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特表2024-519183トラクション係数添加剤を含む潤滑剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】トラクション係数添加剤を含む潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/76 20060101AFI20240426BHJP
   C10M 145/38 20060101ALI20240426BHJP
   C10M 145/36 20060101ALI20240426BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20240426BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20240426BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240426BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240426BHJP
【FI】
C10M129/76
C10M145/38
C10M145/36
C10M101/02
C10M107/02
C10N40:04
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573603
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 US2022031029
(87)【国際公開番号】W WO2022251423
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,392
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523354897
【氏名又は名称】カーギル・バイオインダストリアル・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CARGILL BIOINDUSTRIAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルチャン、アレクセイ、ニコラエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ウェグブライト、ジェイコブ、アレキサンダー
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB35C
4H104CB14C
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA02
(57)【要約】
トラクション係数添加剤を含む、電気車両での使用に好適な潤滑剤組成物が本明細書で提供される。この潤滑剤組成物は、電気車両ギア油、特に電気車両トランスミッション液としての有用性を提供する。この潤滑剤組成物は、トラクション係数添加剤を含まない同等の潤滑剤組成物と比較して、使用時に改善されたトラクション係数特性を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車両の使用に好適な潤滑剤組成物であって、ベースストックと、前記潤滑剤組成物の総重量に基づいて少なくとも2重量%の式(I):
[(AO)-R (I)
[式中、
-Rは、少なくとも2個の活性水素原子を有する基の残基であり、
-mは、少なくとも2であり、
-AOは、アルキレンオキシド残基であり、
-各nは、独立して、0~100であり、
-各Rは、独立して、H又はRであり、ここで、各Rは、独立して、ポリヒドロキシアルキル若しくはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基及び/又は前記ヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーの残基であり、
-平均して少なくとも0.5個のR基はRである]のトラクション係数添加剤化合物と、を含む、潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のRが、C~C30置換ヒドロカルビル化合物の残基である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のRが、糖、好ましくは単糖の、残基又はそれから誘導される残基である、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のRが、グルコース、フルクトース、又はソルビトールの、残基、又はそれらから誘導される残基である、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のmが、少なくとも3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のmが、4~10の範囲である、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物の前記アルキレンオキシド基AOが、式:
-(C2rO)-
[式中、rは、2、3又は4である]のものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のnが、1~50の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物のnが、2~20の範囲である、請求項8に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物の各Rが、式HO-X-COOH[式中、Xは、少なくとも8個の炭素原子かつ20個以下の炭素原子を含有する二価の飽和又は不飽和、好ましくは飽和の脂肪族基である]のポリヒドロキシルアルキル又はポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基である、請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記式(I)のトラクション係数添加剤化合物の各Rが、(ポリ)12-ヒドロキシステアリン酸である、請求項10に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記組成物の総重量に基づいて少なくとも50重量%のベースストックを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記組成物の総重量に基づいて少なくとも2.5重量%の前記トラクション係数添加剤を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記潤滑剤組成物の総重量に基づいて最大20重量%の前記トラクション係数添加剤を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
以下の更なる添加剤タイプ:分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、乳化剤、解乳化剤、極圧剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、抑泡剤、及び摩擦調整剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
前記組成物の総重量に基づいて少なくとも0.5重量%の更なる添加剤又は更なる添加剤の混合物を含む、請求項15に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
前記組成物の総重量に基づいて最大30重量%の更なる添加剤又は更なる添加剤の混合物を含む、請求項15又は16に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
前記ベースストックが、APIグループI、II、III、IV、Vベースストック又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項19】
前記潤滑剤組成物が、ギアボックス油であって、前記ギアボックス油の総重量に基づいて2重量%~10重量%の前記トラクション係数添加剤を含む、ギアボックス油である、請求項1~18のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を使用することを含む、電気車両のギアボックスにおけるトラクション係数を低減する方法。
【請求項21】
電気車両におけるギアボックス油としての、請求項1~19のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物の使用。
【請求項22】
工業用、従来の自動車用及び/又は船舶用ギア油におけるギアボックス油としての、請求項19に記載の潤滑剤組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月28日に出願され、「LUBRICANT COMPOSITION COMPRISING TRACTION COEFFICIENT ADDITIVE」と題する米国仮特許出願第63/194,392号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、トラクション係数添加剤を含む、電気車両での使用に好適な潤滑剤組成物に関する。本明細書に記載の潤滑剤組成物は、とりわけ、電気自動車のギア油、特に電気車両のトランスミッション液において有用性を提供し、添加剤を含まない同等の潤滑剤組成物と比較して、使用時に改善されたトラクション係数特性を提供する。
【背景技術】
【0003】
電気車両は、1つ以上の電気モータを使用して推進される車両である。電気車両は、性質が完全に電気(純電気若しくは全電気車両としても知られている)又はハイブリッドであり得る(ハイブリッド電気車両では、推進は、時々炭化水素由来燃料などの代替手段から達成され得る)。電気車両はまた、車両が電気モータ及びプラグインバッテリによって電力供給される航続距離延長電気車両を含むが、車両はまた、バッテリ充電を補うためだけに使用され、主推進源としては使用されない補助燃焼エンジンを備える。本発明は、言及したタイプの電気車両の全てにおいて使用するのに好適である。
【0004】
ギア油は、潤滑剤のサブクラスであり、典型的には、その主成分として潤滑剤ベースストック(又は基油)を含む。潤滑油に利用される潤滑剤ベースストックの選択は、酸化及び熱安定性、揮発性、低温流動性、添加剤、汚染物質、及び分解生成物の溶解力、並びにトラクションなどの特性に大きな影響を及ぼす可能性がある。より具体的には、潤滑剤のトラクション係数は潤滑剤ベースストック液の固有の特性(すなわち、基油の化学組成に基づく)であり、トラクション係数は添加剤によって影響されないことが、従来から業界によって教示されている。ベースストック液の粘度が、使用時の潤滑剤のトラクション係数を決定することは、業界において広く信じられている。
【0005】
潤滑剤ベースストックの選択は、酸化及び熱安定性、揮発性、低温流動性、添加剤、汚染物質、及び分解生成物の溶解力、並びにトラクションなどの特性に大きな影響を及ぼす可能性がある。米国石油協会(American Petroleum Institute、API)は現在、潤滑剤ベースストックの5つのグループを定義している(API Publication 1509)。
【0006】
グループI、II、及びIIIは、それらが含有する飽和物及び硫黄の量及びそれらの粘度指数によって分類される鉱油である。以下の表1は、グループI、II、及びIIIについてのこれらのAPI分類を例解する。
【0007】
【表1】
【0008】
グループIのベースストックは、溶剤精製された鉱油であり、これは、製造するのに最も安価なベースストックであり、現在、ベースストック販売の大部分を占めている。それらは、満足のいく酸化安定性、揮発性、低温性能、及びトラクション特性を提供し、添加剤及び汚染物質に対して非常に良好な溶解力を有する。グループIIのベースストックは、主に水素化処理された鉱油であり、これは典型的には、グループIのベースストックと比較して改善された揮発性及び酸化安定性を提供する。グループIIストックの使用は、米国市場の約30%まで成長している。グループIIIのベースストックは、高度に水素化処理された鉱油であるか、又はワックス若しくはパラフィンの異性化によって製造することができる。それらは、グループI及びIIのベースストックよりも良好な酸化安定性及び揮発性を有するが、市販の粘度の限られた範囲を有することが知られている。
【0009】
グループIVのベースストックは、合成ベースストック、例えば、ポリアルファオレフィン(polyalphaolefin、PAO)であるという点でグループI~IIIとは異なる。PAOは、良好な酸化安定性、揮発性、及び低い流動点を有する。欠点としては、極性添加剤、例えば、耐摩耗添加剤の溶解性が中程度であることが挙げられる。
【0010】
グループVのベースストックは、グループI~IVに含まれない全てのベースストックである。例としては、アルキルナフタレン、アルキル芳香族化合物、植物油、エステル(ポリオールエステル、ジエステル、及びモノエステルを含む)、ポリカーボネート、シリコーン油、並びにポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0011】
乗用車は電化へと急速に変化しており、これは他社ブランド製造業者(original equipment manufacturers(OEM’s))及び規制機関の現在のギア油仕様の理解及び仕様を超えている。現世代のハイブリッド車両及び電気車両は、この用途のために特に設計されていなかった標準的な自動トランスミッション液(automatic transmission fluid、ATF)配合物を依然として使用している。現在のギア油は、電気車両技術、ATFベース流体、及びアドパックにおける急速な進歩のために、OEMの動的要件を満たしていない。更に、EV内の電気モータは非常に効率的であるため、EVパワートレインシステム内のギア潤滑剤による損失は非常に大きい場合がある。エネルギー損失の低減は、使用中のEVにおけるバッテリ寿命の改善を提供し、これは、バッテリ範囲が増加するにつれて、EVが必要とする充電頻度が少なくなることを意味する。
【0012】
したがって、内燃機関、ハイブリッド及び電気車両におけるトランスミッション並びにギアボックスのための潤滑剤技術の継続的な開発にもかかわらず、潤滑油の寿命にわたってエネルギー効率が改善された潤滑油配合物に対する必要性が依然としてある。より具体的には、従来の燃焼エンジンの要件とは要件が異なる電気車両ギアボックスの要件を満たすように最適化及び調整された潤滑剤技術に対する必要性が存在する。したがって、電気エンジンにおいて高い性能(特に、低トラクション)を提供するが、電気車両の乗用車市場にとって商業的に実現可能である新しい潤滑剤組成物が、依然として積極的に求められている。
【0013】
本発明の目的は、トラクション係数添加剤を含めることによって達成される改善された低トラクションを提供し、したがってエネルギー損失が最小限に抑えられる、電気車両のギアボックスでの使用に好適な潤滑剤組成物を提供することである。低トラクションを提供するだけでなく、潤滑剤組成物は、十分な酸化安定性を有し、並びに良好な低温特性及びエラストマー及び銅などの材料との適合性を有するべきである。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、前述の問題の少なくとも1つを克服するか、又は著しく低減する潤滑剤組成物を発見した。
【0015】
したがって、本発明は、潤滑剤組成物であって、ベースストックと、少なくとも2重量%の式(I)
[(AO)-R (I)
[式中、
は、少なくとも2個の活性水素原子を有する基の残基であり、
mは、少なくとも2であり、
AOは、アルキレンオキシド残基であり、
各nは、独立して、0~100であり、
各Rは、独立して、H又はRであり、ここで、各Rは、独立して、ポリヒドロキシアルキル若しくはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基及び/又はヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーの残基であり、
平均して少なくとも0.5個のR基がRである]のトラクション係数添加剤化合物とを含む、潤滑剤組成物を提供する。
【0016】
本発明はまた、本発明の第1の実施形態による潤滑剤組成物を使用することを含む、電気車両のギアボックスにおけるトラクション係数を低減する方法を提供する。
【0017】
本明細書に記載のトラクション係数添加剤は、ベースストックのトラクション係数を低減することによって、潤滑剤組成物が適用される電気車両のギアボックスの性能を有利に改善することができる。
【0018】
本明細書に記載のトラクション係数添加剤は、潤滑剤組成物中、より具体的には、電気車両のギアボックス用のギア油中のトラクション係数低減添加剤として使用することができる。
【0019】
トラクション係数添加剤は、式(I):
[(AO)-R (I)
[式中、
は、少なくとも2個の活性水素原子を有する基の残基であり、
mは、少なくとも2であり、
AOは、アルキレンオキシド残基であり、
各nは、独立して、0~100であり、
各Rは、独立して、H又はRであり、ここで、各Rは、独立して、ポリヒドロキシアルキル若しくはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基及び/又はヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーの残基であり、
平均して、少なくとも0.5個のR基がRである]の化合物を含む。
【0020】
本トラクション係数添加剤は、少なくとも概念的に、化合物の「コア基」とみなすことができる基Rから構成される。このコア基は、好ましくはヒドロキシル基及び/又はアミノ基に存在し、より好ましくはヒドロキシル基のみに存在する、少なくとも2個の活性水素原子を含有する化合物の残基(m個の活性水素原子の除去後)である。好ましくは、コア基は置換ヒドロカルビル基、特にC~C30置換ヒドロカルビル化合物の残基である。
【0021】
コア基の例としては、m個の活性水素原子を除去した後の以下の化合物の残基が挙げられる:
1 グリセロール及びポリグリセロール、特にジグリセロール及びトリグリセロール、それらの部分エステル、又は複数のヒドロキシル基を含有する任意のトリグリセリド、例えばヒマシ油;
2 トリ以上のポリメチロールアルカン、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトール、並びにそれらの部分エステル;
3 糖、特に非還元糖、例えばソルビトール、マンニトール、及びラクチトール、糖のエーテル化誘導体、例えばソルビタン(ソルビトールの環状デヒドロ-エーテル)、糖の部分アルキルアセタール、例えばメチルグルコース及びアルキル(ポリ)サッカリド、及び糖の他のオリゴマー/ポリマー、例えばデキストリン、糖の部分エステル化誘導体、例えば脂肪酸エステル、例えばラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸及びベヘン酸、ソルビタン、ソルビトール、及びスクロースのエステル、アミノ糖類、例えばN-アルキルグルカミン及びそれらのそれぞれのN-アルキル-N-アルケノイルグルカミド;
4 ポリヒドロキシカルボン酸、特にクエン酸及び酒石酸;
5 二官能性及び多官能性アミンを含むアミン、特に、エチレンジアミン(1,2-ジアミノエタン)などのアルキルジアミンを含むアルキルアミン;
6 アミノアルコール、特にエタノールアミン、2-アミノエタノール、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン;
7 尿素、マロンアミド、スクシンアミド等のカルボン酸アミド類;及び
8 アミドカルボン酸、例えばスクシンアミド酸。
【0022】
好ましいRコア基は、少なくとも3個、より好ましくは4個~10個の範囲、特に5個~8個、とりわけ6個の遊離ヒドロキシル及び/又はアミノ基を有する基の残基である。R基は、好ましくは直鎖C~C、より好ましくはC鎖を有する。ヒドロキシル基又はアミノ基は、好ましくは鎖炭素原子に直接結合している。ヒドロキシル基が好ましい。
【0023】
は、好ましくは、開鎖テトラトール、ペンチトール、ヘキシトール若しくはヘプチトール基又はアンヒドロ、例えばシクロエーテルアンヒドロ、そのような基の誘導体の残基である。特に好ましい実施形態では、Rは、糖、より好ましくはグルコース、フルクトース若しくはソルビトールなどの単糖、マルトース、パリトース、ラクチトール若しくはラクトースなどの二糖、又はより高次のオリゴ糖の、残基、又はそれらに由来する残基である。Rは、好ましくは単糖、より好ましくはグルコース、フルクトース又はソルビトール、特にソルビトールの、残基である。
【0024】
基の開鎖形態が好ましいが、内部環状エーテル官能基を含む基を使用することができ、合成経路がそのような環化を促進する比較的高い温度又は他の条件に基を曝露する場合、不注意に得られる可能性がある。
【0025】
添え字mは、Rコア基の官能性の尺度であり、アルコキシル化反応は、コア基が誘導される分子中の活性水素原子の一部又は全部(コア基対アルコキシル化基のモル比に依存する)を置き換える。特定の部位での反応は、立体障害又は適切な保護によって制限又は防止され得る。次いで、得られた化合物中のポリアルキレンオキシド鎖の末端ヒドロキシル基は、上で定義したアシル化合物との反応に利用可能である。添え字mは、好ましくは少なくとも3、より好ましくは4~10、特に5~8、とりわけ5~6の範囲である。混合物が使用されてもよく、通常使用されるので、mは平均値であってもよく、非整数であってもよい。
【0026】
アルキレンオキシド基AOは、典型的には、式:-(C2rO)-(式中、rは、2、3又は4、好ましくは2又は3である)の基、すなわち、エチレンオキシ(-CO-)又はプロピレンオキシ(-CO-)基であり、アルキレンオキシド鎖に沿った異なる基を表し得る。一般に、この鎖はホモポリマーエチレンオキシド鎖であることが望ましい。しかしながら、鎖は、プロピレングリコール残基のホモポリマー鎖、又はエチレングリコール及びプロピレングリコール残基の両方を含有するブロック若しくはランダムコポリマー鎖であってもよい。通常、エチレンオキシド単位及びプロピレンオキシド単位のコポリマー鎖が使用される場合、使用されるエチレンオキシド単位のモル比は、少なくとも50%、より通常には少なくとも70%である。
【0027】
(ポリ)アルキレンオキシド鎖中のアルキレンオキシド残基の数、すなわちパラメータnの平均値は、好適には1~50、好ましくは2~30、より好ましくは2~20、特に2~10、とりわけ3~8の範囲である。
【0028】
基Rは、(ポリ)アルキレンオキシド鎖の「末端基」である。末端基は、水素又はRであり、ここで、各Rは、独立して、ポリヒドロキシアルキル若しくはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基及び/又はヒドロキシアルキル若しくはヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーの残基である。好ましくは、各Rは、独立して、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸の残基及び/又はヒドロキシアルキルカルボン酸のオリゴマーの残基、より好ましくはポリヒドロキシアルキルカルボン酸の残基である。
【0029】
好適には、R基の少なくとも1.0個、好ましくは少なくとも1.5個、より好ましくは少なくとも2.0個、特に少なくとも2.2個、とりわけ少なくとも2.4個がRである。加えて、好適には、R基の最大6.0個、好ましくは最大4.0個、より好ましくは最大3.0個、特に最大2.7個、とりわけ最大2.5個がRである。
【0030】
ヒドロキシルアルキル及びヒドロキシアルケニルカルボン酸は、式HO-X-COOH(式中、Xは、少なくとも8個の炭素原子かつ20個以下の炭素原子、典型的には11個~17個の炭素原子を含有する二価の飽和又は不飽和、好ましくは飽和の脂肪族基である)のものであり、ヒドロキシル基とカルボン酸基との間に直接少なくとも4個の炭素原子が存在する。望ましくは、ヒドロキシアルキルカルボン酸は12-ヒドロキシステアリン酸である。実際には、このようなヒドロキシアルキルカルボン酸は、ヒドロキシル酸と対応する非置換脂肪酸との混合物として市販されている。例えば、12-ヒドロキシステアリン酸は、典型的には、C18不飽和ヒドロキシル酸及び非置換脂肪酸(オレイン酸及びリノール酸)を含むヒマシ油脂肪酸の水素化によって製造され、これは水素化すると12-ヒドロキシステアリン酸とステアリン酸との混合物を与える。市販の12-ヒドロキシステアリン酸は、典型的には約5%~8%の非置換ステアリン酸を含有する。
【0031】
ポリヒドロキシアルキル又はポリヒドロキシアルケニルカルボン酸は、上記ヒドロキシアルキル又はヒドロキシアルケニルカルボン酸を重合することにより製造することができる。対応する非置換脂肪酸の存在は停止剤として作用し、したがってポリマーの鎖長を制限する。望ましくは、ヒドロキシアルキル又はヒドロキシアルケニル単位の数は、平均で2~12、好ましくは3~10、より好ましくは4~9、特に5~8、とりわけ6~7である。ポリ酸の分子量は、典型的には600~3,000、特に900~2,700、より特に1,500~2,400、とりわけ約2,100である。
【0032】
ポリヒドロキシアルキル又はポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残留酸価は、典型的には50mgKOH/g未満であり、好ましい範囲は30mgKOH/g~35mgKOH/gである。典型的には、ポリヒドロキシアルキル又はポリヒドロキシアルケニルカルボン酸のヒドロキシル価は40mgKOH/gの最大値であり、好ましい範囲は20mgKOH/g~30mgKOH/gである。
【0033】
ヒドロキシアルキル又はヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーは、末端が非置換の対応する脂肪酸によるものではないという点で、ポリマーと異なっていてもよい。望ましくは、ヒドロキシルアルキル又はヒドロキシアルケニルカルボン酸の二量体である。
【0034】
好ましい一実施形態では、平均して好適には、R基の少なくとも1.0個、好ましくは少なくとも1.5個、より好ましくは少なくとも2.0個、特に少なくとも2.3個、とりわけ少なくとも2.4個が、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基であるR基である。加えて、平均して好適には、R基の最大4.0個、好ましくは最大3.5個、より好ましくは最大3.0個、特に最大2.7個、とりわけ最大2.5個が、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基であるR基である。これらのポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基は、好適には平均で3~10個、好ましくは4~9個、より好ましくは5~8個、特に6~7個、とりわけ7個のヒドロキシアルキルモノマー単位を含有する。
【0035】
ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基は、好ましくは非置換カルボン酸、より好ましくはステアリン酸で終端される。
【0036】
別の好ましい実施形態では、R基がヒドロキシアルキルカルボン酸残基、好ましくはポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基を含む場合、本明細書で定義される式(I)の化合物中に存在するヒドロキシアルキルカルボン酸残基の全ての総数は、好適には平均で5~30個、好ましくは8~20個、より好ましくは10~17個、特に12~15個、とりわけ13~14個のヒドロキシアルキルモノマー単位の範囲である。
【0037】
更なる好ましい実施形態では、平均して、好適には、R基の少なくとも2.0個、好ましくは少なくとも2.5個、より好ましくは少なくとも3.0個、特に少なくとも3.3個、とりわけ少なくとも3.5個がHである。加えて、平均して好適には、R基の最大5.0個、好ましくは最大4.5個、より好ましくは最大4.0個、特に最大3.7個、とりわけ最大3.6個は、Hである。
【0038】
コア基が例えば、例えば、ペンタエリスリトールから誘導される場合、コア残基のアルコキシル化は、活性水素が除去され得る4つの利用可能な部位にわたって均一に分布され得、末端ヒドロキシル官能基のエステル化の際に、アシル基の分布は、予想されるランダム分布に近くなる。しかしながら、コア基がソルビトールのような化合物から誘導され、活性水素原子の全てが等価でない場合、アルコキシル化はポリアルキレンオキシ鎖に対して等しくない鎖長を与え得る。
【0039】
トラクション係数添加剤は、まず、m個の活性水素原子を含有するRコア基を、当技術分野で周知の技術によって、例えば、必要量のアルキレンオキシド、例えば、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドと反応させることによってアルコキシル化することによって製造することができる。本プロセスの第2段階は、好ましくは、上記アルコキシル化種をポリヒドロキシアルキル(アルケニル)カルボン酸及び/又はヒドロキシアルキル(アルケニル)カルボン酸と、標準的な触媒エステル化条件下、250℃までの温度で反応させることを含む。したがって、式(I)のトラクション係数添加剤は、基Rをアルキレンオキシドと反応させ、次いでこの反応のアルコキシル化生成物をポリヒドロキシアルキル(アルケニル)カルボン酸、ヒドロキシアルキル(アルケニル)カルボン酸、又はそれらの混合物でエステル化することによって製造することができる。
【0040】
1つの好ましい実施形態では、トラクション係数添加剤は、アルコキシル化コア基Rとポリヒドロキシアルキルカルボン酸との反応によって調製され、ここで、アルコキシル化コア基対ポリ酸のモル比は、好ましくは1:1~1:4、より好ましくは1:2~1:2.8の範囲である。好ましくは、この経路によって調製されるトラクション係数添加剤は、3,000~10,000、より好ましくは4,000~7000、特に5,000~6,000の分子量(Mn)を有する。
【0041】
本発明の潤滑剤組成物は、ベースストックを含む。潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、更により好ましくは少なくとも75重量%のベースストックを含み得る。潤滑剤組成物は、塑性物の総重量に基づいて、最大98重量%、好ましくは最大95重量、より好ましくは最大90重量%のベースストックを含み得る。
【0042】
潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも2重量%、適切には少なくとも2.5重量%、好ましくは少なくとも3重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、更により好ましくは少なくとも7重量%のトラクション係数添加剤を含む。潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、最大20重量%、好ましくは最大15重量%まで、最も好ましくは最大10重量%のトラクション係数添加剤を含み得る。
【0043】
一実施形態では、潤滑剤組成物は、非水性である。しかしながら、潤滑剤組成物の成分は、少量の残留水(水分)を含有し得、したがって、潤滑剤組成物中に存在し得ることが理解されるであろう。潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、5重量%未満の水を含み得る。より好ましくは、潤滑剤組成物は、実質的に水を含まない、すなわち、組成物の総重量に基づいて、2重量%未満、1重量%未満、又は好ましくは0.5重量%未満の水を含有する。好ましくは、潤滑剤組成物は実質的に無水である。
【0044】
潤滑剤組成物は、電気車両での使用に好適なギアボックス油を適切に提供する。潤滑剤組成物をその意図される用途に適合させるために、潤滑剤組成物は、以下の更なる添加剤タイプのうちの1つ以上を含み得る:
1.分散剤:例えば、アルケニルスクシンイミド、アルケニルコハク酸エステル、他の有機化合物で変性されたアルケニルスクシンイミド、エチレンカーボネート又はホウ酸で後処理することによって変性されたアルケニルスクシンイミド、ペンタエリスリトール、フェネート-サリチレート及びそれらの後処理された類似体、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属ボレート、水和アルカリ金属ボレートの分散液、アルカリ土類金属ボレートの分散液、ポリアミド無灰分散剤など、又はそのような分散剤の混合物。
2.酸化防止剤:酸化防止剤は、鉱油が使用中に劣化する傾向を低減させ、その劣化は、金属表面上のスラッジ及びワニス様堆積物などの酸化生成物によって、及び粘度の増加によって証明される。酸化防止剤としては、例えば、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2’-イソブチリデン-ビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-l-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-4-(N,N’-ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)-スルフィド、及びビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)などのフェノール系酸化防止剤が挙げられる。他のタイプの酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、Irganox L-57、例えば、BASF、金属ジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)、及びメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)が挙げられる。
3.耐摩耗剤:その名前が示すように、これらの薬剤は移動する金属部品の摩耗を減少させる。このような薬剤の例としては、ホスフェート、ホスファイト、カルバメート、エステル、硫黄含有化合物、及びモリブデン錯体が挙げられる。
4.乳化剤:例えば、直鎖アルコールエトキシレート。
5.解乳化剤:例えば、アルキルフェノールとエチレンオキシドの付加生成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンソルビタンエステル。
6.極圧剤(EP剤(extreme pressure agent)):例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(一級アルキル、二級アルキル、及びアリール型)、硫化油、硫化ジフェニル、トリクロロステアリン酸メチル、塩素化ナフタレン、フルオロアルキルポリシロキサン、及びナフテン酸鉛。好ましいEP剤は、例えば、耐摩耗性油圧作動油組成物のための共添加剤成分の1つとしての、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(zinc dialkyl dithiophosphate、ZnDTP)である。
7.多機能添加剤:例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデン有機ホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセード(monoglycehde)、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン-モリブデン錯体化合物、及び硫黄含有モリブデン錯体化合物。
8.粘度指数向上剤:例えば、ポリメタクリレートポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレンコポリマー、ポリイソブチレン、及び分散型粘度指数向上剤。
9.流動点降下剤:例えば、ポリメタクリレートポリマー。式(I)の化合物の流動点がギアボックス油としての使用に好適であることは本発明の利点であるが、比較的長い鎖の直鎖分子を利用する実施形態は、流動点降下剤の添加から利益を得ることができる。追加的に、いくつかの代替添加剤の存在は、配合物の流動点に悪影響を及ぼし、流動点降下剤の添加を魅力的なものにし得る。
10.抑泡剤:例えば、アルキルメタクリレートポリマー及びジメチルシリコーンポリマー。
11.摩擦調整剤:アミド、アミン、及び多価アルコールの部分脂肪族エステルが挙げられ、例えば、グリセロールモノオレエート、オレイルアミド、及び「Perfad」の商品名でCrodaから入手可能な、又は「Ethomeen」の商品名でNouryonから入手可能な代替摩擦調整剤が挙げられ得る。
【0045】
潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも5重量%の更なる添加剤又は更なる添加剤の混合物を含んでもよい。潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、最大30重量%、好ましくは最大20重量%、より好ましくは最大10重量%の更なる添加剤又は更なる添加剤の混合物を含んでもよい。
【0046】
添加剤(複数可)は、市販の添加剤パックの形態で入手可能であり得る。このような添加剤パックは、添加剤パックの必要とされる使用に応じて組成が変動する。当業者は、ギア油のための好適な市販の添加剤パックを選択し得る。本発明のギア油に特に好適な添加剤パックの例は、Evogen 5201、例えば、Lubrizol,USAであるが、これは、特に電気車両での使用のために設計されている。
【0047】
上記の例にもかかわらず、潤滑剤組成物を電気車両での使用に好適なものにするために、任意の添加剤(複数可)の選択は、銅適合性(電気モータの要件のため)、並びに低い(しかし、必ずしもゼロではない)導電率を提供するか又は呈することを考慮に入れるべきであり、従来の燃焼エンジン自動車エンジンに一般的に利用される全ての添加剤が、電気車両パワートレイン流体での使用に好適であるわけではない。
【0048】
本明細書では、American Petroleum Institute(API)によって定義されるベースストックグループ命名法が使用される。ベースストックは、潤滑剤組成物の意図される用途に基づいて選択することができる。
【0049】
好ましくは、ベースストックは、APIグループI、II、III、IV、Vベースストック又はそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、ベースストックは、APIグループII、III、IV、V、又はそれらの混合物から選択される。ベースストックがグループIVからのポリアルファオレフィン(PAO)を含む場合、ベースストックはまた、望ましくは、ベースストック中のトラクション係数添加剤の溶解度を改善するために、グループI、II若しくはIIIからの鉱油又はグループVからのエステルを含んでもよい。後者の場合、グループVからのエステルは、ベースストック中のトラクション係数添加剤の溶解度を改善するために、潤滑剤組成物の5重量%~20重量%で存在してもよい。したがって、ベースストックは、グループIV及びグループVベースストック又はグループIV及びグループI、II若しくはIIIベースストックの混合物であってもよい。
【0050】
本発明の潤滑剤組成物は、電気車両のギアボックス油として好適に使用される。潤滑剤組成物がギアボックス油である場合、トラクション係数添加剤は、好ましくは、ギアボックス油の総重量に基づいて2重量%~10重量%の範囲の濃度で存在する。
【0051】
潤滑剤組成物は、ISOグレードによる動粘度を有し得る。ISOグレードは、40℃でのサンプルの中間点動粘度をcSt(mm/秒)で指定する。例えば、ISO 100は、100±10cStの粘度を有し、ISO 1000は、1000±100cStの粘度を有する。潤滑剤組成物は、好ましくはISO 10~ISO 680、より好ましくはISO 15~ISO 320の範囲の粘度を有する。
【0052】
本発明の潤滑剤組成物は、添加剤を含まない同等の潤滑剤組成物と比較して、0℃~200℃の温度範囲にわたって、好ましくは20℃~100℃の温度範囲にわたって、より好ましくは40℃~60℃の範囲にわたって、トラクション係数の低減を可能にする。
【0053】
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物のトラクション係数の改善が有利であり得る他の技術分野において使用されてもよく、すなわち、本発明は、電気車両における単なる使用よりも広い有用性を有し得る。したがって、本明細書に記載のギア油は、工業用、自動車用及び/又は船舶用ギア油であってもよい。潤滑剤組成物がギア油である場合、トラクション係数添加剤は、潤滑剤ベースストック(又は基油)のトラクション係数に関する改善が実現されるように、ギア油の総重量に基づいて2重量%~10重量%の範囲で存在することが好ましい。
【0054】
工業用ギア油としては、スパーギア、ヘリカルギア、ベベルギア、ハイポイドギア、プラネタリギア及びウォームギアを有するギアボックスでの使用に好適なものが挙げられる。好適な用途としては、採掘、製紙工場、繊維工場及び製糖工場などの工場、鋼生産及び風力タービンにおける使用が挙げられる。1つの好ましい用途は、ギアボックスが典型的にプラネタリギアを有する風力タービンである。風力タービンにおいて、ギアボックスは、典型的には、風力タービンブレードアセンブリのロータと発電機のロータとの間に配置される。ギアボックスは、風力タービンブレードロータによって毎分約10回転~30回転(rpm)で回転される低速シャフトを、発電機を約1000rpm~2000rpmで駆動する1つ以上の高速シャフトに接続することができ、この回転速度は、電気を生成するためにほとんどの発電機によって必要とされる回転速度である。ギアボックスに加えられる高トルクは、風力タービン内のギア及びベアリングに巨大な応力を発生させる可能性がある。本発明のギア油は、ギア間のトラクションを低減することによって、風力タービンのギアボックスの疲労寿命を向上させることができる。風力タービンギアボックスにおける使用のための潤滑剤は、多くの場合、メンテナンスの間の長期間の使用、すなわち長いサービス間隔に供される。したがって、長期間にわたって適切な性能を提供するために、高い安定性を有する長持ちする潤滑剤組成物が必要とされ得る。本発明によるギア油は、そのような使用に適し得る。
【0055】
従来の自動車用ギア油(すなわち、燃焼エンジン用)としては、手動変速機、トランスファーケース及びディファレンシャル(これらは全て典型的にハイポイドギアを使用する)における使用に好適なものが挙げられる。トランスファーケースとは、四輪駆動システム及び全輪駆動システムに見られる四輪駆動システムの一部を意味する。それは、トランスミッションに接続され、ドライブシャフトによって前車軸及び後車軸にも接続される。これは、文献において、トランスファーギアケース、トランスファーギアボックス、トランスファーボックス、又はジョッキーボックスとも呼ばれる。本発明は、電気車両(従来の自動車ギア油とは異なる物理的特性要件を有する)での使用に適するように特に設計されているが、本発明のギア油は、従来の自動車用ギア油で使用するためのベースストックのトラクション係数特性の改善を提供することができる。
【0056】
船舶用スラスターギアボックスは、工業用及び自動車用ギア油と比較して、腐食及び水同伴に対処するために、より高い割合の添加剤、例えば分散剤、防食剤を含む特定のギア油を有する。プロペラユニットに使用される船外ギア油もあり、これは、より小型の船舶に対してより適切であり得る。本発明のギア油は、船舶用スラスターギアボックスで使用するためのベースストックのトラクション係数特性の改善も提供し得る。
【0057】
本明細書で定義される式(I)の化合物は、トラクション係数潤滑剤組成物、好ましくは電気車両用ギア油のトラクション係数を、トラクション係数添加剤を含まない同等の潤滑剤組成物と比較した場合に、本明細書に記載の試験に従ってミニトラクションマシン(MTM)を使用して、40℃及び60℃の温度、1.0GPaの荷重並びに30%の滑り対転がり比(SRR)で測定して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、特に少なくとも20%、とりわけ少なくとも25%低減することができる。トラクション係数は、トラクション係数添加剤を含まない同等の潤滑剤組成物と比較して、本明細書に記載されるように、0℃~200℃の温度範囲にわたって、好ましくは20~100℃の範囲にわたって、より好ましくは40~60℃の範囲にわたって低減され得る。
【実施例
【0058】
ここで、本発明を以下の非限定的な実施例によって説明するが、以下の材料及び試験手順を使用する。
【0059】
試験材料
PAO 4-Spectra Syn(商標)4-ExxonMobilから入手可能な直鎖アルファオレフィンの反応によって製造されるAPIグループIV合成ポリアルファオレフィンベースストック。
YUBASE 4-SK Lubricantsから入手可能なAPI Group III VHVIベースストック。
Priolube(商標)3970-Croda Inc.から入手可能なAPIグループV合成エステルベースストック。
EHC-45-ExxonMobilから入手可能なAPI GRIIベースストック。
Perfad(商標)3050-Croda Inc.から入手可能な市販のポリマー摩擦調整剤。
【0060】
試験手順
ミニトラクションマシン(MTM)
MTMは、PCS Instruments(London,UK)によって供給された。MTMは、速度、荷重及び温度などのいくつかの特性を変化させながら、ボールオンディスク構成を使用して所与の試験サンプルのトラクション係数及び摩擦係数を測定する方法を提供する。MTMは、コンピュータ制御の精密トラクション測定システムであり、その試験片及び構成は、大きな負荷、モータ又は構造を必要とせずに現実的な圧力、温度及び速度を達成することができるように設計されている。本明細書で提供されるデータで使用される試験パラメータの詳細は以下の通りである。
【0061】
ディスクは、鏡面仕上げ(Ra<0.01mm)のAISI 52100硬化軸受鋼であり、ボールは、AISI 52100硬化軸受鋼であった。接触圧は、0.2m/秒の圧延速度で0.43GPa、0.1m/秒の圧延速度で1 GPaであった。次いで、約50mLの試験サンプルを添加した。ボールをディスクの面に対して装填し、ボール及びディスクを独立して駆動して、30%の滑り対転がり比(SRR)を有する転がり/滑り混合接触を作り出した。ボールとディスクとの間の摩擦力は、力変換器によって測定された。追加のセンサが、加えられた荷重及び試験サンプル温度を測定した。
【0062】
潤滑剤対照組成物(すなわち、トラクション低減添加剤が存在しないベースストック)試験サンプルのトラクション係数を、滑らかなディスク上に3/4インチボールを有するMTMを利用して40℃及び60℃で決定した(上記で定義した通り)。次いで、MTM試験を、評価されるトラクション低減添加剤の2.5重量%、5重量%、7.5重量%、又は10重量%を添加した潤滑剤対照組成物を含む試験サンプル(以下に示すサンプル1又はサンプル2のいずれか)を用いて、MTM試験を繰り返した。更なる試験を、市販の潤滑油添加剤の添加を含む試験サンプルを利用して行った。試験サンプルを以下により詳細に説明する。
【0063】
実施例1 トラクション係数添加剤(サンプル1)の調製
トラクション添加剤サンプル1を、以下の方法に従って調製した:12-ヒドロキシステアリン酸(68.7重量%)、PEG-12ソルビトール(31.3重量%)及びシュウ酸スズ触媒(GoldschmidtからのTegokat 160)をガラス反応器に投入し、窒素下で190℃に加熱した。反応を12時間~24時間続け、次いで100℃未満に冷却し、生成物を排出した。これにより、以下に示す一般化された組成を有する生成物(サンプル1)が得られた。
[(AO)-R
式中、
は、排出されたソルビトールの残基である。
mは6であり、
AOは、エチレンオキシド残基であり、
nの平均は2であり、
各Rは、独立して、H又はRであり、ここで、各Rは、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)であり、
基の平均0.58個がRである。
【0064】
実施例2 トラクション係数添加剤(サンプル2)の調製
トラクション添加剤サンプル2を、以下の方法に従って調製した:12-ヒドロキシステアリン酸(68.7重量%)、PEG-50ソルビトール(31.3重量%)及びシュウ酸スズ触媒(GoldschmidtからのTegokat 160)をガラス反応器に投入し、窒素下で190℃に加熱した。反応を12時間~24時間続け、次いで100℃未満に冷却し、生成物を排出した。これにより、以下に示す一般化された組成を有する生成物(サンプル2)が得られた。
[(AO)-R
式中、
は、ソルビトールの残基であり、
mは6であり、
AOは、エチレンオキシド残基であり、
nの平均は9であり、
各Rは、独立して、H又はRであり、ここで、各Rは、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)であり、
基の平均0.58個がRである。
【0065】
実施例3.MTM試験データ
以下の表1、2、3、4及び5に示されるMTMデータは、サンプル1及びサンプル2(上記)の両方が、従来の潤滑剤ベースストックのトラクション係数を減少させるのに有効であることを示し、ベースストック単独の対照サンプルと比較したトラクション係数の減少が、添加剤の導入後に観察される。MTM試験データは、ある範囲のAPIベースストックにわたって本添加剤技術の有用性を示すために選択された潤滑剤ベースストック(すなわち、対照サンプル)の選択について提供される。試験用のベースストックの選択には、以下のベースストックが含まれる:グループIII(YUBASE 4)、並びに従来のグループII、グループV(PAO 4)及びエステル(Priolube 3970)のブレンド。
【0066】
ベースストックのトラクション係数を改善するための添加剤としてのサンプル1及びサンプル2の有効性もまた、PAO 100を含むベースストックのトラクション係数に対する効果と比較される。PAO 100は、従来の自動車用ギア油配合物に非常に一般的に利用されている増粘剤であり、PAO 100の含有は、ベースストックの粘度を増加させることが知られており、粘度の増加は、より粘性のベースストックが試験境界でフィルムを維持することができるので、トラクション係数に対して正の効果を有し得る。
【0067】
以下の表に提供されるデータから、サンプル1及び2の使用は、特に2.5重量%~7.5重量%の処理率範囲について、ベースストックのトラクション係数の2倍~10倍大きい(パーセント値で)低減をもたらしたことが分かる。サンプル1及び2については、組成物の総重量に基づいて5重量%~7.5重量%の含有量の最適な処理率が存在するようであり、濃度の更なる増加は、トラクション係数の利益をもたらさないか、又は更に有害な増加をもたらし、このトラクション係数の改善は、PAO 100含有によって達成される粘度増加効果とは異なる。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
ここで以下の表5を参照すると、市販のポリマー摩擦調整剤であるPerfad 3050についてのトラクションデータは、それが40℃でのトラクション係数を低下させるのに有効でないことを明確に示す。それほど厳しくない、より流体力学的潤滑タイプの試験条件では、Perfad 3050の含有は、望ましくないトラクション係数の増加をもたらす。60℃でのより厳しい試験条件及びより遅い速度では、Perfad 3050は、PAO 100のトラクション低減効果と類似のトラクション低減効果を示すが、これは、本発明によるサンプルについて観察されたトラクション係数改善の低減よりも劣っている。
【0073】
【表6】
【国際調査報告】