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特表2024-519305リン化インジウムまたはヒ化ガリウムから作製された多層構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】リン化インジウムまたはヒ化ガリウムから作製された多層構造体
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240501BHJP
   H01L 21/3063 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01S5/183
H01L21/306 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567174
(86)(22)【出願日】2022-05-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 US2022027391
(87)【国際公開番号】W WO2022235615
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/183,337
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
【住所又は居所原語表記】2 Whitney Avenue, New Haven, CT 06510, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ジュン
(72)【発明者】
【氏名】カン, ジン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】リー, ビンジュン
【テーマコード(参考)】
5F043
5F173
【Fターム(参考)】
5F043AA03
5F043AA04
5F043AA14
5F043AA15
5F043BB07
5F043BB08
5F043DD14
5F173AC03
5F173AC10
5F173AC14
5F173AH14
5F173AP05
5F173AP09
5F173AP32
5F173AP42
5F173AR02
5F173AR99
(57)【要約】
多孔化されているかまたは電解研磨されているリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの層を備える多層構造体が記載される。さらに、そのような多層構造体を調製するための方法、および例えば垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)においてそのような多層構造体を使用するための方法が開示される。本発明は、リン化インジウムまたはヒ化ガリウム構造体を含む多層構造体の分野にあり、それらの構造体は、その構造体において多孔性であるかまたはエッチングされている層を備えており、電子的用途、例えばフォトニックデバイスにおいて使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化インジウム、ヒ化ガリウム、サファイア、ケイ素、または炭化ケイ素から形成された必要に応じた単結晶基板上に存在する、複数の非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層
を含む多層構造体であって、
前記多層構造体が、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも2つの層の間に存在する、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層を含み、前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムが、電気化学エッチングに起因して多孔性であるかまたは電解研磨されている少なくとも一領域または一部を備えており、
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、多孔性である場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められている前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含んでいる、
多層構造体。
【請求項2】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、リン化インジウム層であり、前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、リン化インジウムから作製されている、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、ヒ化ガリウム層であり、前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、ヒ化ガリウムから作製されている、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、非ドープである、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、1~50×1017cm-3またはそれ未満のn-ドーパント濃度を有している低nドープである、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、少なくとも約1×1019cm-3、または約0.1~10×1019cm-3~10×1020cm-3の間の範囲のn-ドーパント濃度を有している、請求項1から5のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項7】
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、多孔性である場合、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の多孔度を有している、請求項1から6のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項8】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、それぞれ独立に、約50nm~500nmの厚さを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項9】
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、約50nm~500nmの厚さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項10】
前記多層構造体が、約600nm~約8,000nmまたは約600nm~約6,000nmの間の範囲の全厚さを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項11】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、リン化インジウムから作製されており、
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、リン化インジウムから作製されており、多孔性であるかまたは電解研磨されている場合には、3.2未満の屈折の比率を有している、
請求項1から10のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項12】
前記多孔性であるかまたは電解研磨されているnドープリン化インジウムの少なくとも1つの層と、前記非ドープまたは低ドープリン化インジウム層との屈折率コントラスト(Δn)が、約0.5~約2の範囲である、請求項11に記載の多層構造体。
【請求項13】
前記複数の非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、ヒ化ガリウムから作製されており、
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層が、ヒ化ガリウムから作製されており、多孔性であるかまたは電解研磨されている場合には、3.95未満の屈折の比率を有している、
請求項1から10のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項14】
前記多孔性であるかまたは電解研磨されているnドープヒ化ガリウムの少なくとも1つの層と、前記非ドープまたは低ドープヒ化ガリウム層との屈折率コントラスト(Δn)が、約0.5~約2の範囲である、請求項11に記載の多層構造体。
【請求項15】
前記多層構造体が、少なくとも約5×1018cm-3超のキャリア(電子)濃度および少なくとも約50、60、70、80、90、または95cm/V sの電気的移動度を有している、請求項1から14のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項16】
前記多層構造体が、約1~25、2~20、2~15、または2~10W/m・Kの間の範囲の熱伝導率を有している、請求項1から15のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項17】
前記多層構造体が、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、30、40、または50W/m・Kの熱伝導率を有している、請求項1から15のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の多層構造体を作製する方法であって、
(a)もしあれば必要に応じた基板層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第1の層を形成するステップと、
(b)前記第1の層にわたって、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第2の層を堆積させるステップと、
(c)前記第2の層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第3の層を堆積させるステップと、
(d)必要に応じてステップ(b)および(c)を反復して、前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムと、前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムとのさらなる交互層を形成するステップと、
(e)多層構造体全体にわたって、キャッピング層を堆積させるステップと、
(f)前記キャッピング層の少なくとも一部を除去して、前記多層構造体の少なくとも1つの側壁を選択的に露出させるステップと、
(g)nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層を、電解質の存在下、印加バイアス電圧の下で電気化学的に(EC)エッチングして、存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層の少なくとも一部を選択的に多孔化するかまたは電解研磨するステップと
を含み、
前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、多孔化されている場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められている前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含む、
方法。
【請求項19】
前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層、前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、有機金属化学蒸着法(MOCVD)によってエピタキシャルにまたはホモエピタキシャルに成長されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記キャッピング層が、二酸化ケイ素、窒化ケイ素(SiN)、酸化ハフニウム(HfO)、またはフォトレジスト材料から作製されている、請求項18から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
存在する前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、リン化インジウム層であり、存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、リン化インジウムから作製されている、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
存在する前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、ヒ化ガリウム層であり、存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、ヒ化ガリウムから作製されている、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
存在する前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、非ドープである、請求項18から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
存在する前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、1~50×1017cm-3またはそれ未満のn-ドーパント濃度を有している低nドープである、請求項18から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、少なくとも約1×1019cm-3、または約0.1×1019cm-3~10×1020cm-3の間の範囲のn-ドーパント濃度を有している、請求項18から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、多孔化されている場合、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の多孔度を有している、請求項18から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
存在する前記非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、それぞれ独立に、約50nm~500nmの厚さを有する、請求項18から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、それぞれ独立に、約50nm~500nmの厚さを有する、請求項18から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記多層構造体が、約600nm~約8,000nmまたは約600nm~約6,000nmの間の範囲の全厚さを有する、請求項18から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
存在する前記nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が、Geドーパント、Siドーパント、またはそれらの組合せから選択されるn型ドーパントでドープされている、請求項18から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記n型ドーパントが、シラン(SiH)、ゲルマン(GeH)、イソブチルゲルマン(IBGe)、およびそれらの組合せから選択されるドーパント供給源から得られる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(f)が、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(ICP-RIE)を使用して、または前記キャッピング層の一部を物理的に劈開することによって実施される、請求項18から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ステップ(g)の前記電解質が、ハロゲン化物イオン、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、フッ化水素酸(HF)、KOH、NaOH、Ba(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、NHOH、NaCl、NaF、硝酸(HNO)、有機酸およびそれらの塩(例えば、シュウ酸およびクエン酸)、ならびにそれらの混合物を含む、請求項18から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記有機酸が、シュウ酸またはクエン酸である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(g)の前記印加バイアス電圧が、約0.1~10V、1.0~5V、または1.0~2.5Vの間の範囲であり、少なくとも約5分間、10分間、15分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間、60分間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、10時間、15時間、20時間、または24時間印加される、請求項18から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(g)が、室温でまたは約10℃~約50℃の範囲の温度で行われる、請求項18から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
請求項1から17のいずれか一項に記載の多層アーキテクチャを含む、デバイス。
【請求項38】
前記デバイスが、発光ダイオード、電界効果トランジスタ、レーザー、レーザーダイオード、および生物医学的デバイスからなる群から選択される、請求項37に記載のデバイス。
【請求項39】
前記レーザーダイオードが、垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)であり、前記多層構造体が、前記垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)の分布ブラッグ反射器である、請求項38に記載のデバイス。
【請求項40】
前記多層構造体の分布ブラッグ反射器が、少なくとも約99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%のピーク反射率を有する、900nmまたはそれを超える阻止帯域を有している、請求項39に記載のデバイス。
【請求項41】
前記垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)が、近赤外波長範囲および/または赤外波長範囲で発光する、請求項39から40のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年5月3日出願の米国仮出願第63/183,337号の優先権および利益を主張するものであり、その全体はこれにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、リン化インジウムまたはヒ化ガリウム構造体を含む多層構造体の分野にあり、それらの構造体は、その構造体において多孔性であるかまたはエッチングされている層を備えており、電子的用途、例えばフォトニックデバイスにおいて使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
半導体レーザーダイオードは、現代社会において多くの用途が見出されている。レーザーダイオードの世界では、垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)は、コスト、製造可能性、可撓性、ビーム質、および潜在的な統合可能性に関して端面発光レーザー(EEL)よりも優れていることが公知である。今までのところ、EELは、およそ400nm(紫色)~約2,000nm(近赤外)の波長で商業的に入手可能である。
【0004】
VCSELは、約700nm(赤色)~1μmでのみ商業的に入手可能である。それにもかかわらず、1,200nm~1,600nmの波長範囲は、従来、シングルモードの長距離電気通信のためのシリカファイバーにおいて使用される範囲であることから、重要な波長範囲である。1,550nmは、シグナルおよびエネルギーの大気無線伝送窓としても重要である。
【0005】
1,200~1,600nm(すなわち1.2~1.6μm)で発光するVCSELは、典型的に、リン化インジウム(InP)基板上にエピタキシャルに調製される。少なくとも過去20年間、長波長VCSELの追求は、3つの手法のうちの1つに従って行われており、それらの手法のすべてで、活性(発光)領域がInP基板上に調製されている。しかし、垂直共振器(vertical cavity)を形成するための方法、具体的にはn側反射ミラーを形成するための方法は、大きく異なる。3つの手法はいずれも、切実な市場需要があるにもかかわらず、主流となる大規模製造を達成していない。その3つの代表的な手法は、以下の通りである。
【0006】
(1)InP上のInGaAs/InAlAsのエピタキシャル分布ブラッグ反射器(DBR)(Ortsiefer, M., et al. (2005). 2.5-mW single-mode operation of 1.55-μm buried tunnel junction VCSELs. IEEE photonics technology letters, 17(8), 1596-1598):この手法は、1990年代後期以降、試みられた。DBRは、InP基板に格子整合するInGaAsおよびInAlAs合金によって形成された。しかし、これらの2つの格子整合層は、光学的屈折率のコントラストが非常に制限されており(約0.25)、したがって非常に多数の4分の1波長層が必要とされる。InGaAsおよびInAlAsはまた、共に熱伝導率が低く(約2W/m-k)、熱放散が非常に困難である。VCSELは、良好な熱伝導率を有しているハイブリッドミラーを用いて作製され、フリップチップで実装された。それにもかかわらず、エピタキシャルプロセスおよび製作の組合せは、このプロセスを困難にし、本発明者らが知る限り、2005年以降追及されていない。
【0007】
(2)InPベースの活性領域とウエハ接合したAl(Ga)As/GaAsのエピタキシャル分布ブラッグ反射器(DBR)(Caliman, A. et al. (2011). 8 mW fundamental mode output of wafer-fused VCSELs emitting in the 1550-nm band. Optics express, 19(18), 16996-17001.):この手法は、GaAs基板上のAl(Ga)As/GaAsのエピタキシャルDBR技術と、InP上のInGaAs活性領域およびp-n層を、ウエハ接合によって組み合わせたものであった。しかし、このプロセスには、多重再成長が必要であり、共振器モードおよびモード利得を精密に制御するために、精密な厚さ制御を必要とする化学機械研磨(CMP)が必要であった。精密な、再現性のある、均一な制御には、2つのスペーサ領域が必要であり、それによってデバイス歩留まりの低下が引き起こされることが多かった。
【0008】
(3)最上部の誘電体ミラーと組み合わされたハイブリッド誘電体バックミラー(Spiga, S., et al. (2016). Single-mode high-speed 1.5-μm VCSELs. Journal of Lightwave Tech, 35(4), 727-733.):2000年初期以降使用されてきた別の手法は、エピタキシャルInGaAs活性領域(InP基板上に調製された)を最上部の誘電体DBRミラーで挟み、続いてInP基板を除去し、続いてハイブリッド誘電体バックミラーを堆積させ、次にその構築物を熱伝導性の金/BCBアセンブリに封入するというものであった。この手法により、垂直レージングモードの浸透深度が非常に小さい、非常に高い屈折率コントラストのミラーが得られ、短共振器および高変調帯域幅のための小さいモード体積を達成することができる。しかし、これらのすべてが誘電体であるVCSELは、良好な制御または高い歩留まりで容易に製造することができず、単位当たりのコストが非常に高くなり、モノリシックVCSELを用いる固有の利益の多くが失われる。
【0009】
上記の方法にもかかわらず、InP基板上でのVCSELの製作は、依然として非常に難易度が高い。したがって、現在まで、とりわけ防衛用途および商業的用途のために長波長VCSELを使用する技術空間は、本質的に取り組まれないままである。
【0010】
したがって、ミラーとして使用することができ、簡単な方法により製作することができ、所望の波長のVCSELを製作するために使用することができる、新規な半導体構造体が必要である。
【0011】
したがって、本発明の目的は、デバイス、例えばVCSELの製造において今までに公知の問題に対処し、克服するような構造体を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、そのような構造体を調製するための新規な方法を提供することである。
本発明のまたさらなる目的は、例えばVCSELSにおいて使用するための、記載される構造体を使用する方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ortsiefer, M., et al. (2005). 2.5-mW single-mode operation of 1.55-μm buried tunnel junction VCSELs. IEEE photonics technology letters, 17(8), 1596-1598
【非特許文献2】Caliman, A. et al. (2011). 8 mW fundamental mode output of wafer-fused VCSELs emitting in the 1550-nm band. Optics express, 19(18), 16996-17001.
【非特許文献3】Spiga, S., et al. (2016). Single-mode high-speed 1.5-μm VCSELs. Journal of Lightwave Tech, 35(4), 727-733.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
リン化インジウム(InP)またはヒ化ガリウム(GaAs)層を備える多層構造体が本明細書に記載され、それらの層は、その構造体において多孔性であるかまたは電解研磨されている。
【0015】
一例として、多層構造体の非限定的な例は、
リン化インジウム、ヒ化ガリウム、サファイア、ケイ素、または炭化ケイ素から形成された単結晶基板上に必要に応じて存在する、複数の非ドープまたは低ドープ(以下参照)リン化インジウムまたはヒ化ガリウム層
を備えており、
多層は、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも2つの層の間に存在する、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層を含み、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムは、電気化学エッチングに起因して多孔性であるかまたは電解研磨されている少なくとも一領域または一部を備えており、
nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層は、多孔性である場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められているnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含んでいる。
【0016】
電気化学的にエッチングすることによって、低屈折率物質、例えば空気を、多層構造体の選択領域に選択的に組み込むことは、バルクInPまたはGaAsと比較して屈折率を低下させる効果がある。したがって、多層構造体内の多孔化された領域の屈折率を選択的に調節することが可能である。
【0017】
電気化学エッチングによって、多孔化または電解研磨により多層構造体のドープ層の選択領域に空気を選択的に組み込むことは、バルク(非多孔性)の等価なInPまたはGaAsと比較して、電気特性に影響を及ぼすことができる。したがって、多層構造体内の多孔化された領域の電気特性を選択的に調節することが可能である。
【0018】
電気化学エッチングによって、多孔化または電解研磨により多層構造体のドープ層の選択領域に空気を選択的に組み込むことは、バルク(非多孔性)の等価なInPまたはGaAsと比較して、熱特性に影響を及ぼすことができる。
【0019】
非限定的な一例では、多層構造体を形成する方法であって、この方法は、
(a)必要に応じた基板層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第1の層を形成するステップと、
(b)第1の層にわたって、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第2の層を堆積させるステップと、
(c)第2の層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第3の層を堆積させるステップと、
(d)必要に応じてステップ(b)および(c)を反復して、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムと、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムとのさらなる交互層を形成するステップと、
(e)多層構造体全体にわたって、キャッピング層を堆積させるステップと、
(f)キャッピング層の少なくとも一部を除去して、多層構造体の少なくとも1つの側壁を選択的に露出させるステップと、
(g)nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層を、電解質の存在下、印加バイアス電圧の下で電気化学的に(EC)エッチングして、存在するnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層の少なくとも一部を選択的に多孔化するかまたは電解研磨するステップと
を含み、
nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層は、多孔化されている場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められているnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含む。
【0020】
多層構造体は、電子、フォトニック、およびオプトエレクトロニクス用途を含む様々な用途において使用することができる。そのような多層構造体についての用途には、より具体的には、とりわけファイバーベースの通信、自由空間通信、LiDAR、検出および距離測定、暗視、ならびに化学検出が含まれる。特に、多層構造体は、既に報告されているVCSELと比較して、優れた光学的および電気的性能を有する高性能VCSELを提供するために使用することができる。VCSELは、より一般に使用されている端面発光レーザーダイオード(EELD)と比較して多くの利点、例えば優れたビーム質、コンパクトフォームファクター、低動作電圧、コスト効果の高いウエハレベル試験、より高い歩留まり、および製造におけるより低いコストを有している。VCSELには、一般に、情報処理、マイクロディスプレイ、ピコプロジェクション、レーザーヘッドランプ、高解像度プリンティング、バイオフォトニクス、分光学的探査、および原子時計を含む様々な分野において重要な用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、交互のnドープリン化インジウム層および非ドープリン化インジウム層を有する多層構造体を電気化学的にエッチングするプロセスの非限定的な例を示す。初期多層構造体(第1の構造体)が電気化学エッチングプロセスに付されると、(1)nドープ層の選択的多孔化が生じるか(上の矢印の方向、中に空気孔を有するドープ層にナノ多孔が形成されることによって示される多孔性)、または(2)nドープ層のnドープ層材料の完全な除去(すなわち、選択的電解研磨)が生じる(下の矢印の方向、空気チャネルが形成される)。
【0022】
図2図2は、非ドープリン化インジウム(u-InPと示される)およびnドープリン化インジウム(nInPと示される)の交互層を有する、電気化学的にエッチングされた多層構造体の非限定的な表示を示す。実証されるnドープリン化インジウムは、選択的に多孔化されており、多孔化は、横/水平方向に進行している。示されているナノ多孔は、空気孔を表す。
【0023】
図3図3A、3B、および3Cは、非ドープリン化インジウム(u-InPと示される)およびnドープリン化インジウム(nInPと示される)の交互層を有する、電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。nドープリン化インジウム層は、塩酸中、示されている異なる濃度およびバイアス電圧においてエッチングされ、横の/水平な多孔化または電解研磨を実証した。
【0024】
図4-1】図4Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで、または塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(V)(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図4B~4Dは、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。図4E~4Gは、塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。
図4-2】図4Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで、または塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(V)(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図4B~4Dは、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。図4E~4Gは、塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。
図4-3】図4Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで、または塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(V)(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図4B~4Dは、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。図4E~4Gは、塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。
図4-4】図4Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで、または塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(V)(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図4B~4Dは、シュウ酸(0.05Mおよび0.3M水溶液)中、0.4V、0.6V、および1.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。図4E~4Gは、塩酸(0.2M、1M、および2M水溶液)中、1.1Vおよび1.7Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の電解研磨が観察された。
【0025】
図5-1】図5Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで、またはKOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図5Bおよび5Cは、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の多孔化が観察された。図5D、5E、5F、5G、および5Hは、KOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでエッチング条件に依存して、ドープInP層のエッチングなし、多孔化、または電解研磨が観察された。
図5-2】図5Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで、またはKOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図5Bおよび5Cは、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の多孔化が観察された。図5D、5E、5F、5G、および5Hは、KOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでエッチング条件に依存して、ドープInP層のエッチングなし、多孔化、または電解研磨が観察された。
図5-3】図5Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで、またはKOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図5Bおよび5Cは、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の多孔化が観察された。図5D、5E、5F、5G、および5Hは、KOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでエッチング条件に依存して、ドープInP層のエッチングなし、多孔化、または電解研磨が観察された。
図5-4】図5Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで、またはKOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図5Bおよび5Cは、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の多孔化が観察された。図5D、5E、5F、5G、および5Hは、KOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでエッチング条件に依存して、ドープInP層のエッチングなし、多孔化、または電解研磨が観察された。
図5-5】図5Aは、エッチングなし、多孔化、および電解研磨が生じている領域を、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで、またはKOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで行われた、nドープリン化インジウム(2×1019cm-3)の実験的電気化学エッチングに基づいて、ドーピング濃度(y軸)および印加バイアス(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。図5Bおよび5Cは、塩酸(2Mおよび3.3M水溶液)中、1.2Vおよび1.5Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでドープInP層の多孔化が観察された。図5D、5E、5F、5G、および5Hは、KOH(8M水溶液)中、0.4V、0.8V、1.2V、1.5V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、ここでエッチング条件に依存して、ドープInP層のエッチングなし、多孔化、または電解研磨が観察された。
【0026】
図6図6は、孔径および多孔度(y軸)、ならびに電解質濃度(x軸)の関数としての電気化学エッチングの状態図を示す。
【0027】
図7図7は、リン化インジウム/ナノ多孔性リン化インジウムの分布ブラッグ反射器構造体の測定された反射スペクトルのグラフであり、わずか6対の1/4λ層からほぼ統一的な反射率を実証する。
【0028】
図8図8は、エッチングなし、多孔化、および(電解)研磨が生じている領域を、HCl濃度(%)(y軸)および印加バイアス(V)(x軸)の関数として図示する、電気化学エッチングの状態図を示す。
【0029】
図9-1】図9A、9B、および9Cは、10%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.2Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って劈開されている。
図9-2】図9A、9B、および9Cは、10%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.2Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って劈開されている。
【0030】
図10-1】図10A、10B、および10Cは、5%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って劈開されている。
図10-2】図10A、10B、および10Cは、5%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って劈開されている。
【0031】
図11-1】図11A、11B、および11Cは、5%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って見られたものである。
図11-2】図11A、11B、および11Cは、5%HCl中、それぞれ1.6V、1.8V、および2.0Vで電気化学的にエッチングされた多層構造体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示しており、ここでドープInP層(5×1018cm-3)の多孔化が観察され、構造体は、多孔化方向に沿って見られたものである。
【0032】
図12図12は、低多孔度(ドーピング濃度5×1018cm-3)および高多孔度(ドーピング濃度2×1019cm-3)の2種のリン化インジウム/ナノ多孔性リン化インジウムの分布ブラッグ反射器構造体の測定された反射スペクトルのグラフであり、それぞれわずか8対および6対の1/4λ層からほぼ統一的な反射率を実証する。
【0033】
図13-1】図13Aは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器(DBR)ミラーを有する垂直共振器構造体の非限定的な表示を示す。図13Bは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器ミラーを有する垂直共振器構造体の、測定された(実験)反射スペクトルおよびシミュレーションされた反射スペクトルのグラフである。図13Cおよび13Dは、それぞれナノ多孔性InPのDBR構造体の0~5000nmおよび0~2000nmの厚さ(nm、下軸)の関数としての、場の強度(左軸)および屈折率(右軸)の光場シミュレーション(λ=1661nm)のグラフである。
図13-2】図13Aは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器(DBR)ミラーを有する垂直共振器構造体の非限定的な表示を示す。図13Bは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器ミラーを有する垂直共振器構造体の、測定された(実験)反射スペクトルおよびシミュレーションされた反射スペクトルのグラフである。図13Cおよび13Dは、それぞれナノ多孔性InPのDBR構造体の0~5000nmおよび0~2000nmの厚さ(nm、下軸)の関数としての、場の強度(左軸)および屈折率(右軸)の光場シミュレーション(λ=1661nm)のグラフである。
【0034】
図14-1】図14Aは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器(DBR)ミラーおよび最上部の誘電体DBRミラーを有する垂直共振器構造体の非限定的な表示を示す。図14Bは、最上部の誘電体DBRミラーがある状態およびない状態の、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器ミラーを有する垂直共振器構造体の測定された(実験)反射スペクトルのグラフである。図14Cおよび14Dは、それぞれ存在するDBR構造体の0~5000nmおよび0~2000nmの厚さ(nm、下軸)の関数としての、場の強度(左軸)および屈折率(右軸)の光場シミュレーション(λ=1500nm)のグラフである。
図14-2】図14Aは、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器(DBR)ミラーおよび最上部の誘電体DBRミラーを有する垂直共振器構造体の非限定的な表示を示す。図14Bは、最上部の誘電体DBRミラーがある状態およびない状態の、ナノ多孔性InPの底部分布ブラッグ反射器ミラーを有する垂直共振器構造体の測定された(実験)反射スペクトルのグラフである。図14Cおよび14Dは、それぞれ存在するDBR構造体の0~5000nmおよび0~2000nmの厚さ(nm、下軸)の関数としての、場の強度(左軸)および屈折率(右軸)の光場シミュレーション(λ=1500nm)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
リン化インジウム(InP)またはヒ化ガリウム(GaAs)から作製された多層構造体であって、その構造体内に多孔性であるかまたはエッチングされている(すなわち、電解研磨されている)層を備える多層構造体が、本明細書に記載される。多層構造体を製造する方法および使用する方法も記載される。例えば、その構造体は、高性能VCSELのための分布ブラッグ反射器底部ミラーとして使用することができる。
【0036】
I.定義
【0037】
「多孔性」は、本明細書で使用される場合、多孔化された媒体、例えばIII-ニトリド層(複数可)中に存在する空気の、パーセンテージとして表される体積比を指す。
【0038】
「電解研磨」は、本明細書で使用される場合、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムがエッチングされて完全に取り去られるか、または実質的にエッチングされて取り去られ(ここで、「実質的にエッチングされて取り去られる」とは、95%、96%、97%、98%、または99%を超えるエッチングを指す)、nドープ材料が元々存在していたところに間隙が残ることを指す。間隙は、低屈折率媒体(すなわち、空気)になる。空気は、典型的に、屈折率が約1である。
【0039】
「屈折率」または「屈折の比率」は、交換可能に使用され、式n=c/v(式中、cは、真空中での光の速度であり、vは、媒体中での光の位相速度である)に従う、特定されている媒体、例えばIII-ニトリド層における光の速度に対する真空中での光の速度の比を指す。
【0040】
「屈折率コントラスト」は、本明細書で使用される場合、異なる屈折の比率を有する、接触されて界面を形成している2種の媒体間の屈折率の相対的差異を指す。
【0041】
数値範囲には、厚さの範囲、ドーピング濃度の範囲、整数の範囲、時間の範囲、電圧の範囲、距離の範囲、直径の範囲、濃度の範囲等が含まれる。範囲は、そのような範囲が合理的に包含することができるそれぞれ可能な数、ならびにその範囲に包含されている任意の部分範囲および部分範囲の組合せを個々に開示する。例えば、層は、約1nm~10nmの範囲の厚さを有することができ、その範囲は、約2、3、4、5、6、7、8、および9nm、ならびにこれらの数の間の任意の範囲(例えば、3nm~8nm)、およびこれらの値の間の範囲の任意の可能な組合せから独立に選択することができる厚さも開示している。
【0042】
「約」という用語の使用は、「約」という用語が修飾する記述値を、およそ+/-10%の範囲で超えるまたはそれ未満の値を説明することが意図され、他の場合には、その値は、およそ+/-5%の範囲で記述値を超えるまたはそれ未満の値の範囲であり得る。「約」という用語が、ある範囲の数の前に使用される(すなわち、約1~5)または一連の数の前に使用される(すなわち、約1、2、3、4など)場合、別段特定されない限り、その数の範囲の最小値と最大値、および/または一連全体に列挙された数のそれぞれを修飾することが意図される。
【0043】
II.多孔性であるかまたはエッチングされているInPまたはGaAs層を備える多層構造体
【0044】
リン化インジウム(InP)またはヒ化ガリウム(GaAs)から作製された多層構造体であって、その構造体内に多孔性であるかまたはエッチングされている(すなわち、電解研磨されている)層を備える多層構造体が、以下に詳細に記載される。
【0045】
一例として、多層構造体の非限定的な例は、
リン化インジウム、ヒ化ガリウム、サファイア、ケイ素、または炭化ケイ素から形成された単結晶基板上に必要に応じて存在する、複数の非ドープまたは低ドープ(以下参照)リン化インジウムまたはヒ化ガリウム層
を備えており、
多層は、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも2つの層の間に存在する、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層を含み、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムは、電気化学エッチングに起因して多孔性であるかまたは電解研磨されている少なくとも一領域または一部を備えており、
nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの少なくとも1つの層は、多孔性である場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められているnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含んでいる(ここで、「実質的に非多孔性」とは、非ドープ(または低ドープ)層における多孔度が25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満であることを指す)。いくつかの他の場合には、複数の細孔は、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層の面方向に対して水平に(すなわち、平行に)整列している。
【0046】
好ましい実施形態では、多層構造体は、単一のタイプのドープおよび非ドープ(または低ドープ)材料から作製されている。例えば、すべてがリン化インジウムの層またはすべてがヒ化ガリウムの層から作製されている多層構造体。しかし、あまり好ましくない場合では、異なるタイプの材料の混合物が可能である。
【0047】
図1に示される通り、多層構造体は、nドープおよび非ドープ(または低ドープ)InPまたはGaAsの交互層から形成される。nドープ層は、非ドープ層(または低ドープ層)間に存在する。十分にドープされているnドープ層は、ドープ層を選択的に多孔化するか、またはドープ層もしくはドープ層内の領域を選択的に電解研磨して取り去る(すなわち、除去する)ために、以下に記載される通り、選択的に電気化学的にエッチングすることができる。非ドープまたは低ドープ層は、一般に、電気化学的にエッチングされない。多孔化度を制御する条件または電解研磨を可能にする条件は、以下にさらに詳細に記載される。図1から分かる通り、多孔化および電解研磨は、必ずしもnドープ層全体を除去する必要はなく、本プロセスでは、層内のごく一部または一領域が多孔化され得るかまたは電解研磨され得る。図1からさらに分かる通り、多孔化および電解研磨は、多層構造体の1つまたは複数の側壁から進行する選択的な横へのエッチング方向に起因して、水平方向に形成される(空気)孔またはチャネルを含む多層構造体を形成する。
【0048】
基板が存在する場合、基板は、任意の好適な厚さのリン化インジウム、ヒ化ガリウム、サファイア、ケイ素、または炭化ケイ素から作製することができる。好ましくは、非ドープまたは低ドープ層は、基板上に堆積された第1の層である。ほとんどの場合、多層構造体は、半導体材料であるInPまたはGaAsのうち一方のタイプのみから形成される。nドープおよび非ドープ(または低ドープ)InP層またはGaAs層の交互層は、ホモエピタキシャルに形成され、当技術分野で公知の技術を使用して制御可能にnドープされる。一部の場合には、交互層は、例えば、好適な基板(すなわち、サファイア基板、ケイ素基板、または炭化ケイ素基板のc面)上に、有機金属化学蒸着法(MOCVD)によって成長させることができる。ドープおよび非ドープ層は、好ましくは平面層である。層(複数可)の寸法は、ドープまたは非ドープにかかわらず、特定の用途に好適な任意のサイズ、面積、または形状のものであり得る。一部の場合には、面積は、約0.1~100cm、0.1~90cm、0.1~80cm、0.1~70cm、0.1~60cm、0.1~50cm、0.1~40cm、0.1~30cm、0.1~20cm、0.1~10cm、0.1~5cm、または0.1~1cmの間の範囲である。
【0049】
電気化学エッチングでは、InPまたはGaAsがn型ドーパントでドープされる必要がある。したがって、ドープ層は、存在する場合には堆積/形成中に形成される。例示的なドーパントとしては、それらに限定されないが、n型GeおよびSiドーパントを挙げることができる。そのようなドーパント供給源としては、例えば、シラン(SiH)、ゲルマン(GeH)、およびイソブチルゲルマン(IBGe)が挙げられ得る。形成されたInPまたはGaAsのn型ドープ層について、n型ドーピング濃度は、その層全体にわたって均一であり得るか、またはドーピング濃度は、勾配を形成し得る(すなわち、層の軸、例えば幅にわたって、段階的なドーパント濃度を有している層)。ドーピング濃度は、少なくとも約1×1019cm-3もしくはそれよりも高いドーピング濃度レベルでは、高いとみなされるか、または約0.1×1019cm-3~10×1020cm-3の間の範囲である。一部の場合には、高いドーピング濃度レベルは、約1×1019cm-3、2×1019cm-3、3×1019cm-3、4×1019cm-3、5×1019cm-3、6×1019cm-3、7×1019cm-3、8×1019cm-3、9×1019cm-3、または10×1019cm-3であり得る。ドーピング濃度は、約1×1018cm-3より大きい~1×1020cm-3未満、2×1018cm-3~1×1020cm-3未満、3×1018cm-3~1×1020cm-3未満、4×1018cm-3~1×1020cm-3未満、または5×1018cm-3~1×1020cm-3未満のドーピング濃度レベルでは、中程度とみなされる。一部の場合には、中程度にドープされた濃度レベルは、1×1019cm-3~1×1020cm-3未満の範囲または約0.5×1019cm-3~10×1019cm-3の範囲である。一部の場合には、中程度のドーピング濃度レベルは、約1×1018cm-3、2×1018cm-3、3×1018cm-3、4×1018cm-3、5×1018cm-3、6×1018cm-3、7×1018cm-3、8×1018cm-3、9×1018cm-3、または10×1018cm-3であり得る。中程度から高度のn型ドーピングは、電気化学エッチングプロセスに付され、電気化学エッチングプロセス中に使用される条件に応じて、ドープ層の制御された多孔化および/または電解研磨をもたらす。
【0050】
前述の通り、多層構造体は、非ドープInP層またはGaAs層を備えており、それらの層は、多層構造体が電気化学的にエッチングされるときに影響を受けない(多孔化されることもエッチングされることもない)。一般に、多層構造体は、InPまたはGaAsの非ドープ層を備える。しかし、一部の場合には、多層構造体は、低ドープInPまたはGaAs層を備えることができ、ここでドーピング濃度は、約20×1017cm-3未満または約0.5×1017cm-3~10×1017cm-3の間の範囲のドーピング濃度レベルでは、低いとみなされる。一部の場合には、中程度のドーピング濃度レベルは、約1×1017cm-3、2×1017cm-3、3×1017cm-3、4×1017cm-3、5×1017cm-3、6×1017cm-3、7×1017cm-3、8×1017cm-3、9×1017cm-3、または10×1017cm-3であり得る。
【0051】
電気化学エッチング前の、多層構造体を形成するnドープおよび非ドープ(または低ドープ)InPまたはGaAsの交互層の数は、特には制限されない。一部の場合には、交互層は、InPまたはGaAsのすべての非ドープ(または低ドープ)層の間にnドープ層が存在するように形成される。一部の場合には、3~10の交互層(InPまたはGaAsの一対のnドープおよび非ドープ(または低ドープ)層から形成される)が存在してもよい。例えば、図1は、少なくとも電気化学エッチング前に、6対のnドープおよび非ドープ(または低ドープ)交互層を備えている(左側)。一部の場合には、多層アーキテクチャは、少なくとも電気化学エッチング前に、接触しているInPまたはGaAsの少なくとも6対のnドープおよび非ドープ(または低ドープ)層を含む。一部の他の場合には、多層アーキテクチャは、約99.9%の理論的反射率を達成するために、エッチング後にInPまたはGaAsのエッチングされた層とエッチングされていない層との間に約0.5の屈折率コントラストが存在する場合、少なくとも24対を含む。
【0052】
電気化学エッチング前の、nドープまたは非ドープ(低ドープ)層のいずれか1つの厚さは、それぞれ独立に、約50~500nmの間の範囲(およびその部分範囲)であり得る。一部の場合には、電気化学エッチングの前または後の多層構造体の全厚さは、約600nm~約8,000nmまたは600nm~約6,000nmの間の範囲、およびその部分範囲であり得る。層または基板の寸法および/または形状は、用途に必要な任意の好適な形状/寸法であり得る。
【0053】
電気化学エッチング後、多層構造体における非ドープまたは低ドープInPまたはGaAs層は、典型的に影響を受けない(すなわち、多孔化されることも実質的に多孔化されることもない(ここで、「実質的に多孔化されない」とは、非ドープ(または低ドープ)層における多孔度が25%、20%、15%、10%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満であることを指す))。本方法の一部の場合には、非ドープ(または低ドープ)層の意図的でない多孔化が生じ、この場合、低nドープ層でさえもECエッチング中に多孔化され得るでも。
【0054】
電気化学エッチング後、多層構造体におけるnドープInPまたはGaAs層は、電気化学エッチング前と比較して多孔化され得る。多孔化は、層が、約30%~90%の間またはそれよりも高い多孔度を有する少なくとも一部を備えている場合、高いとされ得る。一部の場合には、多孔度は、少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%、またはそれよりも高い。多孔化により低屈折率物質、例えば空気を層(またはその一部)に組み込むことは、多孔化前のバルクInPまたはGaAsと比較して屈折率を低下させる効果がある。
【0055】
nドープ層について、電気化学エッチングは、以下のIIIの節においてより詳細に論じられる通り、電解質のタイプおよび濃度、層のn-ドーピング濃度、ならびに印加バイアス電圧を変化させることによって、異なる多孔度および細孔形態をもたらすことができる。
【0056】
電気化学エッチングは、多層構造体に、横または水平方向の細孔を選択的に作製するために使用することができる。図1に示されている通り、多層構造体の側表面からのこれらの選択的形態。限定されるものではないが、電気化学エッチングプロセス中に形成された横または水平方向の細孔は、任意の好適な長さであり得る。多層構造体内に備えられている多孔化InPまたはGaAs層(またはその中の領域)は、好ましくはナノ多孔性であるが、マイクロ、メソもしくはマクロ多孔性、またはそれらの任意の組合せとしてさらに定義され得る。多孔化された層またはその領域は、マイクロ多孔性(d<2nm)、メソ多孔性(2nm<d<50nm)、またはマクロ多孔性(d>50nm)として、さらにカテゴリーに分けることができ、ここでdは平均孔径である。層またはその領域に含まれている細孔の形態も、円形、半円形、楕円形、またはそれらの組合せとして分類することができる。細孔は、約5~100nm、5~75nm、5~50nm、または5~25nmの間の平均サイズ(すなわち、長さ)を有することができる。一部の場合には、平均細孔径は、約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100nmまたはそれよりも大きい。一部の場合には、細孔の平均サイズは、元のドーピング濃度、使用されるエッチャント、および電気化学的多孔化プロセス中に印加される電圧に基づいて、約20nm未満~50nmを超える間の範囲であり得る。任意の隣接する細孔間の空間(細孔の壁厚尺度も規定する)は、約1~50nm、5~50nm、5~40nm、5~30nm、5~25nm、5~20nm、5~15nm、または5~10nmの間の範囲であり得る。
【0057】
所与の多層構造体では、ドープInPまたはGaAs層のすべてまたは一部が、電気化学エッチング中に多孔化され得る。一部の場合には、電気化学エッチングは、側壁から進行し、層の多孔化の程度は、ドープ層の最長平面寸法の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、または90%である。一部の他の場合には、電解研磨が生じる場合、層の電解研磨の程度は、ドープ層の最長平面寸法の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、または90%である。多孔化は、電気化学エッチングプロセス中、各ドープ層内に均一にまたは不均一に生じ得る。電解研磨は、電気化学エッチングプロセス中、各ドープ層内に均一にまたは不均一に生じ得る。
【0058】
前述の通り、一部の場合には、ドープ層は電解研磨して取り去られ(完全に除去され)、それによって、ドープInPまたはGaAs材料が以前存在していた非ドープ(または低ドープ)層の間に材料はほとんどまたは全く残らない。電解研磨に起因して形成された空隙の寸法は、ドープInPまたはGaAs層の寸法、および材料が電解研磨して取り去られた程度に応じて変わる。図1に示される通り、電解研磨は、ドープ材料が除去された非ドープ層の間に、横または水平の(空気)孔またはチャネルを生じる。
【0059】
a.多層構造体の光学特性
【0060】
電気化学的にエッチングすることによって、低屈折率物質、例えば空気を、多層構造体の選択領域に選択的に組み込むことは、バルクInPまたはGaAsと比較して屈折率を低下させる効果がある。したがって、多層構造体内の多孔化された領域の屈折率を選択的に調節することが可能である。
【0061】
電気化学エッチング前に、InPから形成された多層構造体の層のそれぞれは、約3.2の屈折の比率を有している。電気化学エッチングは、ドープInP層を選択的に多孔化するか、または完全に電解研磨してもよく、それによって屈折の比率を3.2未満に低下させることができる。一部の場合には、多孔化されたInP層の屈折の比率は、約1.5~2.7である。InP層が電解研磨して取り去られる場合、屈折の比率は約1である。結果的に、電気化学エッチング後の複数のInP層間の屈折率コントラスト(Δn)は、約0.5~約2の範囲であり得る。一部の場合には、屈折率コントラスト(Δn)は、少なくとも約1.1、1.2、1.3、1.4、または1.5である。さらに他の場合には、屈折率コントラスト比(Δn)は、少なくとも約1.5である。
【0062】
電気化学エッチング前に、GaAsから形成された多層構造体の層のそれぞれは、約3.95の屈折の比率を有している。電気化学エッチングは、ドープInP層を選択的に多孔化するか、または完全に電解研磨してもよく、それによって屈折の比率を3.95未満に低下させることができる。一部の場合には、多孔化されたGaAs層の屈折の比率は、約1.5~3.4である。GaAs層が電解研磨して取り去られる場合、屈折の比率は約1である。結果的に、電気化学エッチング後の複数のGaAs層間の屈折率コントラスト(Δn)は、約0.5~約2.5の範囲であり得る。一部の場合には、屈折率コントラスト(Δn)は、少なくとも約1.1、1.2、1.3、1.4、または1.5である。さらに他の場合には、屈折率コントラスト比(Δn)は、少なくとも約1.5である。
【0063】
以下の実施例において論じられる通り、交互の屈折の比率の層を形成することにより、連続的な建設的または相殺的干渉を生じ得る。各層の厚さが、それぞれ光波長の1/4に相当する場合、多層構造体の交互層のスタックは、一緒に反射ミラーとして作用し、このミラーは、赤外発光VCSELに必要とされる長波長を支持するために使用することができる。ある特定の場合、多層構造体はミラーとして作用し、少なくとも約99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%の反射率を実証する。
【0064】
b.多層構造体の電気特性
【0065】
電気化学エッチングによって、多孔化または電解研磨により多層構造体のドープ層の選択領域に空気を選択的に組み込むことは、バルク(非多孔性)の等価なInPまたはGaAsと比較して、電気特性に影響を及ぼすことができる。電気的に注入されたデバイス、特に高電流密度を必要とするデバイスについて、高いデバイス性能には良好な電気輸送が必須である。
【0066】
一部の場合には、ドープInPもしくはGaAs層の領域の多孔化、またはドープInPもしくはGaAs層の領域の電解研磨により、バルク(非多孔性)の等価なバルクInPまたはGaAsと比較して、約5×1018cm-3を超えるキャリア(電子)濃度、および少なくとも約50、60、70、80、90、95cm/V s、またはそれよりも高い電気的移動度を保持することが可能な多層構造体が得られる。
【0067】
c.多層構造体の熱特性
【0068】
電気化学エッチングによって、多孔化または電解研磨により多層構造体のドープ層の選択領域に空気を選択的に組み込むことは、バルク(非多孔性)の等価なInPまたはGaAsと比較して、熱特性に影響を及ぼすことができる。
【0069】
一部の場合には、ドープInPもしくはGaAs層の領域の多孔化、またはドープInPもしくはGaAs層の領域の電解研磨により、多層構造体の熱伝導率が、全体として約1~25、2~20、2~15、または2~10W/m・Kの間の範囲である多層構造体が得られる。さらに一部の他の場合には、平均熱伝導率は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15W/m・Kである。
【0070】
III.多層構造体を調製する方法
【0071】
既に使用されている光電気化学的(PEC)方法とは異なり、伝導率選択的電気化学(EC)エッチング方法は、光生成された正孔ではなく電気的に注入された正孔を利用して、ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムを酸化させ、それらの選択的多孔化または電解研磨を可能にする。その方法は、紫外線(UV)照射への曝露を必要としない。
【0072】
多層構造体を形成する方法の非限定的な一例では、その方法は、
(a)必要に応じた基板層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第1の層を形成するステップと、
(b)第1の層にわたって、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第2の層を堆積させるステップと、
(c)第2の層の上に、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムの第3の層を堆積させるステップと、
(d)必要に応じてステップ(b)および(c)を反復して、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムと、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウムとのさらなる交互層を形成するステップと、
(e)多層構造体全体にわたって、キャッピング層を堆積させるステップと、
(f)キャッピング層の少なくとも一部を除去して、多層構造体の少なくとも1つの側壁を選択的に露出させるステップと、
(g)nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層を、電解質の存在下、印加バイアス電圧の下で電気化学的に(EC)エッチングして、存在するnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層の少なくとも一部を選択的に多孔化するかまたは電解研磨するステップと
を含み、
nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層は、多孔化されている場合、非多孔性または実質的に非多孔性である隣接する非ドープまたは低nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層によって閉じ込められているnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層内に、複数の細孔を含む(ここで、「実質的に非多孔性」とは、非ドープ(または低ドープ)層における多孔度が25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、または1%未満であることを指す)。一部の他の場合には、複数の細孔は、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層の面方向に対して水平に(すなわち、平行に)整列している。
【0073】
本方法の好ましい実施形態では、多層構造体は、単一のタイプのドープおよび非ドープ(または低ドープ)材料から製作される。例えば、多層構造体は、すべてがリン化インジウムの層またはすべてがヒ化ガリウムの層から作製される。しかし、その方法のあまり好ましくない場合では、異なるタイプの材料(すなわち、InPおよびGaAsが一緒にされる)の使用が可能である。
【0074】
前述の方法について、基板は、存在する場合、サファイア、ケイ素もしくは炭化ケイ素基板であり得るか、または好ましくは非ドープのリン化インジウムもしくはヒ化ガリウム層から作製され得る。単結晶基板は、任意の好適な厚さを有することができる。
【0075】
非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層、およびnドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層は、それぞれ、当技術分野で公知の方法、例えば有機金属化学蒸着法(MOCVD)または分子線エピタキシー(MBE)に従って、エピタキシャルにまたはホモエピタキシャルに成長させることができる。
【0076】
本方法では、非ドープまたは低ドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層、および存在する場合、nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層は、それぞれ独立に、約50~500nmの間の範囲(およびその部分範囲)であり得る。基板または基板層の厚さは、存在し得る場合、それぞれ独立に、任意の好適なサイズを有することができるが、約50~500nmの範囲(およびその部分範囲)であり得る。上記の層または基板の寸法および/または形状は、用途に必要な任意の好適な形状/寸法であってよい。最後に、本方法によって形成された多層構造体の全厚さは、好ましくは約600nm~約8,000nmまたは約600nm~約6,000nmの間の範囲である。
【0077】
nドープリン化インジウムまたはヒ化ガリウム層が存在する場合、その堆積には、堆積/形成中にドーパントを使用する必要がある。例示的なドーパントとしては、それらに限定されないが、n型GeおよびSiドーパントを挙げることができる。そのようなドーパント供給源としては、例えば、シラン(SiH)、ゲルマン(GeH)、およびイソブチルゲルマン(IBGe)が挙げられ得る。ドーピング濃度は、ドープIII-ニトリド層全体にわたって均一であり得るか、またはドーピング濃度は、勾配(すなわち、層の軸、例えば幅にわたって段階的なドーパント濃度)を形成し得る。ドーピング濃度は、少なくとも約1×1019cm-3もしくはそれよりも高いドーピング濃度レベルでは、高いとみなされるか、または約0.1×1019cm-3~10×1020cm-3の間の範囲である。ドーピング濃度は、約1×1018cm-3より大きい~1×1020cm-3未満、2×1018cm-3~1×1020cm-3未満、3×1018cm-3~1×1020cm-3未満、4×1018cm-3~1×1020cm-3未満、または5×1018cm-3~1×1020cm-3未満のドーピング濃度レベルでは、中程度とみなされる。一部の場合には、中程度にドープされた濃度レベルは、1×1019cm-3~1×1020cm-3未満の範囲または約0.5×1019cm-3~10×1019cm-3の範囲である。中程度から高度のn型ドーピングは、電気化学エッチングプロセスに付され、電気化学エッチングプロセス中に使用される条件に応じて、ドープ層の制御された多孔化および/または電解研磨をもたらす。既に記載されている通り、多層構造体は、非ドープInP層またはGaAs層を備えており、それらの層は、多層構造体が電気化学的にエッチングされるときに影響を受けない(多孔化されることもエッチングされることもない)。一般に、多層構造体は、InPまたはGaAsの非ドープ層を備える。記載される方法の一部の場合では、多層構造体は、低ドープInPまたはGaAsの層を備えることができ、ここでドーピング濃度は、約20×1017cm-3未満または約0.5×1017cm-3~10×1017cm-3の間の範囲のドーピング濃度レベルでは、低いとみなされる。
【0078】
ステップ(e)において、キャッピング層は、多層構造体全体にわたって堆積され、ここでキャッピング層は、酸化ケイ素(すなわち、SiO)または他の好適な材料、例えば窒化ケイ素(SiN)、酸化ハフニウム(HfO)、およびフォトレジスト材料から作製され得る。好適なフォトレジスト材料は、当技術分野で公知である。キャッピング層は、必要とされる任意の好適な厚さを有することができ、10~3000nmの間の範囲であり得る。キャッピング層は、当技術分野で公知の方法、例えば有機金属化学蒸着法(MOCVD)または分子線エピタキシー(MBE)、プラズマ励起化学蒸着法(PECVD)、原子層堆積(ALD)、物理蒸着法(PVD)、およびスパッタリングに従って、エピタキシャルにまたはホモエピタキシャルに成長させることができる。
【0079】
ステップ(f)では、多層構造体の少なくとも1つの側壁を選択的に露出させるための、キャッピング層の少なくとも一部の除去は、ステップ(g)のECプロセスを露出した側壁(複数可)から進行させることができる。キャッピング層、例えば二酸化ケイ素層を除去するのに好適な技術としては、例えば、キャッピング層を選択的方式でエッチングして、多層構造体の側壁(複数可)でドープ層(複数可)を露出させるために使用することができる、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(ICP-RIE)が挙げられ得る。代替的に、多層構造体の側壁(複数可)でドープ層(複数可)を露出させるために、キャッピングされた構造体を物理的に劈開することができる。
【0080】
多孔化および/または電解研磨は、ステップ(g)の電気化学(EC)エッチングプロセス中に生じ、電解質濃度、ドーピング濃度、および印加バイアス電圧(以下に論じられる)に基づいて制御され得る。印加バイアス電圧は、典型的に、約0.1~10V、1.0~5V、または1.0~2.5Vの範囲の正の電圧である。一部の場合には、印加バイアスは、元のドーピング濃度および使用されるエッチャントのタイプに基づいて、約1V未満~少なくとも約10V、またはそれよりも高い範囲である。一部の場合には、多孔度は、より低い相対ドーピング濃度(複数可)が使用される場合、選択的に最小限に抑えることができ、非限定的な一例では、共に同じ条件下でエッチングされる場合、試料中5×1018cm-3のドーピング濃度の方が、2×1019cm-3のドーピング濃度と比較して多孔性が少なくなる。このことは、すべての相対的濃度差について一般に予想することができ、ドーピング濃度が高いほど、他のすべての電気化学エッチングパラメータは一定での、より低い相対ドーピング濃度と比較して、より多く多孔化される。一部の場合には、電気化学エッチング条件は、電解質濃度、ドーピング濃度、および印加バイアス電圧の印加電圧(複数可)の選択に応じて、多孔化(約30%~90%の間、またはそれよりも高い多孔性が導入される)だけ、または完全な電解研磨(すなわち、全体的なまたはほぼ全体的な除去(すなわち、ドープ材料の95%、96%、97%、98%、または99%超の除去))を選択的かつ制御可能にもたらし得る。ECエッチングプロセス中の電場方向を使用して、エッチング方向の方向を制御し、それによって、ドープInPまたはGaAs層にエッチングされる細孔の方向を制御することができる。例えば、方法のステップ(g)中のECエッチング方向は、電場方向の関数であり得、電場方向によって決定され得る。ECエッチングは、好ましくは横へのエッチング方向を生じる。ステップ(g)中の横へのエッチングの速度は、約0.1μm/分、0.2μm/分、0.3μm/分、0.4μm/分、0.5μm/分、0.6μm/分、0.7μm/分、0.8μm/分、0.9μm/分、1μm/分、2μm/分、3μm/分、4μm/分、5μm/分、6μm/分、7μm/分、8μm/分、9μm/分、10μm/分、20μm/分、30μm/分、40μm/分、または50μm/分であり得る。
【0081】
ステップ(g)のECエッチングは、印加バイアス電圧の下で、約1分~24時間、1分~12時間、1分~6時間、1分~4時間、1分~2時間、1分~1時間、または1分~30分間行うことができる。一部の場合には、ステップ(g)のECエッチングは、印加バイアス電圧の下で、少なくとも約5分間、10分間、15分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間、60分間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、10時間、15時間、20時間、24時間、またはそれよりも長時間行われる。ステップ(g)のECエッチングは、印加バイアス電圧の下で、室温でまたは約10℃~約50℃の範囲の温度で行うことができる。ステップ(g)のECエッチングは、印加バイアス電圧の下で、周囲条件下でまたは必要に応じて不活性雰囲気(例えば、窒素またはアルゴンの)下で行うことができる。
【0082】
ステップ(g)で行われるECエッチングは、異なるタイプおよび濃度の高伝導率電解質(塩または酸のいずれか)中で行うことができる。例示的な高伝導率電解質としては、それらに限定されないが、ハロゲン化物イオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、フッ化水素酸(HF)、KOH、NaOH、Ba(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)、NHOH、NaCl、NaF、硝酸(HNO)、有機酸およびそれらの塩(例えば、シュウ酸およびクエン酸)、ならびにそれらの混合物を挙げることができる。高伝導率電解質溶液、典型的に水溶液中の電解質濃度は、約0.1~10Mの間の範囲であり得る。一部の他の場合には、高伝導率電解質溶液、典型的に水溶液中の電解質濃度は、電解質が溶解している溶媒(複数可)、例えば水に対する、電解質のパーセンテージ(体積/体積)として定義することができ、約0.1~30体積%の間の範囲であり得る。さらに他の場合には、高伝導率電解質溶液、典型的に水溶液中の電解質濃度は、電解質が溶解している溶媒(複数可)、例えば水に対する、電解質のパーセンテージ(重量/体積)として定義することができ、約0.1~30重量%の間の範囲であり得る。上記に列挙された電解質は、普通、室温ではInPまたはGaAsをエッチングしないが、ステップ(g)中に適用される電気化学的アノード条件下ではInPまたはGaAsをエッチングすることができる。
【0083】
前述の通り、電気化学エッチングは、露出した側壁(複数可)の端部から、例えば横方向に進行して、水平な細孔を優先的に形成すると考えられる。横へのエッチングにより、多孔化を生じる細孔、典型的にナノ多孔が、ステップ(g)中に、ドープ層内に水平にまたは主に水平に形成される。多層構造体は、交互のドープおよび非ドープ(または低ドープ)InPまたはGaAsの平面層が存在する、最下層から最上層への垂直軸を有している。ECエッチングが誘導される場合、nドープ層の多孔化は、垂直軸に対して垂直にまたは主に垂直に生じる。主に垂直とは、本明細書で使用される場合、平均して、垂直軸に対して約20度、15度、10度、または5度の垂直/水平面内に配向している細孔を指す。換言すれば、多孔化は、ドープ層の平面方向に対して平行またはほぼ平行な水平方向に沿ってまたは主に沿って生じる。図2を参照されたい。多層構造体について、電気化学エッチング後、垂直軸と並んで垂直に整列している細孔は、もしあるとしてもごくわずかであるべきである。細孔は、好ましくは、多層構造体の垂直軸と整列していない。一部の場合には、電気化学エッチング中、ドープ層において垂直に整列している細孔は形成されず、水平な細孔だけが形成される(図2を参照されたい)。一部の場合には、実質的に多孔化されていない非ドープ(または低ドープ)InPまたはGaAsは、垂直[001]および水平方向から45度傾斜した角度にある[111]の結晶学的方向に沿って形成されたナノ多孔も有している。一部の他の場合には、巨視的には、nドープInPにおいて形成されるナノ多孔は、多孔化中に横に増えていくが、微視的には、ナノ多孔の発生は、特定の結晶学的方向(例えば、ドープ層表面から+45°、-45°傾斜している)に沿って生じ得るといえる。
【0084】
電気化学エッチングは、一般に、酸化物の形成および除去ステップからなる(Quill, N., et al. (2013). ECS transactions, 58(8), 25-38)。InPまたはGaAs/電解質界面における自由正孔の存在は、酸化に重要であり、形成された酸化物は、様々な電解質に容易に溶解することができると考えられる。自由正孔は、電界支援トンネリングによって供給され、それらの量は、主にアノードバイアスおよびドーピング濃度に応じて変わる。一部の場合には、電気化学(EC)エッチング条件は、低アノードバイアスおよび/または低ドーピング濃度(低ドーピングは上記に記載されている)ではECエッチングをもたらさず、一方、大きいバイアスおよび/または高n-ドーピング濃度で、電解研磨(すなわち、完全なエッチング)が観察される。多孔化は、中程度のバイアスおよび/またはドーピング濃度で観察される。
【0085】
リン化インジウムは、高ドーピング濃度がInP層において使用される場合には特に、複雑な電気化学(EC)エッチング挙動を実証することができる。図4Aおよび5Aは、図1に示されるものなどのInP多層構造体を、様々な電解質(様々な濃度のHCl、シュウ酸、およびKOH)中、様々な印加電圧でエッチングすることによって実験的に誘導された、例示的なECエッチングの状態図を示している。リン化インジウム層のドーピング濃度が、1×1019cm-3に近づくか、またはそれを超えると、電解質濃度に依存的なECエッチングが優勢になり、多孔化プロセスに影響を及ぼすことが見出された。図4Aおよび5Aに示される通り、ドープInPは、約0.1~約2Vの範囲の印加電圧で、約2M未満の濃度を有する電解質中で主に電解研磨される傾向がある。より濃厚な電解質、例えば約2Mを超える濃度は、多孔化を可能にするが、電圧依存性も示し、1V未満の電圧では、エッチングを生じないか(すなわち、0.5V未満)、または電解研磨が生じるか(すなわち、0.5V~1Vの間)のいずれかであり、1Vを超える電圧では多孔化が生じることも見出された。例えば、図5D~5Hを参照されたい。したがって、電解質の選択は、n-InPを多孔化し、良好なECエッチング選択性を達成するために最も重要なステップの1つである。一般に、InPについて観察された傾向は、GaAsから作製された同等の多層アーキテクチャにおいて予想することができた。
【0086】
また、細孔先端部で生じた自由正孔は、速やかに消費され、InP酸化に関与し、それによって正孔拡散長が短くなることができ、ナノ多孔間の壁のECエッチングが妨げられ得ると考えられる。重度にドープされたInPの場合(n≧1×1019cm-3)、小さい空乏幅により細孔壁が極薄になり、ナノ多孔は、正孔拡散に起因して電解質の選択に応じて容易に崩壊し得る。短い正孔拡散長および/または細孔壁上に形成された不動態層は、ドープInPの多孔化に必要である。電解質濃度を上昇させて、これらの条件を満たすことができ、その濃度を使用して、ドープInPの選択的多孔化を達成することができる(図6を参照されたい)。
【0087】
IV.多層構造体を使用する方法
【0088】
多層構造体は、電子、フォトニック、およびオプトエレクトロニクス用途を含む様々な用途において使用することができる。そのような多層構造体についての用途としては、より具体的には、とりわけファイバーベースの通信、自由空間通信、LiDAR、検出および距離測定、暗視、ならびに化学検出が挙げられる。
【0089】
特に、多層構造体は、レーザーダイオード、例えば垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)において有用であり、ここで多層構造体は、分布ブラッグ反射体(DBR)として働くことができる。リン化インジウムから作製されたDBRとして使用される多層構造体は、長波長VCSEL(すなわち、900~2000nmの赤外波長で発光する)を提供することができるはずである。ヒ化ガリウムから作製されたDBRとして使用される多層構造体は、約800~1100nmの間の範囲で発光することができるVCSELを提供することができるはずである。多層構造体は、当技術分野で公知の技術を使用して、様々なデバイス、例えばVCSELに組み込むことができる。
【0090】
これらの例で製作され、エッチングされた多層構造体は、高い屈折率コントラストを有しており、格子整合しており、エピタキシャル的に適合性があり、VCSELのためのミラー、DBRの製造しやすい製作を可能にする。多層構造体がInPから形成される場合、多層構造体は、長波長VCSELを製造するために使用することができる。上記に記載されている方法は、例えばリン化インジウムから作製された多層構造体に基づくDBRの大量生産を可能にして、1200~2000nmで発光する赤外VCSELを製造することができる。
【0091】
これらの多層構造体は、ECエッチングされる場合、層状化された選択的なやり方で、主にまたは排他的に水平な多孔化を実証することができる。これは、DBR層の最上部に典型的に成長される活性領域の質に有害な影響を及ぼすことなく水平多孔化が行われ得るので、VCSEL用途において特に重要である。
【0092】
ある特定の場合、多層構造体は、少なくとも約99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%のピーク反射率を有する、リン化インジウムについて1100~2000nmまたは約1100~2000nmの阻止帯域を実証する、垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)のDBRとして作用する。ある特定の場合、多層構造体は、少なくとも約99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%のピーク反射率を有する、1250nmまたは約1250nmの阻止帯域を実証する、垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)のDBRとして作用する。一部の場合には、阻止帯域は、ヒ化ガリウムについて約800~1100nmの間の波長幅を有しており、少なくとも約99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、または99.9%のピーク反射率を有する。そのような特性は、多層構造体の特性、例えば層の数、層の厚さ、ECエッチングによるドープ層の多孔化または電解研磨の程度を調節することによって、目的に合わせることができる。
【0093】
多層構造体は、既に報告されているVCSELと比較して、優れた光学的および電気的性能を有する高性能VCSELを提供するために使用することができる。VCSELは、より一般に使用されている端面発光レーザーダイオード(EELD)と比較して多くの利点、例えば優れたビーム質、コンパクトフォームファクター、低動作電圧、コスト効果の高いウエハレベル試験、より高い歩留まり、および製造におけるより低いコストを有している。VCSELには、一般に、情報処理、マイクロディスプレイ、ピコプロジェクション、レーザーヘッドランプ、高解像度プリンティング、バイオフォトニクス、分光学的探査、および原子時計を含む様々な分野において重要な用途がある。
【0094】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解されよう。
【実施例
【0095】
(実施例1)
InP多層構造体(高ドーピング)の調製および試験
【0096】
材料および方法
【0097】
多層構造体を、MOCVDによって片面を研磨したn-InP基板上にホモエピタキシャルに成長させたリン化インジウムから形成した。ドープ層に、ゲルマニウムドーパントを以下に列挙するドーピング濃度でドープした。多層構造体は、nドープ(2×1019cm-3)InP層および非ドープInP層の交互層を備えていた。ベース層を、わずか1×1017~1×1018のドーピング濃度を有するnドープInP層から形成し、その上に300nmの非ドープInP層を形成した。140nmのnドープInP層を、300nmの層上に堆積させた。次に、110nmの非ドープInP層を、140nmの層上に堆積させた。ドープInP(140nm、2×1019cm-3)および非ドープInP(110nm)のさらなる層を堆積させた。最後のInP層は、非ドープであった。この構造体は、図1に表されている(左を参照されたい)。最終的な多層構造体は、非ドープInP層間に6つのドープInP層(140nm、2×1019cm-3)を備えていた。次に、二酸化ケイ素のキャッピング層を、多層構造体全体上に堆積させ、多層構造体の側壁を、プラズマ励起化学蒸着による二酸化ケイ素層の選択された一部を除去することによって露出させ、電気化学エッチングのためのドープInP層の側壁を露出させるために、ウエハを細い棒状に劈開する。
【0098】
その後、多層構造体を、上記に記載されている方法に従って、様々な濃度の電解質(HCl、シュウ酸、およびKOH)水溶液中、異なるアノード電圧で電気化学的に(EC)エッチングした。アノード電圧を5~20分間印加した。実施した試験について、HClは、急速な横へのエッチング速度(約8~20μm/分)を実証し、一方、KOHは、より緩慢な横へのエッチング速度を示した(約0.1~0.5μm/分)。試験した条件および観察された結果は、以下の表1に提示される。
【0099】
【表1】
【0100】
上記の走査電子顕微鏡画像は、図4B~4Gおよび5B~5Hに示されている。
【0101】
結果
【0102】
電気化学的エッチングの結果により、多孔化が生じると、横へのエッチングにより水平および/または実質的に水平な細孔を生じたことが明らかになった。多孔化された層は、エッチング後にナノ多孔性になることが見出された。
【0103】
電解質の選択および濃度ならびにバイアス電圧を含む、使用されたEC条件に依存して、ドープInP層を電解研磨することができた。HCl電解質を使用する場合、例えば、ドープInPは、2モル濃度(M)またはそれ未満のHClで電解研磨され、一方、2および3.3M HClでは、比較的より高いアノード電圧でもナノ多孔が形成された(図4E~4Gおよび5B~5Cを参照されたい)。このECエッチング挙動は、KOHにおいても見られた。細孔先端部で生じた自由正孔は、速やかに消費され、InP酸化に関与し、結果として正孔拡散長が短くなり、ナノ多孔間の壁のECエッチングが妨げられ得ると考えられる。重度にドープされたInPの場合(n≧1×1019cm-3)、小さい空乏幅により細孔壁が極薄になり、したがって、ナノ多孔は、正孔拡散に起因して電解質の選択に応じて容易に崩壊し得る。短い正孔拡散長および/または細孔壁上に形成された不動態層は、ドープInPの多孔化に必要である。電解質濃度を上昇させて、これらの条件を満たすことができ、その濃度を使用して、ドープInPの選択的多孔化を達成することができる(図6を参照されたい)。
【0104】
(実施例2)
InP多層構造体の反射率測定
【0105】
材料および方法
【0106】
実施例1の多層構造体を、3.3M HCl中、1.5Vで多孔化した後、エッチングされた構造体の二酸化ケイ素層を、緩衝酸化物エッチングを使用して除去し、次に、ナノ多孔化InPの多層構造体の反射率を、400~1700nmのスペクトル域内で薄膜の厚さおよび光学特性をスポット測定することができる市販のFilmetrics F40 EXRによって測定した。
【0107】
結果
【0108】
ナノ多孔性InP層の屈折率は、それらの多孔度に応じて変わり、多孔度が100%である場合(すなわち、ドープInPは完全に電解研磨される)、1ほどの小さい屈折率になり得る。これら交互の屈折の比率の層(高屈折率の非ドープInP層と、多孔化されているかまたは電解研磨されている低屈折率の層との間)は、連続的な建設的または相殺的干渉を生じ得る。各層の厚さが、それぞれ光波長の1/4に相当する場合、これらの交互層のスタックは、反射ミラーとして作用し得、このミラーは、長波長発光VCSELを達成するために使用することができた。
【0109】
図7は、6対の1/4λ層を有するInP/NP InPの分布ブラッグ反射器(DBR)の測定された反射率を示しており、ここで3.3M HCl中、1.5Vで多孔化されたInP多層構造体の反射率を、400~1700nmのスペクトル域内で薄膜の厚さおよび光学特性をスポット測定することができる市販のFilmetrics F40 EXRによって測定した。ナノ多孔性InP層(<1.7)と非ドープInP層(3.19)との間の屈折率コントラストが大きいことに起因して、1240nmに中心がある幅広い阻止帯域を伴って、ほぼ100%の反射が達成された。ナノ多孔性InPのDBRの中心波長および阻止帯域幅は、多孔度および層厚を変化させることによって、簡単に調整することができる。
【0110】
(実施例3)
InP多層構造体(低ドーピング)の調製および試験
【0111】
材料および方法
【0112】
多層構造体を、MOCVDによって片面を研磨したn-InP基板上にホモエピタキシャルに成長させたリン化インジウムから形成した。ドープ層に、ゲルマニウムドーパントを以下に列挙するドーピング濃度でドープした。多層構造体は、nドープ(5×1018cm-3)InP層および非ドープInP層の交互層を備えていた。ベース層を、わずか1×1017~1×1018のドーピング濃度を有するnドープInP層から形成し、その上に300nmの非ドープInP層を形成した。140nmのnドープInP層を、300nmの層上に堆積させた。次に、110nmの非ドープInP層を、140nmの層上に堆積させた。ドープInP(140nm、5×1018cm-3)および非ドープInP(110nm)のさらなる層を堆積させた。最後のInP層は、非ドープであった。この構造体は、図1に表されている(左を参照されたい)。最終的な多層構造体は、非ドープInP層間に6つのドープInP層(140nm、5×1018cm-3)を備えていた。次に、二酸化ケイ素のキャッピング層を、多層構造体全体上に堆積させ、多層構造体の側壁を、プラズマ励起化学蒸着による二酸化ケイ素層の選択された一部を除去することによって露出させ、電気化学エッチングのためのドープInP層の側壁を露出させるために、ウエハを細い棒状に劈開する。
【0113】
その後、多層構造体を、上記に記載されている方法に従って、様々な濃度の電解質(HBr、HSO、KOH、およびHCl)水溶液中、異なるアノード電圧で電気化学的に(EC)エッチングした。アノード電圧を5分間~1時間印加した。試験した条件および観察された結果は、以下の表2に提示される。
【0114】
【表2】
【0115】
結果
【0116】
表2の観察に示される通り、多孔化されたドープ層は、電気化学エッチング後にナノ多孔性になることが見出された。電解質の選択、その濃度、および印加されるバイアス電圧を含む、使用されたEC条件に依存して、ドープInP層は、多孔化することができるか、またはエッチング(電解研磨)して取り去ることができることも見出された。図9A~C、10A~C、および11A~Cは、10%HClおよび5%HCl電解質中のドープ層のSEM画像を示す。
【0117】
(実施例4)
実施例3のInP多層構造体の反射率測定
【0118】
材料および方法
【0119】
5×1018cm-3のドーピング濃度を有する実施例3のナノ多孔化InP多層構造体を、5%HCl電解質中、Pt対電極で1.8Vのバイアスを4分間印加して多孔化した。構造体の反射率を、900~1800nmのスペクトル域内で薄膜の厚さおよび光学特性をスポット測定することができる市販のFilmetrics F40 EXRによって測定した。加えて、2×1019cm-3のドーピング濃度を有する、より高い多孔度を有する実施例1のナノ多孔化InP多層構造体(3.3M HCl中1.5Vで15分間多孔化した)の反射率も測定した。
結果
【0120】
図12は、それぞれ6対の1/4λ層を有する2種のInP/NP InPの分布ブラッグ反射器(DBR)の測定された反射率を示しており、ここでInP多層構造体の反射率を、900~1800nmのスペクトル域内で薄膜の厚さおよび光学特性をスポット測定することができる市販のFilmetrics F40 EXRによって測定した。2×1019cm-3のドーピング濃度を有する試料について、ナノ多孔性InP層(<1.7)と非ドープInP層(3.19)との間の屈折率コントラストが大きいことに起因して、1250nmに中心がある幅広い阻止帯域を伴って、ほぼ100%の反射が達成された。ナノ多孔性InPのDBRの中心波長および阻止帯域幅は、例えばドーピング濃度だけまたはドーピング濃度と他のパラメータ(印加されるバイアス電圧、電解質およびその濃度)の組合せにより多孔度を変化させることによって、および層厚を変化させることによって、簡単に調整することができる。
【0121】
(実施例5)
ナノ多孔性InPの底部DBRミラーを有する垂直共振器
【0122】
材料および方法
【0123】
非ドープInP基板上の底部ミラーとして12対の1/4λ層を有する、実施例3に従って調製したナノ多孔性InPのDBR構造体(8%HCl電解質、Pt対電極で1.8Vのバイアスを4.5分間印加した)を使用する垂直共振器を構築した。構造体の垂直共振器部分は、n-InP底部層(約930nm)、InAlGaAsの多重量子井戸(MQW)層(81nm)、p-InP層(71nm)、およびInGaAsの最上部トンネル接合部層(20nm)を含んでいた。共振器および底部DBRミラーを含む完全な垂直共振器構造体は、図13Aに示されている。
【0124】
垂直共振器での反射率の測定を、Bruker Vertex 70+Hyperion 2000を使用して900~1900nmのスペクトル域内で実施した。
【0125】
最後に、光場シミュレーション(λ=1661nm)も、MATLAB(登録商標)ソフトウェアを使用して実施した。
【0126】
結果
【0127】
図13Bに示される通り、2つの谷(λ=1405および1661nm)が、実験的反射スペクトルに示された。底部および最上部の半導体/空気界面に部分的反射器ミラーとしてNP InPのDBRミラーを使用する垂直共振器の形成を示した、図13Aの構造体に基づく反射スペクトルのシミュレーションは、実験結果と良好な一致を実証した。反射シミュレーションから、図13Cおよび13Dに示される通り、底部DBR構造体の厚さの関数として場の強度および屈折率を示す光場分布を抽出/シミュレートすることも可能であった。さらに、光場シミュレーションについて、ナノ多孔性InPのDBRミラーが存在することに起因して、共振器において1661nmの波長において明確な定在波が示された。
【0128】
(実施例6)
ナノ多孔性InPの底部DBRミラーおよび最上部の誘電体DBRミラーを有する垂直共振器
【0129】
材料および方法
【0130】
非ドープInP基板上の底部ミラーとして12対の1/4λ層を有する、実施例3に従って調製したナノ多孔性InPのDBR構造体(8%HCl電解質、Pt対電極で1.8Vのバイアスを4.5分間印加した)を使用する垂直共振器を構築した。構造体の垂直共振器部分は、n-InP底部層(約930nm)、InAlGaAsのMQW層(81nm)、p-InP層(71nm)、InGaAsのトンネル接合部層(20nm)、およびa-Siスペーサ(100nm)を含んでいた。最後に、最上部SiO(252nm)/a-Si(107nm)の最上部DBRミラーが、構造体の一部を形成した。記載される共振器ならびに最上部および底部DBRミラーを含む、完全な垂直共振器構造体は、図14Aに示されている。
【0131】
垂直共振器での反射率の測定を、Bruker Vertex 70+Hyperion 2000を使用して900~1900nmのスペクトル域内で実施した。
【0132】
最後に、光場シミュレーション(λ=1500nm)も、MATLAB(登録商標)ソフトウェアを使用して実施した。
【0133】
結果
【0134】
共振器モードを1500nmに移動させるために、さらなる非晶質ケイ素(a-Si)層を使用したことに留意されたい(図14Aおよび14Bを参照されたい)。図14Bに示される通り、最上部SiO/a-Siの最上部DBRミラーが存在する場合、谷(λ=1500nm)が実験的反射スペクトルに示された。それぞれ、a-Siスペーサおよび最上部SiO/a-Siの最上部DBRミラーがある状態およびない状態で、2つの反射スペクトルを得た。半導体/空気界面と比較して、SiO/a-Siの最上部の誘電体DBRミラーがある状態での反射率がより高かったことに起因して、谷はより深くなったことが観察された。シミュレーションから、図13Cおよび13Dにそれぞれ示される通り、存在するDBR構造体の厚さの関数として場の強度および屈折率を示す光場分布を抽出/シミュレートすることも可能であった。さらに、光場シミュレーションについて、ナノ多孔性InPおよびケイ素ベースの誘電体DBRミラーが存在することに起因して、共振器において1500nmの波長について明確な定在波が示された。
【0135】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、開示される本発明が属する当技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で引用される刊行物およびそれらが引用される資料は、参照により具体的に組み込まれる。
【0136】
当業者は、ごく日常的な実験方法を使用して、本発明の具体的な実施形態の多くの均等物を認識するか、または確認することができよう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12
図13-1】
図13-2】
図14-1】
図14-2】
【国際調査報告】