(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】発酵飲料におけるガンマ-デカラクトン生合成のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240426BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20240426BHJP
C12G 1/022 20060101ALI20240426BHJP
C12G 3/02 20190101ALI20240426BHJP
C12C 7/04 20060101ALI20240426BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240426BHJP
C12P 7/06 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/62
C12G1/022
C12G3/02
C12C7/04
C12N15/09 Z
C12P7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571905
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2022030364
(87)【国際公開番号】W WO2022246270
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523178330
【氏名又は名称】バークレー ファーメンテイション サイエンス インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】BERKELEY FERMENTATION SCIENCE INC.
【住所又は居所原語表記】2451 Peralta Street,Oakland,CA 94607,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】デンビー,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ループ,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】スタドゥリス,サラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B064AC03
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4B115NP01
4B128AC01
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4B128AS18
(57)【要約】
本明細書に提供されるのは、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼなどの脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)酵素をコードする遺伝子を組換えで発現し、かつにおい閾値を上回るγ-デカラクトンレベルを産生する、遺伝子学的に修飾された酵母細胞である。本明細書に提供されるものにはまた、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)酵素をコードする遺伝子と、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)酵素、調節解除された転写因子、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)酵素などの1以上の追加の遺伝子とを組換えで発現する、遺伝子学的に修飾された酵母細胞もある。また提供されるものには、発酵飲料およびエタノールを含む組成物を、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞を使用して産生する方法もある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子
を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)であって、
ここで修飾された細胞が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない同等の細胞によって産生されたγ-デカラクトンのレベルと比較して、増大したレベルのγ-デカラクトンを有する発酵産物を、脂肪酸の補充がない中で産生することが可能である、前記細胞。
【請求項2】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子
を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)であって、
ここで修飾された細胞が、35μg/Lより大きいレベルのγ-デカラクトンを有する発酵産物を、脂肪酸の補充がない中で産生することが可能である、前記細胞。
【請求項3】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素が、Claviceps purpurea、Lesquerella fendleri、Hiptage benghalensis、Physaria lindheimeri、またはRicinus communisからのものである、請求項1または2に記載の修飾された細胞。
【請求項4】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素が、配列番号6または20~23のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項3に記載の修飾された細胞。
【請求項5】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素が、配列番号6または20~23のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の修飾された細胞。
【請求項6】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素が、配列番号6で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項7】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素が、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の修飾された細胞。
【請求項8】
調節解除されていない同等の転写因子と比較して、ペルオキシソームのサイズおよび数を増大させかつベータ酸化を増加させる調節解除された転写因子をコードする遺伝子をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項9】
調節解除された転写因子が、ADR1、PIP2、OAF1、またはOAF3である、請求項8に記載の修飾された細胞。
【請求項10】
調節解除された転写因子が、ADR1であり、かつセリンの置換変異を位置230にて含む、請求項9に記載の修飾された細胞。
【請求項11】
調節解除された転写因子が、配列番号24で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項9または10に記載の修飾された細胞。
【請求項12】
調節解除された転写因子が、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む、請求項11に記載の修飾された細胞。
【請求項13】
調節解除された転写因子をコードする遺伝子が、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている、請求項8~12のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項14】
アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項15】
OLE1活性を有する酵素が、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、請求項14に記載の修飾された細胞。
【請求項16】
OLE1活性を有する酵素が、配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項14または15に記載の修飾された細胞。
【請求項17】
OLE1活性を有する酵素が、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の修飾された細胞。
【請求項18】
アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子が、OLE1活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子のコピーである、請求項14~17のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項19】
AAT活性を有する酵素が、Prunus persica、Fragaria x ananassa、Solanum lycopersicum、Malus domestica、またはCucumis meloからのものである、請求項14~18のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項20】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項19に記載の修飾された細胞。
【請求項21】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の修飾された細胞。
【請求項22】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている、請求項1~21のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項23】
調節解除された転写因子をコードする遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする遺伝子が、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている、請求項8~22のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項24】
酵母細胞が、属Saccharomycesから成る、請求項1~23のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項25】
酵母細胞が、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る、請求項24に記載の修飾された細胞。
【請求項26】
酵母細胞が、S.cerevisiae California Ale Yeast株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである、請求項25に記載の修飾された細胞。
【請求項27】
酵母細胞が、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る、請求項24に記載の修飾された細胞。
【請求項28】
修飾された細胞の成長速度が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない、請求項1~27のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項29】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる、請求項1~28のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項30】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減させる、請求項29に記載の修飾された細胞。
【請求項31】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、嫌気条件下または半嫌気条件下で、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる、請求項1~30のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項32】
2以上の遺伝子を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)であって、ここで2以上の遺伝子が、
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、
脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子、および
アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子
からなる群から選択される、前記修飾された細胞。
【請求項33】
2以上の遺伝子が、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、および脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子を含む、請求項32に記載の修飾された細胞。
【請求項34】
2以上の遺伝子が、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む、請求項32に記載の修飾された細胞。
【請求項35】
2以上の遺伝子が、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む、請求項32に記載の修飾された細胞。
【請求項36】
2以上の遺伝子が、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む、請求項32に記載の修飾された細胞。
【請求項37】
AAT活性を有する酵素が、Prunus persica、Fragaria x ananassa、Solanum lycopersicum、Malus domestica、またはCucumis meloに由来する、請求項32~34または36のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項38】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項32~34、36または37のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項39】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む、請求項38に記載の修飾された細胞。
【請求項40】
AAT活性を有する酵素が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む、請求項39に記載の修飾された細胞。
【請求項41】
FAH活性を有する酵素が、Claviceps purpureaに由来する、請求項32、33または35~40のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項42】
FAH活性を有する酵素が、配列番号6または20~23で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項32、33または35~41のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項43】
FAH活性を有する酵素が、配列番号6または20~23で表されるアミノ酸配列を含む、請求項42に記載の修飾された細胞。
【請求項44】
OLE1活性を有する酵素が、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、請求項32または34~43のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項45】
OLE1活性を有する酵素が、配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項32または34~44のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項46】
OLE1活性を有する酵素が、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む、請求項45に記載の修飾された細胞。
【請求項47】
アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子が、OLE1活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子のコピーである、請求項32または34~46のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項48】
遺伝子の各々が、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、およびpHSP26からなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている、請求項32~47のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項49】
遺伝子の少なくとも1つが、酵素へ連結された局在化シグナルをコードする、請求項32~48のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項50】
AAT活性を有する酵素が、局在化シグナルを含む、請求項49に記載の修飾された細胞。
【請求項51】
局在化シグナルが、ペルオキシソームを標的にするシグナルである、請求項50に記載の修飾された細胞。
【請求項52】
酵母細胞が、属Saccharomycesから成る、請求項32~51のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項53】
酵母細胞が、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る、請求項52に記載の修飾された細胞。
【請求項54】
酵母細胞が、S.cerevisiae California Ale Yeast株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである、請求項53に記載の修飾された細胞。
【請求項55】
酵母細胞が、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る、請求項52に記載の修飾された細胞。
【請求項56】
修飾された細胞の成長速度が、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および第3の遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない、請求項32~55のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項57】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および/または第3の遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる、請求項56に記載の修飾された細胞。
【請求項58】
発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減させる、請求項57に記載の修飾された細胞。
【請求項59】
発酵開始から1月以内に、修飾された酵母細胞が、嫌気条件下または半嫌気条件下で、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および第3の異種遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる、請求項32~58のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項60】
ペルオキシソームのサイズおよび数を増大させかつベータ酸化を増加させる調節解除された転写因子をさらに含む、請求項32~59のいずれか一項に記載の修飾された細胞。
【請求項61】
調節解除された転写因子が、ADR1、PIP2、OAF1、またはOAF3である、請求項60に記載の修飾された細胞。
【請求項62】
調節解除された転写因子が、ADR1であり、かつセリンの置換変異を位置230にて含む、請求項61に記載の修飾された細胞。
【請求項63】
請求項1~62のいずれか一項に記載の修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させること
を含む、発酵産物を産生する方法であって、
ここで接触させることが、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、発酵産物が産生される、前記方法。
【請求項64】
培地が、補充された脂肪酸を含んでいない、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
培地が、補充されたオレイン酸および/またはリシンオレイン酸を含んでいない、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
少なくとも1つの発酵性糖が、少なくとも1つの糖源において提供される、請求項63~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
発酵性糖が、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである、請求項63~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
発酵産物が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、増大したレベルの少なくとも1つの所望される産物を含む、請求項63~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
所望される産物が、γ-デカラクトンである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
発酵産物が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、低減したレベルの少なくとも1つの望ましくない産物を含む、請求項63~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
少なくとも1つの望ましくない産物が、酢酸エチルである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
発酵産物が、発酵飲料である、請求項63~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
発酵飲料が、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、コンブチャ、または林檎酒である、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
糖源が、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項63~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
糖源が、第1の発酵プロセスに先立ち、予め酸素が含まされる、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
第1の発酵プロセスが、通気をある期間含む、請求項63~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
その期間が、少なくとも3時間である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
果汁が、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である、請求項74~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
糖源が、麦芽汁であり、ならびに
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、
(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに
(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生すること
を含む、請求項74~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む、請求項79または80に記載の方法。
【請求項82】
糖源が、果醪であり、および
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、
複数の果実を圧搾することで果醪を産生すること
を含む、請求項74~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
固体果実材料を果醪から除去することで果汁を産生することをさらに含む、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む、請求項63~83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
発酵産物に炭酸ガスをいれることをさらに含む、請求項63~84のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
請求項63~85のいずれか一項に記載の方法によって産生された、得られた、または得ることができる、発酵産物。
【請求項87】
エタノールを含む組成物を産生する方法であって、方法が、
請求項1~62のいずれか一項に記載の修飾された細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させること
を含み、ここで接触させることが、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、エタノールを含む組成物が産生される、前記方法。
【請求項88】
少なくとも1つの発酵性糖が、少なくとも1つの糖源において提供される、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
発酵性糖が、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである、請求項87または88に記載の方法。
【請求項90】
前記エタノールを含む組成物が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞またはオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、増大したレベルの少なくとも1つの所望される産物を含む、請求項87~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
所望される産物が、γ-デカラクトンである、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記エタノールを含む組成物が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞またはオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、低減したレベルの少なくとも1つの望ましくない産物を含む、請求項87~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
少なくとも1つの望ましくない産物が、酢酸エチルである、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記エタノールを含む組成物が、発酵飲料である、請求項87~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
発酵飲料が、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、コンブチャ、または林檎酒である、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
糖源が、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項88~95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
果汁が、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
糖源が、麦芽汁であり、ならびに
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、
(a)複数の穀物を水と接触させること;および
(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生すること
を含む、請求項96に記載の方法。
【請求項99】
少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む、請求項87~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
糖源が、果醪であり、および
方法が、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することが、
複数の果実を圧搾することで果醪を産生すること
を含む、請求項96に記載の方法。
【請求項102】
固体果実材料を果醪から除去することで果汁を産生することをさらに含む、請求項101に記載の方法。
【請求項103】
少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む、請求項87~102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
発酵産物に炭酸ガスをいれることをさらに含む、請求項87~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
請求項87~104のいずれか一項に記載の方法によって産生された、得られた、または得ることができる、エタノールを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年5月20日出願の米国仮出願第63/190,954号の35 U.S.C.§119(e)の下で利益を主張するものであり、これはその全体が本明細書に組み込まれる(incorporated)。
【0002】
EFS-WEBを介しテキストファイルとして提出された配列表への参照
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含有し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。2022年5月20日に作成された該ASCIIコピーは、B150970002WO00-SEQ-CEW.txtと名付けられ、サイズが68,582バイトである。
【背景技術】
【0003】
背景
モモ、ネクタリン、およびアンズなどの核果フレーバーは、ビール、ワイン、および蒸留酒の産業において極めて所望されている。ワイン産業において、アンズおよびモモのノート(notes)は一般的に、白ワインのバライエタル(varietals)、とくにシャルドネに関連し(Siebert,et al.,J.Agric.Food Chem.(2018)66:2838-2850; Gambatta,et al.,J.Agric.Food Chem.(2014)62:6512-6534; Lorrain,et al.,J.Agric.Food Chem.(2006)54:3973-3981; Lee,et al.,J.Agric.Food Chem.(2003)51:8036-8044; Siebert,et al.,Food Chem.(2018)256:286-296)、これらはいずれかのワインスタイルの中で最大の市場シェアを占める(Ecker (2019)。ビール産業において、モモフレーバーは、ドライホップが多用された(heavily dry-hopped)フルーティなビールにおいて見出され得(Hotchko(2014); Holt,et al.,FEMS Microbiol.Rev.(2019)43:193-222)、これらは過去10年にわたり益々人気を博している(Watson(2018)。モルトウイスキーの文脈においては、ラクトンは、人気および品質に対する認識を高める、甘くフルーティな芳香に寄与する(Wanikawa,et al.,Journal of the Institute of Brewing(2000)106:39-44; Wanikawa,et al.,Journal of the American Society of Brewing Chemists(2000)58:51-56)。
【0004】
ビール、ワイン、および蒸留酒に存在する核果フレーバーは主として、様々な濃度で存在するC6-C12ラクトン分子によって付与される。これらラクトンの中でも、γ-デカラクトン(ガンマ-デカラクトン)は、核果芳香へ寄与する(Wanikawa,et al.,Journal of the Institute of Brewing(2000)106:39-44; Holt,et al.,FEMS Microbiol.Rev.(2019)43:193-222;Perez-Olivero,et al.,J.Anal.Methods Chem.(2014)863019; Poisson,et al.,J.Agric.Food Chem.(2008)56:5813-5819; Wanikawa,et al.,Journal of the Institute of Brewing.(2001)107:253-259)。単離されると、γ-デカラクトンは、強いモモの芳香および味覚を付与する。他のラクトンとテルペンおよびエステルといった追加のフレーバー分子と組み合わせると、γ-デカラクトンは、核果および他のフルーティなフレーバーの複雑さを増強する(Hotchko,et al.,J.Am.Soc.Brew.Chem.(2017)75:27-34)。
【発明の概要】
【0005】
概要
本開示は、γ-デカラクトン(ガンマ-デカラクトン)を生合成することが可能な遺伝子学的に修飾された酵母細胞、ならびにビール、ワイン、および蒸留酒などの発酵飲料を産生することにおけるその使用の方法、ならびにエタノールを含む組成物に、少なくとも一部は関する。
本開示の側面は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)に関する;ここで修飾された細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない同等の細胞によって産生されたγ-デカラクトンのレベルと比較して、増大したレベルのγ-デカラクトンを有する発酵産物を、脂肪酸の補充がない中で産生することが可能である。
【0006】
本開示の側面は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)に関する;ここで修飾された細胞は、35μg/Lより大きいレベルのγ-デカラクトンを有する発酵産物を、脂肪酸の補充がない中で産生することが可能である。
【0007】
いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Claviceps purpurea、Lesquerella fendleri、Hiptage benghalensis、Physaria lindheimeri、またはRicinus communisからのものである。いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、配列番号6または20~23のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、配列番号6または20~23のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、配列番号6で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、調節解除されていない同等の転写因子と比較して、ペルオキシソームのサイズおよび数を増大させかつベータ酸化を増加させる調節解除された転写因子をコードする遺伝子をさらに含む。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、ADR1、PIP2、OAF1、またはOAF3である。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、ADR1であり、かつセリンの置換変異を位置230にて含む。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、配列番号24で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの態様において、調節解除された転写因子をコードする遺伝子は、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に(operably)連結されている。
【0010】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子をさらに含む。いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、Saccharomyces cerevisiaeに由来する。いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子は、OLE1活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子のコピーである。
【0011】
いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、Prunus persica、Fragaria x ananassa、Solanum lycopersicum、Malus domestica、またはCucumis meloからのものである。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの態様において、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている。
【0013】
いくつかの態様において、調節解除された転写因子をコードする遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする遺伝子は、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、pHSP26、およびpRPL18bからなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている。
【0014】
いくつかの態様において、酵母細胞は、属Saccharomycesから成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、S.cerevisiae California Ale Yeast株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る。いくつかの態様において、修飾された細胞の成長速度は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含んでいない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない。
【0015】
いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減させる。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、嫌気条件下または半嫌気(semi-anaerobic)条件下で、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる。
【0016】
本開示の側面は、2以上の遺伝子を含む、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)に関し、ここで2以上の遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される。いくつかの態様において、修飾された細胞の2以上の遺伝子は、AAT活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子およびFAH活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子を含む。いくつかの態様において、修飾された細胞の2以上の遺伝子は、FAH活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子およびOLE1活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む。いくつかの態様において、修飾された細胞の2以上の遺伝子は、AAT活性を有する酵素をコードする第1の異種遺伝子、FAH活性を有する酵素をコードする第2の異種遺伝子、およびOLE1活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む。
【0017】
いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、Prunus persica、Fragaria x ananassa、Solanum lycopersicum、Malus domestica、またはCucumis meloに由来する。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの態様において、FAH活性を有する酵素は、Claviceps purpureaに由来する。いくつかの態様において、FAH活性を有する酵素は、配列番号6または20~23で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、FAH活性を有する酵素は、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、Saccharomyces cerevisiaeに由来する。いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。いくつかの態様において、OLE1活性を有する酵素は、配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子は、OLE1活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子のコピーである。
【0020】
いくつかの態様において、遺伝子の各々は、pHEM13、pSPG1、pPRB1、pQCR10、pPGK1、pOLE1、pERG25、pHHF2、pTDH1、pTDH2、pTDH3、pENO2、およびpHSP26からなる群から選択されるプロモーターへ作動可能に連結されている。いくつかの態様において、遺伝子の少なくとも1つは、酵素へ連結された局在化シグナルをコードする。いくつかの態様において、AAT活性を有する酵素は、局在化シグナルを含む。いくつかの態様において、局在化シグナルは、ペルオキシソームを標的にするシグナルである。
【0021】
いくつかの態様において、酵母細胞は、属Saccharomycesから成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)から成る。いくつかの態様において、酵母細胞は、S.cerevisiae California Ale Yeast株WLP001、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、またはEpernay IIである。いくつかの態様において、酵母細胞は、種Saccharomyces pastorianus(S.pastorianus)から成る。
【0022】
いくつかの態様において、修飾された細胞の成長速度は、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および第3の遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて、実質的に損なわれていない。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および/または第3の遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞が、培地中の発酵性糖の量を少なくとも95%まで低減させる。いくつかの態様において、発酵開始から1月以内に、修飾された細胞は、嫌気条件下または半嫌気条件下で、第1の異種遺伝子、第2の異種遺伝子、および第3の遺伝子を含まない野生型酵母細胞によって発酵された量に匹敵する量の発酵性糖を発酵させる。
【0023】
いくつかの態様において、修飾された細胞は、ペルオキシソームのサイズおよび数を増大させかつベータ酸化を増加させる調節解除された転写因子をさらに含む。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、ADR1、PIP2、OAF1、またはOAF3である。いくつかの態様において、調節解除された転写因子は、ADR1であり、かつセリンの置換変異を位置230にて含む。
【0024】
本開示の側面は、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることを含む、発酵産物を産生する方法に関し、ここで接触させることは、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、発酵産物が産生される。いくつかの態様において、培地は、補充された脂肪酸を含んでいない。いくつかの態様において、培地は、補充されたオレイン酸および/またはリシンオレイン酸を含んでいない。
【0025】
いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖は、少なくとも1つの糖源において提供される。いくつかの態様において、発酵性糖は、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである。いくつかの態様において、発酵産物は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、増大したレベルの少なくとも1つの所望される産物を含む。いくつかの態様において、所望される産物は、γ-デカラクトンである。いくつかの態様において、発酵産物は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞によって産生された発酵産物と比較して、低減したレベルの少なくとも1つの望ましくない産物を含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの望ましくない産物は、酢酸エチルである。
【0026】
いくつかの態様において、発酵産物は、発酵飲料である。いくつかの態様において、発酵飲料は、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、コンブチャ、または林檎酒である。いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、糖源は、第1の発酵プロセスに先立ち、予め酸素が含まされる(pre-oxygenated)。いくつかの態様において、第1の発酵プロセスは、通気をある期間含む。いくつかの態様において、その期間は、少なくとも3時間である。
【0027】
いくつかの態様において、果汁は、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である。
【0028】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁であり、ならびに方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することは、(a)複数の穀物を水と接触させること;ならびに(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた(hopped)麦芽汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む。
【0029】
いくつかの態様において、糖源は、果醪であり、および方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することは、複数の果実を圧搾することで果醪を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、固体果実材料を果醪から除去することで果汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、発酵産物に炭酸ガスをいれること(carbonating)をさらに含む。
【0030】
本開示の側面は、本明細書に記載の方法のいずれかによって産生された、得られた、または得ることができる、発酵産物に関する。
本開示の側面は、エタノールを含む組成物を産生する方法に関し、方法は、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることを含み、ここでかかる接触させることは、少なくとも第1の発酵プロセスの最中に実施されることで、エタノールを含む組成物が産生される。
【0031】
いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖は、少なくとも1つの糖源において提供される。いくつかの態様において、発酵性糖は、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、および/またはマルトトリオースである。いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞またはオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、増大したレベルの少なくとも1つの所望される産物を含む。いくつかの態様において、所望される産物は、γ-デカラクトンである。
【0032】
いくつかの態様において、前記エタノールを含む組成物は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現しない同等の細胞またはオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する野生型酵素を発現する同等の細胞によって産生されたエタノールを含む組成物と比較して、低減したレベルの少なくとも1つの望ましくない産物を含む。
【0033】
いくつかの態様において、エタノールを含む組成物は、発酵飲料である。いくつかの態様において、発酵飲料は、ビール、ワイン、スパークリングワイン(シャンパン)、ワインクーラー、ワインスプリッツァー、ハードセルツァー、日本酒、蜂蜜酒、コンブチャ、または林檎酒である。
いくつかの態様において、糖源は、第1の発酵プロセスに先立ち、予め酸素が含まされる。いくつかの態様において、第1の発酵プロセスは、通気をある期間含む。いくつかの態様において、その期間は、少なくとも3時間である。
【0034】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁、果醪、果汁、蜂蜜、米デンプン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、果汁は、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツからなる群から選択される少なくとも1つの果実から得られる果汁である。
【0035】
いくつかの態様において、糖源は、麦芽汁であり、ならびに方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することは、(a)複数の穀物を水と接触させること;および(b)水および穀物を煮沸するかまたは浸すことで、麦芽汁を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を麦芽汁へ加えることで、ホップが効いた麦芽汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つのホップ品種を培地へ加えることをさらに含む。
【0036】
いくつかの態様において、糖源は、果醪であり、および方法は、培地を産生することをさらに含み、ここで培地を産生することは、複数の果実を圧搾することで果醪を産生することを含む。いくつかの態様において、方法は、固体果実材料を果醪から除去することで果汁を産生することをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスをさらに含む。いくつかの態様において、方法は、エタノールを含む組成物に炭酸ガスをいれることをさらに含む。
【0037】
本開示の側面は、本明細書に記載の方法のいずれかによって産生された、得られた、または得ることができる、エタノールを含む組成物に関する。
本発明の1以上の態様の詳細は、下の記載で表される。本発明の他の特色または利点は、以下の図面および数種の態様の詳細な記載から、また添付のクレームからも、明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図面の簡単な記載
添付の図面は、縮尺どおりに描画されることを意図しない。図面中、様々な図中に説明されている同一のまたは大体同一の各構成要素は、同じ数字によって表される。明確さを目的として、すべての構成要素がすべての図面において標識されているとは限らない。図面中:
【
図1】
図1は、発酵飲料の産生における4-ヒドロキシデカン酸から(例えば、ブドウ/大麦から)のγ-デカラクトンの自発的合成または酵素触媒による合成を示す概略図である。
【0039】
【
図2】
図2は、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞におけるγ-デカラクトン生合成の生化学的経路を示す概略図を示す。
【
図3】
図3は、改変されたワイン酵母株によって24時間の好気成長後に産生されたγ-デカラクトンの濃度(μg/L)を示す。親のSaccharomyces cerevisiae Elegance株を、PGK1プロモーターの制御下で指し示される異種のオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ酵素を発現するよう改変した。株は、CpFAHを発現するS.cerevisiae(y1094)、HbFAHを発現するS.cerevisiae(y1330)、PlFAHを発現するS.cerevisiae(y1331)、RcFAHを発現するS.cerevisiae(y1332)、およびLFAH12を発現するS.cerevisiae(y1333)に対応する。破線は、ワイン中のγ-デカラクトンのにおい閾値(35μg/L)に対応する。
【0040】
【
図4】
図4は、24時間の好気成長後の、改変されたビール酵母S.cerevisiae California Ale WLP001(WLP001)またはワイン酵母S.cerevisiae Elegance株によって産生されたγ-デカラクトンの濃度(μg/L)を示す。親のビールおよびワイン酵母株を、PGK1プロモーターの制御下で指し示される異種のオレイン酸12-ヒドロキシラーゼ酵素を発現するよう改変した。株は、LFAH12を発現するS.cerevisiae WLP001(y465)、LFAH12を発現するS.cerevisiae Elegance(y1333)、CpFAHを発現するS.cerevisiae WLP001(y467)、およびCpFAHを発現するS.cerevisiae Elegance(y1094)に対応する。破線は、ワイン中のγ-デカラクトンのにおい閾値(35μg/L)に対応する。
【0041】
【
図5】
図5は、改変された酵母株によって24時間の好気成長後に産生されたγ-デカラクトンの濃度(μg/L)を示す。親のワイン酵母S.cerevisiae Elegance株を、指し示される異種の酵素を発現するよう改変した。株は、PGK1プロモーターの制御下でCpFAHを発現するS.cerevisiae(y1094);PGK1プロモーターの制御下でCpFAHを、かつENO2プロモーターの制御下でOLE1を発現するS.cerevisiae(y1070);およびPGK1プロモーターの制御下でCpFAHを、ENO2プロモーターの制御下でOLE1を、かつRPL18Bプロモーターの制御下でADR1(S230A)を発現するS.cerevisiae(y1341)に対応する。破線は、ワイン中のγ-デカラクトンのにおい閾値(35μg/L)に対応する。
【0042】
【
図6】
図6は、改変された酵母株によって、指し示された長さの通気、これに続く9日間の発酵後に産生されたγ-デカラクトンの濃度(μg/L)を示す。親のワイン酵母S.cerevisiae Elegance株を、TDH3プロモーターの制御下でCpFAHを、ENO2プロモーターの制御下でOLE1を、HSP26プロモーターの制御下でMpAAT1 N385D V62Aを、かつRPL18Bプロモーターの制御下でADR1(S230A)を発現するよう改変した(株y1185に対応する)。条件は、好気成長期間を指さない「嫌気発酵」;3時間の好気成長を指す「3時間通気」、および9日間の発酵に先立ち24時間の好気成長を指す「24時間通気」に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な記載
核果フレーバーは、発酵飲料市場において消費者に極めて所望されている。シャルドネワイン、および核果芳香のフレーバー付けするホップで産生されるビールの確固たる販売数でも分かるとおり、アンズおよびモモはとくに人気を博している。両果実と発酵飲料とにおけるこれらフレーバーの存在は、消費されたときに独特の味覚および芳香を集合的に付与する様々なフレーバー作用分子に起因する。1つのかかる分子γ-デカラクトンは、多くのフルーティな核果フレーバーへ寄与する。単離されると、γ-デカラクトンはモモとして知覚されるが、また多くの他の果実のフレーバーへも寄与する(Zhang,et al.,Plant Cell Rep.36,829-842(2017))。本明細書に記載の修飾された酵母細胞および方法は、ビールまたはワインの産生などのための発酵の最中に産生されるγ-デカラクトンの濃度を増大することを目的とする。Sporoidiobolus salmonicolor、Fusarium poae、およびAshbya gossypiiなどの数種の微生物は当然ながら、γ-デカラクトンを産生することが可能であるものの、これらの生物は、発酵飲料などの発酵産物の産生には使用されていない。
【0044】
ビール、ワイン、および蒸留酒に存在するγ-デカラクトンは、発酵の最中、ブドウおよび大麦に由来する4-ヒドロキシデカン酸の分子内エステル化を介して生じると考えられている(
図1)。この分子内エステル化、または「ラクトン化」は、6炭素アシル鎖へ結合した酸素含有ラクトン環の形成へ繋がる。発酵最中のラクトン化の生化学的な詳細は、十分に解明されていない。ラクトン化は、発酵の最中、自発的に生じ得るが、また酵母にコードされた酵素によっても触媒され得ると考えられている(例として、Romero-Guido,et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.(2011)89,535-547; Krzyczkowska,et al.,Fungal Metabolites(2017)89:461-498を見よ)。これら2つのモードのラクトン化の、発酵飲料中のγ-デカラクトンおよびラクトン一般の量に対する相対的な寄与は、知られていない。ラクトン産生が、脂肪酸前駆体の利用可能性によって、またはラクトン化反応自体の速度によってどの程度限定されるのかもまた、未知である。しかしながら、ビール、ワイン、および他の蒸留酒において産生されるラクトン分子の総濃度は低く、一般に1~6μg/Lの範囲内にあると一般的に理解されている(例として、Perez-Olivero,et al.,J.Anal.Methods Chem.(2014)863019; Langen,et al.Rapid Commun.Mass Spectrom.(2013)27,2751-2759を見よ)。この濃度はラクトンのヒト検出閾値を十分下回るところ、ラクトン(よって核果フレーバー)は、ほとんどの発酵飲料のフレーバープロファイル全体に対して相対的に小さい寄与でしかない(例として、Perez-Olivero,et al.,J.Anal.Methods Chem.(2014)863019; Cooke,et al.,J.Agric.Food Chem.(2009)57,2462-2467; Hotchko,et al.,J.Amer.Soc.of Brewing Chem.(2017)7527-34を見よ)。
【0045】
γ-デカラクトンを産生する経路は、植物と真菌種との両方によって産生される18炭素鎖長(C18)を含有するモノ不飽和脂肪酸であるオレイン酸から始まる(
図2)。第1のステップは、オレイン酸のC12位でのヒドロキシル化であって、リシンオレイン酸が産生される。次いでリシンオレイン酸はペルオキシソーム中へ移入されるが、ここでリシンオレイン酸は、C18炭化水素鎖の漸進的な短縮を通して細胞のアセチル-CoAを産生するプロセスであるベータ酸化を経ると考えられている(例として、Wache,et al.,Appl.and Environ.Microbiol.(2001)67:5700-5704を見よ)。ベータ酸化は、C18リシンオレイン酸分子を酸化して9つのアセチル-CoA分子を産生することが可能であるのに対し、γ-デカラクトン生合成に関係があるのは、4ラウンドのリシンオレイン酸のベータ酸化の後に放出されるC10代謝中間体である4-ヒドロキシデカン酸である。4-ヒドロキシデカン酸は、γ-デカラクトンに対する直接前駆体である。ベータ酸化からのその放出後、それはラクトン化されてγ-デカラクトンが産生され得る。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、植物および真菌において、ラクトン化はペルオキシソーム内で生じること、または4-ヒドロキシデカン酸はペルオキシソームの外へ輸送されて細胞質中でラクトン化が生じることが考えられている。微生物を遺伝子学的に改変することでγ-デカラクトンを産生しようとする試みは、オレイン酸および/またはリシンオレイン酸などのγ-デカラクトン産生に対する前駆体である脂肪酸で成長培地を補充することに頼っている。例として、Braga et al.World J.Microbiol.Biotechnol.(2016)32(10):169を見よ。
【0046】
本明細書に記載の修飾された細胞は、オレイン酸および/またはリシンオレイン酸などのγ-デカラクトン産生に対する前駆体で補充された培地中で、増大したレベルのγ-デカラクトンを産生することが可能である。オレイン酸および/またはリシンオレイン酸の飲料発酵プロセスへの添加によって、費用および規制の幾つかの問題が現れる。しかしながら、本明細書に記載の修飾された細胞は、γ-デカラクトン産生に対する前駆体での補充を要さず、かつワインにおいてにおい閾値を上回るレベルのγ-デカラクトン(すなわち、約35μ/L)を産生することが可能である。
【0047】
本明細書に提供されるのは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素(例として、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ)をコードする異種遺伝子を発現するよう改変された、修飾された酵母細胞である。いくつかの態様において、酵母は、調節解除された転写因子をコードする遺伝子(例として、ADR1)、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする遺伝子などの、1以上の追加の遺伝子をさらに含む。
【0048】
また本明細書に提供されるのには、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする2以上の遺伝子を発現するよう改変された、修飾された酵母細胞もある。いくつかの態様において、修飾された酵母は、増大したレベルのγ-デカラクトンを有する発酵産物を産生するために使用される。いくつかの態様において、修飾された酵母は、減少したレベルの酢酸エチルを有する発酵産物を産生する。
【0049】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、調節解除された転写因子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。本明細書に提供されるのにはまた、発酵プロセスの最中に、修飾された酵母細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む糖源を含む培地と接触させることを伴う、発酵飲料を産生する方法もある。本明細書に提供されるのにはまた、発酵プロセスの最中に、修飾された酵母細胞を、少なくとも1つの発酵性糖を含む糖源を含む培地と接触させることを伴う、エタノールを産生する方法もある。
【0050】
脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)酵素
本明細書に記載の修飾された細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性のある酵素をコードする遺伝子を含有していてもよい。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性のある酵素は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ(FAH12)酵素である。いくつかの態様において、遺伝子は、異種遺伝子である。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子および脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。
【0051】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。
【0052】
脂肪酸ヒドロキシラーゼは、ヒドロキシ脂肪酸を産生するための脂肪酸のヒドロキシル化を触媒する酵素である。オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ酵素は、オレイン酸をリシンオレイン酸へ変換し得るが、オレイン酸からγ-デカラクトンへの生合成における不可欠なステップである。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子は、野生型オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ酵素などの野生型脂肪酸ヒドロキシラーゼ遺伝子(例として、生物から単離された遺伝子)である。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子を発現する酵母は、中間体分子の補充がない中で、γ-デカラクトン生合成経路(例として、オレイン酸、リシンオレイン酸)において増大したレベルのγ-デカラクトンを産生することが可能である。
【0053】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。
【0054】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。
【0055】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子は、野生型脂肪酸ヒドロキシラーゼ遺伝子(例として、生物から単離された遺伝子)である。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼは、細菌、真菌、または植物から得られる。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼは、真菌から得られる。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼは、Claviceps purpureaから得られる。
【0056】
例示の、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Claviceps purpureaからのものである。Claviceps purpurea FAHは、配列番号6によって表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号B4YQU.1に対応する。
MASATPAMSENAVLRHKAASTTGIDYESSAAVSPAESPRTSASSTSLSSLSSLDANEKKDEYAGLLDTYGNAFTPPDFSIKDIRAAIPKHCYERSTIKSYAYVLRDLLCLSTTFYLFHNFVTPENIPSNPLRFVLWSIYTVLQGLFATGLWVIGHECGHCAFSPSPFISDLTGWVIHSALLVPYFSWKFSHSAHHKGIGNMERDMVFLPRTREQQATRLGRAVEELGDLCEETPIYTALHLVGKQLIGWPSYLMTNATGHNFHERQREGRGKGKKNGFGGGVNHFDPRSPIFEARQAKYIVLSDIGLGLAIAALVYLGNRFGWANMAVWYFLPYLWVNHWLVAITFLQHTDPTLPHYNREEWNFVRGGACTIDRDLGFIGRHLFHGIADTHVVHHYVSRIPFYNADEASEAIKPIMGKHYRSDTAHGPVGFLHALWKTARWCQWVEPSADAQGAGKGILFYRNRNKLGTKPISMKTQ*(配列番号6)
【0057】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼは、植物から得られる。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼは、Hiptage benghalensisから得られる。例示の、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Hiptage benghalensisからのものである。Hiptage benghalensis FAH(HbFAH)は、配列番号20によって表されるアミノ酸配列によって提供され、GenBank No.KC533768.1;UniProtKB受託番号R9WAV0に対応する。
MGAGGRMPTSVSKGQGMENEVKHGPCEKPPFTVGQLKRAIPPHCFERSLIRSSSYLLRDLFFVFVFYYVATSYFHLLPYPFNYAAWPIYWGFQGCALTGIWVLGHECGHHAFSDYQLVDDIVGLIIHTALLVPYFSWKISHRRHHSNTGSLEREEVFAPKPKAEIQWYLKHLNNPPGRAIVLLNTLLLGWPLYVAFNVAGRRYDRFACHFDPYSPIFSASERHLIYITDAGIYATTFILYRAAAAKGLTWLICVYGVPLVIVNAFLVLVTYLQHTHPVLPHYDNSEWDWLRGALVTVDRDYGILNEVFHHIADTHVAHHLFSKIPQYHGMEATKAIKPILGEYYQFDGTPFLKALWREARECVYVDRDEGDPKRGVYWYGNKF*(配列番号20)
【0058】
例示の、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Physaria lindheimeriからのものである。Physaria lindheimeri FAH(PlFAH)は、配列番号21によって表されるアミノ酸配列によって提供され、GenBank No.EF432246.1;UniProtKB受託番号A5HB93に対応する。
MGAGGRIMVTPSSKKSKPEALRRGPGEKPPFTVQDLRKAIPRHCFKRSIPRSFSYLLTDIILASCFYYVATNYFSLLPQPLSTYFAWPLYWVCQGCVLTGVWVLGHECGHQAFSDYQWVDDTVGFIIHTFLLVPYFSWKYSHRRHHANNGSLERDEVFVPPKKAAVKWYVKYLNNPLGRTVVLIVQFVLGWPLYLAFNVSGRSYDGFASHFFPHAPIFKDRERLHIYITDAGILAVCYGLYRYAATKGLTAMIYVYGVPLLVVNFFLVLVTFLQHTHPSLPHYDSTEWDWIRGAMVTVDRDYGILNKVFHNITDTHVAHHLFATIPHYNAMEATEAIKPILGDYYHFDGTPWYVAMYREAKQCLYVEQDTEKKKGVYYYNNKL*(配列番号21)
【0059】
例示の、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Ricinus communisからのものである。Ricinus communis FAH(RcFAH)は、配列番号22によって表されるアミノ酸配列によって提供され、GenBank No.U22378.1;UniProtKB受託番号Q41131に対応する。
MGGGGRMSTVITSNNSEKKGGSSHLKRAPHTKPPFTLGDLKRAIPPHCFERSFVRSFSYVAYDVCLSFLFYSIATNFFPYISSPLSYVAWLVYWLFQGCILTGLWVIGHECGHHAFSEYQLADDIVGLIVHSALLVPYFSWKYSHRRHHSNIGSLERDEVFVPKSKSKISWYSKYSNNPPGRVLTLAATLLLGWPLYLAFNVSGRPYDRFACHYDPYGPIFSERERLQIYIADLGIFATTFVLYQATMAKGLAWVMRIYGVPLLIVNCFLVMITYLQHTHPAIPRYGSSEWDWLRGAMVTVDRDYGVLNKVFHNIADTHVAHHLFATVPHYHAMEATKAIKPIMGEYYRYDGTPFYKALWREAKECLFVEPDEGAPTQGVFWYRNKY*(配列番号22)
【0060】
例示の、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、Lesquerella fendleriからのものである。Lesquerella fenderia FAH(LFAH12)は、配列番号23によって表されるアミノ酸配列によって提供され、GenBank No.AF016103;UniProtKB受託番号O81094に対応する。
MGAGGRIMVTPSSKKSETEALKRGPCEKPPFTVKDLKKAIPQHCFKRSIPRSFSYLLTDITLVSCFYYVATNYFSLLPQPLSTYLAWPLYWVCQGCVLTGIWVIGHECGHHAFSDYQWVDDTVGFIFHSFLLVPYFSWKYSHRRHHSNNGSLEKDEVFVPPKKAAVKWYVKYLNNPLGRILVLTVQFILGWPLYLAFNVSGRPYDGFASHFFPHAPIFKDRERLQIYISDAGILAVCYGLYRYAASQGLTAMICVYGVPLLIVNFFLVLVTFLQHTHPSLPHYDSTEWEWIRGALVTVDRDYGILNKVFHNITDTHVAHHLFATIPHYNAMEATEAIKPILGDYYHFDGTPWYVAMYREAKECLYVEPDTERGKKGVYYYNNKL*(配列番号23)
【0061】
いくつかの態様において、酵素を発現する細胞が、異種遺伝子を発現しない細胞と比較してγ-デカラクトンの増大した産生を可能にするように、異種遺伝子は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする。
【0062】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6または20~23のいずれかで表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性のあるアミノ酸配列を有する。
【0063】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6または20~23のいずれかで表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0064】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号6または20~23のいずれかで表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)の配列同一性のあるアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号6または20~23のいずれかで表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0065】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6で表されるとおりの配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性のあるアミノ酸配列を有する。
【0066】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0067】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号6で表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)の配列同一性のあるアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号6で表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0068】
脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有するかまたは脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有すると予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号6などの、配列番号6または20~23のいずれかによって提供される脂肪酸ヒドロキシラーゼなどの脂肪酸ヒドロキシラーゼの1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、触媒ドメインの領域において、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ(例として、配列番号6または20~23のいずれかなどの野生型脂肪酸ヒドロキシラーゼ)との相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼに対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有していてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された酵母細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ(例として、配列番号6または20~23のいずれか、例として、配列番号6)と比べ、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0069】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ(例として、配列番号6などの、配列番号6または20~23のいずれか)と比べて相対的に高いレベルの配列同一性を有し、かつ参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された酵母細胞および方法における使用のための酵素は、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ(例として、配列番号6または20~23のいずれか、配列番号6など)と比べて、酵素の一部に基づきまたは完全長の酵素にわたり、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0070】
調節解除された転写因子
いくつかの態様において、γ-デカラクトンの産生は、ベータ酸化の上方調節を伴う遺伝子の修飾によって、例えばペルオキシソームのサイズおよび数の増大によって、増大される。過剰の脂肪酸のある中で成長させられた酵母は、ペルオキシソームのサイズおよび数を増大させ、続いて、ADR1、PIP2、OAF1、および/またはOAF3などの数種の転写因子の調節を通してベータ酸化を上方調節する。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、例えば転写因子を発現しない細胞と比較して、ペルオキシソームの生物発生および組織化(ペルオキシソーム増殖の増大を包含する)を促進する転写因子をコードする遺伝子を発現もしくは過剰発現するか、および/または細胞中の脂肪酸ベータ酸化を増大させる。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞は、ADR1、PIP2、OAF1、および/またはOAF3などの調節解除された転写因子を含む。
【0071】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、ADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、ADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。
【0072】
かかる転写因子の1つ、ADR1は、セリン残基(すなわち、位置230でのセリン(Ser230))でのリン酸化を通して抑止されるジンクフィンガー転写因子をコードする。過剰の脂肪酸がある中で成長させられた酵母は、ADR1をセリン残基の脱リン酸化によって活性化すると考えられている。セリン残基の例えばアラニンへの突然変異は、発酵性糖を含有する培地中などで、ADR1の構成的な活性化をもたらし、脂肪酸がない中のペルオキシソームの増殖および上方調節されたベータ酸化へ繋がる。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、調節解除されたADR1転写因子を含む。いくつかの態様において、ADR1転写因子は突然変異されることで、構成的に活性のあるADR1転写因子が産生されてもよい。いくつかの態様において、ADR1転写因子の構成的な活性は、ペルオキシソームの増殖およびベータ酸化の上方調節をもたらす。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、セリン残基の置換変異を位置230(Ser230)にて含む、調節解除されたADR1転写因子を含む。いくつかの態様において、位置230での(または位置230に対応する)セリン残基は、アラニン残基で置換されている。
【0073】
例示の調節解除された転写因子は、S.cerevisiaeからのADR1であって、そのセリン残基が位置230(Ser230、S230)にてアラニン残基で置換されており(ADR1(S230A))、これは配列番号24で表されるアミノ酸配列によって提供される。
MANVEKPNDCSGFPVVDLNSCFSNGFNNGKQEIEMETDDSPILLMSSSASRENSNTFSVIQRTPDGKIITTNNNMNSKINKQLDKLPENLRLNGRTPSGKLRSFVCEVCTRAFARQEHLKRHYRSHTNEKPYPCGLCNRCFTRRDLLIRHAQKIHSGNLGETISHTKKVSRTITKARKNSASSVKFQTPTYGTPDNGNFLNRTTANTRRKASPEANVKRKYLKKLTRRAAFSAQSASSYALPDQSSLEQHPKDRVKFSTPELVPLDLKNPELDSSFDLNMNLDLNLNLDSNFNIALNRSDSSGSTMNLDYKLPESANNYTYSSGSPTRAYVGANTNSKNASFSDADLLSSSYWIKAYNDHLFSVSESDETSPMNSELNDTKLIVPDFKSTIHHLKDSRSSSWTVAIDNNSNNNKVSDNQPDFVDFQELLDNDTLGNDLLETTAVLKEFELLHDDSVSATATSNEIDLSHLNLSNSPISPHKLIYKNKEGTNDDMLISFGLDHPSNREDDLDKLCNMTRDVQAIFSQYLKGEESKRSLEDFLSTSNRKEKPDSGNYTFYGLDCLTLSKISRALPASTVNNKQPSHSIESKLFNEPMRNMCIKVLRYYEKFSHDSSESVMDSNPNLLSKELLMPAVSELNEYLDLFKNNFLPHFPIIHPSLLDLDLDSLQRYTNEDGYDDAENAQLFDRLSQGTDKEYDYEHYQILSISKIVCLPLFMATFGSLHKFGYKSQTIELYEMSRRILHSFLETKRRCRSTTVNDNYQNIWLMQSLILSFMFALVADYLEKIDSSLMKRQLSALCSTIRSNCLPTISANSEKSINNNNEPLTFGSPLQYIIFESKIRCTLMAYDFCQFLKCFFHIKFDLSIKEKDVETIYIPDNESKWASESIICNGHVVQKQNFYDFRNFYYSFTYGHLHSIPEFLGSSMIYYEYDLRKGTKSHVFLDRIDTKRLERSLDTSSYGNDNMAATNKNIAILIDDTIILKNNLMSMRFIKQIDRSFTEKVRKGQIAKIYDSFLNSARLNFLKNYSVEVLCEFLVALNFSIRNISSLYVEEESDCSQRMNSPELPRIHLNNQALSVFNLQGYYYCFILIIKFLLDFEATPNFKLLRIFIELRSLANSILLPTLSRLYPQEFSGFPDVVFTQQFINKDNGMLVPGLSANEHHNGASAAVKTKLAKKINVEGLAMFINEILVNSFNDTSFLNMEDPIRNEFSFDNGDRAVTDLPRSAHFLSDTGLEGINFSGLNDSHQTVSTLNLLRYGENHSSKHKNGGKGQGFAEKYQLSLKYVTIAKLFFTNVKENYIHCHMLDKMASDFHTLENHLKGNS*(配列番号24)
【0074】
代替的にまたは加えて、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、調節解除されたPIP2転写因子および/またはOAF1転写因子を含んでいてもよい。いくつかの態様において、PIP2転写因子および/またはOAF1転写因子は、転写因子活性を下方調節するよう突然変異されており、転写因子の構成的な活性がもたらされる。いくつかの態様において、PIP2転写因子および/またはOAF1転写因子の活性の脱調節は、ペルオキシソームの増殖およびベータ酸化の上方調節をもたらす。
【0075】
代替的にまたは加えて、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞は、転写リプレッサーOAF3を欠失するか(例として、ノックアウト)、その発現を低減するか(例として、ノックダウン)、および/または転写リプレッサーOAF3を下方調節する、遺伝子の修飾を含んでいてもよい。いくつかの態様において、OAF3転写リプレッサーは突然変異されることで、転写リプレッサー活性が減少または下方調節されている。いくつかの態様において、OAF3転写リプレッサー活性の減少または下方調節は、ペルオキシソームの増殖およびベータ酸化の上方調節をもたらす。
【0076】
ADR1、PIP2、OAF1、および/またはOAF3などの転写因子をコードする核酸配列の突然変異は、好ましくはコード配列のアミノ酸リーディングフレームを保存しており、好ましくは核酸中に、ハイブリダイズすることで酵素の発現に有害となり得るヘアピンまたはループなどの2次構造を形成しそうな領域を創出しない。
【0077】
突然変異は、アミノ酸置換を選択することによって、またはポリペプチドをコードする核酸中の選択された部位のランダム変異誘発によってなされ得る。本明細書に記載のとおり、バリアントポリペプチドは、突然変異が、所望される特性のあるバリアントポリペプチドを提供するか決定するために、発現され1以上の活性について試験され得る。さらなる突然変異はバリアントに(または非バリアントポリペプチドに)なされ得るが、これは、ポリペプチドのアミノ酸配列に関してはサイレントであるが、具体的な宿主における翻訳に好ましいコドンを提供する(コドン最適化と称される)。例としてS.cerevisiaeにおいて、核酸の翻訳に好ましいコドンは、当業者に周知である。さらに他の突然変異は、ポリペプチドの発現を増強するために遺伝子またはcDNAクローンの非コード配列になされ得る。ADR1転写因子、PIP2転写因子、OAF1転写因子、またはOAF3転写リプレッサーのバリアントの活性は、酵素バリアントをコードする遺伝子を発現ベクター中へクローニングすること、ベクターを適切な宿主細胞中へ導入すること、酵素バリアントを発現すること、および本明細書に開示のとおりの酵素の機能的な能力を試験することによって、試験され得る。
【0078】
アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)酵素
本明細書に記載の修飾された細胞は、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性のある酵素をコードする遺伝子を含有していてもよい。いくつかの態様において、遺伝子は、OLE1活性を有する酵素をコードする内在性遺伝子のコピーである。用語「内在性遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、宿主生物(例として、遺伝子学的に修飾された細胞)内で生じる遺伝的指令を含有し、かつ宿主生物によって発現される核酸(例として、DNA)の配列に対応する遺伝性単位を指す。
【0079】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびADR1(例として、ADR1 S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、ADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子、およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。
【0080】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。
【0081】
アシル-CoAデサチュラーゼ1酵素は、ステアリン酸のオレイン酸への変換を触媒する酵素であって、またステアロイル-CoA 9-デサチュラーゼとも称されることがある。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼI活性によって産生されるオレイン酸は、γ-デカラクトンおよびその前駆体の産生のために使用される。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする異種遺伝子は、野生型アシル-CoAデサチュラーゼ1遺伝子(例として、生物から単離された遺伝子)である。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1をコードする遺伝子は、属Saccharomycesに属する真菌から得られる。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1をコードする遺伝子は、真菌Saccharomyces cerevisiaeから得られる。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1をコードする遺伝子は、真菌Saccharomyces pastorianusから得られる。
【0082】
例示の、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有する酵素は、Saccharomyces cerevisiaeからのOLE1である。Saccharomyces cerevisiae OLE1は、配列番号7によって表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号AAA34826.1に対応する。
MPTSGTTIELIDDQFPKDDSASSGIVDEVDLTEANILATGLNKKAPRIVNGFGSLMGSKEMVSVEFDKKGNEKKSNLDRLLEKDNQEKEEAKTKIHISEQPWTLNNWHQHLNWLNMVLVCGMPMIGWYFALSGKVPLHLNVFLFSVFYYAVGGVSITAGYHRLWSHRSYSAHWPLRLFYAIFGCASVEGSAKWWGHSHRIHHRYTDTLRDPYDARRGLWYSHMGWMLLKPNPKYKARADITDMTDDWTIRFQHRHYILLMLLTAFVIPTLICGYFFNDYMGGLIYAGFIRVFVIQQATFCINSMAHYIGTQPFDDRRTPRDNWITAIVTFGEGYHNFHHEFPTDYRNAIKWYQYDPTKVIIYLTSLVGLAYDLKKFSQNAIEEALIQQEQKKINKKKAKINWGPVLTDLPMWDKQTFLAKSKENKGLVIISGIVHDVSGYISEHPGGETLIKTALGKDATKAFSGGVYRHSNAAQNVLADMRVAVIKESKNSAIRMASKRGEIYETGKFF*(配列番号7)
【0083】
いくつかの態様において、遺伝子は、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードしており、そのため酵素を発現する細胞は、その遺伝子を発現しない細胞または1コピーのその遺伝子しか発現しない細胞と比較してγ-デカラクトンの増大した産生が可能となる。いくつかの態様において、遺伝子は、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードしており、そのため酵素を発現する細胞は、野生型アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素を発現する細胞と比較して増大したレベルのγ-デカラクトンを産生することが可能となる。
【0084】
いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素は、配列番号7のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性のあるアミノ酸配列を有する。
【0085】
いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0086】
いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号7で表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)の配列同一性のあるアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号7で表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0087】
アシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有するかまたはアシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有すると予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号7によって提供されるアシル-CoAデサチュラーゼ1などのアシル-CoAデサチュラーゼ1の1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、触媒ドメインの領域において、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号7などの野生型アシル-CoAデサチュラーゼ1)との相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、参照のアシル-CoAデサチュラーゼ1に対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有していてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照のアシル-CoAデサチュラーゼ1(例として、配列番号7)と比べて少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0088】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照のアシル-CoAデサチュラーゼ1(例として、配列番号7)と比べて相対的に高いレベルの配列同一性を有し、かつ参照のアシル-CoAデサチュラーゼ1に対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の一部分に基づきまたは完全長の酵素にわたり、参照のアシル-CoAデサチュラーゼ1(例として、配列番号7)と比べて、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0089】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)酵素
本明細書に記載の修飾された細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性のある酵素をコードする遺伝子を含有していてもよい。いくつかの態様において、遺伝子は、異種遺伝子である。用語「異種遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、導入遺伝子を当然ながらコードしない宿主生物(例として、遺伝子学的に修飾された細胞)中へ導入されこれによって発現される遺伝的指令を含有する核酸(例として、DNA)の配列を指す。異種遺伝子は、細胞によって典型的には発現されない酵素、細胞が典型的には発現しない酵素のバリアント(例として、突然変異した酵素)、細胞において典型的には発現される、酵素をコードする遺伝子の追加のコピー、または細胞によって典型的には発現されるが異なる調節下にある、酵素をコードする遺伝子をコードしていてもよい。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子および脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現しない。
【0090】
アセチル-CoA:アセチルトランスフェラーゼまたはアルコールアセチルトランスフェラーゼとも称されることがあるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、アシル-補酵素A(CoA)ドナーからアクセプターアルコールへのアシル鎖の移動を触媒し、アシルエステルの産生をもたらす二基質酵素である。発酵飲料に存在するアシルエステルは、そのフレーバーに影響を及ぼす。4-ヒドロキシデカン酸のラクトン化によって形成されるエステルのγ-デカラクトンは、モモフレーバーをビールおよびワインなどの発酵飲料へ付与する。
【0091】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子は、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(例として、生物から単離された遺伝子)である。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、細菌または真菌から得られる。
【0092】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、作物などの植物から得られる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、モモ植物から得られる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ遺伝子は、Prunus persicaからのものである。
【0093】
例示の、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、Prunus persicaからのPpAAT1である。Prunus persica AATは、配列番号1として表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号XP_007209131.1に対応する。
MGSLCPLLFPVNRFEPELITPAKPTPIETKQLSDIDDQDGLRFHFPVIISYKNNPSMKGNDAVMVIREALSRALVYYYPLAGRLREGPNRKLMVECNGEGVLFIEANADVTLEQLGDRILPPCPVLEEFLSNPPGSDGILGCPLLLVQVTRLTCGGFIFGLRINHAMCDAVGLAKFLNAIGEMAQGADSLSVPPVWARELLNARDPPTVTRWHYEYDQLLDSQGSFIAAIDQSNMAQRSFYFGPQQIRALRKHLPPHLSTCSSFELITACVWRCRTLSLRLNPKDTVRISCAVNARGKSINDLCLPSGFYGNAFSIPTAVSTVELLCASPLGYGVELVRKSKAQMDKEYMQSLADFFVIRGRPPLPMGWNVFIVSDNRHTGFGEFDVGWGRPLFAGLARAFSMISFYVRDNNQEEEFGTLVPICLPSTSLERFEEELKKMTLEHVEEISK*(配列番号1)
【0094】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、Fragaria x ananassaからのSAATである。Fragaria x ananassa AATは、配列番号2として表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号AAG13130.1に対応する。
MGEKIEVSINSKHTIKPSTSSTPLQPYKLTLLDQLTPPAYVPIVFFYPITDHDFNLPQTAADLRQALSETLTLYYPLSGRVKNNLYIDDFEEGVPYLEARVNCDMTDFLRLRKIECLNEFVPIKPFSMEAISDERYPLLGVQVNVFDSGIAIGVSVSHKLIDGGTADCFLKSWGAVFRGCRENIIHPSLSEAALLFPPRDDLPEKYVDQMEALWFAGKKVATRRFVFGVKAISSIQDEAKSESVPKPSRVHAVTGFLWKHLIAASRALTSGTTSTRLSIAAQAVNLRTRMNMETVLDNATGNLFWWAQAILELSHTTPEISDLKLCDLVNLLNGSVKQCNGDYFETFKGKEGYGRMCEYLDFQRTMSSMEPAPDIYLFSSWTNFFNPLDFGWGRTSWIGVAGKIESASCKFIILVPTQCGSGIEAWVNLEEEKMAMLEQDPHFLALASPKTLI(配列番号2)
【0095】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、Solanum lycopersicumからのSpAAT1である。Solanum lycopersicum AATは、配列番号3として表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号NP_001310384.1に対応する。
MANTLPISINYHKPKLVVPSSVTPHETKRLSEIDDQGFIRFQIPILMFYKYNSSMKGKDPARIIEDGLSKTLVFYHPLAGRLIEGPNKKLMVNCNGEGVLFIEGDANIELEKLGESIKPPCPYLDLLLHNVPGSDGIIGSPLLLIQVTRFTCGGFAVGFRVSHTMMDGYGFKMFLNALSELIQGASTPSILPVWQRHLLSARSSPCITCSHHEFDEEIESKIAWESMEDKLIQESFFFGNEEMEVIKNQIPPNYGCTKFELLMAFLWKCRTIALDLHPEEIVRLTYVINIRGKKSLNIELPIGYYGNAFVTPVVVSKAGLLCSNPVTYAVELIKKVKDHINEEYIKSVIDLTVIKGRPELTKSWNFLVSDNRYIGFDEFDFGWGNPIFGGISKATSFISFGVSVKNDKGEKGVLIAISLPPLAMKKLQDIYNMTFRVIIPRI(配列番号3)
【0096】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、Malus domesticaからのMpAAT1(またMdAAT1とも称される)である。Malus domestica AATは、配列番号4によって提供されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB 受託番号NP_001315675.1に対応する。
【化1】
(配列番号4)
【0097】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、MpAAT1であって、野生型アミノ酸配列(すなわち、配列番号4)と比べて1以上の突然変異を含む。配列番号4(MpAAT1)の位置62および385に対応するアミノ酸、位置62でのバリン、ならびに位置385でのアスパラギンは、上の配列番号4においてボールド体で指し示され、かつ下線が付されている。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、配列番号25に示されるとおり、バリンを位置62にてアラニンと、およびアスパラギンを位置385にてアスパラギン酸と置換するよう突然変異されたMpAAT1である。
【化2】
(配列番号25)
【0098】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素は、Cucumis meloからのCmAAT1である。Cucumis melo AATは、配列番号5によって表されるアミノ酸配列によって提供され、UniProtKB受託番号XP_008462821.1に対応する。
METMQTIDFSFHVRKCQPELIAPANPTPYEFKQLSDVDDQQSLRLQLPFVNIYPHNPSLEGRDPVKVIKE
AIGKALVFYYPLAGRLREGPGRKLFVECTGEGILFIEADADVSLEEFWDTLPYSLSSMQNNIIHNALNSD
EVLNSPLLLIQVTRLKCGGFIFGLCFNHTMADGFGIVQFMKATAEIARGAFAPSILPVWQRALLTARDPP
RITFRHYEYDQVVDMKSGLIPVNSKIDQLFFFSQLQISTLRQTLPAHLHDCPSFEVLTAYVWRLRTIALQ
FKPEEEVRFLCVMNLRSKIDIPLGYYGNAVVVPAVITTAAKLCGNPLGYAVDLIRKAKAKATMEYIKSTV
DLMVIKGRPYFTVVGSFMMSDLTRIGVENVDFGWGKAIFGGPTTTGARITRGLVSFCVPFMNRNGEKGTA
LSLCLPPPAMERFRANVHASLQVKQVVDAVDSHMQTIQSASK(配列番号5)
【0099】
いくつかの態様において、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードしており、そのため酵素を発現する細胞は、異種遺伝子を発現しない細胞と比較してγ-デカラクトンの増大した産生が可能となる。いくつかの態様において、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードしており、そのため酵素を発現する細胞は、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素を発現する細胞と比較して増大したレベルのγ-デカラクトンを産生することが可能となる。いくつかの態様において、異種遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードしており、そのため酵素を発現する細胞は、異種遺伝子を発現しない細胞と比較して低減したレベルの酢酸エチルを産生することが可能となる。
【0100】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるとおりの配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の配列同一性のあるアミノ酸配列を有する。
【0101】
用語「パーセント同一性」、「配列同一性」、「%同一性」、「%配列同一性」、および「%同一の」は、本明細書中互換的に使用されてもよいが、2つの配列(例として、核酸またはアミノ酸)同士間の類似性の定量的な測定値(measurement)を指す。パーセント同一性は、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993にあるように改変された、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムを使用して決定され得る。かかるアルゴリズムは、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLASTおよびXBLASTのプログラム(version 2.0)中へ組み込まれている。BLASTタンパク質サーチは、XBLASTプログラム、score=50、word length=3で実施されることで、関心のあるタンパク質分子と相同のアミノ酸配列が得られ得る。ギャップが2つの配列同士間に存在する場合、Gapped BLASTが、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されるとおりに利用され得る。BLASTおよびGapped BLASTのプログラムを利用するとき、夫々のプログラム(例として、XBLASTおよびNBLAST)の初期設定パラメータが使用され得る。
【0102】
パーセント同一性またはその範囲(例として、少なくとも、より多い、等々)が規定されているとき、別様に特定されない限り、端点も包含されるものとし、範囲(例として、少なくとも70%の同一性)は、引用された範囲内のすべての範囲(例として、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の同一性)およびそれらすべてのきざみ幅(increments)(例として、パーセントの10分の1(すなわち、0.1%)、パーセントの100分の1(すなわち、0.01%)等々)を包含するものとする。
【0103】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるとおりのアミノ酸配列からなる。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素は、配列番号1で表されるとおりのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素は、配列番号1で表されるとおりのアミノ酸配列からなる。
【0104】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるとおりの配列と、少なくとも80%(例として、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%)の配列同一性のあるアミノ酸配列を含む酵素をコードする核酸配列を含む。いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、配列番号1~5または25のいずれか1つで表されるとおりのアミノ酸配列からなる酵素をコードする核酸配列を含む。
【0105】
アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有するかまたはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有すると予測される追加の酵素の同定は、例えば、配列番号1~5または25のいずれか1つによって提供されるアルコール-O-アシルトランスフェラーゼなどのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの1以上のドメインとの類似性または相同性に基づき実施されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性に関連する触媒ドメインなどの、触媒ドメインなどの活性ドメインとの類似性または相同性に基づき同定されてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、触媒ドメインの領域において、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~5または25のいずれか1つなどの、野生型アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ)との相対的に高いレベルの配列同一性を有していてもよいが、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有していてもよい。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された酵母細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の触媒ドメインの領域において、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~5または25)と比べて、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0106】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~5または25)と比べて、酵素の触媒ドメインの領域において相対的に高いレベルの配列同一性を有し、かつ参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対し、酵素のより長い部分の分析に基づきまたは完全長の酵素にわたり相対的に低いレベルの配列同一性を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞および方法における使用のための酵素は、酵素の一部分に基づきまたは完全長の酵素にわたり、参照のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、配列番号1~5または25)と比べて少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の配列同一性を有する。
【0107】
いくつかの態様において、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子は、局在化シグナルをさらに含む。用語「局在化シグナル」は、本明細書に使用されるとき、新しく合成されたタンパク質の細胞の標的領域(例として、細胞膜またはオルガネラ)への輸送またはトラフィッキング(trafficking)を容易にする、新しく合成されたタンパク質の末端(N末端またはC末端)にて存在する短いペプチド配列(典型的には70アミノ酸未満)を指す。
【0108】
いくつかの態様において、局在化シグナルは、ペルオキシソームを標的にするシグナルである。用語「ペルオキシソームを標的にするシグナル」は、本明細書に使用されるとき、新しく合成されたタンパク質のペルオキシソームへの輸送またはトラフィッキングを容易にする、新しく合成されたタンパク質のN末端でのペプチド配列を指す。ペルオキシソームおよびミトコンドリアは、本明細書に記載のとおり、真核細胞におけるベータ酸化の主要な部位であるが、そのベータ酸化はγ-デカラクトンの産生に関与する(
図2)。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、AAT活性を有する酵素がペルオキシソームへ局在化することは、ベータ酸化を、よってγ-デカラクトンの産生を増大させることもあると考えられている。いくつかの態様において、ペルオキシソームを標的にするシグナルは、配列番号1~5または25のいずれか1つなどのAAT活性を有する酵素のC末端へ融合されている。
【0109】
いくつかの態様において、ペルオキシソームを標的にするシグナルは、アミノ酸配列SKL(配列番号17)を含む。いくつかの態様において、ペルオキシソームを標的にするシグナルは、アミノ酸配列GSLGRGRRSKL(配列番号18)を含む。
【0110】
遺伝子工学の一般の方法
当業者にも明白であろうが、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素における選択される残基のアミノ酸位置番号は、別の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1酵素、またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(例として、参照の酵素)と比較して異なるアミノ酸位置番号を有していてもよい。一般に、当該技術分野において知られている方法を使用して、例えば2以上の酵素のアミノ酸配列をアラインさせること(aligning)によって、他の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素において対応する位置を同定してもよい。アミノ酸(またはヌクレオチド)配列をアラインさせるためのソフトウェアプログラムおよびアルゴリズムは、当該技術分野において知られており、例としてClustal Omega(Sievers et al.2011)など容易に利用可能である。
【0111】
本明細書に記載の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの酵素は、例えば、その所望される生理学的活性とは関連しないポリペプチドの特色を特異的に変更する、1以上の修飾をさらに含有していてもよい。代替的にまたは加えて、本明細書に記載の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの酵素は、細胞中の酵素の発現および/または活性を調整する1以上の突然変異を含有していてもよい。
【0112】
脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする核酸の突然変異は、好ましくは、コード配列のアミノ酸リーディングフレームを保存しており、好ましくは、ハイブリダイズしてヘアピンまたはループなどの2次構造(酵素の発現に有害であり得る)を形成しそうな領域を核酸中に創出しない。
【0113】
突然変異は、ポリペプチドをコードする核酸中、アミノ酸置換を選択することによって、または選択される部位のランダム変異誘発によってなされ得る。本明細書に記載のとおり、突然変異が、所望される特性をもつバリアントポリペプチドを提供するか決定するため、バリアントポリペプチドは発現されて1以上の活性について試験され得る。さらなる突然変異が、バリアントに対して(または非バリアントポリペプチドに対して)なされ得るが、前記さらなる突然変異は、ポリペプチドのアミノ酸配列に関してはサイレントであるが、具体的な宿主における翻訳にとって好ましいコドンを提供する(コドン最適化と称される)。核酸(例として、S.cerevisiaeにおける核酸)の翻訳にとって好ましいコドンは、当業者に周知である。さらに他の突然変異も、遺伝子クローンまたはcDNAクローンの非コード配列になされて、ポリペプチドの発現が増強され得る。脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(酵素)、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼのバリアントの活性は、酵素バリアントをコードする遺伝子を発現ベクター中へクローニングすること、ベクターを適切な宿主細胞中へ導入すること、酵素バリアントを発現すること、および本明細書に開示のとおりの酵素の機能的能力(functional capability)について試験することによって、試験され得る。
【0114】
本明細書に記載の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼの酵素は、野生型の転写因子または酵素などの、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対応する1以上の位置のアミノ酸置換を含有していてもよい。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1酵素、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、参照の脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼに対応する1、2、3、4、5、またはそれより多くの位置にてアミノ酸置換を含有する。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼは、天然には存在しないアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、および/またはアシル-CoAデサチュラーゼ1であり、例として遺伝子学的に修飾されたものである。
【0115】
いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼのバリアントは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ酵素の活性および/または構造に実質的に影響を及ぼさない1以上のアミノ酸置換もまた含有していてもよい。当業者は、保存アミノ酸の置換が、酵素中になされて、上記のポリペプチドの機能的に等価なバリアント(すなわち、バリアントは、ポリペプチドの機能的な能力を保持している)を提供してもよいこともまた認識しているであろう。当業者はまた、保存アミノ酸置換が、酵素になされることで、上記ポリペプチドの機能的に等価なバリアントを提供してもよいこと、すなわち、バリアントがそのポリペプチドの機能的能力を保持していることも、認識しているであろう。本明細書に使用されるとき、「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸置換がなされるタンパク質の相対的な電荷またはサイズといった特徴を変更しないアミノ酸置換を指す。バリアントは、当業者に知られているポリペプチド配列を変更するための方法に従って調製され得、前記方法は、たとえば、かかる方法を集めた参考文献、例として、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見出される。ポリペプチドの例示の機能的に等価なバリアントは、本明細書に開示のタンパク質のアミノ酸配列における保存アミノ酸置換を包含する。アミノ酸の保存的置換は、以下の群:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および(g)E、D内にあるアミノ酸の中からなされる置換を包含する。
【0116】
当業者が分かっているとおり、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性をコードする相同の遺伝子は、他の種から得られたものであり得、相同性サーチによって、例えば、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)インターネットサイト(ncbi.nlm.nih.gov)にて利用可能なタンパク質BLASTサーチを通して、同定され得る。酵素のアミノ酸配列を1以上の参照酵素とともにアラインすることによって、および/または同様のもしくは相同の酵素の2次構造または3次構造を1以上の参照酵素と比較することによって、同様のまたは相同の酵素において、対応するアミノ酸残基を決定し得、かつ同様のまたは相同の酵素において、突然変異のためのアミノ酸残基を決定し得る。同様に、転写因子のアミノ酸配列を1以上の参照の転写因子とアラインさせることによって、および/または同様のもしくは相同の転写因子の2次構造または3次構造を1以上の参照の転写因子と比較することによって、同様のまたは相同の転写因子中の対応するアミノ酸残基を決定し得、同様のまたは相同の転写因子中の突然変異のためのアミノ酸残基を決定し得る。
【0117】
本開示に関連する遺伝子は、所定の遺伝子を含有するDNAのいずれの供給源からのDNAからも(例として、PCR増幅によって)得られ得る。いくつかの態様において、本発明に関連する遺伝子は、合成されたもの、例として、化学合成によってin vitroで産生されたものである。本明細書に記載の酵素をコードする遺伝子を得るいずれの手段も、本明細書に記載の修飾された細胞および方法に適合する。
【0118】
本明細書に提供される本開示は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ、上記の酵素の機能的修飾およびバリアントをコードする遺伝子の組換え発現、ならびにこれに関する使用を伴う。本発明に関連する核酸のホモログおよびアレルは、従来の技法によって同定され得る。本発明によって網羅されるものにはまた、ストリンジェントな条件下で本明細書に記載の核酸とハイブリダイズする核酸もある。用語「ストリンジェントな条件」は、本明細書に使用されるとき、当該技術分野において熟知されているパラメータを指す。核酸ハイブリダイゼーションのパラメータは、かかる方法を集めた参考文献、例として、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012、またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見出されることもある。
【0119】
他の条件、試薬など諸々使用され得るが、これらは同様のストリンジェンシー度をもたらす。当業者は、かかる条件を熟知しており、よってここではそれらを与えない。しかしながら、当業者が、本発明の核酸のホモログおよびアレルの明確な同定を可能にするやり方で(例として、より低いストリンジェンシー条件を使用することによって)、それら条件を操ることができるであろうことも理解されている。当業者はまた、かかる分子の発現について細胞およびライブラリをスクリーニングし、次いでこれを定型的に単離し、続いて該当する核酸分子の単離および配列決定をするための方法論も熟知している。
【0120】
本発明はまた、縮重した核酸も包含し、これはネイティブな材料に存在するコドンに代わるコドンを包含する。例えば、セリン残基は、コドンTCA、AGT、TCC、TCG、TCT、およびAGCによってコードされる。6コドンの各々は、セリン残基をコードするという目的上は等価である。よって、セリンをコードするヌクレオチドトリプレットのいずれも、in vitroまたはin vivoでセリン残基を伸長しているポリペプチド中へ組み込むタンパク質合成装置に向けるために採用されてもよいことは、当業者に明らかであろう。同様に、他のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列トリプレットは、これらに限定されないが、以下:CCA、CCC、CCG、およびCCT(プロリンコドン);CGA、CGC、CGG、CGT、AGA、およびAGG(アルギニンコドン);ACA、ACC、ACG、およびACT(トレオニンコドン);AACおよびAAT(アスパラギンコドン);ならびにATA、ATC、およびATT(イソロイシンコドン)を包含する。他のアミノ酸残基も、複数のヌクレオチド配列によって同様にコードされていてもよい。よって、本発明は、遺伝暗号の縮重に起因したコドン配列の点で生物学的に単離された核酸とは異なる縮重した核酸を内包する。本発明はまた、宿主細胞の最適なコドン利用に合うコドン最適化も内包する。
【0121】
本発明はまた、1以上のヌクレオチドの付加、置換、および欠失を包含する修飾された核酸分子も提供する。好ましい態様において、これらの修飾された核酸分子、および/またはこれらがコードするポリペプチドは、修飾されていない核酸分子および/またはポリペプチドの少なくとも1つの活性あるいは機能(酵素活性など)を保持する。ある態様において、修飾された核酸分子は、修飾されたポリペプチド、好ましくは、本明細書のどこかに記載されたとおりの保存アミノ酸置換を有するポリペプチドをコードする。修飾された核酸分子および修飾されていない核酸分子が、当業者に知られているストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるように、修飾された核酸分子は、修飾されていない核酸分子と構造的に関係があり、好ましい態様において、修飾されていない核酸分子と充分に構造的に関係がある。
【0122】
例えば、単一のアミノ酸変化を有するポリペプチドをコードする修飾された核酸分子が、調製され得る。これら核酸分子の各々は、本明細書に記載のとおりの遺伝暗号の縮重に対応するヌクレオチド変化を除外して、1、2または3つのヌクレオチド置換を有し得る。同じく、2つのアミノ酸変化を有するポリペプチドをコードする修飾された核酸分子(例として、2~6ヌクレオチド変化を有する)も、調製され得る。これらのような無数の修飾された核酸分子(例えば、2つおよび3つの、2つおよび4つの、2つおよび5つの、2つおよび6つなどのアミノ酸をコードするコドンにおけるヌクレオチドの置換を包含する)は、当業者によって容易に想定されるであろう。上記の例において、2つのアミノ酸の各組み合わせは、一連の修飾された核酸分子、ならびにアミノ酸置換をコードするすべてのヌクレオチド置換において包含される。追加の置換(すなわち、3以上)、付加、あるいは欠失(例として、停止コドンまたはスプライス部位(単数もしくは複数)の導入による)を有するポリペプチドをコードする追加の核酸分子もまた、調製され得、かつ当業者によって容易に想定されるとおり本発明によって内包される。上記の核酸またはポリペプチドのいずれも、本明細書に開示の核酸および/またはポリペプチドとの構造上の関係または活性の保持のための定型的な実験法について試験され得る。
【0123】
本開示の一側面において、本発明に関連する遺伝子の1以上は、組換え発現ベクターにおいて発現される。本明細書に使用されるとき、「ベクター」は、所望される配列(単数もしくは複数)が、異なる生成環境同士間の輸送のためかまたは宿主細胞における発現のために制限およびライゲーションによって挿入されてもよい数多の核酸のいずれであってもよい。ベクターは典型的には、DNAから構成されているが、RNAベクターもまた利用可能である。ベクターは、これらに限定されないが、以下:プラスミド、フォスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、および人工染色体を包含する。
【0124】
クローニングベクターは、自律的に複製することができるか、または宿主細胞のゲノム中にインテグレートされるベクターである。プラスミドのケースにおいて、所望される配列の複製は、プラスミドが宿主細胞(宿主細菌など)内のコピー数の点で増加することから多数回、または宿主が有糸分裂によって再生する前に宿主につきたった1回、生じることもある。ファージのケースにおいて、複製は、溶菌相の最中は活発に、または溶原相の最中は受動的に生じることもある。
【0125】
発現ベクターは、所望されるDNA配列が制限およびライゲーションによって、調節配列へ作動可能に(operably)結び合わされるように挿入されてもよく、かつRNA転写産物として発現されてもよいベクターである。ベクターは、ベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされているかまたはされていない細胞の同定における使用に好適な1以上のマーカー配列をさらに含有していてもよい。マーカーは、例えば、抗生物質もしくは他の化合物への耐性または感度のいずれかを増大あるいは減少させるタンパク質をコードする遺伝子、その活性が当該技術分野において知られている標準的なアッセイによって検出可能な酵素をコードする遺伝子(例として、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、もしくはアルカリホスファターゼ)、および形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニー、またはプラークの表現型に目に見えて影響を及ぼす遺伝子(例として、緑色蛍光タンパク質)を包含する。好ましいベクターは、DNAセグメントに存在する構造遺伝子産物(これらは前記DNAセグメントへ作動可能に結び合わされている)の自律複製および発現が可能なベクターである。
【0126】
本明細書に使用されるとき、コード配列および調節配列は、それらがコード配列の発現または転写を調節配列の影響下または制御下に置くような形で共有結合的に連結されているとき、「作動可能に」結び合わされている、または作動可能に連結されていると言える。コード配列が翻訳されて機能的タンパク質になることが所望される場合、2つのDNA配列は、5'調節配列中のプロモーターの誘導が、コード配列の転写をもたらす場合であって、かつ2つのDNA配列間の繋がりの性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入をもたらさないか、(2)プロモーター領域の、コード配列の転写に向ける能力に干渉しないか、または(3)対応するRNA転写産物の、タンパク質に翻訳する能力に干渉しない場合に、作動可能に結び合わされている、または作動可能に連結されていると言える。よって、プロモーター領域は、プロモーター領域がそのDNA配列の転写に作用することが可能であった場合、その結果得られる転写産物が翻訳されて所望されるタンパク質またはポリペプチドになり得るように、コード配列へ作動可能に結び合わされているであろう。
【0127】
本開示の酵素のいずれかをコードする核酸分子が細胞において発現されるとき、様々な転写制御配列(例として、プロモーター/エンハンサー配列)は、その発現へ向けるために使用され得る。いくつかの態様において、遺伝子の各々は、プロモーターへ作動可能に連結されている(例として、別々のプロモーターへ連結された各遺伝子)。プロモーターは、遺伝子の発現の正常な調節を提供する、ネイティブなプロモーター、すなわち、遺伝子の、それが内在するという文脈におけるプロモーターであり得る。いくつかの態様において、プロモーターは、構成的であり得る、すなわち、プロモーターは、その関連遺伝子(例として、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、調節解除された転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ)の継続的な転写を可能にさせるよう調節されていない。分子の存在または不在によって制御されるプロモーターなどの、条件付きの様々なプロモーターもまた、使用され得る。
【0128】
遺伝子発現にとって必要とされる調節配列の正確な性質は、種間または細胞型間で変動してもよいが、一般に必要次第、転写および翻訳夫々の開始に関与する5'非転写配列および5'非翻訳配列、たとえば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を包含するものである。とりわけ、かかる5'非転写調節配列は、動作可能に結び合わされている遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を包含するプロモーター領域を包含するであろう。調節配列はまた、所望されるとおりのエンハンサー配列または上流のアクチベーター配列も包含することがある。本発明のベクターは、任意に、5'リーダー配列またはシグナル配列を包含していてもよい。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内にある。
【0129】
発現にとってすべての必要な要素を含有する発現ベクターは、市販されており、当業者に知られている。例として、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012を見よ。細胞は、細胞中への異種DNA(RNA)の導入によって、遺伝子学的に改変されている。その異種DNA(RNA)は、転写要素の動作可能な制御下に置かれてもよく、宿主細胞における異種DNAの発現が可能になる。当業者が解するとおり、本明細書に記載の酵素のいずれも、ワイン、蜂蜜酒、日本酒、林檎酒等々を産生するために使用される酵母株を包含する他の酵母細胞においてもまた発現され得る。
【0130】
本開示の酵素をコードする核酸分子は、当該技術分野において標準的な方法および技法を使用して細胞(単数または複数)中へ導入され得る。例えば、核酸分子は、化学的な形質転換および電気穿孔法、形質導入、微粒子銃等々を包含する形質転換などの標準的なプロトコルによって導入され得る。クレームされる発明の酵素をコードする核酸分子を発現することはまた、核酸分子をゲノム中へインテグレートすることによっても達成されることがある。
【0131】
遺伝子の組み込みは、核酸をコードする酵素(単数もしくは複数)の、酵母細胞のゲノム中への組み込み、または新しい核酸をコードする酵素(単数もしくは複数)のエピソーム要素としての一過的なもしくは安定した維持のいずれかによって、達成され得る。真核細胞において、永続的な、遺伝する遺伝子変化は、一般に、細胞のゲノム中へのDNAの導入によって達成される。
【0132】
異種遺伝子はまた、コードされた遺伝子産物(例として、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、転写因子、アシル-CoAデサチュラーゼ1、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ)の発現に要される様々な転写要素も包含することがある。例えば、いくつかの態様において、遺伝子は、プロモーターを包含していてもよい。いくつかの態様において、プロモーターは、遺伝子へ作動可能に結び合わされていてもよい。いくつかの態様において、細胞は、誘導性プロモーターである。いくつかの態様において、プロモーターは、発酵プロセスの具体的なステージの最中に活性がある。例えば、いくつかの態様において、プロモーターからのピーク発現は、発酵プロセスの初期ステージの間、例として、>50%の発酵性糖が消費される前である。いくつかの態様において、プロモーターからのピーク発現は、発酵プロセスの後期ステージの間、例として、50%の発酵性糖が消費された後である。
【0133】
培地の状態は発酵プロセスの経過中に変わっていき、例えば、糖源および酸素が枯渇していくにつれ、栄養素および酸素の利用可能性は発酵の間、経時的に減少する傾向にある。加えて、細胞の代謝によって産生される産物などの他の因子の存在も増大していてもよい。いくつかの態様において、プロモーターは、1以上の因子の存在または不在などの、発酵プロセスにおける1以上の状態によって調節される。いくつかの態様において、プロモーターは、低酸素状態によって調節される。低酸素活性化遺伝子のプロモーターの例は当該技術分野において知られている。例として、Zitomer et al.Kidney Int.(1997)51(2):507-13; Gonzalez Siso et al.Biotechnol.Letters(2012)34:2161-2173を見よ。
【0134】
いくつかの態様において、プロモーターは、構成的プロモーターである。酵母細胞における使用のための構成的プロモーターの例は、当該技術分野において知られており、当業者に明白である。いくつかの態様において、プロモーターは、酵母プロモーター、例として、異種遺伝子または外来性遺伝子が発現される酵母細胞からのネイティブなプロモーターである。
【0135】
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞および方法における使用のためのプロモーターの非限定例は、HEM13プロモーター(pHEM13)、SPG1プロモーター(pSPG1)、PRB1プロモーター(pPRB1)、QCR10(pQCR10)、PGK1プロモーター(pPGK1)、OLE1プロモーター(pOLE1)、ERG25プロモーター(pERG25)、HHF2プロモーター(pHHF2)、TDH1プロモーター(pTDH1)、TDH2プロモーター(pTDH2)、TDH3プロモーター(pTDH3)、ENO2プロモーター(pENO2)、HSP26プロモーター(pHSP26)、またはRPL18bプロモーター(pRPL18b)を包含する。
【0136】
例示のHEM13プロモーターは、S.cerevisiaeからのpHEM13であって、配列番号8として表されるヌクレオチド配列によって提供される。
TAATGTAGAAGGTTGAGAACAACCGGATCTTGCGGTCATTTTTCTTTTCGAGGAAAGTGCAAGTCTGCCACTTTCCAGAAGGCATAGCCTTGCCCTTTTGTTGATATTTCTCCCCACCGTAATTGTTGCATTCGCGATCTTTTCAACAATACATTTTATCATCAAGCCCGCAAATCCTCTGGAGTTTGTCCTCTCGTTCACTGTTGGGAAAAACAATACGCCTAATTCGTGATTAAGATTCTTCAAACCATTTCCTGCGGAGTTTTTACTGTGTGTTGAACGGTTCACAGCGTAAAAAAAAGTTACTATAGGCACGGTATTTTAATTTCAATTGTTTAGAAAGTGCCTTCACACCATTAGCCCCTGGGATTACCGTCATAGGCACTTTCTGCTGAGCTCCTGCGAGATTTCTGCGCTGAAAGAGTAAAAGAAATCTTTCACAGCGGCTCCGCGGGCCCTTCTACTTTTAAACGAGTCGCAGGAACAGAAGCCAAATTTCAAAGAACGCTACGCTTTCGCCTTTTCTGGTTCTCCCACCAATAACGCTCCAGCTTGAACAAAGCATAAGACTGCAACCAAAGCGCTGACGGACGATCCGAAGATAAAGCTTGCTTTGCCCATTGTTCTCGTTTCGAAAGGCTATATAAGGACACGGATTTTCCtTTTTTTTTTCCACCTATTGTCTTTCTTTGTTAAGCTTTTATTCTCCGGGTTTTTTTTTTTTGAGCATATCAAAAGCTTTCTTTTCGCAAATCAAACATAGCAAACCGAACTCTTCGAACACAATTAAATACACATAAA(配列番号8)
【0137】
例示のSPG1プロモーターは、S.cerevisiaeからのpSPG1であって、配列番号9として表されるヌクレオチド配列によって提供される。
ATGAAGTTCACTTCACATCCAATGAGAAAAACAAAATCCGCAGGGCTATCACCCAGAACATCCTCCACTTCATCTTCTTCAGGACAGAGAAAAGCGCATCACCACCACCATCACCACAACCACGTTTCAAGGACGAAAACTACCGAAAGCACCAAATCAGGCAACAGCAAAAAGGACAGTTCCTCATCCTCAACAAACGACCATCAATTTAAAAGGTCTGAAAAGAAGAAAAAAAGTAAATTTGGCTCGATCTTCAAAAAAGTTTTCGGATGAACCGGATTAATACAAGTAAAATCAGCAAAGATATAGAAGACAAAATAAGCGTGAAAACAATCATAAACCACTCACAACGGGGGTTTTCAGCTGTTACTCCTCCATACATACATTTTGATAAAGATATAATGTTATATTTCTTTTCGTAATTTTGTTTTACTTCGGTTTGCTCTATAGATTTCATCAGCCGCACCGAAAAGGGAGATCAATAAGGTACCCTTTAAAAGGGATAAGAAGCCTAACATCACCCCAATAAATGGAGTAATGGCCAGCATTGGATGAAGAGAAGAATTACGGGATACTGGGATAACACTGTTAAAAATGCTTCGCGACGTGAGGGTCTTATATAAATTGAACTGCCAAATCTCTTTCACATTATCCAGGATAGTTTGGAATGTGTGTTACTGAAAGATCAGAATCAATAAATACAATCAATACAAATATTTAGCGCATAAAATTCAAACAAAGTTTACTGAA(配列番号9)
【0138】
例示のPRB1プロモーターは、S.cerevisiaeからのpPRB1であって、配列番号10として表されるヌクレオチド配列によって提供される。
CGAGAAACAGGGGGGGAGAAAAGGGGAAAAGAGAAGGAAAGAAAGACTCATCTATCGCAGATAAGACAATCAACCCTCATGGCGCCTCCAACCACCATCCGCACTAGGGACCAAGCGCTCGCACCGTTAGCAACGCTTGACTCACAAACCAACTGCCGGCTGAAAGAGCTTGTGCAATGGGAGTGCCAATTCAAAGGAGCCGAATACGTCTGTTCGCCTTTTAAGAGGCTTTTTGAACACTGCATTGCACCCGACAAATCAGCCACTAACTACGAGGTCACGGATACATATACCAATAGTTAAAAAATTACATATACTCTATATAGCACAGTAGTGTGATAAATAAAAAATTTTGCCAAGACTTTTTTAAACTGCACCCGACAGATCAGGTCTGTGCCTACTATGCACTTATGCCCGGGGTCCCGGGAGGAGAAAAAACGAGGGCTGGGAAATGTCCGTGGACTTAAAACGCTCCGGGTTAGCAGAGTAGCAGGGCTTTCGGCTTTGGAAATTTAGGTGACTTGTTGAAAAAGCAAAATTTGGGCTCAGTAATGCCACaGCAGTGGCTTATCACGCCAGGACTGCGGGAGTGGCGGGGGCAAACACACCCGCGATAAAGAGCGCGATGAATATAAAAGGGGGCCAATGTTACGTCCCGTTATATTGGAGTTCTTCCCATACAAACTTAAGAGTCCAATTAGCTTCATCGCCAATAAAAAAACAAACTAAACCTAATTCTAACAAGCAAAG(配列番号10)
【0139】
例示のQCR10プロモーターは、S.cerevisiaeからのpQCR10であって、配列番号11として表されるヌクレオチド配列によって提供される。
GAGAGCTGGCCAAAAAGAGGGCCGAAGACGGCGTTGAATTTCATTCAAAACTATTTAGAAGGGCAGAGCCAGGTGAGGATTTAGATTATTATATTTACAAGCACATCCCTGAAGGGACCGACAAGCATGAAGAACAGATCAGGAGCATTTTGGAAACTGCCCCGATTTTACCAGGACAGGCATTCACTGAAAAATTTTCTATTCCGGCTTATAAAAAGCATGGAATCCAAAAGAATTAGGCTTCTCATTCTATTTTAATTATACTAGTACGATTTCTCACTCTGTAATTTAATATCAGTGTAATATGCACCTAGTTATGGGTAGTTTTTGCTAACGTTACGAGCCGCGAAACTGTCCTCAATCTTCACCACTACCTCTAATGACTGAAGAATGCTATGCGATATAACGCTGCCGCACTTTGAATATATACTTATATTTACATAGTTTTCAAGTGCGTATTACTATTGCAAAGTAGTATTTTGTCACGTGATTTTGATCCAATTAAAACTAAATATGGTTCAACCCGTTGTTTCCGCATCAAAAAACCATACCATTTATCAAGGGGACGGGATATATCACATAACAGTTTGAATGCATAATTTGTTATAGATATCTTCTGGAATAATCTTCACAGCAAAAGCGCAAGTCGAATAATATATCGATAAATACAATCCATAAGACTTAAAACTAACCTCA(配列番号11)
【0140】
例示のTDH1プロモーターは、S.cerevisiaeからのpTDH1であって、配列番号12で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
GCCCGCTTCTGAAAACTACAGTTGACTTGTATGCTAAAGGGCCAGACTAATGGGAGGAGAAAAAGAAACGAATGTATATGCTCATTTACACTCTATATCACCATATGGAGGATAAGTTGGGCTGAGCTTCTGATCCAATTTATTCTATCCATTAGTTGCTGATATGTCCCACCAGCCAACACTTGATAGTATCTACTCGCCATTCACTTCCAGCAGCGCCAGTAGGGTTGTTGAGCTTAGTAAAAATGTGCGCACCACAAGCCTACATGACTCCACGTCACATGAAACCACACCGTGGGGCCTTGTTGCGCTAGGAATAGGATATGCGACGAAGACGCTTCTGCTTAGTAACCACACCACATTTTCAGGGGGTCGATCTGCTTGCTTCCTTTACTGTCACGAGCGGCCCATAATCGCGCTTTTTTTTTAAAAGGCGCGAGACAGCAAACAGGAAGCTCGGGTTTCAACCTTCGGAGTGGTCGCAGATCTGGAGACTGGATCTTTACAATACAGTAAGGCAAGCCACCATCTGCTTCTTAGGTGCATGCGACGGTATCCACGTGCAGAACAACATAGTCTGAAGAAGGGGGGGAGGAGCATGTTCATTCTCTGTAGCAGTAAGAGCTTGGTGATAATGACCAAAACTGGAGTCTCGAAATCATATAAATAGACAATATATTTTCACACAATGAGATTTGTAGTACAGTTCTATTCTCTCTCTTGCATAAATAAGAAATTCATCAAGAACTTGGTTTGATATTTCACCAACACACACAAAAAACAGTACTTCACTAAATTTACACACAAAACAAA(配列番号12)
【0141】
例示のTDH2プロモーターは、S.cerevisiaeからのpTDH2であって、配列番号13で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
CTAAATACTTCTGTGTTTTCATTAATTTATAAATTGTACTCTTTTAAGACATGGAAAGTACCAACATCGGTTGAAACAGTTTTTCATTTACTTATGGTTTATTGGTTTTTCCAGTGAATGATTATTTGTCGTTACCCTTTCGTAAAAGTTCAAACACGTTTTTAAGTATTGTTTAGTTGCTCTTTCGACATATATGATTATCCCTGCGCGGCTAAAGTTAAGGATGCAAAAAACATAAGACAACTGAAGTTAATTTACGTCAATTAAGTTTTCCAGGGTAATGATGTTTTGGGCTTCCACTAATTCAATAAGTATGTCATGAAATACGTTGTGAAGAGCATCCAGAAATAATGAAAAGAAACAACGAAACTGGGTCGGCCTGTTGTTTCTTTTCTTTACCACGTGATCTGCGGCATTTACAGGAAGTCGCGCGTTTTGCGCAGTTGTTGCAACGCAGCTACGGCTAACAAAGCCTAGTGGAACTCGACTGATGTGTTAGGGCCTAAAACTGGTGGTGACAGCTGAAGTGAACTATTCAATCCAATCATGTCATGGCTGTCACAAAGACCTTGCGGACCGCACGTACGAACACATACGTATGCTAATATGTGTTTTGATAGTACCCAGTGATCGCAGACCTGCAATTTTTTTGTAGGTTTGGAAGAATATATAAAGGTTGCACTCATTCAAGATAGTTTTTTTCTTGTGTGTCTATTCATTTTATTATTGTTTGTTTAAATGTTAAAAAAACCAAGAACTTAGTTTCAAATTAAATTCATCACACAAACAAACAAAACAAA(配列番号13)
【0142】
例示のTDH3プロモーターは、S.cerevisiaeからのpTDH3であって、配列番号14で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
CAGTTCGAGTTTATCATTATCAATACTGCCATTTCAAAGAATACGTAAATAATTAATAGTAGTGATTTTCCTAACTTTATTTAGTCAAAAAATTAGCCTTTTAATTCTGCTGTAACCCGTACATGCCCAAAATAGGGGGCGGGTTACACAGAATATATAACATCGTAGGTGTCTGGGTGAACAGTTTATTCCTGGCATCCACTAAATATAATGGAGCCCGCTTTTTAAGCTGGCATCCAGAAAAAAAAAGAATCCCAGCACCAAAATATTGTTTTCTTCACCAACCATCAGTTCATAGGTCCATTCTCTTAGCGCAACTACAGAGAACAGGGGCACAAACAGGCAAAAAACGGGCACAACCTCAATGGAGTGATGCAACCTGCCTGGAGTAAATGATGACACAAGGCAATTGACCCACGCATGTATCTATCTCATTTTCTTACACCTTCTATTACCTTCTGCTCTCTCTGATTTGGAAAAAGCTGAAAAAAAAGGTTGAAACCAGTTCCCTGAAATTATTCCCCTACTTGACTAATAAGTATATAAAGACGGTAGGTATTGATTGTAATTCTGTAAATCTATTTCTTAAACTTCTTAAATTCTACTTTTATAGTTAGTCTTTTTTTTAGTTTTAAAACACCAAGAACTTAGTTTCGAATAAACACACATAAACAAACAAA(配列番号14)
【0143】
例示のENO2プロモーターは、S.cerevisiaeからのpENO2であって、配列番号15で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
ATTGAATACATTAGCAACGCGTCCAGCATTTTTCGGAAGTGTCTCATAAACTTTACTCAAGAGTTAAGTACTGAAAAATTCGACTTTTATGATAGTTCAAGTGTCGACGCTGCGGGTATAGAAAGGGTTCTTTACTCTATAGTGCCTCCTCGCTCAGCATCTGCTTCTTCCCAAAGATGAACGCGGCGTTATGTCACTAACGACGTGCACCAACTTGCGGAAAGTGGAATCCCGTTCCAAAACTGGCATCCACTAATTGATACATCTACACACCGCACGCCTTTTTTCTGAAGCCCACTTTCGTGGACTTTGCCATATGCAAAATTCATGAAGTGTGATACCAAGTCAGCATACACCTCACTAGGGTAGTTTCTTTGGTTGTATTGATCATTTGGTTCATCGTGGTTCATTAATTTTTTTTCTCCATTGCTTTCTGGCTTTGATCTTACTATCATTTGGATTTTTGTCGAAGGTTGTAGAATTGTATGTGACAAGTGGCACCAAGCATATATAAAAAAAAAAGCATTATCTTCCTACCAGAGTTGATTGTTAAAAACGTATTTATAGCAAACGCAATTGTAATTAATTCTTATTTTGTATCTTTTCTTCCCTTGTCTCAATCTTTTATTTTTATTTTATTCTTCTTTTCTTAGTTTCTTTCATAACACCAAGCAACTAATACTATAACATACAATAATA(配列番号15)
【0144】
例示のHSP26プロモーターは、S.cerevisiaeからのpHSP26であって、配列番号16で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
CAATATTCTGCGCACATCAATCATTTTCTTACTACATACACTAACATTACTCCTAGTTTAATTTAATTGAATTTTTAACTTTCTTTTCTTTTCATTTGGCAATTTGGCTCCTTGAAAACAAGACTATGGGTCTgTCTCATAAGCCTCAGGGGGGGACCCCAAAAAAATAACGCGGCCATCTTGCATGCACCGTTGAACCTGTAGCTTACAGTAAGCCACAATTCTCTTACCTTCTTGGCAATGTGGCACAAAATAATCTGGTTATGTGTCTTCATTTGGTAATCACTGGGATGTTACTGGGGCAGCAGCAACTCCGTGTGTACCCCTAACTCCGTGTGTACCCCTAAAGAACCTTGCCTGTCAAGGTGCATTGTTGGATCGGAATAGTAACCGTCTTTACATGAACATCCACAACCAACGAAAGTGCTTTTTCAAGCATTGCTTGATTTCTAGAAAGATCGATGGTTATTCCCTCCCCCTTATGCGTCCAAAAATATAGGGTGCTCGTAACAGTAAGGTATTCGCACTTAGCGTGCTCGCAACACAAAATTAAGTAATATGCGAGTTTTAGATGTCCTTGCGGATCTATGCACGTTCTTGAGTGGTATTTCATAACAACGGTTCTTTTTCACCCTTATTCCTAAACATATAAATAGGACCTCCATTAGTTAGAGATCTGTTTTTAATCCATTCACCTTTCATTCTACTCTCTTATACTAATAAAACCACCGATAAAGATATATCAGATCTCTATTAAAACAGGTATCCAAAAAAGCAAACAAACAAACTAAACAAATTAA(配列番号16)
【0145】
例示のRPL18bプロモーターは、S.cerevisiaeからのpRPL18bであって、配列番号19で表されるヌクレオチド配列によって提供される。
AAGAGGATGTCCAATATTTTTTTTAAGGAATAAGGATACTTCAAGACTAGATTCCCCCCTGCATTCCCATCAGAACCGTAAACCTTGGCGCTTTCCTTGGGAAGTATTCAAGAAGTGCCTTGTCCGGTTTCTGTGGCTCACAAACCAGCGCGCCCGATATGGCTTTCTTTTCACTTATGAATGTACCAGTACGGGACAATTAGAACGCTCCTGTAACAATCTCTTTGCAAATGTGGGGTTACATTCTAACCATGTCACACTGCTGACGAAATTCAAAGTAAAAAAAAATGGGACCACGTCTTGAGAACGATAGATTTTCTTTATTTTACATTGAACAGTCGTTGTCTCAGCGCGCTTTATGTTTTCATTCATACTTCATATTATAAAATAACAAAAGAAGAATTTCATATTCACGCCCAAGAAATCAGGCTGCTTTCCAAATGCAATTGACACTTCATTAGCCATCACACAAAACTCTTTCTTGCTGGAGCTTCTTTTAAAAAAGACCTCAGTACACCAAACACGTTACCCGACCTCGTTATTTTACGACAACTATGATAAAATTCTGAAGAAAAAATAAAAAAATTTTCATACTTCTTGCTTTTATTTAAACCATTGAATGATTTCTTTTGAACAAAACTACCTGTTTCACCAAAGGAAATAGAAAGAAAAAATCAATTAGAAGAAAACAAAAAACAAA(配列番号19)
【0146】
遺伝子学的に修飾された酵母細胞
本開示の側面は、遺伝子学的に修飾された酵母細胞(修飾された細胞)と、発酵産物(例として、発酵飲料)を産生する方法およびエタノールを産生する方法における、かかる修飾された細胞の使用とに関する。本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子、調節解除された転写因子をコードする遺伝子、および/またはアシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする遺伝子で遺伝子学的に修飾されている。いくつかの態様において、本明細書に記載の細胞は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子で遺伝子学的に修飾されている。
【0147】
用語「遺伝子学的に修飾された細胞」、「遺伝子学的に修飾された酵母細胞」、および「修飾された細胞」は、本明細書中互換的に使用されてもよいが、真核細胞(例として、異種遺伝子の導入によって修飾された状態にある酵母細胞か、または同導入によって間もなく修飾され得る酵母細胞)を指す。これらの用語(例として、修飾された細胞)は、異種遺伝子の導入によって遺伝子学的に修飾された元の細胞の子孫を包含する。単細胞の子孫が、突然変異(すなわち、修飾された細胞の核酸の天然の、偶然の、または意図的な変更)に起因して、元の親と、形態学の点で、またはゲノムのもしくは総核酸の相補体(genomic or total nucleic acid complement)の点で、必ずしも完全に同一でなくてもよいことは、当業者によって理解されるものである。
【0148】
本明細書に記載の方法における使用のための酵母細胞は、好ましくは、糖源(例として、発酵性糖)を発酵させて、エタノール(エチルアルコール)および二酸化炭素を産生することが可能である。いくつかの態様において、酵母細胞は、属Saccharomycesから成る。Saccharomyces属は大体500の別個の種を包含し、これらの多くは食糧産生において使用されている。一例となる種はSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)であって、これは一般的に「醸造者の酵母」または「パン職人の酵母」と称され、他の製品の中でもワイン、パン、ビールの産生に使用されている。Saccharomyces属の他のメンバーは、限定せずに、S.cerevisiaeと近縁である野生の酵母Saccharomyces paradoxus;Saccharomyces bayanus、Saccharomyces pastorianus、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces cerevisiae var boulardii、Saccharomyces eubayanusを包含する。いくつかの態様において、酵母は、Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)である。
【0149】
Saccharomyces種は、1倍体(すなわち、単一の染色体一式を有する)、2倍体(すなわち、対をなす染色体一式を有する)、または倍数体(すなわち、2より多くの相同の染色体一式を持つもしくは含有する)であってもよい。使用されるSaccharomyces種(例えば、ビール醸造用)は、典型的には、2つの群:上面発酵するエール株(例として、S.cerevisiae)と、下面発酵するラガー株(例として、S.pastorianus、S.carlsbergensis、S.uvarum)とに分類される。これらの特徴付けは、蓋がない四角い発酵槽におけるそれらの分離特徴、ならびにしばしば、好ましい発酵温度および達成されるアルコール濃度などの他の特徴を反映する。
【0150】
ビール醸造およびワイン産生は伝統的にS.cerevisiae株の使用に重点を置いていたが、他の酵母種および属も発酵飲料の産生において高く評価されている(appreciated)。いくつかの態様において、酵母細胞は、非Saccharomyces属に属する。例として、Crauwels et al.Brewing Science(2015)68:110-121;Esteves et al.Microorganisms(2019)7(11):478を見よ。いくつかの態様において、酵母細胞は、属Kloeckera、Candida、Starmerella、Hanseniaspora、Kluyveromyces/Lachance、Metschnikowia、Saccharomycodes、Zygosaccharomyce、Dekkera(またBrettanomycesとも称される)、Wickerhamomyces、またはTorulasporaから成る。非Saccharomyces酵母の例は、限定せずに、Hanseniaspora uvarum、Hanseniaspora guillermondii、Hanseniaspora vinae、Metschnikowia pulcherrima、Kluyveromyces/Lachancea thermotolerans、Starmerella bacillaris(これまでにCandida stellata/Candida zemplininaと称されていた)、Saccharomycodes ludwigii、Zygosaccharomyces rouxii、Dekkera bruxellensis、Dekkera anomala、Brettanomyces custersianus、Brettanomyces naardenensis、Brettanomyces nanus、Wickerhamomyces anomalus、およびTorulaspora delbrueckiiを包含する。
【0151】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴う。例えば、いくつかの態様において、方法は、属Saccharomycesに属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、非Saccharomyces属に属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母の使用を伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、属Saccharomycesに属する1より多くの遺伝子学的に修飾された酵母と、非Saccharomyces属に属する1つの遺伝子学的に修飾された酵母との使用を伴っていてもよい。代わりにまたは加えて、本明細書に記載の方法のいずれも、1以上の遺伝子学的に修飾された酵母と、1以上の遺伝子学的に修飾されていない(野生型)酵母との使用を伴っていてもよい。
【0152】
いくつかの態様において、酵母は、ハイブリッド株である。当業者には明白なとおり、酵母の「ハイブリッド株」という用語は、例えば、1以上の所望される特徴を獲得するため、2つの異なる酵母株の交配の結果として生じた酵母株を指す。例えば、ハイブリッド株は、同じ属または同じ種に属する2つの異なる酵母株の交配の結果として生じたものであってもよい。いくつかの態様において、ハイブリッド株は、Saccharomyces cerevisiae株とSaccharomyces eubayanus株との交配の結果として生じたものである。例として、Krogerus et al.Microbial Cell Factories(2017)16:66を見よ。
【0153】
いくつかの態様において、酵母株は、天然の供給源から単離され続いて増殖させられた酵母株などの、野生の酵母株である。代わりに、いくつかの態様において、酵母株は、環境に適応した(domesticated)酵母株である。環境に適応した酵母株は、所望される特徴を有するためヒトによる選択および品種改良(breeding)に供されている。
【0154】
いくつかの態様において、遺伝子学的に修飾された酵母細胞は、他の酵母または菌株と共生のマトリックスにおいて使用されてもよい。酵母細胞および菌株の共生のマトリックスは、例えば、コンブチャ、ケフィア、およびジンジャービールなどの発酵飲料の産生のために使用されてもよい。Saccharomyces fragilisは、例えば、ケフィア培養物の一部であって、ホエイに含有されるラクトースで成長させられる。遺伝子学的に修飾された酵母細胞との共生のマトリックスにおいて使用されてもよい他の菌株は、Bifidobacterium animalis亜種lactis、Bifidobacterium breve、属Lactobacillusの細菌、および属Pediococcusの細菌を包含する。
【0155】
多くの発酵飲料は、S.cerevisiae株を使用して産生されるものの、他の酵母属も発酵飲料の産生において歓迎されており、修飾された酵母細胞との共生のマトリックスにおいて使用されてもよい。いくつかの態様において、他の酵母細胞は、非Saccharomyces属に属する。例として、Crauwels et al.Brewing Science(2015)68:110-121; Esteves et al.Microorganisms(2019)7(11):478を見よ。いくつかの態様において、他の酵母細胞は、属Kloeckera、Candida、Starmerella、Hanseniaspora、Kluyveromyces/Lachance、Metschnikowia、Saccharomycodes、Zygosaccharomyce、Dekkera(またBrettanomycesとも称される)、Wickerhamomyces、またはTorulasporaから成る。非Saccharomyces酵母の例は、限定せずに、Hanseniaspora uvarum、Hanseniaspora guillermondii、Hanseniaspora vinae、Metschnikowia pulcherrima、Kluyveromyces/Lachancea thermotolerans、Starmerella bacillaris(これまでにCandida stellata/Candida zemplininaと称される)、Saccharomycodes ludwigii、Zygosaccharomyces rouxii、Dekkera bruxellensis、Dekkera anomala、Brettanomyces custersianus、Brettanomyces naardenensis、Brettanomyces nanus、Wickerhamomyces anomalus、およびTorulaspora delbrueckiiを包含する。
【0156】
酵母細胞を遺伝子学的に修飾する方法は、当該技術分野において知られている。いくつかの態様において、酵母細胞が2倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが、酵母ゲノム中へ導入される。
【0157】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であり、本明細書に記載のとおりの脂肪酸シンターゼ活性のある酵素をコードする遺伝子の1コピーが、酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一の脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、脂肪酸シンターゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。いくつかの態様において、細胞は、内在性遺伝子と称される、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子を含有しており、また第2の脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子も含有しており、これは、内在性遺伝子によってコードされるものと同じであってもよく、または異なる脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素であってもよい。
【0158】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であり、本明細書に記載のとおりの転写因子(例として、調節解除された転写因子)をコードする遺伝子の1コピーが、酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一の転写因子または同一の活性もしくは実質的に同様の活性を有する転写因子をコードする。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、異なる転写因子(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0159】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であり、本明細書に記載のとおりのアシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが、酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一のアシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0160】
いくつかの態様において、酵母細胞は2倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子の1コピーが、酵母ゲノムの両コピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0161】
いくつかの態様において、酵母細胞は、4倍体である。4倍体の酵母細胞は、4つの完全な染色体一式(すなわち、4コピーの完全な染色体一式)を維持する細胞である。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの1より多くのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの4つすべてのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではないが、遺伝子は、同一の脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子のコピーは同一ではなく、かつ遺伝子は、脂肪酸シンターゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。いくつかの態様において、細胞は、内在性遺伝子と称される、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子を含有しており、また内在性遺伝子によってコードされるのと同じまたは異なる脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素であってもよい、脂肪酸ヒドロキシラーゼ活性のある酵素をコードする遺伝子の1以上の追加のコピーも含有している。
【0162】
いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの転写因子(例として、調節解除された転写因子)をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの転写因子をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの1より多くのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりの転写因子をコードする遺伝子のコピーは、ゲノムの4つすべてのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは同一ではないが、その遺伝子は、同一の転写因子または同一のもしくは実質的に同様の活性を有する転写因子をコードする。いくつかの態様において、遺伝子のコピーは同一ではなく、かつその遺伝子は、異なる転写因子(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0163】
いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの1より多くのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞は4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアシル-CoAデサチュラーゼ1活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーは、ゲノムの4つすべてのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、その遺伝子は、同一のアシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、かつその遺伝子は、アシル-CoAデサチュラーゼ1活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0164】
いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの少なくとも1つのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの1より多くのコピー中へ導入される。いくつかの態様において、酵母細胞が4倍体であり、本明細書に記載のとおりのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性のある酵素をコードする異種遺伝子のコピーが、ゲノムの4コピーすべてに導入される。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは、同一である。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではないが、前記遺伝子は、同一のアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする。いくつかの態様において、異種遺伝子のコピーは同一ではなく、遺伝子は、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ活性を有する異なる酵素(例として、突然変異体、バリアント、それらのフラグメント)をコードする。
【0165】
いくつかの態様において、修飾された細胞の成長速度は、第1の異種遺伝子および第2の外来性遺伝子を含まない野生型酵母細胞と比べて実質的に損なわれていない。2細胞の成長速度を測定して比較する方法は、当業者に知られているであろう。2タイプの細胞間で測定、比較され得る成長速度の非限定例は、複製速度、出芽速度、単位時間あたりに産生されるコロニー形成単位(CFU)、および単位時間あたりに低減される培地中の発酵性糖の量である。修飾された細胞の成長速度は、測定されるとおりの成長速度が、野生型細胞の成長速度の少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも100%である場合、野生型細胞と比べて「実質的に損なわれていない」。
【0166】
本明細書に記載の方法で使用されてもよい酵母細胞の株は、当業者に知られているであろう。そして前記株は、所望される発酵飲料を醸造するために使用される酵母株、ならびに市販の酵母株を包含する。一般的なビール株の例は、限定せずに、American ale株、Belgian ale株、British ale株、Belgian lambic/sour ale株、Barleywine/Imperial Stout株、India Pale Ale株、Brown Ale株、Kolsch and Altbier株、Stout and Porter株、Wheat beer株を包含する。
【0167】
本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための株の非限定例は、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs San Francisco Lager WLP810、White Labs Neutral Grain WLP078、Lallemand American West Coast Ale BRY-97、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Brewferm Top、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Real Brewers Yeast Lucky #7、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、East Coast Yeast Old Newark Ale ECY10、East Coast Yeast Old Newark Beer ECY12、Fermentis Safale US-05、Fermentis Safbrew T-58、Real Brewers Yeast The One、Mangrove Jack US West Coast Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Lallemand Abbaye Belgian Ale、White Labs Abbey IV WLP540、White Labs American Farmhouse Blend WLP670、White Labs Antwerp Ale WLP515、East Coast Yeast Belgian Abbaye ECY09、White Labs Belgian Ale WLP550、Mangrove Jack Belgian Ale Yeast、Wyeast Belgian Dark Ale 3822-PC、Wyeast Belgian Saison 3724、White Labs Belgian Saison I WLP565、White Labs Belgian Saison II WLP566、White Labs Belgian Saison III WLP585、Wyeast Belgian Schelde Ale 3655-PC、Wyeast Belgian Stout 1581-PC、White Labs Belgian Style Ale Yeast Blend WLP575、White Labs Belgian Style Saison Ale Blend WLP568、East Coast Yeast Belgian White ECY11、Lallemand Belle Saison、Wyeast Biere de Garde 3725-PC、White Labs Brettanomyces Bruxellensis Trois Vrai WLP648、Brewferm Top、Wyeast Canadian/Belgian Ale 3864-PC、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Wyeast Farmhouse Ale 3726-PC、East Coast Yeast Farmhouse Brett ECY03、Wyeast Flanders Golden Ale 3739-PC、White Labs Flemish Ale Blend WLP665、White Labs French Ale WLP072、Wyeast French Saison 3711、Wyeast Leuven Pale Ale 3538-PC、Fermentis Safbrew T-58、East Coast Yeast Saison Brasserie Blend ECY08、East Coast Yeast Saison Single-Strain ECY14、Real Brewers Yeast The Monk、Siebel Inst. Trappist Ale BRY 204、East Coast Yeast Trappist Ale ECY13、White Labs Trappist Ale WLP500、Wyeast Trappist Blend 3789-PC、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast British Cask Ale 1026-PC、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast Irish Ale 1084、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Ringwood Ale 1187、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、Mangrove Jack British Ale Yeast、Mangrove Jack Burton Union Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、East Coast Yeast British Mild Ale ECY18、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、East Coast Yeast Burton Union ECY17、East Coast Yeast Old Newark Ale ECY10、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs English Ale Blend WLP085、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Irish Ale WLP004、White Labs London Ale WLP013、White Labs Manchester Ale WLP038、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs Whitbread Ale WLP017、White Labs North Yorkshire Ale WLP037、Coopers Pure Brewers' Yeast、Siebel Inst. English Ale BRY 264、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Lallemand Nottingham、Fermentis Safale S-04、Fermentis Safbrew T-58、Lallemand Windsor(British Ale)、Real Brewers Yeast Ye Olde English、Brewferm Top、White Labs American Whiskey WLP065、White Labs Dry English Ale WLP007、White Labs Edinburgh Ale WLP028、Fermentis Safbrew S-33、Wyeast Scottish Ale 1728、East Coast Yeast Scottish Heavy ECY07、White Labs Super High Gravity WLP099、White Labs Whitbread Ale WLP017、Wyeast Belgian Lambic Blend 3278、Wyeast Belgian Schelde Ale 3655-PC、Wyeast Berliner-Weisse Blend 3191-PC、Wyeast Brettanomyces Bruxellensis 5112、Wyeast Brettanomyces Lambicus 5526、Wyeast Lactobacillus 5335、Wyeast Pediococcus Cerevisiae 5733、Wyeast Roeselare Ale Blend 3763、Wyeast Trappist Blend 3789-Pc、White Labs Belgian Sour Mix Wlp655、White Labs Berliner Weisse Blend Wlp630、White Labs Saccharomyces “Bruxellensis”Trois Wlp644、White Labs Brettanomyces Bruxellensis Wlp650、White Labs Brettanomyces Claussenii Wlp645、White Labs Brettanomyces Lambicus Wlp653、White Labs Flemish Ale Blend Wlp665、East Coast Yeast Berliner Blend Ecy06、East Coast Yeast Brett Anomala Ecy04、East Coast Yeast Brett Bruxelensis Ecy05、East Coast Yeast Brett Custersianus Ecy19、East Coast Yeast Brett Nanus Ecy16、Strain #2、East Coast Yeast BugCounty ECY20、East Coast Yeast BugFarm ECY01、East Coast Yeast Farmhouse Brett ECY03、East Coast Yeast Flemish Ale ECY02、East Coast Yeast Oud Brune ECY23、Wyeast American Ale 1056、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bourbon Yeast WLP070、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs Dry English ale WLP007、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs Neutral Grain WLP078、White Labs Super High Gravity WLP099、White Labs Tennessee WLP050、Fermentis US-05、Real Brewers Yeast Lucky #7、Fermentis Safbrew S-33、East Coast Yeast Scottish Heavy ECY07、Lallemand Windsor(British Ale)、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs English Ale WLP002、White Labs London Ale WLP013、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs San Diego Super Yeast WLP090、White Labs Whitbread Ale WLP017、Brewferm Top、Mangrove Jack Burton Union Yeast、Mangrove Jack US West Coast Yeast、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Fermentis Safale S-04、Fermentis Safbrew T-58、Real Brewers Yeast Lucky #7、Real Brewers Yeast The One、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、East Coast Yeast Northeast Ale ECY29、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、Wyeast British Cask Ale 1026-PC、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs British Ale WLP005、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs French Ale WLP072、White Labs London Ale WLP013、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs Whitbread Ale WLP017、Brewferm Top、East Coast Yeast British Mild Ale ECY18、Coopers Pure Brewers' Yeast、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Mangrove Jack Newcastle Dark Ale Yeast、Lallemand CBC-1(Cask and Bottle Conditioning)、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Fermentis Safale S-04、Fermentis US-05、Siebel Inst. American Ale BRY 96、Wyeast American Wheat 1010、Wyeast German Ale 1007、Wyeast Koelsch 2565、Wyeast Kolsch II 2575-PC、White Labs Belgian Lager WLP815、White Labs Dusseldorf Alt WLP036、White Labs European Ale WLP011、White Labs German Ale/Koelsch WLP029、East Coast Yeast Koelschbier ECY21、Mangrove Jack Workhorse Beer Yeast、Siebel Inst. Alt Ale BRY 144、Wyeast American Ale 1056、Wyeast American Ale II 1272、Wyeast British Ale 1098、Wyeast British Ale II 1335、Wyeast Denny's Favorite 50 1450、Wyeast English Special Bitter 1768-PC、Wyeast Irish Ale 1084、Wyeast London Ale 1028、Wyeast London Ale III 1318、Wyeast London ESB Ale 1968、Wyeast Northwest Ale 1332、Wyeast Ringwood Ale 1187、Wyeast Thames Valley Ale 1275、Wyeast Thames Valley Ale II 1882-PC、Wyeast West Yorkshire Ale 1469、Wyeast Whitbread Ale 1099、White Labs American Ale Yeast Blend WLP060、White Labs Bedford British Ale WLP006、White Labs British Ale WLP005、White Labs Burton Ale WLP023、White Labs California Ale V WLP051、White Labs California Ale WLP001、White Labs East Coast Ale WLP008、White Labs East Midlands Ale WLP039、White Labs English Ale WLP002、White Labs Essex Ale Yeast WLP022、White Labs Irish Ale WLP004、White Labs London Ale WLP013、White Labs Old Sonoma Ale WLP076、White Labs Pacific Ale WLP041、White Labs Whitbread Ale WLP017、Coopers Pure Brewers' Yeast、Fermentis US-05、Muntons Premium Gold、Muntons Standard Yeast、Fermentis Safale S-04、Lallemand Nottingham、Lallemand Windsor(British Ale)、Siebel Inst. American Ale BRY 96、White Labs American Hefeweizen Ale 320、White Labs Bavarian Weizen Ale 351、White Labs Belgian Wit Ale 400、White Labs Belgian Wit Ale II 410、White Labs Hefeweizen Ale 300、White Labs Hefeweizen IV Ale 380、Wyeast American Wheat 1010、Wyeast Bavarian Wheat 3638、Wyeast Bavarian Wheat Blend 3056、Wyeast Belgian Ardennes 3522、Wyeast Belgian Wheat 3942、Wyeast Belgian Witbier 3944、Wyeast Canadian/Belgian Ale 3864-PC、Wyeast Forbidden Fruit Yeast 3463、Wyeast German Wheat 3333、Wyeast Weihenstephan Weizen 3068、Siebel Institute Bavarian Weizen BRY 235、Fermentis Safbrew WB-06、Mangrove Jack Bavarian Wheat、Lallemand Munich(German Wheat Beer)、Brewferm Blanche、Brewferm Lager、East Coast Yeast Belg
ian White ECY11を包含する。いくつかの態様において、酵母は、S.cerevisiae株である。
【0168】
いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための酵母株は、ワイン酵母株である。本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞および方法での使用のための酵母株の例は、限定せずに、Red Star Montrachet、EC-1118、Elegance、Red Star Cote des Blancs、Epernay II、Red Star Premier Cuvee、Red Star Pasteur Red、Red Star Pasteur Champagne、Fermentis BCS-103、およびFermentis VR44を包含する。いくつかの態様において、酵母は、S.cerevisiae株Eleganceである。
いくつかの態様において、酵母株は、Yarrowia lipolyticaではない。
【0169】
方法
本開示の側面は、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞のいずれかを使用して、発酵産物を産生する方法に関する。また提供されるのには、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された酵母細胞のいずれかを使用して、エタノールを産生する方法もある。
【0170】
発酵のプロセスは、炭水化物を変換してアルコールおよび二酸化炭素にする微生物を使用する天然のプロセスを活用する。これは、酵素的作用を通して有機基質における化学的変化を産生する代謝プロセスである。食糧産生という文脈において、発酵は広く、微生物の活性が所望の変化を食品または飲料へもたらす、いずれのプロセスも指す。発酵の条件および発酵の実行は本明細書中、「発酵プロセス」として言及される。
【0171】
いくつかの側面において、本開示は、最初の発酵プロセスの最中に、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを、少なくとも1つの発酵性糖を含む培地と接触させることで、発酵産物を産生することを伴う、発酵飲料などの発酵産物を産生する方法に関する。「培地」は、本明細書に使用されるとき、発酵に資する液体を指し、発酵プロセスを阻害も防止もしない液体を意味する。いくつかの態様において、培地は、水である。
【0172】
また本明細書にも使用されるとおり、用語「発酵性糖」は、本明細書に記載の細胞のいずれかなどの微生物によって変換されてアルコールおよび二酸化炭素になり得る炭水化物を指す。いくつかの態様において、発酵性糖は、組換え酵素などの酵素または前記酵素を発現する細胞によって変換されて、アルコールおよび二酸化炭素になる。発酵性糖の例は、限定せずに、グルコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースを包含する。
【0173】
いくつかの態様において、発酵性糖は、糖源において提供される。クレームされた方法における使用のための糖源は、例えば、発酵産物および発酵性糖のタイプに依存してもよい。糖源の例は、限定せずに、麦芽汁、穀物/穀草類、果汁(例として、ブドウ果汁およびリンゴ果汁/林檎酒)、蜂蜜、甘蔗糖、米、および麹を包含する。果汁が得られ得る果実の例は、限定せずに、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー、スグリ、イチゴ、サクランボ、セイヨウナシ、モモ、ネクタリン、オレンジ、パイナップル、マンゴー、およびパッションフルーツを包含する。
【0174】
本開示の側面は、ヒト対象にとって具体的な媒体中のにおい閾値を上回るレベルのγ-デカラクトンを産生することが可能である修飾された酵母細胞に関する。当業者には当然のことながら、γ-デカラクトンのにおい閾値は、水と比較して、媒体(例として、ワインまたはビール)に依存して変動してもよい。例えば、ワインにおけるγ-デカラクトンのにおい閾値は、ヒト対象にとって約35μg/Lである。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、少なくとも35μg/Lのγ-デカラクトンレベルを産生することが可能である。本明細書に記載のとおり、本明細書に記載の修飾された酵母細胞を使用する発酵は、1以上の発酵性糖がある中で実施される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞を使用する発酵は、γ-デカラクトン生合成経路の中間体分子がない中で実施される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞を使用する発酵は、γ-デカラクトン生合成経路の脂肪酸中間体がない中で実施される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞を使用する発酵は、媒体中にオレイン酸またはリシンオレイン酸のない中で実施される。
【0175】
いくつかの態様において、発酵性糖を含む媒体は、予め酸素が含まされている。当業者には明白であろうが、予め酸素が含まされるのは、培養物中の微生物に利用可能な酸素を増加させるために酸素ガスを培養培地へ導入するプロセスである。いくつかの態様において、培養培地は、酵母での接種に先立ち、予め酸素が含まされる。予め酸素が含まされている培地中へ接種された微生物は、利用可能な酸素を迅速に消費して、発酵産物の産生を増大させることができる。
【0176】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、嫌気環境または半嫌気環境において培養される。嫌気性の細胞培養は、利用可能な酸素のない環境において、修飾された酵母細胞などの微生物を培養する技法を指す。半嫌気性の細胞培養は、予め酸素が含まされている培地中などの、酸素利用可能性が限定された環境において、修飾された酵母細胞などの微生物を培養する技法を指す。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、嫌気環境において培養されない。
【0177】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、好気環境において培養される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された酵母細胞は、酸素利用可能性が時間的に限定されるように、ある期間好気環境において培養される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、一部の発酵プロセスのために好気環境において培養される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、好気環境において、少なくとも30分間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、36時間、48時間、またはそれより長く培養される。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、発酵プロセスの一部のための好気環境において培養され、これに続き発酵プロセスの一部のための嫌気(anaerobic)環境において培養される。
【0178】
いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、発酵プロセスの一部のための好気環境において培養され、これに続き発酵プロセスの一部のための嫌気(anerobic)環境において培養される。
【0179】
当業者には明白なとおり、いくつかの場合において、発酵に対し発酵性糖を利用可能にさせるために糖源を処理することは、必要となることもある。発酵飲料の一例としてビールの産生を使用すると、穀物(穀草類、大麦)は、水中で煮られるかまたは浸され、これによって穀物が水和されて麦芽酵素が活性化され、デンプンが発酵性糖へ変換されるが、これを「糖化(mashing)」と称する。本明細書に使用されるとき、用語「麦芽汁」は、糖化プロセスにおいて産生され、発酵性糖を含有する液体を指す。次いで麦芽汁は、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素が麦芽汁中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0180】
いくつかの態様において、穀物は、麦芽化されているか(malted)、非麦芽化されているか(unmalted)、または麦芽化穀物と非麦芽化穀物との組み合わせを含む。本明細書に記載の方法における使用のための穀物の例は、限定せずに、大麦、燕麦、トウモロコシ、米、ライ麦、モロコシ、小麦、カラスムギ、およびハトムギを包含する。
【0181】
日本酒を産生する例において、糖源は米であり、米は、麹菌(Aspergillus oryzae)とインキュベートされて米デンプンが発酵性糖へ変換され、麹が産生される。麹は次いで、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素が麹中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0182】
ワインを産生する例において、ブドウは収穫され、すりつぶされて(mashed)(例として、圧搾されて(crushed))、果皮(skins)、果肉(solids)、果汁(juice)、および種子(seeds)を含有する組成物になる。その結果得られた組成物は「果醪」と称される。ブドウ果汁は、果醪から分離されて発酵させられてもよく、または果醪(すなわち、果皮、種子、果肉)全体が発酵させられてもよい。ブドウ果汁または果醪は次いで、発酵性生物(例として、本明細書に記載の細胞のいずれか)へ曝露され、これによって発酵性生物の酵素がブドウ果汁または果醪中の糖をアルコールおよび二酸化炭素へ変換することが可能になる。
【0183】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、糖源を、例えば水中で、加熱するかまたは浸すことを伴ってもよい、培地を産生することを伴う。いくつかの態様において、水は、少なくともセ氏50度(50℃)の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。いくつかの態様において、水は、少なくとも75℃の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。いくつかの態様において、水は、少なくとも100℃の温度を有し、ある期間の糖源とインキュベートされる。好ましくは、培地は、本明細書に記載の細胞のいずれかの添加に先立ち、冷却される。
【0184】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、発酵プロセスの最中に、少なくとも1つの(例として、1、2、3、4、5、またはそれより多くの)ホップ品種を、例えば培地へ、麦芽汁へ加えることをさらに含む。ホップは、ホップ植物(Humulus lupulus)の花であり、様々なフレーバーおよび芳香を発酵産物に付与するようにしばしば発酵において使用される。ホップは、フローラルの、フルーティな、および/または柑橘類のフレーバーならびに芳香に加えて、苦味のあるフレーバリング(flavoring)を付与するものと見なされ、本来の目的に基づき特徴付けられてもよい。例えば、苦味をもたらすホップは、ホップ花におけるアルファ酸の存在に起因して、あるレベルの苦味を発酵産物に付与するが、その一方で芳香性のホップは、より低レベルのアルファ酸を有し、発酵産物への所望の芳香およびフレーバーに寄与する。
【0185】
ホップの1以上の品種が培地および/または麦芽汁へ加えられるかどうか、ならびにホップが加えられるのがどのステージにて行われるかは、ホップの本来の目的などの様々な因子に基づいてもよい。例えば、苦味を発酵産物に付与することを意図したホップは、典型的には、麦芽汁の調製の最中に、例えば、麦芽汁を煮る最中に、加えられる。いくつかの態様において、苦味を発酵産物に付与することを意図したホップは、麦芽汁へ加えられて、ある期間、例えば、約15~60分間、麦芽汁とともに煮られる。対照的に、所望される芳香を発酵産物に付与することを意図したホップは、典型的には、苦味のために使用されたホップより後に加えられる。いくつかの態様において、所望される芳香を発酵産物に付与することを意図したホップは、煮沸の終了時、または麦芽汁が煮られた後に加えられる(すなわち、「ドライホッピング」)。いくつかの態様において、ホップの1以上の品種は、方法の最中、複数回(例として、少なくとも2度、少なくとも3回、またはそれより多く)にて加えられてもよい。
【0186】
いくつかの態様において、ホップは、ウェットな(wet)ホップまたは乾燥したホップのいずれかの形態で加えられて、任意に、麦芽汁と煮沸されてもよい。いくつかの態様において、ホップは、乾燥したホップペレットの形態である。いくつかの態様において、ホップの少なくとも1つの品種は、培地へ加えられる。いくつかの態様において、ホップは、ウェットである(すなわち、乾燥していない)。いくつかの態様において、ホップは乾燥しており、任意に、使用に先立ちさらに処理されてもよい。いくつかの態様において、ホップは、発酵プロセスに先立ち麦芽汁へ加えられる。いくつかの態様において、ホップは、麦芽汁中で煮沸される。いくつかの態様において、ホップは、麦芽汁とともに煮沸され、次いで麦芽汁とともに冷却される。
【0187】
ホップの多くの品種は、当該技術分野において知られており、本明細書に記載の方法において使用されてもよい。ホップ品種の例は、限定せずに、Ahtanum、Amarillo、Apollo、Cascade、Centennial、Chinook、Citra、Cluster、Columbus、Crystal/Chrystal、Eroica、Galena、Glacier、Greenburg、Horizon、Liberty、Millennium、Mosaic、Mount Hood、Mount Rainier、Newport、Nugget、Palisade、Santiam、Simcoe、Sterling、Summit、Tomahawk、Ultra、Vanguard、Warrior、Willamette、Zeus、Admiral、Brewer's Gold、Bullion、Challenger、First Gold、Fuggles、Goldings、Herald、Northdown、Northern Brewer、Phoenix、Pilot、Pioneer、Progress、Target、Whitbread Golding Variety(WGV)、Hallertau、Hersbrucker、Saaz、Tettnang、Spalt、Feux-Coeur Francais、Galaxy、Green Bullet、Motueka、Nelson Sauvin、Pacific Gem、Pacific Jade、Pacifica、Pride of Ringwood、Riwaka、Southern Cross、Lublin、Magnum、Perle、Polnischer Lublin、Saphir、Satus、Select、Strisselspalt、Styrian Goldings、Tardif de Bourgogne、Tradition、Bravo、Calypso、Chelan、Comet、El Dorado、San Juan Ruby Red、Sonnet Golding、Super Galena、Tillicum、Bramling Cross、Pilgrim、Hallertauer Herkules、Hallertauer Magnum、Hallertauer Taurus、Merkur、Opal、Smaragd、Halleratau Aroma、Kohatu、Rakau、Stella、Sticklebract、Summer Saaz、Super Alpha、Super Pride、Topaz、Wai-iti、Bor、Junga、Marynka、Premiant、Sladek、Styrian Atlas、Styrian Aurora、Styrian Bobek、Styrian Celeia、Sybilla Sorachi Ace、Hallertauer Mittelfrueh、Hallertauer Tradition、Tettnanger、Tahoma、Triple Pearl、Yakima Gold、and Michigan Copperを包含する。
【0188】
いくつかの態様において、少なくとも1つの発酵性糖を含む少なくとも1つの糖源の発酵プロセスは、約1日間~約31日間実行されてもよい。いくつかの態様において、発酵プロセスは、約1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、30日間、31日間、またはこれより長い間実施される。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約4℃~約30℃の温度にて実施されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約8℃~約14℃または約18℃~約24℃の温度にて実行されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の発酵プロセスは、約4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、または30℃の温度にて実施されてもよい。
【0189】
いくつかの態様において、発酵は、培地に存在する発酵性糖の量の低減をもたらす。いくつかの態様において、発酵性糖の量における低減は、発酵の開始から1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、30日間、31日間以内、またはこれより長い期間以内に生じる。いくつかの態様において、発酵性糖の量は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%、または100%まで低減される。いくつかの態様において、修飾された細胞(単数または複数)は、同じ時間(amount of time)で野生型酵母細胞によって発酵された発酵性糖の量と比べて、匹敵するかまたはより多くの量の発酵性糖を発酵する。
【0190】
本明細書に記載の方法は、少なくとも1つの追加の発酵プロセスを伴っていてもよい。かかる追加の発酵方法は、2次発酵プロセスと称されてもよい(また「熟成(aging)」または「成熟(maturing)」とも称される)。当業者によって理解されるとおり、2次発酵は、典型的には、発酵飲料を、発酵飲料がある期間インキュベートされる第2の入れ物(例として、ガラスカーボイ、樽)へ移すことを伴う。いくつかの態様において、2次発酵は、10分間と12カ月間との間の期間実施される。いくつかの態様において、2次発酵は、10分間、20分間、40分間、40分間、50分間、60分間(1時間)、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、7カ月間、8カ月間、9カ月間、10カ月間、11カ月間、12カ月間、またはこれより長く実施される。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約4℃~約30℃の温度にて実施されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約8℃~約14℃または約18℃~約24℃の温度にて実行されてもよい。いくつかの態様において、1以上の発酵性糖の、追加のまたは2次の発酵プロセスは、約4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、または30℃の温度にて実施されてもよい。
【0191】
当業者には明白なとおり、追加のまたは2次発酵プロセスのための期間および温度の選択は、ビールのタイプ、所望されるビールの特徴、および方法に使用される酵母株などの因子に依存するであろう。
【0192】
いくつかの態様において、1以上の追加のフレーバー構成要素は、発酵プロセスに先立ち、または発酵プロセス後に、培地へ加えられてもよい。例は、ホップ油、ホップ芳香族化合物、ホップ抽出物、ホップの苦味、および異性体化ホップ抽出物を包含する。
【0193】
発酵プロセスからの産物は、発酵プロセスの間にまたは発酵産物から揮発し消散することがある。例えば、本明細書に記載の細胞を使用して発酵の間に産生されたγ-デカラクトンは、揮発することもあり、発酵産物において低減されたレベルのγ-デカラクトンがもたらされる。いくつかの態様において、揮発したγ-デカラクトンは、発酵プロセス後に捕捉されて再導入される。
【0194】
発酵に続き、様々な純化(refinement)、濾過、および熟成のプロセスが存在していてもよく、その後に液体が瓶に詰められる(例として、配布、保管、または飲食のための容器中に留めて密封される)。本明細書に記載の方法のいずれかは、発酵産物を蒸留すること、低温殺菌すること、および/または炭酸ガスを入れることをさらに伴っていてもよい。いくつかの態様において、方法は、発酵産物に炭酸ガスを入れることを伴う。発酵飲料に炭酸ガスを入れる方法は、当該技術分野において知られており、例えば、ガス(例として、二酸化炭素、窒素)での強制炭酸化、さらなる発酵および二酸化炭素の産生を促進するためにさらなる糖源を発酵飲料へ加えることによる自然炭酸化(例として、瓶の状態調節(conditioning))を包含する。
【0195】
いくつかの態様において、方法は、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかによって産生された発酵産物を、発酵産物(例として、本明細書に記載の酵素のいずれかを発現するよう修飾されていない細胞を使用して産生された発酵産物)と混合することを伴う。いくつかの態様において、本明細書に記載の修飾された細胞は、増大したレベルのγ-デカラクトンを含む産物を産生するために使用されるが、前記産物は続いて、本明細書に記載のとおりに(例えば、γ-デカラクトンのレベルを増大するように)修飾されていない細胞を使用して産生された発酵産物と混合されてもよい。
【0196】
発酵産物
本開示の側面は、本明細書に開示の方法のいずれかによって産生された発酵産物に関する。いくつかの態様において、発酵産物は、発酵飲料である。発酵飲料の例は、限定せずに、ビール、ワイン、日本酒、蜂蜜酒、林檎酒、カヴァ、スパークリングワイン(シャンパン)、コンブチャ、ジンジャービール、ウォーターケフィア(water kefir)を包含する。いくつかの態様において、飲料は、ビールである。いくつかの態様において、飲料は、ワインである。いくつかの態様において、飲料は、スパークリングワインである。いくつかの態様において、飲料は、シャンパンである。いくつかの態様において、飲料は、日本酒である。いくつかの態様において、飲料は、蜂蜜酒である。いくつかの態様において、飲料は、林檎酒である。いくつかの態様において、飲料は、ハードセルツァーである。いくつかの態様において、飲料は、ワインクーラーである。
【0197】
いくつかの態様において、発酵産物は、発酵食品である。発酵食品の例は、限定せずに、カルチャード(cultured)ヨーグルト、テンペ、みそ、キムチ、ザウアークラウト、発酵ソーセージ、パン、およびしょうゆを包含する。
【0198】
本発明の側面に従うと、増加した力価のγ-デカラクトンは、酵母細胞および本明細書に記載の方法における前記細胞の使用において、本発明に関連する遺伝子の組換え発現を通して産生される。本明細書に使用されるとき、「増加した力価」または「高い力価」は、リットル当たりのマイクログラム(μg L-1)スケールでの力価を指す。所定の産物に対して産生された力価は、発酵のための培地および条件の選択を包含する、複数の因子による影響が及ぼされるであろう。
【0199】
いくつかの態様において、γ-デカラクトンの力価は、少なくとも1μg L-1、例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000μg L-1、またはそれ以上である。いくつかの態様において、γ-デカラクトンの力価は、少なくとも1.05、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10g L-1、またはそれ以上である。
【0200】
いくつかの態様において、γ-デカラクトンの力価は、ヒト対象に検出可能であり、例として、ヒト対象のにおい閾値を上回る。いくつかの態様において、γ-デカラクトンの力価は、ワイン中のγ-デカラクトンに対するヒト対象のにおい閾値であると典型的には見なされている、少なくとも約35μg L-1である。
【0201】
本開示の側面は、酢酸エチルなどの望ましくない産物(例として、副産物、オフフレーバー)の産生を、産物の発酵の間に低減させることに関する。いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子学的に修飾された細胞における、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、アシル-CoAデサチュラーゼ1、および/またはアルコール-O-アシルトランスフェラーゼなどの本明細書に記載の酵素のいずれかの発現は、野生型酵母細胞または酵素を発現しない酵母細胞の使用による望ましくない産物(例として、酢酸エチル)の産生と比べて、望ましくない産物の産生における約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上までの低減をもたらす。
【0202】
本明細書に記載のとおり、酢酸エチルの産生は、溶媒様芳香を発酵産物へ付与し得る。いくつかの態様において、酢酸エチルの力価は、1000mg L-1未満、例えば、1000、950、900、850、800、750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、250、200、150、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.9、0.8、0.7,0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1mg L-1、またはそれ未満である。いくつかの態様において、酢酸エチルの力価は、ヒト検出の限界を下回る。
【0203】
γ-デカラクトンおよび/または酢酸エチルの力価/レベルを測定する方法は、当業者に明白であろう。いくつかの態様において、γ-デカラクトンおよび/または酢酸エチルの力価/レベルは、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を使用して測定される。いくつかの態様において、γ-デカラクトンおよび/または酢酸エチルの力価/レベルは、例えば、ヒト味見係(taste-testers)を包含する、官能パネルを使用して査定される。
【0204】
いくつかの態様において、発酵飲料は、アルコールを0.1%と30%との間の体積まで(また「ABV」、「abv」、もしくは「alc/vol」とも称される)含有する。いくつかの態様において、発酵飲料は、アルコールを、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.07%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2 %、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%の、またはこれより多い体積まで含有する。いくつかの態様において、発酵飲料は、非アルコール性である(例として、アルコールを0.5%未満の体積まで有する)。
【0205】
キット
本開示の側面はまた、例えば、発酵飲料、発酵産物、またはエタノールを産生するための、遺伝子学的に修飾された酵母細胞の使用のためのキットも提供する。いくつかの態様において、キットは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性のある酵素をコードする異種遺伝子を含有する修飾された酵母細胞を含有する。
【0206】
いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子および調節解除された転写因子をコードする遺伝子(例として、ADR1)を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、調節解除された転写因子をコードする遺伝子(例として、ADR1)、およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、調節解除された転写因子をコードする遺伝子(例として、ADR1)、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。いくつかの態様において、修飾された酵母細胞は、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子およびアルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子を発現する。
【0207】
いくつかの態様において、キットは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子を発現する、修飾された酵母細胞を含有する。いくつかの態様において、キットは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する、修飾された酵母細胞を含有する。いくつかの態様において、キットは、脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、アシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)活性を有する酵素をコードする遺伝子、アルコール-O-アシルトランスフェラーゼ(AAT)活性を有する酵素をコードする異種遺伝子、およびADR(例として、ADR S230A)などの調節解除された転写因子をコードする遺伝子を発現する、修飾された酵母細胞を含有する。
【0208】
いくつかの態様において、キットは、発酵飲料の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、ビールの産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、ワインの産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、日本酒の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、蜂蜜酒の産生のためのものである。いくつかの態様において、キットは、林檎酒の産生のためのものである。
【0209】
キットはまた、本明細書に記載の方法のいずれかにおける使用のための、または本明細書に記載のとおりの細胞のいずれかの使用のための、他の構成要素も含んでいることがある。例えば、いくつかの態様において、キットは、穀物、水、麦芽汁、果醪、酵母、ホップ、果汁、または他の糖源(単数もしくは複数)を含有していてもよい。いくつかの態様において、キットは、1以上の発酵性糖を含有していてもよい。いくつかの態様において、キットは、1以上の追加の剤、成分、または構成要素を含有していてもよい。
【0210】
本明細書に記載の方法を実施するための指示もまた、本明細書に記載のキットに包含されていてもよい。
【0211】
キットは、本明細書に記載の修飾された細胞のいずれかを含有する単回使用(single use)組成物を指し示すために整理されていてもよい。例えば、単回使用組成物(例として、使用されることになっている量)は、小包化(packeted)(すなわち、小包に含有された)粉末、バイアル、アンプル、培養管、錠剤、カプレット、カプセル、または液体を含有する小袋(sachets)などの、パッケージ化(packaged)組成物(例として、修飾された細胞)であり得る。
【0212】
組成物(例として、修飾された細胞)は、乾燥形態、凍結乾燥形態、凍結形態、または液体形態で提供されていてもよい。いくつかの態様において、修飾された細胞は、寒天培地上のコロニーとして提供されている。いくつかの態様において、修飾された細胞は、培地中へ直接投入されてもよい種培養の形態で提供される。試薬または構成要素が乾燥形態として提供されたとき、一般に、培地などの溶媒の添加によって再構成される。溶媒は、別のパッケージ化手段において提供されてもよく、当業者によって選択されてもよい。
【0213】
組成物(例として、修飾された細胞)を分配する(dispensing)ための、数多のパッケージまたはキットは、当業者に知られている。ある態様において、パッケージは、ラベル付きのブリスターパッケージ、ダイヤルディスペンサ(dial dispenser)パッケージ、管、小包、ドラム缶、または瓶である。
本明細書に記載のキットのいずれも、カーボイまたは樽などの、本明細書に記載の方法を実施するための1以上の器をさらに含んでいてもよい。
【0214】
一般技法
本開示の主題を実践するには、別様に指し示されない限り、分子生物学(組換え技法を包含する)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学という、当該技術分野の技能の範囲内にある従来の技法が採用されるであろう。かかる技法は、限定されないが、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2012;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.,1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999)などの文献において十分に説明されている。
【0215】
等価物および範囲
本開示は、本明細書にはっきりと記載される具体的な態様のいずれかまたはすべてに限定されないが、もちろんそれ自体変動することもあることは理解されるべきである。本明細書に使用される専門用語は、具体的な態様のみを記載することを目的としており、限定されることは意図していないこともまた、理解されるべきである。
【0216】
別様に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。また、本明細書に記載のものと同様のまたは等価ないずれの方法および材料も、本開示の実践または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料がここに記載されている。
【0217】
本開示に引用されるすべての刊行物および特許は、それら刊行物が引用された方法および/または材料に関係する方法および/または材料を開示かつ記載するために引用される。すべてのかかる刊行物および特許は、あたかも個々の刊行物または特許の各々が参照により組み込まれるよう具体的かつ個々に指し示されるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照によるかかる組み込みは、引用された刊行物および特許に記載の方法および/または材料にはっきりと限定され、引用された刊行物および特許からの、いかなる辞書学的定義にまで及ぶことはない(すなわち、本開示においてもはっきりとは繰り返されていない、引用された刊行物および特許のいかなる辞書学的定義は、そのように扱われるべきではなく、添付のクレームに現れるいずれの用語も定義するものとして読まれるべきではない)。組み込まれた参考文献のいずれかと本開示との間に矛盾が生じた場合、本開示が統制するものとする。加えて、先行技術の範囲内にある本開示のいずれの具体的な態様も、クレームのいずれか1以上から明示的に排除されてもよい。かかる態様は、当業者に知られていると見なされるところ、それらは、排除が明細書中に明示的に表されていない場合であっても、排除されてもよい。先行技術の存在に関するか否かにかかわらず、いずれの理由からも、本開示の任意の具体的な態様は、いずれのクレームからも排除され得る。
【0218】
任意の刊行物の引用は、出願日に先立ちそれを開示するためであって、本開示が先の開示のおかげでかかる刊行物に先行する資格がないという自白として解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の日付は、独立して確認される必要があり得る実際の刊行物の日付とは異なることもある。
【0219】
本開示を読めば当業者には明らかであろうが、本明細書に記載および図示された個々の態様の各々は、本開示の精神または範囲から逸脱せずに他の数種の態様の任意の特色から容易に分離またはこれと組み合わされてもよい、個別の構成要素および特色を有する。列挙された任意の方法は、列挙された事象の順序で、または論理的に実行可能な任意の他の順序で、実行され得る。
【0220】
クレームにおける「a」、「an」、および「the」などの冠詞は、それとは反対に指し示されない限り、または別様に文脈から明白でない限り、1または1より多いことを意味してもよい。本明細書中、代名詞が性別で使用される場合(例として、男性形の語、女性形の語、中性形の語、その他、等々)はいつでも、文脈が明確に指し示さないかまたは別様に要さない限り、代名詞は、暗示される性別を問わず、中性の性として解釈されるものとする(すなわち、すべての性を等しく指すものと解釈される)。本明細書に使用される場合はいつでも、文脈が明確に指し示さないかまたは別様に要さない限り、単数形で使用される語は複数形を包含し、複数形で使用される語は単数形を包含する。群の1以上のメンバー間に「or」を包含するクレームまたは記載は、それとは反対に指し示されない限り、または別様に文脈から明白でない限り、群メンバーの1つ、1より多くの、またはすべてが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある場合に満たされると見なされる。本開示は、群の厳密に1つのメンバーが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある態様を包含する。本開示は、群メンバーの1つより多いかまたはすべてが、所定の産物もしくはプロセスに存在するか、これに採用されるか、または別様に関係がある態様を包含する。
【0221】
さらにまた、本開示は、列挙されたクレームの1以上からの1以上の限定、要素、節、および記述用語が別のクレーム中へ導入される、すべてのバリエーション、組み合わせ、および順列を網羅する。例えば、別のクレームに従属する任意のクレームは、同じ基礎クレームに従属するいずれか他のクレームに見出される1以上の限定を包含するように修飾され得る。要素が列挙として提示される場合(例として、マーカッシュ群の形式で)、要素の各下位群もまた開示されており、任意の要素(単数または複数)が群から除去され得る。一般に、本開示または本開示の側面が具体的な要素および/または特色を含むものとして言及される場合、本開示のある態様または本開示の側面は、かかる要素および/または特色からなるか、あるいは本質的にそれらからなると理解されるはずである。簡素化を目的として、それらの態様は、本明細書中そのようには具体的に表されていない。また用語「を含む(comprising)」および「を含有する(containing)」はオープンであることを意図し、追加の要素またはステップの包含を可能にさせることにも留意。範囲が与えられている場合、エンドポイントは、別様に特定されない限り、かかる範囲に包含される。さらにまた、別様に指し示されない限り、または文脈および当業者の理解から明白でない限り、範囲として表現される値は、別様に文脈が明確に指示しない限り、本開示の種々の態様における規定された範囲内の任意の特定の値または部分範囲が、範囲の下限の単位の10分の1までであることを前提とし得る。
【0222】
当業者は、本明細書に記載の特定の態様との多くの等価物を認識、またはわずかな定型的な実験法を使用してこれを突き止めることができるであろう。本明細書に記載の本態様の範囲は、上の記載に限定されることを意図していないが、むしろ添付のクレームで表されるとおりである。当業者は、この記載に対する様々な変化および修飾が、本開示の精神または範囲から逸脱せずに、以下のクレームに定義されるとおりになされてもよいことを解するであろう。
【0223】
例
例1
数グループが、発酵プロセスの最中にγ-デカラクトンの産生を増大させるための酵母株を改変することを試してみた。しかしながら、これらの試みは、主に、γ-デカラクトンの産生を増大させるが成長速度は変わらない株表現型を調和させる上での課題に起因して、γ-デカラクトン産生が増強された、商業的に実現可能な酵母の産生にはまだ至っていない。さらにまた、γ-デカラクトン産生に最も使用される株Yarrowia lipolyticaは、γ-デカラクトン生合成において不可欠なステップ、オレイン酸からリシンオレイン酸を産生することができない。Y.lipolyticaがオレイン酸からリシンオレイン酸を産生できないことに起因して、γ-デカラクトン生合成にこの酵母を利用しようと試してみたほとんどの研究は、リシンオレイン酸を成長培地へ加えることによって、これを供給している。これらの研究は、ベータ酸化経路を通してリシンオレイン酸の流束を最大化させるために、唯一の炭素源としてリシンオレイン酸を使用しており、よって酵母は、成長に要求されるアセチル-CoAを生成するための手段としてのベータ酸化を上方調節せざるを得ない。野生型Y.lipolyticaの、唯一の炭素源としてのリシノール酸メチルとの成長は、最大1g/Lまでのγ-デカラクトンを産生することが示された(例として、Wache,et al.,J.Mol.Catalysis B:Enzymatic(2002)19-20 347-351; Gomes,et al.,Biocat.and Biotransformation.(2010)28 227-234を見よ)。リシンオレイン酸の供給源としてヒマシ油(90%リシンオレイン酸から構成される)を利用する他の研究も、野生型Y.lipolyticaによって、バッチ培養において3.5g/Lと、または生物反応器条件において11g/Lと同程度に多くγ-デカラクトン産生を増大させることができる(例として、Soares,et al.,Prep.Biochem.Biotechnol.(2017)47:633-637; Malajowicz,et al.,Biotechnology & Biotechnological Equipment.(2020)34:330-340; Krzyczkowska,et al.,Chem.Technol.(2012)61(3):58-61;米国特許第6,451,565号を見よ)。
【0224】
他のグループも、ベータ酸化経路の遺伝子工学を通してY.lipolyticaによるγ-デカラクトン産生を増大させることを探求していた。これらの試みは一般に、C10およびより短いアシル-CoA分子のベータ酸化を低減させることを探求するものであった。なぜならこれによって、4-ヒドロキシデカン酸を包含するC10脂肪酸のプールの増加に繋がるからである。2000年に、Wacheらは、4-ヒドロキシデカン酸の継続的酸化(continued oxidation)を担う特定の短鎖アシルCoAオキシダーゼをコードする遺伝子POX3を欠失させた。5g/Lリシノール酸メチルで成長させたとき、その結果得られた株は、24時間後に、野生型より5倍増加した220mg/L γ-デカラクトンを産生した(Wache,et al.,Appl.Environ.Microbiol.(2000)66:1233-1236を見よ)。同グループは、短鎖アシルCoAに対する活性が弱いアシルCoAオキシダーゼをコードする遺伝子POX5を欠失させ、かつ特定の長鎖アシルCoAオキシダーゼをコードする遺伝子POX2を過剰発現させることに取り掛かった。その結果得られた株は、4日間にわたりγ-デカラクトンを蓄積したのに対し、野生型によるγ-デカラクトン産生は12時間をピークに次いで低下した。2012年に、Guoらは、POX2を過剰発現するY.lipolytica株においてPOX3を欠失させることによって同様の改変アプローチを採った。この株は、5% w/v リシノール酸メチルで成長させたとき100時間にて3.3g/L γ-デカラクトンを産生した(Guo,et al.,Microbiol.Res.167,246-252(2012))。
【0225】
2020年に、Marellaらは、この先の研究を拡張させ、Y.lipolyticaにおいてベータ酸化の標的改変をオレイン酸ヒドラターゼ遺伝子の発現と組み合わせた(Marella,et al.,Metab.Eng.(2020)61:427-436)。オレイン酸ヒドラターゼの発現によって、オレイン酸を最初の経路基質として使用するドデカラクトン、またはリノール酸を最初の経路基質として使用するδ-デカラクトンの産生が可能となった。過去の研究と同様、この研究においてもベータ酸化への修飾は、10炭素またはそれ未満のアシル-CoA鎖の短縮を阻害することを探索した。ベータ酸化改変とヒドラターゼ発現とのこの組み合わせによって、最大74.6mg/Lまでのγ-デカラクトンを産生するY.lipolytica株の生成がもたらされた。重要なことには、これらの実験は、γ-デカラクトン産生のための基質として30mg/Lオレイン酸の補給に頼った。Marellaらは、脂肪酸の補充なく産生されたラクトンの収率を記載するいずれのデータも報告しなかった。リシンオレイン酸を供給した先の研究と比較して、これらの実験において産生されたγ-デカラクトンの濃度がより低いことは、オレイン酸のリシンオレイン酸への酵素的変換が経路の律速ステップになり得ることを示唆するところ、注目に値する。
【0226】
また2020年には、アシルトランスフェラーゼ遺伝子が、4-ヒドロキシデカン酸のγ-デカラクトンへのラクトン化を触媒することが可能なモモから単離された(Peng,et al.,Plant Physiol.182,2065-2080(2020))。このアシルトランスフェラーゼ(PpAAT1)をY.lipolyticaにおいて発現させた後、その改変された株を固定化させて、リシンオレイン酸をγ-デカラクトンへ生体内変換させるために使用した。これに関連して、~3.5g/L γ-デカラクトンを産生したが、PpAAT1を発現しない対照株より7倍増大したことを表した。対照的に、本明細書に記載の修飾された細胞は、増大したレベルのγ-デカラクトン、低減したレベルのオフフレーバー(例として、酢酸エチル)を産生することが可能であって、実質的に変わらない成長特徴を有する。
【0227】
改善されたγ-デカラクトン生合成のために修飾された微生物の生成
発酵飲料中にモモフレーバーを産生させるため、微生物株を、ビールおよびワインの発酵最中にγ-デカラクトンのレベルを増大させるよう改変した。Y.lipolyticaおよび他の真菌宿主における先の生合成の試みと比較して、飲料発酵最中のワインおよびビールの酵母においてγ-デカラクトン生合成を改変するには、数種の追加の課題が現れる。第一に、Saccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)は、Y.lipolyticaより少ない脂肪酸を産生し、よってラクトン生合成経路を通る流束が限定される。第二に、すべての先の研究は、ラクトン形成のための基質として使用されるであろう脂肪酸で宿主生物を成長させることによってベータ酸化およびラクトン形成を促進した。これは、一次炭素源が、グルコース、フルクトース、およびマルトースなどのヘキソース糖である飲料発酵最中に実現可能ではない。飲料発酵をリシンオレイン酸または他の脂肪酸で補充することは、精製されたヒドロキシル化脂肪酸を得るには法外な費用が掛かり、かつベータ酸化のグルコース抑止に起因して困難であろう。さらに、Y.lipolyticaは、各々鎖長特異性が異なる6つのアシル-CoAオキシダーゼコードしているのに対し、S.cerevisiaeは、特異性が広い1つのアシル-CoAオキシダーゼのみをコードしている。したがって、Y.lipolyticaとは違い、γ-デカラクトン前駆体である4-ヒドロキシデカン酸のベータ酸化を、この分子を基質として認識するアシル-CoAオキシダーゼのサブセットを単に欠失させることによって低減することは、実行可能ではない。加えて、飲料発酵は、主に嫌気プロセスまたは半嫌気プロセスである。γ-デカラクトン生合成を改変する先の試みは、酸素がγ-デカラクトン生合成経路の多くのステップ(例として、脂肪酸脱飽和、脂肪酸ヒドロキシル化、およびベータ酸化)に要求されるところ、好気環境においてなされている。
【0228】
γ-デカラクトンを産生するために白ワイン酵母株を改変する試みにおいて、最初のステップとして、γ-デカラクトンに対する前駆体であるオレイン酸の産生を増大させた。オレイン酸は、S.cerevisiaeにおいて低濃度にて見出される。γ-デカラクトンの生合成に利用可能なオレイン酸の量を増加させるため、S.cerevisiaeからのアシル-CoAデサチュラーゼ1(OLE1)酵素をコードする核酸を、S.cerevisiaeにおいて強いプロモーターpENO2の転写制御下で過剰発現させた。
【0229】
OLE1は、利用可能なステアリン酸をオレイン酸へ変換し、よってS.cerevisiaeにおけるオレイン酸の蓄積が増大する。γ-デカラクトンをオレイン酸から生成するため、オレイン酸は最初に、リシンオレイン酸へ変換される。オレイン酸は、脂肪酸ヒドロキシラーゼによってリシンオレイン酸へ変換され得る。次に、Claviceps purpureaからの脂肪酸ヒドロキシラーゼ(FAH)酵素を過剰異種発現させた(heterologously overexpressed)。
【0230】
リシンオレイン酸は、S.cerevisiaeペルオキシソーム中で生じると考えられているベータ酸化を経て、4-ヒドロキシデカン酸が産生される。最終的に、モモ植物(Prunus persica)からのアルコール-O-アシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(PpAAT1)をS.cerevisiae中へ導入して、4-ヒドロキシデカン酸のγ-デカラクトンへのラクトン化を触媒させた。
【0231】
OLE1、FAH、およびPpAAT1を発現する、その結果得られた株(BY1019)を、炭素源として2%グルコースを含有するブドウ果汁培地または合成規定酵母培地のいずれかにおいて好気的に成長させた。両条件において、BY1019は強いモモ芳香を産生し、培養物もまた、酢酸エチルのレベルに起因してマニキュア液様として特徴付けられる強い溶媒芳香を有した。
【0232】
増大したγ-デカラクトンおよび減少した酢酸エチルのための修飾された微生物の生成
また酢酸エチルの産生を減少させながらγ-デカラクトンのレベルの産生をさらに増大させるために、この酵素が酢酸エチルの産生へ寄与するという仮説に基づき、PpAAT1をペルオキシソームオルガネラに対して標的化させた。手短に言えば、短いペルオキシソーム局在化ペプチド配列をPpAAT1のC末端へ付加した。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、PpAAT1をペルオキシソームへ局在化させる目標は、PpAAT1をベータ酸化と同じ区画へ局在化させることによって4-ヒドロキシデカン酸のラクトン化を増加させてγ-デカラクトンを産生させることであった。これを達成するため、株BY1019のPpAAT1を、ペルオキシソームのタグを包含するよう修飾して、株BY1021がもたらされた。この株を、炭素源として2%グルコースを含有するブドウ果汁培地または酵母培地のいずれかにおいて好気的に成長させた。両条件において、BY1021は、強いモモ芳香および最小限の溶媒/酢酸エチル関連芳香を産生した。したがって、PpAATのペルオキシソームへの標的化は、同様のまたはより多くのγ-デカラクトンの産生を維持しつつ、酢酸エチルの産生を猛烈に低減したと見なした。
【0233】
半嫌気発酵最中γ-デカラクトンを生成する修飾された微生物の成長
株BY1019または株BY1021のどちらが、ワインを作製または醸造する条件を模倣する半嫌気発酵条件の最中に増大したレベルのγ-デカラクトンを産生し得るか決定するため、約5時間激しく振盪させることによってグルコース培地に予め酸素を含ませた。培養物をBY1019、BY1021、または野生型の非改変株のいずれかで接種した。発酵プロセス最中の酸素の存在によって、酵母は発酵の初期段階最中に激しく成長できる。これは、あるスタイルのビールおよびワインの産生にとって必須である。酸素の発酵物中への持続的なバブリング(bubbling)が、強い酸化オフフレーバー分子の産生へ繋がることが予想されるであろうが、予め酸素を含ませることによって導入された酸素は、酵母によって迅速に消費され、オフフレーバー産生へは繋がらない。予め酸素が含まされた培養物の使用は、その株がγ-デカラクトンを商業的発酵の最中に産生することができるかどうか示す可能性がある。
【0234】
各株がすべての発酵性糖を消費した後、各培養物を、モモ芳香の存在について、ならびにいずれのオフフレーバーか査定した。野生型株は、いずれのモモ芳香ノートも産生しなかった。株BY1019は、軽度のモモ芳香を産生した一方、株BY1021は、最小限のモモ芳香を産生した。株BY1019発酵物は、軽度の酢酸エチル様芳香を有したのに対し、株BY1021からの発酵物は、知覚できる酢酸エチル様芳香は何ら有さなかった。
【0235】
これらのデータに基づき、Saccharomyces cerevisiaeを、ビールおよびワイン産業において採用された条件と同様に、予め酸素が含まされた発酵においてγ-デカラクトンを産生するよう改変することは実行可能である。遺伝学的パラメータまたは発酵パラメータの修飾を通して、酢酸エチルオフフレーバーの産生は最小限にされ得、かつ改変株によって産生されるγ-デカラクトンの力価は増大され得る。
【0236】
例2
改善されたγ-デカラクトン産生を可能にする酵母株を生成するため、例示のSaccharomyces cerevisiaeワイン酵母株Eleganceを、Claviceps purpurea(CpFAH)、Hiptage benghalensis(HpFAH)、Physaria lindheimeri(PlFAH)、Ricinus communis(RcFAH)、またはLesquerella fendleri(LFAH12)などの様々な供給源から得られたオレイン酸12-ヒドロキシラーゼを発現するように遺伝子学的に改変した。オレイン酸12-ヒドロキシラーゼをPGK1プロモーターの制御下で発現させ、PDC6ゲノム遺伝子座中へ組み込んだ(integrated)。表1を見よ。
【0237】
好気成長の24時間後、試料を査定し、産生されたγ-デカラクトンのレベルを測定してヒト検出のにおい閾値と比較した。
図3を見よ。
【0238】
オレイン酸12-ヒドロキシラーゼの発現もまた、ビール酵母株においてγ-デカラクトンの産生を増大させるかどうか決定するため、Saccharomyces cerevisiaeビール酵母株ならびにワイン酵母株Eleganceを、LFH12またはCpFAHのいずれかをPDGK1プロモーターの制御下で発現するよう改変し、好気的に24時間培養した。
図4に示されるとおり、いずれかの酵母株におけるCpFAHの発現は、におい閾値を超えるγ-デカラクトンレベルをもたらした。同様に、におい閾値を上回るγ-デカラクトンのレベルが、ビール株WLP001におけるLFAH12の発現後にも検出された。
【0239】
γ-デカラクトンの産生をさらに増大させるため、数種の追加の遺伝子を、S.cerevisiae株においてオレイン酸12-ヒドロキシラーゼとの共発現について評価した。
図2に示されるとおり、γ-デカラクトン生合成経路の組み合わせにおいて、OLE1活性を有する酵素は、利用可能なステアリン酸をオレイン酸へ変換するが、これによってS.cerevisiaeにおけるオレイン酸の蓄積が増大し得る。さらに、グルコース調節遺伝子ADR1の正の転写アクチベーターの調節解除された突然変異体もまた、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼおよびOLE1酵素とともに発現させた。好気成長の24時間後、試料を査定し、産生されたγ-デカラクトンのレベルを測定してヒト検出のにおい閾値と比較した。OLE1活性を有する酵素の発現が、オレイン酸12-ヒドロキシラーゼのみの発現と比較してγ-デカラクトンレベルを増大させ、調節解除されたADR1転写因子の追加の発現後にはさらに増大したことが観察された。
図5を見よ。
【0240】
酸素利用可能性およびγ-デカラクトンの産生
典型的には、酵母株は、発酵のプロセスを容易にするため嫌気的に成長させられる。改変株によるγ-デカラクトン産生に対する酸素利用可能性の効果を評価した。CpFAH、OLE1、MpAAT(N385D V62A)を発現するS.cerevisiae Elegance株(y1185)を、9日間の発酵に先立ち、通気なし、3時間の通気、または24時間の通気に供した。好気成長期間のない発酵後には、におい閾値を下回る低レベルのγ-デカラクトンが存在することが観察された。しかしながら、株を、発酵に先立ち24時間好気的に培養したとき、産生されたγ-デカラクトンのレベルは実質的に増大した。好気成長の長さがγ-デカラクトン産生にどのような影響を及ぼすか決定するために、さらなる実験法を実施した。
図6に示されるとおり、改変株の好気成長は3時間でさえ、におい閾値を上回るγ-デカラクトンレベルをもたらした。AATを発現しなかった株もまた、ワインにおいてにおい閾値を上回るγ-デカラクトンのレベル(すなわち、35μg/L)を産生したことから、これらの結果はAATの発現に依存しなかった。
【0241】
表1: 例示のS.cerevisiae株
【表1】
【配列表】
【国際調査報告】