(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】重篤患者におけるコルチコステロイドの療法層別化のための成熟アドレノメデュリン
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240501BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240501BHJP
A61K 31/57 20060101ALI20240501BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240501BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240501BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240501BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
A61K31/57
A61P11/00
A61P31/00
A61P31/14
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568556
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022062322
(87)【国際公開番号】W WO2022234111
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514122524
【氏名又は名称】シュピーンゴテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】デボラー ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ウーレ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA11
2G045CA12
2G045CA17
2G045CA24
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA04
2G045DA20
2G045DA36
2G045DA38
2G045DA42
2G045DA51
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA59
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明の主題は、コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用しないことと、を含む、方法である。本発明の主題はまた、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法であって、該患者の体液試料を提供することと、該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することとを含み、ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、
●前記患者の体液試料を提供することと、
●前記試料中のADM-NH
2又はその断片のレベルを決定することと、
●前記ADM-NH
2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH
2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
前記ADM-NH
2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法又はコルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法。
【請求項2】
前記閾値を上回るADM-NH
2又はその断片のレベルにおいてコルチコステロイドによる療法が採用され、前記閾値を下回るADM-NH
2又はその断片のレベルにおいてコルチコステロイドによる療法が保留される、請求項1に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項3】
前記重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、請求項1に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項4】
前記ADM-NH
2又はその断片のレベルが、前記体液試料をADM-NH
2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、請求項1及び3に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項5】
前記捕捉結合剤が、ADM-NH
2のC末端部分(配列番号9)に特異的に結合し、前記捕捉結合剤が、結合のためにADM-NH
2のC末端アミドを特異的に必要とする、請求項4に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項6】
前記捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、請求項4及び5に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項7】
前記患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、請求項1~6に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項8】
前記グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、請求項7に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項9】
前記ミネラルコルチコイドが、フルドロコルチゾンを含む群から選択され得る、請求項7に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項10】
前記コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、請求項3に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項11】
前記体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、請求項1~10に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項12】
前記ADM-NH
2の閾値レベルが20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLであり、最も好ましくは前記閾値レベルが70pg/mLである、請求項1~11に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項13】
ADM-NH
2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定することができる、請求項1~12に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項14】
前記更なるバイオマーカーが、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、DPP3、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択される、請求項1~13に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
【請求項15】
重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、前記患者は、前記患者の体液試料中のADM-NH
2又はその断片のレベルが、前記ADM-NH
2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH
2又はその断片のレベルと比較した場合に、ADM-NH
2又はその断片の前記所定の閾値を上回る値であるか、又は先に測定されたレベルを上回る値であることを特徴とし、
前記重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、
コルチコステロイド。
【請求項16】
重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、前記患者は、ADM-NH
2又はその断片のレベルが前記患者の体液試料において決定され、前記ADM-NH
2又はその断片のレベルが、所定の閾値又は先に測定されたADM-NH
2又はその断片のレベルと比較され、前記閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法が採用されることを特徴とし、
前記重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、
コルチコステロイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用しないことと、を含む、方法である。本発明の主題はまた、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法であって、該患者の体液試料を提供することと、該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することとを含み、ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法である。
【0002】
本発明の主題は更に、重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、
●該患者の体液試料を提供することと、
●該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
●該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法又はコルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法である。
【背景技術】
【0003】
ペプチドアドレノメデュリン(ADM)は、52個のアミノ酸を含む新たな降圧性ペプチドとして最初にKitamura et al.(Kitamura et al.1993.Biochemical and Biophysical Research Communications 192(2):553-560)に報告され、これはヒト褐色細胞腫から単離された。同年、185個のアミノ酸を含む前駆体ペプチドをコードするcDNA、及びこの前駆体ペプチドの完全なアミノ酸配列も報告された。特にN末端に21個のアミノ酸のシグナル配列を含む前駆体ペプチドは、「プレプロアドレノメデュリン」(pre-proADM)と呼ばれる。pre-proADMは、185個のアミノ酸(配列番号1)を含む。pro-ADMは更にプロセシングされて、pro-ADMのN末端の20個のペプチド(PAMP;配列番号2)、中央領域のpro-ADM(MR-proADM;配列番号3)、アドレノテンシンpro-ADM 153~185(CT-pro ADM;配列番号6)、及び未成熟ADM、C末端グリシン延長型のADM(ADM-Gly;配列番号5)になる。これは、C末端の酵素的アミド化によって、52個のアミノ酸を含むADMの成熟生物活性形態(bio-ADM;ADM-NH2;配列番号4)に変換される。
【0004】
1993年にADMが発見され特徴が明らかにされたことによって精力的な研究活動が開始され、その結果は様々な総説論文にまとめられており、本明細書の文脈では、特に「Peptides」のADM特集号に掲載された論文(Takahashi 2001.Peptides 22:1691;Eto 2001.Peptides 22:1693-1711)を参照する。更なる総説は、Hinson et al.2000(Hinson et al.2000.Endocrine Reviews 21(2):138-167)である。これまでの科学的研究において、とりわけ、ADMが多機能性調節ペプチドと見なされ得ることが判明している。上述のように、それはグリシンによって伸長された不活性形態で血液循環中に放出される(Kitamura et al.1998.Biochem Biophys Res Commun 244(2):551-555)。ADMに特異的であり、同様に推定としてADMの効果を調節する結合タンパク質も存在する(Pio et al.2001.The Journal of Biological Chemistry 276(15):12292-12300)。これまでの研究において最も重要なADM及びPAMPの生理作用は、血圧に影響を及ぼす作用であった。
【0005】
したがって、ADMは有効な血管拡張因子であり、降圧作用をADMのC末端部分の特定のペプチドセグメントと関連づけることができる。更に、pre-proADMから形成される上述の生理活性ペプチドPAMPは、ADMとは異なる作用機序を持つように見える場合であっても、同様に降圧作用を示すことが見出されている(上述の総説論文Eto et al.2001及びHinson et al.2000に加えて、Kuwasaki et al.1997.FEBS Lett 414(1):105-110;Kuwasaki et al.1999.Ann.Clin.Biochem.36:622-628;Tsuruda et al.2001 Life Sci.69(2):239-245、及びEP-A2 0 622 458も参照のこと)。更に、血液循環及び他の生体液中で測定できるADMの濃度は、いくつかの病理学的状態では、健康な対照となる対象において見られる濃度よりも大幅に上回っていることが判明している。したがって、うっ血性心不全、心筋梗塞、腎疾患、高血圧障害、真性糖尿病を有する患者、ショックの急性期並びに敗血症及び敗血症性ショックにある患者のADMレベルは、程度は異なるが大幅に増加している。PAMP濃度もまた、上記病理学的状態のいくつかにおいて増加するが、血漿レベルはADMに比べて減少している(Eto 2001.Peptides 22:1693-1711)。高濃度のADMが敗血症で観察され、敗血症性ショックで最高濃度となることが報告されている(Eto 2001.Peptides 22:1693-1711;Hirata et al.Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 81(4):1449-1453;Ehlenz et al.1997.Exp Clin Endocrinol Diabetes 105:156-162;Tomoda et al.2001.Peptides 22:1783-1794;Ueda et al.1999.Am.J.Respir.Crit.Care Med.160:132-136及びWang et al.2001.Peptides 22:1835-1840)。更に、ADMの血漿中濃度は心不全患者で上昇し、疾患の重症度と相関している(Hirayama et al.1999.J Endocrinol 160:297-303;Yu et al.2001.Heart 86:155-160)。高血漿ADMは、これらの対象での独立した負の予後指標となる(Poyner et al.2002.Pharmacol Rev 54:233-246)。
【0006】
適応症
敗血症は、内因性因子によって大幅に増幅され得る感染病原体に対する多面的な宿主応答である。敗血症の当初の概念は、4つのSIRS基準のうち少なくとも2つを有する感染症とされ、炎症過剰のみに焦点を当てていた。しかしながら、敗血症の病態を説明するSIRSの妥当性は疑問視されてきた。現在では、敗血症は、心血管、神経、自律神経、ホルモン、生体エネルギー、代謝、及び凝固などの非免疫学的経路における大きな変化とともに、炎症性反応及び抗炎症性反応の両方の早期活性化を伴うことが認識されている。今日、敗血症は、Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock(Sepsis-3)に従って、感染症に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全として定義されている(Singer et al.2016.JAMA.315(8):801-10)。臨床的な運用では、臓器機能不全は連続[敗血症関連]臓器不全評価(SOFA)スコアの2ポイント以上の上昇によって表すことができ、これは10%を超える院内死亡率と関連している。
【0007】
敗血症性ショックは、感染に応答した臓器障害又は損傷である敗血症が、危険なほどの低血圧及び細胞代謝の異常をもたらす場合に生じる、死に至る可能性のある医学的状態である。The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock(Sepsis-3)は、敗血症性ショックを、敗血症のサブセットで、特に深刻な循環系異常、細胞異常、及び代謝異常が敗血症単独よりも高い死亡リスクと関連しているものとして定義している。敗血症性ショックを有する患者は、循環血液量減少が無い状態で平均動脈圧を65mmHg以上に維持するために昇圧剤を必要とすること、及び血清乳酸レベルが2mmol/Lを超えること(18mg/dL超)によって臨床的に識別することができる。この組み合わせは、40%を超える病院死亡率に関連する(Singer et al.2016.JAMA.315(8):801-10)。一次感染は、最も一般的には細菌によって引き起こされるが、真菌、ウイルス、又は寄生虫によっても引き起こされ得る。これは身体のいずれの部分にも位置する可能性があるが、最も一般的には、肺、脳、尿路、皮膚、又は腹部器官に位置し得る。これにより、多臓器機能不全症候群(以前は多臓器不全として知られていた)が引き起こされ、死に至ることもある。多くの場合に、敗血症性ショックの患者は集中治療室内で治療を受ける。小児、免疫不全の個体、及び高齢者が最もよく罹患するが、これは彼らの免疫系が健康な成人ほど効果的に感染に対処することができないためである。敗血症性ショックによる死亡率は約25~50%である。
【0008】
The Surviving Sepsis Campaign International Guidelines for the management of sepsis and septic shock 2016は、血行動態の安定が輸液蘇生及び昇圧剤療法によって達成され得ない敗血症性ショック(難治性敗血症性ショック)患者におけるヒドロコルチゾン静注の使用を推奨している。そのガイドラインは、適切な輸液蘇生及び昇圧剤投与により血行動態の安定化が可能となる場合には、敗血症性ショックを有する患者を治療するためにヒドロコルチゾン静注を使用しないことを提案している(Rhodes et al.2017.Intensive Care Med 43(3):304-377)。
【0009】
敗血症性ショックにおけるヒドロコルチゾン療法を試験した大規模臨床試験では、相反する結果が得られている。個々の免疫反応に応じてヒドロコルチゾン治療の恩恵を受けるサブグループが存在し得る。前向き無作為化比較多施設試験では、一貫してショックの早期回復が報告されているが(Annane et al.2009.JAMA.(2009)301:2362-75;Venkatesh et al.2018.N Engl J Med.378:797-808)、敗血症性ショックを有する患者における「低用量」(200mg/日)ヒドロコルチゾン(HC)の有用性は依然として議論の余地がある。一方、2つのフランスの研究では、ヒドロコルチゾン+経口フルドロコルチゾンの組み合わせによる転帰の恩恵が報告されており(Annane et al.2002.JAMA 288:862-71;Annane et la.2018.N Engl J Med 378:809-18)、汎欧州CORTICUS試験及び5ヶ国ADRENAL試験では、ヒドロコルチゾン単独による生存効果は見出されなかった(Venkatesh et al.2018.N Engl J Med.378:797-808;Sprung et al.2008.N Engl J Med 358:111-24)。敗血症性ショックを呈する患者は、過度に炎症を起こしているが、同時に免疫抑制されていることが認識されつつある(Hotchkiss et al.2013.Nat Rev Immunol 13:862-746;Kaufmann et al.2018.Nat Rev Drug Discov 17:35-56)。コルチコステロイドは、伝統的に、グルココルチコイド受容体(GR)を介した免疫抑制、並びにAP-1及びNFkBなどの炎症促進性転写因子に対する抑制効果を誘導すると考えられている(Baschant et al.2013.Mol Cell Endocrinol 380:108-18)。したがって、全体的に免疫抑制状態にある患者は、免疫抑制薬の投与によって危険にさらされる可能性がある。しかしながら、この議論は、コルチコステロイド及びGRが免疫再構築プロセスに関与していることを示す証拠が増えつつあることにより複雑になっている。このコルチコステロイドの免疫活性化作用は、末梢免疫反応を増強する急性ストレスに対する反応として説明されているが、慢性的なコルチコステロイド曝露は免疫抑制につながる(Cruz-Topete et al.2015.Neuroimmunomodulation 22:20-32)。このようにコルチコステロイドの効果は、タイミング及び副作用に対する利点によって異なるため、その適用を導くためのバイオマーカーの必要性が支持されている。
【0010】
重度の肺炎を有する患者におけるヒドロコルチゾン療法の有益な効果は、敗血症のリスクがある患者における低用量ヒドロコルチゾンの早期投与の効果を調査した二重盲検試験で観察された。この試験の所見は、敗血症性ショックなどの生命を脅かす敗血症関連合併症の発症を予防するためのヒドロコルチゾンによる早期治療の可能性を支持するものであったが(Confalonieri et al.2005.Am J Respir Crit Care Med Vol 171:242-248)が、これらの知見を確認するためのより大規模な無作為化二重盲検臨床試験(HYPRESS試験)では、ヒドロコルチゾンの予防的投与が14日以内に敗血症性ショックのリスクを低減させないことが見出された。死亡率などの他の二次評価項目についても同様に、本治療による改善は見られなかった(Keh et al.2016.JAMA 316(17):1775-1785)。
【0011】
ヒドロコルチゾンの副作用は文献に記載されている。CORTICUS試験ではより多くの二次感染が報告されているが、ADRENAL及びHYPRESS試験ではこれらの所見を確認することができなかった。
【0012】
最近になって、血清インターフェロンガンマ(IFγ)とインターロイキン10(IL-10)の比率が、ヒドロコルチゾンによる治療の可否の決定を導く有望なバイオマーカーであることが示された(Koenig et al.2021.Front Immunol 12:607217)。
【0013】
低用量コルチコステロイドは、マウスモデルにおいて敗血症の初期段階でpro-ADMレベルを有意に低下させることが示された(Prasteyo et al.2014.MKB 46(2):68-72)。対照的に、MR-proADM濃度は、高血圧を有する患者のフルドロコルチゾン又はデキサメタゾン治療後に有意に変化しなかった(Vogt et al.2012.Clinical and Experimental Hypertension 34(8):582-587)。
【0014】
国際公開第2019077082号には、対象における治療をモニタリングするための方法であって、該対象が、該対象から得られた体液中の中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM)、C末端プロアドレノメデュリン(CT-proADM)、及び/又はプロアドレノメデュリンN末端20ペプチド(PAMP)、若しくはその断片(ただし成熟ADMではない)を含む群から選択されるプレプロアドレナメデュリンの断片のレベルを決定することと、該プレプロアドレノメデュリンの断片のレベルを、該患者の治療手段の適応要件と関連付けることであって、該治療手段がヒドロコルチゾンを含む群から選択される、関連付けることと、によってアドレノメデュリンに対する結合剤による治療下にある、方法について記載される。
【0015】
コロナウイルスは、ヒト及びいくつかの他の脊椎動物に蔓延しており、呼吸器疾患、腸疾患、肝疾患、及び神経疾患を引き起こす。注目すべきことに、2003年の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)及び2012年の中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は、ヒトでの流行を引き起こした。SARS-CoVとの比較では、いくつかの有意な相違点及び類似点が示されている。MERS CoV及びSARS-CoVの両方は、症例致死率がはるかに高い(それぞれ40%及び10%)(de Wit et al.2016.SARS and MERS:recent insights into emerging coronaviruses.Nat Rev Microbiol 14(8):523-34;Zhou et al.2020.A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin.Nature 579(7798):270-273)。現在のSARS CoV-2は、そのゲノムの79%がSARS-CoVと共通しているが、感染力ははるかに高いようである。SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)と呼ばれる。
【0016】
COVID-19に対して特異的で有効な治療又は処置は存在していない(Siemieniuk et al.2020.BMJ.370:m2980)。したがって、COVID-19の管理の基本は対症療法であり、これには、症状を緩和するための治療、輸液療法、必要に応じての酸素サポート及び腹臥位ポジショニング、並びに他の罹患した重要臓器をサポートするための医薬又はデバイス、例えば体外式膜型人工肺(ECMO)が含まれる。この疾患におけるステロイドの役割についても議論されている。治療のためのCOVID-19におけるグルココルチコイドの使用は、議論の余地があると論じられている(総説については、Golamari et al.2021.J Com Hosp Int Med Perspect 11(2):187-193)。ある研究では、メチルプレドニゾロンが有益であり、ARDSを有する患者における死亡リスクの低下につながり得ることが報告された(Wu et al.2020.JAMA Intern Med.2020;180(7):934-943)。いくつかの研究では、COVID-19を有するがん患者における低用量のプレドニゾンによる有益な効果が示されている(Russell et al.2020.ecancer 14:1023)。1つの無作為化比較試験及び22のコホート研究のメタアナリシスでは、グルココルチコイド療法により発熱期間が短縮されたが、死亡率、入院期間、又は肺炎症吸収期間には影響がなかったことが示された(Lu et al.2020.Ann Transl Med 8(10):627)。
【0017】
デキサメタゾンと通常のケアを比較して試験した最近発表された非盲検試験では、デキサメタゾンとともに侵襲的人工呼吸を受けた又は酸素を投与された患者において28日死亡率が改善することが示された(Recovery試験)。しかしながら、この肯定的な結果は、呼吸酸素サポートを受けている患者にのみ当てはまった(Horby et al.2020.NEJM DOI:10.1056/NEJMoa 2021436)。
【0018】
まとめると、コルチコステロイド、特にヒドロコルチゾン又はデキサメサゾンのようなグルココルチコイドによる治療のために、重篤患者(例えば、敗血症、敗血症性ショック、又はCOVID-19に罹患している)を層別化することは、アンメットメディカルニーズである。敗血症性ショックを予防するためのヒドロコルチゾンによる治療のために敗血症を有する患者を層別化することは、具体的なアンメットメディカルニーズである。デキサメタゾンによる治療のためにCOVID-19を有する患者を層別化することは、別の具体的なアンメットメディカルニーズである。
【0019】
重篤患者において、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルが所定の閾値未満である場合、コルチコステロイドの投与が該患者において禁忌であることは、本発明の驚くべき発見であった。
【0020】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺での広範な炎症の急速な発症を特徴とする呼吸不全の一種である。症状としては、息切れ、速い呼吸、及び皮膚の青みがかった変色が挙げられる。ARDSは、高い死亡率(35~45%)を伴う(Bellani et al.2016.JAMA 315(8):788-800)。一命を取り留めた患者でも、生活の質が低下するのが一般的である。原因としては、敗血症、膵炎、外傷、肺炎、及び誤嚥が挙げられ得る。根底にある機序は、肺の微視的な気嚢の隔壁を形成する細胞へのびまん性損傷、サーファクタント機能不全、免疫系の活性化、及び血液凝固の体内調節の機能不全を伴う。実際に、ARDSは、肺の酸素と二酸化炭素を交換する能力を損なう。診断は、呼気終末陽圧(PEEP)が5cm H2Oを超えるにもかかわらず、PaO2/FiO2比(動脈血酸素分圧と吸入気酸素分画の比)が300mmHg未満であることに基づく。一次治療は、根本原因を対象とした治療とともに人工呼吸を伴う。換気戦略は、低容量及び低圧を使用することを含む。酸素導入が不十分なままである場合、肺リクルートメント手技及び神経筋遮断薬を使用してもよい。これが不十分である場合、体外式膜型人工肺(ECMO)が選択肢となり得る。
【0021】
9つの試験で、ARDSにおける長期のグルココルチコイド治療が調査された(総説については、Annane et al.2017.Intensive Care Med 43:1751-1763を参照のこと)。これらの試験の1つは市中肺炎に起因するARDSを有する患者におけるものであり(Confalonieri et al.2005.Am J Respir Crit Care Med 171(3):242-24859)、別の試験は敗血症性ショックにおける最初のコルチコステロイド試験のサブグループ解析であった(Annane et al.2006.Crit Care Med 34(1):22-30)。これらの試験では、一貫して、グルココルチコイド治療が、全身性炎症のマーカー(炎症性サイトカイン及び/又はC反応性蛋白レベル)の有意な減少、人工呼吸期間の約7日間の短縮、並びに軽度及び重度のARDSを有する患者においてそれぞれ約7%及び11%の病院死亡率の推定減少と関連することが見出された。しかしながら、ARDSにおけるそれらの使用は依然として議論の余地があり、現在の救命救急医療学会のガイドラインでは、中等度から重度のARDSを有する患者におけるグルココルチコイドの使用について条件付きの推奨がなされている(Annane et al.2017.Intensive Care Med 43:1751-1763)。ガイドラインでは、初期ARDS(発症7日目まで)において1mg/kg/dの用量でのメチルプレドニゾロンの使用が条件付きで推奨されており、後期持続性ARDS(発症6日目以降)については、ガイドラインでは2mg/kg/dの用量で、その後漸減することを推奨している。ARDSに対するグルココルチコイド療法の開始のタイミングもまた、対象となる問題である。ARDS発症の1週間以内でのグルココルチコイド治療の開始は有意な生存効果をもたらしたが、ARDS診断後1週間を超えて治療開始しても有意な生存効果はもたらされなかった。このことは、不可逆的な肺損傷段階後のグルココルチコイドの使用が、あまり有益ではない可能性があることを示唆している。したがって、グルココルチコイド療法の恩恵を受けるARDSを有する患者、特に後期段階のARDS患者を区別するツールが必要である。そのため、本発明は、コルチコステロイドによる治療/療法のために後期持続性ARDSを有する患者を選択することを可能にする。
【0022】
重度のCAPを有する患者の治療におけるコルチコステロイドの臨床的に有意な死亡率の改善を示すデータは限られている。いくつかのメタアナリシスでは、そのような患者におけるコルチコステロイド使用による死亡リスクの低下が見出されている(Horita et al.2015.Sci Rep 5:14061;Siemienieuk et al.2015.Ann Intern Med 163(7):519-528;Jiang et al.2019.Medicine(Baltimore)98(26):e16239)が、そうでないものもあり(Briel et al.2018.Clin Infect Dis 66(3):346-354;Chen et al.2015.World J Emerg Med 6(3):172-178)、メタアナリシスに含まれる試験は、重度のCAPの質及び定義にばらつきがあった。更に、コルチコステロイドが、軽度から中等度のCAPを有する患者における死亡率又は他の有害な臨床転帰を減少させるという証拠はない。新たなATS/IDSAガイドラインでは、CAP又はインフルエンザ肺炎の補助的コルチコステロイド治療を、コルチコステロイドの使用の他の適応症、例えば喘息、COPD、又は自己免疫疾患を有する患者を除いて、行わないよう勧告している(Metlay et al.2019.Am J Respir Crit Care Med Vol 200,Iss 7,pp e45-e67)。したがって、CAP、特に軽度から中等度のCAPを有する患者におけるコルチコイド療法層別化はアンメットメディカルニーズである。したがって、本発明は、コルチコステロイドによる治療/療法のために軽度から中等度のCAPを有する患者を選択することを可能にする。
【0023】
心肺バイパスを使用する心臓手術では、全身性炎症反応がもたらされる。この反応の潜在的な有害作用を軽減するために、コルチコステロイドが広く使用されてきた。「人工心肺装置」としても知られる心肺バイパス手術(CPB)では、患者の主要な血管にカニューレを留置し、血液を体外に送り出し、酸素を加えて二酸化炭素を除去し、その後、血液を体内に戻す。これにより心臓を停止させて血液を空にすることができ、外科医は拍動していない心臓を無血野で手術することが可能となる(Barry et al.2015.Anesthesia and Analgesia 120(4):749-769)。その結果、白血球及び血小板の活性化、並びに凝固カスケードが生じ(Tarnok et al.2001.Shock 16(Suppl 1):24-32)、サイトカインによりエンドシグナル伝達が行われる。内皮透過性が増加し、フリーラジカルによる実質損傷が生じる(Fudulu et al.2016.Oxidative Medicine and Cellular Longevity 2016:1971452;Pesonen et al.2016.Acta Anaesthesiologica Scandinavica 60(10):1386-1394)。体液が循環血から組織に漏れ出し、血管が拡張し、循環血液量減少が起こり、その結果血圧が低下する。心臓手術の合併症の多く、例えば多臓器不全及び死亡は、これらの機構に起因する(Huffmyer et al.2015.Best Practice & Research Clinical Anaesthesiology 29(2):163-175)。それにもかかわらず、予防的コルチコステロイドが、心臓手術後の臨床転帰、特に小児に対して及ぼす影響は依然として不明確である。コルチコステロイドの投与の可否について(Fudulu et al.2018.World Journal for Pediatric and Congenital Heart Surgery 9(3):289-293)、又はコルチコステロイドの種類、投与レジメンについて、又はそれらがいつ有益となり得るか(例えば、術前、術中、術後)に関して、コンセンサスは得られていない。したがって、コルチコステロイド療法のために心肺バイパス手術を受けている患者を層別化することはアンメットメディカルニーズである。
【0024】
米国では毎年40万人を超える患者で心停止が発生しており、心停止による全死亡率は依然として悪く、生存率は10%未満である(Go et al.2014.Circulation 129(3):e28-292)。生存及び生活の質を改善する試みにおいて、国際的な心停止ガイドラインは、心停止中の治療を最適化することの重要性だけでなく、心停止後期間中の患者の管理についても強調している(Field et al.2010.Circulation 122(18 Suppl 3):S640-56;Nolan et al.2010.Resuscitation.81(10):1219-1276)。心停止後症候群は、全身性炎症反応及び血行動態の乱れを含む敗血症性ショック状態に類似した様々な病態生理学的特徴を特徴とし、微小循環障害及び心筋抑制を含み得る(Adrie et al.2002.Circulation 106 (5):562-568;Nolan et al.2008.Resuscitation 79(3):350-379)。しかしながら、ショックを有する心停止後患者におけるコルチコステロイド療法の有用性及び潜在的な効力は依然として未知であり、異なる結果を示した研究がわずかに存在するのみである(Mentzelopoulos et al.2013.JAMA.310(3):270-279;Donnino et al.2016.Critical Care 20:82)。
【0025】
細菌性髄膜炎は、髄膜(脳及び脊髄を覆う膜)の重症感染症であり、最適な抗生物質療法及び救命救急医療の進歩にもかかわらず、高い死亡率と罹患率を伴う。これは、通常、耳又は呼吸器感染から広がる細菌によって引き起こされ、抗生物質で治療される。脳神経障害、特に難聴などの後期続発症は、患者の5%~40%で起こる。実験動物研究において、コルチコステロイドによる治療は、脳脊髄液(CSF)の炎症反応の低減、脳浮腫の回復、及び転帰の改善をもたらすことが示された(Scheld et al.1980.Journal of Clinical Investigation 66(2):243-253);Tauber et al.1985.Journal of Infectious Diseases 51(3):528-534)。このような病態生理学的な洞察から、研究者たちは急性細菌性髄膜炎の補助療法としてコルチコステロイドを評価するようになった。しかしながら、細菌性髄膜炎患者におけるコルチコステロイドの効果を評価した臨床試験では、相反する結果が示された(総説については、Brouwer et al.2015.Cochrane Database of Systematic Reviews Issue 9.Art.No.:CD004405を参照のこと)。したがって、この療法から恩恵を受ける、髄膜炎、特に細菌性髄膜炎を有する患者におけるコルチコイド療法層別化は、アンメットメディカルニーズである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の主題は、コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用しないことと、を含む、方法である。
【0027】
本発明の主題はまた、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化のための方法であって、
a.該患者の体液試料を提供することと、
b.該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
c.該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法である。
【0028】
本発明の一実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法であって、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、方法に関する。
【0029】
本発明の文脈において、重篤患者は、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である。
【0030】
本出願の一実施形態において、患者は、敗血症又は敗血症性ショックに罹患している患者である。
【0031】
本出願の一実施形態において、患者は、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択されるコロナウイルスに、特にSars-CoV-2に感染している。
【0032】
本出願の一実施形態において、患者は、急性呼吸器症候群(ARDS)に罹患している患者である。より具体的な実施形態において、ARDSを有する患者は、症状の発症から7日以上の後期である。
【0033】
本出願の一実施形態において、患者は、市中肺炎(CAP)に罹患している患者である。より具体的な実施形態において、患者は、軽度から中等度(非重度)のCAPを有する。CAPの重症度は、現在、IDSA/ATS 2007基準によって分類される生理学的障害の程度によって定義されている(Piffer et al.2007.Breathe 4(2):110-115)。
【0034】
本出願の一実施形態において、患者は、髄膜炎、特に細菌性髄膜炎に罹患している患者である。
【0035】
本出願の文脈において、重篤患者は、該患者におけるADM-NH2又はその断片のレベルの増加をもたらす任意の薬物、医薬、抗体、及び/又は他の薬剤若しくは療法、特にADM-NH2に特異的に結合する抗体、抗体断片、又は非Ig足場で治療されない。
【0036】
本出願の文脈において、重篤患者は、コルチコステロイドに加えて、ADM-NH2又はその断片のレベルの増加をもたらさない任意の薬物、医薬、又は治療剤で治療され得る。上記の追加の薬物、医薬、又は治療剤は、昇圧剤、輸液療法、抗菌療法(抗生物質及び抗ウイルス剤を含む)、腎代替療法を含む群から選択され得る。
【0037】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、方法に関する。
【0038】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をADM-NH2のC末端部分に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定され、該捕捉結合剤が、結合のためにADM-NH2のC末端アミドを特異的に必要とする、方法に関する。
【0039】
本発明の別の具体的な実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該決定が、ADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、方法に関する。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2のレベルが該対象の体液試料において決定され、該決定が、ADM-NH2のレベルに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が表面上に固定化されている、方法に関する。
【0041】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2のレベルが、異なる方法、例えばイムノアッセイ、活性アッセイ、質量分析法によって決定される、方法に関する。
【0042】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2を検出するための該アッセイのアッセイ感度が、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それが70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である、方法に関する。
【0043】
本発明の一実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、方法に関する。
【0044】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、方法に関する。
【0045】
本発明の別の具体的な実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該ミネラルコルチコイドがフルドロコルチゾンを含む群から選択され得る、方法に関する。
【0046】
本発明の一実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、方法に関する。
【0047】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、方法に関する。
【0048】
本発明の別の好ましい実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2の閾値レベルが、20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLであり、最も好ましくは該閾値レベルが70pg/mLである、方法に関する。
【0049】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、ADM-NH2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定することができる、方法に関する。
【0050】
本発明の別の実施形態は、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、該更なるバイオマーカーが、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択される、方法に関する。
【0051】
本出願の別の実施形態は、敗血症性ショックを予防するためのヒドロコルチゾンによる治療のために敗血症を有する患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてヒドロコルチゾンによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてヒドロコルチゾンによる療法を採用しないことと、を含む、方法に関する。
【0052】
本出願の別の実施形態は、敗血症性ショックを予防するための敗血症を有する患者におけるヒドロコルチゾン療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、
a.該患者の体液試料を提供することと、
b.該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
c.該ADM-NH2又はその断片のレベルを
所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、ヒドロコルチゾン療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法に関する。
【0053】
本出願の別の実施形態は、デキサメタゾンによる治療のためにCOVID-19を有する患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてデキサメタゾンによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてデキサメタゾンによる療法を採用しないことと、にある、方法に関する。
【0054】
本出願の別の実施形態は、COVID-19を有する患者におけるデキサメタゾン療法ガイダンス及び/又はコルチコイド療法層別化のための方法であって、
a.該患者の体液試料を提供することと、
b.該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
c.該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、デキサメタゾン療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法に関する。
【0055】
該ヒドロコルチゾンは、患者に1~10mg/hの用量で持続注入として適用され得る。ヒドロコルチゾンは、昇圧剤が患者に並行して与えられる限り、10mg/hの用量で持続注入として適用され得る。ヒドロコルチゾンは、昇圧剤を停止した後に5mg/hの用量で持続注入として適用され得る。ヒドロコルチゾン用量は、1mg/hまで段階的に低減され得る(1日あたり1mg/hの低減)。
【0056】
ヒドロコルチゾンは、50mgの静脈内ボーラスとして適用され、続いて、5日目に200mg、6日目及び7日目に100mg、8日目及び9日目に50mg、並びに10日目及び11日目に25mgの24時間持続注入として適用され得る。
【0057】
ヒドロコルチゾンはフルドロコルチゾンと組み合わせてもよい。具体的な実施形態において、50mgのヒドロコルチゾンのボーラス注入が6時間ごとに適用され、フルドロコルチゾン(50μg)が毎日経口で補充される。
【0058】
本出願の別の具体的な実施形態において、コルチコステロイド療法は、ADM-NH2のレベルが20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLの閾値レベル、最も好ましくは閾値レベル70pg/mLを超えている場合に開始される。
【0059】
本出願の別の具体的な実施形態において、コルチコステロイド療法は、ADM-NH2のレベルが20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLの閾値レベル、最も好ましくは閾値レベル70pg/mLを超えている場合に継続される。
【0060】
本出願の別の具体的な実施形態において、コルチコステロイド療法は、ADM-NH2のレベルが20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLの閾値レベル、最も好ましくは閾値レベル70pg/mL未満である場合に停止される。
【0061】
本出願の別の実施形態において、ADM-NH2のレベルは該対象の体液試料において決定され、該決定はADMに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤は抗体である。
【0062】
本出願の別の実施形態において、ADM-NH2のレベルは該対象の体液試料において決定され、該決定はADM-NH2のレベルに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤は表面上に固定化されている。
【0063】
本出願の別の実施形態において、患者はコルチコステロイドで治療され、該コルチコステロイドはグルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択される。
【0064】
本出願の別の実施形態において、グルココルチコイドは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る。
【0065】
本出願の一実施形態において、ミネラルコルチコイドは、フルドロコルチゾンを含む群から選択され得る。
【0066】
本発明による体液は、1つの特定の実施形態において、血液試料である。血液試料は、全血、血清、及び血漿を含む群から選択され得る。診断方法の具体的な実施形態において、該試料は、ヒトクエン酸血漿、ヘパリン血漿、及びEDTA血漿を含む群から選択される。
【0067】
一実施形態において、ADM-NH2を検出するための該アッセイのアッセイ感度は、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それは70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である。
【0068】
ADM-NH2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定してもよい。該更なるバイオマーカーは、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択され得る。
【0069】
本発明の主題はまた、コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、該患者の体液試料を提供することと、該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用しないことと、を含む、方法である。
【0070】
本発明の一実施形態は、コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化のステップを更に含み、該方法が、
a.該患者の体液試料を提供することと、
b.該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
c.該ADM-NH2又はその断片のレベルを
所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法に関する。
【0071】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、方法に関する。
【0072】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をプロアドレノメデュリン又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、方法に関する。
【0073】
本発明の別の好ましい実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該決定が、ADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、方法に関する。
【0074】
本発明の別の具体的な実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2のレベルが該対象の体液試料において決定され、該決定が、ADM-NH2のレベルに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が表面上に固定化されている、方法に関する。
【0075】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2のレベルが、異なる方法、例えばイムノアッセイ、活性アッセイ、質量分析法によって決定される、方法に関する。
【0076】
本発明の別の好ましい実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2を検出するための該アッセイのアッセイ感度が、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それが70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である、方法に関する。
【0077】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の選択の方法であって、該患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、方法に関する。
【0078】
本発明の別の具体的な実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、方法に関する。
【0079】
本発明の一実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該ミネラルコルチコイドがフルドロコルチゾンを含む群から選択され得る、方法に関する。
【0080】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、方法に関する。
【0081】
本発明の別の好ましい実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、方法に関する。
【0082】
本発明の別の具体的な実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2の閾値レベルが、20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLであり、最も好ましくは該閾値レベルが70pg/mLである、方法に関する。
【0083】
本発明の別の実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、ADM-NH2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定することができる、方法に関する。
【0084】
本発明の別の好ましい実施形態は、コルチコステロイドによる治療のための重篤患者の選択、並びに重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、該更なるバイオマーカーが、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択される、方法に関する。
【0085】
本出願の主題はまた、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該患者は、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルが、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較した場合に、ADM-NH2又はその断片の該所定の閾値を上回る値であるか、又は先に測定されたレベルに対する値であることを特徴とし、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、コルチコステロイドである。
【0086】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該患者は、ADM-NH2又はその断片のレベルが該患者の体液試料において決定され、該ADM-NH2又はその断片のレベルが所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較され、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法が採用されることを特徴とし、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、コルチコステロイドに関する。
【0087】
本発明の別の好ましい実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、コルチコステロイドに関する。
【0088】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、コルチコステロイドに関する。
【0089】
本発明の一実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、コルチコステロイドに関する。
【0090】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、コルチコステロイドに関する。
【0091】
本発明の別の好ましい実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、コルチコステロイドに関する。
【0092】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、コルチコステロイドに関する。
【0093】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該決定が、ADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、コルチコステロイドに関する。
【0094】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、ADM-NH2のレベルが該対象の体液試料において決定され、該決定が、ADM-NH2のレベルに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が表面上に固定化されている、コルチコステロイドに関する。
【0095】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、ADMのレベルが、異なる方法、例えばイムノアッセイ、活性アッセイ、質量分析法によって決定される、コルチコステロイドに関する。
【0096】
本発明の別の実施形態は、重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、ADM-NH2を検出するための該アッセイのアッセイ感度が、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それが70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である、コルチコステロイドに関する。
【0097】
定義
疾患の重症度は、患者の臓器系障害又は生理学的代償不全の程度として定義される。重症度は、例えばスコアリングシステムを使用して種々の段階に分類され得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、臓器機能不全は、臓器がその予想される機能を果たさない病状又は健康状態を意味する。「臓器不全」とは、外部からの臨床的介入なしでは正常な恒常性を維持できない程度までの臓器機能不全を意味する。上記の臓器不全は、腎臓、肝臓、心臓、肺、神経系を含む群から選択される臓器に関連し得る。対照的に、臓器機能は、生理学的範囲内のそれぞれの臓器の予想される機能を表す。当業者であれば、診察時に臓器のそれぞれの機能を認識する。
【0099】
臓器機能不全は、逐次臓器不全評価スコア(SOFAスコア)又はその構成要素によって定義することができる。SOFAスコアは、以前は敗血症関連臓器不全評価スコアとして知られており(Singer et al.2016.JAMA 315(8):801-10)、集中治療室(ICU)入室中のヒトの状態を追跡し、ヒトの臓器機能の程度又は不全率を決定するために使用される。スコアは6つの異なるスコアに基づき、呼吸器系、心血管系、肝臓系、凝固系、腎臓系、及び神経系について1つずつ、それぞれ0~4でスコア付けされ、スコアが高くなるほど臓器機能不全の悪化を反映している。SOFAスコアの評価基準は、例えばLamden et al.(総説については、Lambden et al.2019.Critical Care 23:374を参照のこと)に記載されている。SOFAスコアは、従来、ICUへの入室時及びその後の24時間ごとに計算され得る。特に、上記の臓器機能不全は、腎機能低下、心機能障害、肝機能障害、又は呼吸器機能障害を含む群から選択される。
【0100】
クイックSOFAスコア(quickSOFA又はqSOFA)は、2016年2月にSepsis-3グループによって、感染による転帰不良のリスクが高い患者を特定するための最初の方法として、SOFAスコアの簡略版として導入された(Angus et al.2016.Critical Care Medicine.44(3):e113-e121)。qSOFAは、SOFAスコアを大幅に簡略化しており、その3つの臨床基準のみを含み、かつGCS15未満の代わりに「意識変容(altered mentation)」を含む。qSOFAは、患者に対して容易かつ迅速に連続して繰り返すことができる。スコアは0~3点の範囲である。1点が、低血圧(100mmHg以下のSBP)、高呼吸数(22回/分以上)、意識変容(15以下のGCS)に対して与えられる。感染の発症に近い2点以上のqSOFAポイントの存在は、死亡又は長期の集中治療室入室のリスクがより高いことと関連していた。これらは、合併症のない感染患者よりも敗血症である可能性がある感染患者でより一般的な結果となる。これらの知見に基づいて、Third International Consensus Definitions for Sepsisでは、敗血症の可能性が高いICU外の感染患者を特定するための簡単なプロンプトとしてqSOFAを推奨している(Seymour et al.2016.JAMA 315(8):762-774)。
【0101】
生命を脅かす悪化は、中枢神経系不全、腎不全、肝不全、代謝不全、又は呼吸不全などの生命維持に必要な臓器系不全を伴う、死亡リスクの高い患者の急性状態として定義される。
【0102】
有害事象は、死亡、臓器機能不全、又はショックとして定義される。
【0103】
上記の臨床パラメータ又は臨床スコアは、低血圧の既往歴、昇圧剤の必要性、挿管、人工呼吸、Horovitz指数、SOFAスコア、クイックSOFAスコアを含む群から選択される。
【0104】
特に「療法層別化」という用語は、患者の分類に応じて治療手段を受ける又は受けない療法群など、異なる群に患者をグループ化、選択、又は分類することに関する。
【0105】
層別化された患者群には、治療の開始を必要とする患者及び治療の開始を必要としない患者が含まれ得る。
【0106】
本明細書で使用される場合、「療法ガイダンス」という用語は、1つ以上のバイオマーカー及び/又は臨床パラメータ及び/又は臨床スコアの値に基づいて特定の治療又は医学的介入を適用すること、並びに該患者のコルチコステロイドによる治療の調整を含む治療のモニタリングを行うこと(例えば治療の有効性に関するフィードバックを得ることによって)を指す。
【0107】
本発明の一実施形態において、ADM-NH2又はその断片の該決定は、1人の重篤患者で2回以上行われる。
【0108】
本発明の別の実施形態において、該モニタリングは、コルチコステロイドによる治療に対する該重篤患者の応答を評価するために実施される。
【0109】
更に、該患者は、以下の群:
(i)該治療を受けた後に好ましい効果を示す、該疾患の該コルチコステロイド治療に対する応答者、
(ii)該コルチコステロイド治療を受けた後に効果を示さない(好ましい効果も好ましくない効果も示さない)、該疾患の該コルチコステロイド治療に対する非応答者、
(iii)該コルチコステロイド治療を受けた後に好ましくない効果を示す患者、
のうちの1つに層別化され得る。
【0110】
実施例6のデータは、ADM-NH2を使用する敗血症患者におけるコルチコステロイド(特にヒドロコルチゾン)療法層別化が敗血症性ショックの発症を予防し得ることを明確に実証しており、入院期間の短縮及び追加治療の低減により患者が恩恵を受け得ることを示す。
【0111】
本発明の別の特定の利点は、本方法が、該療法から恩恵を受ける可能性がより高い患者を、該療法から恩恵を受ける可能性がより低い患者から区別することができることである。
【0112】
該コルチコステロイド療法からの恩恵は、例えば、疾患の症状(病理生理学的症状、バイオマーカー値など)の消失、他の生命維持療法の離脱、又は患者の肯定的な転帰(例えば、生存)であり得る。
【0113】
好ましい実施形態において、治療は、試料中のADM-NH2のレベルを示す試料分析の結果が提供されるとすぐに開始又は変更される。更なる実施形態において、治療は、12時間以内、好ましくは6、4、2、1、0.5、0.25時間以内に、又は試料分析の結果を受け取った直後に開始され得る。
【0114】
コルチコステロイドは、脊椎動物によって生理的に産生されるか(天然コルチコステロイド)又は製造される(合成コルチコステロイド)、ステロイドホルモンである。内因性コルチコステロイドは副腎皮質で合成され、血液中に分泌されて広範な生理系を調節する。全てのステロイドホルモンはコレステロールから合成され、ヒトでは、副腎皮質の主要な分泌物は、コルチゾール(グルココルチコイドファミリーのメンバー)及びアルドステロン(ミネラルコルチコイドファミリーのメンバー)である(総説については、Williams 2018.Respir Care 63(6):655-670を参照のこと)。グルココルチコイドは、脂質、グルコース、及びタンパク質代謝を調節し、抗炎症/免疫抑制作用、並びに血管収縮効果を発揮するのに対して、ミネラルコルチコイドは、電解質及び水分バランスの主な調節因子である。フルドロコルチゾン及びデスオキシコルチコステロンアセテートを除いて、合成コルチコステロイドの大部分は、内因性グルココルチコイドの作用を再現している(表1参照)。実際、それらの臨床的効力はコルチゾールよりもはるかに高く、ミネラルコルチコイド作用は示さない。全身的に使用されるコルチコステロイドは、効力、ミネラルコルチコイド作用、及び視床下部-下垂体-副腎系抑制の持続期間によって分類される。効力はヒドロコルチゾンに対して表され、相当量を決定するのに有用である。ミネラルコルチコイド活性もまた、ヒドロコルチゾンに対して記載され、ステロイド分子に対する構造的修飾は、これらの薬剤が、アレルギー反応、炎症反応、又は免疫反応を予防又は治療するために薬理学的用量で使用される場合に、効力を高めるとともにミネラルコルチコイド作用を最小化するように設計される。これらの薬剤は、視床下部-下垂体-副腎系抑制の持続時間に基づいて、短時間作用型、中時間作用型、又は長時間作用型として分類される。
【0115】
【表1】
該療法又は介入は、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドである。グルココルチコイドは、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る。ミネラルコルチコイドは、フルドロコルチゾンを含む群から選択され得る。
【0116】
該コルチコステロイドは、静脈内ボーラス若しくは持続注入として患者に適用されてもよく、又は経口投与されてもよい。
【0117】
本明細書で使用される「患者」という用語は、疾患のために医療を受けている又は医療を受ける必要がある生きているヒト又は非ヒト生物を指す。これには、病状の徴候について調査されている明確な病気を有していないヒトが含まれる。したがって、本明細書に記載される方法及びアッセイは、ヒト及び獣医学的疾患の両方に適用可能である。
【0118】
「重篤患者」という用語は、急性疾患又は急性状態に罹患している患者を指す。該重篤患者は、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止を含む群から選択され得る。
【0119】
このような急性疾患又は状態に罹患している患者は、慢性疾患(例えば、がん)のような併存疾患を有し得る。本発明による治療は、特に急性疾患又は状態の治療を目的とする。それは、がんを有する患者における急性疾患又は状態の治療であってもよく、必ずしもがん自体が治療されることを意味するものではない。本発明の具体的な実施形態において、該重篤患者は、当初、慢性疾患又は状態に罹患していない。本発明の非常に具体的な実施形態において、該重篤患者はアジソン病に罹患していない。
【0120】
閾値レベルは、例えばカプラン・マイヤー分析から得ることができ、そこでは疾患の発生が集団におけるバイオマーカーの四分位数と相関している。この分析によれば、バイオマーカーレベルが75パーセンタイルを超える対象は、本発明による疾患に罹患するリスクが有意に高い。この結果は、古典的リスク因子を十分に調整したCox回帰分析によって更に支持される。最高四分位数と他の全ての対象との比較は、本発明による疾患に罹患するリスクの増加と非常に有意に関連している。
【0121】
他の好ましいカットオフ値は、例えば、正常集団の90パーセンタイル、95パーセンタイル、又は99パーセンタイルである。75パーセンタイルよりも高いパーセンタイルを使用することにより、同定される偽陽性対象の数は減少するが、中程度であるが依然としてリスクが高い対象を同定し損なう可能性がある。したがって、「偽陽性」も同定してしまうことと引き換えにリスクのある対象の大部分を同定することがより適切と考えるか、又は中程度のリスクのいくつかの対象を見落としてしまうことと引き換えに主として高リスクの対象を同定することがより適切であると考えるか、に応じてカットオフ値を採用し得る。
【0122】
上述の閾値は、本発明で使用されるアッセイシステムとは異なって較正されている場合、他のアッセイでは異なる場合がある。したがって、上述の閾値は、較正の差を考慮し、そのような較正の異なるアッセイに合わせて適用されるものとする。較正の差を定量する1つの可能性は、目的のアッセイ(例えば、bio-ADMアッセイ)と本発明で使用する各バイオマーカーアッセイとの方法比較分析(相関)であり、試料中の各バイオマーカー(例えば、bio-ADM)を両方の方法を用いて測定することにより行う。別の可能性は、この検査が十分な分析感度を有することを前提として、目的のアッセイを用いて代表的な正常集団のバイオマーカーレベルの中央値を決定し、結果を文献(例えば、Weber et al.2017.JALM 2(2):222-233)に記載されているバイオマーカーレベルの中央値と比較し、この比較によって得られた差異に基づいて較正を再計算することである。本発明で使用する較正を用いて、正常な(健常)対象からの試料を測定した:血漿bio-ADM(成熟ADM-NH2)の中央値は13.7pg/mL(四分位範囲[IQR]9.6~18.7pg/mL)であった(Weber et al.2017.JALM 2(2):222-233)。
【0123】
本明細書を通して、本発明による「抗体」又は「抗体断片」又は「非Ig足場」はADMに結合することができ、したがって、ADM指向性であり、したがって、「抗ADM抗体」、「抗ADM抗体断片」、又は「抗ADM非Ig足場」と呼ぶことができる。
【0124】
成熟ADM、bio-ADM、及びADM-NH2は、本出願を通して同義的に使用され、配列番号4による分子である。
【0125】
診断方法の具体的な実施形態において、該結合剤は、プロアドレノメデュリン又はその断片(配列番号4によるADM-NH2ではない)及びADM-NH2に対して、少なくとも107M-1、好ましくは108M-1の結合親和性を示し、好ましい親和性は109M-1より大きく、最も好ましくは1010M-1より大きい。当業者であれば、より高用量の化合物を適用することによって、より低い親和性を補うことが考えられ得ることを知っており、この措置は本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0126】
アドレノメデュリンに対する抗体の親和性を決定するために、固定化抗体に対するアドレノメデュリンの結合動態を、Biacore 2000システム(GE Healthcare Europe GmbH,Freiburg,Germany)を用いた非標識表面プラズモン共鳴によって決定した。抗体の可逆的固定化は、CM5センサー表面に高密度で共有結合させた抗マウスFc抗体を使用して、製造元の説明書に従って行った(マウス抗体捕捉キット;GE Healthcare)、(Lorenz et al.2011.Antimicrob Agents Chemother.55(1):165-173)。
【0127】
本方法の具体的な実施形態において、アッセイはADM-NH2のレベルを決定するために使用され、そのようなアッセイは、サンドイッチアッセイ、好ましくは完全自動化アッセイである。
【0128】
本発明の一実施形態において、これは、完全自動化アッセイシステムを必要とせずに、患者の近くで1時間未満以内に検査を行うことを可能にする検査技術である、いわゆるPOC検査(臨床現場即時検査(point-of-care))であってもよい。この技術の一例としては、イムノクロマトグラフィー検査技術、例えばマイクロ流体デバイスである。
【0129】
診断方法の一実施形態において、そのようなアッセイは、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識を含むがこれらに限定されない任意の種類の検出技術を使用するサンドイッチイムノアッセイであり、好ましくは完全自動化アッセイである。診断方法の一実施形態において、そのようなアッセイは、酵素標識サンドイッチアッセイである。自動化又は完全自動化アッセイの例としては、以下のシステム:Roche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、BiomerieuxVidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)のうちの1つに使用され得るアッセイが挙げられる。
【0130】
様々なイムノアッセイが知られており、本発明のアッセイ及び方法に使用することができる。これらとしては、ラジオイムノアッセイ(「RIA」)、均一酵素増幅イムノアッセイ(「EMIT」)、酵素結合免疫吸着アッセイ(「ELISA」)、アポ酵素再活性化イムノアッセイ(「ARIS」)、ディップスティックイムノアッセイ、及びイムノクロマトグラフィーアッセイが挙げられる。
【0131】
好ましい実施形態において、該標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。
【0132】
アッセイは、均一又は不均一アッセイ、競合及び非競合アッセイであり得る。一実施形態において、アッセイは非競合イムノアッセイであるサンドイッチアッセイの形態であり、検出及び/又は定量される分子は、第1の抗体及び第2の抗体に結合される。第1の抗体は、固相、例えばビーズ、ウェル又は他の容器の表面、チップ又はストリップに結合され得、第2の抗体は、例えば色素、放射性同位体、又は反応性部分若しくは触媒活性部分で標識された抗体である。次いで、分析物に結合した標識抗体の量を、適切な方法によって測定する。「サンドイッチアッセイ」に関与する全般的な構成及び手順は確立されており、当業者に公知である(The Immunoassay Handbook,Ed. David Wild,Elsevier LTD,Oxford;3rd ed.(May 2005),ISBN-13:978-0080445267;Hultschig C et al.,Curr Opin Chem Biol.2006 Feb;10(1):4-10.PMID:16376134)。
【0133】
別の実施形態において、アッセイは、液体反応混合物中に分散物として存在する2つの捕捉分子、好ましくは抗体を含み、第1の標識成分は第1の捕捉分子に付着し、該第1の標識成分は蛍光又は化学発光-消光又は増幅に基づく標識システムの一部であり、該マーキングシステムの第2の標識成分は第2の捕捉分子に付着し、その結果、両方の捕捉分子が分析物に結合すると、測定可能なシグナルが生成され、試料を含む溶液中で形成されたサンドウィッチ複合体の検出が可能になる。
【0134】
別の実施形態において、該標識システムは、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン系の色素と組み合わせた希土類クリプテート又は希土類キレートを含む。
【0135】
本発明の文脈において、蛍光に基づくアッセイは、色素の使用を含み、該色素は、例えば、FAM(5-又は6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、IRD-700/800、シアニン色素、例えばCY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトジフルオレセイン(dimethodyfluorescein)(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY色素、例えばBODIPY TMR、オレゴングリーン、クマリン、例えばウンベリフェロン、ベンズイミド、例えばHoechst 33258;フェナントリジン、例えばTexas Red、Yakima Yellow、Alexa Fluor、PET、エチジウムブロミド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素などを含む群から選択され得る。
【0136】
本発明の文脈において、化学発光に基づくアッセイは、(Kirk-Othmer,Encyclopedia of chemical technology,4th ed.,executive editor,J.I.Kroschwitz;editor,M.Howe-Grant,John Wiley & Sons,1993,vol.15,p.518-562(551~562頁の引用を含め、参照により本明細書に組み込まれる)において化学発光材料について記載された物理的原理に基づく色素の使用を含む。好ましい化学発光色素は、アクリジニウムエステルである。
【0137】
本明細書で言及される場合、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断の分野において適用される任意のタイプのものであり得る。このようなアッセイは、検出される分析物が1つ以上の捕捉プローブに特定の親和性で結合することに基づき得る。捕捉分子と標的分子又は目的の分子との間の相互作用に関して、親和定数は、好ましくは108M-1より大きい。
【0138】
本方法の具体的な実施形態において、該2つの結合剤の少なくとも1つは、検出されるために標識される。
【0139】
本発明は更に、本発明の方法を実施するためのキットであって、患者からの試料中のADM-NH2のレベルを決定するための検出試薬と、該試料中のADM-NH2のレベルが20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mL、最も好ましくは70pg/mLであることに対応する基準データ、例えば基準レベル及び/又は閾値レベルと、を含み、該基準データは、好ましくはコンピュータ可読媒体に保存され、かつ/又はADM-NH2の決定されたレベルが該基準データと比較されるように構成されたコンピュータ実行可能コードの形態で用いられる、キットに関する。
【0140】
本明細書に記載される方法の一実施形態において、該方法は、重篤患者におけるADM-NH2の決定されたレベルを基準レベル及び/又は閾値レベルと比較することを更に含み、該比較は、コンピュータ実行可能コードを使用してコンピュータプロセッサにおいて実施される。
【0141】
本発明の方法は、部分的にコンピュータ実装されてもよい。例えば、マーカー、例えばADM-NH2の検出されたレベルを基準レベル及び/又は閾値レベルと比較するステップは、コンピュータシステムにおいて実施することができる。例えば、決定された値は、コンピュータシステムに(医療従事者によって手動で、又はそれぞれのマーカーレベルを決定した装置から自動的に)入力され得る。コンピュータシステムは、臨床現場(例えば、初期医療ユニット又はED)に直接あってもよく、又はコンピュータネットワークを介して(例えば、インターネット、又は医療用クラウドシステムを介して、任意選択で病院情報システム(HIS)などの他のITシステム若しくはプラットフォームと組み合わせることができる)接続された遠隔地にあってもよい。あるいは、又はそれに加えて、関連する療法ガイダンス及び/又は療法層別化は、ユーザ(典型的には医師などの医療従事者)のために表示及び/又は印刷される。
【0142】
上記の文脈を踏まえ、以下の連続して付番された実施形態が本発明の更なる具体的な態様を提供する。
1.コルチコステロイドによる治療のために重篤患者を選択する方法であって、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用し、該閾値を下回る値においてコルチコステロイドによる療法を採用しないことと、を含む、方法。
2.
a.該患者の体液試料を提供することと、
b.該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
c.該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、
実施形態1に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
3.該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、実施形態1及び2に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
4.ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をプロアドレノメデュリン又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、実施形態1~3に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
5.該決定が、ADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、実施形態1~4に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
6.ADMのレベルが該対象の体液試料において決定され、該決定がADMのレベルに特異的に結合する捕捉結合剤の使用を含み、該捕捉結合剤が表面上に固定化されている、実施形態1~5に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
7.ADMのレベルが異なる方法、例えばイムノアッセイ、活性アッセイ、質量分析法によって決定される、実施形態1~6に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
8.ADM-NH2を検出するための該アッセイのアッセイ感度が、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それが70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である、実施形態1~7に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
9.該患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、実施形態1~8に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
10.該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、実施形態1~9に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
11.該ミネラルコルチコイドがフルドロコルチゾンを含む群から選択され得る、実施形態1~10に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
12.該コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、実施形態1~11に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
13.該体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、実施形態1~12に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
14.ADM-NH2の閾値レベルが、20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLであり、最も好ましくは該閾値レベルが70pg/mLである、実施形態1~13に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
15.ADM-NH2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定することができる、実施形態1~14に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
16.該更なるバイオマーカーが、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択される、実施形態1~15に記載の重篤患者におけるコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又は層別化のための方法。
【0143】
上記の文脈を踏まえ、以下の連続して付番された更なる実施形態が本発明の更なる具体的な態様を提供する。
1.重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法であって、
●該患者の体液試料を提供することと、
●該試料中のADM-NH2又はその断片のレベルを決定することと、
●該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較することと、
を含み、
ADM-NH2又はその断片のレベルが、コルチコステロイド療法の開始が必要であるかどうかの指標である、方法。
2.該閾値を上回るADM-NH2又はその断片のレベルにおいてコルチコステロイドによる療法が採用され、該閾値を下回るADM-NH2又はその断片のレベルにおいてコルチコステロイドによる療法が保留される、実施形態1に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
3.該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、実施形態1に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
4.ADM-NH2又はその断片のレベルが、該体液試料をADM-NH2又はその断片に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させることによって決定される、実施形態1及び3に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
5.該捕捉結合剤が、ADM-NH2のC末端部分(配列番号9)に特異的に結合し、該捕捉結合剤が、結合のためにADM-NH2のC末端アミドを特異的に必要とする、実施形態4に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
6.該捕捉結合剤が、抗体、抗体断片、又は非IgG足場の群から選択され得る、実施形態4及び5に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
7.該捕捉結合剤が表面上に固定化されている、実施形態4~6に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
8.ADM-NH2のレベルが、イムノアッセイ、活性アッセイ、質量分析法を含む群から選択される方法によって決定される、実施形態1~7に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
9.ADM-NH2を検出するための該イムノアッセイのアッセイ感度が、健常対象のADM-NH2を定量することができ、それが70pg/mL未満、好ましくは40pg/mL未満、及びより好ましくは10pg/mL未満である、実施形態8に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
10.該患者が、グルココルチコイド又はミネラルコルチコイドからなる群から選択されるコルチコステロイドで治療される、実施形態1~9に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
11.該グルココルチコイドが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、又はベタメタゾンを含む群から選択され得る、実施形態10に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
12.該ミネラルコルチコイドが、フルドロコルチゾンを含む群から選択され得る、実施形態10に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
13.該コロナウイルスが、Sars-CoV-1、Sars-CoV-2、MERS-CoVを含む群から選択され、特にSars-CoV-2である、実施形態3に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
14.該体液が、全血、血清、及び血漿を含む群から選択される、実施形態1~13に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
15.ADM-NH2の閾値レベルが、20~150pg/mL、より好ましくは30~100pg/mL、更により好ましくは40~80pg/mLであり、最も好ましくは該閾値レベルが70pg/mLである、実施形態1~14に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
16.ADM-NH2又はその断片に加えて、更なるバイオマーカーを測定することができる、実施形態1~15に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
17.該更なるバイオマーカーが、D-ダイマー、プロカルシトニン(PCT)、C反応性蛋白(CRP)、ラクテート、penKid、NT-proBNP、BNP、白血球数、リンパ球数、好中球数、ヘモグロビン、血小板数、アルブミン、アラニントランスアミナーゼ、クレアチニン、血中尿素、乳酸デヒドロゲナーゼ、クレアチニンキナーゼ、心筋トロポニンI、プロトロンビン時間、血清フェリチン、インターロイキン-6(IL-6)、IL-10、IL-2、IL-7、インターフェロンガンマ(IF-γ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、IP-10、MCP-1、MIP-1αを含む群から選択される、実施形態1~16に記載の重篤患者のコルチコステロイド療法ガイダンス及び/又はコルチコステロイド療法層別化の方法。
18.重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該患者は、該患者の体液試料中のADM-NH2又はその断片のレベルが、該ADM-NH2又はその断片のレベルを所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較した場合に、ADM-NH2又はその断片の該所定の閾値を上回る値であるか、又は先に測定されたレベルを上回る値であることを特徴とし、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、コルチコステロイド。
19.重篤患者の治療に使用するためのコルチコステロイドであって、該患者は、ADM-NH2又はその断片のレベルが該患者の体液試料において決定され、該ADM-NH2又はその断片のレベルが、所定の閾値又は先に測定されたADM-NH2又はその断片のレベルと比較され、該閾値を上回る値においてコルチコステロイドによる療法が採用されることを特徴とし、該重篤患者が、重症感染症、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸器症候群(ARDS)、市中肺炎(CAP)、髄膜炎(例えば、細菌性又はウイルス性髄膜炎)、コロナウイルス感染症(例えば、COVID-19)、心肺バイパス術(CPB)、及び心停止の群から選択される疾患に罹患している患者である、コルチコステロイド。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【
図1】典型的なbio-ADM用量/シグナル曲線及び100μg/mLの抗体NT-Hの存在下でのbio-ADM用量シグナル曲線を示す。
【0145】
【
図2】70pg/mL超/未満のbio-ADM及び治療群(PP集団)ごとの敗血症性ショックを発症している患者の百分率(%)(薄灰色)を示す(p=0.033)。
【0146】
【
図3】70pg/mL超/未満のbio-ADM及び治療群(PP集団)ごとの90日死亡率を示す。
【0147】
【
図4】70pg/mL超/未満のbio-ADM及び治療群(PP集団)ごとの入院期間を示す。
【実施例】
【0148】
実施例1-抗体の作製及びその親和定数の決定
本発明者らは、bio-ADMのN末端(NT-ADM)、中央領域(MR-ADM)、及びC末端(CT-ADM)部分に結合するマウスモノクローナル抗体を開発し、それらの親和定数を決定した(表2)。
【0149】
免疫化のためのペプチド
ペプチドは、JPT Peptide Technologies GmbH(Berlin,Germany)によって供給された。ペプチドは、スルホ-SMCC架橋法を用い、BSAに結合させた。この架橋手順は、製造業者(Thermo Fisher/Pierce)の説明書に従い行った。
【0150】
マウス抗体の作製
Balb/cマウスを、0日目及び14日目に100μgのペプチド-BSA-コンジュゲート(100μlの完全フロイントアジュバント中に乳化)で、そして21日目及び28日目に50μg(100μlの不完全フロイントアジュバント中)で免疫化した。融合実験を実施する3日前に、動物に100μlの生理食塩水に溶解した50μgのコンジュゲートを1回の腹腔内注射及び1回の静脈内注射として投与した。
【0151】
免疫化したマウスからの脾細胞及び骨髄腫細胞株SP2/0の細胞を、50%ポリエチレングリコール1mlにより、30秒間、37℃で融合した。洗浄後、細胞を96ウェル細胞培養プレートに播種した。ハイブリッドクローンを、HAT培地(20%ウシ胎児血清及びHATサプリメントを補充したRPMI 1640培養培地)の中で増殖させることによって選択した。2週間後、HAT培地をHT培地と交換して3回継代した後、通常の細胞培養培地に戻した。
【0152】
この細胞培養上清を、融合の3週間後に抗原特異的IgG抗体について一次スクリーニングした。陽性の試験したマイクロ培養物を、増殖のために24ウェルプレートに移した。再試験の後、選択された培養物を、限界希釈法を用いてクローニング及び再クローニングし、アイソタイプを決定した(Lane,1985.J.Immunol.Meth.81:223-228;Ziegler et al.1996.Horm.Metab.Res.28:11-15)。
【0153】
【0154】
モノクローナル抗体の生成
抗体を標準的な抗体生成方法によって生成し(Marx et al,1997.Monoclonal Antibody Production,ATLA 25,121)、プロテインAによって精製した。抗体純度は、SDSゲル電気泳動分析に基づいて95%超であった。
【0155】
親和定数
アドレノメデュリンに対する抗体の親和性を決定するために、固定化抗体に対するアドレノメデュリンの結合動態を、Biacore 2000システム(GE Healthcare Europe GmbH,Freiburg,Germany)を用いた非標識表面プラズモン共鳴によって決定した。抗体の可逆的固定化は、CM5センサー表面に高密度で共有結合させた抗マウスFc抗体を使用して、製造元の説明書に従って行った(マウス抗体捕捉キット;GE Healthcare)。
【0156】
標識手順(トレーサー)
100μg(100uL)の抗体(PBS中1mg/ml、pH7.4)を、10μLのアクリジニウムNHSエステル(アセトニトリル中1mg/mL、InVent GmbH, Germany)(EP 0 353 971)と混合し、20分間室温でインキュベートした。標識したCT-Hを、Bio-Sil(登録商標)SEC 400-5(Bio-Rad Laboratories,Inc.,USA)でゲル濾過HPLCにより精製した。精製された標識抗体を、(リン酸カリウム300mmol/L、NaCl 100mmol/L、Na-EDTA 10mmol/L、ウシ血清アルブミン5g/L、pH7.0)中に希釈した。最終濃度は、200μL当たり約800.000の相対発光量(RLU)の標識化合物(約20ngの標識抗体)であった。アクリジニウムエステル化学発光を、AutoLumat LB 953(Berthold Technologies GmbH & Co.KG)を用いて測定した。
【0157】
固相
ポリスチレンチューブ(Greiner Bio-One International AG,Austria)を、抗体(抗体1.5μg/0.3mL、NaCl 100mmol/L、トリス/HCl 50mmol/L、pH7.8)によりコーティングした(室温で18時間)。5%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、チューブをPBS(pH7.4)で洗浄し、真空乾燥した。
【0158】
キャリブレーター
合成ヒトADM(hADM)(Bachem,Switzerland)を、50mMトリス/HCl、250mM NaCl、0.2%Triton X-100、0.5%BSA、20錠/LのプロテアーゼCompleteプロテアーゼ阻害剤カクテル錠(Roche AG);pH 7.8を用い、線形希釈した。キャリブレーターは、使用まで-20℃で保管した。
【0159】
実施例2-高シグナル/ノイズ比を生じる抗体の組み合わせの決定
ADMイムノアッセイ
50μlの試料(又はキャリブレーター)を、コーティングしたチューブにピペットで入れ、標識した二次抗体(200μl)を加えた後、チューブを室温で2時間インキュベートした。未結合のトレーサーを、洗浄液(20mM PBS、pH7.4、0.1%TritonX-100)で、5回洗浄(各1ml)することにより除去した。チューブに結合した化学発光を、LB 953(Berthold Technologies GmbH & Co.KG)を用いて測定した。
【0160】
全ての抗体を、コーティングされたチューブ及び標識抗体として、サンドイッチイムノアッセイにおいて使用し、以下のバリエーションで組み合わせた(表3参照)。インキュベーションは、hADM-イムノアッセイ下で記載のように実施した。結果は、特異的シグナル(10ng/ml ADMにおいて)/バックグラウンド(ADMを含まない試料)シグナルの比で示す。
【0161】
【表3】
驚くべきことに、本発明者らは、MR-ADMとCT-ADMの組み合わせを、最も高いシグナル/ノイズ比のための組み合わせとして見出した。
【0162】
続いて、本発明者らは、この抗体の組み合わせを、bio-ADMを測定するための更なる調査に使用した。本発明者らは、固相抗体として抗MR-ADMを、標識抗体として抗CT-ADMを使用した。典型的な用量/シグナル曲線を
図1に示す。アッセイの分析感度(10回の実行の平均、ADM不含試料+2SD)は、2pg ADM/mlであった。
【0163】
実施例3-ヒトアドレノメデュリンの安定性
ヒトADMをヒトクエン酸血漿中に希釈し(n=5、最終濃度10ng ADM/ml)、24℃でインキュベートした。選択された時点で、アリコートを-20℃で凍結した。試料を解凍した直後に、hADMを、上記のhADMイムノアッセイを使用することによって定量した。
【0164】
表4は、24℃でのヒト血漿中のhADMの安定性を示す。
【表4】
【0165】
驚くべきことに、サンドイッチ免疫アッセイにおいてMR-ADM及びCT-ADMの抗体の組み合わせを使用すると、分析物の分析前安定性が高かった(わずか0.9%/hの免疫反応性の平均喪失)。対照的に、他のアッセイ方法を使用して、わずか22分の血漿半減期が報告されている(Hinson et al.2000 Endocrine Reviews 21(2):138-167)。病院ルーチンでの試料採取から分析までの時間は2時間未満であるため、使用されるADM検出法は、ルーチン診断に適している。注目すべきことには、許容可能なADM-免疫反応安定性に到達するために、試料へのいかなる非ルーチン添加剤(アプロチニンなど(Ohta et al.1999.Clin Chem 45(2):244-251))も必要とされない。
【0166】
実施例4-キャリブレーター調製物の再現性
本発明者らは、ADMアッセイのためのキャリブレーターの調製において、結果の変動が大きいことを見出した(平均CV 8.5%、表4参照)。これは、プラスチック及びガラス表面へのhADMの高い吸着によるものであり得る(Lewis et al.1998.Clinical Chemistry 44(3):571-577)。この作用は、界面活性剤(最大1%Triton X 100又は1%Tween 20)、タンパク質(最大5%BSA)を添加することによって、及び高イオン強度(最大1M NaCl)又はそれらの組み合わせによってわずかに減少しただけであった。驚くべきことに、過剰の抗ADM抗体(10μg/ml)をキャリブレーター希釈緩衝液に添加した場合、ADMアッセイキャリブレーター調製物の回収及び再現性は、調製物間CVの1%未満まで実質的に改善された(表5)。
【0167】
幸いなことに、N末端抗体の存在は、MR-及びC末端抗体の組み合わせによって生成されたbio-ADMシグナルに影響を及ぼさなかった(
図1)。
【0168】
【0169】
キャリブレーターの調製物間の変動
ADMアッセイキャリブレーターは、10μg/mlのNT-ADM抗体を添加したものと添加しないもので上記のように調製した。変動係数は、5回の独立した調製の実行から得られたものである。キャリブレーターは、上記のADMアッセイを用いて測定した(s/n-r=シグナル対ノイズ比)。以下の全ての試験について、本発明者らは、10μg/mlのNT-ADM抗体、及びトレーサー緩衝液中のサプリメントとしての10μg/mlのNT-ADM抗体の存在下で調製されたキャリブレーターに基づいてADMアッセイを使用した。
【0170】
実施例5
感度
アッセイ感度の目標は、健常対象のADM濃度を完全に網羅することであった。
【0171】
健常対象におけるbio-ADM濃度
健常対象(n=100、平均年齢56歳)を、bio-ADMアッセイを使用して測定した。中央値は24.7pg/mLであり、最低値は11pg/mLであり、99パーセンタイルは43pg/mLであった。アッセイ感度は2pg/mLであったので、全健常対象の100%が、記載されたbio-ADMアッセイを使用して検出可能であった。
【0172】
実施例6-HYPRESS試験
試験の詳細
HYPRESS試験は、2009年1月13日から2013年8月27日まで実施された二重盲検無作為化臨床試験であり、2014年2月23日まで180日間のフォローアップが行われた(Keh et al.2016.JAMA 316(17):1775-1785)。試験は、ドイツの大学及び地域病院の34の中間又は集中治療室で実施され、敗血症性ショックではない重篤な敗血症を有する380人の成人患者を対象とした。
【0173】
患者を、大学及び地域病院の中間治療室又は集中治療室(ICU)において適格性についてスクリーニングし、書面によるインフォームドコンセントを、患者、患者が承認した代理人、又は法定代理人から得た。患者は、全ての選択基準を満たした場合に登録された:(1)インフォームドコンセントを提供すること;(2)感染の証拠があること;(3)全身性炎症反応症候群の基準12のうち少なくとも2つとして定義される感染に対する全身性反応の証拠があること;及び(4)48時間以内に存在する臓器機能不全の証拠があること。主な除外基準は敗血症性ショックであった。他の除外基準は、18歳未満であること、ヒドロコルチゾン若しくはマンニトール(プラセボ)に対する既知の過敏症を有すること、又はグルココルチコイドの投薬歴があり、療法継続の適応症がある若しくはグルココルチコイドによる治療の他の適応症があることであった。登録前72時間以内にエトミデートを使用した患者、登録前72時間以内に短期間のグルココルチコイドを使用した患者、又は局所若しくは吸入グルココルチコイドを使用した患者は除外されなかった。
【0174】
敗血症性ショックは、4時間を超えて適切なボリュームステータスにもかかわらず敗血症誘発性低血圧であること(すなわち、平均動脈圧<65mmHg、収縮期動脈圧<90mmHg、又は平均動脈圧≧65mmHg若しくは収縮期動脈圧≧90mmHgを維持するための昇圧剤の使用)として定義された。最初の蘇生中に昇圧剤を一時的に必要としたが、低血圧ではなく、少なくとも2時間にわたって昇圧剤を使用しなかった患者は、無作為化の時点で敗血症性ショックが存在しなかった場合に登録に適格とした。適切なボリュームステータスは、中心静脈圧が8mmHg以上(人工呼吸された患者では12mmHg以上)であり、中心静脈酸素飽和度が70%を超えるものと定義された。補液のために、患者は、少なくとも500~1000mLのクリスタロイド又は300~500mLのコロイドを30分間にわたって投与されるものとした。ヒドロキシエチルデンプン製剤の使用は、腎機能に有害な影響を及ぼす可能性があるため推奨されなかった。昇圧剤の使用は、少なくとも5μg/kg/分の用量のドーパミンによる療法、又は任意の用量のエピネフリン、ノルエピネフリン、バソプレシン、若しくは他の昇圧剤による療法として定義された。
【0175】
治験薬(ヒドロコルチゾン及びプラセボ)は、BAG Health Care GmbHによって製造され、発売された。医薬は、患者1人に対して褐色ガラスバイアルが17本ずつ入った箱で提供された。各バイアルには、100mgの凍結乾燥ヒドロコルチゾン水素サクシネート、又はプラセボとしてヒドロコルチゾンと区別がつかないようにされた同量の凍結乾燥マンニトールが入っていた。医薬は、50mgの静脈内ボーラスとして投与され、続いて、5日目に200mg、6日目及び7日目に100mg、8日目及び9日目に50mg、並びに10日目及び11日目に25mgを24時間持続注入として投与された。
【0176】
本分析では、SepNet試験HYPRESS試験(ClinicalTrials.gov番号:NCT00670254)のintention-to-treatデータセットから合計n=110の症例及び対照を選択し、そのうちn=97をプロトコルに従って治療し、分析のために選択した。ICU入室中に敗血症性ショックを有する患者と有していない患者とを1:1の比で選択した。対照患者は、人口統計、臓器機能不全、併用薬、及び他の転帰に従ってマッチングした。
【0177】
症例対照試験の一次エンドポイントは、28日以内の敗血症性ショックの発生、又はICU退室であった。目標は、bio-ADMのレベル(70pg/mL未満/超)と治療群(ヒドロコルチゾン対プラセボ)との間の潜在的相互作用を特定することであった。
【0178】
結果
PP集団からのn=97人の患者のうち、n=47人(49%)をヒドロコルチゾンで治療し、n=41人(42%)は登録時にbio-ADMが上昇しており(>70pg/mL)、n=25人(26%)は90日以内に死亡した。ヒドロコルチゾンで治療した患者におけるbio-ADMの中央値は67pg/mLであり、プラセボでは56pg/mLであった(p=0.279)。bio-ADMは、治療群とは無関係に敗血症性ショックを予測した:bio-ADMが70pg/mLを超える患者の61%(n=25/41)が敗血症性ショックを発症したが、bio-ADMが70pg/mL未満の場合には36%(n=20/56)しか発症しなかった(p=0.024)。
【0179】
bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合、40%がショックを発症したのに対し、プラセボ群では32.3%であった。bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合、50%がショックを発症したのに対し、プラセボ群では73.7%であった(4群全てを比較したp値=0.033;相互作用のp値=0.119、
図2)。
【0180】
bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合、76.0%が90日間のフォローアップを生存したのに対し、プラセボ群では76.7%であった。bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合、72.7%が90日間のフォローアップを生存したのに対し、プラセボ群では68.4%であった(相互作用のp値=有意差なし、
図3)。
【0181】
この所見を裏付けるように、対照群においてbio-ADMが70pg/mLを超える患者は、より入院期間が長く、より多くの追加治療が必要であった。bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合の入院期間中央値は25日であったのに対し、プラセボ群では35日であった。bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合の入院期間中央値は22日であったのに対し、プラセボ群では22日であった(4群全てを比較したp値=0.597、
図4)。
【0182】
bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療して外科的介入を必要としたのは27.3%のみであったのに対し、プラセボ群では57.9%であった。bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合、外科的介入を必要としたのは48.0%であったのに対し、プラセボ群では61.3%であった(4群全てを比較したp値=0.085)。
【0183】
bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にプロポフォールによる追加治療を必要としたのは4.5%のみであったのに対し、プラセボ群では31.6%であった。bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にプロポフォールによる追加治療を必要としたのは16.0%であったのに対し、プラセボ群では12.9%であった(4群全てを比較したp値=0.114)。
【0184】
bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にベンゾジアゼピンによる追加治療を必要としたのは13.6%のみであったのに対し、プラセボ群では31.6%であった。bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にベンゾジアゼピンによる追加治療を必要としたのは12.0%であったのに対し、プラセボ群では12.9%であった(4群全てを比較したp値=0.282)。
【0185】
bio-ADMが70pg/mLを超える患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にオピオイドによる追加治療を必要としたのは31.8%のみであったのに対し、プラセボ群では57.9%であった。bio-ADMが70pg/mL未満の患者では、ヒドロコルチゾンで治療した場合にオピオイドによる追加治療を必要としたのは40.0%であったのに対し、プラセボ群では41.9%であった(4群全てを比較したp値=0.401)。
配列
配列番号1(preproADM:185アミノ酸)
MKLVSVALMYLGSLAFLGADTARLDVASEFRKKWNKWALSRGKRELRMSSSYPTGLADVKAGPAQTLIRPQDMKGASRSPEDSSPDAARIRVKRYRQSMNNFQGLRSFGCRFGTCTVQKLAHQIYQFTDKDKDNVAPRSKISPQGYGRRRRRSLPEAGPGRTLVSSKPQAHGAPAPPSGSAPHFL
配列番号2(プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド、PAMP:preproADMのアミノ酸22~41)
ARLDVASEF RKKWNKWALS R
配列番号3(中間領域プロアドレノメデュリン、MR-proADM:preproADMのアミノ酸45~92)
ELRMSS SYPTGLADVK AGPAQTLIRP QDMKGASRSP EDSSPDAARI RV
配列番号4(成熟ヒトアドレノメデュリン(成熟ADM); アミド化ADM; bio-ADM):pro-ADMのアミノ酸1~52又はアミノ酸95~146
YRQSMNNFQGLRSFGCRFGTCTVQKLAHQIYQFTDKDKDNVAPRSKISPQGY-CONH2
配列番号5(アドレノメデュリン1-52-Gly(ADM 1-52-Gly):preproADMのアミノ酸95~147)
YRQSMN NFQGLRSFGC RFGTCTVQKL AHQIYQFTDK DKDNVAPRSK ISPQGYG
配列番号6(C末端プロアドレノメデュリン、CT-proADM:preproADMのアミノ酸148~185)
RRR RRSLPEAGPG RTLVSSKPQA HGAPAPPSGS APHFL
配列番号7(ヒトADM 1-21)
YRQSMNNFQGLRSFGCRFGTC
配列番号8(ヒトADM 21-32)
CTVQKLAHQIYQ
配列番号9(ヒトADM C-42-52)
CAPRSKISPQGY-CONH2
【配列表】
【国際調査報告】