(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】KL1333の医薬用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20240426BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240426BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61P3/02
A61P21/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571460
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2022063583
(87)【国際公開番号】W WO2022243435
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513155596
【氏名又は名称】アブリバ エービー
(71)【出願人】
【識別番号】515088902
【氏名又は名称】ユンジン ファーム.カンパニー、リミテッド
【住所又は居所原語表記】13,Olympic-ro 35da-gil,Songpa-gu,Seoul 05510 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン,マグヌス ヨアキム
(72)【発明者】
【氏名】ヒュガース,マティルダ
(72)【発明者】
【氏名】グレンベルイ,アルヴァ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC22
(57)【要約】
本発明は、i)疲労症候群や疾患関連疲労などの疲労や、ミトコンドリア病に関連する筋力低下などの、ミトコンドリア病またはミトコンドリア病関連疾患の治療において使用するためのKL1333;ii)疲労、筋力低下およびミトコンドリア病のうちの1つ以上の治療のための薬物投与計画において使用するためのKL1333;iii)KL1333の治療効果のバイオマーカーとしての、血液中の乳酸(mM)/ピルビン酸(mM)比の使用であって、乳酸/ピルビン酸比の低下により治療が効果的であることが示される使用;ならびにiv)KL1333の治療効果のバイオマーカーとしての、血清中のナイアシンアミドおよび/またはキサンチンの使用であって、ナイアシンアミド濃度および/またはキサンチン濃度の比率の上昇により治療が効果的であることが示され、該ナイアシンアミド濃度および/またはキサンチン濃度の比率が、(試験日の血清中濃度)/(治療開始時の血清中濃度)である使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疲労の治療において使用するためのKL1333。
【請求項2】
前記疲労が、疲労症候群および疾患関連疲労を含む、請求項1に記載のKL1333。
【請求項3】
前記疲労が、肉体疲労、精神疲労、神経学的疲労または慢性疲労である、請求項1または2に記載のKL1333。
【請求項4】
前記疲労が、
i)セリアック病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、シェーグレン症候群、脊椎関節症などの自己免疫疾患、
ii)貧血やヘモクロマトーシスなどの血液疾患、
iii)がん(がん疲労と呼ばれる)、
iv)慢性疲労症候群(CFS)、
v)アルコール使用障害を含む物質使用障害、
vi)うつ病およびその他の精神疾患、
vii)自閉スペクトラム症などの発達障害、
viii)摂食障害、
ix)糖尿病、甲状腺機能低下症、アジソン病などの内分泌疾患または代謝性疾患、
x)線維筋痛症、
xi)湾岸戦争症候群、
xii)心不全、
xiii)HIV、
xiv)特発性慢性疲労(ICF)、
xv)果糖吸収不全症などの先天性代謝異常、
xvi)伝染性単核症や結核などの感染症、
xvii)過敏性腸症候群、
xviii)例えば、急性腎不全や慢性腎不全などの腎疾患、
xix)白血病またはリンパ腫、
xx)肝不全、または肝炎などの肝疾患、
xxi)ライム病、
xxii)ナルコレプシー、パーキンソン病、体位性起立性頻拍症候群、脳震盪後症候群などの神経疾患、
xxiii)身体外傷、および関節炎などの疼痛を引き起こすその他の状態、
xxiv)断眠または睡眠障害、
xxv)五月病、
xxvi)脳卒中、
xxvii)甲状腺疾患、
xxviii)尿毒症、ならびに
xxix)ミトコンドリア病
から選択される疾患に関連している、先行する請求項のいずれか1項に記載のKL1333。
【請求項5】
前記疲労が、ミトコンドリア病に関連している、先行する請求項のいずれか1項に記載のKL1333。
【請求項6】
前記ミトコンドリア病が、本明細書に定義されたものである、請求項5に記載のKL1333。
【請求項7】
前記ミトコンドリア病が、複合体I欠損によって引き起こされたものである、請求項5または6に記載のKL1333。
【請求項8】
筋力低下の治療または筋持久力の向上において使用するためのKL1333。
【請求項9】
前記筋力低下が神経筋疲労である、請求項8に記載のKL1333。
【請求項10】
前記筋力低下が、疾患によって引き起こされたものである、請求項8または9に記載のKL1333。
【請求項11】
前記疾患が、糖尿病、心臓病、脳卒中、うつ病、線維筋痛症、慢性疲労症候群、多発性筋炎、炎症性筋疾患、ミトコンドリア病;および筋ジストロフィー、多発性硬化症、グレーブス病、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群などの神経筋疾患から選択される、請求項10に記載のKL1333。
【請求項12】
前記筋力低下が、ミトコンドリア病に関連している、請求項8~11のいずれか1項に記載のKL1333。
【請求項13】
前記ミトコンドリア病が、本明細書に定義されたものである、請求項12に記載のKL1333。
【請求項14】
前記ミトコンドリア病が、複合体I欠損によって引き起こされたものである、請求項12または13に記載のKL1333。
【請求項15】
KL1333が、1日1回、1日2回または1日3回投与される、先行する請求項のいずれか1項に記載のKL1333。
【請求項16】
前記治療を、少なくとも2日間、例えば、少なくとも5日間、少なくとも10日間、少なくとも4週間または少なくとも2ヶ月間継続する、先行する請求項のいずれか1項に記載のKL1333。
【請求項17】
疲労、筋力低下およびミトコンドリア病のうちの1つ以上の治療のための薬物投与計画において使用するためのKL1333であって、
前記薬物投与計画が、
i)疲労、筋力低下またはミトコンドリア病を有する対象に、25mg~150mgのKL1333、例えば、25mg~100mgのKL1333を、2~10日間毎日投与することによって、定常状態の血液中KL1333濃度を得ること、
ii)AUC(曲線下面積)、CminまたはCtroughとして示される血液中KL1333濃度を測定して、AUCが3,000h・ng/mL未満であるか、Cminが65ng/mL以下であるか、またはCtroughが130ng/mL以下であるのかを判断すること、および
iii)少なくとも3,000h・ng/mLのAUC(曲線下面積)、少なくとも65ng/mlのCminまたは少なくとも130ng/mLのCtroughに対応する定常状態の血液中KL1333濃度が得られるように1日用量を調節することによって、1日用量の調節後10日目に、少なくとも3,500h・ng/mLのAUC、少なくとも77ng/mLのCminもしくは少なくとも163ng/mLのCtroughを得るか;少なくとも4,000h・ng/mLのAUC、少なくとも88ng/mLのCminもしくは少なくとも196ng/mLのCtroughを得るか;少なくとも4,500h・ng/mLのAUC、少なくとも100ng/mLのCminもしくは少なくとも228ng/mLのCtroughを得るか;または4,000~12,000h・ng/mLの範囲のAUC、88~275ng/mLの範囲のCminもしくは196~333ng/mLの範囲のCtroughを得ること
を含む、KL1333。
【請求項18】
前記薬物投与計画が経口投与により実施される、請求項17に記載のKL1333。
【請求項19】
請求項1~16のいずれか1項に詳細が定義されている、請求項17または18に記載のKL1333。
【請求項20】
KL1333の治療効果のバイオマーカーとしての、血液中の乳酸濃度(mM)と血液中のピルビン酸濃度(mM)の比率(乳酸/ピルビン酸比)であって、治療開始後の乳酸/ピルビン酸比の低下によって治療が効果的であることが示され、該治療が、請求項1~19のいずれか1項に定義された通りである、乳酸/ピルビン酸比。
【請求項21】
前記乳酸/ピルビン酸比の低下が、少なくとも10%であり、例えば、少なくとも20%または少なくとも25%である、請求項20に記載の乳酸/ピルビン酸比。
【請求項22】
KL1333の治療効果のバイオマーカーとしてのナイアシンアミドであって、治療開始後のナイアシンアミド濃度の比率の上昇によって治療が効果的であることが示され、該ナイアシンアミド濃度の比率が、(試験日の血清中濃度)/(治療開始時の血清中濃度)である、バイオマーカーとしてのナイアシンアミド。
【請求項23】
前記ナイアシンアミド濃度の比率の上昇が、2倍以上である、請求項24に記載のバイオマーカーとしてのナイアシンアミド。
【請求項24】
KL1333の治療効果のバイオマーカーとしてのキサンチンであって、治療開始後のキサンチン濃度の比率の上昇によって治療が効果的であることが示され、該キサンチン濃度の比率が、(試験日の血清中濃度)/(治療開始時の血清中濃度)である、バイオマーカーとしてのキサンチン。
【請求項25】
前記キサンチン濃度の比率の上昇が、10%以上であり、例えば、15%以上、20%以上、25%以上または30%以上である、請求項24に記載のバイオマーカーとしてのキサンチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア疾患の治療またはミトコンドリア病に関連する疾患/状態の治療におけるKL1333の医薬用途に関する。さらに、本発明は、疲労または筋力低下の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労や筋力低下は、特定の疾患に関連していたり、特定の疾患によって引き起こされることが多い。
【0003】
ミトコンドリアは、電子伝達系を介してアデノシン三リン酸(ATP)の形態で、人体により必要とされるエネルギーの大半を産生している重要な細胞小器官である。原発性ミトコンドリア病は、一般に電子伝達系の機能不全をきっかけに発症し、ミトコンドリアのエネルギー産生障害や活性酸素種(ROS)の過剰産生を起こす。何百種類もの原発性ミトコンドリア病が知られており、これには、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)、レーベル遺伝性視神経症、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群およびリー症候群が含まれる。原発性ミトコンドリア病は、病変を生じた臓器の種類に応じて様々な症状を呈し、過去には臨床症候群として捉えられていたが、近年では、ミトコンドリアの機能に影響を及ぼす遺伝子欠損により引き起こされる疾患スペクトラムとして捉えられている。原発性ミトコンドリア病に罹患している患者は、1,000,000人あたり125人と推定されている。原発性ミトコンドリア病の臨床症状は、幅広い表現型スペクトラムを示し、例えば、臓器不全、呼吸循環停止、頭蓋内出血、白血病/リンパ腫、心筋虚血、腸閉塞、免疫不全などの生命に危険が及ぶ重篤な状態が認められ、さらに幅広い種類のその他の消耗状態が認められることもある。
【0004】
現在のところ、原発性ミトコンドリア病用の承認医薬品は存在しない。したがって、ミトコンドリア病に効果的であり、かつ/またはミトコンドリア病に関連する障害もしくは疾患にも効果的な薬物物質を同定する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
KL1333は、原発性ミトコンドリア病用に現在開発中の新規化合物である。KL1333は、NAD(P)H:デヒドロゲナーゼ[キノン]1(NQO1)の基質として作用し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型;NADH)を補因子として利用して、KL1333に2つの電子を移動させることによって、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型;NAD+)を産生する。KL1333は、これらの電子をミトコンドリアの電子伝達系に移動させることによって、ATPの産生を直接促進する。さらに、NAD+レベルを増加させることによって、サーチュイン1(SIRT1)、5’-アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α(PGC-1α)などのミトコンドリア生合成経路を活性化させて、ミトコンドリアの機能を改善する。
【0006】
KL1333は、前臨床モデルにおいて、ミトコンドリアのエネルギー出力を増加させ、エネルギー代謝に対して長期的に有益な効果をもたらすことが示されている。本明細書で報告する臨床試験では、KL1333によって疲労が低下し、かつ筋機能が強化されることが示されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に関する。
i)疲労症候群や疾患関連疲労などの疲労の治療において使用するためのKL1333。
ii)疾患に関連する筋力低下などにおける筋機能の強化において使用するためのKL1333。
iii)疲労、筋力低下およびミトコンドリア病のうちの1つ以上の治療のための薬物投与計画において使用するためのKL1333であって、
前記薬物投与計画が、
i)疲労、筋力低下またはミトコンドリア病を有する対象に、25~150mgの範囲のKL1333、例えば、25~100mgのKL1333を、2~10日間毎日投与することによって、定常状態の血液中KL1333濃度を得ること、
ii)AUC(曲線下面積)、CminまたはCtroughとして示される血液中または血漿中のKL1333の濃度、好ましくは血漿中のKL1333濃度を測定して、AUCが3,000h・ng/mL未満であるか、Cminが65ng/mL以下であるか、またはCtroughが130ng/mL以下であるのかを判断すること、ならびに
iii)少なくとも3,000h・ng/mLのAUC、少なくとも65ng/mlのCminおよび/または少なくとも130ng/mLのCtroughに対応する定常状態の血液中または血漿中KL1333濃度、好ましくはこれらに対応する定常状態の血漿中KL1333濃度が得られるように1日用量を調節することによって、1日用量の調節後10日目に、少なくとも3,500h・ng/mLのAUC、少なくとも77ng/mLのCminおよび/もしくは少なくとも162ng/mLのCtroughを得るか;少なくとも4,000h・ng/mLのAUC、少なくとも88ng/mLのCminおよび/もしくは少なくとも196ng/mLのCtroughを得るか;少なくとも4,500h・ng/mLのAUC、少なくとも100ng/mLのCminおよび/もしくは少なくとも228ng/mLのCtroughを得るか;または4,000~12,000h・ng/mLの範囲のAUC、88~275ng/mLの範囲のCminおよび/もしくは196~333ng/mLの範囲のCtroughを得ること
を含む、KL1333。
iv)KL1333の治療効果のバイオマーカーとしての、血液中の乳酸(mM)/ピルビン酸(mM)比の使用であって、乳酸/ピルビン酸比の低下により治療が効果的であることが示される、使用。
v)KL1333の治療効果の初期反応バイオマーカーとしての、血清中のナイアシンアミドおよび/またはキサンチンの使用であって、ナイアシンアミド濃度の比率および/またはキサンチン濃度の比率の上昇により治療が効果的であることが示され、該ナイアシンアミド濃度の比率および/またはキサンチン濃度の比率が、(試験日の血清中濃度)/(治療開始時の血清中濃度)である、使用。
【発明を実施するための形態】
【0008】
結論として、血液中乳酸/ピルビン酸比、ナイアシンアミドおよびキサンチンは、原発性ミトコンドリア病患者におけるKL1333の治療効果のバイオマーカーとして使用することができる。これを踏まえて、KL1333による治療の10日目に、日常疲労度スケールの疲労度スコアの低下が最も大きかった患者は、血清中の乳酸/ピルビン酸比も低かったことが見出された(
図10)。
【0009】
本発明の説明において、「Cmin」は、定常状態での血液中最低濃度または血漿中最低濃度であり、「Ctrough」は、次の投与を行う直前の血液中濃度または血漿中濃度である。血漿中濃度を測定することが好ましい。
【0010】
効果的な治療の指標となる血液中乳酸(mM)/ピルビン酸(mM)比の低下に関して、治療開始時の数値に対して少なくとも10%の低下、例えば、少なくとも15%の低下、少なくとも20%の低下、少なくとも25%の低下、少なくとも30%の低下、少なくとも35%の低下、少なくとも40%の低下、少なくとも45%の低下または少なくとも50%であれば、治療が効果的であることが示される。治療開始時の数値は、治療が開始される前の数値であってもよく、治療が開始された後の、治療の有効性が経時的に観察される前の時点であってもよい。
【0011】
血清中ナイアシンアミドの増加は、前記で定義された治療開始時の数値から2倍以上の増加であってもよく、例えば、3倍以上の増加であってもよい。
【0012】
血清中キサンチンの増加は、20%以上の増加であってもよく、例えば、25%以上の増加または30%以上の増加であってもよい。
【0013】
KL-1333は、分子量240.26g/molの薬物物質である。KL-1333は、淡紅色~赤褐色で、非吸湿性であり、水にほとんど溶けない結晶性粉末である。KL-1333は、複数の化学合成工程を経て製造される。その分子構造は以下の化学式で示される。
【化1】
【0014】
KL1333は、原発性ミトコンドリア病用に開発された別のNQO1活性化合物(すなわちイデベノン)よりも強力なNQO1の基質であることが示された。MELAS患者から得た細胞を含む細胞モデルにおいて、KL1333がATPを増加させ;ROSを減少させ;乳酸を減少させ;NAD+を増加させ;SIRT1、AMPKおよびPGC-1αを活性化させ;かつミトコンドリアの酸化的リン酸化機能を改善することが示された。
【0015】
本明細書で報告する臨床試験(KL1333 2018-102)では、64人の健常ボランティアとミトコンドリア病が遺伝的に確認された8人の患者に、KL1333またはプラセボを投与した。本試験において重篤な有害事象は認められなかった。また、本試験において、対象者の臨床化学データ、血液学データまたは尿分析データの平均値または個々の数値に、明らかな治療依存傾向や用量依存傾向は認められなかった。また、本試験のバイタルサイン測定、12誘導心電図または身体診察においても、明らかな治療依存傾向や用量依存傾向は認められなかった。KL1333は、食事を摂取して、または食事を摂取せずに、25mgの単回経口投与として健常者に投与した場合、良好に忍容された。健常者において、25~75mgの1日1回(QD)用量は良好に忍容され、150mgの用量も忍容されたが、250mgの用量は、治験薬投与下で消化管に有害事象(TEAE)が発生したことから忍容性は低かった。150mgのKL1333の1日用量を1日2回(BID)用量または1日3回(TID)用量に分割すると、1日1回(QD)用量とした場合よりも良好に忍容され、消化管関連の有害事象の頻度と強度が低下した。また、原発性ミトコンドリア病患者に、50mgの1日1回(QD)用量を10日間反復経口投与した場合も、KL1333は良好に忍容された。本試験における原発性ミトコンドリア病患者の臨床アウトカム評価から、疲労と筋力低下の治療にKL1333が有効であることが証明された。
【0016】
疲労
本明細書で示すように、KL1333は疲労に効果的に作用する。疲労は、慢性疲労症候群の形態であってもよく、例えば、原発性ミトコンドリア病などのミトコンドリア病などのその他の疾患に関連するものであってもよい。
【0017】
疲労とは、疲労感を感じることである。疲労は急に起こったり、徐々に起こったりする。長時間の身体活動または精神活動の後に疲労が起こり、休息することで完全に回復するのは、正常な現象である。一方、疲労が持続したり、重篤であったり、進行性であったり、誘因なしに起こった場合は、病的状態の一症状である。
【0018】
肉体疲労は、筋肉が一時的に最適な身体能力を維持することができなくなることであり、激しい運動により重篤になる。肉体疲労すなわち筋疲労は、筋肉中のエネルギーの喪失、神経筋接合部の効率の低下、または中枢神経系からの指令の低下によって起こりうる。疲労の中心的要素は、中枢神経系におけるセロトニンレベルの増加によって誘発される。肉体疲労は神経筋疾患によっても起こりうる。
【0019】
精神疲労は、長時間の認知活動により生じる最大認知能力の一時的な低下である。精神疲労は、傾眠、嗜眠または選択的注意の疲労として現れることがある。
【0020】
神経学的疲労は、多発性硬化症患者に見られることがある。そのような患者は、極度の倦怠感または疲労感を経験することが多い。
【0021】
慢性疲労は、少なくとも6ヶ月間連続して持続する疲労である。慢性疲労は、様々な疾患および状態の症状である。疲労に関連する主な疾患のうちのいくつかとして、
i)セリアック病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、シェーグレン症候群、脊椎関節症などの自己免疫疾患、
ii)貧血やヘモクロマトーシスなどの血液疾患、
iii)がん(がん疲労と呼ばれる)、
iv)慢性疲労症候群(CFS)、
v)アルコール使用障害を含む物質使用障害、
vi)うつ病およびその他の精神疾患、
vii)自閉スペクトラム症などの発達障害、
viii)摂食障害、
ix)糖尿病、甲状腺機能低下症、アジソン病などの内分泌疾患または代謝性疾患、
x)線維筋痛症、
xi)湾岸戦争症候群、
xii)心不全、
xiii)HIV、
xiv)特発性慢性疲労(ICF)、
xv)果糖吸収不全症などの先天性代謝異常、
xvi)伝染性単核症や結核などの感染症、
xvii)過敏性腸症候群、
xviii)例えば、急性腎不全や慢性腎不全などの腎疾患、
xix)白血病またはリンパ腫、
xx)肝不全、または肝炎などの肝疾患、
xxi)ライム病、
xxii)ナルコレプシー、パーキンソン病、体位性起立性頻拍症候群、脳震盪後症候群などの神経疾患、
xxiii)身体外傷、および関節炎などの疼痛を引き起こすその他の状態、
xxiv)断眠または睡眠障害、
xxv)五月病、
xxvi)脳卒中、
xxvii)甲状腺疾患、
xxviii)尿毒症、ならびに
xxix)ミトコンドリア病
が挙げられる。
【0022】
筋力低下
筋力低下は筋力の不足である。真の筋力低下は、様々な骨格筋疾患の一次症状である。筋力低下は、神経筋疲労であってもよく、神経筋疲労は、その原因に応じて中枢性筋疲労または末梢性筋疲労に分類することができる。中枢性筋疲労は、全体的なエネルギーの枯渇として現れ、末梢性筋疲労は、局所的に筋肉がうまく働かない状態として現れる。
【0023】
筋力低下は、一般に運動不足、加齢または筋損傷により起こる。さらに、筋力低下は、長期に及ぶ疾患に伴って起こることがあり、このような疾患として、糖尿病、心臓病、脳卒中、うつ病、線維筋痛症、慢性疲労症候群、多発性筋炎、炎症性筋疾患、ミトコンドリア病;および筋ジストロフィー、多発性硬化症、グレーブス病、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群などの神経筋疾患が挙げられる。
【0024】
ミトコンドリア病
KL1333は、ミトコンドリア病、特に複合体I欠損症によるミトコンドリア病の予防もしくは治療、またはミトコンドリア病に関連する1つ以上の症状(例えば、疲労や筋力低下)の治療に使用される。ミトコンドリア病は以下から選択される。
・アルパース病(進行性乳児ポリオジストロフィー)
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
・自閉症
・バース症候群(致命性乳児心筋症)
・β酸化欠損症
・ 生体エネルギー代謝欠損症
・カルニチン-アシルカルニチン欠損症
・カルニチン欠損症
・グアニジノ酢酸メチルトランスフェラーゼ欠損症(GAMT欠損症)、L-アルギニン・グリシンアミジノトランスフェラーゼ欠損症(AGAT欠損症)およびSLC6A8関連クレアチントランスポーター欠損症(SLC6A8欠損症)を含むクレアチン欠乏症候群(脳クレアチン欠乏症候群(CCDS))
・コエンザイムQ10欠損症
・複合体I欠損症(NADHデヒドロゲナーゼ(NADH-CoQレダクターゼ)欠損症)
・複合体II欠損症(コハク酸デヒドロゲナーゼ欠損症)
・複合体III欠損症(ユビキノン-シトクロムCオキシドレダクターゼ欠損症)
・複合体IV欠損症/COX欠損症(シトクロムCオキシダーゼ欠損症は、呼吸鎖の複合体IVの欠損によって引き起こされる)
・複合体V欠損症(ATPシンターゼ欠損症)
・COX欠損症
・CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺症候群)
・CPT I欠損症
・CPT II欠損症
・フリードライヒ運動失調症(FRDAまたはFA)
・グルタル酸尿症II型
・KSS(カーンズ・セイヤー症候群)
・乳酸アシドーシス
・LCAD(長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症)
・LCHAD
・リー病またはリー症候群(亜急性壊死性脳脊髄障害)
・LHON(レーベル遺伝性視神経症)
・ルフト病
・MCAD(中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症)
・MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)
・MERRF(赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん疾患)
・MIDD(母系遺伝性糖尿病・難聴)
・MIRAS(ミトコンドリア劣性運動失調症候群)
・ミトコンドリア細胞症
・ミトコンドリアDNA欠乏症
・脳筋症および脳脊髄障害を含むミトコンドリア脳症
・ミトコンドリアミオパチー
・MNGIE(神経性胃腸管系脳筋症)
・NARP(神経性薄弱運動失調網膜色素変性症)
・パーキンソン病、アルツハイマー病またはハンチントン病に関連する神経変性疾患
・ピアソン症候群
・ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症
・ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症
・POLG変異
・呼吸鎖欠損症
・SCAD(短鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症)
・SCHAD(短鎖L-3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(SCHAD)欠損症、3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症(HADH)とも呼ばれる)
・VLCAD(極長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症)
・糖尿病
・急性飢餓
・内毒素血症
・敗血症
・全身炎症反応症候群(SIRS)
・多臓器不全
【0025】
United Mitochondrial Disease Foundation(www.umdf.org)のウェブページに記載の情報を参照して、前述の疾患の一部を以下でより詳しく説明する。
【0026】
複合体I欠損症:
ミトコンドリアの内部には、4つの連鎖反応に沿って電子を運び、エネルギー産生に寄与するタンパク質群(複合体I~IV)が存在する。この連鎖反応は電子伝達系として知られている。5番目のタンパク質群(複合体V)はATPを大量に産生する。電子伝達系とATPシンターゼが一緒になって呼吸鎖を形成しており、このプロセス全体は、酸化的リン酸化すなわちOXPHOSとして知られている。
【0027】
この連鎖反応の最初の工程である複合体Iは、ミトコンドリア異常において最もよく見られる部位であり、呼吸鎖欠損症全体の3分の1にも及ぶ。複合体I欠損症は、一般に、出生時または幼児期に認められることが多い進行性神経変性疾患であり、脳、心臓、肝臓、骨格筋などの特にエネルギー量が多く必要とされる臓器および組織において様々な臨床症状を引き起こす。レーベル遺伝性視神経症(LHON)、MELAS、MERRF、リー症候群(LS)などの特定のミトコンドリア病の多くが複合体I欠損症に関連している。MELASは、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群を意味し、MERRFは、赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群を意味する。
【0028】
レーベル遺伝性視神経症(LHON)は、平均で27~34歳に発症する失明を特徴とする。この失明は、両眼に同時に起こることがあるが、片目ずつ連続して起こることもある(片方の眼で最初に失明が発症し、平均で2ヶ月後以降にもう一方の眼にも失明が発症する)。心臓の異常や神経合併症などのその他の症状がさらに起こることもある。
【0029】
複合体I欠損症には、主に3つの病型がある。
i)致死性乳児多系統疾患-低筋緊張、発育遅延、心臓病、乳酸アシドーシスおよび呼吸不全を特徴とする。
ii)ミオパチー(筋疾患)-小児期または成年期に始まり、虚弱または運動不耐性を特徴とする。
iii)ミトコンドリア脳筋症(脳および筋肉の疾患)-小児期または成年期に始まり、眼筋麻痺、色素性網膜症(失明を伴う網膜色素変性)、難聴、感覚性ニューロパチー(感覚器を含む神経損傷)、痙攣、認知症、運動失調症(筋肉協調の異常)、不随意運動などが様々な程度で組み合わさった症状が認められる。この形態の複合体I欠損症は、リー症候群やMELASを引き起こすことがある。
【0030】
複合体I欠損症の大半は、常染色体劣性遺伝(母親と父親の両方に由来する欠陥核内遺伝子の組み合わせ)により生じる。複合体I欠損症が母系遺伝したり、散発的に発生することもあるが、その頻度は低い。遺伝子欠損はミトコンドリアDNAに見られる。
【0031】
治療:あらゆるミトコンドリア病と同様に、複合体I欠損症に対する治癒療法は現在存在しない。効果的である可能性のある様々な治療として、リボフラビン、チアミン、ビオチン、コエンザイムQ10、カルニチン、ケトン誘発食などの代謝治療が挙げられる。致死性乳児多系統疾患の形態の複合体I欠損症に対する治療は失敗に終わっている。
【0032】
複合体I欠損症患者の臨床経過および予後は、特定の遺伝子欠損、発病年齢、関与している臓器およびその他の要因に応じて非常に様々である。
【0033】
複合体III欠損症:
この疾患の症状は主に4つの病型を含む。
i)致死性乳児脳筋症、先天性乳酸アシドーシス、筋緊張低下、ジストロフィー様姿勢、痙攣および昏睡を示す。一般に、筋組織に赤色ぼろ線維が見られる。
ii)後期(小児期~成年期)に発症する脳筋症:虚弱、低身長、運動失調症、認知症、難聴、感覚性ニューロパチー、網膜色素変性および錐体路徴候が様々な組み合わせで認められる。一般に、赤色ぼろ線維が見られる。乳酸アシドーシスが見られることもある。
iii)固定性の筋力低下に発展する運動不耐性を伴うミオパチー。一般に、赤色ぼろ線維が見られる。乳酸アシドーシスが見られることもある。
iv)乳児類組織球性心筋症
【0034】
複合体IV欠損症/COX欠損症:
この疾患の症状は主に2つの病型を含む。
1.脳筋症:通常、生後6~12ヶ月間は正常であるが、その後に、発達退行、運動失調症、乳酸アシドーシス、視神経萎縮、眼筋麻痺、眼振、ジストニー、錐体路徴候および呼吸困難を示す。痙攣が頻発する。リー症候群を発症することがある。
2.ミオパチー:主な2種のバリアント:
1.致死性乳児ミオパチー:出生直後に発症し、筋緊張低下、虚弱、乳酸アシドーシス、赤色ぼろ線維、呼吸不全および腎臓の問題が併発する。
2.良性乳児ミオパチー:出生直後に発症し、筋緊張低下、虚弱、乳酸アシドーシス、赤色ぼろ線維、呼吸の問題が併発するが、(罹患児が生存した場合)自然に改善する。
【0035】
KSS(カーンズ・セイヤー症候群):
KSSは、上眼瞼が下垂すること(眼瞼下垂)から始まることが多い緩慢進行性の多系統ミトコンドリア病である。最終的にはその他の眼筋にも症状が現れ、眼球運動の麻痺が起こる。網膜が変性することによって、通常、薄暗い照明環境中での視力が低下する。
【0036】
KSSは、主に3つの特徴を有する。
・通常、20歳より前に発症するが、乳児期や成年期でも発症することがある。
・特有の眼筋麻痺(慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)と呼ばれる)を起こす。
・網膜の変性によって、色素性物質(着色した物質)の異常な沈着(網膜色素変性)が起こる。
【0037】
さらに、以下の1つ以上の状態が示される。
・心臓の電気信号の遮断(心伝導系障害)
・髄液タンパク質の増加
・動作の協調不能(運動失調症)
【0038】
さらに、KSS患者は、難聴、認知症、腎機能障害、筋力低下などの問題を有することがある。成長遅延、低身長、糖尿病などの内分泌異常が示されることもある。
【0039】
KSSはまれな疾患である。KSSは、通常、細胞核のDNAではなく、ミトコンドリアのDNA(mtDNA)内の遺伝物質の単一の大型欠失(欠損)によって引き起こされる。通常、欠失が自然発生し、その種類は150種を超える。変異が母系伝播することもあるが、その頻度は低い。
【0040】
あらゆるミトコンドリア病と同様に、KSSに対する治癒療法は存在しない。
【0041】
治療は、症状の種類と関与する臓器に基づいて決定され、コエンザイムQ10、糖尿病用インスリン、心臓薬、および救命に役立つ可能性のある心臓ペースメーカーが含まれうる。眼瞼下垂に対する外科的介入を考慮してもよいが、眼科手術部の専門医により実施すべきである。
【0042】
KSSは緩慢に進行し、予後は重症度に応じて変動する。一般に、30~40年で死亡に至り、死亡は臓器不全によるものでありうる。
【0043】
リー病またはリー症候群(亜急性壊死性脳脊髄障害):
症状:痙攣、筋緊張低下、疲労、眼振、反射神経の低下、摂食困難および嚥下困難、呼吸障害、運動機能の低下、運動失調症。
【0044】
原因:ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、複合体I欠損症、複合体II欠損症、複合体IV/COX欠損症、NARP。
【0045】
リー病は、乳児期または小児期に通常発症する進行性神経代謝障害であり、ウイルス感染症後に発症することが多いが、青年期や成年期でも発症することがある。MRIで撮影した脳、特に中脳および脳幹に壊死性病変(死んだ組織または死につつある組織)が見られることを特徴とする。
【0046】
リー病の小児は、出生時には正常に見えることが多く、通常、数ヶ月齢から2歳までに症状が現れ始めるが、症状が出るタイミングは、これよりも大幅に早いことも大幅に遅いこともある。初期症状として、吸啜、首すわり、歩行、会話などの基本的技能の喪失が挙げられる。これらの症状は、癇癪、食欲不振、嘔吐、痙攣などのその他の問題を伴うことがある。いくつかの機能が急激に低下する時期や、いくつかの機能が一時的に回復する時期が見られることもある。罹患児は、最終的には心臓、腎臓、視力および呼吸に合併症を起こすことがある。
【0047】
リー病を起こす欠損症には様々なものがある。このような欠損症として、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDHC)欠損症や呼吸鎖酵素欠損症、すなわち複合体I欠損症、複合体II欠損症、複合体IV欠損症および複合体V欠損症が挙げられる。欠損症の種類に応じて、遺伝様式は、X連鎖優性(X染色体における欠損症であり、疾患は通常、男児のみに発症する)、常染色体劣性(父親と母親の遺伝子からの遺伝によるもの)、母系(母親のみからの遺伝によるもの)のいずれかでありうる。また、遺伝したものではなく、自然発生的に発症する場合もある。
【0048】
リー病に対する治癒療法は存在しない。治療には、通常、様々なビタミン類の使用および栄養補助食品治療が行われるが、これらは「カクテル」療法として組み合わせられることが多く、部分的な効果しかない。様々な情報源では、チアミン、コエンザイムQ10、リボフラビン、ビオチン、クレアチン、コハク酸塩およびイデベノンを使用することが可能であるとされている。ジクロロ酢酸塩(DCA)のような実験的治療薬の適用も、一部の病院で試みられている。症例に応じて、特別食を処方してもよく、この場合、代謝性疾患に関する知識が豊富な栄養士によりモニターする必要がある。
【0049】
リー病の予後は不良である。欠損症の種類に応じて、患者は、通常、数年から青年中期までほどしか生きられない。リー様症候群と診断された患者や、成年期まで無症候の患者は、これよりも長く生存できる傾向がある。
【0050】
MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群):
症状:低身長、痙攣、限局性神経学的障害を伴う脳卒中様発作、反復性頭痛、認知退行、疾患進行、赤色ぼろ線維。
【0051】
原因:ミトコンドリアDNA点変異:A3243G(最も一般的)
MELAS-ミトコンドリアミオパチー(筋力低下)、脳症(脳と中枢神経系の疾患)、乳酸アシドーシス(嫌気呼吸からの産物の蓄積)および脳卒中様発作(半身不随、部分失明またはその他の神経性異常)。
【0052】
MELASは、通常、2~15歳で発症する進行性神経変性疾患であるが、乳児期に発症することもあり、さらには成年期という遅い時期に発症することもある。初期症状として、脳卒中様発作、痙攣、片頭痛および反復性嘔吐が見られることがある。
【0053】
通常、患者は乳児期には正常に見えるが、一般に低身長が認められる。乳児期に症状が認められることは少なく、その症状として、発育遅延、学習障害または注意欠陥障害が含まれることがある。脳卒中様発作が発症する前に、運動不耐性、脚弱、難聴および糖尿病が認められることがある。
【0054】
痙攣を伴うことが多い脳卒中様発作は、MELASに特徴的な症状であり、半身不随、視力低下および限局的な神経学的障害を起こす。これらのエピソードが徐々に蓄積することによって、運動技能(発話、身体の動きおよび摂食)の低下、感覚不全(失明および生体感覚の低下)および精神的欠陥(認知症)が様々な程度で組み合わさって発症することが多い。さらに、MELAS患者は、筋力低下、末梢神経機能不全、糖尿病、難聴、心臓および腎臓の問題、消化異常などの別の症状を呈することもある。乳酸は、通常、血液、脳脊髄液またはその両方において、高レベルに蓄積する。
【0055】
MELASは、ミトコンドリア内のDNAの欠損により母系遺伝する。MELASを引き起こしうる変異として、少なくとも17種類の変異がある。現在まで最も頻度が多く認められているものはA3243G変異であり、全症例の原因の約80%を占めている。
【0056】
MELASに対する治癒療法や特異的療法は存在しない。臨床試験での有効性は証明されていないが、一般的な治療として、CoQ10、クレアチン、フィロキノンおよびその他のビタミン類や栄養補助食品などを用いた代謝治療が挙げられる。抗痙攣薬やインスリンなどの薬物が、さらなる症状管理に必要とされる場合がある。筋機能不全を有する患者の一部では、監督下での適度な運動が有益である場合もある。選択された症例に、ジクロロ酢酸塩(DCA)やメナジオンなどのその他の治療を処方してもよいが、これらの薬剤は、有害な副作用を示す可能性があることから日常的には使用されていない。
【0057】
MELASの予後は不良である。一般に、死亡年齢は10~35歳で推移し、患者の一部はこれよりも長く生きる。死亡は、進行性認知症および筋力低下、または心臓や腎臓などのその他の病変臓器の合併症による全身るい痩が原因となることがある。
【0058】
MERRF(赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群)
MERRFは、通常、小児期に発症が始まる進行性多系統症候群であるが、成年期に発症することもある。進行速度は非常に様々である。症状の発症や症状の程度は、この疾患に罹患した兄弟姉妹間で様々に異なることがある。
【0059】
MERRFの古典的特徴には以下のものが含まれる。
・ミオクローヌス(突然起こる瞬間的にピクッと動く筋痙攣)-最も特徴的な症状
・てんかん発作
・運動失調症(協調運動障害)
・赤色ぼろ線維(MERRF患者やその他のミトコンドリア病を有する患者の筋生検の顕微鏡観察で認められる特徴的な異常所見)。さらなる症状として、難聴、乳酸アシドーシス(血液中乳酸濃度の上昇)、低身長、運動不耐性、認知症、心臓欠損、眼異常および発語障害が挙げられる。
【0060】
MERRFの散発的な発生例は少なく、症例の大半はミトコンドリア内の変異により母系遺伝したものである。MERRFを発症する最も一般的な変異はA8344Gであり、全症例の80%以上を占める。これ以外にも、4種のミトコンドリアDNA変異がMERRFを起こすことが報告されている。母親のMERRF変異がその子供全員に伝播するが、そのうちの一部には全く症状が現れない。
【0061】
あらゆるミトコンドリア病と同様に、MERRFに対する治癒方法は存在しない。治療には、コエンザイムQ10、L-カルニチンおよび様々なビタミン類が含まれていてもよく、これらは「カクテル」療法として組み合わせられることが多い。痙攣の管理には通常、抗痙攣薬が必要とされる。その他の症状の抑制に医薬品が必要な場合もある。
【0062】
MERRFの予後は、発病年齢、症状の種類および重症度、関与する臓器およびその他の要因に応じて様々に変動する。
【0063】
母系遺伝性糖尿病・難聴(MIDD)
MIDDは、母系伝播する糖尿病および感音性難聴を特徴するミトコンドリア病である。最初の症状の発現はどの年齢でも起こりうるが、確定診断は通常、成年早期に行われる。大半の症例において、糖尿病よりも難聴が先に発症する。難聴の重症度は様々であるが、感音性、両側性かつ進行性であり、高周波域でより顕著である。大半の症例では、患者は、正常なボディマス指数または低いボディマス指数を示す仮性2型糖尿病を呈する。仮性1型糖尿病は、症例の20%で観察され、ケトアシドーシスを併発することがある。MIDD患者の糖尿病性網膜症は、古典的な糖尿病と比べて頻度は低い。全症例の80%以上で、患者は、MIDD患者に特有の模様黄斑ジストロフィー病変を発症するが、大半の症例で無症候性である。代謝活性の高い臓器(筋肉、心筋、腎臓および脳)が冒される頻度が高いことから、筋肉痛、消化管症状、腎症、心筋症および神経精神症状を起こすことがある。大半の症例では、ロイシン用のミトコンドリアtRNAをコードするミトコンドリア遺伝子MT-TL1の点変異によってMIDDが引き起こされ、まれな症例では、グルタミン酸用のミトコンドリアtRNAをコードするMT-TE遺伝子の点変異またはリシン用のミトコンドリアtRNAをコードするMT-TK遺伝子の点変異によってMIDDが引き起こされる。
【0064】
ミトコンドリアDNA欠乏症:
この疾患の症状は主に3つの病型を含む。
1.先天性ミオパチー:新生児の虚弱。補助呼吸を必要とする筋緊張低下。腎機能障害が認められることもある。重度の乳酸アシドーシス。顕著な赤色ぼろ線維。通常、1歳未満で呼吸不全により死亡に至る。
2.乳児ミオパチー:1歳まで正常な初期発育の後、虚弱が急速に現われて悪化し、呼吸不全を引き起こして、通常、数年以内に死亡する。
3.肝障害:肥大した肝臓と難治性の肝不全、ならびにミオパチー。重度の乳酸アシドーシス。通常、最初の年に死亡する。
【0065】
フリードライヒ運動失調症
フリードライヒ運動失調症(FRDAまたはFA)は、フラタキシンタンパク質の減少により引き起こされる常染色体劣性の神経変性・心筋変性疾患である。フラタキシンは、ミトコンドリア呼吸鎖複合体における鉄-硫黄クラスターの組み立てに重要である。米国でのFRDAの推定有病率は、22,000~29,000人あたり1人(www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/001411.htmを参照されたい)から50,000人あたり1人である。この疾患は、随意運動の協調性の進行性喪失(運動失調症)と心臓合併症を起こす。通常、症状は小児期に始まり、患者の成長に伴って進行性に悪化し、最終的には運動機能障害により車椅子生活になる。
【0066】
遺伝性ミトコンドリア障害を伴う先天性疾患に加えて、後天性ミトコンドリア機能障害も疾患に寄与することが示唆されており、具体的には、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病などの加齢に関連する神経変性疾患に寄与することが示唆されている。ミトコンドリアDNAの体細胞変異の発生率は、年齢とともに指数関数的に上昇することから、高齢者全般に呼吸鎖活性の低下が見られる。さらに、ミトコンドリア機能障害は、痙攣、脳卒中および虚血を伴うような、興奮毒性、神経細胞の損傷および脳血管発作にも関与することが示唆されている。
【0067】
全般的な事項
本発明に記載の化合物に関連して前述された特徴および/または態様はいずれも、本明細書に記載の方法にも同様に適用されると解釈される。
【0068】
以下の図面および実施例は、本発明を説明するために提供されたものである。これらの図面および実施例は、例示を目的としたものであり、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】NeuroQoL Short Form Fatigueから得られたデータを示す。消耗性疲労は、ミトコンドリア病患者の改善すべき最も重要な症状であると考えられている。左のグラフは、KL1333群およびプラセボ群における平均値の変化を示し、KL1333群では改善が見られたが、プラセボ治療群では改善は見られなかった。中央のグラフは、効果量(ベースラインから10日目までの変化)とKL1333の暴露量(10日目の総AUC(0-τ)(h・ng/mL)またはC(min)で示す)の相関性を示す。右のグラフも同じデータを示すが、積極的治療を行った患者を低暴露量と高暴露量に分けて示している。これらの結果から、高暴露量で治療した患者において、KL1333の有効性が誘導されたことが示された(いずれの患者でも、10日目において、KL1333の総AUC(0-τ)値が4500h・ng/mLを超えているか、C(min)が100ng/mLを超えていた)。低い有効性を示した患者では、10日目において、暴露量が3000h・ng/mL未満であるか、C(min)が65ng/mL未満であった。高暴露量のKL1333群では、ベースラインからのNeuroQol fatigueスコアの変化が、プラセボ群よりも統計学的に有意に改善した(クラスカル・ウォリス検定)。
【0070】
【
図2】日常疲労度スケール(Daily Fatigue Impact Scale)から得られたデータを示す。左のグラフは、KL1333群およびプラセボ群における平均値の変化を示し、KL1333群ではプラセボ治療群よりも大きな改善(日常活動に対する疲労度の低下)が認められた。右のグラフは、効果量(ベースラインから10日目までの変化)とKL1333の暴露量(10日目の総AUC(0-τ)(h・ng/mL)で示す)の相関性を示す。
【0071】
【
図3】30秒立ち上がりテストから得られたデータを示す。30秒立ち上がりテストは、原発性ミトコンドリア病患者に強く関連する機能試験である。左のグラフは、KL1333群およびプラセボ群における平均値の変化を示し、KL1333群ではプラセボ治療群よりも大きな改善(立ち上がり反復回数の増加)が認められた。右のグラフは、効果量(ベースラインから10日目までの変化)とKL1333の暴露量(10日目の総AUC(0-τ)(h・ng/mL)で示す)の相関性を示す。
【0072】
【
図4】3つのコホートにおける軟便エピソードの時間経過のプロットを示す。ブリストル便性状チャートにより評価した軟便の重症度をY軸に示しており、グレード7が最も重症度が高い。実験データから、1日用量を1日2回(BID)または1日3回(TID)の投与に分割することによって、軟便エピソードの頻度と重症度が改善されることが示された。
【0073】
【
図5】健常ボランティアにKL1333(n=36)またはプラセボ(n=14)を1日1回9日間投与して処置し、血液を採取して乳酸とピルビン酸の濃度を測定し、乳酸/ピルビン酸比を計算した。50mgの1日1回投与(QD)、50mgの1日3回投与(TID)、75mgの1日1回投与(QD)、75mgの1日2回投与(BID)、150mgの1日1回投与(QD)および250mgの1日1回投与(QD)を含む、様々な用量で投与したKL1333のデータをまとめた。
【0074】
【
図6】KL1333による治療後10日目において、血漿中KL1333濃度が高いほど、血液中の乳酸/ピルビン酸比が低くなった。健常ボランティアにKL1333(n=36)またはプラセボ(n=14)を1日1回9日間投与して処置し、血液を採取して乳酸とピルビン酸の濃度を測定し、乳酸/ピルビン酸比を計算した。25mgの1日1回投与(QD)、50mgの1日1回投与(QD)、50mgの1日3回投与(TID)、75mgの1日1回投与(QD)、75mgの1日2回投与(BID)、150mgの1日1回投与(QD)および250mgの1日1回投与(QD)で処置した2人のプラセボ対象者および6人のKL1333対象者からなる7つのコホートから得た様々な用量でのKL1333のデータをまとめた。各コホートにおいて、コホートの平均値に対してデータを補正した。
【0075】
【
図7】50mgのKL1333(n=6)またはプラセボ(n=2)で10日間毎日治療した原発性ミトコンドリア病患者の乳酸/ピルビン酸比を示す。
【0076】
【
図8】血清ナイアシンアミドは、KL1333による治療に対する応答性を示す初期バイオマーカーである。原発性ミトコンドリア病患者を50mgのKL1333(n=6)またはプラセボ(n=2)で1日1回(QD)治療した。データは、血清試料中における1日目のナイアシンアミド濃度に対する2日目のナイアシンアミド濃度の比率として示した。
【0077】
【
図9】血清キサンチンは、KL1333による治療に対する応答性を示す初期バイオマーカーである。原発性ミトコンドリア病患者を50mgのKL1333(n=6)またはプラセボ(n=2)で1日1回(QD)治療した。データは、血清試料中における1日目のキサンチン濃度に対する2日目のキサンチン濃度の比率として示した。
【0078】
【
図10】50mgのKL1333(黒色の丸印)またはプラセボ(白色の丸印)で10日間治療した後の、日常疲労度スケールの疲労スコアと血液中乳酸/ピルビン酸比の低下との相関性を示す。
【0079】
【
図11】臨床アウトカムとKL1333の総Ctrough値の間での相関性を示す。左上のグラフは、NeuroQoL Short Form Fatigueの生スコアにより評価した効果量(ベースラインから10日目までの変化)と暴露量(10日目のKL1333の総Ctrough(ng/mL)で示す)の間の相関性を示し、統計学的に有意な相関性が認められる。右上のグラフは平均データを示し、積極的治療を行った患者を低暴露量と高暴露量に分けて示している。この結果から、高暴露量を示した患者(10日目のKL1333の総AUCtrough値が228ng/mlを超えた患者)において、KL1333の有効性が誘導されたことが示された。有効性が低かった患者では、10日目の暴露量が130ng/ml未満であった。高暴露量のKL1333群では、ベースラインからのNeuroQol fatigueスコアの変化が、プラセボ群よりも統計学的に有意に改善した(クラスカル・ウォリス検定)。左下のグラフは、日常疲労度スケールにより評価した効果量(-1日目から10日目までの変化)と暴露量(10日目のKL1333の総Ctrough(ng/mL)で示す)の間の相関性を示し、統計学的に有意な相関性が認められる。左上のグラフは、30秒立ち上がりテストにより評価した効果量(-1日目から10日目までの変化率(%))と暴露量(10日目のKL1333の総Ctrough(ng/mL)で示す)の間の相関性を示す。
【実施例】
【0080】
実施例1-健常者および原発性ミトコンドリア病患者における単回経口投与後および反復漸増経口投与後のKL1333の安全性、忍容性、薬物動態および薬力学を評価するための二重盲検無作為化並行群間プラセボ対照Ia/Ib相多施設共同試験
本試験の主目的は、
・健常者における食事を摂取した場合または食事を摂取しなかった場合のKL1333の単回経口投与と、KL1333の反復漸増経口投与の安全性および忍容性の評価、
・ミトコンドリア病患者におけるKL1333の反復経口投与の安全性および忍容性の評価
である。
【0081】
本試験の第2の目的は、
・健常者におけるKL1333の単回経口投与の血漿中薬物動態(PK)の測定(食事摂取の影響を含む)、
・健常者およびミトコンドリア病患者におけるKL1333の反復経口投与の血漿中薬物動態(PK)の測定
である。
【0082】
本試験の探索目的は、
・血液バイオマーカーを用いた健常者およびミトコンドリア病患者におけるKL1333の反復投与薬力学(PD)の探索、
・ミトコンドリア病患者にKL1333を反復経口投与した後の臨床的アウトカム評価および患者立脚型アウトカム評価の探索、
・健常者およびミトコンドリア病患者におけるKL1333の反復経口投与後のメタボロミクス分析用の血液試料の採取、
・健常者における薬物濃度-心拍数補正QT時間(QTc)解析を含む心電図(ECG)パラメータに対するKL1333の効果の評価、
・KL1333の単回経口投与または反復経口投与を受けた健常者およびKL1333の反復経口投与を受けたミトコンドリア病患者からの、NAD(P)H:デヒドロゲナーゼ[キノン]1ジェノタイピング用の血液試料の採取
である。
【0083】
試験デザイン:
本試験は、以下の4つのパートに分けて実施する二重盲検無作為化プラセボ対照単回経口投与・反復経口投与試験である。
パートA:健常ボランティアにおける単回投与漸増試験(SAD)と食事の影響
パートB:健常ボランティアにおける反復投与漸増試験(MAD)
パートC:原発性ミトコンドリア病(PMD)患者における反復投与漸増試験(MAD)
パートD:健常ボランティアにおける分割投与(1日2回投与または1日3回投与)
これら4つのパートについて、以下で詳しく述べる。
【0084】
パートA:
パートAは、無作為化単回投与単一順序プラセボ対照試験を含む。8人の健常者を単一のコホート(A1群)で調査する。
【0085】
1回目の投与開始前の28日以内に、対象者候補をスクリーニングして、本試験への登録の適格性を評価した。対象者には、2つの治療期間に参加してもらう。各治療期間の-1日目から3日目(投与の48時間後)まで対象者は第I相臨床試験の現場で入院する。4日目および5日目に、外来通院のため、対象者は臨床試験現場に再来院する。各治療期間の間(治療期間1の1日目から治療期間2の1日目の間)に少なくとも1回の10日間にわたる休薬期間を設ける。
【0086】
6人の対象者を無作為化して25mgのKL1333を投与し、2人の対象者を無作為化してプラセボを投与する。これらの対象者は、両方の治療期間で同じ治療を受ける。治療期間1の1日目に、少なくとも8時間の一晩絶食後、対象者に治験薬を単回経口投与する。治療期間2の1日目に、標準的な高脂肪の朝食を摂取させた後、対象者に治験薬を単回経口投与する。安全性データ、忍容性データおよびPKデータを検討した後、必要に応じて健常者からなる追加の投与コホートを最大2つまで追加して、パートBで行う臨床試験治療を決定してもよい。追加の単回投与コホートは、パートAまたはパートBから得られたデータに基づいて登録してもよい。追加のコホートが必要とされる場合、8人の対象者からなる各コホートを設定し、そのうちの6人の対象者にはKL1333を投与し、2人の対象者にはプラセボを投与して、単一の治療期間を実施する。必要に応じて追加される追加のコホートにKL1333を投与する際の用量水準および食事の状態は、パートAのデータおよびパートBの利用可能なデータを検討した後に決定し、用量水準は、25mg未満であってもよく、25mgを超える量であってもよい。ただし、用量水準は600mgを超えてはならず、パートAの対象者における単回投与後の推定暴露量は、KL1333の総量に起因するゼロ時間~投与後24時間の血漿中濃度-時間曲線下面積[AUC][AUC0-24]として51,800 ng・h/mLを超えてはならない。
【0087】
6日目すなわち最終投与の5日後に、対象者はフォローアップ外来のために再来院する。
【0088】
パートB:
パートBは、無作為化反復投与連続群プラセボ対照試験を含む。16人の健常者を、8人の対象者からなる2つのコホート(B1群とB2群)で調査する。パートBは、A1群の試験の完了後に開始してもよく、パートAで投与した用量以下で実施する。
【0089】
1回目の投与開始前の28日以内に、対象者候補をスクリーニングして、本試験への登録の適格性を評価した。すべての対象者は1つの治療期間に参加し、-1日目から12日目(最終投与の48時間後)まで第I相臨床試験の現場で入院する。13日目および14日目に、外来通院のため、対象者は臨床試験現場に再来院する。
【0090】
1日目に、6人の対象者を無作為化してKL1333を投与し、2人の対象者を無作為化してプラセボを投与する。予備試験から決定されるB1群とB2群へのKL1333の予定用量は、B1群には25mgの1日1回投与(QD)を1~10日目に行い、B2群には50mgの1日1回投与(QD)を1~10日目に行うものとする。パートAの安全性データ、忍容性データおよびPKデータと、パートBの集計中のデータを検討した後に、用量水準、投薬頻度および食事の状態を確認する。さらに、パートBの各コホート研究を実施する前に、用量選択会議を設け、過去のコホートから得られた盲検化したデータを検討して、次のコホートへの移行に関する決定を下す。安全性データ、忍容性データおよびPKデータを検討した後、必要に応じて健常者からなる追加の投与コホートを最大3つまで追加して、KL1333のPK、安全性および忍容性をさらに調べてもよい。追加のコホートが必要とされる場合、8人の対象者からなる各コホートを設定し、そのうちの6人の対象者にはKL1333を投与し、2人の対象者にはプラセボを投与する。用量水準は600mgを超えてはならず、パートBの対象者における1日1回の反復投与後の推定暴露量は、KL1333の総量に起因するAUC0-24として、51,800ng・h/mLを超えてはならない。各コホートにおいて用量を増加する際(1つのコホートの最後の投与と次のコホートの1回目の投与の間)には、少なくとも6日間空ける。
【0091】
15日目すなわち最終投与の5日後に、対象者はフォローアップ外来のために再来院する。
【0092】
パートC:
パートCは、無作為化反復投与単一群プラセボ対照試験を含む。この試験の一部では、何らかのミトコンドリア病と診断された計8人の患者を登録する。パートBの最後のコホートの用量を決定する用量選択会議が終了した後に、パートBにおいて忍容性が良好であった最高用量以下の1日用量でパートCを開始してもよい。
【0093】
1回目の投与開始前の75日以内に、被験患者候補をスクリーニングして、本試験への登録の適格性を評価する。-1~2日目と10~11日目に患者は臨床試験の現場で入院するか、臨床試験の現場から推奨された臨床試験現場の近傍のホテルに滞在する。4日目および8日目に、外来通院のため、患者は臨床試験現場に再来院する。患者は1日目に無作為化する。
【0094】
まず、2人の患者に投薬し、そのうちの1人の患者にはKL1333を投与し、もう1人の患者にはプラセボを投与する。4日目の通院時に、これらの患者において安全性や忍容性に問題が見られない場合、残りの6人の患者に投薬を行い、そのうちの5人の患者にはKL1333を投与し、1人の患者にはプラセボを投与して、順次登録していく。2人のセンチネル患者の投薬の完了後に、安全性に問題が見られたものの、中止基準に達していない場合、治験依頼者は、中間コホートにおける安全性評価の必要性に応じて、中間コホートを追加してもよい。中間コホートの投薬スケジュールは、計画されたコホートのものと同じである。中間コホートの安全性評価のスケジュールは、原則として、計画されたコホートのものと同じである。中間コホートに安全性評価を設けるべきかどうかは、治験依頼者により判断される。
【0095】
1~10日目に患者に治験薬を1日1回(QD)投与することが計画される。パートBの安全性データ、忍容性データおよびPKデータを検討した後に、用量水準、投薬頻度および食事の状態を確認し、本試験の実施に非常に不利益であると判断されない限り、投薬前に患者の絶食は必要とされない。患者が臨床試験の現場に入院している間または外来に再通院した際は、臨床試験現場のスタッフにより治験薬を投与する。それ以外の日は、患者自身により投薬を日誌に記録し、各患者に提供されている併用薬についても日誌に記録してもらう。10日目の外来通院の際に受付手順の一部として、日誌を調査してコンプライアンスを確認する。臨床試験現場に不在中に患者に認められた臨床症状は、標準的な有害事象(AE)報告手順を用いて臨床試験現場で収集する。
【0096】
15日目すなわち最終投与の5日後に、患者はフォローアップ外来のために再来院する。
【0097】
パートD:
パートDは、無作為化反復投与プラセボ対照試験を含む。16人の健常者を、8人の対象者からなる2つのコホート(D1群とD2群)で調査する。パートDは、パートBの完了後に開始し、複数のパートD群は並行して実施してもよい。
【0098】
1回目の投与開始前の35日以内に、対象者候補をスクリーニングして、本試験への登録の適格性を評価する。すべての対象者は1つの治療期間に参加し、-1日目から12日目(最終投与の48時間後)まで第I相臨床試験の現場で入院する。13日目および14日目に、外来通院のため、対象者は臨床試験現場に再来院する。
【0099】
1日目に、6人の対象者を無作為化してKL1333を投与し、2人の対象者を無作為化してプラセボを投与する。1~10日目のKL1333の用量は、D1群に対しては75mgを1日2回(BID)投与し、D2群には50mgを1日3回(TID)投与し、10日目には1回のみ投与を行う。
【0100】
15日目すなわち最終投与の5日後に、対象者はフォローアップ外来のために再来院する。
【0101】
被験薬ならびにその用量および投与方法:
治験薬:25mgまたは100mgのKL1333を含む封入錠剤と、これに一致するプラセボ封入錠剤を用いた。プラセボ錠剤は、外観、形状および重量の点で治験薬と同一である。
【0102】
KL1333製剤は、経口投与を意図した即放性錠剤である。
【0103】
パートAに対して提案された用量水準:25mgのKL1333またはプラセボを、絶食状態で1回投与し、摂食状態で1回投与する。
【0104】
パートBに対して提案された用量水準:25mgもしくは50mgのKL1333またはプラセボを1日1回(QD)10日間投与する。本試験のパートAのデータと、パートBの集計中の中間データに基づき、治験依頼者と相談しながら、パートBに対する用量水準、投与頻度および食事の状態を決定する。
【0105】
パートCの患者には、KL1333またはプラセボを1日1回(QD)10日間投与する。本試験のパートBのデータに基づき、治験依頼者と相談しながら、パートCに対する用量水準、投与頻度および食事の状態を決定する。
【0106】
パートDに対する用量水準:75mgのKL1333またはプラセボを1日2回(BID)10日間投与するか、50mgのKL1333またはプラセボを1日3回(TID)10日間投与し、10日目には1回のみ投与を行う。1日目と7日目の1回目の投与と、10日目の投与は絶食状態で行う。これ以外の投与は、食事に関係なく行うことができる。
【0107】
用量水準は600mgを超えてはならず、本試験のどのコホートのどの対象者においても、推定暴露量は、KL1333親薬物と、グルクロン酸脱抱合されたKL1333代謝物と、硫酸化されたKL1333代謝物の合計としてKL1333を測定可能な改良された生物学的分析法を用いて求められるKL1333の総量に起因するAUC0-24として、51,800ng・h/mLを超えてはならない。
【0108】
エンドポイント:
薬物動態:
KL1333の血漿中濃度を分析するため、血液試料を採取し、ノンコンパートメント解析によりPKパラメータを求める。
【0109】
パートAのPKパラメータには以下のものが含まれる。
・ゼロ時間から無限時間までのAUC(AUC0-∞)
・AUC0-24
・ゼロ時間から最終測定可能時間までのAUC(AUC0-tlast)
・Cmax
・Cmax時間(Tmax)
・見かけの血漿終末消失半減期(t1/2)
・平均滞留時間(MRT)
・見かけの総血漿クリアランス(CL/F)
・見かけの終末相分布容積(Vz/F)
【0110】
パートB~DのPKパラメータには以下のものが含まれる。
・AUC0-∞(1日目のみ)
・1投与間隔のAUC(AUC0-τ;1日目および10日目)
・一時的な変化パラメータ(TCP;AUC0-τ/AUC0-∞)
・Cmax
・最小血漿中濃度(Cmin)
・Tmax
・t1/2
・1日目および10日目のMRT
・1日目および10日目のCL/F
・1日目および10日目のVz/F
・AUC0-τに基づく蓄積率(RAAUC)
・Cmaxに基づく蓄積率(RACmax)
・ピーク/トラフ比(PTR)
【0111】
適切な場合、その他のPKパラメータも計算する。
【0112】
薬力学:
パートB~Dの血液バイオマーカーの評価には、以下のものが含まれる。
・ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型;NAD+)/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型;NADH)の濃度およびそれらの比率
・線維芽細胞増殖因子21(FGF21)
・増殖分化因子15(GDF15)
・乳酸/ピルビン酸の濃度およびそれらの比率
【0113】
パートCの血液バイオマーカーの評価には、以下のものが含まれる。
・グルコース
・糖化アルブミン/アルブミンの濃度およびそれらの比率
【0114】
パートCの臨床的アウトカム評価および患者立脚型アウトカム評価には、以下のものが含まれる。
・Newcastle Mitochondrial Disease Adult Scale
・臨床全般的印象(Clinician Global Impression)
・改善に関する患者の全般的印象(Patient Global Impression-Improvement)
・日常疲労重症度(Daily Fatigue Impact Severity)
・Quality of Life in Neurological Disorders Fatigue Short Form
・30秒立ち上がりテスト
【0115】
結果-原発性ミトコンドリア病患者における有効性
ミトコンドリア病患者にKL1333を反復経口投与した後の患者立脚型アウトカム評価
原発性ミトコンドリア病が遺伝的に確認された6人の患者に、50mgのKL1333を1日1回10日間投与することにより積極的治療を行った。2人の患者にはプラセボを投与した。
【0116】
原発性ミトコンドリア病患者における以下の3つの主な臨床アウトカム評価から得られた結果を
図1に示す。各データは、ベースラインから最後の投薬日(10日目)までの平均値の変化を示す。
・Quality of Life in Neurological Disorders Fatigue Short Form
・日常疲労度スケール(D-FIS)
・30秒立ち上がりテスト(筋力に対するテスト)
【0117】
下部のグラフも同じデータを示すが、積極的治療を行った患者を低暴露量と高暴露量に分けて示している。これらの結果から、高暴露量で治療した患者において、KL1333の有効性が誘導されたことが示された(いずれの患者でも、10日目において、KL1333の総AUC(0-τ)値が4500h・ng/mLを超え、C(min)が100ng/mLを超え、かつ/またはCtroughが228ng/mLを超えていた)。低い有効性を示した患者では、10日目において、暴露量が3000h・ng/mL未満であり、C(min)が65ng/mL未満であり、かつ/またはCtroughが130ng/mL未満であった。
【0118】
結果を
図1~3に示す。この結果から、KL1333を投与した患者では、プラセボと比較して、
i)疲労の顕著な改善、
ii)筋力の顕著な改善および
iii)強力な有効性反応
が認められ、これらの効果はいずれも、1日1回50mgの用量をわずか10日間投薬することで得られたことが示された。
【0119】
図1は、NeuroQoL Short Form Fatigueから得られたデータを示す。消耗性疲労は、ミトコンドリア病患者の改善すべき最も重要な症状であると考えられている。左のグラフは、KL1333群およびプラセボ群における平均値の変化を示し、KL1333群では改善が見られたが、プラセボ治療群では改善は見られなかった。中央のグラフは、効果量(ベースラインから10日目までの変化)とKL1333の暴露量(10日目の総AUC(0-τ)(h・ng/mL)またはC(min)で示す)の相関性を示す。右のグラフも同じデータを示すが、積極的治療を行った患者を低暴露量と高暴露量に分けて示している。これらの結果から、高暴露量で治療した患者において、KL1333の有効性が誘導されたことが示された(いずれの患者でも、10日目において、KL1333の総AUC(0-τ)値が4500h・ng/mLを超えているか、C(min)が100ng/mLを超えていた)。低い有効性を示した患者では、10日目において、暴露量が3000h・ng/mL未満であるか、C(min)が65ng/mL未満であった。高暴露量のKL1333群では、ベースラインからのNeuroQol fatigueスコアの変化が、プラセボ群よりも統計学的に有意に改善した(クラスカル・ウォリス検定)。
【0120】
図2は、日常疲労度スケール(Daily Fatigue Impact Scale)から得られたデータを示し、
図4は、30秒立ち上がりテストから得られたデータを示す。30秒立ち上がりテストは、原発性ミトコンドリア病患者に強く関連する機能試験である。
【0121】
忍容性の改善
本試験のパートBおよびパートDにおいて、反復投与漸増試験により、健常ボランティアにおけるKL1333の安全性と忍容性を調査した。忍容性が改善された場合に、1日用量を2回または3回に分けて投与することによって、パートDをさらに詳しく調査した。コホートB3、コホートD1およびコホートD2にはいずれも合計1日用量として150mgを10日間投与した。コホートB3には150mgを1日1回(QD)投与し、コホートD1には75mgを1日2回(BID)投与し、コホートD2には50mgを1日3回(TID)投与した。
図4は、これらの3つのコホートにおける軟便エピソードの時間経過のプロットである。ブリストル便性状チャートにより評価した軟便の重症度をY軸に示しており、グレード7が最も重症度が高い。実験データから、1日用量を1日2回(BID)または1日3回(TID)の投与に分割することによって、軟便エピソードの頻度と重症度が改善されることが示された。
【0122】
薬物暴露
パートDの健常ボランティアにおける10日目の総KL1333暴露量を以下の表に示す。すべての対象者において、10日目に3900h・ng/mLを上回る定常状態濃度となるように投与を行ったところ、10日目に3000h・ng/mLを下回った対象者はいなかった。
【表1】
【0123】
本試験のすべてのコホートにおいて、KL1333の安全性が確認され、重篤な有害事象や安全性シグナルは確認されなかった。KL1333は、患者と健常ボランティアにおいて全体的に良好な忍容性を示し、主要な忍容性所見として用量制限的な消化管副作用が認められたものの、1日用量を分割投与することによってこれを改善することができた。健常ボランティアと患者で類似した薬物動態プロファイルが示された。
【0124】
実施例2-バイオマーカー
KL1333は、健常ボランティアをKL1333で10日間治療した後に、血液中の乳酸/ピルビン酸比を低下させる傾向を示した(
図5)。
【0125】
分析用の血液試料の採取前に血漿中KL1333の濃度が100ng/mLを超えていた対象者において血液中の乳酸/ピルビン比が最も低かった(
図6)。
【0126】
KL1333で10日間毎日治療した原発性ミトコンドリア病患者に関する試験において、10日目の患者における乳酸/ピルビン酸比は、KL1333で治療した1日目の対象者よりも低くなったが、プラセボで治療した対象者ではこのような低下は見られなかった(
図7)。
【0127】
原発性ミトコンドリア病患者をKL1333で治療した1日後に、ニコチンアミドジヌクレオチド合成経路の代謝物であるナイアシンアミドが増加した(
図8)。ナイアシンアミドの増加は、KL1333の暴露量が最も高かった患者において最も多くなった。
【0128】
原発性ミトコンドリア病患者をKL1333で治療した1日後に、補因子であるNAD
+によるヒポキサンチンの酸化により生じるプリン代謝経路代謝物であるキサンチンが増加した(
図9)。キサンチンの増加は、KL1333の暴露量が最も高かった患者において最も多くなった。
【0129】
結論として、血液中乳酸/ピルビン酸比、ナイアシンアミドおよび/またはキサンチンは、原発性ミトコンドリア病患者におけるKL1333の治療効果のバイオマーカーとして使用することができる。これを踏まえて、KL1333による治療の10日目に、日常疲労度スケールの疲労度スコアの低下が最も大きかった患者は、血清中の乳酸/ピルビン酸比も低かったことが見出された(
図10)。
【国際調査報告】