IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アマゼク フォトニクス イーペー ベー.フェー.の特許一覧

特表2024-519343哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得
<>
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図1
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図2
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図3
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図4
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図5
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図6
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図7
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図8
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図9
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図10
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図11
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図12
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図13
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図14
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図15
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図16
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図17
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図18
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図19
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図20
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図21
  • 特表-哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】哺乳類の身体からの心血管および/または呼吸情報の取得
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/028 20060101AFI20240501BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61B5/028
A61B5/029
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570100
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 NL2022050256
(87)【国際公開番号】W WO2022240289
(87)【国際公開日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】2028193
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
2.SIMULINK
(71)【出願人】
【識別番号】523427157
【氏名又は名称】アマゼク フォトニクス イーペー ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コルステン,ヘンドリクス フーベルトゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】バックス,アントニウス コルネリス ペートルス マリア
(72)【発明者】
【氏名】バウマン,ロベルト アーサー
(72)【発明者】
【氏名】カット,ピーテル ルーカス
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA03
4C017AA11
4C017AB04
4C017AC27
4C017BC11
(57)【要約】
哺乳類の身体(2)の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが哺乳類の身体の血液血管系において生成された瞬間に続く期間を含む測定期間中に行われる測定動作において哺乳類の身体(2)から心血管情報を得る分野では、ベースライン温度に対する温度差を表す値が、心臓のそれぞれの側に関する温度差コースにおいて少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を記録することを可能にするように構成された高分解能を有する少なくとも1つの超高感度センサ(21)を含む測定デバイス(20)によって測定期間を通じて哺乳類に近い、哺乳類上の、または哺乳類内の少なくとも1つの位置で測定される。センサ(21)の実用的な例は、ファイバブラッググレーティングセンサのようなフォトニックセンサである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の身体から心血管情報を得る方法であって、
- 測定動作が、前記哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の血液血管系に生成された瞬間に続く期間を含む測定期間の間に実行され、
- 前記測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも一方の側に関して、温度差コースが、前記哺乳類の身体の前記血液血管系内の前記局所的スポットに関して記録され、前記温度差コースは、前記心臓のそれぞれの側に関して、時間を通じてベースライン温度に対する温度差を表す温度差値の全体的な傾向であり、
- 前記温度差値は、少なくとも1つの測定位置で前記局所的スポットが通過する少なくとも2つの後続の時間から生じる少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含む測定デバイスによって、前記哺乳類の身体に近い、前記哺乳類の身体上の、または前記哺乳類の身体内の少なくとも1つの測定位置で測定され、
- 前記温度差コースは、少なくとも、前記少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線とともに記録される、
方法。
【請求項2】
- 前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記少なくとも1つの測定位置で前記局所的スポットが通過する少なくとも3つの後続の時から生じる少なくとも3つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースの記録を可能にするように構成され、
- 前記温度差コースは、少なくとも、前記少なくとも3つの後続のインジケータ希釈曲線とともに記録される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、少なくとも0.0001Kの精度および少なくとも10のダイナミックレンジで前記温度差値を検出するように構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、フォトニックセンサである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フォトニックセンサは、ファイバブラッググレーティングセンサである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの心血管パラメータが、前記心臓の少なくとも1つの側に関して温度差コースを解釈することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの心血管パラメータは、各心室の心拍出量、1回拍出量、循環熱容量、肺熱容量、および駆出率を含む群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記駆出率を決定することは、2つの後続の心拍の時に前記温度差値の比を決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記循環熱容量を決定することは、前記心臓のそれぞれの側に関する温度差コースにおける連続的なインジケータ希釈曲線の間の時間差を決定することを含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
- 前記温度差コースは、前記心臓の両側に関して記録され、
- 前記肺熱容量を決定することは、1つの温度差コースにおけるインジケータ希釈曲線と別の温度差コースにおける後続のインジケータ希釈曲線との間の時間差を決定することを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された前記瞬間は、局所的低温スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系内に生成された低温摂取の瞬間である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記測定期間は、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された瞬間に直ぐ続く期間を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記測定期間は、前記哺乳類の身体の前記温度を十分に下回る温度を有するある容量の物質を前記哺乳類の身体に静脈注射することによって、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された瞬間に直ぐ続く期間を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記測定期間は、前記哺乳類の身体の前記温度を十分に下回る温度を有する物体または物質を口内に置くことによって、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された瞬間に直ぐ続く期間を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記測定期間は、肺内の前記哺乳類の身体の前記温度を十分に下回る温度を有する空気の摂取によって、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された瞬間に直ぐ続く期間を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された前記瞬間後の前記測定期間の持続時間は、前記哺乳類の身体全体を通じて予想される血液循環時間の少なくとも2倍をカバーするように設定される、請求項12~15のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記測定期間を通じて前記哺乳類の身体の外側の位置に保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記測定期間を通じて前記哺乳類の身体の皮膚に近い位置または前記哺乳類の身体の皮膚上の位置に保持される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記測定期間を通じて血管を覆う皮膚の一部分に近い位置または血管を覆う皮膚の一部分上の位置に保持される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記測定期間を通じて前記哺乳類の身体の内側の位置に保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、血管内の位置または血流の外側の位置のいずれかに保持される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、左心房の壁に近い食道の一部分において、血流の外側の位置に保持される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、プローブの上または内に取り付けられる、請求項20~22のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の血液血管系において生成された瞬間に続く期間を含む測定期間の間に行われる測定動作において前記哺乳類の身体から心血管情報を得るために使用されるように構成されたシステムであって、
- 前記測定期間を通じて、前記哺乳類の身体に近い、前記哺乳類の身体上の、または前記哺乳類の身体内の少なくとも1つの位置において、ベースライン温度に対する温度差を表す温度差値を測定するように構成される、測定デバイスと、
- 前記温度差値を前記測定デバイスから入力として受け取り、前記測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも1つの側に関して、前記哺乳類の身体の前記血液血管系における前記局所的スポットに関する温度差コースを記録するように構成される、プロセッサと、を含み、前記温度差は、前記心臓のそれぞれの側に関する前記温度差値の全体的な傾向であり、
- 測定デバイスは、少なくとも1つの測定位置で前記局所的スポットが通過する少なくとも2つの後続の時間から生じる少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含み、
- 前記プロセッサは、少なくとも、前記少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースを記録するように構成される、
システム。
【請求項25】
- 前記測定デバイスは、前記少なくとも1つの測定位置で前記局所的スポットが通過する少なくとも3つの後続の時から生じる少なくとも3つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含み、
- プロセッサは、少なくとも、前記少なくとも3つの後続のインジケータ希釈曲線を有する前記温度差コースを記録するように構成される、
請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、少なくとも0.0001Kの精度および少なくとも10のダイナミックレンジで前記温度差値を検出するように構成される、請求項24または25に記載のシステム。
【請求項27】
前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、フォトニックセンサである、請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記フォトニックセンサは、ファイバブラッググレーティングセンサである、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
プローブを含み、前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記プローブの上または内に取り付けられる、請求項24項に記載のシステム。
【請求項30】
皮膚の上に着用可能な構成を含み、前記測定デバイスの前記少なくとも1つのセンサは、前記構成内に配置される、請求項24に記載のシステム。
【請求項31】
前記プロセッサは、前記温度差値を解釈することによって少なくとも1つの心血管パラメータを示す出力を生成するように設計されるアルゴリズムを実行するように構成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項32】
前記少なくとも1つの心血管パラメータは、左心室および右心室の心拍出量、総循環血液容量、肺循環血液容量、および駆出率のうちの少なくとも1つである、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記アルゴリズムは、前記駆出率を決定する際に2つの後続の心拍の時に前記温度差値の比を決定することを含むように設計される、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記アルゴリズムは、前記総循環血液容量を決定する際に前記心臓のそれぞれの側に関する温度差コースにおける連続するインジケータ希釈曲線の間の時間差を決定することを含むように設計される、請求項32または33に記載のシステム。
【請求項35】
前記アルゴリズムは、肺熱容量を決定する際に前記心臓の1つの側に関する温度差コースにおけるインジケータ希釈曲線と前記心臓の別の側に関する温度差コースにおける後続のインジケータ希釈曲線との間の時間差を決定することを含むように設計される、請求項32に記載のシステム。
【請求項36】
- 前記測定期間は、前記哺乳類の身体の前記温度を十分に下回る温度を有するある容量の物質を前記哺乳類の身体に静脈注射することによって、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された瞬間に直ぐ続く期間を含み、
- アルゴリズムは、少なくとも1つの心血管パラメータを示す出力を生成する際の前記物質の容量を表す値を含むように設計される、
請求項31に記載のシステム。
【請求項37】
前記アルゴリズムは、少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線が発生した前記測定期間の少なくとも一部分からの少なくとも1つの心血管パラメータ温度差値を示す前記出力を生成することに関与するように設計される、請求項31に記載のシステム。
【請求項38】
前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された前記瞬間は、局所的低温スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された低温摂取の瞬間である、請求項24に記載のシステム。
【請求項39】
前記プロセッサは、前記哺乳類の身体全体を通じて予測される血液循環時間の少なくとも2倍をカバーする、前記哺乳類の身体の前記温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが前記哺乳類の身体の前記血液血管系において生成された前記瞬間後の前記測定期間の持続時間を設定するように構成される、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、哺乳類の身体から心血管および/または呼吸情報を取得する方法およびシステムに関する。
【0002】
とりわけ、本発明は、哺乳類の身体から心血管情報を得る方法であって、
- 測定動作が、哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが哺乳類の身体の血液血管系に生成された瞬間に続く期間を含む測定期間中に実行され、
- 測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも一方の側に関して、温度差コースが、哺乳類の身体の血液血管系内の局所的スポットに関して記録され、温度差コースは、心臓のそれぞれの側に関して、時間を通じてベースライン温度に対する温度差を表す温度差値の全体的な傾向であり、
- 温度差値は、少なくとも1つのセンサを含む測定デバイスによって、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの測定位置で測定される、方法に関する。
【0003】
本発明は、哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが哺乳類の身体の血液血管系において生成された瞬間に続く期間を含む測定期間の間に行われる測定動作において哺乳類の身体から心血管情報を得るために使用されるように構成されたシステムであって、
- 測定期間を通じて、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの位置において、ベースライン温度に対する温度差を表す温度差値を測定するように構成される、測定デバイスと、
- 温度差値を測定デバイスから入力として受け取り、測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも1つの側に関して、哺乳類の身体の血液血管系における局所的スポットに関する温度差コースを記録するように構成される、プロセッサと、を含み、温度差は、心臓のそれぞれの側に関する温度差値の全体的な傾向であり、
- 測定デバイスは、温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含む、システムにも関する。
【背景技術】
【0004】
心血管情報は、例えば、心臓疾患に苦しむ患者、心臓手術または外傷を受ける患者、または病院または自宅でモニタされる患者における血行力学評価の文脈において有用である。心血管情報の実際的な例は、身体の循環系を通る循環血液における心臓の有効性の測定値であり、この測定値は、一般に、心拍出量(cardiac output)と呼ばれる。具体的には、心拍出量は、1分当たりに左心室または右心室から駆出される(ejected)血液の容量(volume)である。正常な心臓状態に関する値の範囲外にある心拍出量の値が取得されるとき、これは、例えば、心筋梗塞または失血に続いて、心臓、血管系、または血液容量に何らかの異常があること、および不十分な組織灌流のリスクがあることを示す。
【0005】
心拍出量を決定するよく知られている方法は、低温または高温の流体量(cold or hot quantity of fluid)の形態におけるインジケータの静脈注射および適切な測定部位を通る流体の量によって生じる温度変化をモニタすることを含む熱希釈(thermodilution)技術に依存する。このプロセスでは、スワン-ガンツカテーテルとしても知られる血流指向性肺動脈カテーテルのようなカテーテルが、中心静脈に挿入され、右心房および右心室を通じて肺動脈に案内されるか、あるいは、大腿、上腕または橈骨カテーテルが、それぞれの大腿、上腕または橈骨動脈に挿入される。上述のように温度変化をモニタすることは、使用される血管内カテーテル上または血管内カテーテル内に取り付けられた少なくとも1つのセンサによって行われる。少なくとも1つのセンサは、通常、サーミスタのような電子温度センサである。測定された温度変化は、心拍出量を計算するために処理される。
【0006】
従来、心拍出量および心拍出量を心拍数で割った1回の容量の信頼性の高い値を取得/計算するために、通過するインジケータは、1回だけ検出される。注入されるインジケータ(indicator)の可能な再循環を補償する1つの方法は、測定された下行脚(descending limb)の代わりに、分析のためにこの方法で得られる下行脚を用いる測定された温度変化に基づいて、インジケータ希釈曲線(dilution curve)の下行脚を通じる指数関数的な減衰曲線(decay curve)を適合させることを含む。次いで、心拍出量は、補正されたインジケータ希釈曲線下の面積から導出される。注入されたインジケータの起こり得る再循環を補償する別の方法は、モデルの適用に依存する。これに関して、いわゆる局所密度ランダムウォーク(Local Density Random Walk)(LDRW)解釈は、一例である。
【0007】
希釈曲線を生成する別の知られている方法は、Cardio Greenのような染料の静脈注射に基づく。その場合には、血流中に配置された色素感知電子光吸収センサを使用することによって心血管情報を得ることができ、色素濃度の測定は、幾つかの波長での血液の光学的吸光度の変化に基づく。このようにして、経時的なインジケータの濃度を反映する濃度曲線を創り出すことができる。初回通過濃度曲線下の面積は、心拍出量に反比例する。希釈曲線を生成するさらに別の知られている方法は、リチウムのような塩の静脈注射に基づく。この場合には、血流内に配置された塩感知電子センサを使用することによって心血管情報を得ることができる。
【0008】
心血管機能を定量するために使用される希釈曲線を生成する上述の知られている方法の全ては、不利点を含み、主要な不利点は、研究下の被験体(患者または動物)の広範な器具使用が必要であるという事実に存在する。他の不利点は、心臓リズム障害、感染、血管穿孔または身体に対する他の局所的損傷のような被験者に対するリスク、および処置を監督し且つ関与する動作の少なくとも一部を実行するために特別に訓練された医師が必要であるという事実である。
【0009】
心拍出量以外の心血管情報の他の実際的な例は、左心室および右心室の駆出率(ejection fraction)、ならびに肺熱容量(pulmonary thermal volume)および循環熱容量(thermal volume)であり、それらは、肺血液容量および循環血液容量に直接関連する。例えば、駆出率は、心疾患の重症度の優れた予測因子(predictor)であり、肺熱容量の増加は、心臓の左側の不全を示し得る。駆出率は、心周期の間に送り出される血液のパーセンテージである。心臓は、2つの駆出率、すなわち、左室駆出率および右室駆出率によって特徴付けられる。肺熱容量とは、右心室と左心房の間の血液の容量である。循環熱容量とは、左心室と右心房の間の血液の容量である。駆出率、肺熱容量および循環熱容量を評価するために使用される技術は、複雑であり、高価である。これらの技術は、一般に、血流または心臓にカテーテルを挿入することを含む。代替的に、放射性標識赤血球または機械、特にCTスキャナまたはMRIスキャナのようなベッドサイドまたは自宅では使用できない機械が適用される。超音波機器も、幾つかの既知の場合に適用されるが、そのような機器は、1つの限界を述べるならば、循環熱容量を決定するのに有用でない。
【発明の概要】
【0010】
現在知られている方法よりも複雑でなく、安全であり、調査の下にある被験者にとってストレスが少ないが、いまだに非常に信頼性が高く、正確である、哺乳類の身体から心血管情報を得る方法を提供することが、本発明の目的である。それに鑑みて、本発明は、哺乳類の身体から心血管情報を得る方法であって、
- 測定動作が、哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが哺乳類の身体の血液血管系に生成された瞬間に続く期間を含む測定期間の間に実行され、
- 測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも一方の側に関して、温度差コースが、哺乳類の身体の血液血管系内の局所的スポットに関して記録され、温度差コースは、心臓のそれぞれの側に関して、時間を通じてベースライン温度に対する温度差を表す温度差値の全体的な傾向であり、
- 温度差値は、少なくとも1つの測定位置で局所的スポットが通過する少なくとも2つの後続の時間から生じる少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含む測定デバイスによって、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの測定位置で測定され、
- 温度差コースは、少なくとも、少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線とともに記録される、方法である、請求項1に定義されるような方法を提供する。
【0011】
本発明による方法の有利な態様が、従属項2~23において定義される。
【0012】
本発明は、哺乳類の身体の温度から著しく逸脱する温度の局所的スポットが哺乳類の身体の血液血管系において生成された瞬間に続く期間を含む測定期間の間に行われる測定動作において哺乳類の身体から心血管情報を得るために使用されるように構成されたシステムであって、
- 測定期間を通じて、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの位置において、ベースライン温度に対する温度差を表す温度差値を測定するように構成される、測定デバイスと、
- 温度差値を測定デバイスから入力として受け取り、測定期間の持続時間に亘って、心臓の少なくとも1つの側に関して、哺乳類の身体の血液血管系における局所的スポットに関する温度差コースを記録するように構成される、プロセッサと、を含み、温度差は、心臓のそれぞれの側に関する温度差値の全体的な傾向であり、
- 測定デバイスは、少なくとも1つの測定位置において局所的スポットが通過する少なくとも2つの後続の時間から生じる少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する温度差コースの記録を可能にするように構成される少なくとも1つのセンサを含み、
- プロセッサは、少なくとも、少なくとも2つの後続のインジケータ希釈曲線を有する温度差コースを記録するように構成される、システムである、請求項24に定義されるようなシステムも提供する。
【0013】
本発明によるシステムの有利な態様が、従属項25~39に定義される。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、測定期間中に行われる測定動作において哺乳類の身体から呼吸情報を得るための方法を提供し、ベースライン温度に対する温度差を表す温度差値は、少なくとも0.0001Kの精度および少なくとも10のダイナミックレンジで温度差値を検出するように構成される少なくとも1つのセンサを含む測定デバイスによって、測定期間の持続時間に亘って、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの位置で測定される。有利には、測定デバイスの少なくとも1つのセンサは、ファイバブラッググレーティングセンサのようなフォトニックセンサである。
【0015】
本発明は、測定期間中に行われる測定動作において哺乳類の身体から呼吸情報を得るために使用されるように構成されるシステムを提供する。基本的に、そのようなシステムは、測定期間を通じて、哺乳類の身体に近い、哺乳類の身体上の、または哺乳類の身体内の少なくとも1つの位置で、ベースライン温度に対する温度差を表す温度差値を測定するように構成され、少なくとも0.0001Kの精度および少なくとも10のダイナミックレンジで温度差値を検出するように構成される上述の少なくとも1つのセンサを含む、測定デバイスを含む。
【0016】
前述のベースライン温度は、通常、それぞれの哺乳類の身体の一般的な温度、またはそれぞれの哺乳類の身体の一般的な温度に直接関連する温度である。
【0017】
本発明は、以下、図面を参照してより詳細に説明される。図面において、同等又は類似の部分が同じ参照符号によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るシステムおよび心血管情報を得る目的のためにシステムが関連付けられる人体を概略的に示す。
図2】システムのコンポーネント(構成要素)のアセンブリを図式的に示す。
図3】人体内の低温流体の吸込みをどのように実現することができるかを示す。
図4】システムのセンサが位置決めされることがある人体上の部位に関する実用的なオプションを示す。
図5】システムのセンサが位置決めされることがある人体上の部位に関する実用的なオプションを示す。
図6】ヒトの被験体の手首上に位置付けられたセンサによって得られた、時間に対するベースライン温度に対する温度差の測定値の表現である。
図7図6の一部分の拡大図である。
図8図7の一部分の拡大図である。
図9】心臓の左心室に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、静脈内低温ボーラス注射および人体中の中食道測定部位が想定される。
図10図9の一部分を拡大された表現である。
図11】心臓の左心室に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、静脈内低温ボーラス注射および橈骨動脈の上に位置する手首における皮膚の位置における人体上の測定部位が想定される。
図12】心臓の左心室に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、人体における冷気摂取および中食道測定部位が想定される。
図13図12の一部分の拡大された表現である。
図14】心臓の左心室および右心室の両方に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、静脈内低温ボーラス注射および人体の中食道測定部位が想定される。
図15図14に示され、左心室に関連する、温度差コースの一部分の拡大された表現である。
図16図15の一部分の拡大された表現である。
図17図11の一部分の拡大された表現である。
図18】心臓の左心室および右心室の両方に関する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、静脈内低温ボーラス注射および人体中の中食道測定部位が想定され、健康な心臓に関する。
図19】心臓の左心室および右心室の両方に関する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、静脈内低温ボーラス注射および人体中の中食道測定部位が想定され、左心室および右心室の不全に関する。
図20】心臓の左心室および右心室の両方に関する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、人体における冷気摂取および中食道測定部位が想定される。
図21】心臓の左心室および右心室の両方に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、人体における自発呼吸および中食道測定部位が想定される。
図22】心臓の左側の両方に関連する、時間に対するベースライン温度に対する温度差のシミュレートされた値の表現であり、そこでは、橈骨動脈の上に位置する手首における皮膚の位置における人体での自発呼吸および測定部位が想定される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図が、時間に対するベースライン温度に対する温度差の測定された値またはシミュレートされた値のいずれかの表現であることに関して、y軸に沿って示される温度差値は、ベースライン温度に対するケルビンで表されており、x軸に沿って示される時間値は、それぞれの測定期間の開始に対して秒で表されていることに留意のこと。
【0020】
図1図5を参照して、本発明を哺乳類の身体から心血管情報を得てそのプロセスにおける温度差コースを記録する分野において実施する好ましい方法を説明する。本発明を実施するこの好ましい方法は、本発明がカバーする多数の他の例からの一例であり、以下の記述は、本明細書によって裏付けられ且つ少なくともその一部について添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲を如何様にも制限するように理解されるべきでないことが留意されるべきである。
【0021】
図1において、本発明の一実施形態によるシステム1が概略的に示されている。システム1は、図示した例において人体である哺乳類の身体2から心血管情報を得るために使用されるように構成される。システム1は、プロセッサ11を収容し、ディスプレイ12を有する、ベースユニット10と、センサ21を含む測定デバイス20とを含み、センサ21は、入力をプロセッサ11に提供するためにベースユニット10に接続可能である。センサ21は、ガラスファイバのような光ファイバ22に一体化されたファイバブラッググレーティング(ファイバブラッグ格子)を含むファイバブラッググレーティングセンサであり、身体2に近い、身体2上の、または身体2内の少なくとも1つの位置に置かれることが意図される。この点に関して、2つのオプション、すなわち、センサ21が橈骨動脈の上に位置する手首3の皮膚上に位置決めされるオプションと、センサ21が心臓の左心房のレベル、すなわち、いわゆる中食道位置に位置決めるプションとが、図1に示されている。第1の場合には、センサ21が皮膚上で着用可能な構成に配置されるならば実用的である。後者の場合には、センサ21が食道4への挿入に適したプローブまたはチューブ23上または内に取り付けられるならば実用的である。
【0022】
図2を参照すると、本発明の文脈において、ファイバブラッググレーティングセンサ21は、以下に簡単に説明するように、波長シフトを通じて温度差を検出することができるフォトニック(光子)温度センサとして使用されることに留意のこと。ファイバブラッググレーティングは、レーザ光のような入射光の特定の波長の反射を生成する多くの反射点の規則的なパターンを含む小さな長さの光ファイバである。反射点間の距離は等しく、2つの反射点間の距離と正確に一致する波長は格子(グレーティング)によって反射される。この反射される波長は、ブラッグ波長と呼ばれる。全ての他の波長は、反射または減衰されることなく格子を通じて透過される。ファイバブラッグフォトニックセンサ信号が、格子で反射される狭いスペクトルである。ファイバブラッググレーティングが温度変化を受けると、反射点の距離は、適用されるファイバの熱膨張の関数として変化し、その結果、異なる波長が反射される、すなわち、ブラッグ波長のシフトが得られる。
【0023】
ファイバブラッググレーティングは、温度変化に敏感なだけでなく、ひずみにも敏感である。温度差を検出するためにファイバブラッググレーティングセンサ21を使用することを意図するので、図2に概略的に示すように、センサ21をひずみおよび曲げから隔離するように構成された構造24内にセンサ21を収容することが実用的である。別のオプションは、ブラッグ波長のシフトに対するひずみ/曲げの寄与を決定して除外することができるように、熱膨張係数が実質的にゼロであるように構成された追加のファイバブラッググレーティングを使用することである。
【0024】
温度変化を検出する他のタイプのセンサを使用することができるが、ファイバブラッググレーティングセンサ21の使用は多くの利点を含む。1つの重要な事実を挙げると、ファイバブラッググレーティングセンサ21は、超高感度センサとして代表される。何故ならば、ファイバブラッググレーティングセンサ21は、大きなダイナミックレンジにわたってミリケルビンスケールでまたはサブミリケルビンスケールでさえも温度変化を検出することができるからである。さらに、ファイバブラッググレーティングセンサ21は、高い信号対雑音比を有することが知られており、このタイプのセンサの応答時間は、例えば、従来のサーミスタの熱容量と比較して、それらの熱容量が非常に小さいために、非常に短い。
【0025】
図3を参照して、本発明によるシステム1をどのように使用することができるかを説明する。センサ21は、身体2の部位に配置される。この部位は、好ましくは、血流の外側であるが、本発明が、例えば、血管内カテーテル上の滅菌センサの使用もカバーするという事実を変えるものではない。身体2の内または外の他のセンサも同様に使用されてよく、コントローラ11に入力を提供するようにベースユニット10に接続される。先に示唆したように、センサ21は、動脈に近い手首3の皮膚上、または左心房に近い食道4内に配置されてよい。動脈の上方の皮膚上の他の部位、および鼻、膀胱または尿道内の部位を含む、他の部位も可能である。この点に関し、様々な実用的なオプションが図4および図5に示されていることに留意のこと。中食道部位を使用する利点は、左心房の壁に近い部位であると同時に、身体2の安定した中心体温が優勢な部位であることである。中食道部位を使用する別の利点は、心臓の両側に関する測定値を単一のセンサ21だけで得ることができる部位であることである。
【0026】
さらに、静脈内ライン30が設定され、ある時点で、ある量の低温流体が、肘5または首の位置のような、身体2上の適切な位置で、血流中に注入される。静脈内ライン30は、末梢または中心静脈内ラインであってよい。ある流体は、ボーラス(bolus)として注入され、注入のモーメントは、プロセッサ11によって記録される。ある量の低温流体の実際的な例は、0℃~4℃の温度で10~30mlの滅菌冷生理食塩水0.9%NaClである。
【0027】
ある時点で、身体2を通る血液の循環の結果として、注入されたボーラスは、センサ21が位置付けられる身体2の部位を初めて通過する。これは、第1のインジケータ希釈曲線(indicator dilution curve)として記録され、それは、ベースライン温度として取られる中心体温に対する温度差の値が上昇および下降する初めての時、すなわち、ベースライン温度からの有意な一時的な逸脱が発見される初めての時に関連する。センサ21が非常に小さな温度差値を検出することができ、実際に検出するという事実に鑑みて、心臓のそれぞれの側に関連する少なくとも1つの追加のインジケータ希釈曲線が得られる。これは、正に本発明の文脈において想定されるものであり、測定は、身体2を通る少なくとも2サイクルの血液循環をカバーする期間中に行われる。この期間中に、測定が正しい方法で行われるかどうかをシステム1のユーザがチェックすることができるように、ディスプレイ12を用いて測定値のコース(course)をリアルタイムで示すことが望ましい。ボーラスの希釈が起こり、低温の局所的スポットを作る効果が時間の経過とともに徐々に失われるという事実を考慮して、反復する連続的なインジケータ希釈曲線が、減少する振幅とともに記録される。単一の低温ボーラス注射の後に、心臓のそれぞれの側に関連する1つよりも多くのインジケータ希釈曲線、おそらく3つもしくは4つの曲線、またはそれよりも多くの曲線さえもが検出されることが、本発明の重要な成果である。第1のインジケータ希釈曲線および少なくとも1つのさらなるインジケータ希釈曲線の各々は、幾つかの心拍の期間をカバーする。
【0028】
低温ボーラス注射の代替が可能であることが留意されるべきである。例えば、調査の下にある人は、低温ボーラス注入オプションの他に、図3に概略的に示すように冷気/周囲空気6を吸入させられ、息を止めるか或いは体温で空気を吸入する期間が続く。事実は、中心体温よりも冷気を吸入することが、左心房に直接排出される肺内の血液温度の最小限の変動をもたらすことである。反対に、注入されるボーラスは、左心房に到達する前に、心臓および肺の右側を通らなければならない。本発明によるシステム1では、肺内の血液の温度の前記最小限の変動を連続的に測定することができ、それによって、最小限の目立つ心血管として機能し、同時に呼吸モニタとしても機能する。低温ボーラス注射の別の代替は、口内に身体2の温度より十分に低い温度を有する物体または物質を配置することによって、身体2内に局所的な低温スポットを生成することを含む。他方、調査の下にある人に不便であることなく或いは有害であることさえもなく体温より高い温度で空気を吸入するオプションのような、低温パルスの代わりに高温パルスを生成することを含む実用的なオプションも本発明によってカバーされる。
【0029】
温度変化に対するセンサ21の光子感度は、現在利用可能な熱電対またはサーミスタの感度をはるかに上回るが、将来の技術は、電子センサで同様の結果をおそらく可能にする。低温インジケータの単一の注入後に反復的なインジケータ希釈曲線を得ることができることは、ファイバブラッググレーティングの特性に基づく。専用の信号処理を適用することにより、検出される曲線の繰り返しは、1つ以上の心血管パラメータの正確な決定を可能にする。同時に、侵襲的な測定の必要性がなく、それは、本発明を、臨床現場での、例えば、一般病棟でのまたは自宅でさえもの適用にとって非常に魅力的にする。この点に関して、測定値の非侵襲的な性質は、幾つかの実際的な例を挙げるだけでも、血管、鼻、食道および左心房の皮膚または壁を通して作られる温度差の伝導、対流および放射に対して可能であり、特に、放射線が関連する有用な熱伝達因子として示されることがあることに留意のこと。
【0030】
本発明を実施することは、心血管モニタリングおよび肺および循環熱容量ならびに左心室および右心室の駆出率または前立腺のような個々の器官の灌流の測定が容易にする。肺および循環熱容量の測定は、侵襲的な方法または非侵襲的な方法のいずれかで行うことができる。肺および循環熱容量を非侵襲的に設定するというオプションは、重篤な患者においてこれらの心血管パラメータを決定することを可能にする。それに鑑みて、本発明は、そのような患者の治療および転帰を改善することがある。さらに、上述のようなオプションは、大手術(心血管手術)中にまたはカテーテル検査室内で心血管パラメータを決定して、ペースメーカのための設定を最適化し、経皮的または経頭頂的僧帽弁修復、中隔欠損の閉鎖、または乳児または幼児における先天性心臓欠損の矯正のような最小侵襲性心臓処置の結果を改善することを可能にする。
【0031】
従来、熱希釈技法による肺および循環熱容量の測定は可能でない。何故ならば、低温インジケータの再循環を測定することができず、1つのインジケータ希釈曲線しか得られず、それはスワン-ガンツカテーテルの場合に心臓の右側に関連するからである。いわゆる経肺熱希釈(PiCCO技法)の場合にも、1つのインジケータ希釈曲線のみが得られる。事実は、これまで知られている熱希釈技法が適用されるときに、熱希釈技法によって左心室の駆出率を直接測定することができる実際的な方法は存在しないことである。左心室機能の推定は、通常、X線、MRIまたは超音波を含む技術、または仮定および計算に基づく。本発明は、フォトニックセンサであることがある超高感度温度センサを用いて(半)連続的にベッドサイドで所望に定量化を行って、有用な結果をもたらすことを可能にする。前立腺の灌流は、尿道を通して挿入されて前立腺のレベルに配置されるフォトニックセンサを用いて測定されることができる。局所的な変化が見出されるかどうかを評価することは有用なことがある。何故ならば、そのような局所的な変化は、(発生している)癌の指標(インジケータ)であり得るからである。センサは、例えば、光子を備えた膀胱カテーテルを用いた膀胱カテーテル法を有する患者の手術中に、この文脈において、心血管および/または呼吸情報を定量化するために使用されることもある。センサを用いて調査することができる器官のさらなる例は、肝臓および脳を含む。
【0032】
本発明は、吸気および呼気中の肺胞ガス温度における肺毛細血管血液温度の微妙な変化を使用する方法を提供する。毛細血管における、故に、静脈性肺血液温度の最小限の変化は、食道内から左心房の壁に対して位置付けられる非常に高速で高感度かつ正確な(フォトニック)温度センサによって捉えられることができる。超高感度(フォトニック)温度センサが左心房の近傍で食道内の正しいレベルにひとたび位置付けられると、心拍出量、肺および循環熱容量のような、心血管パラメータ、ならびに存在、周波数および容量のような呼吸パラメータを、非侵襲的かつ連続的にモニタおよび分析することができる。明瞭にするために、本文脈において、「非侵襲的に」という用語は、血流中にいずれのデバイスも挿入する必要性がないことを示すことを意味することに留意のこと。その意味において、皮膚、鼻の内側、食道の内側での測定のような測定は、非侵襲的であると考えられる。
【0033】
一般に、従来の電子温度センサは、低温インジケータの第2、第3、第4または第5の通過を検出することができないので、第2、第3、第4または第5のインジケータ希釈曲線は記録されない。これは、再出現する温度波に関連する温度差値が、現在、従来のセンサの検出限界より下であるという事実による。前記で説明したように、ファイバブラッググレーティングセンサのような超高感度センサは、大きなダイナミックレンジにわたって非常に高い信号対雑音比を伴って、ミリケルビン分解能(resolution)で、ミリケルビンの部分でさえも、温度変化を検出することができ、これはそのようなセンサの使用が1つよりも多くのインジケータ希釈曲線を検出することを可能にする理由である。1つの同一の低温吸込みに起因する少なくとも2つの連続したインジケータ希釈曲線に基づいた情報を持つことは、心拍出量のよりロバストな(堅牢な)測定を可能にし、循環熱容量の決定も可能にする。後者に関しては、第2のまたはさらには第3の再出現インジケータ希釈曲線を測定することは、連続するインジケータ希釈曲線の平均通過時間差を平均することを可能にすることに留意のこと。これは利用可能な再出現インジケータ希釈曲線がないか或いは単一の再出現インジケータだけが利用可能であるときには可能でない。さらに、超高感度センサを中食道のような戦略的位置に適用することによって行われることができる、心臓の両側に関連したインジケータ希釈曲線が測定されるときには、肺の熱容量も決定されることができる。
【0034】
現在利用可能な最も感度の高い電子温度センサの温度分解能は、温度の関数として適用される材料の電気特性の再現可能な変化によって決定される。電子温度センサが使用されるときには、広範なフィルタリング、増幅、信号処理、およびノイズ低減が、高分解能を達成するために必要とされる。対照的に、フォトニックセンサによって測定される温度変化は、原子スケールでの温度の関数として光ファイバの長さの変化に直接的に基づく。ファイバの長さの変化は、光ファイバ内の反射点によって反射される光のスペクトルの分析によって非常に正確に測定される。周波数および位相解析を使用することで、分解能は、10-6ケルビン程度に小さくなることさえでき、おそらく将来的にはさらにより小さくなることができる一方で、ダイナミックレンジは、少なくとも10のように非常に大きくなることができる。
【0035】
図6は、秒単位で表した時間に対してケルビンで表した検出された温度差値、特に温度差コース(temperature difference course)の表現である。値は、66歳の健康な男性被験者が手の背にある静脈に10mlの低温生理食塩水の末梢注射を受けた試験中に得られた。注射のモーメントは、図6中に垂直線によって表されており、時間スケールのゼロ値を決定する。値を検出するために使用されるセンサのタイプは、ファイバブラッググレーティングセンサであり、センサの位置は、注射の側とは反対側の人の手首内の橈骨動脈を覆う皮膚上にある。全体的なトレンドにある重畳振動パターンは、呼吸および心信号の結果として得られる。この実験に基づいて、次の3つの重要な観察が行われる、すなわち、1)0.1mKの分解能を持つファイバブラッググレーティングセンサが橈骨動脈の上に位置する皮膚上に位置付けられるときに、第1のインジケータ希釈曲線および第2のインジケータ希釈曲線を測定することが可能である、2)温度差コース上でズームインするときに、図7に示すように、安静時(仰臥位)正常呼吸に関連する呼吸信号が、識別されることができる、3)さらに一層ズームインするときに、図8に示すように、心臓のポンピング作用の様々な位相の表現であることがあるフロー状信号が、温度差コースの下行部分および上行部分の両方で、呼吸信号内で識別されることができる。図7および図8に見られることができるような詳細が得られるという事実は、測定システムの非常に高い動的特性に起因する。
【0036】
測定値を説明し、そのような測定値を得るために必要な分解能およびダイナミックレンジを推定するために、MatlabおよびSimulinkでヒトの循環系をモデル化した。そのようにして得られたモデルは、循環のデジタルツイン(digital twin)とみなされることができる。このモデルを適用することによって、低温生理食塩水の静脈内注入および冷気または室温にある空気の吸入の両方をシミュレートした。以下から明らかになるように、ヒト実験における実際の測定が確認および説明されるようである。モデルは、より多くの研究の基礎を提供することができ、モデルのより洗練された/正確なバージョンが開発されることがある。
【0037】
開発されたモデルを適用すると、シミュレーション値が、ポンプシステムとしてのヒト循環系の特性の分析のために設計されたセンサシステム、特に連続ポンプシステムおよびパルスポンプシステムの両方の性能をモニタすることができるセンサシステムのシミュレーションを通じて得られ、後者は、本発明の文脈に適用可能である。以下の必須事項は、モニタリングシステムに適用可能であると想定される。
- ポンピングされた液体または他のインジケータ液体の温度と異なる温度を有する液体のボーラスが、ポンピングされた液体流中に注入される。一般に、ボーラス注入は、「パルス形状」温度ボーラスまたはインジケータ液体を生成するのに十分に速く行われる。
- センサシステムは、ポンプの出口側の液体の温度変化、またはポンピングされた液体でのインジケータ液体の希釈を正確かつ確実に測定する。
- ポンプシステム特性を分析するメカニズムは、ポンプシステム内でポンピングされた液体を注入したボーラスの希釈、およびポンプ出口での温度に対するその影響である。
【0038】
ポンプ効率を検出する原理を以下に記載する。
【0039】
容積x[m]を持つ注入されたボーラスのおよび温度差ΔT[K]は、時間間隔Δtで注入されると仮定する。このボーラスは、ポンプシステムに入る液体の流量ψin[m3/s]に注入される。その結果、ポンピングされた液体と注入されたボーラスとの混合物がポンプシステムに入る。この混合物は、以下の温度特性を有する。
【数1】
ΔT[K]は、ポンプシステムに入る注入されたボーラスの温度である。時間の関数としてのこのボーラスは、注入されたボーラスと同じ形状を有する。それはポンピングされた液体とちょうど混合され、従って、ポンピングされた液体および注入されたボーラスの平均温度を有する。
【0040】
混合物は、ポンプ容量に入り、ポンプは、このポンプ容量を希釈する。希釈の分析は、以下のようにポンプ出口流量の直接測定を可能にする。
- ポンプに入るボーラスは、同じ容量のポンピングされた液体と比較して、特定のデルタエネルギΔEを有する。
【数2】
この式において、p[kg/m]は、密度であり、
(外1)
は、液体の比熱である。
- ポンプ容量および対応する希釈の内側の混合物のため、温度ボーラスは、ポンピングされた液体と混合され、ポンプ出口でのポンピングされた液体の温度は、ポンプ入口温度変動ΔTの持続時間よりも長い時間期間tpulse[s]にわたって温度変動を示す。ポンプ滞留中にボーラスによってエネルギが失われないと仮定し、ポンプが液体を蓄積しない、すなわち、ψin=ψoutと仮定すると、デルタエネルギΔEは、以下の通りとなる。
【数3】
【数4】
この方程式をやり直すと、以下の通りである。
【数5】
【0041】
ポンプ出口における温度パルスの全通過中のΔTout(t)の正確な測定は、ポンプ出口流量
(外2)
の正確な計算を可能にする。ポンプがパルスポンプシステムであるとしても、上記も当て嵌まる。
【0042】
ポンプシステムは、内部容量Vpumpを有する。入口流量ψinは、この容量と混合し、出口流量は、混合容量の一部である。この混合挙動は、以下によって記載される。
【数6】
この表現において、hpump(t)は、ポンプ系のインパルス応答である。入口流量および出口流量が一定で等しく、よって、ポンプ内に液体の追加の蓄積が生じないと仮定すると、式は、以下のように書き換えられることができる。
【数7】
ラプラス変換を適用すると、式は、以下のように書き換えられる。
【数8】
【0043】
ポンプシステムは、入口流量ψinが加算され且つ出口流量ψoutが減算されるその容量によって示されることができる。仮定ψin=ψout=ψで以下が当て嵌まる。
【数9】
これは、以下をもたらす。
【数10】
【数11】
この式にLaplace変換を適用すると、以下をもたらす。
【数12】
【数13】
【0044】
式(8)において、
【数14】
は、ポンプ内部容量Vpumpのリフレッシュ時間を表す。この時間定数は、記録されたポンプ出口温度パルスから推定されることができる。
【0045】
パルスポンプシステムが適用される場合、各出口流パルスがポンプサイクル中にポンプシステムに入る容量の部分ηを含むことが観察される。換言すれば、ポンプシステム効率を以下のように書くことができる。
【数15】
【0046】
パルスポンプシステムが、ポンプパルス持続時間およびポンプパルス周波数fpulseに等しいサンプリング時間tを有する離散時間システムとして記述される場合、以下の関係が当て嵌まる。
【数16】
【0047】
各ポンプサイクルにおいて、ポンプに入る流量Vinおよびポンプから出る容量Voutは、内部ポンプ容積Vpump[m]の部分ηである。これらの特性を利用して、以下が当て嵌まり、iは、時間i・tを指し、(i+1)は、(i+1)・tを指す、すなわち、以下の通りであり、
【数17】
以下をもたらす。
【数18】
【数19】
【0048】
このパルスポンプシステムの離散時間伝達関数H(z)は、式(9)を用いて効率ηの直接的な推定を可能にする。
【0049】
心血管系の場合と同様に、ポンプシステムが液体をリサイクルするために使用されると仮定すると、ψout(式(3))の計算および温度パルスの後続の通過の間の時間の計算によって、リサイクル液体の容量を直接的に計算することができる。パルスtの第1の通過とパルスtの第2の通過との間の時間を用いて、再循環液体容量を以下によって計算することができる。
【数20】
【0050】
上記を心血管系の特定の情況に適用すると、得られる結果は、心血管系の重要なパラメータを計算するために使用されることができる。
【0051】
心拍出量(CO)は、式(3)を用いて計算されることができる。
【数21】
【0052】
循環熱容量は、式(10)を用いて決定されることができる。
【数22】
【0053】
容量/心拍数と心室容積との間の比、すなわち、駆出率は、低温ボーラス注入後に記録される測定された温度パルスの動力学から推定される離散インパルス応答から推定されることができる(式(9)を参照)。
【数23】
この式中の定数cは、低温ボーラスと注射中の循環血液との混合および身体内を循環中のボーラスの加熱を表す。決定されるべき重要なパラメータは、η(効率)である。
【数24】
【0054】
図9は、ヒト循環系の上述のモデルを適用したシミュレーションを通じて得られた、心臓の左心室に関する、秒で表された時間に対するケルビンで表された温度差値、特に温度差コースの表現である。図9は、正常で良好に機能する心臓に関する、および4℃の温度における0.9%低温生理食塩水の単一静脈内ボーラス注入に関する、入力パラメータに基づいて得られ、注入時間は、1秒と仮定され、測定は、中食道位置で行われると仮定される。図示の温度差値の全ては、ファイバブラッググレーティングセンサによって検出され得るような範囲内にあり、従って、温度差コースは、そのようなセンサによって得られることがあるような実際の検出結果を表す。
【0055】
温度差コースは、多数のインジケータ希釈曲線を含むこと、5つのインジケータ希釈曲線I,II,III,IV,V、すなわち、第1の曲線Iに続く4つの再循環曲線II、III、IV、Vさえも含むことは明らかである。よって、検出結果は、実際には、式(10)の一部であり、循環熱容量を計算する際に用いられる、時間差を決定するための基礎を提供する。さらに、心拍出量および1回拍出量(stroke volume)は、そのように行うための周知の式を用いて第1のインジケータ希釈曲線から計算されることができる。よって、この場合、センサは血流の外側に位置付けられると仮定されるが、血管内カテーテルの周知の使用に関して開発された式も等しく適用可能であることがある。
【0056】
第1の通過信号によって反射される温度の低下およびその後の温度の上昇は、左心室の駆出率を計算するための基礎を提供し、有用な情報は、第1のインジケータ希釈曲線Iの下行脚および上行脚のいずれかから導き出されることができる。この点に関して、図9の一部分が拡大された様式で示されている図10を参照する。図10から、温度差の小さな突然の変化を区別することができる。これらの小さな突然の変化は、心拍に直接的に関係し、この情報は、駆出率を計算するプロセスにおいて使用され、ベースラインが実際にはゼロレベルであると仮定して、2つの後続の心拍における温度差値の比が1から差し引かれる。例示のために、2つの後続の心拍の曲線上の位置が、AおよびBによって図10に示されている。駆出率は、以下の通りである。
【数25】
この表現において、ΔTは、Aにおける温度差値を表し、ΔTは、Bにおける温度差を表す。インジケータ希釈曲線から駆出率をどのように導出するかについてのさらなる情報を、例えば、米国特許第5,383,468号明細書に見出すことができる。
【0057】
図9および図10の解釈から、温度差コースは、良好で健康な左心室に関連することがわかる。何故ならば、低温ボーラスは、約8回の心拍で左心室を通じて輸送されるように思われるからである。説明したように、心拍は、インジケータ希釈曲線Iの下行脚および上行脚の両方で見える。
【0058】
実際の実務では、特に測定手順が1回以上繰り返されるときには、様々な心血管パラメータの正確な値を得ることができる。前記で説明したように、測定を行う過程は、調査の下にある被検者にとって煩わしいものである必要がないことを考慮すると、測定手順を繰り返すことは、容易に行われることができる。低温生理食塩水の使用は、安全で安価である。
【0059】
本発明は、左心房に関する温度差を測定する可能性も提供し、それは中食道位置にあるファイバブラッググレーティングセンサのような超高感度センサによっても行われることができる。左心房は、注入されたボーラスが肺を通過した後に最初に到達する心臓の部分である。心臓の心臓拡張機能の様相は、このようにしてモニタされることがあり、心房細動およびその他の心伝導障害のような特定のタイプの心臓の機能不全を検出する機会も作り出される。
【0060】
図11は、センサが中食道位置ではなく橈骨動脈の上に位置する手首にある皮膚上に位置付けられるという仮定に基づいて得られたシミュレーション結果を表す。実際には、図11は、図9と比較できる一方で、約20秒の時間遅延が適用可能である。よって、図11は、多数のインジケータ希釈曲線を含む、5つのインジケータ希釈曲線I,II,III,IV,V、すなわち、第1の曲線Iに続く4つの再循環曲線II,III,IV、Vさえも含む、温度差コースを示している。
【0061】
前記で示唆したように、低温ボーラス注射の代わりに冷気の吸込みに頼ることも可能である。冷気の呼吸は、心拍出量および1回拍出量の計算を可能にするための標準的なインジケータ希釈理論によって要求されるような、「ボーラス状の(bolus-like)」事象であるように見えないが、それは非常に有用な代替を提供することがある。これは、冷気が肺の中で混合され、肺の中で毛細血管の血液と非常に急速に熱を交換するという事実による。毛細血管の血液は、ほぼ直ぐに左心房に流入して、急激な温度低下を生み、これは結局のところ静脈内ボーラスに似ている。この点において、静脈注射後、低温の血液は、ひとたび左心房に到達すると、真の完全なボーラスとはならないことが留意されるべきである。何故ならば、低温の血液は、最初に肺を通過しなければならず、温度差の拡張をもたらすからである。実際には、同様の熱希釈効果が得られるようにそうであることさえある。
【0062】
図12は、センサが中食道位置にあり、低温流体の静脈注射の代わりに-20℃で1.5リットルの空気の冷吸入があったという仮定に基づいて得られた、シミュレーション結果を表している。これらのシミュレーション結果は、左心室に関するものであり、注射オプションに関するシミュレーション結果に匹敵する。しかしながら、呼吸運動は、呼吸に起因する血液の温度の最小限の変化、すなわち、増加および減少の故に、信号において、そして、ズームイン後に、心臓信号においても見ることもできる。注目すべき事実は、冷気の吸込みによって生成される低温「ボーラス」の心臓の左側でほぼ直ぐに検出されることである。図13は、ズームイン後、心拍は、低温インジケータの通過中だけでなく、「正常な」呼吸中にも見ることができることを示す。また、左心室の駆出率は、あらゆるステップが心拍を示すという事実に基づいて、前述したように、温度差の段階的な減少または増加から測定されることができる。
【0063】
心血管の側面は別として、呼吸の側面(存在、頻度、容量)も、重篤な疾患における患者モニタリングおよび診断に関しては重要である。呼吸モニタリングは、通常、呼吸を分析することによって行われる。実際的な例は、日常の臨床実務で一般的に用いられている方法の幾つかを挙げるだけでも、呼気中のCO2を収集して分析すること、および胸部で心電図ステッカーのようなセンサを使用することを含む。シミュレーションは、低温ボーラスを投与することを必要とせずに呼吸および心拍の両方を測定できることを実証した。左心房に達する血液の様々な温度の範囲は、例えば、食道、鼻、または手首の位置で0.1mKの分解能で測定可能である程に十分に広いと思われる。これは、これらのパラメータを、最小限に目立つ方法で被験者、患者または動物において測定することができ、呼吸および循環の両側面を評価することができることを意味する。
【0064】
実際、本発明を適用して、哺乳類の身体から心血管情報のみを得ること、哺乳類の身体から呼吸情報のみを得ること、または哺乳類の身体から心血管情報および呼吸情報の両方を得ることが可能である。説明したように、これは、高分解能および大きなダイナミックレンジを特徴とする少なくとも1つのセンサを適用することによって行われ、少なくとも1つのセンサは、フォトニックセンサ、特にファイバブラッググレーティングセンサであってよい。さらに、説明したように、これは、最小侵襲的な方法で行われることができ、少なくとも1つのセンサは、血管内に配置される必要がなく、動脈の上に位置する皮膚上またはいまだに血管の外側にある身体内に位置付けられてよい。中食道位置は、左心房の近くで測定を行うのに理想的な位置である。この測定は、身体の血管系に局所的な低温スポットを創り出した後に行われることができるが、そのようなタイプの準備作用なしに身体に対して測定を行うことも可能である。
【0065】
図14は、センサが中食道位置にあり、10mlの低温ボーラスが末梢静脈または中心静脈に注入されるという仮定に基づいて得られた、シミュレーション結果を表す。このシミュレーション結果は、左心室および右心室の両方に関するものである。何故ならば、中食道位置で、超高感度温度センサは、左心室を通過する低温ボーラスに続く温度差を測定することができるだけでなく、右心室を通過する低温ボーラスに続く温度差も測定することができるからである。左心室に関するシミュレーション温度差コースをLとして示し、右心室に関するシミュレーション温度差コースをRとして示す。第1のインジケータ希釈曲線IRは、初めて右心房に達した低温ボーラスに関する。さらに、肺を通過し、左心房および左心室を通過した後に、心臓の左側における第1のインジケータ希釈曲線ILが得られることを図14に見ることができる。全身を通過後に、低温ボーラスは、再び右心房に達し、第2のインジケータ希釈曲線IIRが測定される。続いて、再び肺を通過した後に、心臓の左側における第2のインジケータ希釈曲線IILが測定される。センサの分解能に依存して、最大5回の再循環を測定することができ、それは、分解能が0.1mKであれば、ファイバブラッググレーティングセンサの場合と同様に実際に行われる。
【0066】
先に説明したように、心拍出量と1回拍出量を温度差コースから計算することができる。心拍出量に、2つの温度差コースL、Rからの平均通過時間(average transit times)の時間差を乗じることによって、肺熱容量を計算することができ、平均通過時間は、それぞれの温度差コースL、Rにおけるインジケータ希釈曲線の時間である。以下の式が適用可能であり、PTVは、肺熱容量を表し、COは、心拍出量を表し、MTTは、平均通過時間を表す。
【数26】
また、循環熱容量を計算することができる。これは1つの温度差コースにおける平均通過時間の差に基づいて行われる。以下の式が適用可能であり、CTVは、循環熱容量を表す。
【数27】
それぞれの容量の計算は、非常に堅牢(ロバスト)である。何故ならば、2つよりも多くの再循環を考慮することができるからである。平均通過時間および心拍出量は、局所密度ランダムウォーク(LDRW)モデルのような、それ自体既知の適切なモデルを使用して、測定された温度差コースから計算されることができる。
【0067】
フォトニック温度測定の大きなダイナミックレンジのために可能であるズームインを行うと、左心室に関する温度差コースLにおいてあらゆる個々の心拍を見ることができる。図15は、図14に示すような、左心室に関する温度差コースLの一部分の拡大図である。図15では、5つの連続する心拍A、B、C、D、Eが、コースLの下行脚に示されている。心拍は、同じコースLの上行脚でも区別可能である。コースLの凹部から、左心室の場合における駆出率を決定することができる。類似の方法において、すなわち、右心室に関する温度差コースRでズームインし、それによって、連続する心拍に関する温度差値を見出すことによって、右心室の駆出率を決定することができる。
【0068】
図16は、インジケータ希釈曲線が示されている部分の外側の図15上でさらにズームインした結果を示す。X軸の方向では、正常な呼吸パターンを信号中に見ることができ、正常な呼吸パターンでは、心拍を区別することができる。よって、シミュレーション結果は、図6図8に示すように、被験者上での実際の測定結果と極めて比較可能である。
【0069】
図17は、センサが橈骨動脈の上に位置する手首の皮膚上に位置付けれているという仮定に基づいて得られたシミュレーション結果が表されている、図11上のズームインの結果を示す。これらのシミュレーション結果において呼吸を識別することができることも見ることができる。
【0070】
図18は、図14と同じシミュレーション結果を示しているが、異なるスケールである。これらのシミュレーション結果は、健康な心臓に関するものである。図19は、左心室および右心室の不全に関するシミュレーション結果を示す。図18および図19の比較から、それぞれの温度差コース下の表面積は、心不全の場合により大きいことが分かる。また、心不全の場合には、連続的なインジケータ希釈曲線の間の平均通過時間の増加があり、循環熱容量は、より大きい。よって、心不全は、温度差コースの1つ以上の側面を考慮することによって、測定値から明確に導き出されることができる。
【0071】
図20は、図12と同じ温度差コースを示しており、それは、中食道位置に位置するセンサおよび-20℃での空気の1.5リットルの冷吸入のシミュレートされた状況における左室に関する。さらに、図20は、同じシミュレートされた状況における右心室に関する温度差コースを示す。図14と一致して、左心室に関するシミュレートされた温度差コースがLとして示され、右心室に関するシミュレートされた温度差コースがRとして示されている。
【0072】
図20の解釈は、以下の通りである。冷気の吸入後に、肺胞を取り囲む毛細血液の温度は、短い混合期間の後に、ほぼ直ちに低下し、左心房に入る。これは、図に見ることができる短い遅延を説明する。低温ボーラス注射の状況と比較すると、見出された第1のインジケータ希釈曲線は、左心室に関することが留意されるべきである。低温ボーラス注射の状況において、低温血液は、まず右心房に入るのに対し、冷気吸入の状況において、低温血液は、直接左心房に入る。
【0073】
心拍および呼吸の両方を図20に示す温度差コースで見ることができる。また、図8を参照して先に説明したように、呼吸信号内の心臓信号を識別することができる。数回の呼吸後に冷気がひとたび吐出され、室温と平衡状態になると、室温は通常約20℃であるのに対し、体温は通常約37.5℃であるという事実に鑑みると、空気は、通常、依然として体温より低い。低温ボーラス注射の状況で得られる測定結果は、心拍出量を計算するのにはより有用であるが、呼吸信号をモニタすることによって、例えば、冠動脈ケアユニットまたはカテーテル検査室において、心臓麻酔中に有用である左室収縮期機能、さらにはより特異的な拡張期機能を評価することが可能であるという事実を変えることはない。心不全の場合、インジケータ希釈曲線は、健康な心臓の場合との比較において見出される差の幾つかを述べるだけでも、X軸の方向においてより高く、より伸長される。
【0074】
図21は、自発呼吸の状況に関するシミュレートされた温度差コースを示しており、センサは、中食道位置にあると仮定されている。信号処理技術を用いるならば、呼吸数および心拍数を比較的容易に評価することができる。よって、本発明の適用は、循環および呼吸の目立たないモニタリングを可能にし、頸動脈の上方の頸部のパッチによるような、皮膚上の大きな動脈の近くにセンサを配置することで十分でさえあることがある。
【0075】
図22は、自発呼吸の状況に関するシミュレートされた温度差コースを示しており、センサは、橈骨動脈を覆う皮膚上で手首にあると仮定されている。よって、心臓の左側に関する1つだけの温度差コースがある。心周期は、このシミュレーションにおいて不明瞭であるが、信号処理技術を用いるならば、心周期、特に心拍数およびリズムも同様に抽出することができる。心臓または鼻に近い主要な動脈では、両方の信号を取り出すことができる。
【0076】
本発明の範囲が前記で議論された例に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の幾つかの補正および修正が可能であることは、当業者により明らかである。本発明は、特許請求の範囲またはその均等物の範囲内にある限り、全てのそのような補正および修正を含むものと解釈されることが意図される。本発明は、図面および記述において詳細に図示および記載されてきたが、そのような図示および記載は、例示的または説明的なものに過ぎず、限定的なものではないと考えられるべきである。本発明は、開示の実施形態に限定されない。図面は、概略図であり、本発明を理解するために必要でない詳細は省略されていることがあり、必ずしも縮尺通りではない。
【0077】
本発明の注目すべき態様を以下に要約する。哺乳類の身体2の温度から著しく逸脱した温度の局所的スポットが哺乳類の身体2の血液血管系において生成された瞬間に続く期間を含む測定期間中に実行される測定動作において、哺乳類の身体2から心血管情報を得る分野において、ベースライン温度に対する温度差を表す値を、心臓のそれぞれの側に関する温度差コースL、Rにおける少なくとも2つの後続するインジケータ希釈曲線I、II、III、IV、Vの記録を可能にするように構成される高分解能を有する少なくとも1つの超高感度センサ21を含む測定デバイス20によって測定期間中を通じて哺乳類の身体2に近い、哺乳類の身体2上の、または哺乳類の身体2内の少なくとも1つの位置で測定する方法が提供される。センサ21の実用的な例は、ファイバブラッググレーティングセンサのようなフォトニックセンサである。
【0078】
本発明は、病院で日常的に使用されている既存の診断の可能性、特に心拍出量だけでなく、肺および身体内の循環熱容量、すなわち、いわゆる肺熱容量および循環熱容量を、最小侵襲的な方法で測定する可能性を付加する。すなわち、センサは、血管内に配置される必要はなく、(橈骨動脈、大腿動脈または頸動脈のような)動脈の上に位置する皮膚上に、または(鼻内または食道内のような)いまだに血管の外側にある身体内に位置付けられてよい。単一の低温インジケータ注射または呼吸による冷気の単一摂取により、左右の心室の両方の駆出率、ならびに心拍出量、肺熱容量、循環熱容量を、再現性が高い、透明で直接的な方法で決定することができる。温度変化の高分解能測定が、堅牢な(ロバストな)方法で行われ、多くの仮定および系統誤差の重大な影響のリスクを含む複雑な理論/数学モデルの必要はない。本発明を実施し、これにより、直接測定および非複雑計算が可能になることにより、結果の信頼性は非常に高く、温度差コースにおいて1つよりも多くのインジケータ希釈曲線が得られるので、結果の信頼性はますます高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【国際調査報告】