IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スンデュクトの特許一覧

<>
  • 特表-骨伝導補聴器 図1a
  • 特表-骨伝導補聴器 図1b
  • 特表-骨伝導補聴器 図1c
  • 特表-骨伝導補聴器 図2a
  • 特表-骨伝導補聴器 図2b
  • 特表-骨伝導補聴器 図3
  • 特表-骨伝導補聴器 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】骨伝導補聴器
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20240426BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20240426BHJP
   A61F 11/00 20220101ALN20240426BHJP
【FI】
H04R25/00 F
H04R25/00 D
H04R1/00 317
A61F11/00 305
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572119
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2022063662
(87)【国際公開番号】W WO2022243489
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】2105313
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523438669
【氏名又は名称】スンデュクト
【氏名又は名称原語表記】SOUNDUCT
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ、マリー、ド、シャストネ
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AB13
(57)【要約】
本発明は、使用者の耳の周りに配置されるように企図された補聴器に関するものである。その補聴器は、少なくとも1つの第1骨伝導装置と、少なくとも1つの第2骨伝導装置とを備え、第1装置は、使用者の頭部の第1骨部位に接触して定置されて当該第1骨部位へ第1振動を伝達するように構成され、第2装置は、使用者の頭部の第2骨部位に接触して定置されて当該第2骨部位へ第2振動を伝達するように構成され、当該第2部位は第1部位とは異なり、当該第1骨部位と当該第2骨部位とが使用者の同じ耳の周りに位置しており、後に第1および第2振動を生じさせるように変換されるところの周囲音響信号を捕らえることを可能とする少なくとも1つのマイクロフォンを更に備えていることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の耳の周りに配置されるように企図された補聴器において、少なくとも1つの第1骨伝導装置と、少なくとも1つの第2骨伝導装置とを備え、前記第1装置は、使用者の頭部の第1骨部位に接触して定置されて当該第1骨部位へ第1振動を伝達するように構成され、前記第2装置は、使用者の頭部の第2部位に接触して定置されて当該第2骨部位へ第2振動を伝達するように構成され、前記第2部位は前記第1部位とは異なり、前記第1骨部位と前記第2骨部位とが使用者の同じ耳の周りに位置しており、後に前記第1および第2振動を生じさせるように変換されるところの周囲音響信号を捕らえることを可能とする少なくとも1つのマイクロフォンを更に備えていることを特徴とする補聴器。
【請求項2】
少なくとも2つのマイクロフォンを備えたことを特徴とする、請求項1記載の補聴器。
【請求項3】
前記第1骨伝導装置は第1トランスデューサーを備え、前記第2骨伝導装置は第2トランスデューサーを備え、前記第1および第2トランスデューサーは、前記音響信号に由来する電気信号を第1および第2音響振動へとそれぞれ変換することを可能とするものであることを特徴とする、請求項1または2記載の補聴器。
【請求項4】
前記マイクロフォンは、前記少なくとも1つの音響信号から少なくとも1つの電気信号を生成することを可能とするものであり、処理モジュールが、前記少なくとも1つの電気信号を処理することを可能としていることを特徴とする、前記請求項のうちいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項5】
前記第1および第2装置は、使用者の皮膚上に定置されるものであり、当該補聴器は、前記第1および第2装置を前記皮膚上に保持するためのシステムを含んでいることを特徴とする、前記請求項のうちいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項6】
前記第1および第2装置を互いに連結することを可能とする連結装置を更に備えたことを特徴とする、前記請求項のうちいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項7】
少なくとも1つの電気信号受信機を備えたことを特徴とする、前記請求項のうちいずれか一項に記載の補聴器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の補聴器によって周囲音響信号を聴取するための方法(100)において、
- 前記第1骨伝導装置を、使用者の頭部の第1骨部位と接触させて定置する段階(110)と、
- 前記第2骨伝導装置を、使用者の頭部の第2骨部位と接触させて定置する段階(120)であって、前記第2骨部位は前記第1骨部位とは異なっており、前記第1および第2骨部位が同じ耳の周りに位置している段階(120)と、
- 前記耳の聴神経を刺激するように、前記第1装置から第1振動を、前記第2装置から第2振動を伝達する段階(130)と、
を備えたことを特徴とする方法(100)。
【請求項9】
前記第1振動(14)が前記聴神経の中央領域に到達すると共に前記第2振動(15)が前記聴神経の周辺領域に到達するように、前記第1装置(2)が前記耳の後ろに定置されると共に前記第2装置(2)が前記耳の前に定置されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記第1および/または前記第2骨部位は、所定の周波数範囲を使用者に伝達することができるように選択されることを特徴とする、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
前記第1装置(2)は、側頭骨の乳様突起と接触させて定置されることを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2装置(3)は、側頭骨および/または下顎骨と接触させて定置されることを特徴とする、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第1および第2の、請求項1から7のいずれか一項に記載の補聴器を含み、前記第1の補聴器は、使用者の一方の耳の周りに定置されるように構成され、前記第2の補聴器は、当該使用者の他方の耳の周りに定置されるように構成されていることを特徴とする聴音システム。
【請求項14】
難聴および聾の治療に使用するための請求項1から7のいずれか一項に記載の補聴器または請求項13記載の聴音システム。
【請求項15】
混合型の病態、遺伝性の病態、形成不全、外耳道の欠如、高地事故、潜水事故、減圧事故、耳感染症、ウイルス、一側性聴覚消失、知覚神経病態、老人性難聴、神経腫の諸症例、および聴覚神経芽細胞などの、聾または難聴の先天的または後天的な病態から選択される少なくとも1つの病態の治療に使用するための請求項1から7のいずれか一項に記載の補聴器または請求項13記載の聴音システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの第1および少なくとも1つの第2骨伝導装置を備えた補聴器、2つの補聴器を含んだ聴音システム、並びに、当該補聴器または当該聴音システムによって音響信号を聴取するための方法に関するものである。本発明はまた、難聴および聾の治療に使用するための補聴器および聴音システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
聾や難聴は、全世界で数億人の人々を襲っている。大抵の補聴器は、周囲の音を捕らえ、それらの音を処理し、そして得られた信号を音響(音波)の形態で使用者の外耳道内に再現するものである。
【0003】
この型式の、音の空気伝導を通じての補聴は、幾つかの欠点を有している。一方では、外耳道内に再現された音が(特に、使用者が騒がしい場所にいるときには)常に良好な品質であるわけではなく、使用者に「どよめき(hubbub)」の感覚を与えてしまう。他方では、そもそも不完全な聴覚系の外耳道内で型どおりに音が再現されることで、この型式の補聴器の有効性が制限されてしまう。更に、外耳道内に補聴器を挿入することで、鼓膜上に侵襲性の圧力を生じさせてしまう。最後に、病態によって(例えば、外耳道を有していない人物の場合など)は、この型式の補聴器は役に立たないのである。
【0004】
重い難聴や聾の場合には、人々に人工内耳(インプラント)を装着させることが可能である。そのような補聴器は、外側部分と、外科的に頭蓋内に固定される内側部分とを含んでいる。インプラントの外側部分は周囲の音を捕らえて電気信号へと変換し、それらの信号がインプラントの内側部分へ伝達される。次にインプラントの内側部分が、蝸牛へ伝達される電気インパルスを放出する。そして、それらのインパルスが聴神経の線維群の刺激を引き起こすのである。
【0005】
しかしながら、人工内耳の有効性は、騒がしい環境内での会話や音楽の知覚については限定されたままである。その上、これらの補聴器の埋込みは、非常に侵襲的な外科手術を、そして専門家との訓練を必要とし、誰もが利用しやすいものとはなっていない。最後に、一部の型式の病態に対しては、人工内耳もまた無効なのである。
【0006】
従って、使用や設置が容易で、難聴や聾の人物が最適化された自然な品質で周囲の音を聞くことを、場所や周囲の物音がどうであれ、また使用者の病態がどうであれ可能とする、非侵襲的な聴音用の解決策を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
かくして、本発明の対象は、使用者の耳の周りに配置されるように企図された補聴器であり、当該補聴器は、少なくとも1つの第1骨伝導装置と、少なくとも1つの第2骨伝導装置とを備え、第1装置は、使用者の頭部の第1骨部位に接触して定置されて当該第1骨部位へ第1振動を伝達するように構成され、第2装置は、使用者の頭部の第2部位に接触して定置されて当該第2骨部位へ第2振動を伝達するように構成され、当該第2部位は第1部位とは異なり、当該第1骨部位と当該第2骨部位とが使用者の同じ耳の周りに位置しており、後に第1および第2振動を生じさせるように変換されるところの周囲音響信号を捕らえることを可能とする少なくとも1つのマイクロフォンを更に備えている。
【0008】
上述した補聴器は、第1および第2骨伝導装置によって伝達される第1および第2振動を用いて、当該補聴器が周りに定置される耳の聴神経を骨伝導によって刺激することを可能とする。かくして、第1および第2振動が、通り抜けた骨物質を介して、如何なる信号の損失も伴うことなく、同じ聴神経(当該補聴器が周りに定置される耳のもの)へ直接的に到達するのである。当該補聴器を身に付けている使用者はかくして、先行技術の補聴器による信号の再現に比べて改善された音響信号の再現を獲得する。
【0009】
本明細書においては、音波が聴神経に達する、或いは聴神経を刺激すると言う場合、これは聴神経(即ち、前庭蝸牛神経)および/または蝸牛のことを表している。
【0010】
本発明において、骨伝導装置とは、音響信号(即ち、音波)を、当該装置が(直接ないし間接的に)接触している(1つないし複数の)骨によって(できれば聴神経にまで)伝達される振動へと変換する装置である。特に、当該補聴器は、周囲音響信号、即ち周囲環境によって伝達される音波を受信する、少なくとも1つのマイクロフォンを含んでいる。それらの音波は例えば、人物の言葉、音楽、周囲の物音などである。そのマイクロフォンは、この音響信号を電気信号へと変換し、当該電気信号が次に(トランスデューサーによって)音響振動(即ち、振動)へと変換される。
【0011】
マイクロフォンは、如何なる型式のマイクロフォンでもあり得るが、MEMS(微小電気機械システム)型のマイクロフォンであることが好ましい。
【0012】
マイクロフォンは、少なくとも聴覚スペクトルの周波数範囲に相当する200Hzから20kHzに達する周波数範囲を捕らえることができ、この範囲を越えて行く周波数範囲も捕らえることができるのが好ましい。
【0013】
更に、マイクロフォンのダイナミックレンジは、75dBから115dB、好ましくは85dBから105dB、より好ましくは90dBから100dBの範囲に及ぶことができる。
【0014】
指向性に関しては、マイクロフォンは、無指向性、カーディオイド、スーパーカーディオイド、ハイパーカーディオイド、超指向性(キャノン)、または双指向性であることができる。マイクロフォンは、周囲の音の大部分を捕らえられるように無指向性であることができるのが好ましい。
【0015】
補聴器が単一のマイクロフォンを含んでいる場合、第1および第2骨伝導装置には単一の電気信号が伝達される。これにより、当該の各装置は、同一の特性を有した第1および第2振動を伝達することが可能となる。
【0016】
第1および第2振動が、本質的に骨物質によって、特に(一方では)第1骨部位と聴神経との間、(他方では)第2骨部位と聴神経との間に含まれる骨物質によって伝達されることで、たとえ聴覚系の様々な要素/成分(例えば、鼓膜や蝸牛など)が損傷を受けている場合であっても、聴神経が刺激されるという有利性がある。また、当該伝達モードによって、既に弱っているであろう聴覚系の諸要素を使わないこと(例えば、既に欠陥のある鼓膜へは音響信号を送らないこと)が可能となる。
【0017】
聴神経は、幾つかの領域、特に、中周波数から超低周波までの音響振動(低音)を受ける中央領域と、中周波数から超高周波数までの音響振動(高音)を受ける周辺領域とを含んでいる。換言すれば、音響振動は、有している周波数が低いほど、より深くまで聴神経内へ達するのである。
【0018】
第1および/または第2骨部位は、聴神経の最適な刺激を得るように予め定めることができるのが好ましい。第1および/または第2骨部位は、特に使用者の頭部における耳および/または骨の形態に応じて定めることができる。それは、第1骨部位上に定置された装置が第1音響振動を優先的に(或いは寧ろ、専ら)聴神経の第1部分へ伝達し、第2骨部位上に定置された装置が第2音響振動を優先的に(或いは寧ろ、専ら)聴神経の(第1部位とは異なる)第2部分へ伝達するようにである。かくして、各使用者の特性に応じて、補聴器をパーソナライズする(個人向けに適合させる)ことができる。聴神経の第1部分は、特に当該聴神経の中央領域とすることができ、聴神経の第2部分は、当該聴神経の周辺領域とすることができる。
【0019】
第1骨部位は、頭蓋および/または顎骨の一部とすることができる。更に、第2骨部位は、頭蓋および/または顎骨の一部とすることができる。
【0020】
第1骨部位と第2骨部位とが異なっていることで、第1振動と第2振動とが2つの異なる部位から到来し、かくして聴神経の2つの異なる部分を刺激することができるという有利性がある。それにより、(1つないし複数の)マイクロフォンによって受信した音響信号の最適化された伝達が可能となる、実際に、聴神経は、異なる振動周波数を受ける複数の毛線維で形成されているのである。特に、蝸牛の(外側基部の)始まりの所に位置した線維は、高音周波数を受け、螺旋の(頂部へ向かう)内側端部の所に位置した線維は、低音周波数を受けるのである。かくして、聴神経の異なる部分を刺激することができるという事実によって、聴神経の受ける周波数の範囲を選択、改善、および拡大すること、従って使用者によって聴取される音の質やバリエーションを向上させることが可能となる。
【0021】
特に、聴覚スペクトルは、以下の周波数範囲を含んでいる:超低周波数(20Hzから40Hz)、低周波数(40Hzから160Hz)、中低周波数(160Hzから315Hz)、中周波数(315Hzから2.5kHz)、中高周波数(2.5kHzから5kHz)、高周波数(5kHzから10kHz)、および超高周波数(10kHzから20kHz)。聴神経、特に全ての毛線維で、聴覚スペクトルの全周波数範囲を受けるのである。
【0022】
単独で、或いは組み合わせて採用される特定の諸実施形態によれば:
- 当該補聴器は、少なくとも2つのマイクロフォンを含むことができる。2つのマイクロフォンによって、最適化されたやり方で周囲の音を捕らえることが可能となる。この実施形態の好適な一変形例によれば、2つのマイクロフォン同士が、異なる向きを有して、異なる相補的な音響信号を捕らえることができる。2つのマイクロフォンによって捕らえられた音響信号は、それぞれのマイクロフォンによって電気信号へと変換される。そして、結果として得られた電気信号同士が、プロセッサによって重ね合わされて全体的な電気信号を形成する。その全体的な電気信号が、次に第1および第2トランスデューサーへ伝達される。この実施形態の第2の変形例によれば、2つのマイクロフォン同士が同一の向きにされて、同一の音響信号を捕らえることができる。そして、2つのマイクロフォンによって捕らえられた音響信号同士が、好適な変形例について説明されたように重ね合わされる。
- 第1骨伝導装置は第1トランスデューサーを備えることができ、第2骨伝導装置は第2トランスデューサーを備えることができ、第1および第2トランスデューサーは、音響信号に由来する電気信号を第1および第2音響振動へと変換することを可能とするものである。
- マイクロフォンは、当該少なくとも1つの音響信号から少なくとも1つの電気信号を生成することを可能とするものであり、当該補聴器は、当該少なくとも1つの電気信号を処理することを可能とする処理モジュールを備えている。処理モジュールは、受け取った電気信号をデジタル化し、或いは当該信号を、特にフィルタリング、圧縮、フィードバック抑制、信号対雑音比の向上などによって処理することを可能とする、少なくとも1つのマイクロプロセッサを備えることができる。
- 第1および第2装置は、使用者の皮膚上に定置されることができ、当該補聴器は、第1および第2装置を皮膚上に保持するためのシステムを含むことができる。保持システムは、使用者にあり得る動きにもかかわらず、第1および/または第2装置が予め定められた最適な位置に保持されることを保証する有利性を有している。かくして使用者は、音の知覚の如何なる損失も伴うことなく、種々の日常行動において、或いはスポーツ活動中でも、補聴器を身に付けていることができる。保持システムは例えば、第1および/若しくは第2装置を皮膚上に保持するための粘着物質、耳や頭部の輪郭の少なくとも一部にピッタリ合う、第1および/若しくは第2装置を含んだ不撓性ないし可撓性のフープ(輪)、並びに/または、第1および/若しくは第2装置の組み込まれた聴音用ヘッドセットを備えることができる。
- 当該補聴器は、第1および第2装置を互いに連結することを可能とする連結装置を更に備えることができる。連結装置は、第1装置と第2装置との間の電気的および/または機械的な連結を作り出すことを可能とする。機械的な連結の場合、連結装置は例えば、耳や頭部の輪郭の少なくとも一部に合う不撓性ないし可撓性のフープや、第1および/または第2装置(或いは、可撓性ケーブルまでも)が組み込まれた聴音用ヘッドセットとすることができる。電気的な連結の場合、それは、機械的な連結装置へ組み込まれ得る有線ないし無線の接続であってよい。電気的な連結は例えば、特に処理モジュールを備えた中央ユニットを介して成されることができる。好適な一実施形態によれば、連結装置は、中央ユニットを介して第1および第2装置を互いに連結することができる。
- 当該補聴器は、少なくとも1つの電気信号受信機を備えることができる。電気信号受信機は、例えば音楽プレーヤーや電話機からやって来る電気信号を受信することができる。あり得る一実施形態によれば、当該少なくとも1つの受信機は、例えば保持装置および/または連結装置内に組み込まれたり、例えば不撓性ないし可撓性のネック・ストラップや携帯用ケーシングであり得る相補的なユニット内へ組み込まれたりすることができる。相補的なユニットは、第1および/または第2骨伝導装置に対して有線ないし無線の形態で接続されることができる。
【0023】
本発明はまた、上述した補聴器によって音響信号を聴取するための方法に関するものである。当該方法は、
- 第1骨伝導装置を、使用者の頭部の第1骨部位と接触させて定置する段階と、
- 第2骨伝導装置を、使用者の頭部の第2骨部位と接触させて定置する段階であって、第2骨部位は第1骨部位とは異なっており、第1および第2骨部位が同じ耳の周りに位置している段階と、
- 当該耳の聴神経を刺激するように、第1装置から第1振動を第2装置から第2振動を伝達する段階と備えている。
【0024】
当該方法は、使用者の解剖学的構造の精確な箇所に定置された2つの骨伝導装置によって、聴神経の2つの異なる部分を刺激することを可能とする。かくして、当該方法は、単一の骨伝導箇所を用いるであろう補聴器とは違って、使用者が全聴覚スペクトルを再現することを可能とするのである。
【0025】
本発明において、骨伝導装置が耳の周りに定置される、と示される場合、これは、その装置が当該耳の周りに位置した骨の部分と接触して(好適には、最も近い耳の周りの箇所から、遠くとも3cm、できれば遠くとも2cmで)定置されることを意味する。但し、典型的ではない形態を有した使用者については、骨伝導装置を耳からもっと遠い所(例えば、こめかみの骨と同程度の所)に定置することができる。
【0026】
更に、本発明において、装置が骨部位と接触している、と示される場合、これは、装置が当該骨部位と直接ないし間接的に(精確な接触箇所で)接触していることを意味する。間接的な接触は例えば、皮膚や、皮膚と骨部位との間に位置する組織を介した接触であり得る。
【0027】
第1および第2骨伝導装置の皮膚上への定置は、使用者の形態に応じて、振動が最適に聴神経へ達するように実行される。補聴器を各使用者の解剖学的構造に適合させることによって各使用者に対してパーソナライズされたやり方で定置することができるよう、第1および第2骨伝導装置を耳の周りで容易に動かせるようになっていることが有利である。
【0028】
単独で、或いは組み合わせて採用される特定の諸実施形態によれば:
- 第1振動が聴神経の中央領域に到達すると共に第2振動が聴神経の周辺領域に到達するように、第1装置が耳の後ろに定置されることができると共に、第2装置が耳の前に定置されることができる。かくして、特に耳の後ろからの刺激が聴神経のより強い刺激を可能とすることにより、聴神経の刺激が最適化される。実際に、聴神経は耳の後ろに位置した頭蓋骨とより広範囲に接しており、従って耳の後ろに配置された第2装置によって、より広範囲まで刺激されるのである。その上、耳の後ろによって行われる刺激と、耳の前によって行われる刺激とは、相補的なものであって、使用者に対して最適化された音の再現を可能とする。それは特に、音の再現が、かくして聴覚スペクトルの全波長にまで及ぶからである。
- 第1および/または第2骨部位は、所定の周波数範囲を使用者に伝達することができるように選択される。かくして、第1および第2装置を、使用者のニーズに、そしてまた使用者の形態に適合させることができる。かくして、使用者の聴覚障害の程度に応じて、聴覚スペクトルの周波数全体を伝達したり、一部の周波数に有利に働くようにしたりすることが可能となる。
- 第1装置は、側頭骨と接触させて、好ましくは側頭骨の乳様突起と接触させて定置されることができる。側頭骨の乳様突起は聴神経と広範囲の接触を成しており、かくして側頭骨のこの部分によって伝達される第1振動が、聴神経の広範囲に亘る部分を刺激するという有利性がある。その上、側頭骨の乳様突起には、超低周波数から中周波数までの範囲に及ぶ周波数を伝達するという好適性がある。
- 第2装置は、側頭骨および/または下顎骨と接触させて定置されることができる。第2装置が側頭骨に接触する場合、それは顎関節の付近、即ち、例えば当該関節から遠くとも3cm、できれば遠くとも2cmの所であることが好ましい。側頭骨には、中低から超高までの範囲に及ぶ周波数を伝達すると言う好適性がある。
【0029】
本発明はまた、第1および第2の上述した補聴器のような補聴器を含み、第1の補聴器は、使用者の一方の耳の周りに定置されるように構成され、第2の補聴器は、当該使用者の他方の耳の周りに定置されるように構成されている、聴音システムにも関するものである。
【0030】
本発明による聴音システムは、使用者の両耳に装備することで、音の知覚を改善することを可能とする。聴音システムが聴覚障害者によって使用される場合、周囲の音の知覚が完全かつ最適なものとなる。聴音システムは、例えば第三者との会話や、音楽を聴くのに使用される場合には、使用者がステレオ音を受けることを可能とする。
【0031】
本発明はまた、難聴および聾の治療に使用するための補聴器にも関するものである。当該補聴器は、少なくとも1つの第1骨伝導装置と、少なくとも1つの第2骨伝導装置とを備え、第1装置は、使用者の頭部の第1骨部位に接触して定置されて当該第1骨部位へ第1振動を伝達するように構成され、第2装置は、使用者の頭部の第2部位に接触して定置されて当該第2骨部位へ第2振動を伝達するように構成され、当該第2部位は第1部位とは異なり、当該第1骨部位と当該第2骨部位とが使用者の同じ耳の周りに位置しており、後に第1および第2振動を生じさせるように変換されるところの周囲音響信号を捕らえることを可能とする少なくとも1つのマイクロフォンを更に備えている。
【0032】
好適な一実施形態によれば、補聴器は、本発明の第1の対象に従って説明されたもののようになっていることができる。
【0033】
難聴は、聴覚の部分的な喪失、特に少なくとも10dB、できれば少なくとも20dBの聴力の喪失、および/または、聴覚スペクトルの一部の周波数についての聴力の喪失と定義される。聾は、聴覚の完全な喪失と定義される。
【0034】
本発明による補聴器によって治療することのできる病態は、特に、混合型の病態、遺伝性の病態、形成不全、外耳道の欠如、高地事故、潜水事故、減圧事故、耳感染症、ウイルス、一側性聴覚消失、知覚神経病態、老人性難聴、神経腫の諸症例、および聴覚神経芽細胞などの、聾または難聴の先天的または後天的な病態から選択される。
【0035】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面の各図を参照してなされる、本発明による補聴器や聴音システムの非限定的な例示の説明に照らして明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1a】使用者の耳の周りに定置された、第1実施形態の第1変形例による補聴器の模式的な正面図。
図1b図1aの補聴器における第1装置の模式的な断面図。
図1c】使用者の耳の周りに定置された、第1実施形態の第2変形例による補聴器の模式的な正面図。
図2a】使用者の耳の周りに定置された、第2実施形態による補聴器の模式的な正面図。
図2b図2aの補聴器の一部における模式的な正面図。
図3】第3実施形態による補聴器の模式的な正面図。
図4】第1実施形態による補聴器を使用して周囲音響信号を聴取するための方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
明瞭性の理由から、本発明を理解するために本質的な要素のみが(縮尺を合わせることなく)概略的に描写されている。
【0038】
図1は、使用者の耳5の周りに定置された、本発明の第1実施形態による補聴器1を示している。この実施形態において、使用者は難聴の人物である。
【0039】
補聴器1は、第1骨伝導装置2、および第2骨伝導装置3を含んでいる。第1骨伝導装置2は、側頭骨の乳様突起と接触させて耳5の後ろに定置され、第2骨伝導装置3は、顎関節の付近で側頭骨と接触させて耳5の前に定置されている。但し、使用者の形態に応じて、第1および/または第2装置を、聴神経の最適化された刺激を確保するように、別の骨と接触させて(例えば、こめかみに接触させて)定置することができる。
【0040】
補聴器1は、中央ユニット6をも含んでいる。その中央ユニット6は、周囲音響信号を捕らえて、その信号を電気信号へと変換することを可能とするマイクロフォン10を含んでいる。中央ユニット6は更に、マイクロフォン10から来る電気信号を処理することを可能とする処理モジュール9を含んでいる。処理モジュール9は、特にマイクロフォン10に接続されたマイクロプロセッサ12を含んでいる。そのマイクロプロセッサ12は、マイクロフォン10から来る電気信号を、例えばフィルタリング、圧縮、フィードバック抑制、或いは寧ろ信号対雑音比の向上によって処理することを可能とするものである。それは、改善された電気信号を形成するためである。
【0041】
処理モジュールは、例えば信号をリアルタイムで処理することを可能とする人工知能モジュールや、感覚センサーなどの他の諸要素を含むこともできる。
【0042】
中央ユニット6は、補聴器1に電力を供給することを可能とするバッテリー7をも含んでいる。この実施形態において、中央ユニット6は、第1および第2骨伝導装置から距離を置いて、使用者によって、例えば首の周りに携えられている。
【0043】
補聴器1はまた、第1骨伝導装置2内に定置された電気機械的な第1トランスデューサー12と、第2骨伝導装置3内に定置された電気機械的な第2トランスデューサー13とを含んでいる。
【0044】
マイクロプロセッサ11によって生成された改善済みの音響信号が、第1電気ケーブルを通じて第1トランスデューサー12へ、また第2電気ケーブルを通じて第2トランスデューサー13へ伝達される。第1電気ケーブルおよび第2電気ケーブルは、二次ケーブル8を通り抜けてから分かれて、一次ケーブル4を通って第1トランスデューサー12および第2トランスデューサー13にそれぞれ接続している。かくして、改善済みの音響信号から、第1トランスデューサー12が第1振動14を発生させ、第2トランスデューサー13が第2振動15を発生させる。そして、当該振動14および15が、第1および第2装置の定置された骨を通じて聴神経(図示せず)へ伝達されるのである。
【0045】
第1および第2トランスデューサー2および3が同じ耳5の周りに定置されていることから、第1および第2振動14および15は同じ聴神経20(即ち、当該耳5の聴神経)を刺激する。これにより、先行技術の補聴器に比べて改善された音を使用者が知覚することが可能となる。
【0046】
この実施形態において、第1骨伝導装置2は側頭骨の乳様突起と接触して定置され、第2骨伝導装置3は側頭骨と接触して定置される。かくして聴覚スペクトルの全波長が聴神経に達することから、使用者は周囲の音の完全な再現を受け取るのである。
【0047】
図1bは、第1装置2の拡大図を示している。第1装置2は、第1トランスデューサー12が中に配置される半球形状の本体16を含んでいる。第1トランスデューサー12は、一次ケーブル4内に定置された第1電気ケーブルに接続され、そのケーブルを通じて改善済みの音響信号を受け取る。
【0048】
第1装置2はまた、定置用基部18をも含み、その基部18に保持システム19が固定されている。保持システム19は、この実施形態においては粘着物質である。第1装置2はまた、中間部分17をも含んでいる。中間部分17は、本体16と基部18とが相互に留め付けられたままで互いに相対的に動けるように、本体16と基部18とを連結することを可能とするものである。
【0049】
図1cは、第1実施形態の第2変形例による補聴器を示している。この第2変形例においては、中央ユニット6が小型であって、使用者の耳の後ろに定置されている。
【0050】
中央ユニット6は、無指向性でMEMS型の第1マイクロフォン10および第2マイクロフォン10’を含んでいる。第1マイクロフォン10は使用者の前方を向き、第2マイクロフォン10’は使用者の後方を向いている。かくして、第1および第2マイクロフォン10および10’は、互いに異なる相補的な音響信号を捕らえるのである。
【0051】
中央ユニット6はまた、(第1変形例のように)プロセッサ11を備えた処理モジュール9をも含んでいる。この第2変形例においてプロセッサ11は、第1および第2マイクロフォン10および10’から来る電気信号同士を重ね合わせることを可能とする。それは、第1および第2トランスデューサー12および13へ次に伝達される全体的な電気信号を形成するためである。
【0052】
この第2変形例においては、第1および第2トランスデューサー12および13が、第1電気ケーブル12’および第2電気ケーブル13’を通じて処理モジュール9へそれぞれ直接的に接続されている。
【0053】
この第2変形例においては、第1骨伝導装置2および3は、第1変形例のものと同一であり、第1変形例について説明したように使用者の耳の周りに定置される。
【0054】
この第2変形例によれば、補聴器がよりコンパクトで嵩張らず、従って使用者により便利なものとなっている。その上、2つのマイクロフォンが耳の近くに定置されて異なる向きにされているので、耳により正常に知覚される音が、補聴器によって極めて現実的に再現されるのである。
【0055】
図2aは、第2実施形態による補聴器21を示している。補聴器21は、第1骨伝導装置22および第2骨伝導装置23を含んでいる。
【0056】
第1および第2装置22および23は、当該第1および第2装置22および23を保持するためのシステムとしても役立つ連結装置4によって互いに連結されている。連結装置は、耳5の輪郭に沿うと共に、第1および第2装置22および23を互いに相対的に固定された位置に保持する、比較的不撓性のフープとなっている。
【0057】
図2bは、第1振動34を発生させることを可能とする様々な要素が内部に配置された、連結装置4の第1部分4’の拡大図を示している。
【0058】
連結装置21は、第1マイクロフォン30、マイクロプロセッサ31を備えた処理モジュール32、および第1トランスデューサー33を含んでいる。連結装置21は、種々の上述した要素に電力を供給することを可能とするバッテリー27をも含んでいる。連結装置21はまた、例えば携帯電話や音楽プレーヤーから来る二次電気信号を受信することのできる無線接続システム26をも含んでいる。この二次電気信号は、マイクロプロセッサ31によって処理されてから第1および第2トランスデューサー33および33’へ伝達され、そして第1および第2振動34および35へと変換されることができる。
【0059】
この実施形態によれば、補聴器は次の諸要素を1つずつしか含んでいない:マイクロフォン30、マイクロプロセッサ32、およびバッテリー27。但し、第2のあり得る実施形態によれば、補聴器21は、これらの要素をそれぞれ対で備えて、それぞれの2番目の要素を連結装置21の(第2骨伝導装置23付近の)第2部分内に定置していることができる。
【0060】
図3は、本発明の第3実施形態を示している。この実施形態は、第1補聴器41と第2補聴器41’とを備えた聴音システム50に関するものである。各補聴器41(41’)は、第1骨伝導装置42(42’)と第2骨伝導装置43(43’)とを備えている。
【0061】
各補聴器はまた、第2実施形態のように音響信号を受け取って処理するための諸要素(マイクロフォン、マイクロプロセッサ、およびトランスデューサー)を含んでいる。それらの要素は、ヘッドセットの形態をとっている保持システム52内に配置されている。
【0062】
この第3実施形態は例えば、周囲のノイズは聴取しないが例えば音楽プレーヤーに由来したり電話による第三者の言葉に由来したりする電気信号は受けることを可能とするノイズキャンセリング・ヘッドセットとして用いることができる。この型式のヘッドセットは、例えば建設作業者によって使用されることができる。この使用によれば、ノイズが低減ないし除去されるように、そして使用者は依然として周りの人物の指示を聞き取ることができるように、音響信号を処理することが可能となる。
【0063】
図4は、補聴器1によって周囲音響信号を聴取するための方法100を示している。この方法は、
- 第1骨伝導装置2を、使用者の頭部の第1骨部位と接触させて定置する段階120と、
- 第2骨伝導装置3を、使用者の頭部の第2骨部位と接触させて定置する段階120であって、第2骨部位は第1骨部位とは異なっており、第1および第2骨部位が同じ耳の周りに位置している、段階120と、
- 当該耳の聴神経20を刺激するように、第1装置2から第1振動14を、第2装置3から第2振動15を伝達する段階130と、
を含んでいる。
【0064】
この方法により、使用者の形態に対して定置を適合させることができ、かくして聴神経を最適に刺激することができるように、各使用者に対してパーソナライズされたやり方で第1および第2骨伝導装置を定置することが可能となる。かくして、使用者は、周囲の音の忠実かつ完全な再現を得ることができる。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図3
図4
【国際調査報告】