び/又は脱重合工程のpHでも、ポリエステル分解活性を示す。
【0030】
本発明の文脈において、「ポリエステル分解活性」を当業者に公知の任意の手段により評価することができる。特に、「ポリエステル分解活性」を、特定のポリエステルの脱重合活性率の測定、アガープレート中に分散させた固体ポリエステル化合物を分解する割合の測定、反応器中のポリエステルの脱重合活性率の測定、放出される脱重合生成物(EG、TA、MHET...)の量の測定、ポリエステルの質量測定により評価することができる。
【0031】
実施態様において、該酵素は、デポリメラーゼから選択され、好ましくは、エステラーゼから選択される。好ましい実施態様では、該酵素は、リパーゼ又はクチナーゼから選択される。
【0032】
特定の実施態様では、該酵素は、エステラーゼである。特に、エステラーゼは、クチナーゼ、好ましくは、Thermobifida cellulosityca、Thermobifida halotolerans、Thermobifida fusca、Thermobifida alba、Bacillus subtilis、Fusarium solani pisi、Humicola insolens、Sirococcus conigenus、Pseudomonas mendocina、Thielavia terrestris、Saccharomonospora viridis、Thermomonospora curvataから選択される微生物由来のクチナーゼ又はそれらの任意の機能的変異体である。別の実施態様では、クチナーゼは、メタゲノムライブラリー、例えば、Sulaiman et al., 2012に記載されているLC-クチナーゼもしくはEP第3517608号に記載されているエステラーゼ又はWO第2021/005198号、同第2018/011284号、同第2018/011281号、同第2020/021116号、同第2020/021117号もしくは同第2020/021118号に列記されているデポリメラーゼを含むその任意の機能的変異体から選択される。別の特定の実施態様では、エステラーゼは、好ましくは、Ideonella sakaiensis由来のリパーゼ又はWO第2021/005199号に記載されているリパーゼを含むその任意の機能的変異体である。別の特定の実施態様では、デポリメラーゼは、Humicola insolens由来のクチナーゼ、例えば、UniprotにおいてA0A075B5G4で言及されるもの又はその任意の機能的変異体である。別の実施態様では、デポリメラーゼは、市販の酵素、例えば、Novozym 51032又はその任意の機能的変異体から選択される。
【0033】
別の特定の実施態様では、該酵素は、配列番号:1に示される全長アミノ酸配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、ポリエステル分解活性、特に、PET分解活性を示す酵素から選択される。
【0034】
実施態様において、該酵素は、PET分解活性を有する酵素(PETase)及び/又はMHET分解活性を有する酵素(MHETase)から選択される。
【0035】
本発明の文脈において、「MHET分解活性」を当業者に公知の任意の手段により評価することができる。例として、「MHET分解活性」を放出される脱重合生成物(EG及びTA)の量の測定によるMHET分解活性率の測定により評価することができる。
【0036】
実施態様において、MHETaseをデポリメラーゼから選択することができ、好ましくは、エステラーゼから選択することができる。実施態様において、MHETaseは、リパーゼ又はクチナーゼから選択される。別の実施態様では、MHETaseは、クラスEC:3.1.1.102に属する酵素から選択される。
【0037】
特定の実施態様では、MHETaseは、Yoshida et al., 2016に開示されているような、Ideonella sakaiensisから単離されもしくはこれに由来するMHETase又はその任意の機能的変異体から選択される。別の特定の実施態様では、MHETaseは、配列番号:2に示される全長アミノ酸配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する酵素から選択される。
【0038】
特定の実施態様では、PETase及びMHETaseは、多酵素系、特に、2酵素系、例えば、Knott et al. 2020に開示されているIdeonella sakaiensisのPETase/MHETase系に含まれる。
【0039】
実施態様において、脱重合工程を、少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品と少なくとも2種の酵素、好ましくは、前記ポリエステル分解活性を示す少なくとも2種の酵素とを接触させることにより行う。特定の実施態様では、プラスチック製品は、PETを含み、脱重合工程を、PETを少なくとも含むプラスチック製品と少なくとも2種の酵素、好ましくは、少なくとも1種のPETase及び少なくとも1種のMHETaseとを接触させることにより行う。MHETaseをPETaseと同時に加えることができる。代替的に又は加えて、MHETaseをPETaseの後に、例えば、ポリエステルがPETaseにより少なくとも部分的に分解された後に加えることができる。PETase及びMHETaseの同時使用により、特定の実施態様では、相乗効果がもたらされ、このため、PETase単独及びMHETase単独で得られる脱重合率の合計より高い脱重合率がもたらされる。
【0040】
該酵素は、可溶性の形態又は固相、例えば、粉末の形態であることができる。特に、それらを細胞膜もしくは脂質小胞又は例えば、ビーズ、カラム、プレート等の形態にある合成支持体、例えば、ガラス、プラスチック、ポリマー、フィルター、膜に結合させることができる。該酵素は、単離形態又は精製形態にあることができる。好ましくは、本発明の酵素は、微生物で発現され、微生物に由来し、微生物から分泌され、単離され又は精製される。該酵素を当技術分野においてそれ自体公知の技術により精製することができ、従来の技術下で保存することができる。該酵素を例えば、その安定性、活性及び/又はポリマーへの吸着性を改善するためにさらに修飾することができる。例えば、該酵素は、安定化及び/又は可溶化成分、例えば、水、グリセロール、ソルビトール、マルトデキストリン及び/又はシクロデキストリンを含むデキストリン、デンプン、プロパンジオール、塩等と共に配合される。
【0041】
別の実施態様では、脱重合工程を、デポリメラーゼを発現しかつ分泌する少なくとも1種の微生物を使用して行う。本発明の文脈において、該酵素を培養培地中に分泌させ又は前記酵素を固定することができる微生物の細胞膜に向かわせることができる。前記微生物は、デポリメラーゼを天然に合成することができ又は前記微生物は、デポリメラーゼをコードするリコンビナントヌクレオチド配列が例えば、ベクターを使用して挿入されているリコンビナント微生物であることができる。例えば、目的のデポリメラーゼをコードするヌクレオチド分子が、ベクター、例えば、プラスミド、リコンビナントウイルス、ファージ、エピソーム、人工染色体等に挿入される。ホスト細胞のトランスフォーメーション及びホストに適した培養条件は、当業者に周知である。
【0042】
リコンビナント微生物を直接使用することができる。代替的に又は加えて、リコンビナント酵素を培養培地から精製することができる。任意の一般的に使用される分離/精製手段、例えば、塩析、ヒートショック、ゲルろ過、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィーをこの目的で使用することができる。特定の実施態様では、目的のデポリメラーゼを合成しかつ分泌することが公知の微生物を使用することができる。
【0043】
本発明によれば、脱重合工程の間に、複数の酵素及び/又は複数の微生物をまとめて又は連続して使用することができる。
【0044】
本発明によれば、該反応媒体中の酵素量は、0.1mg/g~15mg/g ターゲットとなるポリエステル、好ましくは、0.1mg/g~10mg/g、より好ましくは、0.1mg/g~5mg/g、さらにより好ましくは、0.5mg/g~4mg/gで含まれる。好ましくは、該反応媒体中の酵素量は、多くとも4mg/g、好ましくは、多くとも3mg/g、より好ましくは、多くとも2mg/g ターゲットとなるポリエステルである。少なくとも1種のPETase及び少なくとも1種のMHETaseが使用される場合、該反応媒体中のPETase量は、0.1mg/g~10mg/g ターゲットとなるポリエステル、好ましくは、0.1mg/g~5mg/g、より好ましくは、0.5mg/g~4mg/gで含まれ、該反応媒体中のMHETase量は、0.1mg/g~5mg/g ターゲットとなるポリエステル、好ましくは、0.1mg/g~2mg/gで含まれる。
【0045】
本発明によれば、脱重合工程の間に、追加量の酵素(例えば、PETase及び/又はMHETase)を連続的に又は逐次的に、該反応媒体に加えることができる。特に、追加量のMHETaseを、脱重合工程の間に、1回又は複数回加えることができる。
【0046】
実施態様において、脱重合工程を、プラスチック製品と少なくとも1種のPETアーゼ及び少なくとも1種のMHETaseとを同時に接触させることにより行い、脱重合工程のpHを5.0~5.5にレギュレーションし、温度を50℃~72℃、好ましくは、50℃~65℃、より好ましくは、50℃~60℃に維持する。代替的には、脱重合工程を65℃~72℃に含まれる温度又は60℃~65℃に含まれる温度で行う。場合により、追加量の酵素(PETase及び/又はMHETase)を脱重合工程の間に、該反応媒体に1回又は複数回加えることができる。
【0047】
実施態様において、脱重合工程を、プラスチック製品と少なくとも1種のPETase及び少なくとも1種のMHETaseとを同時に接触させることにより行い、脱重合工程のpHをpH5.2+/-0.05にレギュレーションし、温度を50℃~65℃+/-1℃にレギュレーションする。場合により、追加量の酵素(PETase及び/又はMHETase)を脱重合工程の間に、該反応媒体に1回又は複数回加えることができる。
【0048】
実施態様において、脱重合工程を、プラスチック製品と少なくとも1種のPETase及び少なくとも1種のMHETaseとを同時に接触させることにより行い、脱重合工程のpHをpH5.2+/-0.05にレギュレーションし、温度を54℃+/-1℃にレギュレーションする。場合により、追加量の酵素(PETase及び/又はMHETase)を脱重合工程の間に、該反応媒体に1回又は複数回加えることができる。
【0049】
別の実施態様では、脱重合工程を、プラスチック製品と少なくとも1種のPETaseと接触させることにより行い、pHをpH5.2+/-0.05にレギュレーションし、温度を54℃+/-1℃にレギュレーションする。追加量のMHETaseを脱重合工程の間に、該反応媒体に1回又は複数回さらに加える。例えば、MHETaseを、PETaseがポリエステルの少なくとも一部をオリゴマーに脱重合した後に加える。有利には、PETaseは、配列番号:1に示される全長アミノ酸配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、ポリエステル分解活性を示す酵素から選択され、MHETaseは、配列番号:2に示される全長アミノ酸配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する酵素から選択される。
【0050】
ポリエステル
実施態様において、本発明の方法は、プラスチック廃棄回収物及び/又は産業廃棄物由来のプラスチック製品を使用して実施される。とりわけ、本発明の方法を家庭用プラスチック廃棄物の分解に使用することができる。家庭用プラスチック廃棄物は、プラスチックボトル、プラスチックトレイ、プラスチックバッグ、プラスチック包装、軟質プラスチック及び/又は硬質プラスチックを含み、食品残渣、界面活性剤等で汚れている場合がある。代替的に又は加えて、本発明の方法を使用済みプラスチック繊維、例えば、布地、繊維製品及び/又は産業廃棄物から提供される繊維を分解するのに使用することができる。とりわけ、本発明の方法をPETプラスチック及び/又はPET繊維廃棄物、例えば、布地、繊維製品及び/又はタイヤから生じるPET繊維に使用することができる。
【0051】
本発明によれば、プラスチック製品は、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンイソソルビドテレフタラート(PEIT)、ポリブチレンアジパートテレフタラート(PBAT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタラート(PCT)、グリコシル化ポリエチレンテレフタラート(PETG)、ポリ(ブチレンスクシナート-コ-テレフタラート)(PBST)、ポリ(ブチレンスクシナート/テレフタラート/イソフタラート)-コ-(ラクタート)(PBSTIL)から選択される少なくとも1種のポリエステル及びこれらのポリマーのブレンド/混合物を含み、好ましくは、ポリエチレンテレフタラート(PET)から選択される。
【0052】
実施態様において、プラスチック製品は、該分解方法のターゲットとなる少なくとも1種の非晶質ポリエステルを含む。
【0053】
実施態様において、プラスチック製品は、該分解方法のターゲットとなる少なくとも1種の結晶性ポリエステル及び/又は少なくとも1種の半結晶性ポリエステルを含む。本発明の文脈において、「半結晶性ポリエステル」は、結晶領域と非晶領域とが共存する部分結晶性ポリエステルを指す。半結晶性ポリエステルの結晶化度は、種々の分析法により推定することができ、典型的には、10~90%の範囲である。例えば、示差走査熱量測定(DSC)又はX線回折をポリマーの結晶化度を測定するのに使用することができる。
【0054】
実施態様において、プラスチック製品は、該分解方法のターゲットとなる結晶性ポリエステル及び/又は半結晶性ポリエステル並びに非晶質ポリエステルを含む。
【0055】
実施態様において、プラスチック物品を、ポリエステルと酵素との接触面積を大きくするためかつ/又は廃棄物由来の微生物の混入(charge)を減少させるために、その構造を物理的に変化させるように、脱重合工程の前に前処理することができる。前処理の例は、特許出願WO第2015/173265号に記載されている。
【0056】
本発明によれば、プラスチック製品のポリエステルを当業者に公知の任意の手段により、脱重合工程の前に非晶質化工程に供することが可能である。非晶質化プロセスの例は、特許出願WO第2017/198786号に記載されている。特定の実施態様では、ポリエステルを非晶質化プロセスに供し、続けて、脱重合工程の前に、造粒及び/又は微粉化プロセスに供する。
【0057】
代替的には、プラスチック物品を当業者に公知の任意の手段により、脱重合工程の前に発泡工程に供することが可能である。発泡前処理プロセスの例は、特許出願PCT/EP第2020/087209号に記載されている。
【0058】
好ましい実施態様では、プラスチック製品を脱重合工程の前に前処理し、プラスチック製品の目的のポリエステルは、脱重合工程に供される前に、30%未満の結晶化度、好ましくは、25%未満、より好ましくは、20%未満の結晶化度を示す。
【0059】
反応器
本発明によれば、該方法を500mL超、1L超、好ましくは、2L、5L又は10L超の容積を有する任意の反応器中で実施することができる。特定の実施態様では、該方法を半工業的又は工業的規模で実施する。したがって、該方法を100L、150L、1000L、10000L、100000L、400000L超の容積を有する反応器中で実施することができる。
【0060】
本発明の文脈において、該反応器の総容積は、有利には、該反応媒体又は反応器の内容物の容積より少なくとも10%大きい。
【0061】
本発明によれば、初期反応媒体は、テレフタル酸モノマーを含む少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック製品と、液体と、前記ポリエステルを分解可能な少なくとも1種の酵素とを少なくとも含む。
【0062】
好ましい実施態様では、該反応媒体は、液体として、水性溶媒、例えば、バッファー及び/又は水、好ましくは、水を含む。好ましい実施態様では、該反応媒体中の液体は、非水性溶媒、特に、無機溶媒を含まない。特定の実施態様では、該反応媒体中の液体は、水のみからなる。
【0063】
本発明によれば、該反応器の内容物は、該方法の間、撹拌下に維持される。攪拌速度は、該反応器中でプラスチック製品を懸濁させ、温度の均一性を保ちかつpHをレギュレーションする場合には、その精度を高めることを可能にするのに十分であるように、当業者によりレギュレーションされる。
【0064】
実施態様において、脱重合工程の前に導入されるポリエステルの濃度は、初期反応媒体の総重量に対して、150g/kg超、好ましくは、200g/kg超、より好ましくは、300g/kg超、さらにより好ましくは、400g/kg超である。
【0065】
特定の実施態様では、脱重合工程の前に導入されるポリエステルの濃度は、200g/kg~400g/kg、好ましくは、300g/kg~400g/kgに含まれる。代替的には、脱重合工程の前に導入されるポリエステルの濃度は、400g/kg~600g/kgに含まれる。
【0066】
実施態様において、脱重合工程の間に、追加のポリエステル及び/又は酵素を該反応媒体に、連続的又は逐次的に加えることができる。
【0067】
特に、ポリエステルを300g/kg~600g/kg ポリエステル、好ましくは、400g/kg~600g/kg、より好ましくは、500g/kg~600g/kgに含まれる、該反応媒体に導入されるポリエステルの最終濃度に達するように加えることができる。ポリエステルの最終濃度は、脱重合工程前の反応媒体の総重量に基づいて、全分解プロセスの間に、該反応媒体に導入されたポリエステルの総量に相当する。
【0068】
実施態様において、脱重合工程の前に導入されるポリエステルの濃度は、該反応媒体の総重量に対して、300g/kg未満、好ましくは、200g/kg~300g/kgであり、追加のポリエステルを脱重合工程の間に、該反応媒体に導入されるポリエステルの最終濃度が400g/kg超、より好ましくは、500g/kg超、さらにより好ましくは、500g/kg~600g/kgに達するように加える。場合により、追加の酵素も脱重合工程の間に加える。
【0069】
精製
特定の実施態様では、ポリマー含有材料(例えば、プラスチック製品)を分解するための方法は、脱重合工程により生じるモノマー及び/又はオリゴマー及び/又は分解生成物、好ましくは、テレフタル酸を回収し、場合により、精製する工程をさらに含む。脱重合により生じるモノマー及び/又はオリゴマー及び/又は分解生成物を連続的に又は逐次的に回収することができる。
【0070】
単一の種類のモノマー及び/もしくはオリゴマー又は複数の種類のモノマー及び/もしくはオリゴマーを回収することができる。回収されたモノマー及び/又はオリゴマー及び/又は分解生成物を、全ての適切な精製法を使用して精製し、場合により、再重合可能な形態に調整することができる。精製の例は、特許出願WO第1999/023055号に記載されている。特定の実施態様では、固体の形態下にあるTAの回収は、該反応媒体の液相から固相をろ過により分離することを含む。
【0071】
回収された固相を水、DMF、NMP、DMSO、DMAC又は可溶化TAに公知の任意の溶媒から選択される溶媒に溶解させかつ/又は分散させることができ、不純物を除去するためにろ過することができる。ついで、可溶化TAを当業者に公知の任意の手段により再結晶化することができる。
【0072】
実施態様において、脱重合工程の後に、MHETaseを、脱重合工程の間に生成されたMHETを加水分解して、TAを生成するために、精製プロセスの前に該反応媒体に加える。
【0073】
好ましい実施態様では、ついで、再重合可能なモノマー及び/又はオリゴマーを再利用して、ポリマーを合成することができる。当業者であれば、モノマー/オリゴマー及び合成されるポリマーに対するプロセスパラメーターを容易に適合させることができる。
【0074】
また、したがって、本発明の目的は、少なくとも1種のTAモノマーを含む少なくとも1種のポリエステル、好ましくは、PETを含むポリエステル含有材料、例えば、プラスチック物品をリサイクルするための方法を提供すること並びに/又は少なくとも1種のTAモノマーを有する少なくとも1種のポリエステルを含むプラスチック物品からモノマー及び/もしくはオリゴマー及び/もしくは分解生成物、好ましくは、TAを製造する方法を提供することである。これらの方法は、プラスチック物品を3~6のpHで行われる酵素的脱重合工程に供し、モノマー及び/又はオリゴマーを回収し、場合により、精製することを含む。
【0075】
ポリエステル含有材料、例えば、プラスチック製品を分解するための方法に関連して上記表わされた全ての特定の実施態様は、モノマー及び/又はオリゴマーを製造する方法並びにリサイクルする方法にも適用される。
【0076】
実施例
実施例1-pH5.20+/-0.05にレギュレーションされた酵素的脱重合工程を含む、PETを含むプラスチック製品の分解方法
27%の平均結晶化度を有するPETを98%含むボトル廃棄物から洗浄され、着色されたフレークを、このフレーク(押出機に導入された混合物の総重量に基づいて98.5重量%)を押出機に導入された混合物の総重量に基づいて1重量% クエン酸(Adeka製のOrgather exp 141/183)及び0.5重量% 水と共に、二軸押出機Leistritz ZSE 18 MAXXにおいて、250℃超の温度で押出に供することにより発泡させた。得られた押出物を、7%の結晶化度を有する、2~3mmの固形ペレットに造粒した(すなわち、発泡PET)。
【0077】
本発明の分解方法を500mLの反応器中において、LC-クチナーゼの変異体(Sulaiman et al., Appl Environ Microbiol. 2012 Mar)を使用して実施した。このような変異体(以下、「LCC-ICCIG」)は、配列番号:1と比較して、下記突然変異F208I+D203C+S248C+V170I+Y92Gを有する、配列番号:1の酵素に相当し、Trichoderma reesei中でリコンビナントタンパク質として発現させた。
【0078】
該方法の開始時に、発泡PETを該反応器に、初期反応媒体の総重量に基づいて、200g/kgの濃度で加え、LCC-ICCIGを100mM リン酸バッファーpH8に、4mg/g PETで加えた。脱重合工程の間、温度を56℃にレギュレーションし、該反応媒体のpHを、5% NaOH溶液を加えることにより、pH5.2±0.05にレギュレーションした。
【0079】
PET脱重合率を定期的にサンプリングして測定した。該反応媒体からのサンプルを超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により分析し、生成された当量テレフタル酸の量を測定した。
【0080】
サンプルを100mM リン酸カリウムバッファーpH8で希釈した。サンプル又は希釈サンプル 1mLをメタノール 1mL及び6N HCl 100μLと混合した。ホモジナイズし、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、サンプル 20μLをUHPLC、Ultimate 3000 UHPLCシステム(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)にインジェクションした。同システムは、ポンプモジュール、オートサンプラー、25℃でのカラムサーモスタット及び240nmでのUV検出器を含む。テレフタル酸分子とオリゴマー(MHET及びBHET)とをプレカラム(Supelco, Bellefonte, PA)を備えたHPLC Discovery HS C18カラム(150mm×4.6mm、5μm)により、1mM H2SO4中のメタノールの勾配(30%~90%)を使用して、1m/分で分離した。TA単独、MHET及びBHETを市販のTA及びBHET並びに社内で合成されたMHET(BHETの部分塩基触媒加水分解による)から作成された検量線に従って測定した。当量TAは、測定されたTA、MHET及びBHETの合計である。
【0081】
140hの反応後の脱重合率は、38%であった。
【0082】
140hの反応後、理論的塩基消費量(Y塩基)を決定した。これは、沈殿TAを可溶化するために該反応媒体に加えられる塩基量(又は全プロセスが同じ酵素を使用してpH8で行われたであろう場合に導入されるべき塩基量)に相当する。ついで、前記プロセス中の塩基消費節約量(%)を下記式:
【数1】
により決定した。
【0083】
結果から、pH5.2での本発明の方法により、pH8で塩基がレギュレーションされた方法と比較して、25%の塩基経済性が可能となることが示される。
【0084】
実施例2:MHETaseを加える、pH5.20+/-0.05にレギュレーションされた酵素的脱重合工程を含む、PETを含むプラスチック製品を分解する方法
この方法を、実施例1に記載されたのと同じ発泡PETフレークを使用して行った。下記突然変異F208I+D203C+S248C+V170I+Y92Gを有する配列番号:1の酵素に相当する同じ変異体(「LCC-ICCIG」)を使用した。ただし、本件では、酵素をリコンビナントタンパク質としてBacillus subtilisにおいて発現させた。
【0085】
この方法の開始時に、発泡PETフレークを初期反応媒体の総重量に基づいて、200g/kgの濃度で反応器に加え、LCC-ICCIGを、300mM 酢酸ナトリウムバッファーpH5.2に、4mg/g PETで加え、配列番号:2のIdeonella sakaiensisのMHETaseを6.5mg加えた。脱重合工程の間に、温度を54℃にレギュレーションし、該反応媒体のpHを25% NaOH溶液の添加により、pH5.2±0.05にレギュレーションした。
【0086】
追加量のMHETaseを以下の表1に従って加えた。
【0087】
【0088】
脱重合をMHETase非存在下で行った1つの対照(対照1)も行った。
【0089】
71h後の脱重合率及び塩基消費節約量はそれぞれ、MHETaseを加え、pH8でレギュレーションされた方法と比較して、58%及び48.4%であった。
【0090】
71h後の脱重合率及び塩基消費節約量はそれぞれ、対照1(すなわち、MHETaseを加えない)のpH8でレギュレーションされた方法と比較して、46.1%及び39.3%であった。
【0091】
これらの結果から、MHETaseを加えることにより、酸性pHで行われた場合の反応の脱重合率をさらに向上させることが可能となることが示される。
【配列表】
【国際調査報告】