(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】パウダーインチューブ型のチタン堆積ワイヤ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/32 20060101AFI20240501BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240501BHJP
B23K 35/02 20060101ALI20240501BHJP
B23K 35/362 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23K35/32 B
B22F1/06
B22F1/14
B22F1/00 R
B23K35/02 D
B23K35/362 320
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567154
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2022061295
(87)【国際公開番号】W WO2022233691
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(71)【出願人】
【識別番号】522018745
【氏名又は名称】イーポック ワイヤーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EPOCH WIRES LIMITED
【住所又は居所原語表記】Unit 8 - Burlington Park Foxton, Cambridge Cambridgeshire CB22 6SA Great Britain
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】ヤン メスダーク
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ガウウィー
(72)【発明者】
【氏名】クリス ドゥフルスト
(72)【発明者】
【氏名】セルダール アタメルト
【テーマコード(参考)】
4E084
4K018
【Fターム(参考)】
4E084BA01
4E084BA02
4E084BA04
4E084BA06
4E084BA08
4E084BA09
4E084BA10
4E084BA11
4E084BA12
4E084BA13
4E084BA14
4E084BA15
4E084CA38
4E084DA11
4E084DA22
4E084EA06
4E084GA09
4K018AA06
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB01
(57)【要約】
パウダーインチューブ型の堆積ワイヤは、チタンの中空管状部分と管状部分に充填されたコア部分とを含む。コア部分は、堆積ワイヤの(30)体積%~(80)体積%を占有する。コア部分は、チタンのコンパクト化長尺状粉末を含むとともに、場合により、アルミニウム、バナジウム、アルミニウム-バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、タンタル、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、銅、スズ、鉄、及びパラジウムからなる群から選択される他のコンパクト化粉末も含む。コア部分が高体積であるため、ワイヤの作製プロセスはそれほど複雑でない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーインチューブ型の堆積ワイヤであって、
前記堆積ワイヤは、チタンの中空管状部分と前記管状部分に充填されたコア部分とを含み、
前記コア部分は、前記堆積ワイヤの25体積%~85体積%を占有し、
前記コア部分は、チタンのコンパクト化長尺状粉末を含むとともに、場合により、アルミニウム、バナジウム、アルミニウム-バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、タンタル、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、銅、スズ、鉄、及びパラジウムからなる群から選択される他のコンパクト化粉末を含む、堆積ワイヤ。
【請求項2】
前記コア部分が、前記堆積ワイヤの40体積%超、好ましくは42体積%超を占有する、請求項1に記載の堆積ワイヤ。
【請求項3】
前記堆積ワイヤが、冷間溶接オーバーラップシーム、突合せ溶接シーム、又はレーザー溶接シームを有する、請求項1又は請求項2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項4】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンの非球状スポンジ粉末を起源とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接用堆積ワイヤ。
【請求項5】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンのリサイクル粉末又は削り屑を起源とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の堆積ワイヤ。
【請求項6】
前記チタンの粉末が、前記コア部分の65体積%超を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の堆積ワイヤ。
【請求項7】
前記コア部分に存在する他のコンパクト化粉末がまったくない、請求項6に記載の堆積ワイヤ。
【請求項8】
前記堆積ワイヤが、0.15重量%以下の炭素を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の堆積ワイヤ。
【請求項9】
前記堆積ワイヤが、1.0重量%以下の酸素を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の堆積ワイヤ。
【請求項10】
前記堆積ワイヤが、6.0mm未満の最終直径(すなわち、前記管状部分の外径)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の堆積ワイヤ。
【請求項11】
得られる引張り強度及び合計伸びの両方が、前記チタンのコンパクト化長尺状粉末がチタンの球状スポンジ粉末のみを起源とする堆積ワイヤのものよりも高い、請求項4に記載の堆積ワイヤ。
【請求項12】
パウダーインチューブ型の堆積ワイヤの作製方法であって、前記方法は、下記ステップ:
a)チタンのストリップを提供するステップと、
b)チタンの粉末並びに場合によりアルミニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、及びタンタルからなる群から選択される他の粉末を提供するステップと、
c)前記チタンの粉末及び前記他の粉末を前記ストリップ上に置くステップと、
d)前記チタンの粉末及び前記他の粉末のコア部分の周りにチューブを形成するように前記ストリップをクローズするステップであって、前記コア部分は、前記チューブ及び前記コア部分の30体積%~80体積%を占有する、ステップと、
e)各種圧延又は延伸ステップで圧延又は延伸により前記チューブの直径を低減するステップと、
を含む、堆積ワイヤの作製方法。
【請求項13】
1つ以上の中間熱処理が、前記圧延又は延伸ステップ間で適用される、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項14】
少なくともステップc)~d)が、イナート雰囲気で行われる、請求項12又は13に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項15】
前記ストリップをクローズする工程d)が、前記ストリップのオーバーラップを作成することを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項16】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンの非球状スポンジ粉末を起源とする、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項17】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、チタンのリサイクル粉末又は削り屑を少なくとも部分的に起源とする、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウダーインチューブ型の堆積ワイヤ、かかる堆積ワイヤの作製方法、及びかかる堆積ワイヤの特定使用に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造の本質は、材料を除去する機械加工とは対照的に、制御された材料層を付加することにより部品を作製することにある。
【0003】
例として、3Dプリンティングは、チタン又はチタン合金の溶接用ワイヤを用いて実現可能である。
【0004】
チタンには有利な性質、すなわち、高い強度対重量比(鋼と同程度に強いがその重量の半分である)、優れた耐食性、及び昇温時の良好な機械的性質があることから、チタンの又はチタン合金の溶接用ワイヤは当技術分野で周知である。
【0005】
米国特許第A-4,331,857号明細書には、チタンの中空管状部分と管状部分に充填されたコア部分とを含む溶接用ワイヤが開示されている。コア部分は、コンパクト化合金化用粉末から形成される。
【0006】
TIG溶接などの通常の溶接技術は、溶接の品質を改善するために保護雰囲気下での作業及び/又は活性剤(フラックス)の使用を必要とする。
【0007】
中国特許第107363433号明細書には、金属シースと内部活性薬剤コアとを含むチタン系合金フラックスコアード溶接用ワイヤが開示されている。溶接用ワイヤは、外スキンと内部活性溶接剤コアとで構成される。金属シースは、98%以上のチタン含有率と0.015%以下の水素含有率とを有するチタンストリップである。内部活性薬剤コアは、金属粉末、B粉末、Si粉末、及び活性剤からなり、金属粉末は、Ti、Co、Mn、Ni、及びCuを含み、活性剤は、塩化物、フルオロアルミン酸塩、MgF2、及びSrF2を含み、粉末、B粉末、Si粉末、及び活性成分の質量パーセンテージは、Tiが16%~34%、Coが0.2%~0.4%、Mnが0.8%~1%、Niが1%~3%、Cu Bが2%~6%、Siが0.10%~0.25%、塩化物が1%~5%、フルオロアルミン酸塩が12%~16%、及びMgF2が5%~15%であり、SrF2が20%~60%である。
【0008】
付加製造のための堆積技術の進化に伴って、確度及び堆積速度に関する要件がより厳しくなっていることから、新しいタイプの堆積ワイヤの開発が必要になってきた。金属付加製造では、最近の技術は、ダイレクトエネルギー堆積(DED)を行うものである。エネルギー源は、レーザー、電子ビーム、MIG/MAGアーク、又はプラズマアークを含みうる。たとえば、選択的レーザー溶融(SLM)用又はレーザークラッディング用粉末を利用した粉末堆積は、ワイヤベースDEDと比較して遅い。したがって、新しい堆積ワイヤが開発されつつある。
【0009】
中国特許第108000004号明細書には、3Dプリンティング用チタンマトリックス複合材料のチタンフラックスコアードワイヤの調製方法が開示されている。
【0010】
チタンの又はチタン合金の溶接用ワイヤ又は堆積ワイヤは、依然として高価で製造が複雑である。これは、多くの直径低減ステップ及び多くの中間熱処理に起因する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一般的な目的は、先行技術の欠点を回避すること又は少なくとも軽減することである。
【0012】
本発明の特定の目的は、作製がそれほど複雑でなく且つ直近の堆積技術に適合可能な堆積ワイヤを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、堆積ワイヤの作製に必要とされるステップ数を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、パウダーインチューブ型の堆積ワイヤが提供される。堆積ワイヤは、チタンの中空管状部分と管状部分に充填されたコア部分とを含む。コア部分は、完全堆積ワイヤの25体積%~85体積%、たとえば27体積%~80体積%、たとえば30体積%~75体積%を占有する。コア部分は、チタンのコンパクト化長尺状粉末を含み、場合により、アルミニウム、バナジウム、アルミニウム-バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、タンタルニッケル、ジルコニウム、ケイ素、銅、スズ、鉄、及びパラジウムからなる群から選択される他のコンパクト化粉末も含む。
【0015】
アルミニウム-バナジウム粉末は、バナジウム粉末が非常に高価であるのでバナジウム粉末よりも好ましい。
【0016】
アルミニウム及びバナジウム(バナジウム自体又はアルミニウム-バナジウムのどちらかとして)は、航空用堆積ワイヤに使用されるべき最も好ましい元素である。クロム及びモリブデンもまた、航空用堆積ワイヤに好ましい。
【0017】
ホウ素は、その結晶粒微細化性に関して非常に興味深い元素である。ホウ素は、ナノサイズ結晶粒微細化元素である。ホウ素粉末は、その表面の周りに酸性酸化物(B2O3)層を有し、且つこの層は、いくらかの湿分を吸収する。金属酸化物は一般に塩基性であるので、ホウ素の及び金属粉末の表面は、一体的に装着可能である。
【0018】
ホウ素の量は非常に少ないので、ホウ素はまた、溶液中に混合してから乾式混合用粉末上にスプレーすることも可能である。混合後、粉末はオーブン中で乾燥可能である。
【0019】
代替的に、粉末はすべて、溶媒中に混合してスラリーでUプロファイル中に供給することが可能である。
【0020】
好ましくは、コア部分は、完全堆積ワイヤの40体積%超、たとえば50体積%超を占有する。
【0021】
堆積ワイヤは、突合せ溶接シーム又はレーザー溶接シームを有しうる。しかしながら、最も好ましい実施形態は、冷間溶接オーバーラップシームである。
【0022】
本発明の有利な効果は次の通りである。米国特許第A-4,331,857号明細書の溶接用ワイヤと比較して、粉末材料の体積部分はかなり大きい。このことは、堆積ワイヤの直径をその最終値まで低減するのに要するエネルギーがかなり小さいことを意味する。コア内のチタン粉末は、加工性改善への主要寄与因子である。チタン粉末は、直径低減時に伸び、且つ連続粉末フローを提供し、且つ粉末ロッキングを最小限に抑えるであろう。そのため、延伸ステップ又は圧延ステップの形態で要する低減ステップが少なくなる。また、要する低減ステップが少なくなるので、中間熱処理の必要性は、少なくなるか又はまったくなくなる。より高体積部分の粉末材料は、引張り強度レベルが損失状態になりうるが、本発明の堆積ワイヤで達せられる引張り強度は、堆積ワイヤとして使用するのにほぼ十分である。そのうえ、これ以降でより詳細に説明されるように、堆積ワイヤの最終引張り強度は、低減度、最後のプロセスステップが熱処理であるか否か、及びチューブ部分の初期引張り強度に依存する。
【0023】
管状部分は、第1の低減ステップを可能にするために15%の最小体積パーセンテージを有しなければならない。管状部分の最小体積パーセンテージが15%未満である場合、管状部分を形成するストリップは破断のリスクがある。
【0024】
チタンのコンパクト化長尺状粉末は、非球状スポンジ粉末を起源としうるか、又は球状スポンジ粉末を起源としうる。チタンの非球状スポンジ粉末は、チタンの球状粉末よりもかなり安価である。球状チタン粉末は、プラズマアトマイズ粉末でありうる。一実施形態では、チタンのコンパクト化長尺状粉末はすべて、非球状スポンジ粉末を起源とする。他の一実施形態では、チタンのコンパクト化長尺状粉末はすべて、球状スポンジ粉末を起源とする。非球状粉末は、球状粉末よりもムラのある結晶粒構造をもたらす。
【0025】
好ましい実施形態では、チタンのコンパクト化長尺状粉末は、少なくとも部分的にはチタンの非球状スポンジ粉末を起源とし、且つ部分的には球状スポンジ粉末を起源とする。このことは、堆積ワイヤを作製するためにチタンのストリップ上に初期に置かれるチタン粉末が、チタンの球状粉末とチタンの非球状スポンジ粉末とのミックスであることを意味する。
【0026】
チタンのコンパクト化長尺状粉末はまた、リサイクル粉末又は削り屑を起源としうることから、循環経済に寄与しうる。一実施形態では、チタンのコンパクト化長尺状粉末はすべて、リサイクル粉末又は削り屑を起源とする。他の一実施形態では、チタンのコンパクト化長尺状粉末は、リサイクル粉末及び非リサイクル球状スポンジ粉末の両方を起源とする。リサイクル粉末及び削り屑はまた、球状粉末よりもムラのある結晶粒構造をもたらす。
【0027】
驚くべきことに、本発明の堆積ワイヤの最終的性質は、使用される粉末材料のタイプ及びそれらの混合にも依存することが判明した。より高い引張り強度及び伸びは両方とも、球状チタン粉末と比較して非球状スポンジチタン粉末を用いた堆積ワイヤで得られた。
【0028】
好ましくは、チタンの粉末はコア部分の体積の65%超を有する。より好ましくは、コア部分の体積の80%超はチタン粉末からなる。
【0029】
一実施形態では、コア部分に存在する他のコンパクト化粉末は存在しない。すなわち、コア部分に存在する粉末はすべてチタンである。これにより、チタンのみ及び不可避不純物の堆積ワイヤがもたらされる。
【0030】
好ましくは及び一般的には、堆積ワイヤは、0.15重量%以下、たとえば0.10重量%以下の炭素を含む。
【0031】
最も好ましくは且つ一般的には、堆積ワイヤは、1.0重量%以下、たとえば0.50重量%以下、たとえば0.20重量%以下の酸素を含む。
【0032】
チタンワイヤは、特定的にはC、O、H、Nなどの不純物に関して、厳しい仕様限界に従う。とりわけ、堆積ワイヤ中の酸素含有率は重要である。というのは、それは、溶接又は付加製造の際に新たに堆積された層上にTi酸化物層を残すため、後続層を堆積する前に新たに堆積された層の機械加工が必要になり、追加コスト及び溶接ビード又は付加製造部分の欠陥源をもたらすことにより、堆積プロセスに悪影響を及ぼすからである。ASTMによれば、Oの仕様限界は、グレード1では0.18重量%及びグレード4では0.40重量%である。
【0033】
したがって、ワイヤ作製プロセス時にトラップされる酸素が多すぎないようにTiストリップ材料又はチタンの球状粉末のどちらかを用いて、チタンの非球状スポンジ粉末又はリサイクル粉末及び削り屑の体積分率のバランスをとりアジャストする必要がある。
【0034】
直径低減に起因して、コア部分の粉末材料は、コンパクト化され長尺状になる。コンパクト化され長尺状になった粉末間の空隙のサイズは、最小限に低減される。これらの空隙は、時折現れるにすぎない。
【0035】
本発明の第1の態様に係る堆積ワイヤは、6.0mm未満、たとえば5.0mm未満、たとえば4.0mm未満、たとえば3.6mm未満、たとえば2.5mm未満の最終直径、すなわち、低減後の管状部分の外径を有する。MIG溶接などの自動プロセスでの自動ワイヤ供給では及びアークベース(プラズマ、レーザー)付加製造(3Dプリンティング)では、典型的直径範囲は1.0mm~1.6mmである。ワイヤの手動供給では、たとえばTIG溶接では、2.0mm超の直径範囲が使用される。電子ビーム若しくはレーザー付加製造(3Dプリンティング)又は非常に高い堆積速度を目標とする他のプロセスでは、さらにより大きな直径範囲、たとえば2.5mm超又は3.6mm超が使用される。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、パウダーインチューブ型の堆積ワイヤの作製方法が提供される。本方法は、下記ステップ:
a)チタンのストリップを提供するステップと、
b)チタンの粉末並びに場合によりアルミニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、及びタンタルからなる群から選択される他の粉末を提供するステップと、
c)前記チタンの粉末及び前記他の粉末をストリップ上に置くステップと、
d)チタンの粉末及び他の粉末のコア部分の周りにチューブを形成するようにストリップをクローズするステップであって、前記コア部分は、前記チューブ及び前記コア部分の30体積%~80体積%を占有する、ステップと、
e)各種圧延又は延伸ステップで圧延又は延伸によりチューブの直径を低減するステップと、
を含む。
【0037】
ある実施形態では、各種後続圧延又は延伸ステップ間で1つ以上の中間熱処理が適用される。
【0038】
他の一実施形態では、かかる中間熱処理は必要ない。
【0039】
酸化を回避するために、少なくともステップc)~d)は、好ましくはイナート雰囲気で行われる。
【0040】
ステップd)のきわめて好ましい実施形態では、ストリップのクロージングは、ストリップのオーバーラップを作成することを含む。ストリップのオーバーラップは、直径低減時に冷間溶接される。この作業方法は、シームレスコアードワイヤの作成を可能にするとともに、なによりも熱間溶接を回避し、チタン粉末火災のリスクを実質的に低減する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1a-1d】本発明に係るパウダーインチューブ型の堆積ワイヤの後続製造ステップを例示する。
【
図2】本発明に係るパウダーインチューブ型の最終堆積ワイヤの断面を示す。
【
図3】本発明に係るパウダーインチューブ型の別の最終堆積ワイヤの断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
パウダーインチューブ型のチタン堆積ワイヤは、次のように作製される。
【0043】
図1aを参照して、出発物は、たとえば、0.7mmの厚さを有するチタンストリップ10である。
【0044】
図1bは、チタンストリップ10がU形に変形される第2のステップを例示する。チタン粉末、アルミニウム粉末、及びアルミニウム-バナジウム粉末(すべて参照番号12で参照される)は、変形ストリップ10上に置くようにする。100kgのワイヤ重量では、約30kg Ti粉末が必要であり、Al-V粉末は約6.4kg及びAl粉末の追加量は約3.8kgである。
【0045】
図1cは、第3のステップを例示する。粉末12を有するストリップ10は、クローズされて60°~90°のオーバーラップ14を作成するようにする。クローズストリップの外径は6.0mmである。
【0046】
次いで、クローズストリップは、1.30mmのその最終外径まで各種低減ステップに付される。パウダーインチューブ型の最終堆積ワイヤ16の断面は、
図1dに示される。各種低減ステップにより、粉末12は、長尺状にされて繊維12’となっている。ストリップ10’は、厚さが低減されている。ストリップ10’は、チューブの溶接の帰趨である局所厚さ18を示しうる。
【0047】
図2は、パウダーインチューブ型の最終堆積ワイヤ16の断面の光学顕微鏡法による写真を示す。外径は1.27mmである。ストリップの平均厚さは0.225mmである。コア体積vs合計体積の比は41.6%である。長尺状粉末を有するコア部分12’と変形ストリップ部分10’との明確な区別を行うことが可能である。
【0048】
図3は同じく、パウダーインチューブ型の堆積ワイヤ16の好ましい実施形態の断面の光学顕微鏡法による写真を示す。
図2の実施形態との差は、
図3の好ましい実施形態ではチューブをクローズするために冷間溶接オーバーラップシームを使用したことである。このオーバーラップの痕跡は、
図3の底部に見ることが可能であり、矢印19により指し示される。
【実施例】
【0049】
試験結果
以下の3つの異なるチタン堆積ワイヤで引張り試験を行った。
1)1.199mmの最終直径を有する100%チタンのCeweld ER Ti-1市販溶接用ワイヤ。
2)44.5%のコア体積部分を有する本発明に係る堆積ワイヤ、ただし、コアは非球状スポンジチタン粉末で初期に充填され、且つ最終直径は1.261mmである。
3)52.8%のコア体積部分を有する本発明に係る堆積ワイヤ、ただし、コアは球状チタン粉末で初期に充填され、且つ最終直径は1.273mmである。
【0050】
【0051】
【0052】
本発明の堆積ワイヤでは、粉末で初期に充填されたコア部分が存在するという事実にもかかわらず、本発明の堆積ワイヤの強度及び荷重の値は、先行技術の溶接用ワイヤのものよりも有意に高い。これは主に、先行技術の溶接用ワイヤが、最終熱処理に付され、一方、本発明の堆積ワイヤが、最終熱処理なしでエンド冷間変形されたという事実による。2つの本発明の堆積ワイヤを比較したとき、非球状スポンジチタン粉末を用いたサンプルINV2は、最も高い強度及び力の値を有する。球状チタン粉末を用いたサンプルINV3は、最も低い伸びの値を有する。
【0053】
そのほか、冷間変形されたという事実にもかかわらず、サンプルINV2は、サンプルINV3よりも高い合計伸びを有する。
【0054】
さまざまな割合で非球状スポンジチタン粉末と球状チタン粉末との両方を混合することにより、(ある特定の限界内で)所望の強度又は所望の伸びのどちらも決定しうる。
【0055】
たとえば、50%の非球状スポンジチタン粉末と50%の球状チタン粉末とを混合することにより、少なくとも2%の合計伸び及び少なくとも800MPaの引張り強度を有する直径1.25mmの堆積ワイヤを得ることが可能である。
【0056】
不純物限界
C、O、及びH濃度に関する上限(重量%単位)は、純チタン及びチタン合金に対してASTM標準で設定されている。それらは、純チタンのグレード1~グレード4に対して及びチタン合金のグレード5に対して以下の表に報告される。
【0057】
【0058】
3つのサンプルでC、O、及びHの含有率を燃焼分析(LECO)により測定し、以下の表に報告する。
【0059】
【0060】
球状チタン粉末と非球状スポンジチタン粉末とを混合して含有するサンプル2INVを含めて、3つすべてのサンプルで、測定値はすべて、異なるTiグレードに対してASTMにより推奨された上限未満である。
【符号の説明】
【0061】
10 チタンストリップ
10’ 断面低減後のチタンストリップ
12 チタン粉末及び他の添加された粉末
12’ 断面低減後の長尺状チタン及び他の粉末
14 オーバーラップ
16 最終堆積ワイヤ
18 溶接に起因するチタンストリップの厚さ
19 溶接オーバーラップに起因する断面の痕跡
【手続補正書】
【提出日】2024-01-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーインチューブ型の堆積ワイヤであって、
前記堆積ワイヤは、チタンの中空管状部分と前記管状部分に充填されたコア部分とを含み、
前記コア部分は、前記堆積ワイヤの25体積%~85体積%を占有し、
前記コア部分は、チタンのコンパクト化長尺状粉末を含むとともに、場合により、アルミニウム、バナジウム、アルミニウム-バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、タンタル、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、銅、スズ、鉄、及びパラジウムからなる群から選択される他のコンパクト化粉末を含む、堆積ワイヤ。
【請求項2】
前記コア部分が、前記堆積ワイヤの40体積%超、好ましくは42体積%超を占有する、請求項1に記載の堆積ワイヤ。
【請求項3】
前記堆積ワイヤが、冷間溶接オーバーラップシーム、突合せ溶接シーム、又はレーザー溶接シームを有する、請求項1又は請求項2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項4】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンの非球状スポンジ粉末を起源とする、請求項1
又は2に記載の溶接用堆積ワイヤ。
【請求項5】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンのリサイクル粉末又は削り屑を起源とする、請求項1
又は2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項6】
前記チタンの粉末が、前記コア部分の65体積%超を有する、請求項1
又は2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項7】
前記コア部分に存在する他のコンパクト化粉末がまったくない、請求項6に記載の堆積ワイヤ。
【請求項8】
前記堆積ワイヤが、0.15重量%以下の炭素を含む、請求項1
又は2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項9】
前記堆積ワイヤが、1.0重量%以下の酸素を含む、請求項1
又は2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項10】
前記堆積ワイヤが、6.0mm未満の最終直径(すなわち、前記管状部分の外径)を有する、請求項1
又は2に記載の堆積ワイヤ。
【請求項11】
得られる引張り強度及び合計伸びの両方が、前記チタンのコンパクト化長尺状粉末がチタンの球状スポンジ粉末のみを起源とする堆積ワイヤのものよりも高い、請求項4に記載の堆積ワイヤ。
【請求項12】
パウダーインチューブ型の堆積ワイヤの作製方法であって、前記方法は、下記ステップ:
a)チタンのストリップを提供するステップと、
b)チタンの粉末並びに場合によりアルミニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、ホウ素、ニオブ、及びタンタルからなる群から選択される他の粉末を提供するステップと、
c)前記チタンの粉末及び前記他の粉末を前記ストリップ上に置くステップと、
d)前記チタンの粉末及び前記他の粉末のコア部分の周りにチューブを形成するように前記ストリップをクローズするステップであって、前記コア部分は、前記チューブ及び前記コア部分の30体積%~80体積%を占有する、ステップと、
e)各種圧延又は延伸ステップで圧延又は延伸により前記チューブの直径を低減するステップと、
を含む、堆積ワイヤの作製方法。
【請求項13】
1つ以上の中間熱処理が、前記圧延又は延伸ステップ間で適用される、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項14】
少なくともステップc)~d)が、イナート雰囲気で行われる、請求項12又は13に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項15】
前記ストリップをクローズする工程d)が、前記ストリップのオーバーラップを作成することを含む、請求項12
又は13に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項16】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、少なくとも部分的にチタンの非球状スポンジ粉末を起源とする、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【請求項17】
前記チタンのコンパクト化長尺状粉末が、チタンのリサイクル粉末又は削り屑を少なくとも部分的に起源とする、請求項12に記載の堆積ワイヤの作製方法。
【国際調査報告】