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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】DNaseを用いた治療計画
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/46 20060101AFI20240501BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240501BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240501BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61P15/08
C12N9/16 Z
C12N15/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572520
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 IL2022050541
(87)【国際公開番号】W WO2022249170
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/192,204
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523440215
【氏名又は名称】ペリ-ネス テクノロジース リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミズラヒ,モシェ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンキン,ドミトリー
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA02
4C084BA37
4C084DC22
4C084MA52
4C084MA57
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA81
(57)【要約】
本発明は、妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法であって、上記カップルの男性対象が低妊孕性と診断されており、上記方法が、ヒトDNaseを含む医薬組成物を上記男性対象に全身投与することを含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法であって、前記カップルの男性対象が低妊孕性と診断されており、前記方法が、約50~約1000μg/kgのヒトDNaseを含む医薬組成物を前記男性対象に全身投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記医薬組成物が、週1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物が、前記男性対象において新鮮な精子細胞の成熟を達成するのに十分な治療経過期間投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、約10日~約3ヶ月、又は約10日~16日の治療経過期間にわたる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記医薬組成物が、静脈内に(IV)、皮下に(SC)、筋肉内に(IM)、吸入によって、又は経口的に投与される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ヒト男性対象が、特発性の精液の質低下を有する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト男性対象が、無精子症、乏精子症、軽度若しくは重度の単独型奇形精子症、精子無力症、又は乏精子・奇形精子・精子無力症(OTA)を有する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト男性対象が、2年以上妊娠できなかった、又は流産してきたカップルの男性パートナーである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト男性対象が、少なくとも1回の生殖補助医療技術(ART)手順において妊娠できなかったカップルの男性パートナーである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カップルが、少なくとも2回の生殖補助医療技術(ART)手順において妊娠できなかった、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カップルのヒト女性対象が、不妊症と診断されなかった、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ARTが、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別及び卵細胞質内注入法(IMSI)、又は子宮内授精(IUI)である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト男性対象が、低い精子生存率及び/又は運動性及び/又は濃度を有する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト男性対象が、高い血中無細胞DNAレベルを有する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト男性対象の精子が、ARTに使用される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ARTが、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別及び卵細胞質内注入法(IMSI)、又は子宮内授精(IUI)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記医薬組成物の投与が、総精子数、精子濃度、精子運動性、精子運動性の質又は平均速度、精子形態、精子生存率、及び精子クロマチンの安定性からなる群から選択される1つ以上の精子の質パラメータにおいて少なくとも35%の改善をもたらす、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒト男性対象の前記精子が、前記治療経過期間の完了後1~14日以内にサンプリングされる、請求項9~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒト男性対象の前記精子が、前記治療経過期間の完了後1~5日以内にサンプリングされる、請求項9~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記医薬組成物による前記治療経過期間の完了が、前記カップルの前記女性対象における排卵と同期化される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
排卵が、前記治療経過期間の完了後1~14日で治まる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
排卵が、前記治療経過期間の完了後1~5日で治まる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
追加の治療薬の投与を更に含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法で使用するための、DNase及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、前記カップルのヒト男性対象が低妊孕性と診断され、前記方法が、前記医薬組成物を、妊娠の誘発を必要とするヒト対象に全身投与することを含み、前記医薬組成物が、約50~約1000μg/kgのDNaseを含む、医薬組成物。
【請求項25】
前記医薬組成物が、追加の治療薬を含む、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記DNaseが、ペグ化DNAse又はPAS化DNAseである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法又は使用のための医薬組成物。
【請求項27】
前記DNaseが、DNase I、DNase I L1、DNase I L2、DNase I L3、DNase II、DNase IIα、DNase IIβ、DNase X、DNase γ、カスパーゼ活性化DNase(「CAD」)、エンドヌクレアーゼG(「ENDOG」)、グランザイムB(「GZMB」)、ホスホジエステラーゼI、ラクトフェリン、アセチルコリンエステラーゼ、及びDNAse活性を維持するそれらのバリアントからなる群から選択される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法、又は請求項24若しくは請求項25に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項28】
前記DNaseが、ヒトDNase 1である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法、又は請求項24~26のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項29】
前記ヒトDNAse Iが、配列番号1に対して、又はシグナルペプチドを含まない成熟DNAse I酵素に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項27に記載の方法又は使用のための医薬組成物。
【請求項30】
前記DNase Iが、ヒト組換えDNase I、又は単離された天然ヒトDNase Iである、請求項28に記載の方法又は使用のための医薬組成物。
【請求項31】
前記DNase Iが、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトDNase Iであり、前記ヒトDNase Iが、250μg/kg/日の用量で14~16日間静脈内に注射され、前記ヒト男性対象の前記精子が、前記治療経過期間の完了後1~5日以内にサンプリングされる、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記DNase Iが、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトDNase Iであり、前記ヒトDNase Iが、250μg/kg/日の前記用量で14~16日間静脈内に注射され、排卵が、前記治療経過期間の完了後1~5日で治まる、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、男性対象が低妊孕性と診断されているカップルにおける妊娠の誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのカップルは、定期的な無防備の性交を行うと12ヶ月以内に自然に妊娠することができる。低妊孕性は、妊娠の遅延として定義され、女性又は男性パートナーのいずれかの病理に起因し得る。
【0003】
男性の生殖能状態は、精子の数、それらの運動性、及び形態に関する情報を提供する精液分析によって評価される。
【0004】
突発性の乏精子・精子無力・奇形精子症は、男性の低妊孕性の最も一般的な原因である。性機能は正常であるが、主に機能不全の精子の数が減少している。生殖能の低下は、細胞膜を損傷する可能性がある、精液中の活性酸素種の濃度の上昇と関連している。精子の産生又は成熟の障害の指標である異常な精子形態は、生殖能の低下にも関連している。あまり一般的ではないタイプの男性の低妊孕性は、精巣又は生殖器の感染症、疾患、又は異常によって引き起こされる。全身性疾患、外的要因(薬物、生活習慣等)、又はそれらの組み合わせもまた、男性の低妊孕性をもたらす。男性の低妊孕性が内分泌機能不全によって引き起こされることは稀である(非特許文献1)。
【0005】
特許文献1は、DNAseを含む医薬組成物を投与することによって男性の低妊孕性を治療するための方法を提供している。男性対象は、7~10日間の筋肉内(IM)注射によって、25mgのウシDNase Iを1日4回投与された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9,149,513号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hirsh A.BMJ 2003;327(7424):1165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
【課題を解決するための手段】
【0009】
その第1の態様において、本発明は、妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法であって、上記カップルの男性対象が低妊孕性と診断されており、上記方法が、約50~約1000μg/kgのヒトDNaseを含む医薬組成物を上記男性対象に全身投与することを含む、方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、上記医薬組成物は、週1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、又は1日3回投与される。
【0011】
一実施形態において、上記医薬組成物は、上記男性対象において新鮮な精子細胞の成熟を達成するのに十分な治療経過期間にわたって投与される。
【0012】
一実施形態において、上記投与は、約10日~約3ヶ月、又は約10日~16日の治療経過期間にわたる。
【0013】
一実施形態において、医薬組成物は、静脈内に(IV)、皮下に(SC)、筋肉内に(IM)、吸入によって、又は経口的に投与される。
【0014】
一実施形態において、ヒト男性対象は、特発性の精液の質低下を有する。
【0015】
一実施形態において、ヒト男性対象は、無精子症、乏精子症、軽度若しくは重度の単独型奇形精子症、精子無力症、又は乏精子・奇形精子・精子無力症(OTA)を有する。
【0016】
一実施形態において、ヒト男性対象は、2年以上妊娠できなかった、又は流産してきたカップルの男性パートナーである。
【0017】
一実施形態において、ヒト男性対象は、少なくとも1回の生殖補助医療技術(ART)手順において妊娠できなかったカップルの男性パートナーである。
【0018】
一実施形態において、上記カップルは、少なくとも2回の生殖補助医療技術(ART)手順において妊娠できなかった。
【0019】
一実施形態において、上記カップルのヒト女性対象は、不妊症と診断されなかった。
【0020】
一実施形態において、上記ARTは、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別及び卵細胞質内注入法(IMSI)、又は子宮内授精(IUI)である。
【0021】
一実施形態において、ヒト男性対象は、低い精子生存率及び/又は運動性及び/又は濃度を有する。
【0022】
一実施形態において、ヒト男性対象は、高い血中無細胞DNAレベルを有する。
【0023】
一実施形態において、上記ヒト男性対象の精子はARTに使用される。
【0024】
一実施形態において、上記ARTは、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別及び卵細胞質内注入法(IMSI)、又は子宮内授精(IUI)である。
【0025】
一実施形態において、上記医薬組成物の投与は、総精子数、精子濃度、精子運動性、精子運動性の質又は平均速度、精子形態、精子生存率、及び精子クロマチンの安定性からなる群から選択される1つ以上の精子の質パラメータにおいて少なくとも35%の改善をもたらす。
【0026】
一実施形態において、上記ヒト男性対象の精子は、上記治療経過期間の完了後1~14日以内にサンプリングされる。
【0027】
一実施形態において、上記ヒト男性対象の精子は、上記治療経過期間の完了後1~5日以内にサンプリングされる。
【0028】
一実施形態において、上記医薬組成物による治療経過期間の完了は、上記カップルの女性対象における排卵と同期化される。
【0029】
一実施形態において、排卵は、治療経過期間の完了後1~14日で治まる。
【0030】
一実施形態において、排卵は、治療経過期間の完了後1~5日で治まる。
【0031】
一実施形態において、本発明の方法は、追加の治療薬の投与を更に含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法で使用するための、DNase及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、上記カップルのヒト男性対象が低妊孕性と診断され、上記方法が、上記医薬組成物を、それを必要とするヒト対象に全身投与することを含み、上記医薬組成物が、約50~約1000μg/kgのDNaseを含む、医薬組成物を提供する。
【0033】
一実施形態において、上記医薬組成物は、追加の治療薬を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、上記DNaseは、ペグ化DNAse又はPAS化DNAseである。
【0035】
いくつかの実施形態において、上記DNaseは、DNase I、DNase I L1、DNase I L2、DNase I L3、DNase II、DNase IIα、DNase IIβ、DNase X、DNase γ、カスパーゼ活性化DNase(CAD)、エンドヌクレアーゼG(ENDOG)、グランザイムB(GZMB)、ホスホジエステラーゼI、ラクトフェリン、アセチルコリンエステラーゼ、及びDNAse活性を維持するそれらのバリアントからなる群から選択される。
【0036】
一実施形態において、上記DNaseは、ヒトDNase Iである。
【0037】
一実施形態において、上記ヒトDNAse Iは、配列番号1に対して、又はシグナルペプチドを含まない成熟DNAse I酵素に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0038】
一実施形態において、上記DNase Iは、ヒト組換えDNase I、又は単離された天然ヒトDNase Iである。
【0039】
一実施形態において、上記DNase Iは、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトDNase Iであり、上記ヒトDNase Iは、250μg/kg/日の用量で14~16日間静脈内に注射され、上記ヒト男性対象の精子は、上記治療経過期間の完了後1~5日以内にサンプリングされる。
【0040】
一実施形態において、上記DNase Iは、配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトDNase Iであり、上記ヒトDNase Iは、250μg/kg/日の用量で14~16日間静脈内に注射され、排卵が、治療経過期間の完了後1~5日で治まる。
【0041】
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、それが実際上どのように行われ得るかを例示するために、添付の図面を参照して、単に非限定的な例として、実施形態を次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ヒトDNase Iのアミノ酸配列(本明細書では配列番号1として示される)の概要である。
図2】高出力形態学的検査(MSOME)を使用して観察された、精子細胞であるとみなされる細胞の集団全体のうちの、楕円形の精子細胞のパーセントを経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。
図3】高出力形態学的検査(MSOME)を使用して観察された、精子細胞であるとみなされる細胞の集団全体のうちの、無定形精子細胞のパーセントを経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。
図4】高出力形態学的検査(MSOME)を使用して観察された、精子細胞であるとみなされる細胞の集団全体のうちの、楕円形の精子細胞のパーセントを経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。
図5】高出力形態学的検査(MSOME)を使用して観察された、円形及び無定形精子細胞の数を経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。
図6】Halosperm分析によって判定された、正常な精子細胞の数を経時的(日数)に示すグラフである。
図7】精子細胞であるとみなされる細胞の集団全体のうちの、WHOによる慣例的な形態学的基準による正常な精子細胞形態のパーセントを経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。線は正常レベルを表す。
図8】精子細胞であるとみなされる細胞の集団全体のうちの、WHOによる慣例的な形態学的基準による頭部欠損を有する精子細胞のパーセントを経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。線は正常レベルを表す。
図9】Halosperm分析によって判定された、正常な精子細胞のパーセント数を経時的(日数)に示すグラフである。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。線は正常レベルを表す。
図10】SRED試験によって判定された、125μg/kgの組換えヒトDNAse I(rhDNase I)を注射した後のDNase I活性mKU(Kunitz)/μlの動態を経時的に示すグラフである。Kunitz単位は、0.1M NaOAc(pH5.0)緩衝液中、25℃で高度に重合したDNAに作用したときに、260nmの波長で毎分0.001の吸光度の増加を引き起こす、1mg/mlのサケ精子DNAに添加される酵素の量として定義される。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、男性対象が低妊孕性と診断されているカップルにおける妊娠の誘発のための治療計画を提供する。治療計画は、ヒトデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、例えば、DNase Iを含む臨床グレードの医薬組成物を投与することを含む。
【0044】
以下の実施例に示すように、DNase Iの投与は、以前に妊娠しなかったカップルに妊娠の成功をもたらした。治療により、Halosperm試験で観察された精子細胞DNAの安定性の改善、及びMSOME分析で観察された精子核形態の改善がもたらされた。
【0045】
理論に拘束されることを望むものではないが、これらの分析は、組換えヒトDNAse I(rhDNase)治療によって媒介される2つのプロセスを表す。
【0046】
Halosperm試験における%DFIによって測定された精子細胞DNAの安定性の改善は、迅速かつ一過性であり、主に16日間の治療時間枠内で顕著であった(短期的効果)。
【0047】
精子形態の改善は後に観察され、治療が完了してから8日後の24日目に最大値に達した(長期的効果)。
【0048】
精巣上体を通過する精子細胞(プロセス期間:8日間)は、無細胞DNAによって誘導されるアポトーシスを起こし易く、DNase治療は、この損傷を防止又は制限することができ、したがって、Halosperm試験における%DFIを改善することが示唆される。
【0049】
DNaseはまた、16日間持続し、かつ精巣上体への輸送前に起こる精子完成における精子成熟中に、精子細胞を標的とすることが更に示唆される。
【0050】
このプロセスでは、精子細胞はその必要とされる形態を取得し、無細胞DNAの存在は、それらの形態を損なう可能性があると想定される。DNase治療は、これらの効果を防止又は制限し得る。
【0051】
低妊孕性の男性における臨床試験の結果は、無細胞DNAが精子細胞損傷と関連しており、DNase治療が精液の質を有意に改善し、妊娠の成功を導く可能性を有することを示唆している。
【0052】
したがって、その第1の態様において、本発明は、妊娠の誘発を必要とするカップルにおいてそれを行うための方法であって、上記カップルの男性対象が低妊孕性と診断されており、上記方法が、約50μg/kg~約1000μg/kg、又は約50μg/kg~約350μg/kgのヒトDNase、例えば、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、又は350μg/kgのヒトDNaseを含む医薬組成物を上記男性対象に全身投与することを含む、方法を提供する。一実施形態において、医薬組成物は、125μg/kgを含む。
【0053】
本明細書で使用される妊娠の誘発は、以前に妊娠しなかったカップルにおいて妊娠の成功を達成することを指す。
【0054】
「対象」又は「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、本発明から利益を得ることができる男性対象を指す。カップルにおける「男性パートナー」とも称されることもある。ある特定の実施形態において、対象はヒトである。
【0055】
本発明の文脈における「それを必要とする対象」という用語は、とりわけ、本明細書に定義されるように、低妊孕性をもたらす疾患又は障害に罹患しているヒト男性対象を指す。本発明の文脈における「それを必要とするカップル」という用語は、とりわけ、本明細書に定義されるように、妊娠する能力の低下を示すヒトのカップル(男性及び女性)を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、「男性低妊孕性」又は「低妊孕性男性」という用語は、その最も広い意味で使用され、特発性の精液の質低下が確認されていることを特徴とする任意の状態を指す。
【0057】
例としては、限定されないが、以下が挙げられる。
乏精子症-精子数の減少。軽度から中等度:500万~2,000万/mlの精液。重度:<500万/mlの精液。
精子無力症-精子の運動性の低下。
奇形精子症(軽度又は重度)-異常な形態の精子の増加。
無精子症及び乏精子・奇形精子・精子無力症(OTA)。
DFI(DNA断片化指数)値が高い精液
【0058】
DNA断片化は、ゲル電気泳動又はHalosperm試験等の当業者に既知の方法を用いて測定することができる。Halospermは、精子クロマチン分散(SCD)技術に基づいており、各精子に含まれるタンパク質のその後の除去を容易にするためにDNA変性プロセスを制御するインビトロ診断キット[Halotech DNA、Spain]を使用して実施することができる。このようにして、正常な精子は、損傷したDNAを有する精子には存在しない、精子頭部のDNAのループによって形成されるハローを生成する。
【0059】
特定の実施形態において、「減少した」という用語は、生殖能を有する男性と比較して、精子数又は運動性の少なくとも約50%、60%、70%、80%、又は90%の減少を指すことを意味する。
【0060】
この用語はまた、不妊症の女性因子が診断されていない、2年以上妊娠を試みている、以前に生殖補助医療技術(ART)が不成功であったカップルの男性パートナーを含む。
【0061】
本発明による特定の実施形態において、ヒトDNAse Iの投与は、総数、濃度、運動性、運動性の質又は平均速度、形態(Kruger又はWHO)、生存率(エオシン染色)及び精子クロマチンの安定性(Halospermアッセイ)から選択される1つ以上の精液の質パラメータにおいて少なくとも35%の改善をもたらす。
【0062】
本発明の文脈における精液の質パラメータの「改善」という用語は、本発明の医薬組成物が、当該技術分野で既知の任意の方法によって測定される精液の質パラメータを、本発明の医薬組成物の非存在下でのこれらの質パラメータと比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は約100%増加させることを意味する。
【0063】
本発明による全身投与は、以下の経路のいずれかによって行うことができる:経口投与、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、又は皮下注射。
【0064】
特定の実施形態において、本発明による投与は、静脈内に行われる。
【0065】
DNAseを含む医薬組成物は、単回用量又は複数回用量で対象に投与され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明による医薬組成物は、50μg/kg~約1000μg/kgのDNAseを含む。
【0067】
医薬組成物は、複数回、例えば、1日当たり5回の投与の頻度から3日に1回の頻度まで、又は1日当たり3回の投与の頻度から3日に1回の頻度まで、すなわち、1日3回、又は1日2回、又は1日1回、又は2日に1回、又は3日に1回、又は1週間に1回投与され得る。
【0068】
医薬組成物は、少なくとも10日間の長さ、又は約10日間~約3ヶ月の長さ、例えば、約10日間~16日間、又は16日間投与することができる。治療が施される期間は、本明細書では「治療経過期間」としても定義される。
【0069】
一実施形態において、医薬組成物は、上記男性対象において新鮮な精子細胞の成熟を達成するのに十分な治療経過期間にわたって投与される。本明細書で使用される場合、「新鮮な精子細胞の成熟」という用語は、新たに形成される成熟した精子の出現を指す。精子細胞は、精子形成の最終段階である精子完成中に、精子へと成熟する。したがって、一実施形態において、医薬組成物は、上記男性対象において有効な精子レベルを達成するのに十分な治療経過期間にわたって投与される。本明細書において有効であるとは、治療されたカップルにおいて妊娠誘発を達成するのに十分な精子のレベルを指す。
【0070】
一実施形態において、方法は、250μgの本発明のDNAse I/kg体重/日(すなわち、250μg/kg/日)の投与を含む。
【0071】
一実施形態において、医薬組成物は、16日間、125μg/kg体重の用量で1日2回(12時間間隔、例えば、朝1回及び夕方1回)投与される。
【0072】
本明細書で使用される場合、「DNase」という用語は、DNAを切断することができる任意の酵素を指し、タンパク質ファミリーを表す。したがって、この用語は、限定されないが、DNase I、DNase I様1(DNaseIL1)、DNase I様2(DNase IL2)、DNase I様3(DNase IL3)、DNase II、DNase IIα、DNase IIβ、DNase X、DNase γ、カスパーゼ活性化DNase(「CAD」)、エンドヌクレアーゼG(「ENDOG」)、グランザイムB(「GZMB」)、ホスホジエステラーゼI、ラクトフェリン、アセチルコリンエステラーゼ、及びDNAse活性を維持するそれらのバリアント(限定されないが、そのアクチン結合部位の1つ以上の変異を含む)からなる群から選択される任意の酵素を含む。
【0073】
一実施形態において、DNAseはDNAse Iである。DNAseIは、タンパク質を含まないDNAを優先的に切断し、その活性は、単量体アクチンへの結合時に阻害される。DNAse Iは生理学的塩濃度に対して感受性を有する。更に、DNAse Iは、N40(シグナルペプチドを含まない成熟酵素中のN18に対応する)及びN128(N106)でグリコシル化され、それにより該酵素は血清プロテアーゼによる不活性化に耐性となる。
【0074】
DNase Iは、組換えによって生成されてもよく(例えば、Pulmozyme)、又は天然の単離されたDNAse Iであってもよい。
【0075】
「精製された」又は「単離された」という用語は、分子、例えば、その天然環境から除去された、単離された、又は分離されたDNAseを指すことを理解されたい。したがって、「単離されたDNAse」は、精製された酵素である。本明細書で使用される場合、「精製された」又は「精製する」という用語はまた、試料からの汚染物質の除去も指す。
【0076】
本発明によるDNAse Iは、ヒト、霊長類、及びげっ歯類を含む様々な種から得ることができる。好ましい実施形態において、本発明のDNAse Iは、ヒトDNAse Iである。ヒトDNase Iは、様々な商業的供給源から得ることができる。
【0077】
本発明のDNAseはまた、物理的、酵素的、及び/又は薬力学的特性が増強された酵素の改変型であってもよい(例えば、US11,046,943を参照されたい)。
【0078】
したがって、本発明は、ヒトDNAseのバリアントの投与も包含する。バリアントは、酵素の活性を変化させない変異を含み得る。
【0079】
「酵素の活性」という用語は、DNAを切断する(例えば、DNA断片化活性)、及び好ましくは、本明細書に定義される精液の質パラメータに影響を与える、酵素の能力を意味する。酵素の活性は、例えば、後述の実施例に記載するように、当該技術分野で周知の方法を用いて、インビボ又はインビトロで測定することができる。
【0080】
「バリアント」という用語は、1つ以上のアミノ酸残基が欠失、置換、又は付加された、本明細書で具体的に特定されるDNAse Iの配列とは異なるアミノ酸の配列を意味する。
【0081】
「付加された」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書に記載の配列へのアミノ酸残基の任意の付加を意味することを理解されたい。
【0082】
バリアントは、様々なアミノ酸置換を包含する。アミノ酸「置換」は、あるアミノ酸を、類似する又は異なる構造的特性及び/又は化学的特性を有する別のアミノ酸で置き換えた結果である。アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質における類似性に基づいて行われ得る。
【0083】
典型的には、バリアントは、保存的アミノ酸置換を包含する。機能的に類似するアミノ酸をもたらす保存的置換表は、当技術分野で周知である。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられ、極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられ、正電荷(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが挙げられ、負電荷(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。
【0084】
以下の8つの群のそれぞれは、互いに保存的置換である他の例示的なアミノ酸を含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、
7)セリン(S)、スレオニン(T)、及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)。
【0085】
本発明によるバリアントはまた、非極性から極性へのアミノ酸置換を包含し、逆もまた同様である。
【0086】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。
【0087】
バリアント配列は、それらのアミノ酸配列と本明細書に記載されるDNAse Iのアミノ酸配列との同一性のパーセンテージによって特徴付けられ得るアミノ酸配列を指す。
【0088】
いくつかの実施形態において、本明細書において定義されるバリアント配列は、本明細書で配列番号1(本明細書において野生型配列とも称される)に示されるDNAse Iの配列と比較した場合に、少なくとも70%又は75%の配列同一性、約80%又は85%の配列同一性、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するDNAse Iのアミノ酸配列を指す。
【化1】
【0089】
アミノ酸配列の類似性、すなわち、配列同一性のパーセンテージは、当該技術分野で既知の配列アライメントによって判定することができる。そのようなアライメントは、いくつかの当該技術分野で既知のアルゴリズム、例えば、BLASTプログラムを用いて実行することができる。
【0090】
太字で印される最初の22アミノ酸残基は、シグナルペプチドを表す。成熟酵素は、シグナルペプチドを含まない(すなわち、上記のような最初の22個のアミノ酸を含まない)配列番号1によって示される配列を有すると定義される。本明細書で使用される場合、野生型DNAse酵素との配列同一性に言及する場合、配列は、シグナルペプチドを欠く成熟酵素を指す。
【0091】
いくつかの実施形態において、DNAseバリアントは、アルブミン、トランスフェリン、Fc、又はエラスチン様タンパク質等の半減期延長部分へのN末端又はC末端の融合を含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、DNAseバリアントは、1つ以上の位置又はC末端でコンジュゲートされ得る1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)部分を含む。そのような場合のDnaseバリアントは、ペグ化DNAseと称される。ペグ化は、当該技術分野で既知の任意の方法によって行われ得る。他の実施形態において、DNAseバリアントは、酵素の血漿半減期を延長するためにPAS化されている。PAS化は、小さいアミノ酸残基Pro、Ala及びSer(PAS)を酵素に組み込むことによって行われる(例えば、Schlapschy et al protein Eng Des Sel 2013;26(8):489-501を参照)。そのような場合のDnaseバリアントは、PAS化DNAseと称される。
【0093】
一態様において、本発明は、医薬組成物を提供する。
【0094】
本発明による「医薬組成物」という用語は、一般に、本明細書で定義されるDNAse、及び緩衝剤、組成物の浸透圧を調節する薬剤、並びに任意選択的に、当該技術分野で既知である1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、及び/又は希釈剤を含む。
【0095】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤」という用語は、本質的にDNAseIと反応せず、医薬組成物に形状又は硬さを与え、DNAseIの分解からの保護を提供し、体内外での生存を増加させ、体内への浸透及び体液への送達を得、対象の体内での薬剤の分布及び標的部位への送達(例えば、無細胞DNAへの)を容易にするためにそれらに添加される、不活性で無毒な賦形剤のうちのいずれか1つを指す。
【0096】
「薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤」は、当該技術分野で既知である、任意の溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤等を含む。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒であり得る。各担体は、他の成分と適合し、対象に有害でないという意味で、薬学的にも生理学的にも許容されるべきである。いずれかの従来の媒体又は薬剤が活性成分と適合しない場合を除いて、医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0097】
本発明の一実施形態によれば、ヒトDNase Iを含む医薬組成物は、少なくとも1つの追加の治療薬と組み合わせて投与され得る。
【0098】
本明細書で使用される「追加の治療薬」という用語は、精液の質を改善するために使用され得る任意の薬剤を指す。
【0099】
特定の実施形態において、追加の治療薬は、精子細胞の表面で受容体に結合するデオキシリボ核酸分子の能力を妨げる分子である。これらの分子は、受容体に結合して遮断する分子であってもよく、又はデオキシリボ核酸分子に結合して遮断する分子であってもよい。受容体を遮断する分子は、低分子量、例えば、デオキシリボヌクレオチド二量体、ホスホデオキシリボシルピロリン酸(PdRPP)、デオキシリボヌクレオチド若しくは金属イオン、又は高分子量、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、若しくは糖タンパク質であり得る。一実施形態において、分子は、無細胞DNAと精子細胞受容体との相互作用を遮断することができる糖タンパク質IF-1又はその類似体である。デオキシリボ核酸分子に結合して遮断する分子は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、DNA結合タンパク質、核タンパク質(ヒストン、プロタミンとして)又は抗体であり得る。デオキシリボ核酸分子はまた、精子細胞タンパク質及び受容体ではない脂質の表面に結合することによって、精子細胞に有害な影響を及ぼし得る。この場合、薬剤は、この結合を妨げる分子であり得る。
【0100】
本発明の別の実施形態によれば、薬剤は、精子細胞の表面での受容体へのデオキシリボ核酸分子の結合によって形成されるシグナル伝達経路の段階を遮断する分子であり得る。薬剤は、低分子量化合物であり得るか、又はポリマー、例えば、ZVAD及びbcl-2タンパク質ファミリー等のカスパーゼ阻害剤、若しくはドミナントネガティブなカスパーゼタンパク質であり得る。
【0101】
無細胞DNAによって引き起こされる精子細胞損傷は、精子細胞内のDNase活性の上昇を伴い得る。したがって、本発明の別の実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、精子細胞内の内因性DNase活性を阻害するDNase阻害剤を含んでもよい。薬剤は、低分子量化合物又はポリマーであり得る。好ましい薬剤としては、アウリントリカルボン酸(ATA)、クエン酸塩又はその機能的類似体が挙げられる。
【0102】
他の実施形態において、本発明による医薬組成物は、追加の治療薬を更に含む。
【0103】
本明細書で使用される「約」という用語は、言及される値よりも最大1%、より具体的には5%、より具体的には10%、より具体的には15%、及び場合によっては最大20%高く又は低く偏差し得る値を示し、偏差範囲は整数値を含み、また該当する場合、連続的な範囲を構成する非整数値も同様に含む。開示及び記載されるように、本発明は、本明細書に開示される特定の例、方法ステップ、及び医薬組成物に限定されず、そのような方法ステップ及び医薬組成物はいくらか変化し得ることを理解されたい。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるため、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定的であることを意図するものではないことも理解されたい。
【0104】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうではないと示さない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。
【0105】
文脈が別段に必要としない限り、本明細書並びに後述の実施例及び特許請求の範囲の全体を通して、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形は、述べられた整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群の除外を意味するものではないことが理解されるであろう。
【実施例
【0106】
実施例1:低妊孕性男性のパイロット試験:
DNase I
組換えヒトDNase I(rhDNase I、Catalentによって製造)は、製剤緩衝液中の10mg/mL濃度の1mLのrhDNase Iを含むガラスバイアル中に滅菌溶液として供給された(8.77mg/mLの塩化ナトリウム、0.15mg/mLの塩化カルシウム;公称pHは6.3)。
【0107】
rhDNase I酵素は、内因性ヒト酵素(CAS番号:0143831-71-4)と同一である。
【0108】
ヒトDNase I(UniProt、Human DNase-I、Isoform 1、識別子:P24855-1)のアミノ酸配列は、配列番号1に概説される。
【0109】
rhDNaseは、ヒトタンパク質、デオキシリボヌクレアーゼI(DNase)をコードするDNAを含む遺伝子操作されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生された。生成物の精製は、従来の接線流濾過及びカラムクロマトグラフィー技術によって達成される。精製された糖タンパク質は、約37,000ダルトンの相対分子量を有する260個のアミノ酸を含む。
【0110】
臨床試験:
本試験は、低妊孕性男性患者におけるrhDNase Iの静脈内(IV)注射の有効性を評価するための前向き、非盲検、非対照、単一施設試験であった。
【0111】
診断及び組み入れの主な基準:不妊症の女性因子が診断されていない、2年以上妊娠を試みている、以前に生殖補助医療技術(ART)が不成功であった低妊孕性カップルの男性パートナー。男性患者は18~50歳であり、特発性の精液の質低下が確認されたが、無精子ではなかった。無精子症を有する1人の対象が、試験プロトコルから逸脱して登録された。
【0112】
試験エンドポイント:rhDNase I治療後の低妊孕性男性の1つ以上の精液の質パラメータにおける改善の証拠。評価した精液の質パラメータ:総数、濃度、運動性、運動性の質又は平均速度、形態(Kruger又はWHO)、生存率(エオシン染色)、MSOMEによる微細形態、精子クロマチンの安定性(Halospermアッセイ)。
【0113】
全ての対象は、1~16日目に、125μg/kg体重のrhDNase Iを1日2回静脈内注射された。注射は、朝と夕方に12時間間隔で行われた。
【0114】
治験薬は、1mg/mlのrhDNase Iとして、バイアル当たり2.5mlで提供された。
【0115】
4人の対象が試験に参加した。対象番号001は、無精子症を有し、対象番号002は、重度の単独型奇形精子症(100%無定形頭部)を有し、対象番号003は、軽度の単独型奇形精子症(世界保健機関(WHO)の定義による12%の正常形態)を有し、対象番号004は、重度の単独型奇形精子症を有していた。
【0116】
安全性の結果:バイタルサイン及び健康診断所見に異常は認められなかった。有害事象は報告されなかった。試験中に死亡又は重篤な有害事象は発生しなかった。
【0117】
有効性の結果:治療した4人の対象のうち3人に精液の質の改善が見られた。4組のカップルのうち3組は、rhDNase I治療後に採取された精液試料を使用して妊娠に成功した。
対象番号001:
ベースライン特性:
●無精子患者。
●高い卵胞刺激ホルモン(FSH)レベル。
●4.5年間妊娠を試みている、又は流産している。
●2回の細胞質内精子注入(ICSI)サイクルが不成功であった。
●3回の強拡大顕微鏡による形態良好精子の選別及び卵細胞質内注入法(IMSI)サイクルが不成功であり、そのうちの1回は13週目に流産する結果となった。
●左精巣の精索静脈瘤に罹患し、2001年に手術を受けた。
●高い血中無細胞DNAレベル。
【0118】
患者を上記のようにrhDNase Iで治療し、精液の質を分析した。対象の無精子症のために、追跡可能な唯一の精液パラメータは、観察された少数の精子細胞の高出力(×6,000)運動性精子オルガネラ形態検査(MSOME、Bartoov B、et al.J Androl.2002 Jan-Feb;23(1):1-8))であった。
【0119】
湿性(通常)MSOMEにおける形態学的観察のための精子調製:
数千という精子を含む精子懸濁液の1~2μlアリコートを、0%~8%のポリビニルピロリドン(PVP)溶液を含む微小滴の精子培地に移し、パラフィンオイル下でガラス底皿に入れた。動いている精子細胞の形態学的評価は、液滴の縁から延びる小さな区画の形成によって可能になり、これにより運動性精子の頭部を捕捉した。
【0120】
乾性MSOMEにおける形態学的観察のための精子調製:
液化後の新鮮な射精液を、室温(22~25℃)で15mlの丸底チューブに移した。室温で15分間、1500RPMでスイングアウトバケット内で遠心分離することによって、射出された精子細胞の柔らかいペレットを得た。精漿上清を除去した。精子ペレットを1mlのFerticult-IVF培地(FertiPro N.V.Beernem、Belgium)に懸濁し、次いで室温で5分間、1500rpmで再遠心分離した。次いで、チューブを5パーセントCO2、37℃のインキュベータに移し、45度に傾けて、40分間スイムアップインキュベーションを行った。次いで、精子ペレットの中間相まで上清を慎重に除去した。スイムアップ上清を室温で5分間、1500RPMで遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットを顕微鏡用スライドガラスに塗り付けて風乾させた。
【0121】
精子のMSOMEによる観察:
Nomarski光学素子、Uplan Apo×100/1.35対物レンズ、及び0.55 NA集光レンズを備えた倒立顕微鏡(Olympus IX 81)によって、21℃で精子細胞を調べた。画像は、DXC-950Pカラービデオカメラ(Sony)で撮影した。形態学的評価は、上記構成で実倍率6300に達したモニタースクリーン上で行った。
【0122】
MSOMEの結果を図2及び図3に提供する。結果は、正常な精子細胞形態を表す楕円形の頭部を有する精子細胞における上昇(図2)、及び異常な精子細胞形態を表す無定形の精子頭部における低下を示す(図3)。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。この分析には、大まかな形態学的奇形のない精子細胞のみが含まれた。
対象番号002:
ベースライン特性:
●正常な精液量(約2ml)。
●正常な精子濃度(約3500万/ml)。
●正常な精子密度(約7000万/射精)。
●正常な精子運動性(約50%)。
●正常な生存率(約70%)。
●非常に重度の単独型奇形精子症(100%)。
●8年間妊娠を試みている。
●4回のICSIサイクルで不成功。
●IVF(体外受精)で受精せず
●精巣の精索静脈瘤に罹患していた。
●高い血中無細胞DNAレベル。
【0123】
精液量並びに精子細胞の濃度、密度、運動性、及び生存率の測定は、WHOガイドラインに従って行った(ヒト精液検査及び精子-頸管粘液相互作用については、WHOラボマニュアルを参照のこと。Fourth edition 1999.World Health Organization.Cambridge university press)。
【0124】
簡潔に述べると、ピペットを用いて各射精精液の体積を測定した。精子濃度は、Helber血球計算盤又はNeubauer血球計算盤のいずれかを使用して細胞をカウントすることによって決定した(Helberは、精子濃度が高い場合に使用され、Neubaureは低い場合に使用される)。精子密度(=全射精液中の細胞数)は、射精液体積に精子濃度を乗じて算出した。
【0125】
精子の運動性及び進行性運動性:運動性及び非運動性の精子細胞を、Helber血球計算盤又はNeubauer血球計算盤のいずれかを使用してカウントし、それに応じて運動性精子細胞のパーセントを算出した。20個のランダムな運動性精子細胞の試料を、200μmを通って直線的に進行するそれらの能力を調べることによって進行性運動性について調べ、それに応じて進行性運動性の精子細胞のパーセンテージを算出した。
【0126】
rhDNase I治療は、精子の濃度、密度、並びに精子細胞の生存率及び運動性(図示せず)に影響を及ぼさず、これらは全て正常範囲内であった。しかしながら、図4~6に示されるように、rhDNase I治療は、以下のパラメータに有益な効果を示した:
1.楕円形の頭部を有する精子細胞の上昇(0%~30%)、並びに円形及び無定形の頭部を有する精子細胞の数の減少によって表される精子形態。
2.精子DNAの安定性を、DNA断片化の測定を可能にするHalosperm試験によって測定した。Halospermは、精子クロマチン分散(SCD)技術に基づいている。Halosperm試験は、各精子に含まれるタンパク質のその後の除去を容易にするためにDNA変性プロセスを制御するインビトロ診断キット[Halotech DNA、Spain]である。このようにして、正常な精子は、損傷したDNAを有する精子には存在しない、精子頭部のDNAのループによって形成されるハローを生成する。Halosperm試験によって示されるように、DNA断片化のない精子細胞のパーセントは、10%から50%に増加した。
3.rhDNase I治療後に得られた精液を使用して3回の妊娠を達成した。
【0127】
DNase I治療は、楕円形の頭部を有する精子細胞の上昇(図4)、並びに円形及び無定形の頭部を有する精子細胞の数の減少をもたらした(図5)。長方形は、16日間のDNase I治療を表す。この分析には、大まかな形態学的奇形のない精子細胞のみが含まれた。
【0128】
図6に見ることができるように、rhDNase Iを用いた治療(長方形によって印される1~16日目)は、Halosperm分析によって実証されるように、DNA断片化のない正常な精子細胞のパーセントの上昇を引き起こした。
対象番号003:
ベースライン特性:
●精液量が少ない(約1ml)
●正常な精子濃度(約5000万/ml)
●正常な精子細胞密度(約5000万/射精)
●正常な精子細胞の運動性(約60%)
●正常な精子細胞の生存率(約75%)
●軽度の単独型奇形精子症(WHOで12%、Krugerの基準で2%)
●2年間妊娠を試みている。
【0129】
rhDNase I治療は、精子の濃度、密度、並びに精子細胞の生存率及び運動性(図示せず)に主要な変化を誘導せず、これらは全て正常範囲内であった。おそらくは精液量減少による、精液量の律動的変化が観察された。しかしながら、図7~9に示されるように、rhDNase I治療は、以下のパラメータに有益な効果を示した:
1.WHO第4版基準による正常な形態の3倍増加(正常値に到達)、WHO基準による精子頭部奇形の30%減少(正常値に到達)、及びMSOMEで観察される正常核を有する精子細胞のパーセントの5倍増加(境界値に到達)によって表される、精子形態。
2.Halosperm試験によって測定される精子DNAの安定性(DNA断片化のない精子細胞の2.5倍増加、正常値に到達)。
3.rhDNase I治療後に得られた精液を使用して1回の妊娠を達成した。
【0130】
これらの変化は、対象番号003がrhDNase Iを用いた治療後に正常精液を達成したことを示す。
【0131】
図7に見ることができるように、rhDNase Iを用いた治療(長方形によって印される1~16日目)は、WHO基準による精子形態の改善をもたらした。
【0132】
図8に見ることができるように、rhDNase Iを用いた治療(長方形によってマークされる1~16日目)は、WHO基準による精子頭部奇形の減少をもたらした。
【0133】
図9に見ることができるように、rhDNase Iを用いた治療(長方形によってマークされる1~16日目)は、DNA断片化のない精子細胞のパーセントの上昇をもたらした。
対象番号004
ベースライン特性:
●正常な精液量(約2ml)
●低精子濃度(約1300万/ml)
●低い精子運動性(約12%)
●低い生存率(約33%)
●非常に重度の単独型奇形精子症(100%)
●高い血中無細胞DNAレベル。
●2.5年間妊娠を試みている。
●1回の子宮内授精(IUI)不成功
●2回のICSIサイクル不成功
【0134】
DNase I治療後に精子細胞の有意な変化は観察されなかった。それにもかかわらず、試験で得られた精液を使用して1回の妊娠を達成した。
【0135】
125μg/kgのrhDNaseを注射した後の治療対象の血清中DNase活性を、Nadano D,et al.ClinChem.1993 Mar;39(3):448-52に従って行った単一放射状酵素拡散(SRED)試験を用いて評価した。1人の代表的な対象(対象番号001)の分析を図10に提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】