(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】一酸化窒素放出デバイス
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20240426BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240426BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240426BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20240426BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240426BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20240426BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240426BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240426BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240426BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240426BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240426BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240426BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/58
A61L27/54
A61L29/06
A61L29/08 100
A61L29/14 500
A61L29/16
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/16
A61L31/14 500
A61L31/14 400
A61L29/14 400
A61L27/56
A61L27/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571925
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 US2022030538
(87)【国際公開番号】W WO2022246319
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521135991
【氏名又は名称】ノウ・バイオ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タプサク,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ウィドマン,アリス
(72)【発明者】
【氏名】ゴーデー デ レスタール,アンドリュー ピー.
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB36
4C081AC08
4C081AC09
4C081AC16
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA17
4C081CA172
4C081CA20
4C081CA202
4C081CA23
4C081CA232
4C081CE02
4C081DA01
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC03
(57)【要約】
植え込まれた材料に対する標準的な異物応答(FBR)を低下させること、創傷治癒を高めること、及び/又は血管新生を増加させることのための一酸化窒素放出粒子、コーティング、テープ、モノリス及び噴霧可能な配合物。粒子、コーティング、テープ、モノリス及び噴霧可能な配合物は、生分解性ポリマー及びNO放出ドナー化合物を含み、かつ/又はペンダントNO放出官能基を含む生分解性ポリマーから形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療デバイスであって、
a)1種以上のポリマーであって、
i)NO放出官能基を含む、又は
ii)前記NO放出官能基を含む粒子若しくは小分子とブレンドされる1種以上のポリマー、を含むポリマーコーティングを含む、医療デバイス。
【請求項2】
前記ポリマーのうちの少なくとも1種が、生体適合性及び/又は生分解性である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記ポリマーのうちの少なくとも1種が、生体適合性及び非生分解性である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記ポリマーが疎水性である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記ポリマーが、乳酸、グリコール酸、カーボネート、アミノ酸若しくはカプロラクトンモノマー、又はそれらの混合物を含み、かつ1種以上のチオール含有モノマーも含む混合物から形成され、前記チオール含有モノマー上のチオール基のすべて又は一部分がニトロソチオールに変換される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記NO放出官能基が、ニトロソチオール及び/又はジアゼニウムジオレートである、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記デバイスが経皮インプラントである、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記デバイスが皮下インプラントである、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記経皮インプラントが、植込み型グルコースセンサであって、
前記植込み型グルコースセンサが、
i)有効検知領域である第1の部分と、
ii)前記有効検知領域を前記経皮グルコースモニタの残りの部分に動作可能に接続し、かつ前記有効検知領域が、グルコースレベルを測定する所望の深さまでユーザの皮膚を貫入することを可能にする第2の部分と、を含む、植込み型グルコースセンサと、前記植込み型グルコースセンサの前記第2の部分のすべて又は一部分上のNO放出ポリマーコーティングと、を含む、経皮グルコースモニタである、請求項7に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記ポリマーコーティングが、前記植込み型グルコースセンサの前記第2の部分上に配置された親水性ポリマーを含み、
a)前記コーティングを形成するために使用される前記親水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記コーティングを形成するために使用される前記親水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む疎水性ポリマーを含み、
c)前記コーティングを形成するために使用される前記親水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、又は
d)それらの組合せ、である、請求項9に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項11】
前記ポリマーコーティングが、前記植込み型グルコースセンサの前記第2の部分に配置された親水性ポリマーを含み、前記コーティングを形成するために使用される前記親水性ポリマーが1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む両親媒性ポリマー又は親水性ポリマーを含む、請求項9に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項12】
前記ポリマーコーティングが、前記植込み型グルコースセンサの前記第2の部分上に配置された疎水性ポリマーを含み、
a)前記コーティングを形成するために使用される前記疎水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記コーティングを形成するために使用される前記疎水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む疎水性ポリマーを含み、
c)前記コーティングを形成するために使用される前記疎水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、又は
d)それらの組合せ、である、請求項9に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項13】
前記ポリマーコーティングが、前記植込み型グルコースセンサの前記第2の部分に配置された疎水性ポリマーを含み、前記コーティングを形成するために使用される前記疎水性ポリマーが1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む両親媒性ポリマー又は親水性ポリマーを含む、請求項9に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項14】
前記ポリマーコーティングが、前記グルコースセンサの前記第1の部分及び前記第2の部分のすべて又は一部分上に配置された多孔質ポリマーを含み、
a)前記コーティングを形成するために使用される前記多孔質ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記コーティングを形成するために使用される前記多孔質ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含むポリマーを含み、
c)前記コーティングを形成するために使用される前記多孔質ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、又は
d)それらの組合せ、である、請求項9に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項15】
前記多孔質ポリマーが疎水性ポリマーであり、前記粒子が疎水性ポリマーを含む、請求項14に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項16】
前記多孔質ポリマーが疎水性ポリマーであり、前記粒子が両親媒性ポリマー又は親水性ポリマーを含む、請求項14に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項17】
前記多孔質ポリマーが親水性ポリマーであり、前記粒子が疎水性ポリマーを含む、請求項14に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項18】
前記多孔質ポリマーが親水性ポリマーであり、前記粒子が両親媒性ポリマー又は親水性ポリマーを含む、請求項14に記載の経皮グルコースモニタ。
【請求項19】
前記粒子中の前記疎水性ポリマーが生分解性である、請求項10に記載の医療デバイス。
【請求項20】
前記コーティング中の前記疎水性ポリマーが生分解性である、請求項12又は13に記載の医療デバイス。
【請求項21】
前記疎水性ポリマーが疎水性ポリウレタンである、請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項22】
前記粒子が、乳酸、グリコール酸及びチオ乳酸モノマーを含むポリマーから形成され、前記チオ乳酸モノマーのうちの1つ以上の上のチオール官能基がニトロソチオール基に変換される、請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項23】
前記コーティングが、植込み後少なくとも3日間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項9~19のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項24】
前記コーティングが、植込み後少なくとも1週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項9~19のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項25】
前記コーティングが、植込み後少なくとも2週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項9~19のいずれか一項に記載の医療デバイス。
【請求項26】
前記デバイスが、ステント、シャント、ポート、インスリン注入セット又はカテーテルである、請求項7に記載の医療デバイス。
【請求項27】
前記デバイスが人工関節である、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項28】
前記皮下インプラントが、ペースメーカ又は再建美容整形用インプラントである、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項29】
前記ポリマーコーティングが疎水性ポリマーを含む、請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項30】
前記疎水性ポリマーが生分解性である、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項31】
前記疎水性ポリマーが生分解性ではない、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項32】
前記疎水性ポリマーが疎水性ポリウレタンである、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項33】
前記粒子が、乳酸、グリコール酸及びチオ乳酸モノマーを含むポリマーから形成され、前記チオ乳酸モノマーのうちの1つ以上の上のチオール官能基がニトロソチオール基に変換される、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項34】
前記粒子が疎水性ポリマーから形成される、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項35】
前記粒子が親水性ポリマー又は両親媒性ポリマーから形成される、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項36】
前記コーティングが、植込み後少なくとも3日間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項37】
前記コーティングが、植込み後少なくとも1週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項38】
前記コーティングが、植込み後少なくとも2週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項29に記載の医療デバイス。
【請求項39】
医療デバイスであって、1種以上のNO放出官能基を含み、かつ/又は前記NO放出官能基を含む埋め込まれた粒子及び/若しくは小分子を含む、ポリマーを含む、医療デバイス。
【請求項40】
前記デバイスが、NO放出基を組み込む吸収性又は非吸収性のステッチ、ステープル、モノリス又はテープである、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項41】
前記モノリス又は前記テープが、医療デバイスに物理的又は化学的に取り付けられている、請求項40に記載の医療デバイス。
【請求項42】
前記デバイスが、吸収性又は非吸収性組織足場である、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項43】
前記ポリマーが疎水性ポリマーである、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項44】
前記疎水性ポリマーが生分解性である、請求項43に記載の医療デバイス。
【請求項45】
前記疎水性ポリマーが生分解性ではない、請求項43に記載の医療デバイス。
【請求項46】
前記疎水性ポリマーが疎水性ポリウレタンである、請求項43に記載の医療デバイス。
【請求項47】
前記粒子が、乳酸、グリコール酸及びチオ乳酸モノマーを含むポリマーから形成され、前記チオ乳酸モノマーのうちの1つ以上の上のチオール官能基がニトロソチオール基に変換される、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項48】
前記粒子が疎水性ポリマーから形成される、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項49】
前記粒子が親水性ポリマー又は両親媒性ポリマーから形成される、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項50】
前記デバイスが、植込み後少なくとも2週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項39に記載の医療デバイス。
【請求項51】
生物医学的インプラントの表面から一酸化窒素を送達するための方法であって、請求項1に記載のインプラントを患者に植え込むことと、植込み後に、前記ポリマー表面上のNO放出基を生物学的流体に曝露することを可能にし、これによって前記基に一酸化窒素を放出させることと、を含む、方法。
【請求項52】
血糖濃度を測定するための方法であって、
a)請求項9に記載の経皮グルコースモニタの前記植込み型グルコースセンサを患者に植え込むことと、
b)前記経皮グルコースモニタを使用して血糖濃度を測定することと、同時に
前記ポリマーコーティング上のNO放出基を生物学的流体に曝露することを可能にし、前記基に一酸化窒素を放出させることと、を含み、一酸化窒素放出が、少なくとも3日間の期間にわたって生じる、方法。
【請求項53】
前記一酸化窒素放出が、少なくとも1週間の期間にわたって生じる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記一酸化窒素放出が、2週間の期間にわたって生じる、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
接着されたテープ若しくはモノリス、又は噴霧可能なポリマー配合物の適用によって形成されたフィルムを含む医療デバイスであって、前記テープ、前記モノリス又は前記フィルムが、
i)NO放出官能基を含む、又は
ii)前記NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレンドされる、1種以上の生分解性ポリマーを含み、
前記医療デバイスが、感覚インプラント、神経インプラント、心臓インプラント、整形外科インプラント、電気インプラント、避妊用インプラント又は美容整形用インプラントである、医療デバイス。
【請求項56】
前記ポリマーが疎水性であり、
a)前記疎水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記疎水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む疎水性ポリマーを含み、
c)前記疎水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、及び
d)それらの組合せ、である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項57】
前記ポリマーが親水性であり、
a)前記親水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記親水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む疎水性ポリマーを含み、
c)前記疎水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、及び
d)それらの組合せ、である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項58】
前記ポリマーが疎水性であり、
a)前記疎水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記疎水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む親水性ポリマー又は両親媒性ポリマーを含み、
c)前記疎水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、及び
d)それらの組合せ、である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項59】
前記ポリマーが親水性であり、
a)前記親水性ポリマーが、1種以上のNO放出官能基を含み、
b)前記親水性ポリマーが、1種以上の埋め込まれた粒子を含み、前記粒子が、1種以上のNO放出官能基を含む親水性ポリマー又は両親媒性ポリマーを含み、
c)前記疎水性ポリマーが、1,000未満の分子量を有し、1種以上のNO放出官能基を含む1種以上の小分子とブレンドされ、及び
d)それらの組合せ、である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項60】
前記テープ、前記モノリス又は前記適用されたフィルム中の前記ポリマーが、乳酸、グリコール酸、カーボネート、アミノ酸若しくはカプロラクトンモノマー、又はそれらの混合物を含み、かつ1種以上のチオール含有モノマーも含む混合物から形成され、前記チオール含有モノマー上のチオール基のすべて又は一部分がニトロソチオールに変換される、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項61】
前記NO放出官能基が、ニトロソチオール及び/又はジアゼニウムジオレートである、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項62】
前記デバイスが経皮インプラントである、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項63】
前記デバイスが皮下インプラントである、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項64】
前記粒子が、乳酸、グリコール酸及びチオ乳酸モノマーを含むポリマーから形成され、前記チオ乳酸モノマーのうちの1つ以上の上のチオール官能基がニトロソチオール基に変換される、請求項58又は59に記載の医療デバイス。
【請求項65】
前記テープ、前記モノリス又は前記適用されたフィルムが、植込み後少なくとも3日間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項66】
前記テープ、前記モノリス又は前記適用されたフィルムが、植込み後少なくとも1週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項67】
前記テープ、前記モノリス又は前記適用されたフィルムが、植込み後少なくとも2週間の期間にわたって一酸化窒素を放出可能である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項68】
前記デバイスが、ステント、シャント、ポート、インスリン注入セット又はカテーテルである、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項69】
前記デバイスが人工関節である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項70】
前記デバイスが、ペースメーカ又は再建美容整形用インプラントである、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項71】
前記モノリス又は前記テープが、医療デバイスに物理的又は化学的に取り付けられている、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項72】
前記デバイスのすべて又は一部分が多孔質である、請求項55に記載の医療デバイス。
【請求項73】
前記噴霧可能な配合物が、前記細孔のうちの1つ以上に適用され、少なくとも部分的にこれに充填される、請求項72に記載の医療デバイス。
【請求項74】
生物医学的インプラントの表面から一酸化窒素を送達するための方法であって、請求項55に記載のインプラントを患者に植え込むことと、植込み後に、前記ポリマー表面上のNO放出基を生物学的流体に曝露することを可能にし、これによって前記基に一酸化窒素を放出させることと、を含む、方法。
【請求項75】
一酸化窒素を放出するように医療デバイスを改変するための方法であって、
a)テープ又はモノリスを医療デバイスに接着することであって、前記テープ若しくは前記モノリスが、1種以上のペンダントNO放出官能基を含む、及び/若しくは1種以上のペンダントNO放出官能基を含む埋め込まれた粒子若しくは小分子を組み込むポリマーを含むこと、又は
b)噴霧可能な組成物であって、
i)1種以上のペンダントNO放出官能基を含むポリマーと、
ii)1種以上のペンダントNO放出官能基を含むポリマー、並びに粒子及び/若しくは小分子と、を含む噴霧可能な組成物を、
医療デバイスに、患者における前記デバイスの植込み前、若しくは患者としてその上に前記デバイスの適用前に噴霧することと、
c)患者に前記デバイスを植え込むこと、又は患者上に前記デバイスを適用することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2021年5月21日に出願され、「Nitric Oxide-Releasing Implanted Devices」と題する米国仮特許出願第63/191,726号及び2021年5月21日に出願され、「Extending NO Release from Medical Devices Using Donor Embedded Biodegradable Particles」と題する米国仮特許出願第63/191,773号の利益及び優先権を主張するものであり、これらの内容は本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0002】
本開示は、持続グルコースモニタなど、とりわけ経皮インプラント及び/又は皮下インプラントに対する異物応答の影響を防止、治療又は最小化するポリマーコーティング、テープ、モノリス又はスプレーの使用に関する。経時的に一酸化窒素を放出するポリマーコーティングを含む医療デバイス、及び経時的に一酸化窒素を放出する接着性ポリマーテープ若しくはモノリスを含む、又は経時的に一酸化窒素を放出するポリマー溶液を噴霧された、植え込まれた医療デバイスもまた開示される。いくつかの実施形態では、コーティングは、一酸化窒素を放出するポリマーを含み、他の実施形態では、一酸化窒素を放出する生分解性ポリマーを含む、及び/又は一酸化窒素を放出する、又は一酸化窒素を放出する小分子を含む化合物をカプセル化する、生分解性ポリマーなどのポリマーを含む、埋め込まれた粒子を含むコーティング、テープ、モノリス又はスプレーを含む。
【背景技術】
【0003】
経皮及び皮下インプラントを含む、ヒト又は動物患者に植え込まれる多くの種類の医療デバイスが存在する。
【0004】
理想的な条件下では、インプラントは所望の宿主応答を開始し、近接する又は遠位の組織から何らかの望ましくない反応を引き起こさない。しかしながら、インプラントと、インプラント周囲の組織との間の相互作用は、感染症、炎症及び疼痛を含む合併症、並びにインプラント誘発性凝固による拒絶及びアレルギー性異物応答をもたらし得る。
【0005】
経皮インプラントの一例は、グルコースモニタである。グルコースモニタは経皮的に植え込まれているが、異物応答(foreign body response、FBR)と呼ばれる、植え込まれた異物に対する宿主の免疫応答によって限られた期間のみ正確である。
【0006】
FBRは、皮下組織へのほぼあらゆる材料の挿入時に開始し、創傷の生成及び創傷治癒カスケードから開始する。即時に、タンパク質は、生物付着と称されるプロセスで生体材料表面に接着する。この後の界面が、血液凝固をその後に刺激する炎症細胞の接着と仮設マトリックスの発達を促進することから、最初のタンパク質吸着は、FBR全体の不可欠部分である。
【0007】
FBRの一部として、マクロファージ、単球、マスト細胞及び線維芽細胞はインプラント部位に動員され、ケモカイン及びサイトカインを放出することによって異物の排除を開始する。身体がインプラントを消化しようとすることから、放出されたメディエータの濃度及び種類は、更なる細胞動員を誘発し、最終的には食作用を誘発する。
【0008】
GOxの活性はpH依存性であることから、このプロセスによって局所pHは3.6の低さに急落し、バイオセンサ性能が乱される事態にもつながり得る。すべてのマクロファージ遊走及び創傷部(グルコースセンサ)でのその後の食作用を防止する可能性は低いものの、マクロファージの活性化状態(すなわち、M1又はM2)は、FBR全体に影響を及ぼす可能性がある。実際に、マクロファージは体内で、宿主の防御、創傷治癒及び免疫調節といった3つの主要な機能を果たしている。
【0009】
FBRが進行するにつれ、活性化されたマクロファージによる不完全な食作用によって、インプラントを更に分解しようとするマクロファージが融合して異物巨細胞(foreign body giant cells、FBGC)となる。例えば、バイオセンサを覆うポリウレタンコーティング上でのFBGC形成は、下の生体材料の分解を促進させることが示されている。
【0010】
1~2週間後、炎症細胞は、生来の組織から植え込まれたデバイスを隔離するコラーゲンマトリックスを沈着させる。このコラーゲンカプセル化は、生来の組織の微小血管系を欠いている。
【0011】
グルコースセンサがカプセル化されるとき、血糖の正確な測定は妨げられる。カプセル発生の程度は、タンパク質接着、細胞活性化及びサイトカインシグナル伝達を含む、先行するすべての他の構成成分及びFBRの進行速度によって変化する。コラーゲンカプセル化は、デバイスの寿命にわたって持続するが、これは感度及び応答に対するセンサ性能に悪影響を及ぼす(例えば、遅延時間)。
【0012】
タンパク質接着/生物付着後、FBRは損傷に応答して炎症細胞とともに進行し、デバイスに対するより重度の免疫応答を開始させる。例えば、炎症の制御因子であるマスト細胞も、植え込まれたバイオセンサへの活性を有することができる。これは、マスト細胞が十分なマウス及びマスト細胞欠損マウスに材料を植え込むことで検証されている。皮下グルコースセンサを植え込んだマスト細胞欠損マウスは、マスト細胞が十分なマウスよりも著しく優れたセンサ性能を有していた。マスト細胞欠損マウスは、インプラント部位での線維症及び炎症の低下を呈した。したがって、FBRに対処するための1つのアプローチは、ポリウレタンでコーティングされたグルコースバイオセンサなどの「防汚材料」を使用することであった。
【0013】
FBRの最も特徴的な結果は、異物デバイス周辺のコラーゲンカプセル化である。センサ周辺に形成されたカプセルの早期調査は、生来の組織からのグルコース拡散に関するカプセルの影響に焦点を当てた。グルコース感度は、コラーゲンカプセル化と相関しており、コラーゲンが厚いとより大きな感度損失が生じる。
【0014】
物質輸送の増加は遅延時間を増加させ、高グルコースセンサ信号と低グルコースセンサ信号との間で変動するときのその大きさ及び差を潜在的に減少させ得る。物質輸送の増加は、コラーゲンカプセルの厚さ、血管密度又はFBRに関連する他の予期せぬ因子に潜在的には起因する。
【0015】
血管新生、細胞グルコース消費、カプセル厚、カプセル拡散係数及びカプセル空隙率を含むグルコースセンサ性能に関する多くのFBR効果が存在する。コラーゲンカプセルの厚さは、センサ応答の減衰にはほとんど影響しないセンサ遅延時間の重要な源であり、センサ減衰は、カプセル密度を減少させ、かつ植え込まれたバイオセンサ周辺の血管新生を増加させることによって減少し得ることを、数学的モデリングは示唆している。この理由から、バイオセンサは、交換される必要がある約2週間前のみ正確である。バイオセンサが使用され得る短い期間及び注入されたバイオセンサの不安定性は、患者コンプライアンスの不十分さにつながっていた。
【0016】
FBRに関する事象がCGMデバイスの有用性に直接影響することから、相当な研究が、センサ性能を改善させる戦略としてこれらのデバイスの生体適合性を改善することに焦点を当てている。これらの戦略は、組織-センサ界面での化学変化、デバイスの物理的特性の変化、及び組織反応に影響を与える生物学的に活性のある分子の放出に及ぶ。例としては、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)及び一酸化窒素を放出する化合物が挙げられる(例えば、非特許文献1を参照されたい)。
【0017】
Nicholsは、生体材料からの一酸化窒素(NO)の放出が異物応答(FBR)を低下させることを開示したが、最適なNO放出導体及び用量は不明のままであった。Nicholsは、様々なNO放出特性を有するポリウレタンコーティングワイヤ基材を評価し、ブタ皮下組織にこれを植え込んだ。短いNO放出期間(すなわち、24時間)を有する材料は3週間及び6週間ではコラーゲンカプセルの厚さを減少するには不十分であったが、より長い放出期間(すなわち、3~14日間)及びより大きなNOペイロードを有するインプラントは、3週間及び6週間の両方でのコラーゲンカプセル化を低下させたことを、組織学的解析は明らかにした。急性炎症応答は、最も長い持続期間及び最大用量のNO放出を有する系によって最も著しく軽減され、これらの特性が皮下生物医学用途(例えば、グルコースセンサ)についてFBRを回避する上で最も重要であるという考えを支持している。
【0018】
NO放出コーティングの限界は、「ペイロード」が制限されることであり、すべての利用可能なNOが放出されれば、異物応答を抑制するための更なるNOを生成する有効な方法は存在しない。別の限界は、一酸化窒素放出の半減時間が多くの場合には短すぎるため、異物応答の開始を遅らせることができないということである。
【0019】
一酸化窒素放出の半減時間を増加させようとする1つの試みは、ポリウレタンコーティングでの一酸化窒素(NO)放出が可能であるS-ニトロソチオール変性半多孔質シリカ粒子を含めることであった。こうした粒子は、例えば非特許文献2に開示される。ここでは、チオール前駆体は修飾されてS-ニトロソチオールNO放出官能基を形成し、メルカプトシランとアルコキシシラン前駆体の共縮合を介してシリカネットワークへと組み込まれる。低分子量S-ニトロソチオール含有NOドナー化合物と同様に挙動することから、高分子シリカ媒体からのNO放出は、光、温度、水分及び金属イオンによって影響を受けた。Mark Schoenfischは、メソポーラスシリカナノ粒子(mesoporous silica nanoparticle、MSN)の使用を最初に開拓し、ドナー部分が付着することができる細孔によって、NOペイロードの保護環境がもたらされることを実証した。
【0020】
こうしたMSNの使用は、放出動態を改善、すなわちシリカナノ粒子表面にドナー部分を配置することと比較した場合に放出時間を延長させることができるが、このアプローチの欠点は、シリカ粒子が医療デバイス内に慎重に固定されなければならないことである。これらの粒子が生分解性ではなく、したがって体内で持続性があるため、デバイスから粒子を離し、デバイスが取り外された後に宿主の中に留まることは望ましくない。したがって、これらの粒子はグルコースセンサを覆うポリマーコーティング中に含まれるときには、粒子はコーティングから移動しないことが重要である。
【0021】
経皮インプラントと同様に、人工関節、ペースメーカなどの皮下インプラントの外科的植込みに関連する多くの問題が存在する。これらの医療デバイスが植え込まれるときには、数日間又は数週間であっても、多くの潜在的なリスクが存在する。これらのリスクとしては、感染症、不十分な創傷治癒、植え込まれたデバイス周辺での不十分な血液供給及び瘢痕が挙げられるが、これらのいずれも患者に損傷を与え得る。一酸化窒素は、細菌、ウイルス及び真菌などの微生物を抑制し、脈管構造を増加させ、創傷治癒を促進させて瘢痕を減少させる。ただし、多くのNO放出官能基は、比較的短期間にわたって一酸化窒素を放出し、これらの種類の傷害を防止するには好適ではない。十分長期間にわたって一酸化窒素を放出するこれらの材料のためのコーティングを提供することは有利であり、結果、皮下インプラントの外科的植込みに関連する問題を最小化するのに役立つことができる。
【0022】
皮下インプラントの部位が外科手術中又は外科手術後に感染するときには、微生物によって周囲の組織が感染する。感染症の3つの主なカテゴリは、手術後に生じ得る。表在的中間感染は、皮膚近傍又は皮膚上で一般的には増殖する生物によって生じる。感染症は通常、外科的開口で起こる。深部中間感染は、第2の種類であり、インプラントの部位で外科手術後に直ちに起こる。皮膚滞留細菌及び空中浮遊細菌によって、深部中間感染が生じる。これらの細菌は、植込み前にインプラント表面に付着することによって身体に入り込む。一般的にはないが、深部中間感染はまた、外科手術中に休眠状態を妨害されることで活性化された、以前の感染による植込み部位の組織の休眠細菌から起こり得る。最後の種類の後期感染は、インプラントの植込み後数ヶ月から数年後に起こる。後期感染は、植込み前にインプラントに付着した休眠血液由来細菌によって引き起こされる。血液由来細菌はインプラント上にコロニー形成し、最終的にここから放出される。インプラントに抗菌剤を注入することで外科手術中の感染リスクを低下することができるが、特定の種類の材料のみに抗菌剤を注入することができ、患者は抗菌剤に対する感受性を起こし、あらゆる抗菌剤があらゆる種類の細菌で機能するわけではないことから、抗菌剤を注入したインプラントの使用は患者拒絶のリスクを継続する。
【0023】
炎症は、任意の外科手技後に一般的に起こり、外傷、感染症、異物侵入若しくは局所細胞死の結果としての、又は免疫応答の一部としての組織損傷への身体の応答である。
【0024】
インプラント誘発性凝固は、体内で起こる凝固プロセスと類似しており、損傷した血管からの血液損失を防ぐ。ただし、凝固プロセスは、インプラント表面に付着し、その形状を失うタンパク質によって引き起こされる。これが起こるとき、タンパク質は立体構造を変化させ、異なる活性化部位が露出した状態となるが、これが免疫系応答を引き起こす可能性があり、身体は、異物を取り除くためにインプラントを攻撃しようとする。
【0025】
免疫系応答のトリガは炎症を伴う可能性があるが、これは慢性炎症につながる可能性がある。この場合には、インプラントは拒絶され、患者から取り除かれる必要がある。
【0026】
免疫系は、フィブリノーゲン及び血小板にてインプラントをカプセル化することによって、組織部位から異物を除去しようとする試みとしてインプラントをカプセル化し得る。インプラントのカプセル化は、線維性カプセル化の厚い層は、インプラントが所望の機能を行う妨げとなる可能性があることから、更なる合併症につながり得る。
【0027】
細菌は、線維性カプセル化を攻撃し、線維中に埋め込まれた状態となる。線維層は厚いため、抗菌剤は細菌に到達することができず、細菌が増殖して周囲の組織を感染させる可能性がある。場合によっては、微生物を除去するためにインプラントを取り除くことが必要である。
【0028】
更には、身体はアレルギー性異物応答を開始する可能性があり、場合によってはインプラントを取り除く必要が生じ得る。
【0029】
これらの有害事象を軽減する1つの方法は、インプラント周囲の領域に一酸化窒素を曝露することである。一酸化窒素は、異物応答(FBR)を低下させることで知られている。更には、一酸化窒素は抗炎症性であり、血小板凝集を最小化することができ、それによってインプラント誘発性凝固を最小化する。更には、一酸化窒素は、広範な細菌感染症の治療に有効であり、そのため、とりわけ、一酸化窒素放出が植込み後少なくとも2週間の期間にわたって生じる場合には、インプラントに導入され得る細菌の多くに対して有効であり得、かつ表在的中間感染、深部中間感染及び後期感染に有効である可能性がある。
【0030】
インプラント上での一酸化窒素放出コーティングの使用によって、経皮インプラント上での一酸化窒素放出とともに観察される多くの同様の制限が生じる。異物応答に関して、短いNO放出期間(すなわち、24時間)を有する材料は、典型的には、3週間及び6週間ではコラーゲンカプセルの厚さを減少するには不十分であったが、相対的に長い放出期間(すなわち、3~14日間)及びより大きなNOペイロードを有するインプラントは、3週間及び6週間の両方でのコラーゲンカプセル化を大幅に低下させたことを明らかにした。急性炎症応答は、最も長い持続期間及び最大用量のNO放出を有する系によって軽減される可能性があり、これらの特性が皮下生物医学用途についてFBRを回避する上で最も重要であるという考えを支持している。
【0031】
NOペイロードを保護し、こうすることで長期放出を促進しようとする試みは、ポリマーフィルム内に結晶性小分子ドナー化合物を埋め込むことであった。Mark E.Meyerhoffらは、S-ニトロソ-N-アセチル-ペニシラミンをドープしたポリウレタンフィルムは、内在量のNOレベルと同様に、20日間を超えてNO量を放出することができる(例えば、非特許文献3を参照されたい)ことを実証した。加えて、Hopkinsら(非特許文献4)は、4ヶ月の持続的なNO放出を呈するシリコーンゴム内部の共有結合で固定化されたSーニトロソ-N-アセチルペニシラミンを報告した。これらの例はどれも、NOドナー化合物が存在する環境が、化合物の安定性に影響を及ぼすという考えを支持する。最初のMeyerhoffによるものは、疎水性ポリウレタンであり、2つ目のHopkinsによるものは、疎水性シリコーンである。おそらく、これらの概念の欠点は、更に親水性の材料/コーティング/バルク構成要素を必要とする、上に含まれるこれらのシステムに適用することができないということである。
【0032】
したがって、とりわけ放出が相対的に長い放出期間にわたって起こり得る場合には、一酸化窒素を放出する能力を有するインプラントを提供することが有利であり得る。ただし、皮下インプラントを含むが、ある特定の経皮インプラントもまた含む現在の医療デバイスに関連する制限の1つは、現存するインプラントがNO放出コーティングを含むように改変するためにはかなりの量の規制当局の承認が必要となる可能性があり、それによってデバイス製造業者は、現存するデバイスが一酸化窒素を放出するように現存するデバイスを改変することを望まない可能性があるということである。
【0033】
理想的にはインプラントへのコーティングの追加に関連する何らかの更なる規制上の障害なしに、一酸化窒素を放出する皮下及び/又は経皮インプラントを提供することが有利である。本開示は、こうしたインプラントを提供する。
【0034】
非生分解性材料を使用することに関連する制限を回避しつつも、センサが従来の経皮グルコースバイオセンサよりも相対的に長い期間にわたってそれらの精度を維持するように、経皮グルコースバイオセンサに対する異物応答を抑制するための更なる方法を提供することもまた有利である。他の経皮及び皮下インプラントに、異物応答の影響を最小化するのに役立つコーティングを適用するための方法を有することもまた、有利である。本開示は、こうした方法及びこれらの方法を実施するためのデバイスを提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】Nichols,Scott P et al.「The effect of nitric oxide surface flux on the foreign body response to subcutaneous implants.」 Biomaterials vol.33,27(2012)
【非特許文献2】Riccio et al.,Chem.Mater.2011,23,7,1727-1735(March 7,2011)
【非特許文献3】Brisbois,Handa,Major,Bartlett,and Meyerhoff,「Long-term nitric oxide release and elevated temperature stability with S-nitroso-N-acetylpenicillamine(SNAP)-doped Elast-eon E2As polymer.Biomaterials」,34:6957-66(2013)
【非特許文献4】Hopkins,et al,Achieving Long-Term Biocompatible Silicone via Covalently Immobilized S-Nitroso-N-acetylpenicillamine(SNAP)That Exhibits 4 Months of Sustained Nitric Oxide Release」,ACS Applied Materials&Interfaces,Vol.10,10.1021/acsami.8b08647(2018)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0036】
一実施形態では、生分解性ポリマーを含むコーティングを含む経皮インプラントなどのインプラントが開示される。この実施形態の一態様では、インプラントは、経皮持続グルコースモニタである。
【0037】
この実施形態の様々な態様では、コーティングは、ペンダントニトロソチオール(nitrosothiol、SNO)基を含む生分解性生体適合性ポリマーから形成されることができる。植込み後、ポリマー表面上のニトロソチオール基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。生分解性ポリマーは、親水性又は疎水性であることができるが、分解を遅延させ、かつ一酸化窒素の放出を延長するためにはポリマーが疎水性であることが好ましいものであり得る。
【0038】
この実施形態の他の態様では、コーティングは、ニトロソチオール基を含んでも含まなくてもよいが、ニトロソチオール基を含む小分子及び/又はポリマー化合物から調製される、マイクロ粒子又はナノ粒子などの埋め込まれた粒子を含む。生分解性ポリマーは、親水性又は疎水性であってもよいが、親水性生物学的流体に曝露される生理学的環境に導入されるときには、ポリマーは、一酸化窒素の放出を遅延させるために好ましくは疎水性である。
【0039】
これらの実施形態のいくつかの態様では、生分解性ポリマーは、乳酸若しくはグリコール酸などの酸である単量体単位、又は酸無水物である単量体単位を含み、その結果、ポリマーが生分解すると、局所pHは酸性である。ニトロソチオールは、中性pHに対し相対的に酸性pHでより速く硝酸を放出する傾向がある(Istvan Hornyak,Krisztina Marosi,Levente Kiss,Pal Grof&Zsombor Lacza(2012)Increased stability of S-nitrosothiol solutions via pH modulations,Free Radical Research,46:2,214-225)ため、局所環境での相対的に低いpH(すなわち、5.5~6.8周辺)の存在は、一酸化窒素放出を促進し得る。
【0040】
別の実施形態では、生体適合性ポリマーを含むコーティングを含む皮下インプラントが開示される。いくつかの実施形態では、ポリマーは生分解性であり、他の実施形態では、ポリマーは生分解性ではない。いくつかの実施形態では、ポリマーコーティングは、これらの実施形態のいくつかの態様では生分解性粒子である埋め込まれた粒子を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、疎水性ポリマーはコーティングに使用され、親水性又は両親媒性粒子は、ポリマーコーティングに埋め込まれる。他の実施形態では、疎水性ポリマーは、コーティングに使用され、疎水性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。更に他の実施形態では、親水性又は両親媒性ポリマーはコーティングに使用され、疎水性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。更に他の実施形態では、親水性又は両親媒性ポリマーはコーティングに使用され、親水性又は両親媒性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。
【0042】
ポリマーコーティング中の粒子の充填量は様々なものであることができ、典型的には、約1~約50重量%、より典型的には、約5~約40重量%、好ましくは約10~約30重量%の範囲である。
【0043】
代表的な皮下インプラントは、人工関節、ペースメーカ、ステント、インスリン注入セット、水頭症シャント(hydrocephiletic shunts)などのシャント、乳房インプラント、ふくらはぎインプラント及び臀部インプラントを含む再建美容整形用インプラントを含む。ステントに関して、ステント上のコーティングからの一酸化窒素放出は、再狭窄を最小化することができる。
【0044】
この実施形態の様々な態様では、コーティングは、ペンダントニトロソチオール(SNO)基を含む生分解性生体適合性ポリマーから形成されることができる。植込み後、ポリマー表面上のニトロソチオール基は、親水性生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。ポリマー表面が生分解されるにつれ、新しいポリマー表面が途切れることなく露出される。ポリマーの疎水性に応じて、ポリマーが水分にいったん曝露されると、内部ニトロソチオール基及び表面ニトロソチオール基の両方は、それらのNOペイロードを送達し得、又は内部ニトロソチオール基は保護され得、ポリマーが生分解されると該ポリマーは途切れることなく一酸化窒素を放出し得る。ポリマーが完全に水和状態になった直後、ポリマーから、又は該ポリマー内に埋め込まれた粒子から放出が起こり得るため、ポリマーがより親水性であればあるほど、一酸化窒素の放出はより速い。
【0045】
したがって、いくつかの実施形態では、とりわけ疎水性ポリマーが使用される場合には、一酸化窒素はコーティングが完全に生分解するまで放出される。他の実施形態では、とりわけ親水性ポリマーが使用される場合には、一酸化窒素の完全放出は、親水性ポリマー直後に起こり得る。ポリマーが疎水性ポリマーであるときには、ペンダントニトロソチオール基がポリマー上、又はポリマー内に埋め込まれた粒子上に存在するかどうかにかかわらず、これは、親水性ポリマーと比較して延長された一酸化窒素放出をもたらすことができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、コーティングは、ペンダントニトロソチオール(SNO)基を含む生分解性生体適合性ポリマーから形成される。植込み後、ポリマー表面上のニトロソチオール基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。ポリマー表面が生分解されるにつれ、新しいポリマー表面が途切れることなく露出され、途切れることなく一酸化窒素を放出する。したがって、一酸化窒素は、コーティングが完全に生分解するまで放出される。他の実施形態では、ニトロソチオール基を含む粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれ、コーティングが生分解するにつれて放出される。次いで、ニトロソチオール基が局所環境中で反応すると、一酸化窒素が粒子から放出される。
【0047】
一実施形態では、実際のコーティングではなく、NO放出ポリマー及び/又は生分解性ポリマー中に埋め込まれたNO放出粒子は、生分解性縫合糸、ステープル及び/又は接着テープを形成するために使用されることができる。これらのデバイスは、経時的に一酸化窒素を放出しながらも、例えば創傷又は外科切開部を閉じるために使用されることができる。これは、創傷治癒、血管新生の増加を助け、瘢痕を最小化し、かつ感染事例を低減させることができる。
【0048】
別の実施形態では、経時的に一酸化窒素を放出する外科用接着剤が開示される。この実施形態の一態様では、外科用接着剤は、ペンダントSNO又は他のNO放出基を含み、経時的に一酸化窒素を放出する生分解性ポリマーを含む。ペンダントSNO又は他のNO放出基を含む生分解性ポリマーを含む外科用接着剤は、生理学的条件下で官能基が反応すると、経時的に一酸化窒素を放出する。ペンダントSNO基を含むため、生分解性ポリマーは、例えばチオ乳酸又はシステインなどのチオール基、並びに任意には、グリコール酸、乳酸及びカプロラクトンのうちの1つ以上を含むモノマーから製造されることができる。得られるポリマーは、外科用接着剤が適用される前に公知の化学を使用してSNO基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。ポリマーがペンダントアミン基を含む場合には、アミン基は、公知の化学を使用してジアゼニウムジオレート又は他の好適なNO放出官能基に変換されることができる。
【0049】
この実施形態の別の態様では、外科用接着剤は、SNO基又は他の一酸化窒素前駆体(NO放出官能基)を含む粒子が中に含まれた生分解性ポリマー、及び任意には、疎水性生分解性ポリマーであることができる生分解性ポリマーを含む。
【0050】
SNO又は他のNO放出基を含む生分解性ポリマー及び埋め込まれた粒子を含む外科用接着剤は、生分解性ポリマーが経時的に分解するにつれて一酸化窒素を放出し、放出された粒子中のNO放出基は、生理学的条件下で反応してNOを放出する。
【0051】
これらの実施形態のいずれかでは、ポリマーは、生分解性部分に加えて、ポリエチレングリコール分岐及び/又は(メタ)アクリレート基などの重合可能な基を含むことができる。本明細書で定義されるように、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらのC1-6アルキルエステルを含む(メタ)アクリレート基は、外科用接着剤を手術部位又は創傷部位に接着させるのに役立つことができ、ポリエチレングリコール基は、損傷/切開部周辺の瘢痕を最小化することができる。外科用接着剤は、一酸化窒素を放出することによって治癒を促進する追加能力を有する。
【0052】
更に別の実施形態では、組織工学用の生分解性足場が開示される。この実施形態の一態様では、足場は、ペンダントSNO基を含む生分解性ポリマーから形成される。この実施形態の別の態様では、足場は、粒子が1つ以上の化合物を含む埋め込まれた粒子を含む生分解性ポリマーから形成される。生分解性ポリマー及び/又は埋め込まれた粒子は、NO放出コーティングに関して上述したものと同一のポリマー及び粒子であることができる。
【0053】
この実施形態の一態様では、足場は、幹細胞と、任意には幹細胞の所望の細胞型への分化を誘導することができる様々な増殖因子を含む。この実施形態の一態様では、幹細胞は、足場が分解するのとほぼ同じ時間枠で増殖し、それによって足場とほぼ同じ形状の三次元組織マトリックスを形成する。
【0054】
様々な実施形態では、ニトロソチオール基を含むポリマー及び/又は化合物は、例えば1週間、2週間、3週間又は1ヶ月以上などの長期間にわたって一酸化窒素を放出可能である。
【0055】
分解時間は、生分解性ポリマーを調製するために使用されるモノマーの賢明な選択、並びに結晶化度、分子量及び疎水性によって制御されることができる。例えば、ポリグリコール酸は、ポリ乳酸よりも速く生分解する傾向があり、乳酸とグリコール酸のコポリマーは、これらのモノマーから様々な比率で調製されることができ、分解時間を制御することができる。
【0056】
これらの実施形態のいずれかでは、生分解性ポリマーは、分岐コポリマー、櫛型コポリマー又はグラフトコポリマーであることができる。
【0057】
いくつかの実施形態に含まれているが、疎水性粒子は、親水性コーティング内に埋め込まれている。他の実施形態では、親水性粒子は、疎水性コーティング内に埋め込まれている。更に他の実施形態では、親水性粒子は、親水性コーティング内に埋め込まれており、又は疎水性粒子は、疎水性コーティング内に埋め込まれている。
【0058】
生分解性ポリマーは、例えば、分岐コポリマー、櫛型コポリマー又はグラフトコポリマー、ターポリマーなどであることができる。ポリマーを調製するために使用される代表的なモノマーとしては、糖類、アミノ酸、グリコール酸、乳酸及びヒドロキシ酪酸などのヒドロキシ酸、カプロラクトンなどのラクトン、カーボネート、アミノ酸及び糖類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
糖類は、糖類のヘミアセタールを取り、水の損失を介してアルコールにこれを結合するグリコシド結合を形成することによって多糖を形成する。アミノ酸は、ペプチド及びタンパク質を形成することができ、アミノ酸がシステインを含むときには、得られるペプチド又はタンパク質は、ニトロソチオール基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。生分解性ポリヒドロキシカルボン酸(ポリエステルのサブセット)を形成するために使用されることができるモノマーの例としては、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、乳酸、チオ乳酸並びにこれらのコポリマー及びターポリマーが挙げられる。
【0060】
本明細書に記載のデバイスを使用する治療方法もまた開示される。例えば、一酸化窒素を放出する外科用接着剤を適用することによって創傷治癒を促進する方法が開示される。NO放出コーティングでコーティングされたセンサを備えた経皮グルコースモニタを使用するグルコースレベルのモニタリング方法もまた、開示される。本明細書に記載のコーティングでインプラントをコーティングすることで、皮下インプラントに対する異物応答を最小化する方法もまた開示される。
【0061】
更に別の実施形態では、皮下インプラントなどのインプラント、及びこの実施形態のいくつかの態様では生理学的流体への曝露時に一酸化窒素を放出する接着テープ又はモノリスを含む経皮インプラントが開示される。
【0062】
更なる実施形態では、皮下インプラントなどのインプラント、及びこの実施形態のいくつかの態様では生理学的流体への曝露時に一酸化窒素を放出するポリマー溶液で噴霧された経皮インプラントが開示される。
【0063】
これらの実施形態の一態様では、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物は、生分解性ポリマーを含む。
【0064】
これらの実施形態の一態様では、インプラントは、感覚インプラント、神経インプラント、心臓インプラント、整形外科インプラント、電気インプラント、避妊用インプラント又は美容整形用インプラントである。いくつかの実施形態では、インプラントのすべて又は一部分は、多孔質である。
【0065】
代表的な皮下インプラントは、人工関節、ペースメーカ、ステント、インスリン注入セット、ポート、水頭症シャント(hydrocephiletic shunts)などのシャント、乳房インプラント、ふくらはぎインプラント及び臀部インプラントを含む再建美容整形用インプラントを含む。ステントに関して、ステント上のコーティングからの一酸化窒素放出は、再狭窄を最小化することができる。
【0066】
この実施形態の様々な態様では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液は、ニトロソチオール(SNO)基又はジアゼニウムジオレート基などのペンダントNO放出官能基を含む生分解性生体適合性ポリマーから形成されることができる。植込み後、ポリマー表面上のこれらのNO放出官能基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。生分解性ポリマーは、親水性又は疎水性であることができるが、分解を遅延させ、かつ一酸化窒素の放出を延長するためにはポリマーが疎水性であることが好ましいものであり得る。
【0067】
この実施形態の他の態様では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液に使用されるポリマーは、ニトロソチオール基又はジアゼニウムジオレート基などのNO放出官能基を含んでも含まなくともよいが、これらの基を含む小分子及び/又はポリマー化合物から調製される、マイクロ粒子又はナノ粒子などの埋め込まれた粒子を含む。生分解性ポリマーは使用される場合、これらは親水性又は疎水性であってもよいが、親水性生物学的流体に曝露される生理学的環境に導入されるときには、ポリマーは、一酸化窒素の放出を遅延させるために好ましくは疎水性である。
【0068】
これらの実施形態のいくつかの態様では、生分解性ポリマーは、乳酸若しくはグリコール酸などの酸である単量体単位、又は酸無水物である単量体単位を含み、その結果、ポリマーが生分解すると、局所pHは酸性である。ニトロソチオールは、中性pHに対し相対的に酸性pHでより速く硝酸を放出する傾向があるため、局所環境での相対的に低いpH(すなわち、5.5~6.8周辺)の存在は、一酸化窒素放出を促進し得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液は、疎水性ポリマーを含み、親水性又は両親媒性粒子は、テープ又はモノリスの場合にはポリマー中に埋め込まれる、又は医療デバイスに適用される噴霧可能なコーティングの場合にはポリマー溶液中に含まれる。
【0070】
他の実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液は、疎水性ポリマーを含み、疎水性粒子は、テープ又はモノリスの場合にはポリマー中に埋め込まれる、又は医療デバイスに適用される噴霧可能なコーティングの場合にはポリマー溶液中に含まれる。
【0071】
更に他の実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液は、親水性又は両親媒性ポリマーを含み、疎水性粒子は、テープ又はモノリスの場合にはポリマー中に埋め込まれる、又は医療デバイスに適用される噴霧可能なコーティングの場合にはポリマー溶液中に含まれる。
【0072】
他の実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液は、親水性又は両親媒性ポリマーを含み、親水性又は両親媒性粒子は、テープ又はモノリスの場合にはポリマー中に埋め込まれる、又は医療デバイスに適用される噴霧可能なコーティングの場合にはポリマー溶液中に含まれる。
【0073】
ポリマーテープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液中の粒子の充填量は様々なものであることができ、典型的には、約1~約50重量%、より典型的には、約5~約40重量%、好ましくは約10~約30重量%の範囲である。
【0074】
これらの実施形態の様々な態様では、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物中に存在するポリマーは、ペンダントニトロソチオール(SNO)基を含む生分解性生体適合性ポリマーを含む。植込み後、ポリマー表面上のニトロソチオール基は、親水性生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。ポリマー表面が生分解されるにつれ、新しいポリマー表面が途切れることなく露出される。ポリマーの疎水性に応じて、ポリマーが水分にいったん曝露されると、内部ニトロソチオール基及び表面ニトロソチオール基の両方は、それらのNOペイロードを送達し得、又は内部ニトロソチオール基は保護され得、ポリマーが生分解されると該ポリマーは途切れることなく一酸化窒素を放出し得る。ポリマーが完全に水和状態になった直後、ポリマーから、又は該ポリマー内に埋め込まれた粒子から放出が起こり得るため、ポリマーがより親水性であればあるほど、一酸化窒素の放出はより速い。
【0075】
したがって、いくつかの実施形態では、とりわけ疎水性ポリマーが使用される場合には、一酸化窒素は、テープ、モノリス又は噴霧されたコーティングが完全に生分解するまで放出される。他の実施形態では、とりわけ親水性ポリマーが使用される場合には、一酸化窒素の完全放出は、植込み直後に起こり得る。ポリマーが疎水性ポリマーであるときには、ペンダントニトロソチオール基がポリマー上、又はポリマー内に埋め込まれた粒子上に存在するかどうかにかかわらず、これは、親水性ポリマーと比較して延長された一酸化窒素放出をもたらすことができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、テープ、モノリス又はポリマースプレー配合物は、ペンダントニトロソチオール(SNO)基を含む生分解性生体適合性ポリマーを含む。植込み後、ポリマー表面上のニトロソチオール基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでニトロソチオール基が一酸化窒素を放出する。ポリマー表面が生分解されるにつれ、新しいポリマー表面が途切れることなく露出され、途切れることなく一酸化窒素を放出する。したがって、一酸化窒素は、コーティングが完全に生分解するまで放出される。他の実施形態では、ニトロソチオール基を含む粒子は、テープ、モノリス又は噴霧可能なポリマー溶液中に埋め込まれており、かつテープ、モノリス又はコーティング上に噴霧されたものが生分解するにつれて放出される。次いで、ニトロソチオール基が局所環境中で反応すると、一酸化窒素が粒子から放出される。
【0077】
一実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物は、インプラントが植え込まれるかなり前に適用されることがある予め形成されたコーティングではなく、植込み前、例えば植込みの数時間以内に医療用インプラントに適用される。こうすることで、植え込まれた医療デバイスが経時的に一酸化窒素を放出することができ、創傷治癒、血管新生の増加を助け、瘢痕を最小化し、かつ感染事例を低減させることができる。
【0078】
別の実施形態では、噴霧可能な配合物は、外科用接着剤と同様の様式で使用されるが、創傷部位に適用される代わりに、創傷ではなくインプラント表面に(及び任意には多孔質インプラントの表面上の細孔へと)適用される。ただし、いくつかの実施形態では、創傷表面上に架橋することができ、こうすることで創傷の閉鎖を支援する架橋性基を噴霧可能な配合物が含むかどうかに応じて、噴霧可能な配合物は外科用接着剤として使用されることができる。
【0079】
いくつかの実施形態では、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物中の生分解性ポリマーがペンダントSNO基を含む場合、生分解性ポリマーは、例えば、チオ乳酸又はシステインなどのチオール基、並びに任意には、グリコール酸、乳酸及びカプロラクトンのうちの1つ以上を含むモノマーから製造されることができる。得られるポリマーは、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物がインプラントに適用される前に公知の化学を使用してSNO基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。ポリマーがペンダントアミン基を含む場合には、アミン基は、公知の化学を使用してジアゼニウムジオレート又は他の好適なNO放出官能基に変換されることができる。
【0080】
他の実施形態では、ペンダントSNO基を含むテープ、モノリス又は噴霧可能な配合物中の生分解性ポリマーではなく、ポリマー中に埋め込まれた、又はポリマー溶液とともに混合された粒子は、SNO基又は他の一酸化窒素前駆体(NO放出官能基)、及び任意には、疎水性生分解性ポリマーであり得る生分解性ポリマーを含む。
【0081】
ニトロソチオール基を含むポリマー及び/又は化合物は、例えば1週間、2週間、3週間又は1ヶ月以上などの長期間にわたって一酸化窒素を放出することが可能である。
【0082】
これらの実施形態のいずれかでは、ポリマーは、生分解性部分に加えて、ポリエチレングリコール分岐及び/又は(メタ)アクリレート基などの重合可能な基を含むことができる。本明細書で定義されるように、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらのC1-6アルキルエステルを含む(メタ)アクリレート基は、インプラントへのテープ、モノリス及び/又は噴霧可能な配合物を接着するのに役立つことができ、ポリエチレングリコール基は、インプラント部位周辺の瘢痕を最小化することができる。
【0083】
分解時間は、生分解性ポリマーを調製するために使用されるモノマーの賢明な選択、並びに結晶化度、分子量及び疎水性によって制御されることができる。例えば、ポリグリコール酸は、ポリ乳酸よりも速く生分解する傾向があり、乳酸とグリコール酸のコポリマーは、これらのモノマーから様々な比率で調製されることができ、分解時間を制御することができる。
【0084】
これらの実施形態のいずれかでは、生分解性ポリマーは、分岐コポリマー、櫛型コポリマー又はグラフトコポリマーであることができる。生分解性ポリマーは、例えば、分岐コポリマー、櫛型コポリマー又はグラフトコポリマー、ターポリマーなどであることができる。ポリマーを調製するために使用される代表的なモノマーとしては、糖類、アミノ酸、グリコール酸、乳酸及びヒドロキシ酪酸などのヒドロキシ酸、カプロラクトンなどのラクトン、カーボネート、アミノ酸及び糖類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
糖類は、糖類のヘミアセタールを取り、水の損失を介してアルコールにこれを結合するグリコシド結合を形成することによって多糖を形成する。アミノ酸は、ペプチド及びタンパク質を形成することができ、アミノ酸がシステインを含むときには、得られるペプチド又はタンパク質は、ニトロソチオール基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。生分解性ポリヒドロキシカルボン酸(ポリエステルのサブセット)を形成するために使用されることができるモノマーの例としては、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、乳酸、チオ乳酸並びにこれらのコポリマー及びターポリマーが挙げられる。
【0086】
本明細書に記載のデバイスを使用する治療方法もまた開示される。例えば、本明細書に記載のテープ、モノリス又は噴霧可能な配合物をインプラントされた医療デバイス上へと適用することによって、並びにテープ、モノリス、及び/又は噴霧可能な配合物中のNO放出官能基に経時的に一酸化窒素を放出させることによって、植え込まれた医療デバイスに対する異物応答を最小化する方法もまた、開示される。
【0087】
本発明は、以下の詳細な説明に関してより良好に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】医療デバイスに接着される、NO放出生分解性粒子を含むポリマーコーティングの概略図であり、医療デバイスは宿主内の皮下に植え込まれている。
【
図2】医療デバイスに接着される、NO放出生分解性粒子を含むポリマーコーティングの概略図であり、医療デバイスは、宿主内の皮下に植え込まれており、ポリマーが分解するにつれてコーティングから放出される粒子を示している。
【
図3】NO放出生分解性粒子を含む創傷ゲル又は外科用接着剤の概略図であり、接着剤又はゲルは創傷部位内に配置されている。
【
図4】NO放出生分解性粒子を含むポリマーから形成された組織工学足場の概略図であり、NOは放出されて組織成長を促進し、血管新生を増加し、かつ/又は瘢痕組織形成を低減することができる。
【
図5】植え込まれたグルコースセンサに対する経時的な異物応答の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
発明の詳細な説明
一実施形態では、経皮インプラント及び皮下インプラントなどの植込み可能な材料及びデバイスから外因性NOを放出するためのデバイス及び方法が開示される。外因性NOの放出は、局所治癒を改善し、かつ植込み後の材料及びデバイスに対するFBRを減少させることができる。植込み可能なデバイスのある特定の実施形態では、一酸化窒素放出は、比較的長期間にわたってデバイスに対する異物応答を低下させるように、数週間から数ヶ月にわたって生じる。
【0090】
いくつかの実施形態では、ドナー部分(ポリマー又は小分子上のNO放出官能基)へのNOの安定性に対する重要な因子は、デバイス内部に保存又は展開される含水量である。湿潤環境(すなわち、水性生物学的流体を灌流した組織)への植込み後、NOドナーを乾燥した状態に維持することが有利であり得る。インプラントが、例えば、コーティング若しくはコーティング内にカプセル化された粒子中の疎水性ポリマーを使用することによって、又はテープ、モノリス若しくは噴霧可能な配合物中、若しくはテープ若しくはモノリス内にカプセル化された、若しくは噴霧可能な配合物中に存在する粒子中の疎水性ポリマーを使用することによって、比較的乾燥状態を維持することができる場合には、NOは、親水性ポリマーを使用する場合よりも比較的長期間にわたってドナーに結合された状態を維持している。NO放出化合物が水(又は水蒸気)に曝露されるとき、NOが放出される速度が劇的に増加する。残念なことに、グルコースセンサ及び創傷ケア接着剤などのいくつかの医療デバイスにとって、電極が存在する運転中のグルコースセンサの一部分の少なくとも周辺での高い含水量を許容することが必要である。ただし、運転中のグルコースセンサの一部分の上方及び下方領域は、疎水性ポリマーでコーティングされることができる。
【0091】
経皮グルコースセンサは、2つの部分を含む。第1の部分は、電極又は他の検知部分がユーザの組織の間質腔のグルコース濃度を決定する有効検知領域である。第2の部分は、植込み型グルコースセンサの第1の部分をユーザの皮膚を覆うグルコースモニタ部分に動作可能に接続し、植込み型グルコースセンサの第1の部分が所望の深さまでユーザの皮膚に貫入することが可能である。
【0092】
グルコースセンサの場合には、最も外側のポリマーコーティングは、それらの検知領域へとグルコースを拡散することが可能でなければならない。高極性炭水化物(グルコース)の構造は、その拡散を促進するために多くの水分子を必要とする。この理由から、グルコースセンサは、典型的には5重量%以上の含水量を有する材料を含む。
【0093】
外科用ドレッシング及び創傷ケア接着剤に関して、これらの生成物内の水拡散及び溶解性もまた、宿主の治癒を完了するために促進されている細胞プロセス及び細胞増殖にとっての要件である。グルコースセンサと同様に、これらの材料によって、グルコースなどの代謝産物の通過が許容され、同時に細胞老廃物の拡散を促進させなければならない。
【0094】
いくつかの実施形態では、ドナー部分へのNOの安定性に対する重要な因子は、デバイス内部に保存又は展開される含水量である。湿潤環境(すなわち、水性生物学的流体を灌流した組織)への植込み後、NOドナーを乾燥した状態に維持することが有利であり得る。インプラントが、例えば、テープ、モノリス若しくは噴霧可能な配合物中の、又はテープ若しくはモノリス内にカプセル化された、又は噴霧可能な配合物中に存在する粒子中の疎水性ポリマーを使用することによって比較的乾燥状態を維持することができる場合には、NOは、親水性ポリマーを使用する場合よりも比較的長期間にわたってドナーに結合された状態を維持している。NO放出化合物が水(又は水蒸気)に曝露されるとき、NOが放出される速度が劇的に増加する。
【0095】
本明細書に記載の医療デバイスの構成要素、その調製及び医療デバイスでの使用は、以下で詳細に説明される。
【0096】
ポリマー
ポリマー材料は、製造の容易さ、可撓性及びそれらの生体適合性性質、並びにこれらの広範な機械的挙動、電気的挙動、化学的挙動及び熱的挙動のため、複合体として異なる材料と組み合わせられるときには、植え込まれた医療デバイスに関連して一般的に使用される。ポリマー材料は、相当の引張強度もまた有さねばならず、インプラントの予想される寿命にわたり、デバイスを収容できなければならない。
【0097】
医療デバイス上に接着されるとき、医療デバイス上へと噴霧されるとき、若しくは医療デバイス上へとコーティングされるときのポリマー、又はいくつかの実施形態では、医療デバイス自体を作製するために使用されるポリマーはNO放出官能基を含み、あるいはこうしたNO放出官能基を含む埋め込まれた粒子若しくは小分子を含む。このセクションではポリマーを説明し、これより後のセクションでは、ポリマー又はポリマーがペンダントNO放出官能基を含むようにポリマー内部に埋め込まれた粒子若しくは化合物を官能化するための方法が開示される。
【0098】
場合によっては、NO放出官能基を含むポリマーを直接調製することが可能ではあるが、これらの官能基は、様々な反応条件、とりわけ光、熱、水分又は約7未満のpHレベルに官能基を曝露することを含む条件に対しては比較的不安定である。したがって、反応してNO放出官能基を形成することができるペンダント官能基を有するポリマーを最初に形成し、次いでペンダント官能基をNO放出官能基に変換することは、典型的には更に容易である。
【0099】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、用語に一般的に与えられる意味を有する。例としては、ホモポリマー、コポリマー(ブロックコポリマー及びグラフトコポリマーを含む)、樹状ポリマー、架橋ポリマーなどが挙げられる。好適なポリマーは、合成ポリマー及び天然ポリマー(例えば、多糖、ペプチド)、並びに縮合、付加及び開環重合によって調製されたポリマーを含む。ゴム、繊維及びプラスチックもまた含まれる。ポリマーは、親水性、両親媒性又は疎水性であることができる。一態様では、ポリマーは、非ペプチドポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは生体適合性及び/又は生分解性である。ポリマーのある特定のクラスは、ポリマーを調製するために使用されるモノマー、重合度などに応じて、親水性又は疎水性のいずれかであり得る。ある特定の親水性ポリマー及びある特定の疎水性ポリマーは生分解性であってもよく、他のものは生分解性でなくてもよい。
【0100】
親水性ポリマー又はポリマーブレンドは、37℃で24時間以上にわたってリン酸緩衝生理食塩水(0.9%の塩分、pH7.4)の水溶液中に入れたときには、当該ポリマーのフィルム又は粒子が5重量%超増加するものである。
【0101】
疎水性ポリマー又はポリマーブレンドは、37℃で24時間以上にわたってリン酸緩衝生理食塩水(0.9%の塩分、pH7.4)の水溶液中に入れたときには、当該ポリマーのフィルム又は粒子が5重量%以上増加しないものである。
【0102】
生体適合性かつ生体安定性ポリマーは、デバイスの電子回路を水分及び人体内部のイオンから保護するためのパッケージされたポリマーの気体透過性及び透水性を含む主要な基準にて植え込まれたデバイスをパッケージするために、広範に使用される。
【0103】
非分解性ポリマーは、医療デバイスが、長期間にわたり所定の位置に維持されるように意図されている、ペースメーカ、人工股関節などのインプラントである場合にしばしば使用される。植え込まれた医療デバイスに関連して使用される代表的な非分解性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサン、パリレン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(メチルメタクリレート)及びポリイミドが挙げられ、これらのポリマーの多くは疎水性である。全人工股関節置換術では、軸受システムは、典型的には、損傷した又は罹患した関節に対する機能を回復させるために、コバルト-クロム合金又はセラミック関節接合される超高分子量ポリエチレン(ultra-high-molecular-weight polyethylene、UHMWPE)インサートを使用する。
【0104】
いくつかのポリマーインプラント及びプロテーゼは、臨床業務で使用される。最も一般的な用途のうちの1つは、合成半月板である。半月板は、膝関節の摩擦を分散させるように機能する軟骨組織である。人工半月板は、コラーゲン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、ポリカプロラクトン及びこれらの組合せを使用して調製されることができる。
【0105】
ペンダント-S-NO基を有するポリマーは、S-ニトロソ化ポリマーと称される。ペンダント-S-NO2基を有するポリマーは、S-ニトロ化ポリマーと称される。「-S-NO2基」はまた、硝酸スルホニル、S-ニトロチオール又はチオナイトレートとも称される。-SNO及び-S-NO2基はインビボで分解し、NOの送達をもたらす。一態様では、S-ニトロ化ポリマーはまた、ペンダント-O-NOX基を有する。S-ニトロ化ポリマーは、ポリマーの1200原子質量単位あたり少なくとも1つのNO2基、好ましくはポリマーの600amuあたり少なくとも1つのNO2基、更により好ましくはポリマーの70amuあたり少なくとも1つのNO2基を有し、S-ニトロソ化ポリマー上及びジアゼニウムジオレート基を有するポリマー上に同様の濃度のNO基を伴う。
【0106】
ヒドロゲル
これらの実施形態のいくつかの態様では、ポリマーは水不溶性かつ親水性であり、ヒドロゲルを形成することができる。ヒドロゲルは、大量の水を吸収することができる組成物である。ヒドロゲルを形成することができるポリマーは、一般には他のポリマーよりも生体適合性があり、例えば血管系に挿入されるデバイスで使用されることができる。ヒドロゲルはまた、軟組織植込み中に極めて軽度の異物反応を一般には呈する。
【0107】
ヒドロゲルを形成するポリマーは、典型的には架橋親水性ポリマーである。ヒドロゲルの更なる説明及び例は、Hydrogels and Biodegradable Polymers for Bioapplications,editors Attenbrite,Huang and Park,ACS Symposium Series,No.627(1996)、米国特許第5,476,654号、同5,498,613号及び同5,487,898号に提供されており、その教示は本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0108】
ヒドロゲルの例としては、ポリエチレングリコール、多糖及び架橋多糖、並びにエチレングリコール及びプロピレングリコール鎖を含むEudragit(登録商標)ポリマーが挙げられる。
【0109】
生分解性ポリマー
生分解性ポリマーは、生体適合性の要件を満たし、無害な最終生成物に生分解するポリマーである。以下に記載のポリマーは、1種以上のNO放出官能基を含むように修飾されることが意図されている。以下のポリマーの説明では、ポリマーは、NO放出化合物に変換されることができる官能基を組み込むものとして開示され、本明細書の他の箇所では、これらの官能基をNO放出化合物に変換するための方法が開示される。
【0110】
生分解性ポリマーは、例えば、分岐コポリマー、櫛型コポリマー又はグラフトコポリマー、ターポリマーなどであることができる。ポリマーを調製するために使用される代表的なモノマーとしては、糖類、アミノ酸、グリコール酸及び乳酸、ヒドロキシ酪酸などのヒドロキシ酸、カプロラクトンなどのラクトンが挙げられるが、これらに限定されない。好適なポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリエステルアミド、脂肪族コポリエステル及び芳香族コポリエステルが挙げられる。生分解性ポリヒドロキシ酸(ポリエステル)を形成するために使用されることができるモノマーの例としては、ヒドロキシ酪酸、グリコール酸、乳酸、チオ乳酸並びにこれらのコポリマー及びターポリマーが挙げられる。
【0111】
生分解性ポリマーの代表的な1クラスは、乳酸、グリコール酸並びにそれらの混合物及びコポリマーに基づく直鎖ポリエステル(PLGA)である。PLGAは、エステル加水分解によって乳酸とグリコール酸に分解され、卓越した生体適合性を有することが示されている。ポリカプロラクトン及びポリカーボネート部分もまた生分解性であり、モノマーは、PLGAポリマーに組み込まれることができる。
【0112】
糖類は、糖類のヘミアセタールを取り、水の損失を介してアルコールにこれを結合するグリコシド結合を形成することによって多糖を形成する。アミノ酸は、ペプチド及びタンパク質を形成することができ、アミノ酸がシステインを含むときには、得られるペプチド又はタンパク質は、ニトロソチオール基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。アミノ酸がリジンを含む場合、ペンダントアミン基をジアゼニウムジオレートに変換することができる。
【0113】
生分解性ポリマーが乳酸若しくはグリコール酸などの酸である単量体単位、又は酸無水物である単量体単位を含む実施形態では、ポリマーが生分解すると、局所pHは酸性である。ジアゼニウムジオレート及び/又はニトロソチオールなどのNO放出基は、中性pHに対し相対的に酸性pHでより速く硝酸を放出する傾向があるため、局所環境での相対的に低いpH(すなわち、5.5~6.8周辺)の存在は、一酸化窒素放出を促進し得る。
【0114】
チオール基は、チオ乳酸又はシステインなどの1種以上のペンダントチオール基を有するモノマーを重合反応に組み込むことによってポリマーへと組み込まれることができる。チオール含有モノマーの濃度は、所望のNO放出量に応じて変更することができるが、典型的には、約1~約50重量%、より典型的には、約5~約25重量%、最も典型的には、約10~約20重量%の範囲である。
【0115】
チオール基が重合化学に干渉し得るか、他の官能基に変換されて、ニトロソチオール基を形成するために後のニトロソ化には利用できない場合、チオール基は、重合プロセス中に保護され、その後脱保護されることができる。チオール用の保護基は、当業者に周知である。
【0116】
医療デバイス上のPLGAコーティングは、マトリックス全体にわたって均一な速度でバルク侵食することで分解する。末端カルボン酸基の数は、鎖切断の増加に伴って増え、酸が加水分解を触媒するため、分解プロセスは自己触媒される。分解は、ラクチドがより疎水性であって分解速度を低下させることから、グリコシド部分に対するラクチド部分の比率に大きく依存する。また、分解プロセスにおける重要な因子は、ポリマーの結晶化度、分子量及びガラス転移温度である。グリコール酸に対する乳酸の比を制御すること、並びに/又はカーボネート及び/若しくはカプロラクトンをポリマー骨格に組み込むことによって、得られるポリマーは、相対的に疎水性又は相対的に親水性であることができる。
【0117】
親水性ポリマー
親水性ポリマーは、水に対して強い親和性を有する。これらは、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールなどの合成ポリマー、又はタンパク質及び多糖などの天然ポリマーのいずれかから構成されることができる。
【0118】
アミノ酸は、ペプチド及びタンパク質を形成することができ、アミノ酸がシステインを含むときには、得られるペプチド又はタンパク質は、ニトロソチオール基に変換されることができるペンダントチオール基を含む。
【0119】
多糖は、親水性ポリマーの一例である。糖類は、糖類のヘミアセタールを取り、水の損失を介してアルコールにこれを結合するグリコシド結合を形成することによって多糖を形成する。
【0120】
代表的な多糖としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンデンプンなどのシクロデキストリン、デキストリン、デキストラン、フィコール、セルロース、フコイダン、アルギニン酸、K-カラギーナンなどのカラギーナン、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン、コンドロイチン及びグルコサミンが挙げられる。
【0121】
デンプンは、相対的に低分子量の高度分岐デンプン(マルトデキストリン、平均分子量約5,000Da)を含む。デンプンは、マイクロスフィアに凝固されることができる形態に変換するためにアクリル基を用いて共有結合的に修飾され、ポリアクリルデンプンは、エマルジョン中でラジカル重合による粒状形態へと変換されることができる(例えば、Characterization of Polyacryl Starch Microparticles as Carriers for Proteins and Drugs,Artursson et al,J Pharm Sci,73,1507-1513,1984を参照されたい)。
【0122】
フィコールは、水溶液中で容易に溶解する中性で高度分岐、高質量の親水性多糖である。フィコールは、多糖とエピクロロヒドリンとが反応することによって調製される。
【0123】
デキストランは、複合分岐グルカン(グルコースの縮合から誘導される多糖)である。IUPACは、デキストランを「主にC-1→C-6にグリコシド結合を有する、微生物起源の分岐ポリ-α-d-グルコシド」として定義している。デキストラン鎖の長さは様々(3~2000キロダルトン)である。ポリマー主鎖は、α-1,3結合からの分岐を有する、グルコースモノマー間のα-1,6グリコシド結合からなる。この特徴的な分岐は、α-1,4結合又はα-1,6結合によって繋がれている直鎖グルコースポリマーであるデキストランとデキストリンとを区別する。
【0124】
キトサンは、ランダムに分布したβ-(1→4)結合D-グルコサミン(脱アセチル化単位)とN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)から構成される線形多糖である。これは、典型的には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を用いて甲殻類のキチン殻を処理することによって作製される。
【0125】
セルロースは、β(1→4)-グリコシド結合によって結合されたD-グルコース単位の線形ポリマーである。セルロースエステル及びセルロースエーテルを含むセルロース誘導体もまた利用することができる。代表的なセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート(cellulose acetate propionate、CAP)及びセルロースアセテートブチレート(cellulose acetate butyrate、CAB)が挙げられる。代表的なセルロースエーテルとしては、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose、HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropyl cellulose、HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、エチルメチルセルロース、エチルセルロース及びメチルセルロースが挙げられる。
【0126】
他の好適な例は、Bioactive Carbohydrates,Kennedy and White eds.,(John Wiley Sons),Chapter 8,142-182ページ(1983)に開示されており、その教示は本明細書の一部を構成するものとして援用される。多糖は、ペンダント第一級アルコール基及び第二級アルコール基を有する。この結果、S-ニトロシル化多糖は、本明細書に記載の方法によってポリチオール化多糖から調製されることができる。
【0127】
多糖は、例えばGaddell and Defaye and Rojasらに開示される方法によって、ポリチオール化多糖に変換されることができる。これらの方法では、第一級アルコールは第二級アルコールよりも優先的にチオール化される。好ましくは、十分過剰なチオール化試薬を使用し、ペルチオール化多糖を形成する。多糖は、第一級アルコールのすべてがチオール基に変換されたときに「ペルチオール化」される。
【0128】
別の態様では、ポリチオール化多糖は、多糖上のアルコール基、好ましくは第一級アルコール基を、遊離チオール又は保護チオールを含有する部分をアルコールに付加する試薬と反応させることによって調製されることができる。一例では、多糖は、ビスイソシアネートアルキルジスルフィドと反応し、続いて還元してアルコールを官能化する。この反応を実施するための条件は、Cellulose and its Derivatives,Fukamota,Yamada and Tonami,eds.(John Wiley&Sons),Chapter 40,(1985)に見出され、その教示は本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0129】
多糖はまた、以下のような、1種以上のチオール含有糖を含むように修飾されることができる:
【化1】
【0130】
グルコサミン及びガラクトサミンは、天然起源のアミノ酸糖である:
【化2】
【0131】
これらの、及び他のアミン含有糖を使用して、ペンダントジアゼニウムジオレート基を有する多糖を調製することができる。
【0132】
疎水性ポリマー
ペンダントNO放出基又はこうした基を有する埋め込まれた粒子若しくは小分子を有する疎水性生体適合性ポリマーでコーティングされた医療デバイスは、一酸化窒素の持続的局所放出を達成することが可能である。これらの疎水性ポリマーはまた、ある特定の期間にわたって安定することができ、次いで分解して細胞/組織の成長を可能にする。これらの生体適合性疎水性ポリマーは、薬物送達、組織増量及び再生医療用途に使用されることができる。
【0133】
合成疎水性ポリマーは、2つの群に分けることができる:
【0134】
1.予備重合:これらのポリマーは、これらのモノマーから予備重合され、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)(poly(ε-caprolactone)、PCL)、ポリ(乳酸)(poly(lactic acid)、PLA)、ポリ(D,L-乳酸-co-グリコール酸)(poly(D,L-lactic-co-glycolic acid)、PLGA)及びポリスチレンを含む。
【0135】
2.プロセス中で重合:これらのポリマーは、粒子の調製中にモノマーから合成され、例えば、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)及びポリ(ヘキサルシアノアクリレート)を含む。
【0136】
合成ポリマーは、天然ポリマーの薬物放出の比較的短い持続期間と比較して、数日間から数週間の期間にわたる持続放出という利点を有する。これらの他の利点としては、有機溶媒の使用及びカプセル化中の典型的な条件の要件が挙げられる。ポリマーNPは、したがって、過去数十年間にわたって薬物送達系として広く研究されてきており、これは米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)によって承認された、PLA及びPLGAなどの生分解性ポリマーNPの臨床研究を含む。
【0137】
代表的な疎水性生分解性注入可能なポリマーは、乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、脂肪族ジオール及び脂肪族二酸、ヒドロキシ脂肪酸、並びにヒマシ油などのトリグリセリドから調製されたものを含む、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート及びポリ無水物を含む。
【0138】
ポリ(オルトエステル)は、ポリマー骨格中に酸感受性結合を含有する、高度に疎水性のポリマーである。7.4の生理学的pHでは、これらの結合は非常に遅い速度の加水分解を受けるが、周囲pHが低下することから、例えば生理学的流体への曝露時には加水分解速度は増加する。これらのポリマーの疎水性は、水浸透を制限し、こうすることで表面への侵食を食い止め、一酸化窒素の制限された放出をもたらす。
【0139】
疎水性ポリマーの分解速度は、例えばこれらを調製するために使用されるモノマーの種類及び比率を調節することによってしばしば制御されることができる。例えば、PCPP及びPCPP-SA85:15(ポリ[ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン無水物]及びセバシン酸を有するそのコポリマー)は、数ヶ月にわたりほぼ一定の侵食速度を有する。CPP/SA比を変更することによって、1日から3年間のほぼあらゆる分解速度を得ることができる(Leong,K.W.,Brott,B.C.,and Langer,R.,J.Biomed.Mater.Res.(25).Copyright(C)1985 John Wiley&Sons.Inc.)。
【0140】
例えば、Rahmani,Mehran,´´List of Hydrophobic Polymers and Coating,10.13140/RG.2.2.26536.72960(2019)では、更なる疎水性ポリマーが開示される。
【0141】
いくつかの実施形態では、ポリマーは脆いものではなく、結果として生理学的条件下であっても医療デバイスに接着した状態を維持する。これらの種類のポリマーは、長期間にわたって患者に植え込まれるコーティングデバイスにとりわけ適している。
【0142】
ポリマーのペンダントNO放出官能基を有するポリマーへの変換
ポリマーが形成された後、ポリマー上のペンダント官能基は、NO放出官能基に変換されることができる。この同じ化学を使用し、小分子上のペンダント官能基をNO放出官能基に変換することができる。
【0143】
ペンダントNO放出官能基を有するポリマーは、アミン、チオール、ヒドロキシ、ヒドロキシアミン、ヒドラジン、アミド、グアナジン、イミン、芳香環及び求核性炭素原子(塩基の付加によって除去されるときに、一酸化窒素と反応することができる求核性エノレートイオンを形成するカルボニル部分に対する相対的に塩基性であるプロトンαなど)を含む、多数の求核性官能基を有するポリマーから調製されることができる。ただし、ニトロソチオール及びジアゼニウムジオレートを形成することから、第一級チオールなどのチオールがとりわけ好ましく、第二級アミンなどのアミンもまた好ましいものであり得る。これらの官能基は、様々な実施形態についてそれぞれ好ましいものであり得、好ましくは、数日から数週間などの長期間にわたる一酸化窒素の持続放出が望ましいときにはニトロソチオールが好ましく、比較的短期間、すなわち数分又は数時間などにわたる一酸化窒素放出が望ましいときにはジアゼニウムジオレートが好ましい。
【0144】
ニトロシル化ポリマーを調製するため、多数のペンダント求核基を有するポリマーは、求核基をニトロシル化するのに好適な条件下でニトロシル化剤と反応する。ニトロ化ポリマーを調製するため、多数のペンダント求核基を有するポリマーは、求核基をニトロ化するのに好適な条件下でニトロ化剤と反応する。
【0145】
ニトロ化ポリマー及びニトロシル化ポリマーの調製は、S-ニトロシル化ポリマー及びS-ニトロ化ポリマーに関して記載される。S-ニトロシル化ポリマー及びS-ニトロ化ポリマーを調製するための本明細書に記載の手順は、上記のチオール以外のペンダント求核基を有するポリマーのニトロ化又はニトロシル化のために使用されることができることを理解されたい。条件においていくらかの変更が必要となる場合であっても、こうした変更は、日常的な実験のみで当業者によって決定されることができる。
【0146】
S-ニトロシル化ポリマー及びS-ニトロ化ポリマーは、「ポリチオール化ポリマー」と本明細書で称される多数のペンダントチオール基を有するポリマーから調製されることができる。S-ニトロシル化ポリマーを調製するため、ポリチオール化ポリマーは、遊離チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下でニトロシル化剤と反応する。S-ニトロ化ポリマーを調製するため、ポリチオール化ポリマーは、遊離チオール基をニトロ化するのに好適な条件下でニトロ化剤と反応する。
【0147】
好適なニトロシル化剤及びニトロ化剤は、例えば、その教示が本願の一部を構成するものとして援用される、Feelisch and Stamlerによって編集されたFeelisch and Stamler,「Donors of Nitrogen Oxides」,Methods in Nitric Oxide Research(John Wiley&Sons)(1996)に開示される。好適なニトロシル化剤としては、酸性亜硝酸塩、塩化ニトロシル、S-ニトロソ基を含む化合物(S-ニトロソ-N-アセチル-D,L-ペニシラミン(SNAP)、S-ニトロソグルタチオン(SNOG)、N-アセチル-S-ニトロソペニシラミニル-S-ニトロソペニシラミン、S-ニトロソシステイン、S-ニトロソチオグリセロール、S-ニトロソジチオスレイトール及びS-ニトロソマーカプトエタノール)、有機亜硝酸塩(例えば、亜硝酸エチル、亜硝酸イソブチル及び亜硝酸アミル)ペルオキシ亜硝酸塩、ニトロソニウム塩(例えば、硫化水素ニトロシル)、オキサジアゾール(例えば、4-フェニル-3-フロキサンカーボニトリル)などが挙げられる。好適なニトロ化剤は、有機亜硝酸塩(例えば、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、5-硝酸イソソルビド、亜硝酸イソブチル及び亜硝酸イソペンチル)、ニトロニウム塩(例えば、テトラフルオロホウ酸ニトロニウム)などを含む。
【0148】
酸性亜硝酸塩によるニトロシル化は、例えば、約-20℃~約50℃、好ましくは0℃の温度で、例えばHCl、酢酸、H3PO4などの酸の存在下で、例えばNaNO2、KNO2、LiNO2などの亜硝酸塩を用いて水溶液中で実施されることができる。一般には、ニトロシル化されるチオールあたり、約0.8~約2.0、好ましくは約0.9~約1.1当量のニトロシル化剤を使用する。亜硝酸塩のすべてを亜硝酸に変換するのに十分な酸を付加する。
【0149】
ポリチオール化ポリマーは、アルコール又はアミンなど多数のペンダント求核基を有するポリマーから形成されることができる。ペンダント求核基は、当該技術分野で公知の、及びその教示が本願の一部を構成するものとして援用される、Gaddell and Defaye,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.30:78(1991)and Rojas et al.,J.Am.Chem.Soc.117:336(1995)に開示される方法によってペンダントチオール基に変換されることができる。
【0150】
一実施形態では、S-ニトロシル化ポリマーはS-ニトロシル化多糖である。ポリチオール化及びペルチオール化多糖類は、本明細書の他の箇所で記載の酸性亜硝酸塩又は塩化ニトロシルなど、好適なニトロシル化剤の存在下でニトロシル化されることができる。
【0151】
遊離チオールをニトロシル化可能である薬剤はまた、場合によっては、遊離チオールを酸化してジスルフィド結合を形成することを理解されたい。したがって、例えば、酸性化亜硝酸塩、塩化ニトロシル、S-ニトロソチオールなどのニトロシル化剤でポリチオール化ポリマー(例えば、ポリチオール化シクロデキストリンなどのポリチオール化多糖)を処理することで、場合によっては、架橋S-ニトロシル化ポリマーマトリックスの形成がもたらされることができる。「ポリマーマトリックス」は、接続された多数の個々のポリマーを含み、分子間結合によって「架橋された」分子である。それによって、場合によっては、ニトロシル化剤はチオールのいくらかをニトロシル化し、加えて、分子間ジスルフィド結合の形成を引き起こすことによって個々のポリマーを架橋する。こうしたポリマーマトリックスは、「S-ニトロシル化ポリマー」といった用語に包含され、本発明の範囲内に含まれる。過剰なニトロシル化剤を使用するとき、及びニトロシル化剤が十分なサイズのものであるとき、これは、個々のポリマー分子を架橋する分子間ジスルフィド結合によってポリマーマトリックス内に組み込まれるか、「複雑に絡み合わされる」ことができ、これによって、ポリマーとニトロシル化剤との間に錯体を形成する。
【0152】
上記のようにポリチオール化多糖中の遊離チオールに対して2当量以上のニトロシル化剤がニトロシル化反応中に使用されるとき、S-ニトロシル化多糖、特にS-ニトロシル化シクロデキストリンなどのS-ニトロシル化環化多糖は、好適なニトロシル化剤と錯体を形成することができる。一般には、約1.1~約5.0当量、好ましくは1.1~約2.0当量のニトロシル化剤を使用して錯体を形成する。
【0153】
粒子
いくつかの実施形態では、NO放出官能基を含む粒子が、ポリマーコーティングを形成するために使用されるポリマー内部に埋め込まれる、又は医療デバイス自体がNO放出官能基を含む粒子である場合、粒子はマイクロ粒子又はナノ粒子であることができる。これらの粒子は、NO放出官能基を含むポリマーから形成されることができ、又はNO放出官能基を含む小分子を含むことができる。
【0154】
以下に述べるように、いくつかの実施形態では、粒子を形成するために使用される条件は、例えば粒子及びそれらの構成要素を熱、光及び/又は7周辺未満のpHレベルに曝すことによって、少なくともある程度の速度でNO放出官能基を分解する条件にポリマーを供することを含むことが多い。したがって、いくつかの実施形態では、粒子は、NO放出化合物に変換されることができるペンダント官能基を有するポリマー及び/又は化合物を使用して調製され、これらの基は、粒子が形成された後にNO放出官能基に変換される。他の実施形態では、粒子は、NO放出官能基を含むポリマーを使用して調製され、粒子は、粒子形成中のNO放出官能基の一部の分解により、NO放出容量のいくらかを損失する可能性があることが理解される。
【0155】
マイクロ粒子は、典型的には、直径にして0.1~100μmの粒子として定義され、ナノ粒子は、直径にして1~100nmの粒子として定義される。薬物送達で使用されるとき、粒子は好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、ポリカプロラクトン、ポリ無水物などの生分解性ポリマー及び本明細書の他の箇所に記載の他のポリマーから調製される。
【0156】
マイクロ粒子又はナノ粒子は、広範な方法を介して調製されることができる。マイクロ粒子を調製するための代表的な技術としては、エマルジョン-溶媒蒸発(油/水、水/油及び水/油/水)、相分離(非溶媒添加及び溶媒分配)、界面重合、噴霧乾燥、エマルジョン抽出プロセス、ジェットミル技術などの粉砕技術、流動化及び溶媒沈殿法が挙げられる。プロセスは、粒子を乾燥して調製に使用された溶媒を除去することを含むことが多く、乾燥プロセスは、典型的にはNO放出官能基を分解し、これらに一酸化窒素を早期に(すなわち、これらが患者に植え込まれる前に)放出させるのに十分な熱を使用することを含む。
【0157】
したがって、一実施形態では、チオール及びアミンなどの官能基は、粒子が形成された後にNO放出官能基に変換され、そうすることでこの早期分解が大幅に回避されることができる。これらの相対的に大きな表面積を考えると、官能基をNO放出官能基に変換することは相対的に容易である。
【0158】
粒子は、理想的には生分解性ポリマーを含む。多くの生分解性ポリマー系は、一般にはヒトの使用にとって安全であると認められており、広範な一連のNOドナーと生分解性ポリマーの組合せをもたらす。
【0159】
制御放出生分解性粒子を作成することによって、植え込まれたデバイス、とりわけポート、カテーテルなどの経皮インプラントが宿主から取り外された後に潜在的に有害な物質を残すといった望ましくない条件が回避される。
【0160】
更には、このアプローチによって、NO放出ドナー化合物を内部に配置することができる広範な疎水性粒子が促進される。望ましい実施形態の一例は、生分解性ポリカプロラクトン又はPLGA粒子内部でのチオ乳酸(ドナー)ドーピングであり得る。
【0161】
マイクロ粒子を調製するためのプロセスは、ポリマー溶液を形成することを含むことが多く、有効医薬品が溶液中に存在し得る。粒子が溶液中で沈殿するときには、有効医薬品はポリマーに組み込まれることができる。
【0162】
溶液のpHが相対的に酸性ではなく(すなわち、およそ7.0以上)、かつ粒子が形成されてその後単離される温度がNO放出官能基を大幅に分解するには十分ではない実施形態では、ポリマー上のNO放出官能基は、大幅に分解されない(すなわち、粒子形成中、NO放出容量の10%未満の損失)。
【0163】
溶液のpHが相対的に酸性であり(すなわち、およそ6.9未満)、かつ/又は粒子が形成されてその後単離される温度がNO放出官能基を大幅に分解するのに十分である実施形態では、ポリマー上のNO放出官能基は、大幅に分解されない(すなわち、粒子形成中、NO放出容量の10%未満の損失)。これらのNO放出官能基が分解する温度は特定の官能基によって変化するが、当業者は、過度の実験を行うことなく、NO官能基の大幅な分解なしにどの官能基が粒子形成に耐えることができるかを容易に決定することができる。
【0164】
ナノ粒子は、好適な化合物の溶液が混合され、それ以外の場合には処理されて所望の材料の不溶性沈殿物を形成する「湿潤」化学プロセスによって調製されることができる。後者の粒子のサイズは、試薬濃度及び溶液温度を選択することによって、かつ液体の粘度及び拡散速度に影響を及ぼす好適な不活性剤を加えることによって、調節される。異なるパラメータについては、同一の一般的なプロセスは、エアロゲル及び他の多孔質ネットワークなど、同一材料の他のナノスケール構造を生じる可能性がある。
【0165】
他の粒子調製方法と同様に、NO放出官能基を有する、又はNO放出官能基に後で変換される官能基を有するポリマー及び/又は小分子を使用してナノ粒子を調製するか否かは、温度及びナノ粒子が調製される溶液のpHに大きく左右される。
【0166】
この方法で形成されたナノ粒子は、典型的には蒸発、沈殿、遠心分離、洗浄及び/又は濾過によって、溶媒及び反応の可溶性副生成物と分離されることができる。代替的には、粒子が医療デバイス表面上に堆積されることが意図される場合には、出発溶液は、例えば、浸漬又はスピンコーティングによってその表面上でコーティングされることができ、反応を所定の位置で実施されることができる。
【0167】
湿潤化学アプローチによって、粒子の化学組成の精密な制御が可能となり、例えば有効医薬品といった様々な添加剤は、試薬溶液に組み込まれ、最後には、最終ナノ粒子生成物中で均一な分散状態となることができる。
【0168】
ナノ粒子はまた、これらの十分な量がナノスケールサイズ範囲になるまで、ボールミル、遊星ボールミル又は他の粒径細分機構で粉砕することによってマクロスケール又はミクロスケールの粒子から調製されることができる。得られる粉末は、空気分級されてナノ粒子を抽出することができる。
【0169】
いくつかの実施形態では、有効医薬品は、ポリマーコーティング液にブレンドすることによって、又はマイクロ粒子若しくはナノ粒子にこれを組み込むことによってのいずれかでコーティング中に存在することができる。
【0170】
小分子
理想的には、小分子は、1,000g/mol未満の分子量、より好ましくは750g/mol未満の分子量、更により好ましくは500g/mol未満の分子量を有する。代表的な小分子は、S-ニトロソ基を有する化合物を含む。例としては、S-ニトロソチオール酢酸、S-ニトロソ-N-アセチル-D,L-ペニシラミン(S-nitroso-N-acetyl-D,L-penicillamine、SNAP)、S-ニトロソグルタチオン(S-nitrosoglutathione、SNOG)、N-アセチル-S-ニトロソペニシラミニル-S-ニトロソペニシラミン、S-ニトロソシステイン、S-ニトロソチオグリセロール、S-ニトロソジチオスレイトール及びS-ニトロソマーカプトエタノールが挙げられる。
【0171】
追加の小分子は、有機亜硝酸塩(例えば、亜硝酸エチル、亜硝酸イソブチル及び亜硝酸アミル)、オキサジアゾール(例えば、4-フェニル-3-フロキサカーボニトリル)、ペルオキシニトリル、ニトロソニウム塩及びニトロプルシド、並びに他の金属ニトロシル錯体を含む(Feelisch and Stamlerによって編集されたFeelisch and Stamler,「Donors of Nitrogen Oxides」,Methods in Nitric Oxide Research(John Wiley&Sons)(1996)を参照されたい)。
【0172】
本明細書に記載のS-ニトロシル化ポリマーのNOの送達時間及び送達容量は、S-ニトロシル基を含む小分子を組み込むことによって増加されることができる。送達時間及び送達容量が増加する程度は、小分子の容量によって変化する。
【0173】
ニトロソチオール及び/又はジアゼニウムジオレートの形成
ニトロソ化条件は、例えばC Zhang et al.Chem.Commun.,2017,53,11266-11277に開示される。
【0174】
S-ニトロシル化環状多糖と錯体化することができるニトロシル化剤は、環状多糖と包摂錯体を形成するのに必要なサイズ及び疎水性を有するものを含む。「包接錯体」は、シクロデキストリンなどの環状多糖と、環状多糖の空洞内に位置する小分子との間の錯体である。シクロデキストリンなどの環状多糖の空洞サイズ及び包摂錯体を調製するための適切な分子を選択する方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、Szejtli Cyclodextrins In Pharmaceutical,Kluwer Academic Publishers,ページ186-307(1988)に見出すことができ、その教示は本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0175】
S-ニトロシル化環状多糖と錯体化することができるニトロシル化剤はまた、ニトロシル化剤がS-ニトロシル化多糖のポリマーマトリックス構造に組み込まれた状態になることができるように、十分なサイズを有するニトロシル化剤を含む。先に述べたように、ある特定の例では、ポリチオール化ポリマーのニトロシル化もまた、分子間ジスルフィド結合の形成によって個々のポリマー分子の架橋をもたらし、ポリマーマトリックスを得ることができる。好適なニトロシル化剤は、ニトロシル化剤がこのマトリックスに組み込まれることができるような適切なサイズのものである。サイズ要件は、それぞれ個々のポリチオール化ポリマーの構造によって決定され、好適なニトロシル化剤は、調製される特定のS-ニトロシル化ポリマーに従い、当業者によって日常的に決定可能であることを理解されたい。
【0176】
代表的なニトロ化剤は、有機亜硝酸塩及びニトロニウム塩を含む。
【0177】
ペンダントニトロソチオール基を含むポリマー、粒子及び小分子は、ペンダント(遊離)チオール基を含むポリマー、粒子又は小分子を含む溶液と、遊離チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下でニトロシル化剤とを反応させることによって調製されることができる。
【0178】
一実施形態では、ニトロシル化剤は、S-ニトロソチオール、有機亜硝酸塩、オキサジアゾール、ペルオキシ亜硝酸塩、ニトロソニウム塩及び金属ニトロシル錯体からなる群から選択される。
【0179】
一実施形態では、ニトロシル化剤は酸性化亜硝酸塩である。亜硝酸塩の例としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム及び亜硝酸アンモニウム、ニトロシル化溶液に硝酸アニオンを提供する任意の可溶性亜硝酸塩が挙げられる。酸の例としては、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸及び硝酸アニオンの気体ニトロシル化剤への変換を促進する任意の強酸が挙げられる。
【0180】
いくつかの実施形態では、ポリマー、粒子又は小分子は、遊離第一級チオール又は第二級アミンのモルあたり、約0.8~約2.0モル当量、理想的には約0.9~約1.1当量の酸性化亜硝酸塩と反応する。
【0181】
他の実施形態では、ニトロシル化剤は塩化ニトロシルである。
【0182】
いくつかの実施形態では、ニトロキシ化剤は気体である。これらの実施形態のいくつかの態様では、気体状のニトロシル化剤の「有効量」は、化合物、粒子又はポリマー中の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約90%の遊離第一級チオール又は第二級アミン基のニトロシル化をもたらす量である。
【0183】
好ましくは、十分な量の気体状のニトロシル化剤を使用し、NOを有する化合物、粒子又はポリマー中の遊離第一級チオール又は第二級アミン基を飽和させる。すなわち、第一級チオール又は第二級アミン基のすべて又は実質的にすべて(すなわち、90%超)がニトロシル化し、それぞれニトロソチオール又はジアゼニウムジオレートを形成する。有効量は、約0.8気圧~約10気圧の範囲であり、好ましくは約1気圧である。
【0184】
代表的なニトロシル化条件
一実施形態では、第一級チオール基又は第二級アミン基を含むポリマーは、NaOH溶液などの水酸化物水溶液、及び遊離チオール又はアミンのモルあたり理想的にはおよそ0.5~1.5当量のNaNO2などの亜硝酸水溶液の混合物中に溶解され、HClなどの酸が加えられる。このプロセスが沈殿物を生成する場合、沈殿物を回収し、酸性上清を除去することができる。沈殿物を、上清がおよそ6~8のpHを有するまで、理想的には撹拌にて脱イオン水などの水で洗浄することができる。
【0185】
別の実施形態では、第一級チオール基及び/又は第二級アミン基を含むポリマーは、例えばDMF又はDMSOなどの極性非プロトン性溶媒といった適切な溶媒中に溶解されることができる。塩化ニトロシルは、溶液に通してバブリングされることができ、溶媒は、真空又は窒素若しくはアルゴンなどの不活性気体流下で除去され、NO放出基を含むポリマー生成物を得ることができる。
【0186】
更に別の実施形態では、第一級チオール基又は第二級アミン基を含むポリマーは、NaOH溶液などの水酸化物溶液中に溶解される。D(+)-S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミンなどのニトロソ化合物が加えられることができ、これは典型的には沈殿物を形成する。沈殿物は、回収され、典型的には上清がおよそ6~8のpHを有するまで洗浄されることができる。
【0187】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、ニトロ化剤又はニトロシル化剤の一部はポリマーと接触し、薬剤が気体である場合には、これは表面だけではなくポリマーと接触し、NO放出基に変換されることが可能である官能基をニトロ化又はニトロシル化する。医療デバイスが製造される前にNO放出基が形成された場合には、別のことでNO放出容量の損失をもたらし得る製造条件が使用される後に、これはポリマーのNO2又はNO容量を生成する。
【0188】
ポリマーコーティングの形成
ポリマーコーティングは、疎水性又は親水性であり得る。いくつかの実施形態では、とりわけNO放出が長期間にわたって望ましい場合、これらのコーティングがNO放出官能基を含む埋め込まれた粒子又は小分子を含むときには、疎水性コーティングを使用することが望ましいものであり得る。
【0189】
疎水性コーティングを使用することによって、生理学的流体はコーティングに迅速に貫入し、かつ埋め込まれた粒子又は小分子に到達することができない。これは、NOが放出され得る時間を延長することができる。他の実施形態では、生体適合性を改善し、異物応答を低下させるのに役立ち得るコーティングは親水性であり、生理学的流体に曝露されるとき、疎水性ポリマーと比較してNOが放出されることができる速度を高めることができる。これらの実施形態のそれぞれの様々な態様では、ポリマーは生分解性である。
【0190】
ポリマー中に埋め込まれた、又はこれに混合された粒子は生分解性であり得、コーティングを形成するために使用された同一の、又は異なるポリマーから形成されることができる。粒子が生分解性である場合、NO放出速度は、ポリマーの分解速度を制御することによって制御されることができる。多くの粒子表面が曝露されると、NO放出官能基の多くが生理学的流体に曝露され、これによって多くのNOを放出する。
【0191】
いくつかの実施形態では、疎水性ポリマーはコーティングに使用され、親水性又は両親媒性粒子は、ポリマーコーティングに埋め込まれる。他の実施形態では、疎水性ポリマーは、コーティングに使用され、疎水性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。更に他の実施形態では、親水性又は両親媒性ポリマーはコーティングに使用され、疎水性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。更に他の実施形態では、親水性又は両親媒性ポリマーはコーティングに使用され、親水性又は両親媒性粒子は、ポリマーコーティング中に埋め込まれる。
【0192】
ポリマーコーティング中の粒子の充填量は様々なものであることができ、典型的には、約1~約50重量%、より典型的には、約5~約45重量%、好ましくは約10~約40重量%の範囲である。
【0193】
コーティングを適用することができる多くの方法が存在する。各方法は、固有の利益及び損失を有するが、すべての方法がすべてのデバイス又は材料に適用可能であるわけではない。ただし、当業者は、どのコーティング方法がどのデバイスに最良かを容易に理解するであろう。
【0194】
浸漬コーティングは、医療デバイスをコーティングするための一般的なプロセスである。浸漬コーティングは、典型的には、表面調製/洗浄、コーティング液中にデバイスを完全に浸漬すること、液からデバイスを取り出すこと、コーティングを乾燥及び/又は硬化させること、熱又はUV光などの光を使用すること、並びに後処理を含む。
【0195】
粒子形成に関して上述したように、完全浸漬/部分浸漬工程、乾燥及び/又は硬化工程が、コーティングが適用されるときにNO放出官能基がポリマー上及び/又はポリマーに埋め込まれた粒子若しくは小分子中に存在するとした場合にこれらの大幅な分解をもたらす可能性がある場合、いくつかの実施形態では、第一級チオール基及び第二級アミン基などの官能基は、ポリマー、粒子又は小分子中に存在し、コーティングが適用された後でNO放出官能基に変換され、それによってコーティングが適用及び/又は硬化される間のNO放出官能基の分解を回避する。
【0196】
スプレーコーティングもまた使用されることができる。スプレーコーティングは、典型的には、ノズル及びドライバを使用してコーティング液を噴霧し、医療デバイス表面にコーティング液を霧として適用することを含む。超音波振動子を使用し、コーティングの厚さ及び品質に影響を与えるスプレー液滴径を制御することができる。
【0197】
リールtoリールコーティングがある特定の実施形態で使用されることができるが、典型的には小型で複雑なデバイスには使用することができない。ワイヤ又はフィルムのリールが解かれてコーティング液のリザーバを通って進み、第2のリール上へと巻き取られる前に、乾燥又は硬化のためにオーブンへと入る。このアプローチは、本明細書に記載のテープ及びモノリスを調製するために使用されることができる。
【0198】
浸漬コーティングと同様に、乾燥及び/又は硬化工程が、コーティングに使用されるポリマー上に、又はポリマー中に混合若しくは埋め込まれる粒子若しくは小分子中に存在するNO放出官能基を大幅に分解する可能性が高い実施形態では、コーティングが適用された後に、第一級チオール又は第二級アミンなどの官能基をNO放出基に変換することが望ましい場合がある。
【0199】
ロボットコーティングは、複雑な形状に適用可能であり、連続システムに対応することができる。小さなノズルは、支柱及び他の構造に沿ってトレースするようにロボットによって管理される。コーティング液の粘度は、必要に応じてプログラムされることができる。
【0200】
スピンコーティングは、薄膜を基板に適用するための別の一般的な技術である。これは迅速かつ容易に、数ナノメートルから数ミクロンの範囲の厚さで均一なフィルムを製造することができるが、典型的には平坦な表面をコーティングするためにのみ使用される。
【0201】
完全浸漬コーティングは、比較的単純なプロセスである。多くのデバイスは、完全に機能的であるためには30秒のみの完全浸漬を必要とするが、硬化を必要としないことが多い。完全浸漬コーティングは、一般的には医療デバイスをコーティングするために使用される。
【0202】
一実施形態では、医療デバイス、例えば、持続グルコースモニタで使用される電極又はステントは、NO放出官能基を含むポリマーでコーティングされ、この実施形態のある特定の態様では、第一級チオール又は第二級アミンなど、コーティングプロセス完了後にNO放出官能基に変換されることができる官能基を含む。
【0203】
別の実施形態では、医療デバイスは、NO放出官能基を含む埋め込まれた粒子又は小分子を含むポリマーでコーティングされ、この実施形態のある特定の態様では、第一級チオール又は第二級アミンなど、コーティングプロセス完了後にNO放出官能基に変換されることができる官能基を含む。他の実施形態では、ポリマー並びに埋め込まれた粒子及び/又は小分子は、NO放出基、又はこれらの実施形態のある特定の実施形態では、コーティングプロセスが完了した後にNO放出基に変換されることができる官能基を含む。
【0204】
これらの実施形態の一態様では、デバイスは、ペンダントニトロソチオール基、又は次いでNO放出基に変換され、そうすることでS-ニトロシル化シクロデキストリン、デンプン、デキストリン、デキストラン、グリコサミノグリカン、セルロースなどを形成するペンダントチオール基を含む多糖でコーティングされる。
【0205】
一実施形態では、医療デバイスは、複数のニトロソチオール基を含む多糖(すなわち、コーティング工程が完了する前後に、遊離チオール基をニトロシル化(又はニトロ化)するのに好適な条件下で、ニトロシル化剤(又はニトロソ化剤)と接触され、S-ニトロシル化(又はS-ニトロソ化)多糖の形成がもたらされるポリチオール化多糖)を含むポリマー溶液でコーティングされる。
【0206】
この実施形態の一態様では、ポリマーコーティング液は、ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒を含む。コーティング液は、医療デバイスに適切であるコーティング液を適用するための従来の方法のいずれかを使用し、デバイスのすべて又は一部に適用される。次いで、コーティングは、真空中、オーブン中、又は窒素若しくはアルゴンなどの不活性気体流下で乾燥されることができる。
【0207】
コーティングが後にNO放出官能基に変換することが可能である実施形態では、コーティングされたデバイスは次いで、コーティング中のペンダントチオール又はアミン基をNO放出基に変換する適切な条件に供されることができる。
【0208】
これらの実施形態の一態様では、ポリマー溶液は、該粒子がニトロソチオール又はジアゼニウムジオレートなどのNO放出官能基を含むか、後でニトロソチオール又はジアゼニウムジオレートなどのNO放出官能基に変換される第一級チオール又は第二級アミンなどの官能基を含む場合には、ポリウレタンなどの疎水性ポリマー並びに親水性ポリマー又は疎水性ポリマーの粒子を含む。コーティング液は、医療デバイス又は医療デバイスの一部分に適用され、コーティングが硬化される。コーティングが後にNO放出官能基に変換することが可能である実施形態では、コーティングされたデバイスは次いで、コーティング中のペンダントチオール又はアミン基をNO放出基に変換する適切な条件に供されることができる。
【0209】
これらの実施形態のいずれかでは、コーティングは、任意には、コーティングされた医療デバイスが光に曝露されたときにNO放出基の分解を抑制する、染料、顔料及び/又は光安定化化合物を含むことができる。別の態様では、スプレー、テープ、モノリスなどはまた、このような染料、顔料及び/又は光安定化化合物を含むことができる。
【0210】
モノリス/フィルム/テープ
様々な実施形態では、テープ又はフィルムは、1種以上のペンダントNO放出基を含む、及び/又はNO放出基を含む埋め込まれた粒子又は小分子を含む生分解性ポリマーから形成される。この実施形態のいくつかの態様では、テープ/フィルムは、医療デバイスのすべて又は一部分をコーティングする。
【0211】
テープ又はフィルムは、インプラントなどの医療デバイスに物理的に又は化学的に取り付けられることができる。テープ又はフィルムが化学的に取り付けられる場合、これは好ましくは、生体適合性接着剤、好ましくは生分解性接着剤を含む。こうした接着剤は、当業者に周知である。様々な光硬化材料、エポキシ-ポリウレタンブレンド及びシアノアクリレートであり得る、1液及び2液エポキシ及びシリコーン生体適合性接着剤が使用されることができる。一実施形態では、接着剤は、生体適合性及び生分解性ポリウレタン接着剤である。別の実施形態では、接着剤は、ポリ(グリセロールセバシン酸アクリレート)(poly(glycerol sebacate acrylate)、PGSA)である。
【0212】
噴霧可能な配合物
本明細書に記載の噴霧可能な配合物は、適用されるインプラントの少なくとも1つの表面又はその一部分上に生分解性ポリマーフィルムを形成する化学物質の混合物を含む。一実施形態では、ポリマーフィルムは、インプラント上の覆われた領域に適合するように接着する。
【0213】
配合物は、生分解性生体適合性ポリマー、約100℃未満の沸点、好ましくは約85℃未満、より好ましくは約70℃未満の沸点を有するポリマー用の溶媒、及び気体又は揮発性液体であり得る噴射剤を含む。ポリマーは、ペンダントNO放出官能基を有するものを含む、本明細書の別の箇所に記載のポリマーのいずれかであることができ、一実施形態では疎水性ポリマーである。理想的には、ポリマーは相対的に低い細胞毒性を有する。いくつかの実施形態では、ポリマーはペンダントNO放出基を含まず、これらの実施形態では、噴霧可能な配合物は、NO放出基を有する粒子又はペンダントNO放出基を有する小分子を含む。
【0214】
スプレー配合物は、以下の特性:
(1)適用されるインプラント上の所望の領域への容易な適用を可能とする、噴霧されたときの低粘度又は液体様特性、
(2)医療デバイスが植え込まれたときのみの、体液による最小の洗い流し及びNO放出可能官能基の活性化、
(3)特に血液及び/又は他の体液の存在時の著しい接着強度、
(4)植込み後にインプラントが受ける機械的負荷に耐える能力、
(5)最小限の炎症応答、並びに
(6)生分解性、のうちの1つ以上を有する。
【0215】
これらの特性に加えて、噴霧可能な配合物によって形成されたフィルムは、経時的に一酸化窒素を放出する。一酸化窒素の放出は、外科手術に付随して起こることが多い微生物汚染を最小化し、創傷治癒を促進し、インプラント周辺の血管新生を増加し、かつ瘢痕形成を最小化する。本明細書に記載の噴霧可能な配合物は、こうした一酸化窒素放出を提供する。
【0216】
一実施形態では、噴霧可能な配合物中の生分解性ポリマーは、(メタ)アクリレート官能基、若しくはシアノアクリレート、若しくはアルブミンとグルタルアルデヒドの組合せのうちの1つ以上を含み、又はポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックを含み、又はポリウレタン若しくはフィブリンを含む。
【0217】
シアノアクリレートは、2-シアノアクリル酸のアルキルエステルからなるモノマーのクラスに属する。代表的なシアノアクリレートとしては、メチル、エチル、n-ブチル、イソブチル、イソヘキシル及びオクチルシアノアクリレートが挙げられる。シアノアクリレートは、大部分のインプラント表面に接着可能である。
【0218】
フィブリンは、例えば貯蔵されたヒト血漿から取得されることができる。
【0219】
シアノアクリレート(CA)又はフィブリンが使用される場合、これらは噴霧可能な配合物にとって所望の特性のすべて又は大部分を有さなくてもよい。ただし、一酸化窒素を放出する粒子又は小分子は、これらの材料とブレンドされることができ、少なくともこれらは、一酸化窒素放出に関連する有益な特性を有することができる。
【0220】
一実施形態では、噴霧可能な配合物は、精製されたウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)とグルタルアルデヒドとの組合せを含む。これは、30秒以内に適用部位にてその場で重合し、2分以内に完全な強度を達成する。
【0221】
別の実施形態では、噴霧可能な配合物は、イソシアネート末端基を有する超分岐ポリウレタン及びリジンを含む。リジン中のアミン基はイソシアネート基と架橋し、25分以内に接着剤架橋が生じる。
【0222】
PEG系ポリマーもまた使用されることができる。これらのポリマーは、1つ以上のポリエチレングリコールブロック及び1つ以上のPLGAブロックを含むブロックコポリマーを含み、カーボネート結合もまた含み、かつ(メタ)アクリレートエンドキャップを含む、ポリエチレングリコール系合成ヒドロゲルであり得る。該ポリマー中のPEGブロックの存在は、植え込まれた医療デバイスへの組織接着を最小化することができる。フィルムは、PLGAブロックによって分解可能である。これはまた、(メタ)アクリレート末端基を使用してインプラントに接着されることが可能である。一実施形態では、噴霧可能な配合物は、アクリル化末端基を有するPEG-co-トリメチレンカーボネート-co-ラクチドを含み、エオシンYは成分として添加され、配合物が医療デバイスに適用された後に光と反応してその場でポリマーを重合するフリーラジカルを生成する。
【0223】
別の実施形態では、ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)及びジ-PEG-スクシンイミジルスクシネートを含み、互いに架橋し、噴霧されることが可能であるポリマーは、適用前に成分が混合されるのを避けるためにデュアルノズル噴霧器を使用して適用され、そうすることで適用時に架橋することでその場で硬化されることができる。
【0224】
別の実施形態では、噴霧可能な配合物はテトラ-PEG-スクシンイミジルエステル及びトリリジンアミンを含み、これらの配合物は、デュアルノズル噴霧器を使用して適用され、適用時に架橋することができる。
【0225】
一実施形態では、噴霧可能な配合物は、ポリエチレングリコールブロックなどの1つ以上のポリアルキレングリコールブロック及び1つ以上の分解可能なブロックを含むブロックコポリマーである。
【0226】
いくつかの実施形態では、分解可能なブロックは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、カプロラクトン、カーボネートなどの分解可能単量体単位の任意の好適な組合せから形成され、いくつかの実施形態では、これらはトリリジンなどのペプチド、又は3つ以上のリジン単量体単位を含む他の短鎖(すなわち、25単量体単位未満)ペプチド、又はアルブミンなどのタンパク質である。
【0227】
いくつかの実施形態では、噴霧可能な配合物中のポリマーはまた、フリーラジカル重合を介して重合されることができるビニル基((メタ)アクリレート基など)を含む。他の実施形態では、噴霧可能な配合物は、2種以上の成分系であり、ある成分は別の成分上の官能基と架橋することができる官能基を含む。
【0228】
一実施形態では、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールのブロックは、分解可能なブロック上の異なる官能基と架橋する官能基を含む。当業者は、生理学的条件下にてどの官能基が他の官能基と架橋可能かを理解している。
【0229】
この実施形態の一態様では、分解可能なブロックは、ペンダントチオール基又はアミン基を含む1つ以上の単量体単位を含むが、これは、接着剤が適用される前にニトロソチオール、ジアゼニウムジオレート又は他のNO放出基を形成するために修飾されることができる。この実施形態では、ニトロソチオール、ジアゼニウムジオレート又は他のNO放出官能基が架橋化学を妨害しないことが重要である。別の実施形態では、外科用接着剤は、NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレントされる。これらのアプローチの組合せを使用することができる。
【0230】
ポリマーは、ペンダントチオール基又はアミン基を有する単量体単位を含むように修飾されることができ、ニトロソチオール基、ジアゼニウムジオレート基、又は他のNO放出基に変換されることができ、そうすることで噴霧可能な配合物が適用され、得られるフィルムコーティングが生理学的流体に曝露された後にNO放出をもたらす。代替的には、噴霧可能な配合物中のポリマーは、NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレンドされることができる。
【0231】
任意の追加の活性剤
コーティング、又は医療デバイスに噴霧可能な配合物を適用することから形成されたテープ、モノリス及び/若しくはフィルムはまた、局所NO放出以外の方法によって異物応答を抑制する追加の物質を経時的に放出することができる。これらの物質は、VEGF又はVEGFプロモータ、抗TNF-α及び/又はβ抗体を含むTNF-α及び/又はβ阻害剤、ハロフンジノン(halofunginone)、抗菌化合物、デキサメタゾン及びモノブチリンなどの抗炎症化合物を含む。これらの追加の物質は、異物応答を更に防止又は最小化することができる。
【0232】
その他
一実施形態では、生分解性ポリマーを含む粒子は、ペンダントNO放出官能基を含むポリマー又は小分子などのNOドナー部分をカプセル化する。これは、複数の理由から有利である。多くの生分解性ポリマー系は、ヒトの使用にとって安全であると一般には認められている。これによって、NOドナーと生分解性ポリマーとの広範な一連の組合せがもたらされる。
【0233】
制御放出生分解性粒子を作成することによって、グルコースセンサなどのデバイスが宿主から取り外された後に潜在的に有害な物質を残すといった望ましくない条件が回避される。
【0234】
更には、このアプローチによって、NO放出化合物を内部に配置することができる広範な疎水性粒子が促進される。NO放出化合物の一例は、チオール基がニトロソチオール基に変換されたチオ乳酸であり、この修飾されたチオ乳酸は、生分解性ポリカプロラクトン又はPLGA粒子などの生分解性粒子内に埋め込まれている。
【0235】
用途としては、グルコースセンサなどの分析対象センサの外部親水性コーティング、又は外科用接着剤の配合物が挙げられる。第1の例では、グルコースセンサ上でのFBRの低下は、臨床的に有用な寿命を延長する。第2の例では、NOは治癒速度を改善し、瘢痕組織形成を低減するが、これは、首尾良い手術結果後に生成した瘢痕組織が長期二次合併症につながり得ることが多いことから、望ましいものであり得る。
【0236】
医療デバイス
いくつかの実施形態では、医療デバイスは、生体適合性ポリマー、場合によっては生分解性ポリマーを含み、任意には埋め込まれた粒子を含むコーティングを含む経皮インプラントである。代表的な経皮インプラントは、経皮グルコースモニタ、泌尿器カテーテル及び化学療法用の静脈ポート/カテーテル(例えば、留置ポート)を含むカテーテル、流体排出デバイス(ドレーン)、薬物送達デバイス、採血デバイス、経皮に植え込まれた神経刺激装置の電極アレイ、気管瘻ポート、腹壁開口ポート、並びに皮膚表面又は体腔下の体液に到達する目的のために皮膚を穿刺する任意のデバイスが挙げられる。
【0237】
他の実施形態では、医療デバイスは、テープ、ステッチ、接着剤、モノリス又は組織足場、又は患者に埋め込まれているというよりも、適用される他のデバイス、又は細胞、組織若しくは器官をエクスビボで成長させるために使用されることができるデバイスである。
【0238】
これらのデバイスのいくつかの実施形態では、デバイスは、ペンダントNO放出基を有するポリマーを含むNO放出コーティングを含み、他の実施形態では、デバイスは、NO放出基を含む粒子若しくは小分子を組み込むコーティングを含み、更に他の実施形態では、コーティングはまた、ペンダントNO放出基を有するポリマーを含み、又はNO放出基を含む埋め込まれた粒子若しくは小分子も含む。
【0239】
これらの実施形態の様々な態様では、NO放出コーティングは、任意には、ジアゼニウムジオレート及び/又はニトロソチオール(SNO)基などのペンダントNO放出基を含む生分解性ポリマーであり得る生体適合性ポリマー、並びに染料、顔料又は光安定化化合物から形成されることができる。植込み前に、染料、顔料又は光安定化化合物は、光曝露によるNO放出基の分解を最小化する。植込み後、ポリマー表面上のNO放出基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでこの基は一酸化窒素を放出する。生体適合性、任意には生分解性ポリマーは、親水性又は疎水性であることができる。ポリマーが生分解性ポリマーである場合、分解を遅延させ、かつ一酸化窒素の放出を延長するためにはポリマーが疎水性であることが好ましいものであり得る。
【0240】
この実施形態の他の態様では、コーティングは、ニトロソチオール基及び/又はジアゼニウムジオレート基などのNO放出基を含んでも含まなくてもよいが、ニトロソチオール基を含む小分子及び/又はポリマー化合物から調製される、マイクロ粒子又はナノ粒子などの埋め込まれた粒子を含む。
【0241】
この実施形態の更に他の態様では、コーティングは、ニトロソチオール基を含む小分子及び/又はポリマー化合物を含んでもよく、これはマイクロ粒子又はナノ粒子の形成ではなく、むしろポリマーに単にブレンドされる。
【0242】
コーティングは、例えば浸漬コーティング、噴霧、ブラッシングなどによって適用されることができる。第2のコーティングは、NO放出基の分解を最小化する。理想的には、コーティングは、デバイスが植え込まれ、その結果一酸化窒素がコーティングから放出されることができるときには、生理学的流体に対して透過性である。
【0243】
この実施形態の様々な態様では、コーティングは、ジアゼニウムジオレート及び/又はニトロソチオール(SNO)基などのペンダントNO放出基を含む生体適合性、任意には生分解性ポリマーから形成されることができる。
【0244】
植込み後、ニトロソチオール基などのポリマー表面上のNO放出基は、親水性生物学的流体に曝露される。こうすることでこの基は一酸化窒素を放出する。ポリマー表面が生分解されるにつれ、新しいポリマー表面が途切れることなく露出される。ポリマーの疎水性に応じて、ポリマーが水分にいったん曝露されると、内部NO放出基及び表面NO放出基の両方は、それらのNOペイロードを送達し得、又は内部ニトロソチオール基は保護され得、ポリマーが生分解されると該ポリマーは途切れることなく一酸化窒素を放出し得る。したがって、一酸化窒素は、コーティングが完全に生分解するまで放出され得る。ポリマーが疎水性ポリマーであるときには、ペンダントNO放出基がポリマー上、又はポリマー内に埋め込まれた粒子上に存在するかどうかにかかわらず、これは、親水性ポリマーと比較して延長された一酸化窒素放出をもたらすことができる。
【0245】
いくつかの実施形態では、デバイスは、生体適合性ポリマーから形成されたコーティングを含むが、任意にはこれは生分解性ポリマーであり、ジアゼニウムジオレート及び/又はニトロソチオール(SNO)基などのペンダントNO放出基を含む。植込み後、ポリマー表面上のNO放出基は、生物学的流体に曝露される。こうすることでこの基は一酸化窒素を放出する。
【0246】
様々な実施形態では、ポリマー及び/又は化合物はニトロソチオール基を含み、例えば1週間、2週間、3週間又は1ヶ月以上などの長期間にわたって一酸化窒素を放出可能である。
【0247】
分解時間は、生分解性ポリマーを調製するために使用されるモノマーの賢明な選択、並びに結晶化度、分子量及び疎水性によって制御されることができる。例えば、ポリグリコール酸は、ポリ乳酸よりも速く生分解する傾向があり、乳酸とグリコール酸のコポリマーは、これらのモノマーから様々な比率で調製されることができ、分解時間を制御することができる。
【0248】
更に他の実施形態では、デバイスは本明細書に記載のNO放出配合物で噴霧され、又はNO放出テープ若しくはモノリスがデバイスに適用される。
【0249】
経皮インプラント
いくつかの実施形態では、医療デバイスは経皮インプラントであり、インプラントのすべて又は一部分は、一酸化窒素を放出する材料から形成されるか、一酸化窒素を放出する材料で噴霧又はコーティングされ、あるいは一酸化窒素を放出するテープ又はモノリスがインプラントに適用される。経皮インプラントは、例えば、経皮グルコースモニタ、泌尿器カテーテル及び化学療法用の静脈ポート/カテーテル(例えば、留置ポート)を含むカテーテル/ポート、並びに気管瘻ポート及び腹壁開口ポートなどの開口ポート、流体排出デバイス(すなわち、ドレーン)、薬物送達デバイス、経皮に植え込まれた神経刺激装置の電極アレイ、採血デバイス、並びに皮膚表面下又は体腔内の体液に到達する目的のために皮膚を穿刺する任意の他のデバイスが挙げられる。
【0250】
カテーテル、ポート、流体排出デバイス(すなわち、ドレーン)、薬物送達デバイス及び採血デバイスは、本明細書に記載のポリマーコーティングでコーティングすること、テープ若しくはモノリスを接着すること、又は本明細書に記載の噴霧可能な配合物で噴霧されることによって改変されることができ、コーティング、テープ、モノリス又は配合物上への噴霧は、植込み時に一酸化窒素を放出する。一酸化窒素の放出は、デバイス中及びデバイス周辺での細菌増殖を抑制し、デバイスに対する異物応答を抑制することができる。例として、泌尿器カテーテルによって泌尿器感染症が引き起こされ得、カテーテルから一酸化窒素の放出は、感染可能性を最小化することができる。
【0251】
流体排出デバイス(例えば、ドレーン)は、例えば腹水、又は患者の心臓周辺に蓄積する流体、又は手術部位周辺に蓄積する流体を排出するために使用されることができ、一酸化窒素の放出は、微生物汚染を最小化し、かつ創傷治癒を促進する。
【0252】
薬物送達デバイス及び採血デバイスとしては、典型的には、長期間にわたって薬物を送達すること、又は繰り返し採血することを目的として患者へと挿入される管が挙げられる。例としては、胸部ポートなどのポートが挙げられる。これらのポート周辺の組織は、感染症及び/又は異物応答を受けることがあり得るが、これは、本明細書に記載のコーティング、テープ、モノリス又は噴霧可能な配合物を使用して最小化されることができる。
【0253】
経皮グルコースモニタ
従来のグルコースモニタリングシステムは、一滴の血液をストリップ上に採取し、そのストリップをシステムに挿入するときにインスリンレベルを測定する。この種類のデバイスを定期的に使用し、「フラッシュ」グルコースモニタリングシステムが正確に較正されていることを確認する。これは、身体が注入された電極に対する異物応答を発症することから、経時的に重要であり得る。
【0254】
「フラッシュ」グルコースモニタリングシステムは、典型的には、患者のインスリンレベルに関するデータをディスプレイに無線送信するための無線送信機を含む。異物応答に対抗する方法を提供しない従来のグルコースモニタリングシステム、及び本明細書に記載のグルコースモニタリングシステムであって、これは異物応答に対抗する方法を提供する。
【0255】
システムはまた、典型的には、ユーザの皮膚に接着する表面を含み、注入可能なバイオセンサを含む。これらは小型化可能であり、固定化酵素の特異的な生体触媒反応によって支配されている高い選択性及び感度をもたらすため、本明細書に記載のCGMは電気化学バイオセンサを使用することが好ましい。
【0256】
バイオセンサはグルコースレベルを測定し、これらのレベルは、スマートフォンのスクリーンなど、典型的にはディスプレイ上に表示される。グルコースレベルは、例えば公知の一連の化学反応を使用して測定されることができる。グルコースは、グルコースオキシダーゼによってグルカノラクトンに酸化される。酸素が消費され、過酸化水素が生成される。Ag/AgCl電極は、酸素消費及び/又は過酸化水素生成を決定することができ、これらのレベルは酸化されたグルコース量と等しいものであり得る。結果、これはグルコースレベルの測定値を提供する。
【0257】
酵素に基づくセンサは、グルコース特異酵素(例えば、GOx又はGDH)を用いたグルコースの反応時の酸素濃度又は過酸化水素濃度の変化を介したグルコース酸化速度を測定する。いくつかの実施形態では、酵素は、電極表面上に固定化される。酵素は、グルコースをグルコノラクトンに変換した際に還元される。周囲の酸素は、過酸化水素の同時生成を伴う、還元酵素の酸化形態への変換を促進する。
【0258】
グルコース濃度は、生成された過酸化水素の電気化学的酸化、又は消費された酸素の還元のいずれかから取得された電流測定信号と相関する。酵素に基づく電気化学的グルコースバイオセンサは、その酵素的性質による高い選択性及び感度を特徴とするものの、こうしたセンサの動的範囲は、共基質(すなわち、酸素)利用可能性によって制限される。外部拡散制限膜はしたがって、センサ応答はわずかに遅延するものの、範囲を制御し、酸素欠乏を排除するために利用される。追加では、過酸化水素を監視するのに必要とされる作用電極電位(すなわち、Ag/AgClに対して約+0.6V)はまた、電気活性のある内因性種(例えば、アスコルビン酸及びアセトアミノフェン)を酸化し、高い電流密度を作り出す。これらの欠点に対処するため、第2世代の電気化学的グルコースバイオセンサは、電子メディエータ(例えば、親水性ポリマーマトリックス(例えば、ポリ(ビニルピリジン)又はポリ(ビニルイミダゾール))上の酵素に「接続された」Os(4,4-ジメトキシ-2,2’-ビピリジン)2Cl+/2+)]を利用する。こうしたメディエータは、電極表面に対する酵素の酸化還元中心からの電子を往復させることが可能であり、こうすることで印加された電極電位を低くすることが可能になる。結果、センサ応答は、共基質及び干渉から独立している。
【0259】
とは言え、注入されたバイオセンサを使用する他のグルコース測定技術もまた使用することができ、これは本発明の範囲内である。例えば、一実施形態では、CGMは、酵素的電気化学グルコースセンサではなく、非酵素的電気化学グルコースセンサを使用する。この実施形態の一態様では、グルコースは、高い表面積(すなわち、多孔質)の白金電極での直接電気酸化を介して、又は導電性ポリマーのpKa変化に応じた電位差測定の検出を通じて直接測定される。
【0260】
注入可能(「経皮」)グルコースセンサとしては、ポテンショスタット、Ag/AgCl電極及びPt-Ir電極を挙げることができる。Pt-Ir電極は、典型的には、外部拡散制限層、酵素(GOx)層及び内部選択層を含む、複数のポリマー層でコーティングされる。ユーザの皮膚を覆うCGMの一部分は、センサアレイ、電子モジュール、電池及び遠隔測定/送信ポータルを含む。
【0261】
皮下持続グルコースモニタリング(CGM)デバイスの一実施形態では、デバイスは、酵素固定化電流測定バイオセンサを含む。デバイスは、チタンハウジングを有するディスク型センサを含む。デバイスは、センサアレイ、電子モジュール、電池及び遠隔測定/送信ポータルを含む。これらの構成要素は、典型的には同様に経皮CGMに存在するが、バイオセンサのみを注入するため、ユーザの皮膚を覆うCGMの一部分でこれらが見られる。
【0262】
「フラッシュ」グルコースモニタリングシステムから無線送信されるグルコースレベルを表示するためのディスプレイは、遠隔測定/送信ポータルから信号を受信することができる。
【0263】
使用時には、グルコースモニタは皮膚に適用され、電極は、約3~8mm、より典型的には約4~約7mmの深さまで皮膚を穿刺する。電極は、電極の表面で、又はその近傍で一酸化窒素を放出するコーティングを含む。
【0264】
経皮グルコースモニタ又は皮下グルコースモニタに関して、経時的な異物応答は、
図5に示される。最初の5日間にわたり、植え込まれたバイオセンサは、好中球、マスト細胞及び血管のセンサ周辺での形成を伴いながら、タンパク質吸収及びマトリックス沈着を経験する。これは、植え込まれたバイオセンサに対する急性炎症応答と見なされる。植込み後5~21日の間に、センサは、単球接着、並びにマクロファージ融合及び分化を経験する。これは、慢性炎症応答と見なされる。この時点から、センサはFBGC(異物巨細胞)形成、並びに線維芽細胞浸潤及びコラーゲン形成を経験する。これによって、肉芽組織及び植え込まれたバイオセンサの線維性カプセル化が形成される。
【0265】
植込み後の異物応答によって、GOxの活性はpH依存性であることから、局所pHは3.6の低さに急落し、バイオセンサ性能が乱される事態にもつながり得る。グルコースセンサに近接した一酸化窒素の放出は、異物応答を最小化することができ、それによってセンサ性能が悪化するレベルへの局所pHレベル低下によるpHセンサの同時妨害を最小化することができる。
【0266】
CGM及びCGMと併用されるデバイスの様々な実施形態は、以下により詳細に記載される。異物応答を抑制、低下又は防止するために光を発するCGMの代表的な例のうちの代表、すなわち非限定的なものとして理解されるべき説明が以下に提供される。
【0267】
一実施形態では、経皮持続グルコースモニタが開示されており、これは、バイオセンサがユーザの皮膚に注入されるときに異物応答を低下することができるように改変されている。
【0268】
改変としては、適切な局所濃度で、及び十分な持続期間で外因性一酸化窒素を放出するコーティング、コラーゲン産生を減少させる抗菌作用、インプラント周辺の血管新生の増加、及び植え込まれたセンサに対する異物応答を低下させる他の生物学的作用を提供することを含む。
【0269】
上述したように、経皮CGMは、皮膚下に注入されるバイオセンサ及びグルコースレベルに関する情報を読み取り、有線接続又は無線接続のいずれかによってディスプレイにこの情報を送信する電気構成要素を含む、接着され、皮膚を覆う一部分を含む。バイオセンサに加えて、CGMの構成要素としては、典型的には、センサアレイ、電子モジュール、電池及び遠隔測定/送信ポータルが挙げられる。CGMからの信号をディスプレイに無線送信するための手段は、当該技術分野で周知であり、本明細書ではこれ以上述べられない。
【0270】
グルコースセンサのコーティング
本明細書に記載の経皮グルコースモニタでは、グルコースセンサは、本明細書に記載のポリマーコーティングで少なくとも部分的にコーティングされ、このコーティングは経時的に一酸化窒素を放出し、植え込まれたグルコースセンサに対する異物応答を抑制するし、かつセンサ周辺の細菌増殖を抑制するのに役立つ。
【0271】
コーティングは、生体適合性コーティングである。本明細書で使用される場合、センサコーティングがセンサの臨床関連性を最適化し、何らかの負の局所作用及び全身作用を回避し、インプラントに隣接する最も適切な局所組織応答を誘発する場合には、センサコーティングは、「生体適合性」である。
【0272】
上述された生分解性コーティング材料に加えて、グルコースセンサ用の代表的な生体適合性コーティングは、ポリウレタン、Nafion、ポリエチレングリコール、シリコーン、双性イオンポリマー、PLA、PGA及びPLGAなどのポリヒドロキシ酸を含むポリエステル、ポリグリコール乳酸(polyglycolic lactic acid、PGLA)、ポリスルホン(polysulfone、PSU)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン及びこれらのコポリマーを含み、このコーティングはまた、ペンダントSNO基、SNO含有化合物を含む埋め込まれた粒子、又はいくつかの実施形態では、ポリマーコーティング若しくは粒子中にブレンドされたSNO基を含む小分子を含む。
【0273】
コーティングが生分解性である場合、粒子はコーティングが分解するにつれて経時的にコーティングから出現することができ、粒子は、SNO含有化合物が生理学的流体と接触した状態になることで一酸化窒素を放出することができる。
【0274】
コーティング及び/又は埋め込まれた粒子は、異物応答を抑制することができる1つ以上の追加化合物もまた含むことができる。代表的な例としては、例えばVEGF又はVEGFを促進する化合物、抗TNF-α及び/又はβ抗体を含むTNF-α及び/又はβ阻害剤、ハロフンジノン、デキサメタゾン及びモノブチリンなどの抗炎症化合物並びに抗菌化合物が挙げられる。
【0275】
FBRへの分子干渉は、コルチコステロイドによる局所免疫抑制を含むことができる。白血球及び線維芽細胞の活性化は、抗形質転換増殖因子β抗体又はハロフンジノンを使用して弱められることができる。血管新生促進性血管内皮増殖因子(VEGF)又は他の血管新生化合物を使用し、生物活性インプラントの灌流及び性能を改善させるために、血管発生が刺激されることができる。
【0276】
血糖の定量
いくつかの実施形態では、バイオセンサは、GOxなどの酵素的アプローチを使用し、血糖値を定量する方法としてグルコース酸化、酸素消費及び/又は過酸化水素形成を測定する。
【0277】
バイオセンサは、酸素及びグルコースの組織濃度における差異に対する感度を有さなければならず、作用電極を有するバイオセンサの一部分上の様々なコーティング層が開発されているが、これは、更に信頼できる読取り値を提供するためにグルコース及び/又は酸素の透過性を制御するのに役立つ。
【0278】
いくつかの実施形態では、生体適合性コーティングはバイオセンサに適用され、これらの実施形態のいくつかの態様では、異物応答を抑制する化合物はこれらのコーティングから溶出する。
【0279】
これらのアプローチは、以下により詳細に述べられている。
【0280】
非酵素電気化学グルコースセンサ
一実施形態では、CGMは、酵素的電気化学グルコースセンサではなく、非酵素的電気化学グルコースセンサを使用する。この実施形態の一態様では、グルコースは、高い表面積(すなわち、多孔質)の白金電極での直接電気酸化を介して、又は導電性ポリマーのpKa変化に応じた電位差測定の検出を通じて直接測定される。
【0281】
植込み型微小透析プローブ
別の実施形態では、CGMは、酵素的電気化学グルコースセンサではなく、植込み型微小透析プローブを使用する。間質液中のグルコースは、透析液を採取することによって測定される。微小透析は、センサの直接移植を回避するが、グルコース測定(すなわち、回収)は、歴史的に、異物応答のためにインビボで不規則であった。植込み型微小透析プローブは、経時的に一酸化窒素を発する能力を含むことによって改善されるが、これは異物応答を最小化し、それによってこの技術は改善される。
【0282】
ニードル型経皮マイクロセンサ
ニードル型経皮マイクロセンサは、グルコース濃度の測定値として、過酸化水素生成を電流測定的に監視する。検知キャビティは、一般には、内部選択層、酵素層及び外部膜といった3つの機能層でコーティングされたPt-Irワイヤ作用電極からなる。銀/塩化銀(Ag/AgCl)ワイヤは、作用電極周囲に巻き付けられ、疑似参照電極及び対電極の両方として機能する。こうしたセンサは、典型的には、皮下グルコースセンサと比較して短い安定化期間(例えば、2~4時間)を有することを特徴とし、デバイスは、同時感染リスクを伴う真皮開口に貫入する。場合によっては、頻繁な較正(例えば、1日あたり2回)は、センサ応答における変化によって、安定期間後であっても必要とされ得る。更には、デバイスの経皮性質は、機械的運動などのセンサ上に更なる力を生成するが、これは、更に大きな炎症をもたらし得る。異物応答、とりわけ炎症応答の最小化は、較正の必要性を最小化するのに有用であり得る。
【0283】
異物応答により、センサ寿命は典型的には5~14日間であり、この時点でバイオセンサを交換しなければならない。この点に関して、患者コンプライアンスは不十分なままである。本明細書に記載の一酸化窒素放出ポリマーを使用することで、センサ寿命は8~31日間、例えば14~31日間又はそれ以上増加することができる。
【0284】
ポリマーコーティング/選択透過性フィルムを使用した選択性の改善
センサ精度は、コンプライアンスにとって重要である。ただし、多くの物質は、過酸化水素を酸化するために使用された電極電位では電気活性であることから、センサ応答に干渉する可能性がある。サイズ排除及び/又は静電反発機構を介して作動する選択透過性膜は、選択性を改善するために使用されることが多い。ポリマーが組織に接触し、最終的に異物応答に影響し得ることから、生体適合性を考慮するときにはこうした膜の組成を考慮しなければならない。
【0285】
電極用の効果的な選択透過性フィルム/コーティングとして評価されるポリマー材料の範囲には、酢酸セルロース、ナフィオン、電解重合膜(例えば、ポリフェノール)及びこれらのポリマーの多層ハイブリッドが含まれる。
【0286】
ポリフェノール選択透過性膜は、制御可能な様式で酵素層内で電荷重合可能であり、自己制御性の厚さ(10~100nm)を有するフィルムがもたらされる。そのため、この単純なアプローチは、干渉を低減するためには非常に魅力的である。場合によっては、膜はまた、表面活性高分子(すなわち、タンパク質及び血小板)を排除し、生物付着から表面を保護する。
【0287】
酵素と電極との間で電子を往復させるためのメディエータの使用はまた、過酸化水素を酸化するのに必要とされる作用電位を低下することによって干渉種の影響を最小化することができる。代表的な酸化還元メディエータとしては、フェロセン及びオスミウム錯体、キノン化合物、金属フタロシアン、カーボンナノチューブ及び導電性ポリマーが挙げられる。
【0288】
酸素依存性
過酸化水素の電気化学検出には、酸素、グルコース酸化酵素反応の補因子(GOx)が必要とされる。間質液中の酸素濃度は、間質液中のグルコース濃度よりもおよそ10分の1の濃度であり、「酸素欠乏」状態をもたらす。これは、バイオセンサ/電極中に外部拡散制御膜を組み込むことによって典型的には対処される。
【0289】
低濃度の酸素は、2つの補因子間の化学量論的不均衡による、グルコースに対するバイオセンサ応答(とりわけ、動的範囲)に関する問題が生じる。酸素欠乏は、グルコース拡散を減少又は代替的な電子メディエータを利用するポリマー膜を使用することによって軽減される。
【0290】
いくつかの実施形態では、極性干渉を排除するものと同様の膜を使用し、酸素/グルコース透過性の比率を増加する。例示的なポリマーとしては、ポリウレタン、ナフィオン、シリコーンエラストマー、ポリカーボネート及び交互積層高分子電解質が挙げられる。
【0291】
酸素レベルを変化することによるセンサ性能の問題は、異物応答によって悪化するが、これによってセンサ近くの炎症細胞による酸素及びグルコースの局所消費が生じる。センサに対する酸素拡散は、組織透過性における変化によってセンサ植込み後に指数関数的に減衰する。したがって、バイオセンサ周辺の組織に近接した硝酸の局所放出は、これらの性能問題を減少し、バイオセンサが交換される前に、これを比較的長期間にわたって使用することを可能にする。
【0292】
センサ構成要素の安定性及び劣化
インビボでのセンサ構成要素の故障は、以下のとおりに分類され得る:1)酵素の不安定性及び浸出、2)膜の劣化及び層間剥離、並びに3)電極の不動態化。酵素活性は、ポリマー捕捉並びにセンサ作動及びFBRによる反応性酸化種への曝露(過酸化水素及び他の反応性ラジカルへの曝露)の両方によって直ちに低下し始める。
【0293】
効果的な固定化戦略は、酵素安定性を確実なものにするのに役立つことができる。こうした戦略の例としては、酵素とウシ血清アルブミン(BSA)又はグルタルアルデヒドとを架橋すること、共有結合構造の有無にかかわらず、ポリマーマトリックス(例えば、ヒドロゲル及びゾル-ゲル由来材料)内に酵素を捕捉すること、酵素を、ポリピロールなどの電気重合された導電性ポリマーに組み込むこと、並びに高分子電解質によって生成された静電相互作用によって電極表面上へと酵素を固定することが挙げられる。
【0294】
それにもかかわらず、適切に固定化された酵素であっても、主に非共有結合FAD補因子の損失によって、本質的に活性を経時的に損失する。ただし、オキシダーゼ反応から内因的に産生された過酸化水素による不活性化もまた、活性の損失に寄与する。高いグルコース濃度及び適切なセンサ信号への要件は、過酸化物の高速産生及び同時酵素不活性化を意味する。
【0295】
センサは、典型的には検知層、バリア膜及び/又は生体適合性層として使用されるフィルム又は膜を含む。これらの材料は、異物応答、並びに石灰化及び層間剥離によって生じるものなどの酸化的攻撃による分解を受ける。フィルムが剥がれる、又は分解されるときには、センサの不安定性又は故障が自動で生じる。電極の汚れ(多くの場合、電極の不動態化)は、センサの不安定性の別の原因であり、センサ膜の穿孔後に拡散される小分子が電極表面と接触した状態になるときに生じる。
【0296】
本明細書に記載の低濃度の一酸化窒素をもたらすコーティングの使用は、異物応答によって生じる悪影響を最小化することができる。
【0297】
インビボ較正
CGMセンサの分析性能は植込み時に劇的に変化することから、センサ精度を定義及び評価することが必要である。従来、こうしたデバイスのインビボ精度は、数値又は正解率を使用して評価される。CGMについての現在の数値的精度及び臨床的精度は、線形回帰又は相関係数、平均(又は中央)絶対偏差及び相対的な絶対差(MAD及びMARD)、Clarkeのエラーグリッド法(Clarke EGA)並びに国際標準化機構(International Standard Organization、ISO)基準を含む。
【0298】
CGMシステムはまた、グルコース変動に関する情報を提供するため、(1)正確な血糖測定に関してセンサ精度を評価するポイントエラーグリッド分析(P-EGA)、及び(2)センサの予測能力を評価するレートエラーグリッド分析(R-EGA)を含む連続グルコースのエラーグリッド(CG-EGA)が組み込まれている。
【0299】
これらのインビボセンサ評価方法は、外部グルコース測定デバイス(すなわち、指先穿刺グルコースセンサ)を使用して決定される真の血糖濃度を必要とする。インビボモニタリング中に較正するための信頼でき、かつ再現性のある手順は、正確な測定を達成するには重要である。
【0300】
CGM系は、本質的には、間質液中のグルコース濃度が実質的には類似していると仮定することによって血糖濃度を推定する。血液/組織グルコースの比率は一定ではなく、むしろ細胞による、又は血管からのグルコース摂取、血流及び毛細血管の透過性を含む、グルコース及びインスリン生理学に関連する代謝速度に応じて変化することから、この仮定には問題がある。
【0301】
血液と間質液との間のグルコース濃度の不一致は、典型的には複雑であり、安静状態、過換気、運動、酸欠及び低酸素を含む患者の身体状態による時間及び濃度に基づいて変動する。血液と皮下組織とのグルコース濃度間の遅延時間によって、CGMデバイスは更に不正確となる。通常条件(すなわち、グルコースレベルが運動又は食事などの活動によって迅速に変化しない条件)下では、血液と間質液グルコースとの間の遅延時間は、5~10分間である。個体間の生理学的差、センサ固有の遅延時間(典型的には、数秒~数分間)及びノイズフィルタリングによって、より長く予測不可能な遅延時間が生成される。遅延は、電極の汚れ、生物付着及びセンサへのグルコース拡散を遅らせる異物カプセル化などのセンサに対する組織応答によっても生成される。重ねて、外部グルコース測定デバイスを使用した頻繁な較正は、CGMセンサの精度を保証することが必要とされる。
【0302】
CGMセンサを較正するために、血糖ストリップを用いた「1点」及び「2点」較正手順を使用されてきた。較正プロセスは、時間依存性電流信号(i(t))を所与の時間での血糖濃度の推定値(CG(t))に変換することを含む。1点較正手順を使用し、センサ感度(S)は、電流信号と単回の血糖測定による血糖濃度との比率として決定される。
【0303】
このアプローチは、ゼログルコース濃度にてほぼゼロの出力電流を有する高感度センサには有用である。2点較正手順は、グルコースの非存在下で観察されたセンサ出力(i0)が無視できないときには好ましい。2点較正は、血糖濃度と2つの異なる時点で同時に生じるセンサ電流とを決定することによる、Sとi0といった2つのパラメータによる推定を含む。グルコース濃度は次いで、式1に従い、応答電流から推定される。
【0304】
2点較正曲線は、
CG(t)=(i(t)-i0)/S (1)
であり、これは、有意な正又は負の測定アーチファクトをもたらす、電気的雑音及び「真の」指先穿刺血糖測定(市販のグルコースメータ上では±10%の誤差として許容される)に関連するエラーにより、実際にはあまり正確ではない。したがって、1点較正がより適切であると考えられる。
【0305】
正確な較正であったとしても、生理学的な変動及びセンサに対する異物応答によってセンサ感度が経時的に変化することから、反復較正が必要とされる。ただし、本明細書に記載の一酸化窒素放出ポリマーを使用することで、異物応答によって生じる不正確さが低下することから、必要とされる較正の数は最小化されることができる。
【0306】
別の実施形態では、皮下持続グルコースモニタが開示されるが、これは植え込まれるときに異物応答を低下するように改変されている。
【0307】
長期電気化学植込み型(皮下)グルコースセンサ
いくつかの実施形態では、バイオセンサの経皮注入を使用するのではなく、CGMは、植込み型微小透析プローブ又は長期電気化学植込み型グルコースセンサなどの皮下インプラントである。経皮グルコースセンサが典型的には1ヶ月未満にわたって使用される(大部分は、異物応答による)一方で、完全に植え込まれた(すなわち、皮下)グルコースセンサは、大幅に長い期間にわたって使用されることができる。
【0308】
酵素固定化電流測定バイオセンサを備えたCGMデバイスは、皮下に完全に植え込まれ、長期間(数ヶ月から数年)にわたって使用されることができる。皮下グルコースセンサは、典型的には、チタンハウジングを有するディスク型センサを含み、酸素消費量を測定する(
図4B)。一実施形態では、デバイスは、GOx(グルコース酸化)ではなく、蛍光又は化学発光を使用してグルコース濃度を検出する。こうしたデバイスの1つは、Eversense(登録商標)デバイスである。
【0309】
蛍光グルコースバイオセンサは、典型的には、蛍光によって濃度を中継する感受性タンパク質によってグルコース濃度を測定する。センサに使用されるフルオロフォアの大部分は小分子であるが、いくつかのセンサは、量子ドット(quantum dot、QD)又は蛍光タンパク質を使用して作製される。
【0310】
化学発光は、化学反応による光の生成であるが、これはクラゲの共生生物由来のエクオリン(Aqueorin)及びホタルの共生生物由来のルシフェラーゼなどのいくつかのタンパク質によって生成される。これらのタンパク質は、グルコースセンサを作製するために使用される。例えば、Ggbp分離エクオリン(aqueorin)系センサ及びAsp459Asnを有するGgbpルシフェラーゼ(GalではなくGlc)系センサが開発されている。
【0311】
一実施形態では、皮下センサは、GOx及びカタラーゼによって触媒される2段階の化学反応を介した酸素の電気化学的分別検出を使用する。この実施形態のいくつかの態様では、正確なグルコース測定は、グルコース変調電流を生成する電極及び酸素依存性電流を生成する参照電極での酸素還元での差を考慮することによって、2年以上にわたって実施されることができる。
【0312】
センサのサイズは、より長い使用を支援する電力(すなわち、電池)要件のため、経皮CGM系(3ミクロンに対して約3cm)よりも典型的には大きい。これは、この実施形態のいくつかの態様では、長期の電力供給を提供するための代替手段を使用することによって最小化される。
【0313】
こうした代替手段としては、Ben Amarらによる「Power Approaches for Implantable Medical Devices」Sensors(Basel)15(11):28889-28914(2015)に開示されるものが挙げられる。
【0314】
一態様では、エネルギーは、例えば、血中に豊富に存在するグルコース及び酸素を活用してエネルギーを生成するバイオ燃料電池を使用し、インプラント周囲の潜在的な供給源から生成され、ここから回収される(例えば、Wei and Liu,「Power sources and electrical recharging strategies for implantable medical devices」,Front.Energy Power Eng.China,2:1-13(2008)を参照されたい)。
【0315】
別の態様では、体の熱、又は呼吸及び動作などの動きを活用して、植え込まれた医療デバイス(IMD)に電力を供給し、従来の電池の必要性を置き換えることができる。例えば、熱電発電機は、内部と皮膚との温度差(典型的には、約8℃)を利用して数百マイクロワットの電気を生成することができる。圧電発電機は、圧電材料を使用し、運動エネルギーを電気に変換することができる。静電機構及び電磁機構を使用し、身体活動を利用してエネルギーを回収することができる。
【0316】
更に別の実施形態では、電池の充電又は「バッテリレス」インプラントへの連続電力供給のいずれかを行うために、エネルギーは、外部ユニットを使用してIMDに供給される。この実施形態の様々な態様では、これは、光学的に、超音波的に、かつ/又は電磁気的に達成されることができる。光充電方法は、典型的には近赤外又は赤外範囲で動作するLED、OLED又はレーザの使用にかかわらず、光を印加する光源から電力を受け取るIMDで太陽電池を使用することを含む。
【0317】
誘導電力伝送もまた使用されることができる。これは、典型的には、相互誘導結合リンクを介して電力が伝送される一対のアンテナの使用を含む。当業者は、適切なアンテナの設計及び向き、作動距離及び周波数、並びに埋め込まれたデバイス用の指定された電力を容易に決定することができる。
【0318】
従来の皮下センサの限界は、コラーゲンのカプセル化、局所微小血管の灌流における変動、及び酸素利用率の限界によってセンサ応答が経時的に変化するということである。
【0319】
センサの植込み及びその後の交換には外科手術が必要となり、各例では、続いて長期(約2~3週間)の安定期間が必要となることから、デバイスが交換されなければならない回数と、稼働中にデバイスが再度較正されなければならない回数とを最小化することが望ましい。
【0320】
これを達成するため、植え込まれたデバイスは、植え込まれたデバイス周辺に局所濃度の一酸化窒素を提供する本明細書に記載のコーティングでコーティングされることができる。この実施形態のいくつかの態様では、コーティングは、ペンダントSNO基を有するポリマーを含み、他の態様では、コーティングは、ペンダントSNO基を有する化合物又は粒子を含む、埋め込まれた粒子を含む。
【0321】
血糖値を測定するための方法
注入されたバイオセンサに対する異物応答を最小化しつつ、グルコースレベルを測定するデバイスを使用するための方法もまた開示される。一実施形態では、方法は、経皮グルコースモニタを使用することを含み、別の実施形態では、皮下グルコースモニタを使用することを含む。
【0322】
デバイスが経皮グルコースモニタである場合、異物応答から生じるグルコース読取り値の不正確さによってこれを取り外し交換しなければならない以前に、従来の経皮(連続)グルコースモニタとは対照的に、本明細書に記載のアプローチによってユーザは比較的長期間にわたって持続グルコースモニタを装着することが可能となる。
【0323】
注入されたセンサ、カテーテルに対する異物応答を抑制する方法もまた開示され、いくつかの実施形態では、該方法は、ユーザの皮膚中へと注入される経皮持続グルコースモニタ、インスリンポンプ又は注入されたセンサ、カテーテル、ポート、シャントなどを含む他のデバイスを適用することに関与しており、デバイスは、一酸化窒素を産生する1つ以上の化合物を含むコーティングを含む。
【0324】
他の実施形態では、該実施形態は、ユーザの皮膚中へと注入される皮下持続グルコースモニタ、インスリンポンプ又は注入されたセンサ、カテーテル、ポートを含む他のデバイスを植え込むことに関与しており、デバイスは、一酸化窒素を産生する1つ以上の化合物を含むコーティングを含む。
【0325】
本明細書に記載の方法は、注入された、又は植え込まれたバイオセンサに対する異物応答の重症度を処理、防止、管理又は低下させるために使用することができる。
【0326】
いくつかの実施形態では、「防止」という用語は、異物応答が全く発生しないように防止することに関する。他の実施形態では、防止は異物応答を最小化することに関し、その結果、バイオセンサが約21日間又は最大31日間の期間にわたる異物応答の結果として通常見られる十分な感度を失わない。持続グルコースモニタの使用といった文脈では、これらの有用な寿命を制限する異物応答以外の理由が存在する。例えば、持続グルコースモニタ(CGM)は組織に接着され、接着剤は経時的に摩耗する。注入されたバイオセンサが依然として正確な読取り値を提供するかどうかにかかわらず、大部分のユーザは、約30日で、例えば皮膚に対するCGMの接着性の喪失によってこれを交換しようとする。
【0327】
該方法は、皮膚にバイオセンサを注入しながらも皮膚に対してCGMの本体を接着することを含む、皮膚にCGMを適用することを含み、CGMは、バイオセンサ周辺の組織に局所NO放出をもたらすコーティングを含む。NOは抗菌作用を提供し、炎症を低減することができ、血管新生を増加させることができる。
【0328】
特定のCGMによっては、デバイスは定期的に較正される必要があり得る。これは、典型的には指先穿刺を行い、血糖値を測定することによって行われる。
【0329】
異物応答の防止又は最小化は、センサが長期間にわたって精度を保持することを意味し、それによって、ユーザは、異物応答が防止されない、又は最小化されない場合よりも相対的に低い頻度でCGMを較正することができる。
【0330】
組織工学足場
更に他の実施形態では、医療デバイスは、組織工学用途で使用される足場である。組織工学足場は、新しい組織の形成前に細胞と相互作用する細胞外マトリックスとして作用する。足場の化学的特性及び構造的特性は、組織工学用途にとって理想的な三次元構造の製造に主に関する。組織工学に使用されるポリマー足場は、理想的には、細胞の接着、増殖及び分化を支援することに加え、適切な構造及び機械的特性を有する。足場は多孔質であり、細胞浸潤を可能にするためには十分な空隙率が存在しなければならないが、足場の機械強度を犠牲にする過剰な空隙率ではないという点において、機械強度と多孔性との間にトレードオフが存在する。
【0331】
組織足場は、典型的には幹細胞などの足場上での成長を意図されている細胞、及び他の種類の非分化細胞を含むが、これは、増殖因子並びに細胞の増殖及び分化を管理する他の化合物を含んでもよい。この実施形態の一態様では、幹細胞は、足場が分解するのとほぼ同じ時間枠で増殖し、それによって足場とほぼ同じ形状の三次元組織マトリックスを形成する。
【0332】
組織足場は多孔質であり、典型的には、足場へと埋め込まれた細胞が増殖及び/又は分化するにつれて分解することから、生分解性ではない、及び/又は多孔質ではないポリマーで多孔質足場を覆うことは望ましくない。したがって、一実施形態では、足場は染料、顔料及び/又は光安定化化合物を含むポリマーコーティングを含まない。むしろ、足場を調製するために使用されるポリマー、及び/又はポリマー内に埋め込まれた粒子若しくは小分子は、NO放出官能基が光に曝露されると、ポリマー、粒子及び/又は小分子中のこうした官能基の分解を最小化するように、染料、顔料及び/又は光安定化化合物を含む。
【0333】
合成ポリマーであるポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)及びポリ(乳酸-co-グリコール)酸(PLGA)は、単独で、又は親水性、細胞付着性及び生分解性を改善するのに役立ち得る天然ポリマーと組み合わせて、足場形態である三次元構造を形成するために一般的には使用される。これらのポリマーは、チオール基がニトロソチオール基に変換されるときに最終組織足場にニトロソチオール基を組み込むように、チオ乳酸又はチオール側鎖を有する別のヒドロキシ酸を使用して調製されることができる。チオール基が重合化学に干渉し得るか、他の官能基に変換されて、ニトロソチオール基を形成するために後のニトロソ化には利用できない場合、チオール基は、重合プロセス中に保護され、その後脱保護されることができる。チオール用の保護基は、当業者に周知である。
【0334】
この実施形態の一態様では、足場は、ジアゼニウムジオレート及び/又はニトロソチオール(SNO)基などのペンダントNO放出基を含むポリマーから形成される。この実施形態の別の態様では、足場は、粒子が1つ以上の化合物を含む埋め込まれた粒子を含むポリマーから形成される。ポリマー及び/又は埋め込まれた粒子は、NO放出コーティングに関して上述したものと同一のポリマー及び粒子であることができる。
【0335】
ステッチ/外科用ステープル
別の実施形態では、デバイスは、吸収性若しくは非吸収性ステッチ、又は外科用ステープルであるが、これらは創傷部位に一酸化窒素を放出し、感染症の抑制及び創傷治癒を促進することができる。分解可能又は吸収可能な縫合糸は、外部除去の必要なく人体によって分解されることができ、植込み後4週間以内のその引張強度の50%以上の損失を特徴とし得る。分解可能な縫合糸は、天然ポリマーと合成ポリマーの両方から作製されることができる。無菌性は、異物を体内に組み込んだ結果としての感染事象を最小化するため、これらのデバイスの製造中及び使用中の両方で重要である。
【0336】
これらのデバイスは、経時的に一酸化窒素を放出しながらも、例えば創傷又は外科切開部を閉じるために使用されることができる。これは、創傷治癒、血管新生の増加を助け、瘢痕を最小化し、かつ感染事例を低減させることができる。この実施形態では、染料、顔料及び/又は光安定化化合物は、縫合糸を光に曝露させるパッケージ中で長期保存中に起こる可能性があるようなNOの早期放出を最小化させるように、ポリマー中に混合され、デバイスに光安定性をもたらすことができる。
【0337】
以下の式を有する、モノマーパラジオキサノンの重合によって調製される、分解可能な縫合糸は、PLA、PGA、PLGA及びポリジオキサノン(PDS)、合成ホモポリマーから一般的には調製される。
【化3】
【0338】
これらの種類の縫合糸は、ポリマー材料をモノフィラメント形態へと溶融押出することで調製される場合が多い。溶融押出プロセスは、ある特定のNO放出官能基を分解するが、NO放出官能基が溶融押出プロセス中に大幅に分解される実施形態では、NO官能基は、縫合糸が調製された後に形成されることができる。
【0339】
PLA、PGA、PLGAから形成された他の分解可能材料と同様に、チオ乳酸、システインなどのチオール含有モノマーは、分解可能材料を調製するために使用されるモノマーとブレンドされ、そうすることでペンダントチオール基を有する生分解性ポリマー材料を提供することができる。これらのチオール基は、いくつかの実施形態では縫合糸が製造された後には、NO放出ニトロソチオール基に変換されることができる。
【0340】
いくつかの実施形態では、分解可能なポリマー自体は、NO放出官能基を含まないが、NO放出官能基を含む埋め込まれた小分子又は粒子を含む。
【0341】
モノリス/フィルム/テープ
更に他の実施形態では、小分子及び/又はポリマー上にNO放出基を組み込む「モノリス」、又はテープ又はフィルムは、インプラントなどの医療デバイスに物理的に又は化学的に取り付けられることができる。これらの実施形態のいくつかの態様では、インプラント/モノリス化合物又はインプラント/テープ化合物は、染料、顔料又は光安定化複合体を含む層でコーティングされ、他の態様では、モノリス又はテープは、染料、顔料又は光安定化化合物を更に含む。
【0342】
この実施形態のいくつかの態様では、テープ/フィルムは、動脈ステント、ガイドワイヤ、カテーテル、トロカール、ニードル、骨アンカー、骨ねじ、保護プレート、股関節又は関節の置換、導線、バイオセンサ、プローブ、縫合糸、外科手術用ドレープ、創傷ドレッシング及び包帯からなる群から選択される医療デバイスのすべて又はそれらの一部分をコーティングする。
【0343】
テープ又はフィルムは、インプラントなどの医療デバイスに物理的に又は化学的に取り付けられることができる。テープ又はフィルムが化学的に取り付けられる場合、これは好ましくは、生体適合性接着剤、好ましくは生分解性接着剤を含む。こうした接着剤は、当業者に周知である。様々な光硬化材料、エポキシ-ポリウレタンブレンド及びシアノアクリレートであり得る、1液及び2液エポキシ及びシリコーン生体適合性接着剤が使用されることができる。一実施形態では、接着剤は、生体適合性及び生分解性ポリウレタン接着剤である。別の実施形態では、接着剤は、ポリ(グリセロールセバシン酸アクリレート)(poly(glycerol sebacate acrylate)、PGSA)である。
【0344】
外科用接着剤/組織接着剤
理想的な組織接着剤、特に肺、心血管及び/又は胃腸用途のための組織接着剤は、理想的には、以下の特性:
(1)所望の領域への容易な適用を可能とする、硬化前の低粘度又は液体様特性、
(2)最小限の侵襲性手順中に植え込まれたデバイスの送達及び再配置を促進することが望ましいときのみの、体液による最小の洗い流し及び活性化、
(3)特に血液及び/又は他の体液の存在時の著しい接着強度、
(4)高度に可動性のある組織(例えば、心臓の収縮又は大きな血管における脈動)への接着による機械的負荷に耐える能力、
(5)止血シールを形成する能力、
(6)最小限の炎症応答、並びに
(7)生分解性、のうちのすべて又は大部分を有する。
【0345】
これらの特性に加えて、外科用接着剤は外科手術に付随して起こることが多い微生物汚染を最小化し、創傷治癒を促進し、インプラント周辺の血管新生を増加し、かつ瘢痕形成を最小化することができることから、これが経時的に一酸化窒素を放出することは有利であり得る。本明細書に記載の外科用接着剤/組織接着剤によって、このような一酸化窒素放出がもたらされる。
【0346】
今日使用されている多くの外科用接着剤は、(メタ)アクリレート官能基、若しくはシアノアクリレート、若しくはアルブミンとグルタルアルデヒドとの組合せのうちの1つ以上を含み、又はポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックを含み、又はポリウレタンを含み、又はフィブリンから構成される。
【0347】
シアノアクリレートは、2-シアノアクリル酸のアルキルエステルからなるモノマーのクラスに属する。これまでに、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-ブチルシアノアクリレート、イソヘキシルシアノアクリレート及びオクチルシアノアクリレートが使用されている。ブチル-2-シアノアクリレート接着剤としては、Indermil(登録商標)(Covidien)、Histoacryl(登録商標)及びHistoacryl(登録商標)Blue(TissueSeal)及びLiquiBand(登録商標)(Advanced Medical Solutions)が挙げられる。
【0348】
オクチル-2-シアノアクリレート接着剤としては、Dermabond(登録商標)(Ethicon)、SurgiSeal(商標)(Adhezion Biomedical)、LiquiBand(登録商標)Flex(Advanced Medical Solutions)及びOctylSeal Medline Industries)が挙げられる。
【0349】
シアノアクリレートは、皮膚創傷を閉鎖するための吸収可能な縫合糸の引張強度と同様の引張強度を提供し、大部分の組織表面に接着可能であるが、高張力領域、関節全体、粘膜表面、皮膚粘膜接合部又は高密度の発毛領域での使用は示唆されていない。
【0350】
Artiss(Baxter)は、火傷によって引き起こされた創傷皮膚への植皮片の接着及び顔のしわ取り手術中の組織フラップに関して承認されたフィブリン生成物である。このフィブリン生成物は、貯蔵されたヒト血漿から形成される。
【0351】
医療グレードのシアノアクリレート(CA)又はフィブリンシーラントがしばしば使用される場合、これらは、外科用接着剤にとって所望の特性のすべて又は大部分を有さなくてもよい。ただし、一酸化窒素を放出する粒子又は小分子は、これらの外科用接着剤とブレンドされることができ、少なくともこれらは、一酸化窒素放出に関連する有益な特性を有することができる。
【0352】
BioGlue(登録商標)(CryoLife)は、止血のために縫合糸と併用して大きな血管の血管封止における使用に関して承認された外科用接着剤であり、大動脈解離の修復を支援して血管手術後により強い血管壁をもたらす。BioGlueは、精製されたウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)とグルタルアルデヒドとの混合物であり、これは、30秒以内に適用部位にてその場で重合し、2分以内に完全な強度を達成する。
【0353】
TissuGlu(登録商標)(Cohera Medical Inc)は、腹部組織結合に使用されて皮膚下の流体蓄積を減少するのに役立つ。TissuGlu(登録商標)は、下の腹部層に適用されて筋肉層を皮膚フラップに近似させ、腹壁形成術(タミータック)後の皮膚下での透明な漿液のポケットである漿液腫を防止する一助となる。この生成物は、イソシアネート末端基を有する超分岐ポリウレタン及びリジンを含む。リジン中のアミン基はイソシアネート基と架橋し、25分以内に接着剤架橋が生じる。
【0354】
PEG系シーラントとしては、FocalSeal(登録商標)(Genzyme Biosurgery)、Progel(商標)(Neomend)、Duraseal(商標)及びDuraseal(商標)Xact(Covidien)、Coseal(登録商標)(Baxter)が挙げられ、ReSure Sealant(Ocular Therapeutix,Inc.)は、臨床用途でFDAによって現在承認されている市販のPEG系シーラントである。これらはすべてPEG系として分類されるが、使用されるポリマー及びそれらの示されている用途においては差異が存在する。
【0355】
Focalseal(登録商標)(Genzyme Biosurgery,Inc.Cambridge,MA)は、1つ以上のポリエチレングリコールブロック及び1つ以上のPLGAブロックを含むブロックコポリマーであり、カーボネート結合もまた含み、かつ(メタ)アクリレートエンドキャップを含む、ポリエチレングリコール系合成ヒドロゲルである。接着剤は、ポリエチレングリコールブロックによって組織接着を最小化し(それによって瘢痕を最小化し)、PLGAブロックによって分解可能である。これはまた、(メタ)アクリレート末端基を使用して皮膚に接着され、皮膚表面に光と((メタ)アクリレート基を硬化するために使用されるフリーラジカルを生成する)アミンを適用することによって、組織表面上の官能基と反応させることができる。
【0356】
Focalseal(登録商標)は、アクリル化末端基を有するPEG-co-トリメチレンカーボネート-co-ラクチドであり、エオシンYは成分として添加され、接着剤が適用された後に光と反応してその場でポリマーを重合するフリーラジカルを生成する。Focalseal(登録商標)は、肺切除術後の空気漏出を制限するシーラントとしてFDAに承認されており、止血補助剤としても使用されて吻合部の出血を防止し、硬膜、膵臓断端及び開放創などの他の種類の閉鎖を封止する。シーラントは、プライマーとシーラントといった2成分を有し、2段階で適用され、その後、ポリマー上の(メタ)アクリレートエンドキャップ基が可視光、典型的には青緑光を使用して重合される。シーラントは、生分解性ブロックの加水分解によって分解される。シーラントは、カーボネート結合によって部分的には可撓性であり、非毒性である。
【0357】
ProGel(商標)はヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)及びジ-PEG-スクシンイミジルスクシネートを含み、これは互いに架橋し、適用前に成分が混合されるのを避けるためにデュアルシリンジを使用して適用され、そうすることで適用時に架橋することでその場で硬化されることができる。
【0358】
DuraSeal(商標)は、テトラ-PEG-スクシンイミジルエステル及びトリリジンアミンを含み、これらの配合物は、デュアルシリンジを使用して適用され、適用時に架橋することができる。DuraSeal(商標)は、頭蓋手術中の縫合された硬膜修復の補助剤として使用され、水を通さない閉鎖がもたらされる。
【0359】
テトラ-PEG-スクシンイミジルエステルを含み、テトラ-チオール誘導体化されているCoseal(登録商標)は、移植片植込み後の大動脈再建中の吻合部出血を管理し、吻合部の縫合孔からの出血を止めるために使用される。
【0360】
これらの種類の接着剤への改善は、本明細書に開示される。一実施形態では、外科用接着剤は、ポリエチレングリコールブロックなどの1つ以上のポリアルキレングリコールブロック及び1つ以上の分解可能なブロックを含むブロックコポリマーである。
【0361】
いくつかの実施形態では、分解可能なブロックは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、カプロラクトン、カーボネートなどの分解可能単量体単位の任意の好適な組合せから形成され、いくつかの実施形態では、これらはトリリジンなどのペプチド、又は3つ以上のリジン単量体単位を含む他の短鎖(すなわち、25単量体単位未満)ペプチド、又はアルブミンなどのタンパク質である。
【0362】
いくつかの実施形態では、外科用接着剤はまた、フリーラジカル重合を介して重合されることができるビニル基((メタ)アクリレート基など)を含む。他の実施形態では、外科用接着剤は、2種以上の成分系であり、ある成分は別の成分上の官能基と架橋することができる官能基を含む。
【0363】
一実施形態では、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールのブロックは、分解可能なブロック上の異なる官能基と架橋する官能基を含む。当業者は、生理学的条件下にてどの官能基が他の官能基と架橋可能かを理解している。
【0364】
この実施形態の一態様では、分解可能なブロックは、ペンダントチオール基又はアミン基を含む1つ以上の単量体単位を含むが、これは、接着剤が適用される前にニトロソチオール、ジアゼニウムジオレート又は他のNO放出基を形成するために修飾されることができる。この実施形態では、ニトロソチオール、ジアゼニウムジオレート又は他のNO放出官能基が架橋化学を妨害しないことが重要である。別の実施形態では、外科用接着剤は、NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレントされる。これらのアプローチの組合せを使用することができる。
【0365】
(メタ)アクリレート基などのビニル基のフリーラジカル重合によって硬化される他の外科用接着剤としては、Bettingerらによる米国特許第8,143,042号に開示されたものが挙げられる。’042号特許は、アクリレート基などの架橋性官能基を含有するプレポリマーを架橋することによって調製された生分解性エラストマーを開示する。いくつかの実施形態では、プレポリマーは、約300ダルトン~75,000ダルトンの分子量を有し、かつ様々な程度の(メタ)アクリル化を有することができる。
【0366】
’042号特許に開示されたポリマー及び当該技術分野で公知である多くの他の外科用接着剤の主な接着機構は、ポリマー上の官能基(例えば、遊離ヒドロキシ基)と、適用される組織との間の化学的相互作用である。こうすることで、いくつかの実施形態では、外科用接着剤が接着される組織表面上に見られる基と架橋する1種以上の官能基を含む限りは、互いに架橋する2種以上の成分を含む必要がない。
【0367】
エラストマーは、ペンダントチオール基又はアミン基を有する単量体単位を含むように修飾されることができ、ニトロソチオール基、ジアゼニウムジオレート基、又は他のNO放出基に変換されることができ、そうすることで接着剤が適用され、外科用接着剤が生理学的流体に曝露された後にNO放出をもたらす。代替的には、外科用接着剤は、NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレントされることができる。
【0368】
同様に、MandaviらによるPNAS(2008,2307-2312)は、アルデヒド官能基を有する酸化デキストラン(DXTA)の末端アルデヒド基と組織のタンパク質中のアミン基との共有架橋を促進することによって接着剤の接着強度を増加させるため、DXTAの薄層を有するナノパターン化エラストマー性PGSAポリマーを説明する。この接着機構は、本質的には、硬化プロセス中に生成されたラジカルと組織表面上の官能基との間の共有結合に基づいている。この種類の反応性化学は、局所炎症などの望ましくない免疫反応を潜在的に促進するが、一酸化窒素の局所放出によって免疫反応を最小化することができ、より安定した外科的接着がもたらされる。
【0369】
米国特許第9,724,447号もまた、外科用接着剤を開示するが、これらの接着剤は、シリンジ又はカテーテルによって適用されることができ、適用部位で所定の位置に留まるのに十分な粘稠性があるが、組織からは流れ出ないような流動特性を有するプレポリマーを含む。プレポリマーはまた、体液による洗い流しに耐えるために十分疎水性であり、体液中で安定している。すなわち、プレポリマーは、架橋を開始するために意図的に適用された刺激の存在なしに体液中で自然に架橋しない。架橋時には、接着剤は、血液及び他の体液の存在時には著しい接着強度を呈する。接着剤は、下の組織の動きに耐えることが可能であるように十分弾性があり、止血用の生分解性かつ生体適合性シールであり得る。
【0370】
プレポリマーは、式(-A-B)nのものであり、式中、Aは、置換又は非置換ポリオール部分から誘導され、Bは、置換又は非置換二酸から誘導され、nは、2以上の整数を表す。プレポリマーは、光、熱又は化学(フリーラジカル)開始剤に曝露することで架橋可能である、(メタ)アクリレート基などの置換又は非置換ビニル基を含む官能基で活性化される複数のポリマー骨格を含む。プレポリマーは、約1,000~20,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する。
【0371】
’447号特許では開示されていない一実施形態では、外科用接着剤を調製するために使用される二酸及び/又はジオールモノマーの少なくとも一部分は、接着剤が適用される前にニトロソチオール基又はジアゼニウムジオレート基に変換されるペンダントチオール基又はアミン基、又は他のNO放出基を含む。別の実施形態では、外科用接着剤は、NO放出官能基を含む粒子又は小分子とブレントされる。これらの実施形態のいずれかでは、光及び熱がNO放出基を少なくとも部分的に分解し、外科用接着剤のNOペイロードを減少させ得るため、光又は熱ではなくフリーラジカル開始剤を使用して硬化されることが好ましいことがあり得る。
【0372】
皮下インプラント
他の実施形態では、医療デバイスは、生体適合性ポリマー、場合によっては生分解性ポリマーを含み、任意には埋め込まれた粒子を含むコーティングを含む皮下インプラントである。代表的な皮下インプラントは、人工関節、ペースメーカ、皮下グルコースモニタ、ステント、インスリン注入セット、水頭症シャント(hydrocephiletic shunts)などのシャント、乳房インプラント、ふくらはぎインプラント及び臀部インプラントを含む再建美容整形用インプラントを含む。ステントに関して、ステント上のコーティングからの一酸化窒素放出は、再狭窄を最小化することができる。
【0373】
医療用インプラント
医療用インプラントは、欠損した生物学的構造を置換し、損傷した生物学的構造を支持し、又は既存の生物学的構造を強化するために製造された医療デバイスである。医療インプラントは、生物医学的組織に移植される移植片とは対照的に、人工デバイスである。体に接触するインプラントの表面は、デバイスに応じて、チタン、シリコーン、アパタイトなどの生物医学的材料、及び/又は高密度ポリエチレン(HDPE)若しくは超高密度ポリエチレン(UHDPE)などのプラスチックから作製され得る。
【0374】
場合によっては、人工ペースメーカ、植込み型電気除細動器及び人工内耳などのインプラントは、電子デバイスを含有する。皮下薬物送達デバイスなどのいくつかのインプラントは、生物活性である。代表的な皮下薬物送達デバイスは、植込み型ピル及び薬物溶出ステントを含む。整形外科インプラントは、骨折を修復する、又は欠損した骨及び/若しくは軟骨を置換するために使用されることができる。ある特定のインプラントは、器官又は器官系の機能を支援する。例としては、冠血管インプラント、胃腸インプラント、呼吸器インプラント及び泌尿器インプラントが挙げられる。感覚インプラント及び神経インプラントはまた、本明細書に記載のテープ及びモノリスを使用して処置されることができる。薬物溶出ステントなどの冠血管ステントは、ヒトに植え込まれる別の一般的な物品である。整形外科インプラントは、橈骨及び尺骨などの骨折など、骨折を修復するために使用される。
【0375】
様々な種類のインプラントに関する更なる詳細を以下に提供する。
【0376】
感覚インプラント及び神経インプラント
感覚インプラント及び神経インプラントは、主要な感覚及び脳に影響を及ぼす障害、並びに他の神経障害に使用される。これらは、白内障、緑内障、円錐角膜及び他の視覚機能障害、耳硬化症及び他の難聴問題、及び中耳炎などの中耳疾患、並びにてんかん、パーキンソン病及び治療抵抗性うつ病などの神経疾患などの状態を治療するために優位的に使用される。例としては、眼内レンズ、基質内輪状角膜セグメント、人工内耳、鼓膜チューブ及び神経刺激装置が挙げられる。
【0377】
心血管インプラント
心血管医療デバイスは、心臓、その弁及び循環系の残り部分が障害状態である場合に植え込まれる。これは、心不全、不整脈、心室頻拍、心臓弁膜症、狭心症及び粥状動脈硬化などの状態を治療するために使用される。例としては、人工心臓、人工心臓弁、植込み型電気除細動器、心臓ペースメーカ及び冠状動脈ステントが挙げられる。
【0378】
整形外科インプラント
整形外科インプラントは、身体の骨及び関節に関する問題を軽減するのに役立つ。これらは、骨折、変形性関節症、脊柱側弯症、脊柱管狭窄及び慢性疼痛を治療するために使用される。例としては、折れた骨が治癒している間にこういった骨を固定するために使用される広範なピン、ロッド、ねじ及びプレートが挙げられる。
【0379】
代表的な整形外科インプラントとしては、大腿骨頸部骨折用のAustin-Mooreプロテーゼ、肘置換用のBaksiプロテーゼ、股関節全置換用のCharnleyプロテーゼ、大腿骨顆骨折用のCondylarブレードプレート、転子部骨折を固定するためのEnderネイル、脛骨又は大腿骨シャフト骨折用のGrosse-Kempfネイル、Hanssonピン(又はLars Ingvar Hansson用LIH)、大腿骨頸部の骨折に使用されるフックピン、スパイン固定用のHarringtonロッド、スパイン固定用のHartshillレクタングル、膝全置換用のInsall Bursteinプロテーゼ、2つの隣接する脊柱間に植え込まれることを意図されたWohns棘突起間インプラント及び植込みデバイス、小さな骨を固定するためのKirschnerワイヤ、大腿骨のシャフトの骨折用Kuntscherネイル、スパインの固定用Luqueロッド、大腿骨頸部骨折用のMooreピン、肩置換用のNeerプロテーゼ、長骨の骨幹骨折用のRushネイル、大腿骨頸部骨折用のSmith Petersonネイル、転子部骨折用のMcLaughlinプレートを備えたSmith Petersonネイル、上腕骨シャフトの骨折用のSeidelネイル、肘置換用Souterプロテーゼ、スパイン固定用のSteffeeプレート、骨格牽引用のSteinmannピン、指関節置換用のSwansonプロテーゼ、橈骨及び尺骨の骨折用のTalwalkarネイル、並びに大腿骨頸部骨折用のThompsonプロテーゼが挙げられる。
【0380】
電気インプラント
電気インプラントは、例えば疼痛及び関節リウマチ、又は慢性背痛若しくは頸部痛への罹患を軽減するために使用されることができる。一実施形態では、電気インプラントは、関節リウマチを有する患者の頸部に埋め込まれ、インプラントは、迷走神経中の電極に電気信号を送る。
【0381】
神経刺激は、慢性腰痛(chronic lower back pain、CLBP)の治療として承認され、ReActiv8(Mainstay Medical)などのインプラントを使用してCLBPを治療することができる。これらの種類のインプラントは、多裂筋内の休眠神経組織を刺激する電気信号を送ることによって機能する。
【0382】
深部多裂筋(具体的には、腰部分)は、歩行、座る状態及び特に屈曲にとって重要である腰椎の最も重要な安定器のうちの1つである。この筋肉が使用不足から萎縮する、又は過剰使用/損傷によって分解するとき、人々は、腰の運動制御障害を一般的には経験する。インプラントは、腰部筋肉での収縮を誘発する神経の電気刺激(神経刺激)を使用することによって多裂筋機能不全を治療するために使用されることができ、腰痛を引き起こす筋力低下を矯正する。
【0383】
深部多裂筋(具体的には、腰部分)は、歩行、座る状態及び特に屈曲にとって重要である腰椎の最も重要な安定器のうちの1つである。この筋肉が使用不足から萎縮する、又は過剰使用/損傷によって分解するとき、人々は、腰の運動制御障害を一般的には経験する。
【0384】
この制御障害は、重要なCLBPの根本的な原因のうちの1つである。したがって、CLBPの治療を意図されているインプラントは、多裂筋の収縮能力を回復させることによって機能することができ、これによって腰椎の制御を再度可能なものにすることができる。植え込まれたパルス発生器は、多裂筋を通る神経である後枝神経への電気刺激を提供することができる。この刺激は、多裂筋の反復性収縮を誘発し、これによってCLBPの原因に対処することができる。
【0385】
避妊用インプラント
避妊用インプラントは、意図されていない妊娠を防ぎ、月経過多の非病理的形態などの状態を治療するために主に使用される。例としては、銅及びホルモンベースの子宮内避妊器具が挙げられる。
【0386】
避妊用インプラントは、ホルモン型避妊の1種であり、典型的には妊娠を防ぐため、身体へとプロゲスチンホルモンを投与する。一実施形態では、インプラントは、皮膚下で上腕に挿入される、マッチ棒サイズほどの非常に小さなプラスチック製ロッドである。子宮内デバイスは、別の種類の避妊用インプラントである。
【0387】
一酸化窒素は、場合によっては細胞内cGMPの上昇とは独立して細胞呼吸を抑制することによって精子運動能を低下させる。女性又は男性の生殖器中でインビボで産生された一酸化窒素は、精子の機能及び妊孕性に有害な影響を与え得る。Weinberg JB,Doty E,Bonaventura J,Haney AF,「Nitric oxide inhibition of human sperm motility」,Fertil Steril.1995 Aug;64(2):408-13(1995)。したがって、一酸化窒素を放出するペッサリーは、卵に精子が到達するのを物理的に遮断するだけでなく、精子運動能を抑制することによっても妊娠可能性を更に低下させることができる。従来のペッサリーは、テープ若しくはモノリスを接着させることによって、又は噴霧可能な配合物でペッサリーの1つ以上の側部を噴霧することによって、改変されることができる。
【0388】
美容整形用インプラント
プロテーゼを含む美容整形用インプラントは、身体のいくらかの部分を許容される審美的標準へと戻そうと試みる。これらは、(臀部増量及び頤増量と同様に)美観を損なった何らかの形態を補正するために、及び身体の側面を修正するために、乳がんによる乳房切除術のフォローアップとして使用される。例としては、乳房、ふくらはぎ、頤及び臀部インプラント、鼻プロテーゼ、眼プロテーゼ及び睾丸プロテーゼが挙げられる。
【0389】
心臓インプラント
心臓インプラントは、ペースメーカ、植込み型電気除細動器及び薬物充填ステントを含むステントを含む。
【0390】
心臓ペースメーカは、電極によって送達される電気インパルスを生成し、心筋腔(上側若しくは心房、及び/又は下側若しくは心室)に収縮させてそれによって血液を送り出させる。ペースメーカは、適切な心拍数を維持することによって、心臓の電気伝導系の機能を置換かつ/又は調節する。いくつかの実施形態では、ペースメーカは、外部からプログラム可能であり、心臓専門医が個々の患者にとって最適なペーシングモードを選択することを可能にする。いくつかの実施形態では、ペースメーカは、心臓の刺激が循環系の動的デマンドに基づいているデマンド型ペースメーカである。ペースメーカの1種は、単一の植込み可能なデバイスにペースメーカと除細動器機能を組み合わせている除細動器である。別の種類は、心臓の下側心腔である心室の同期を改善するために、下側心腔内部の異なる位置を刺激する複数の電極を含む、両室ペースメーカである。
【0391】
植込み型電気除細動器(implantable cardioverter-defibrillator、ICD)又は自動植込み型電気除細動器(automated implantable cardioverter defibrillator、AICD)は、心臓除細動、除細動及び(最新バージョンでは)心臓のペーシングを行うことが可能である、体内に植込み可能なデバイスである。デバイスはしたがって、最も生命を脅かす不整脈を矯正することが可能である。ICDは、心室細動及び心室頻拍による心臓突然死のリスクがある患者向けの第1選択治療であり、予防療法である。現在のデバイスは、低エネルギー及び高エネルギーショックに加えて、異常な心調律を検知し、プログラム可能な抗頻拍ペーシングを介して治療を送達するようにプログラムされることができる。
【0392】
他の器官及び器官系を刺激するインプラント
他の種類の器官機能不全は、胃腸系、呼吸器系及び泌尿器系を含む、体の系で起こり得る。インプラントは、胃食道逆流症、胃不全麻痺、呼吸不全、睡眠時無呼吸、尿及び便失禁、並びに勃起不全などの状態を治療するためにこれらの位置及び他の位置で使用される。
【0393】
例としては、インスリンポンプ、LINX、植込み可能な胃刺激装置、横隔膜/横隔神経刺激装置、神経刺激装置、外科用メッシュ、人工尿括約筋及び陰茎インプラントが挙げられる。
【0394】
多孔質インプラント
いくつかの実施形態では、インプラントは多孔質である。インプラントにおける空隙率は、2つの主要な目的を果たす。インプラントの弾性率は低下し、インプラントがより良好に他の弾性率に適合することが可能となる。皮質骨の弾性率(約18MPa)は、典型的な固体チタン又は鋼インプラント(それぞれ、110MPa及び210MPa)よりも大幅に低く、インプラントに付属物に印加される相当な量の負荷を吸収させ、応力遮蔽と呼ばれる効果がもたらされる。この望ましくない効果は、多孔質インプラントを使用することによって最小化されることができる。
【0395】
空隙率はまた、骨芽細胞がインプラントの細孔へと成長することを可能にする。細胞は、75ミクロンよりも小さな間隙に及び、200ミクロンを超える細孔に延びることができる。骨固着は、これがインプラント内部に細胞を固定し、骨-インプラント界面の強度を高めることから、好ましい効果である。より多くの負荷は、インプラントから骨に移り、応力遮蔽効果が低下する。インプラント周辺の骨密度は、骨に印加された負荷の増加によってより高くなる可能性がある。骨固着は、応力遮蔽及び対応する骨吸収が最小化されることから、経時的にインプラントが緩む可能性を低下させる。骨芽細胞をインプラント中へと浸透させることが望ましい実施形態では、インプラント又はインプラントの少なくとも表面にとって、骨芽細胞の十分な固定を促進するためには40%超の空隙度を有することが望ましい。
【0396】
いくつかの実施形態では、異物応答に関連する問題を回避するために、細孔のすべて又は一部分は、異物応答を最小化するのに役立つ、NOを経時的に放出する分解可能な材料で充填され得る。材料が分解するにつれ、骨芽細胞は、とりわけ細孔を充填するために使用される材料に骨芽細胞を播種し、線維芽細胞増殖因子が骨芽細胞分化の制御に役立つことができることから、任意にはこれらが含まれ得る細孔を充填することができる(P.J.Marie,「Fibroblast growth factor signaling controlling osteoblast differentiation」,Gene,Volume 316,pp.23-32(2003))。
【0397】
経皮インプラント
いくつかの実施形態では、医療デバイスは経皮インプラントである。代表的な経皮インプラントは、経皮グルコースモニタ、泌尿器カテーテル及び化学療法用の静脈ポート/カテーテル(例えば、留置ポート)を含むカテーテル/ポート、並びに開口ポート、流体排出デバイス(ドレーン)、薬物送達デバイス、採血デバイス、経皮に植え込まれた神経刺激装置の電極アレイが挙げられる。
【0398】
カテーテル、流体排出デバイス(すなわち、ドレーン)、薬物送達デバイス及び採血デバイスは、テープ若しくはモノリスを接着すること、又は本明細書に記載の噴霧可能な配合物で噴霧されることによって改変されることができ、テープ、モノリス又は配合物上への噴霧は、植込み時に一酸化窒素を放出する。一酸化窒素の放出は、デバイス中及びデバイス周辺での細菌増殖を抑制し、デバイスに対する異物応答を抑制することができる。例として、泌尿器カテーテルによって泌尿器感染症が引き起こされ得、カテーテルから一酸化窒素の放出は、感染可能性を最小化することができる。
【0399】
流体排出デバイス(例えば、ドレーン)は、例えば腹水、又は患者の心臓周辺に蓄積する流体、又は手術部位周辺に蓄積する流体を排出するために使用されることができ、一酸化窒素の放出は、微生物汚染を最小化し、かつ創傷治癒を促進する。
【0400】
薬物送達デバイス及び採血デバイスとしては、典型的には、長期間にわたって薬物を送達すること、又は繰り返し採血することを目的として患者へと挿入される管が挙げられる。例としては、胸部ポートなどのポートが挙げられる。これらのポート周辺の組織は、感染症及び/又は異物応答を受けることがあり得るが、これは、本明細書に記載のテープ、モノリス又は噴霧可能な配合物を使用して最小化されることができる。
【0401】
治療方法
本明細書に記載のデバイスを使用する治療方法もまた開示される。本明細書に記載の方法に従って調製された医療デバイスは、個体又は動物の治療部位にNOを送達するために使用される。「治療部位」は、該部位とNOとを接触させることによって望ましい治療効果が達成されることができる個体又は動物の身体内の部位を含む。「個体」は、ヒト、並びにイヌ、ネコなどの獣医学的動物、及びウマ、ウシ、ブタなどの家畜を含む動物を指す。
【0402】
治療部位は、例えば植え込まれた医療デバイスに対する異物応答を発症する身体内の部位を含む。医療デバイスが持続グルコースモニタである場合には、異物応答によってグルコースセンサが汚れ、持続グルコースモニタを置換する必要が生じる。
【0403】
医療デバイスがステントの場合には、再狭窄、損傷又は血栓症は、部位と合成材料又は医療デバイスとを接触させることによって生じる外傷によってもたらされ得る。例えば、再狭窄は、PTCAバルーンカテーテルを用いた冠血管手技又は末梢手技(例えば、経皮経管血管形成術)を受ける血管に発症する可能性がある。再狭窄は、手技後約3~6ヶ月の瘢痕組織の発症であり、血管の狭窄がもたらされる。NOは、血小板沈着及び平滑筋増殖を抑制することによって再狭窄を減少させる。NOはまた、血小板を抑制することによって血栓症を抑制し、抗炎症剤として機能することによって損傷を制限することができる。
【0404】
治療部位はまた、非血管部位、例えば、炎症応答を低下させることによって有用な治療効果が達成され得る部位で発症し得る。例としては、気道、消化管、膀胱、子宮及び海綿体が挙げられる。こうすることで、本明細書に記載の組成物、方法及びデバイスが使用され、呼吸器障害、胃腸障害、泌尿器障害、インポテンス、子宮の機能障害及び早産を治療することができる。治療部位でのNO送達はまた、平滑筋の弛緩をもたらし、例えば気管支鏡検査、内視鏡検査、腹腔鏡検査及び膀胱鏡検査などの手技にて医療デバイスの挿入を促進することができる。NOの送達はまた、出血後の大脳血管攣縮を防止し、かつ神経性膀胱炎、尿道狭窄症及び胆汁攣縮を治療するために使用されることができる。
【0405】
個体又は動物の治療部位にNOを送達する方法は、組成物で噴霧されたポリマーでコーティングされた医療デバイス、又は治療部位にて、本明細書に記載されるようにテープ若しくはモノリスが適用される医療デバイスを植え込むことを含む。NOは、体液と、本発明のポリマーでコーティングされた医療デバイスとを接触させることによって、例えば血液といった体液まで送達されることができる。好ましいポリマーは、上で定義されるようにS-ニトロシル化ポリマーである。個体又は動物の治療部位、治療部位での植込みに好適な医療デバイス及び血液などの体液に接触するのに好適な医療デバイスは、上記段落に記載されている。
【0406】
「治療部位での医療デバイスの植込み」は、医療デバイスから放出されたNOが治療部位で物理接触する状態になるように、医療デバイスを治療部位と物理的に実際に接触させること、又は代替では、医療デバイスを治療部位に十分近接するくらい近づけることを指す。例えば、体液が医療デバイスによる治療用に身体から一時的に取り除かれるときには、体液は本発明のポリマーでコーティングされた医療デバイスと接触し、ポリマーコーティングは体液と医療デバイスとの間の界面である。例としては、透析用又は人工心肺装置による血液の除去が挙げられる。
【0407】
NO放出コーティングでコーティングされたセンサを備えた経皮グルコースモニタを使用するグルコースレベルのモニタリング方法もまた、開示される。いくつかの実施形態では、コーティングは、コーティング中のNO放出化合物の早期分解を最小化する染料、顔料及び/若しくは光安定化化合物を更に含み、又は染料、顔料及び/若しくは光安定化化合物を含む第2のコーティングは、該コーティングを覆う。これはまた、本明細書に記載のスプレー、テープ及びモノリスに適用される。
【0408】
植え込まれた医療デバイスを使用した異物応答を最小化する方法
本明細書に記載のNO放出医療デバイスをコーティングすること、NO放出組成物をデバイス上へと噴霧すること、NO放出テープをデバイスに適用すること、及び/又はNO放出モノリスをデバイスに適用することによって、経皮又は皮下インプラントなどの植え込まれた医療デバイスに対する異物応答を最小化する方法もまた開示される。医療デバイスはすべて、生理学的流体に曝露されるときに一酸化窒素を放出するNO放出官能基を含む、ポリマー、粒子又は小分子を含む。いくつかの実施形態では、コーティング、スプレー、テープ及び/又はモノリスはまた、光に曝露されるときに、NO放出官能基の分解を最小化する顔料、染料又は光安定化化合物を含む。
【0409】
これらのデバイスの植込みはしたがって、一酸化窒素を放出し、一酸化窒素を経時的に放出する材料を含むか、これらから形成されていないコーティングを含まないデバイスと比較して、植え込まれたデバイスに対する異物応答を低下させることができる。
【0410】
本明細書に記載の方法は、注入された、又は植え込まれた医療デバイスに対する異物応答の重症度を処理、防止、管理又は低下させるために使用することができる。いくつかの実施形態では、「防止」という用語は、異物応答が全く発生しないように防止することに関する。
【0411】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して良好に理解されるだろう。
【実施例】
【0412】
実施例1:NOを放出し、光を遮断する粒子を含む医療デバイス
図1は、界面(108)でヒト組織(110)と接触状態になる、ステント、ポート、センサなどの代表的な医療デバイス(104)を示す。医療デバイス(104)は、NO放出コーティング、テープ又はモノリス(102)を含み、このコーティング、テープ又はモノリスは、NO放出生分解性粒子(106)を含む。
【0413】
図2は、粒子(106)のいくらかがコーティングから拡散され、宿主組織内部に残される条件を示すことを除き、
図1と同様である。この状態では、粒子は任意の残存するNOペイロードを放出し続け得るか、正常な代謝経路を介して単純に分解し続け得る。
【0414】
実施例2:外科用接着剤/シーラント
図3は、NO放出生分解性粒子(106)を含む外科用接着剤(116)の図である。接着剤は、宿主組織(110)の創傷部位(114)内部に配置されて示されている。接着剤は、創傷が皮膚を分離する皮膚表面(112)にわたって適用され、創傷の完全深さに適用される。一酸化窒素の放出は創傷治癒を促進し、瘢痕形成を低減させるのに役立つ。したがって、本明細書に記載の外科用接着剤は、治癒プロセスを加速させる。
【0415】
実施例3:組織足場
図4は、NO放出生分解性粒子(106)を含む、植え込まれたときにはヒト組織、植え込まれていないときにはペトリ皿、プレートなどといった基材(110)上の組織足場(118)の図である。足場は、各特定用途の要件に応じて、粒子と同様の材料、又は大きく異なる材料から調製されることができる。NOは、組織成長及び血管新生を促進し、瘢痕組織形成を低減する。
【0416】
実施例4:NO放出経皮グルコースセンサ
粒子製造
ポリカプロラクトン溶液を調製し、生分解性粒子を製造するために使用した。水性親水性ポリウレタン分散液をベースコーティング液として使用した。ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PC)(4.50g、ALDRICHカタログ番号440744)を、中にテトラヒドロフラン(180.0mL、ALDRICHカタログ番号401757-1L)も入れたガラス瓶(250mL)に入れた。ポリマーが完全に溶解するまで(4~6時間)、バイアルを加熱浴(約40℃)中で超音波処理した。この溶液に、全固形物が約3重量%である混合物を作成するため、チオ乳酸(TLA)(0.50g、ALDRICHカタログ番号T31003-100G)を加えた。実験室用ボルテックスミキサを使用し、溶液を均質化した(30秒間)。次いで、溶液をBuchiナノスプレードライヤB-90HPに充填し、これを使用して200nmの乾燥粒子を調製した。得られる生分解性粒子は、約10重量%のTLAからなっていた。
【0417】
粒子ニトロソ化
TLA充填PC粒子(100mg)を、ガラスシンチレーションバイアル(20mL)に入れた。-20℃のMeOH(5.0mL)中に粒子を懸濁した。次いで、HCl溶液(5M、2.0mL)をバイアルに加えた。第2のバイアル(20mL)では、NaNO2(0.100g)をEDTA溶液(500μM、2.0mL)中に溶解した。次いで、この溶液を第1のバイアルと組み合わせ、暗所で0℃にて2時間にわたり反応を進行させた。粗反応混合物を、-20℃メタノール(30mL)とともに、箔で覆われた円錐管(50mL)に入れた。この管を混合し、2分間静置させた。次いで、粒子を管の底部に落とすために遠心分離機(4500rpm、10分、4℃)に入れ、その後上清を廃棄した。この様式で粒子を洗浄するため、粒子を冷メタノール中で3回再懸濁した。最終洗浄後、粒子を真空チャンバ中で乾燥させた(-30inHgで1時間)。このようにして、TLA埋め込みPC粒子にNOを充填した。
【0418】
CGMコーティング
NO充填PC粒子(100mg)をシンチレーションバイアル(20mL)に入れた。このバイアルに、水性ポリウレタン分散液(1.2mL、Baymedix CD104、COVESTRO、Pittsburg、PA)を加え、実験室用ボルテックスミキサを使用して分散液中に懸濁させた(10秒間)。Chemat DipMaster 50 Dip Coater(Northridge,CA)を使用し、CGMセンサをコーティングした。センサを溶液(3回のコーティング、コーティング間で5分間の乾燥時間)に浸漬し、20~40μmの最終コーティング厚を得た。
【0419】
当業者は、自身にとって未だ知られていない可能性がある(現存している、又は将来的に開発される)医療デバイス、並びに例えば、グルコースオキシダーゼ機構を介して動作するもの以外のバイオセンサ、及び植え込まれているのではなく組織に適用されているデバイスを含む、注入されたバイオセンサなど、植え込まれた医療デバイス周辺の組織に一酸化窒素を送達可能である医療デバイスを認識するであろう。こうしたデバイスのすべては、本明細書に記載の方法を実施するのに使用されることができるデバイスの範囲内にある。
【0420】
実施例5 NOを放出する粒子を含むテープを含む医療デバイス
ポリマー合成
ポリカプロラクトン溶液を調製し、生分解性粒子を製造するために使用した。水性親水性ポリウレタン分散液をベースコーティング液として使用した。ポリカプロラクトン(polycaprolactone、PC)(4.50g、ALDRICHカタログ番号440744)を、中にテトラヒドロフラン(180.0mL、ALDRICHカタログ番号401757-1L)も入れたガラス瓶(250mL)に入れた。ポリマーが完全に溶解するまで(4~6時間)、バイアルを加熱浴(約40℃)中で超音波処理した。この溶液に、全固形物が約3重量%である混合物を作成するため、チオ乳酸(TLA)(0.50g、ALDRICHカタログ番号T31003-100G)を加えた。実験室用ボルテックスミキサを使用し、溶液を均質化した(30秒間)。次いで、溶液をBuchiナノスプレードライヤB-90HPに充填し、これを使用して200nmの乾燥粒子を調製した。得られる生分解性粒子は、約10重量%のTLAからなっていた。
【0421】
粒子ニトロソ化
TLA充填PC粒子(100mg)を、ガラスシンチレーションバイアル(20mL)に入れた。-20℃のMeOH(5.0mL)中に粒子を懸濁した。次いで、HCl溶液(5M、2.0mL)をバイアルに加えた。第2のバイアル(20mL)では、NaNO2(0.100g)をEDTA溶液(500μM、2.0mL)中に溶解した。次いで、この溶液を第1のバイアルと組み合わせ、暗所で0℃にて2時間にわたり反応を進行させた。粗反応混合物を、-20℃メタノール(30mL)とともに、箔で覆われた円錐管(50mL)に入れた。この管を混合し、2分間静置させた。次いで、粒子を管の底部に落とすために遠心分離機(4500rpm、10分、4℃)に入れ、その後上清を廃棄した。この様式で粒子を洗浄するため、粒子を冷メタノール中で3回再懸濁した。最終洗浄後、粒子を真空チャンバ中で乾燥させた(-30inHgで1時間)。このようにして、TLA埋め込みPC粒子にNOを充填した。
【0422】
テープ調製
NO充填PC粒子(100mg)をシンチレーションバイアル(20mL)に入れた。このバイアルに、水性ポリウレタン分散液(1.2mL、Baymedix CD104、COVESTRO、Pittsburg、PA)を加え、実験室用ボルテックスミキサを使用して分散液中に懸濁させた(10秒間)。ドクターブレードフィルムコータを使用し、混合物をシリコン処理された剥離ライナ上へとコーティングした。真空チャンバ(-30inHgで1時間)でフィルムを乾燥させ、中に埋め込まれたNO充填PC粒子を有するポリウレタンフィルム(0.30mm厚)を得た。
【0423】
本明細書で言及されるすべての文献の内容は、あらゆる目的のために本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0424】
当業者は、自身にとって未だ知られていない可能性がある(現存している、又は将来的に開発される)医療デバイス、並びに例えば、グルコースオキシダーゼ機構を介して動作するもの以外のバイオセンサと併せて、注入されたバイオセンサ周辺の組織に光を送達可能であるデバイスを認識するであろう。こうしたデバイスのすべては、本明細書に記載の方法を実施するのに使用されることができるデバイスの範囲内にある。
【国際調査報告】