(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】PCR装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240426BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572811
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 CN2021096731
(87)【国際公開番号】W WO2022246797
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521542199
【氏名又は名称】ワン チンフン
【氏名又は名称原語表記】WANG, Chin Hung
【住所又は居所原語表記】3F.-3, No. 103, Sec. 4, Nanjing E. Rd., Songshan Dist., Taipei 10580, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】ワン チンフン
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029FA12
(57)【要約】
キャリアを含む搬送モジュールと、円形であり、キャリアがトラックに沿って移動することを可能にするトラックと、キャリア上に配置され、少なくとも1つの反応管を着脱可能に含む少なくとも1つの管ホルダと、少なくとも1つの反応管の温度を調節するための少なくとも1つの温度供給ブロックを含む温度供給モジュールとを備える、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCR装置であって、
搬送モジュールであって、
ベンチと、
前記ベンチがレールに沿って移動することを可能にするループ状のレールと、
前記ベンチ上に配置され、少なくとも1つの反応管が前記少なくとも1つのホルダに着脱可能に配置されることを可能にする少なくとも1つのホルダと
を含む搬送モジュールと、
前記少なくとも1つの反応管の温度を調整するための少なくとも1つの熱供給ブロックを含む熱供給モジュールと
を備える、
PCR装置。
【請求項2】
前記ホルダの数は1~100である、
請求項1に記載のPCR装置。
【請求項3】
前記熱供給モジュールは熱伝達媒体および出力部を更に備える、
請求項1に記載のPCR装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記熱伝達媒体を貯蔵および/または出力し、前記熱供給ブロックは、前記熱伝達媒体の温度を調整し、前記出力部は、前記熱伝達媒体の流れを可能にするために、パイプラインによって前記熱供給ブロックに接続する、
請求項3に記載のPCR装置。
【請求項5】
前記熱伝達媒体は気体または液体である、
請求項3に記載のPCR装置。
【請求項6】
前記熱供給ブロックのいくつかは同じ出力部を共有する、
請求項3に記載のPCR装置。
【請求項7】
前記熱供給モジュールは、前記熱伝達媒体と前記少なくとも1つの反応管との接触を制御するための弁を更に備える、
請求項3に記載のPCR装置。
【請求項8】
前記搬送モジュールの動作モードを制御し、前記熱供給モジュールの熱供給モードを制御するための制御モジュールを更に備える、
請求項1に記載のPCR装置。
【請求項9】
前記搬送モジュールの前記動作モードは、第1のホルダが停止するステーションの数と、前記搬送モジュールの動作の1サイクルの完了時に前記第1のホルダが初期位置に戻るまでに前記第1のホルダが前記ステーションのそれぞれに留まる停止時間とを含む、
請求項8に記載のPCR装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つのホルダが停止する前記ステーションの数は0~100である、
請求項9に記載のPCR装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つのホルダが前記ステーションのそれぞれに留まる前記停止時間は1~300秒である、
請求項9に記載のPCR装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つのホルダは、同じ数のステーションで、前記ステーションのそれぞれで同じ停止時間停止する、
請求項9に記載のPCR装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つのホルダが前記ステーションのそれぞれに留まっている間に、1PCRサイクルが行われる、
請求項9に記載のPCR装置。
【請求項14】
前記熱供給モードは、熱供給温度および熱供給時間を含む、
請求項8に記載のPCR装置。
【請求項15】
前記熱供給温度は、1PCRサイクル中の変性段階、アニーリング段階および拡大段階においてそれぞれ順次92~96℃、45~70℃および67~77℃である、
請求項14に記載のPCR装置。
【請求項16】
1PCRサイクル中の変性段階、アニーリング段階および拡大段階の前記熱供給時間は合計1~300秒である、
請求項14に記載のPCR装置。
【請求項17】
前記熱供給モジュールは少なくとも1つの熱供給モードを有する、
請求項8に記載のPCR装置。
【請求項18】
前記熱供給モジュールは、第1の熱供給モードで第1の時点におけるホルダの第1の部分の温度を調整し、第2の熱供給モードでホルダの第2の部分の温度を調整し、前記第1の熱供給モードと前記第2の熱供給モードは、熱供給温度および熱供給時間の少なくとも一方が異なる、
請求項17に記載のPCR装置。
【請求項19】
前記ベンチを駆動するのに必要な動力を供給するための駆動モジュールを更に備える、
請求項1に記載のPCR装置。
【請求項20】
前記少なくとも1つの反応管内の生成物含有量を検査するための検査モジュールを更に備える、
請求項1に記載のPCR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、実験用反応装置および反応方法に関し、特に、試料の反応前ローディングの待ち時間を短縮し、総熱供給時間を共通化し、かつ、熱媒体を共通化したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術は、核酸を含有する試料溶液を繰り返し加熱および冷却し、それによって特定の塩基配列領域を有する核酸を指数関数的に増大させることを含む。核酸を増大させる技術は、通常、生命科学、遺伝子工学、医学に応用され、分析や診断を行う。
【0003】
ユーザのニーズを満たすために、様々なPCR装置が市販されている。基礎実験室では通常、採取した試料はマイクロ試験管に添加され、次いで、マイクロ試験管はPCR装置内に置かれ、試料は同時かつ一括して核酸を増大させるサイクルを経る。したがって、これらのタイプのバッチ反応装置は、多数の試料を必要とするだけでなく、複数の試料を比較および分析することも必要とする学術研究に適している。
【0004】
しかしながら、臨床治療を目的として実行される医学的検査は、緊急事態に直面することが多く、検査結果を直ちに得て、その後に必要な治療処置(略してSTAT)を決定する必要がある。試料をベンチ上に置いて反応を起こす状態で、反応がPCR装置を用いてバッチで実行される場合、供給される検査対象のSTAT試料は、反応を起こすためにローディングされる順番を待たなければならず、その結果、STAT試料は、検査結果を得るのに多くの時間を費やすことになる。具体的には、検査結果を得るまでにかかる合計時間は、STAT試料が反応を起こすのにかかる時間とSTAT試料が順番を待つのにかかる時間とを含む。厳しいシナリオでは、検査結果を時間内に受け取れず、試料のペイシェントオーナに与えられる治療処置が遅延する。更に、STAT試料は緊急のケースであることが多いが、同時に供給されることは稀である。したがって、装置効率の低下と消費電力の増加を伴うとは言え、できるだけ早く検査結果を得るという観点から、PCR装置を使用してバッチで実行される反応を起こすために、少数の試料しかローディングできない。
【0005】
上述したように、STAT試料に関する試験結果を得ることが緊急であるばかりでなく、STAT試料もまた、様々な時点で到着するため、全ての試料の採取が完了した時点で試料をまとめてローディングすることができない。これらの問題に対処するために、試料を保持し、試料を別々に反応させるための複数の試料チャンバを有する従来のPCR装置が提供される。具体的には、複数の試料チャンバに異なる時点で試料を添加するだけでなく、試料チャンバに試料を添加する時点や、試料が起こす反応のタイプに応じて、様々の熱供給温度、熱供給時間または熱供給サイクル数を設定することも可能である。しかしながら、開示されている先行技術による上記大型PCR装置は、複数の小型PCR装置を組み合わせたものに相当する。複数の小型PCR装置は、別々に反応を行い、異なる熱供給ブロックを有し、異なる熱供給モードを有するため、複数の小型PCR装置は共通の熱供給モジュールを持たず、結果として大型PCR装置の出力が大きくなりすぎる。また、複数の小型PCR装置は別々に反応を起こすため、それらの品質管理が困難である。
【0006】
したがって、反応を起こす試料をより早くベンチにローディングし、コストを削減し、試料の品質管理を容易にするPCR装置を提供することが不可欠である。
【発明の概要】
【0007】
前述の従来技術の欠点を考慮して、本開示の目的は、バッチごとに複数の反応管を少なくとも1つのホルダ上に配置する必要性を省くために、少なくとも1つの反応管が別個に着脱可能に配置される、少なくとも1つのホルダを備えるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置を提供することである。更に反応管が熱源を共有することを可能にし、したがって電力消費を低減するために、少なくとも1つのホルダは、ホルダ上の反応管を同期して移動させるように駆動するための搬送モジュール上に配置され、サイクリック装置(cyclic device)を形成する。
【0008】
上記およびその他の目的を達成するために、本開示の一実施形態は、
搬送モジュールであって、
ベンチと、
ベンチがレールに沿って移動することを可能にするループ状のレールと、
ベンチ上に配置され、少なくとも1つの反応管が少なくとも1つのホルダに着脱可能に配置されることを可能にする少なくとも1つのホルダと
を含む搬送モジュールと、
少なくとも1つの反応管の温度を調整するための少なくとも1つの熱供給ブロックを含む熱供給モジュールと
を備える、PCR装置を提供する。
【0009】
好ましくは、ホルダの数は1~100である。
【0010】
好ましくは、熱供給モジュールは、熱伝達媒体および出力部を更に備える。
【0011】
好ましくは、出力部は熱伝達媒体を貯蔵および/または出力し、熱供給ブロックは熱伝達媒体の温度を調整し、出力部は熱伝達媒体の流れを可能にするためにパイプラインによって熱供給ブロックに接続される。
【0012】
好ましくは、熱伝達媒体は気体または液体である。
【0013】
好ましくは、複数の熱供給ブロックのうちのいくつかは、同じ出力部を共有する。
【0014】
好ましくは、熱供給モジュールは、熱伝達媒体と少なくとも1つの反応管との接触を制御するための弁を更に備える。
【0015】
好ましくは、PCR装置は、搬送モジュールの動作モードを制御し、熱供給モジュールの熱供給モードを制御するための制御モジュールを更に備える。
【0016】
好ましくは、搬送モジュールの動作モードは、第1のホルダが停止するステーションの数と、搬送モジュールの動作の1サイクルの完了時に第1のホルダが初期位置に戻るまでに第1のホルダが各ステーションに留まる停止時間とを含む。
【0017】
好ましくは、少なくとも1つのホルダが停止するステーションの数は、0~100である。
【0018】
好ましくは、少なくとも1つのホルダが各ステーションに留まる停止時間は、1~300秒である。
【0019】
好ましくは、少なくとも1つのホルダは、同じ数のステーションで、同じ停止時間停止する。
【0020】
好ましくは、1PCRサイクルは、少なくとも1つのホルダが各ステーションに留まっている間に行われる。
【0021】
好ましくは、熱供給モードは、熱供給温度および熱供給時間を含む。
【0022】
好ましくは、熱供給温度は、順次、1PCRサイクル中の変性段階、アニーリング段階および拡大段階において、それぞれ92~96℃、45~70℃および67~77℃である。
【0023】
好ましくは、1PCRサイクル中の変性段階、アニーリング段階および拡大段階の熱供給時間は合計1~300秒である。
【0024】
好ましくは、熱供給モジュールは、少なくとも1つの熱供給モードを有する。
【0025】
好ましくは、熱供給モジュールは、第1の熱供給モードで第1の時点におけるホルダの第1の部分の温度を調整し、第2の熱供給モードでホルダの第2の部分の温度を調整し、第1の熱供給モードと第2の熱供給モードは、熱供給温度および熱供給時間の少なくとも一方が異なる。
【0026】
好ましくは、PCR装置は、ベンチを駆動するのに必要な電力を供給するための駆動モジュールを更に備える。
【0027】
好ましくは、PCR装置は、少なくとも1つの反応管内の生成物含有量を検査するための検査モジュールを更に備える。
【0028】
本開示の前述およびその他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明、好ましい実施形態および添付の図面を参照することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本開示を説明し、当業者が本開示を実施する開示された方法を完全に理解できるようにするために、以下の詳細な説明において多くの具体的な詳細が提供される。しかしながら、明らかに、本開示を実施する1つまたは複数の方法は、前述の具体的な詳細なしに実行可能である。別の状況では、簡潔にするために、周知の構造およびプロセスフローが添付の図面に概略的に描かれている。
【0030】
【0031】
【0032】
【
図3】本開示のPCR装置の熱供給モジュールの概略図である。
図3に示す熱供給モジュールでは、1つのホルダが1つの熱供給ブロックに接続されている。
図3は、対応する2つの反応管にそれぞれ熱を供給するために温度が変化する2つの熱供給ブロックを示す。他の熱供給ブロック、ホルダおよび反応管は、
図3には示されていない。
【0033】
【
図4】本開示のPCR装置の熱供給モジュールの概略図である。
図4に示す熱供給モジュールでは、1つのホルダが1つの熱供給ブロックに接続されている。
図4では、2つの熱供給ブロック群の各群内の複数の熱供給ブロックは、それぞれ温度は異なっているが、その温度は変化せず、それぞれ第1の温度(4℃)の熱を対応する反応管に供給していることを示している。他の熱供給ブロック、ホルダおよび反応管は、
図4には示されていない。
【0034】
【
図5】本開示のPCR装置の熱供給モジュールの概略図である。
図5に示す熱供給モジュールでは、複数のホルダが同一の熱供給ブロック群に接続されている。
図5では、1つの熱供給ブロック群内の複数の熱供給ブロックは、それぞれ温度は異なっているが、その温度は変化せず、第1の温度(4℃)の熱を2本の反応管に供給していることを示している。他の熱供給ブロック、ホルダおよび反応管は、
図5には示されていない。
【0035】
【
図6】本開示のPCR装置の熱供給モジュールの概略図である。
図6に示す熱供給モジュールでは、同一の熱供給ブロック群に複数のホルダが接続され、異なる熱供給ブロックに複数の出力部が接続されている。
図6では、一つの熱供給ブロック群が
図5と同じであるが、2つの反応管にそれぞれ第2の温度(60℃)の熱を供給していることを示している。他の熱供給ブロック、ホルダおよび反応管は、
図6には示されていない。
【0036】
【
図7】本開示のPCR装置の熱供給モジュールの概略図である。
図7に示す熱供給モジュールでは、複数のホルダが同一の熱供給ブロック群に接続されている。
図7では、1つの熱供給ブロック群は、
図5と同じであるが、第1の反応管(図中左側)に第1の温度(4℃)の熱を供給し、第2の反応管(図中右側)に第2の温度(60℃)の熱を供給する。他の熱供給ブロック、ホルダおよび反応管は、
図7には示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示の実施形態は、添付の図面によって描かれ、以下で詳細に説明される。実施形態は、任意の形態で実施することができるが、本開示の具体的な実施形態を実施または適用することができる唯一の形態ではない。したがって、本開示の具体的な実施形態を実施することに関する前述の形態は、前述の実施形態に制限を加えるように解釈されるべきではない。本開示を実施する方法は、具体的な実施形態の特徴と、具体的な実施形態を構築および動作させる方法の工程と、該方法の工程の順序を包含する。しかしながら、同一または同等の機能および工程の順序は、他の任意の具体的な実施形態によっても実現可能である。それと対照的に、実施形態の目的は、本開示を十分かつ完全に開示して、本開示の趣旨を当業者に十分に説明することである。添付図面で使用される同様の参照番号は、同様の構成要素を示す。以下の説明では、実施形態において不必要な詳細について繰り返し言及することを避けるため、従来の機能または構造については詳細に説明しない。
【0038】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語または専門用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。両者の間に矛盾がある場合には、この定義を含む明細書が優先するものとする。
【0039】
文脈上の矛盾がない限り、本明細書で使用される全ての単数名詞は、その名詞の複数形を包含し、本明細書で使用される全ての複数名詞は、その名詞の単数形を包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される「少なくとも1つの(at least one)」、「1つまたは複数の(one or more)」という表現は同じ意味、即ち、1つ、2つ、3つ以上(one、two、three or more)を意味する。
【0040】
特許請求される開示の範囲をより広く定義するために、全ての数値範囲およびパラメータに近似値を適用しているが、具体的な実施形態で使用される関連数値は、本明細書では可能な限り正確に表現している。しかしながら、全ての数値は、本質的に、必然的に、関連する検査方法から生じる標準偏差を伴う。本明細書で使用される「約(around)」という用語は、通常、特定の数値または範囲を表し、実際の数値または範囲が特定の数値または範囲よりも10%、5%、1%または0.5%大きいか小さいことを示す。代替的に、「約」という用語は、当業者によって考慮される考慮事項に応じて、実際の数値が平均値の許容可能な誤差を有することを示唆する。実施形態に加えて、または特に明記しない限り、本明細書で使用される全ての範囲、量、数値およびパーセンテージ(例えば、必要な材料の量、停止時間、温度、動作要件、比率などの記述)は、「約」という用語によって修飾される。したがって、反対の明記がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に開示される数値およびパラメータは全て概算数値であり、必要に応じて変更され得る。数値およびパラメータは、少なくとも、具体的な有効数字によって特徴付けられ、一般的な桁上げシステムによって得られる数値として解釈されなければならない。これに関して、数値の範囲は、ある端点から始まり別の端点で終わるか、2つの端点の間にあるものとして表現される。特に明記しない限り、全ての数値範囲は端点を含む。
【0041】
本開示の一実施形態は、搬送モジュールと熱供給モジュールとを備えるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)装置を提供する。本開示の一実施形態では、搬送モジュールは、レールと、ベンチと、少なくとも1つのホルダとを備える。
【0042】
一実施形態では、レールはループ型である。ループ型レールは、レールの始点と終点が同じ位置であることを意味するレールである。一実施形態では、ベンチはレールに沿って移動する。少なくとも1つのホルダは、ベンチ上に配置され、反応管を保持し、したがって、反応管は、レールに沿ってベンチと共に移動する。本開示のループ型レールにより、反応管は、レールに沿って移動しながら、異なる熱供給ブロックに位置対応することが可能になり、温度調整を達成することができる。一実施形態では、レールは、機能によって反応ゾーンと一時保管ゾーンとに分割される。反応管が反応ゾーンを通過している間は反応管で反応が起こるが、一時保管ゾーンを通過している間は反応が起こらない。一時保管ゾーンは、反応を起こすために試料を入れることができる第1の一時保管ゾーンと、反応を終えた試料を取り出すことができる第2の一時保管ゾーンとに更に分割される。
【0043】
従来のバッチ装置それぞれには、短時間の間に多くの試料について結果を得るために、バッチで反応を起こす多くの試料が含まれている。しかしながら、新しい試料バッチは、前の試料バッチが数回から数十回のPCRサイクルを終了するまで順番を待たなければならず、結果として、新しい試料バッチは、試料が到着したらできるだけ早く、または直ぐに反応を開始することができない。試料がSTAT試料である場合、従来のバッチ装置では順番を待つのに多くの時間を要し、結果の取得が遅れる。STAT試料に対処するために、本開示は、それぞれが少数の試料を収納するホルダを提供する。したがって、本開示によれば、STAT試料は、各バッチの試料数を減らすか、または更には1つに減らすことを条件として、STAT試料をできるだけ早くベンチにロードして反応を起こすことができる。
【0044】
一実施形態では、少なくとも1つのホルダがベンチ上に配置される。好ましい実施形態では、ベンチ上に配置されたホルダは、互いに等間隔に離間している。一実施形態では、ホルダの数は1~100である。一実施形態では、搬送モジュールは、それぞれが1つの反応管を保持する60のホルダを有し、したがって、60の反応管が搬送モジュール内に配置される。したがって、60もの反応管が同時にPCR装置でPCR反応を起こしている。好ましくは、ホルダの数は、PCR装置でPCR反応を起こす試料の数に応じて、およそ1、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90または100である。
【0045】
一実施形態では、少なくとも1つの反応管は、少なくとも1つのホルダに着脱可能に配置される。好ましい実施形態では、ホルダは、反応管を所定位置に固定し、ホルダからの反応管の離脱またはホルダ内の反応管の振動を防止するために固定可能な固定要素を有する。一実施形態では、本開示は、反応管が搬送モジュールに入る方向を制限しない。好ましい実施形態では、便宜上、反応管は、搬送モジュールの上側の方向から搬送モジュールに入り、搬送モジュール上にあるホルダ上に置かれるかホルダに固定される。一実施形態では、反応管はホルダに挿入される。
【0046】
一実施形態では、熱供給モジュールは、搬送モジュールの少なくとも1つの側面、例えば上側、下側、左側および/または右側に配置されるが、本開示はこれに限定されない。好ましい実施形態では、便宜上、熱供給モジュールは、搬送モジュールの反対側に配置され、反応管に対応する位置にある。具体的な実施形態では、反応管が搬送モジュールの上側の方向から搬送モジュールに入る場合、熱供給モジュールは搬送モジュールの下側に配置される。実現可能な実施形態では、熱供給モジュールは、搬送モジュールの中央に配置され、ホルダに熱を完全かつ効率的に供給し、それによって反応管の温度を調整する。本開示の一実施形態では、熱供給ブロックは、少なくとも1つの反応管の温度を調整する。熱供給モジュールが反応管に熱を供給するには、反応管の初期温度よりも高い温度の熱を供給して反応管の温度を上昇させ、また反応管の初期温度よりも低い温度の熱を供給して反応管の温度を低下させる必要がある。したがって、熱供給モジュールが反応管に熱を供給することは、反応管を加熱してその温度を上昇させることに限定されず、反応管を冷却してその温度を低下させることも含む。
【0047】
本開示の一実施形態では、熱供給モジュールの動作様式には、熱供給ブロック式、液冷式、空冷式が含まれる。熱供給モジュールの前述の3つの動作様式を以下に説明する。
【0048】
熱供給ブロック式
【0049】
本開示の一実施形態では、熱供給ブロック式は、従来のPCRモジュールの加熱ブロックによって使用される加熱技術を指す。熱供給ブロック式は、反応管に熱を供給するために、熱供給ブロックとホルダが直接接触する必要がある。熱供給ブロック式の熱供給モジュールは、少なくとも1つの熱供給ブロックを備える。一実施形態では、レール上の1つのホルダは1つの熱供給ブロックに対応する位置にあり、熱供給ブロックは温度を変化させて、反応管内の反応物に複数の工程を行わせる。別の実施形態では、レール上の1つのホルダは熱供給ブロック群に対応する位置にあり、熱供給ブロック群は、温度は異なるが変化しない複数の熱供給ブロックを備え、1つの熱供給ブロックが反応管内の反応物に1つの単一工程を行わせることを可能にする。
【0050】
熱供給ブロック式の熱供給モジュールに関して、PCR装置は、搬送モジュールを昇降させるための垂直移動モジュールを更に備える。垂直移動モジュールが搬送モジュールを上げると、搬送モジュール上に配置されたホルダは、熱供給ブロックがホルダと接触しないように熱供給ブロックから離れるように移動する。それと対照的に、垂直移動モジュールが搬送モジュールを下げると、搬送モジュールに配置されたホルダが熱供給ブロックに向かって移動し、熱供給ブロックがホルダに接触する。搬送モジュールを昇降させるための垂直移動モジュールを備える前述のPCR装置とは異なり、別の態様における別のPCR装置は、熱供給モジュールを昇降させるための垂直移動モジュールを備える。これらの2つのPCR装置は、同じ原理で動作し、各ホルダと対応する熱供給ブロックとの接触は、垂直移動モジュールによって位置調整されるのが搬送モジュールか、熱供給モジュールかに依存する。具体的な態様では、垂直移動モジュールは、ホルダを把持してホルダを熱供給ブロックに接触させたり、熱供給ブロックから遠ざけたりするためのロボットアームであり、ロボットアームは、その動作と位置を微調整するための主アームと副アームとを備える。
【0051】
液冷式
【0052】
液冷式熱供給モジュールは、熱伝達媒体と出力部とを備える。熱伝達媒体は、ホルダと接触するように適合されており、水、油、任意の熱伝導性液状媒体、またはこれらの組合せなどの液体である。一実施形態では、出力部は、熱伝達媒体を貯蔵および/または出力する。一実施形態では、出力部はパイプラインによって熱供給ブロックに接続され、熱供給ブロックはパイプラインによってホルダに接続される。
【0053】
一実施形態では、液冷式の熱供給モジュールは、パイプラインによって異なる温度の熱供給ブロックに接続された1つの出力部を備える。例えば、ホルダの数が60である場合、出力部から出力された熱伝達媒体は、第1のパイプライン、第2のパイプライン、第3のパイプライン、・・・第60のパイプラインを通り、第1の熱供給ブロック、第2の熱供給ブロック、第3の熱供給ブロック、・・・第60の熱供給ブロックにそれぞれ接触する。
【0054】
別の実施形態では、液冷式の熱供給モジュールは、それぞれパイプラインによって同じ温度の熱供給ブロックに接続された複数の出力部を備える。例えば、ホルダの数が60で、熱供給ブロック(熱供給ブロック群)の数が4でかつそれぞれ異なる温度である場合、4つの出力部から出力され、第1のパイプライン、第2のパイプライン、第3のパイプラインおよび第4のパイプラインを通過する熱伝達媒体は、それぞれ、第1の熱供給ブロック、第2の熱供給ブロック、第3の熱供給ブロックおよび第4の熱供給ブロックに接触する。具体的な実施形態では、出力部はリザーバである。液冷式熱供給モジュールの複数の出力部は、同じ出力部内の熱伝達媒体が同じ温度の熱供給ブロックに確実に移動するため、異なる出力部の熱伝達媒体が収束することがなく、大きな温度調整の手間を掛けずに熱伝達媒体をリサイクルして出力し易いという利点がある。
【0055】
液冷式熱供給モジュールは、少なくとも1つの熱供給ブロックを備える。一実施形態では、1つのホルダはパイプラインによって1つの熱供給ブロックに接続され、熱供給ブロックは、反応管内の反応物に複数の工程を行わせるためにその温度を変化させる。別の実施形態では、1つのホルダがパイプラインによって熱供給ブロック群に接続され、該熱供給ブロック群には、温度は異なるが温度は変化しない複数の熱供給ブロックが含まれ、1つの熱供給ブロックにより反応管内の反応物に1つの単一工程を行わせることが可能になる。更に別の実施形態では、複数のホルダは、パイプラインによって同一の熱供給ブロックまたは熱供給ブロック群に接続され、よって熱供給ブロックまたは熱供給ブロック群を共有する。
【0056】
液冷式熱供給モジュールは、バルブを更に備える。特定の温度の物体と接触するように適合された熱伝達媒体は、弁の制御下で少なくとも1つの反応管と接触する。一実施形態では、バルブは、コショウ入れのノッチ付きノブの形状と同様の形状であり、ノブを回すような方法で開閉することができる。ノブのノッチ部分がパイプラインに対応する位置にある場合、熱伝達媒体はホルダと接触する。それと対照的に、ノブのノッチのない部分がパイプラインに対応する位置にある場合、熱伝達媒体はホルダと接触することができない。一実施形態では、バルブは、ばね付き大理石の形状と同様の形状であり、大理石を押すことによって開閉される。ホルダが大理石に対応する位置にある場合、ホルダは大理石を下方に押圧し、熱伝達媒体はホルダと接触する。それと対照的に、ホルダが大理石に対応する位置にない場合、大理石は跳ね上がり、それによってパイプラインを遮断し、熱伝達媒体がホルダと接触することができなくなる。バルブは、そのタイプに応じて、制御モジュールの制御下で、選択的に調整可能に開閉される。
【0057】
一実施形態では、液冷式熱供給モジュールは加熱ユニットを備える。加熱ユニットは、バルブとホルダとの間に配置され、洗面台のシンクと同様の形状である。具体的には、加熱ユニットの底部に排出口が配置され、熱伝達媒体が排出口から排出されてシンク内に蓄積され、ホルダを蓄積された熱伝達媒体に浸漬することができる。一実施形態では、ポンプは、加圧によって熱伝達媒体を出力するために、出力部の他方のパイプライン接続端部とは異なり、出力部の一方の端部に配置される。別の実施形態では、真空装置は、負圧下で熱伝達媒体を出力するために、加熱ユニットの他方のパイプライン接続端部とは異なり、加熱ユニットの一方の端部に配置される。
【0058】
液冷式の実施形態では、熱伝達媒体はポンプが掛ける圧力の下で出力部から出力され、熱伝達媒体はパイプラインを介して熱供給ブロックに流れ、熱伝達媒体の温度は熱供給ブロックにより調整され、熱伝達媒体はパイプラインを介してバルブに流れ、バルブは熱伝達媒体が加熱ユニットに入ってホルダと接触することを可能にするために開かれ、熱伝達媒体はリサイクルされて出力部に戻される、という経路を取る。
【0059】
空冷式
【0060】
空冷式熱供給モジュールは、熱伝達媒体と出力部とを備える。熱伝達媒体は、ホルダと接触するように適合され、空気、希気体、またはこれらの組合せなどの気体である。一実施形態では、出力部は、熱伝達媒体を貯蔵および/または出力する。一実施形態では、出力部はパイプラインによって熱供給ブロックに接続され、熱供給ブロックはパイプラインによってホルダに接続される。
【0061】
一実施形態では、空冷式熱供給モジュールは、1つの出力部を備え、出力部は、パイプラインによって異なる温度の熱供給ブロック(単位時間当りの空気流の総量は等しい)に接続される。例えば、ホルダの数が60である場合、出力部から出力された熱伝達媒体は、第1のパイプライン、第2のパイプライン、第3のパイプライン、・・・第60のパイプラインを通り、第1の熱供給ブロック、第2の熱供給ブロック、第3の熱供給ブロック、・・・第60の熱供給ブロックにそれぞれ接触する。1つの単一出力部を備える空冷式熱供給モジュールにより、パイプラインに移動される全ての熱伝達媒体は量と品質が等しく、したがってPCR装置の品質管理に役立つこと、1つのステーションにおいて、同じ時点では1つの温度制御弁のみがONであること、弁の全開閉回数は同じで、単位時間当りの空気流の総消費量は一定であること、が保証される。
【0062】
別の実施形態では、液冷式熱供給モジュールは、複数の出力部を備え、複数の出力部はそれぞれパイプラインによって同じ温度の熱供給ブロックに接続される。例えば、ホルダの数が60であり、熱供給ブロック(熱供給ブロック群)の数が4であり、熱供給ブロックの温度が異なる場合、熱伝達媒体を出力し、熱伝達媒体が、第1の熱供給ブロック、第2の熱供給ブロック、第3の熱供給ブロック、および第4の熱供給ブロックに接触するように、それぞれ第1のパイプライン、第2のパイプライン、第3のパイプライン、および第4のパイプラインを通過することを可能にするために、4つの出力部が設けられる。具体的な実施形態では、出力部はファンであり、ファンは回転して熱伝達媒体として機能する気体を出力する。一実施形態では、ファンは、熱供給ブロックの他方のホルダ接続端部とは対照的に、熱供給ブロックの一方の端部に配置される。
【0063】
空気式熱供給モジュールは、少なくとも1つの熱供給ブロックを備える。一実施形態では、1つのホルダはパイプラインによって1つの熱供給ブロックに接続され、熱供給ブロックは、反応管内の反応物に複数の工程を行わせるためにその温度を変化させる。別の実施形態では、1つのホルダがパイプラインによって熱供給ブロック群に接続され、該熱供給ブロック群には、温度は異なるが温度は変化しない複数の熱供給ブロックが含まれ、1つの熱供給ブロックにより反応管内の反応物に1つの単一工程を行わせることが可能になる。更に他の実施形態では、複数のホルダが1つの熱供給ブロックまたは熱供給ブロック群にパイプラインで接続され、1つの熱供給ブロックまたは熱供給ブロック群を共有する。
【0064】
空冷式熱供給モジュールは、バルブを更に備える。特定の温度の物体と接触するように適合された熱伝達媒体は、弁の制御下で少なくとも1つの反応管と接触する。一実施形態では、バルブは、コショウ入れのノッチ付きノブの形状と同様の形状であり、ノブを回すような方法で開閉することができる。ノブのノッチ部分がパイプラインに対応する位置にある場合、熱伝達媒体はホルダと接触する。それと対照的に、ノブのノッチのない部分がパイプラインに対応する位置にある場合、熱伝達媒体はホルダと接触することができない。一実施形態では、バルブは、ばね付き大理石の形状と同様の形状であり、大理石を押すことによって開閉される。ホルダが大理石に対応する位置にある場合、ホルダは大理石を下方に押圧し、熱伝達媒体がホルダと接触することが可能になる。それと対照的に、ホルダが大理石に対応する位置にない場合、大理石は跳ね上がり、それによってパイプラインを遮断し、熱伝達媒体がホルダと接触することができなくなる。バルブは、そのタイプに応じて、制御モジュールの制御下で、選択的に調整可能に開閉される。
【0065】
一実施形態では、ポンプは、加圧によって熱伝達媒体を出力するために、出力部の他方のパイプライン接続端部とは異なり、出力部の一方の端部に配置される。別の実施形態では、真空装置は、負圧下で熱伝達媒体を出力するために、加熱ユニットの他方のパイプライン接続端部とは異なり、加熱ユニットの一方の端部に配置される。具体的な実施形態では、出力部のファンは、空気抽出装置または真空装置に置き換えることができる。空気抽出装置または真空装置は、ホルダに接続されてホルダ端部から空気を吸引または抽出し、熱供給ブロック端部の空気がホルダに向かって移動する前に熱供給ブロックを通過することを可能にする。
【0066】
空冷式の実施形態では、熱伝達媒体は出力部から出力され、熱伝達媒体はパイプラインを介して熱供給ブロックに流れ、熱伝達媒体の温度は熱供給ブロックにより調整され、熱伝達媒体はパイプラインを介してバルブに流れ、バルブは熱伝達媒体がホルダに接触することを可能にするために開かれ、熱伝達媒体は排出またはリサイクルされる、という経路を取る。1つの単一出力部を備える空冷式熱供給モジュールにより、パイプラインに移動される全ての熱伝達媒体は量と品質が等しく、したがってPCR装置の品質管理に役立つこと、1つのステーションにおいて、同じ時点では1つの温度制御弁のみがONであること、弁の全開閉回数は同じで、単位時間当りの空気流の総消費量は一定であること、が保証される。
【0067】
本開示の一実施形態では、空冷式熱供給モジュールは、搬送モジュールの動作モードを制御するための制御モジュールを更に備える。搬送モジュールの動作モードは、第1のホルダが停止するステーションの数(具体的には、ステーションの総数)と、搬送モジュールの動作の1サイクルの完了時に第1のホルダが初期位置に戻るまでに第1のホルダが各ステーションに留まる停止時間とを含む。一実施形態では、少なくとも1つのホルダが停止するステーションの数は、0~100である。一実施形態では、少なくとも1つのホルダが各ステーションに留まる停止時間は、1~300秒である。
【0068】
少なくとも1つのホルダが停止するステーションの数は0であることを条件として、搬送モジュールの動作モードは連続的である。したがって、搬送モジュールは、ホルダがどのステーションにも停止しないように連続的に動作する。少なくとも1つのホルダが停止するステーションの数が0より大きい正の整数である場合、搬送モジュールの動作モードは断続的である。したがって、搬送モジュールの動作は一時停止され、ホルダはステーションに停止して留まる。本開示は、搬送モジュールの動作の1サイクルの完了時に同じホルダが初期位置に戻るまでに、少なくとも1つのホルダが停止できるステーションの数の実現可能な範囲を限定するものではない。少なくとも1つのホルダが停止できるステーションの数は、1、5、10、15、20、30、40、50、60、・・・100である。
【0069】
本開示の一実施形態では、少なくとも1つのホルダは、同じ数のステーションで、各ステーションにおいて同じ停止時間停止する。本開示は、搬送モジュール上に配置された全てのホルダが、動作中の搬送モジュールと共に移動することを可能にするために、サイクリックデザイン(cyclic design)を採用している。したがって、ホルダは、自発的に、同じ数のステーションで、各ステーションにおいて同じ停止時間停止する。
【0070】
1PCRサイクルごとに、変性段階、アニーリング段階および拡大段階が含まれており、これらの段階では、それぞれ異なる温度で反応が起こる。一実施形態では、1つのステーションに留まる少なくとも1つのホルダは、PCRサイクルの1つの段階を経るので、ステーションに留まっている間、同じ温度を有する。例えば、1つのステーションに留まる少なくとも1つのホルダは、プレPCRを経る。別の実施形態では、1つのステーションに留まる少なくとも1つのホルダは、PCRサイクルの複数の段階を経るため、ステーションに留まっている間、その温度を異なる温度に変化させる。
【0071】
更に別の実施形態では、少なくとも1つのホルダは、1つのステーションに留まっている間に全体として1PCRサイクルを経て、したがって、ステーションに留まっている間、PCRサイクルの全ての段階の異なる温度にその温度を変化させる。搬送モジュールの1サイクルの動作が完了して、ホルダが初期位置に戻るまでにホルダが停止するステーションの数は、ホルダ上に配置された反応管が経るPCRサイクルの数に等しい。全てのホルダがレールに沿って同期して移動するため、ホルダが各ステーションに留まる時間が同じになるだけでなく、ホルダはまた、各ステーションで同じ停止時間の間、反応を起こす。したがって、搬送モジュールの1サイクルの動作が完了して、ホルダが初期位置に戻るまでにホルダが停止するステーションの数は、ホルダ上に配置された反応管が経るPCRサイクルの数よりも多い。
【0072】
一態様における熱供給ブロック式、液冷式または空冷式に関して、1つのホルダが1つの熱供給ブロックに対応する位置にある場合、1PCRサイクルを実施するには、異なる段階を実行するために熱供給ブロックの温度を変化させる必要がある。しかしながら、本開示の一実施形態に開示されるように、1つのホルダが1つまたは複数の熱供給ブロック群に対応する位置にある場合、熱供給モジュールは、少なくとも、1PCRサイクルにおける変性段階、アニーリング段階、および拡大段階に必要な第1の温度、第2の温度、および第3の温度の熱を供給するための第1の熱供給ブロック、第2の熱供給ブロック、および第3の熱供給ブロックをそれぞれ備え、第1の温度、第2の温度、および第3の温度の間には差がある。したがって、ホルダは異なる温度間で迅速に切り替えることができる。1つの熱供給ブロックのみがホルダに対応する位置にある態様とは異なり、この態様では、異なる段階を実行するために、1つの単一熱供給ブロックの温度を変化させるに費やされる時間が節約される。
【0073】
本開示の一実施形態では、PCR装置は、熱供給モジュールの熱供給モードを制御するための制御モジュールを更に備え、熱供給モードは、熱供給時間および熱供給温度を含む。熱供給モードは、試料や核酸ポリメラーゼの特性に応じて調整可能である。一実施形態では、PCRサイクルにおける変性段階、アニーリング段階および拡大段階に必要な熱供給温度は、それぞれ92~96℃、45~70℃または67~77℃である。一実施形態では、変性段階、アニーリング段階および拡大段階における熱供給時間は、それぞれ0.25~75秒、0.25~150秒および0.5~75秒であり、1PCRサイクルの総熱供給時間は約1~300秒である。
【0074】
一実施形態では、熱供給モジュールは、少なくとも1つの熱供給モードを有する。熱供給モジュールは、第1の時点において第1の熱供給モードでホルダの第1の部分の温度を調整し、第2の熱供給モードでホルダの第2の部分の温度を調整する。第1の熱供給モードおよび第2の熱供給モードは、熱供給温度および熱供給時間の少なくとも一方が互いに異なる。具体的には、PCRサイクルの異なる段階において、第1のホルダは、それぞれ95℃、60℃または72℃の熱供給温度と、それぞれ15秒、30秒または15秒の熱供給時間とを必要とし、第60のホルダは、第1のホルダと同じ熱供給温度を必要とするが、熱供給時間は、それぞれ10秒、20秒または30秒に調整および変更される。これは、第1のホルダ上に配置された第1の反応管内の試料が第1のPCRサイクル反応を起こすために第1のステーションで停止し、次いで、PCRサイクルを経るために動作中の搬送モジュールと共に次のステーションに移動と続き、第59のPCRサイクルを経るために第59のステーションで停止するまで続くためである。したがって、第60のステーションですぐに停止することになる第1の反応管内の核酸試料中の核酸の量は、第1のステーションに留まる第1の反応管内の最初の試料中の核酸の量の倍数であり、変性段階の熱供給時間を更に短縮することができる。本開示のPCR装置の熱供給モジュールの一部のホルダの熱供給モードは、必要に応じて調整することができ、例えば、熱供給温度および熱供給時間の少なくとも一方において、第1の熱供給モードおよび第2の熱供給モードとは異なる第3の熱供給モードを提供する。
【0075】
一実施形態では、PCR装置は、ベンチを駆動するのに必要な動力を供給するための駆動モジュールを更に備える。実現可能な実施形態では、駆動モジュールは、モータと動力伝達構成要素とを備える。モータは動力を出力し、次いで、歯車やベルトの形態で設けられた動力伝達構成要素がその動力をベンチに伝達し、ベンチが回転できるようにする。
【0076】
一実施形態では、PCR装置は、少なくとも1つの反応管内の生成物含有量を検査するための検査モジュールを更に備える。実現可能な実施形態では、検査モジュールは、少なくとも1つの反応管内の生成物含有量を検査するために搬送モジュールに取り付けられる。好ましい実施形態では、自己完結型検査ユニットが各反応管に取り付けられて、生成物含有量をリアルタイムで監視する。
【0077】
実施形態
【0078】
図1は、本開示のPCR装置1の断面図である。PCR装置1は、搬送モジュール11と、反応管12と、熱供給モジュール13とを備える。搬送モジュール11は、レール111と、ベンチ112と、12個のホルダ113とを備える。ベンチ112は、レール111に沿って動作および移動するために、駆動モジュール15から動力を受け取る。ホルダ113は、ベンチ112上に配置される。反応管12は、ホルダ113に着脱可能に配置される。搬送モジュール11の下側には、熱供給モジュール13が配置される。熱供給モジュール13は、12個の熱供給ブロック131と、熱伝達媒体132と、出力部133と、バルブ134とを備える。バルブ134は、熱伝達媒体132と反応管12との接触を制御する。PCR装置1は、搬送モジュール11の動作モードを制御し、熱供給モジュール13の熱供給モードを制御するための制御モジュール14を更に備える。
【0079】
図2を参照すると、本開示のPCR装置の上面図が示されている。PCR装置は、ベンチ112上に配置された12個のホルダ113を備える。
【0080】
図3、
図4、
図5、
図6および
図7を参照すると、本開示のPCR装置の熱供給モジュール13における熱供給モードの概略図が示されている。
図3に示すように、熱供給モジュール13は、2つの熱供給ブロック131と、2つの熱伝達媒体132と、1つの出力部133とを備え、各熱供給ブロック131は異なる温度に変化できる。例示のために、図面には、それぞれが反応管(図示せず)を保持する2つのホルダが示されており、以下、左側のホルダを第1のホルダと呼び、右側のホルダを第2のホルダと呼ぶ。熱供給ブロック131が変化する4つの異なる温度は、それぞれ、4℃(増幅された核酸産物の保存に使用するため)、60℃(プライマーアニーリングに使用するため)、72℃(DNA重合に使用するため)および94℃(DNA変性に使用するため)である。熱伝達媒体132は、出力部133から一括して出力された後、パイプラインを介して異なる温度の熱供給ブロック131にそれぞれ接触する。熱伝達媒体132は、熱供給ブロック131によって温度調整された後、パイプラインを介してホルダに向かって流れる。第1のホルダおよび第2のホルダに対応する位置にある2つのバルブ134が開き、熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を通過させる。
【0081】
図4に示すように、熱供給モジュール13は、温度の異なる4つの熱供給ブロック131と、4つの熱伝達媒体132と、1つの出力部133とを有する2つの熱供給ブロック群を備える。例示のために、図面には、それぞれが反応管(図示せず)を保持する2つのホルダが示されており、以下、左側のホルダを第1のホルダと呼び、右側のホルダを第2のホルダと呼ぶ。熱供給ブロック131が変化する4つの異なる温度は、それぞれ、4℃(増幅された核酸産物の保存に使用するため)、60℃(プライマーアニーリングに使用するため)、72℃(DNA重合に使用するため)および94℃(DNA変性に使用するため)である。熱伝達媒体132は、出力部133から一括して出力された後、パイプラインを介して異なる温度の熱供給ブロック131にそれぞれ接触する。熱伝達媒体132は、熱供給ブロック131によって温度調整された後、パイプラインを介してホルダに向かって流れる。第1のホルダおよび第2のホルダに対応する位置にある2つのバルブ134は、4℃の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を通すために開くが、それ以外の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を遮断するために閉じる。
【0082】
図5に示すように、熱供給モジュール13は、温度の異なる4つの熱供給ブロック131と、4つの熱伝達媒体132と、1つの出力部133とを備える。例示のために、図面には、それぞれが反応管(図示せず)を保持する2つのホルダが示されており、以下、左側のホルダを第1のホルダと呼び、右側のホルダを第2のホルダと呼ぶ。熱供給ブロック131が変化する4つの異なる温度は、4℃、60℃、72℃および94℃である。熱伝達媒体132は、出力部133から一括して出力された後、パイプラインを介して異なる温度の熱供給ブロック131にそれぞれ接触する。熱伝達媒体132は、熱供給ブロック131によって温度調整された後、パイプラインを介してホルダに向かって流れる。第1のホルダおよび第2のホルダに対応する位置にある2つのバルブ134は、4℃の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を通すために開くが、それ以外の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を遮断するために閉じる。
【0083】
図5と比較すると、
図6は、熱供給モジュールは、それぞれ異なる温度の熱供給ブロック131に接続された4つの出力部133を備え、第1のホルダと第2のホルダに対応する位置にある2つのバルブ134は、60℃の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132が通過できるように開くが、それ以外の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を遮断するために閉じるという顕著な技術的特徴を示す。
【0084】
図5と比較すると、
図7は、第1のホルダに対応する位置にあるバルブ134は、4℃の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132が通過できるように開くが、それ以外の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を遮断するために閉じ、第2のホルダに対応する位置にあるバルブは、60℃の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を通すために開くが、それ以外の温度の熱供給ブロック131によって温度調整された熱伝達媒体132を遮断するために閉じるという顕著な技術的特徴を示す。
【0085】
第1の実施形態
【0086】
PCR装置の搬送モジュールは24のホルダを備え、搬送モジュールの動作に応じて24の試料を順次ホルダ内にセットして反応を起こすことができる。動作モードは断続的であり、ホルダは24のステーションで停止し、各ステーションに留まって1分45秒を費やすことができる。熱供給モジュールは、空冷式であり、出力部として機能するファンと、3つの熱供給ブロックとを備える。ファンから出力された気体は、熱伝達媒体として機能する。出力部、熱供給ブロックおよびホルダは、熱伝達媒体の流れを可能にするためにパイプラインによって接続される。各熱供給ブロックと対応するホルダとの間のパイプライン上にバルブが配置され、ホルダと気体との接触を制御する。ファンから出力された気体は、3つの異なる流路に流入し、3つの熱供給ブロックにそれぞれ到達する。そして、各熱供給ブロックにより熱が供給された気体は、24の異なる流路に流入し、24のホルダにそれぞれ到達する。熱供給モードでは、3つの熱供給ブロックは、それぞれ94℃、60℃、72℃の熱供給温度と、それぞれ20秒、60秒、25秒の熱供給時間とを必要とする。各ホルダへの熱供給モードは同じである。熱供給モードでの熱供給時間は、運転モードでの滞在時間と同期して、合計で1分45秒である。
【0087】
第2の実施形態
【0088】
PCR装置の搬送モジュールは48のホルダを備え、搬送モジュールの動作に応じて48の試料を順次ホルダ内にセットして反応を起こすことができる。搬送モジュールの動作モードは連続的である。したがって、搬送モジュールは、ホルダがどのステーションにも停止しないように連続的に動作する。各ホルダは、熱供給モジュールパイプラインに1分間接続される。熱供給モジュールは、空冷式であり、出力部として機能するファンと、3つの熱供給ブロックとを備える。ファンから出力された気体は、熱伝達媒体として機能する。出力部、熱供給ブロックおよびホルダはパイプラインによって接続され、熱伝達媒体が流れることができるようになる。各熱供給ブロックと対応するホルダとの間のパイプライン上にバルブが配置され、ホルダと気体との接触を制御する。ファンから出力された気体は、3つの異なる流路に流入し、3つの熱供給ブロックにそれぞれ到達する。そして、各熱供給ブロックにより熱が供給された気体は、48の異なる流路に流入し、48のホルダにそれぞれ到達する。熱供給モードでは、3つの熱供給ブロックは、それぞれ95℃、65℃、77℃の熱供給温度と、それぞれ25秒、55秒、20秒の熱供給時間とを必要とする。各ホルダへの熱供給モードは同じである。熱供給モードでの熱供給時間は、運転モードでの各ホルダとの接続時間と同期して、合計で1分40秒である。
【0089】
第3の実施形態
【0090】
PCR装置の搬送モジュールは60のホルダを備え、搬送モジュールの動作に応じて60の試料を順次ホルダ内にセットして反応を起こすことができる。動作モードは断続的であり、ホルダは60のステーションで停止し、各ステーションで1分間留まることができる。熱供給モジュールは、液冷式であり、出力部として機能する3つのリザーバと、3つの熱供給ブロックとを備える。リザーバから出力された液体は、伝熱媒体として機能する。出力部、熱供給ブロックおよびホルダはパイプラインによって接続され、熱伝達媒体が流れることができるようになる。各熱供給ブロックと対応するホルダとの間のパイプライン上にバルブが配置され、ホルダと液体との接触を制御する。リザーバから出力された液体は、3つの異なる流路にそれぞれ流入し、3つの熱供給ブロックにそれぞれ到達する。そして、各熱供給ブロックにより熱が供給された液体は、60の異なる流路に流入し、60のホルダにそれぞれ到達する。熱供給モードでは、3つの熱供給ブロックは、それぞれ92℃、55℃、67℃の熱供給温度と、それぞれ15秒、30秒、15秒の熱供給時間とを必要とする。各ホルダ用の熱供給モジュールは同じである。熱供給モードでの熱供給時間は、運転モードでの滞在時間と同期して、合計で1分である。
【0091】
第4の実施形態
【0092】
PCR装置の搬送モジュールは60のホルダを備え、搬送モジュールの動作に応じて60の試料を順次ホルダ内にセットして反応を起こすことができる。動作モードは断続的であり、ホルダは60のステーションで停止し、各ステーションで1分間留まることができる。熱供給モジュールは、液冷式であり、出力部として機能する3つのリザーバと、3つの熱供給ブロックとを備える。リザーバから出力された液体は、伝熱媒体として機能する。出力部、熱供給ブロックおよびホルダはパイプラインによって接続され、熱伝達媒体が流れることができるようになる。各熱供給ブロックと対応するホルダとの間のパイプライン上にバルブが配置され、ホルダと液体との接触を制御する。リザーバから出力された液体は、4つの異なる流路に流入し、4つの熱供給ブロックにそれぞれ到達する。そして、各熱供給ブロックにより熱が供給された液体は、60の異なる流路に流入し、60のホルダにそれぞれ到達する。熱供給モードでは、4つの熱供給ブロックは、それぞれ95℃、55℃、72℃および4℃の熱供給温度を必要とし、高熱の存在下でポリメラーゼを活性化させるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をホットスタートする工程(ホットスタートPCR)を実行するように、第1~第10のホルダは、95℃の熱供給温度と1分の熱供給時間を必要とする。第11~第55のホルダは、それぞれ95℃、55℃、72℃の熱供給温度、およびそれぞれ15秒、30秒、15秒の熱供給時間を必要とし、各ホルダは1PCRサイクルを経て、合計45サイクルを行うことができる。第55~第60のホルダは、熱供給温度4℃、熱供給時間1分を必要とする。この態様での60のホルダは、合計3つの異なる熱供給モードを有する。熱供給モードでの熱供給時間は、運転モードでの運転停止時間と同期して、合計で1分である。
【0093】
したがって、本開示のPCR装置は、少数の試料をできるだけ早くPCR装置にローディングして反応を起こすという目的を達成する。従来のバッチ装置とは異なり、本開示によって提供されるサイクリックPCR装置により、搬送モジュールの動作の結果としてホルダが異なるステーション間を移動することが可能になり、ホルダが異なるステーション間を移動している間にホルダ上に配置された反応管内の試料がPCRを起こすことが可能になる。到着した試料は、PCR装置内でアイドリング中のホルダに置かれ、反応を開始するまで、1PCRサイクルの継続時間を待つだけでよい。
【0094】
本開示は、エネルギーを節約し、必要な装置体積を減らし、スペースを節約するために、熱供給ブロック、熱伝達媒体および/または出力部分を共有するための搬送モジュールを提供する。
【0095】
搬送モジュールの動作により、ホルダが同期して移動することが可能になる。したがって、反応管が1PCRサイクルに費やす時間は同じであり、品質管理を容易にするだけでなく、終了したサイクルの数を記録しやすくしている。反応管が1PCRサイクルを実行するのに要する合計時間は同じであるが、PCRサイクルの各工程のモードは自由に調整および制御することができるため、異なる試料の様々な要件を満たすことができる。
【0096】
上記の説明は、限定するものではなく例示である。本開示の趣旨を逸脱しない範囲で当業者が好ましい実施形態に対して行った同等の修正または変更は、本開示の特許請求の範囲に含まれるとみなされなければならない。
【国際調査報告】