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特表2024-519122切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/833 20200101AFI20240426BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20240426BHJP
【FI】
A61K6/833
A61K6/853
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572188
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2021006675
(87)【国際公開番号】W WO2022250185
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516371391
【氏名又は名称】ハス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HASS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】77-14,Gwahakdanji-ro Gangneung-si Gangwon-do 25452,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン ボン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ス
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA13
4C089BA14
4C089BA16
4C089CA04
(57)【要約】
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト(cristobalite)及びトリディマイト(tridymite)の中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である、切削加工のための歯科用バルクブロックを開示するが、これは、天然歯に近似した人工歯補綴物の製造に有用であり、これにより人工歯補綴物を製作する時間と工程を短縮させることができるうえ、機械的物性の傾斜機能性化によって力の分散面で構造的な安定性が増加した効果をもたらすことができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、
結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト(cristobalite)及びトリディマイト(tridymite)の中から選択された少なくとも一つ、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である
ことを特徴とする切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項2】
主結晶相サイズの傾斜度は、その平均粒径が0.05μm~1.5μmの範囲内にあるものである
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項3】
深さに対して光透過度の傾斜度を有するものである
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項4】
光透過度の傾斜度が550nm波長を基準に28~37%の範囲内にあるものである
請求項3に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項5】
光透過度の傾斜度が深さに対して0.5mm以内の範囲内でも変化するものである
請求項3に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項6】
光透過度の傾斜度は、深さに対して0.31mmの範囲内でも変化するものである
請求項5に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項7】
深さに対して色差分析によるL、a及びb値の傾斜度を有し、深さに対して0.31mmの範囲内でも色偏差(ΔE)値が変化するものである
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項8】
35~70%の結晶化度を有するものである
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項9】
深さに対して二軸曲げ強度の傾斜度を有するものである
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項10】
二軸曲げ強度の傾斜度が280MPa~450MPaの範囲内にある
請求項9に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項11】
歯科用バルクブロックは、連続するガラスマトリックスからなる
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項12】
ガラスマトリックスは、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たす
請求項1または11に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項13】
SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、480℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含んで所定の形状のブロックを製造する段階と、
前記ブロックを760~880℃の温度範囲で熱処理するが、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理する段階と、を含む
ことを特徴とする切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項14】
前記熱処理する段階は、ブロックの上層部が840~880℃の温度範囲で、ブロックの下層部は760~800℃の温度範囲で印加されるように行われる
請求項13に記載の切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項15】
前記熱処理する段階は、勾配熱処理炉内で作動温度900~1100℃の下に1分~40分間行われる
請求項13または14に記載の切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、
歯科修復物をポリッシング(polishing)又はグレージング(glazing)する段階と、を含む
ことを特徴とする歯科修復物の製造方法。
【請求項17】
グレージングが730~820℃で30秒~10分間行われる
請求項16に記載の歯科修復物の製造方法。
【請求項18】
グレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯科修復物の透光性を調節するための用途である
請求項16に記載の歯科修復物の製造方法。
【請求項19】
グレージングが少なくとも825℃の温度で1分~20分間行われる
請求項18に記載の歯科修復物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然歯の構造的特性に近似した人工歯を製造するのに有用な、切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法に関する。本発明は、江原テクノパークの素材・部品・装備企業育成及び技術自立支援プロジェクトの支援を受けて行われた研究結果物である。
【背景技術】
【0002】
クラウン材料は、損傷した歯牙の象牙質とエナメル質に該当する部分を修復する補綴材料を意味し、適用部位によってインレー、オンレー、ベニア、クラウンなどに区分することができる。クラウン材料が修復される位置は歯牙の表面であるため、審美的特性が大きく要求され、対合歯との摩耗やチッピング(chipping)などの破折のために高い強度が要求される。クラウン材料として使用される従来の素材としては、ルーサイト結晶化ガラス(leucite glass-ceramics)、強化ポーセリン又はフッ化アパタイト(fluorapatite、Ca(POF)結晶化ガラスがあり、これらは、優れた審美的特性があるが、強度が80~120MPaと低いため、破折可能性が高いという欠点がある。このため、現在、多様な素材の高強度クラウン素材を開発しようとする研究が進行中である。
【0003】
リチウムシリケート結晶化ガラスは、非特許文献1:1973年にMarcus P.BoromとAnna M.Turkalo(The Pacific Coast Regional Meeting、The American Ceramic Society、San Francisco、CA、October 31、1973(Glass division、No.3-G-73P))によって紹介された。
【0004】
LiO-Al-SiO-LiO-KO-B-P系ガラスを用いて多様な結晶核形成と成長熱処理条件別に結晶相と強度について研究した。低温のリチウムメタシリケートから高温のリチウムジシリケート結晶相を示すとき、30~35KPSの強度を示した。これは、基地ガラス、母ガラス、LiSiO、SiSiO相の熱膨張係数の差に起因した残留応力のためであった。
【0005】
リチウムジシリケート結晶を含むガラスを用いて人工歯を製作する素材及び方法(monolithic dental crown)は、既に多くの特許に公知されている。しかし、公知の技術は、結晶相のサイズが粗大であって直ちに機械加工が難しく、加工のためには、1次にリチウムメタシリケート結晶相(machinable crystalline)を形成して加工した後、2次に熱処理を実施して高強度のリチウムジシリケート結晶相を形成させる方法を経る。この場合、後熱処理工程による収縮で寸法の正確性が劣り、熱処理工程が追加されるという煩わしさがある。一般に、CAD/CAMによる補綴物加工は、病院で直接バルク体を加工して補綴物を製作し、これを患者に最大限早く試適しなければならないので(one-day appointment)、熱処理工程による時間遅延は患者及びユーザに経済的な困難を付加させる。
【0006】
また、従来のリチウムジシリケート結晶化ガラス素材は、粗大な結晶相により、天然歯に近似した高い光透過率や乳白性(opalescence)を実現するのに限界がある。
【0007】
特に、従来のリチウムジシリケート結晶化ガラス素材は、加工のために1次に加工性の良いリチウムメタシリケート(Lithium metasilicate)結晶化ガラスを作り、加工後、2次結晶化熱処理を介してリチウムジシリケートを形成させて強度を増進させる。このとき、結晶相のサイズが約3μm以上であり、この状態では加工性が顕著に劣り、強度的な部分のみを実現することができた。
【0008】
かかる問題点を解決するために、本出願人は、1次熱処理の温度変化によって結晶サイズを調節して加工性に優れたリチウムジシリケート結晶相とシリケート結晶相を含む結晶化ガラスの製造方法を提案し、既に特許を受けたことがある(特許文献1:韓国特許第10-1975548号)。具体的には、ここでは、SiO60~83重量%、LiO10~15重量%、核形成剤の役割を果たすP2~6重量%、ガラス転移温度及び軟化点を増加させ、ガラスの化学的耐久性を増進させるAl1~5重量%、ガラスの軟化点を増加させるSrO0.1~3重量%、ZnO0.1~2重量%、調色剤(colorant)1~5重量%、及びガラスの熱膨張係数を増加させるアルカリ金属酸化物であるNaO+KO2.5~6重量%を含むガラス組成物に対して、400℃~850℃で1次熱処理を行う段階と、前記1次熱処理の後に780℃~880℃で2次熱処理を行う段階と、を含み、前記1次熱処理によってナノサイズ5nm~2000nmのリチウムジシリケート結晶相及びシリカ結晶相が生成され、前記2次熱処理温度によって透光性が調節されることを特徴とする、シリカ結晶相を含む歯牙用結晶化ガラスの製造方法を開示した。
【0009】
一方、人間の生活水準が向上しながら、歯科医学分野にも審美に対する要求が増加しており、患者の審美的欲求が次第に高まるとともに、多様な材料を用いた審美補綴修復に関する多くの研究が行われている。
【0010】
現在、主に利用されている審美修復材料であって陶材修復物の審美性に影響を及ぼす要素としては、歯牙の外形、表面状態、透明度、色調などがあり、この中でも、特に透明度は、成功的な修復物の製作のための重要な要素であるといえる。このような審美補綴のための陶材の機械的、物理的特性に対しては多くの研究と発展が行われてきたが、色調の調和に対しては未だ多くの問題を内包しており、臨床的、技術的な面で修復物の色調選択、特に透明度に対しては多くの困難がある。
【0011】
審美補綴学において歯牙修復時に審美性に影響を与える要因としては、色調(Color)、歯牙の形態とサイズ、歯牙の配列状態と比率の関係、光線、透過性、修復物のデザインなどがあり、実際に人間の目に敏感に現れるのは色と形態であるといえる。
【0012】
天然歯は、歯の頸部分から切端まで色が同じところが一箇所もない。
【0013】
このような点を反映して、近年では、いわゆるビルドアップ方式を用いて、天然歯の深い色を模倣することが可能な人工歯を製造する方法も知られている。
【0014】
ビルドアップ(Build-Up)方式とは、ポーセリンやジルコニアなどのパウダーを層々と積んで色調をつけた人工歯を成形した後、これを熱処理して天然歯に近似した色を層々と実現する方法であって、たとえ天然歯の色を非常に類似に模倣することはできるが、これは、全く技工士の熟練した機能によって人工歯の審美感が決定される方式であって再現性が劣り、即時的な方法で製造が不可能であって患者に有利ではなく、CAD/CAMなどの切削加工方法では実現し難いという問題点がある。
【0015】
一方、従来のバルクブロックを用いてCAD/CAMなどの切削加工法によって天然歯を製作する場合、バルクブロック自体が均一な物性を示す物質からなっているので、結果物である人工歯は、天然歯とは異なり、単一な色調を帯びる形態で得られるしかなかった。特に、このような方法による人工歯の場合、前歯などへの適用時に、審美的に異質感を与えて自然さが劣るという問題点があるしかない。
【0016】
上述した本出願人による特許文献1:韓国特許第10-1975548号に記載された結晶化ガラスの製造方法によっても、たとえ2次熱処理工程によって透明性と加工性の調節が可能ではあるが、得られた結晶化ガラスも、一つのブロック自体が同じ物性を有するものであり、これを用いて天然歯のような深い色相を実現するためには、複数の結果物を組み合わせる方法を適用することが必要である。言い換えれば、バルクブロック自体を活用してCAD/CAMなどの切削加工に直接適用して自然色相の歯を即時的に実現することが容易ではなかった。
【0017】
このような点を改善し、本出願人は、天然歯に近似した人工歯補綴物の製造に有用であり、これにより人工歯補綴物を製作する時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化により力の分散面で構造的な安定性が増加した効果をもたらすことができるバルクブロックに対して出願し、既に登録を受けたことがある(特許文献2:韓国特許第10-2246195号)。
【0018】
本発明は、このようなバルクブロックに対して透過度やシェード(Shade)などの審美性が向上し、物性などに対してよりさらに天然歯に近似し、機械加工性をより向上させたグラデーションバルクブロックを提供しようと案出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】大韓民国特許第10-1975548号
【特許文献2】大韓民国特許第10-2246195号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Marcus P.BoromとAnna M.Turkalo(The Pacific Coast Regional Meeting、The American Ceramic Society、San Francisco、CA、October 31、1973(Glass division、No.3-G-73P))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、CAD/CAMなどの切削加工によって他の工程の追加なしにも反復再現性を有するように天然歯に近似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透過性ないし物性を発現する人工歯修復材料の製造に使用できる、切削加工のための歯科用バルクブロックを提供しようとする。
【0022】
また、本発明は、人工歯補綴物を製作する時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化によって力の分散面で構造的な安定性が増加した効果をもたらすことができる、切削加工のための歯科用バルクブロックを提供しようとする。
【0023】
また、本発明は、天然歯に近似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透過性ないし物性を発現する人工歯修復材料の製造に使用できる、切削加工のための歯科用バルクブロックを簡易に製造することができる方法を提供しようとする。
【0024】
また、本発明は、このような歯科用バルクブロックを加工機械を用いて容易に歯修復物に製造する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一実施形態は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト(cristobalite)及びトリディマイト(tridymite)の中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である、切削加工のための歯科用バルクブロックを提供する。
【0026】
本発明の好適な一実施形態において、主結晶相サイズの傾斜度は、その平均粒径が0.05μm~1.5μmの範囲内にあるものであり得る。
【0027】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して光透過度の傾斜度を有するものであり得る。
【0028】
また、好適な一実施形態において、光透過度の傾斜度は、550nm波長を基準に28~37%の範囲内にあるものであり得る。
【0029】
好適な一実施形態において、光透過度の傾斜度は、深さに対して0.5mm以内の範囲内でも変化するものであり得る。
【0030】
好適な一実施形態において、光透過度の傾斜度は、深さに対して0.31mmの範囲内でも変化するものであり得る。
【0031】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して色差分析によるL、a及びb値の傾斜度を有し、深さに対して0.31mmの範囲内でも色偏差(ΔE)値が変化するものであり得る。
【0032】
好適な一実施形態による歯科用バルクブロックは、35~70%の結晶化度を有するものであり得る。
【0033】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して二軸曲げ強度の傾斜度を有するものであり得る。
【0034】
好適な一実施形態において、二軸曲げ強度の傾斜度は、280MPa~450MPaの範囲内にあるものであり得る。
【0035】
本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、連続するガラスマトリックスからなるものであり得る。
【0036】
好適な実施形態において、ガラスマトリックスは、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすものであり得る。
【0037】
本発明の他の実施形態では、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、480℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含んで所定の形状のブロックを製造する段階と、
前記ブロックを760~880℃の温度範囲で熱処理するが、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理する段階と、を含む、切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0038】
好適な一実施形態による歯科用バルクブロックの製造方法において、熱処理する段階は、ブロックの上層部は840~880℃の温度範囲で、ブロックの下層部は760~800℃の温度範囲で印加されるように行われるものであり得る。
【0039】
好適な一実施形態において、前記熱処理する段階は、勾配熱処理炉内で作動温度900~1100℃の下に1分~40分間行われるものであり得る。
【0040】
また、本発明の一実施形態は、前記一実施形態の切削加工のための歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、ポリッシング(polishing)又はグレージング(glazing)する段階と、を含む、歯科修復物の製造方法を提供する。
【0041】
好適な一実施形態による歯科修復物の製造方法において、グレージングは、730~820℃で30秒~10分間行われることができる。
【0042】
上記の範囲内のグレージングは、前段階から得られた歯科修復物が有する固有の透光性を阻害しない範囲の通常のグレージングに該当することができる。
【0043】
他の一例としては、ユーザの必要に応じて前段階から得られた歯科修復物の光透過度を一定部分調節する段階としてのグレージングを行うこともできるが、このような側面において、グレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯科修復物の透光性を調節するための用途に使用できる。このとき、好ましくは、グレージングは少なくとも825℃の温度で1分~20分間行われることができる。特に840℃の温度以降からは光透過度が減少するので、光透過度をさらに下げようとする場合、グレージング温度をさらに高めて一定部分追加の結晶化が併行するようにすることができる。
【0044】
本発明のバルクブロックは、天然歯に近似したマルチグラデーション透光性ないし物性を有する人工歯修復材料の製造に容易に適用することができながらも、ユーザ側で簡易に熱処理する方法によって透光性が調節された歯科修復物を得ることができることにより、物流管理の簡素化に寄与することができるという利点がある。
【発明の効果】
【0045】
本発明による歯科用バルクブロックは、CAD/CAMなどの切削加工によって他の工程の追加なしに繰り返し再現性よく、天然歯に近似したマルチグラデーション透光性ないし物性を有する人工歯修復材料の製造に容易に使用でき、人工歯補綴物を製造する時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化によって力の分散面で構造的安定性が増加した効果をもたらすことができ、このような歯科用バルクブロックは、特定の組成を有する単一のガラス組成物を用いて勾配熱処理する簡易な方法によって製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明のバルクブロックのX線回折分析(X-Ray Diffraction)結果グラフである。
図2a】本発明のバルクブロックの深さ別微細構造及び結晶相サイズを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2b】本発明のバルクブロックの深さ別微細構造及び結晶相サイズを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2c】本発明のバルクブロックの深さ別微細構造及び結晶相サイズを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】本発明のバルクブロックの厚さ0.31mmのスライス試験片に対する可視光線透過率測定グラフである。
図4】本発明のバルクブロックに対する切削抵抗性(cutting resistance)の比較グラフである。
図5】一例として本発明の歯科用バルクブロックの製造方法を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態によって得られたバルクブロックの深さ別主結晶相の粒子サイズを示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態によって得られたバルクブロックの深さ別二軸曲げ強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
前述した、及び追加の本発明の様相は、添付図面を参照して説明される好適な実施形態によってさらに明らかになる。以下では、本発明のこのような実施形態によって当業者が容易に理解し再現することができるように詳細に説明する。
【0048】
本発明の切削加工のための歯科用バルクブロックは、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト(cristobalite)及びトリディマイト(tridymite)の中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である。
【0049】
上記および以下の記載において、主結晶相という用語は、全結晶相のうち少なくとも80重量%を占める結晶相と定義され、追加結晶相という用語は、全結晶相のうち主結晶相ではない残りの結晶相と定義されることができる。
【0050】
結晶相の含有量は、X線回折分析によって算出できるが、一例として2つの多形相aとbからなっている試験片において、結晶相aの割合Faは、定量的に次の数式1で表される。
【0051】
【数1】
【0052】
この値は、2つの結晶相の強度比の測定と整数Kを得ることにより求めることができる。Kは、2つの純粋な多形相の絶対強度比Ioa/Iobであり、標準物質を測定して求める。
【0053】
上記及び以下の記載において、主結晶相という用語は、このような方法によって算出された含有量に基づいて設定されたものと定義できる。
【0054】
また、「深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有する」という意味は、バルクブロックの深さによる主結晶サイズをグラフ化する場合、主結晶相サイズの変化勾配が存在することを意味する。すなわち、バルクブロックの深さに対して主結晶相サイズがグラデーション(gradation)された形態で表れることを意味する。
【0055】
また、「主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイント」とは、バルクブロックの深さによる主結晶相サイズをグラフ化する場合、主結晶相サイズの変化勾配値が実質的に変動するポイントを意味する。ここで、「実質的に変動」という意味は、単一の数値であって変化を意味することができるが、その値の分布に照らして実質的な変化があるものまでを含むことができる。
【0056】
また、「主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない」という意味は、主結晶相サイズの傾斜度値の変化を示すバルクブロックの深さポイントにおいて、層間分離を示す有意な境界面が存在しないものと解釈できる。すなわち、バルクブロックは、深さによる界面なしに連続する形態で主結晶相サイズの傾斜度を有するものであることを意味する。
【0057】
一方、「傾斜機能材料(Functionally Gradient Material、FGM)」は、通常、いずれか一面から他の面へと構成材料の性質が連続的に変化する材料をいうので、本発明においては、実質的に界面が存在しないが、構成材料の性質が連続的に変化するという観点から、傾斜機能材料という表現を借用したものである。
【0058】
上記及び以下の記載において、バルクブロックは、その形状的制限がなく、一例としてブロック(block)形態、ディスク(disk)形態、インゴット(ingot)形態、シリンダ(cylinder)形態などの様々な形態のバルク体を含むことができる。
【0059】
本発明によるバルクブロックは、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト(cristobalite)及びトリディマイト(tridymite)の中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなるものであり、結晶相として、上述した結晶相以外に他の結晶相を含まない。
【0060】
好適な一実施形態によるバルクブロックに対するXRD分析結果グラフは、図1に示すとおりである。
【0061】
図1において、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、主結晶相がリチウムジシリケートである。そして、追加結晶相として2θ=21.7(degree)で主要ピークが現れるが、これは、SiOの同質異相体であるクリストバライト(cristobalite、JCPDS#39-1425、2θ=21.83(degree)主要ピーク)またはトリディマイト(tridymite、JCPDS#01-0378、2θ=21.76(degree))と解釈できる。別の追加結晶相として、2θ=20.8、26.3(degree)で主要ピークが現れるが、これは、SiOの同質異相体である低温型石英(α-quartz、JCPDS#83-0539、2θ=20.8、26.6(degree)で主要ピーク)と解釈できる。別の追加結晶相として、2θ=22.18、22.9(degree)で主要ピークが現れるが、これは、リチウムホスフェート(lithium phosphate、JCPDS#15-0760、2θ=22.3、23.1で主要ピーク)と定義することができる。
【0062】
上記及び以下の記載において、XRD分析は、X線回折分析器(D/MAX-2500、株式会社リガク製、日本;Cu Kα(40kV、60mA)、走査速度:6°/分、2θ:10~70(degree)、株式会社リガク製、日本)を用いて分析した結果として理解されるであろう。
【0063】
このような結晶相は、微結晶への形成が可能であり、これが温度に応じて様々なサイズ及びサイズ分布を示しながら、機械的物性と光透過性を多様に実現することができる特性を有する。
【0064】
また、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有することにより、バルクブロックは、深さに対してグラデーションされた透光性及び機械的物性を実現することができる。しかも、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しないことにより、層間接合による加工が不要であり、また切削加工中に層分離が起こる問題を解消することができる。また、このような傾斜機能化により、力の分散面で構造的安定性が増加した人工歯補綴物を提供することができる。
【0065】
このような本発明のバルクブロックにおいて、主結晶相サイズの傾斜度は、平均粒径が0.05μm~1.5μmの範囲内で実現できる。
【0066】
一例として、図2には、本発明の歯科用バルクブロックに対する走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示したが、図2aは勾配熱処理したブロックの低温部(ブロックの底)を示し、図2bは中温部を示し、図2cは高温部(ブロックの上層)を示す。具体的には、図2aはブロックの下層部(深さ20mm部分)のSEM写真を示し、図2bは中間部(深さ10mm)のSEM写真を示し、図2cはブロックの上層部(深さ0.5mm)のSEM写真を示す。
【0067】
このように得られたSEM写真によって結晶相粒子の平均サイズを導き出すことができるが、具体的には、SEM写真に対角線又は無作為の直線を引いて直線が通過する結晶相の数を直線の長さで割って倍率を勘案することにより、linear intercept methodによって求めることができる。
【0068】
上記及び以下の記載において、結晶相のサイズは、このような方法に従って算出されたものと理解される。
【0069】
本発明のバルクブロックは、傾斜機能材料であって、このような傾斜機能材料が同じ加工条件によって切削加工、一例としてCAD/CAM加工などに適用されることにより機械加工性を考慮し、人工歯修復材料など、臨床で使用可能な透過性を発現することができる観点から、主結晶相サイズの傾斜度は、平均粒径が0.05μm~1.5μmの範囲内であることが好ましい。
【0070】
本発明の歯科用バルクブロックは、上述したように主結晶サイズの傾斜度を有することにより、深さに対して光透過度の傾斜度を有する。
【0071】
特に、上述した結晶質サイズの傾斜度において平均粒径の範囲を考慮するとき、光透過度の傾斜度は、550nmの波長を基準に28~37%の範囲内であり得る。
【0072】
上記及び以下の記載において、光透過度は紫外可視分光器(UV-2401PC、島津製作所製、日本)を用いて測定したものである。
【0073】
上述したように、本発明の歯科用バルクブロックは、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しないため、このような側面において、光透過度の傾斜度は、深さに対して0.5mm以内の範囲内でも変化し、実質的に深さに対して0.31mmの範囲内においても変化することを確認することができる。
【0074】
本発明による歯科用バルクブロックに対して勾配位置別に光透過度を測定するために、透明度が減少する深さ方向に約0.31mm切断した後、試験片の表面をエタノールを用いて綺麗に拭き取り、紫外可視分光器(UV-2401PC、島津製作所製、日本)を用いて測定した。このとき、測定波長範囲は300~800nmとし、スリット幅は2.0nmとした。厚さ0.31mmのスライス試験片に対して、透過率に差があることを図3の結果から確認することができる。
【0075】
図3において、各試験片は、それぞれ下記表1の深さ別試験片に該当する。
【0076】
【表1】
【0077】
このような結果は、深さに対して0.31mmの範囲内でも光透過率値が変化すること、すなわち、このような厚さでもgradient transmittanceが現れることを意味することが分かる。これは、本発明の歯科用バルクブロックが傾斜機能材料であることを明らかに示す結果であるといえる。また、このような透過度の結果から、審美性に優れながらも、適正な隠蔽性を有する人工歯を提供することができることが分かる。
【0078】
別の一態様において、本発明の歯科用バルクブロックは、シェード(shade)においても傾斜度を有するが、具体的には、深さに対して色差分析によるL、a及びb値の傾斜度を有する。上述したように、本発明の歯科用バルクブロックは、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しないので、このような側面において、深さに対して0.31mmの範囲内でも色偏差(ΔE)値が変化することを確認することができる。
【0079】
色彩の正確な測定、伝達及び再現のための色彩標準化が必要となり、このため、表色系(color system)を考案することになった。多くの表色系が提案されており、この中でも、現在まで最も広く使われているのが、1976年に国際照明委員会(CIE、Commission International de l’Eclairage)で定めたCIE L色空間(CIELAB color space)ということである。ここで、L*は明るさ(lightness)を示し、aとbは色度座標(chromaticity coordinates)を示す。座標において、Lは、値が増加するほど明るい色を示し、減少するほど暗い色を示し、+aは赤、-aは緑、+bは黄色、-bは青を意味する。
【0080】
本発明による歯科用バルクブロックに対して勾配位置別に色を測定するために、透明度が減少する深さ方向に約0.31mm切断した後、試験片の表面をエタノールを用いて綺麗に拭き取り、紫外可視分光器(UV-2401PC、島津製作所製、日本)を用いて分析した。このとき、測定波長範囲は380~780nmとし、スリット幅は2.0nmとした。基準サンプルを用いてベースライン(baseline)を設定した後、試験片に対して反射率を測定してL表色系を求めた。測定したL値は、誤差を減らすために3回繰り返した後、平均値を用いた。この3つの値を用いて色の差を示すΔEを用いて求めた。2つの試験片のΔE値が0であれば、色の差がないことを意味し、0~2に該当する値は、非常にわずかな色差(very slight difference)があることを意味する。2~4の値は、色差が感知できるほどに(noticeable)区分されることを意味し、4~6の値は、容易に(appreciable)色差が区分されることを意味する。6~12の値は色差が大きい(much)ことを意味し、12以上の値は色差が非常に大きい(very much)ことを意味する。
【0081】
図1及び図2に示すような非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト及びトリディマイトの中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である歯科用バルクブロックは、厚さ0.31mmのスライス試験片が深さに対して0.9~4.8の色偏差(ΔE)を示すことを、下記表2の結果から確認することができる。このような結果は、深さに対して0.31mmの範囲内でも色偏差(ΔE)値が変化するということ、すなわちこのような厚さでも色の異なるgradient shadeが現れることを意味することが分かる。これは、他の側面において、本発明の歯科用バルクブロックが傾斜機能材料であることを明らかに示す結果であるといえる。
【0082】
【表2】
【0083】
また、本発明の歯科用バルクブロックは、深さに応じて二軸曲げ強度の傾斜度を有する。特に、上述した結晶質サイズの傾斜度において平均粒径の範囲を考慮するとき、二軸曲げ強度の傾斜度は280MPa~450MPaの範囲内にあり得る。一方、本発明の歯科用バルクブロックは、上述したように様々な物性の機能的傾斜度を実現することができる側面及び加工性を考慮するとき、好ましくは結晶化度が35~70%であり得る。
【0084】
上記及び以下の記載において、「結晶化度」は、非晶質のガラスマトリックスに対する結晶相の比率と定義できるが、これは、様々な方法によって求めることができるので、本発明の一実施形態では、X線回折分析器によって自動計算された値である。
【0085】
このような本発明の歯科用バルクブロックは、連続的な非晶質のガラスマトリックス内に結晶相が析出したガラスセラミックであって、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト及びトリディマイトの中から選択された少なくとも1種のもの、クォーツ(quartz)及びリチウムホスフェート結晶相からなる結晶相を含み、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料を得ることができる。
【0086】
上記及び以下の記載において、「連続的なガラスマトリックス」という用語は、ガラスマトリックス内に層間界面が存在せず、ガラスマトリックスを構成する組成が全体ブロック内で同一であると定義できる。
【0087】
好ましいガラスマトリックスは、具体的にはSiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量%及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすものであり得る。
【0088】
ガラス組成物は、結晶化生成のために結晶核生成と結晶成長熱処理を経て非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を析出させるが、上述したガラスマトリックスは、結晶成長が起こる温度が760℃~880℃に該当する。すなわち、少なくとも490℃から結晶核が形成され始め、昇温しながら結晶成長が行われ、この結晶成長は、最大880℃で人工歯として使用する上で最も低い光透過性を示す。つまり、結晶が成長する温度から最大880℃まで透光性が次第に低くなるが、このような結晶成長に着目するときに、これを一つのバルクブロックで実現すると、これは、天然歯のマルチグラデーションを模倣することができる。
【0089】
天然歯は、一つの歯自体だけでなく、すべての歯が様々な透光性を有しており、このような熱処理温度による透光性の変化を一つのバルクブロックに具体化することができれば、十分に天然歯のマルチグラデーションを実現することができる。
【0090】
このような観点において、本発明は、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量%及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、480℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含むことで所定の形状のブロックを製造する段階と、
前記ブロックを760~880℃の温度範囲で熱処理するが、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理する段階と、を含む、切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0091】
上述したように、ガラス組成物は、熱処理温度範囲によって材料の光透過性が異なる特性を発現することができるので、熱処理が全体ブロックに一定に加えられると、一定の透光性を示すが、熱処理が温度勾配を与えてブロックに適用されると、一つのブロックにおいて物性又は透光性のマルチグラデーション(multigradation)を発現することができる。
【0092】
バルク形態のブロックの場合、CAD/CAM加工などの機械加工用ワークピース(workpiece)として使用されるが、本発明の製造方法は、このブロックを熱処理する際に深さ方向に対して温度勾配を与えて熱を加えることにより、透光性と強度がマルチグラデーションされたバルクブロックに製造することができる。
【0093】
従来の結晶化ガラスは、一般に結晶サイズが粗大であって透光性の調節が難しく、強度も強くて加工が難しいが、これに対し、本発明で採用したガラス組成物の場合、微結晶の形成が可能であり、これが温度に応じて様々なサイズ及びサイズ分布を示しながら、それぞれ物性及び光透過性が多様に現れることがあるので、この点を反映して一つのガラス組成からブロックを製作した後、これを温度勾配を与えて熱処理する方法によって一つのバルクブロックに機械的物性及び光透過性がマルチグラデーションされるように具体化することができる。
【0094】
このとき、「ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理する段階」の意味は、ブロックの深さ方向に対して下端から上端に至るまで順次上昇した温度勾配を与えることができるのはもとより、部分的に温度の差を与える方式の温度勾配も容認することができる。このような温度勾配方式の選別は、人工歯補綴物を必要とする患者の天然歯の特性に応じて変化できるか、或いはその補綴物を必要とする歯牙の部位が有する固有の特性に応じて可変的であり得るのは言うまでもない。
【0095】
しかしながら、従来の天然歯を考慮するとき、好ましい熱処理温度勾配は、ブロックの深さに対して下端から上端にわたって次第に温度が上昇する方式で温度勾配を与えて熱処理することが好ましい。
【0096】
好ましい一例として、熱処理する段階は、ブロックの上層部が840~880℃の温度範囲で、ブロックの下層部は760~800℃の温度範囲で印加されるように行われ、このような温度勾配のために実質的な熱処理を施す段階は、勾配熱処理炉内で作動温度900~1,100℃の下に1分~40分間行われることが好ましい。
【0097】
上述したガラス組成物を用いて上述した本発明の熱処理方法を採用する場合、天然歯の構造が歯茎側(cervical)である場合、透光性が低く、切端(incisal)側に行くほど透光性が高くなる特徴を模倣することができる。これにより、従来の方式と同様に、補綴物製作の際に別々に特徴付ける(characterizing)必要がないため、経済的に非常に利得になることができる。
【0098】
また、天然歯の物性は、表面層であるエナメル質は曲げ強度が高く、その内部の象牙質は強度が低いため、外部の力を吸収し分散させる役割を果たすが、本発明において熱処理深さによって微細構造の差により機械的物性、特に二軸曲げ強度が傾斜度を有する傾斜機能材料が可能であるので、天然歯の物性的側面と非常に類似するように再現することができることが特徴である。
【0099】
本発明によって得られた歯科用バルクブロックを用いて歯科修復物を製造することは、加工性の面で著しい向上を期待することができるが、具体的な一例として、本発明の一実施形態では、上述した歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、ポリッシング(polishing)またはグレージング(glazing)する段階と、を含む、歯科修復物の製造方法を提供する。
【0100】
上記及び以下の記載において、歯科修復物は、クラウン、インレー、オンレー、ベニア、アバットメントなどを全て含む。
【0101】
ここで、グレージングは、730~820℃で30秒~10分間行われることができるが、この場合は、熱処理による透光性の変化が殆どない通常の仕上げ熱処理段階であり得る。グレージングは、通常、バルクブロック固有の透光性を変化させない範囲内で行われ、グレージング熱処理の際には、表面の微細亀裂が緩和しながら(surface healing)強度が50%以上増加することができる。
【0102】
しかし、特異的な一実施形態において、本発明によるバルクブロックを使用する歯科修復物の製造方法において、グレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯科修復物の透光性を調節するための用途に使用できる。すなわち、バルクブロックを加工して歯科修復物に製造した後、最終仕上げ段階で透光性を減少させて明度を調節することができる用途にグレージングを活用することができる。
【0103】
バルクブロックを用いて加工者またはユーザ側で機械加工して歯科修復物を製造する際に、意図せずに透光性が高く変化する場合が発生することがあるが、この場合、通常のリチウムジシリケート系バルクブロックは、加工された該当バルクブロックを廃棄し、再びバルクブロックから所定の熱処理を経て目的の透光性を満たすバルクブロックを再加工した後、これを歯科修復物に加工する過程を再度経なければならない。しかし、本発明に係るバルクブロックの場合は、微細な結晶相を有する特異的なバルクブロックであって、熱処理温度に応じて透光性が調節される特性を発現することができるため、再加工が不要であり、歯科修復物に加工された加工物を最終仕上げする段階で所定の条件でグレージングする工程を経ることにより、簡易に透光性を再び調節することができる。これにより、グレージングによって歯科修復物への加工中に発生した変色歯(colored tooth)を簡易な方法で遮蔽することもできる。
【0104】
このような用途のためのグレージングは、好ましくは少なくとも825℃の温度で1分~20分間行われる。
【0105】
特徴的に本発明によって得られた歯科用バルクブロックの場合は、加工機械を用いて加工する上で加工中に工具に発生する抵抗性を著しく低下させることができるが、具体的な一例として、図1及び図2に示すような非晶質のガラスマトリックス中に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相がクリストバライト及びトリディマイトの中から選択された少なくとも1つ、クォーツ及びリチウムホスフェートからなり、深さに対して主結晶相サイズの傾斜度を有し、主結晶相サイズの傾斜度値変化ポイントに界面が存在しない傾斜機能材料である歯科用バルクブロック(this invention)に対して、サイズ12×14×18mmにして低速切断機(ISOMET low speed saw、Buehler製、ドイツ)とdiamond electroplated wheel(2514485H17、Norton製、米国)で250RPMにて回転させながら切断時間を測定した。そして、同じ方法で最も一般的なリチウムジシリケート系ブロック(conventional lithium disilicate)(Rosetta SM、HASS Corp社製)、ジルコニア強化リチウムジシリケート系バルクブロック(Zirconia reinforced lithium disilicate)(Celtra Duo、DentsplySiron社製)及びリチウムアルミノシリケート強化リチウムジシリケートバルクブロック(LAS reinforced lithium disilicate)(Nice、Straumann社製)に対して切断時間を測定した。
【0106】
このように得られたそれぞれの切断時間値から切削抵抗性(cutting resistance、%)を算出したが、具体的には、一般的なリチウムジシリケートブロックに対して得られた切断時間を100%とし、これに対する相対的な百分率で切断時間を換算してこれをそれぞれの切削抵抗性値として算出した。
【0107】
その結果を図4に示した。
【0108】
図4の結果から、切削抵抗性は、一般的なリチウムジシリケートブロックが最も高く、その次にLAS(lithium alumino silicate)結晶化ガラス、ジルコニア強化結晶化ガラスが高く、本発明によるブロッが最も低かった。このような結果から、本発明のガラスセラミックブロックが最も機械加工できる(machinable)ことを確認することができる。
【0109】
本発明の具体的な一実施形態は、まず、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~5.5重量%、ZnO0.23~0.6重量%、KO2.8~3.5重量%、NaO0.3~1.0重量%及びP2.0~6.0重量%を含み、Al/(KO+ZnO)のモル比は1.0~1.6を満たすガラス組成物を秤量して混合する。
【0110】
Alは、シリケートガラスに添加すると、テトラヘドラルサイト(tetrahedral site)に入り、グラスフォーマー(glass former)として機能し、粘度を増加させ、イオンのモビリティー(mobility)を低下させる役割を果たす。これに対し、KOとZnOは、粘度を下げ、イオンの移動度を増加させる。イオンの移動度が増加するほど、クリストバライトまたはトリディマイトの生成が優先配向成長するものと予測することができる。また、ZnOなどのmodifierの増加は、イオンの移動度を増加させ、ここに過量のSiOが含まれる場合、クリストバライトまたはトリディマイトおよびクォーツなどのminorな結晶相が、主結晶相であるリチウムジシリケートと共にガラスマトリックス内に析出する。このような側面において、Al/(KO+ZnO)のモル比が1.0~1.6であることが、追加結晶相としてクリストバライトまたはトリディマイト、クォーツ(qurtz)を含む本発明のバルクブロックを提供する上で好ましい。
【0111】
ガラス組成物として、LiOの代わりにLiCOを添加することもでき、LiCOの炭素(C)成分である二酸化炭素(CO)はガラスの溶融工程でガスとして排出されて抜け出す。また、アルカリ酸化物においてKO及びNaOの代わりにそれぞれKCO、NaCOを添加することもでき、KCO、NaCOの炭素(C)成分である二酸化炭素(CO2))はガラスの溶融工程でガスとして排出されて抜け出す。
【0112】
混合は乾式混合工程を用い、乾式混合工程としてはボールミリング(ball milling)工程などを用いることができる。ボールミリング工程について具体的に考察すると、出発原料をボールミリング機(ball milling machine)に装入し、ボールミリング機を一定の速度で回転させて出発原料を機械的に粉砕し、均一に混合する。ボールミリング機に使用されるボールは、ジルコニアやアルミナなどのセラミック材質からなるボールを使用することができ、ボールのサイズは、すべて同一であるか或いは少なくとも2種以上のサイズを有するボールを使用することができる。目標する粒子のサイズを考慮して、ボールのサイズ、ミリング時間、ボールミリング機の分当たりの回転速度などを調節する。一例として、粒子のサイズを考慮して、ボールのサイズは1mm~30mm程度の範囲に設定し、ボールミリング機の回転速度は50~500rpm程度の範囲に設定することができる。ボールミリングは、目標する粒子のサイズなどを考慮して1~48時間行うことが好ましい。ボールミリングによって、出発原料は、微細なサイズの粒子に粉砕され、均一な粒子サイズを有し、かつ均一に混合される。
【0113】
混合された出発原料を溶融炉に入れ、出発原料入りの溶融炉を加熱して出発原料を溶融する。ここで、溶融とは、出発原料が固体状態ではなく液体状態の粘性を有する物質状態に変化することを意味する。溶融炉は、高融点を有しながら強度が大きく溶融物がくっ付く現象を抑制するために、接触角が低い物質からなることが好ましく、このために、白金(Pt)、DLC(diamond-like-carbon)、シャモット(chamotte)などの物質からなるか、或いは白金(Pt)またはDLC(diamond-like-carbon)などの物質で表面がコーティングされた溶融炉であることが好ましい。
【0114】
溶融は、1400~2000℃で常圧にて1~12時間行うことが好ましい。溶融温度が1,400℃未満である場合には、出発原料が未だ溶融しないことがあり、前記溶融温度が2,000℃を超える場合には、過剰なエネルギーの消費が必要であって経済的ではないため、上述した範囲の温度で溶融することが好ましい。また、溶融時間が短すぎる場合には、出発原料が十分に溶融できなくなり、溶融時間が長すぎる場合には、過剰なエネルギーの消費が必要であって経済的ではない。溶融炉の昇温速度は5~50℃/min程度であることが好ましいが、溶融炉の昇温速度が遅すぎる場合には、多くの時間がかかって生産性が劣り、溶融炉の昇温速度が速すぎる場合には、急激な温度上昇により出発原料の揮発量が多くなり、結晶化ガラスの物性が良くないおそれがあるので、上述した範囲の昇温速度で溶融炉の温度を上げることが好ましい。溶融は、酸素(O)や空気(air)などの酸化雰囲気中で行うことが好ましい。
【0115】
溶融物を、所望の形状及びサイズの歯牙用結晶化ガラスを得るために定められた成形モールドに注ぐ。成形モールドは、高融点を有しながら強度が大きく、ガラス溶融物がくっ付く現象を抑制するために接触角が低い物質からなることが好ましく、このために、黒鉛(graphite)やカーボン(carbon)などの物質からなり、熱衝撃を防止するために200~300℃で予熱し、溶融物を成形モールドに注ぐことが好ましい。
【0116】
成形モールドに入った溶融物が成形および冷却されるので、冷却過程の後に480℃から280℃まで20分~2時間所定の速度で徐冷(annealing)する段階を経ることが好ましい。このように徐冷段階を経ることが成形物内での応力偏差を低減して、好ましくは応力が存在しないようにして、以後の結晶化段階で結晶相のサイズ制御及び結晶分布の均質度向上に好ましい影響を与えることができ、これにより、究極的に目的する傾斜機能材料を得ることができる。
【0117】
ここで、所定の速度は、1.6℃/分~10℃/分であることが好ましい。
【0118】
このように徐冷過程を経た成形物を結晶化熱処理焼成炉に移して核形成及び結晶成長させて目的の結晶化ガラスを製造する。
【0119】
図5には、本発明による温度勾配を与えて結晶化熱処理を行う方法を模式化して示したが、ブロックタイプ又はインゴットタイプのバルクブロックを結晶化熱処理する上で深さ方向に沿って上端は高温の熱処理を行い、下端は低温の熱処理を行うように温度勾配を与えて熱処理する。
【0120】
上記及び以下の記載において温度勾配を与えて熱処理する段階は、特定の装置及び方法に限定されるものではないが、一例として、勾配熱処理炉内で行われることができ、熱処理温度を考慮するとき、作動温度は900~1,100℃であることが好ましい。
【0121】
このような温度勾配を与えた熱処理によって、高温部分から低温部分への光透過率は、高透過率(high transmittance)であって傾斜度を有し、二軸曲げ強度は、低強度(low flexural strengh)であって傾斜度を有する様相を示す。これは、結晶化ガラス内の結晶サイズが温度に応じて調節できるためである。温度勾配を有する熱処理の後に生成される結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相はクリストバライトおよびトリディマイトの中から選択された少なくとも1つ、クォーツおよびリチウムホスフェートからなり、760~880℃の温度勾配で平均粒径0.05μm~1.5μmの主結晶相のサイズ傾斜度を有するように生成できる。
【0122】
一方、本発明によって得られたバルクブロックについて深さに対する結晶質の粒子サイズを分析し、これを図6に示した。
【0123】
また、本発明によって得られたバルクブロックについて深さに対する二軸曲げ強度の変化を測定し、これを図7に示した。
【0124】
本発明は、図面に示された一実施形態を参照して説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当技術分野における通常の知識を有する者であれば、これから様々な変形及び均等な他の実施形態が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、天然歯の構造的特性に近似した人工歯を製造するのに有用な、切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法に関する。
【0126】
本発明による歯科用バルクブロックは、CAD/CAMなどの切削加工によって他の工程の追加なしにも繰り返し再現性よく、天然歯に近似したマルチグラデーション透光性ないし物性を有する人工歯修復材料の製造に容易に使用でき、人工歯補綴物を製作する時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化によって力の分散面で構造的安定性が増加した効果をもたらすことができ、このような歯科用バルクブロックは、特定の組成を有する単一のガラス組成物を用いて勾配熱処理する簡易な方法によって製造できるという利点がある。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】