(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】アミノ酸エクスポーターの不活性化によりグアニジノ酢酸(GAA)を産生するための改善された生物工学的な方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240426BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240426BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240426BHJP
C12P 7/54 20060101ALI20240426BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240426BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240426BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20240426BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240426BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/31
C12P1/04 Z
C12P7/54
C12N15/54
C12N9/10
C12N15/60
C12N15/55
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571881
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2022062663
(87)【国際公開番号】W WO2022243116
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヤンコヴィッチュ
(72)【発明者】
【氏名】カイ マリン
(72)【発明者】
【氏名】フランク シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ブリギッテ バーテ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA11
4B065AA01X
4B065AA24X
4B065AA26X
4B065AA43X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA16
4B065CA43
(57)【要約】
本発明は、不活性化されたアミノ酸エクスポーターを有する、グアニジノ酢酸(GAA)を産生することが可能となるように形質転換された微生物、およびそのような微生物を用いてGAAを発酵により産生するための方法に関する。本発明は、クレアチンを発酵により産生するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物であって、
野生型微生物の能力と比較して、L-アルギニンを提供する能力が増加させられ、
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を有し、
細胞周期の同じ状態で前記野生型微生物中のそれぞれのタンパク質の活性と比較して、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質の活性が低減されている、
微生物。
【請求項2】
アルギニン応答性リプレッサータンパク質ArgRの活性が弱められているかまたは欠失している、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
前記野生型微生物中のそれぞれの酵素活性と比較して、カルバモイルホスファートシンターゼの機能を有する酵素活性が増加させられている、請求項1または2記載の微生物。
【請求項4】
カルバモイルホスファートシンターゼの前記機能を有する前記酵素活性の増大が、カルバモイルホスファートシンターゼの前記機能を有する酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現により達成される、請求項3記載の微生物。
【請求項5】
オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードするargF/argF2、
アルギニノスクシナートシンテターゼをコードするargGおよび
アルギニノスクシナートリアーゼをコードするargH
を有する、L-オルニチンおよびL-アルギニンの生合成系路の酵素をコードする少なくとも1つ以上の遺伝子が過剰発現される、請求項1から4までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項6】
グルタマートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子gdhが過剰発現される、請求項1から5までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項7】
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの前記機能を有する前記タンパク質をコードする前記遺伝子が異種である、請求項1から6までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項8】
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの前記機能を有する前記タンパク質が、配列番号13によるアミノ酸配列と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項9】
アルギニンエクスポーターの前記機能を有する前記タンパク質をコードする遺伝子が、不活性化されているかまたは欠失している、請求項1から8までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項10】
アルギニンエクスポーターの前記機能を有する前記タンパク質をコードする遺伝子の転写活性因子をコードする遺伝子が欠失している、請求項1から9までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項11】
前記微生物は、コリネバクテリウム属、腸内細菌属またはシュードモナス属に属する、請求項1から10までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項12】
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミクムであり、アルギニンエクスポーターの前記機能を有する前記タンパク質をコードする遺伝子は、lysEであり、転写活性因子をコードする遺伝子は、lysGである、請求項11記載の微生物。
【請求項13】
前記微生物は、大腸菌であり、アルギニンエクスポーターの前記機能を有する前記タンパク質をコードする遺伝子は、argO(ybjE)である、請求項11記載の微生物。
【請求項14】
前記微生物は、シュードモナス・プチダであり、アルギニンエクスポーターの前記機能を有する前記タンパク質は、lysEである、請求項11記載の微生物。
【請求項15】
グアニジノ酢酸(GAA)を発酵により産生するための方法であって、
a)請求項1から14までのいずれか1項記載の微生物を適切な培地中で適切な条件下で培養するステップと、
b)前記培地中にGAAを蓄積させて、GAA含有発酵ブロスを形成するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
GAAを前記GAA含有発酵ブロスから単離することをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記GAA含有発酵ブロスを乾燥させかつ/または造粒することをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
グアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子をさらに含む、請求項1から14までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項19】
グアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼの前記活性を有する酵素をコードする前記遺伝子が過剰発現される、請求項18記載の微生物。
【請求項20】
クレアチンを発酵により産生するための方法であって、
a)請求項18または19記載の微生物を適切な培地中で適切な条件下で培養するステップと、
b)前記培地中にクレアチンを蓄積させて、クレアチン含有発酵ブロスを形成するステップと
を含む、方法。
【請求項21】
クレアチンを前記クレアチン含有発酵ブロスから単離することをさらに含む、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニジノ酢酸(GAA)を産生することが可能となるように形質転換された微生物、およびそのような微生物を用いてGAAを発酵により産生するための方法に関する。本発明は、クレアチンを発酵により産生するための方法にも関する。
【0002】
GAAは、動物飼料添加物として使用される有機化合物である(国際公開第2005120246号/米国特許出願公開第2011257075号明細書)。GAAは、クレアチンの天然前駆体である。したがって、GAAの補給は、生物内でクレアチンの最適な供給を可能にする。
【0003】
本発明は、出発材料として工業用供給原料(例えば、アンモニア、アンモニウム塩およびグルコースまたは糖含有基質)を用いる発酵プロセスによりGAAを産生するための方法に関する。生物系において、GAAおよびオルニチンは、クレアチン生合成における最初のステップであるL-アルギニン:グリシン-アミジノトランスフェラーゼ(AGAT;EC2.1.4.1)の触媒作用により出発物質としてアルギニンおよびグリシンから形成される:
【化1】
【0004】
Guthmiller et al.(J Biol Chem. 1994 Jul 1;269(26):17556-60)は、大腸菌(E. coli)中での酵素のクローニングおよび異種発現によるラット腎臓AGATを特性決定した。Muenchhoff et al.(FEBS Journal 277 (2010) 3844-3860)は、大腸菌(E. coli)中での酵素のクローニングおよび異種発現による原核生物由来のAGATの最初の特性決定も報告している。全細胞触媒によりL-アルギニンおよびグリシンからGAAを産生するために、Zhang et al.は、異なる種(例えば、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens))由来の異種AGATを導入し、シトルリン合成モジュール(例えば、carAB、argFおよびarglの過剰発現)およびアルギニン合成モジュール(例えば、argG、argHの過剰発現;aspAの導入)を大腸菌(Escherichia coli)内に導入することにより、大腸菌(Escherichia coli)内に再構築されたオルニチンサイクルを設計した(Yiwen Zhang, Hang Zhou, Yong Tao,およびBaixue Lin, ACS Synth. Biol. 2020, 9, 2066-2075)。
【0005】
GAA合成における出発材料の1つ、すなわち、L-アルギニンの、微生物、特に細菌中での産生を増加させるための幾つかのアプローチは、文献からも公知である。L-アルギニン産生用コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum(C. glutamicum))の代謝工学についての概要は、Park et al.(NATURE COMMUNICATIONS | DOI: 10.1038/ncomms5618)により提供されている。彼らは、既にL-アルギニン産生C.グルタミクム(C. glutamicum)株、例えばATCC21831(NakayamaおよびYoshida 1974、米国特許第3849250号明細書)のL-アルギニン産生用のランダム突然変異誘発およびスクリーニングならびに菌株工学ステップを通したL-アルギニン産生を徐々に増加させる結果となる代謝のシステム全体の分析に基づく段階的な合理的な代謝工学を提案している。Yim et al.(J Ind MicrobiolBiotechnol (2011) 38:1911-1920)は、C.グルタミクム(C. glutamicum)内の染色体argR遺伝子を破壊することにより、L-アルギニン生合成経路を制御する中央リプレッサータンパク質ArgRをコードするargR遺伝子の不活性化が、改善されたアルギニン産生株を生じさせることを示すことができた。Ginesy et al.(Microbial Cell Factories (2015) 14:29)は、アルギン産生を高めるために大腸菌(E. coli)の操作に成功したことを報告している。とりわけ、彼らは、argRリプレッサー遺伝子の欠失を提案している。
【0006】
Kurahashi et al.(欧州特許出願公開第1057893号明細書)は、例えば、エシェリキア属に属する微生物に由来するアセチルオルニチンデアセチラーゼ、N-アセチルグルタミン酸-γ-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、N-アセチルグルタモキナーゼおよびアルギニノスクシナーゼについての遺伝子を含むベクターDNAおよびDNA断片を有する組換えDNAを収容するコリネバクテリウム(Corynebacterium)属またはブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物を用いることにより、組換えDNA技術を利用するL-アルギニン生合成酵素の向上により微生物のL-アルギニン産生能力を増加する方法を報告している。改善されたL-アルギニン産生のために、著者らは、さらに、細胞内グルタマートデヒドロゲナーゼ(GDH)の活性が高められかつL-アルギニン産生能力を有する微生物を提案している。
【0007】
Suga et al.により、アルギニン生合成オペロンargRの発現を阻害する遺伝子が不活性化された遺伝子組換え株を使用する方法が報告された(米国特許第7160705号明細書)。特に、アルギニンオペロンを制御するargR内の欠失は、アルギニン産生における重要な因子と見なされていた。コリネバクテリウム(Corynebacterium)の微生物において、アルギニン生合成に関与するargCJBDFR遺伝子は、オペロンの形態で構成され、細胞内アルギニンによるフィードバック阻害を受ける(Sakanyan et al., Microbiology, 142:9-108, 1996)ため、その高い収率のL-アルギニン産生に制限が課せられる。アルギニンオペロンは、L-アルギニン生合成のメカニズムに関与する酵素をコードする遺伝子からなるオペロンであり、特に、アルギニンオペロンは、L-アルギニン生合成のサイクルステップを構成する酵素をコードする遺伝子からなる。特に、アルギニンオペロンは、N-アセチルグルタミルホスファートレダクターゼ(ArgC)、グルタマートN-アセチルトランスフェラーゼ(ArgJ)、N-アセチルグルタマートキナーゼ(ArgB)、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(ArgD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF)、およびアルギニンレプレッサー(ArgR)からなる。これらの酵素は、L-アルギニン生合成の連続的酵素反応に関与する。
【0008】
文献によれば、アミノ酸エクスポーターLysEは、L-リシンだけでなく、L-アルギニンおよびL-シトルリンの細胞排出輸送も触媒する。LysGは、アミノ酸エクスポーターのLysEをコードする遺伝子lysEの転写を活性化する。LysGは、補助インデューサー、例えばL-リシン、L-アルギニン、L-シトルリンまたはL-ヒスチジンを必要とする(Lubitz et al. (2016). 「Roles of export genes cgmA and lysE for the production of L-arginine and L-citrulline by Corynebacterium glutamicum.」 Appl MicrobiolBiotechnol 100(19): 8465-8474)。Lubitz et al.は、C.グルタミクム(C. glutamicum)株ARG2(Peters-Wendisch et al. (2014) Engineering biotin prototrophic Corynebacterium glutamicum strains for amino acid, diamine and carotenoid production. J Biotechnol. doi:10.1016/j.jbiotec.2014.01.023)を使用し、この株はArgBのフィードバック耐性対立遺伝子(ArgBfbr)のプラスミドに基づく発現と組み合わせた欠失によるargR遺伝子の不活性化により特徴付けられる。両方の修飾を有するこの株について、著者らは、培養の上澄み中のL-アルギニンの蓄積を記載している。さらに、Lubitz et al.は、そのような株において、遺伝子lysEおよび膜タンパク質をコードするcmgの不活性化が、アルギニン形成を低減する結果となることを記載している。
【0009】
Ginesy et al.(M. Ginesy et al., Microbiol Cell Factories (2015) 14:29, DOI 10.1186/s12934-015-0211-y)は、とりわけ欠失したargRリプレッサー遺伝子を有する大腸菌(E. coli)産生株を用いるアルギニン産生が、アルギニンエクスポーター系の過剰発現により増加することができることを示すことができた。
【0010】
しかしながら、細胞内で比較的高いL-アルギニン濃度を得るために、L-アルギニン排出輸送を妨げる必要がある。アミノ酸エクスポーターLysEは、基質アルギニンを細胞から効率的に輸送することにより、細胞内アルギニン濃縮を妨げ、基質利用率を低下させる。さらに、アルギニン生合成からのシトルリンも、活性LysEエクスポーターにより培地中へ分泌される。LysEは、転写活性化因子LysG(Bellmann, A., et al. (2001). 「Expression control and specificity of the basic amino acid exporter LysE of Corynebacterium glutamicum.」 Microbiology (Reading) 147(Pt 7): 1765-1774)により調節される。
【0011】
Fan Wenchaoは、非病原性微生物、例えばコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)の発酵によりクレアチンを産生するための方法を開示している(中国特許出願公開第106065411号明細書)。微生物は、以下の生体内変換機能:L-グルタミン酸へのグルコール変換;L-グルタミン酸からN-アセチル-L-グルタミン酸への変換;N-アセチル-L-グルタミン酸からN-アセチル-L-グルタミン酸セミアルデヒドへの変換;N-アセチル-L-グルタミン酸セミアルデヒドからN-アセチル-L-オルニチンへの変換;N-アセチル-L-オルニチンからL-オルニチンへの変換;L-オルニチンからL-シトルリンへの変換;L-シトルリンからアルギニノコハク酸への変換;アルギニノコハク酸からL-アルギニンへの変換;L-アルギニンからグアニジノ酢酸への変換;および最終的に、グアニジノ酢酸からクレアチンへの変換:を有する。Fan Wenchaoは、この微生物が、N-アセチルグルタマートシンターゼ、N-アセチルオルニチン-δ-アミノトランスフェラーゼ、N-アセチルオルニチナーゼ、オルニチン-カルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノスクシナートシンテターゼ、グリシンアミジノトランスフェラーゼ(EC:2.1.4.1)、およびグアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼ(EC:2.1.1.2)からなる群から選択される1つ以上の酵素を過剰発現することを提案している。微生物は、好ましくはグリシンアミノトランスフェラーゼ(L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ)およびグアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼを過剰発現する。
【0012】
本発明の根底にある課題は、グアニジノ酢酸(GAA)を産生することが可能となるように形質転換された改善された微生物を提供すること、およびこのような微生物を用いてGAAを発酵により産生するための方法を提供することである。
【0013】
この課題は、微生物であって、野生型微生物の能力と比較して、L-アルギニンを提供する能力が増加させられ、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子を有し、細胞周期の同じ状態で野生型微生物中のそれぞれのタンパク質の活性と比較して、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質の活性が低減されている、微生物により解決される。
【0014】
これは、本発明による微生物中のアルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質が、細胞周期を通して任意の時間および状況で、細胞周期を通して同じ時間および状況で野生型微生物中のそれぞれのタンパク質の活性と比較して、人為的に設計された低減された活性を示すことを意味する。
【0015】
本発明による微生物は、好ましくは、天然では生じない遺伝子組換え微生物(GMO)である。GMOでは遺伝子材料は、遺伝子工学技術を用いて変更されている。好ましくは、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が遺伝子工学技術を用いて導入されている。好ましくは、野生型微生物中のそれぞれのタンパク質の活性と比較して、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質の活性の減少も遺伝子工学技術を使用して達成されている。
【0016】
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質は、アミジノトランスフェラーゼファミリーに属する。アミジノトランスフェラーゼファミリーは、それぞれクレアチンおよびストレプトマイシン生合成に関連する酵素であるグリシンアミジノトランスフェラーゼ(EC:2.1.4.1)およびイノサミンアミジノトランスフェラーゼ(EC:2.1.4.2)を有する。このファミリーは、アルギニンデイミナーゼ、EC:3.5.3.6も含む。これらの酵素は、アルギニン+H2O⇔シトルリン+NH3の反応を触媒する。このファミリーには、ストレプトコッカス(Streptococcus)抗腫瘍糖タンパク質も見られる。L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)活性を有する酵素またはタンパク質は、PFAMファミリー:Amidinotransf(PF02274)(Marchler-Bauer A et al. (2017),「CDD/SPARCLE: functional classification of proteins via subfamily domain architectures.」, Nucleic Acids Res. 45(D1):D200-D203.)に属する保存ドメインを有することも記載されていて、以下の刊行物:Pissowotzki K et al., Mol Gen Genet 1991;231:113-123 (PUBMED:1661369 EPMC:1661369); D’Hooghe I et al., J Bacteriol 1997;179:7403-7409 (PUBMED:9393705 EPMC:9393705); Kanaoka M et al., Jpn J Cancer Res 1987;78:1409-1414 (PUBMED:3123442 EPMC:3123442)にも記載されている。AGATの特別な例は、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)、マレーヒヨケザル(Galeopterus variegatus)、およびシリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)のものである。
【0017】
本発明の文脈において、L-アルギニンを提供する改善された能力を有する微生物は、それ自体の必要性を越えてL-アルギニンを産生またはリサイクルする微生物を意味する。この特性は、天然のL-アルギニン産生者であるかもしくは突然変異によりL-アルギニンを産生する能力を獲得されもよい微生物の選択により達成されてよい。このようなL-アルギニン産生微生物の例は、例えばC.グルタミクム(C. glutamicum)ATCC21831またはPark et al. (NATURE COMMUNICATIONS | DOI: 10.1038/ncomms5618)もしくはGinesy et al. (Microbial Cell Factories (2015) 14:29)に記載されたものである。
【0018】
本発明の一実施形態では、本発明による微生物中のアルギニン応答性リプレッサータンパク質ArgRをコードするargR遺伝子が弱められているかまたは欠失されている。
【0019】
本発明による微生物中のカルバモイルホスファートシンターゼ(EC6.3.4.16、例えばCarAB)の機能を有する酵素の活性が、野生型微生物中のそれぞれの酵素活性と比較して増加させられていてよい。これは、カルバモイルホスファートシンターゼの機能を有する酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現により達成されてよい。
【0020】
さらに、本発明による微生物中で、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードするargF/argF2、アルギニノスクシナートシンテターゼをコードするargGおよびアルギニノスクシナートリアーゼをコードするargHを有する、L-オルニチンおよびL-アルギニンの生合成経路の酵素をコードする少なくとも1つ以上の遺伝子が過剰発現されてよい。
【0021】
さらにまたはこれとは別に、グルタマートデヒドロゲナーゼをコードするgdh、オルニチンアセチルトランスフェラーゼをコードするargJ、アセチルグルタマートキナーゼをコードするargB、アセチルグルタミルホスファートレダクターゼをコードするargCおよびアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼをコードするargDを有するL-オルニチンおよびL-アルギニンの生合成経路の酵素をコードする少なくとも1つ以上の遺伝子が本発明による微生物中で過剰発現されてよい。
【0022】
遺伝子の過剰発現は、一般に、遺伝子のコピー数を増加させることによりかつ/または遺伝子を強いプロモーターと機能的に連結することによりかつ/またはリボソーム結合部位を高めることによりかつ/または開始コドンもしくは全遺伝子のコドン使用頻度の最適化によりまたは上述の全ての方法の選択を有する組合せにより達成される。
【0023】
本発明による微生物中で、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、異種であってよい。
【0024】
本発明による微生物は、好ましくは、組換体であり、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、好ましくは異種である。
【0025】
異種遺伝子は、天然ではこの遺伝子を有しない宿主生物内へ遺伝子が挿入されたことを意味する。宿主内の異種遺伝子の挿入は、組換えDNA技術により行われる。組換えDNA技術を受けた微生物は、トランスジェニック、遺伝子組換えまたは組換体と言われている。
【0026】
本発明の微生物中では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、さらに過剰発現されてよい。遺伝子の過剰発現は、一般に、遺伝子のコピー数を増加させることによりかつ/または遺伝子を強いプロモーターと機能的に連結することによりかつ/またはリボソーム結合部位を高めることによりかつ/または開始コドンもしくは全遺伝子のコドン使用頻度の最適化によりまたは上述の全ての方法の選択を有する組合せにより達成される。
【0027】
本発明の微生物中で少なくとも1つのそれぞれの遺伝子によりコードされるL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質は、例えば、配列番号13によるアミノ酸配列、すなわち、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)のAGAT(「AGAT_Mp」)と少なくとも70%同一、好ましくは80%または少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有してよい。本発明の更なる実施態様では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号13(データベスUniPort, 15 February 2017, 「Glycine amidinotransferase」, XP055706853, EBI受け入れ番号UNIPROT: A0A1D8TKD3参照)によるアミノ酸配列と同一である。モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)AGATをコードする野生型DNAの配列は、配列番号12であり、C.グルタミクム(C. glutamicum)用に最適化されたコドンを有する対応するDNA配列は、配列番号14である。
【0028】
本発明の微生物中での少なくとも1つのそれぞれの遺伝子によりコードされるL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、例えば、シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)ATW205(J. Muenchhoff et al., FEBS Journal 277 (2010) 3844-3860)のAGATのアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0029】
本発明の微生物中での少なくとも1つのそれぞれの遺伝子によりコードされるL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、マレーヒヨケザル(Galeopterus variegatus)のAGATのアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有してよい。
【0030】
本発明の微生物中でのL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、ホモ・サピエンス(homo sapiens)のAGAT、例えばホモ・サピエンス自体(A. Humm, Biochem. J. (1997) 322, 771-776)のAGATまたはドブネズミ(Rattus norvegicus)のAGATのアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%相同であるアミノ酸配列を有してよい。
【0031】
一般に、本発明によれば、遺伝子の過剰発現は、遺伝子のコピー数を増加させることによりかつ/または調節因子を高めることにより、例えば遺伝子を強いプロモーターと機能的に連結することによりかつ/またはリボソーム結合部位を高めることによりかつ/または開始コドンまたは全遺伝子のコドン使用頻度の最適化により達成される。遺伝子発現に肯定的な影響を与えるそのような調節因子の向上は、例えば、プロモーターの有効性を増加させるために、構造遺伝子の上流のプロモーター配列を改変することによるかまたは前記プロモーターをより有効であるかもしくはいわゆる強いプロモーターに完全に置き換えることにより達成することができる。プロモーターは遺伝子の上流に位置する。プロモーターは、約40~50の塩基対からなり、RNAポリメラーゼホロ酵素についての結合部位および転写開始部位を構成するDNA配列であり、それにより、制御されるポリヌクレオチドまたは遺伝子の発現の強度に影響を及ぼすことができる。一般に、例えば、C.グルタミクム(C. glutamicum)についてはM. Patek et al. (Microbial Biotechnology 6 (2013), 103-117)により教示されているように、強力なプロモーターの選択により、例えば、強力な天然の(本来は他の遺伝子に割り当てられていた)プロモーターでの原型のプロモーターの置き換えによるかまたはコンセンサス配列に対する所与の天然のプロモーター(例えば、いわゆる-10および-35領域)の所定の領域の変更により、細菌内で遺伝子の過剰発現を達成するかまたは発現の増加を達成することができる。「強力な」プロモーターの例は、スーパーオキシドジスムターゼ(sod)プロモーター(「Psod」;Z. Wang et al., Eng. Life Sci. 2015, 15, 73-82)である。「機能的に連結」は、遺伝子の転写を引き起こすプロモーターと遺伝子との連続的整列を意味すると解釈される。
【0032】
遺伝コードが縮重されているとは、特定のアミノ酸が多数の異なるトリプレットによりコードされていてよいことを意味する。コドン使用頻度という用語は、一般に、所定の生物が、所定のアミノ酸についてのあらゆる可能なコドンを同じ頻度で使用するわけではないという観察を指す。その代わりに、生物は、一般に、特定のコドンについての所定の優先性を示し、これは、これらのコドンが生物の転写された遺伝子のコード配列においてより頻繁に見出されることを意味する。将来的な宿主に対して外来、すなわち、異種由来の所定の遺伝子を、将来的な宿主生物中で発現させるべき場合に、前記遺伝子のコード配列は、前記将来的な宿主生物のコドン使用頻度に適合されるべきである(すなわち、コドン使用頻度の最適化)。
【0033】
表1は、多様な種、すなわち、大腸菌(E. coli)、C.グルタミクム(C. glutamicum)およびシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida(P. putida))におけるアルギニン生合成に関与するかまたは寄与する多様な名称の酵素を示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0034】
本発明の微生物中では、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、不活性化または欠失されていてよい。さらに、本発明の微生物中では、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子の転写活性化因子をコードする遺伝子は、欠失されていてよい。
【0035】
本発明の微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum(C. glutamicum))、または腸内細菌科(Enterobacteriaceae)属、好ましくは大腸菌(Escherichia coli(E. coli))、またはシュードモナス(Pseudomonas)属、好ましくはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida(P. putida))に属していてよい。
【0036】
コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)において、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、lysEであり、転写活性化因子をコードする遺伝子は、lysGである。大腸菌(Escherichia coli)において、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子は、argO(ybjE)である。シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)において、アルギニンエクスポーターの機能を有するタンパク質は、lysEである。
【0037】
先に言及された課題は、さらに、グアニジノ酢酸(GAA)を発酵により産生するための方法であって、a)先に定義された本発明による微生物を適切な培地中で適切な条件下で培養するステップと、b)培地中にGAAを蓄積させて、GAA含有発酵ブロスを形成するステップとを含む、方法により解決される。
【0038】
本発明による方法は、さらに、培地にグリシンを添加しかつ/またはL-アルギニンを添加しかつ/またはL-オルニチンを添加することを含んでよい。好ましくは、培地は、培地lLあたりグリシン0.1~300gの範囲、好ましくは培地1Lあたりグリシン0.82gの濃度でグリシンが補充されていて、かつ/または培地1LあたりL-アルギニン0.1~200gの範囲、好ましくは培地1LあたりL-アルギニン1.9gの濃度を得るためにL-アルギニンが補充されている。
【0039】
本発明の方法は、さらに、発酵ブロスからGAAを単離するステップを含んでいてよい。
【0040】
本発明による方法は、さらに、GAA含有発酵ブロスを乾燥させかつ/または造粒するステップを含んでいてよい。
【0041】
本発明は、さらに、グアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼ(EC:2.1.1.2)の活性を有する酵素をコードする遺伝子をさらに有する、先に定義された微生物に関する。好ましくは、グアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子は、過剰発現される。
【0042】
本発明は、また、クレアチンを発酵により産生するための方法であって、a)グアニジノアセタートN-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子を有する本発明による微生物を適切な培地中で適切な条件下で培養するステップと、b)培地中にクレアチンを蓄積させて、クレアチン含有発酵ブロスを形成するステップとを含む、方法に関する。
【0043】
好ましくは、この方法は、さらに、クレアチンをクレアチン含有発酵ブロスから単離することを含む。クレアチンは、等電点法および/またはイオン交換法により発酵ブロスから抽出されてよい。あるいは、クレアチンは、さらに、水中での再結晶化する方法により精製することができる。
【0044】
実験セクション
A)材料および方法
化学薬品
ストレプトミセス・カナミセティクス(Streptomyces kanamyceticus)からのカナマイシン溶液は、Sigma Aldrich(St. Louis, 米国, Cat. no. K0254)から仕入れた。他に言及されない限り、他の全ての化学薬品は、Merck (Darmstadt, ドイツ)、Sigma Aldrich(St. Louis, 米国)またはCarl-Roth(Karlsruhe, ドイツ)から分析純度で仕入れた。
【0045】
細胞増殖のための培養
他に言及されない限り、培養/インキュベーション手順は、以下のように実施した:
a.Merck(Darmstadt, ドイツ; Cat. no. 110285)のLBブロス(MILLER)を、液体培地中で大腸菌(E. coli)株を培養するために使用した。液体培地(3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ毎に液体培地10ml)を、Infors GmbH(Bottmingen, スイス)のInfors HT Multitron標準インキュベーターシェイカー中で30℃で200rpmでインキュベートした。
【0046】
b.Merck(Darmstadt, ドイツ, Cat. no. 110283)のLB寒天(MILLER)を、寒天プレート上で大腸菌(E. coli)株の培養のために使用した。寒天プレートを、VWR(Radnor, 米国)のINCU-Line(登録商標)ミニインキュベーター中で30℃でインキュベートした。
【0047】
c.Merck(Darmstadt, ドイツ, Cat. no. 110493)のブレインハートインフュージョンブロス(BHI)を使用して、液体培地中でC.グルタミクム(C. glutamicum)株を培養するために使用した。液体培地(3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ毎に液体培地10ml)は、Infors GmbH(Bottmingen, スイス)のInfors HT Multitron標準インキュベーターシェイカー中で30℃で200rpmでインキュベートした。
【0048】
d.Merck(Darmstadt, ドイツ, Cat. no. 113825)のブレインハート寒天(BHI-寒天)を、寒天プレート上でC.グルタミクム(C. glutamicum)株を培養するために使用した。寒天プレートを、Kelvitron(登録商標)温度コントローラー(Hanau, ドイツ)を備えたHeraeus Instrumentsのインキュベーター中で30℃でインキュベートした。
【0049】
e.エレクトロポレーション後にC.グルタミクム(C. glutamicum)を培養するために、BHI寒天(Merck, Darmstadt, ドイツ, Cat. no. 113825)に、ソルビトール(Carl Roth GmbH + Co. KG, Karlsruhe, ドイツ)134g/l、酵母抽出物(Oxoid/ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国, Cat. no. LP0021)2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充した。寒天プレートを、Kelvitron(登録商標)温度コントローラー(Hanau, ドイツ)を備えたHeraeus Instrumentsのインキュベーター中で30℃でインキュベートした。
【0050】
細菌懸濁液の光学密度の決定
a.振盪フラスコ培養中の細菌懸濁液の光学密度を、Eppendorf AG(Hamburg, ドイツ)のビオフォトメータを使用して600nm(OD600)で決定した。
【0051】
b.Wouter Duetz(WDS)マイクロ発酵システム(24穴プレート)中で製造された細菌懸濁液の光学密度を、Tecan Group AG(Maennedorf, スイス)のGENios(商標)プレートリーダーを用いて660nm(OD660)で決定した。
【0052】
遠心分離
a.2mlの最大容積を有する細菌懸濁液を、Eppendorf 5417 Rベンチトップ遠心分離器(13,000rpmで5分)を使用する1.5mlまたは2mlの反応チューブ(例えばEppendorf Tubes(登録商標) 3810X)中で遠心分離した。
【0053】
b.50mlの最大容積を有する細菌懸濁液を、Eppendorf 5810 Rベンチトップ遠心分離器を使用する15mlまたは50mlの反応チューブ(例えばFalcon(商標) 50 ml Conical Centrifuge Tubes)中で4,000rpmで10分遠心分離した。
【0054】
DNA単離
プラスミドDNAを、製造元の指示に従って、Qiagen(Hilden, ドイツ, Cat. No. 27106)のQIAprep Spin Miniprepキットを使用して大腸菌(E. coli)細胞から単離した。
【0055】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
プルーフリーディング(高再現性)ポリメラーゼを用いるPCRを、Sanger配列決定またはDNAアセンブリのためのDNAの所望の断片を増幅するために使用した。ノンプルーフリーディングポリメラーゼキットは、大腸菌(E. coli)またはC.グルタミクム(C. glutamicum)コロニーから直接所望のDNA断片の存在または非存在を決定するために使用した。
【0056】
a.New England BioLabs Inc.(Ipswich, 米国, Cat. No. M0530)のPhusion(登録商標)高再現性DNAポリメラーゼキット(Phusion Kit)を、製造元の指示に従って、選択されたDNA領域の鋳型正確増幅のために使用した(表参照)。
【表2】
【0057】
b.Qiagen(Hilden, ドイツ, Cat. No.201203)のTaq PCR Core Kit(Taq Kit)を、存在を確認するために、DNAの所望の断片を増幅するために使用した。キットは、製造元の指示に従って使用した(表参照)。
【表3】
【0058】
c.Takara Bio Inc(Takara Bio Europe S.A.S., Saint-Germain-en-Laye, フランス, Cat. No. RR350A/B)のSapphireAmp(登録商標)Fast PCR Master Mix(Sapphire Mix)を、製造元の指示に従って、大腸菌(E. coli)またはC.グルタミクム(C. glutamicum)コロニーから採取した細胞中のDNAの所望の断片の存在を確認するための代替として使用した(表参照)。
【表4】
【0059】
d.全てのオリゴヌクレオチドプライマーを、McBrideおよびCaruthers(1983)により記載されたホスホラミダイト法を用いてEurofins Genomics GmbH(Ebersberg, ドイツ)により合成した。
【0060】
e.PCR鋳型として、単離されたプラスミドDNAまたは液体培地から単離された全DNAまたは細菌コロニー中に含まれる全DNAの適切な希釈溶液を使用した(コロニーPCR)。前記コロニーPCRについて、寒天プレート上のコロニーから爪楊枝を用いて細胞材料を採取し、細胞材料をPCR反応チューブ内へ直接入れることにより、鋳型を調製した。細胞材料を、SEVERIN Elektrogeraete GmbH(Sundern, ドイツ)の電子レンジ型Mikrowave & Grill中で800Wで10秒加熱し、次いで、PCR試薬をPCR反応チューブ内で鋳型に添加した。
【0061】
f.全PCR反応は、Eppendorf AG(Hamburg, ドイツ)のPCRサイクルタイプMastercyclerまたはMastercycler nexus gradient中で実施した。
【0062】
DNAの制限酵素消化
制限酵素消化のために、「FastDigest制限エンドヌクレアーゼ(FD)」(ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)またはNew England BioLabs Inc.(Ipswich, 米国)の制限エンドヌクレアーゼを使用した。反応は、製造元マニュアルの指示に従って実施した。
【0063】
DNA断片のサイズの決定
a.小さなDNA断片(<1000bps)のサイズは、通常では、Qiagen(Hilden, ドイツ)のQIAxcelを用いる自動キャピラリー電気泳動により決定された。
【0064】
b.DNA断片が単離をする必要がある場合かまたはDNA断片が>1000bpsである場合、DNAをTAE寒天ゲル電気泳動により分離し、GelRed(登録商標)Nucleic Acid Gel Stain(Biotium, Inc., Fremont, カナダ)を用いて染色した。染色されたDNAを、302nmで可視化した。
【0065】
PCR増幅および制限断片の精製
PCR増幅物および制限断片は、製造元の指示に従って、Qiagen(Hilden, ドイツ; Cat. No. 28106)のQIAquick PCR精製キットを用いて清浄化した。DNAを、10mMのTris*HCl(pH8.5)30μlで溶出した。
【0066】
DNA濃度の決定
DNA濃度を、2015年以来VWRブランド(Erlangen, ドイツ)のPEQLAB Biotechnologie GmbHのNanoDrop分光光度計ND-1000を用いて測定した。
【0067】
アッセンブリクローニング
プラスミドベクターは、New England BioLabs Inc.(Ipswich, 米国, Cat. No. E5520)から仕入れた「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」を用いて組み立てた。線状ベクターおよび少なくとも1つのDNAインサートを含む反応混合物を50℃で60分インキュベートした。アッセンブリ混合物0.5μlを各々の形質転換実験のために使用した。
【0068】
大腸菌(E. coli)の化学的形質転換
プラスミドクローニングのために、化学的コンピテントな「NEB(登録商標) Stable Competent E. coli(高性能)」(New England BioLabs Inc., Ipswich, 米国, Cat. No. C3040)を、製造元のプロトコルに従って形質転換した。成功裏に形質転換された細胞を、25mg/lカナマイシンを補充したLB寒天上で選択した。
【0069】
C.グルタミクム(C. glutamicum)の形質転換
プラスミドDNAを用いるC.グルタミクム(C. glutamicum)の形質転換は、Ruan et al.(2015)に記載されているように、「Gene Pulser Xcell」(Bio-Rad Laboratories GmbH, Feldkirchen, ドイツ)を用いてエレクトロポレーションにより実施した。エレクトロポレーションは、1mmのエレクトロポレーションキュベット(Bio-Rad Laboratories GmbH, Feldkirchen, ドイツ)内で、1.8kVで実施し、固定時間定数を5msに設定した。形質転換された細胞を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上で選択した。
【0070】
C.グルタミクム(C. glutamicum)株
コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032(DSM 20300, Kinoshita S, Udaka S, Shimono M., J. Gen. Appl. Microbiol. 1957; 3(3): 193-205)、C.グルタミクム野生型株は、American Type Culture Collection(ATCC)またはDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbHから市場で入手可能である。
【0071】
コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC21831、L-アルギニン産生C.グルタミクム株(米国特許第3849250号明細書)は、American Type Culture Collection(ATCC)から市場で入手可能である。
【0072】
ヌクレオチド配列の決定
DNA分子のヌクレオチド配列を、Sanger et al.(Proceedings of the National Academy of Sciences USA 74, 5463 - 5467, 1977)のジデオキシ鎖終結法を用いるサイクルシーケンシングによってEurofins Genomics GmbH(Ebersberg, ドイツ)により決定した。Scientific & Educational Software(Denver, 米国)のClonemanager Professional 9ソフトウェアを、配列の可視化および評価のために使用した。
【0073】
大腸菌(E. coli)およびC.グルタミクム(C. glutamicum)株のグリセロールストック
大腸菌(E. coli)株およびC.グルタミクム(C. glutamicum)株の長期保存のために、グリセロールストックを調製した。選択された大腸菌(E. coli)クローンをグルコース2g/lを補充したLB培地10ml中で培養した。選択されたC.グルタミクム(C. glutamicum)クローンをグルコース2g/lを補充した二倍濃縮BHI培地10ml中で培養した。大腸菌(E. coli)株およびC.グルタミクム(C. glutamicum)株を含むプラスミドを増殖させる培地にカナマイシン25mg/lを補充した。培地を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ内に装入した。これに、コロニーから採取した細胞のループを接種した。次いで、培養を30℃で200rpmで18hインキュベートした。前記インキュベーション期間の後に、85%(v/v)滅菌グリセロール1.2mlを培養に添加した。次いで、得られたグリセロール含有細胞懸濁液を、2mlの分量に分け、-80℃で保存した。
【0074】
振盪フラスコ培養におけるGAA産生
250mLのバッフル付き三角フラスコ中の振盪フラスコ培養を、株のGAA産生の評価のために使用した。
【0075】
株の前培養を、種培地(SM)10ml中で行った。この培地を100ml三角フラスコ中に装入した。これにグルコース保存培養100μlを接種し、この培養を30℃で200rpmで24hインキュベートした。種培地(SM)の組成を表に示す。カナマイシンを、プラスミドを維持するために必要な培養に添加した。
【表5】
【0076】
前記インキュベーション期間の後に前培養の光学密度OD600を決定した。0.5のOD600まで産生培地(PM)2.5mlを接種することが必要な容量を、前培養からサンプリングし、遠心分離し(8000gで1分)、上澄液を廃棄した。次いで、細胞を産生培地200μl中に懸濁させた。
【0077】
主培養を、前培養から再懸濁された細胞100μlずつを、産生培地(PM)2.4mlを含む24穴WDSプレートの穴に接種することにより開始した。産生培地(PM)の組成を表に示す。
【表6】
【0078】
主培養を、グルコースが完全に消費するまで、Infors GmbH(Bottmingen, スイス)のInfors HT Multitron標準インキュベーター振盪器内で、30℃で200rpmで48hインキュベートした。懸濁液中のグルコース濃度は、LifeScan(Johnson & Johnson Medical GmbH, Neuss, ドイツ)の血糖測定器OneTouch Vita(登録商標)を用いて分析した。
【0079】
培養後に培養懸濁液を50mlの遠心分離管(例えば、Falcon(商標) 50 ml Conical Centrifuge Tubes)に移した。培養懸濁液の一部を、適切に希釈してOD660を測定した。培養の他の部分を遠心分離し、上澄液中のGAA濃度を以下に記載するように分析した。
【0080】
GAAの定量化
試料を、質量分析器「Triple Quad 6420」(Agilent Technologies Inc., Santa Clara, 米国)と組み合わせたHPLC「Infinity 1260」からなるAgilentの分析システムで分析した。クロマトグラフィー分離を、35℃で、Atlantis HILIC Silicaカラム、4.6×250mm、5μm(Waters Corporation, Milford, 米国)で行った。移動相Aは、10mMギ酸アンモニウムおよび0.2%ギ酸を有する水であった。移動相Bは、アセトニトリル90%および水10%の混合物であり、10mMのギ酸アンモニウムを混合物に添加した。HPLCシステムは、B100%で開始し、22分間線形勾配および0.6mL/分の一定流量でB66%まで続けた。質量分析をESI陽イオン化モードで操作した。GAAの検出のために、m/z値をMRM断片化[M+H]+118-76を用いることにより監視した。GAAについての定量化限界(LOQ)を7ppmに固定した。
【0081】
B)実験結果
例1:C.グルタミクム(C. glutamicum)ベースの株中で遺伝子lysEおよびlysGの染色体欠失のためのプラスミドpK19mobsacB-ΔlysEGのクローニング。
遺伝子lysEは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)中のL-リシン、L-アルギニンおよびL-シトルリンの外向きフラックスを触媒するエクスポータータンパク質をコードする。lysEの発現は、lysGの遺伝子産物によりポジティブに制御される。両方の遺伝子は、互いに隣り合って位置しているが、発散的に転写される。
【0082】
トランスポータータンパク質LysEおよびポジティブレギュレータータンパク質LysGを不活性化するために、プラスミドpK19mobsacB-ΔlysEG(配列番号1)を、Vrljic et. al 1996(Vrljic, M., et al. (1996). 「A new type of transporter with a new type of cellular function: L-lysine export from Corynebacterium glutamicum.」 Mol Microbiol 22(5): 815-826; https://doi.org/10.1046/j.1365-2958.1996.01527.x)でpK18mobsacB-ΔlysEGについて記載されたように組み立てた。
【0083】
例2:ATCC13032中の遺伝子argRの染色体欠失
細胞内のL-アルギニン形成およびL-オルニチンからのL-アルギニンリサイクリングを改善するために、L-アルギニン生合成経路を制御するセントラルリプレッサータンパク質ArgRをコードする遺伝子argRを不活性化した。
【0084】
そのため、プラスミドpK18mobsacB_DargRを以下のように組み立てた。プラスミドpK18mobsacB(Schaefer, 1994)を、Xbalを用いて切断し、線状化ベクターDNA(5721bps)を「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0085】
インサートを組み立てるために、2つのDNA断片を、以下のプライマーの対を用いてPCRにより作成した(鋳型としてATCC13032のゲノムDNA):
DargR_lf(配列番号2)+DargR_lr(配列番号3)=左ホモロジーアーム(983bps)
DargR_rf(配列番号4)+DargR_rr(配列番号5)=左ホモロジーアーム(984bps)
【0086】
生成物DNAを、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0087】
次いで、線状化プラスミドおよびPCR産物を、「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc., Ipswich, 米国, Cat. No. E5520)を用いて組み立てた。得られた欠失ベクターを、pK18mobsacB_DargRと名付けた。これを制限酵素消化およびDNA配列決定により検証した。
【0088】
argR遺伝子の欠失のために、pK18mobsacB_DargRをエレクトロポレーションによりATCC13032内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。
【0089】
個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、PCRおよびDNA配列決定により検査した。得られた株を、ATCC13032_DargRと名付けた。
【0090】
例3:ATCC13032_DargR中のcarABオペロンの上流のsodプロモーターの染色体挿入
L-アルギニンの産生を改善するために、強力なsod-プロモーターを、ATCC13032_DargRのゲノム内へcarABオペロンの上流に挿入した。そのため、プラスミドpK18mobsacB_Psod-carABを以下のように組み立てた。pK18mobsacBを、EcoRI+HindIIIを用いて切断し、線状化ベクターDNA(5670bps)をアガロースゲルから切り出した。DNAを、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて抽出した。
【0091】
インサートを組み立てるために、3つのDNA断片を、以下のプライマーの対を用いてPCRにより作成した(鋳型としてATCC13032のゲノムDNA):
PsodcarAB-LA-F(配列番号6)+PsodcarAB-LA-R(配列番号7)=左ホモロジーアーム(1025bps)
PsodcarAB-F(配列番号8)+PsodcarAB-R(配列番号9)=sod-プロモーター(250bps)
PsodcarAB-RA-F(配列番号10)+PsodcarAB-RA-R(配列番号11)=左ホモロジーアーム(944bps)
【0092】
生成物DNAを、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。次いで、線状化プラスミドおよびPCR産物を、「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc., Ipswich, 米国, Cat. No. E5520)を用いて組み立てた。適切なプラスミドクローンを、制限消化およびDNA配列決定により同定した。
【0093】
次に、得られたプラスミドpK18mobsacB_Psod-carABを、エレクトロポレーションによりATCC13032_DargR内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。
【0094】
個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、sodプロモーターの適切な組み込みについてPCRおよびDNA配列決定により検査した。得られた株を、ATCC13032_DargR_Psod-carABと名付けた。
【0095】
例4:ATCC13032_DargR_Psod-carAB中の遺伝子lysEおよびlysGの染色体欠失
遺伝子lysEは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)中のL-リシン、L-アルギニンおよびL-シトルリンの外向きフラックスを触媒するエクスポータータンパク質をコードする。lysEの発現は、lysGの遺伝子産物によりポジティブに制御される。両方の遺伝子は、互いに隣り合って位置しているが、発散的に転写される。遺伝子lysEおよびlysG遺伝子を欠失させるために、pK19mobsacB_DlysEG(例1参照)を、エレクトロポレーションによりATCC13032_DargR_Psod-carAB内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)は、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。
【0096】
個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、PCRおよびDNA配列決定により検査した。得られた株を、ATCC13032_DargR_Psod-carAB_DlysEGと名付けた。
【0097】
例5:モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT, EC 2.1.4.1)をコードする遺伝子AGAT-Mpのクローニング
モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)は、繊維状シアノバクテリアである。モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)株PAL-8-15-08-1のゲノムは、Leao et al.(Leao T, Castelao G, Korobeynikov A, Monroe EA, Podell S, Glukhov E, Allen EE, Gerwick WH, Gerwick L, Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Mar 21;114(12):3198-3203. doi: 10.1073/pnas.1618556114; Genbank accession Number CP017599.1)により公開された。これは、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼをコードするオープンリーディングフレーム(AGAT, EC 2.1.4.1; locus_tag BJP34_00300 配列番号12参照)を含む。配列番号13は、誘導されたアミノ酸配列を示す(Genbank受け入れ番号WP_070390602)。
【0098】
ソフトウェアツール「Optimizer」(http://genomes.urv.es/OPTIMIZER/)を用いて、このアミノ酸配列を、C.グルタミクム(C. glutamicum)のコドン使用頻度について最適化されたDNA配列(配列番号14)に翻訳し直した。
【0099】
塩基対13~1142からなる最適化された遺伝子の断片は、その5’末端にBsmBI制限部位で拡張された。3’末端に第2の停止コドン、C.グルタミクム(C. glutamicum)由来のlysSターミネーターおよびBsmBI制限部位が追加された。得られたDNA配列(配列番号15)は、遺伝子合成用にInvitrogen/Geneart(Thermo Fisher Scientific, Waltham, 米国)から取り寄せ、アンピシリン耐性遺伝子を有するクローニングプラスミド(pMA-RQ_AGAT_Mp_optと表される)の一部として配達された。
【0100】
アッセンブリクローニング用の配列、プロモーター配列、リボソーム結合部位および最適化されたAGAT-Mp遺伝子の最初の81のヌクレオチドからなる第2のDNA断片を設計した。この配列は、遺伝子合成用の線状DNAストリングとしてInvitrogen/Geneart(Thermo Fisher Scientific, Waltham, 米国; 配列番号16)から取り寄せた。
【0101】
例6:発現プラスミドpLIB_pBL1_AGAT-Mpのクローニング
大腸菌(E. coli)-C.グルタミクム(C. glutamicum)シャトルプラスミドpLIB_pBL1は、pBL1由来の複製起点、pSC101複製起点、カナマイシン耐性遺伝子およびNotI制限部位の下流のBioBricks Terminator BBa_B1006を有する(配列番号17)。これを、制限エンドヌクレアーゼNotIを用いて消化し、DNAを、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0102】
プライマーAGAT_f(配列番号18)およびAGAT_r(配列番号19)を用いて、鋳型としてpMA-RQ_AGAT_Mp_optでPCRによりDNA断片を増幅した。PCR産物を、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0103】
線状化プラスミド、DNAストリングを含むプロモーターおよびPCR産物を、「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc., Ipswich, 米国, Cat. No. E5520)を用いて組み立てた。組み立て産物を、「NEB Stable Competent E. coli (High Efficiency)」(New England Biolabs, Ipswich, 米国)内へ形質転換し、細胞を、カナマイシン25mg/lを含むLB寒天上で増殖させた。適切なプラスミドクローンを、制限消化およびDNA配列決定により同定した。得られたプラスミドを、pLIB_pBL1_AGAT-Mpと名付けた。
【0104】
例7:強力な構成性プロモーターPg3の制御下でのアルギニン生合成遺伝子argF、argG、argHの染色体発現
ArgF、ArgGおよびArgHの活性を高めるために、対応する遺伝子の付加的コピーをゲノム内へ挿入した。Pg3、argF、argG、argHおよびゲノム統合のためのフランキング領域からなる合成オペロンを設計した(配列番号20)。
【0105】
DNA配列は、遺伝子合成用にInvitrogen/Geneart(Thermo Fisher Scientific, Waltham, 米国)から取り寄せ、これは、アンピシリン耐性遺伝子を有するクローニングプラスミド(pMA-RQ_argFGH)と表される)の一部として配達された。
【0106】
プライマーargFGH_f(配列番号21)およびargFGH_r(配列番号22)を用いて、鋳型としてpMA-RQ_argFGHでPCRによりDNA断片を増幅した。PCR産物を、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて精製した。
【0107】
プラスミドpK18mobsacB(Schaefer, A. et al., Gene. 1994 Jul 22;145(1):69-73. doi: 10.1016/0378-1119(94)90324-7)を、EcoRI+HindIIIを用いて切断し、線状化ベクターDNA(5670bps)をアガロースゲルから切り出した。DNAを、「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH, Hilden, ドイツ)を用いて抽出した。
【0108】
線状化プラスミドおよびPCR産物を、「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc., Ipswich, 米国, Cat. No. E5520)を用いて組み立てた。組み立て産物を、「NEB Stable Competent E. coli (High Efficiency)」(New England Biolabs, Ipswich, 米国)内へ形質転換し、細胞を、カナマイシン25mg/lを含むLB寒天上で増殖させた。適切なプラスミドクローンを、制限消化およびDNA配列決定により同定した。得られたプラスミドを、pK18_IBcg0054::Pg3-argFGH(配列番号23)と名付けた。
【0109】
合成オペロンを挿入するため、pK18_IBcg0054::Pg3-argFGHを、エレクトロポレーションによりATCC13032_DargR内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、PCRおよびDNA配列決定により検査した。得られた株を、ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGHと名付けた。
【0110】
例8:ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH中の遺伝子lysEおよびlysGの染色体欠失。
遺伝子lysEは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)中のL-リシン、L-アルギニンおよびL-シトルリンの外向きフラックスを触媒するエクスポータータンパク質をコードする。lysEの発現は、lysGの遺伝子産物によりポジティブに制御される。両方の遺伝子は、互いに隣り合って位置しているが、発散的に転写される。遺伝子lysEおよびlysG遺伝子を欠失させるために、pK19mobsacB_DlysEG(例1参照)を、エレクトロポレーションによりATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。
【0111】
個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、PCRおよびDNA配列決定により検査した。得られた株を、ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH_DlysEGと名付けた。
【0112】
例9:ATCC21831_DlysEG中の遺伝子lysEおよびlysGの染色体欠失。
遺伝子lysEは、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)中のL-リシン、L-アルギニンおよびL-シトルリンの外向きフラックスを触媒するエクスポータータンパク質をコードする。lysEの発現は、lysGの遺伝子産物によりポジティブに制御される。両方の遺伝子は、互いに隣り合って位置しているが、発散的に転写される。遺伝子lysEおよびlysG遺伝子を欠失させるために、pK19mobsacB_DlysEG(例1参照)を、エレクトロポレーションによりATCC21831_DlysEG内へ形質転換した。染色体統合(第1の組換えイベントから生じる)を、ソルビトール134g/l、酵母抽出物2.5g/lおよびカナマイシン25mg/lを補充したBHI寒天上で平板培養することにより選択した。寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。
【0113】
個々のコロニーを、新たな寒天プレート(カナマイシン25mg/lを有する)上に移し、33℃で24hインキュベートした。これらのクローンの液体培養を、3つのバッフルを備えた100ml三角フラスコ中に装入されたBHI培地10ml中で33℃で24h培養した。第2の組換えイベントを受けたクローンを単離するために、アリコートを各液体培養から採取し、適切に希釈し、10%サッカロースを補充したBHI寒天上で平板培養した(典型的には100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48hインキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で増殖するコロニーを、カナマイシン感受性について試験した。このため、爪楊枝を使用してコロニーから細胞材料を取り出し、これをカナマイシン25mg/lを含むBHI寒天上および10%サッカロースを含むBHI寒天上に移した。これらの寒天プレートを33℃で60hインキュベートした。カナマイシンに敏感でかつサッカロースに耐性のあることが判明したクローンを、PCRにより検査した。得られた株を、ATCC21831_DlysEGと名付けた。
【0114】
例10:pLIB_pBL1_AGAT-MPを用いたC.グルタミクム(C. glutamicum)株の形質転換
C.グルタミクム(C. glutamicum)の以下の株を、エレクトロポレーションによりpLIB_pBL1_AGAT-Mpで形質転換し、プラスミド含有細胞をカナマイシン25mg/lで選択した。得られたプラスミド含有株を表に示す。
【表7】
【0115】
・ C.グルタミクム(C. glutamicum)ATCC13032:一般的に使用される野生型株(Kinoshita et al., J. Gen. Appl. Microbiol. 1957; 3(3): 193-205)
・ ATCC13032_DargR_Psod-carAB:ArgRレギュレータータンパク質の活性の低減およびATCC13032中のcarABの上流の強力なsodプロモーターの組み込みによるL-アルギニン産生能力の増加。
・ ATCC13032_DargR_Psod-carAB_DlysEG:ArgRレギュレータータンパク質の活性の低減およびATCC13032中のcarABの上流の強力なsodプロモーターの組み込みによるL-アルギニン産生能力の増加。L-アルギニンの排出輸送活性の低減。
・ ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH:ArgRレギュレータータンパク質の活性の低減およびATCC13032中の強力なプロモーターPg3の制御下でargFGH発現カセットのゲノム組み込みによるL-アルギニン産生能力の増加。
・ ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH_DlysEG:ArgRレギュレータータンパク質の活性の低減およびATCC13032中の強力なプロモーターPg3の制御下でargFGH発現カセットのゲノム組み込みによるL-アルギニン産生能力の増加。L-アルギニンの排出輸送活性の低減。
・ C.グルタミクム(C. glutamicum)株ATCC21831(Park et al., Nat Commun. 2014 Aug 5; 5:4618)は、アンモニアおよびグルコースのような一次基質からL-アルギニンを合成する。C.グルタミクム(C. glutamicum)株ATCC21831_DlysEG(Park et al., Nat Commun. 2014 Aug 5; 5:4618)は、アンモニアおよびグルコースのような一次基質からL-アルギニンを合成する。L-アルギニンの排出輸送活性の低減。
【0116】
例11:L-アルギニン産生能力の増加とアルギニン排出輸送の低減のGAA産生に及ぼす影響
L-アルギニン産生能力の増加およびL-アルギニン排出輸送の低減のGAA産生に及ぼす複合的影響を評価するために、株ATCC13032、ATCC13032/pLIB_pBL1、ATCC13032/pLIB_pBL1_AGAT-Mp、ATCC13032_DargR_Psod-carAB/pLIB_pBL1_AGAT-Mp、ATCC13032_DargR_Psod-carAB_DlysEG/pLIB_pBL1_AGAT-Mp、ATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH/pLIB_pBL1_AGAT-MpおよびATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH_DlysEG/pLIB_pBL1_AGAT-Mpを産生培地中でWouter Duetz系中で培養し、得られたGAA力価を決定した。
【表8】
【0117】
表に示すように、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のAGATをコードするポリヌクレオチドを有し、欠失されたargR遺伝子を有し、carABまたはargFGH遺伝子の発現が増加させられたATCC13032_DargR_Psod-carAB/pLIB_pBL1_AGAT-MpおよびATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH/pLIB_pBL1_AGAT-Mpは、それぞれGAA2.2g/lまたは1.7g/lを産生する。
【0118】
株ATCC13032_DargR_Psod-carAB_DlysEG/pLIB_pBL1_AGAT-MpおよびATCC13032_DargR_IBcg0054::Pg3-argFGH_DlysEG/pLIB_pBL1_AGAT-Mpも、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のAGATをコードするポリヌクレオチドを有し、欠失されたargR遺伝子を有し、carABまたはargFGH遺伝子の発現を増加させる。さらに、遺伝子lysEGは、不活性化され、これらは、L-アルギニン排出輸送活性を低減する。これらの株は、それぞれGAA2.3g/lおよび1.9g/lを産生し、これらは、低減されたL-アルギニン排出輸送なしの株と比較して改善されている。発明者は、酵素AGAT活性と、L-アルギニン産生活性の増加と、L-アルギニン排出輸送の低減との組合せが、GAA産生を改善すると結論づけた。
【0119】
例12:L-アルギニン産生能力の増加とアルギニン排出輸送の低減の、L-アルギニン産生株ATCC21831を用いるGAA産生に及ぼす影響。
L-アルギニン産生能力の増加およびL-アルギニン排出輸送の低減のGAA産生に及ぼす複合的影響を評価するために、株ATCC21831、ATCC21831/pLIB_pBL1およびATCC21831/pLIB_pBL1_AGAT-Mpを産生培地中でWouter Duetz系中で培養し、得られたGAA力価を決定した。
【表9】
【0120】
表9に示すように、ATCC21831、ATCC21831/pLIB_pBL1およびATCC21831_DlysEG/pLIB_pBL1は、GAAを産生することはできない。
【0121】
株ATCC21831/pLIB_pBL1_AGAT-Mpも、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のAGATをコードするポリヌクレオチドを有し、GAA5.0g/lを産生する。さらに、表8に示すように、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のAGATをコードするポリヌクレオチドを有するが、付加的L-アルギニンを供給することができない株ATCC13032/pLIB_pBL1_AGAT-Mpは、GAA1.1g/Lしか産生しない。
【0122】
株ATCC21831_DlysEG/pLIB_pBL1_AGAT-Mpも、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)由来のAGATをコードするポリヌクレオチドを有するが、付加的に遺伝子lysEGは、その株内で不活性化されていて、低減されたL-アルギニン排出輸送活性を有する。この株は、GAA5.6g/lを産生し、これは、低減されたL-アルギニン排出輸送なしの株と比較して改善されている。
【0123】
発明者は、酵素AGAT活性と、L-アルギニンを提供する能力の増加と、L-アルギニン排出輸送の低減との組合せが、GAA産生を改善すると結論づけた。
【0124】
配列の概要:
配列番号1:Vrljic et. al 1996(Vrljic, M., et al. (1996). 「A new type of transporter with a new type of cellular function: L-lysine export from Corynebacterium glutamicum.」 Mol Microbiol 22(5): 815-826)に記載されたように組み立てられたプラスミドpK19mobsacB-DlysEGをコードするDNA配列を示す。
配列番号2:プライマーDargR_lfをコードするDNA配列を示す。
配列番号3:プライマーDargR_lrをコードするDNA配列を示す。
配列番号4:プラスミドDargR_rfをコードするDNA配列を示す。
配列番号5:プライマーDargR_rrをコードするDNA配列を示す。
配列番号6:プライマーPsodcarAB-LA-FをコードするDNA配列を示す。
配列番号7:プライマーPsodcarAB-LA-RをコードするDNA配列を示す。
配列番号8:プライマーPsodcarAB-FをコードするDNA配列を示す。
配列番号9:プライマーPsodcarAB-RをコードするDNA配列を示す。
配列番号10:プライマーPsodcarAB-RA-FをコードするDNA配列を示す。
配列番号11:プライマーPsodcarAB-RA-RをコードするDNA配列を示す。
配列番号12:Lアルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT, EC 2.1.4.1; locus_tag BJP34_00300)をコードするオープンリーディングフレームを示す。
配列番号13:配列番号12から誘導されたアミノ酸配列(Genbank受け入れ番号WP_070390602)を示す。
配列番号14:C.グルタミクム(C. glutamicum)のコドン使用頻度について最適化されたモオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)(AGAT, EC 2.1.4.1)由来のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼをコードするDNA配列を示す。
配列番号15:5’末端にBsmBI制限部位で拡張された塩基対13~1142からなる断片を有する、配列番号14から誘導されたC.グルタミクム(C. glutamicum)のコドン使用頻度が最適化されたモオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)(AGAT, EC 2.1.4.1)由来のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼをコードするDNA配列を示す。さらに、3’末端に第2の停止コドン、C.グルタミクム(C. glutamicum)由来のlysSターミネーターおよびBsmBI制限部位が付加された。
配列番号16:アッセンブリクローニング用の配列、プロモーター配列、リボソーム結合部位および最適化されたAGAT-Mp遺伝子の最初の81のヌクレオチドからなるDNA断片。
配列番号17:pBL1由来の複製起点、pSC101複製起点、カナマイシン耐性遺伝子およびNotI制限部位の下流のBioBricks Terminator BBa_B1006を有する、シャトルプラスミドpLIB_pBL1のDNA配列を示す。
配列番号18:プライマーAGAT_fのDNA配列を示す。
配列番号19:プライマーAGAT_rのDNA配列を示す。
配列番号20:プロモーターPg3-argFGHのDNA配列を示す。
配列番号21:プライマーargFGH_fのDNA配列を示す。
配列番号22:プライマーargFGH_rのDNA配列を示す。
配列番号23:プラスミドpK18_IBcg0054::Pg3-argFGHのDNA配列を示す。
【配列表】
【国際調査報告】