(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】挿入および固定特性が改善された可撓性神経インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/48 20060101AFI20240426BHJP
A61F 2/70 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
A61F2/48
A61F2/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572103
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2022050467
(87)【国際公開番号】W WO2022242916
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523438304
【氏名又は名称】リビジョン・インプラント・ナムローゼ・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】REVISION IMPLANT NV
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セイセンス,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】フレイ,サマラ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA30
4C097BB06
4C097MM03
4C097MM04
(57)【要約】
本発明は、実質的に平面の神経電極アレイに関し、電極アレイは、-可撓性基部と、-基部に取り付けられたコネクタケーブルと、-基部から突出する1つまたは複数の可撓性シャフトであって、シャフトが、櫛状構造を形成するように基部の同じ表面から同じ平面内に突出するように配置され、1つまたは複数のシャフトの各々が、1つまたは複数の電極接点を備え、電極接点が、コネクタケーブルに電気的に結合されている、1つまたは複数の可撓性シャフトとを備え、-第1の補強層が、基部および1つまたは複数のシャフトの近位部分にわたって延在し、近位部分が基部に隣接していることと、-第2の吸収性補強層が、1つまたは複数のシャフトの遠位部分にわたって延在し、遠位部分が基部から離れていることとを特徴とし、第1の補強層と第2の吸収性補強層との間に重なりがある。さらに、本発明は、本発明による1つまたは複数の電極アレイを備える神経インプラントに関する。さらに、本発明は、本発明による電極アレイの製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に平面の神経電極アレイ(1)であって、前記電極アレイ(1)が、
-可撓性基部(20)と、
-前記基部(20)に取り付けられたコネクタケーブル(32)と、
-前記基部(20)から突出する1つまたは複数の可撓性シャフト(10)であって、前記シャフト(10)が、櫛状構造を形成するように前記基部(20)の同じ表面から同じ平面内に突出するように配置され、前記1つまたは複数のシャフト(10)の各々が、1つまたは複数の電極接点(30)を備え、前記電極接点(30)が、前記コネクタケーブル(32)に電気的に結合されている、1つまたは複数の可撓性シャフト(10)と
を備え、
-第1の補強層(40)が、前記基部(20)および前記1つまたは複数のシャフト(10)の近位部分にわたって延在し、前記近位部分が前記基部(20)に隣接していることと、
-第2の吸収性または溶解性補強層(50)が、前記1つまたは複数のシャフト(10)の遠位部分にわたって延在し、前記遠位部分が前記基部(20)から離れていることと
を特徴とし、
前記第1の補強層(40)と前記第2の吸収性補強層(50)との間に重なりがある、電極アレイ(1)。
【請求項2】
前記近位部分が、50ミクロン以上500ミクロン以下の長さを有する、請求項1に記載の電極アレイ(1)。
【請求項3】
前記シャフト(10)の前記遠位先端部(12)が、45°よりも小さい先端角を有する、先行する請求項のいずれかに記載の電極アレイ(1)。
【請求項4】
前記基部(20)が、1つまたは複数のオリフィス(21)を備える、先行する請求項のいずれかに記載の電極アレイ(1)。
【請求項5】
前記コネクタケーブル(32)が、分割多芯蛇行ケーブルである、先行する請求項のいずれかに記載の電極アレイ(1)。
【請求項6】
神経インプラント(100)であって、前記インプラント(100)が、
-請求項1に記載の1つまたは複数の神経電極アレイ(1)と、
-電子装置ユニット(110)と
を備え、
前記1つまたは複数の電極アレイ(1)の前記コネクタケーブル(32)が、前記電子装置ユニット(110)に電気的に接続されている、神経インプラント(100)。
【請求項7】
前記1つまたは複数の電極アレイ(1)の前記基部(20)が、プラットフォーム(130)によって接続される、請求項6に記載のインプラント(100)。
【請求項8】
前記プラットフォーム(130)がその場で作成される、請求項7に記載のインプラント(100)。
【請求項9】
前記1つまたは複数の電極アレイ(1)が取り外し可能なホルダ(120)に格納され、前記ホルダ(120)が、前記1つまたは複数の電極アレイ(1)を互いに分離する、請求項6~8のいずれかに記載のインプラント(100)。
【請求項10】
請求項1に記載の神経電極アレイ(1)の製造方法であって、前記方法が、
-平面基板(300)を用意するステップと、
-前記基板(300)を犠牲層(301)でコーティングするステップと、
-前記犠牲層(301)上に電気絶縁材料(302)の少なくとも第1層を堆積させるステップと、
-前記第1層(302)上に1つまたは複数の金属トレース(31)および電極接点(30)を堆積させるステップと、
-前記第1層(302)および前記金属トレース(31)上に電気絶縁材料(304)の少なくとも第2層を堆積させるステップと、
-前記第1の補強層(40)を塗布するステップと、
-前記第2の吸収性補強層(50)を塗布するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記第1の補強層(40)が、第1の浸漬コーティングプロセスを用いて塗布され、前記第2の補強層(50)が、第2の浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の補強層(40)が、成形プロセスを用いて塗布され、前記第2の補強層(50)が、浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の補強層(40)が、堆積プロセスを用いて塗布され、前記第2の補強層(50)が、浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の補強層(40)が、非被覆電極アレイとは別に製造され、前記第1の補強層(40)が、前記非被覆電極アレイに取り付けられ、前記第2の補強層(50)が、浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記平面基板(300)が単結晶シリコンウェハであり、前記ウェハ(300)の前記{111}結晶面が、前記ウェハ(300)の前記表面に対して実質的に鋭い角度で傾斜しており、前記表面が、前記ウェハ(300)内に前記神経電極アレイ(1)用の鋳型を作成するために異方的にパターニングおよびエッチングされる、請求項10~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳または神経組織における大縮尺(高分解能)神経信号記録および神経刺激を目的とした薄い可撓性電極アレイに関する。より具体的には、そのような電極の複数の針状または櫛形のアレイ、したがって3Dアレイを形成するアレイの挿入に関する。それは、改善された挿入性およびその後の機械的安定化を可能にする特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
瘢痕組織の形成および長期性能に関して、可撓性神経電極アレイが、より硬く(典型的には)より大きいシリコンまたは金属ベースの電極アレイよりも優れているという証拠がますます多く集められている。考えられる理由は、脳に対するインプラントの連続的な動きによって引き起こされる損傷または刺激の減少である。典型的には、そのような可撓性電極アレイは、シリコンウェハなどの平坦なキャリア基板上に薄膜技術を使用して製造され、その後キャリアから解放される。可撓性電極アレイに使用される一般的な材料は、ポリイミドまたはパリレン-C隔離層および貴金属電気接続ならびに白金、酸化イリジウム、カーボンナノチューブまたはPEDOTなどの電極材料である。典型的な形状は、1つまたは複数の共通の基部に由来する、シャフトまたはストランドとも呼ばれる針状または針のアレイである。基部は、神経組織の外側に配置されるように意図されているが、電極含有針は、内側を貫通するように意図されている。
【0003】
大量の神経組織との高分解能相互作用を可能にするために、電極の3Dアレイを挿入する必要がある。本質的に、可撓性電極アレイは、それ自体では脳髄膜または脳組織すら貫通するには弱すぎるため、挿入中に(コーティングまたは挿入シャトルなどの外部手段のいずれかによって)可撓性神経電極アレイを一時的に補強する必要性が長い間確立されてきた。
【0004】
必要な挿入力を大幅に増加させるいわゆる「針床効果」を回避するために、可撓性アレイの電極を一度に挿入しないことが一般的である。代わりに、1つずつまたは行ごとの挿入が用いられる。
【0005】
可撓性針またはストランドの3Dアレイを挿入する既存の方法は、電極ストランドを把持し、ストランドを1本ずつ挿入する硬質挿入針の使用を含む。この方法は、多数の挿入点までスケールアップすることが困難である。これを緩和するための高価で複雑な改善の1つは、例えば米国特許出願公開第20210007808号明細書に開示されているように、ロボット支援手術を使用して長時間の要件を緩和することである。
【0006】
別の方法は、可撓性の平面(2D)アレイがポリエチレングリコールなどの生体適合性の水溶解性物質で一時的に接着される硬質(金属またはシリコンベースの)挿入ビークル(またはシャトル)を使用する。そのような挿入ビークルの櫛形バージョンを使用することにより、例えば米国特許第10214001号明細書に開示されているように、移植手順の速度をかなり上げて行ごとの挿入を行うことができる。
【0007】
しかしながら、本発明者らの研究では、この方法のいくつかの欠点に遭遇した。(a)この方法は、非常に薄い可撓性電極アレイまで十分に拡張できない。アレイが典型的には10~20ミクロンよりも薄くなると、それ自体の剛性がほとんど残っていないため、挿入ビークルの後退中にインプラントが引き抜かれる可能性が増加する。さらに、(b)意図せずに引き抜いた後、インプラントがそれ自体で挿入されるには弱すぎるためにインプラントを再挿入することは不可能であり、手術中にインプラントを挿入ビークルに再取り付けする方法がなく、(c)挿入ビークルの後退動作は、追加の組織損傷の原因である。
【0008】
さらに別の方法は、ポリエチレングリコール、PGA、PLGA、デキストランまたはスクロースなどの溶解性または生体吸収性補強材料による可撓性平面2Dアレイのコーティングを使用する。そのような方法は、例えば米国特許第10335519号明細書に開示されているように、損傷がほとんどなく、吸収性材料が占める元の体積よりもはるかに小さい体積の瘢痕を残す、薄い可撓性電極の単一のストランドを挿入する能力を実証した。
【0009】
しかし、単純な単一の針を超えて、いくつかの櫛または他の形状から構築されたより大きなアレイを挿入する場合にも、これは最も簡単な方法であり得る。それは複雑な操作を必要としないと同時に、手または単純な器具で大きな3Dアレイを挿入するのに有用である。上述のシャトルベースの方法の非実用性(インプラントを再挿入する可能性がない、シャトルの後退による追加の組織損傷)は本質的に回避される。
【0010】
後者の方法を調べたときに、本発明者らの実験は、平面櫛形アレイに適用される場合の単純で直接的なコーティング技術のいくつかの弱点、単一の針をコーティングする場合には明らかではない弱点を明らかにした。補強コーティングを塗布しなければ、薄い可撓性インプラントの基部は、挿入するのに十分な剛性がないことが多い。さらに、インプラント全体が従来の浸漬コーティング技術を用いてコーティングされる場合、コーティングは隣接する針の間にブリッジを形成する傾向がある。その結果、神経組織へのインプラントの挿入は、はるかに多くの力を必要とし、はるかに多くの組織損傷を引き起こす。選択肢は、浸漬コーティング技術を使用しないことである。しかしながら、浸漬コーティングは、鋭い針先端をもたらす。したがって、架橋の問題が解決されれば、依然として好ましいコーティング方法である。
【0011】
さらに、このようにして挿入された平面電極アレイは、下にある組織に弱く付着するだけであり、突出するシャフトによって、およびコネクタによって、薄い側面でのみ支持される。アレイは、単に脳表面上に浮遊させるだけでなく、所定の位置に固定されるべきである。
【0012】
アレイの基部の十分に剛性で厚いコーティングは、電極アレイが所定の位置に留まるのを助けることができる。しかしながら、基部が電極針と同じ溶解性または生体吸収性コーティングでコーティングされている場合、この補強は経時的に消失し、インプラントの脱落につながることが多い。
【0013】
第4に、平面アレイの基部は、電極の読み出しまたは制御に必要な電子回路にそれらを接続するケーブルから、ねじり力を受ける傾向がある。これは、基部を下方にねじって、取り付けられた針を神経組織から引き抜く傾向がある。
【0014】
最後に、神経組織の表面上のより良好な固定を可能にする上部構造に、薄い可撓性電極アレイの基部を接続することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、改善された挿入および固定特性を有する可撓性神経電極アレイが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、実質的に平面の神経電極アレイが開示され、電極アレイは、
-可撓性基部と、
-基部に取り付けられたコネクタケーブルと、
-基部から突出する1つまたは複数の可撓性シャフトであって、シャフトが櫛状構造を形成するように基部の同じ表面から同じ平面内に突出するように配置され、1つまたは複数のシャフトの各々が、1つまたは複数の電極接点を備え、電極接点が、コネクタケーブルに電気的に結合されている、1つまたは複数の可撓性シャフトと
を備え、
-第1の補強層が、基部および1つまたは複数のシャフトの近位部分にわたって延在し、近位部分が基部に隣接していることと、
-第2の吸収性または溶解性補強層が、1つまたは複数のシャフトの遠位部分にわたって延在し、遠位部分が基部から離れていることと
を特徴とし、
第1の補強層と第2の吸収性補強層との間に重なりがある。
【0017】
好ましくは、第2の吸収性補強層と基部との間には実質的に重なりがない。
本開示の文脈において、「神経電極アレイ」は、ヒトまたは他の哺乳動物の神経組織に移植可能であり、かつ組織の神経信号記録および/または神経刺激を目的とするデバイスとして理解されるべきである。
【0018】
本開示の文脈において、「可撓性」という形容詞は、電極アレイが、ユタアレイまたはニューロピクセルデバイスなどの神経記録用の現在の最先端のシリコンマイクロニードルアレイの剛性よりも実質的に低い剛性を有することを意味する。当業者は、電極アレイの剛性が、アレイの幾何学的形状およびアレイが作製される材料の弾性率の両方の関数であることを理解する。電極アレイは、インプラントで典型的に使用される金属またはセラミック材料よりも著しく低い、多くの場合数桁低い弾性率を有する材料で実質的に作製されているが、当業者は、この材料の弾性率が依然としてヒトまたは他の哺乳動物の神経組織の弾性率よりも数桁高い可能性があることを理解するであろう。したがって、本発明では、電極アレイは、その平面形状および面外方向の制限された厚さからその可撓性を主に得る。実質的にシリコンから作製されるより従来の神経電極アレイと比較すると、本発明による電極アレイは、少なくとも1桁大きい可撓性を有する。
【0019】
本開示の文脈において、「吸収性」または「生体吸収性」という形容詞は、「生きているヒトまたは他の哺乳動物の身体に挿入された後に身体によって分解および吸収されることができ、身体内に異物が実質的に残らず、身体内に持続的な炎症応答を引き起こさない」と理解されるべきである。「溶解性」という形容詞は、「体内に挿入された後に、生きているヒトまたは他の哺乳動物の身体によって排泄され得、身体内に異物を実質的に残さず、身体内に持続的な炎症反応を引き起こさない」と理解されるべきである。当業者は、そのような生体吸収性または溶解性材料を認識している。
【0020】
本発明による電極アレイは、実質的に平面であり、すなわち、その寸法のうちの2つが第3の寸法よりも実質的に大きい。電極アレイは、針またはストランドとも呼ばれるシャフトが取り付けられた実質的に平面の基部を備える。これらのシャフトはすべて、実質的に同じ平面内にある。シャフトは、電極アレイの基部と実質的に同じ平面内にある。シャフトはすべて、電極アレイの基部の同じ側から同じ方向に突出している。したがって、電極アレイは櫛状構造を有し、これは当業者に周知である。
【0021】
電極アレイは、主に可撓性、生体適合性および電気絶縁材料から構成される。これらの材料、典型的にはポリイミドまたはパリレン-Cなどのポリマーは、当業者に周知である。これらの材料から作られた平面電極アレイは、典型的には、従来の金属またはシリコンベースの電極アレイよりも桁違いに可撓性が高い。内部的には、電極アレイは、導電性材料のトレースを含む。これらのトレースは、電気絶縁材料で覆われていない場所であるシャフト上の電極接点を、電極アレイの基部に接続するコネクタケーブルに接続する。電極アレイは、数十から数百の電極接点を備えることができる。
【0022】
第1の補強層は、電極アレイの基部および電極アレイのシャフトの近位部分(基部に接続する部分)の上に延在する。第1の補強層は、基部および近位部分の表面積全体を覆っていなくてもよい。第1の補強層は、針の基部および近位部分を部分的にのみ覆ってもよい。第1の補強層は、基部および近位部分を完全に覆うことなく、基部および近位部分にわたって部分的または完全に延在してもよく、例えば、第1の補強層は、切り欠きを特徴としてもよい。基部全体および近位部分を完全に覆うことなくそれら全体にわたって延在する第1の補強層の例は、ハニカム構造の形態の補強層である。第1の補強層は、その全範囲にわたって均一な厚さを有する必要はない。
【0023】
第1の補強層は、生体適合性の電気絶縁材料で作られる。好ましくは、第1の補強層の材料は、体液または水溶液に溶解可能ではない。好ましくは、第1の補強層の材料は、生体吸収性ではない。第1の補強層に適した材料は、例えば、セラミックまたはポリイミドもしくはパリレン-CもしくはUV硬化性のUSP VIクラスのエポキシのようなポリマーである。第1の補強層は、主に厚さの増加の効果によって、電極アレイの基部および近位部分の剛性を増加させる。第1の補強層の材料の弾性率は、電極アレイの基部および針を構成する材料の弾性率より低くてもよいし、同等または高くてもよい。
【0024】
第2の補強層は、電極アレイのシャフトの遠位部分(基部から最も遠い部分)の上に延在する。第2の補強層は、生体適合性の電気絶縁材料で作られる。好ましくは、第2の補強層の材料は、体液または水溶液に溶解可能である。好ましくは、第2の補強層の材料は、生体吸収性である。第2の補強層は、例えば、ポリエチレングリコール、PGA、PLGA、デキストランまたはスクロースから作製することができる。
【0025】
第2の補強層の材料を選択する際の重要なパラメータは、材料の分解または生体吸収に必要な時間である。電極アレイを神経組織に移植した後、第2の補強層の完全な吸収に必要な時間が3~4週間より長い場合、流体で満たされた空隙が電極アレイのシャフトの周りに残る可能性が高い。この場合、アレイの電極接点と周囲の神経組織との間の接触は、アレイを適切に機能させるには不十分である。さらに、神経組織へのアレイの接着性は非常に悪くなる。一方、第2の補強層の材料が特定の状況下で非常に急速に劣化または溶解する場合、第2の補強層は、電極アレイの移植前または移植中に既にその機能を失っている可能性がある。これは、例えば、手術室の典型的な温度および湿度に曝されたときに、スクロースから作られた第2の補強層に起こり得る。これらの理由から、第2の補強層は、好ましくは、特定のタイプのPLGAなど、吸収時間が4週間未満であるが数時間を超える材料から作製される。
【0026】
第2の補強層は、主に厚さの増加の効果によって、電極アレイの遠位部分の剛性を増加させる。第2層の材料の弾性率は、電極アレイの針を構成する材料の弾性率より低くてもよいし、同等または高くてもよい。
【0027】
第2の補強層の好ましい厚さは、50~200ミクロン、より好ましくは100~150ミクロンである。
【0028】
シャフトがその全長にわたって補強されるように、第1の補強層と第2の補強層との間に重なりがある。重複領域では、第2の補強層が第1の補強層の上に塗布されることが好ましい。好ましくは、第1の補強層と第2の補強層との間の重なりの程度は、50ミクロン以上である。好ましくは、第1の補強層と第2の補強層との間の重なりの程度は、500ミクロン以下である。
【0029】
電極アレイの針が第2の補強層を塗布するためにコーティング浴に挿入されるとき、コーティングは、アレイの隣接する針の間にメニスカスを形成する傾向がある。当業者は、シャフトの表面とコーティングとの間の接触角に応じて、形成されるメニスカスが凹状または凸状であり得ることを理解する。典型的には、第2の補強層の塗布に使用される材料は、接触角が90°よりも小さく、凹状メニスカスが形成されるように、コーティングされていないシャフトの表面材料に引き付けられる。これは、例えば、ポリイミドまたはパリレン-Cに塗布されるPLGAコーティングの場合である。あるいは、第2の補強層の塗布に使用される材料とコーティングされていないシャフトの表面材料との間の接触角が90°よりも大きい場合、凸状メニスカスが形成される。凹状メニスカスの形成をもたらす典型的な材料の組み合わせでは、メニスカスの頂点は凹状メニスカスの底部に対応する。あるいは、凸状メニスカスの形成をもたらす材料の組み合わせでは、メニスカスの頂点は凸状メニスカスの上部に対応する。
【0030】
メニスカスの頂点がアレイの基部と接触しない場合、コーティング浴からのアレイの後退時に、コーティング層は、隣接する針の間にコーティングブリッジを形成することなく個々の針に接着する。対照的に、このメニスカスの頂点がアレイの基部と接触する場合、コーティング浴からのアレイの後退時に、隣接する針の間にコーティングブリッジが形成される。後者の場合、第2の補強層の塗布は、電極アレイを櫛状構造から楔状構造に変換する。これは、神経組織への楔状構造の挿入が櫛状構造の挿入よりもはるかに大きな力を必要とし、神経組織にはるかに多くの損傷を引き起こすので望ましくない。
【0031】
第2の補強層の塗布時に隣接する針の間にコーティングブリッジが形成されることを回避するために、好ましくは、第2の補強層と電極アレイの基部との間は実質的に重なり合わない。当業者は、コーティングブリッジの形成なしに許容され得る第2の補強層と電極アレイの基部との間の重なりの量が、とりわけ、針の材料、基部および第1の補強層、コーティング浴の組成、ならびに温度またはコーティング浴からの電極アレイの後退速度などのコーティング塗布の条件に依存することを理解している。好ましくは、電極アレイの針の近位部分(その上に第1の補強層が延在する)は、第1の補強層と第2の補強層との間の重なり距離よりも長い長さを有する。
【0032】
電極アレイの利点は、第1および第2の補強層が可撓性電極アレイの基部およびシャフトを補強し、したがって電極アレイのシャフトがヒトまたは他の哺乳動物の神経組織または脳髄膜に挿入されることを可能にすることである。
【0033】
電極アレイのさらなる利点は、後に電極アレイが挿入された神経組織と共にシャフトが移動できるように、挿入後に第2の補強層が溶解または吸収されることである。一方、第1の補強層は、好ましくは、電極アレイの基部が所定の位置に留まるのに十分な剛性を維持し、劣化しない。
【0034】
追加の利点は、第1の補強層が電極アレイの基部の厚さを増加させ、それによって電極アレイの基部と電極アレイのシャフトが挿入される神経組織の表面との間の接触面積を増加させることである。その結果、電極アレイは、このより大きな表面積によってもたらされる支持および摩擦の増加のために、定位置に留まる傾向がより高い。さらに、それは、請求項7および8に記載するような支持プラットフォームへの取り付けを可能にする。
【0035】
第2の補強層が基部と実質的に重ならないことは、電極アレイのさらなる利点となり得る。結果として、第2の補強層の塗布中、2つの隣接するシャフト間にコーティングブリッジは形成されない。したがって、各シャフトは完全にコーティングされるが、シャフト間の空間は第2の補強層によって架橋されない。その結果、個別にコーティングされた針状シャフトのみが髄膜および神経組織を貫通する必要があるため、電極アレイの挿入に必要な力が少なく、組織損傷が少ない。
【0036】
本開示の残りの部分では、基部および1つまたは複数のシャフトを含むが、第1および第2の補強層を含まない、本発明の第1の態様による電極アレイの部分的な実現は、「非被覆電極アレイ」と呼ぶことができる。
【0037】
本開示の残りの部分では、基部と、1つまたは複数のシャフトと、第1の補強層とを含むが、第2の補強層を含まない、本発明の第1の態様による電極アレイの部分的な実現は、「部分的にコーティングされた電極アレイ」と呼ぶことができる。
【0038】
本開示の残りの部分では、電極アレイの「コーティングされた基部」は、電極アレイの基部を、基部に塗布された第1の補強層と共に指す。
【0039】
電極アレイのいくつかの実施形態では、近位部分は、50ミクロン以上500ミクロン以下の長さを有する。好ましくは、近位部分は、第1の補強層と第2の補強層との間の重なり距離よりも長い長さを有する。
【0040】
近位部分の長さの賢明な選択の利点は、3つの目的を同時に実現できることである。第1に、アレイの針は、第1の補強層と第2の補強層との間の重なりを介して、それらの全長にわたって補強することができる。第2に、好ましくは溶解性でも吸収性でもない第1の補強層が、電極アレイの挿入時に組織内に突出する程度は、制限され得る。第3に、電極アレイの隣接する針の間のコーティングブリッジの形成を回避することができる。
【0041】
電極アレイのいくつかの実施形態では、電極アレイのシャフトの遠位先端部は、45°よりも小さい先端角を有し、先端角は、シャフトの遠位先端部に見られる最も鋭い角として定義される。好ましくは、シャフトの遠位先端部は、楔形または角錐形である。
【0042】
これらの実施形態の利点は、より鋭い先端角を有する電極アレイが神経組織への挿入に必要な力がより少ないことである。
【0043】
電極アレイのいくつかの実施形態では、電極アレイのコーティングされた基部は、1つまたは複数のオリフィスを備える。
【0044】
これらの実施形態の利点は、組織がオリフィスを通って成長することができ、それによって電極アレイを定位置に固定することができることである。あるいは、オリフィスを使用して、電極アレイを別の外科的に導入された機械的構造に固定することができる。この固定は、例えばクリック機構などの機構によって、または生体適合性接着剤もしくはポリマーによって行うことができる。好ましくは、アレイを組織に固定するために使用されるオリフィスは、アレイの基部および第1の補強層を厚さ方向に貫通して延在し、数十ミクロン程度の直径を有する。好ましくは、電極アレイの基部は、10を超えるそのようなオリフィスを備える。好ましくは、アレイを機械的構造に固定するために使用されるオリフィスは、数百ミクロン程度の直径を有する。好ましくは、これらのオリフィスは、電極アレイのコーティングされた基部にわたって分散される。好ましくは、これらのオリフィスは、電極アレイのコーティングされた基部上に2次元パターンで配置される。
【0045】
電極アレイのいくつかの実施形態では、コネクタケーブルは分割多芯蛇行ケーブルである。本開示の文脈において、「多芯」という用語は、コネクタケーブルが2本または複数のワイヤを含み、ワイヤが電気絶縁体によって囲まれた導電体であることを意味する。好ましくは、コネクタケーブルは、電極アレイの電極接点ごとに1本のワイヤを備える。好ましくは、アレイの電極接点の各々は、コネクタケーブルの別個のワイヤに電気的に接続される。あるいは、コネクタケーブルは、電極アレイの電極接点の数よりも少ないまたは多い数のワイヤを備え得る。第1の代替例では、2つまたは複数の電極接点が同じワイヤに接続されてもよく、または1つまたは複数の電極接点が未接続のままであってもよい。第2の代替例では、2本または複数のワイヤが同じ電極接点に接続されてもよく、または1本または複数のワイヤが未接続のままであってもよい。ケーブルのワイヤの各々は、中実導体または撚り導体を備え得る。
【0046】
好ましくは、ケーブルのワイヤのすべてが単一のシースに一緒にグループ化されるのではなく、ワイヤは複数の別個のシースにわたって分散される。例えば、16本のワイヤを備えるコネクタケーブルの場合、これらのワイヤは、各シースが4本のワイヤを備える4つの別個のシースに分散することができる。したがって、この例では、コネクタケーブルは4本の別個のケーブルからなり、別個のケーブルの各々の断面(各々が4本のワイヤおよび1つのシースからなる)は、16本の同等のワイヤおよび1つのシースからなるケーブルの断面よりも小さい。好ましくは、これらの別個のケーブルは、それぞれの端部を除いて、互いに取り付けられていない。好ましくは、別個のケーブルの各々は、蛇行形状に予め形成される。
【0047】
これらの実施形態の利点は、分割された多芯ケーブルのねじり剛性が、別個のケーブルのより低い極慣性モーメントに起因して、同等の断面の同等の数のワイヤを運ぶ単一の多芯ケーブルのねじり剛性よりも低いことである。
【0048】
これらの実施形態のさらなる利点は、予め形成された蛇行ケーブルが余分な長さを有し、したがって伸縮性であることである。
【0049】
そのより低いねじり剛性および伸縮性のために、分割多芯蛇行コネクタケーブルは、手術中にほとんど不可避であるコネクタケーブルのねじれおよび引っ張りに起因して電極アレイに及ぼされるねじり力を低減する。電極アレイに伝達されるねじり力を制限することにより、分割多芯蛇行ケーブルは、電極アレイを損傷または脱落させる可能性を減少させる。
【0050】
本発明の第2の態様によれば、神経インプラントが開示され、デバイスは、
-請求項1に記載の1つまたは複数の神経電極アレイと、
-電子装置ユニットと
を備え、
1つまたは複数の電極アレイのコネクタケーブルが、電子装置ユニットに電気的に接続されている。
【0051】
インプラントの1つまたは複数の神経電極アレイは、ヒトまたは他の哺乳動物の神経組織に移植可能であり、組織の神経信号記録および/または神経刺激を目的とする。
【0052】
好ましくは、電子装置ユニットは、神経組織と神経組織を取り囲む1つまたは複数の保護層との間に移植される。例えば、脳内への電極アレイの移植の場合、電子装置ユニットは、脳の髄膜と頭蓋骨との間に移植することができる。
【0053】
好ましくは、電子装置ユニットは、インプラントが移植されたヒトまたは他の哺乳動物の体外に位置するデバイスから電力を受け取ることができるように、無線電力伝送のためのシステムを備える。当業者は、例えば誘導電力伝送など、短距離にわたる無線電力伝送に適したシステムを知っている。
【0054】
好ましくは、電子装置ユニットは、インプラントが移植されているヒトまたは他の哺乳動物の体外に位置するデバイスとデータを送受信することができるように、無線データ通信のためのシステムを備える。当業者は、例えばNFCまたはBluetooth(登録商標)など、短距離にわたる無線データ通信に適したシステムを知っている。
【0055】
デバイスのいくつかの実施形態では、1つまたは複数の電極アレイの基部は、プラットフォームによって機械的に接続される。好ましくは、1つまたは複数の電極アレイの基部は、オリフィスを備え、例えばクリック機構などの機構によってまたは生体適合性接着剤もしくはポリマーによって、プラットフォームに機械的に接続される。
【0056】
好ましくは、プラットフォームは、生きているヒトまたは他の哺乳動物の身体によって溶解可能または吸収可能ではない生体適合性材料から作製される。適切な材料は当業者に周知であり、例えばチタン、PMMAまたはシリコーンを含む。好ましくは、プラットフォームは神経組織内に移植されず、神経組織の上に浮いており、頭蓋骨に接続されていない。
【0057】
これらの実施形態の利点は、1つまたは複数の電極アレイをプラットフォームに機械的に接続することによって、電極アレイの機械的安定性が増大することである。1つまたは複数の電極アレイの機械的安定性を高めることにより、プラットフォームは、電極アレイを損傷または脱落させる可能性を減少させる。
【0058】
デバイスがデバイスの1つまたは複数の電極アレイに接続されたプラットフォームを備えるデバイスのいくつかの実施形態では、プラットフォームはその場で作成される。
【0059】
例えば、脳内への電極アレイの移植の場合、プラットフォームをその場で作成することができ、頭蓋内の一時的な開口部(電極アレイの移植に必要)は、例えば速硬化性生体適合性シリコーンからプラットフォームを鋳造するための鋳型として機能することができる。
【0060】
これらの実施形態の利点は、プラットフォームの形状を下にある神経組織の表面形状に適合させることができることである。
【0061】
これらの実施形態のさらなる利点は、生体組織へのプラットフォームの専用の取り付けが必要とされないことである。頭蓋骨の閉鎖後、プラットフォームは、下にある脳表面との適合性および上にある頭蓋骨表面からの圧迫のために所定位置に留まることができる。
【0062】
デバイスのいくつかの実施形態では、1つまたは複数の電極アレイは、取り外し可能なホルダに格納され、ホルダは、1つまたは複数の電極アレイを互いに分離する。このホルダは、1つまたは複数の電極アレイのための一時保管部として機能し、一般に、ホルダは移植されず、好ましくは手術中に廃棄される。任意選択的に、ホルダは、上述のように1つまたは複数の挿入された電極アレイの基部を機械的に接続するためのプラットフォームとして再利用できるように適合される。後者の場合、ホルダは手術中に廃棄されない。
【0063】
これらの実施形態の利点は、ホルダが、保管または輸送中の機械的損傷または汚染から1つまたは複数の電極アレイを保護することである。
【0064】
これらの実施形態のさらなる利点は、ホルダが1つまたは複数の電極アレイを互いにくっつかないように分離することである。
【0065】
これらの実施形態のさらなる利点は、ホルダが電極アレイをより容易につかむことを可能にすることである。
【0066】
本発明の第3の態様によれば、請求項1に記載の神経電極アレイを製造方法であって、方法は、
-平面基板を用意するステップと、
-平面基板を犠牲層でコーティングするステップと、
-犠牲層上に電気絶縁材料の少なくとも第1層を堆積させるステップと、
-第1層上に1つまたは複数の金属トレースおよび電極接点を堆積させるステップと、
-第1層および金属トレース上に電気絶縁材料の少なくとも第2層を堆積およびパターニングするステップと、
-第1の補強層を塗布するステップと、
-第2の吸収性補強層を塗布するステップと
を含む。
【0067】
少なくとも第1層および少なくとも第2層に使用される電気絶縁材料は、可撓性で生体適合性である。適切な材料の例は、ポリイミドまたはパリレン-Cである。好ましくは、第1層および第2層に使用される材料は同じである。第2層は、電極接点およびボンドパッドを除いて、金属トレースを完全に覆うようにパターニングされる。
【0068】
平面基板の表面は、電極アレイを製造するための基板として機能する。適切な基板の例は、例えばシリコンウェハである。第1の補強層の塗布のために選択された特定の方法に応じて、神経電極アレイは、層の塗布の前または後に基板から解放され得る。解放は、例えば上述の犠牲層を溶解することによって行うことができる。
【0069】
任意選択的に、平面基板は、基板内に神経電極アレイ用の鋳型を作成するために異方的にパターニングおよびエッチングすることができ、鋳型は、上部に構築された電極アレイのシャフトに先端が尖ったパターンが転写されるように成形される。
【0070】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の補強層は、第1の浸漬コーティングプロセスを用いて塗布され、第2の補強層は、第2の浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される。
【0071】
電極アレイは、第1の浸漬コーティングプロセスを受ける前に基板から解放される。第1の浸漬コーティングプロセスでは、電極アレイの基部および電極アレイのシャフトの近位部分は、コーティング浴への挿入によってコーティングされる。挿入は、シャフトが突出している側とは反対の基部の側から開始される。電極アレイは、基部およびシャフトの近位部分が浴に浸漬されるまで、コーティング浴にさらに挿入される。第1の浸漬コーティングプロセスは、電極アレイの基部およびシャフトの近位部分上に第1の補強層を形成する。
【0072】
第2の浸漬コーティングプロセスでは、電極アレイのシャフトの遠位部分が、コーティング浴への挿入によってコーティングされる。挿入は、シャフトが電極アレイの基部に接続している側とは反対側のシャフトの遠位端から開始される。電極アレイは、シャフトの遠位部分が浴に浸漬されるまで、コーティング浴にさらに挿入される。シャフトをコーティング浴に挿入すると、毛細管張力により、コーティング材料が隣接するシャフト間に凹状メニスカスが形成される。凹状メニスカスの頂点が電極アレイの基部に接触するまでシャフトがコーティング浴に挿入される場合、コーティングは、コーティング浴からインプラントを後退させると隣接するシャフト間にコーティングブリッジを形成する。この現象を回避するために、電極アレイのシャフトは、凹状メニスカスの頂点が電極アレイの基部の所定の距離内に来るまでゆっくりと挿入される。この距離は、電極アレイのシャフト間で架橋が生じ得ないように選択される。その最大挿入深さに達した後、電極アレイを後退させる。電極アレイの基部は、第2の浸漬コーティングプロセス中にコーティング浴に挿入されない。電極アレイの基部は、第2の浸漬コーティングプロセス中にコーティング浴に接触しない。第2の浸漬コーティングプロセスは、電極アレイのシャフトの遠位部分上に第2の補強層を形成する。
【0073】
これらの実施形態の利点は、両方のステップの各々において、電極アレイをコーティング浴に挿入されていない位置でクランプすることができるため、2ステップ浸漬コーティングプロセスが電極アレイを確実に覆うことである。
【0074】
これらの実施形態のさらなる利点は、第2の浸漬コーティングプロセスがシャフトの遠位端の先端角を減少させることである。
【0075】
これらの実施形態のさらなる利点は、電極アレイの基部がコーティング浴に接触しないため、第2の浸漬コーティングプロセスが電極アレイの個々のシャフト間にコーティングブリッジを形成しないことである。
【0076】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の補強層は成形プロセスを用いて塗布され、第2の補強層は浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される。
【0077】
電極アレイは、成形プロセスを受ける前に基板から解放される。成形プロセスにおいて、電極アレイは、予め製造された鋳型に挿入される。続いて、第1の補強層の材料を鋳型に入れる。鋳型は、第1の補強層の材料が電極アレイのシャフトの基部および近位部分を覆うように構成される。第1の補強層の硬化後、電極アレイは離型される。続いて、浸漬コーティングプロセスを用いて第2の補強層を電極アレイに塗布する。
【0078】
浸漬コーティングプロセスは、上述した第2の浸漬コーティングプロセスと同様である。浸漬コーティングプロセスの利点は、上述の第2の浸漬コーティングプロセスの利点と同様である。
【0079】
これらの実施形態の利点は、第1の補強層の幾何学的形状を自由に選択できることである。
【0080】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の補強層は、ウェハスケール堆積プロセスを用いて塗布され、第2の補強層は、浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される。
【0081】
堆積プロセスにおいて、第1の補強層は、電極アレイがそのキャリア基板から解放される前に堆積される。当業者は、第1の補強層の堆積のための適切な技術を認識しており、1つの可能な例は、リソグラフィ堆積の使用である。
【0082】
電極アレイは、浸漬コーティングプロセスを受ける前に基板から解放される。浸漬コーティングプロセスは、上述した第2の浸漬コーティングプロセスと同様である。浸漬コーティングプロセスの利点は、上述の第2の浸漬コーティングプロセスの利点と同様である。
【0083】
これらの実施形態の利点は、第1の補強層をウェハスケールで堆積させることができ、それにより、バッチ間の一貫性が改善され、コストおよびスループットのスケーラビリティおよび製造の精度が向上する可能性があることである。
【0084】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の補強層は、非被覆電極アレイとは別に製造される。第1の補強層は、当業者に知られている任意の適切なプロセス、例えば成形プロセスまたは堆積プロセスを用いて製造することができる。第1の補強層の製造は、レーザ切断を含み得る。続いて、第1の補強層が非被覆電極アレイに取り付けられた後、浸漬コーティングプロセスを用いて第2の補強層が塗布される。第1の補強層は、当業者に知られている任意の適切な取り付けを使用して、例えば生体適合性接着剤で接着することによって、または熱的手段によって、非被覆電極アレイに取り付けることができる。
【0085】
浸漬コーティングプロセスは、上述した第2の浸漬コーティングプロセスと同様である。浸漬コーティングプロセスの利点は、上述の第2の浸漬コーティングプロセスの利点と同様である。
【0086】
これらの実施形態の利点は、第1の補強層の製造プロセスを自由に選択することができ、それによって、コスト、精度、またはスループットに向けて電極アレイの製造を最適化することを可能にすることである。
【0087】
本方法のいくつかの実施形態では、平面基板はシリコンウェハである。好ましくは、ウェハの{111}結晶面は、ウェハの表面に対して実質的に鋭い角度で傾斜しており、ウェハ内に神経電極アレイ用の鋳型を作成するためにウェハを異方的にパターニングおよびエッチングすることができる。これらの実施形態では、犠牲層上への電気絶縁材料の少なくとも第1層の堆積は、基板を部分的に満たす。
【0088】
本開示の文脈では、実質的に鋭い角度は、54.7°よりも小さい角度であり、これは、{111}結晶面と標準的な(100)シリコンウェハの表面との間の傾斜である。
【0089】
これらの実施形態の利点は、シリコンの{111}結晶面が、KOHおよびTMAHなどの湿式異方性エッチャントにおいて非エッチングであることである。これらの実施形態によるウェハのエッチングマスク堆積、リソグラフィマスクパターニングおよび異方性エッチングは、電極アレイの製造のための基板として使用することができるほぼ原子的に鋭い先端を有するピットを生成する。この基板を使用して製造された電極アレイは、シャフトの遠位端に鋭い先端角を有し、それによって神経組織への挿入に必要な力が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1】本発明による、第1の補強層を含むが第2の補強層を含まない、部分的にコーティングされた電極アレイの実施形態を概略的に示す。
【
図2】本発明による、第1の補強層および第2の補強層を備える電極アレイの一実施形態を概略的に示す。
【
図3】線A-A’による
図1および
図2の実施形態全体の断面を模式的に示す。
【
図4】浸漬コーティングプロセスを用いた第2の補強層の塗布中の、隣接するシャフト間の流体メニスカスの形成を模式的に示す。
【
図5】本発明による電極アレイのコネクタケーブルの一実施形態を模式的に示す。
【
図6】ヒトまたは他の哺乳動物の脳に挿入される電極アレイの実施形態を概略的に示す。
【
図7】本発明によるインプラントの一実施形態を概略的に示す。
【
図8】本発明による、取り外し可能なホルダを備えるインプラントの一実施形態を概略的に示す。
【
図9】本発明による、プラットフォームを備えるインプラントの一実施形態を概略的に示す。
【
図10(a)】本発明による電極アレイの製造方法のステップを模式的に示す。
【
図10(b)】本発明による電極アレイの製造方法のステップを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0091】
本開示を特定の実施形態に関して説明するが、それは本開示を例示するものであり、限定として解釈されるべきではない。本開示は、特に示されたおよび/または説明されたものによって限定されず、本開示の全体的な教示に照らして代替または修正された実施形態が開発され得ることが理解されよう。説明される図面は概略的なものに過ぎず、非限定的である。
【0092】
本明細書を通して「実施形態」または「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が本開示の1つまたは複数の実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所における「実施形態では、」または「一実施形態では、」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではないが、そうである場合もある。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0093】
図1は、本発明による部分的にコーティングされた電極アレイの一実施形態を概略的に示す。
図1による電極アレイ1は、実質的に平面であり、すなわち、その寸法のうちの2つが第3の寸法よりも実質的に大きい。電極アレイは、針とも呼ばれるシャフト10が取り付けられた実質的に平面の基部20を備える。これらのシャフト10はすべて、実質的に同じ平面内にある。シャフト10は、電極アレイ基部20と実質的に同じ平面内にある。シャフト10はすべて、電極アレイの基部20の同じ側から同じ方向に突出している。したがって、電極アレイ1は櫛状構造を有し、これは当業者に周知である。好ましくは、基部20とシャフト10とを備える非被覆電極アレイは、0.5ミクロンを超える、より好ましくは1ミクロンを超える厚さを有する。好ましくは、基部20とシャフト10とを備える非被覆電極アレイは、100ミクロン未満、より好ましくは50ミクロン未満の厚さを有する。
【0094】
電極アレイは、可撓性で生体適合性の電気絶縁材料から作られる。これらの材料、例えばポリイミドまたはパリレン-Cは、当業者に周知である。内部的には、電極アレイは、導電性材料のトレースを含む(
図1では標識されていない)。これらのトレースは、電気絶縁材料で覆われていない場所であるシャフト10上の電極接点30を、電極アレイ1の基部20に接続するコネクタケーブル(
図1には示されていない)に接続する。好ましくは、トレースおよび電極接点の導電性材料は、白金、金、酸化イリジウム、カーボンナノチューブまたはPEDOTから選択される。
【0095】
図示の実施形態では、シャフト間の間隔は一定であるが、この間隔は可変であってもよい。好ましくは、電極アレイは、1個を超えるシャフト、より好ましくは5個を超えるシャフト、さらにより好ましくは10個を超えるシャフト、最も好ましくは15個を超えるシャフトを備える。好ましくは、電極アレイは、200個未満のシャフト、より好ましくは100個未満のシャフト、さらにより好ましくは50個未満のシャフト、最も好ましくは35個未満のシャフトを備える。好ましくは、シャフトの各々は、10~500ミクロンの幅を有する。好ましくは、シャフト間の距離は0.5mm以上である。好ましくは、シャフト間の距離は1mm以下である。好ましくは、遠位端12におけるシャフト10の先端角は、45°よりも小さい。より好ましくは、遠位端12におけるシャフト10の先端角は、30°よりも小さい。さらにより好ましくは、遠位端12におけるシャフト10の先端角は、20°よりも小さい。先端角が小さいほど、電極アレイが組織を貫通しやすくなる。
【0096】
好ましくは、電極接点は、シャフトの長さに沿って等間隔に配置される。好ましくは、電極アレイは、シャフト長さ10mm当たり1つまたは複数の電極接点、より好ましくはシャフト長さ10mm当たり2つまたは複数の電極接点、さらにより好ましくはシャフト長さ10mm当たり5つまたは複数の電極接点、最も好ましくはシャフト長さ10mm当たり10または複数の電極接点を備える。好ましくは、電極アレイは、シャフト長さ10mm当たり100以下の電極接点、より好ましくはシャフト長さ10mm当たり50以下の電極接点、さらにより好ましくはシャフト長さ10mm当たり20以下の電極接点を備える。当業者は、電極接点の数を、電極アレイが挿入される神経組織、ならびに電極アレイの特定の目的に適合させることができることを理解するであろう。当業者はまた、電極接点の間隔が、神経組織の記録または刺激のための分解能と電極アレイの製造複雑性との間の妥協点であることを理解するであろう。
【0097】
図示の実施形態では、様々なシャフトの長さが異なるが、これらの長さは同一であってもよい。図示の実施形態では、様々なシャフトの長さは単調に増加または減少するが、シャフト長さの変動は任意のパターンに従ってもよい。好ましくは、シャフトの長さは、神経組織に電極アレイを挿入すると、電極接点の大部分が灰白質に位置するような長さである。好ましくは、シャフトの長さは、神経組織に電極アレイを挿入すると、電極接点が標的領域の灰白質層の厚さの実質的な部分として分布するような長さである。
【0098】
例えば、人間の視覚皮質の灰白質を探査するために、電極アレイの最短シャフトは、好ましくは0.2mmより長く、より好ましくは0.5mmより長く、さらにより好ましくは1mmより長い。電極アレイの最短シャフトは、好ましくは3.5mm未満、より好ましくは3.0mm未満、さらにより好ましくは2.5mm未満である。電極アレイの最長シャフトは、好ましくは20mmより長く、より好ましくは25mmより長く、さらにより好ましくは30mmより長い。電極アレイの最長シャフトは、好ましくは60mm未満、より好ましくは55mm未満、さらにより好ましくは50mm未満である。これにより、最短シャフトは、視覚皮質の脳回上の灰白質層の厚さ全体を探査することができ、最長シャフトは、視覚皮質の溝に隣接する灰白質層の全範囲を探査することができる。当業者は、シャフトの長さを、電極アレイが挿入される神経組織、ならびに電極アレイの特定の目的に適合させることができることを理解するであろう。
【0099】
第1の補強層40は、電極アレイ1の基部20および電極アレイ1のシャフト10の近位部分(基部20に接続する部分)の上に延在する。第1の補強層40は、生体適合性の電気絶縁材料で作られる。シャフト10の近位部分にわたって延在することにより、第1の補強層40は、神経組織への電極アレイの挿入時に最大の機械的応力に遭遇する位置でシャフトを補強する。好ましくは、第1の補強層40は、50ミクロン以上の距離にわたってシャフト10の近位部分にわたって延在する。好ましくは、第1の補強層40は、500ミクロン以下の距離にわたってシャフト10の近位部分にわたって延在する。好ましくは、第1の補強層40は、100ミクロン以上の厚さを有する。好ましくは、第1の補強層40は、500ミクロン以下の厚さを有する。
【0100】
好ましくは、第1の補強層の材料は、体液または水溶液に溶解可能ではない。好ましくは、第1の補強層の材料は、生体吸収性ではない。第1の補強層の材料は、ヒトまたは他の哺乳動物の神経組織の典型的な弾性率よりも低い、等しい、または高い弾性率を有し得る。この層に適した材料には、UV硬化性のUSP VIクラスのエポキシが含まれる。当業者は、第1の補強層の厚さが、とりわけ第1の補強層の材料に依存し得ることを理解している。例えば、エポキシで構成された第1の補強層の場合、約250ミクロンの厚さが適切であると思われる。
【0101】
図1の実施形態では、基部20および第1の補強層40は、多数のオリフィス21を備える。電極アレイの挿入後、結合組織magは、これらのオリフィスを通って成長し、それによって、電極アレイを適所にロックする。あるいは、電極アレイは、生体適合性接着剤またはポリマーを使用して適所に接着されてもよく、オリフィスは、接着剤またはポリマーを電極アレイに取り付けるための追加の表面積を提供する。
【0102】
好ましくは、アレイを組織に固定するために使用されるオリフィスは、アレイの基部および第1の補強層を厚さ方向に貫通して延在し、数十ミクロン程度の直径を有する。好ましくは、アレイを機械的構造に固定するために使用されるオリフィスは、数百ミクロン程度の直径を有する。好ましくは、オリフィスは、電極アレイの基部の表面積の10%超に及ぶ。
【0103】
図2は、本発明による電極アレイの一実施形態を概略的に示す。
図2の実施形態は、第2の補強層50が追加された
図1の実施形態に対応する。
図1の実施形態のすべての特徴は、
図2の実施形態に存在するが、読みやすさのために、必ずしも標識付けされているわけではない。
【0104】
第2の補強層50は、電極アレイ1のシャフト10の遠位部分にわたって延在する。第2の補強層50は、生体適合性の電気絶縁材料で作られる。第2の補強層は、例えば、ポリエチレングリコール、PGA、PLGA、デキストランまたはスクロースから作製することができる。好ましくは、第2の補強層の材料は、体液または水溶液に溶解可能である。好ましくは、第2の補強層の材料は、生体吸収性である。第2の補強層は、主に厚さの増加の効果によって、電極アレイの遠位部分の剛性を増加させる。第2層の材料の弾性率は、電極アレイの針を構成する材料の弾性率より低くてもよいし、同等または高くてもよい。当業者は、第2の補強層の必要な厚さが、とりわけ、第2の補強層の材料およびシャフトの場合は形状に依存し得ることを理解している。例えば、PLGAから構成される第2の補強層の場合、約120ミクロンの直径が、アレイのコーティングされたシャフトの各々に適しているようである。
【0105】
シャフト10がその全長にわたって補強されるように、第1の補強層40と第2の補強層50との間に重なりがある。重複領域では、第2の補強層50が第1の補強層40の上に塗布されることが好ましい。好ましくは、第1の補強層と第2の補強層との間の重なりの程度は、50ミクロン以上である。好ましくは、第1の補強層と第2の補強層との間の重なりの程度は、500ミクロン以下である。
【0106】
浸漬コーティングプロセスを用いて第2の補強層50が塗布される場合に、シャフト10間の架橋の可能性を回避するために、第2の補強層50と電極アレイ1の基部20との間は実質的に重なり合わない。
【0107】
図3は、線A-A’による
図1および
図2の実施形態全体の断面を模式的に示す。
図3の上部には、
図1の実施形態の断面が示されている。1つの電極接点30が模式的に示されている。
図3の下部には、
図2の実施形態の断面が示されている。第2の補強層50は、第1の補強層40と重なり、シャフトの全長にわたる補強を確実にする。第2の補強層50は、電極接点30を覆っている。電極接点30が神経組織と接触することができるのは、挿入後、第2の補強層50が溶解または吸収されたときだけである。好ましくは、第2の補強層50は、シャフト10の遠位端12に鋭い先端をもたらす技術を使用して適用される。浸漬コーティングは、これらの技術の中で最もよく知られており、最も経済的である。浸漬コーティングプロセスを用いて塗布される第2の補強層は、典型的には、シャフトの平面内のコーティングされていないシャフトの先端角に従う。
【0108】
図4は、浸漬コーティングプロセスを用いた部分的にコーティングされた電極アレイ1への第2の補強層の塗布を模式的に示す。このプロセスでは、電極アレイのシャフト10の遠位部分は、コーティング浴200への挿入によってコーティングされる。挿入は、シャフトが電極アレイの基部20に接続している側とは反対側のシャフトの遠位端から開始される。電極アレイ1は、シャフト10の遠位部分が浴に浸漬されるまで、コーティング浴200にさらに挿入される。シャフト10をコーティング浴200に挿入すると、毛細管張力により、コーティング材料は、隣接するシャフト間に凹状メニスカス201を形成する。凹状メニスカス201の頂点202が電極アレイ1の基部20に接触するまでシャフト10がコーティング浴200に挿入される場合、コーティングは、コーティング浴200からアレイ1を後退させると隣接するシャフト間にコーティングブリッジを形成する。
【0109】
この現象を回避するために、電極アレイ1のシャフト10は、凹状メニスカス201の頂点202が電極アレイ1の基部20の所定の距離内に来るまでゆっくりと挿入される。この距離は、電極アレイ1のシャフト10間で架橋が生じ得ないように選択される。その最大挿入深さに達した後、電極アレイ1を後退させる。電極アレイ1の基部20は、浸漬コーティングプロセス中にコーティング浴に挿入されない。電極アレイの基部20は、浸漬コーティングプロセス中にコーティング浴の表面に接触しない。
【0110】
好ましくは、電極アレイ1は、流体メニスカス201の表面が第1の補強層40と重なるように、コーティング浴200に十分に深く挿入される。これにより、浸漬コーティングプロセスによって塗布された第2の補強層が第1の補強層40と重なることが保証される。
【0111】
図5は、本発明による電極アレイのコネクタケーブルの一実施形態を模式的に示す。
図5の実施形態では、コネクタケーブル32は、16本のワイヤ33を備える分割多芯蛇行ケーブルである。ワイヤ33は、個々に絶縁され、保護シース内で対ごとにグループ化される。ケーブル32のワイヤ33の各々は、中実導体または撚り導体を備え得る。2本のワイヤ33の8つのグループは各々、一端で電極アレイ1の基部20に接続する。他方の端部では、8グループのワイヤ33は、共通の電気コネクタに接続することが好ましい(
図5には示されていない)。好ましくは、8つの別個のワイヤグループは、両端の間で互いに取り付けられていない。好ましくは、8つの別個のワイヤグループは、蛇行形状に予め形成される。16本すべてのワイヤを共通の保護シートにまとめてグループ化するコネクタケーブルと比較すると、各2本のワイヤからなる8つのグループを含むコネクタケーブルは、はるかに低い極慣性モーメントを有する。当業者は、ケーブルの極慣性モーメントを計算することができる。ワイヤの量、分割方式、および関与する材料に応じて、
図5に示すような分割ケーブルの極慣性モーメントは、等しい断面の同じ量のワイヤを運ぶ非分割ケーブルの極慣性モーメントよりも1~2桁小さくすることができる。そのより低い慣性モーメントのために、
図5のコネクタケーブル32の実施形態は、手術中にほとんど不可避であるコネクタケーブル32のねじれおよび引っ張りに起因して電極アレイ1に及ぼされるねじり力を低減する。電極アレイ1に伝達されるねじり力を制限することにより、分割多芯蛇行ケーブル32は、電極アレイ1を損傷または脱落させる可能性を減少させる。
【0112】
図6は、ヒトまたは他の哺乳動物の脳に挿入される電極アレイの実施形態を概略的に示す。ヒトまたは他の哺乳動物の脳は、脳回または隆起部500および溝または亀裂501を含む折り畳まれた表面構造を有する。内部的には、脳は実質的に灰白質502および白質503から構成され、灰白質は主に、脳の表面に沿って数ミリメートルの厚さを有する層に見られる。
【0113】
図6の実施形態では、電極アレイ1は、脳回500の表面を通してヒトまたは他の哺乳動物の脳に挿入される。アレイのシャフト10は、基部20およびコネクタケーブル32が挿入されていない間に、脳回500に挿入される。いくつかの目的では、シャフト上の電極接点が灰白質502のかなりの部分にわたって延在することが重要である。これは、例えば、視覚皮質の電気刺激を通して視覚認知を誘導する目的を有する視覚プロテーゼの場合である。視覚皮質の灰白質と、知覚される画像の幾何学的形状および解像度との間に幾何学的マッピングが存在することが知られているので、視覚プロテーゼの電極接点が視覚皮質の灰白質のかなりの部分にわたって分布することが特に重要であると考えられる。
【0114】
脳回500の表面に直接横たわる灰白質502は、電極アレイ1の挿入のために容易にアクセス可能であるが、溝501に埋め込まれた灰白質502は容易にアクセス可能ではない。この問題に対する可能な解決策は、
図6に示すように、異なる長さのシャフト10を有する電極アレイ1の挿入である。
図6に示すシャフト形状により、電極アレイは、白質503に不必要に貫通することなく、溝501に隣接する灰白質を探査することができる。
【0115】
図7は、本発明によるインプラントの一実施形態を概略的に示す。図示の実施形態では、インプラント100は3つの電極アレイ1を備える。しかしながら、当業者は、インプラントの位置および目的に応じて電極アレイの数を自由に選択することができることを理解するであろう。各電極アレイは、コネクタケーブル32によって電子装置ユニット110に接続される。
【0116】
好ましくは、電子装置ユニットは、神経組織と神経組織を取り囲む1つまたは複数の保護層との間に移植される。デバイス100が例えば脳に移植されると、電極アレイ1のシャフトは脳髄膜を通って神経組織に挿入される。好ましくは、電子装置ユニット110は、脳髄膜と頭蓋骨との間に取り付けられる。
【0117】
好ましくは、電子装置ユニット110は、インプラントが移植されたヒトまたは他の哺乳動物の体外に位置するデバイスから電力を受け取ることができるように、無線電力伝送のためのシステムを備える。当業者は、例えば誘導電力伝送など、短距離にわたる無線電力伝送に適したシステムを知っている。
【0118】
好ましくは、電子装置ユニットは、インプラントが移植されているヒトまたは他の哺乳動物の体外に位置するデバイスとデータを送受信することができるように、無線データ通信のためのシステムを備える。当業者は、例えばNFCまたはBluetoothなど、短距離にわたる無線データ通信に適したシステムを知っている。
【0119】
図8は、本発明による、取り外し可能なホルダを備えるインプラントの一実施形態を概略的に示す。インプラント100の典型的な実施形態では、約20個の電極アレイ1が存在する。整然とした挿入を可能にするために、電極アレイは、インプラント100の永久的な部分に組み立てられた取り外し可能なホルダ120またはプラットフォーム上で事前に分類することができる。
【0120】
ホルダ120は、保管または輸送中の機械的損傷または汚染から電極アレイ1を保護し、電極アレイ1を互いにくっつかないように分離し、電極アレイ1をより容易につかむことを可能にする。
【0121】
インプラント100を脳に移植する間、電子装置ユニット110は頭蓋骨に取り付けられ(またはその中の凹部に配置され)、その後、電極アレイ1が脳に順次挿入される。最後に、ホルダ120が取り外される。ホルダ120は、生体適合性ポリマー(PEEKまたはポリアミド)で3D印刷されてもよく、保管、輸送、滅菌および手術中に電極アレイ1を互いに分離した状態に保つ垂直突起を特徴とする。
【0122】
図9は、本発明による、プラットフォーム130と、電子装置ユニット110と、複数の電極アレイ1とを備えるインプラント100の一実施形態を概略的に示す。
図9の実施形態では、1つまたは複数の電極アレイ1の基部は、プラットフォーム130によって機械的に接続される。好ましくは、1つまたは複数の電極アレイ1の基部は、オリフィスを備え、例えばクリック機構などの機構によってまたは生体適合性接着剤もしくはポリマーによって、プラットフォーム130に機械的に接続される。
【0123】
好ましくは、プラットフォーム130は、生きているヒトまたは他の哺乳動物の身体によって溶解可能または吸収可能ではない生体適合性材料から作製される。適切な材料は当業者に周知であり、例えばチタン、PMMAまたはシリコーンを含む。好ましくは、プラットフォーム130は神経組織内に移植されず、神経組織の上に浮いている。
【0124】
既に上述したように、本発明のいくつかの実施形態では、プラットフォームは、電極アレイの保管および輸送のためのホルダとして使用され得る。
【0125】
図10(a)および
図10(b)は、本発明による電極アレイの製造方法のステップを模式的に示す。製造方法の第1のステップ400では、基板300が用意される。好ましくは、この基板300はシリコンウェハである。
図10には示されていないが、いくつかの実施形態では、この基板は、基板内に浅い鋳型を形成するために異方性ウェットエッチングを使用してパターニングされた(113)シリコンウェハであり、上部に構築されるインプラントの鋭さを改善する。
【0126】
ステップ401において、犠牲層301が基板に塗布される。この犠牲層は、基板300からの電極アレイの解放を可能にする目的を果たす。当業者は、犠牲層として使用するのに適した材料および犠牲層を塗布するのに適した方法を知っている。例えば、犠牲層301は、スパッタコーティングを使用して堆積させることができる。
【0127】
ステップ402において、電気絶縁材料302の第1層が犠牲層301の上に堆積される。好ましくは、層302は、可撓性、生体適合性および非生体吸収性材料から作製されることが好ましい。例えば、層302の実現に適した材料は、ポリイミドまたはパリレン-Cである。
【0128】
ステップ403において、導電層303が電気絶縁層302の上に堆積される。導電層303は、電極アレイの電気トレース31および電極接点30(
図10(a)および
図10(b)では標識されていない)を形成するようにパターニングされる。層303は、好ましくは、白金、金、酸化イリジウム、カーボンナノチューブまたはPEDOTなどの生体適合性導電性材料から作製される。
【0129】
ステップ404において、電気絶縁材料304の第2層が電気トレース31および電極接点30の上に堆積される。好ましくは、層304は、可撓性、生体適合性および非生体吸収性材料から作製されることが好ましい。例えば、層304の実現に適した材料は、ポリイミドまたはパリレン-Cである。好ましくは、層304の材料は、層302の材料と実質的に同一である。好ましくは、使用される堆積プロセスは、層302および層304が互いにシームレスに混合するようなものである。層302および層304は共に、インプラントの可撓性の電気絶縁性バックボーンを形成する。
【0130】
ステップ405において、層304の上にエッチングマスク305が堆積される。続いて、エッチングマスク305はパターニングされる。
【0131】
ステップ406において、電気絶縁層302および304がエッチングされ、導電層303および専用エッチングマスク305の両方がエッチングマスクの役割を果たす。層303および層305の両方がエッチングマスクとして機能し、層303および層305の各々が個別にパターニングされているので、単一のエッチングステップはいくつかの特徴を作成することができる。好ましくは、ステップ406において、電極接点30が、適切な場所で絶縁層304をエッチング除去することによって電極アレイのシャフト10上に画定される。好ましくは、コネクタケーブル32(
図10(a)および
図10(b)には示されていない)との接続を行うためのボンドパッド306が、ステップ406の間に同じ方法で作成される。好ましくは、電極アレイの輪郭307は、ステップ406において、層302および層304の両方をエッチング除去することによって画定される。本方法のいくつかの実施形態では、電極アレイのシャフト10の遠位端12のエッチングは、例えば遠位端12の階段パターンをエッチングすることにより、シャフト10の鋭さを増加させる。
【0132】
ステップ407において、第1の補強層40が、基部20およびシャフト10の近位端の上に塗布される。
【0133】
ステップ408において、部分的にコーティングされた電極アレイは、犠牲層301の溶解によって基板300から解放される。
【0134】
ステップ409において、浸漬コーティングプロセスを用いて第2の補強層50を塗布して、本発明による電極アレイ1の実施形態を得る。
【0135】
好ましくは、コネクタケーブル32は、ケーブルの導電性コアが電気トレースおよび電極接点と連続し、ケーブルの絶縁マントルがアレイの電気絶縁層と連続するように、アレイの一体部分として製造される。
【符号の説明】
【0136】
参照符号
1 電極アレイ
10 電極アレイのシャフト
11 シャフトの近位端
12 シャフトの遠位端
20 電極アレイの基部
21 オリフィス
30 電極接点
31 金属トレース
32 コネクタケーブル
33 コネクタケーブルのワイヤ
40 第1の補強層
50 第2の補強層
100 インプラント
110 電子装置ユニット
120 ホルダ
130 プラットフォーム
200 コーティング浴
201 メニスカス
202 メニスカスの頂点
300 基板
301 犠牲層
302 電気絶縁材料の第1層
303 導電層
304 電気絶縁材料の第2層
305 エッチングマスク
306 ボンドパッド
307 電極アレイの輪郭
400 製造方法の第1のステップ
401 製造方法の第2のステップ
402 製造方法の第3のステップ
403 製造方法の第4のステップ
404 製造方法の第5のステップ
405 製造方法の第6のステップ
406 製造方法の第7のステップ
407 製造方法の第8のステップ
408 製造方法の第9のステップ
409 製造方法の第10のステップ
500 脳回
501 溝
502 灰白質
503 白質
【国際調査報告】