(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-08
(54)【発明の名称】組織を分析するためのプロセス及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240426BHJP
G01N 21/00 20060101ALI20240426BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20240426BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N21/00 A
G01N29/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513554
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2022061284
(87)【国際公開番号】W WO2022233685
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523422314
【氏名又は名称】エクリピア
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブラン,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】クタール,ジャン―ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】ギャレゴス,アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ル ルー―マルフ,ティボー
(72)【発明者】
【氏名】ランゲット,フレディ
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
【Fターム(参考)】
2G047AA04
2G047AA12
2G047AC13
2G047BC13
2G047BC15
2G047CA04
2G047GD02
2G047GF07
2G047GF11
2G047GG09
2G047GG32
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059EE16
2G059FF04
2G059GG06
2G059HH01
2G059KK08
2G059KK09
(57)【要約】
- 制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、強度変調デバイスと、
- 放出された光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える検出セルと、
- 少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成されたプロセッサモジュールと、
を備える分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスである。
このプロセスは、第1モードで光放出器によるターゲットの少なくとも2回の照射を実行し、放出される光の強度の変調周波数は第1モード照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、プロセッサモジュールは検出セルから第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、プロセッサモジュールで周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成し、個別モードの変調周波数を決定し、個別モードの変調周波数で少なくとも1回の照射を実行し、この照射の結果に基づいて検体値を求めることを含む。
【選択図】
図4a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、強度変調デバイスと、
放出された前記光による前記ターゲットの照射に応答して前記ターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
前記少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成されたプロセッサモジュールと、
を備える分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスであって、
a)第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される前記光の前記強度の前記変調周波数が前記第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
b)前記第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行し、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第1モードでの前記少なくとも1回の追加照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
c)受信した前記第1モードでの少なくとも2回の照射についての前記センサデータを前記プロセッサモジュールで処理し、前記プロセッサモジュールで前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成するステップと、
d)前記プロセッサモジュールを使用して、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算するステップと、
e)第2モードで強度を変調した光を放出する光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、前記第2モードで放出される前記光の強度の前記変調周波数が前記ステップdで計算された前記個別モードの変調周波数であり、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第2モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
f)プロセッサモジュールを使用して、受信した前記第2モードでの少なくとも1回の前記照射についての前記センサデータに基づいて検体値を計算するステップと、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記a)及びb)を実行するために第1のセンサが提供され、前記e)を実行するために第2のセンサが提供されることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項3】
前記e)で前記少なくとも1回の照射を実行するために、制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する第2の光放出器が提供されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項4】
前記e)で、前記第2モードで少なくとも2回の照射が実行され、前記第2モードでの2回の連続した照射が、第1の期間T
DMだけ分離されることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項5】
前記f)で、受信した前記eでの前記第2モードでの複数の前記少なくとも2回の照射についての前記センサデータに基づいて前記検体値が計算されることを特徴とする、請求項4に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項6】
前記b)、c)、d)、及びe)が、この順序で周期的に繰り返され、前記b)の2つの連続する繰返しが、第2の期間T
SMだけ分離されることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項7】
前記第1の期間T
DMが前記第2の期間T
SMよりも短いことを特徴とする、請求項4及び請求項5のいずれか及び請求項6に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項8】
第1の整数Nが予め定められており、前記c)で、前記第1モードでの最新の前記N回の照射中に取得された前記データで前記時系列が生成されることを特徴とする、請求項6又は請求項7のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項9】
前記a)で、前記第1モードでN-1回の照射が実行され、前記a)の2回の連続した照射が、第3の期間T
DMだけ分離されることを特徴とする、請求項8に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項10】
前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析は、複数の個別の周波数のそれぞれについての時系列を生成し、前記複数の個別の周波数のうちの2つでの2つの時系列間の類似度又は非類似度を示す少なくとも1つの値を計算することを含むことを特徴とする、請求項1~請求項9のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項11】
前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析は、この時系列に対して動的タイムワーピングアルゴリズム及び/又は相関分析を実行することをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項12】
強度を変調した光が、前記ターゲットの測定される検体によって吸収される少なくとも1つの波長を含むことを特徴とする、請求項1~請求項11のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項13】
前記強度を変調した光の前記少なくとも1つの波長が、中赤外範囲内にあることを特徴とする、請求項12に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項14】
前記分析装置は、ユーザインターフェースをさらに備えるか、又は薬剤送達デバイスにデータを送信するようにさらに構成されることを特徴とし、前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析の結果が所定の閾値と比較され、この比較の結果に基づいて、警報信号が前記ユーザインターフェース上に表示されるか、又は前記薬剤送達デバイスに送信されることを特徴とする、請求項1~請求項13のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項15】
前記少なくとも1つの検出セルが、電気音響センサ及び熱センサから選択されるセンサを備えることを特徴とする、請求項1~請求項14のいずれかに記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項16】
ターゲットを非侵襲的に分析するための装置であって、
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、少なくとも1つの強度変調デバイスと、
放出された前記光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成された少なくとも1つのプロセッサモジュールと、
を備え、
前記少なくとも1つの光放出器は、
a)第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される前記光の強度の前記変調周波数は、前記第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、
b)前記第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行する、
ように構成され、
前記少なくとも1つのプロセッサモジュールは、
c)少なくとも1つの検出セルから第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、
d)受信した前記第1モードでの前記少なくとも2回の照射についての前記センサデータを処理し、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成し、
e)前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのデータを含む前記時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算する、
ように構成され、
前記少なくとも1つの光放出器は、第2モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行するように構成され、前記第2モードで放出される前記光は、前記少なくとも1つのプロセッサモジュールによって計算された前記個別モードの変調周波数で強度が変調され、
前記少なくとも1つのプロセッサモジュールは、少なくとも1つの検出セルから前記第2モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、受信した前記第2モードでの少なくとも1回の照射についての前記センサデータに基づいて検体値を計算するように構成される、
装置。
【請求項17】
前記装置はウェアラブルであることを特徴とする、請求項16に記載のターゲットを非侵襲的に分析するための装置。
【請求項18】
請求項16又は請求項17のいずれかに記載のターゲットを非侵襲的に分析するための装置と薬剤送達システムを含むシステムであって、前記装置のプロセッサモジュールを使用して計算された少なくとも1つの検体値に基づいて、前記薬剤送達デバイスによって送達される薬剤療法を決定するようにさらに構成される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、ヒト組織又は動物組織を分析するための、さらには、この組織内の物質を測定するための、例えば血中グルコースを測定するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
世界中で4億2500万人が1型及び2型を含む糖尿病を患っている。糖尿病患者の血中グルコース(血糖)値が維持されないと、心血管疾患、腎臓病、及び糖尿病性足病変などの深刻な合併症を引き起こす可能性がある。したがって、血中グルコース値は定期的にモニタリングするべきであり、血中グルコース値が高ければ速やかに対処する必要がある。
【0004】
血中グルコース値は、侵襲的に採取された血液サンプルから決定され得る。指を穿刺して血液を採取することは、血中グルコースを1日に数回測定する必要がある糖尿病患者にとって非常に不便であり、さらに、感染リスクがある。
【0005】
したがって、可能であれば、非侵襲的な血中グルコース測定方法が好ましい。
【0006】
血中グルコースを非侵襲的な様態で測定するための公知の方法が以下の刊行物に記載されており、Allan Rosencwaig及びAllen Gershoによる“Theory of the photoacoustic effect with solids”, Journal of Applied Physics 47, 64 (1976)に記載されている光音響技術は、レーザビームによって提供される光などの光によるターゲットの照射に依存する。
【0007】
照射により、ターゲットに体積膨張などの熱的効果が生じ、熱拡散によりターゲットに空気の薄層が接触し、圧力振動が生じて音響波が発生する。
【0008】
この音響波の特徴は、用いられる光の波長に対するターゲットの吸収係数、音響波が伝播する媒体の密度、ターゲットの熱膨張係数、音響波の速度などのいくつかの因子に依存する。
【0009】
ターゲットとして皮膚が用いられる場合、光が皮膚内に或る距離だけ進入し、皮膚の下にあるグルコース分子などの分子を励起し得る。これらのグルコース分子の熱励起(及びその後の体積膨張)によって発生した音響波を使用して、グルコース分子の濃度を推定することができる。
【0010】
Kottmann J、Rey JM、Sigrist MW.による“Mid-Infrared Photoacoustic Detection of Glucose in Human Skin : Towards Non-Invasive Diagnostics”. Sensors (Basel). 2016;16(10):1663. Published 2016 Oct 10には、中赤外線(MIR)光音響(PA)検出に基づく非侵襲的なグルコースモニタリングシステムが記載されている。
【0011】
この文書は、測定感度及び安定性の向上に焦点をあてている。
【0012】
実際、光音響検出に基づく測定は、インビボで制御できないいくつかの影響を受け、インビボでの研究中に、受動拡散を通じた経皮水分損失だけでなく、蒸散によって水がPAチャンバの結合ガス中へ蒸発する。特定の変調周波数で変調された2つの異なるレーザビームを使用することで、測定の安定性及び感度が向上する。
【0013】
しかしながら、すべての測定に2つのレーザを使用すると、電力消費が高くなり、デバイスのポータブルの性質とは適合しない。
【0014】
さらに、測定は、温度及び相対湿度だけでなく、レーザビームが到達する皮膚の構造にも影響される。
【0015】
Kottmannは、均質材料の場合の変調周波数とレーザビームが到達する材料の深さとの間の既知の(Rosencwaigによって確立された)理論的関係性を指摘している。残念ながら、皮膚は均質材料として考えることはできない。さらに厄介なことに、皮膚は生きた材料であり、時間の経過とともに変化する。
【0016】
皮膚構造は、患者によって異なり、所与の患者で、とりわけ、皮膚にかかる圧力、温度、及び皮膚の含水量によって異なる。また、例えば落屑などにより変化することもある。
【0017】
検体センサを信頼性のあるものにするためには、確実に測定が常に皮膚の同じ層で行われることと、この層の深さが時々変化する場合であっても、確実にこの層が検体モニタを含むことが特に重要である。この場合及びこの場合にのみ、測定は検体に特異的とすることができ、測定から再現性のある検体値を推定することができる。
【0018】
US10,261,011B2に、励起レーザビーム及び測定レーザビームを含むグルコースモニタリングデバイスが記載されている。測定ビームから時間に依存する応答信号が検出される。時間に依存する応答信号の強度分布は、皮膚表面下の深さの関数であり、励起ビームのいくつかの変調周波数で研究される。励起ビームは、10Hz~500Hzの異なる周波数で変調される。
【0019】
WO2020/094265A1にも、励起レーザビーム及び測定レーザビームを含むグルコースモニタリングデバイスが記載されている。励起送信デバイスの異なる変調周波数を使用して、いくつかの応答信号曲線を一つずつ決定することができる。異なる変調周波数での複数の応答信号曲線から、深度ゾーンに特異的な情報を得ることができる。
【0020】
しかしながら、WO2020/094265A1もUS10,261,011B2も、皮膚構造の変化があっても、確実に同じ皮膚ゾーン(同じ深さではない)がモニタリングされ、確実にこのゾーンが実際にモニタリングする検体を含む状態での、インビボ測定の繰り返し精度及び検体特異性の問題を解決していない。
【0021】
2回のサンプリング間で針の深さが変化することがあり、変化しない場合であっても皮膚構造が時間の経過とともに変化することがあるため、侵襲的な検体モニタリングシステムでは測定の繰り返し精度に対処できないことに注目される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、本発明に係るプロセスは、経時的なターゲットの構造の分析を提供すること、特に経時的なターゲットの構造の不変と変化の両方の情報を提供することを目的としている。
【0023】
第2の態様において、このプロセスは、光音響検出に基づくポータブルの非侵襲的な検体センサについての、持続可能なエネルギー及び時間コストでの、インビボ検体測定の繰り返し精度及び検体特異性の向上を目的としている。
【0024】
検体は、血中グルコースであり得るが、他の検体も扱うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、強度変調デバイスと、
放出された光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成されたプロセッサモジュールと、
を備える分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスに関する。
【0026】
このプロセスは、
a.第1モードで光放出器によるターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される光の強度の変調周波数は第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、プロセッサモジュールは検出セルから第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
b.前記第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行し、プロセッサモジュールは検出セルから第1モードでの少なくとも1回の追加照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
c.プロセッサモジュールで受信した第1モードでの少なくとも2回の照射についてのセンサデータを処理し、プロセッサモジュールで周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成するステップと、
d.プロセッサモジュールを使用して、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算するステップと、
e.第2モードで強度を変調した光を放出する光放出器によるターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、第2モードで放出される光の強度の変調周波数はステップdで計算された個別モードの変調周波数であり、プロセッサモジュールは検出セルから第2モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
f.プロセッサモジュールを使用して、受信した第2モードでの少なくとも1回の照射についてのセンサデータに基づいて検体値を計算するステップと、
を含む。
【0027】
この構成のおかげで、第1モードでの照射ごとに、強度が変調された光がターゲットに照射され、変調周波数はスイープ範囲内でスイープする。
【0028】
変調周波数が減少するにつれて、光はターゲットのより深くまで進入し、この光に応答して(例えば、熱センサで)直接又は(例えば、熱波に対応する音響波を感知する電気音響センサで)間接的に感知された熱波が、ターゲットのより深い部分に関する情報を提供する。
【0029】
第1モードでの各照射は、結果としてターゲットの深さに沿った構造に関する情報を提供する。2つの異なる時点で少なくとも2回の連続した照射が実行されるため、時系列を生成することができる。時系列の処理により、深さに沿ったターゲット構造の変化及び不変に関する情報が得られる。
【0030】
スイープ範囲全体にわたって取得されたデータで生成された時系列は、例えば、複数の時系列に分割することができ、各時系列は、スイープ範囲内の個別の周波数又は周波数の間隔に関係し、結果として、各時系列は、光放出器から特定の距離又は距離間隔にあるターゲットのゾーンに関係する。次いで、ターゲットの様々な安定した又は変化するゾーン又は境界面を検出するべく、複数の時系列のうちの2つ以上を比較することが可能である。
【0031】
次いで、プロセッサモジュールは、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列の分析に基づいて、個別モードの変調周波数を計算することができる。
【0032】
このようにして、ターゲット構造の不変及び/又は変化を考慮して、ターゲットの特定のゾーンに到達することを意図した第2モードでのさらなる照射に関する最適な変調周波数を設定することができ、このさらなる照射は、受信したこのさらなる照射についてのセンサデータに基づいて検体値が決定されるように行うことができる。
【0033】
この構成のおかげで、検体が常に特定の層で測定される場合、この層は、ターゲットにおいて変化する深さを有し、この層に到達することを保証する最適な変調周波数は、第1モードでの照射の結果に応じて適応され、この最適な変調周波数で強度が変調された光がターゲットに照射される。この第2モードで取得されたセンサデータは、結果として検体に特異的であり、検体の測定は、検体に特異的であり、且つ、繰返し可能である。
【0034】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、ステップa及びbを実行するために第1のセンサが提供され、ステップeを実行するために第2のセンサが提供される。
【0035】
このようにして、1つのセンサを第1モードでの取得専用にし、別のセンサを第2モードでの取得専用にすることができる。例えば、各モードに必要とされる精度に応じて、第1モードでの取得と第2モードでの取得に異なるタイプのセンサを使用することも可能である。
【0036】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、ステップeで少なくとも1回の照射を実行するために、制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する第2の光放出器が提供される。
【0037】
このようにして、1つの光放出器を第1モードでの取得専用にし、別の光放出器を第2モードでの取得専用にすることができる。例えば、各モードに必要とされるビームのパワー又は品質に応じて、第1モードでの取得と第2モードでの取得に異なるタイプの光放出器を使用することも可能である。
【0038】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップeで、第2モードで少なくとも2回の照射が実行され、第2モードでの2回の連続した照射は、第1の期間TDMだけ分離される。
【0039】
この構成は、第2モードで数回の連続する照射を実行し、結果的に同じ変調周波数で検体を繰返し測定することを可能にする。第1モード照射は、実際、時間がかかり、電力を消費するものであり、ターゲットの変化の特徴的な時間が検体の2つの測定間の時間よりも長いことが判明した場合、第2モードでの各照射後に又は各照射前に第1モード照射を実行しない方が効率的である。
【0040】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップfにおいて、受信した前のステップeにおける第2モードでの複数の少なくとも2回の照射についてのセンサデータに基づいて検体値が計算される。
【0041】
これは、例えば、近い時間点で測定された検体値の平均値、移動平均値などを計算することによって、検体値を平滑化することを可能にする。したがって、測定の精度又は信頼区間を向上させることができる。
【0042】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップb、c、d、及びeは、この順序で周期的に繰り返され、2つの連続するステップbは第2の期間TSMだけ分離される。
【0043】
このようにして、ターゲットの変化の特徴的な時間をTとすると、TSMは、Tよりも小さくなるように選択することができ、これにより、実行する分析に最適な光放出器の強度の変調周波数が、この最適な変調周波数がターゲットの現在の構造と一致していることを保証するのに十分な頻度で再計算されるようになる。
【0044】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、第1の期間TDMは前記第2の期間TSMよりも短い。
【0045】
これにより、2つの第1モード取得間にいくつかの第2モード取得を実行すること(これは時間と電力の観点からより効率的である)と、第2モードでの測定の特異性及び繰り返し精度を保証するのに十分な頻度で第2モードの変調周波数を適応させることができる。
【0046】
分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスの一実施形態では、第1の整数Nは予め定められており、ステップcで、第1モードでの最新のN回の照射中に取得されたデータで時系列が生成される。
【0047】
これは、ターゲット構造の最新の変化又は不変の分析を可能にする。第1モードでのN’回の照射が実行され、N’がNよりもはるかに大きい(N’>>N)場合、N’個の時間点を含む時系列での最後の測定の影響は無視できるが、N個の時間点を含む時系列では顕著であり得る。
【0048】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップaで、第1モードでN-1回の照射が実行され、ステップaの2つの連続する照射は、第3の期間TDMだけ分離される。
【0049】
これにより、特に初期化フェーズを制御された持続時間にわたって実行することが可能になり、初期化フェーズはおよそ(N-1)*TDMにわたって持続し、したがって、TDMが十分に短い場合には十分に短くなる。
【0050】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップdで、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列の分析は、複数の個別の周波数のそれぞれについての時系列を生成し、複数の個別の周波数のうちの2つでの2つの時系列間の類似度又は非類似度を示す少なくとも1つの値を計算することを含む。
【0051】
この場合、スイープ範囲全体にわたって取得されたデータで生成された時系列は、複数の時系列に分割され、各時系列は、スイープ範囲内の個別の周波数又は周波数の間隔に関係し、結果として、各時系列は、光放出器から特定の距離又は距離間隔にあるターゲットのゾーンに関係する。次いで、ターゲットの様々な安定した又は変化するゾーンを検出するべく、複数の時系列のうちの2つ以上を比較することが可能である。
【0052】
例えば、2つの連続する周波数に対応する2つの時系列が類似していることが判明した場合、これらの両方の変調周波数で変調された光は、ターゲットの同じゾーンに到達すると推論することができる。
【0053】
一実施形態では、請求項12に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスのステップdで、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列の分析は、この時系列に対して動的タイムワーピングアルゴリズム及び/又は相関分析を実行することをさらに含む。
【0054】
そのような分析は、ターゲット構造、特にその経時的な変化及び不変についての洞察を得るのに迅速且つ効果的な手段であり、各タイプの分析は特定の洞察を与える。
【0055】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、強度を変調した光は、ターゲットの測定される検体によって吸収される少なくとも1つの波長を含む。
【0056】
この構成のおかげで、センサデータは、ターゲットの検体濃度に関する情報を提供する。
【0057】
分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスの一実施形態では、ターゲットの測定される検体によって吸収される少なくとも1つの波長は中赤外範囲内にある。
【0058】
ヒト組織又は動物組織の場合、グルコースなどの関心ある多くの検体が中赤外範囲内の波長を吸収する。したがって、この構成は、向上した繰り返し精度で血中グルコースを非侵襲的にモニタリングすることを可能にする。
【0059】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、分析装置は、ユーザインターフェースをさらに備えるか、又は、薬剤送達デバイスにデータを送信するようにさらに構成される。ステップdで、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列の分析の結果が所定の閾値と比較され、この比較の結果に基づいて、警報信号がユーザインターフェース上に表示される又は薬剤送達デバイスに送信される。
【0060】
この場合、ターゲット構造の予期せぬ変化は、分析装置又はターゲットとの相互作用の不具合として解釈される。ユーザは、インターフェース上に表示された信号のおかげで、分析装置をチェックすることができる。分析装置によって提供されたデータに基づいて治療が実施される場合、この実施のためにセーフティプロセスがトリガされ得る。
【0061】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、少なくとも1つの検出セルは、電気音響センサ及び熱センサから選択されるセンサを備える。
【0062】
熱センサは、照射によって生じた熱波を直接感知する。電気音響センサは、ターゲットの表面に到達する熱波によってターゲットの周囲のガスに生じた音響波を検出するという点で、照射によって生じた熱波を間接的に感知する。
【0063】
本発明はまた、ターゲットを非侵襲的に分析するための装置であって、
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、少なくとも1つの強度変調デバイスと、
放出された光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成された少なくとも1つのプロセッサモジュールと、
を備える装置に関する。
【0064】
この装置において、少なくとも1つの光放出器は、
第1モードで光放出器によるターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される光の強度の変調周波数は、第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、
第1モードで光放出器によるターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行する、
ように構成され、
少なくとも1つのプロセッサモジュールは、
少なくとも1つの検出セルから第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、
受信した第1モードでの少なくとも2回の照射についてのセンサデータを処理し、周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成し、
周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのデータを含む時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算する、
ように構成され、
少なくとも1つの光放出器はさらに、第2モードで光放出器によるターゲットの少なくとも1回の照射を実行するように構成され、第2モードで放出される光は、前記少なくとも1つのプロセッサモジュールによって計算された個別モードの変調周波数で強度が変調され、
少なくとも1つのプロセッサモジュールはさらに、少なくとも1つの検出セルから第2モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、受信した第2モードでの少なくとも1回の照射についてのセンサデータに基づいて検体値を計算するように構成される。
【0065】
一実施形態では、ターゲットを非侵襲的に分析するための装置はウェアラブルである。
【0066】
この場合、ヒト組織又は動物組織を継続的に分析することが可能である。例えば、この装置は、連続グルコースモニタとして用いることができる。
【0067】
一実施形態では、本発明に係るターゲットを非侵襲的に分析するための装置は、薬剤送達デバイスにデータを送信するようにさらに構成され、装置のプロセッサモジュールを使用して計算された少なくとも1つの検体値は、薬剤送達デバイスによって送達される薬剤療法を決定するためにさらに用いられる。
【0068】
これは、薬剤療法、例えばインスリン療法を実施するための開ループシステム又は閉ループシステムのいずれかを構成することを可能にする。
【0069】
本発明の実施形態を以下の図面に関連して以下に説明する。
【0070】
図面において、同じ参照符号は同じ又は類似の物体を示す。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】例示的な実施形態に係る検体モニタの概略図である。
【
図3】プロセスの例示的な実施形態における2つの測定モード間の切り替えを示すクロノグラムである。
【
図4a】「経時的」類似度-非類似度行列を得る理論上の例であり、「瞬間的」行列との差異を示す図である。
【
図4b】麻酔をかけたブタに対して106回の第1モード照射で実施した実験の結果を示す図であり、各照射は1分間持続し、実験全体はおおよそ2時間持続している。
図4b1は最初の53回の時間点についての「経時的」類似度-非類似度行列を示す図である。
図4b2は最後の53回の時間点についての「経時的」類似度-非類似度行列を示す図である。
【
図5】第1の比較技術による第1の実験で得られた「経時的」類似度-非類似度行列の例を示す図である。
【
図6】60回の第1モード照射による第2の実験で得られた「経時的」類似度-非類似度行列の例を示す図であり、各照射はスイープ範囲[100Hz,13800kHz]で1分間持続し、ゾーンを識別することはできない。
【
図7】麻酔をかけたブタに対して130回の第1モード照射で実施した実験の結果を示す図であり、各照射はスイープ範囲[100Hz,2300kHz]で1分間持続する。
図7aは、相関行列を示しており、相関係数(-1~1の範囲)がその値と色の両方で表されている。
図7bは、DTW行列を示しており、距離(この場合は0~30の範囲)がカラースケールで表されている。
【
図8】麻酔をかけたブタに対して60回の第1モード照射で実施した実験の結果を示す図であり、各照射はスイープ範囲[100Hz,13800kHz]で1分間持続する。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明は、非侵襲的な分析装置及び分析装置でターゲットを分析するためのプロセスに関する。分析装置1は、ターゲット2を分析するため、及び/又は、ターゲット2、例えば、皮膚のようなヒト組織又は動物組織の物質又は検体を測定するために使用され得る。
【0073】
例えば、測定される物質又は検体は血中グルコースである。より詳細には、非侵襲的な間質液グルコース測定に基づいて、血中グルコース値を推定することができる。
【0074】
分析装置1は、ポータブル又はウェアラブルとすることができる。
【0075】
分析装置1は、少なくとも、
強度を変調した光を放出する光放出器である強度変調デバイスと、少なくとも前記強度変調デバイスが光放出器によって放出される光の強度を変調する変調周波数を制御する光放出器コントローラと、
放出された光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セル12と、
少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成されたプロセッサモジュール13と、
を備える。
【0076】
例示的な実施形態では、検出セル12は光音響(PA)検出セルである。
【0077】
図1は、検体濃度、例えば、ユーザの血中グルコース濃度レベルを表す検体センサ信号を非侵襲的に得るために光音響測定技術がどのように用いられるかを例示する概略図を示している。
【0078】
図1で分かるように、光放出器ブロック11は、ターゲット2に向けて光ビームを放出するように構成された光放出器を含み得る。ターゲットは、患者の組織、例えば皮膚とすることもできる。
【0079】
ターゲット2に入射する光は、ターゲット2内に或る距離だけ進入し、ターゲット2の内部に存在する検体分子、例えば、グルコース分子と相互作用する。
【0080】
その結果、検体分子が熱的に励起される。
【0081】
結果として、熱波が、ターゲット2内を、特にターゲット2の表面に向かって伝播し、次いで、ターゲット2の周囲の媒体、例えば空気中に伝播する。
【0082】
気体媒体がターゲット2の周囲にあるケースでは、熱波に関連する音響波は、ターゲット2の周囲のこの気体媒体中に伝播する。
【0083】
その結果、ターゲット2の照射に反応して伝播する熱波を直接又は間接的に感知することができる。
【0084】
第1のケースでは、熱波は、検出セル12に含まれる熱センサで感知することができる。
【0085】
第2のケースでは、例えば、ターゲット2の周囲の気体媒体中の熱波に関連する音響波を感知するために、光音響センサを使用することができる。
【0086】
光と音響波の伝播は、それぞれ実線矢印と破線矢印の使用を通じて
図1に概略的に示されている。
【0087】
音響波が光音響検出セル12によって感知されるケースでは、この検出セルは、音響波が伝播するガス(例えば空気)で満たされたチャンバと、このチャンバ内に、例えばターゲット2の反対側に配置された1つ又は複数の適切なセンサを備える。
【0088】
例示的な実施形態では、光音響検出セル12は、マイクロフォンなどの、音響波の圧力を電気信号に変換するように構成された電気音響センサを備える。代替的な例示的な実施形態では、光音響検出セル12は、変換器、例えば、圧電変換器を備える。
【0089】
例示的な実施形態では、電気音響センサは、信号処理モジュール13に動作可能に接続される。信号処理モジュール13は、電気音響センサからのアナログ電気信号をデジタル信号に変換するように構成されたアナログ-デジタル変換器を備える。
【0090】
信号処理モジュール13は、随意的に、アナログ-デジタル変換器に動作可能に接続され、ターゲット2の音響応答から導出される電気信号をさらに増幅するように構成された、演算増幅器を備える。
【0091】
例示的な実施形態では、アナログ-デジタル変換器は、デジタル信号を処理するためにデジタルシグナルプロセッサに動作可能に接続される。
【0092】
特定の実施形態では、光放出器は、少なくとも1つの特定の波長で強度が変調されたレーザビームをターゲット2に向けて放出する。
【0093】
例示的な実施形態では、光放出器は、発光ダイオード(LED)である。
【0094】
代替的実施形態では、光放出器は、レーザチップである。
【0095】
例えば、光放出器は、中赤外領域(MIR-QCL)で放出する量子カスケードレーザ(QCL)を備える。
【0096】
光放出器ブロック11はまた、光放出器に関連する回路と、光放出器によって放出される光の強度が調整可能な強度変調周波数で変調されるように、光放出器を制御するように構成されたコントローラモジュールとを備える。強度変調周波数は、以下の説明ではfmodと呼ばれる。
【0097】
強度変調は、任意の公知の電気的又は機械的手段によって得ることができる。
【0098】
光は、連続的に又はパルスの様態で放出することができる。
【0099】
特定の実施形態では、光放出器コントローラモジュールは、光パルスを放出するように光放出器を制御するように構成される。パルスは、約100ns~500ns/パルスの持続時間と、例えば1%~20%のデューティサイクルを有することができ、これは20kHz~2MHzのオーダーの周波数に対応する。
【0100】
本発明の理解を助けるために、以下の詳細な例では血中グルコースセンサについて説明することが多いが、レーザビームの波数をモニタリングする検体に適合させることだけで、別の検体を同じように測定できることを理解されたい。
【0101】
ここで説明するプロセス及びシステムは、皮膚以外の他のターゲット又は組織にも適用することができる。例えば、唾液などの液体ターゲットを分析することもできる。
【0102】
例示的な実施形態では、光放出器によって放出される光の少なくとも1つの波長λirradは、光が関心ある検体と強く相互作用するように選択される。
【0103】
関心ある検体がグルコースである場合、光放出器によって放出される光の波長は、グルコース分子の熱励起のためにグルコース分子と強く相互作用する波長に対応するように選択することができる。
【0104】
例えば、約1150cm-1~1000cm-1の波数(波長の逆数)を有する光は、グルコース分子と強く相互作用する。この波数範囲は、中赤外(MIR)領域の波長に対応する。
【0105】
必須ではないが、分析装置はターゲット2と直接接触することが好ましい。例えば、光音響検出セル12の検出チャンバの一部が皮膚と直接接触する。
【0106】
波長λirradの一般的な範囲(MIRなど)では、光ビームは、光の散乱なしにターゲット2を通って直線的に進むが、ターゲットによって徐々に吸収される。
【0107】
照射光ビームの光子は、選択された波長(λirrad)の光を吸収することができる分子によって吸収される。
【0108】
インビボで、中赤外領域で吸収する化学分子としては、例えば、水、ヘモグロビン、メラニン、脂質、コラーゲン及びエラスチンなどの他のタンパク質、そしてもちろんグルコースが挙げられる。
【0109】
吸収現象により、照射光ビームの強度は、ターゲットのより深くに進むにつれて、ほぼ指数関数的に減少する。光侵入深さ(μa)は、この指数法則の特性長として定義することができる。
【0110】
所与の材料による光の吸収は、この特徴的な吸収長、すなわち光侵入深さ(μa)によって特徴付けられる。法則によれば、光エネルギーの67%は、ターゲットの入射面の光侵入深さ未満に位置するターゲット2の部分によって吸収される。
【0111】
所与の材料で、μaは、主に波長λirradの関数である。μa(λirrad)の逆数である光吸収係数α(λirrad)も、主に波長λirradの関数である。
【0112】
皮膚の場合、光吸収係数α(λirrad)は、第1の近似として、λirradで吸収する分子、例えば、約1150cm-1~1000cm-1の波数のグルコースの濃度に比例する。
【0113】
吸収現象の結果として、ターゲットは、光ビームの強度変調周波数fmodと同じ周波数を有する熱波に関連した熱励起を受ける。
【0114】
熱波がターゲット2を通ってターゲットの周囲の空気の方に伝播する場合、これは、ターゲット2の外面に近い熱センサで直接検出することができ、又は変調周波数の圧力波を生じることがあり、これは、ターゲット2の周囲の空気中で、例えば光音響セル12に含まれる電気音響センサで検出することができる。
【0115】
熱波の熱拡散は、熱拡散長と呼ばれる特徴的な拡散長(μs)によって特徴付けられる。
【0116】
第1の近似として、熱拡散長(μ
s)と強度を変調した光ビームの変調周波数との間の関係性は、次の式1で表される:
式1
【数1】
ここで、Dは、ターゲットの熱拡散係数である。
【0117】
Rosencwaig-Gershoモデルで説明される、ヒト組織又は動物組織などの固体ターゲットでの光音響検出の場合、ターゲットの厚さL、μ
s、及びμ
aが次の式2の要件を満たす場合にのみ、光音響信号S
PAの振幅は、吸収係数α(λ
irrad)(したがって、血中グルコース検出の場合の皮膚のグルコース含有量)に比例する:
式2
【数2】
【0118】
理論上、均質固体を考慮すると、光音響信号S
PAの振幅は次の式3に従う:
式3
【数3】
ここで、I
0(λ
irrad)は、入射光の強度を表し、Vは、ガス圧力P
0での光音響検出セルの封入ガス体積を表す。
【0119】
皮膚での吸収深さが浅いため、大きなサンプル厚さLの要件は自動的に満たされる。さらなる要件(μs<μa)は、レーザビームの変調周波数fmodを適切に選択することによって満たすことができる。
【0120】
この場合、検出セル12によって検出される信号は、熱拡散長によって制限される。言い換えれば、検出される光音響信号は、ターゲットの外面の下から熱拡散長までの部分を示し、これは、主にμs、又は言い換えればレーザビームの変調周波数fmodに依存する。
【0121】
普通は、50Hzのレーザビームの強度変調周波数fmodは、深さおよそ25μmまでの皮膚の分析を可能にし、500Hzのレーザビームの強度変調周波数fmodは、深さおよそ7μmまでの皮膚の分析を可能にすると推定される。
【0122】
皮膚の場合、
図2で分かるように、光は、これらの強度変調周波数で、その経路上でいくつかの層、すなわち、強度変調周波数が減少するにつれて、最初に角質層、次いで透明層、次に顆粒層に出会う可能性がある。
【0123】
しかしながら、インビボ測定が意図されるとき、検体が測定される皮膚の下の深さの定義は不明瞭である。
【0124】
第1に、分析装置によって又は皮膚に接触する他の物体(腕時計、皮膚の肘掛け、患者に接触する誰かなど)によって皮膚にかかる圧力に応じて、皮膚表面は、光放出器から常に同じ距離にあるとは限らず、その3D構造が変更されることがある。
【0125】
第2に、皮膚は生きた組織であるため、その3D構造は絶えず変化し、その様々な層の組成及び厚さは、時間の経過とともに、遅かれ早かれ変化することがある。
【0126】
皮膚の層の略図を
図2で見ることができる。この表現は概略的なものである。これは、皮膚構造の概観を提供することのみを目的としており、永続的な実態を正確に説明するものではない。しかしながら、この図は、皮膚の皮膚表面も皮膚の様々な層間の境界面も平坦であるとは考えられないため、皮膚を分析する深さを正確に定義することは不可能であると理解するのに役立つ。
【0127】
結果として、分析装置においてこの深さ情報を決定及び利用することは無駄で不正確である。
【0128】
さらに、皮膚を均質材料とみなすことができると仮定すると、皮膚の吸収係数α(λirrad)は患者によって異なる。例えば、メラニンは光ビームのエネルギーを吸収できるため、これは皮膚の色によって異なる。そのため、感知される光音響信号と検体濃度との間の関係性は、患者に依存し、所与の患者で層に依存する。
【0129】
結果として、どの患者に対しても、いつでも、信頼性のある血中グルコース測定値を与えることができる、特定の変調周波数fmodを決定することは不可能である。
【0130】
この問題を克服するために、本発明はむしろ、測定が行われるときに、レーザビームが常に(又は少なくとも可能な限り頻繁に)皮膚の特定の層に到達することを保証する方法に焦点をあてており、この層は、必ずしもそのいわゆる深さの測定なしに、測定する検体を含む。このようにして、測定を検体に特異的とすることができ、その繰り返し精度が向上する。
【0131】
例えば、血中グルコースは間質液グルコースと相関する。グルコースは、真皮の毛細血管から、血管形成されていない表皮の間質液まで拡散する。間質液グルコース濃度は、第1の近似として、所与の層では一定と考えられるが、真皮から皮膚表面に向かって減少する。特に、角質層には死んだ細胞しかないため、角質層にグルコースはほとんど存在しない。
【0132】
感知される光音響信号がグルコースに特異的であることを確かめるために、光ビームは、角質層の下の層に到達する必要がある。
【0133】
そして、式3に基づいて血中グルコース値を求めることができるようにするためには、吸収係数α(λirrad)を決定することができなければならず、これは、どの層がλirradで光ビームが到達する最も深い層であるかを知る必要があることを意味する。
【0134】
この目的のために、本発明に係るプロセスにおいて、ポータブルの非侵襲的な分析装置1、例えば血中グルコースセンサが患者に提供される。
【0135】
分析装置1について現在の又は確立された動作モードで2つの異なる測定モード(又は計測モード)が考慮される。
【0136】
第1モード、すなわち、いわゆる「スイープモード」では、レーザの強度変調周波数fmodで周波数スイープが1回又は数回実行される。
【0137】
特定の実施形態では、スイープモード取得は、繰り返される、例えば周期的に繰り返される。周波数スイープモードでの取得期間は、TSMと呼ばれる。
【0138】
例えば、TSMは、30分程度とすることができる。これは、30分ごとに周波数スイープが実行され、スイープ範囲内で光音響データが取得されることを意味する。
【0139】
スイープ速度は、さらなる分析に十分なデータを取得するのに十分な遅さであるが、モニタリングに必要なその後の検体の取得を可能にするのに十分な速さになるように選択される。
【0140】
例えば、スイープ範囲は、[50Hz,50kHz]又は[100Hz,15kHz]とすることができ、スイープ持続時間は10秒程度とすることができる。
【0141】
この特定の例は、プロセスの例示的な実施形態における2つの測定モード間の切り替えを示すクロノグラムである
図3に照らして理解することができるが、検体センサの使用に応じて他の設定が便利な場合もある。
【0142】
第2モード、すなわち、いわゆる「個別モード」において、所与の変調周波数fmod,D.Mの光ビームがターゲットに照射され、この変調周波数は、少なくとも1回のスイープモード測定後に、前のスイープモード取得のうちの1つ又は複数の結果に基づいて設定される。
【0143】
変調周波数fmod,D.Mは、次のスイープモード取得まで不変のままとすることができる。
【0144】
特定の実施形態では、個別モードでの取得は、繰り返される、例えば周期的に繰り返される。その場合、個別モードでの取得期間は、TDMと呼ばれる。
【0145】
特定の例では、TDMは、10秒程度とすることができる。これは、個別モードでの取得が10秒ごとに行われることを意味する。
【0146】
特定の実施形態では、スイープモードでの取得が個別モードでの取得と同時に行われるべき場合、スイープモードが個別モードよりも優先される。
【0147】
この場合、1つ又はいくつかの個別モード測定が抑制され、その後、個別モード取得ができるだけ早く通常通りに再開される。
【0148】
所与の個別モード取得について、いくつかのパターンが考えられる。例えば、1つの個別モード取得は、Tirradと呼ばれる特定の時間中の、パルスモードでの強度変調レーザモードによるターゲットの照射を含み得る。
【0149】
別の実施形態では、1つの個別モード取得は、光が放出されない中間時間間隔Tintermだけ分離された、Tirradと呼ばれる特定の時間の間の、パルス又は連続モードでの強度変調レーザによるターゲットの2回の連続した照射を含み得る。
【0150】
例えば、Tirradは1秒に設定され、Tintermは5秒に設定され、これは、1つのスイープモード取得が7秒持続することを意味する。
【0151】
検体測定に求められる精度と、2つの検体測定間の遅延に応じて、所与の個別モード取得のために様々なパターンを実装することができる。
【0152】
照射を数回繰り返すことで、平均値の計算などの様々な統計解析を行って所望の推定値を得ることができるため、検体濃度をより正確に推定することができるようになる。
【0153】
同時に、この繰り返しには時間及びエネルギーがかかる。
【0154】
繰り返し回数、及び/又は、Tirrad及び/又はTintermの設定は、例えば、精度とエネルギー及び時間の節約との間の妥協から得られる。
【0155】
各スイープモード取得後に、信号処理ユニット13は、最後のN回のスイープモード取得中に取得されたデータ間の比較を実行し、Nは所定の整数である。
【0156】
最後のN回のスイープモード取得のデータは、スイープ範囲内のデータを含む時系列を生成する。
【0157】
スイープ範囲内のデータを含む時系列は、複数の時系列を生成するようにグループ化することができ、各時系列は、スイープ範囲内の個別の強度変調周波数又はスイープ範囲内の強度変調周波数の間隔に関係する。
【0158】
Nは、例えば、2から1000以上の取得、好ましくは5~500、好ましくは5~50の範囲とすることができる。
【0159】
特定の実施形態では、最初のN-1の取得が結果をあまり強く支配せず、N番目の取得の変化を依然として検出することができるように、Nは高すぎない。
【0160】
時系列に対していくつかの比較が実行され得るが、どのような比較が実行される場合でも、時系列が分析されるため、比較は、経時的なターゲット構造の変化に関する情報を含む。
【0161】
取得されるデータは、位相情報及び/又は振幅(又は強度)情報を含み得る。
【0162】
例えば、t1~tNのN個の時間点で構成される時系列は、各周波数fk:[(Ak(t1),φk(t1))、(Ak(t2),φk(t2))、...、(Ak(tN),φk(tN))]を含み、ここで、Ak(ti)は、この信号の位相ti及びφk(ti)においてfmod=fkで変調された光の照射に対応する、感知される光音響信号の振幅又はピークツーピーク振幅である。
【0163】
時系列が4つの時間点t1、t2、及びt3で構成され、スイープ範囲内の4つの個別の変調周波数f1、f2、f3、f4、例えば、f1=500Hz、f2=1000Hz、f3=2000Hz、及びf4=5000Hzでの照射の各時間点でデータが取得される簡略化されたケースでは、時系列は以下のとおりである(例1):
a)第1の変調周波数f1に対応する時系列TS(f1):
TS(f1)=[(A500Hz(t1),φ500Hz(t1))、(A500Hz(t2),φ500Hz(t2))、(A500Hz(t3),φ500Hz(t3))]
b)第1の変調周波数f2に対応する時系列TS(f2):
TS(f2)=[(A1000Hz(t1),φ1000Hz(t1))、(A1000Hz(t2),φ1000Hz(t2))、(A1000Hz(t3),φ1000Hz(t3))]
c)第1の変調周波数f3に対応する時系列TS(f3):
TS(f3)=[(A2000Hz(t1),φ2000Hz(t1))、(A2000Hz(t2),φ2000Hz(t2))、(A2000Hz(t3),φ2000Hz(t3))]
d)第1の変調周波数f4に対応する時系列TS(f4):
TS(f4)=[(A5000Hz(t1),φ5000Hz(t1))、(A5000Hz(t2),φ5000Hz(t2))、(A5000Hz(t3),φ5000Hz(t3))]
【0164】
各時系列は、すべて同時にtjにおけるN個の変調周波数k1~kNで得られる単一のペア(Ak(tj),φk(tj))にもペアのセット[(Ak1(tj),φk1(tj))、(Ak2(tj),φk2(tj))、...、(AkN(tj),φkN(tj))]にも含まれない情報を含む。
【0165】
特に、各時系列は、所与の変調周波数で感知される信号の変化に関する情報を含む。その結果、各時系列は、この所与の変調周波数で変調された光が到達する深さまでのターゲットの変化に関する情報を含み、この深さは、ターゲットが経時的に変化するため、事前にはわからず、一定でもない。
【0166】
時系列を2つずつ比較することで、例えば、どの時系列が互いに一致し、どの時系列が一致しないかを判断することができる。経時的に一貫していない、それぞれ第1の変調周波数fa及び第2の変調周波数fbに対応する2つの連続する時系列は、それぞれの時系列の第1及び第2の変調周波数の光が到達する深さ間の中間の深さ範囲(事前にはわからない)でターゲットが経時的に変化することを示し得る。
【0167】
対照的に、経時的に一貫していない、それぞれ第1の変調周波数fc及び第2の変調周波数fdに対応する2つの連続する時系列は、それぞれの時系列の第1及び第2の変調周波数の光が到達する深さ間の中間の深さ範囲(事前にはわからない)でターゲットが経時的にかなり安定していることを示し得る。
【0168】
したがって、fcとfdの間に含まれる変調周波数で実行されるいくつかの連続した測定は、faとfbの間に含まれる変調周波数で実行されるいくつかの連続した測定よりも一貫性がある可能性が高い(例えば、ターゲットの同じ層の関心あるパラメータの測定に対応する可能性が高い)という情報が得られる。明らかに、この結論は、2つの連続する周波数間のステップの細かさに応じて変調される。
【0169】
いずれにせよ、そのような情報は、時系列なしに得ることはできない。
【0170】
例えば、そのような情報は、例1の場合、例えばt1における第1モードでの照射だけで得ることはできない。この場合、以下のペア:[(A500Hz(t1),φ500Hz(t1))、(A1000Hz(t1),φ5000Hz(t1))、(A2000Hz(t1),φ2000Hz(t1))、A5000Hz(t1),φ5000Hz(t1))]のみが存在し、経時的な情報の蓄積はない。
【0171】
これは、数回の連続する照射によっても得られないが、例1の場合、例えばt1、t2、及びt3における1つのみの変調周波数、変調周波数f1で得られる。この場合、以下のペア:[(A500Hz(t1),φ500Hz(t1))、(A500Hz(t2),φ500Hz(t2))、(A500Hz(t3),φ500Hz(t3))]のみが存在し、まさにTS(f1)である。TS(f1)は、経時的な情報の蓄積で構成されるが、f1でのみである。これでは、経時的な様々な深さ範囲でのターゲットの変化に関する情報を得ることはできない。
【0172】
最後に、例え偶然、スイープモードで2回の連続した照射を実行したとしても(例えば、ユーザの変更によりセンサを再校正しなければならなかった場合)、先行技術文献には、照射ごとのデータ処理のみが記載されている。例えば、例1の場合、第1の校正は、スイープモードでt1におけるD(t1)=[(A500Hz(t1),φ500Hz(t1))、(A1000Hz(t1),φ5000Hz(t1))、(A2000Hz(t1),φ2000Hz(t1))、(A5000Hz(t1),φ5000Hz(t1))]のデータD(t1)の取得を含み、第2の校正は、スイープモードでt2におけるD(t2)=[(A500Hz(t1),φ500Hz(t1))、(A1000Hz(t1),φ5000Hz(t1))、(A2000Hz(t1),φ2000Hz(t1))、(A5000Hz(t1),φ5000Hz(t1))]のデータの取得を含み、偶然に4回の連続した照射が実行された場合にはD(t4)までの同様のデータの取得を含み得る。
【0173】
先行技術文献には、D(t1)、場合によってはD(t2)の個別の取得のみが記載されている。D(t3)及びD(t4)が偶然取得されたとしても、D(t1)(それぞれD(t2)、D(t3)、D(t4))に含まれる情報は、TS(f1)(それぞれTS(f2)、TS(f3)、TS(f4))に含まれる情報とは全く異なる。
【0174】
時系列を取得してそれらを比較するために時刻を再編成及び処理することは、従来技術に比べて視点の変化を意味し、結果として進歩性を意味する。本発明の技術的効果は、まさにこの時系列の比較に基づいている。
【0175】
時系列を比較するために、
図5に示すような「経時的」類似度-非類似度行列を、例えば、スイープ範囲内のk個の個別の周波数で取得されたデータで計算することができる。
【0176】
「経時的」類似度-非類似度行列は、例えば、正方行列M(k)である。
【0177】
各係数M[i][j](i及びjは範囲[1,k]内の整数)は、i番目の周波数での時系列とj番目の周波数での時系列との比較を行うことで得られ、各時系列は、スイープモードでのN回の取得の結果を分析することで得られる。
【0178】
特定の実施形態では、各係数M[i][j]は、-1~1の範囲であり、時系列iと時系列jとの間の相関係数である。負の係数M[i][j]は、時系列iと時系列jとの間の反相関を示し、一方、正の係数M[i][j]は、時系列iと時系列jとの間の相関を示す。係数M[i][j]の絶対値が増加すると、反相関又は相関がより強くなる。
【0179】
血中グルコースの場合、このような「経時的」類似度-非類似度行列に高い相関又は高い反相関のゾーンが現れることが観察されている。言い換えれば、スイープ範囲は、いくつかの変調周波数間隔又はゾーンに細分割することができる。
【0180】
ある時間点のみで得られた「瞬間的」類似度-非類似度行列ではなく、「経時的」類似度-非類似度行列の興味深い点を、
図4に示す。
【0181】
第1のスイープモード取得と次のスイープモード取得との間で皮膚構造が変化する場合、その変化は「経時的」類似度-非類似度行列に現れるが、このような変化は、ある時間点のみで得られた「瞬間的」類似度-非類似度行列では観察することができない。
【0182】
アイデアを修正するために、ターゲットが3つの層(層1、層2、層3)を含み、ターゲットにかかる圧力(又は温度などの別のパラメータ)が時間の経過とともに変化し、したがって、2つの連続する層間の境界面の位置が変化すると仮定する。
【0183】
図4aの例では、圧力Pは、時点t
1よりもt
2の方が高く、t
3よりもt
2の方が高く、t
3よりもt
1の方が高い、すなわち、P(t
2)>P(t
1)>P(t
3)、及び、t
1<t
2<t
3である。
【0184】
また、第1の近似として、所与の強度変調周波数で強度が変調された特定の光が、常にセンサの光放出器から所与の距離で材料に到達すると考えてみる。
【0185】
t1での第1のスイープモード取得の場合、強度変調周波数f1は、第1の境界面層1/層2のすぐ上の皮膚に到達することを可能にし、強度変調周波数f2は、この第1の境界面層1/層2のすぐ下の皮膚に到達することを可能にする。f1とf2は瞬時に相関しない。
【0186】
圧力の増加により、第2の取得では境界面が光放出器に近づく。その結果、強度変調周波数f1は、第1の境界面層1/層2の下の皮膚に到達することを可能にし、強度変調周波数f2は、第2の境界面層2/層3の下の皮膚に到達することを可能にする。f1とf2は依然として瞬時に相関しない。
【0187】
対照的に、t3で、f1とf2は両方とも層1に到達し、したがって、それらは瞬時に相関する。
【0188】
同じ分析により、f3とf4は、常に同じ層である層3に到達するため、常に瞬時に相関すると結論付けられる。
【0189】
この場合、「経時的」相関行列で、f1とf2の時系列の相関が低いことがわかり、これは、繰返し可能な測定を行うためにはこれらの周波数を回避する必要があることを示し、f1とf2は、異なる時間点で常に同じ層には到達しない。対照的に、f3とf4の時系列は強く相関し、これは、f3又はf4のいずれか又はf3とf4との間の任意の周波数が所与の層に常に到達することを示している。
【0190】
一般的な結論として、相互に相関が高いいくつかの連続する周波数での時系列は、これらの周波数のうちの1つで変調された光ビームが所与の皮膚層に繰返し到達することを示す。相関が低いいくつかの連続する周波数での時系列は、これらの周波数のうちの1つで変調された光ビームが、頻繁に深さが変化する傾向がある境界面に到達することを示す。
【0191】
層のコアは、深さが変化し得るが、常に所与の層内にあり、一方、境界面の近傍では、組織は、皮膚にかかる圧力、温度などに応じて、上側層、時には下側層に関連する場合もある。相互に相関が高いいくつかの連続する周波数間で変調周波数を選択することで、層の幅が適度に変動する場合であっても、層のコアが確実に感知される。
【0192】
結果的に、スイープ範囲内の経時的な時系列を比較するためにいくつかのスイープモード取得を実行し、その結果としてその後の検体測定のためにセンサの設定を適応させることは、測定の繰り返し精度の問題に対処するのに役立つ。
【0193】
実行される第1モード取得の数Nは、その後の分析にとって重要になる、ターゲット構造の変化の特徴的な時間に依存する。
【0194】
図4bは、麻酔をかけたブタに対して106回の第1モード照射で実施した実験の結果を示しており、各照射は1分間持続し、実験全体はおおよそ2時間持続している。
図4b1は、最初の53回の時間点についての「経時的」類似度-非類似度行列を示しており、
図4b2は、最後の53回の時間点についての「経時的」類似度-非類似度行列を示している。
【0195】
[300Hz,600Hz]の範囲内の周波数は、最初の53回又は最後の53回の取得だけでなく、106回の取得でも相関していることが明らかである。対照的に、[700,1000Hz]の範囲内の周波数は、相互に及び最初の53回の[300Hz,600Hz]の範囲内の周波数で相関が低く、一方、最後の53回の取得中に相関が高くなる。
【0196】
[700,1000Hz]の範囲内の周波数が関心あるものと考えられる場合、第1モード取得は、[300Hz,600Hz]の範囲内の周波数がその後の測定のために選択される場合よりもより頻繁に行う必要がある。
【0197】
瞬間的な相関行列でそのような情報を得ることは不可能であることも明らかである。
【0198】
特定の実施形態では、所定の整数Nは、初期化フェーズと確立されたモードで異なるものとすることができ、又は確立されたモード中に例えば前の分析の結果に基づいて適応させることができる。
【0199】
検体測定の強度変調周波数fmod,D.Mを選択するために、いくつかの方策を予見することができる。
【0200】
一実施形態では、例えば、1つ又は複数の相関閾値を最初に事前に決定することができる。
【0201】
相関閾値は、以前の学習フェーズの結果及び/又はモデルを考慮に入れることができる。
【0202】
次いで、以下の定義に基づいて、1つ又は複数のゾーンを識別することができる:周波数ゾーンの周波数範囲内の時系列のペアは、所定の相関閾値よりも大きい相関係数を有する。
【0203】
相関閾値の値に応じて、
図5の例では、時系列が強く相関する3つのゾーン(ゾーン1a、ゾーン1b、及びゾーン2)を識別することができる。
【0204】
1つ又は複数の周波数ゾーンの決定はまた、1つ又は複数の反相関閾値に基づくこともできる。
【0205】
図5は、麻酔をかけたブタに対して98回の第1モード照射で実施した実験の結果を示しており、各照射は1分間持続し、実験全体はおおよそ2時間持続している。
【0206】
図5の例では、ゾーン1bとゾーン2は強く反相関し、一方、ゾーン1aとゾーン1bとの間で反相関は観察されない。反相関閾値と相関閾値との両方を考慮すると、結果として、第1のゾーン(ゾーン1)は、2つのサブゾーン(ゾーン1a及びゾーン1b)に細分割されない場合がある。
【0207】
変調周波数fmodの増加は、より浅い深さでプローブすることを意味することを念頭に置くと、2つの皮膚層間に少なくとも1つの境界面が存在し、1kHz付近の強度変調周波数の場合にこの境界面に到達すると推論することができる。ゾーン2の、すなわち[1kHz,13.8kHz]の範囲の変調周波数fmodでは、皮膚表面のすぐ下の第1の層が分析され、一方、ゾーン1の、すなわち[50Hz,1kHz]の範囲の変調周波数fmodでは、第1の層の下の第2の層が分析される。
【0208】
さらに、繰り返し精度を保証するために2つのゾーン間の境界を避ける必要がある。
【0209】
このステップで、検体測定のための強度変調周波数fmod,D.Mは、ゾーン1又はゾーン2のいずれかにおいて1kHzから遠く離れた周波数を選択することができることがわかる。
【0210】
このプロセスの1つの目的は、少なくとも層をカウントし、場合によってはこれらの層の内容を分析することによって、ターゲット2の様々な層のそのような識別を可能にすることである。例えば、この情報を薬剤送達デバイスなどの別のデバイスで利用することができる。
【0211】
別の実施形態では、所定の基準に基づいて1つ又は複数の相関閾値を決定することができる。例えば、類似度-非類似度モデルでは3つ又は4つのゾーンが予想されると想定することができる。
【0212】
したがって、皮膚モデルに基づいて、3つの異なるゾーンが常に見つかるはずであると決定することができる。この場合、これらの3つのゾーンが確実に識別されるように、1つ又は複数の閾値を計算することができる。結果として、これらの閾値は、強度変調周波数fmod,D.Mに関する2つの決定の間で変動する。
【0213】
この場合、ゾーンがノイズではなく検体に特異的な信号に関連していることを保証するために、所定の下限閾値をさらに設定することができる。
【0214】
第1のステップがターゲットの1つ又は複数のゾーンを識別することである場合、次のステップは、その後の検体測定のためにゾーンのうちの1つを選択することであろう。
【0215】
皮膚の場合、ターゲットは多層の材料である。第1の近似では、各層kは、特定の吸収係数α(λirrad,k)と関連付けることができる。特定の実施形態では、「経時的」類似度-非類似度行列で識別された周波数ゾーンに基づいてp個の連続する層が検出される。
【0216】
図5の例では、2つの層が検出される。ゾーン2に対応する第1の(最も浅い)層は、おそらく角質層である。第2のゾーンの広い周波数範囲を考慮すると、第2の(最も深い)層は、水及び/又はグルコースの含有量が同様の、透明層、顆粒層、及び有棘層の一部で構成されている可能性がある。必要であれば、第2の層を2つのサブ層に細分割することもできる。
【0217】
前に説明したように、血中グルコースセンサの場合、角質層は、間質液グルコース測定には関係がない。後続の測定がグルコースに特異的な測定であることを保証するために、この後続の測定に対してゾーン1での強度変調周波数を選択することができる。
【0218】
別の実施形態では、関心ある変調周波数の決定は、別の多層モデル又は他の最適化基準に基づくことができる。
【0219】
例えば、間質液グルコース濃度の勾配が存在し、真皮から表皮に向かって、毛細血管から遠ざかるにつれて減少すると考えることができる。
【0220】
皮膚モデルに関係なく、血中グルコースと間質液グルコースとの間に遅延が存在し、この遅延は、測定が真皮の毛細血管から遠く離れて行われるにつれてさらに大きくなることがわかる。
【0221】
間質液グルコースが時間tで測定される場合、時間t’<tで血中グルコースと相関することがわかるが、t’、tは、測定が行われる位置によって異なる。
【0222】
本発明に係るプロセスは、測定がほぼ同じ位置、つまり、皮膚の少なくとも同じ層でできるだけ頻繁に実行されることを保証する限り、この問題に対処することを可能にする。
【0223】
変調周波数の決定はまた、学習フェーズを含み得る。
【0224】
皮膚構造に関するさらなる情報なしに、その後の測定のために強度変調周波数を設定できることが理解される。
【0225】
言い換えれば、グルコースセンサの任意の実施形態において、「経時的」類似度-非類似度行列の計算後に、角質層よりも深い特定の層に到達することを保証する変調周波数fmod,D.Mを設定することができ、この選択は、所与の患者の皮膚構造の予備知識なしに、正確に定義できない深さパラメータに頼ることなく行われる。
【0226】
また言い換えれば、「経時的」類似度-非類似度行列は、センサ信号が所与の測定で検体に特異的であることを保証するのに役立ち、測定の再現性を向上させる。
【0227】
一実施形態では、特定の変調周波数fmod,D.Mを選択するためには、fmod,D.Mが、「経時的」類似度-非類似度行列の特定のゾーンを特徴付ける周波数間隔と数学的関係があると判断することができる。
【0228】
例えば、fmod,D.Mは、他のターゲットゾーンとの境界面から可能な限り遠くなるように、この間隔の平均周波数とすることができる。
【0229】
或いは、熱拡散長(μs)が強度変調周波数と線形関係がないことを考慮に入れることもできる。
【0230】
別の実施形態では、測定の繰り返し精度が対処されれば、測定感度を最適化することができる。
【0231】
例示的な実施形態では、グルコースセンサの場合、十分な感度を確かめるために、[50Hz,700Hz]にも含まれる行列で識別される最大の周波数ゾーン(又は周波数間隔)が選択される。次いで、すべての他の条件が等しい場合、より低いf
mod,D.Mはより強い信号と関連付けられることが観察されているため、この選択された周波数ゾーン(
図5の例では200Hzのゾーン1b)の最低周波数が、測定感度を向上させるためにf
mod,D.Mに選択される。
【0232】
fmod,D.Mが設定されると、これは、TSM時間の経過後に次のスイープモード取得が行われるまで、P回の個別モード取得中に一定に保たれる。例示的な実施形態では、fmod,D.Mは、30分間一定に保たれる。
【0233】
最後のスイープモード取得のTSM後に、新しいスイープモード取得が実行される。取得したデータが時系列に追加される。
【0234】
新しい「経時的」類似度-非類似度行列が、時系列のN個の最新の時間点で計算される。この新しい「経時的」類似度-非類似度行列の計算後に、特定の変調周波数fmod,D.Mは固定される。この特定の変調周波数fmod,D.Mは、特定の層に到達する(又は必要であれば特定の層が回避される)ことを保証し、この選択は、ターゲット構造、例えば特定の患者の皮膚構造を知ることなく、正確に定義できない深さパラメータに頼ることなく行われる。強度変調周波数fmod,D.Mは、次のP回の個別モード取得で再び一定に保たれ、以下同様である。
【0235】
Pは1に等しくすることができるが、エネルギー消費は個別モードよりもスイープモードの方が高いため、Pは1よりも大きい、例えば、5、10以上であることが好ましい場合がある。
【0236】
TSMは、2つの連続するスイープモード取得間にP回の個別モード取得を実行するのに十分に長い。しかしそれは同時に、測定の繰り返し精度を保証するのに十分に短い。TSMが長すぎると、測定値が変わる可能性がある皮膚の構造の中期変動が、強度変調周波数fmod,D.Mの定期的な適応によって補正されなくなる。
【0237】
もちろん、N回のスイープモード取得にわたるデータがあるということは、初期化フェーズを意味する。
【0238】
例えば、初期化フェーズ中に、fmod,D.Mは、デフォルト値に設定され、スイープモード取得後にNに到達するまで比較は実行されない。
【0239】
別の実施形態では、初期化フェーズ中に、初期化期間Tinitだけ分離されたN回の連続するスイープモード取得が実行され、Tinitは、例えば、確立された動作モードでのTSMよりも短い、又はさらにははるかにより短い。
【0240】
このスイープモードは、初期化フェーズ後に時間及びエネルギーをほとんど必要としないので、周期的なスイープモード取得を考慮することができる。
【0241】
確立された動作モードでの各スイープモード取得後に、患者に特異的な、環境に特異的なfmod,D.Mが設定され、fmod,D.Mは、例示的な実施形態では「経時的」類似度-非類似度行列の計算に用いられるデータがすべて所与の患者について取得され得るため、患者に特異的とすることができ、「経時的」類似度-非類似度行列の計算に用いられるデータは、次の個別モード測定の直前の所与の期間における所与の条件から得られるため、環境に特異的とすることができる。
【0242】
その結果、このプロセスは、検体の光音響検出の精度及び繰り返し精度を向上させる。この向上は、妥当な時間及びエネルギー消費で得られる。
【0243】
「経時的」類似度-非類似度行列を計算するために、他の比較技術を使用してもよい。例えば、動的タイムワーピング計算が実行されてもよい。
【0244】
特定の実施形態では、「経時的」類似度-非類似度行列の各係数M[i][j]は、0~100の範囲であり、時系列iと時系列jとの間の動的タイムワーピング距離(DTW距離)である。低い係数M[i][j]は、時系列iと時系列jとの間の短いDTW距離を示し、結果として、これらの時系列間の高い類似度を示す。この場合、時系列iと時系列jとの間の類似度は、係数M[i][j]、すなわち同等に、DTW距離が増加するにつれて減少する。
【0245】
このような「経時的」DTW行列の例を
図7bで見ることができ、「経時的」相関行列は
図7aに示されている。
【0246】
図7a及び
図7bは、麻酔をかけたブタに対して130回の第1モード照射で実施した実験の結果を示しており、各照射は1分間持続し、実験全体はおおよそ2時間持続し、変調周波数は、100Hzから2.3kHzまでスイープする。
【0247】
図7a及び
図7bの例では、DTW分析又は相関分析により、ゾーン1について同様の結論が得られるが、DTW分析により、f
1とf
3との間のDTW距離は非常に長く、一方、f
1とf
2との間の距離は非常に短いため、周波数f
1及びf
2に対応するゾーン0を識別できるという結論が得られる可能性がある。
【0248】
図8a及び
図8bは、麻酔をかけたブタに対して60回の第1モード照射で実施した実験の結果を示しており、各照射は1分間持続し、実験全体はおおよそ2時間持続し、変調周波数は、100Hzから13.8kHzまでスイープする。
【0249】
この場合、相関分析により、ゾーン1は300Hz~1000Hzの範囲の変調周波数に対応するという結論が得られ、一方、DTW分析により、ゾーン1は400Hz~2300Hzの範囲の変調周波数に対応するという結論が得られる。
【0250】
例えば、検体、患者、又は求められる精度に応じて、これらの2つの比較技術のうちの1つ、又は別の比較技術、又はいくつかの比較技術を実施できることが理解される。
【0251】
つまり、2つの比較技術により、経時的な皮膚の構造への異なる、場合によっては相補的な洞察が得られる。
【0252】
例えば、DTW計算は、血中グルコースと血中間質液グルコースとの間の遅延の変化に関する情報を提供し得る。
【0253】
特定の実施形態では、fmod,D.Mは、様々な比較技術の結果に基づいて設定される。
【0254】
光音響検出セルは、血中グルコースのモニタリングの場合に特に興味深い可能性があることに注目することができ、これは、第1に、取得されたデータは振幅(又は強度)情報と位相情報との両方を含むためであり、第2に、2つのレーザが関係する検出技術に比べてエネルギー消費が低い光放出器のみが必要とされるためである。結果として、本発明に係るプロセスが実装されるポータブルの血中グルコースセンサの自律性を高めることができる。
【0255】
「経時的」類似度-非類似度行列からさらなる情報を推測することができる。
【0256】
図6の例では、「経時的」類似度-非類似度行列で特定の相関又は反相関ゾーンを識別することはできないが、スイープ範囲内の特定の変調周波数間隔に対応する特定の層で取得されたデータは相関しているはずなので、相関又は反相関ゾーンはいくつか存在するはずである。
【0257】
所与の時点で、センサ又は患者に継続的な問題がある場合、非類似度が経時的に蓄積され、経時的にのみ非常に明瞭に現れるので、
図6のような「瞬間的」類似度-非類似度行列が得られる可能性は非常に低いことに注意されたい。
【0258】
これは、スイープモード取得を繰り返している間に問題が発生したことを示している。検体センサ1に欠陥があるか又は患者の皮膚に適正に配置されていない。
【0259】
説明に関係なく、例えば、検体センサ1をチェックする必要があることをユーザに警告するために警報がトリガされてもよい。
【0260】
警報が発せられた場合、検体センサ1がチェックされると、新しい初期化フェーズを開始して、N回のスイープモード取得に対応するデータを含む時系列を取得することができ、それらのデータはすべて、分析装置1の変更された位置又は締め付けと一致する。
【0261】
或いは、前のスイープモード取得のうちのいくつかが分析装置1がチェックされた後に実行されるスイープモード取得と依然として一致していると考えることができる他の技術的理由で警報が発せられた場合、N個の時間点までの時系列を完成させるために部分的な初期化フェーズを開始することができ、又は必要がない場合、センサは、確立された動作モードを再開することができる。
【0262】
上で述べたように、周波数スイープモードでの取得期間TSMは、個別モードでの取得期間TDMよりも長くなり得る。例えば、TSMは、持続可能な電力消費を有するのに十分に長い(スイープモードでの電力消費が特に高いため)が、2つのスイープモード取得間のすべての個別モード取得が一貫していることを高い信頼レベルで保証するのに十分に短い。
【0263】
一実施形態では、検出セルにおいてプロセスのステップa及びbを実行するための第1のセンサが提供され、プロセスのステップeを実行するための第2のセンサが提供される。
【0264】
このようにして、1つのセンサを第1モードでの取得専用にし、別のセンサを第2モードでの取得専用にすることができる。例えば、各モードに必要とされる精度に応じて、第1モードでの取得と第2モードでの取得に異なるタイプのセンサ又は異なる性能をもつ同じタイプのセンサを使用することも可能である。
【0265】
センサは、例えば、熱センサ又は電気音響センサとすることができる。
【0266】
必須ではないが、両方のセンサを互いに近くに配置することが好ましい。
【0267】
小型化と、一体化されたシステムへの一体化の可能性も考慮に入れられる。
【0268】
一実施形態では、分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスにおいて、ステップeで少なくとも1回の照射を実行するために、制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する第2の光放出器が提供される。
【0269】
このようにして、1つの光放出器を第1モードでの取得専用にし、別の光放出器を第2モードでの取得専用にすることができる。例えば、各モードに必要とされるビームのパワー又は品質に応じて、第1モードでの取得と第2モードでの取得に異なるタイプの光放出器を使用することも可能である。
【0270】
必須ではないが、分析では両方の光ビームがターゲットのほぼ同じゾーンに到達するように、両方の光放出器を互いに近くに配置することが好ましい。
【0271】
ホスト検体濃度をモニタリングする及びホストに薬剤を送達するための一体化されたシステムが提供され、このシステムは、本発明に係るプロセスを実施する連続検体センサ1を含む。次いで、検体センサ1のプロセッサモジュールによって計算された検体値を、薬剤療法を一度又は反復的に決定するために用いることができる。
【符号の説明】
【0272】
1: ポータブルの非侵襲的な分析装置
11: 光放出器ブロック
12: 検出セル
13: 信号処理モジュール
2: ターゲット
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、強度変調デバイスと、
放出された前記光による前記ターゲットの照射に応答して前記ターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
前記少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成されたプロセッサモジュールと、
を備える分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセスであって、
a)第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される前記光の前記強度の前記変調周波数が前記第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
b)前記第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行し、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第1モードでの前記少なくとも1回の追加照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
c)受信した前記第1モードでの少なくとも2回の照射についての前記センサデータを前記プロセッサモジュールで処理し、前記プロセッサモジュールで前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成するステップと、
d)前記プロセッサモジュールを使用して、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算するステップと、
e)第2モードで強度を変調した光を放出する光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、前記第2モードで放出される前記光の強度の前記変調周波数が前記ステップdで計算された前記個別モードの変調周波数であり、前記プロセッサモジュールが検出セルから前記第2モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信するステップと、
f)プロセッサモジュールを使用して、受信した前記第2モードでの少なくとも1回の前記照射についての前記センサデータに基づいて検体値を計算するステップと、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記a)及びb)を実行するために第1のセンサが提供され、前記e)を実行するために第2のセンサが提供されることを特徴とする、請求項1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項3】
前記e)で前記少なくとも1回の照射を実行するために、制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する第2の光放出器が提供されることを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項4】
前記e)で、前記第2モードで少なくとも2回の照射が実行され、前記第2モードでの2回の連続した照射が、第1の期間T
DMだけ分離されることを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項5】
前記f)で、受信した前記eでの前記第2モードでの複数の前記少なくとも2回の照射についての前記センサデータに基づいて前記検体値が計算されることを特徴とする、請求項4に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項6】
前記b)、c)、d)、及びe)が、この順序で周期的に繰り返され、前記b)の2つの連続する繰返しが、第2の期間T
SMだけ分離されることを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項7】
前記b)、c)、d)、及びe)が、この順序で周期的に繰り返され、前記b)の2つの連続する繰返しが第2の期間T
SM
だけ分離され、前記第1の期間T
DMが前記第2の期間T
SMよりも短いことを特徴とする、請求項
4に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項8】
第1の整数Nが予め定められており、前記c)で、前記第1モードでの最新の前記N回の照射中に取得された前記データで前記時系列が生成されることを特徴とする、請求項
6に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項9】
前記a)で、前記第1モードでN-1回の照射が実行され、前記a)の2回の連続した照射が、第3の期間T
DMだけ分離されることを特徴とする、請求項8に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項10】
前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析は、複数の個別の周波数のそれぞれについての時系列を生成し、前記複数の個別の周波数のうちの2つでの2つの時系列間の類似度又は非類似度を示す少なくとも1つの値を計算することを含むことを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項11】
前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析は、この時系列に対して動的タイムワーピングアルゴリズム及び/又は相関分析を実行することをさらに含むことを特徴とする、請求項10に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項12】
強度を変調した光が、前記ターゲットの測定される検体によって吸収される少なくとも1つの波長を含むことを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項13】
前記強度を変調した光の前記少なくとも1つの波長が、中赤外範囲内にあることを特徴とする、請求項12に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項14】
前記分析装置は、ユーザインターフェースをさらに備えるか、又は薬剤送達デバイスにデータを送信するようにさらに構成されることを特徴とし、前記d)で、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む前記時系列の前記分析の結果が所定の閾値と比較され、この比較の結果に基づいて、警報信号が前記ユーザインターフェース上に表示されるか、又は前記薬剤送達デバイスに送信されることを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項15】
前記少なくとも1つの検出セルが、電気音響センサ及び熱センサから選択されるセンサを備えることを特徴とする、請求項
1に記載の分析装置でターゲットを非侵襲的に分析するためのプロセス。
【請求項16】
ターゲットを非侵襲的に分析するための装置であって、
制御可能な変調周波数で強度を変調した光を放出する光放出器である、少なくとも1つの強度変調デバイスと、
放出された前記光による前記ターゲットの照射に応答してターゲットから伝播する熱波を直接又は間接的に感知するセンサを備える少なくとも1つの検出セルと、
少なくとも1つの検出セルからセンサデータを受信及び処理するように構成された少なくとも1つのプロセッサモジュールと、
を備え、
前記少なくとも1つの光放出器は、
a)第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行し、放出される前記光の強度の前記変調周波数は、前記第1モードでの少なくとも1回の照射のそれぞれの間に周波数スイープ範囲にわたってスイープし、
b)前記第1モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の追加照射を実行する、
ように構成され、
前記少なくとも1つのプロセッサモジュールは、
c)少なくとも1つの検出セルから第1モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、
d)受信した前記第1モードでの前記少なくとも2回の照射についての前記センサデータを処理し、前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのセンサデータを含む時系列を生成し、
e)前記周波数スイープ範囲内の複数の個別の周波数のそれぞれについてのデータを含む前記時系列の分析に基づいて個別モードの変調周波数を計算する、
ように構成され、
前記少なくとも1つの光放出器は、第2モードで前記光放出器による前記ターゲットの少なくとも1回の照射を実行するように構成され、前記第2モードで放出される前記光は、前記少なくとも1つのプロセッサモジュールによって計算された前記個別モードの変調周波数で強度が変調され、
前記少なくとも1つのプロセッサモジュールは、少なくとも1つの検出セルから前記第2モードでの前記少なくとも1回の照射のそれぞれについてのセンサデータを受信し、受信した前記第2モードでの少なくとも1回の照射についての前記センサデータに基づいて検体値を計算するように構成される、
装置。
【請求項17】
前記装置はウェアラブルであることを特徴とする、請求項16に記載のターゲットを非侵襲的に分析するための装置。
【請求項18】
請求項1
6に記載のターゲットを非侵襲的に分析するための装置と薬剤送達システムを含むシステムであって、前記装置のプロセッサモジュールを使用して計算された少なくとも1つの検体値に基づいて、前記薬剤送達デバイスによって送達される薬剤療法を決定するようにさらに構成される、システム。
【国際調査報告】