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特表2024-519131切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/833 20200101AFI20240426BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20240426BHJP
【FI】
A61K6/833
A61K6/853
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572237
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2021006673
(87)【国際公開番号】W WO2022250183
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516371391
【氏名又は名称】ハス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HASS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】77-14,Gwahakdanji-ro Gangneung-si Gangwon-do 25452,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン ボン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ス
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA02
4C089BA04
4C089BA07
4C089BA12
4C089BA13
4C089BA14
4C089BA15
4C089CA04
(57)【要約】
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相が存在せず、結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、結晶化度が25~45%である切削加工のための歯科用バルクブロックを開示するが、これは、曲げ強度が高い高強度のワークピース(workpiece)である状態でCAD/CAMなどの切削加工時に加工性を改善することができるため、工具抵抗性及び摩耗率を減少させ、工具寿命を増加させることができ、加工時に辺縁部のチッピングを減少させることができ、ブロックを機械加工し、後熱処理条件を異ならせる簡易な工程を介して、それぞれ異なる透明性を有する歯科修復物に製造することができることにより、様々なシェード(shade)を実現することができて物流管理の簡素化に寄与することができるという利点がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、
結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相が存在せず、
結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、
結晶化度が25~45%である
ことを特徴とする切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項2】
ISO6872に基づく二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)が200~380MPaであり、破壊靭性(fracture toughness)が1.7~2.1MPa・m1/2である
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項3】
811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、40~50%の平均光透過度を達成する
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項4】
821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、30~40%の平均光透過度を達成する
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項5】
851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、20~30%の平均光透過度を達成する
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項6】
ガラスマトリックスは、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3重量%及びP2.0~6.0重量%を含む
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロック。
【請求項7】
SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3及びP2.0~6.0重量%を含むガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、465℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含むことで所定の形状のブロックを製作する段階と、
前記ブロックを炉内温度300℃から開始して最高温度755~810℃まで30分~6時間結晶化熱処理する段階と、を含む
ことを特徴とする切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、
歯科修復物を熱処理して透光性を調節する段階と、を含み、
前記透光性を調節する段階は、811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理する高透光性調節段階、821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理する中間透光性調節段階、及び851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理する低透光性調節段階の中から選択された少なくとも1つの段階である
ことを特徴とする歯科修復物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得られ、
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミック体であって、
結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相はクリストバライト(cristobalite)、トリディマイト(tridymite)、クォーツ(quartz)、スポジュミン(spodumene)、バージライト(virgilite)、及びこれらの混合物の中から選択された少なくとも1種の結晶相を含み、
二軸曲げ強度が少なくとも450MPaである
ことを特徴とする歯科修復物。
【請求項10】
歯科修復物は、クラウン、インレー、オンレー、及びベニアの中から選択されたものである
請求項9に記載の歯科修復物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度のワークピース(workpiece)でありながら様々な透明度を実現することができる、切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法に関する。本発明は、江原テクノパークの素材・部品・装備企業育成及び技術自立支援プロジェクトの支援を受けて行われた研究結果物である。
【背景技術】
【0002】
リチウムジシリケート結晶を含むガラスを用いて人工歯を製作する素材及び方法(monolithic dental crown)は、既に多くの特許に公知されている。しかし、公知の技術は、結晶相のサイズが粗大であって直ちに機械加工が難しく、加工のためには、1次にリチウムメタシリケート結晶相(machinable crystalline)を形成して加工した後、2次に熱処理を実施して高強度のリチウムジシリケート結晶相を形成させる方法を経る。この場合、後熱処理工程による収縮で寸法の正確性が劣り、熱処理工程が追加されるという煩わしさがある。一般に、CAD/CAMによる補綴物加工は、病院で直接バルク体を加工して補綴物を製作し、これを患者に最大限早く試適しなければならないので(one-day appointment)、熱処理工程による時間遅延は患者及びユーザに経済的な困難を付加させる。
【0003】
また、従来のリチウムジシリケート結晶化ガラス素材は、粗大な結晶相により、天然歯に近似した高い光透過率や乳白性(opalescence)を実現するのに限界がある。
【0004】
特に、従来のリチウムジシリケート結晶化ガラス素材は、加工のために1次に加工性の良いリチウムメタシリケート(Lithium metasilicate)結晶化ガラスを作り、加工後、2次結晶化熱処理を介してリチウムジシリケートを形成させて強度を増進させる。このとき、結晶相のサイズが約3μm以上であり、この状態では加工性が顕著に劣り、強度的な部分のみを実現することができた。
【0005】
かかる問題点を解決するために、本出願人は、1次熱処理の温度変化によって結晶サイズを調節して加工性に優れたリチウムジシリケート結晶相とシリケート結晶相を含む結晶化ガラスの製造方法を提案し、既に特許を受けたことがある(特許文献1:韓国特許第10-1975548号)。具体的には、ここでは、SiO60~83重量%、LiO10~15重量%、核形成剤の役割を果たすP2~6重量%、ガラス転移温度及び軟化点を増加させ、ガラスの化学的耐久性を増進させるAl1~5重量%、ガラスの軟化点を増加させるSrO0.1~3重量%、ZnO0.1~2重量%、調色剤(colorant)1~5重量%、及びガラスの熱膨張係数を増加させるアルカリ金属酸化物であるNaO+KO2.5~6重量%を含むガラス組成物に対して、400℃~850℃で1次熱処理を行う段階と、前記1次熱処理の後に780℃~880℃で2次熱処理を行う段階と、を含み、前記1次熱処理によってナノサイズ5nm~2000nmのリチウムジシリケート結晶相及びシリカ結晶相が生成され、前記2次熱処理温度によって透光性が調節されることを特徴とする、シリカ結晶相を含む歯牙用結晶化ガラスの製造方法を開示した。
【0006】
ここでは、一次結晶化熱処理によって得られた結晶化ガラスは、結晶相のサイズが5~2000nmであり、リチウムジシリケート結晶相以外にシリカ結晶相が析出することにより、リチウムジシリケート状態で機械加工が可能な素材であり、加工切削力の面で、好ましくは480~800℃の温度範囲で一次結晶化熱処理してサイズ30~500nmのリチウムジシリケート及びシリカ結晶相を有することを確認した。
【0007】
本発明者らは、一次結晶化熱処理結果物をワークピース(workpiece)にして、消費者であるお医者さんや技工士が実行する機械加工における加工性を向上させながらも、簡易な後熱処理によって物理的性質及び審美性が向上した人工歯を提供することができる方案を模索し、本発明の案出に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許第10-1975548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、追加の熱処理工程によって修復物の透光性調節が可能でありながら、高強度のワークピース状態でもCAD/CAMなどの切削加工時に優れた加工性を発現することができる歯科用ガラスセラミックブロックを提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相が存在せず、結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、結晶化度が25~45%である、切削加工のための歯科用バルクブロックを提供する。
【0011】
好適な一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、ISO6872に基づく二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)が200~380MPaであり、破壊靭性(fracture toughness)が1.7~2.1MPa・m1/2であり得る。
【0012】
本発明の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、40~50%の平均光透過度を達成することができる。
【0013】
本発明の他の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、30~40%の平均光透過度を達成することができる。
【0014】
本発明の別の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、20~30%の平均光透過度を達成することができる。
【0015】
本発明による切削加工のための歯科用バルクブロックにおいて、ガラスマトリックスは、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3重量%及びP2.0~6.0重量%を含むことができる。
【0016】
また、本発明は、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3及びP2.0~6.0重量%を含むガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、465℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含むことで所定の形状のブロックを製作する段階と、
【0017】
前記ブロックを炉内温度300℃から開始して最高温度755~810℃まで30分~6時間結晶化熱処理する段階と、を含む、切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、
歯科修復物を熱処理して透光性を調節する段階と、を含み、
前記透光性を調節する段階は、811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理する高透光性調節段階、821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理する中間透光性調節段階、及び851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理する低透光性調節段階の中から選択された少なくとも1つの段階である、歯科修復物の製造方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記一実施形態の製造方法によって得られ、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミック体であって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相はクリストバライト(cristobalite)、トリディマイト(tridymite)、クォーツ(quartz)、スポジュミン(spodumene)、バージライト(virgilite)、及びこれらの混合物の中から選択された少なくとも1種の結晶相を含み、二軸曲げ強度が少なくとも450 MPa である、歯科修復物を提供する。
【0020】
一実施形態において、歯科修復物は、クラウン、インレー、オンレー、及びベニアの中から選択されたものであり得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る歯科用バルクブロックは、曲げ強度が高い高強度のワークピース(workpiece)である状態でCAD/CAM等の切削加工時に加工性を改善することができるため、工具抵抗性及び摩耗率を減少させ、工具寿命を増加させることができ、加工時に辺縁部のチッピングを減少させることができ、ブロックを機械加工し、後熱処理条件を異ならせる簡易な工程によって、それぞれ異なる透明性を有する歯科修復物に製造することができることにより、様々なシェード(shade)を実現することができて物流管理の簡素化に寄与することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のバルクブロックのX線回折分析結果グラフである。
図2】本発明のバルクブロックの微細構造及び結晶相サイズを示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】本発明のバルクブロックに対する切削抵抗性(cutting resistance)の比較グラフである。
図4】本発明の歯科用バルクブロックの後熱処理温度別の透過度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
前述した、及び追加の本発明の態様は、添付図面を参照して説明される好適な実施形態によってより明らかになるであろう。以下では、本発明のこのような実施形態によって当業者が容易に理解し、再現することができるように詳細に説明する。
【0024】
本発明の一実施形態は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相が存在せず、結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、結晶化度が25~45%である、切削加工のための歯科用バルクブロックを提供する。
【0025】
上記および以下の記載において、主結晶相という用語は、全結晶相のうち少なくとも80重量%を占める結晶相と定義され、追加結晶相という用語は、全結晶相のうち主結晶相ではない残りの結晶相と定義されることができる。
【0026】
結晶相の含有量は、X線回折分析によって算出できるが、一例として2つの多形相aとbからなっている試験片において、結晶相aの割合Faは、定量的に次の数式1で表される。
【0027】
【数1】
【0028】
この値は、2つの結晶相の強度比の測定と整数Kを得ることにより求めることができる。Kは、2つの純粋な多形相の絶対強度比Ioa/Iobであり、標準物質を測定して求める。
【0029】
上記及び以下の記載において、主結晶相という用語は、このような方法によって算出された含有量に基づいて設定されたものと定義できる。
【0030】
上記及び以下の記載において、バルクブロックは、その形状的制限がなく、一例としてブロック(block)形態、ディスク(disk)形態、インゴット(ingot)形態、シリンダ(cylinder)形態などの様々な形態のバルク体を含むことができる。
【0031】
好適な一実施形態によるバルクブロックに対するXRD分析結果グラフは、図1に示すとおりである。
【0032】
図1において、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、主結晶相がリチウムジシリケートであって、純粋なリチウムジシリケート結晶相のみがガラスマトリック内で析出し、その結晶化度が25~45%に達する。
本発明の歯科用バルクブロックは、後熱処理による透明性の調節及び加工性を考慮するとき、好ましくは、結晶化度が25~45%であり得る。
【0033】
上記及び以下の記載において、「結晶化度」は、非晶質のガラスマトリックスに対する結晶相の比率と定義できるが、これは、様々な方法によって求めることができるので、本発明の一実施形態では、X線回折分析器によって自動計算された値である。
【0034】
上記及び以下の記載において、XRD分析は、X線回折分析器(D/MAX-2500、株式会社リガク製、日本;Cu Kα(40kV、60mA)、走査速度:6°/分、2θ:10~70(degree)、株式会社リガク製、日本)を用いて分析した結果として理解されるであろう。
【0035】
このような結晶相は、微結晶への形成が可能であり、これが温度に応じて様々なサイズ及びサイズ分布を示しながら、機械的物性と光透過性を多様に実現することができる特性を有する。
【0036】
また、一例として、図2には、本発明の歯科用バルクブロックに対する走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示したが、その結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、リチウムメタシリケートを主結晶相とする従来のCAD/CAMワークピースと対比して結晶サイズが2.5~40倍程度減少した結晶相を有する特徴を持つ。
【0037】
このように得られたSEM写真によって結晶相粒子の平均サイズを導き出すことができるが、具体的には、SEM写真に対角線又は無作為の直線を引いて直線が通過する結晶相の数を直線の長さで割って倍率を勘案することにより、linear intercept methodによって求めることができる。
上記及び以下の記載において、結晶相のサイズは、このような方法に従って算出されたものと理解される。
【0038】
このような結晶サイズと結晶化度を満たすことにより、切削加工のための歯科用バルクブロックは、ISO6872に基づく二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)が200~380MPaであり、破壊靭性(fracture toughness)が1.7~2.1MPa・m1/2に達することができるが、これは、通常、リチウムメタシリケートを主結晶相とする従来のCAD/CAMワークピースと対比して10~15%向上した物理的性質を満たすものであって、これにより加工時に辺縁部のチッピング(chipping)を約30%以上減少させることができるという利点を発揮することができる。
【0039】
特徴的に本発明によって得られた歯科用バルクブロックの場合は、加工機械を用いて加工する上で加工中に工具に発生する抵抗性を著しく低下させることができるが、具体的な一例として、図1及び図2に示すような非晶質のガラスマトリックス中に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、サイズ12×14×18mmにして低速切断機(ISOMET low speed saw、Buehler製、ドイツ)とdiamond electroplated wheel(2514485H17、Norton製、米国)で250RPMにて回転させながら切断時間を測定した。そして、同じ方法で最も一般的なリチウムジシリケート系ブロック(conventional lithium disilicate)(Rosetta SM、HASS Corp社製)、ジルコニア強化リチウムジシリケート系バルクブロック(Zirconia reinforced lithium disilicate、Celtra Duo、DentsplySiron社製)及びリチウムアルミノシリケート強化リチウムジシリケートバルクブロック(LAS reinforced lithium disilicate、Nice、Straumann社製)に対して切断時間を測定した。
【0040】
このように得られたそれぞれの切断時間値から切削抵抗性(cutting resistance、%)を算出したが、具体的には、一般的なリチウムジシリケートブロックに対して得られた切断時間を100%とし、これに対する相対的な百分率で切断時間を換算してこれをそれぞれの切削抵抗性値として算出した。
その結果を図3に示した。
【0041】
図3の結果から、切削抵抗性は、一般的なリチウムジシリケートブロックが最も高く、その次にLAS(lithium alumino silicate)結晶化ガラス、ジルコニア強化結晶化ガラスが高く、本発明によるブロッが最も低かった。このような結果から、本発明のガラスセラミックブロックが最も機械加工できる(machinable)ことを確認することができる。
【0042】
上述したように、本発明によって非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相が存在せず、結晶相のサイズが平均粒径0.01~1.0μmであり、結晶化度が25~45%であるバルクブロックは、その結晶相が温度に応じて様々なサイズ及びサイズ分布を示しながら、機械的物性と光透過性を多様に実現することができる特性を有することができる。
【0043】
一例として、本発明の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、40~50%の平均光透過度を達成することができる。このような高い半透明度(High Translucency)を有する場合は、インレー又はオンレーとして有用であり得るが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明の他の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、30~40%の平均光透過度を達成することができる。このような中間半透明度(medium translucency)を満足する場合は、着色用途に有用であり得るが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明の別の一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックは、851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理したとき、20~30%の平均光透過度を達成することができる。このような低い半透明度(low traslucency)を有する場合は、臼歯部歯冠(posterior crown)などの用途に有用であり得るが、これに限定されるものではない。
【0046】
上記及び以下の記載における光透過度は、紫外可視分光器(UV-2401PC、島津製作所製、日本)を用いて測定したものである。
【0047】
本発明による歯科用バルクブロックに対して光透過度を測定するために、試験片の表面をエタノールを用いて綺麗に拭き取り、紫外可視分光計(UV-2401PC、島津製作所製、日本)を用いて測定した。このとき、測定波長範囲は300~800nmとし、スリット幅は2.0nmとした。平均光透過度は、全波長範囲の光透過度値に対する平均値として定義できる。
【0048】
このような方法によって測定された熱処理温度別バルクブロックの光透過度変化グラフは、図4に示すとおりである。
【0049】
一方、本発明による切削加工のための歯科用バルクブロックにおいて、ガラスマトリックスは、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3重量%及びP2.0~6.0重量%を含むことができる。
【0050】
このようなガラスマトリックスを構成するガラス組成物は、結晶化生成のために結晶核生成と結晶成長熱処理を経て非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を析出させるが、上述したガラスマトリックスは、結晶核と結晶成長が起こる温度が500℃~880℃に該当する。すなわち、少なくとも500℃から結晶核が形成され始め、昇温しながら結晶成長が行われる。この結晶成長は、最大880℃で人工歯として使用する上で最も低い光透過性を示す。すなわち、結晶が成長する温度から最大880℃まで透光性が次第に低くなるが、このような結晶成長に着目するときに、高強度を満足しながらも機械加工が可能な加工性を満たす程度に結晶成長をさせた後、得られた一つのバルクブロックを用いて機械加工し、しかる後に、熱処理条件を異ならせて、要求される試適位置や患者の歯牙固有の色を勘案して透明性を調節することができれば、究極的には物流管理の簡素化に寄与することができる。
【0051】
天然歯は、一つの歯牙自体だけでなく、全ての歯牙が多様な透明性を有しており、患者別、試適位置別に要求される透明性(traslucency)が異なることができるので、このような熱処理温度による透明性の変化を一つのバルクブロックを用いて必要に応じて多様に実現することができれば、少量のワークピースを用いて多様な審美的要求を満たす人工歯を提供することができる。
【0052】
このような観点において、本発明は、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3重量%及びP2.0~6.0重量%を含むガラス組成物を溶融し、モールドで成形及び冷却し、465℃から280℃まで20分~2時間所定の速度でアニールする段階を含むことで所定の形状のブロックを製作する段階と、
【0053】
前記ブロックを炉内温度300℃から開始して最高温度755~810℃まで30分~6時間結晶化熱処理する段階と、含む、切削加工のための歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0054】
本発明の具体的な一実施形態は、まず、SiO69.0~75.0重量%、LiO12.0~14.0重量%、Al2.5~3.5重量%、ZnO0.12~0.22重量%、KO1.1~2.7重量%、NaO0.1~0.3重量%及びP2.0~6.0重量%を含むガラス組成物を秤量して混合する。
【0055】
ガラス組成物として、LiOの代わりにLiCOを添加することもでき、LiCOの炭素(C)成分である二酸化炭素(CO)はガラスの溶融工程でガスとして排出されて抜け出す。また、アルカリ酸化物においてKO及びNaOの代わりにそれぞれKCO、NaCOを添加することもでき、KCO、NaCOの炭素(C)成分である二酸化炭素(CO)はガラスの溶融工程でガスとして排出されて抜け出す。
【0056】
混合は乾式混合工程を用い、乾式混合工程としてはボールミリング(ball milling)工程などを用いることができる。ボールミリング工程について具体的に考察すると、出発原料をボールミリング機(ball milling machine)に装入し、ボールミリング機を一定の速度で回転させて出発原料を機械的に粉砕し、均一に混合する。ボールミリング機に使用されるボールは、ジルコニアやアルミナなどのセラミック材質からなるボールを使用することができ、ボールのサイズは、すべて同一であるか或いは少なくとも2種以上のサイズを有するボールを使用することができる。目標する粒子のサイズを考慮して、ボールのサイズ、ミリング時間、ボールミリング機の分当たりの回転速度などを調節する。一例として、粒子のサイズを考慮して、ボールのサイズは1mm~30mm程度の範囲に設定し、ボールミリング機の回転速度は50~500rpm程度の範囲に設定することができる。ボールミリングは、目標する粒子のサイズなどを考慮して1~48時間行うことが好ましい。ボールミリングによって、出発原料は、微細なサイズの粒子に粉砕され、均一な粒子サイズを有し、かつ均一に混合される。
【0057】
混合された出発原料を溶融炉に入れ、出発原料入りの溶融炉を加熱して出発原料を溶融する。ここで、溶融とは、出発原料が固体状態ではなく液体状態の粘性を有する物質状態に変化することを意味する。溶融炉は、高融点を有しながら強度が大きく溶融物がくっ付く現象を抑制するために、接触角が低い物質からなることが好ましく、このために、白金(Pt)、DLC(diamond-like-carbon)、シャモット(chamotte)などの物質からなるか、或いは白金(Pt)またはDLC(diamond-like-carbon)などの物質で表面がコーティングされた溶融炉であることが好ましい。
【0058】
溶融は、1400~2000℃で常圧にて1~12時間行うことが好ましい。溶融温度が1,400℃未満である場合には、出発原料が未だ溶融しないことがあり、前記溶融温度が2,000℃を超える場合には、過剰なエネルギーの消費が必要であって経済的ではないため、上述した範囲の温度で溶融することが好ましい。また、溶融時間が短すぎる場合には、出発原料が十分に溶融できなくなり、溶融時間が長すぎる場合には、過剰なエネルギーの消費が必要であって経済的ではない。溶融炉の昇温速度は5~50℃/min程度であることが好ましいが、溶融炉の昇温速度が遅すぎる場合には、多くの時間がかかって生産性が劣り、溶融炉の昇温速度が速すぎる場合には、急激な温度上昇により出発原料の揮発量が多くなり、結晶化ガラスの物性が良くないおそれがあるので、上述した範囲の昇温速度で溶融炉の温度を上げることが好ましい。溶融は、酸素(O)や空気(air)などの酸化雰囲気中で行うことが好ましい。
【0059】
溶融物を、所望の形状及びサイズの歯牙用結晶化ガラスを得るために定められた成形モールドに注ぐ。成形モールドは、高融点を有しながら強度が大きく、ガラス溶融物がくっ付く現象を抑制するために接触角が低い物質からなることが好ましく、このために、黒鉛(graphite)やカーボン(carbon)などの物質からなり、熱衝撃を防止するために200~300℃で予熱し、溶融物を成形モールドに注ぐことが好ましい。
【0060】
成形モールドに入った溶融物が成形および冷却されるので、冷却過程の後に465℃から280℃まで20分~2時間所定の速度で徐冷(annealing)する段階を経ることが好ましい。このときの所定の速度は、1.6℃/分~10℃/分であることが好ましい。
【0061】
このように徐冷段階を経ることが成形物内での応力偏差を低減して、好ましくは応力が存在しないようにして、以後の結晶化段階で結晶相のサイズ制御及び結晶分布の均質度向上に好ましい影響を与えることができる。
このように徐冷過程を経た成形物を結晶化熱処理焼成炉に移して核形成及び結晶成長させて目的の結晶化ガラスを製造する。
【0062】
このとき、結晶化熱処理は、炉内温度300℃から開始して最高温度755~810℃まで30分~6時間行われ、これにより純粋なリチウムジシリケートのみを結晶相として有し、その結晶のサイズが0.01~1.0μmである結晶相を含むバルクブロックを得ることができる。
【0063】
このような方法によって得られる歯科用バルクブロックは、熱処理温度範囲によって材料の光透明性が異なる特性を発現することができる。
【0064】
バルク形態のブロックの場合、CAD/CAM加工などの機械加工用ワークピース(workpiece)として使用されるが、従来の結晶化ガラスは、一般に結晶サイズが粗大であって透光性の調節が難しく、強度も強くて加工が難しいのに対し、本発明のブロックは、微結晶を含み、これが温度に応じて様々なサイズ及びサイズ分布を示しながらそれぞれ物性と透明性が多様に現れることができるので、このような点を反映して一つのガラス組成からブロックを製作した後、得られたブロックを機械加工した以後に熱処理条件別の透明性を制御することができる。
【0065】
このような側面において、本発明は、前記一実施形態による切削加工のための歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯科修復物を製造する段階と、歯科修復物を熱処理して透光性を調節する段階と、を含み、前記透光性を調節する段階は、811~820℃の範囲で1分~1時間熱処理する高半透光性調節段階、821~850℃の範囲で1分~1時間熱処理する中間半透光性調節段階、及び851~880℃の範囲で1分~1時間熱処理する低半透光性調節段階の中から選択された少なくとも一つの段階である、歯科修復物の製造方法を提供する。
【0066】
本発明による歯科修復物は、図4に示すような特徴を発現することにより、一つのブロックを介して低い半透明度から高い半透明度(中間程度の不透明度を含む)を有する歯科修復物を得ることができ、これにより80種類以上の多様なシェード(shade)を実現することができる。
【0067】
このようにして得られる歯科修復物は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミック体であって、結晶相は、主結晶相がリチウムジシリケートであり、追加結晶相はクリストバライト(cristobalite)、トリディマイト(tridymite)、クォーツ(quartz)、スポジュミン(spodumene)、バージライト(virgilite)、及びこれらの混合物の中から選択される少なくとも1種の結晶相を含むことができ、二軸曲げ強度が少なくとも450MPaであり、上述したように試適する位置または患者に応じて透明度が調節された様々な歯科修復物を提供することができる。
これにより、臼歯部咬合力までは耐えられながら様々な透明性を実現することで、審美性が向上した歯修復物を提供することができる。
【0068】
上記及び以下の記載において、歯科修復物は、クラウン、インレー、オンレー及びベニアの中から選択されたものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0069】
本発明は、図面に示された一実施形態を参照して説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当技術分野における通常の知識を有する者であれば、これから様々な変形及び均等な他の実施形態が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、高強度のワークピースでありながら様々な透明度を実現することができる、切削加工のための歯科用バルクブロック及びその製造方法に関する。
【0071】
本発明に係る歯科用バルクブロックは、曲げ強度が高い高強度のワークピース(workpiece)である状態でCAD/CAM等の切削加工時の加工性を改善することができるため、工具抵抗性及び摩耗率を減少させ、工具寿命を増加させることができ、加工時の辺縁部のチッピングを減少させることができ、ブロックを機械加工し、後熱処理条件を異ならせる簡易な工程によって、それぞれ異なる透明性を有する歯科修復物に製造することができることにより、様々なシェード(shade)を実現することができて物流管理の簡素化に寄与することができるという利点がある。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】