(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】バイオポリマーに基づくメンブレンを用いて建物の気密性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/66 20060101AFI20240501BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
E04B1/66 A
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561307
(86)(22)【出願日】2022-04-05
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 FR2022050635
(87)【国際公開番号】W WO2022214763
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502425053
【氏名又は名称】サン-ゴバン イゾベール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル アゼベド
(72)【発明者】
【氏名】マリオン シュナル
【テーマコード(参考)】
2E001
4F100
【Fターム(参考)】
2E001DB01
2E001DB04
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(57)【要約】
本発明は、建物又は建物内の部屋の気密性を向上させるための方法に関し、建物又は建物内の部屋の壁の内面上に蒸気バリアメンブレンを用いることを含み、蒸気バリアメンブレンが、活性部分を有する湿度調整メンブレンであることを特徴とし、
活性部分が、
- 中間層であって、2μm~200μm、好ましくは4μm~100μmの厚さを有し、水蒸気透過係数P1を有するバイオポリマーから成り、水蒸気透過係数P1は、平均相対湿度とともに増加し、23℃かつ平均相対湿度25.5%で測定したとき、少なくとも600Barrerである、中間層、
及び、この中間層の両側にあり、かつ好ましくはこれに接触している、
- 2つの外層であって、100nm~20μm、好ましくは200nm~2.5μmの厚さを有し、互いに独立して、水蒸気透過係数P2を有する有機ポリマーから成り、水蒸気透過係数P2は、23℃かつ平均相対湿度25.5%で測定したとき、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである、2つの外層、
を有する、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物又は建物内の部屋の気密性を向上させるための方法であって、前記建物又は前記建物内の前記部屋の壁の内面上における蒸気バリアメンブレンの使用を含み、前記蒸気バリアメンブレンが、活性部分を有する湿度調整メンブレンであることを特徴とし、
前記活性部分が、
- 中間層であって、2μm~200μm、好ましくは4μm~100μmの厚さを有し、水蒸気透過係数P
1を有するバイオポリマーから成り、前記水蒸気透過係数P
1は、平均相対湿度とともに増加し、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、少なくとも600Barrerである、中間層、
及び、前記中間層の両側における、かつ好ましくは前記中間層と接触している、
- 2つの外層であって、100nm~20μm、好ましくは200nm~2.5μmの厚さを有し、互いに独立して、いずれも水蒸気透過係数P
2を有する有機ポリマーから成り、前記水蒸気透過係数P
2は、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである、2つの外層、
を有する、
方法。
【請求項2】
前記中間層を形成する前記バイオポリマーが、オシド、タンパク質、及び生物由来モノマーから得られる合成ポリマーから成る群から選択される、生物由来バイオポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オシドが、アルギン酸、カラギーナン、セルロース、特には再生セルロース、キチン、キトサン、ペクチン、デキストリン、デンプン、カードラン、FucoPol、ジェランガム、プルラン及びキサンタンから成る群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、グルテン、分離大豆タンパク質、ゼイン、乳清タンパク質、カゼイン、コラーゲン及びゼラチンから成る群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記オシド及びタンパク質が、化学的に修飾されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
生物由来モノマーから得られる前記合成ポリマーが、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、脂質モノマーの重合によって得られるポリマー、熱硬化性ポリマーであって、単糖、二糖、オリゴ糖及び/又はアルジトールとポリカルボン酸及び/又はポリアルデヒドとの反応によって得られる熱硬化性ポリマー、から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオポリマーが、脂肪族ポリエステル、脂肪族コポリエステル、芳香族コポリエステル及びポリエステルアミドからなる群から選択される生分解性ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生分解性バイオポリマーが、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)、ポリ(ブチレンサクシネート-コ-アジペート)、及びポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)(PBAT)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記外層を構成する前記有機ポリマーが、脂肪族ポリオールと芳香族ポリ酸との重縮合によって得られる半芳香族ポリエステルから成る群、好ましくはポリ(エチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、及びポリ(エチレンナフタレート)、並びに対応するコポリエステルから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記中間層が、セルロースでできており、前記2つの外層が、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)から成ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記メンブレンの前記活性部分が、5.0μm~240μm、好ましくは10μm~120μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記蒸気バリアメンブレンが、前記活性部分の前記外層の1つと接触する、補強層又は保護層をさらに有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記建物の壁又は前記建物内の前記部屋の壁が、熱遮断材によって覆われており、前記蒸気バリアメンブレンが、前記熱遮断材に対して内部の位置に適用されるか、又は前記メンブレンが、前記熱遮断材内に一体化されていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記熱遮断材が、鉱物繊維若しくは有機繊維、天然繊維、合成繊維又は人工繊維でできていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
活性部分を有する湿度調整蒸気バリアメンブレンであって、
前記活性部分が、
- 中間層であって、2μm~200μm、好ましくは4μm~100μmの厚さを有し、水蒸気透過係数P
1を有するバイオポリマーから成り、前記水蒸気透過係数P
1は、平均相対湿度とともに増加し、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、少なくとも600Barrerに等しい、中間層、
及び、前記中間層の両側における、かつ好ましくは前記中間層に接触している、
- 2つの外層であって、100nm~20μm、好ましくは200nm~2.5μmの厚さを有し、互いに独立して、いずれも水蒸気透過係数P
2を有する有機ポリマーから成り、前記水蒸気透過係数P
2は、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである、2つの外層、
を有する、
湿度調整蒸気バリアメンブレン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオポリマーに基づく親水性の中間層、及び中間層よりも相対的に疎水性の高い2つの外層を有する、蒸気バリアメンブレンを用いて、建物の気密性又は建物内の部屋の気密性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿度調整体又は湿度調整蒸気バリアメンブレンであって、この水蒸気透過性が、空気の湿度に応じて変化するものが、長年知られている。例えば、国際公開第96/33321号において説明されている理由により、相対湿度(RH)が高い場合(70%~100%RH)、水蒸気を容易に通過させ、相対湿度が低い場合(50%RH以下)、水蒸気を効果的に遮断するメンブレンを得ることが求められている。
【0003】
このようなメンブレンは、それらが熱遮断材の内面(建物又は部屋の内部に向けられた面)上に配置されている場合、寒く乾燥した季節の間に、水蒸気が建物の内部からメンブレンと壁との間の空間内に侵入し、かつ壁上に結露する(コールドウォール)のを、可能な限り防ぐ。逆に、暑い季節では、メンブレンの高い透過性が、フレームの構造要素内に潜在的に存在する湿気を、建物の内側に向かって排出するのを可能にする。この特性は、特に新築の場合、すなわち設置の際に、特定の要素が、それらの保管状態を理由に非常に高い含水率を有しうる場合に重要なだけでなく、既存の構造内に水が浸入する場合にも重要である。いずれの場合も、構造全体を、夏において効果的な様式で、建物の外側及び内側に向かって、乾燥させることができることが重要である。この必要性は、特に系を構成する要素が微生物の増殖を助長するものである場合に、極めて重要である。
【0004】
このような蒸気バリアメンブレンは、それらの周囲の相対湿度条件の関数として差別化された挙動を有し、しばしば「スマート蒸気リターダー(smart vapor retarder)」(SVR)メンブレンと呼ばれる。本願において、「湿度調整体」、「湿度調整」、及び「スマート」という表現は、それらが蒸気バリアメンブレンの水蒸気透過性における変化を説明するとき、同義語として用いられる。
【0005】
メンブレンの水蒸気透過性は、水蒸気の拡散に対する「等価空気層厚」(Sd)で表すのが一般的である。この厚さは、メートル単位で表され、水蒸気の拡散と同等の抵抗に逆らうであろう空気層の厚さに相当する。従って、等価空気層厚の厚みが大きいほど、メンブレンの水蒸気に対する透過性は低くなる。等価空気層厚(Sd)は、規格EN1931及びEN ISO12572に従って決定されうる。
【0006】
湿度調整蒸気メンブレンは一般に、なおいっそう有益かつ効果的であると考えられており、なぜならば、その等価空気層厚は、相対湿度が低い場合には高く、相対湿度が高い場合には低くなるためである。
【0007】
市販されている湿度調整蒸気バリアメンブレンであって、最先端技術において記載されているものは、一般に石油モノマーから製造された合成有機ポリマーに基づいている。
【0008】
最も頻繁に記載されかつ用いられるポリマーは、ポリアミド、特にはポリカプロラクタム、ポリビニルアルコール(PVOH)、エチレン及び酢酸ビニルのコポリマー並びに/又はビニルアルコール(EVA及びEVOH)である。最も親水性の高いポリマー(PVOH、EVOH)は、多層構造において、より疎水性の高い薄層、特にはポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、並びにエチレン及びプロピレンのコポリマーなどに基づいたより疎水性の高い薄層と、組み合わせてよい。
【0009】
このような「スマート」蒸気バリアメンブレンを説明する文献の例として、国際公開第2007/010388号、国際公開第2006/034381号、国際公開第2005/110892号、米国特許第7008890号明細書、米国特許第6808772号明細書及び米国特許第6878455号明細書を挙げうる。
【0010】
本発明に至った研究の目的は、一般に非生分解性である石油由来のポリマーに基づく先行技術の湿度調整蒸気バリアメンブレンを、生物由来かつ/又は生分解性ポリマーに基づく湿度調整蒸気バリアメンブレンと置き換えることであった。これらの生物由来かつ/又は生分解性ポリマーを、以下「バイオポリマー」と呼ぶ。バイオポリマーは、好ましくは生物由来、すなわち短期間で再生可能な生物由来の材料に基づく。特に好ましい実施形態では、本願のメンブレンにおいて用いられるバイオポリマーは、生物由来かつ生分解性の両方である。
【0011】
生物由来のバイオポリマーは、バイオマス中にそのまま存在する天然有機ポリマー、これらの天然ポリマーを物理的かつ/又は化学的に修飾することによって得られる有機ポリマー、及び生物由来成分の重合によって得られる合成有機ポリマーのいずれをも包含する。
【0012】
このようなバイオポリマーに基づくメンブレン、例えばセルロース、キトサンに基づく、又はポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)にも基づくメンブレンが、知られており、石油由来の合成ポリマーに基づくフィルムの代替として、特に、食品包装の分野において、用いられている。この分野において、メンブレンは、一般に湿度及び温度条件に比較的依存しない水蒸気透過性の供給を要求される。さらに、食品包装の分野では、包装用フィルムの耐用期間は、かなり限られており、一般に数日から数週間、長くても数ヶ月の範囲である。蒸気バリアメンブレンの分野では、逆に、少なくとも数年、又は数十年もの長い耐用期間が、求められる。
【0013】
バイオポリマーに基づくメンブレンは、しばしばある程度親水性であり、水蒸気に対するそれらの透過性が高い。これらのメンブレンの等価空気層厚は、一般に1m未満であり、その絶対値は、それらを取り囲む雰囲気の相対湿度によってほとんど変化しない。したがって、これらのメンブレンは、周囲の条件に関係なく、水蒸気に対して極めて高い透過性を維持する。
【0014】
任意の理論によって束縛されることを望むものではないが、これらのある程度親水性であるメンブレンの水蒸気透過率における低い変動は、低湿度においてでも、メンブレン内に「溶解」する水の可塑効果に起因しうると考えられる。周囲湿度が高ければ高いほど、メンブレンの素材は水によってより可塑化され、水分子がメンブレン内で拡散しやすくなる。
【0015】
したがって、バイオポリマーから成るこれらのメンブレンの主な欠点は、湿度調整蒸気バリアとしてのそれらのありうる使用を目的とする場合、水蒸気に対するそれらの透過性が低い相対湿度において全体的に高すぎるままであるせいで、それらは、寒く乾燥した季節の間は満足に機能することができない、という事実にある。このように、セルロースのみから成るメンブレンは、建物の内側から侵入してくる水蒸気に対して十分なバリアを形成することができないであろうし、水蒸気がメンブレンと壁との間の空間に侵入し、遮断材内かつ外壁の内面上で凝縮するのを十分効果的に防ぐことができないであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
要約すると、食品包装の分野で用いられるバイオポリマーに基づく親水性メンブレンは、相対湿度が低い(寒い季節)条件下では、水蒸気に対して透過性が高すぎるままである。したがって、それらは、建物の熱遮断の分野において、特に気密性の向上及び建物内の水蒸気流の管理の改善のため、蒸気バリアとして適切に機能できるほど十分に「スマート」ではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、バイオポリマーに基づくメンブレンの「スマートさ」を非常に著しく向上させることが可能であるという、驚くべき発見に基づいており、このようにして、水蒸気透過性の低いポリエステルの非常に薄い層をそれらの2つの面上にそれぞれ適用することによって、建築分野における蒸気バリアメンブレンとしての使用にそれらを適合させる。
【0018】
バイオポリマーメンブレンの両面上に堆積された、非常に高い疎水性のポリエステルが、周囲の相対湿度に依存しない水蒸気透過性を有することを考えると、この発見はさらに驚くべきものだった。換言すれば、これらの疎水性ポリマーのみから成るメンブレンは、湿度調整性を有しないであろう。したがって、これらの同様の疎水性ポリエステルを、一つ又は複数の親水性バイオポリマーでできているメンブレンの面上に堆積することが、乾燥期では極めて低い水蒸気透過性、及び湿潤期では高い水蒸気透過性を有することを可能にすることによって、その「スマートさ」を大幅に向上させるであろう、という予測は不可能であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従って、本願は、活性部分を有する湿度調整蒸気バリアメンブレンに関し、
この活性部分は:
- 中間層であって、2μm~200μm、好ましくは4μm~100μmの厚さを有し、水蒸気透過係数P1を有するバイオポリマーから成り、水蒸気透過係数P1は、平均相対湿度とともに増加し、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、少なくとも600Barrerである、中間層、
及び、この中間層の両側における、かつ好ましくは中間層と接触している、
- 2つの外層であって、100nm~20μm、好ましくは200nm~2.5μmの厚さを有し、互いに独立して、水蒸気透過係数P2を有する有機ポリマーから成り、水蒸気透過係数P2は、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである、2つの外層、
を有する。
【0020】
それはまた、建物又は建物内の部屋の気密性を向上させる方法であって、上記建物又は建物内の上記部屋の壁の内面上に蒸気バリアメンブレンを用いることを含み、蒸気バリアメンブレンが、活性部分を有する湿度調整蒸気バリアメンブレンであることを特徴とする方法、にも関し、
この活性部分は:
- 中間層であって、2μm~200μm、好ましくは4μm~100μmの厚さを有し、水蒸気透過係数P1を有するバイオポリマーから成り、水蒸気透過係数P1は平均相対湿度とともに増加し、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、少なくとも600Barrerである、中間層、
及び、この中間層の両側における、かつ好ましくは中間層と接触している、
- 2つの外層であって、100nm~20μm、好ましくは200nm~2.5μmの厚さを有し、互いに独立して、水蒸気透過係数P2を有する有機ポリマーから成り、水蒸気透過係数P2は、23℃かつ平均相対湿度25.5%で決定したとき、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである、2つの外層、
を有する。
【0021】
メンブレンの活性部分は、好ましくは、上記で定義したように、中間層及び2つの外層からできている、3層構造である。
【0022】
透過係数P1及びP2は、それぞれ中間層及び外層を形成するポリマーのものである。それらは、メンブレンの両側に存在する水蒸気圧力差(dP)の影響下で、所定の厚さ(E)を有する試験されるポリマーのメンブレンの面積(A)を通過する、水蒸気質量流量(Q)の比に相当する。
【0023】
【0024】
それらは、以下に詳細に記載される実験プロトコルに従って測定され、「Barrer」で表され、すなわち、質量流量Qは、1秒あたりのcm3(常圧かつ常温)で表され、厚さEは、cmで表され、通過された領域の面積Aは、cm2で表され、水蒸気圧差(dP)は、cmHgで表される(特に、S.A.Stern,Journal of Polymer Science Part A-2,vol.6(1968),pages 1933-1934を参照)。
【0025】
したがって、本発明のメンブレンは、親水性バイオポリマーに基づく比較的厚い層(中間層)を含み、これが、その両面上において、疎水性ポリマーの連続層(外層)でコーティングされている。
【0026】
2つの外層は、一般に、中間層の厚さよりも小さい厚さを有する。中間層の厚さの、各外層の厚さに対する比は、有利には1.5/1~1000/1、好ましくは2/1~500/1、特には3/1~200/1である。
【0027】
2つの外層は、好ましくは、中間層と直接接触しており、すなわち、層間の界面は、好ましくは、接着剤が存在しない。
【0028】
好ましさの程度が比較的低い態様において、外層は、接着剤によって中間層に接着されており、接着剤は、好ましくは透過係数P1及びP2よりも大きい透過係数P3を有するであろう。換言すれば、接着剤は、メンブレンを構成する各層からの抵抗よりも大きい、水蒸気の拡散に対する抵抗を提供すべきではない。
【0029】
上記で定義した層は、本発明のメンブレンの「活性部分」を形成する。この部分は、好ましくは、異なる層を形成する熱可塑性ポリマーの共押出成形によって、中間層上のフィルム(外層)の熱接着によって、又は中間層の両面上にコーティングを堆積させることによって、公知の様式で得られるメンブレンである。
【0030】
活性部分は、原則として、それを単独で、すなわち支持層無しで用いることができるようにする機械的強度を有するが、特に、厚さが小さい(50μm未満)活性層に関しては、空気透過性の機械的構造であって、したがって水蒸気の拡散に対するその抵抗が、空気不透過性である活性層の抵抗に比べて無視できる機械的構造を用いて、それを補強するのが有利でありうる。
【0031】
したがって、有利な実施形態では、蒸気バリアメンブレンは、活性部分、すなわち外層の1つと直接接触する、空気透過性の補強層又は保護層をさらに有する。この支持層は、空気を透過する、格子、多孔板、開孔発泡体又は織布若しくは不織布であってよい。これは、好ましくは、空気透過性織物、好ましくは不織布である。特に好ましい支持層の例として、ポリプロピレン若しくはポリエステル繊維で、又はガラス繊維でできている不織布を挙げてよい。1つ又は複数の支持層は、好ましくは、ポリウレタン接着剤を用いた接着によって、活性メンブレン又は活性層に取り付けられる。また、本発明は、補強構造、例えば格子又は不織布などが、メンブレンの活性部分内に、特には中間層内に組み込まれた、メンブレンも包含する。
【0032】
冒頭で説明したように、中間層を形成するバイオポリマーは、生物由来かつ/又は生分解性有機ポリマーである。それらは、好ましくは生物由来である。
【0033】
生物由来バイオポリマーは、好ましくは以下から成る群から選択される:
- オシド(osides)、
- タンパク質、及び
- 生物由来モノマーから得られる合成ポリマー。
【0034】
オシドは、ヘテロシドであって、この加水分解が非糖類及び化合物を生成するヘテロシド、並びに糖類のみから成るポリマーであるホロシドを包含する。
【0035】
本発明の蒸気バリアの中間層を形成するのに用いてよいオシドの例として、アルギン酸、カラギーナン、セルロース、特には再生セルロース(セルロース水和物)、キチン、キトサン、ペクチン、デキストリン、デンプン、カードラン、FucoPol、ジェランガム、プルラン及びキサンタンから成る群から選択されるものを挙げてよい。
【0036】
タンパク質は、有利には、グルテン、分離大豆タンパク質、ゼイン、乳清タンパク質、カゼイン、コラーゲン及びゼラチンから成る群から選択される。
【0037】
バイオマスから抽出される、これらの生物由来ポリマーの大部分は、水に対する高い親和性を有し、水中に溶解又は膨潤してハイドロゲルを形成する。
【0038】
その結果、それらの親水性を低下させるためにそれらを化学的に修飾することが、特にはそれらを水中において不溶性にするためにそれらを架橋することが、有利でありうるし、又は必要でもありうる。
【0039】
化学的に修飾された生物由来バイオポリマーの例として、セルロースエステル、特にはセルロースアセテート、セルロースエーテル(特にはエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)、ニトロセルロース、デンプンエステル及びエーテルを挙げてよい。
【0040】
生物由来バイオポリマーの第三カテゴリーは、生物由来モノマーから合成されたポリマーによって形成される。
【0041】
これらのポリマーは、直鎖状又は分岐状であってよく、したがって熱可塑性又は熱硬化性であってよい。
【0042】
生物由来モノマーから得られる合成ポリマーの例として、下記から成る群から選択されるものを挙げてよい:ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、特にはポリヒドロキシブチレート(PHB)及びポリ(ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、脂質モノマーの重合によって得られるポリマー、並びに単糖、二糖、オリゴ糖及び/又はアルジトールのポリカルボン酸及び/又はポリアルデヒドとの反応によって得られる熱硬化性ポリマー。
【0043】
単糖類、二糖類、オリゴ糖及び/又はアルジトールの、ポリカルボン酸及び/又はポリアルデヒドとの反応によって得られる熱硬化性ポリマーは、ミネラルウール用バインダーの分野ではよく知られており、例えば本出願人名義の国際出願第2009/080938号、国際出願第2010/029266号、国際出願第2013/014399号、国際出願第2013/021112号及び国際出願第2015/132518号に詳細に記載されている。
【0044】
冒頭で説明したように、石油化学由来のポリマーを、本発明のメンブレンの中間層を形成するために、それらがNF EN 13432規格の意味において生分解性であるとき、用いてもよい。
【0045】
生分解性バイオポリマーは、有利には、ホモポリマー脂肪族ポリエステル、例えばポリ(カプロラクトン)(PCL)及びポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)など、脂肪族コポリエステル、例えばポリ(ブチレンサクシネート-コ-アジペート)など、芳香族コポリエステル、例えばポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)(PBAT)及びポリエステルアミド、から成る群から選択してよい。
【0046】
中間層を構成する全てのバイオポリマーは、乾燥条件下(平均相対湿度約25%)、23℃で測定した、600Barrer以上、好ましくは600~50,000Barrer、特には700~30,000Barrer、理想的には800~20,000Barrerである透過係数P1を有する。
【0047】
この透過係数は以下のように測定される:
【0048】
厚さ(E)の同じメンブレンの試料5つを、乾燥剤(試験カップ内の相対湿度を約1%とするCaCl2粉末)を含有する試験カップの上にシーリング製品を用いて、密封する。テンプレートを、シーリング製品の無い、定義されたゾーン(A)の交換ゾーンを形成するために、フィルムの表面上に、シーリング製品を適用する前に、配置する。様々なシーリング製品を用いてよい。シーリング製品は、例えば60%のマイクロクリスタリンワックス及び40%の精製結晶パラフィンの混合物である。
【0049】
このようにして作り出されたカップは、温度(23℃)及び相対湿度(50%)で温度制御された試験チャンバー内に置かれ、これは、気候チャンバーとも呼ばれる。
【0050】
試験カップ内側とチャンバー内で異なる蒸気分圧の差(dP)によって、水蒸気は、メンブレンの交換ゾーンを通って移動する。そのカップの定期的な計量が、定常状態での水蒸気透過流量(Q)を測定するために、そして、計算によって、Barrerで表される、考慮されるフィルムの水蒸気透過係数を測定するために、実行される。その後、異なるアセンブリ上で測定された透過率の平均が計算され、前述の透過係数P1に対応する。
【0051】
本発明の蒸気バリアメンブレンの親水性中間層は、その2つの面を、中間層よりも疎水性の高いかつ水蒸気透過性の低い有機ポリマーの連続層で覆われている。ここで、「連続」という用語は、各外層が、中央のメンブレンの一方の面を、中央のメンブレンが周囲雰囲気と接触しないように、完全に覆っていることを意味する。2つの連続層は、同じ化学的性質であってよく、かつ同じ厚さであってもよいし、又は互いに他の化学的性質であってよく、かつ/若しくは互いに異なる厚さであってもよい。それぞれの層は、好ましくは、中間層と直接接触している。
【0052】
各外層の透過係数P2は、105~550Barrer、好ましくは110~520Barrer、特には120~500Barrerである。透過係数は、係数P1と同じ方法で測定される。
【0053】
外層を構成する有機ポリマーは、有利には、脂肪族ポリオールと芳香族ポリ酸との重縮合によって得られる、半芳香族ポリエステルから成る群から選択される。半芳香族ポリエステルは、好ましくは、脂肪族ジオール、例えばエチレングリコール、プロパン-1,3-ジオール及びブチレングリコールなどと、芳香族二酸、例えばテレフタル酸及びナフタル酸などとの重縮合によって得られる、熱可塑性ポリエステルである。それらは、好ましくは、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、及びポリ(エチレンナフタレート)(PNE)、並びに対応するコポリエステルから成る群から選択される。
【0054】
芳香族ポリエステルの透過係数P2は、ポリエステル鎖の結晶化度、したがって配向度が高くなる場合、低下する。しかしながら、それは、一般的には上記の範囲内に留まる。このようにして、必要に応じて、ポリエステル層内の鎖の配向を改変することによって、P2を調整しうる。
【0055】
セルロース、特には再生セルロースから成る中間層、及び半芳香族ポリエステル、好ましくはポリ(エチレンテレフタレート)から構成される2つの外層を有する蒸気バリアメンブレンは、本発明の方法において用いられる蒸気バリアメンブレンの特に好ましい実施形態である。
【0056】
本発明の方法で用いられる蒸気バリアメンブレンの活性部分は、有利には、5.0μm~240μm、好ましくは10μm~120μm、特には15μm~80μmの厚さを有し、これらの値は、メンブレンの活性部分(3層)に対応するが、ありうる補強及び/又は保護構造を包含しない。
【0057】
好ましくは、気密性を改善すべき部屋の壁又は建物の壁は、熱遮断材によって遮断され、すなわち覆われ、蒸気バリアメンブレンは、熱遮断材に取り付けられるか、又は熱遮断材内に組み込まれる。建物又は建物内の部屋の気密性を改善する方法の一実施形態では、本発明の蒸気バリアメンブレンは、その結果、熱遮断材に対して内部の位置に、好ましくはそれと直接接触して取り付けられる。この取り付けは、メンブレンの気密性を著しく低下させない任意の適切な手段によって行ってよい。例えば、接着、ステープル留め、又は機械的固定システムによって行ってよく、機械的固定システムは、フック及び織物ループ(ベルクロ(登録商標)タイプの面ファスナー)を用いてよい。
【0058】
本発明の方法の別の実施形態では、蒸気バリアメンブレンは、遮断材内に一体化され、遮断材と同時に部屋又は建物の壁に取り付けられる。この場合、メンブレンは、遮断材の2つの主表面に平行に向けられ、好ましくは、部屋又は建物の内側に面する主表面に対して、壁に面する主表面に対してよりも近くに配置される。
【0059】
熱遮断材は、任意の水蒸気透過性の遮断材であってよく、とりわけ発泡体及び繊維に基づく材料を包含する。好ましくは、鉱物繊維(ミネラルウール)若しくは天然有機繊維(リグノセルロース系繊維、セルロース綿、動物ウール)、合成繊維(ポリエステル繊維)又は人工繊維でできている。それは、好ましくはミネラルウールでできている。
【実施例】
【0060】
4つの蒸気バリアメンブレンを、湿潤及び乾燥条件下でのそれらの水蒸気透過性の評価に供した。
【0061】
このため、各メンブレンは、結合製品としての溶融パラフィンワックス(60%のマイクロクリスタリンワックス及び40%の精製結晶パラフィンの混合物)を用いて、アルミニウムカップを閉じるように配置され、それによって、密閉性を確保している。乾燥状態で水蒸気透過度を測定するため、塩化カルシウムを、カップ内に、メンブレンでそれを密封する前に導入して、内部の相対湿度を約1%にする。その後、そのカップ/メンブレンアセンブリを、メンブレンの両側に水蒸気差圧(dP)を発生させるように、相対湿度を50%かつ温度を23℃に設定した気候チャンバー内に導入する。厚さ(E)を有するメンブレンのゾーン(A)を通過する水蒸気の流量(Q)は、経時的にそのカップの重量を測定することによって測定され、透過係数(Barrerで表される)は、次式を用いて計算される。
【0062】
【0063】
このように計算された透過係数P1は、平均相対湿度25.5%((1%+50%)/2)に相当する。
【0064】
湿潤条件下(平均相対湿度90%)で水蒸気透過率を測定する場合、相対湿度を100%に設定するために液体水をカップ内に導入し、かつ気候チャンバー内の相対湿度を80%に設定する以外、手順は同様である。
【0065】
等価空気層厚(Sd)はまた、規格EN ISO12572に従って各メンブレンについて決定される。
【0066】
第一メンブレンは、本発明による蒸気バリアメンブレンである。これは、それぞれ800nmの厚さを有するポリエチレンテレフタレート(PET)の2つの層の間で挟まれた、21.4μmの厚さを有するセルロースの中間層から成る。セルロースの中間層の透過係数P1は、相対湿度25.5%(23℃)で5600Barrerかつ相対湿度90%(23℃)で34600Barrerである;PET層の透過係数P2は、300Barrer(23℃)である。これは、相対湿度によってほぼ変化しない。
【0067】
第二及び第三メンブレンは、セルロースのみから成り、第一メンブレンの中間層と同じ透過係数P1を有する。
【0068】
第四メンブレンは、ポリプロピレン不織布に取り付けられた、40μmの厚さを有するポリアミド6の単一活性層でできているメンブレンである。これは、Vario KM Duplex(商標)(Saint-Gobain Isover)の名称で市販されている。
【0069】
メンブレンの技術的特性(層の組成、厚さ、乾燥及び湿潤条件下での等価空気層厚)を以下の表1にまとめている。
【0070】
【0071】
本発明による3層蒸気バリアメンブレン(メンブレン1)の乾燥及び湿潤条件下での等価空気層厚の差は、全ての比較メンブレン(メンブレン2~4)のそれよりも、有意に強いことがわかる。
【0072】
2つのセルロースメンブレン(メンブレン2及び3)は、湿潤又は乾燥条件どちらにおいても、1m未満の等価空気層厚(Sd)を有する。それらの湿度調整力が不十分であるため、それらは蒸気バリアメンブレンとしては適さない。乾燥かつ寒い季節の間、このようなメンブレンは、メンブレンと建物の壁との間の空間内に過量の水を通すことになるであろう。この不十分に「スマートな」挙動は、2つの薄いPET層の存在によって見事に改善される。
【0073】
また、本発明によるメンブレン(メンブレン1)は、40μm(VScenario KM Duplex(商標)に等しい、本出願人が販売するメンブレンの活性部分の厚さ、よりもはるかに低い合計厚さ(23μm)を有することにも留意されたい。本発明によるメンブレンの優れた性能によって、結果として、原料の削減、ひいてはコストの削減が可能となる。
【国際調査報告】