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特表2024-519100光学要素を含む光学物品の改善されたコーティングの方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】光学要素を含む光学物品の改善されたコーティングの方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/10 20150101AFI20240426BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240426BHJP
   G02C 7/00 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
G02B1/10
G02B3/00 Z
G02B3/00 A
G02C7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571993
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2022063107
(87)【国際公開番号】W WO2022243207
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】21305653.4
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カミーユ・メリジアノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マーク・パデュウ
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BA04
2H006BA06
2K009DD08
2K009FF01
(57)【要約】
光学物品を製造する方法であって、対向する第1及び第2のレンズ表面を有するベースレンズ基材(10)並びに第2のレンズ表面上に配置されるか、又はベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素(20)であって、各光学要素は、0.5mm以下の最大高さ及び2.0mm以下の最大幅を有する、少なくとも1つの光学要素(20)を提供することと、第2のレンズ表面上に差別化コーティング堆積を実行することとを含み、第2のレンズ表面は、少なくとも2つの領域(Z1、Z2)であって、少なくとも1つの光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定される少なくとも2つの領域(Z1、Z2)を含み、及び差別化コーティング堆積は、考慮される領域に応じてコーティング堆積の少なくとも1つのパラメータを変化させることを含む、方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学物品(1)を製造する方法であって、
- 対向する第1及び第2のレンズ表面(10a、10b)を有するベースレンズ基材(10)並びに前記第2のレンズ表面(10b)上に配置されるか、又は前記ベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素(20)であって、各光学要素(20)は、0.5mm以下の最大高さ及び2.0mm以下の最大幅を有する、少なくとも1つの光学要素(20)を提供することと、
- 前記第2のレンズ表面上に差別化されたコーティング堆積を実行することと、
を含み、
前記第2のレンズ表面(10b)は、少なくとも2つの領域(Z1、Z2)であって、少なくとも1つの光学要素(20)に対するそれらの相対位置に応じて画定される少なくとも2つの領域(Z1、Z2)を含み、及び、前記差別化されたコーティング堆積は、考慮される領域に応じて前記コーティング堆積の少なくとも1つのパラメータを変化させることを含む、方法。
【請求項2】
前記領域に応じて変化する前記コーティング堆積の前記パラメータは、
- コーティングの有無、
- コーティング材料の組成、
- コーティング材料の屈折率、
- 前記コーティング材料の粘度、
- 少なくとも1つの決定された波長範囲における前記コーティング材料の透過率又は前記コーティング材料の散乱特性を含む、前記コーティング材料の光学特性、
- 前記コーティング材料の機械的特性、
- 前記コーティングの硬度、
- 前記コーティングの厚さ、
- インクジェットによって堆積されたコーティングの液滴の体積及び/又は形状、並びに、
- 前記考慮される領域上で実行された予備表面処理、
からなる群の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のレンズ表面の前記少なくとも2つの領域(Z1、Z2)は、
- 前記光学要素(20)が前記第2のレンズ表面上に配置される場合、少なくとも1つの光学要素の位置に配置されるか、又は前記光学要素が前記ベースレンズ基材内に埋め込まれる場合、少なくとも1つの光学要素に重畳される第1の領域のセット(Z1)と、
- いかなる光学要素(20)もない前記第2のレンズ表面の位置に配置されるか、又はいかなる光学要素もない前記ベースレンズ基材の領域に重畳される第2の領域のセット(Z2)と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの光学要素(20)は、前記第2のレンズ表面(10b)上に配置され、及び前記第2のレンズ表面の前記少なくとも2つの領域は、光学要素(20)と、光学要素のない前記第2のレンズ表面のゾーン(Z2)との間の遷移領域に対応する第3の領域のセット(Z3)を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記差別化コーティング堆積は、屈折力、非球面性、色及び透過率のうちの少なくとも1つの光学要素の少なくとも1つの光学特性を変化させるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記差別化コーティング堆積は、コーティング後に各光学要素(20)の形状を保持するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記差別化コーティング堆積は、いかなる光学要素もない前記ベースレンズ基材の少なくとも1つの領域(Z2)の少なくとも1つの光学又は機械的特性を変化させるように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記差別化コーティング堆積は、インクジェット印刷によって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コーティング材料の液滴と前記第2のレンズ表面との間の接触角を局所的に変化させるために、前記差別化コーティング堆積(100)を実行する前に前記第2のレンズ表面(10b)の予備処理(90)を実行することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの光学要素を位置を特定し、且つ前記位置から前記少なくとも2つの領域の前記位置を推測する予備ステップ(80)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記差別化されたコーティング堆積(100)を実行することは、
- 第1の領域又は領域のセット上にコーティング堆積を実行すること(110)と、
- 堆積されたコーティングを硬化させること(115)と、
- 少なくとも1つの変化されたコーティングパラメータを用いて、第2の領域又は領域のセット上にコーティング堆積を実行すること(120)と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ベースレンズ基材(10)は、前記第2のレンズ表面(10b)から突出する少なくとも1つの光学要素(20)を含み、及び、前記差別化されたコーティング堆積(100)を実行することは、
- 前記光学要素(20)上のみにコーティングを堆積すること、
- 前記光学要素のない前記第2のレンズ表面の前記領域(Z2)上のみにコーティングを堆積すること、
- 光学要素と、光学要素のないゾーンとの間の遷移領域(Z3)上のみにコーティングを堆積すること、及び、
- 光学要素と、光学要素のないゾーンとの間の遷移領域(Z3)を除いて、前記第2のレンズ表面にわたってコーティングを堆積すること、
の1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記差別化されたコーティング堆積を実行することは、前記光学要素の非球面性及び/又は屈折力を変化させるために、前記光学要素(20)上又は光学要素と光学要素のないゾーンとの間の遷移領域(Z3)上のみにコーティングを堆積することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ベースレンズ基材(10)は、前記第2のレンズ表面(10b)から突出するか、又は前記第2のレンズ表面(10b)から凹状に形成された少なくとも1つの光学要素(20)を含み、前記コーティング堆積は、インクジェット印刷によって実行され、及び前記第2のレンズ表面(10b)上に前記差別化されたコーティング堆積を実行することは、前記第2のレンズ表面にわたる堆積されたコーティングの一定の厚さを達成するために、前記コーティングされる考慮される領域に応じて、前記堆積される液滴のサイズを変化させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
各光学要素は、0.1μm~50μmに含まれる最大高さ及び0.5μm~1.5mmに含まれる最大幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
光学物品(1)であって、
- 対向する第1のレンズ表面(10a)及び第2のレンズ表面(10b)を有するベースレンズ基材(10)並びに前記第2のレンズ表面(10b)上に配置されるか、又は前記ベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素(20)であって、各光学要素(20)は、0.5mm以下の最大高さ及び2.0mm以下の直径を有する、少なくとも1つの光学要素(20)、及び、
- 前記第2のレンズ表面(10b)の少なくとも一部にわたって延びるコーティング(30)、
を含み、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を実施することによって得られる、光学物品(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ基材上又はその中に埋め込まれたマイクロレンズなどの少なくとも1つの光学要素又はフレネル構造を有するベースレンズ基材を含む光学物品を製造する方法であって、ベースレンズ基材の表面のコーティングを含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどの光学物品は、一般的に、所望の光学機能、例えば所望の屈折力を提供するように構成されたベースレンズ基材を含む。
【0003】
今日、ベースレンズ基材内に埋め込まれ得るか又はベースレンズ基材の表面上に配置され得るマイクロ構造化光学要素を組み込んだレンズを製造することが可能である。後者の場合、光学要素は、ベースレンズ基材の表面から突出するか、又は前記表面を基準として凹状に形成され得る。
【0004】
異なる機能を達成するための異なる種類の光学要素が知られている。第1の例によれば、光学要素は、マイクロレンズであり得る。
【0005】
例えば、文献米国特許出願公開第2020073147号明細書から、近視眼の屈折異常を矯正するように適合された焦点度数を有するベースレンズと、ベースレンズ上に配置された少なくとも1つのマイクロレンズアレイとを含む、近視眼のための眼科用レンズが知られており、このマイクロレンズアレイは、眼の成長に対する停止信号を達成するように構成される。
【0006】
文献国際公開第2016/168746号パンフレットから、第1の屈折力を有するレンズであって、第2の屈折力を有するマイクロレンズのアレイを含み、マイクロレンズにより、レンズの曲率が制限される場合でもレンズによって提供される矯正を高めることができるか、又はマイクロ規模で目に見える急な段差を示すことなく、屈折力の異なる大きい領域を有する多焦点レンズを形成できるようにする、レンズも知られている。
【0007】
別の例によれば、米国特許出願公開第2019/235279号明細書から、近視進行に関連する眼の成長を低減するように配置された様々なサイズ及び間隔の複数の散乱要素を含むレンズが知られている。
【0008】
更に別の例によれば、米国特許第8,252,369号明細書から、フレネルレンズを形成する表面を含むレンズ及び前記表面のコーティング方法が知られている。
【0009】
現在、例えば射出成形、デジタル表面化などの技術を使用して、これらのマイクロ構造化要素を高精度で製造することが可能である。しかしながら、多くの場合、レンズの光学又は機械的特性のいずれかを修正するために、特定のコーティング又は処理を加えることが望ましい。この観点において、マイクロ構造が配置されたレンズ表面をコーティングすることにより、マイクロ構造の形状を変化させ、それらのマイクロ構造によってもたらされる効果を損なう可能性がある。
【0010】
例えば、図1aに概略的に示されているように、スピンコーティング又はディップコーティングのような通常の方法を使用して、コーティングは、マイクロ構造によって誘発される局所的な効果を考慮することなく、グローバル連続層に適用される。マイクロ構造によって誘発される光学的効果は、影響を受けるか又は消失する場合さえあり得る。
【0011】
一例が図1bに示されており、これは、そのコーティングされる表面から凹状に配置されたマイクロ構造を有する光学物品を示す。線L1は、所望のコーティングを表し、線L2は、標準的なコーティング方法を使用して達成されたコーティングを表す。コーティングは、凹状のマイクロ構造がある領域にわたってレベル変化を示すことがわかり得る。
【0012】
別の例が図1cに示されており、これは、コーティングされる表面から突出するマイクロ構造を有する光学物品の標準的なコーティング方法を使用したコーティングを表す。ここでも、線L1は、所望のコーティングを表し、線L2は、実際に得られたコーティングを表す。コーティングは、突出する要素と、コーティングされた表面の周囲の部分との間の遷移領域において厚さ変動を示すことがわかり得る。
【0013】
コーティング後にマイクロ構造の形状を維持するように構成されたいくつかの具体的なコーティング方法が提案されている。一例によれば、国際公開第2020078964号パンフレットでは、マイクロ構造を含む光学物品を製造する方法が提案されており、ここでは、ベースレンズ上に堆積された耐摩耗性コーティング内にマイクロ構造が形成される。欧州特許第2288489号明細書などの他の例によれば、成形方法は、コーティングが構造(この場合にはフレネルレンズ)の形状を保持することを確実にするように適合され得る。
【0014】
しかしながら、マイクロ構造の光学又は機械的特性のみを修正することが望ましい場合もあり、これは、上述の解決策によって許容されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来技術の欠点に対する解決策を提供することである。
【0016】
特に、本発明の1つの目的は、光学要素の光学特性を修正することなく、少なくとも1つの光学要素(マイクロレンズなど)を含むレンズの機械的特性を改善することを可能にする方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、ベースレンズ基材上に配置された少なくとも1つの光学要素の光学特性を選択的に修正することを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一実施形態では、光学物品を製造する方法が開示され、方法は、
- 対向する第1及び第2のレンズ表面を有するベースレンズ基材並びに第2のレンズ表面上に配置されるか、又はベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素であって、各光学要素は、0.5mm以下の最大高さ及び2.0mm以下の最大幅を有する、少なくとも1つの光学要素を提供することと、
- 第2のレンズ表面上に差別化コーティング堆積を実行することと
を含み、第2のレンズ表面は、少なくとも1つの光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定される少なくとも2つの領域を含み、及び差別化コーティング堆積は、考慮される領域に応じてコーティング堆積の少なくとも1つのパラメータを変化させることを含む。
【0019】
実施形態では、領域に応じて変化するコーティング堆積のパラメータは、以下からなる群の少なくとも1つを含む:
- コーティングの有無、
- コーティング材料の組成、
- コーティング材料の屈折率、
- コーティング材料の粘度、
- 少なくとも1つの決定された波長範囲におけるコーティング材料の透過率又はコーティング材料の散乱特性を含む、コーティング材料の光学特性、
- コーティング材料の機械的特性、
- コーティングの硬度、
- コーティングの厚さ、
- インクジェットによって堆積されたコーティングの液滴の体積及び/又は形状、
- 考慮される領域上で実行された予備表面処理。
【0020】
実施形態では、第2のレンズ表面の少なくとも2つの領域は、以下を含む:
- 前記光学要素が第2のレンズ表面上に配置される場合、少なくとも1つの光学要素の位置に配置されるか、又は前記光学要素がベースレンズ基材内に埋め込まれる場合、少なくとも1つの光学要素に重畳される第1の領域のセット、及び
- いかなる光学要素もない第2のレンズ表面の位置に配置されるか、又はいかなる光学要素もないベースレンズ基材の領域に重畳される第2の領域のセット。
【0021】
実施形態では、少なくとも1つの光学要素は、第2のレンズ表面上に配置され、及び第2のレンズ表面の少なくとも2つの領域は、光学要素と、光学要素のない第2のレンズ表面のゾーンとの間の遷移領域に対応する第3の領域のセットを更に含む。
【0022】
実施形態では、差別化コーティング堆積は、屈折力、非球面性、色及び透過率のうちの少なくとも1つの光学要素の少なくとも1つの光学特性を変化させるように構成される。
【0023】
実施形態では、差別化コーティング堆積は、コーティング後に各光学要素の形状を保持するように構成される。
【0024】
実施形態では、差別化コーティング堆積は、いかなる光学要素もないベースレンズ基材の少なくとも1つの領域の少なくとも1つの光学又は機械的特性を変化させるように構成される。
【0025】
実施形態では、差別化コーティング堆積は、インクジェット印刷によって実行される。
【0026】
実施形態では、方法は、コーティング材料の液滴と第2のレンズ表面との間の接触角を局所的に変化させるために、差別化コーティング堆積を実行する前に第2のレンズ表面の予備処理を実行することを更に含む。
【0027】
実施形態では、方法は、少なくとも1つの光学要素を位置特定し、且つ前記位置から少なくとも2つの領域の位置を推測する予備ステップを更に含む。
【0028】
実施形態では、差別化コーティング堆積を実行することは、
- 第1の領域又は領域のセット上にコーティング堆積を実行することと、
- 堆積されたコーティングを硬化させることと、
- 少なくとも1つの変化させたコーティングパラメータを用いて、第2の領域又は領域のセット上にコーティング堆積を実行することと
を含む。
【0029】
実施形態では、ベースレンズ基材は、第2のレンズ表面から突出する少なくとも1つの光学要素を含み、及び差別化コーティング堆積を実行することは、以下の1つを含む:
- 光学要素上のみにコーティングを堆積すること、
- 光学要素のない第2のレンズ表面の領域上のみにコーティングを堆積すること、
- 光学要素と、光学要素のないゾーンとの間の遷移領域上のみにコーティングを堆積すること、
- 光学要素と、光学要素のないゾーンとの間の遷移領域を除いて、第2のレンズ表面にわたってコーティングを堆積すること。
【0030】
実施形態では、差別化コーティング堆積を実行することは、光学要素の非球面性及び/又は屈折力を変化させるために、光学要素上又は光学要素と、光学要素のないゾーンとの間の遷移領域上のみにコーティングを堆積することを含む。
【0031】
実施形態では、ベースレンズ基材は、第2のレンズ表面から突出するか、又は第2のレンズ表面から凹状に形成された少なくとも1つの光学要素を含み、コーティング堆積は、インクジェット印刷によって実行され、及び第2のレンズ表面上に差別化コーティング堆積を実行することは、第2のレンズ表面にわたる堆積されたコーティングの一定の厚さを達成するために、コーティングされる考慮される領域に応じて、堆積される液滴のサイズを変化させることを含む。
【0032】
実施形態では、各光学要素は、0.1μm~50μmに含まれる最大高さ及び0.5μm~1.5mmに含まれる最大幅を有する。
【0033】
別の目的によれば、光学物品も開示され、物品は、
- 対向する第1及び第2のレンズ表面を有するベースレンズ基材並びに第2のレンズ表面上に配置されるか、又はベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素であって、各光学要素は、0.5mm以下の最大高さ及び2.0mm以下の直径を有する、少なくとも1つの光学要素、
- 第2のレンズ表面の少なくとも一部にわたって延びるコーティング
を含み、光学物品は、上記の説明による方法を実施することによって得られる。
【0034】
開示された方法は、その上に光学要素が配置されるか又はその下に光学要素が埋め込まれるレンズの表面上に差別化コーティング堆積を実行することを含む。差別化コーティング堆積は、光学要素に対するコーティングされる表面の領域の位置に応じて、コーティング堆積の少なくとも1つのパラメータの変動を含む。
【0035】
実施形態では、方法は、光学要素及び光学要素のないレンズ表面の領域の差別化コーティング堆積を実行することを含み得る。これにより、光学要素の機械的又は光学特性のみを修正するか、又は光学要素の光学特性を変化させることなく、ベースレンズ基材の機械的又は光学特性を修正することが可能になる。
【0036】
本明細書の説明及び利点のより詳細な理解のために、ここで、同様の参照符号が同様の要素を表す添付の図面及び詳細な説明と合わせて以下の簡単な説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1a】既に論じられており、標準的なコーティング技術を使用して凹状に配置されるか、又はコーティングされる表面から突出する光学要素を含む光学物品のコーティングを概略的に表す図である。
図1b】既に論じられており、標準的なコーティング技術を使用して凹状に配置されるか、又はコーティングされる表面から突出する光学要素を含む光学物品のコーティングを概略的に表す図である。
図1c】既に論じられており、標準的なコーティング技術を使用して凹状に配置されるか、又はコーティングされる表面から突出する光学要素を含む光学物品のコーティングを概略的に表す図である。
図2】実施形態による方法の主なステップを概略的に示す図である。
図3a】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図3b】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図3c】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図3d】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図3e】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図3f】光学要素がその表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれ、且つ異なる領域が光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定された様々なベースレンズ基材を概略的に表す図である。
図4a】その表面上に光学要素を含むベースレンズ基材上に差別化コーティング堆積を実行する2つの連続した段階を表す図である。
図4b】その表面上に光学要素を含むベースレンズ基材上に差別化コーティング堆積を実行する2つの連続した段階を表す図である。
図5】インクジェット印刷装置上の一例を概略的に表す図である。
図6】表面上の様々な形状を有する液滴の例を示す図である。
図7】ベースレンズ基材の位置決めに使用されるマーキングを概略的に示す図である。
図8】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第1の例を概略的に表す図である。
図9】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第2の例を概略的に表す図である。
図10】コーティングされる表面から凹状に形成された光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第3の例を概略的に表す図である。
図11】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第4の例を概略的に表す図である。
図12】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第5の例を概略的に表す図である。
図13】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第6の例を概略的に表す図である。
図14】コーティングされる表面から突出する光学要素を有するベースレンズ基材上の差別化コーティング堆積の第7の例を概略的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、光学物品1を製造する方法を、図2を参照して説明する。この方法は、以下でより詳細に開示されるように、少なくとも1つの光学要素を含むベースレンズ基材10の表面の差別化コーティング堆積を実行することを含む。得られた光学物品1は、少なくとも前記ベースレンズ基材10と、差別化コーティング堆積によって得られたその表面上のコーティング30とを含む。
【0039】
光学要素を含むベースレンズ基材
図3a~図3fを参照すると、ベースレンズ基材10は、単一の層を含み得るか又は積層体で形成され得る。図3d~図3fにおいて、参照番号11、12は、積層体で形成されたベースレンズ基材の異なる層を指定するために使用される。ベースレンズ基材は、好ましくは、少なくとも屈折力を提供しない平面ウェハ若しくは屈折力を提供するベースレンズ又はその両方、すなわち屈折力を提供するベースレンズ及び後述する光学機能でベースレンズを補償するウェハを含む。
- バンドパス濾波或いは例えば着色又はフォトクロミック若しくはエレクトロミック機能の組み込みによる特定の色の濾波、UV吸収、ミラーなど、
- 偏光機能。
【0040】
平面ウェハは、単一のフィルム層で形成されたフィルム構造又は互いに付着された複数のフィルム層のいずれかで形成されたフィルム積層構造を指す。より正確には、平面ウェハ11は、1つ又はいくつかの眼科用グレード機能フィルム(例えば、偏光性又はフォトクロミック性を有する)で形成され得、眼科用グレード機能フィルムは、任意選択的に、眼科用機能フィルムの片面又は両面に眼科用グレード保護フィルムを有する。
【0041】
平面ウェハは、20μm~700μm、好ましくは30μm~600μmの範囲の厚さを示し得る。保護層は、存在する場合、約50μmの厚さを有し得る。
【0042】
平面ウェハ(機能フィルム及び保護フィルムを含む)の形成に好適な透明樹脂フィルム又はシート材料は、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)又はセルロースアシレート系材料、例えばセルロースジアセテート及びセルローストリアセテート(TAC)を含む。他の使用可能なウェハ材料は、ポリカーボネート、ポリスルホン、セルロースアセテートブチレート(CAB)又は環状オレオフィンコポリマー(COC)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリスチレン、アクリレートとスチレンとのコポリマー及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)を含むことができる。ポリカーボネート系材料は、例えば、ポリビスフェノール-Aカーボネート;ホモポリカーボネート、例えば1,1’-ジヒロキシジフェニル-フェニルメチルメタン、1,1’-ジヒロキシジフェニル-ジフェニルメタン、1,1’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニル-2,2-プロパン、それらの相互コポリマーポリカーボネート及びビスフェノールAを有するコポリマーポリカーボネートを含む。
【0043】
ベースレンズ12は、鉱物又は有機眼鏡、例えば、現在、有機眼鏡レンズに使用されている任意の材料、例えば熱可塑性又は熱硬化性プラスチックで形成され得る。特に、熱硬化性材料は、例えば、ポリアミド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリカーボネート及びそのコポリマー;ポリ(エチレンテレフタレート)並びにポリメチルメタクリレート(PMMA)から選択することができる。
【0044】
熱硬化性材料は、直鎖若しくは又は分岐脂肪族のアリルカーボネートなどのアリル誘導体の重合又はエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、ジエチレングリコールビス(2-メチルカーボネート)、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、エチレングリコールビス(2-クロロアリルカーボネート)、トリエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、1,3-プロパンジオールビス(アリルカーボネート)、プロピレングリコールビス(2-エチルアリルカーボネート)、1,3-ブテンジオールビス(アリルカーボネート)、1,4-ブテンジオールビス(2-ブロモアリルカーボネート)、ジプロピレングリコールビス(アリルカーボネート)、トリメチレングリコールビス(2-エチルアリルカーボネート)、ペンタメチレングリコールビス(アリルカーボネート)、イソプロピレンビスフェノール-Aビス(アリルカーボネート)、ポリ(メタ)アクリレートなどの芳香族ポリオールのアリルカーボネート及びアルキルメタクリレート、特にメチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートなどのC1~C4アルキルメタクリレートの重合によって得られる基材などのコポリマーをベースとする基材及びビスフェノールAから誘導されるコポリマー、ポリエトキシル化ビスフェノール酸ジ(メタ)アクリレートなどのポリエトキシル化芳香族(メタ)アクリレート、ポリチオ(メタ)アクリレート、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピサルファイド並びにこれらのコポリマー及びこれらのブレンドにより得ることができる。
【0045】
特に推奨される基材は、ポリカーボネート、例えばGeneral ElectricからLEXAN(登録商標)又はBayer AGからMAKROLON(登録商標)の商品名で販売されているビスフェノールAポリカーボネートから作成された基材又はカーボネート官能基を組み込んだ基材、特にPPG INDUSTRIESからCR-39(登録商標)(ORMA(登録商標)ESSILORレンズ)の商品名で販売されているジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)の重合又は共重合によって得られる基材である。他の推奨される基材としては、仏国特許第2734827号明細書に開示されているようなチオ(メタ)アクリルモノマーの重合によって得られる基材が挙げられる。使用に適した基材の他の例には、MR6(登録商標)、MR7(登録商標)、MR8(登録商標)、MR174(登録商標)及びMR10(登録商標)樹脂(熱硬化性ポリチオウレタン樹脂)から得られるものが含まれる。ポリチオウレタン樹脂に基づく様々な基材は、Mitsui Toatsu Chemicals社によって市販されており、これらの基材及びそれらの準備に使用されるモノマーは、特に、米国特許第4,689,387号明細書、米国特許第4,775,733号明細書、米国特許第5,059,673号明細書、米国特許第5,087,758号明細書及び米国特許第5,191,055号明細書に記載されている。
【0046】
ベースレンズは、好ましくは、装着者の屈折異常、例えば近視又は遠視の矯正に適した屈折力を提供するような形状である。ベースレンズ12は、単焦点レンズ又は多焦点累進レンズなどの多焦点レンズであり得る。
【0047】
ベース基材10は、ベースレンズ及び/又は平面ウェハに加えて、例えばフォトクロミックtrans-bonding(登録商標)層などの他の層をベースレンズの前面上又はベースレンズ若しくは平面ウェハ上に堆積することができ、それにより、
- 振幅濾波機能、
- スペクトル濾波機能(ショートパス若しくはロングパスのようなエッジパス、又はバンドパス濾波、又は例えば着色による若しくはフォトクロミック若しくはエレクトロミック機能の組み込みによる特定の色の濾波、UV吸収、ミラーなど)、
- 偏光機能
のような光学機能を組み込む任意の追加の層を含む。
【0048】
図3a~図3fに示されているように、ベースレンズ基材10は、対向する第1及び第2のレンズ表面10a、10bを含む。実施形態では、第1のレンズ表面10aは、光学物品が眼鏡に一体化されるとき、使用者の眼の近位に配置される裏面であり得、第2のレンズ表面10bは、光学物品が眼鏡に一体化されるとき、使用者の眼から遠位に配置される前面であり得る。
【0049】
ベースレンズ基材10は、ベースレンズ基材の対向するレンズ表面の一方上、例えば第2のレンズ表面上に配置されるか又はベースレンズ基材内に埋め込まれる少なくとも1つの光学要素20を更に含む。後者の場合、少なくとも1つの光学要素は、ベースレンズ基材10の2つの層11、12間の界面13に形成される。
【0050】
その例が図2a、図2c及び図2eに示されている実施形態では、ベースレンズ基材10は、対向するレンズ表面の一方、例えば第2のレンズ表面10bから突出する1つ以上の光学要素20を含む。「突出する」とは、各光学要素20がベースレンズ基材の表面から外向きに、すなわちベースレンズ基材から離れて突き出ることを意味する。
【0051】
その一例が図2bに示されている他の実施形態では、ベースレンズ基材10は、対向するレンズ表面の一方、例えば第2のレンズ表面10bから凹状に配置された1つ以上の光学要素20を含む。「凹状」とは、各光学要素20がベースレンズ基材10の表面から内向きに、すなわちベースレンズ基材の他方の表面に向かって突出することを意味し、従ってそれが形成されているベースレンズ基材の材料の層から材料を除去することによって実行される。
【0052】
その例が図3d~図3fに示されている更に他の実施形態では、ベースレンズ基材10は、ベースレンズ基材10内に埋め込まれた1つ以上の光学要素20を含む。この場合、ベースレンズ基材は、複数の重畳された層11、12で形成され、光学要素は、ベースレンズ基材10の2つの連続する層間の界面13に形成される。
【0053】
光学要素がベースレンズ基材10の表面又は前記基材の層から突出する場合、それは、そこから突出する層と同じ材料から形成され得、後者と一体的に形成され得る。代わりに、それは、別の材料から形成され得る。
【0054】
本開示では、光学要素は、制限された幅において、それらが突出する表面又はそれらが凹状に形成されている表面を基準として高さの変動を示す要素であり、その強度、曲率又は光偏位に関する光波面の修正を提供する。光学要素は、それらが形成される表面上で周期的又は擬似周期的なレイアウトを示し得るが、ランダムな位置も有し得る。光学要素の可能なレイアウトには、一定のグリッドステップを有するグリッド、ハニカムレイアウト、複数の同心リング又は光学要素が形成される表面の少なくとも一部上の光学要素の連続配置が含まれ得る。連続とは、光学要素間に空間が存在しないことを意味する。2つの光学要素間の距離は、光学要素の横方向寸法の0倍~3倍の範囲であり得る。
【0055】
例えば、光学要素が光波面の強度の修正を提供する場合、光学要素は、吸収性であり、0~100%の範囲内で波面強度を局所的に吸収することができる。局所的とは、波面と光学要素との交線におけることを意味する。
【0056】
光学要素が波面の曲率の修正を提供する場合、光学要素は、±20ジオプタの範囲内で波面の曲率を局所的に修正することができる。
【0057】
光学要素が光偏位を提供する場合、光学要素は、±1°~±30°の範囲内で光を局所的に散乱させるように適合され得る。
【0058】
光学要素は、米国特許出願公開第2017/0131567号明細書及び国際公開第2016/168746号パンフレットに開示されているようなマイクロレンズ、欧州特許第2787385号明細書若しくは国際公開第2014060552号パンフレットに開示されているようなフレネルマイクロ構造並びに/又は欧州特許第2604415号明細書に開示されているもののような技術的若しくは非技術的マーキングなど、あらゆる種類の光学機能を構成するように寸法決めされ、形成され、編成され得る。
【0059】
実施形態では、光学要素20は、ベースレンズ基材の屈折力の局所的な変化を誘発する。
【0060】
本発明の実施形態によれば、光学要素20の少なくとも1つ、例えば全ては、例えば、マイクロレンズである。
【0061】
マイクロレンズは、球面、トーリックであるか、又は非球面形を有し得る。マイクロレンズは、単焦点、円柱度数又は非焦点を有し得る。好ましい実施形態では、マイクロレンズは、近視又は遠視の進行を阻止するために使用することができる。その場合、ベースレンズ基材は、近視又は遠視を矯正する屈折力を提供するベースレンズ12を含み、マイクロレンズは、装着者が近視を有する場合、ベースレンズ12の屈折力よりも大きい屈折力をそれぞれ提供することができるか、又は装着者が遠視を有する場合、ベースレンズ12の屈折力よりも低い屈折力を有することができる。
【0062】
本発明の意味において、「マイクロレンズ」は、0.5μm以上且つ1.5mm以下の直径を有する円形に刻印可能な輪郭形状を有する。
【0063】
光学要素は、ベースレンズ基材の少なくとも1つの断面に沿って、光学要素の平均球面度数及び/又は平均円柱度数が前記断面の中心から前記断面の周辺部に向かって増加するように構成され得る。
【0064】
例えば、光学要素は、屈折領域の光学中心に中心を有する円に沿って等間隔に分布され得る。
【0065】
屈折領域の光学中心に中心を有する直径10mmの円上の光学要素は、2.75Dの平均球面度数を有するマイクロレンズであり得る。
【0066】
屈折領域の光学中心に中心を有する直径20mmの円上の光学要素は、4.75Dの平均球面度数を有するマイクロレンズであり得る。
【0067】
屈折領域の光学中心に中心を有する直径30mmの円上の光学要素は、5.5Dの平均球面度数を有するマイクロレンズであり得る。
【0068】
屈折領域の光学中心に中心を有する直径40mmの円上の光学要素は、5.75Dの平均球面度数を有するマイクロレンズであり得る。
【0069】
異なるマイクロレンズの平均円柱度数は、人の網膜の形状に基づいて調整することができる。
【0070】
実施形態によれば、ベースレンズ基材の屈折領域は、遠方視基準点、近方視基準点及び遠方視基準点と近方視基準点とを接合する経線を含み得る。例えば、屈折領域は、人の処方箋に適合又はレンズ要素を装着する人の眼の異常屈折の進行を遅らせるように適合された累進付加レンズを含み得る。
【0071】
経線は、主注視方向とレンズの表面との交線の軸跡に対応する。
【0072】
その場合、光学要素は、標準装着条件下において、レンズの任意の水平方向断面に沿って光学要素の平均球面度数及び/又は円柱度数が水平方向断面と経線との交線からレンズの周辺部に向かって増加するように構成され得る。
【0073】
断面に沿った平均球面度数及び/又は平均円柱度数増加関数は、経線に沿って前記断面の位置に応じて異なり得る。
【0074】
特に、断面に沿った平均球面度数及び/又は平均円柱度数増加関数は、非対称的である。例えば、平均球面度数及び/又は平均円柱度数増加関数は、標準装着条件下で垂直断面及び/又は水平断面に沿って非対称である。
【0075】
光学要素の少なくとも1つは、レンズ要素が標準装着条件下で装着されるとき、人の眼の網膜上で結像しない光学機能を有する。
【0076】
有利には、処方箋の屈折力と異なる少なくとも1つの屈折力を有する屈折領域と組み合わせた光学要素のそのような光学機能は、レンズ要素を装着している人の眼の異常屈折の進行を遅らせることを可能にする。
【0077】
光学要素は、不連続な光学要素であり得る。
【0078】
本発明の意味において、2つの光学要素を連結する全ての経路について、各経路の少なくとも一部に沿って人の眼の処方箋に基づく屈折力を測定し得る場合、2つの光学要素は、隣接していない。
【0079】
2つの光学要素が球面上にある場合、2つの光学要素を連結する全ての経路について、各経路の少なくとも一部に沿って前記球面の曲率を測定し得る場合、2つの光学要素は、隣接していない。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、複数の光学要素の少なくとも1つは、網膜以外の位置に像の焦点を合わせる光学機能を有する。
【0081】
好ましくは、光学要素の少なくとも50%、例えば少なくとも80%、例えば全部は、網膜以外の位置に像の焦点を合わせる光学関数を有する。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つは、非球面光学機能を有する。
【0083】
好ましくは、光学要素の少なくとも50%、例えば少なくとも80%、例えば全ては、非球面光学機能を有する。
【0084】
本発明の意味において、「非球面光学機能」は、単焦点を有しないものとして理解されるべきである。
【0085】
非球面光学機能を有する少なくとも1つの要素は、透明である。
【0086】
これらの光学要素は、正方形若しくは六角形のような画定されたアレイ上に又はランダムなどで追加され得る。
【0087】
光学要素は、中心又は他の任意の領域と同様に、ベースレンズ基材の特定の領域をカバーし得る。
【0088】
光学要素密度、すなわち屈折力の量は、ベースレンズ基材のゾーンに応じて調整され得る。通常、光学要素は、ベースレンズ基材の周辺部に位置して、近視抑制に対する光学要素の効果を高めて、例えば網膜の周辺形状に起因した周辺焦点ボケを補償することができる。
【0089】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、装着者の眼球の網膜の前方に火面を作成するように構成された形状を有する。換言すると、このような光学要素は、光束があれば集束される全ての断面平面が人の眼の網膜の前に配置されるように構成される。
【0090】
本発明の一実施形態によれば、非球面光学関数を有する光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、多焦点屈折マイクロレンズである。
【0091】
本発明の意味において、「多焦点屈折マイクロレンズ」である光学要素は、二焦点(2つの焦点屈折力を有する)、三焦点(3つの焦点屈折力を有する)、連続変化する焦点屈折力を有する累進付加レンズ、例えば非球面累進表面レンズを含む。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの多焦点屈折マイクロレンズは、トーリック面を有する。トーリック面は、その曲率中心を通過しない回転軸の周りで円又は弧を回転させることにより形成可能な(最終的に無限遠に配置される)回転面である。
【0093】
トーリック面レンズは、互いに直交する2つの異なる半径方向プロファイルを有するため、2つの異なる焦点屈折力を生成する。
【0094】
トーリックレンズのトーリック及び球面表面要素は、単一点焦点とは逆に非点収差光ビームを生成する。
【0095】
本発明の一実施形態によれば、非球面光学関数を有する光学要素の少なくとも1つ、例えば光学要素の全ては、トーリック屈折マイクロレンズである。例えば、球面度数値が0ジオプタ(δ)以上且つ+5のジオプタ(δ)以下であり、円柱度数値が0.25ジオプタ(δ)以上であるトーリック屈折マイクロレンズである。
【0096】
具体的な実施形態として、トーリック屈折マイクロレンズは、純粋な円柱であり得、すなわち最小経線屈折力がゼロである一方、最大経線屈折力が厳密に正、例えば5ジオプタ未満であり得る。
【0097】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、不連続面、例えばフレネル面などの不連続性を有し、且つ/又は不連続性を有する屈折率プロファイルを有する。
【0098】
回折レンズの少なくとも1つ、例えば全ては、国際公開第2017/176921号パンフレットに開示されているようなメタ表面構造を含み得る。
【0099】
回折レンズは、位相関数ψ(r)が公称波長においてπ位相跳躍を有するフレネルレンズであり得る。位相跳躍が2πの倍数である単焦点フレネルレンズと対照的に、明確にするために、これらの構造を「πフレネルレンズ」と呼び得る。その位相関数が図5に示されているπフレネルレンズは、ジオプタ度数0δと正のP、例えば3δに関連付けられた主に2つの回折次数で光を回折する。
【0100】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、多焦点二値構成要素である。
【0101】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、ピクセル化レンズである。多焦点ピクセル化レンズの例は、Eyal Ben-EliezerらによるAPPLIED OPTICS,Vol.44,No.14,10 May 2005に開示されている。
【0102】
本発明の一実施形態によれば、光学要素の少なくとも1つ、例えば全ては、高次光学収差を有する光学機能を有する。例えば、光学要素は、ゼルニケ多項式によって定義される連続面で構成されるマイクロレンズである。
【0103】
他の実施形態によれば、光学要素は、光学装置の屈折力の局所的な変化を誘発しないが、他の光学機能を提供する。
【0104】
例えば、光学要素は、複数の、しかし有限数の定位相光学要素からなるグローバル位相プロファイルを提供するために使用され得る。その場合、各マイクロ要素は、光学要素に位相変化を誘発するために、一定の厚さ(厚さは、光学要素が突出する表面と、光学要素の対向する表面との間の距離として測定される)を有する離散的なプロファイルを提示する。
【0105】
各光学要素は、例えば、ベースレンズ基材又はその層から延びる表面に対して垂直な方向で測定した0.5ミリメートル(mm)以下、例えば0.4mm、0.3mm、0.2mm、0.1mm、100マイクロメートル(μm)、90μm、80μm、70μm、60μm、50μm、40μm、30μm、20μm、10μm、5μm、1μm以下若しくはいずれか2つの間又はそれ未満の最大高さを有し得る。実施形態では、光学要素の最大高さは、0.1μm~50μmの範囲であり得る。凹状及び凸状のマイクロ要素/マイクロレンズの各々は、それぞれ2.0mm以下、例えば2.0mm、1.5mm、1.0mm、0.5mm、0.1mm、80μm、60μm、40μm、20μm以下又はいずれか2つの間の直径を有し得る。実施形態では、光学要素の直径又は最大長さ/幅は、0.5μm~1.5mmの範囲であり得る。
【0106】
光学物品1を形成する方法は、ベースレンズ基材の第2表面上に差別化コーティング堆積100を実行することを含む。ベースレンズ基材の第2の面の一部又は全部に対して前記差別化コーティング堆積が行われる。差別化コーティング堆積は、光学要素に対するそれらの相対位置に応じて画定される、第2のレンズ表面の少なくとも2つの領域間又は領域のセット間で異なる。
【0107】
図3a、図3b、図3d及び図3eを参照すると、第2のレンズ表面10bは、以下の2つの領域又は領域のセットを含み得る:
- 第1の領域又は領域Z1のセットであって、それぞれの第1の領域は、後者が第2のレンズ表面10bに配置される場合、1つの光学要素20の位置に対応するか、又は後者がベースレンズ基材内に埋め込まれる場合、少なくとも1つの光学要素の位置に重畳された第2のレンズ表面の位置に対応する、第1の領域又は領域Z1のセット。
- 第2の領域又は領域Z2のセットであって、それぞれの第2の領域Z2は、光学要素がない第2のレンズ表面10bの位置、換言すると光学要素間に延びる第2のレンズ表面の領域に対応する位置又は光学要素がベースレンズ基材内に埋め込まれる場合、光学要素がないベースレンズ基材の領域に重畳された位置に配置される、第2の領域又は領域Z2のセット。
【0108】
光学要素20がベースレンズ基材1内に埋め込まれる場合、光学要素は、ベースレンズ基材の2つの層間の界面13に形成される。その場合、図3fに概略的に示されているように、第1の領域と第2の領域との間の境界において第2のレンズ表面に対して法線方向に延びる入射光線が光学要素の横方向端部において界面に到達するように、第2のレンズ表面の2つの領域若しくはセット又は領域Z1、Z2を画定することができる。改良された実施形態では、第2のレンズ表面に対して法線方向にある入射光を使用する代わりに、第1の領域と第2の領域との間の境界における光線が、ユーザの眼の回転中心の、ユーザの眼の瞳孔に到達する入射光線に対して、光学要素の横方向端部において界面に到達するように、2つの領域Z1、Z2を画定することができる。これにより、差別化コーティング及び埋め込まれた光学要素の高さ位置の差によって提供される視差を考慮することが可能になる。
【0109】
従って、コーティングされるゾーンが光学要素20に対応するゾーンであるか否かに応じて、差別化コーティング堆積が変化する。これにより、以下に詳細に開示するように、光学要素又は前記光学要素を取り囲む領域の光学特性又は機械的特性のいずれかを選択的に適合又は変化させるようにコーティングを適合させることが可能になる。
【0110】
別の実施形態によれば、領域又は領域のセットは、第3の領域又は領域のセットZ3を更に含むことができ、それぞれの第3の領域Z3は、光学要素の位置に配置された第1の領域Z1と、光学要素のない位置に配置された第2の領域Z2との間に延びる。その場合、それぞれの第3の領域Z3は、光学要素の境界又は光学要素と、光学要素のない領域との間の遷移領域に対応する。この実施形態の一例が図3cに概略的に示されている。
【0111】
このように、差別化コーティング堆積は、第2のレンズ表面をコーティングするステップであり、コーティングされる領域が以下のいずれであるかに応じて、コーティング堆積の少なくとも1つのパラメータが変化する:
- 第1の領域Z1、すなわち第2のレンズ表面上に配置されるか又は第2のレンズ表面の下に埋め込まれる光学要素、
- 第2の領域Z2、すなわち光学構成要素のない第2のレンズ表面の領域又は光学要素のないベースレンズ基材の間に埋め込まれた領域に重畳された領域、及び任意選択的に、
- 第3の領域Z3、すなわち光学要素と、光学要素のない領域との間の遷移領域。
【0112】
実施形態では、異なるようにコーティングされる領域の画定は、ベースレンズ基材上の光学要素の位置に更に依存し得る。例えば、ベースレンズ基材10は、複数の光学要素20を含むことができ、その一部は、中央に配置され、他のものは、周辺部に配置される。その場合、第1の領域、第2の領域及び場合により第3の領域のいずれかは、物品の中央又は周辺部のいずれに配置された光学要素に関連するかに応じて更に区別され得る。
【0113】
考慮される領域に応じて変化するコーティング堆積のパラメータは、領域のコーティングの有無を含み得る。上記の領域の画定により、一実施形態では、第1の領域Z1のみ、すなわち光学要素のみがコーティングされる。代わりに、第2の領域Z2のみ、すなわち光学要素のない領域のみがコーティングされる。別の実施形態によれば、第3の領域が画定される場合、第3の領域Z3、すなわち光学要素と、光学要素のない隣接する領域との間の遷移領域のみがコーティングされる。更に別の実施形態によれば、第3の領域Z3を除く全ての第2のレンズ表面がコーティングされる。
【0114】
第2のレンズ表面の一部の領域を選択的にコーティングすることは、従って、適切な特性を有するコーティングを選択することにより、コーティングされた領域のみに所望の光学又は機械的特性を選択的に提供することを可能にし得る。
【0115】
他の実施形態によれば、コーティングされた領域に応じて変化するコーティング堆積のパラメータは、以下の少なくとも1つを含み得る:
- コーティング材料の組成、
- コーティング材料の屈折率、
- コーティング材料の粘度、
- コーティング材料の機械的特性及び特に得られたコーティングの硬度、
- コーティング材料の光学特性、
- 考慮される波長範囲におけるコーティング材料の透過率、
- 堆積されたコーティング材料の厚さ、
- コーティング材料が堆積されるコーティング技術、
- 物理的又は化学的な表面活性化及び洗浄処理又は疎水性若しくは親水性処理表面など、考慮される領域上で実行された予備処理。
【0116】
当然のことながら、コーティング材料の屈折率、透過率、粘度又は機械的特性を変化させることは、前記材料の組成を変更することによって得ることができる。
【0117】
更に、第2のレンズ表面の考慮される領域に応じて、複数のパラメータを変化させることができる。例えば、一部の領域は、第1のコーティング材料でコーティングして、第1の厚さを有するコーティングを得ることができ、他の領域は、第2のコーティング材料でコーティングして、異なる厚さを有するコーティングを得ることができる。
【0118】
図4a及び図4bに概略的に示されている別の例によれば、その第2のレンズ表面10bから突出するか又は凹状の光学要素20を含むベースレンズ基材10は、マイクロ構造の外部の第2の領域Z2上において、1.5の屈折率を有し、100%固体のアクリレート/エポキシシラン組成物に基づいて10μmの厚さを示し、マイクロ構造に対応する第1の領域Z1上において、同じ組成物で形成されて、シリカナノ粒子を更に含み、8μmの厚さを有するようにコーティングされ得る。そのような例によれば、マイクロ構造の位置におけるコーティング30は、ナノ粒子の添加により、マイクロ構造のない位置よりも薄くなるが、耐摩耗性に関してより剛性が高く、且つより拡散性が高くされる。
【0119】
従って、差別化コーティング堆積は、第2のレンズ表面の1つ又は複数の領域(図4aに対応する例)に対して第1のコーティング堆積110を実行し、次いで以下のいずれかの領域に対して第2のコーティング堆積120(例えば、図4b)を実行することを含み得る:
- 第1のコーティング堆積中にコーティングされなかった第2のレンズ表面の領域、又は
- 第1のコーティング堆積中にコーティングされた領域のいくつかの部分。
【0120】
硬化ステップ115は、コーティング材料の混合又は第1のコーティング堆積後に得られるコーティングの変形を防止するために、第1のコーティング堆積と第2のコーティング堆積との間に実行することができ、別のステップ125は、第2のコーティング堆積後に実行することができる。当然のことながら、異なるパラメータによる連続的なコーティング堆積ステップの数は、限定されない。
【0121】
コーティング材料の組成物は、アクリレート又はメタクリレート、エポキシシラン、アルコキシシラン、SiO2、ZrO2、TiO2などの金属酸化物コロイド、光開始剤、界面活性剤、エポキシド、イソシアネート、シロキサン、ビニル、ウレタン、ポリオールを含む組成物から選択することができる。
【0122】
実施形態では、コーティング材料は、耐摩耗性コーティングを形成するのに適しており、従って少なくとも1つのアルコキシシラン及び/又は例えば塩酸溶液による加水分解によって得られる後者の1つの加水分解物を含む組成物から調製される。持続時間が一般的に2~24時間、好ましくは2~6時間である加水分解段階後、任意選択的に触媒を添加できる。堆積物の光学品質を高めるために、好ましくは表面活性化合物も添加される。
【0123】
本発明において推奨されるコーティングの中でも、例えば欧州特許第0614957号明細書、米国特許第4211823号明細書及び米国特許第5015523号明細書に記載されているようなエポキシシラン加水分解物に基づくコーティングが挙げられ得る。
【0124】
耐摩耗性コーティングのための好ましい組成物は、本出願人を代表とする仏国特許第2702486号明細書に開示されているものである。これは、エポキシトリアルコキシシラン及びヂアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状シリカ並びに触媒量のアルミニウム系硬化触媒、例えばアルミニウムアセチルアセトナートを含み、残りは、基本的にこのような組成物の調合に従来使用される溶媒からなる。優先的には、使用される加水分解物は、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)及びジメチルジエトキシシラン(DMDES)加水分解物又はγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)及びトリエチルオルトシリケート(TEOS)加水分解物である。
【0125】
実施形態では、差別化コーティング堆積の一部又は全部は、インクジェットコーティングによって実行することができる。その場合、コーティング材料は、インクジェットコーティングで使用可能であるように適宜選択される。
【0126】
例えば、コーティングの組成物は、少なくとも1つの非加水分解エポキシ(アルコキシ)シラン、少なくとも1つの無機ナノ粒子の分散液、少なくとも1つのアクリレート又はシランバインダー及び少なくとも1つのフリーラジカル光開始剤、カチオン光開始剤又はそれらの組み合わせ、例えば欧州特許第3608370号明細書に記載されているもの若しくはフォトクロミックコーティング堆積のための国際公開第2017074429号パンフレットに記載されているものを含み得る。
【0127】
図5を参照すると、インクジェット印刷装置5は、コーティングされる表面上にコーティング材料を吐出する1つ又は複数のノズル51を含む印刷ヘッド50を有する。インクジェット印刷装置はまた、コーティングされる表面が堆積される可動支持体52と、コーティングされる表面を正確に位置決めするために、印刷ノズルに対する支持体の相対位置を制御するコンピュータとを含む。
【0128】
液滴堆積のパターンは、画像と呼ばれる基準に従って実行される。いくつかのインクジェット印刷装置は、いわゆる「ドロップオンデマンド」技術を実装するように構成され、この技術では、材料の吐出を液滴単位で実行することができる。ノズルが、印刷面に接触する前に合体し得るいくつかの小さい液滴を吐出するマルチドロップ機能を使用することにより、可変体積を得ることもできる。2つの液滴が互いに接触すると、それらは、合体する。このように、互いに接触する液滴を堆積することにより、均一な層を形成することができる。更に、堆積される液滴の密度、体積、数を制御することにより、孤立した液滴を選択して、液滴を、勾配をつけて(コーティング面に沿って密度を変化させて)若しくはサイズの勾配をつけて堆積させるか、又は所望の厚さの層を形成することができる。
【0129】
材料が表面上に堆積されると、表面上に固定するために硬化が実行される。一般的な硬化は、熱又は紫外線などの放射エネルギーを加えることによって行われる。
【0130】
差別化コーティング堆積を実行するためにインクジェットコーティングが使用される場合、差別化コーティング堆積の別の変化するパラメータには、コーティング材料の堆積される液滴のサイズ又は体積、密度及び形状が含まれ得る。堆積される液滴の形状に関して、単一の液滴が表面上に堆積される場合、それは、通常、球状を保つ。図6を参照すると、球状キャップの高さ及び半径は、液滴の体積及び表面と液滴との接触角に依存する。従って、前記領域のコーティングを実行する前に、所望の領域に対して疎水性(接触角を増加させる)又は親水性(接触角を減少させる)のいずれかの予備表面処理90を実行することにより、液滴の形状を変化させることが可能である。
【0131】
実施形態では、方法は、コーティングされる異なる領域の位置、従ってインクジェット印刷装置によって堆積される液滴の位置を判定するために、光学要素の位置を判定する予備ステップ80も含み得る。この目的のために、図7を参照すると、ベースレンズ基材10の表面は、検出され得る永久的又は一時的なマイクロマーキング15を含み、これを参照することにより光学要素の位置を知ることができる。マイクロマーキング15は、好ましくは、表面の視覚領域から外部の位置に配置され、対称性の誤差を回避するように設計される。従って、マイクロマーキングの位置を判定することにより、光学要素の位置を推測することが可能である。
【0132】
代わりに、ベースレンズ基材の第2のレンズ表面上に配置される光学要素に対して、文献米国特許出願公開第2016363506号明細書の装置を使用してこれらの要素の位置を判定することができる。この装置は、光源、ミラー及びコリメートレンズを含むセットアップを含み、光学要素を担持するレンズに向かってコリメートされた光ビームを生成する。拡散スクリーンは、レンズを通過した光を送り返すように配置され、カメラは、拡散スクリーンの画像を取得し、且つ光学要素の位置を推測するために前記画像を処理するように構成される。
【0133】
光学要素の位置が知られると、ベースレンズ基材の支持体を移動させて前記基材を正しく位置決めするために、又は印刷ヘッドの駆動に使用される画像、すなわち液滴投射パターンを適合させることにより、インクセット印刷装置を動作させることができる。
【0134】
差別化コーティング堆積前に一部の領域の予備的な疎水性又は親水性処理90を行う場合、ステップ80において光学要素の位置が判定された時点で実行することができる。
【0135】
ここで、図8a~図14を参照して、差別化コーティングのいくつかの例について説明する。
【0136】
図8及び図9を参照すると、ベースレンズ基材10は、その第2のレンズ表面から突出する光学要素20を含み得る。例えば、これらの光学要素は、可変度数、例えば+2D~+4Dの正の度数を有するマイクロレンズであり得る。第2のレンズ表面から突出する光学要素の機械的耐性(特に耐摩耗性/耐傷性)を、その形状を修正することなく改善するために、差別化コーティング堆積を実行することができる。先に述べた図1cに既に示されているように、標準的なコーティング堆積では、マイクロレンズのフロンティアの近傍において光学要素の形状の修正(屈折力を有するマイクロレンズの場合には前記屈折力の変更)が提供される。
【0137】
従って、その一例が図8に示されている実施形態によれば、差別化コーティング堆積は、インクジェットコーティングを実行することを含み得、堆積される液滴のサイズは、コーティングされる考慮される領域に依存する。特に、光学要素と、光学要素を取り囲む表面との間の遷移領域に対応する第3の領域Z3では、光学要素の上部に対応する第1の領域Z1及び光学要素のないゾーンに対応する第2の領域Z2のコーティングに使用される液滴サイズと比較して、液滴のサイズを低減することができる。遷移領域において低減された液滴サイズを使用することにより、光学要素の形状を保持することが可能になる。
【0138】
図9図12及び図14を参照して以下に説明する例では、各図の上部は、インクジェット印刷によって実行され得る差別化コーティング堆積の原理を示し、各図の下部は、得られたコーティング30を含む光学物品1を示す。
【0139】
図9に示される別の例によれば、差別化コーティング堆積は、光学要素とその周囲の領域との間の遷移領域Z3をコーティングのない状態に保ちながら、第1の領域Z1及び第2の領域Z2のみにコーティングを堆積することを含み得る。これは、精度を高めるためにインクジェット堆積を使用して達成することができる。従って、光学要素の上部及び第2のレンズ表面の光学要素のない部分に耐摩耗性を提供しながら、遷移領域における変形を回避するために、光学要素の上部のみがコーティングされる。
【0140】
図10に概略的に示されているように、第2のレンズ表面から凹状に形成された光学要素の形状を保持するために、差分コーティング堆積を実行することもできる。実施形態によれば、第2のレンズ表面から凹状に形成された光学要素について、差分コーティング堆積は、以下を含むことができる:
- コーティングの厚さが一定である第2のレンズ表面の第1のコーティングを実行すること(この第1のコーティングステップは、第1の液滴サイズを使用するインクジェットコーティングによって実行され得るか、又はスピンコーティング若しくはディップコーティングによって実行され得る)。その結果、凹状に形成された光学要素により、表面のコーティングが平坦にならない場合がある。
- 凹状の光学要素によって誘発される変形を補償し、且つ平坦なコーティングを得るために、低減された液滴サイズでのインクジェットコーティングにより、第2のレンズ表面10bの第1の領域Z1のみに第2のコーティングを実行すること。
【0141】
そのような差別化コーティング堆積は、凹状の光学要素20を埋め込むためにも使用され得る。この場合、堆積されたコーティング30は、ベースレンズ基材10に向かって突出する光学要素20を形成する。コーティング材料は、ベースレンズ基材の屈折率と異なる屈折率を有し得る。
【0142】
例えば、光学要素が半径Rmcを有するマイクロレンズである場合、カプセル化された、すなわちコーティングにより形成されたときにマイクロレンズによって提供される屈折力は、P=(RI-RI)/Rであり、ここで、RIは、コーティングの屈折率であり、RIは、ベースレンズ基材の屈折率である。正レンズの場合、Riは、RIよりも大きく、負レンズの場合、Riは、RIよりも小さいことが望ましい。
【0143】
コーティングは、耐摩耗性コーティングであり得るか、又は例えばフォトクロミック色素を提供するためのポリウレタン厚膜コーティング(20~30μm)であり得る。
【0144】
他の実施形態では、光学要素20が、屈折力を提供するマイクロレンズである場合、差別化コーティング堆積は、マイクロレンズの屈折力又は非球面性を変化させるために実行され得る。
【0145】
図11及び図12を参照すると、ベースレンズ基材の第2のレンズ表面から突出するマイクロレンズの場合の例が示されている。しかしながら、差別化コーティング堆積は、前記表面から凹状に形成され、後に別のコーティング又は材料の層を追加することによって埋め込まれることが意図されるマイクロレンズの度数又は非球面性を変化させるために実行され得る。例えば、凹状に形成されたレンズの側面にコーティングを堆積することにより、レンズの非球面性を変化させることが可能になり、前記レンズの底面にコーティングを堆積することにより、レンズの度数を変化させることが可能になる。
【0146】
マイクロレンズが第2のレンズ表面から突出する場合、図11に概略的に示されているように、マイクロレンズの非球面性は、第3の領域Z3、すなわち各マイクロレンズ20の境界上のみにコーティング材料を堆積することによって変化させることができる。
【0147】
図12を参照すると、マイクロレンズの屈折力は、その形状を変化させるようにマイクロレンズ20上のみにコーティング材料を堆積することによって変化させることができる。この場合、コーティング材料は、マイクロレンズを形成する材料と同じ屈折率を有するように選択することができる。好ましくは、マイクロレンズ上のコーティング堆積は、インクジェット堆積によっても実行することができ、マイクロレンズの中心から近いほど、堆積される液滴が大きくなる。上記で説明したように、液滴のサイズの勾配を使用し得る。インクジェットコーティングに使用される通常の樹脂は、1.52~1.56の範囲の屈折率を有するアクリレート又はメタクリレートポリマーをベースとする。
【0148】
実施形態では、マイクロレンズの度数及び/又は非球面性の修正は、レンズごとに個別に実行することができる。これにより、例えば同じ成形インサートを使用して、同じように製造されたマイクロレンズの特性をカスタマイズすることが可能になる。例えば、近視抑制の目的のため、周辺網膜形状に基づくパターンに従い、ベースレンズ基材上にマイクロレンズを配置することができる。その場合、網膜が平均的な網膜形状よりも周辺部に寄っている場合に網膜形状によりよく一致させるために、中央のマイクロレンズよりも周辺部のマイクロレンズに正の度数を加えることが可能であり得る。
【0149】
他の実施形態では、差別化コーティング堆積により、例えば光学要素のスペクトル特性を変化させるために、第2のレンズ表面の一部の領域のスペクトル特性を修正することが可能になる。
【0150】
例えば、光学要素のないゾーンに対する第2の領域Z2のコーティングが、光学要素のコーティングと異なる透過率係数を示すように、差別化コーティング堆積を実行することができる。
【0151】
一例によれば、光学要素が、近視抑制のために構成されたレンズである場合、差別化コーティングは、網膜から提供される(マイクロレンズによって提供される)エネルギーと、網膜に結像される(光学物品の残りの部分によって提供される)エネルギーとの差を増加させるために、第1の領域の透過率係数(例えば、95~100%)と比較して第2の領域の透過率係数(例えば、約90%)を低くするように実行され得る。
【0152】
そうするために、差別化コーティング堆積は、所望の透過率係数を有するコーティング材料で第2の領域Z2のみにコーティングすること又は所望の透過率係数の差を提供するために、異なるコーティング材料で第1及び第2の領域を異なるようにコーティングすることを含み得る。この異なるコーティング堆積の一例は、マイクロレンズ20が第2のレンズ表面10bから突出する状態で図13に概略的に示されているが、マイクロレンズがベースレンズ基材内に埋め込まれる場合にも同様に適用することができる。
【0153】
図14に一例が示されている別の実施形態によれば、差別化コーティング堆積は、第2のレンズ表面の領域の散乱特性を、これらの領域が光学要素の位置に対応するか又は光学要素のない位置に対応するかに応じて選択的に変化させるために使用することができる。特に、光学要素のない領域(第2の領域)などの一部の領域は、散乱特性を高めるために拡散材料でコーティングされ得る。散乱特性を高める必要がある領域は、所望の散乱レベルを提供するハードコートでコーティングすることができ、ハードコートと基材との間の屈折率の差が大きいほど、得られる散乱が高くなる。
【0154】
例えば、光学要素が、近視抑制のために構成されたマイクロレンズである場合、マイクロレンズと散乱との両方が近視を遅らせることができるため、近視抑制効率を高めるためにこれらを組み合わせることが重要である。第2のレンズ表面上に連続的な散乱コーティングを提供する代わりに、光学要素のない第2の領域のみに散乱コーティングを堆積することを含む差別化コーティング堆積を提供することがより重要であり得る。従って、マイクロレンズの度数測定の精度、例えば機械的センサプロフィロメータを使用するか、又は光の反射若しくは偏位測定を使用する場合、マイクロレンズに散乱層がないことがより好都合である。また、マイクロレンズを取り囲むゾーンのみにコーティングすることにより、マイクロレンズの視認性を最小化することが可能になり、且つ近視抑制の一部が光学物品の他の領域によって実行される散乱に由来するために、マイクロレンズのサイズ、密度又は度数を低減することが可能になる。
図1a
図1b
図1c
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】