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特表2024-519264ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/065 20230101AFI20240501BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240501BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240501BHJP
   G06G 7/60 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G06N3/065
H01M8/16
H01M8/04 Z
G06G7/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560196
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022057225
(87)【国際公開番号】W WO2022214297
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】21305411.7
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】516247100
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
【氏名又は名称原語表記】Universite Grenoble Alpes
(71)【出願人】
【識別番号】506079836
【氏名又は名称】アンスティテュー ポリテクニーク ドゥ グルノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】508071375
【氏名又は名称】ソントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】523025045
【氏名又は名称】ソントル オスピタリエ ユニヴェルシテ グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルタン ドナルド キース
(72)【発明者】
【氏名】テリュ ジャック
(72)【発明者】
【氏名】アルカラス ジャン ピエール
(72)【発明者】
【氏名】マッカリーニ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ゼブダ アブデルカデール
(72)【発明者】
【氏名】サンカン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】マウリ マルコ
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB01
(57)【要約】
本発明は、互いに接触して、接点にて脂質二重層(13)を形成する逆ミセル(14)を含む、溶液を備え、接点の少なくとも一部が、少なくとも1つのイオンの逆交換により、少なくとも1つのイオンを一の逆ミセル(14)から他の逆ミセル(14)に輸送することを可能にする、少なくとも1つのイオン輸送膜タンパク質(15)を含み、逆ミセル(14)を含む溶液が、圧縮エマルション(10)である、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムに関する。このようなシステムにより、電圧を生成可能なイオン勾配を発生させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接触して、接点にて脂質二重層(13)を形成する逆ミセル(14)を含む溶液を備え、前記接点の少なくとも一部は、少なくとも1つのイオンの逆交換により、少なくとも1つのイオンを一の逆ミセル(14)から他の逆ミセル(14)に輸送することを可能にする、少なくとも1つのイオン輸送膜タンパク質(15)を含み、前記逆ミセル(14)を含む溶液は、圧縮エマルションである、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項2】
接触して一連の逆ミセル(14)を形成する、少なくとも15個の逆ミセル(14)を含み、逆ミセル(14)同士の各接点が、少なくとも1つのイオン輸送膜タンパク質(15)を含む、請求項1に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項3】
前記イオン輸送膜タンパク質(15)は、起電性対向輸送体である、請求項1又は2に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項4】
前記イオン輸送膜タンパク質(15)は、膜貫通タンパク質NhaAである、請求項1-3のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項5】
前記イオン輸送膜タンパク質(15)は、大腸菌由来の膜貫通タンパク質NhaA、又は、大腸菌NhaAタンパク質のA167P変異体である、請求項4に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項6】
少なくとも1つのイオンの交換を行う前記イオン輸送膜タンパク質(15)により輸送可能なイオンを供給する第1のタンク(16)と、前記イオン輸送膜タンパク質(15)により輸送可能な前記イオンを隔離する第2のタンク(17)と、を含み、前記第1のタンク(16)及び前記第2のタンク(17)が、前記逆ミセル(14)を含む前記溶液の一方にそれぞれ配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項7】
カソード(18)とアノード(19)とを備えている、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項8】
前記イオン輸送膜タンパク質(15)は、少なくとも1つのイオンの逆交換により、カルシウムイオンCa2+を、一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送することを可能にする起電性対向輸送体である、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項9】
前記イオン輸送膜タンパク質(15)は、少なくとも1つのイオンの逆交換により、プロトンH+を、一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送することを可能にする起電性対向輸送体である、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項10】
プロトンの交換により前記イオン輸送膜タンパク質(15)によって輸送されることができる前記少なくとも1つのイオンは、ナトリウム(Na+)及びリチウム(Li+)から選択される、請求項9に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項11】
埋込型医療デバイス、非埋込型医療デバイス又はノマド消費者向け電子デバイス用の電圧源として用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項12】
生細胞及び哺乳類の体組織と接触させ、細胞及び組織のイオン及び化学応答を感知する、又は、イオンシグナルを供給して細胞及び組織の生体応答に影響を及ぼすために用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム。
【請求項13】
-脂質溶液(11)の調製工程と、
-イオン輸送膜タンパク質(15)を含む水溶液(12)を前記脂質溶液に、一滴ずつ加える工程であって、脂質溶液/水溶液の体積比を2とすることで、エマルション(10)である、逆ミセル(14)を含む溶液を調製する工程と、
-前記逆ミセル(14)を細分化して、逆ミセル(14)のサイズを低下させ、前記逆ミセル(14)の数及び前記エマルション(10)の均質性を増加させる工程と、
-前記逆ミセル(14)を互いに圧縮して、作製される脂質二重層(13)の表面を増加させる工程と、
を備える、請求項1-10のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの、製造方法。
【請求項14】
前記逆ミセル(14)を含む溶液に、前記溶液中に存在する前記イオン輸送膜タンパク質(15)により、プロトンH+に対して特異的に交換可能なイオンを供給して、前記逆ミセル(14)を含む溶液中で前記イオンのイオン勾配を適用する工程を備える、請求項9又は10に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを用いる、電圧の生成方法。
【請求項15】
前記ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムに含まれる前記イオン輸送膜タンパク質(15)が、大腸菌由来の膜貫通タンパク質NhaA、又は、大腸菌NhaAタンパク質のA167P変異体であり、前記逆ミセル(14)を含む溶液に供給される前記イオンがナトリウムイオン又はリチウムイオンであり、それぞれ、前記溶液中にナトリウム勾配又はリチウム勾配をもたらす、請求項14に記載の電圧の生成方法。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを備える、燃料電池(20)。
【請求項17】
埋込型医療デバイス、非埋込型医療デバイス、又は、ノマド消費者向け電子デバイス用の電圧源として用いる、請求項16に記載の燃料電池(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆ミセルなどの生物学的成分をベースにする、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最先端の、電気的ニューロモルフィックシステムは、電子部品を用いて、シナプスの完全な機能性を再現することを目標としている。これらのデバイスは、生物学的システムにおける学習の根底にある、典型的なシナプスプロセス(例えば、活性に依存するシナプス可塑性)の達成において、いくつかの制限を有する。シナプス可塑性を模倣するために、最先端の電子デバイスは、適切な電気的刺激を受ける際(シナプス活性時)に、デバイスの抵抗(シナプス強度又は重量)を変化させることができ、ダイナミックレンジ全体を通して、いくつかの安定した抵抗状態(類似挙動)を示すことができる、と推定されている。さらに、これらの電子システムは、接続したシナプスからの出力信号の学習応答に影響を与えるために、シナプスに接続した複数の発火ニューロン間での遅延時間を利用することにより、生物学的な神経機能を模倣しようとする、関連性ホモシナプス可塑性の学習ルールである、スパイクタイミング依存可塑性(STDP)を行うことを目標としている。例えば、Coviら(2016)は、小規模スパイキングニューロモルフィックネットワークにおいて、バイナリではなくアナログのメモリスティブなシナプス要素が、特徴認識を教師なし学習できることを示した。
【0003】
メモリスターは、パターン学習及び認識可能な、このような最先端の電子デバイス用の、相補型金属酸化膜半導体ベースの電子構成単位を提供する(Zieglerら、2015、Liら、2015、Saighiら、2015)。2018年には、複数のメモリスティブデバイスを用いることで、次世代の情報処理機能を持つ演算システムを構築するための基礎の形成において、著しい進歩が遂げられた。Boybatら(2018)においては、ニューロモルフィックシステムで、100万個を超える相変化メモリスティブデバイスを用いることで、特に、教師なし学習、特に、時間相関の学習が可能な、効率的なスパイキングニューラルネットワークが示された。さらに、このデバイスは、大規模かつエネルギー効率の高い、ニューロモルフィック演算システムの構築に向けての意義深いステップを示した。
【0004】
メモリスターは主に、将来の高密度ナノスケールアレイに標的を定めているため、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)駆動回路も同様に、これらの寸法に合わせる必要がある。しかし、大きなオーバーヘッドをもたらさない、メモリスティブシナプス用の適切かつ大規模化した駆動回路の開発においては、CMOSベースのシステムを設計することが、最先端の研究に対する大きな課題となっている。これは特に、パッシブクロスバーの一体化を利用するシステムに対して真理となっている。このような回路のトポロジーは、1つのデバイスが、2つのニューロン(入力ラインと出力カラム)間の1つのシナプスに結合する、並列度が高く、集積度が高いニューロン/シナプス回路と直接的な等価物をもたらすため、特に、ニューロモルフィックエンジニアにとって魅力的である。しかし、このようなトポロジーは、克服する必要のある回路の課題(例えば、クロストーク、スニークパス、又はインピーダンスミスマッチ)をもたらす(Saighiら、2015)。
【0005】
メモリスターを開発するための電子設計にはかなりの利点があるにもかかわらず、これらの電子デバイスは依然として、ニューロモルフィック演算機能を発揮するためには、著しく多くのエネルギーを消費し、生物学的ニューロン及びシナプスよりも、はるかにサイズが大きいままである。さらに、ニューロモルフィックシステムにより脳機能を模倣するには、人工電子シナプスを3次元で構築する必要がある。しかし、相補型金属酸化物半導体構造の、製造上の複雑さによって、3次元の相互接続性の達成が妨げられる。フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を用いることで、特定のハードウェア技術がもたらされ、FPGAはまた、再プログラム可能であるが故に、再構成可能なセンサーシステムがもたらされる。したがって、対応する回路を修正して、異なるタスクを実施するためにその機能性を適合させることができる(Garciaら、2014)。にもかかわらず、FPGAを用いて設計したシステムは大型のままであり、追加の複雑なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、VLSIチップ、又はマイクロコントローラー(Shimonouuraら、2008)を必要とする。
【0006】
クロスバー電極を垂直に積層することで二端子メモリスティブデバイスが接続される、柔軟な3次元人工化学シナプスネットワークを用いて、この問題を解決することが試みられてきた(Wuら、2017)。人工電子シナプスにおける柔軟性は、生体高分子を用いてもまた試みられてきた(Wuら、2017、Yuら、2018、Huら、2018)。しかし、これらの有機メモリスターの操作は、イオンが自身の状態を維持するためのポリマーを介した低速のイオン拡散速度、又は、金属ナノ粒子中での電荷の貯蔵のいずれかに左右され、これらは、本質的に性能及び安定性を制限する。
【0007】
近年、van de Burgtら(2017)は、ENODeデバイスについて記載しており、これは、人工シナプスとして機能する新しい有機電子デバイスであり、安価に市販されているポリマーから構築される。ENODe人工シナプスは、多数の不揮発性及び再現可能な状態(500回を超える)を示しており、非常に低電圧で作動する。ENODeデバイスは、電解液により分離された、2つのポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)/ポリ(エチレンイミン)(PEI)電極(「シナプス前」及び「シナプス後」)を利用しており、電解液からは、カチオンがシナプス後電極に浸透し、プロトンがシナプス前電極に浸透する。シナプス前電極を荷電させることで、PEDOT:PSS/PEI電極内でのイオンの拡散が刺激され、これにより、この人工シナプスに切替能力、及び、各電極で電荷を保持する能力が付与される。揮発性の欠如は、電子伝導体ではない分離電解液に左右される。ENODeメカニズムは、既存の有機エレクトロニクスニューロモルフィックデバイスのメカニズムとは、根本的に異なっている。
【発明の概要】
【0008】
そのため、本発明の目的は、互いに接触して、接点にて脂質二重層を形成する逆ミセルを含む、溶液を備え、接点の少なくとも一部が、少なくとも1つのイオンの逆交換により、少なくとも1つのイオンを、一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送可能にする、少なくとも1つのイオン輸送膜タンパク質を含み、逆ミセルを含む溶液が圧縮エマルションである、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを提案することにより、上述の欠点を克服することである。
【0009】
本発明により、好適に、電圧を生み出す、又は、生細胞若しくは体内組織により認識可能なイオンシグナル伝達経路を生成することが可能となる。
【0010】
好ましくは、イオン輸送膜タンパク質は、少なくとも1つのイオンの逆交換によって、プロトンH+を、一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送可能にする、起電性対向輸送体である。このような起電性対向輸送体は、電圧及び電気を生み出すために好適に用いられる。
【0011】
好ましい実施形態では、イオン輸送膜タンパク質は、少なくとも1つのイオンの逆交換によって、カルシウムイオンCa2+を、一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送可能にする起電性対向輸送体である。このような起電性対向輸送体は、細胞又は体内組織により認識可能なイオンシグナル伝達経路を生成するために好適に用いられる。
【0012】
イオン輸送膜タンパク質は、細胞膜又は脂質二重層に埋め込まれるように構成されたタンパク質である。この膜又は脂質二重層は実質的に、イオンを透過させない。イオン輸送膜タンパク質は通常、細胞におけるイオンの取り込み及び排出を制御するために、膜又は脂質二重層を通過するイオンの輸送を可能にする。
【0013】
起電性対向輸送体は、膜又は脂質二重層にまたがってイオン交換を生じさせるイオン輸送膜タンパク質である。起電性対向輸送体は通常、1つ又は複数の内向きに輸送されるイオンと、1つ又は複数の外向きに輸送されるイオンとの交換を行う。この交換は、外向きに輸送されるイオンと比較して、内向きに輸送されるイオンの数が釣り合っていないために、起電性となる。このような起電性交換の結果、起電性対向輸送体が組み込まれた膜又は脂質二重層にまたがって、これらのイオンの勾配が生成される。
【0014】
逆ミセルは、両親媒性分子の球状アグリゲート、即ち、球の内側を向いている親水性極性頭部と、球の外側、即ち、脂肪族溶媒を向いている疎水性鎖と、を有する分子である。「油相」という用語は、この脂肪族溶媒を示すためにも用いられる。したがって、逆ミセルを含む溶液は、エマルションとみなされる。エマルションは、逆ミセルの内側に水溶液(エマルションの水相とも呼ばれる)を含み、逆ミセルの外側に脂質溶液(エマルションの疎水性相又は油相とも呼ばれる)を含む。
【0015】
少なくとも1つのイオン輸送膜タンパク質を含む、互いに接点で接触した逆ミセルは、相互接続しているとみなされる。イオン輸送膜タンパク質により、プロトンH+に対して特異的に交換可能なイオンが、逆ミセルを含む溶液の外縁に到達するとき、当該イオンのイオン勾配が、溶液中の逆ミセル全体にわたり生み出される。好適には、このようなイオン勾配が生み出されると、溶液中において、逆ミセルから逆ミセルに向かうイオン勾配とは逆方向のプロトンH+の移動(H+イオンの勾配)が生み出されて、電圧が生じる。
【0016】
圧縮エマルションは、逆ミセルが互いに圧縮され、エマルション中の脂質二重層の表面が増加しているエマルションである。エマルション中の脂質二重層の表面は、逆ミセル同士の接触面積に対応する。エマルションの圧縮状態は、エマルションの内側と共にエマルションの外縁も圧縮されていることを意味しており、圧縮エマルションの内側及び外縁は、同じ形状/外観を分かち合っている。圧縮エマルションの内側及び外縁における逆ミセル同士の接触面積は、我々が「遊離エマルション」と呼び得る、非圧縮エマルションにおける逆ミセル同士の接触面積よりも大きい。逆ミセルを含むエマルションの非圧縮状態(遊離エマルション)において、逆ミセルは互いに接触しているが、これら同士の接触面積は、圧縮状態よりも小さく、遊離エマルションの外縁は、遊離エマルションの内側とは異なる形状/外観を有し、逆ミセル同士の接触面積は、遊離エマルションの内側の接触面積よりも小さいが故に、脂質二重層の表面は小さい。
【0017】
このため、エマルションの圧縮状態は、脂質二重層の大きな表面を好適に得ることを可能にし、これによって、遊離エマルションよりも多くのイオン輸送膜タンパク質を、圧縮エマルションに収容することを可能にするので、逆ミセル同士でのイオン交換の能力をより大きくすることができる。
【0018】
エマルションの圧縮状態により、圧縮エマルション1mL当たり、1.5m2以上の、好ましくは1.75m2/mL以上の、好ましくは1.9m2/mL以上の、より好ましくは2m2/mL以上の、二重層の総面積を達成できる。このような、重要である二重層の面積の値により、遊離エマルション中よりも多くのイオン輸送膜タンパク質を組み込むことが、好適に可能となる。
【0019】
エマルションの圧縮状態により、100個の分子/μm2以上、好ましくは120個の分子/μm2以上、より好ましくは140個の分子/μm2以上の、エマルション1μm2当たりのイオン輸送膜タンパク質の分子数に達することが可能となる。1μm2当たりのイオン輸送膜タンパク質のこのような分子数により、遊離エマルションでは到達不可能な、1μm2当たりの逆ミセル同士でのイオン輸送能力を好適に実現できる。
【0020】
圧縮エマルションは、90%を超える水溶液と、10%未満の脂質溶液と、を含むのが好ましい。特別な実施形態では、圧縮エマルションは、少なくとも92%の水溶液と、8%以下の脂質溶液と、を含む。特別な実施形態では、圧縮エマルションは、少なくとも94%の水溶液と、6%以下の脂質溶液と、を含む。
【0021】
エマルションの圧縮状態は、エマルションを遠心分離し、上清(その大部分は油相)を除去することにより得ることができる。さらに、圧縮状態は、逆ミセルを含む溶液に、タンパク質又はペプチドアンカー分子を含めることにより得ることができる。このようなタンパク質又はペプチドアンカー分子を脂質二重層に投入し、逆ミセルが互いに圧縮状態を保つようにする。
【0022】
本発明におけるナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの設計では、最先端の電気的ニューロモルフィックエンジニアリング設計を用いて達成可能なものよりも、サイズが小さいニューロモルフィックシステムを生物学的構成要素を利用して構築する。さらに、本発明のイオン輸送膜タンパク質(イオンチャネル)は、メモリスティブ機能を有し、逆ミセルのアレイを用いることで、ナノスケール~マイクロスケール規模~無限規模オーダーの、非常に大型の3次元アレイのアセンブリが可能となる。実際、非常に多くの逆ミセルを、3次元にアセンブリして、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムをもたらすことができる。
【0023】
イオン輸送膜タンパク質は、相互接続した逆ミセルのナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムによりイオン拡散を制御し、これにより、電圧を生み出す能力を備えたシステムがもたらされる。生物学的構成要素を利用することにより、この生物学的ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムは、最先端の電気的ニューロモルフィックエンジニアリングシステムと比較して、極めて低い所要入力電力で作動する。
【0024】
特定の実施形態では、本発明は、個別に、又は、これらの技術操作の組み合わせにより実施される、以下の特徴をさらに満たす。
【0025】
好適には、例えば、H+イオン(特に、pHの差を生成する)、又はCa2+イオンの大きな勾配を生み出し、このような大きな勾配を定常状態で維持する、本発明の効率は、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム中で互いに接触する逆ミセルの数を増やすことにより向上する。接触する逆ミセルの数を増やすことにより、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム中で輸送プロセスを行うことができる区画の数が増加する(逆ミセルは、区画として確認される)。このように区画化が増えることで、輸送されることが可能なイオン(例えば、H+又はCa2+イオン)の量が増加し、また、イオンの移動の増加を達成するために、より多くのイオン輸送膜タンパク質を含有する膜の数も増加する。このような区画化により、複数逆ミセル区画化システムにおけるものとイオン輸送膜タンパク質の数が同じ、単一の逆ミセルのみを含有するシステムの状況よりも、より大きな勾配のイオン、例えば、H+イオン(pHの勾配がより大きい)、又はCa2+イオンを生成可能な、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムが生成される。
【0026】
好ましい実施形態では、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムは、少なくとも0.7nL、好ましくは1nLの、逆ミセルを含む溶液を備える。このように体積が小さいことで、デバイス又は電極が、デバイス又は電極の表面又は内側に含まれる、逆ミセルの小さなクラスターを含むことができ、pHの局所勾配を生み出す。
【0027】
好ましい実施形態では、逆ミセルを含む溶液でのイオン輸送膜タンパク質の濃度は、少なくとも10nMである。
【0028】
上で定義したシステムの一実施形態では、システムは、一連の逆ミセルを形成するように接触した、少なくとも15個の逆ミセルであって、逆ミセル同士の各接点が、少なくとも1個の起電性対向輸送体を含む、逆ミセルを備える。一連の15個の逆ミセルは、pHの勾配、又は電圧の勾配のいずれかに対して最大で到達可能な応答の90%超を生み出す。システムは、接触して一連の逆ミセルを形成する、15個未満の逆ミセルで機能するものの、最大で到達可能な出力の割合が低下する。逆に、システムは、接触して一連の逆ミセルを形成する、15個を超える逆ミセルで機能するものの、出力は、最大で到達可能な出力付近に達する。
【0029】
上で定義したシステムの別の実施形態では、プロトン交換において、イオン輸送膜タンパク質により輸送されることができる少なくとも1つのイオンは、ナトリウム(Na+)、リチウム(Li+)から選択される。
【0030】
上で定義したシステムの別の実施形態では、イオン輸送膜タンパク質は、膜貫通タンパク質NhaAである。タンパク質NhaAは、起電性対向輸送体である。特定の実施形態では、イオン輸送膜タンパク質は、大腸菌由来のタンパク質NhaAである。大腸菌のNhaAオルソログ、例えば、ヘリコバクター・ピロリ、カテヌリスポラ・アシディフィア、サリニスポラ・アレニコラ、デフェリバクター・デサルフリカンズ、アシディチオバチルス・フェリボランズ、又はハロルブラム・バクロラクタム由来のNhaAタンパク質を、本発明のシステムで用いることができる。NhaAタンパク質を産生する生体は、異なる塩度、pH、及び温度条件にて生存する。これらのNhaAタンパク質を用いることで、本発明のシステムを、さほどストリンジェントでない条件に適応させて、例えば、より広範囲のpHで機能することができるようになるはずである。
【0031】
上で定義したシステムの別の実施形態では、イオン輸送膜タンパク質は、大腸菌NhaAタンパク質のA167P変異体である。この変異は、NhaAタンパク質配列の167位のアラニン(A)の、プロリン(P)での置換に対応する。この変異体により、7.5個のH+に対して1個のLi+を有利に交換できるようになり、これにより、一層強力な電荷勾配が生成される。大腸菌由来のNhaAタンパク質の配列は既知であり、受託番号NC_000913、NC_000913.3(ヌクレオチド配列)、及び、受託番号NP_414560、NP_414560.1(ペプチド配列)として、NCBI GenBankデータベースにて入手可能である。大腸菌のNhaAタンパク質のA167P変異体の配列は、本特許出願と共に提出した配列表に示される、配列番号1である。
【0032】
別の実施形態では、上で定義したシステムは、少なくとも1つのイオン、例えば、H+イオン又はCa2+イオンの交換において、イオン輸送膜タンパク質により輸送されることができるイオンを供給するように構成される第1のタンクと、イオン輸送膜タンパク質により輸送されることができるイオンを隔離するように構成される第2のタンクと、を含み、第1のタンク及び第2のタンクは、逆ミセルを含む溶液のそれぞれの側に配置されている。これら第1及び第2のタンクが存在することは、逆ミセルを含有する溶液中でイオン勾配を生成する、及び、故に、例えば、このような勾配が存在する中で、プロトンH+とイオンとを交換するイオン輸送膜タンパク質によって、電圧を生じさせることができる一因である。
【0033】
特定の実施形態では、第1のタンクにより供給され、第2のタンクにより隔離されるイオンは、ナトリウムイオン(Na+)又はリチウムイオン(Li+)である。Na+又はLi+を供給し、隔離するこれら第1及び第2のタンクによって、逆ミセルを含有する溶液中でナトリウムイオン又はリチウムイオンの勾配を生成することが可能となり、故に、このような勾配が存在する中で、プロトンH+と、ナトリウム又はリチウムイオンとを交換する、例えばNhaA対向輸送体などのイオン輸送膜タンパク質により、電圧を発生させることが可能となる。
【0034】
上で定義したシステムの別の実施形態では、システムは、カソードとアノードとを含む。カソード及びアノードは、生成されたイオン勾配を電流に変換することを可能にする、容量性又は電気化学的酸化/還元電極である。
【0035】
本発明のシステムは、システムと生細胞との間で、シナプス接続の自己集合を可能にする生物学的シグナル伝達メカニズムを用いる生物学的構成要素で構成されるため、システムを埋め込んで用いる場合に対して、生細胞(神経及び筋肉など)に対して安定し、かつ生体適合性の接続を形成することができる。したがって、別の態様の下では、本発明は、埋込型医療デバイス、非埋込型医療デバイス、又は、ノマド消費者向け電子デバイス用の電圧源として、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを用いることに関する。
【0036】
特定の実施形態では、本発明は、哺乳類の生細胞及び体組織と接触させ、細胞及び組織のイオン及び化学応答を感知する、又は、イオンシグナルをもたらして、細胞及び組織の生体応答に影響を及ぼすために、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを用いることに関する。
【0037】
別の態様の下では、本発明は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの製造方法であって、
-脂質溶液の調製工程と、
-イオン輸送膜タンパク質を含む水溶液を脂質溶液に、一滴ずつ加える工程であって、脂質溶液/水溶液の体積比を2とすることで、エマルションである、逆ミセルを含む溶液を作製する工程と、
-逆ミセルを細分化して、逆ミセルのサイズを低下させ、逆ミセルの数及びエマルションの均質性を増加させる工程と、
-逆ミセルを互いに圧縮して、作製される脂質二重層の表面を増加させる工程と、
を含む、方法に関する。
【0038】
水溶液を脂質溶液に一滴ずつ加える場合、水溶液の滴はすぐさま、双極性脂質により囲まれ、これにより、個別化したまま逆ミセルを生成する。したがって、逆ミセルは(エマルションの疎水性相として知られている)脂質溶液中に存在し、脂質層により境界が定められる(エマルションの水相として知られている)水溶液を含有するベシクルとして定義することができる。
【0039】
脂質溶液の調製は、脂質を、鉱油などの油に加えることで実現することができる。一例として、脂質は、ヘキサデカンに溶解したアゾレクチンの溶液により供給される。水溶液の例としては、10~30μg/mLのイオン輸送膜タンパク質を含む、トリスHCl緩衝液(25mM)及びトリスKCl緩衝液(250mM)がある。水溶液は界面活性剤を含むのが好ましい。界面活性剤は有利に、エマルションを安定化させる。好適には、1~9の親水性-親油性バランス(HLB)値を備える界面活性剤を用いる。特定の実施形態では、用いる界面活性剤は、n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)(20~30μM)である。高濃度の塩(例えば、250mMのKCl)を用いることで、及び、MgCl2又はグリセロールが存在することによってもエマルションの安定性を得ることができる。ピッカリング効果も、エマルションの安定性を向上させるために用いることができる。
【0040】
逆ミセルの細分化は、溶液を撹拌することで実現することができる。例えば、ピペットを用いたフラッシュ技法などの、機械撹拌を適用することができる。細分化工程により、逆ミセルのサイズを低下させることが可能になり、逆ミセルの数、及びエマルションの均質性が増加する。得られた逆ミセルは、サイズが非常に不均質であり、数百マイクロメートルオーダーである。
【0041】
表面積の多分散度が、0.015μm~150μm、好ましくは0.020μm~150μm、より好ましくは1~150μmの範囲にある逆ミセルを含有するエマルションを得るために、第2の細分化工程を適用することができる。細分化のこの第2工程は、例えば、2つのシリンジ間で逆ミセルを含む溶液を迅速に移動させる等の、機械細分化とすることができる。
【0042】
逆ミセルを互いに圧縮することにより、ミセル間の脂質二重層の数を増加させることができ、故に、逆ミセルを含む溶液中での、脂質二重層の表面全体を増加させることができる。脂質二重層に配置されたイオン輸送膜タンパク質の数を増加させることで、ミセル間での、プロトンのより良い循環も可能である。好ましい実施形態では、圧縮エマルション1mL当たり、1.5m2以上の、好ましくは1.75m2/mL以上の、好ましくは1.9m2/mL以上の、より好ましくは2m2/mLに等しい、二重層の総面積に到達させるために、逆ミセルを互いに圧縮する工程が実施される。
【0043】
実施方法によれば、圧縮工程は、エマルションを遠心分離することにより実現することができる。例えば、13,400RPMで3分間の遠心分離をすることができる。この後、上清(大部分は脂質溶液)は除去する。
【0044】
別の実施形態の下では、本発明は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを用いる電圧の生成方法であって、逆ミセルを含む溶液に、溶液中に存在するイオン輸送膜タンパク質により、プロトンH+に対して特異的に交換可能なイオンを供給して、逆ミセルを含む溶液中でイオンのイオン勾配を適用する工程を含む、方法に関する。
【0045】
電圧を生成する方法の特別な実施形態では、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムに含まれるイオン輸送膜タンパク質は、大腸菌由来の膜貫通タンパク質NhaA、又は、大腸菌NhaAタンパク質のA167P変異体であり、逆ミセルを含む溶液に供給されるイオンはナトリウムイオン又はリチウムイオンであり、それぞれ、溶液中にナトリウム勾配又はリチウム勾配をもたらす。
【0046】
別の態様の下では、本発明は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを含む燃料電池に関する。このような燃料電池は、一般的な用法での「バッテリー」ともまた呼ぶことができる。
【0047】
このようなバッテリーは、埋込型医療デバイス、非埋込型医療デバイス、又は、ノマド消費者向け電子デバイス用の電圧源として用いることもまた可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本発明は、非限定例として与えられる以下の説明を、以下の図面を参照しながら読むことで、よりよく理解されるであろう。
図1図1は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの製造方法の細分化工程後に得られるエマルションの図面Aを表し、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの製造方法の圧縮工程後に得られる圧縮エマルションの図面Bを表し(イオン輸送膜タンパク質は表さない)、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの製造方法の圧縮工程後に得られる圧縮エマルションの図面Cを表し(非活性化イオン輸送膜タンパク質を黒正方形で表す)、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの製造方法の圧縮工程後に得られる圧縮エマルションの図面Dを表し、非活性化(黒正方形)及び活性化(白正方形)されたイオン輸送膜タンパク質が当該イオン輸送膜タンパク質によりプロトンH+と特異的に交換可能なイオンのイオン勾配の存在下に示されている。
図2図2は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの圧縮エマルションが、第1のタンクと第2のタンクとの間に配置され、第1のタンクがプロトンと交換されてイオン輸送膜タンパク質(NhaA)により輸送されることが可能なイオン(Na+)を供給し、第2のタンクが当該イオンを隔離するように構成されている、本発明の一実施形態の図面Aを表し、イオン勾配(Na+勾配)が、圧縮エマルションに存在するイオン輸送膜タンパク質(NhaAタンパク質)によって圧縮エマルションの適切な位置に存在し、第1のタンクから第2のタンクにNa+の輸送を行う、(A)におけるものと同じ実施形態の図面Bを表す。
図3図3Aは、63倍の対物レンズ(顕微鏡視野内でのミセルの直径は、1~5μm)を備えた共焦点顕微鏡により撮影した、圧縮エマルションの画像を表し、この画像上には、2つの逆ミセルの間での、分極脂質二重層での起電性対向輸送体(NhaAタンパク質)と、Na+イオンがカソード(第1のタンクの役割を果たす)により圧縮エマルションに供給され、アノード(第2のタンクの役割を果たす)により隔離される場合の、起電性対向輸送体によるプロトン2H+及びNa+イオンの移動が描かれている。図3Bは、63倍の対物レンズ(エマルション中のミセルの直径は、1~5μm)を備えた共焦点顕微鏡により撮影した、圧縮エマルションの画像を示し、この画像上には、プロトン2H+及びNa+イオンの移動が描かれている。図3Cは、63倍の対物レンズを備えた共焦点顕微鏡により撮影した、圧縮エマルションの画像を示し、この画像上には、プロトン2H+及びNa+イオンの移動が描かれている。図3Dは、Cよりも拡大倍率を小さくした、圧縮エマルションの概略図を示し、この画像上には、プロトン2H+及びNa+イオンの移動と、Na+イオンがカソードにより圧縮エマルションに供給され、アノードにより隔離される箇所とが描かれている。
図4図4は、圧縮エマルションの形態の本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムと、カソードと、アノードとを封入する、密封封止されたエンベロープを含む燃料電池の縦断面の図Aを表し、当該バッテリーの横断面の図Bを表す。
図5図5は、2つの逆ミセル間の脂質二重層に組み込まれた、イオン輸送膜タンパク質としてのNhaAタンパク質による、イオン輸送の数学的モデルを図解した図面を表す。
図6図6は、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムのモデルに由来する一連の接触する逆ミセルの数に関する、定常状態でのH+イオンの勾配(ΔpH)のグラフ表示を示す。
図7図7は、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムのモデルに由来する一連の接触するミセルの数に関する、定常状態での電圧の勾配(ΔVm)のグラフ表示を示す。
図8図8は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムにおける、ミセルの断面面積の分布のグラフ表示を示す。
【0049】
これらの図面において、ある図面と他の図面における、同じ番号の参照は、同一又は同様の要素を示す。さらに、明確性の理由から、別途記載のない限り、図面は縮尺どおりではない。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下の説明は、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムであって、逆ミセルを含む溶液がエマルションである、システムの作製の詳細について記載している。以下の説明において記載する手順は、本発明を開示するための好ましい手順である。以下の詳細な説明において、記載される実施形態は、イオン輸送膜タンパク質が、少なくとも1つのイオンの逆交換により、プロトンH+を一の逆ミセルから他の逆ミセルに輸送することを可能とする、起電性対向輸送体である、本発明の実施形態である。
【0051】
[大腸菌由来の単離NhaAタンパク質を得るための手順]
タンパク質産生は、Kubicekらに基づく手順に従った(“Expression and purification of membrane proteins”, Methods in Enzymology 2014, 541, 117-140)。NhaAタンパク質遺伝子を、過剰発現のためにプラスミドベクターpET15b(Novagen(登録商標))を用いて、大腸菌株C43(DE3)に導入した。600nmでの光学密度(OD600)が0.4に達するまで、細胞を37℃で、LB培地を含有するアンピシリン中で培養した。次に、200μmのIPTG(イソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド)を培地に加え、NhaA遺伝子の過剰発現を誘発した後、5時間さらに培養した。得られた細胞を、8000rpmで5分間の遠心分離により回収し、ペレットを形成した。
【0052】
精製のために、ペレットをまず、20mMのトリス、500mMのKCl、10mMのイミダゾール、並びに、12.6%(v/v)グリセロール、加えて、リゾチーム及びベンゾナーゼヌクレアーゼを含有する結合緩衝液と共に30分間インキュベートした。インキュベートした細胞をフレンチプレスセル内で破壊し、続けて、14000rpmで20分間の遠心分離にかけた後、36000rpmで2時間の超遠心分離にかけ、可溶性構成成分から膜画分を分離した。次に、膜画分を、追加の20mMのDDMを含む結合緩衝液中に再懸濁させ、一晩インキュベートした。固定化金属アフィニティークロマトグラフィーカラム(Ni-NTAアガロース、Qiagen)を用いて精製を行った。カラムをまず、結合緩衝液で平衡化した後、膜画分を2時間インキュベートした。洗浄緩衝液で洗い流した後、精製NhaAを、20mMのトリス、500mMのKCl、300mMのイミダゾール、12.6%(w/v)のグリセロール、及び225μmのDDMの溶出緩衝液中に、0.5~2mg/mL、好ましくは0.75mg/mLの濃度で回収した。
【0053】
[脂質溶液を得るための手順]
脂質溶液は脂質で構成され、まず脂質を、350mg/mL~1g/L、例えば500mg/mLの濃度でヘキサデカンに溶解する。用いる脂質は、アゾレクチン(ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルコリン(PC))などの脂質の標準的な混合物若しくは純粋な脂質、又は、異なる範囲の濃度の脂質の混合物(即ち、PC/カルジオリピン(CL))、又は、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)などの植物脂質、又は、古細菌(ジフィタニル脂質、エーテル脂質)由来の脂質、又は合成脂質であることができる。古細菌由来の脂質は、脂質溶液及びエマルションに対して、より高い安定性を有利にもたらす。アゾレクチンは乳化剤である。
【0054】
次に、この第1の溶液を、鉱油に1/100で溶解し、最低3.5mg/mL、通常5mg/mLの脂質濃度を得る。鉱油は、飽和アルカン(C7~C40)の混合物を含む。
【0055】
[水溶液を得るための手順]
水溶液を得るために、精製工程において得た溶出緩衝液中の0.75mg/mLのNhaAタンパク質に由来する10~60μLのNhaAタンパク質(理想は40μL)を、以下を含むあらかじめ調製した500μLの溶液に加える。
【0056】
-トリス(25mM、pH7)(他の種類の緩衝液、例えば、リン酸カリウム緩衝液又はHepesを用いることができるが、Na+を含有してはならない;これにより、NaOHを形成してpHが平衡するのを防ぐ)
-KCl(250mM)(150~300mM、Na+又はLi+を除く他の塩を用いることができる)。300mMを超えると脂質が不安定になるリスクがあり、150mMを下回ると、Na+を加える際に、全体の浸透圧モル濃度が変化するリスクがある。
-グリセロール(3%)(0~3%)
-MgSO4(1%)(0~1%)
【0057】
[逆ミセルを含む溶液が圧縮エマルションである、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムの調製]
まず、上述のとおりに調製した1mLの脂質溶液をチューブに加える。この脂質溶液は、進行中のエマルションの疎水性相を表す。
【0058】
次に、上述のとおりに調製した、NhaAタンパク質(イオン輸送膜タンパク質)を含む水溶液(500μL)を、ピペットを用いて一滴ずつ、チューブに加える。水溶液は、進行中のエマルションの水相を表す。水相は、エマルションの不連続相である。2に等しい脂質溶液/水溶液の体積比が重視される。
【0059】
水溶液の滴はすぐさま、双極性脂質により取り囲まれるため、チューブの底で個別化したままとなる。本工程は、エマルションと呼ぶことができる、溶液中での逆ミセルの生成を導く。DDM界面活性剤の存在下において、水溶液中に存在するNhaA起電性タンパク質は、逆ミセル同士の接点にて形成される脂質二重層に、自然に局在化する。NhaA起電性タンパク質は無作為に配向される。
【0060】
次の工程は、逆ミセルを細分化し、逆ミセルのサイズを小さくして、逆ミセルの数、及びエマルションの均質性を増加させる、第1の細分化工程に対応する。本工程を実現するために、逆ミセルを含む溶液を、ピペットによるフラッシュ技術を用いて、機械撹拌する。約20回のフラッシュが、ピペットにより行われる。エマルションは、乳汁状/乳状の外観をとる。得られた逆ミセルは、サイズが非常に不均質であり、数百μmオーダーである。エマルションはここで、均質となる。
【0061】
多分散度が1~150μmの範囲にあり、最大値が1μm付近にあるベルカーブの形状を有するエマルションを得るために、第2の細分化工程を適用する。この第2の細分化は、2つのシリンジ間でエマルションを速やかに移動させることにより、機械的に実現される。
【0062】
得られたエマルション10(図1A)は、水溶液12の2倍の量の、脂質溶液11(33%の水溶液、及び、66%の脂質溶液)を含む。
【0063】
次に、脂質二重層13の数を増やしてエマルション10の中での脂質二重層13の表面全体、及び、脂質二重層中に配置される(逆ミセル14間でのプロトンの循環を向上させる)イオン輸送膜タンパク質15の数を増やすために、逆ミセルを互いに圧縮する工程を行う。本工程は、13,400RPMで3分間、チューブ内でエマルションを遠心分離することにより実現される。次に、上清(大部分は脂質溶液)を捨てる。チューブには、イオン輸送膜タンパク質15が脂質二重層13中に配置された、圧縮エマルション10(図1B、1C)が残る。この圧縮エマルション10は、92%の水溶液12と、8%の脂質溶液11とを含む。圧縮エマルション10中では、圧縮された逆ミセル14は多面体形状を有する。逆ミセルの表面積の対数分布が、エマルションの画像を分析することにより得られる(図8)。
【0064】
[本発明の圧縮エマルションによる電圧の生成]
上で記載したとおり、脂質溶液11をほぼ完全に除去した。圧縮エマルション10の中には、脂質溶液11は8%しか残っておらず、脂質溶液の疎水性相を発現する。疎水性相は、逆ミセル同士の界面により発現する。これらの界面は、ネットワーク内で接続された脂質二重層13である。疎水性相は絶縁性であり、水溶液12により発現する導電性水相は逆ミセル14中に隔離されているため、圧縮エマルション10の形態でのナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムも、絶縁性である。
【0065】
水溶液により提供されるイオン輸送膜タンパク質15は、逆ミセル14同士の接点に形成される脂質二重層13に局在化している。脂質二重層13のいずれかの側に、L+又はNa+と、H+とのイオン差が存在しない場合、イオン移動は発生しない。イオン輸送膜タンパク質15は活性化されない(図1Cにおける黒の正方形)。
【0066】
イオン輸送膜タンパク質15により、H+に対して特異的に交換可能なイオン、例えば、NhaAタンパク質におけるNa+又はLi+図1D)が圧縮エマルション10に供給される場合、イオン輸送膜タンパク質15は、脂質二重層13の両側にイオン差がある場合にのみ活性化される(図1Dにおける白の正方形)。イオン濃度が等しい2つの領域を分離する脂質二重層13の面に位置するイオン輸送膜タンパク質15は、不活性のままである(図1Dにおける黒の正方形)。存在する場合、イオン濃度の差は、一定方向へのイオン移動を生み出し、それ故に、イオン勾配及び電圧を生成する。
【0067】
特別な実施形態では、逆ミセルを含む溶液(ここでは、圧縮エマルション10)にイオン勾配を適用し、電圧を生成するために、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムは、圧縮エマルション10中に存在するイオン輸送膜タンパク質15により、プロトンH+に対して特異的に交換可能なイオンを供給するように構成される第1のタンク16と、イオンを隔離するように構成される第2のタンク17と、を含み(図2A)、第1のタンク16及び第2のタンク17は、圧縮エマルション10の一方にそれぞれ配置されている。もちろん、第1のタンク16は圧縮エマルション10と接することで、第1のタンク16が供給するイオンが、第1のタンク16を通って圧縮エマルション10に進むことができる。第2のタンク17もまた、圧縮エマルション10と接することで、イオン輸送膜タンパク質15により圧縮エマルション10を通過したイオンが、第2のタンク17に捕捉できる。
【0068】
第1のタンク16により供給され、第2のタンク17により隔離されるイオンは、イオン輸送膜タンパク質15がNhaAタンパク質である、又は、Na+若しくはLi+イオンの交換時にプロトンを輸送する別のイオン輸送膜タンパク質15である場合に、例えば、Na+イオン又はLi+イオンであることができる。図2A及び2Bに示す実施形態では、供給され隔離されるイオンは、Na+イオンである。
【0069】
図2Bに示すように、脂質二重層13内に位置するイオン輸送膜タンパク質15によって、及び、最初は、第1のタンク16と逆ミセル14との間でのイオン濃度の差、次いで、異なる逆ミセル14間でのイオン濃度の差によって、ナトリウムNa+は第1のタンク16を離れ、圧縮エマルション10を通り第2のタンク17で隔離され、これによって、圧縮エマルション10中にナトリウム勾配が生み出される。
【0070】
図3に表す実施形態では、イオン輸送膜タンパク質15はNhaAタンパク質であり、用いるイオン勾配は、ナトリウム(Na+)勾配である(図3A)。図3A、3B、3C、及び3Dに示すように、Na+は脂質二重層13の右側に、H+は左側に進む(一定方向へのイオン移動)。
【0071】
特定の実施形態では、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムは、第1及び第2のタンク(16、17)の役割を果たす容量性又は電気化学的酸化/還元電極と、(第1のタンク16の役割を果たす)カソード18と、(第2のタンク17の役割を果たす)アノード19と、を含む(図3D)。これらの電極により、生み出されたイオン勾配を電流に変換することができる。したがって、好適には、本発明の態様の1つは、圧縮エマルション10、カソード18、及びカソード19の形態の、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを含む燃料電池20(一般的にバッテリーとも呼ばれる)である(図4A、4B)。好適には、燃料電池20は、埋込型医療デバイスを駆動するために、哺乳類に埋め込み可能である。
【0072】
[エマルションの形態のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを含む燃料電池:埋込型燃料電池の実現]
特別な実施形態では、燃料電池20は、圧縮エマルション10の形態でナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムと、カソード18と、アノード19とを封入する、密封封止されたエンベロープ21を含む。
【0073】
エンベロープ21は、イオン及び分子を透過可能である。エンベロープ21は、燃料電池20の、エンベロープ21以外の他の構成要素を、哺乳類の体と接触させないことにより、燃料電池20を哺乳類の体内に埋め込み可能にする利点をもたらす。一例として、エンベロープ21は、ポリビニルアルコール(PVA)ヒドロゲル製である。PVAヒドロゲルは、イオン及び分子を透過可能である。エンベロープ21は、封止チューブの形態をとるのが好ましい(図4)。
【0074】
カソード18は、導電性材料23で覆われ、容量性材料24が含浸された(イオン伝導及び電導を行う)不活性支持体22と、不活性支持体22の厚みの中に位置する第1のコレクタ25と、を含む。
【0075】
本実施形態では、不活性支持体22は中空円筒形状をとり、架橋型ポリウレタン発泡体製である。ポリウレタン発泡体は、導電性多孔質炭素層である導電性材料23で覆われ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)である容量性材料24が含浸されている。少なくとも1つ、好ましくは6つの金ワイヤが、不活性支持体22の厚みの中に位置するコレクタ25として機能する。金の代わりに、ワイヤは、例えば、錫引き銅製とすることができる。
【0076】
第1のコレクタ25は、不活性支持体22から、エンベロープ21を通って燃料電池20の外側まで延びる。第1のコレクタ25は、少なくとも、不活性支持体22から燃料電池20の外側まで延びる部分が覆われている。第1のコレクタ25の外装26は、ポリエステル製が好ましい。
【0077】
大きくなった表面積を有するカソード18は、多数の、圧縮エマルション10の分極した脂質二重層13と密接している。
【0078】
アノード19は、細長状の微孔性導電性材料28を封入する、イオン透過性カバー27と、微孔性導電性材料28の厚さの中に位置する第2のコレクタ29と、を含む。
【0079】
イオン透過性カバー27は、PVAヒドロゲル製が好ましい。
【0080】
本実施形態では、微孔性導電性材料28は、微孔性炭素(20%~80%)、二硫化モリブデン(MoS2)(20%~80%)、還元酸化グラフェン(rGO)(20%~80%)、及び、ポリアクリル酸(PAA)(5~40%)の混合物を含む。
【0081】
微孔性炭素及び還元酸化グラフェンと組み合わせた形態の、アノード中の二硫化モリブデンによって、ナトリウムイオンを隔離することができる。
【0082】
少なくとも1つ、好ましくは6つの金ワイヤが、微孔性導電性材料28の厚みの中に位置する第2のコレクタ29として機能する。金の代わりに、ワイヤは、例えば、錫引き銅製とすることができる。
【0083】
第2のコレクタ29はカバー27を通り、カバー27からエンベロープ21を通って、燃料電池20の外側まで延びる。第2のコレクタ29は、少なくとも、カバー27から燃料電池20の外側まで延びる部分が覆われている。第2のコレクタ29の外装30は、テフロンとも呼ばれるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であるのが好ましい。
【0084】
アノード19は、その表面領域が、多数の、圧縮エマルション10の分極した脂質二重層13と密接し、カソード18の中空円筒状不活性支持体22のほぼ中心に配置され、カソード18とアノード19の間に圧縮エマルション10が存在する。
【0085】
[カソード18の製造]
カソード18は、多孔質材料、ここでは、導電性材料23(ここでは、導電性インク)を含浸させることで導電性が付与されたポリウレタン発泡体である、不活性支持体22を利用することにより形成されるのが好ましい。導電性インクは、活性炭(100mg~300mg)、MoS2(200mg)、rGO(40mg)、及びPEDOT:PSS(100μL)を組み合わせることにより作製される。PEDOT:PSSは、2種類のイオノマーの、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリ(スチレンスルホネート)(PSS)のポリマー混合物である。好適には、ポリウレタン発泡体の含浸は、Tween(登録商標)20などの洗浄剤を、蒸留水中で0.8%~20%に希釈して加えることにより補助される。あるいは、カソード18は、活性炭フィルターとして用いるように設計されており、当業者に既知のエレクトロニクス供給企業から入手可能な発泡体などのポリウレタン発泡体を、当該ポリウレタンに活性炭を既に含めることで、既に導電性を付与した不活性支持体22として用いて構築することができる。この、代替の構築方法において、導電性ポリウレタン発泡体は、PEDOT:PSS、エチレングリコール(200μL)、及び、洗剤のTween(登録商標)20(蒸留水に1%希釈)を含む溶液で被覆される。
【0086】
次に、第1のコレクタ25の覆われていない部分を、ポリウレタン発泡体に挿入する。
【0087】
[アノード19の製造]
アノードは、ペースト形態で微孔性導電性材料28をもたらすための、いくつかの構成要素で作製される。ペーストを作製するためのこれらの構成要素としては、活性炭(100mg~300mg)、MoS2(200mg)、rGO(40mg)、PAA(200mg)、及び蒸留水(4mL)が挙げられる。好適には、ペーストの導電性は、ペーストに、2種類のイオノマーの、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリ(スチレンスルホネート)(PSS)のポリマー混合物である、PEDOT:PSSの溶液(100μL)を加えることにより向上させることができる。
【0088】
微孔性導電性材料28の準備ができたら、当該材料を細長状にし、長さに沿って溝を設ける。次に、第2のコレクタ29の覆われていない部分を溝に挿入し、微孔性導電性材料28自体を、その長さに沿ってヒダにより閉じ、溝の中に位置する第2のコレクタ29の部分を完全にカバーする。
【0089】
次に、微孔性導電性材料28を、PVAヒドロゲルのカバー27の中に封止する。当該材料は、PVAヒドロゲルの自己修復により密封封止される。第2のコレクタ29の覆われた部分は、カバー27を通って、当該カバー27の外側まで延びる。
【0090】
[燃料電池の製造]
アノード19は、中空円筒状発泡体のカソード18の中央に挿入される。
【0091】
次に、カソード18とアノード19の両方が、PVAヒドロゲル内のチューブ状エンベロープ21に挿入される。次に、エンベロープ21が圧縮エマルション10で満たされ、PVAヒドロゲルの自己修復により密封封止される。カソード18及びアノード19は、これらの間に圧縮エマルション10が存在するように配置される(図4A、4B)。
【0092】
第1のコレクタ25の覆われた部分、及び、第2のコレクタ29の覆われた部分は、エンベロープ21を通って当該エンベロープ21の外側まで延びる。第1のコレクタ25及び第2のコレクタ29の、これらの覆われた部分は、例えば、埋込型又は非埋込型医療デバイスに接続することができる。
【0093】
燃料電池の形態の、ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムを用いることで、カソード18がH+イオンを捕捉し、アノード19がNa+イオンを捕捉するようになる。実際、燃料電池20が稼働しているとき、Na+イオンは、イオン及び分子を透過可能であるため、エンベロープ21を通過することにより、エンベロープ21の外側から(任意のNa+イオン源から)燃料電池20に(エンベロープ21の内側に)もたらされる。燃料電池20に入ってくるこれらのNa+イオンは圧縮エマルション10を通過し、アノード19により捕捉されることで、圧縮エマルション10内でナトリウムイオン勾配を形成する。ナトリウムイオン勾配が生み出されることで、圧縮エマルション10を通るナトリウムイオン勾配とは反対方向にH+イオン勾配が生成され、カソード18がH+イオンを捕捉する。カソード18及びアノード19は、生み出されたイオンNa+及びH+勾配を電流に変換する。したがって、電子デバイスは、電子デバイスが第1のコレクタ25及び第2のコレクタ29に接続している場合に、燃料電池20により駆動することができる。
【0094】
[ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム中での逆ミセルの最適数の計算]
ナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステム中での、逆ミセルの最適数の特徴は、生体模倣ニューロフィリックシステムのイオン輸送モデリング(図5)により測定され、逆ミセルの数と、H+イオン(pH)の定常状態勾配との関係を図6に示す。pH勾配は、膜で生成する電圧とも直接対応している(図7)。
【0095】
本発明者らは、2つの逆ミセル間の脂質二重層膜に配置された、イオン輸送膜タンパク質としてのNhaAタンパク質による、イオン輸送の数学的モデルを開発した。
【0096】
図5に示すように、Na+及びH+イオンは、それぞれa及びcの結合速度で逆ミセル1内で競合して、NhaAイオン輸送膜タンパク質の活性部位C12に結合する。この段階で、NhaA対向輸送体は、逆ミセル1に活性部位を、そして、逆ミセル2に不活性部位を有する。簡略化するために、H+ 1が2個のプロトンを表し、Na+ 1が、逆ミセル1内のナトリウムイオンであるとする。NhaA対向輸送体は、交互アクセスの原理に従い作用する。あるイオンが、単独の基質結合部位に結合して、錯体HC12又はNaC12のいずれかを生成すると、熱力学的に好ましいコンフォメーション変化によって、イオン及び活性部位の両方を、それぞれk12及びf21の速度で、膜の他の側に移動させる。活性部位移動のこのようなメカニズムにより、あらゆるさらなるイオン漏出が防がれる。逆ミセル2中では、錯体HC21及びNaC21が、それぞれb及びdの速度で、活性部位C21、並びにイオンH+ 2及びNa+ 2に解離する。pHはH+イオンの量を測定するため、Na+及びH+イオンの競合は、活性なpH感知メカニズムの存在を援用することなく、NhaA対向輸送体のpH依存性を説明するには十分であることが示されている。
【0097】
本発明者らはまず、単一膜での輸送の事例を調査し、その後、単純な一連の逆ミセルでの、そして最後に、複雑な3D形状での輸送の事例を調査した。本モデルでは、一連の逆ミセルは全て、同じ容積を有するものとする。一般的に、逆ミセルの容積は、イオンの平均拡散距離よりもはるかに大きい可能性がある。それ故に、本発明者らは、イオン輸送膜タンパク質の活性部位と反応できない逆ミセルのバルクにおいても、イオンが拡散する(即ち、イオンが、イオン輸送膜タンパク質が位置する膜から遠く離れて移動することができる)可能性を含めた。表面のH+、Na+におけるイオンと、バルクのH+*、Na+*で拡散するイオンの移動速度はそれぞれ、λ及びγである。
【0098】
逆ミセル1中での構成要素の濃度([nM]で測定)の時間発展を説明する微分式のシステム(ODEシステム1)は、以下のとおりである:
【数1】
式中、a及びcは、[1/(s nM)]で測定し、b、d、k、及びfは[1/s]で測定する。
【0099】
表1は、これらの値全てについて示す:
【表1】
一連の新しい逆ミセルを加える場合、従来の微分式のシステム(ODEシステム1)に、逆ミセルの数に対応する指数を備える同様の式を加えることが求められる。
【0100】
各逆ミセルのpH値は、以下の式によるH+イオンの濃度により示される:
【数2】
式中、係数の2は、H+が2つのプロトンに対応するという事実から導かれ、10-9は、[nM]を[M]に変換し、分母の[M]は、常用対数の独立変数を無次元にする。
【0101】
pHの演算において、(逆ミセルのバルク及び表面で)利用可能なイオンのみを含め、イオン輸送膜タンパク質との複合体に見出されるイオンは(移動することができないため)含めない。
【0102】
図6は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムのモデルに由来する一連の接触する逆ミセルの数に関する、定常状態で活性化したH+イオンの勾配(ΔpH)の、グラフ表示を示す。システムは、(t=0の時点での)pH7から始まり、Na+イオンの開始濃度は0.1mMである。各ミセル中のNhaAタンパク質の濃度は、0.01mMである。
【0103】
パッチクランプ実験を用いて、膜電圧、即ち、電圧差を生じさせて電流を誘導し、利用することが可能な電圧を測定することが可能である。2つの逆ミセル間での膜電圧は、ゴールドマンの式により求められる:
【数3】
【0104】
図7は、本発明のナノ構造生体模倣ニューロモルフィックシステムのモデルに由来する一連の接触する逆ミセルの数に関する、定常状態で活性化した電圧の勾配(ΔVm)の、グラフ表示を示す。このシステムは、図6に関して上で示したものと同じパラメーター(pH(t=0における時点)、各ミセル中でのNa+イオンの濃度及びNhaAタンパク質の濃度)で開始する。
【0105】
ODEシステム1は、逆ミセルラインで数回繰り返される、機能ユニットを表す。変数及び式の数は、一連のミセルの数Nが増加すると、10N-6増加する。新しい、従来の微分方程式システムを毎回書き記すことが不可能なのは、明らかである。
【0106】
[圧縮エマルション中での全二分子膜面積の計算]
圧縮プロセスの間に、二分子膜の形成によって、逆ミセル中の過剰の液体が乾燥するということを、推定することができる。この場合、エマルションは乾燥発泡体に似ているはずである。乾燥発泡体に関して、均衡時の最も好ましい条件はプラトーの法則に従うため、ミセルは、各平面部分で会合する3つの二分子膜と組織化し、2次元では120°の角度を、3次元では109.5°の頂点角を形成する。
【0107】
圧縮工程中に、圧縮されていない観測結果に従った体積分布から始まって、逆ミセルがほとんど合着しないと推定するのであれば、最終の圧縮ミセルはそれぞれ、異なる体積及び表面積を有することができる。これは、多分散発泡体に似ている。したがって、各逆ミセルは、異なる寸法である隣の逆ミセルと、表面領域を分かち合い、異なる量のイオン輸送膜タンパク質を収容することができる。簡略化したままにするため、各逆ミセルが、平均体積Vm及び平均表面積Amを有するものとする。逆ミセルの圧縮度合いを調節する、調節パラメーターCを導入する。
【0108】
例えば、均質な遊離ミセルは、そのエネルギー状態を最小限にすることで球状のコンフォメーションをとり、以下の体積を有する:
【数4】
【0109】
体積がVBの箱を逆ミセルで満たすと仮定すると、空間が、それぞれの側面で他の球体と接触する球体により満たされる最小のコンフォメーションは、そのようなミセルが立方体に内接するときであるため、球体の少なくとも6箇所で、いくつかの二分子膜が形成している。これが、イオンを確実に連続輸送する最低のケースであると推定する。接点がこれよりも少ない、オーダーの小さい他の構造も実現可能である。故に、逆ミセルで占有される体積は、以下のとおりである:
【数5】
式中、Vcは、立方体の体積である。
【0110】
ミセルを圧縮し、その形状を変えて立方体に適合させ、体積を一定に維持することを考えることができる。このような場合において、占有率は以下のとおりである:
【数6】
【0111】
一般的に、Nmは、体積Vbを有する箱の中にある逆ミセルに等しいと推定することができる。故に、
【数7】
式中、Cは0.1に等しく、圧縮比率を説明する調節パラメーターである。
【0112】
充填比率Cを考慮すると、圧縮比率Cに応じて、一定数の箱に、異なる数の逆ミセルを割り当てることができる。
【数8】
【0113】
高密度圧縮における、球体により占有される最大の平均比率密度(体積の最大部分)は、C=総体積の0.74であることが示された。ミセルを変形させることで、充填比率Cは、最大1まで、より大きくなることができる。
【0114】
圧縮されると、逆ミセルの総体積は同じままであるが、形状が球体ではなくなるために、表面積は、球体の面積を計算するための通常の式とは異なると推定することができる。発泡体で観察される、最も一般的な3D形状は、13面を有する不規則な多面体であることが示されている。単純化するために、規則的な形状のみが存在すると仮定することができる。演算モデルから、表面積の平均は、以下のとおりであることが知られている:
【数9】
式中、bは5.3に等しく、定数である。
【0115】
球体においては、bは4.8に等しい。
【0116】
圧縮工程の間で体積は一定であり、面積が変化し、過剰な面積が溶液の残りの中で再分配されることを考慮すると、関係を公式化するための等価な方法は、圧縮されていない遊離球状の逆ミセルの関数とすることである:
【数10】
式中、RmUNは、圧縮ミセルと同じ体積の、等価な遊離ミセルの半径であり、
【数11】
cは、3.3に等しい定数である。
【0117】
エマルションを圧縮する前の、平均逆ミセル半径を測定することにより、RmUNは実験によって入手することができる(本プロセス中に、合着が生じないものとする)ため、これは便利な方法である。
【0118】
前述の式([数4]及び[数10])に従うと、非球状逆ミセルの面積は、以下となる:
【数12】
【0119】
球体においては、cは3に等しい。
【0120】
次に、圧縮工程中に、逆ミセルの一部の圧縮が生じ、本プロセスにおいて、cは3より大きくなる:
【数13】
式中、原則としてcmaxは、いくつかの球体に対しては3.3より大きくなることができる。
【0121】
次に、以下のとおりであることが分かっている:
【数14】
【0122】
π/6より小さいCにおいては、ミセル同士が完全に接触はしておらず、依然として球体であるため、cは3に等しいということを推定することができる。π/6より大きいが1より小さいCにおいては、圧縮が増大しており、cは3より大きいが、cmaxよりも小さい。ここで、以下のような線形関係を推定することができる:
【数15】
【0123】
逆ミセル全ての総面積は、Nm×Amである。逆ミセルが接触したら、即ち、Cがπ/6より大きくなったら、逆ミセルは二分子膜を形成し始める。Cがπ/6より小さければ、二分子膜は形成されず、Cがπ/6より大きく、1より小さければ、二分子膜の総面積は、以下のとおりとなる:
【数16】
これは、二分子膜が2つのシートを有するためであり、hは、二分子膜における総面積の一部である。
【0124】
hは、Cとは複雑な関係を有しているはずであるものの、hは、Cがπ/6より大きく、1より小さい範囲においては、Cと線形であるということを推定することができる。
【数17】
【0125】
次に、以下の式がある:
【数18】
【0126】
次に、圧縮因子Cの関数として、c、h、及びABImを示すプロットを実現することが可能となる。1mLの箱において、最大圧縮時の、二分子膜の総面積はおよそ2m2である。
【0127】
より一般的には、上記で考慮される本発明の実施様式及び実現様式は、非限定例として記載されており、それ故に、他の変形が考えられることに留意すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024519264000001.app
【国際調査報告】