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特表2024-519194時間情報を用いた単一イオン質量分析のためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-09
(54)【発明の名称】時間情報を用いた単一イオン質量分析のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240430BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20240430BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20240430BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240430BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01N27/62 E
H01J49/10
H01J49/26
G01N33/68
G01N33/50 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564452
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 US2022025902
(87)【国際公開番号】W WO2022226279
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】63/179,046
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512241232
【氏名又は名称】ブラウン ユニバーシティ
【住所又は居所原語表記】350 Eddy Street, Box 1949, Providence, RI 02903 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】シュタイン,デレク,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ドラックマン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ウィーナー,ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041GA03
2G045DA12
2G045DA36
2G045FB06
(57)【要約】
本開示は、一般に、限定されないが、判定可能な時間にイオンを放出することができる質量分析計を含む質量分析計に関する。一部の態様において、イオンがイオン源から出る時間と、イオンが検出器に到達する時間との間の時間を、比較的高い時間分解能で判定することができ、これは、バイオポリマーの配列決定などのある一定の適用に有用であり得る。加えて、一部の事例において、イオン源から出る比較的多数のイオン、例えば、生成されたイオンの少なくとも50%以上を、検出器で判定することができる。他の態様は、一般に、そのような質量分析計を使用するためのシステムおよび方法、そのような質量分析計を伴う技術などに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管および前記毛細管に近接した電極を含むイオン源であって、前記毛細管が、125nm未満の断面寸法を有する開口部を含む、イオン源と、
前記イオン源の下流の磁気質量フィルタと、
前記磁気質量フィルタの下流の検出器のアレイと
を備える、質量分析計。
【請求項2】
前記イオン源を収容する真空チャンバをさらに備える、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記真空チャンバが100mPa以下の圧力を有する、請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記真空チャンバが10mPa以下の圧力を有する、請求項2または3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記磁気質量フィルタが永久磁石を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記イオン源の下流および前記磁気質量フィルタの上流にイオン光学部品をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記質量フィルタから出るイオンを前記検出器に向けて偏向させるように構成されたイオンベンダをさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記イオン光学部品が少なくとも1つのアインツェルレンズを含む、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記質量分析計が1マイクロ秒以下の時間分解能を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記検出器のアレイが電子増倍管を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記検出器のアレイがダイノードを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記検出器のアレイがマイクロチャネルプレートアレイを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記検出器のアレイがCCDを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記検出器のアレイがCMOSセンサを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記検出器のアレイがSQUIDを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記毛細管の前記開口部が65nm未満の断面寸法を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記毛細管の前記開口部が50nm未満の断面寸法を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記毛細管の前記開口部が30nm未満の断面寸法を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記毛細管の前記開口部が2nm未満の断面寸法を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記毛細管が前記開口部で先細になっている、請求項1~19のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記先細が10°未満の角度である、請求項20に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記先細が5°未満の角度である、請求項20または21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記毛細管が石英を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記毛細管がガラスを含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項25】
前記毛細管がホウケイ酸ガラスを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項26】
前記毛細管がプラスチックを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記毛細管が金属を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項28】
前記毛細管が半導体を含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項29】
前記毛細管が炭素ナノチューブを含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項30】
前記毛細管が窒化ホウ素ナノチューブを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項31】
前記毛細管が、100以上の長さ対断面寸法のアスペクト比を有する、請求項1~30のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項32】
前記毛細管が、1,000以上の長さ対断面寸法のアスペクト比を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項33】
前記毛細管が、10,000以上の長さ対断面寸法のアスペクト比を有する、請求項1~32のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項34】
前記毛細管が100nm未満の断面寸法を有する、請求項1~33のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項35】
前記毛細管が60nm未満の断面寸法を有する、請求項1~34のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項36】
前記電極が中央開口部を画定する、請求項1~35のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項37】
前記電極の前記中央開口部が5cm未満の断面寸法を有する、請求項36に記載の質量分析計。
【請求項38】
前記電極の前記中央開口部が1cm未満の断面寸法を有する、請求項36または37に記載の質量分析計。
【請求項39】
前記電極の前記中央開口部が前記毛細管の前記開口部よりも大きい、請求項36~38のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項40】
前記電極の前記中央開口部が前記毛細管の前記開口部よりも少なくとも5倍大きい、請求項36~39のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項41】
前記電極の前記中央開口部が前記毛細管の前記開口部よりも少なくとも10倍大きい、請求項36~40のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項42】
前記電極が鋼を含む、請求項1~41のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項43】
前記電極が環状である、請求項1~42のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項44】
前記電極が5cm未満の断面寸法を有する、請求項1~43のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項45】
前記電極が前記毛細管の前記開口部の10mm以内に位置決めされている、請求項1~44のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項46】
前記電極が前記毛細管の前記開口部の5mm以内に位置決めされている、請求項1~45のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項47】
前記電極が前記毛細管の前記開口部の2mm以内に位置決めされている、請求項1~46のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項48】
前記電極が前記毛細管の周りに位置決めされている、請求項1~47のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項49】
前記電極が前記毛細管の前記開口部の前に位置決めされている、請求項1~48のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項50】
前記毛細管の断面の中心を通る仮想線が、前記電極の前記中央開口部を通る、請求項1~49のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項51】
前記電極および前記毛細管が、電圧源に接続された内部を有する、請求項1~50のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項52】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に400V未満の電圧を発生させることができる、請求項51に記載の質量分析計。
【請求項53】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に360V未満の電圧を発生させることができる、請求項51または52に記載の質量分析計。
【請求項54】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に少なくとも80Vの電圧を発生させることができる、請求項51~53のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項55】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に最大で4V/nm以下の電界を発生させることができる、請求項51~54のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項56】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に最大で3V/nm以下の電界を発生させることができる、請求項51~55のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項57】
前記電圧源が、前記電極と前記毛細管との間に最大で少なくとも1.5V/nmの電界を発生させることができる、請求項51~56のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項58】
前記磁気質量フィルタが、少なくとも約0.5Tの磁気フィルタ強度を有する、請求項1~57のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項59】
前記磁気質量フィルタが、ネオジムを含む磁石を含む、請求項1~58のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項60】
前記磁気質量フィルタが、鉄を含むヨークを含む、請求項1~59のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項61】
前記磁気質量フィルタが、少なくとも約5cmの第1の寸法を有する開口部を含む、請求項1~60のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項62】
前記磁気質量フィルタが、少なくとも約1cmの第2の寸法を有する開口部を含む、請求項1~61のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項63】
前記検出器が単一イオン検出器である、請求項1~62のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項64】
バイオポリマーを配列決定する方法であって、
流体内に含まれるバイオポリマーをイオンまたはイオンクラスタにイオン化することと、
前記イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、
前記検出器のアレイを用いて前記イオンまたはイオンクラスタを判定することによって、前記バイオポリマーの配列を判定することと
を含む、方法。
【請求項65】
前記バイオポリマーがタンパク質である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記タンパク質のアミノ酸を、1マイクロ秒当たり少なくとも1個のアミノ酸の速度でイオン化することを含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記バイオポリマーが核酸である、請求項64~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記核酸の塩基を、1マイクロ秒当たり少なくとも1個の塩基の速度でイオン化することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記核酸の塩基を、1マイクロ秒当たり少なくとも10個の塩基の速度でイオン化することを含む、請求項67または68に記載の方法。
【請求項70】
前記核酸の塩基を、1マイクロ秒当たり少なくとも100個の塩基の速度でイオン化することを含む、請求項67~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記イオンまたはイオンクラスタが、約0.8以上の総イオン透過効率を有する、請求項64~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記イオンまたはイオンクラスタが、1マイクロ秒当たり1個以上のイオンまたはイオンクラスタ~1マイクロ秒当たり100個のイオンまたはイオンクラスタの速度で生成される、請求項64~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記開口部に近接したイオンまたはイオンクラスタとしての分子の出射と、前記検出器のアレイにおける前記イオンまたはイオンクラスタの検出との間の時間間隔が、10マイクロ秒以上および100マイクロ秒以下である、請求項64~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記検出器のアレイが電子増倍管を含む、請求項64~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記検出器のアレイがダイノードを含む、請求項64~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記検出器のアレイがマイクロチャネルプレートアレイを含む、請求項64~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記検出器のアレイがCCDを含む、請求項64~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記検出器のアレイがCMOSセンサを含む、請求項64~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記イオンまたはイオンクラスタが、100ナノ秒超の時間分解能で検出され得る、請求項64~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
流体内に含まれるバイオポリマーをイオンまたはイオンクラスタにイオン化することが、前記バイオポリマーを単一イオンにイオン化することを含む、請求項64~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことが、単一イオンを磁気質量フィルタに通すことを含む、請求項64~80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることが、前記単一イオンを検出器のアレイに向けることを含む、請求項64~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記検出器のアレイを用いて前記イオンまたはイオンクラスタを判定することが、前記検出器のアレイを用いて前記単一イオンを判定することを含む、請求項64~82のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
バイオポリマーを配列決定する方法であって、
バイオポリマーを含む流体を、開口部を画定する毛細管に入れることと、
電界を印加して、前記開口部に近接した前記バイオポリマーをイオン化し、イオンまたはイオンクラスタを生成することと、
前記イオンまたはイオンクラスタを、100mPa以下の圧力を有する環境に直接入れることと、
前記イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、
前記検出器のアレイを用いて前記イオンまたはイオンクラスタを判定することによって、前記バイオポリマーの配列を判定することと
を含む方法。
【請求項85】
前記イオンまたはイオンクラスタが、約0.8以上の総イオン透過効率を有する、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記イオンまたはイオンクラスタが、1マイクロ秒当たり1個以上のイオンまたはイオンクラスタ~1マイクロ秒当たり100個のイオンまたはイオンクラスタの速度で生成される、請求項84または85に記載の方法。
【請求項87】
前記開口部に近接したイオンまたはイオンクラスタとしての分子の出射と、前記検出器のアレイにおける前記イオンまたはイオンクラスタの検出との間の時間間隔が、10マイクロ秒以上および100マイクロ秒以下である、請求項84~86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記検出器のアレイが電子増倍管を含む、請求項84~87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記検出器のアレイがダイノードを含む、請求項84~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記検出器のアレイがマイクロチャネルプレートアレイを含む、請求項84~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記検出器のアレイがCCDを含む、請求項84~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記検出器のアレイがCMOSセンサを含む、請求項84~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
濃度を判定する方法であって、
流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、
前記イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、
前記検出器のアレイを用いて前記イオンまたはイオンクラスタを判定することによって、前記流体中の前記分子の濃度を判定することと
を含む方法。
【請求項94】
流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、
前記イオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%を磁気質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器に向けることと
を含む方法。
【請求項95】
前記検出器が、検出器のアレイのうちの1つの検出器である、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記イオンまたはイオンクラスタの少なくとも70%を磁気質量フィルタに通すことを含む、請求項94または95に記載の方法。
【請求項97】
前記イオンまたはイオンクラスタの少なくとも80%を磁気質量フィルタに通すことを含む、請求項94~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
イオン源を使用して、流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、
前記イオンまたはイオンクラスタを質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタを検出器に向けることと、
前記イオンまたはイオンクラスタが前記イオン源から出る時間と、前記イオンまたはイオンクラスタが前記検出器に到達する時間との間の持続時間を判定することと
を含む方法。
【請求項99】
前記持続時間を100ns超の時間分解能で判定することを含む、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
単一イオンまたはイオンクラスタを生成するように構成され配置されたイオン源と、
前記イオン源からの前記単一イオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めされた磁気質量フィルタと、
前記イオン源と前記磁気質量フィルタとの間に位置決めされた環境において100mPa未満の圧力を発生させることができるポンプと、
前記磁気質量フィルタからの前記単一イオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めされた検出器のアレイと
を備える質量分析計。
【請求項101】
イオン源と、
前記イオン源の下流の磁気質量フィルタと、
前記磁気質量フィルタの下流の検出器のアレイと
を備える質量分析計。
【請求項102】
前記イオン源がパルスレーザを含む、請求項101に記載の質量分析計。
【請求項103】
前記イオン源が、毛細管と前記毛細管に近接した電極とを含み、前記毛細管が、125nm未満の断面寸法を有する開口部を含む、請求項101または102に記載の質量分析計。
【請求項104】
イオン源を使用して分子をイオン化し、イオンまたはイオンクラスタの配列を生成することと、
前記イオンまたはイオンクラスタの配列を質量フィルタに通すことと、
前記イオンまたはイオンクラスタの配列を検出器のアレイに向けることであって、前記検出器のアレイに到達する前記イオンまたはイオンクラスタの少なくとも90%が配列で到達する、検出器のアレイに向けることと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照により本明細書に完全に組み込まれている、2021年4月23日に出願された、Stein他による「System and Methods for Single-Ion Mass Spectrometry with Temporal Information」という名称の米国仮特許出願第63/179,046号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、一般に、限定されないが、判定可能な時間にイオンを放出することができる質量分析計を含む質量分析計に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析は、20個のアミノ酸すべてを同定することができる分析技術であるため、タンパク質の配列決定に好適であり得る。一般的に、質量分析計は、単一イオン検出器と、狭い質量透過窓を適時に掃引する質量フィルタとを使用して、イオンを測定する。例えば、四重極質量フィルタは、狭いm/z範囲内のイオンのみを通すことができ、四重極の4つの極に印加される、時間的に変化する電圧によって、特定のm/z範囲が制御される。許容されるm/z範囲が掃引されると、イオン透過速度が検出器によって測定され、少なくとも1回の掃引後に、質量スペクトルが判定される。透過窓の外側のm/zを有するイオンは、フィルタを通らない。したがって、窓がイオンのm/zの中心に位置するときに、イオン源から出る特定のイオンがたまたまフィルタを通る場合にのみ、そのイオンが検出され同定される。これは、イオンのm/z値の順序が予めわかっていなければ、保証することができない。したがって、イオンがいつ、どの順序でイオン源から出るかがわからないため、このようなシステムを配列決定に使用することはできない。そのため、質量分析計を単一タンパク質の配列決定に使用することができなかった。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、一般に、限定されないが、判定可能な時間にイオンを放出することができる質量分析計を含む質量分析計に関する。本開示の主題は、一部の事例において、相互に関連する製品、特定の問題に対する代替解決策、ならびに/または、1つもしくは複数のシステムおよび/もしくは物品の複数の異なる使用を含む。
【0005】
一態様は、一般に、質量分析計に関する。1組の実施形態において、質量分析計は、毛細管および毛細管に近接した電極を含むイオン源と、イオン源の下流の磁気質量フィルタと、磁気質量フィルタの下流の検出器のアレイとを備える。一部の事例において、毛細管は、125nm未満の断面寸法を有する開口部を含む。
【0006】
別の組の実施形態において、質量分析計は、単一イオンまたはイオンクラスタを生成するように構成され配置されたイオン源と、イオン源からの単一イオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めされた磁気質量フィルタと、イオン源と磁気質量フィルタとの間に位置決めされた環境において100mPa未満の圧力を発生させることができるポンプと、磁気質量フィルタからの単一イオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めされた検出器のアレイとを備える。
【0007】
さらに別の組の実施形態において、質量分析計は、イオン源と、イオン源の下流の磁気質量フィルタと、磁気質量フィルタの下流の検出器のアレイとを備える。
【0008】
別の態様は、一般に、バイオポリマーを配列決定する方法に関する。一組の実施形態によれば、方法は、流体内に含まれるバイオポリマーをイオンまたはイオンクラスタにイオン化することと、イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、検出器のアレイを用いてイオンまたはイオンクラスタを判定することによって、バイオポリマーの配列を判定することとを含む。
【0009】
別の組の実施形態において、方法は、バイオポリマーを含む流体を、開口部を画定する毛細管に入れることと、電界を印加して、開口部に近接したバイオポリマーをイオン化し、イオンまたはイオンクラスタを生成することと、イオンまたはイオンクラスタを、100mPa以下の圧力を有する環境に直接入れることと、イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、検出器のアレイを用いてイオンまたはイオンクラスタを判定することによって、バイオポリマーの配列を判定することとを含む。
【0010】
さらに別の態様は、一般に、濃度を判定する方法に関する。1組の実施形態において、方法は、流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、イオンまたはイオンクラスタを磁気質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることと、検出器のアレイを用いてイオンまたはイオンクラスタを判定することによって、流体中の分子の濃度を判定することとを含む。
【0011】
さらに別の態様は、流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、イオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%を磁気質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタを検出器に向けることとを含む方法に関する。
【0012】
別の態様は、イオン源を使用して、流体からの分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することと、イオンまたはイオンクラスタを質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタを検出器に向けることと、イオンまたはイオンクラスタがイオン源から出る時間と、イオンまたはイオンクラスタが検出器に到達する時間との間の持続時間を判定することとを含む方法に関する。
【0013】
さらに別の態様は、イオン源を使用して分子をイオン化し、イオンまたはイオンクラスタの配列を生成することと、イオンまたはイオンクラスタの配列を質量フィルタに通すことと、イオンまたはイオンクラスタの配列を検出器のアレイに向けることとを含む。一部の事例において、検出器のアレイに到達するイオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%が配列で到達する。加えて、一部の事例において、検出器のアレイに到達するイオンまたはイオンクラスタの少なくとも90%が配列で到達する。
【0014】
本開示の様々な非限定的な実施形態の以下の詳細な説明を添付図面と併せて考慮すると、本開示のその他の利点および新規の特徴がこれらの説明から明らかになろう。
【0015】
添付図面を参照しながら、本開示の非限定的な実施形態を例として説明する。これらの図面は概略であり、縮尺通りに描くことを意図したものではない。図中、示されるそれぞれの同一または略同一の構成要素は、通常、単一の数字で表される。明確にするために、すべての図においてすべての構成要素に符号が付されているわけではなく、当業者が本開示を理解できるようにするために図示が不要な場合、本開示の各実施形態のすべての構成要素が図示されているわけでもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態によるナノポア質量分析計を示す図である。
図2】A及びBは、別の実施形態における、ナノポアイオン源から高真空に直接供給された正アミノ酸イオンの質量スペクトルを示す図である。
図3】さらに別の実施形態による質量分析計の概略図である。
図4-1】Aは、ある実施形態によるナノポア質量分析計の動作を示す図である。
図4-2】B及びCは、ある実施形態によるナノポア質量分析計の動作を示す図である。
図4-3】Dは、実施形態によるナノポア質量分析計の動作を示す図である。
図5-1】Aは、一部の実施形態による、ある生体分子の質量スペクトルを示す図である。
図5-2】Bは、一部の実施形態による、ある生体分子の質量スペクトルを示す図である。
図5-3】Cは、一部の実施形態による、ある生体分子の質量スペクトルを示す図である。
図6-1】Aは、さらに他の実施形態における、イオン源からのイオンの生成または放出を示す図である。
図6-2】B及びCは、さらに他の実施形態における、イオン源からのイオンの生成または放出を示す図である。
図6-3】D及びEは、さらに他の実施形態における、イオン源からのイオンの生成または放出を示す図である。
図7】さらに別の実施形態による磁気質量フィルタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、一般に、限定されないが、判定可能な時間にイオンを放出することができる質量分析計を含む質量分析計に関する。一部の態様において、イオンがイオン源から出る時間と、イオンが検出器に到達する時間との間の時間を、比較的高い時間分解能で判定することができ、これは、バイオポリマーの配列決定などのある一定の適用に有用であり得る。加えて、一部の事例において、イオン源から出る比較的多数のイオン、例えば、生成されたイオンの少なくとも50%以上を、検出器で判定することができる。他の態様は、一般に、そのような質量分析計を使用するためのシステムおよび方法、そのような質量分析計を伴う技術などに関する。
【0018】
従来の質量分析計は、一般的に、単一イオン検出器と、狭い質量透過窓を適時に掃引する質量フィルタとを使用して、イオンを測定する。例えば、許容される質量対電荷比範囲が掃引されると、許容範囲内の質量対電荷比を有するイオンのみを測定することができる。したがって、従来の質量分析計は、放出されたイオンのごく一部の質量対電荷比を判定することしかできない。さらに、従来の質量分析計の機能はかなり限られていることがある。例えば、イオン順序付け、イオン関連付け、および/またはイオン配列に関する重要な情報を提供するために、従来の質量分析計を使用することはできない。したがって、本開示のある態様は、そのような情報を提供するために使用可能な質量分析計に関する。
【0019】
一例において、質量分析計は、高い検出機能および測定機能を分析計に与える構成要素ならびに/または構成の特定の組合せを備える。例えば、質量分析計は、分子を単一イオンにイオン化することができるイオン源と、質量対電荷比に基づいてイオンを分類することができる磁気質量フィルタと、単一イオンを判定することができる検出器のアレイとを備える。これらの特徴の組合せにより、対象の種、例えばバイオポリマーの配列、構造、および/または同一性を判定することが可能になり得、有利である。例えば、質量分析計を、タンパク質または核酸の配列決定のために使用することができる。従来の質量分析計と比較して、本明細書に記載の質量分析計は、高い時間分解能(例えば、1マイクロ秒未満)および高い総イオン透過効率(例えば、約0.8以上)を有することができ、有利である。
【0020】
図1に、質量分析計の1つの非限定的な例が示されている。この例において、イオン(またはイオンクラスタ)がイオン源から生成され、このイオン源は、一部の事例において、判定可能な時間にイオンを生成することができる。イオン源は、印加された電界によりサンプルの直接のイオン蒸発を可能にし得る毛細管先端を含むことができる。一部の事例において、先端は、100nm未満の断面を持つ開口部を有することができる。このようなシステムの例は、それぞれが参照により本明細書に完全に組み込まれている、本出願と同日付で出願された、「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称のPCT出願、および2020年4月24日に出願された、「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称の米国特許出願第63/015,407号に見られる。流体が流体入口を介してイオン源に入り、流体内の分子が、イオン源でイオンまたはイオンクラスタに変換される。加えて、イオン源から出たイオン(またはイオンクラスタ)は、任意選択で、例えば、イオンを集束させるイオンレンズまたは他の適切なイオン光学部品を通り、比較的低い圧力環境、例えば100mPa未満の(絶対)圧力を有するチャンバ(「真空」チャンバ)に入ることができる。一部の実施形態において、イオン源からの単一イオンまたはイオンクラスタを、真空または低圧環境内に直接放出することができる。一部の実施形態において、質量分析計は、そのような真空または低圧環境を作り出すために使用されるポンプを備える。
【0021】
その後、質量フィルタを、例えば質量または質量対電荷比に基づいて、イオンを分類するために使用することができる。一部の実施形態において、質量フィルタ(例えば、磁気質量フィルタ)は、イオン源の下流にあってよい。質量フィルタを、イオン源からの単一イオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めすることができる。1つの非限定的な例は、磁気セクタ質量フィルタである。一部の事例において、異なる質量対電荷比を有するイオンまたはイオンクラスタを、磁気質量フィルタによって発生する磁場により、異なる程度に偏向させることができる。したがって、異なる質量または質量対電荷比を有するイオンは、磁気質量フィルタから出ると、異なる軌跡を有することができる。
【0022】
イオンまたはイオンフィルタは、磁気質量フィルタから出ると、例えば質量フィルタ(例えば、磁気質量フィルタ)の下流に位置決めされた検出器アレイに向けられてよい。検出器のアレイを、質量フィルタから移された単一イオンまたはイオンクラスタを検出するように配置し構成することができる。イオンは必ずしも同じ軌跡を有していないことがあるため、異なる軌跡を有するイオンを受け入れるように位置決めされた検出器のアレイを使用することができる。各検出器は、例えば時間に対してある一定の質量または質量対電荷比を有するイオンを検出することができ、検出器の位置は、検出器に到達するイオンの入射質量または質量対電荷比に関連する。したがって、イオンまたはイオンクラスタがイオン源から出る時間がわかっており、イオン源と検出器アレイとの間で(例えば、空気分子との)実質的な衝突がないため、例えば比較的高い時間分解能、例えば数マイクロ秒以下で、イオン源と検出器アレイとの間の移動時間を判定することができる。それに対して、空気および/または時間的に変化する電圧を含む質量分析システムは、そのような時間分解能を実現することができず、または配列決定を実行することができない。
【0023】
したがって、一部の実施形態において、本明細書に記載の質量分析計は、比較的高い時間分解能を有することができる。一部の実施形態において、質量分析計は、1マイクロ秒以下(500ナノ秒以下、250ナノ秒以下、100ナノ秒以下、50ナノ秒以下、10ナノ秒以下など)の時間分解能を有する。
【0024】
一部の事例において、例えば、タンパク質中のアミノ酸または核酸中のヌクレオチドなどの、ポリマーを形成するモノマーを順次イオン化して検出器に移すことができる、ある一定の種類の配列決定のために、イオンの移動時間に関する情報を使用することができ、そのような情報は、元のポリマーの再構築または「配列決定」のために使用される。図3は、例えば、この例におけるタンパク質などのポリマーの配列決定のための、質量分析計の別の非限定的な実施形態を示す。図示するように、質量分析計は、単一イオンおよびイオンクラスタを真空チャンバ内に放出することができるイオン源(例えば、ナノポアを有する)と、イオン源に近接した電極と、イオン源の下流の磁気質量フィルタと、磁気質量フィルタの下流の検出器のアレイ(例えば、単一イオン検出器)とを備える。
【0025】
加えて、一部の実施形態において、イオン源によって生成された比較的多数のイオンまたはイオンクラスタが、例えば、質量分析計内に存在する比較的低い圧力により、磁気質量フィルタを通って検出器に移ることができる。一部の事例において、生成されたイオンの少なくとも50%以上が、検出器のうちの1つに到達することができる。これは、例えば、流体内のある一定のイオン化可能分子の濃度を判定するために有用でもあり得る。
【0026】
したがって、本開示のある態様は、質量分析計に関連するシステムおよび方法に関する。一部の実施形態において、質量分析計は、単一イオンまたはイオンクラスタを生成するように構成され配置されたイオン源を備える。イオンクラスタは、単一イオンおよびいくつかの溶媒分子を含むことができる。例として、イオンクラスタは、1つまたは2つの溶媒分子(例えば、水)のみを有するイオンを含むことができる。
【0027】
イオン源は、例えば、対象の種(例えば、バイオポリマー)を単一イオンまたはイオンクラスタにイオン化することができる様々なイオン源のいずれかであってよい。1組の実施形態において、例えば、毛細管と毛細管に近接した電極とを含むイオン源が、本明細書に記載されている。毛細管は、125nm未満(例えば、100nm未満、60nm未満など)の断面寸法を有する開口部を含む。一部の実施形態において、電極を使用して、毛細管内の流体に電界を印加し、流体内の対象の種からの分子を単一イオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することができるようになっている。以下で、イオン源の特定の構成および構成要素が、より詳細に開示される。
【0028】
例えば、一部の実施形態において、イオン源は、毛細管と、一部の事例において環状であり得る電極とを含むことができ、これらの間に電圧が印加されてイオンを生成する。一部の事例において、毛細管は、125nm未満または100nm未満の先端内径を有することができる。これにより、イオンは、無駄な液滴蒸発プロセスを避けて、毛細管内の流体のメニスカスから直接蒸発することができる。この方式において、イオン蒸発がイオン電流の大部分を占めることができ、一部の事例において、この放出モードを、比較的低い塩分濃度の溶液を用いて実現することができる。一部の実施形態において、内径が125nm未満または100nm未満の先端は、少数の溶媒分子、例えば1つまたは2つの溶媒分子のみを含む、高い割合の裸イオンまたはイオンクラスタを生成することができる。一部の事例において、液体真空界面の小さい領域が、著しい蒸発熱損失を防ぐことができ、ある事例において、水などの揮発性溶媒の使用を可能にする。一部の実施形態においてこのような方法を使用して、分子またはイオン、例えば、アミノ酸、核酸、ペプチド、もしくはタンパク質などの生体分子を分析することができ。一部の事例において、本明細書に記載するようなイオン源は、質量分析実験の感度を向上させ、単一分子タンパク質の配列決定または単細胞プロテオーム解析を可能にすることができる。以下に記載するような他の適用も可能である。
【0029】
例えば、一部の実施形態は、一般に、毛細管と電極とを含むイオン源に関する。電極を使用して、イオン化された分子を、毛細管内の流体から、例えば100mPaの圧力もしくは本明細書に記載の他の圧力の低圧環境または真空内に直接生成することができる。ある実施形態において、毛細管の開口部は、電界が印加されたときに、毛細管内の流体が荷電メニスカスを形成し、流体内の種が荷電メニスカスから、例えば、主にイオン蒸発を介して出るようなサイズである。サブミクロンの開口部(例えば、100nm未満)を有する毛細管の使用は、毛細管から出る種が、単一の荷電イオンまたは荷電イオンクラスタに直接イオン化する、イオン蒸発を介した流体のイオン化に有利であり得る。このイオン化はエレクトロスプレーイオン化とは対照的であり、エレクトロスプレーイオン化では、毛細管から出る種が液体ジェットを介して出て、この液体ジェットは荷電液滴に分解され、荷電液滴は背景ガスの存在下で荷電イオンにさらに分解される。しかしながら、一部の事例において、一部のエレクトロスプレーイオン化が依然として行われてもよいことを理解すべきである。イオン蒸発は、例えば、流体からの単一イオンの効率的な使用または生成を必要とするある適用において、好ましいことがある。例えば、ある実施形態は、単一荷電イオンを直接生成し、次いで検出することができる、質量分析におけるイオン源に関連する。
【0030】
1組の実施形態によれば、イオン源は、100nm未満の断面寸法(例えば、毛細管の内径)を有する開口部を画定する毛細管を含む。一部の事例において、開口部は、電界が印加されたときに、イオン蒸発が液体ジェット形成よりも優位になるようなサイズであってもよい。例えば、ある実施形態において、出射する種の少なくとも50%が、イオン蒸発を介して、またはイオンもしくはイオンクラスタの形態で出ることができる。例えば、ナノスケールの毛細管により、イオンは、流体メニスカスから直接蒸発することができる。一部の実施形態において、このような開口部を有する毛細管に流体を入れ、イオンおよびイオンクラスタの形態で、(例えば、100mPa以下の圧力を有する)低圧または真空環境に直接供給することができる。イオンおよびイオンクラスタを、質量分析計の質量フィルタおよびイオン検出器によって分析することができ、または本明細書に記載するような他の用途に適用することができる。
【0031】
他の種類のイオン源を使用してもよいことを理解すべきである。例えば、イオン源は、対象の種からの分子を単一イオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することができるパルスレーザを含むことができる。
【0032】
ある実施形態は、流体内に含まれる分子をイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することを含む。一部の実施形態において、分子を、単一イオンまたはイオンクラスタ(すなわち、溶媒分子を用いてクラスタ化された単一イオン)にイオン化することができる。一部の実施形態において、分子を、単一イオンとしてイオン化することができ、イオンクラスタは、存在するとしてもごくわずかである。
【0033】
1組の実施形態において、流体内に含まれる分子は、ポリマーまたはバイオポリマー(例えば、タンパク質、ポリペプチド、核酸など)からの分子であってよい。別の組の実施形態において、分子は、流体からイオン化することができる、流体内に含まれる小分子(例えば、モノマー、バイオモノマー、塩イオンなど)であってよい。
【0034】
分子を、任意の適切なイオン源によって単一イオンまたはイオンクラスタにイオン化することができる。1組の実施形態において、分子を、本明細書に記載のイオン源を使用して流体からイオン化することができる。例えば、イオン源は、比較的小さい開口部を有する毛細管を含むことができる。一部の実施形態において、対象の種(例えば、バイオポリマー)を含む流体を、毛細管の開口部に入れることができる。開口部に近接した流体に電界を印加することによって、対象の種(例えば、バイオポリマー)内の分子をイオン化して、単一イオンまたはイオンクラスタを生成することができる。そのようなイオン源に関連する特定の実施形態について、以下で説明する。
【0035】
上記の実施形態は、毛細管を含むイオン源について説明したが、イオン源が単一イオンまたはイオンクラスタを生成することができる限り、任意の種類のイオン源を質量分析計に使用することができることを理解すべきである。例えば、1組の実施形態において、分子を、パルスレーザによって単一イオンまたはイオンクラスタにイオン化することができる。
【0036】
一部の実施形態において、流体に含まれるバイオポリマーなどのポリマーを、イオンまたはイオンクラスタにイオン化することができる。バイオポリマーの例には、限定されないが、タンパク質、ペプチド、DNAもしくはRNAなどの核酸、炭水化物、多糖類などが含まれる。これらを、アミノ酸、ヌクレオチド、糖単位、または単糖類などのモノマー成分にイオン化することができる。一部の実施形態において、イオン化したときに、単一イオンまたはイオンクラスタを、バイオポリマーから順次放出することができる。例えば、一部の事例において、単一イオンを、バイオポリマーから一度に放出することができる。バイオポリマーを単一イオンまたはイオンクラスタにイオン化して、これらを順次放出する能力は、分子中のイオンの順序または配列に関する空間的情報および/または時間的情報を示すことができ、有利である。例えば、バイオポリマーを、イオン化前のバイオポリマーに関連付けられた塩基成分(例えば、モノマー)の配列に対応するイオンまたはイオンクラスタ(例えば、イオン化されたモノマー)の配列にイオン化することができる。
【0037】
図3は、そのような実施形態の非限定的な例を示す。図示するように、イオン源(例えば、ナノポア)を使用して、バイオポリマー(例えば、タンパク質)を単一イオン(例えば、アミノ酸)またはイオンクラスタ(例えば、溶媒分子を含むアミノ酸)にイオン化することができる。単一イオンを、イオンまたはイオンクラスタの配列として、バイオポリマーから順番に放出することができる。図示するように、放出されるイオンの配列は、イオン化前のバイオポリマーのイオンの配列に対応し得る。
【0038】
加えて、イオンまたはイオンクラスタを、イオン源によって、様々な速度のいずれかで生成することができる。一部の事例において、イオンまたはイオンクラスタを、比較的高速で生成することができることが有利である。一部の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタは、1マイクロ秒当たり1個以上(のイオンもしくはイオンクラスタ)、1マイクロ秒当たり5個以上、1マイクロ秒当たり10個以上、1マイクロ秒当たり25個以上、1マイクロ秒当たり50個以上、または1マイクロ秒当たり75個以上の速度で生成される。一部の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタは、1マイクロ秒当たり100個以下(のイオンもしくはイオンクラスタ)、1マイクロ秒当たり75個以下、1マイクロ秒当たり50個以下、1マイクロ秒当たり25個以下、1マイクロ秒当たり10個以下、または1マイクロ秒当たり5個以下の速度で生成される。上記の範囲の組合せが可能である(例えば、1マイクロ秒当たり1個以上および1マイクロ秒当たり100個以下)。その他の範囲も可能である。
【0039】
一部の事例において、比較的高速のイオン化は、バイオポリマーなどのポリマーの配列決定に有用であり得る。一部の実施形態において、例えば、バイオポリマーは、例えば、アミノ酸の配列を含むタンパク質である。一部の実施形態において、タンパク質を、上記の1つまたは複数の範囲の任意の適切な速度でイオン化(すなわち、生成)し、例えば、本明細書に記載するように分析され得るアミノ酸(またはその一部)を生成して、タンパク質の配列を判定することができる。別の例として、一部の実施形態において、バイオポリマーは、DNA、RNAなどの核酸である。一部の実施形態において、核酸を、上記の1つまたは複数の範囲の任意の適切な速度でイオン化(すなわち、生成)し、例えば、本明細書に記載するように分析され得るヌクレオチドまたは他の核酸フラグメントを生成して、核酸の配列を判定することができる。例えば、アミノ酸を、少なくとも1マイクロ秒当たり1個の塩基(少なくとも1マイクロ秒当たり塩基、少なくとも1マイクロ秒当たり100個の塩基など)の速度でイオン化することができる。
【0040】
一部の態様において、イオンまたはイオンクラスタは、イオン源から出た後、比較的低い圧力を有する環境(例えば、真空チャンバ)に直接放出される。環境は、さらに詳細に後述するような様々な圧力または構成のいずれかを有することができる。例えば、一部の事例において、環境は、100mPa以下(例えば、10mPa以下、1mPa以下、0.1mPa以下など)の圧力を有する環境であってよい。一部の実施形態において、流体からのイオンまたはイオンクラスタは、例えばイオン源から真空環境に直接入る。加えて、真空環境は完全真空である必要はないことを理解すべきである。
【0041】
一部の態様において、放出されたイオンまたはイオンクラスタは、例えば、比較的低圧の環境内に含まれる、本明細書に記載するような質量フィルタを通ることができる。加えて、一部の実施形態において、放出されたイオンは、質量フィルタを通る前に、任意選択で、後述するイオン光学部品を通ることができる。
【0042】
一部の実施形態において、質量フィルタは磁気質量フィルタである。一部の実施形態において、磁気質量フィルタは、磁界を印加することによって、イオンまたはイオンクラスタを質量対電荷比により分離する。磁気質量フィルタは、質量対電荷比に従って、入射イオンまたはイオンクラスタを様々な方向(例えば、角度)に向ける(例えば、曲げる)ことが可能であり得る。例えば、図3に示すように、異なる質量対電荷比を有する入射イオンおよびイオンクラスタを、磁気質量フィルタによって発生した磁界の下で異なる方向に向けるまたは曲げることができる。加えて、一部の実施形態において、放出されたイオンまたはイオンクラスタの比較的大きいパーセンテージが、磁気質量フィルタを通ることができる。例えば、放出されたイオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%(例えば、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはすべて)が、磁気質量フィルタを通ることができる。イオン源によって生成されたイオンの比較的高いパーセンテージを判定するシステムおよび方法について、本明細書でより詳細に説明する。
【0043】
様々な質量フィルタを使用することができる。質量フィルタの非限定的な例には、限定されないが、四重極質量フィルタ、磁気セクタ質量フィルタなどが含まれる。
【0044】
例えば、前述したように、一部の実施形態において、質量フィルタは、磁気質量フィルタを含むことができる。一部の実施形態において、磁気質量フィルタは、磁石と、磁石に関連付けられた(例えば、磁石を収容する)ヨークとを含む。磁気質量フィルタは、限定されないが、希土類元素、磁性金属元素、磁性複合材料(例えば、フェライト)などを含む様々な磁性材料のいずれかから形成された磁石を含むことができる。1組の実施形態において、磁石は、ネオジムを含む永久磁石である。1組の実施形態において、ヨークは鉄を含む。
【0045】
一部の実施形態において、磁界が磁気質量フィルタの開口部を通り、入射イオンおよびイオンクラスタが磁気質量フィルタを通り、磁気質量フィルタによって発生する磁界により、入射イオンおよびイオンクラスタを様々な程度に偏向させることができる。例えば、図7に示すように、磁気質量フィルタは中央開口部を有し、この中央開口部内に、磁界が軸方向に存在する。イオンおよびイオンクラスタが中央開口部を通ると、イオンまたはイオンクラスタは、例えば質量または質量対電荷比に従って、磁界により、異なる程度に偏向される。
【0046】
磁気質量フィルタの開口部は、様々な寸法および形状のいずれかを有することができる。一部の事例において、開口部は、円筒形、正方形、矩形などの形状を有することができる。開口部は、第1の断面寸法(例えば、直径、幅、長さ)および第2の断面寸法(例えば、高さ)を有することができる。1組の実施形態において、開口部は、第2の断面寸法(例えば、高さ)よりも大きい第1の断面寸法(例えば、直径)を有する。一部の実施形態において、開口部は、少なくとも4cm(例えば、少なくとも5cm、少なくとも6cm、少なくとも8cm、少なくとも10cmなど)の第1の寸法(例えば、直径)を有することができる。一部の実施形態において、開口部は、少なくとも1cm(例えば、少なくとも2cm、少なくとも3cm、少なくとも4cm、少なくとも5cmなど)の第2の寸法(例えば、高さ)を有することができる。一部の実施形態において、開口部は、少なくとも2(例えば、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10など)の第1の寸法と第2の寸法との比を有することができる。
【0047】
磁気質量フィルタは、様々な磁界強度のいずれかを有する磁界を発生させることができる。一部の実施形態において、磁界強度は、少なくとも約0.1T、少なくとも0.2T、少なくとも0.3T、少なくとも約0.5T、少なくとも約0.7T、少なくとも約1T、少なくとも約5Tなどであってよい。
【0048】
一部の実施形態において、任意選択で、イオンおよびイオンクラスタは、質量フィルタから出た後に、イオンベンダを通ることができる。イオンベンダを、質量フィルタから出たイオンおよびイオンクラスタを検出器に向けて偏向させるように構成することができる。例えば、非限定的な例として、イオンまたはイオンクラスタは、イオンベンダから検出器に移る。一部の実施形態において、検出器を使用して、イオンまたはイオンクラスタを判定することができる。
【0049】
一部の態様において、質量フィルタ(例えば、磁気質量フィルタ)を通るイオンまたはイオンクラスタを、1つまたは複数の検出器、例えば、本明細書に記載するような検出器(例えば、単一イオン検出器)のアレイに向けることができる。例えば、図3に示すように、磁気質量フィルタは、イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けて曲げる。
【0050】
一部の実施形態において、特定の質量または質量対電荷比を有するイオンまたはイオンクラスタを、例えば、イオンまたはイオンクラスタが質量フィルタを通るときに生じる偏向の量に基づいて、検出器のアレイ内の対応する検出器に向けることができる。電荷量の多いイオンまたはイオンクラスタを、電荷量の少ないイオンまたはイオンクラスタよりも大きく偏向させることができる。したがって、1つまたは複数の検出器を、異なる偏向量を有するイオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めすることができ、その後、この検出器を使用して、入射イオンまたはイオンクラスタの質量または質量対電荷比を判定することができる。したがって、例えば、様々なイオンまたはイオンクラスタがアレイ内の様々な検出器に衝突する位置に基づいて、イオンまたはイオンクラスタの質量または質量対重量比を判定するように、検出器のアレイを位置決めすることができる。加えて、一部の事例において、検出器のアレイは、それぞれのイオンまたはイオンクラスタの到達時間を判定可能な検出器を含むことができる。
【0051】
一部の実施形態において、1つまたは複数の検出器を、質量フィルタのさらに下流に位置決めすることができる。検出器は、イオンまたはイオンクラスタを検出可能な任意の適切な検出器を含むことができる。2つ以上の検出器が存在する場合、検出器はそれぞれ独立して同じであっても異なっていてもよい。特定の検出器の例には、限定されないが、ファラデーカップ、電子増倍管、ダイノード、電荷結合素子(CCD)、CMOSセンサ、および蛍光スクリーンなどが含まれる。
【0052】
前述したように、一部の実施形態において、質量分析計は、1つの検出器または検出器のアレイを含む。一部の実施形態において、検出器のアレイは、チャネル電子増倍管(例えば、Channeltron(登録商標)検出器)および/またはダイノードを含む。検出器の追加の非限定的な例には、マイクロチャネルプレート(MCP)アレイ、CCD、および/またはCMOSセンサなどの撮像検出器が含まれる。これらおよび/または他の検出器のうちの2つ以上が、アレイ内に存在してもよい。
【0053】
検出器のアレイは、イオンおよび/またはイオンクラスタを判定するための任意の数の検出器を含むことができる。例えば、一部の実施形態において、検出器のアレイは、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個などの検出器を含むことができる。検出器を、質量フィルタ(例えば、磁気質量フィルタ)を通ることによって偏向したイオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めすることができる。例えば、イオンまたはイオンクラスタを、様々な角度に偏向させることができ、検出器は、異なる角度で偏向することが予想されるそのようなイオンまたはイオンクラスタを受け入れるように位置決めされたアレイを形成する。したがって、任意の適切な数の検出器を使用して、個々の放出されたイオンまたはイオンクラスタの質量および/または質量対電荷比を判定することができる。一部の実施形態において、検出器の数を、バイオポリマー中に存在する塩基成分(例えば、アミノ酸、ヌクレオチドなどのモノマー)の数に関連付けることができる。
【0054】
一部の態様において、本明細書に記載するようなシステムにより、例えば、イオン源で生成されたイオンを、例えば検出器アレイ内の1つまたは複数の検出器を使用して判定する、比較的高いイオン透過効率を有する質量分析計が可能になり得る。どのような理論にも縛られるものではないが、質量分析計内に空気分子がないことにより(例えば、比較的低圧の環境のため)、かつ/または、イオンもしくはイオンクラスタを失うことのない質量フィルタの使用により(例えば、狭い質量透過窓を介して掃引する質量フィルタならばそうなる)、イオン源によって生成されたイオンの多くまたはさらには大部分を、(例えば、イオン光学部品、磁気質量フィルタなどを使用して)検出器に効率的に向けることができ、それにより、損失率が驚くほど低くなることが考えられる。したがって、一部の実施形態において、本明細書に記載するような質量分析計は、0.01超の総イオン透過効率(例えば、検出されたイオンおよびイオンクラスタと、毛細管の開口部において流体から出るイオンおよびイオンクラスタとの比)を有することができ、一部の事例において、透過は、少なくとも0.02、少なくとも0.03、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも0.15、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.75、少なくとも0.8などである。一部の事例において、総イオン透過は、1以下、0.9以下、0.8以下、0.75以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.05以下、または0.02以下である。上記の範囲の組合せが可能である(例えば、少なくとも0.02および0.9以下、または少なくとも0.1および0.8以下)。その他の範囲も可能である。総イオン透過を、検出器で検出された電流とイオン源から放出された電流との比を測定することによって、測定することができる。
【0055】
したがって、一部の態様において、そのような比較的高いイオン透過効率に基づいて、分子濃度を判定する、あるシステムおよび方法が本明細書に記載されている。分子は、例えば、本明細書に記載のイオン源を使用してイオン化することができる任意の分子であってよい。1組の実施形態において、分子は流体に溶解されている。前述したように、分子を流体からイオンまたはイオンクラスタとしてイオン化することができ、その後、イオンまたはイオンクラスタを、磁気質量フィルタに通し、本明細書に記載の検出器のアレイに向けることができる。そのような分子の例には、限定されないが、本明細書に記載するようなモノマーまたはバイオモノマー(アミノ酸、ヌクレオチドなど)が含まれる。加えて、そのような方法で検出された分子をイオン化して2つ以上のイオンまたはイオンクラスタを形成し、例えば、イオンまたはイオンクラスタの濃度を使用して出発分子の濃度を判定することができるようにしてもよいことを理解すべきである。
【0056】
加えて、1組の実施形態において、流体が、1つまたは複数の種類の分子を含むことができる。一部の実施形態において、1つまたは複数の種類の分子の同一性および/または到達時間を判定することによって、1つまたは複数の種類の分子の相対量(例えば、濃度)を判定することもできる。
【0057】
一部の態様において、検出器に到達するイオンまたはイオンクラスタを、比較的高い時間分解能で検出することができる。前述したように、イオンまたはイオンクラスタがイオン源で生成される時間を比較的高い分解能で判定することができ、イオン源から検出器へ移動するイオンまたはイオンクラスタのタイミングおよび/または経路を判定することを困難にし得る空気分子、狭い質量透過窓などの実質的な障害なく、そのようなイオンまたはイオンクラスタを、例えば本明細書に記載するような検出器のアレイに向けることができる。したがって、一部の事例において、そのようなイオンおよび/またはイオンクラスタを、例えば、100ナノ秒より高い(例えば、75ナノ秒より高い、50ナノ秒より高い、25ナノ秒より高い、10ナノ秒より高い)時間分解能で判定することができる。1組の実施形態において、時間分解能を、アレイの異なる検出器に衝突する2つの(もしくはそれ以上の)イオンまたはイオンクラスタ間で判定することができる。
【0058】
したがって、一部の実施形態において、持続時間を判定する方法が、本明細書に記載されている。例えば、イオンまたはイオンクラスタがイオン源から出る時間と、イオンまたはイオンクラスタが検出器に到達する時間との間の持続時間を判定することができる。一部の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタが検出器に到達する時間と、イオンがイオン源から放出される時間とをモニタすることによって、持続時間を判定することができる。加えて、一部の実施形態において、検出器は、イオンまたはイオンクラスタがイオン源によって生成される(すなわち、放出される)速度以上のイオン検出速度を有する。一部の事例において、検出器は、検出器に到達する、放出されたイオンまたはイオンクラスタのそれぞれを検出可能であってよい。
【0059】
一部の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタがイオン源から出る時間と、イオンまたはイオンクラスタが検出器に到達する時間との間の持続時間は、10マイクロ秒以上、25マイクロ秒以上、50マイクロ秒以上、75マイクロ秒以上、および100マイクロ秒以上である。一部の実施形態において、100マイクロ秒以下、75マイクロ秒以下、50マイクロ秒以下、25マイクロ秒以下、10マイクロ秒以下である。上記の範囲の組合せが可能である(例えば、10マイクロ秒以上および100マイクロ秒以下)。その他の範囲も可能である。
【0060】
イオンまたはイオンクラスタがイオン源から出る時間と、イオンまたはイオンクラスタが検出器に到達する時間との間の持続時間を、比較的高い時間分解能で判定することができる。例えば、持続時間を、1マイクロ秒超、500ナノ秒超、250ナノ秒超、100ナノ秒超、50ナノ秒超、10ナノ秒超、5ナノ秒超などの時間分解能で判定することができる。
【0061】
ある態様は、イオン源を含む機器、例えば、本明細書に記載するような質量分析計を使用して、バイオポリマーなどのポリマーを配列決定することに関する。例えば、一部の実施形態において、ポリマーは対象の種であってよい。対象の種は、バイオポリマー、例えば、タンパク質もしくはペプチド(アミノ酸を含む)、または核酸配列(例えば、DNA、RNAなど)であってよい。一部の事例において、炭水化物または多糖類などの他の種類のバイオポリマーを対象の種として使用してもよい。加えて、一部の事例において、例えば、人工ポリマーまたは合成ポリマーなどの他の種類のポリマーを配列決定することもできることを理解すべきである。さらに、同様に、ポリマーではない対象の種の構造を判定することもできる。
【0062】
一部の事例において、例えば、対象の種(例えば、ポリマー)の構造、配列、および/または同一性を、検出器を使用してイオン化されたフラグメントを判定することによって判定することができる。例えば、前述したようにポリマーをイオン化し、イオンまたはイオンクラスタを生成することによって生じた、個々のイオン化されたフラグメント(例えば、イオンまたはイオンクラスタ)が検出器に到達する時間をモニタすることによって、対象の種の配列を検出することができる。どのような理論にも縛られるものではないが、ポリマーなどの対象の種を、例えば、毛細管の開口部のサイズにより、略直線状にイオン化することができ、その後、生成されたイオンまたはイオンクラスタを、本明細書に記載する検出器によって、例えば、イオンまたはイオンクラスタが対象の種から生成される順序で判定することができると考えられる。一部の実施形態において、毛細管は、炭素ナノチューブまたは窒化ホウ素ナノチューブを含み、ナノチューブの断面寸法(例えば、内径)は、ポリマー分子がポリマーの一次構造を反映する順序でイオン化することができるように、十分に小さく、例えば1nm~2nmである。当然、例えば、本明細書に記載する他の実施形態において、より大きい直径または他の材料も可能である。一部の事例において、例えば、イオンまたはイオンクラスタが低圧環境に入ると、例えば、イオンまたはイオンクラスタが検出器に移るときにガス分子との衝突が相対的にないことにより、検出器は、比較的高い忠実度でそのような順序付けを判定可能であり得ることに留意すべきである。したがって、イオンまたはイオンクラスタを判定する順序に基づいて、対象の種の構造または配列を判定することができる。
【0063】
一部の実施形態において、対象の種を配列決定する方法が、本明細書に記載されている。1組の実施形態において、対象の種(例えば、バイオポリマー)の配列は、検出器のアレイを用いてイオンまたはイオンクラスタを判定することによって判定される。前述したように、対象の種(例えば、バイオポリマー)の分子を、イオン源を使用してイオン化し、イオンまたはイオンクラスタ(例えば、溶媒分子を含むイオン)の配列を生成することができる。一部の事例において、イオン源は、主に単一イオンを生成することができ、イオンクラスタは、存在するとしてもごくわずかである。
【0064】
一部の実施形態において、イオン源から放出されたイオンまたはイオンクラスタ(例えば、単一イオン)の配列は、イオン化前のバイオポリマーの配列を実質的に保持することができる。例えば、イオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%(少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%など)が、配列で放出される。イオンまたはイオンクラスタの配列が、磁気質量フィルタなどの質量フィルタを通ると、イオンまたはイオンクラスタを検出器のアレイに向けることができる。したがって、ある実施形態において、検出器のアレイを使用して、イオンもしくはイオンクラスタの質量対電荷比および/またはイオンもしくはイオンクラスタの到達時間(例えば、検出時の時間)を判定することができる。
【0065】
一部の実施形態によれば、イオンまたはイオンクラスタの到達時間は、検出時のイオンまたはイオンクラスタの配列に関する情報を提供することができ、有利である。一部の事例において、検出器のアレイ(例えば、単一イオン検出器)に到達するイオンまたはイオンクラスタのかなりの部分が、配列で、例えば、イオン源から放出されたイオンまたはイオンクラスタの同じ配列で到達する。例えば、検出器のアレイに到達するイオンまたはイオンクラスタの少なくとも50%(少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%など)が、配列で到達する。したがって、一部の実施形態において、検出器のアレイを使用して、イオンもしくはイオンクラスタの同一性および/またはイオンもしくはイオンクラスタの配列を判定することができる。一部の事例において、対象の種(例えば、バイオポリマー)の配列を、イオンまたはイオンクラスタの配列に基づいて判定することができる。
【0066】
一部の態様は、本明細書に記載するイオン源を備える質量分析計に関する。一部の事例において、質量分析計は、本明細書に記載するようなイオン源の他に、真空チャンバ(例えば、本明細書に記載の低い圧力のいずれかを発生させることができる)、イオン光学部品(例えば、アインツェルレンズのような1つまたは複数のレンズなど)、質量フィルタ(例えば、四重極質量フィルタ、磁気セクタ質量フィルタなど)、検出器、イオンベンダ、イオントラップなどの構成要素を備えることができる。これらおよびその他の構成要素について、本明細書でより詳細に説明する。
【0067】
例えば、1組の実施形態において、本明細書に記載する質量分析計または他のデバイスは、本明細書に開示される毛細管を有するイオン源を備えることができる。デバイスは、毛細管に近接した電極を有することもできる。例えば、ある実施形態は、開口部を画定する毛細管と、開口部に近接して位置決めされた電極とを含むイオン源に関する。毛細管は、毛細管の端部または先端に開口部を有することができる。開口部は、様々な断面寸法のいずれかを有することができ、任意の形状、例えば、円形、楕円形、正方形などであってよい。一部の実施形態において、開口部は、150nm未満、130nm未満、125nm未満、120nm未満、110nm未満、100nm未満、90nm未満、80nm未満、75nm未満、70nm未満、65nm未満、60nm未満、55nm未満、50nm未満、45nm未満、40nm未満、35nm未満、30nm未満、25nm未満、20nm未満、15nm未満、10nm未満、5nm未満、2nm未満などの断面寸法を有することができる。加えて、一部の事例において、開口部は、少なくとも1nm、少なくとも5nm、少なくとも10nm、少なくとも15nm、少なくとも20nm、少なくとも25nm、少なくとも30nm、少なくとも40nm、少なくとも50nm、少なくとも60nm、少なくとも70nm、少なくとも80nm、少なくとも90nmなどの断面寸法を有することができる。これらの組合せも可能である。例えば、開口部は、50nm~100nmの断面寸法を有することができる。上記の実施形態は、毛細管の端部または先端に開口部を有する毛細管について説明しているが、本明細書に記載のすべての実施形態がこれに限定されるわけではなく、ある実施形態において、加えてまたは代わりに、毛細管は、毛細管の側面に沿った複数の開口部を有してもよいことを理解すべきである。加えて、一部の事例において、デバイスは、例えば、チャネルまたは他の構造の1つまたは複数の開口または開口部を有することができる。したがって、開口部は、毛細管の開口部である必要はない。
【0068】
一部の実施形態において、毛細管は、開口部で先細になっている。例えば、毛細管は、例えば毛細管の先端が円錐状であるように、一定の先細を有することができる。任意の適切な角度が存在し得る。例えば、角度は、15度未満、10度未満、9度未満、8度未満、7度未満、6度未満、5度未満、4度未満、3度未満、2度未満、または1度未満であってよい(0度は先細がないことを示し、すなわち、毛細管は円筒形である)。加えて、一部の事例において、先細の角度は、ある事例においては、少なくとも1度、少なくとも3度、少なくとも5度などであってよい。これらの範囲の組合せも可能であり、例えば、先細は1度~5度であってもよい。
【0069】
毛細管が開口部で先細になっている、ある実施形態において、レーザプリング技術を使用して、先細開口部を作製することができる。レーザプリング技術以外の技術を使用して、先細開口部を有する毛細管を作製してもよいことを理解すべきである。本明細書に記載の毛細管は先細開口部を有するが、他の例では、毛細管の開口部は先細でなくてもよいことも理解すべきである。
【0070】
ある実施形態において、イオン源の毛細管は石英を含む。毛細管の作製に使用することができる材料の追加の例には、限定されないが、ガラス(例えば、ホウケイ酸ガラス)、プラスチック、金属、セラミック、半導体、炭素ナノチューブ、窒化ホウ素ナノチューブなどが含まれる。
【0071】
一部の実施形態において、毛細管は、比較的高いアスペクト比、例えば、毛細管の長さと毛細管の開口部の断面寸法(例えば、直径)との比を有する。例えば、毛細管は、10,000超のアスペクト比を有することができる。しかしながら、アスペクト比はこれに限定されないことを理解すべきである。例えば、一部の例において、毛細管の長さと開口部の断面寸法とのアスペクト比は、10超、100超、1,000超、10,000超、100,000超、または1,000,000超であってよい。
【0072】
毛細管は、円形または非円形断面(例えば、正方形)を有することができる。加えて、一部の実施形態において、毛細管は、比較的小さい断面、例えば直径を有することができる。例えば、毛細管の断面寸法は、200nm未満、150nm未満、100nm未満、75nm未満、60nm未満、50nm未満であってよい。
【0073】
イオン源のある実施形態は、毛細管、例えば毛細管の開口部に近接して位置決めされた電極も含む。電極を使用して、電界(例えば、以下で説明する)を毛細管内の流体に印加し、例えばメニスカスに印加することができる。一部の事例において、毛細管内の流体は、対向電極に接触して、例えば、毛細管の開口部に近接した電極と毛細管内の対向電極との電圧差が、流体に対して電界を発生させることができるようになっていてもよい。一部の実施形態において、電極を、毛細管の開口部に近接して最大電界を発生させるように位置決めすることができる。例えば、一部の実施形態において、電極を、毛細管の開口部の50mm以内、40mm以内、30mm以内、20mm以内、15mm以内、10mm以内、5mm以内、3mm以内、2mm以内、1mm以内などに位置決めすることができる。
【0074】
一部の実施形態において、電極を、毛細管の周りに位置決めすることができ、または、毛細管の前、例えば、毛細管の開口部の前、もしくは下流方向に位置決めすることができる。
【0075】
電極は、任意の適切な形状を有することができる。一部の事例において、電極は、円形もしくは円対称であり、または毛細管に対して対称に位置決めされている。しかしながら、その他の形状または配置も可能である。
【0076】
一部の実施形態において、電極は開口部(例えば、開口)を画定する。したがって、一部の事例において、電極は環状であってよい。毛細管内の流体から逃げるイオンまたはイオンクラスタが電極の中央開口部を通るように、電極を位置決めすることができる。電極の中央開口部は、限定されないが、毛細管の開口部の周りに環状に位置決めされ得る円形を含む任意の形状であってよい。一部の事例において、開口部は非円形であってもよい。一部の実施形態において、電極の開口部は、毛細管の開口部に対して同軸に位置決めされる。すなわち、ある実施形態において、例えば、毛細管の断面の中心を通る仮想線が電極の中央開口部を通るように、開口部を毛細管の開口部に位置合わせすることができる。これにより、本明細書に記載するように、毛細管内の流体に電界を印加して、例えば、イオンまたはイオンクラスタが流体から出るようにすることを容易にすることができる。
【0077】
例えば、一部の実施形態において、電極は、例えば毛細管の端部または先端の、毛細管の開口部の断面寸法よりも大きい断面寸法(例えば、内径)を持つ中央開口部を有する。例えば、ある実施形態によれば、電極は、毛細管の開口部の断面寸法よりも少なくとも5倍大きい断面寸法(例えば、内径)を持つ中央開口部を有する。しかしながら、電極の中央開口部の断面寸法と毛細管の開口部との比は限定されないことを理解すべきである。例えば、一部の例において、電極の中央開口部の断面寸法は、毛細管の開口部の断面寸法よりも、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、少なくとも75倍、または少なくとも100倍大きくてよい。ある事例において、電極の開口部は、10cm未満、5cm未満、3cm未満、1cm未満、5mm未満、3mm未満、1mm未満などの断面寸法を有することができる。加えて、一部の実施形態において、電極の前面が、毛細管の開口部の前に位置決めされる。
【0078】
加えて、電極自体は、任意の形状(例えば、円形または非円形)であってよい。電極は、その開口部(存在する場合)と同じ形状であっても異なる形状であってもよい。電極は、任意の適切な断面寸法を有することができる。例えば、電極は、10cm未満、5cm未満、3cm未満、1cm未満、5mm未満、3mm未満、1mm未満などの断面寸法を有することができる。
【0079】
一部の実施形態において、電極は鋼を含む。他の例には、銅、グラファイト、銀、アルミニウム、金、導電性セラミックなどが含まれる。
【0080】
したがって、ある実施形態は、電界を発生させることができる電極に関する。一部の事例において、前述したように、電極を、毛細管の開口部に近接して最大電界を発生させるように位置決めすることができる。一部の実施形態において、流体が毛細管に収容され、毛細管の開口部に近接した電極によって電界が印加されると、流体内の分子がイオン化し、毛細管の開口部から、例えば、本明細書に記載するようなイオンまたはイオンクラスタとして出ることができるようになっている。一部の事例において、例えば本明細書に記載するように、例えば、電極および毛細管(例えば、毛細管の内部)は電圧源に接続可能であってよい。
【0081】
したがって、ある実施形態において、例えば本明細書に記載するように、電圧源を電極と共に使用して電界を発生させ、イオンまたはイオンクラスタが毛細管内の流体から出るようにすることができる。一部の実施形態において、電圧を印加して、毛細管の開口部で流体内の分子をイオン化し、例えば、イオンまたはイオンクラスタを生成するのに少なくとも十分な電界を発生させる。例えば、ある実施形態において、80V~400Vの電圧を使用して、電界を発生させることができる。一部の事例において、電圧は、少なくとも40V、少なくとも60V、少なくとも80V、少なくとも100V、少なくとも120V、少なくとも140V、少なくとも160V、少なくとも180V、少なくとも200V、少なくとも220V、少なくとも240V、少なくとも260V、少なくとも280V、少なくとも300V、少なくとも320V、少なくとも340V、少なくとも360V、少なくとも380V、少なくとも400V、少なくとも450V、少なくとも500V、少なくとも600Vなどであってよい。加えて、一部の事例において、電圧は、600V以下、500V以下、450V以下、400V以下、380V以下、360V以下、340V以下、320V以下、300V以下、280V以下、260V以下、240V以下、220V以下、200V以下、180V以下、160V以下、140V以下、120V以下、100V以下、80V以下、60V以下などであってよい。一部の事例において、これらの電圧の組合せが可能である。例えば、80V~360Vなどの電圧を印加することができる。電圧を、定電圧として印加しても、ある事例において変動電圧または周期電圧として印加してもよい。
【0082】
前述したように、電圧を印加して、毛細管の開口部または(例えば、開口部のメニスカスにおける)毛細管内の流体に近接して最大電界を発生させることができる。例えば、電圧を印加して、少なくとも0.5V/nm、少なくとも0.7V/nm、少なくとも1V/nm、少なくとも1.1V/nm、少なくとも1.3V/nm、少なくとも1.5V/nm、少なくとも2V/nm、少なくとも2.5V/nm、少なくとも3V/nm、少なくとも3.5V/nm、少なくとも4V/nmなどの最大電界を発生させることができる。ある実施形態において、最大電界は、5V/nm以下、4.5V/nm以下、4V/nm以下、3.5V/nm以下、3V/nm以下、2.5V/nm以下、2V/nm以下、1.5V/nm以下、1V/nm以下であってよい。一部の実施形態において、これらの範囲の組合せも可能であり、例えば、電界は、1.5V/nm~3.0V/nm、1.5V/nm~4.0V/nmなどであってよい。
【0083】
どのような理論にも縛られるものではないが、ある実施形態において、電界が印加されると、毛細管内の流体が荷電メニスカスを形成し、種が荷電メニスカスから、例えばイオンまたはイオンクラスタとして出ることが考えられる。一部の事例において、毛細管の開口部は、出射する種の少なくとも10%が、イオン蒸発を介して、例えばイオンまたはイオンクラスタとして出るようなサイズであってよい。一部の事例において、出射する種の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%などが、イオン蒸発を介して出る。
【0084】
前述したように、ある実施形態によれば、円錐形状の荷電流体メニスカスを、電界下で毛細管の開口部に生じさせることができる。一部の実施形態において、円錐形の流体メニスカスは、種がイオンまたはイオンクラスタとして出ることを可能にする点源として作用する。
【0085】
流体メニスカスは、エレクトロスプレーイオン化を介した荷電液滴、ならびに/または、イオン蒸発を介したイオンおよびイオンクラスタなどの機構により、出射する種を生成することができる。しかしながら、エレクトロスプレーイオン化の場合、液体メニスカスから出る出射する種は、出射する種を含む流体の荷電液滴として出る。これは、通常、クーロン分裂プロセスを介して液滴を個々のイオンにさらに分解するための背景ガスの存在を必要とする。他方で、イオン蒸発は、荷電液滴の代わりに、分子がイオン(例えば、裸イオン)またはイオンクラスタ(例えば、溶媒分子を含むイオン)に直接イオン化されるプロセスを表す。イオンクラスタは、単一イオンと、複数の、通常は比較的少数の溶媒分子とを含むことができる。例えば、イオンクラスタは、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個以下の溶媒分子を含むことができる。
【0086】
したがって、例えば、一部の実施形態において、毛細管の開口部は、荷電液滴の形成を避けることができ、かつ出射する種の少なくとも50%が、毛細管の開口部で円錐形の流体メニスカスからイオンまたはイオンクラスタとして直接イオン化するようなサイズである(例えば、開口部の断面寸法が100nm未満)。
【0087】
前述したように、一部の実施形態において、例えば前述したように、比較的小さい開口部(例えば、100nm未満の断面寸法)を有する毛細管を、イオンクラスタの比較的少数の溶媒分子の生成に関連付けることができる。一部の実施形態において、毛細管の開口部は、複数の溶媒分子がある一定数以下の溶媒分子を含むような、例えば、平均して、イオン源によって生成されるイオンクラスタが7個、6個、5個、4個、3個、または2個以下の溶媒分子を含むようなサイズであってよい(例えば、100nm未満)。一部の実施形態において、相当な数のイオンクラスタ(例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、またはすべて)が、1個または2個の溶媒分子を含む。
【0088】
加えて、前述したように、ある実施形態は、イオン源を使用して流体をイオン化し、例えば、単一イオンまたはイオンクラスタを生成する方法に関する。ある実施形態は、100nm未満の断面寸法、または本明細書に記載するような他の構成を有する開口部を画定する毛細管に流体を入れることを含む。
【0089】
一部の実施形態において、流体は、サンプルと溶媒とを含む。サンプルは、毛細管の開口部からイオン化され得る任意の対象の種を含むことができる。例えば、ある実施形態によれば、対象の種は、バイオポリマー(例えば、DNAもしくはRNAなどの核酸、ペプチドもしくはタンパク質など)を含む。他の例には、他の種類のポリマー、例えば、ナイロン、ポリエチレンなど、または必ずしもポリマーではない他の対象の種、例えば生体分子が含まれる。生体分子の非限定的な例には、アミノ酸、ヌクレオチドなどのモノマーが含まれ得る。一部の事例において、対象の種は未知であり、例えば、質量分析または他の関連技術などにおいて種をイオン化し、イオンフラグメントを検出することによって、種の構造が少なくとも部分的に判定されることが望ましい。
【0090】
一部の実施形態において、溶媒は、サンプルまたは対象の種を溶解するために使用できる任意の液体であってよい。例えば、ある実施形態によれば、溶媒は水を含む。しかしながら、溶媒は水に限定されない。一部の事例において、溶媒は、様々な塩分濃度のいずれかを有する水溶液であってよい。一部の実施形態において、水溶液は、10mM以上、20mM以上、30mM以上、50mM以上、100mM以上、150mM以上、200mM以上、300mM以上、400mM以上、500mM以上、750mM以上、1M以上、2M以上、5M以上、または7.5M以上の塩分濃度を有することができる。一部の実施形態において、水溶液は、10M以下、7.5M以下、5M以下、2M以下、1M以下、750mM以下、500mM以下、400mM以下、200mM以下、150mM以下、100mM以下、50mM以下、30mM以下、20mM以下、10mM以下などの塩分濃度を有することができる。上記の範囲の組合せが可能である(例えば、100mM以上および10M以下、または150mM以上および1M以下)。
【0091】
使用できる溶媒の追加の例には、限定されないが、ホルムアミド、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)、有機溶媒(例えば、トルエン、アセトニトリル、アセトン、ヘキサンなど)、イオン液体、無機溶媒(例えば、アンモニア、塩化フッ化スルフリル、液体酸、および塩基など)が含まれる。ある事例において、これらおよび/または他の溶媒のいずれかの組合せも可能である。
【0092】
加えて、一部の実施形態において、例えば、イオンまたはイオンクラスタの生成を容易にするために、流体は、比較的高い揮発性を有する溶媒(例えば、水)を含む。例えば、一部の事例において、100℃の沸点を有する水が、揮発性であると考えられる。一部の実施形態において、室温に近い沸点を有する液体を使用して、イオンまたはイオンクラスタの生成を容易にすることができる。一部の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタの生成を容易にするために使用できる溶媒は、100℃以下、80℃以下、60℃以下、40℃以下、20℃以下などの沸点を有することができる。加えて、溶媒は、10℃以上、30℃以上、50℃以上、70℃以上、90℃以上などの沸点を有することができる。これらの組合せも可能であり、例えば、溶媒は、50℃~100℃の沸点を有することができる。比較的高い揮発性を有する溶媒の追加の例には、限定されないが、アセトン、イソプロパノール、ヘキサンなどが含まれる。
【0093】
一部の実施形態において、(毛細管が含む流体の種類に加えて)毛細管の温度を変化させて、結果として生じるイオンクラスタの溶媒分子の数を制御することができる。一部の実施形態において、毛細管の温度は、複数の溶媒分子がある一定数以下の溶媒分子を含むように、例えば、平均して、イオン源によって生成されるイオンクラスタが7個、6個、5個、4個、3個、または2個以下の溶媒分子を含むように設定される。一部の実施形態において、温度は、少なくとも20℃、少なくとも30℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、または少なくとも70℃である。一部の実施形態において、温度は、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、30℃以下である。上記の範囲の組合せが可能である(例えば、20℃以上および80℃以下)。一部の事例において、毛細管の温度は、抵抗ヒータ、ペルチェ接合、赤外線ヒータなどによって制御される。
【0094】
一部の実施形態において、例えば本明細書に記載するように、分子の少なくとも一部がイオンまたはイオンクラスタとして出るように、適切な範囲の電界および適切な範囲の毛細管開口部のサイズを選択することができる。
【0095】
ある実施形態において、本明細書に記載のイオン源を、液体クロマトグラフィ質量分析システムと共に使用することができる。例えば、液体クロマトグラフをイオン源に結合して、ペプチドまたは他の分子を分離してから、それらをイオン化し、質量分析計に供給することができる。一部の事例において、プロテオミクス実験のように、質量分析計を使用して単一またはタンデム(MS/MS)分析を行い、イオン化されたペプチドまたは分子を同定することができる。本明細書に記載のイオン源(ナノサイズの開口部および/または先端を持つ毛細管を有する)を使用して、イオンを低圧環境に直接供給することにより、機器の感度、そのようなシステムのイオン透過効率を向上させ、複数のポンピングステージの必要をなくすことができ、有利である。
【0096】
他の実施形態において、本明細書に記載のイオン源を、ナノピペットおよびイオン源の両方として使用することができる。例えば、ナノサイズの先端を有する本明細書に記載の毛細管(例えば、引抜石英毛細管)を使用して、細胞または組織に穿刺し、生体分子の内容物を抜き取ることができる。その後、毛細管を真空チャンバに直接挿入することができ、抽出された分子をイオン化して質量分析計に供給することができる。このような技術を使用して、例えば、単細胞の内容物などの比較的小さい液体体積をサンプリングすることができる。例えば、このような技術を、単細胞のプロテオミクス分析に使用することができる。
【0097】
ある態様によれば、イオン源に加えて、様々なイオン光学部品をイオン源の下流に位置決めして、ある事例において、出射分子(例えば、イオンおよびイオンクラスタ)を、イオン源の下流の経路に沿って移送することができるようになっており、すなわち、下流方向は、イオンまたはイオンクラスタが移動する方向である。一部の実施形態において、イオン光学部品は、1つまたは複数のアインツェルレンズ(例えば、第1のアインツェルレンズおよび第2のアインツェルレンズ)を含む。当業者は、質量分析で使用される様々なイオン光学部品に精通しているだろう。
【0098】
ある態様は、流体からイオン化された分子を低圧または真空環境に直接入れることを含む。どのような理論にも縛られるものではないが、エレクトロスプレーイオン化などの技術は、通常、クーロン分裂プロセスを介して液滴を個々のイオンにさらに分解するための背景ガスの存在を、一般的に必要とすることに留意されたい。これに対して、ある実施形態によれば、本明細書で記載するように生成されたイオンまたはイオンクラスタは、相当な量の背景ガスを必要とすることなく、そのような環境に直接入ることができる。したがって、質量分析などのある技術を、必ずしも背景ガスを添加する必要なく、低圧または真空環境を使用して実行することができる。
【0099】
したがって、1組の実施形態において、イオンまたはイオンクラスタが開口部から出て、低圧または真空環境に入ることができるように、毛細管を位置決めすることができる。一部の事例において、環境は、100mPa以下の圧力を有する環境であってよい。ある実施形態において、環境は、1000mPa以下、10mPa以下、1mPa以下、0.1mPa以下などの圧力を有することができる。一部の実施形態において、流体からのイオンまたはイオンクラスタは、真空環境に直接入る。
【0100】
本明細書で提示される実施形態の一部は、流体からイオン化された分子を、100mPa以下の圧力を有する環境に直接入れることに注目していることを理解すべきである。しかしながら、環境内の圧力は100mPaに限定されないことを理解すべきである。一部の実施形態において、圧力は、100mPa以上および1Pa以下であってもよい。
【0101】
前述したように、一部の実施形態において、質量分析計はポンプを備える。例えば本明細書に記載するように、ポンプを使用して低圧または真空環境を作り出すことができる。ポンプの非限定的な例には、拡散ポンプ、分子ドラッグポンプ、ターボ分子ポンプなどが含まれる。
【0102】
一部の実施形態において、真空チャンバと毛細管の開口部の流体との間に比較的高い圧力差があってよい。例えば、圧力は、流体が毛細管に入る箇所で約1気圧であってよく、毛細管の開口部が位置する真空チャンバ内で約100mPaまたは本明細書に記載するような他の低い圧力であってよい。しかしながら、本明細書に記載するような一部の事例において、毛細管の開口部の流体メニスカスは、例えば、メニスカスにおける流体の表面張力により、比較的高い圧力差にもかかわらず比較的安定し得る。例えば、毛細管の開口部の流体メニスカスにわたる圧力差は、少なくとも0.1atm、少なくとも0.2atm、少なくとも0.3atm、少なくとも0.4atm、少なくとも0.5atm、少なくとも0.6atm、少なくとも0.7atm、少なくとも0.8atm、少なくとも0.9atm、少なくとも1atmなどであってよい。さらに、一部の実施形態において、本明細書に記載するような毛細管(例えば、100nm未満の開口部を有する毛細管)内の流体の液圧抵抗は、エレクトロスプレーイオン化で使用されるイオン源の液圧抵抗よりも高くてよい。
【0103】
ある実施形態によれば、毛細管の開口部は、比較的高い揮発性を有する溶媒が、比較的低い圧力に晒されたときに毛細管の開口部で未凍結のままであるようなサイズである。一部の実施形態において、毛細管の開口部は、比較的高い揮発性の溶媒が、周囲環境に入ったときに未凍結のままであるように十分に小さい。一部の実施形態において、毛細管の開口部は、サンプルおよび溶媒を含む流体が、対象の種がイオン化したときに未凍結のままであり、対象の種の少なくとも一部がイオン化してイオン(例えば、単一イオン)またはイオンクラスタを形成するように十分に小さい。
【0104】
2020年4月24日に出願された、Stein他による「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称の米国仮特許出願第63/015,407号が、参照により本明細書に完全に組み込まれている。加えて、2021年4月23日に出願された、Stein他による「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称の国際特許出願第PCT/US2021/028954号も、参照により本明細書に完全に組み込まれている。さらに、2021年4月23日に出願された、Stein他による「System and Methods for Single-Ion Mass Spectrometry with Temporal Information」という名称の米国仮特許出願第63/179,046号も、参照により本明細書に完全に組み込まれている。
【0105】
以下の実施例は、本開示のある実施形態を示すことを意図するものであり、本開示の全範囲を例示するものではない。
【実施例
【0106】
[実施例1]
以下の例には、流体、例えば、この例では水溶液の表面からのイオン蒸発を介して真空(すなわち、低圧環境)に直接放出されたサンプル(例えば、アミノ酸)の測定を可能にする、あるシステムおよび方法が開示されている。これらの例におけるシステムおよび方法は、例えば約10mMのNaClに相当する、比較的低い導電率を有する流体に適用可能であった。一部の実施形態において、方法はまた、裸イオンまたは1つもしくは2つの水分子のみを有するイオンクラスタを主に生成した。1つの特徴は、イオン源のナノスケールサイズ(<100nm)に関するものであった。小さいサイズの毛細管先端は、著しい電界増強を生じさせ、流体の流量を制限して、サンプル(例えば、アミノ酸)からのイオンが、液滴の形成およびクーロン分裂の配列からではなく、イオン蒸発を介して真空内に直接出るようになっていた。小さい先端開口部(「ナノポア」と呼ばれることもある)はまた、流体の凍結を避けながら、かなりの量の溶媒が真空チャンバ内へ蒸発することを防ぎ、水などの揮発性溶媒中のアミノ酸などのサンプルの分析を可能にした。
【0107】
この例は、一実施形態による、実験を行うために使用された質量分析計機器の様々な部品を示す。以下の例に記載する実験は、図1A図1Bに概略的に示す、「ナノポア質量分析計」と呼ばれる特注の機器ですべて行われた。
【0108】
この例で使用された機器の1つの構成要素は、イオン源である。イオン源は、100nm未満の先端内径を有する毛細管と、システム内で毛細管先端の前に位置する環状電極とを含む。毛細管は、この例では石英から形成されたが、他の実施形態において、毛細管をホウケイ酸ガラス、プラスチック、金属、セラミック、半導体、または他の材料から形成してもよい。この例の毛細管の直径は、先端に近付くほどサイズが徐々に先細になり、先端の形状を円錐になるように近付けた場合、円錐の開口角度が約1度~5度であるようになっていた。毛細管の長さは、先端の幅よりもはるかに長く、通常10,000超の非常に高いアスペクト比を毛細管に与えた。当然、前述したように、他の実施形態において他の毛細管形状および/または寸法を使用してもよい。
【0109】
この例において、電極を使用して、毛細管の先端の開口部に電界を誘起した。この電界は、毛細管の先端の開口部に生じた流体のメニスカスから、少なくとも部分的にイオン蒸発によってイオンが直接出ることができるよう十分に高いものであった。電極は、この機器では鋼から形成されたが、別の導電性材料から形成されてもよい。この例の電極は、イオンが移動できる、例えば、イオン蒸発によって流体のメニスカスから出ることができる開口を特徴とした。この機器では、電極は、ワッシャの形状、すなわち、中央に円形孔を有する円板の形状を有していたが、他の形状を使用してもよい。この機器では、中央の孔の直径は約1cmであったが、その寸法は重要ではない。例えば、孔の直径は、毛細管先端の直径よりも少なくとも10倍大きくてよく、または本明細書に記載の他の寸法であってよい。電極の外径は約5cmであったが、その寸法も重要ではない。電極の外径は、孔の内径より大きくてよい。この実験において、電極の前側が平面を画定し、毛細管の先端は、その平面の後ろの約1mm~5mmの距離に位置し、毛細管の軸は電極の軸に位置合わせされた。
【0110】
通常80V~400Vの範囲の電圧を流体と電極との間に印加して、イオンが流体から出るようにした。毛細管内のAg/AgClワイヤを、対向電極として使用した。2つのアインツェルレンズを使用して、電極の開口を通るイオンの出射ビームを集束させた。イオンを機器の四重極質量フィルタによって分析したが、異なる種類の質量フィルタ、例えば磁気セクタを使用してもよい。
【0111】
[実施例2]
この例は、ある実施形態による、質量対電荷比(m/z)と、ナノポアイオン源から任意の時間に放出されたイオンの検出の正確な瞬間とを判定可能な質量分析計を示す。イオン検出の相対的なタイミングを知ることにより、イオン関連付け、イオン順序付け、およびイオン配列の判定が可能になる。この例の機器は、磁気質量フィルタを単一イオン検出器のアレイと組み合わせることによって時間情報を提供する能力を引き出す。この例は、そのような機器が、同時に到達する複数の異なるアミノ酸を感知し、その時間分解能が1マイクロ秒未満であることを示す。
【0112】
ナノポアイオン源は、ホルムアミドまたは水の溶液から質量分析計の高真空部に単一アミノ酸イオンを直接供給することができる。参照により本明細書に完全に組み込まれている、2020年4月24日に出願された、Stein他による「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称の米国仮特許出願第63/015,407号、および2021年4月23日に出願された、Stein他による「Nanotip Ion Sources and Methods」という名称のPCT出願を参照されたい。例えば、図2は、100nm未満の直径を有する毛細管先端によって水溶液から供給された14個の異なるアミノ酸の質量スペクトルを示す。アミノ酸イオンは、溶媒分子によりクラスタ化されたものとは対照的に、主に裸であり、これにより、データの解釈が比較的容易になることに注目すべきである。これらの高品質の質量スペクトルが、非常に小さいイオン放出電流(~10pA)から、非常に低い引出電圧(~200V)を使用して得られたことも注目すべきである。
【0113】
図2に、ナノポアイオン源から高真空に直接供給された、正アミノ酸イオンの質量スペクトルが示されている。アミノ酸を、水溶液に溶解した。それぞれの場合に、酢酸を使用して、溶液中のアミノ酸の等電点を下回るようにpHを調整した。
【0114】
この例において、単一イオンを判定可能な機器が設計され作製された。これは、図3に概略的に示されている。機器は、ナノポアイオン源を磁気質量フィルタおよび単一イオン検出器のアレイと組み合わせる。磁気質量フィルタは、ネオジム磁石および鉄ヨークを使用して構築された。質量フィルタは、軸方向を向く磁界が存在する、直径約5cmおよび高さ1cmの円筒形領域を作り出した。磁界は約0.6Tであった。イオンが円筒形領域を水平に(円筒軸に対して垂直に)通り、m/zに従ってイオンを扇状に拡げる磁力を受けた。単一イオン検出器のアレイは、扇状のイオンを受け入れ、衝突の位置によって各イオンのm/zを判定した。
【0115】
イオン検出器アレイは、Channeltron(登録商標)検出器(例えば、電子増倍管)と、ダイノードとを含むことができる。検出器アレイは、マイクロチャネルプレート(MCP)アレイ、CCD、またはCMOSセンサなどの撮像検出器を含むこともできる。この例において、機器は、イオンが検出器アレイに当たる場所に基づいてイオンの質量を判定するため、イオンが放出された順序を確立するために時間領域を利用することができる。したがって、機器は、検出器アレイのパルスの順序を解釈することによってアミノ酸配列を測定することかできる。
【0116】
[実施例3]
この例は、単一タンパク質を配列決定するための技術を説明する。フルオロシーケンシング、ナノポア、およびトンネル分光法に基づく単一タンパク質の配列決定の手法が、開発中であり有望である。しかしながら、質量分析(MS)のみが、最小限の縮退でアミノ酸を同定する能力を示している。既存のMSイオン源は、低いイオン移送効率を有し、イオンの空間的順序付けを混乱させる。本明細書で提示するのは、100nm未満の直径のオリフィスを有するガラス毛細管を含み、アミノ酸イオンを水溶液から高真空内に直接放出するイオン源である。単一イオンは、単一イオン検出器に当たる前に、衝突のない軌跡を移動する。この例において、16個の異なるアミノ酸の非溶媒和イオンと、グルタチオンとその翻訳後修飾変異体のうちの2つとを測定した。この例は、MSおよびナノ毛細管イオン源に基づいて、単一タンパク質を配列決定する手法を説明している。
【0117】
質量分析は、何十年にもわたってプロテオミクス研究の主力であり、その有用性は、アミノ酸の質量と、タンデムMS(MS/MS)測定においてタンパク質構造を調べることができる断片化技術の利用可能性とによって、アミノ酸を区別する能力から得られる。また、ソフトイオン化技術、特にエレクトロスプレーイオン化(ESI)の開発は、ペプチドイオンを完全なまま気相に移送するために極めて重要であった。しかしながら、ESIは、イオン移動効率が低いため、質量分析の感度が制限され、一般的な機器の検出限度に達するには、数百万から数十億のタンパク質のコピーが必要である。
【0118】
図4Aに示すように、ESIは、毛細管の端部の電気的に誘発された液体コーンジェットから生じる荷電液滴の水柱から、分析物を質量分析計に供給する。多数の電荷および分析物分子を担持する各液滴は、イオンが気相における分析に利用できるようになる前に、一連の蒸発およびクーロン爆発サイクルを受けなければならない。最終的に、分析物分子のごく一部のみが気相イオンとして現れ、そのうちの大部分は、質量フィルタおよび検出器が収容される低圧領域に入る前に、移送毛細管の壁に衝突する。ESIは、通常、106個のイオンのうちの1つのみを質量フィルタに移送する。ナノエレクトロスプレーイオン化(ナノESI)技術は、より小さい毛細管(約1マイクロメートルの先端直径)を使用することによって、透過効率を0.1%~1%に上昇させる。流体力学的イオン集束は、真空ステージ間の最適化された開口を使用して透過効率を著しく向上させる別の技術である。しかしながら、移送効率が1に近付いても、上記の技術のすべてが配列決定に向けた別の課題に直面している。イオンの脱溶媒和を促すために気圧の背景ガスを使用すると、アミノ酸の平均自由行程が50nm未満である環境が作り出され、衝突が、単一タンパク質の配列決定に必要な空間的順序付けを急速に混乱させる。
【0119】
この例には、アミノ酸イオンを高真空内に直接放出するイオン源が記載されている(図4B)。イオン源の中核となるのは、先端直径が100nm未満の引抜石英毛細管である。先端の小ささは、様々な方法で放出に影響し得る。第1に、流体流量は、ナノESIよりも約3桁小さく、安定したコーンジェットの形成に必要な最小流量よりも小さくてよい。コーンジェットがないと、電荷液滴の形成が妨げられることがある。一部の事例において、ナノスケール開口部にわたって延びる水メニスカスの表面張力は、多くの気圧を支え、安定した液体-真空界面を維持することができる。加えて、一部の事例において、電界は、電解質が充填されたナノ毛細管のような鋭い導電性先端に集中する。その結果、ある条件下で、1V/nm以下の電界を液体メニスカスにおいて実現することができる。その高い電界強度で、イオンは、イオン蒸発のプロセスにより高速で液体から逃げる。
【0120】
この例に記載する質量分析計の概略が、図4Cに示されている。ナノ毛細管内のAg/AgCl電極とナノ毛細管先端の約5mm前に位置するリング状の引出電極との間に電圧を印加することによって、イオンがイオン源から放出された。イオンは、集束イオン光学部品、四重極質量フィルタ(Extrel)、およびイオンベンダを通った後に、連続ダイノード単一イオン検出器によって測定された。機器内の背景圧力は、通常10-6トルであり、アミノ酸の平均自由行程(>10m)は、機器のサイズよりも1桁を超えて大きかった。
【0121】
16個の異なるアミノ酸の水溶液が、100mMの濃度で調製され、トリプトファンは、例外として、その低い溶解度により50mMで調製された。正アミノ酸イオンを生成するために、酢酸を添加することにより、該当する等電点を下回るように各溶液のpHを低下させた。ナノ毛細管にアミノ酸溶液を予め充填した後、ナノ毛細管を真空チャンバに挿入した。ナノ毛細管と引出電極との間に印加された+260V~+360Vの引出電圧Vが、数ピコアンペアのイオン電流の放出を開始した(図4B)。通常、開始は突然生じ、数分から数時間以内に明確な質量スペクトルを集めるのに十分な速度で機器の検出器に当たるイオンを測定することを伴った。
【0122】
41nmの先端内径を有するナノ毛細管イオン源を使用して得られるアルギニン溶液の質量スペクトルが、図4Dに示されている。5つのピークが明確に見られる。174m/zのピークは、単一荷電アルギニンイオン(Arg)に相当する。より高いm/zピークはすべて18m/zだけ離れており、このシフトは追加の水分子によって誘発される。したがって、他のピークは、アルギニンの溶媒和状態(Arg(HO))に相当し、溶媒和数nは1~4である。
【0123】
図4Aは、液滴からの溶媒の蒸発を刺激する背景ガスと、著しいイオン損失が生じる移送毛細管とを示す、従来のエレクトロスプレーイオン化の概略図である。図4Bは、液体が充填されたナノ毛細管先端、引出電極、およびそれらの間に印加されたVeを示す、ナノ毛細管イオン源の概略図である。挿入図は、30nmの内径を有する引抜石英ナノ毛細管の先端のSEM画像を示す。図4Cは、この分析で使用される質量分析計の概略図である。引出電極およびアインツェルレンズを含むイオン光学部品が、イオン源の液体メニスカスからイオンを抽出し、四重極質量フィルタおよび静電イオンベンダを通してイオンを集束させる。透過したイオンは、チャネル電子増倍管検出器に当たる。図4Dは、四重極質量分析計の41nm内径のナノ毛細管イオン源を用いて得られた、水溶液中の100mMアルギニンの質量スペクトルを示す。
【0124】
アルギニン質量スペクトルに及ぼす先端直径の影響が、図5Aに示されている。図示の質量スペクトルは、300nm、125nm、および20nmの先端内径を有するナノ毛細管を使用して得られたものである。最大のナノ先端は、裸アルギニンイオン、8個の漸増水和アルギニンイオンクラスタ、およびアルギニン二量体イオン(Arg・Arg+H)に相当する349m/zのピークを含む、ピークの広域スペクトルを生成した。中間サイズの先端は、裸アルギニンイオン、6個の漸増水和アルギニンイオンクラスタ、および比較的減衰したアルギニン二量体イオンピークを含む、より狭いスペクトルを生成した。最小の先端は、裸アルギニンイオンを主に生成したが、単一水和および二重水和アルギニンイオンクラスタに相当する減衰したピークも、スペクトルに見られた。図5Aの3つのスペクトルのベースラインに示すように、先端が小さいほど、大きい先端よりも、比較的強い信号とノイズの少ないスペクトルとを生成する傾向があった。同様の先端サイズ(例えば、図5Aに示す41nmと比較して図4Dに示す20nm)を有するナノ毛細管間で、溶媒和状態の分布のいくらかの変化が見られた。しかしながら、約65nm未満の先端内径を有するナノ毛細管のみが、アミノ酸イオンの大部分が非溶媒和状態で測定されるスペクトルを生成した。
【0125】
ナノ毛細管イオン源は、分析のための多くの異なるアミノ酸および小さいペプチドのイオンを生成することができる。流体供給システムを使用して、測定を中断することなく、ナノ毛細管内の溶液を定期的に交換した。図2Bは、16個の異なるアミノ酸水溶液の質量スペクトルを示す。20nm、25nm、60nmの先端内径を有する3つの異なるナノ毛細管を、これらの測定のために使用した。すべてのスペクトルの最も顕著なピークは、単一荷電および非溶媒和アミノ酸イオンに相当した。グリシン、アラニン、プロリン、バリン、システイン、グルタミン、およびフェニルアラニンのスペクトルは、溶媒和アミノ酸イオンに相当し得る追加のピークを示さなかった。セリン、スレオニン、アスパラギン、リジン、メチオニン、ヒスチジン、アルギニン、およびトリプトファンのスペクトルは、非溶媒和ピークの右側に、単一水和アミノ酸イオンに相当する二次ピーク18m/zを示した。ロイシンは、より高い溶媒和状態に相当する第3の、および場合により第4のピークを示した。トリプトファンのスペクトルは、200m/zを下回るピークを示し、これはヒドロニウムイオンの水和状態に一致し、アミノ酸が存在しない水溶液の制御測定にも現れた。トリプトファンは、分析された他のアミノ酸よりも低い溶解度を有し、比較的弱い信号を生成した。この例には4個のアミノ酸がない。すなわち、アスパラギン酸およびグルタミン酸は、それらの低い等電点が負イオンモードでの動作を必要とするため含まれず、イソロイシンは、m/zに基づいてロイシンから区別することができないため分析されず、チロシンの低い溶解度は、放出特性を低下させる。
【0126】
グルタチオンならびに2つの化学修飾変異体であるs-ニトロソグルタチオンおよびs-アセチルグルタチオンの質量スペクトルが、図5Cに示されている。グルタチオンは、生物学的重要性を有するトリペプチドであり、化学修飾形態は、一般的な翻訳後修飾に相当する。ペプチドは、酢酸を添加することによりpHが3.1~3.9に設定された100mM濃度の水溶液中で、それぞれ分析された。20nmの内径の先端を有するナノ毛細管を使用して、イオンを生成した。グルタチオンスペクトルは、単一荷電の非溶媒和グルタチオンイオンに相当する、単一のピーク307m/zを示した。s-アセチルグルタチオンおよびs-ニトロソグルタチオンのスペクトルはそれぞれ、単一荷電の非水和ペプチドイオンに相当する主要なピーク349m/zおよび336m/zをそれぞれ示した。スペクトルは、主要なピークの右側に、単一水和および二重水和ペプチドイオンにそれぞれ相当する、2つの徐々に小さくなるピーク18m/zおよび36m/zも示した。
【0127】
図5Aは、3つの異なる先端内径を有するナノ毛細管イオン源を使用する、HO中の100mMアルギニン溶液の質量スペクトルを示す。図5Bは、左上から右下へ質量により順序付けられた16個のアミノ酸質量スペクトルの集まりを示す。すべての実験は、20~60nmの先端内径を有するナノ毛細管を使用して行われた。図5Cは、グルタチオンならびにそのPTM変異体のうちの2つであるs-ニトロソグルタチオンおよびs-アセチルグルタチオンの重ね合わせた質量スペクトルを示す。
【0128】
図4Aに示す従来のエレクトロスプレー機構は、2つの理由から、測定されるイオンの主な供給源として除外された。第1に、高真空中のナノスケール水滴は、潜在的な熱損失により蒸発プロセスが凍結する前に、その質量のごく一部のみを取り除いた。この例に記載する機器には、エレクトロスプレープロセスにおいて溶媒の蒸発およびイオンの放出を維持するのに必要な背景ガスがなかった。第2に、この例で使用される小さいサイズのナノ毛細管は、先端から出る流体流量を0.1nL/min以下に制限した。これは、安定したコーンジェットを維持するのに必要な最小流量よりも少なくとも3桁小さい。
【0129】
代わりに、イオン蒸発によってイオン源の先端のメニスカスからイオンを直接放出したことが考えられる。図4Bは、純粋なイオンモード放出の例示である。テイラーコーンからのイオン放出の理論は、液体の導電率と流量との比K/Qが大きいときに、純粋なイオンモードが優位になると予測する。液体金属およびイオン液体において、これは非常に高い導電率Kで実現される。この例に示すように、非常に小さい流量Qで同じ効果が実現される。ナノ毛細管のサイズは、液体の流れを遮り、流量を0.1nL/min未満に制限する。図6Bは、この例に示すナノ毛細管を通る予測流量を先端の半径の関数として示す。不十分な流れにより安定したコーンジェットを形成できないと、曲率の大きい閉じたメニスカスが生じる。このようなメニスカスでは、局所的な電界が1V/nmの以上の値に達することがあり、これはイオン蒸発が生じるのに十分に高い。図6Cは、コーンジェットの表面の特徴的な最大電界をrの関数として示す。この電界はr-1/2となり、イオン蒸発に必要な電界は、rとは無関係である。その結果、イオン蒸発は、rが非常に小さいときに優位なイオン放出機構になると予想される。
【0130】
図6Dに示すように、アミノ酸をペプチドから徐々に切断する機構と併せて、単一分子タンパク質配列決定質量分析計が想定された。おそらく毛細管表面の正電荷タンパク質部位と負電荷シラノール基との相互作用により、ナノ毛細管の先端近くでタンパク質が変性する。変性タンパク質を、ナノ毛細管イオン源の内部の光分解によって、個々のアミノ酸または小さいペプチドに断片化することができ、その後、これらをイオン蒸発によって放出することができる。イオンは、1組のイオン光学部品によって集束され、質量対電荷比によってイオンを分離する磁気セクタを通る。イオンは、電子増倍管検出器のアレイに当たり、各イオン検出事象のタイミングおよび位置を考慮することによって、元の配列を再構成することができる。19個の検出器を使用して、ロイシン/イソロイシン以外のアミノ酸のすべてを区別することができる。質量分析で従来使用されていた電子増倍管は、約100MHzの速度でイオンを検出することができる。
【0131】
図6Aは、従来のエレクトロスプレーのコーンジェットモードイオン放出とナノ毛細管からの純粋なイオンモード放出とを比較した図である。図6Bは、切頭円錐モデルを使用した、先端内半径の関数としての、先細毛細管を通る流量の理論的予測を示す。図6Cは、水からのイオン蒸発を実現するのに必要な予測電界と比較した、毛細管の先端内半径の関数としての、毛細管の先端のコーンジェットの移行領域における特徴的な電界の理論的予測を示す。図6Dは、単一分子タンパク質の配列決定が可能な想定される質量分析計の概略図である。図6Eは、メニスカスからの距離の関数としての、放出されたアミノ酸が蒸発した水分子または背景ガス分子に衝突する累積確率の理論的計算を示す。破線は、計算された最大可能水蒸気密度を、蒸発係数1を有するヘルツクヌーセンモデルを使用して計算された、メニスカスからの距離の関数として示す。
【0132】
この例のデバイスは、60MHzのイオン放出速度に相当する10pAという低さの安定した放出電流を測定した。その結果、検出器は、ナノ毛細管イオン源によって放出されたすべての単一イオンを同定するのに十分に高速である。この配列決定方法は、断片化ステージ、放出ステージ、および質量分離ステージを通した配列の維持に依存する。
【0133】
この例に示すように、ナノ毛細管イオン源は、単一荷電の非溶媒和生体分子イオンを高真空内に直接放出することができる。タンパク質を構成する20個のアミノ酸のうちの16個、ならびにグルタチオン、s-ニトロソグルタチオン、およびs-アセチルグルタチオンが、質量分析によって測定されて、主に非溶媒和状態で放出された。
【0134】
本開示のいくつかの実施形態が本明細書に記載され、図示されているが、当業者は、機能を果たすためならびに/または結果および/もしくは本明細書に記載の利点のうちの1つまたは複数を得るための、様々な他の手段ならびに/あるいは構造を容易に想定するだろう。そのような変形および/または修正のそれぞれが、本開示の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意図しており、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が、本開示の教示を使用する1つまたは複数の特定の用途に依存することを、当業者は容易に理解するだろう。当業者は、本明細書に記載の本開示の特定の実施形態の多くの均等物を認識し、または定期的な実験のみを使用して確認することができるだろう。したがって、上記の実施形態は例としてのみ提示されており、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内において、本開示は、具体的に説明され特許請求される以外の方法で実施され得ることを理解されたい。本開示は、本明細書に記載のそれぞれの個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に関する。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組合せが、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本開示の範囲に含まれる。
【0135】
本明細書および参照により組み込まれた文書が相反するおよび/または矛盾する開示を含む場合、本明細書が優先するものとする。参照により組み込まれた2つ以上の文書が、互いに相反するおよび/または矛盾する開示を含む場合、より最近の発効日を有する文書が優先するものとする。
【0136】
本明細書で定義され使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれた文書における定義、および/または、定義された用語の通常の意味に優先するものと理解すべきである。
【0137】
本明細書および特許請求の範囲において使用される不定冠詞「a」および「an」は、それに反することが明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解すべきである。
【0138】
本明細書および特許請求の範囲において使用される「および/または」という表現は、そのように接続される要素の「いずれかまたは両方」を意味すること、すなわち、ある場合には接続的に存在し、他の場合には離接的に存在する要素を意味するものであることを理解すべきである。「および/または」と共に列挙される複数の要素は、同じように、すなわち、そのように接続される要素の「1つまたは複数」と解釈すべきである。「および/または」の節によって具体的に特定された要素以外に、具体的に特定されたそれらの要素に関連しているか関連していないかにかかわらず、他の要素が任意選択で存在し得る。したがって、非限定的な例として、「含む」などのオープンエンドの用語と併せて使用される場合、「Aおよび/またはB」への言及は、一実施形態において、Aのみ(任意選択でB以外の要素を含む)、別の実施形態においては、Bのみ(任意選択でA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態においては、AとBの両方(任意選択で他の要素を含む)、などを指すことができる。
【0139】
本明細書および特許請求の範囲において使用されるとき、「または」は、上記の「および/または」と同じ意味を有するものと理解すべきである。例えば、リスト内で項目を分けているとき、「または」または「および/または」は、包含的である、すなわち、いくつかの要素または要素のリストのうちの少なくとも1つを含むが、2つ以上をも含み、任意選択で、列挙されていない追加の項目も含むものとして解釈すべきである。「~のうちの1つのみ」もしくは「~のうちの正確に1つ」、または、特許請求の範囲において使用されるとき、「~からなる」のように、それに反することが明確に示されている用語のみが、いくつかの要素または要素のリストのうちの正確に1つの要素を含むことを指す。一般的に、本明細書で使用される「または」という用語は、「いずれか」、「~のうちの1つ」、「~のうちの1つのみ」、または「~のうちの正確に1つ」のような排他性の用語が先行するときには、排他的な選択肢(すなわち「一方または他方であり、両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈すべきである。
【0140】
本明細書および特許請求の範囲において使用されるとき、1つまたは複数の要素のリストを参照した「少なくとも1つ」という表現は、要素のリスト内の任意の1つまたは複数の要素から選択される少なくとも1つの要素であるが、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙されたありとあらゆる要素のうちの少なくとも1つを含まず、要素のリスト内の任意の要素の組合せを排除しないことを意味するものと理解すべきである。この定義はまた、「少なくとも1つ」という表現が言及する要素のリスト内で具体的に特定された要素以外に、具体的に特定された要素に関連しているか関連していないかにかかわらず、要素が任意選択で存在し得ることを可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」もしくは同等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、任意選択で2つ以上を含む少なくとも1つのAであり、Bは存在しない(任意選択でB以外の要素を含む)ことを指し、別の実施形態では、任意選択で2つ以上を含む少なくとも1つのBであり、Aは存在しない(任意選択でA以外の要素を含む)ことを指し、さらに別の実施形態では、任意選択で2つ以上を含む少なくとも1つのA、および任意選択で2つ以上を含む少なくとも1つのB(任意選択で他の要素を含む)などを指すことができる。
【0141】
本明細書において「約」という単語が数に関して使用される場合、本開示のさらに別の実施形態が「約」という単語の存在によって変更されないその数を含むことを理解すべきである。
【0142】
それに反することが明確に示されていない限り、2つ以上のステップまたは行為を含む本明細書で特許請求される任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が記載されている順序に必ずしも限定されるものではないことも理解すべきである。
【0143】
特許請求の範囲および上記の明細書において、「備える」、「含む」、「担持する」、「有する」、「含有する」、「包含する」、「伴う」、「保持する」、「~から構成される」などのようなすべての移行句は、オープンエンドである、すなわち、含むがそれに限定されないことを意味するものとして理解されたい。米国特許庁特許審査便覧、第2111.03条に記載の通り、「~からなる」および「~から本質的になる」という移行句のみが、それぞれ限定的なまたは半限定的な移行句であるものとする。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
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図7
【国際調査報告】