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特表2024-519081キメラガスベシクルとそのタンパク質発現システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】キメラガスベシクルとそのタンパク質発現システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240426BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240426BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P21/02 C ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571824
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 US2022030256
(87)【国際公開番号】W WO2022246199
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】63/191,902
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523436148
【氏名又は名称】ギャシラス ファーマスーティカルズ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】GASILUS PHARMACEUTICALS, INC.
【住所又は居所原語表記】3517 Breakwater Ave Hayward, CA 94545 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】リー ニン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG02
4B064AG15
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA02
4B064CE03
4B064CE08
4B064CE20
4B064DA01
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA54
(57)【要約】
【要約】
本発明は、キメラガスベシクル及びその大腸菌発現システムについて具体的に説明する。前記キメラガスベシクルは、2つまたは2つ以上のガスベシクルリブタンパク質を含み、6~56個のアミノ酸長の異種ペプチドが組み換えリブタンパク質にインフレーム挿入され、生成されたキメラガスベシクルは様々な応用に広く使用可能である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのガスベシクルリブタンパク質を含み、前記リブタンパク質はメインリブタンパク質及びサブリブタンパク質からなる群から選択され、前記メインリブタンパク質の前記サブリブタンパク質との相違点について、ガスベシクルを独立形成する能力を有していることを特徴とするキメラガスベシクル。
【請求項2】
何れか1つの前記ガスベシクルリブタンパク質はプリスティア・メガテリウム(P. megaterium)に由来することを特徴とする請求項1に記載のキメラガスベシクル。
【請求項3】
前記サブリブタンパク質はコアシーケンス及び異種ペプチドを含み、前記異種ペプチドは前記コアシーケンスのC末端またはN末端にインフレーム(in frame)挿入されている ことを特徴とする請求項2に記載のキメラガスベシクル 。
【請求項4】
前記コアシーケンスはGvpAコアシーケンスを含むことを特徴とする請求項3に記載のキメラガスベシクル。
【請求項5】
前記コアシーケンスはGvpAタンパク質の第9~61アミノ酸残基を含み、前記GvpAタンパク質はプリスティア・メガテリウム(P.megaterium)に由来することを特徴とする請求項3に記載のキメラガスベシクル。
【請求項6】
前記異種ペプチドは少なくとも6個のアミノ酸を有していることを特徴とする請求項3に記載のキメラガスベシクル。
【請求項7】
前記異種ペプチドは、リガンド(ligand)、ホルモン(hormone)、サイトカイン(cytokine)、受容体(receptor)、抗体のパラトープ(paratope of antibody)、毒性タンパク質(toxic protein)、及び蛍光タンパク質(fluorescent protein)からなる群または人工設計ペプチドシーケンスから選択された天然ペプチドシーケンスに由来することを特徴とする請求項4に記載のキメラガスベシクル。
【請求項8】
大腸菌(E.coli)に発現すると共に前記大腸菌から純化していることを特徴とする請求項1に記載のキメラガスベシクル。
【請求項9】
少なくとも1つの組み立てタンパク質の補助により組み立てられて成形されていることを特徴とする請求項1に記載のキメラガスベシクル。
【請求項10】
前記組み立てタンパク質はGvpPタンパク質、GvpQタンパク質、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項9に記載のキメラガスベシクル。
【請求項11】
前記メインリブタンパク質及び前記サブリブタンパク質により、ドライウェイトで少なくとも90%の前記キメラガスベシクルが構成されていることを特徴とする請求項9に記載のキメラガスベシクル。
【請求項12】
請求項1に記載のキメラガスベシクルを発現するために用いられているタンパク質発現システムであって、
何れか1種類のガスベシクルリブタンパク質を符号化した第1ポリヌクレオチド・フラグメントと、
他の1種類のガスベシクルリブタンパク質を符号化した第2ポリヌクレオチド・フラグメントと、を含むことを特徴とするタンパク質発現システム。
【請求項13】
前記第2ポリヌクレオチド・フラグメントは、
コアシーケンスを符号化したコア・ポリヌクレオチド・フラグメントと、
異種ペプチドを符号化した異種ポリヌクレオチド・フラグメントと、を含むことを特徴とする請求項12に記載のタンパク質発現システム。
【請求項14】
前記コアシーケンスはGvpAコアシーケンスを含むことを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項15】
前記コアシーケンスはGvpAタンパク質の第9~61アミノ酸残基を含み、前記GvpAタンパク質はプリスティア・メガテリウム(P.megaterium)に由来することを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項16】
前記異種ペプチドは少なくとも6個のアミノ酸を有していることを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項17】
前記異種ペプチドは、リガンド(ligand)、ホルモン(hormone)、サイトカイン(cytokine)、受容体(receptor)、抗体のパラトープ(paratope of antibody)、毒性タンパク質(toxic protein)、及び蛍光タンパク質(fluorescent protein)からなる群または人工設計ペプチドシーケンスから選択された天然ペプチドシーケンスに由来することを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項18】
組み立てタンパク質を符号化した組み立てポリヌクレオチド・フラグメントを更に含むことを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項19】
前記キメラガスベシクルは大腸菌(E.coli)に発現すると共に前記大腸菌から純化していることを特徴とする請求項13に記載のタンパク質発現システム。
【請求項20】
大腸菌(E.coli)に発現すると共に前記大腸菌から純化しているキメラガスベシクルであって、少なくとも2つのガスベシクルリブタンパク質を含み、前記リブタンパク質は、メインリブタンパク質及びサブリブタンパク質からなる群から選択され、前記メインリブタンパク質の前記サブリブタンパク質との相違点は、ガスベシクルを独立形成する能力を有し、且つ何れか1種類のリブタンパク質がコアシーケンスを有し、前記コアシーケンスのC末端またはN末端には異種ペプチドがインフレーム挿入されていることを特徴とするキメラガスベシクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラガスベシクルとその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスベシクル(Gas vesicle)はタンパク質で覆われている中空の細胞小器官であり、シアノバクテリア(cyanobacteria)、土壌細菌(soil bacteria)、好塩菌(halobacteria)の細胞内に存在し、周囲の気体に対する拡散透過性を有し、且つ太陽光または酸素を獲得するために、水性環境において垂直運動を調整するための浮力を細菌に提供する。
【0003】
ガスベシクルは円柱形のナノ構造であり、錐形端点を有し、その幅は40~250nmであり、長さは50~1000nmである。離散するこれら前記タンパク質のナノ粒子は、周囲の気体に対する透過性を有し、生物工学の面で言えば、非常に多様で大きな潜在的応用性がある。従来技術においては、ガスベシクルによる浮力の増加、音波共振による生体イメージングの発展、及びバイオマスの生産拡大が具体的に説明されている。また、ナノスケールの生体粒子は、ワクチンのベクターを設計するために非常に適している。
【0004】
国際公開第WO1990010071A1号には、大腸菌中でガスベシクルタンパク質を発現するために組み換え細胞及び組み換えベクターを用い、形質転換した細胞の浮遊性質を増進することが記載されている。バチルス・チューリンゲンシス・ イスラエレンシス(Bacillus thuringiensis israelensis、Bti)は特定の双翅目の幼虫期の生物防除剤として非常に適している。ガスベシクルの遺伝子が形質転換された場合、バチルス・チューリンゲンシス・ イスラエレンシスは水中において下降する傾向があり、且つ幼虫殺虫(larvicidal)活性がより持続する。ガスベシクル遺伝子を合併した他の宿主はバイオリアクター中での沈降問題を克服し、有機廃棄物、医療、農業製品の生物分解を促進する。
【0005】
国際公開第WO2018043716A1号には、水島良太氏及び渡邊朋信氏が共同で発表したgvpA及びgvpCを内包したガスベシクル遺伝子を真核細胞に導入し、ガスベシクルタンパク質を発現する方法が記載されている。これら前記gvpA及びgvpC遺伝子はシアノバクテリアに由来し、且つ哺乳類動物中で発現する最適化コドンを有し、トランスポゾン(transposon)ベクターはgvpA及びgvpC遺伝子を搭載して哺乳類の細胞中まで運送する。前記先行技術に記載された方法は、ガスベシクルを安定的に発現する安定型細胞株またはトランスジェニック動物を構築するキットを更に提供する。
【0006】
アメリカ特許公開第20140234904A1号には、Stephen氏及びLevi氏による光合成単細胞性有機体及びそれが生成したガスベシクルを採集する方法が記載されている。これら自己集合(self-assembling)性ガスベシクルタンパク質は錘状フィラメント(conical filaments)を形成し、水分子をブロックするが、ガスが拡散して通過することは許す。これらガスベシクルが過剰発現(overexpression)し、これら前記光合成単細胞性有機体の浮力が増加すると、その採集が有利になり、遠心分離、濾過、或いは科学的凝集(chemical flocculation)が不要であった。
【0007】
Shapiro氏等(Science 27 Sep 2019: Vol. 365, Issue 6460, pp. 1469-1475)はガスベシクルを分離及び機能化する具体的な方法を説明している。ガスベシクルのナノ構造は標的官能基(moiety)及び蛍光形質転換により、超音波及び磁気共鳴を利用して造影を行う。前記方法では、これら前記遺伝子符号化能力を有するナノ構造の調製には3~8日の時間が必要であり、且つこれら前記ナノ構造は高感度のマルチモーダル及び非侵襲的生体造影により実現し、且つ分子標的における潜在性を有している。
【0008】
PCT特許公開第WO2021041934A1号には、Jin氏等による遺伝子操作されたプロテアーゼ感受性ガスベシクルが記載されている。前記ガスベシクルはGvpAまたはGvpBタンパク質及び1つの遺伝子操作されたGvpCタンパク質を含む。プロテアーゼ認識部位を前記GvpCの中央ブロック或いはGvpCのN末端またはC末端付近に挿入する。これら前記遺伝子操作されたガスベシクルはベースラインから崩壊までの非線形超音波反応を示している。プロテアーゼを認識部位に結合すると共に遺伝子操作されたGvpCを断裂させる。次に、これら前記遺伝子操作されたガスベシクルをGvpCの断裂に追随させて崩壊させ、これらの崩壊が遺伝子操作されたプロテアーゼ感受性ガスベシクルの選別を助けることを検出する。前記方法は崩壊圧力分布(collapse pressure profile)及びプロテアーゼ分解を効果的に減少させ、且つ改良遺伝子操作されたガスベシクルを宿主細胞中で発現させることで十分な生成量のタンパク質の生成を促す。また、検出及び感知に用いる超音波も増強された非線形挙動を示している。
【0009】
アメリカ特許公告第5824309号には、DarSarma氏等による組み換えガスベシクルを利用してタンパク質ワクチンを生成する方法が記載されている。病原体に由来する外来抗原決定基をgvpAまたはgvpC中に挿入して抗原提示(antigen presenting)し、被験者に投与する際にその免疫を誘発する。補助剤が不要であり、組み換えガスベシクルを有するワクチンは寿命が長い免疫グロブリンタンパク質反応を生成し、例えば、IgGやIgMである。前記特許において、古細菌Halobacterium halobiumを培養し、遺伝子操作されたガスベシクルを調製するための宿主細胞とする。
【0010】
ガスベシクル研究は、好塩菌、シアノバクテリア、及びメガテリウム(Priestia megaterium または Bacillus megaterium)が主流である。
【0011】
シアノバクテリア及び好塩菌において、無脂質で堅固なタンパク質膜はこれら前記タンパク質で構成されている。GvpAタンパク質は主に70~85のアミノ酸の疎水性タンパク質であり、ガスベシクルのリブ型基本構造を形成し、且つ従属構成のGvpCタンパク質は、200~450個のアミノ酸を有する親水性タンパク質であり、図1に示す如く、これら前記GvpCタンパク質はガスベシクルの外面に位置している。GvpCは足場(scaffold)構造タンパク質として認識され、ガスベシクル構造を増強している。土壌細菌メガテリウム(P. megaterium)において、88個のアミノ酸を有するGvpBタンパク質は、シアノバクテリア及び好塩菌中のGvpAの同種遺伝子であり、ガスベシクルを形成するために必要であり、且つシアノバクテリア及び好塩菌中のGvpAの役割を演じていることが見出された。図6に示す如く、メガテリウム中の14遺伝子 gvp対照群には別途1組のgvpA遺伝子を有し、これはメガテリウムのgvpBの同種遺伝子であり、但し、その機能はまだ確立していない。また、メガテリウム中にはGvpCの同種遺伝子は発見されていない。
【0012】
ガスベシクルの主要構造タンパク質GvpA及びガスベシクルのサブ構造タンパク質GvpC以外、図1に示す如く、好塩菌のガスベシクルに対してイムノブロット法により他の5種類のガスベシクル補助タンパク質GvpJ、GvpM、GvpF、GvpG、及びGvpLを検出した。ガスベシクル補助タンパク質はガスベシクルタンパク質全体の極一部分のみしか占領しておらず、且つガスベシクルの錐形端点に位置していると仮定し、ガスベシクルの曲率に対して影響がある。シアノバクテリアのアファニゾメノン糸状藍藻(A. flos-aquae)において、GvpJ、GvpK、及びGvpLの同種遺伝子が同定され、メガテリウム中には計5個の異なる補助ガスベシクルタンパク質が同定されている。
【0013】
ガスベシクルタンパク質A(gas vesicle protein A、GvpA)をガスベシクルの主要構造タンパク質とし、ガスベシクルの外殻の主体を形成し、その質量の約97%を占領している。ガスベシクルの外殻は厚みが2nmあり、且つ単層GvpAで構成されている。GvpAは4.6nmの「肋骨」を形成し、ガスベシクルの長軸と略垂直になっている。図4aに示す如く、GvpAは疎水性αヘリックス、βシート、βシート、及びαヘリックスのコアアミノ酸シーケンスを有し、以下、GvpA コアシーケンス(GvpA core sequence)と称する。
【0014】
GvpAタンパク質はgvpA遺伝子を符号化し、すでに数十種類の微生物でシーケンスが決定され、同定されている。これら前記GvpAタンパク質シーケンスは高い相同性を有し、特に図4aに示すαヘリックス、 βシート、βシート、及び αヘリックスのコアシーケンスではそれが顕著である。N末端及びC末端シーケンスのみが異なる種において異なる態様を示している。
【0015】
幾つかのシアノバクテリアにおいて、複数の同じコピーのgvpA遺伝子が発見されている。好塩菌では、2組のgvp対照群において僅かに相違する2つのgvpA遺伝子コピーが発見され、染色体及びプラスミド(c-vac 及び p-vac)にそれぞれ位置し、メガテリウムの14遺伝子gvp対照群で発見されている(gvpA及びgvpB)。
【0016】
長年、ガスベシクル研究分野では、各ガスベシクル中には1種類のリブタンパク質GvpAのみが存在すると認識されてきた。好塩菌 Halobacterium salinarum では、c-vac及びp-vacが染色体またはプラスミドの異なる遺伝子クラスター(gene cluster)にそれぞれ位置している。C-vac 及びp-vacの遺伝子の発現は、異なるメカニズムが主導したものであり、且つ毎回ガスベシクルを生成する際に、リブタンパク質GvpAがc-vacまたはp-vacから発現するが、但し、同時に発現する状況は発見されていない。メガテリウムにおいて、gvpA及びgvpBは同様の14遺伝子gvp対照群に位置し、ガスベシクルを形成するにはgvpBのみが必要であり、gvpAが演じる役割は未だ分かっていない。
【0017】
GvpAのN末端、C末端、またはコアシーケンスに非相同ペプチドを挿入することでGvpAを変更することはすでに数多く試みられている。しかしながら、GvpAタンパク質の剛性がGvpAを変更する余地を制限している。DarSarmaグループは、H. salinarum のGvpAのC末端に5個を超える異種アミノ酸をインフレーム付着してもガスベシクルを形成出来ないことを見出した。N末端またはコアシーケンスに対して異種アミノ酸を挿入する他の試みも失敗しており、これはガスベシクルを、例えば、ワクチン、バイオマーカー等の様々な技術に応用することを制限している。
【0018】
GvpCは従属的な足場構造タンパク質であり、アノバクテリア及び好塩菌のガスベシクル表面で発見されている。アファニゾメノン糸状藍藻(Anabaena flos-aquae、A. flos-aquae)を例にすると、GvpCはガスベシクルタンパク質の約2.9%を占め、且つ界面活性剤の作用または塩分濃度の変化によりガスベシクル表面から脱離する。足場タンパク質とすると、GvpCはGvpAとのタンパク質交互作用(protein-protein interaction)によりガスベシクル構造を安定させる。H. salinarum において、GvpCは398個もの異種アミノ酸を付着でき、GvpCを生物工学技術への応用に更に適合させ、遺伝子操作されたGvpCを有するこれら前記ガスベシクルはガスベシクルナノ粒子(gas vesicle nanoparticles、GVNPs)とも呼ぶ。
【0019】
しかしながら、GvpCはガスベシクル表面に付着すると不安定になり、且つGvpC/GvpAまたはGvpC/GVの比率を安定した水準に維持することが難しかった。一例を挙げると、好塩菌が生成したGVNPは高塩環境中でしか安定を維持できない。低塩環境では、GVNPsの構造が容易に崩壊し、GvpCがナノ粒子から脱離する。したがって、GVNPsの構造が不安定であり、GVNPを抗原提示媒体、または超音波、核磁気共鳴イメージングバイオマーカーとする場合、GvpCがGVNP表面から脱離する傾向により信頼性が低下した。
【0020】
一方、ガスベシクルは好塩菌での生成周期が3~4週間に及び、非常に時間がかかるため、GVまたはGVNPの生産コストが、好塩菌においては大腸菌発現システムよりも遥かに高くなった。また、好塩菌のベクター/宿主システムに適用し、ガスベシクルを効果的に発現させると共に大量生産するにも不適であった。
【0021】
そこで、前述した制限を克服する試みにおいては、新形態の遺伝子操作されたキメラガスベシクル(chimeric gas vesicle、CGV)が必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ガスベシクルの研究分野では、1種類のタンパク質しかないと広く認知されており、即ちGvpAであり、ガスベシクルのリブ構造を形成する。換言すれば、1つのガスベシクルにおいては1種類のリブタンパク質しかなく、例えば、シアノバクテリア、好塩菌、及び土壌細菌のGvpA、またはメガテリウム中のGvpA同種遺伝子GvpBである。本発明には、キメラガスベシクルを提示し、具体的には2種類または2種類以上のリブタンパク質を含む。
【0023】
従来のガスベシクルまたはガスベシクルナノ粒子に比べ、本発明に係るキメラガスベシクルは具体的に様々な利点を有している。一例を挙げると、先行技術では、ガスベシクル中でGvpAが直接遺伝子操作を試みるが、その自身の剛性素質により失敗に終わり、非常に限られた数量の異種ペプチドのみがガスベシクルを破壊せずにGvpAを挿入できた。本発明に係るキメラガスベシクルはこの制限を突破し、ガスベシクルを生物学の技術分野により広く応用可能になった。好塩菌においては、ガスベシクルナノ粒子中の遺伝子組み換えGvpCがタンパク質交互作用によりガスベシクル表面に付着し、ガスベシクルナノ粒子が非常に不安定になり、且つ熱塩条件では非常に敏感になり、ガスベシクル表面から脱離し易かった。本発明に係るキメラガスベシクルにおいて、キメラガスベシクル中に挿入する異種ペプチドは共有結合形式でリブタンパク質と結合し、異種ペプチドがガスベシクル表面から脱離する問題を有効的に解決し、ガスベシクルから更にスムーズに提示する。また、本発明に係るキメラガスベシクルは、非常に短いプロセス周期で調製を完了するため、好塩菌が生成するガスベシクルナノ粒子またはシアノバクテリアが生成するガスベシクルと比べ、生成周期が大幅に短縮している。キメラガスベシクルは、他の種類のガスベシクルに比べてより安定している。換言すれば、本発明に係るキメラガスベシクルは、従来のガスベシクルに比べて高い「臨界崩壊圧力」を有している。ある例では、これら前記キメラガスベシクルは室温において非常に安定し、且つ1ヶ月間も維持され、4℃の条件においては更に少なくとも6カ月間安定的に維持され、分解しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来の天然ガスベシクルの構造を説明する漫画のグラフである。
図2】本発明に係るキメラガスベシクルを説明する漫画のグラフである。
図3】本発明に係る異種ペプチドを含むキメラガスベシクルを説明する漫画のグラフである。
図4a】ガスベシクルリブタンパク質のシーケンスアライメント結果を示す。
図4b】異種ペプチドを含む組換えサブリブタンパク質のシーケンスアライメント結果を示す。
図5】キメラガスベシクルgvp マニピュレーターの遺伝子操作を示す。
図6】キメラガスベシクルgvp マニピュレーターの遺伝子操作を示す。
図7】キメラガスベシクルが複数の種類を保有する異種ペプチドを確認するためウエスタンドットブロットである。
図8a】ガスベシクルのネガティブ染色の電子顕微鏡写真であって、スケールバーは200ナノメートルである。
図8b】キメラガスベシクルのネガティブ染色の電子顕微鏡写真であって、スケールバーは200ナノメートルである。
図9】本発明に係るキメラガスベシクルの調製プロセスを説明するためのフローチャートである。
図10】必要な個人にCGV-Covid-19ワクチン投与後に誘導される免疫応答を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ガスベシクルの研究分野において、図1に示す如く、1種類のタンパク質しかないと広く認知されており、即ちGvpAであり、ガスベシクルのリブ構造(rib structure)を形成する。換言すれば、1つのガスベシクルには1種類のリブタンパク質(rib protein)しかなく、例えば、シアノバクテリア、好塩菌、及び土壌細菌のGvpA、またはメガテリウムのGvpA相同体GvpBである。
【0026】
本発明の一実施態様に係るキメラガスベシクルは、少なくとも2つのガスベシクルリブタンパク質を含み、前記リブタンパク質はメインリブタンパク質及びサブリブタンパク質からなる群から選択されている。前記メインリブタンパク質の前記サブリブタンパク質との相違点について、ガスベシクルを独立形成する能力を有している。好ましくは、図2図3に示す如く、前記メインリブタンパク質と前記サブリブタンパク質との間には95%未満の相同性しかなく、そのうちの1つの前記ガスベシクルリブタンパク質はプリスティア・メガテリウム(P. megaterium)に由来する。
【0027】
いくつかの例示では、前記少なくとも2つのガスベシクルリブタンパク質は、2つのメインリブタンパク質、2つのサブリブタンパク質、或いは1つのメインリブタンパク質及び1つのサブリブタンパク質の組み合わせでもよい。好ましくは、前記サブリブタンパク質は前記メインリブタンパク質が存在すると、完全なキメラガスベシクルを形成し、この状況では前記キメラガスベシクルが安定している。
【0028】
複数の実施形態において、前記メインリブタンパク質及び前記サブリブタンパク質はドライウェイトで少なくとも90%の前記キメラガスベシクルを構成している。
【0029】
複数の実施形態において、前記サブリブタンパク質はコアシーケンス及び異種ペプチドを含み、前記異種ペプチドは前記コアシーケンスのC末端またはN末端にインフレーム(in frame)挿入する。具体的には、前記コアシーケンスのタンパク質構造は、第1αヘリックスと、前記第1αヘリックスのC末端に位置している第1βシートと、前記第1βシートのC末端に位置している第2βシートと、前記第2βシートのC末端に位置している第2αヘリックスと、を有していることを特徴とする。簡単に言えば、前記タンパク質構造は、αヘリックス-βシート-βシート-αヘリックスの三次構造(tertiary structure)である。
【0030】
好ましい実施形態において、前記コアシーケンスは、GvpAコアシーケンス及びGvpBコアシーケンスからなる群から選択されている。
【0031】
複数の実施形態において、前記第1αヘリックスはSSSLAEVIDRILD またはSSGLAEVLDRVLDのアミノ酸シーケンスを含む。前記第1βシートはKGIVIDAFARVSL、KGIVIDAFARVSV、KGIVIDAWVRVSL、KGVVVDVWARISL、またはKGVVVDVWARVSLのアミノ酸シーケンスを含む。前記第2βシートはVGIEILTIEARVVI、VGIELLAIEARIVI 、または VGIEILTVEARVVAのアミノ酸シーケンスを含む。前記第2αヘリックスはASVDTWLRYAEXZ、ASVETYLKYAEXZ、またはASVDTFLHYAEXZのアミノ酸シーケンスを含む。好ましくは、前記Xアミノ酸残基はアラニン(Ala)或いはグルタミン酸(Glu)であり、前記Yアミノ酸残基はバリン(Val)或いはイソロイシン(Ile)である。
【0032】
具体的には、前記コアシーケンスはGvpAタンパク質またはGvpBタンパク質の疎水性領域である。図4aに示す如く、前記コアシーケンスは三次タンパク質構造であり、αヘリックス-βシート-βシート-αヘリックスの順になる4個の二次構造で構成されている。前記GvpAタンパク質または前記GvpBタンパク質はシアノバクテリア、好塩菌、或いは土壌細菌に由来する。好ましくは、前記土壌細菌はメガテリウム(Priestia Megaterium)であり、前記好塩菌はHalobacterium salinarumであり、前記シアノバクテリアはアファニゾメノン糸状藍藻(Anabaena flos-aquae)である。
【0033】
いくつかの好ましい実施形態において、前記GvpAタンパク質は、例えば、SEQ ID NO.: 1のアミノ酸シーケンスを有している。前記GvpBタンパク質は、例えば、SEQ ID NO.: 2のアミノ酸シーケンスを有している。
【0034】
具体的には、前記コアシーケンスはプリスティア・メガテリウムからのGvpAタンパク質またはGvpBタンパク質の第9~61アミノ酸を含むが、本発明はこれに限定されるものではない。また、全てのガスベシクルリブタンパク質は前記コアシーケンスを運ぶ。なお、シアノバクテリア、好塩菌、或いは土壌細菌からのあらゆるGvpAタンパク質またはGvpBタンパク質の相同体(homolog)、或いは前記コアシーケンスと同種のタンパク質シーケンスも、遺伝子組み換えを経て前記サブリブタンパク質の役割を担う。
【0035】
ちなみに、前述した二次構造はオンラインで提供されるタンパク質二次構造予測プログラムJpred 4により予測したものである。図4aに示す如く、αヘリックスを形成する領域はアンダーラインでHと標記し、βシートを形成する領域はSと標記している。
【0036】
図4bは非相同ペプチドを有しているサブリブタンパク質のシーケンスアライメントを示し、前記サブリブタンパク質の設計を概略的に表示する。前記非相同ペプチドは前記コアシーケンスのC末端に挿入されている。
【0037】
他の実施形態において、前記非相同ペプチドは少なくとも6個のアミノ酸を有し、且つ前記非相同ペプチドは、人工設計ペプチドシーケンス、リガンド、ホルモン、サイトカイン、受容体、抗体パラトープ、毒タンパク質、或いは蛍光タンパク質に由来する。
【0038】
いくつかの好ましい実施形態において、前記メインリブタンパク質はGvpBタンパク質であり、前記サブリブタンパク質は非相同ペプチドを有しているコアシーケンスである。前記非相同ペプチドは少なくとも6個のアミノ酸を有し、且つ前記非相同ペプチドは前記コアシーケンスのC末端またはN末端に挿入されている。
【0039】
好ましくは、前記コアシーケンスは切断されたリブタンパク質を含み、プリスティア・メガテリウムのGvpAまたはGvpBタンパク質からの第1(メチオニン、Methionine)~第61(バリン、Valine)のアミノ酸残基を保有している。
【0040】
一例を挙げると、前記非相同ペプチドは前記コアシーケンスのC末端に挿入してもよく、6~56個または更に多くのアミノ酸残基を有し、前記コアシーケンスは前記ガスベシクルリブタンパク質の切断型(truncated)である。前記切断されたガスベシクルリブタンパク質及び前記非相同ペプチドが共同で前記サブリブタンパク質を形成し、非相同ペプチドを運ぶと共に様々な生物工学分野の応用に投入可能である。しかしながら、更に長い非相同ペプチドは、前記キメラガスベシクルを不安定にし、その収率を低下させる。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記非相同ペプチドは2つまたは2つ以上の非相同タンパク質に由来する。例えば、タンパク質Aからの20個のアミノ酸及びタンパク質Bからの25個のアミノ酸が共同で45個のアミノ酸長の長さの非相同ペプチドを形成し、前記サブリブタンパク質を形成する挿入物とする。好ましくは、前記非相同ペプチドは病原体のタンパク質シーケンス、抗体の変異領域、ホルモン、サイトカイン、またはリガンドに由来する。
【0042】
複数の実施形態において、前記キメラガスベシクルは大腸菌(E. coli)に発現すると共に前記大腸菌から純化している。
【0043】
1つまたは複数の実施形態において、前記キメラガスベシクルは組み立てタンパク質(assembly protein)を更に含み、前記組み立てタンパク質はGvpPタンパク質、GvpPタンパク質、またはそれらの組み合わせを含む。前記組み立てタンパク質はプリスティア・メガテリウムに由来する。これら前記組み立てタンパク質は前記キメラガスベシクルの形成を促進、加速、或いは安定化する。GvpPタンパク質及びGvpQタンパク質を有することで、前記サブリブタンパク質が前記キメラガスベシクルの表面に更に均一に分布する。GvpPタンパク質及びGvpQタンパク質の補助により形成されるこれら前記キメラガスベシクルは、GvpPタンパク質及びGvpQタンパク質により補助されないキメラガスベシクルに比べてより安定している。
【0044】
いくつかの特定の実施形態において、前記GvpPタンパク質は、例えば、SEQ ID NO.: 3のアミノ酸シーケンスを有している。前記GvpQタンパク質は、例えば、SEQ ID NO.: 4のアミノ酸シーケンスを有している。
【0045】
好ましい実施形態において、前記キメラガスベシクルは、GvpR、GvpN、GvpF、GvpG、GvpL、GvpS、GvpK、GvpJ、GvpT、及びGvpUからなる群から選択されている少なくとも1種類の補助タンパク質(accessory protein)を更に含む。
【0046】
所謂「キメラガスベシクル(chimeric gas vesicles、CGVs」とは、これら前記ガスベシクルが異なるタンパク質シーケンスを有する少なくとも2種類のGvpリブタンパク質で構成されたものを指す。相対的に、他の公開文献に記載されているガスベシクルは1種類のメインリブタンパク質しかなく、即ち、GvpAである。
【0047】
所謂「リブタンパク質(rib protein)」とは、前記ガスベシクルタンパク質がこれら前記ガスベシクルまたはキメラガスベシクルの「肋骨」を形成することを指す。一旦、ガスベシクルが成形されると、前記リブタンパク質がこれら前記ガスベシクルを破壊しない前提においてガスベシクルから取り除けなくなる。前記ガスベシクルリブタンパク質は約4.6nmの「肋骨」を形成し、これは堆積してアレイとなると共に前記ガスベシクルの長軸に対して略垂直になり、且つ前記ガスベシクル壁の主要部分(97%)を構成する。図1に示す如く、これら前記壁は2nmの厚みがあり、且つ単層リブタンパク質で構成されている。全てのガスベシクルリブタンパク質は疎水性三次構造を有し、これは、αヘリックス、 βシート、βシート、及びαヘリックスの4個の二次構造を有している。図4a乃至図4bに示す如く、三次構造のタンパク質シーケンスは「コアシーケンス」と定義される。
【0048】
所謂「メインリブタンパク質」とは、シアノバクテリア、好塩菌、及び土壌細菌からのGvpAタンパク質、及びプリスティア・メガテリウムからのGvpB、或いは同種であり、且つ機能がGvpAタンパク質に相当するあらゆるGvpタンパク質を指し、ガスベシクルのリブ構造を形成可能である。前記ガスベシクルのメインリブタンパク質は「コアシーケンス」を有するリブタンパク質である。微量のGvp補助構造タンパク質として、例えば、GvpF、 GvpG、GvpJ、GvpK、GvpL、GvpSがあり、メインリブタンパク質が完全なガスベシクルを形成する。これら前記メインリブタンパク質は他のリブタンパク質に干渉せずにガスベシクルを十分形成可能である。一旦、ガスベシクルが成形されると、これら前記メインリブタンパク質はガスベシクルを破壊しない前提においてガスベシクルから取り除けなくなる。これら前記ガスベシクルのメインリブタンパク質はガスベシクルの総タンパク質の20~99.9%を構成し、主要な構造タンパク質、主要な構成タンパク質、リブタンパク質等と見做される。
【0049】
所謂「サブリブタンパク質」とは、「コアシーケンス」を有するリブタンパク質を指し、他の1種類のリブタンパク質が存在する場合にのみガスベシクルを形成する。多くの場合、他の1種類のリブタンパク質はガスベシクルのメインリブタンパク質であるが、但し、異なるタンパク質シーケンスを有する他の1種類のガスベシクルのサブリブタンパク質でもよい。一旦、キメラガスベシクルが成形されると、キメラガスベシクルを破壊しない前提においてキメラガスベシクルから取り除けなくなる。これら前記ガスベシクルのサブリブタンパク質はガスベシクルの総タンパク質の3~80%を構成する。
【0050】
天然のリブタンパク質は自然環境で発見されたガスベシクルリブタンパク質、GvpA、または相同体である。切断されたリブタンパク質は、部分的なアミノ酸シーケンスが除去された天然ガスベシクルリブタンパク質である。これら前記組み換えリブタンパク質は天然または切断されたガスベシクルリブタンパク質であり、C末端、N末端または中段にインフレーム挿入された非相同ペプチドを有している。
【0051】
所謂「コアシーケンス」とは、GvpAまたはその相同体の疎水性領域を指し、図4a乃至図4bに示す如く、4個の二次構造で構成されているαヘリックス、 βシート、βシート、及びαヘリックスの三次構造を有している。これら前記「コアシーケンス」は、プリスティア・メガテリウムGvpAまたはGvpBからの第9(セリン、Serine)~61(バリン、Valine)のアミノ酸残基を跨いでいる。全てのガスベシクルリブタンパク質はこのコアシーケンスを運ぶ。
【0052】
一方、本発明に係るタンパク質発現システムは、前記キメラガスベシクルを発現するために用いられ、前記タンパク質発現システムは、何れか1種類のガスベシクルリブタンパク質を符号化した第1ポリヌクレオチド・フラグメント、及び他の1種類のガスベシクルリブタンパク質を符号化した第2ポリヌクレオチド・フラグメントを含む。前記タンパク質発現システムはDNAに基づいたタンパク質発現システムまたはRNAに基づいたタンパク質発現システムでもよい。
【0053】
複数の実施形態において、前記第1ポリヌクレオチド・フラグメントは前記メインリブタンパク質が符号化されている。前記第2ポリヌクレオチド・フラグメントは前記サブリブタンパク質が符号化されている。前記第2ポリヌクレオチド・フラグメントは、コアシーケンスを符号化したコア・ポリヌクレオチド・フラグメント、及び異種ペプチドを符号化した異種ポリヌクレオチド・フラグメントを含む。
【0054】
いくつかの好ましい実施形態において、前記コアシーケンスは、三次構造が、第1αヘリックスと、前記第1αヘリックスのC末端に位置している第1βシートと、前記第1βシートのC末端に位置している第2βシートと、前記第2βシートのC末端に位置している第2αヘリックスと、を含む。好ましくは、前記コアシーケンスははGvpAコアシーケンス及びGvpBコアシーケンスからなる群から選択されている。
【0055】
具体的には、図4aに示す如く、前記コアシーケンスはGvpAタンパク質またはGvpBタンパク質の疎水性領域であり、前記コアシーケンスは前記GvpAタンパク質または前記GvpBタンパク質の第9~61アミノ酸を含む。好ましくは、前記コアシーケンスはタンパク質三次構造であり、4個のタンパク質二次構造を有し、これはαヘリックス、 βシート、βシート、及びαヘリックスの順に配列されている。前記GvpAタンパク質または前記GvpBタンパク質はシアノバクテリア、好塩菌、或いは土壌細菌に由来する。好ましくは、前記土壌細菌はメガテリウム(P. Megaterium)であり、前記好塩菌はH. salinarumであり、前記シアノバクテリアはアファニゾメノン糸状藍藻(A. flos-aquae)である。
【0056】
好ましい実施形態において、前記第1ポリヌクレオチドシーケンスは、例えば、SEQ ID NO.: 5またはSEQ ID NO.: 6のヌクレオチドシーケンスを有している。
【0057】
複数の実施形態において、前記非相同ペプチドは少なくとも6個のアミノ酸を有し、前記非相同ペプチドは、リガンド(ligand)、ホルモン(hormone)、サイトカイン(cytokine)、受容体(receptor)、抗体のパラトープ(paratope of antibody)、毒性タンパク質(toxic protein)、及び蛍光タンパク質(fluorescent protein)からなる群または人工設計ペプチドシーケンスから選択された天然ペプチドシーケンスに由来する。
【0058】
いくつかの実施形態において、前記タンパク質発現システムは、組み立てタンパク質を符号化した組み立てポリヌクレオチド・フラグメントを更に含み、前記組み立てタンパク質はGvpPタンパク質、GvpQタンパク質、またはそれらの組み合わせを含む。前記組み立てタンパク質を有することで、前記サブリブタンパク質が前記キメラガスベシクルの表面に更に均一に分布する。前記組み立てタンパク質補助を有するキメラガスベシクルと比べ、GvpPタンパク質またはGvpQタンパク質が無いと、キメラガスベシクルが明らかに不安定になり、且つ容易に組み立てエラーや生成量の低下が発生する。
【0059】
いくつかの特定の実施形態において、前記組み立てポリヌクレオチド・フラグメントはプリスティア・メガテリウムのgvpP、gvpQまたはそれらの組み合わせに由来する。好ましくは、前記組み立てポリヌクレオチド・フラグメントは、例えば、SEQ ID NO.: 7 、 SEQ ID NO.: 8、或いはSEQ ID NO.: 9のヌクレオチドシーケンスを有している。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記タンパク質発現システムは、GvpR、GvpN、GvpF、GvpG、GvpL、GvpS、GvpK、GvpJ、GvpT、及びGvpUからなる群から選択されている少なくとも1種類の補助タンパク質(accessory protein)を符号化した補助ポリヌクレオチド・フラグメントを更に含む。幾つかの具体的な実施例において、前記補助ポリヌクレオチド・フラグメントは、例えば、EQ ID NO.: 10のヌクレオチドシーケンスを有している。
【0061】
いくつかの実施形態において、前記タンパク質発現システムは、宿主中でこれら前記ガスベシクルリブタンパク質を発現するように誘導され、前記宿主として、古細菌細胞、原核生物細胞、或いは真核生物細胞を含む。好ましくは、前記古細菌細胞はH. salinarumであり、前記原核生物細胞は大腸菌であり、前記真核生物細胞は哺乳類の細胞、酵母菌、或いは昆虫の細胞である。より好ましくは、前記宿主は大腸菌である。
【0062】
図8aに示す如く、これら前記ガスベシクルはメガテリウム遺伝子が形質転換された大腸菌から純化され、gvpB(メインリブタンパク質が符号化されている)及びgvpRNFGLSKJTUを有している。これら前記ガスベシクルは基本的に、小サイズ(40x40 nm)及び幾つかの大サイズのガスベシクル(40x200 nm)である。幾つかの例示では、図8bに示す如く、メガテリウム遺伝子が形質転換された大腸菌から純化された前記キメラガスベシクルは、gvpA(組み換えサブリブタンパク質が符号化されている)と、gvpPQ(組み立てタンパク質が符号化されている)と、gvpB(メインリブタンパク質が符号化されている)と、gvpRNFGLSKJTUと、を有している。前記2種類のガスベシクルリブタンパク質及び組み立てタンパク質を有することで、これら前記キメラガスベシクルが具体的に大サイズ(40x200nm)を呈している。上述の例において、前記サブリブタンパク質は77個のアミノ酸長のGvpAタンパク質であり、17個アミノ酸長の非相同ペプチドが融合されている。
【0063】
<表1>
【0064】
いくつかの実施形態において、長い異種ペプチドによる影響を減少させるため、これら前記ガスベシクルリブタンパク質が削除(deletion)したアミノ酸の数量も考慮する必要がある。キメラガスベシクルの組み立て及び成形に影響しない前提において、GvpAのC末端では最多で25個のアミノ酸を削除可能であり、GvpBのC末端では最多で27個のアミノ酸を削除可能である。例示として、GvpAが切断可能なペプチドフラグメントの最大値及び挿入可能な異種ペプチドの最大値が定義されている。図1に示す如く、キメラガスベシクルを破壊しない前提において、プリスティア・メガテリウムGvpAから25個のアミノ酸長を除去可能であり、且つ少なくとも56個のアミノ酸を有する異種ペプチドが前記切断GvpAのC末端に挿入される。このほか、表1から分かるように、挿入する異種ペプチドが短い程、リブタンパク質GvpAまたはGvpBのC末端で削除するアミノ酸が少なくなる。
【0065】
他の実施形態において、前記タンパク質発現システムは2つまたは2つ以上の異なる発現ベクターにより実現し、キメラガスベシクルが宿主中で発現する。例示として、GvpA、GvpP及びGvpQが符号化されたポリヌクレオチド・フラグメントが第1ベクターに挿入され、GvpB、GvpR、GvpN、GvpF、 GvpG、GvpL、GvpS、GvpK、GvpJ、GvpT 、及びGvpUが符号化された他のポリヌクレオチド・フラグメントが第2ベクターに挿入されている。前記第1ベクター及び前記第2ベクターは共に形質転換されて宿主に挿入されて前記キメラガスベシクルを生成する。好ましくは、宿主が大腸菌である場合、これら前記ベクターはプラスミドpST39及びプラスミドpLysSに由来する。
【0066】
所謂「ベクター」とは、核酸分子を指し、例えば、タンパク質発現や標的遺伝子のコピー量の増幅といった特定の生物学的機能のために、前記ベクターは遺伝子発現要素、及び遺伝子組み換え要素(gene engineering elements)を運び、標的遺伝子を選択した宿主に進入させる。
【0067】
好ましい実施形態において、図5に示す如く、gvp対照群システムを構築するため、前記キメラガスベシクルを発現するための単一の対照群を含み、前記gvpAPQポリヌクレオチド・フラグメントまたは前記gvpBPQポリヌクレオチド・フラグメントの3’末端を前記gvpBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントの5’末端に共有結合し、gvpAPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメント或いはgvpBPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントを形成している。
【0068】
図6に示す如く、前記gvp対照群システムを構築するため、前記メインリブタンパク質及び前記サブリブタンパク質をそれぞれ発現するための2つの対照群を含み、前記第2ポリヌクレオチド・フラグメントの3’末端を前記組み立てポリヌクレオチド・フラグメントの5’末端に共有結合し、gvpAPQポリヌクレオチド・フラグメント或いはgvpBPQポリヌクレオチド・フラグメントを形成するか、または、前記第1ポリヌクレオチド・フラグメントの3’末端を前記補助ポリヌクレオチド・フラグメントの5’末端に共有結合し、gvpARNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメント或いはgvpBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントを形成している。
【0069】
具体的には、オペレータ(operator)またはプロモーター(promoter)が前記gvpAPQポリヌクレオチド・フラグメント、前記gvpBPQポリヌクレオチド・フラグメント、前記gvpBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメント、前記gvpAPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメント、及び前記gvpBPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントの上流箇所に設置され、前記gvp対照群システムが誘導因子の操縦によりキメラガスベシクルを組み立てるのに必要なタンパク質を合成する。前記誘導因子として、イソプロピル・チオガラクトシド(IPTG)、乳糖、メチル-β-D-チオガラクトシド、フェニル-β-D-ガラクトース、或いはオルト-ニトロフェニル-β-ガラクトシド(ONPG)が挙げられるが、但しこれらに限られない。
【0070】
好ましい実施形態において、前記gvpAPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントは、GvpA、 GvpP、 GvpQ、 GvpB、 GvpR、 GvpN、 GvpF、 GvpG、 GvpL、 GvpS、 GvpK、 GvpJ、 GvpT、及び GvpUを符号化した7053塩基対の長さのDNAシーケンスを有し、適合する発現ベクターに挿入されてキメラガスベシクルのタンパク質発現を実現している。好ましくは、前記gvpAPQBRNFGLSKJTUポリヌクレオチド・フラグメントは、例えば、SEQ ID NO.: 11のヌクレオチドシーケンスを有している。
【0071】
本発明の他の実施態様に係るキメラガスベシクルの生成方法は、前記キメラガスベシクルが、異種ペプチドの遺伝子組み換えガスベシクルが融合されたサブリブタンパク質GvpAまたはGvpBを有し、図9に示す如く、前記方法は下記ステップを含む。
【0072】
(ステップS1)プラスミド構築:ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction、PCR)及びGibson Assemblyにより、6~56個のアミノ酸長または更に長い異種ペプチドを符号化したDNAシーケンスを遺伝子組み換えされたGvpAまたはGvpBタンパク質のC末端及び/またはN末端にインフレーム(in-frame)挿入し、プラスミドを構築し、前記GvpA或いは前記GvpBは組み換えgvp対照群に位置し、プリスティア・メガテリウムに由来する。
【0073】
(ステップS2)プラスミドの形質転換:前述の構築したプラスミドを大腸菌または他の適合する細菌宿主に形質転換し、キメラガスベシクルを発現し、生成する能力を有する。
【0074】
(ステップS3)誘導発現:前述の形質転換体を好適な環境でタンパク質の発現を誘導するのに最適な条件において培養する。前述の形質転換体はIPTGまたは他の誘導因子により前記キメラガスベシクルを発現するように刺激する。
【0075】
(ステップS4)前記キメラガスベシクルを純化すると共に量化する。
【0076】
前記組み換え対照群のシーケンスを更に確認するため、前記方法は下記ステップを更に含む。
(ステップS1.1)シーケンス検証:前記ステップS1の後に、DNAシーケンシングにより予期した挿入物を有するプラスミドシーケンスを確認する。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記ステップS1は、PCR及びGibson Assemblyにより前記サブリブタンパク質を符号化したDNAシーケンスをgvp対照群ベクターに挿入し、キメラガスベシクル発現プラスミドを構築することを含み、前記サブリブタンパク質は、少なくとも6個のアミノ酸長の異種ペプチドがインフレーム挿入されている。
【0078】
本発明の他の実施態様に関わる免疫応答を誘発する方法は、CGV-Covid-19を必要とする個体に投与することを含み、図10に示す如く、前記方法は下記ステップを含む。
(ステップA)リン酸塩緩衝液(PBS)中のCGV-Covid-19ワクチンを純化すると共に量化する。
(ステップB)前記CGV-Covid-19ワクチンを前記必要とする個体に投与する。
(ステップC)前記必要とする個体の免疫応答を測定する。
【0079】
特定の実施形態においで、CGV-Covid-19は経鼻投与方式で前記必要とする個体に投与する。前記コアシーケンスのC末端には17個のアミノ酸長の異種ペプチドが挿入され、これはCovid-19ウィルスのSタンパク質に由来する。こうすることで、前記キメラガスベシクルがSARS-CoV-2スパイクタンパク質に由来する抗原決定部位を提示する。ここでは、酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay、ELISA)は前記CGV-Covid-19ワクチンが誘発した免疫応答を測定するために用いられ、但し、測定方法はこれに限られない。前記必要とする個体として、ヒト、マウス、イヌ、ブタ、チンパンジー、或いは他の哺乳動物が挙げられる。
【0080】
本発明に係るキメラガスベシクルは感染症のワクチン、癌、或いは他の疾病の治療用ワクチンに応用可能である。前記キメラガスベシクルは、癌、代謝性疾患、或いは他の疾病の治療剤とすることができ、例えば、ホルモン、サイトカイン、リガンド、または部分的な抗体変異領域を運ぶ。これらは、超音波、MRI、または他の造影技術の侵襲性造影剤とすることができる。簡単に言えば、ナノ粒子とする前記キメラガスベシクルは、広い応用可能性という潜在的利点を有している。
【0081】
実験例1
<プラスミド構築及び検証>
好適なあらゆる大腸菌プラスミド/宿主発現システムが使用可能であり、例えば、pBB322は、プラスミド/BL21大腸菌株(New England Biolab)、pET28プラスミド/BL21(A1)大腸菌株(Thermo Fisher)、或いはpST39プラスミド/Rosetta大腸菌株(Millipore Sigma)に由来する。
【0082】
プラスミドは酵素の切開を制限するか、または特定のプライマーによりPCRで増幅することで対応するDNAフラグメントを生成する。標的ペプチドを符号化したDNAプライマーは、本分野の普通の技術者ならば自分で設計するか、あらゆる商用プライマーサプライヤーから購入することができる。
【0083】
前述のDNAフラグメントは、異種切断されたGvpAまたはGvpBタンパク質、及び標的ペプチドが符号化され、且つDNAフラグメントは残りの13個のgvp遺伝子を運ぶ。プリスティア・メガテリウムに由来するgvpPQBRNFGLSKJTUは、適切なDNAプライマーによりPCRで増幅することで獲得する。これら前記フラグメントは、次に、Gibson Assembly(Thermo Fisher)により接合し、且つこれら前記Gibson Assembly混合物を適合する大腸菌コンピテントセル(competent cell)に形質転換する。その後、本分野の普通の技術者ならば、これら前記形質転換体を解析すると共にシーケンシングにより確認することができる。
【0084】
<キメラガスベシクル発現及生成>
正確なDNAシーケンス挿入物を有しているプラスミドを予期する大腸菌宿主に形質転換し、且つシングルコロニーを選択して適切な抗生物質を有するLB培地に接種する。IPTGまたは他の誘導因子によりキメラガスベシクルの発現を誘導し、且つ改良した実験プロセスにより純化し、前記実験プロセスは下記ステップを含む。
a.形質転換した大腸菌を20~22時間培養した後、500gを1~2時間遠心分離する。
b.沈殿物をリン酸塩緩衝液(Phosphate buffered saline、PBS)により懸濁すると共に、界面活性剤、リゾチーム(lysozyme)、及びデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)により溶解する。
c.次に、細胞溶解液(cell lysate)500gを5~30分間遠心分離を行い、キメラガスベシクルと細胞破片とを分離する。ちなみに、これら前記キメラガスベシクルは溶解懸濁液の頂端に浮遊する。
d.針により細胞破片及び中澄液(midnatant)を除去する。
e.保存したキメラガスベシクルをPBSに懸濁する。
f.ステップc~ステップeを10回重複して実行し、キメラガスベシクルの純度が99%に達する。
g.分光光度計(spectrophotometer、NanoDrop ND-1000、Thermo Scientific)によりキメラガスベシクルの波長500における吸収率(OD500)を測定し、その最終濃度を計算する。ちなみに、キメラガスベシクル1単位のOD500は145ug/mlのタンパク質に相当する。
【0085】
実験例2
本発明が1個~複数個の非相同タンパク質(foreign proteins)からの異種ペプチドの挿入が成功したかどうか検証するため、実験例2では、H1N1ウィルスの血球凝集素(hemagglutinin 、HA)からの20個のアミノ酸長のペプチド及びCovid-19ウィルスのスパイクタンパク質からの40個のアミノ酸長のペプチドを接合して挿入物を形成する。次に、前述の異種ペプチドを、1つの同じ或いは2つの異なるプラスミドの14遺伝子gvp対照群に挿入する。1つ或いはそれらの前記プラスミドを大腸菌コンピテントセルに形質転換(transformation)または共形質転換(co-transformation)し、2つまたは2つ以上の異種ペプチドを運ぶキメラガスベシクルを大量生成する。
【0086】
実験例3
複数種の異種ペプチドを運ぶキメラガスベシクルのタンパク質発現を更に検証するため、実験例1の方法のステップにより生成したキメラガスベシクルを、ウェスタンブロット法(Western Dot Blot)により確認する。
【0087】
複数種の異種ペプチドを有するキメラガスベシクルサンプルを大腸菌培養物から純化し、形質転換して対応するプラスミドを構築する。rabbit anti-Covid-19 S protein を一次抗体とし、goat anti-rabbit IgG-HRPを二次抗体としてウェスタンブロット染色を行う。
【0088】
<表2>
【0089】
図7に示す如く、キメラガスベシクルの陽性を示すドットはドット番号5~8であり、Covid-19 Sタンパク質の抗原識別部位が第450~493のアミノ酸残基に位置していることを示す。表2において、組み換えgvp対照群の挿入物とするCovid-19 Sタンパク質シーケンスが更に詳細に列挙され、Covid-19 Sタンパク質の抗原部位は、NYLYRLFRKSNLKP(N450~P463)、NLKPFERDISTEIY(N460~Y473)、TEIYQAGSTPCNGV(T470~V483)、及びCNGVEGFNCYFPLQ(C480~Q493)とそれぞれ識別されている。
【0090】
本発明に係るキメラガスベシクル(chimeric gas vesicles、CGVs)は、従来のガスベシクル(gas vesicle, GV)及びガスベシクルナノ粒子(gas vesicle nanoparticle, GVNP)に比べて具体的に複数の利点を有している。
【0091】
例えば、GvpAの剛性のために、以前は従来のガスベシクルのGvpAに対する直接的な遺伝子組み換えは成功が難しかったが、今では、ガスベシクルの成形を破壊しない前提において、わずか5個のアミノ酸長を有する異種ペプチドによりGvpAのC末端への挿入が成功する。本発明に係るキメラガスベシクルは具体的に安定性の制限を克服し、且つキメラガスベシクルを様々な応用に適用する可能性を開いている。以前は好塩菌のガスベシクルの研究において、GVNP中の遺伝子が組み換えられたGvpCはタンパク質間の交互作用によってしかガスベシクル表面に付着できず、熱塩変化に非常に敏感であり、且つ脆弱であり、GvpCがGVNPから脱落し易いため、従来のガスベシクルの応用性が大きく低下していた。キメラガスベシクルにおいて、これら前記異種ペプチドは天然GvpA、切断型GvpA、或いはその相同体を挿入可能であり、または、共有融合(covalently fused)形式で融合され、これら前記リブタンパク質を形成する。肋骨状構造の一部分とすることで、前述の従来のガスベシクルが直面する異種ペプチドの脱落問題を解決する。工業的または商業的な生成では、キメラガスベシクルを製造する生成周期が大幅に短縮する。幾つかの状況においては、生成周期が2日以内にまで短縮し、好塩菌のGVNPまたはシアノバクテリアのガスベシクルの生成周期よりも遥かに短い。キメラガスベシクルは従来のガスベシクルと比べてより安定している。大腸菌により発現するメガテリウムからのgvp対照群が生成したキメラガスベシクルは、既知のあらゆるガスベシクルに比べて更に安定している。従来のガスベシクルと比べ、本発明に係るキメラガスベシクルはより高い「臨界崩壊圧力(critical collapse pressure」を有している。保管について、ある実施例に係るキメラガスベシクルは室温で保存してもその完全性を少なくとも1ヶ月間維持し、且つ4℃でも6カ月間維持し、如何なる分解も発生しない。キメラガスベシクルが示す上述した特徴によると、本発明はキメラガスベシクルの将来的な応用性を大きく高めている。
【0092】
別途定義のない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の普通の技術者が通常理解する意味と同じである。本発明の実施または測定においては、明細書の方法及び材料に相似する或いは等価の方法及び材料を使用可能であるが、但し、好ましい方法及び材料は上述した通りである。本明細書は、言及した全ての刊行物、特許出願、公開または公告された特許及び他の参照文献の全体を引用する。対立する状況がある場合、本明細書(定義を含む)を基準とする。また、材料、方法、及び例示は説明のためにすぎず、本発明が宣言した保護範囲を制限するものではない。
【符号の説明】
【0093】
S1~S4 ステップ
S1.1 ステップ
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10
【配列表】
2024519081000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2024519081000001.app
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
複数の実施形態において、前記第1αヘリックスはSEQ ID NO.: 12 (SSSLAEVIDRILD) またはSEQ ID NO.: 13 (SSGLAEVLDRVLD)のアミノ酸シーケンスを含む。前記第1βシートはSEQ ID NO.: 14 (KGIVIDAFARVSL、SEQ ID NO.: 15 (KGIVIDAFARVSV)、SEQ ID NO.: 16 (KGIVIDAWVRVSL)、SEQ ID NO.: 17 (KGVVVDVWARISL)、またはSEQ ID NO.: 18 (KGVVVDVWARVSL)のアミノ酸シーケンスを含む。前記第2βシートはSEQ ID NO.: 19 (VGIEILTIEARVVI)、SEQ ID NO.: 20 (VGIELLAIEARIVI) 、または SEQ ID NO.: 21 (VGIEILTVEARVV)Aのアミノ酸シーケンスを含む。前記第2αヘリックスはSEQ ID NO.: 22 (ASVDTWLRYAEXZ)、SEQ ID NO.: 23 (ASVETYLKYAEXZ)、またはSEQ ID NO.: 24 (ASVDTFLHYAEXZ)のアミノ酸シーケンスを含む。好ましくは、SEQ ID NO.: 22, SEQ ID NO.: 23または SEQ ID NO.: 24においておいて、前記Xアミノ酸残基はアラニン(Ala)或いはグルタミン酸(Glu)であり、SEQ ID NO.: 22, SEQ ID NO.: 23または SEQ ID NO.: 24においておいて、前記Yアミノ酸残基はバリン(Val)或いはイソロイシン(Ile)である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
図4bは非相同ペプチドを有しているサブリブタンパク質のシーケンスアライメントを示し、前記サブリブタンパク質の設計を概略的に表示する。前記非相同ペプチドは前記コアシーケンスのC末端に挿入されている図4bのSEQ ID NO.: 50およびSEQ ID NO.: 51では、前記Xアミノ酸残基は異種ペプチド配列を表す
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
<表1>
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
<表2>
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0089
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0089】
図7に示す如く、キメラガスベシクルの陽性を示すドットはドット番号5~8であり、Covid-19 Sタンパク質の抗原識別部位が第450~493のアミノ酸残基に位置していることを示す。表2において、組み換えgvp対照群の挿入物とするCovid-19 Sタンパク質シーケンスが更に詳細に列挙され、Covid-19 Sタンパク質の抗原部位は、SEQ ID NO.: 41 (NYLYRLFRKSNLKP)(N450~P463)、SEQ ID NO.: 42 (NLKPFERDISTEIY)(N460~Y473)、SEQ ID NO.: 43 (TEIYQAGSTPCNGV)(T470~V483)、及びSEQ ID NO.: 44 (CNGVEGFNCYFPLQ)(C480~Q493)とそれぞれ識別されている。

【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4a
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4b
【国際調査報告】