(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(54)【発明の名称】眼疾患の予防又は治療用点眼剤組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/46 20060101AFI20240501BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240501BHJP
A61P 27/10 20060101ALI20240501BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240501BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240501BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240501BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240501BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240501BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240501BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240501BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240501BHJP
A61P 27/08 20060101ALI20240501BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61K31/46
A61P27/02
A61P27/10
A61K9/19
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/14
A61K47/32
A61P27/08
A61P27/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573600
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 CN2022095155
(87)【国際公開番号】W WO2022253090
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】202110614105.6
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522337048
【氏名又は名称】オキュメンション セラピューティクス(スージョウ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ イエ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD38
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4C076DD44R
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4C076FF14
4C076FF36
4C076FF39
4C076FF61
4C076GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB15
4C086GA13
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA44
4C086MA58
4C086NA03
4C086ZA33
(57)【要約】
(a)アトロピン又はその薬学的に許容される塩を含む凍結乾燥製剤と、(b)再構成解希釈剤とを含み、凍結乾燥製剤と再構成解希釈剤とが分離されていることを特徴とする、眼科疾患を予防又は治療するための点眼剤組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科疾患を予防又は治療するための点眼剤組成物であって、
(a)アトロピン又はその薬学的に許容される塩を含む凍結乾燥製剤と、(b)再構成解希釈剤とを含み、凍結乾燥製剤と再構成解希釈剤とが分離されていることを特徴とする、点眼剤組成物。
【請求項2】
前記アトロピンの薬学的に許容される塩が硫酸アトロピンである、請求項1に記載の点眼剤組成物。
【請求項3】
前記アトロピン又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.001~2%、好ましくは0.01~0.5%、より好ましくは0.01~0.08%である、請求項1記載の点眼剤組成物。
【請求項4】
前記点眼剤組成物のpHが5.0~6.4である、請求項1に記載の点眼剤組成物。
【請求項5】
前記凍結乾燥製剤が、緩衝塩系、スケルトン剤及び安定剤のうちの1種以上を更に含む、請求項1に記載の点眼剤組成物。
【請求項6】
前記緩衝塩系が、クエン酸緩衝系及びリン酸緩衝系から選択される1種以上であり、好ましくはクエン酸緩衝系であり、より好ましくは、前記緩衝塩の濃度が0.01~1%である、請求項5に記載の点眼剤組成物。
【請求項7】
前記スケルトン剤が、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、及びスクロースから選択される1種以上であり、好ましくはマンニトールであり、より好ましくは、前記スケルトン剤の濃度が1~4%である、請求項5に記載の点眼剤組成物。
【請求項8】
前記安定剤が、ソルビトール及びマンニトールから選択される1種以上であり、好ましくはソルビトールであり、より好ましくは、前記安定剤の濃度が0.05~1%である、請求項5に記載の点眼剤組成物。
【請求項9】
前記再構成希釈剤が、緩衝塩系、浸透圧調整剤、キレート剤及び静菌剤のうちの1種以上を含む、請求項1に記載の点眼剤組成物。
【請求項10】
前記緩衝塩系が、精製水、リン酸緩衝系、及びクエン酸緩衝系から選択される1種以上であり、好ましくはクエン酸塩緩衝系であり、より好ましくは、前記緩衝塩の濃度が0.01~1%である、請求項9に記載の点眼剤組成物。
【請求項11】
前記浸透圧調整剤が、マンニトール、塩化ナトリウム、ブドウ糖、リン酸緩衝液及びホウ砂から選択される1種以上であり、好ましくはマンナアルコールであり、より好ましくは、前記浸透圧調整剤の濃度が1~4%である、請求項9に記載の点眼剤組成物。
【請求項12】
前記キレート剤が、エデト酸二ナトリウムであり、好ましくは、前記キレート剤の濃度が0.01%~0.03%である、請求項9に記載の点眼剤組成物。
【請求項13】
前記静菌剤が、塩化ベンザルコニウム、エチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム及びポリクオタニウム-1から選択される1種以上であり、好ましくは塩化ベンザルコニウムであり、より好ましくは、前記静菌剤の濃度が0.005~0.3%である、請求項9に記載の点眼剤組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の点眼剤組成物の調製方法であって、
(a)前記凍結乾燥製剤における緩衝塩系を、アトロピン又はその薬学的に許容される塩と、並びに任意にスケルトン剤及び安定剤のうちの1種以上に接触させ、凍結乾燥して、前記凍結乾燥製剤を得る工程と、
(b)前記再構成再構成希釈剤における緩衝塩系を、任意に浸透圧調整剤、キレート剤及び静菌剤のうちの1種以上に接触させて、前記再構成希釈剤を得る工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項15】
工程(a)及び工程(b)がそれぞれ独立して、接触完了後、混合溶液のpHを5.0~6.4に調整する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
眼科疾患を予防又は治療するためのキットであって、
(a)アトロピン又はその薬学的に許容される塩を含む凍結乾燥製剤、(b)再構成希釈剤、及び任意に(c)使用説明書を含み、前記凍結乾燥製剤と前記再構成希釈剤とが分離されていることを特徴とする、キット。
【請求項17】
眼科疾患を治療するための点眼剤の調製における、有効量の請求項1~13のいずれか一項に記載の点眼剤組成物の用途であって、
前記調製が、前記凍結乾燥製剤と前記再構成希釈剤とを混合することを含むことを特徴とする、用途。
【請求項18】
前記眼科疾患が、毛様体筋麻痺、散瞳、弱視、近視、又はそれらの組み合わせ、特に小児及び青少年の近視から選択される、請求項17に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連申請への相互参照]
本出願は、2021年6月2日に出願された特許出願第202110614105.6号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、眼科用医薬品の分野に属し、具体的には、一般に、眼科疾患を予防又は治療するための点眼剤組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、社会環境の変化や生活スピードの加速、ビデオ端末の普及、勉強や仕事のプレッシャーの増大等により、目の過度な使用による視覚疲労が増加傾向にある。近視患者の増加、特に10代の近視罹患率の増加が顕著である。中国保健省と教育省との共同調査によると、現在の中国学生の近視罹患率は60%近くで、日本に次いで世界第2位、患者数は6,000万人を超え、世界第1位であり、およそ30万人が近視で失明している。近視の発生率は西洋諸国でも増加している。
【0004】
現在の治療法は主に健康療法及び西洋医学である。現在、西洋医学でよく使用されるのはアトロピン系薬であり、シンガポール、米国、その他の国の専門家や学者による長年の臨床研究の結果、アトロピン薬は青少年及び子供達の近視の予防及び治療に現在最も効果的な薬であることが確認されている。硫酸アトロピン点眼薬は1960年にFDAによって承認され、USP、1%、仕様は2ml:20mg、5ml;50mg、15ml:150mgであり、該当する症状は毛様体筋麻痺、散瞳、弱視の治療である。シンガポールでは、小児及び青少年の近視の治療に0.01%仕様の硫酸アトロピン点眼薬が使用されている。
【0005】
しかし、現在の硫酸アトロピン点眼薬には次のような欠点がある。(1)薬剤濃度が高すぎて、眼に対する瞬間的な投与量が多すぎるため、アトロピンの眼に対する副作用が比較的大きく、薬剤の安全性が保障できない。一方、薬剤の濃度が低すぎたり、目への瞬間的な投与量が小さすぎると、効果が遅くなり、効果が乏しかったり、効果がなかったりするため、アトロピン点眼薬の適用範囲が制限されるという欠点がある。(2)硫酸アトロピンは、エステル系薬剤であるため、水溶液中で分解されやすく、保存中に医薬組成物が加水分解されやすく効果を失ってしまう。水溶液中に水酸化物イオンを安定化できる元素が存在しない場合、硫酸アトロピンは水酸化物イオンの影響を受けやすく、結合が切れて分解して、ベラドンナ フェノール、トロパ酸及びその他の関連物質が生成される。或いは、水酸化物イオンは硫酸アトロピンの椅子型構造に容易に結合され、6-ヒドロキシスコポラミン及び7-ヒドロキシスコポラミン等の関連物質を形成する可能性がある。したがって、硫酸アトロピン水溶液は緩衝系に非常に敏感な活性成分であり、緩衝系にわずかな違いがあるだけで、硫酸アトロピンの重大な分解を引き起こし、薬剤の活性を失い、薬剤の機能不全を引き起こし、治療効果を発揮できなくなる可能性がある。即ち、現在市販されている点眼薬は全て安定性のリスクを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術におけるアトロピン薬液の長期保存時に起こり得る加水分解不良の問題を克服し、眼疾患の予防又は治療用の新規な点眼剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、一方、本発明は、(a)アトロピン又はその薬学的に許容される塩を含む凍結乾燥製剤と、(b)再構成解希釈剤とを含み、前記凍結乾燥製剤と前記再構成解希釈剤とが分離されている、眼科疾患を予防又は治療するための点眼剤組成物を提供する。即ち、本発明の点眼剤組成物は、前記凍結乾燥製剤と前記再構成希釈剤との2つの部分からなることを特徴とする。
【0008】
まず、前記凍結乾燥製剤は、アトロピン又はその薬学的に許容される塩を活性成分として含有する。本発明によれば、前記薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸付加塩であってもよく、前記薬学的に許容される酸付加塩とは、他の副作用なく、遊離塩基の有効性を保持可能な、無機酸又は有機酸と形成される塩を意味する。
【0009】
具体的には、無機酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない;有機酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、2,2-ジクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、デカン酸塩、ウンデセン酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、セバシン酸塩、アジピン酸塩、グルタル酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、桂皮酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの塩は、当技術分野の公知の方法によって調製することができる。好適な一実施形態では、前記薬学的に許容される塩は硫酸塩であってもよく、即ち、前記アトロピンの薬学的に許容される塩はアトロピン硫酸塩であり、又は硫酸アトロピンともいう。
【0010】
更に、アトロピン又はその薬学的に許容される塩は該点眼剤組成物の活性成分として使用されるが、上述したように、薬剤の濃度が高すぎると目への瞬間的な投与量が多すぎるため、アトロピンの目への副作用が比較的に大きく、薬剤の安全性が保証できない。一方、薬剤の濃度が低すぎて、目への瞬間的な投与量が小さすぎたりすると、効果が遅くなり、効果が乏しかったり、効果がなかったりする。したがって、好適な一実施形態において、前記アトロピン又はその薬学的に許容される塩の濃度は、0.001~2%(w/v)であってもよく、好ましくは0.01~0.5%(w/v)、より好ましくは0.01~0.08%(w/v)であり、例えば、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%等が挙げられ、単位はkg/Lである。特に指定がない限り、本明細書における全ての濃度百分率の単位はw/v(kg/L)であり、単位体積当たりの対応する製剤中の前記成分の重量である。特に、前記凍結乾燥製剤の場合、該百分率は、凍結乾燥前の前記凍結乾燥製剤の単位体積に対する前記成分の重量を表す。
【0011】
活性成分としてのアトロピン又はその薬学的に許容される塩に加えて、前記凍結乾燥製剤はまた緩衝塩系、スケルトン剤及び安定剤のうちの1種以上を含有してもよい。
好適な一実施形態において、前記緩衝塩系は、具体的に、クエン酸緩衝系及びリン酸緩衝系から選択される1種以上であってもよく、好ましくはクエン酸緩衝系、より好ましくは、前記緩衝塩の濃度は0.01~1%(例えば、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%等)であってもよい。ここで、前記クエン酸緩衝系は、無水クエン酸及び/又はクエン酸ナトリウム二水和物を含むクエン酸緩衝系であってもよい。
【0012】
別の好適な実施形態において、スケルトン剤は、具体的に、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム及びスクロースから選択される1種以上であってもよく、好ましくはマンニトール、より好ましくは、前記スケルトン剤の濃度は1~4%(例えば、1.5%、 2%、2.5%、又は3%等)であってもよい。
【0013】
別の好適な実施形態において、前記安定剤は、ソルビトール及びマンニトールから選択される1種以上であってもよく、好ましくはソルビトール、より好ましくは、前記安定剤の濃度は0.05~1%(例えば、0.1%、0.2%、0.5%又は0.8%等)であってもよい。
【0014】
次に、前記再構成希釈剤については、前記再構成希釈剤は、緩衝塩系、浸透圧調整剤、キレート剤、及び静菌剤のうちの1種以上を含んでもよい。
【0015】
好適な一実施形態において、前記緩衝塩系は、具体的に、精製水、リン酸緩衝系及びクエン酸緩衝系から選択される1種以上であってもよく、好ましくはクエン酸緩衝系、より好ましくは、前記緩衝塩の濃度は0.01~1%(例えば、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%等)であってもよい。
【0016】
別の好適な実施形態において、前記浸透圧調整剤は、具体的に、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸緩衝液及びホウ砂から選択される1種以上であってもよく、好ましくはマンニトール、より好ましくは、前記浸透圧調整剤の濃度は1~4%(例えば、1.5%、2%、2.5%、3%等)であってもよい。
【0017】
別の好適な実施形態において、前記キレート剤は、具体的にエデト酸二ナトリウムであってもよく、好ましくは、前記キレート剤の濃度は0.01%~0.03%(例えば、0.015%、0.02%、0.025%等)であってもよい。
【0018】
別の好適な実施形態において、前記静菌剤は、具体的に、塩化ベンザルコニウム、エチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム及びポリクオタニウム-1から選択される1種以上であってもよく、好ましくは塩化ベンザルコニウム、より好ましくは、前記静菌剤の濃度は0.005~0.1%(例えば、0.01%、0.02%、0.05%等)である。
【0019】
活性成分に加えて、本発明の凍結乾燥製剤及び再構成希釈剤中の添加剤として上述した他の試薬は、実際の状況及び当業者の従来の知識に従って、単独に、任意に、又は互換的に凍結乾燥製剤及び/又は再構成希釈剤中に設定することができることを理解されたい。上記特定の成分又は化合物に加えて、本発明の点眼剤組成物は、実際の必要に応じて、更に他の薬学的に許容される賦形剤、担体又は希釈剤も含んでもよい。
本発明の点眼剤組成物のpHについては、本発明の点眼剤組成物が適切なpH値を有するように、前記凍結乾燥製剤及び再構成希釈剤のpHは独立して5.0~6.4であってもよく、より好ましくは前記pHが5.5程度であってもよい。
【0020】
一方、本発明は、更に、具体的に(a)前記凍結乾燥製剤における緩衝塩系を、アトロピン又はその薬学的に許容される塩と、並びに任意にスケルトン剤及び安定剤のうちの1種以上に接触させ、凍結乾燥して、前記凍結乾燥製剤を得る工程と、(b)前記再構成再構成希釈剤における緩衝塩系を、任意に浸透圧調整剤、キレート剤及び静菌剤のうちの1種以上に接触させて、前記再構成希釈剤を得る工程を含む、上記点眼剤組成物の調製方法を提供する。
【0021】
より具体的には、前記工程(a)は、例えば、(1)緩衝塩を専用の容器に秤量し、撹拌しながら溶液(例えば、10~25mMの濃度)を調製し、(2)マンニトール、ソルビトールを順次添加し、溶解後、硫酸アトロピンを加え、pHを調整(例えば、5.0~6.4)し、定容し、(3)滅菌濾過、(4)充填、及び(5)凍結乾燥等を行う手順を含む。前記工程(b)は、例えば、(1)緩衝塩を専用の容器に秤量し、撹拌しながら溶液(例えば、10~25mMの濃度)を調製し、(2)マンニトール、塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウムの溶液を順次添加し、撹拌して完全に溶解し、pHを調整(例えば 5.0~6.4)し、定容し、(3)滅菌濾過、及び(4)充填等を行う手順を含む。ここで、前記pH調整は、酸性溶液HCl又はアルカリ性溶液NaOHを添加することによって行うことができ、前記定容は、滅菌注射用水等の水を加えることによって所定の体積まで定容することができる。
【0022】
一方、本発明は、更に、(a)アトロピン又はその薬学的に許容される塩を含む凍結乾燥製剤、(b)再構成希釈剤、及び任意に(c)使用説明書を含み、前記凍結乾燥製剤と前記再構成希釈剤とが分離されている、眼科疾患を予防又は治療するためのキットを提供する。
【0023】
一方、本発明は、更に、前記凍結乾燥製剤と前記再構成希釈剤とを混合することを含むことを特徴とする、上記眼科疾患を治療するための点眼剤の調製における、有効量の点眼剤組成物の用途を提供する。
【0024】
より具体的には、本発明の一実施形態において、前記眼科疾患は、毛様体筋麻痺、散瞳、弱視、近視、又はそれらの組み合わせ、特に小児及び青少年の近視から選択される。
【発明の効果】
【0025】
本発明者の研究により、本発明の点眼剤組成物は凍結乾燥製剤と再構成解希釈剤との2つの部分からなるため、長期保存過程における溶液状態のアトロピン系薬剤の水分損失及び分解のリスクが低減され、長期保存過程におけるサンプルの安定性が保障されることが判明された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。ここで説明される具体的な実施形態は、本発明を例示及び説明するためにのみ使用され、本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0027】
本明細書に開示される範囲及び任意の値の端点は、正確な範囲又は値に限定されないが、これらの範囲又は値は、そのような範囲又は値に近づく値を含むものと理解されるべきである。数値範囲の場合、各範囲の端点値の間、各範囲の端点値と個々のポイント値との間、及び個々のポイント値の間を相互に組み合わせて、1つ以上の新しい数値範囲を取得することが可能であり、これらの数値の範囲は、本明細書において具体的に開示されているものとみなされるものとする。
【0028】
以下、特定の具体的な実施例により本発明の実施形態を説明するが、当業者であれば、本明細書に開示された内容から本発明の他の利点及び効果を容易に理解することができ、記載されている実施例は本発明の一部の実施例であって、すべての実施例ではないことは明らかである。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働を行うことなく得られる他の全ての実施例は、全て本発明の保護の範囲内に含まれる。
【0029】
以下の実施例では、下記表に示すような安定性基準を用いて凍結乾燥製剤、再構成希釈剤及び再構成点眼薬の安定性を測定し、本発明の製剤の安定性結果を判断する。
凍結乾燥製剤の安定性基準:
【0030】
【0031】
希釈剤の安定性基準:
【0032】
【0033】
点眼薬の安定性基準:
【0034】
【0035】
[実施例 1]
凍結乾燥製剤処方:
【0036】
【0037】
上記処方によって凍結乾燥製剤を調製し、安定性の結果が6ヵ月後も依然として要件を満たす場合は、該2つの処方がいずれも安定性の要件を満たすことができるということを示す。
【0038】
[実施例 2]
再構成希釈剤の処方
【0039】
【0040】
上記処方によって再構成希釈液を調製し、pHを6.0に調整した場合、安定性データは、安定期間内であり、2種の緩衝系におけるサンプルの安定性はいずれもより優れていることを示す。
【0041】
[実施例 3]
処方における塩化ベンザルコニウム濃度の決定
抗菌性効力試験 (AET) を用いて、硫酸アトロピン点眼薬中の塩化ベンザルコニウム(BAK)の添加濃度を検証する。100ppm、80ppm、50ppm、25ppm又は0ppmのBAK濃度を含有する8mlの再構成希釈液を用いて、凍結乾燥調製剤を再構成して、異なる塩化ベンザルコニウム濃度を有する硫酸アトロピン点眼薬(0.01%)を得る。その結果、0ppmを除く全ての試験濃度において、抗菌性効力試験の結果がいずれも規定に適合していることが判明された。
【0042】
【0043】
中国薬局方の判定基準によると、処方における塩化ベンザルコニウムの濃度が70ppmを超える場合、長期放置中に抗菌性効力「A」の標準要件を満たすことをより効果的に保障することができる。
【0044】
[実施例 4]
点眼剤組成物
1. 凍結乾燥製剤及び再構成希釈剤の処方は下記表に示すとおりである。
【0045】
【0046】
2. プロセスフロー:
凍結乾燥製剤の調製:(1)緩衝塩を秤量し、適切な容器に加え、注射用水を加え、完全に溶解するまで20分間撹拌し、pHを調整し、注射用水を加えて定容し、(2)一定量の緩衝液を調製容器に称量し、その他の賦形剤を順次添加し、目視確認後、硫酸アトロピンを加えて撹拌しながら溶解し、pHを目標値に調整する。
【0047】
再構成希釈剤の調製:(1)緩衝塩を称量し、適切な容器に加え、注射用水を加え、完全に溶解するまで撹拌し、(2)その他の賦形剤を順次添加し、撹拌しながら溶解し、(3)pHを調整し、定容する。
【0048】
3. 安定性の結果
【0049】
上記の安定性基準及び測定結果によると、凍結乾燥製剤及び再構成希釈剤を25℃±2℃/60%RH±5%RHの条件で12ヶ月、40℃±2℃/75%RH±5%の条件で6ヵ月放置したところ、安定性の結果はいずれも良好であった。再構成後、点眼薬を25℃/60%RHの条件で8週間放置したところ、安定性の結果は良好であった。
【0050】
上記実施例1~4の結果から分かるように、本発明により提供される点眼剤組成物は、良好な安定性を有する。即ち、アトロピン点眼薬を単独で凍結乾燥製剤に調製することによって、溶液としての安定性が低下する問題を効果的に解決することができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の簡単な変更が可能であり、これらの簡単な変更は全て本発明の保護範囲に属する。
【0052】
また、上記具体的な実施形態で説明した各具体的な技術的特徴は、矛盾のない限り、任意の適切な形態で組み合わせることが可能であり、不必要な重複を避けるために、本発明は、様々な可能な組み合わせの方法については、別途説明を省略するものとする。
【0053】
また、本発明の様々な実施形態の間も任意に組み合わせることが可能であり、本発明の思想に反しない限り、それらも同様に本発明の開示内容としてみなすべきである。
【国際調査報告】