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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-13
(54)【発明の名称】試験体のNDT試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/42 20060101AFI20240502BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01N29/42
G01N29/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572937
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2021063910
(87)【国際公開番号】W WO2022248026
(87)【国際公開日】2022-12-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503003234
【氏名又は名称】プロセク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】トマシュ チェスラ
(72)【発明者】
【氏名】ツェンギズ トゥグサフ キュプシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラミン アザギコツァン
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ カバジェロ
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AA10
2G047AA11
2G047BC18
2G047CA03
2G047GG12
2G047GG17
(57)【要約】
本発明は、音響波によって試験体を非破壊検査する方法に関する。本方法は、(S2)試験体(4)と機械的に接触する測定位置にある検査装置(5)から、試験体(4)を伝播した音響波を示す生データを受信するステップと、(S3)少なくとも第1および第2の処理アルゴリズムによって生データを処理するオプションを提供するステップと、(S4)第1および第2の処理アルゴリズムの少なくとも一方によって生データを処理するステップと、を含む。第1の処理アルゴリズムは、音響波の多重反射から試験体(4)に関する情報を導出することを含む。第2の処理アルゴリズムは、音響波の単一の反射の移動時間から試験体(4)に関する情報を導出することを含む。さらに、本発明は、検査装置を含む、本方法を実施するためのシステムに関する。この検査装置は、ハウジング(1)と、ハウジング(1)から突出し、キャビティ(25)を含む接触要素(2)と、キャビティ(25)に取り付けられた音響波センサ(3、51)と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響波によって試験体を非破壊検査する方法であって、
(S2)前記試験体(4)と機械的に接触する測定位置にある検査装置(5)から、前記試験体(4)を伝播した音響波を示す生データを受信するステップと、
(S3)少なくとも第1および第2の処理アルゴリズムによって前記生データを処理するオプションを提供するステップと、
(S4)前記第1および前記第2の処理アルゴリズムの少なくとも一方によって前記生データを処理するステップと、
を含み、
前記第1の処理アルゴリズムは、前記音響波の多重反射から前記試験体(4)に関する情報を導出することを含み、
前記第2の処理アルゴリズムは、前記音響波の単一の反射の移動時間から前記試験体(4)に関する情報を導出することを含む、
方法。
【請求項2】
前記第1の処理アルゴリズムは、特に、前記生データにフーリエ変換を適用することにより、前記生データの周波数スペクトルを決定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の処理アルゴリズムは、少なくとも15kHzまで、特に、少なくとも20kHzまでの周波数を有する前記生データの周波数成分を使用することを含む、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の処理アルゴリズムは、前記周波数スペクトルにおける卓越周波数成分を決定することを含む、
請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記検査装置(5)から、複数の異なる測定位置からの生データを受信するステップと、
測定位置ごとの前記卓越周波数成分を含むデータセットを収集するステップと、
特に、前記データセットをヒートマップとして表示するステップと、
をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記データセット内の他の卓越周波数成分から逸脱した卓越周波数成分を検出するステップと、
特に、前記逸脱した卓越周波数成分を、対応する前記測定位置に位置する欠陥に帰着させるステップと、
をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の処理アルゴリズムは、前記試験体(4)の厚さを、特に、前記卓越周波数成分に基づいて、決定することを含み、
特に、前記試験体(4)は、前記音響波が板状形状に対して横方向に伝搬する前記板状形状を有する、
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第2の処理アルゴリズムが、前記生データを時間領域で評価することを含む、
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第2の処理アルゴリズムは、10kHzまで、特に100Hzを超える周波数を有する前記生データの周波数成分を使用することを含む、
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記第2の処理アルゴリズムが、前記移動時間に基づいて前記試験体(4)の長さを決定することを含み、
特に、前記試験体(4)は、前記音響波が杭状形状の長手方向の延長線上を伝搬する前記杭状形状を有する、
請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記試験体(4)上の衝撃位置において、特にインパクターを前記試験体に衝突させることにより、前記音響波を発生させること、
をさらに含む、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記音響波を発生させることは、手で、特に衝撃ハンマーで前記試験体(4)を叩くことを含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記音響波を発生させることが、前記試験体(4)を打撃するための自動インパクターを作動させることを含み、
特に、前記衝撃位置が、前記測定位置から既知の距離に位置し、
特に、
前記既知の距離に基づいて、前記試験体(4)における音速を決定すること、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記衝撃位置において前記音響波を反復的に発生させ、それにより複数の生信号を生成することと、
特に、前記移動時間を決定する前に、1つの測定位置における前記複数の生信号を平均化することと、
をさらに含む、請求項11乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
音響波センサ(3、51)を備える検査装置(5)と、
請求項1乃至14のいずれかに記載の方法のステップを実行するように適合された手段(6)と、
特に、前記第1の処理アルゴリズムを実行するように適合された第1の処理手段(61)および前記第2の処理アルゴリズムを実行するように適合された第2の処理手段(62)と、
を備える、検査システム。
【請求項16】
請求項15に記載の検査システムに、請求項1乃至14のいずれかに記載の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項17】
特に請求項15に記載の検査システムのための検査装置であって、
ハウジング(1)と、
前記ハウジング(1)から突出し、キャビティ(25)を含む接触要素(2)と、
前記キャビティ(25)内に取り付けられた音響波センサ(3、51)と、
を備える、検査装置。
【請求項18】
前記接触要素(2)は、板状の形状を有する、
請求項17に記載の検査装置。
【請求項19】
前記接触要素(2)は、特に金属製、特に鋼製の一体構造からなる、
請求項17または18に記載の検査装置。
【請求項20】
前記ハウジング(1)から突出する前記接触要素(2)の一部が、円錐形または丸みを帯びた形状を有し、
特に、前記接触要素(2)の前記突出部は、前記ハウジング(1)から少なくとも2mm突出している、
請求項17乃至19のいずれかに記載の検査装置。
【請求項21】
前記接触要素(2)は、前記接触要素(2)と前記ハウジング(1)との間の減衰要素(32、34)、特に少なくとも1つのOリングまたは減衰接着剤を介して、前記ハウジングから機械的に切り離されている、
請求項17乃至20のいずれかに記載の検査装置。
【請求項22】
前記接触要素(2)が、前記ハウジング(1)の対応する切り欠き部に保持される突出部(33)を備え、
特に、前記突出部(33)が前記接触要素(2)の円周方向側面から延びている、
請求項17乃至21のいずれかに記載の検査装置。
【請求項23】
前記突出部(33)は、前記減衰要素(32,34)、特に、少なくとも1つまたは2つのOリングによって、前記切り欠き部に保持されている、
請求項22に記載の検査装置。
【請求項24】
前記接触要素(2)の直径は、10mmから50mmの間、特に20mmから30mmの間である、
請求項17乃至23のいずれかに記載の検査装置。
【請求項25】
前記音響波センサ(3、51)は、前記接触要素(2)の衝撃方向に沿って延在する前記キャビティ(25)の壁に取り付けられ、特に接着される、
請求項17乃至24のいずれかに記載の検査装置。
【請求項26】
前記音響波センサ(3,51)は、グローブトップによって前記キャビティに取り付けられている、
請求項17乃至25のいずれかに記載の検査装置。
【請求項27】
前記キャビティ(25)がスロット状の形状を有し、
特に、前記キャビティ(25)の幅が5mm以下であり、長さが少なくとも10mmである、
請求項17乃至26のいずれかに記載の検査装置。
【請求項28】
前記音響波センサ(3、51)は、MEMSまたはピエゾ型加速度センサ、特に容量型MEMS加速度センサである、
請求項17乃至27のいずれかに記載の検査装置。
【請求項29】
前記音響波センサ(3、51)は、可撓性キャリア(31)またはワイヤ、特にフレックスプリント上に配置され、
特に、前記可撓性キャリア(31)は、前記接触要素(2)の衝撃方向に沿って延在している、
請求項17乃至28のいずれかに記載の検査装置。
【請求項30】
前記音響波センサ(3、51)によって測定された音響波を示す生データは、ゼロから少なくとも15kHzまでの周波数範囲、特に少なくとも20kHzまでの周波数範囲をカバーする、
請求項17乃至29のいずれかに記載の検査装置。
【請求項31】
前記音響波センサ(3、51)によって測定された音響波を示す生データを送信するように構成された通信モジュール(14、15、52)、特にブルートゥース(登録商標)送信機をさらに含む、
請求項17乃至30のいずれかに記載の検査装置。
【請求項32】
前記接触要素(2)が前記ハウジング(1)の第1の端部(18)に取り付けられており、
前記ハウジング(1)が、前記第1の端部(18)と第2の端部(17)との間に延在し、
前記第1の端部と前記第2の端部との間に延在する前記ハウジング(1)の一部が、1cmから10cmの間の直径、および5cmから15cmの間の長さを有する、
請求項17乃至31のいずれかに記載の検査装置。
【請求項33】
前記装置は、アクチュエータまたはインパクターを備えていない、
請求項17乃至32のいずれかに記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響波によって試験体を非破壊検査する方法、検査システムおよび検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査(NDT)の分野では、コンクリート、木材、金属などからなるスラブ、舗装、壁、デッキ、杭、立坑などの人工構造物を調べるために音響波が一般的に使用されている。構造物は、その形状によって、スラブ、舗装、壁、デッキなどの板状構造物と、杭や立坑などの杭状構造物に分類することができる。構造物について取得される情報には、(板状)構造物の厚さ、(杭状)構造物の長さ、構造物の一般的な内部特性(欠陥など)が含まれる。
【0003】
音響波による構造物の検査原理は、板状の構造物にも杭状の構造物にも適用できるが、音響波を測定するための装置や、測定したデータを処理する方法は、従来、2つのカテゴリーの構造物で異なっていた。
【0004】
インパクトエコー(IE)は、板状の構造物を伝搬し、内部の欠陥や外表面によって反射される衝撃によって発生する応力(音響)波を利用したNDT手法である。インパクトエコーは、スラブ、舗装、壁、デッキなどの薄いコンクリート構造物の厚さを評価したり、ひび割れ、剥離、ボイド、ハニカム、剥離などの欠陥を特定したりするために使用できる。音響波の発生には、一般的に鋼球インパクターが使用される。球の直径は通常、構造物の想定される厚さに応じて選択される。IEは、短時間に複数の波の反射を測定することに基づく。その結果、IEプローブは高周波数、例えば10kHz以上、特に約30kHzまで測定できなければならない。そして、測定された音響波を周波数領域で分析することにより、構造物の健全性を判定する。
【0005】
杭の健全性試験(PIT)は、低ひずみ動的試験や低ひずみ健全性試験とも呼ばれ、杭や立坑の健全性を評価するために用いられる非破壊検査法である。この方法は、主に土木工学において、木材の立坑や深礎に使用されるようなコンクリート杭の健全性評価に適用されるが、これに限定されるものではない。インパクトエコーと同様、この方法は衝撃によって発生する応力(音響)波に基づく。音響波は一般に、プローブの隣にある杭の頂部でハンマーを使って発生させる。取得された信号は、最初の衝撃から、杭の底や杭の欠陥から反射された波までの伝播時間、即ち移動時間を示している。PITでは、波はIEよりも長い距離を移動するため、一般に反射波はわずかしか捕捉されない。その結果、PITプローブは通常、100Hzから10kHzといった低い周波数で性能を発揮する。その後、時間領域の波形を分析することにより、構造物の健全性が判定される。
【0006】
IEとPITの2つの分野が分かれており、要求も異なっているため、一方の分野で使用されるプローブや処理アルゴリズムは、他方の分野には適さず、その逆もまた然りである。このため、板状の構造物と杭状の構造物の両方を調べようとする検査員は、2種類の装置、即ちプローブと処理アルゴリズムを用意する必要があり、非現実的でコストがかかるという欠点がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、したがって、音響波によって試験体を非破壊的に試験するための改良された方法および装置を提供することであり、特に、このような方法および装置の適用範囲を拡大すること、特に、試験体の異なるタイプおよび形状に適用することである。
【0008】
試験体の種類と形状の違いは、以下のように定義できる。
【0009】
特に「板状」とは、試験体の2つの横方向寸法が、試験体の深さ方向の寸法よりも著しく大きいこと、例えば少なくとも2倍または3倍大きいことを意味する。板状の試験体は、例えばスラブ、舗装、壁、デッキなどである。これらは通常、コンクリート製、鉄筋コンクリート製、岩石製である。
【0010】
特に、「杭状」とは、試験体の深さ寸法が、試験体の2つの横方向寸法よりも著しく大きいこと、例えば2倍または3倍大きいことを意味する。杭状の試験体とは、例えば杭や立坑である。これらは通常、コンクリート製、金属製、特に鉄製や鋼製、木材製である。
【0011】
板状および杭状の試験体はいずれも、水平面内、即ち2つの水平方向に広がる平面内において任意の形状を有することができる。特に、水平面内の形状は、円形、矩形または正方形である。さらに、水平面内の形状、換言すれば水平面内の断面は、深さ方向に沿って可変であってもよい。
【0012】
板状の試験体および杭状の試験体のいずれの場合も、測定位置、特に音響波を発生させるための衝撃位置は、試験体の測定側に位置し、特に水平面と実質的に一致する。
【0013】
試験方法
本発明の第1の態様によれば、この問題は、音響波によって試験体を非破壊的に試験する方法によって解決される。この方法は、試験体と機械的に接触している測定位置にある検査装置から、試験体を通って伝播した音響波を示す生信号を受信するステップを含む。音響波を発生させるために、本方法は、試験体上の衝撃位置で音響波を発生させるステップ、特に手持ちハンマーや鋼球のようなインパクターにより試験体に衝撃を与えることによって音響波を発生させるステップを含んでよい。このような衝撃は、幅広い周波数の音響波を発生させる。
【0014】
音響波が試験体内を伝播する際、減衰、反射、散乱される。これらの影響は周波数に依存する場合があり、即ち音響波の異なる周波数成分に異なる影響を与える場合がある。試験体に関する情報、例えば試験体の厚さや長さ、あるいは試験体内の欠陥や音速などの材料特性を取得するために、特に反射された音響波が処理される。このような反射波は、試験体内の1つまたは複数の不連続面、例えばキズ、層、または試験体の境界で反射されることがある。したがって、これらはそれぞれ単反射、多重反射と呼ばれる。試験体の材質、寸法、形状にもよるが、反射波の卓越周波数成分は100Hzから30kHzの範囲にある。典型的な板状の試験体では、反射波の卓越周波数成分は5から30kHzであるが、典型的な杭状の試験体では、移動経路が長いため高い周波数成分の減衰が大きく、卓越周波数成分は100Hzから6kHzである。
【0015】
本方法は、さらに、
少なくとも第1および第2の処理アルゴリズムによって生データを処理するオプションを提供するステップと、
第1および第2の処理アルゴリズムの少なくとも一方によって生データを処理するステップと、を含み、
第1の処理アルゴリズムは、音響波の多重反射から試験体に関する情報を導出することを含み、
第2の処理アルゴリズムは、音響波の1回の反射の移動時間から試験体に関する情報を導出することを含む。
【0016】
第1の処理アルゴリズムは、板状の試験体に関する情報を取得するのに適してよい。特に、第1の処理アルゴリズムは、インパクトエコー試験で使用されるアルゴリズム、例えば、従来のIEアルゴリズムであってもよい。
【0017】
第2の処理アルゴリズムは、杭状の試験体に関する情報を取得するのに適している。特に、第2の処理アルゴリズムは、杭の健全性試験で使用されるアルゴリズム、例えば従来のPITアルゴリズムであってもよい。2種類のアルゴリズムについては、次の章で詳述する。
【0018】
本方法に従って検査装置から受信した生データは、第1および/または第2の処理アルゴリズムによって処理されることが好ましい。これは、板状の試験体および杭状の試験体の両方のデータ取得に同じ検査装置を使用できることを意味する。要件は、上述のように、関連する周波数範囲の音響波に対して感度が高い装置であることである。適切な生データを取得できる装置の例を以下に示す。
【0019】
一実施形態において、本方法はコンピュータに実装され、例えばGUIによって、生データを処理するオプションをユーザに提供する。その後、ユーザは、生データを処理するための第1または第2の処理アルゴリズムのいずれかを選択するよう求められる場合がある。あるいは、本方法は、生データの特徴、例えば周波数範囲、卓越周波数成分、またはデータ中の反射波の移動時間に基づいて、第1または第2の処理アルゴリズムを自動的に選択するステップを含んでいてもよい。別の実施形態において、本方法は、第1および第2の処理アルゴリズムの両方によって生データを処理することを含むことができる。これは例えば、両方のアルゴリズムによって処理されたデータを、例えば周波数領域および時間領域で、例えばGUIによってユーザに表示することを含む。
【0020】
板状の試験体
第1の処理アルゴリズムは、板状試験体上で取得された生データを処理するように適合されたアルゴリズム、例えばIEアルゴリズムであってもよい。したがって、第1の処理アルゴリズムは、特に生データにフーリエ変換を適用することによって、生データの周波数スペクトルを決定することを含んでよい。さらに、第1の処理アルゴリズムは、少なくとも15kHzまで、特に少なくとも20kHzまでの周波数を有する生データの周波数成分を使用することを含んでもよい。これは、反射波が試験体内を横方向に伝播する深さ寸法が1cmまたは10cmから1mのオーダーである試験体の板状形状に起因する。
【0021】
一実施形態において、第1の処理アルゴリズムは、周波数スペクトルにおける卓越周波数成分を検出することを含む。特に、卓越周波数成分は、最大周波数成分、即ち、規定された周波数範囲、例えば5から30kHzの間で最も振幅が大きいフーリエ成分として定義することができる。あるいは、周波数スペクトルの包絡線平均または窓付き(windowed)平均の最大値を、定義された周波数範囲などで求めることによって、卓越周波数成分を決定することもできる。
【0022】
本方法は、検査装置から、複数の異なる測定位置からの生データを受信するステップと、測定位置ごとの卓越周波数成分を含むデータセットを収集するステップと、をさらに含むことが好ましい。このようなデータセットは、特にヒートマップとして表示することによって視覚化することができる。このことは、検査装置による生データが、試験体の測定側における異なる測定位置で、例えば互いに1から50cmの間隔をおいて取得されることを意味する。通常、衝撃位置は測定位置と一緒にシフトされる。一般に、衝撃位置は測定位置の近傍にあり、例えば測定位置から1~50cmの間、特に10~20cmの間の距離を有する。
【0023】
生データから試験体に関する情報を取得するために、本方法は、データセット内の他の卓越周波数成分から逸脱している卓越周波数成分を検出するステップをさらに含むことができる。「逸脱している」とは、特に、卓越周波数成分の平均値、例えば平均値や中央値から、ある閾値、例えば標準偏差や一定のパーセンタイル、例えば10%や90%のパーセンタイル以上、逸脱していることと定義できる。特に、逸脱した卓越周波数成分は、対応する測定位置に位置する欠陥、例えばクラック、剥離、ボイド、ハニカムおよび剥離に起因する可能性がある。このような逸脱した卓越周波数成分の検出は、上述したように、測定位置上のヒートマップとして可視化されたデータを評価することなどにより、ユーザが手動で行うこともできる。
【0024】
あるいは、第1の処理アルゴリズムは、特に卓越周波数成分に基づいて、試験体の厚さを検出することを含んでもよい。これは、試験体が、音響波が板状形状に対して横方向に伝播する板状形状を有する場合に特に有効である。
【0025】
杭状試験体
第2の処理アルゴリズムは、杭状試験体上で取得された生データを処理するように適合されたアルゴリズム、例えばPITアルゴリズムであってよい。したがって、第2の処理アルゴリズムは、生データを時間領域で評価することを含んでよい。さらに、第2の処理アルゴリズムは、生データの周波数成分を10kHzまで、特に100Hzから10kHzの間で使用することを含んでよい。これは通常、杭状構造物における音響波の単一反射の周波数範囲であり、音響波は杭状形状の長手方向に沿って伝播する。特に、このような杭状構造物の深さの寸法は、典型的には長手方向に平行であり、1から50mのオーダーである。
【0026】
第2の処理アルゴリズムは、音響波の1回の反射の移動時間に基づいて試験体の長さを決定することを含んでよい。試験体は、音響波が長手方向に沿って伝播する杭状の形状を有すると仮定する。この場合、1回の反射は、測定側とは反対側の試験体の底面、または試験体内の欠陥で生じる場合がある。
【0027】
移動時間または周波数の測定値から試験体の長さまたは厚さを決定するための要件は、試験体内の音速が既知であることである。したがって、音速は試験体の材質の標準値として入力することができる。あるいは、本方法は、既知の距離にわたる、例えばインパクターと測定位置の間の測定側に沿った移動時間の測定値から、あるいは衝撃位置から既知の長さの試験体を通って測定位置に戻る移動時間の測定値から、音速を推定することを含んでもよい。
【0028】
音響波の発生
上述したように、本方法は、特にインパクターを試験体に衝突させることにより、試験体の衝突位置で音響波を発生させることを含む。音響波は、例えば、特に衝撃ハンマーを用いて手で試験体を打撃することにより発生させることができる。このような衝撃ハンマーは、10cmから30cmの大きさ、特に300gから3kgの重さを有していてもよい。
【0029】
あるいは、音響波を発生させることは、自動インパクターを作動させて試験体を打撃させることを含んでもよい。このようなインパクターは、バネを装填した試験錘を備えてよい。衝撃位置が測定位置から既知の距離に位置する場合、例えば、インパクターが検査装置に取り付けられ、それによって衝撃位置と測定位置との間の既知の距離が定義されるため、本方法は、既知の距離に基づいて試験体内の音速を決定することをさらに含むことができる。直接到来波が評価される場合、即ち測定面に沿って伝播する表面波が評価される場合、表面波の速度と試験体内の音速を一致させるために補正係数を適用する必要がある。
【0030】
一実施形態において、特に杭状構造物のデータを取得する場合、本方法は、衝撃位置で音響波を反復的に発生させ、それにより複数の生信号、特に測定位置ごとに複数の生信号を発生させることをさらに含む。その後、複数の生信号を、特に移動時間を決定する前に、測定位置ごとに平均化することができる。これにより、データの信号対雑音比が改善され、反射波の到達時間、ひいては移動時間がより正確に決定される。
【0031】
検査システム
本発明の第2の態様は、
音響波センサを含む検査装置と、(このような検査装置の一実施形態を以下に詳述する。)
上述した方法のステップを実行するように適合された手段と、(このような手段には、CPUやFPGAなどの処理手段を含めることができる。)を含む検査システムに関する。さらに、この手段は、検査装置と通信可能なパーソナルコンピュータ、ラップトップまたはタブレットコンピュータであってもよい。好ましくは、この手段は、生データおよび/または処理されたデータのグラフ表示をユーザに表示するように構成されたディスプレイを含む。
【0032】
特に、システムは、第1の処理アルゴリズムを実行するように適合された第1の処理手段と、第2の処理アルゴリズムを実行するように適合された第2の処理手段と、を備えることができる。
【0033】
さらに、検査システムは、上述したような自動インパクターを備えてよい。自動インパクターは、好ましくは処理手段、例えばタブレットコンピュータと通信する。特に、自動インパクターは、インパクターが試験体に衝突したときに処理手段に作動信号を送信するように構成されている。これは、移動時間を決定するための開始時間として使用することができる。
【0034】
また、上述した方法は、コンピュータプログラムによって実施することができる。そして、コンピュータプログラムは、検査システムに方法のステップを実行させる命令を含んでいてもよい。
【0035】
検査装置
本発明の第3の態様は、特に上記の検査システム用の検査装置に関する。システムおよび方法に関して説明した全ての特徴は、検査装置にも適用できることを意味し、その逆もまた同様である。
【0036】
この検査装置は、次のものを含む。
- 例えばプラスチック製のハウジング。特に、ハウジングは保護筐体であり、例え、防滴、防塵である。ハウジングは、ユーザが容易かつ確実に把持できる人間工学的形状を有し、例えばグリップを備えていてもよい。
- ハウジングから突出し、空洞を構成する接触要素:特に、接触要素は、測定位置で試験体に機械的に接触するように、例えば押し付けられるように適合されている。接触要素は、好ましくは板状の形状を有する。特に、接触要素は、特に金属、より詳細にはステンレス鋼の一枚板からなり、コンクリートと接触しても腐食しないことが好ましい。一実施形態において、ハウジングから突出する接触要素の一部は、円錐形または丸みを帯びた形状または平坦な形状を有する。これらの各特徴は、試験体内の音響波を正確に、特に高感度で測定するために、接触要素と試験体との良好な機械的連結に寄与する。別の実施形態においては、接触要素は装置の底面を完全に覆うことができ、このようにハウジングから「突出」している。さらに、特にPIT測定においては、パテやゲルのような追加のカプラントを接触要素や測定位置の試験体に塗布することで、連結をさらに改善し、感度を向上させることができる。
- キャビティに取り付けられた音響波センサ:好ましくは、音響波センサはキャビティの壁、特に接触要素の衝撃方向に沿って延在する壁に取り付けられ、特に接着される。これにより、波動センサと接触要素、ひいては試験体との良好な連結が可能になり、特に広い周波数範囲、例えば1~30kHz、特に5~20kHzで高い感度が得られる。また、この周波数範囲では、センサの固有振動やセンサと接触要素のシステムの固有振動に起因するスプリアス周波数を回避することができる。
【0037】
音響波センサは、上記の周波数範囲の振動を測定するのに適した任意のセンサとすることができる。好ましくは、音響波センサはピエゾまたはMEMS加速度センサ、特に容量型MEMS加速度センサである。このようなMEMS加速度センサは感度が高く、所要の周波数範囲をカバーする。特に、音響波センサによって測定された音響波を示す生データは、ゼロから少なくとも15kHz、特に少なくとも20kHzの周波数範囲をカバーすることができる。
【0038】
一実施形態において、音響波センサは、例えばハウジングからキャリアを経由してセンサへの振動の伝達を避けるために、可撓性キャリアまたはワイヤ、特にフレックスプリント上に配置される。さらに、このようなキャリアは、キャリアの固有振動が所要の周波数範囲に存在することを回避する。この点で、可撓性キャリアが接触要素の衝撃方向に沿って延在することも好ましい。
【0039】
さらに、接触要素は、接触要素とハウジングとの間の減衰要素を介して、ハウジングから機械的に切り離され得る。特に、減衰要素は、接触要素に到達する前に、ハウジングの振動の振幅を少なくとも50%、特に少なくとも90%減衰させることができる。実施形態において、減衰要素は、例えばゴム製の少なくとも1つのOリングを備えていてもよい。さらなる実施形態では、減衰要素は、減衰接着剤を含んでもよい。
【0040】
さらに、接触要素は、ハウジングの対応する切欠き部に保持された突出部を備えることができる。特に、突出部は接触要素の円周側面から延びている。これにより、機械的に切り離しながらも、接触要素をハウジング内に防滴・防塵状態で取り付けることが容易になる。このような実施形態では、突出部は、減衰要素によって、特に少なくとも1つまたは2つのOリングによって、切り欠き部に保持され得る。
【0041】
一実施形態において、接触要素の直径は10~50mm、特に20~30mmである。接触要素の高さは5~15mmとすることができる。このような接触要素は、そうでなければ生データのスプリアス周波数につながる関連周波数範囲での固有振動を持たない。
【0042】
接触要素の突出部は、ハウジングから少なくとも2mm突出していることが好ましい。これにより、検査装置を試験体に押し付けて良好な連結を確保する場合でも、ハウジングではなく接触要素のみが試験体と接触する。
【0043】
キャビティはスロット状の形状を有していることが好ましく、特にキャリア上の音響波センサの形状に適合していることが好ましい。特に、キャビティは、5mm以下、特に3mm以下の幅と、少なくとも10mmの長さを有していてもよい。さらに、キャビティは5mmから10mmの間の深さを有し、および/または丸みを帯びたエッジを有することができる。センサをキャビティに容易に固定するために、音響波センサはグローブトップによってキャビティに取り付けることができる。これらの寸法と特徴は、やはり、センサによって取得される生データにおけるスプリアス周波数を回避し、装置を堅牢にする。
【0044】
一実施形態では、接触要素はハウジングの第1の端部に取り付けられ、ハウジングは第1の端部と第2の端部との間に延在する。第1の端部と第2の端部との間に延在するハウジングの一部は、1~10cmの間、特に4~7cmの間の直径または幅を有することができる。第1の端部と第2の端部との間に延在するハウジングの部分の長さは、5~15cm、特に7~10cmとすることができる。このようなハウジングは小型であり、片手で容易かつ安全に握ることができる。
【0045】
有利なことに、装置はアクチュエータやインパクターを備えていない。これにより、アクチュエータまたはインパクターによって発生した振動が装置内部、例えばハウジングに沿って伝播し、測定データに影響を与えることを回避することができる。しかしながら、検査システムは、検査装置に加えてアクチュエータまたはインパクターを備えてもよい。アクチュエータまたはインパクターは、インパクタハウジングに取り付けることができる。実施形態では、インパクタハウジングは、好ましくは規定された距離をおいて、特にインパクタハウジングと検査装置のハウジングとの間に減衰要素を設けて、インパクターからの振動がセンサに到達して測定データに悪影響を及ぼすことを回避するように、検査装置に取り付けることができる。
【0046】
好ましい実施形態では、検査装置は、音響波センサによって測定された音響波を示す生データを送信するように構成された通信モジュール、特にブルートゥース(登録商標)送信機または他の無線送信機をさらに備える。生データは、ラップトップまたはタブレットコンピュータなどの処理手段によって受信され、上記の方法に従って処理される。
【0047】
記載された特徴から明らかなように、このような検査装置は幅広い適用範囲を持つ。特に、このような装置はPITだけでなくIE用のデータ取得にも使用できる。これにより、ユーザは、杭状構造物だけでなく板状構造物も検査することができる一方で、1つの装置のみを購入し、持ち運び、維持することができる。
【0048】
その他の好ましい実施形態は、以下の説明と同様に、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明は、以下の詳細な説明により、より良く理解され、上記以外の目的も明らかとなるであろう。このような説明は、添付の図面を参照する。
図1図1は、本発明の一実施形態による検査装置の斜視図である。
図2図2は、開いた状態の図1の検査装置の要素を示す。
図3図3は、図1の検査装置の切断面を示す。
図4図4は、開いた状態の図1の検査装置の一部を示す。
図5図5は、図1の検査装置の切断面の詳細を示す。
図6図6は、本発明の実施形態による検査装置およびシステムを示す。
図7図7は、本発明の実施形態によるNDT検査方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、本発明の検査装置の一実施形態を示す斜視図である。この装置は、例えばプラスチック製のハウジング1を備える。使い易くするために、特に握り易くするために、ハウジング1は、例えばスイス十字形のノブ12を備え、このノブは、好ましくはプラスチック製またはゴム製である。さらに、ハウジング1には、装置を安全に保持するために使用されるリボンを取り付けるための、例えばループ状の固定部11が設けられている。
【0051】
接触要素(図1には示されていない)を有する底面側18とは反対側に位置するハウジングの上面側17には、様々な制御要素および入出力要素が配置されている。一般に、本装置は、本装置のスイッチをオン/オフするように構成されたボタン13を備えることができる。ボタン13はさらに、音響波センサ(図1には示されていない)を制御するように構成されてもよく、特にボタン13は、音響波センサを作動させて測定を開始するように構成されてもよい。これは、他の測定作動方法、例えば装置の電源が入っている間中測定する方法と比較して、関連するデータのみが取得されるため、データの処理が簡素化されるという利点がある。特に、処理中に、関連データが位置する時間ウィンドウを定義する必要がなくなる。
【0052】
一般に、本装置は、「オン」または「測定」など、装置の動作状態を示すように構成されたインジケータ、例えばLEDを備えることができる。このようなインジケータは、ボタン13に含めることができる。好ましくは、ボタン13は、上述のように、装置のワンボタン制御を容易にする。
【0053】
上面側17において、本装置はさらにブルートゥース(登録商標)モジュール14およびUSBコネクタ15を備えており、両者は、例えば、測定された生データを処理ユニットに送信するための通信モジュールとして機能する。USBコネクタ15は、本装置の電源となる充電式バッテリーの充電にも使用できる。このような充電式バッテリー(図2参照)は、ノブ16によってハウジング1を開けて交換することができる。
【0054】
ボタン13、ブルートゥース(登録商標)モジュール14、およびUSBコネクタ15は、図1では、本装置の容易なアクセスおよび使いやすさのために、ハウジングの上面側17に配置されている。しかしながら、これらの各要素、特にボタン13は、上面側17と下面側18の中間に位置するハウジング1の側壁など、他の場所に配置することもできる。
【0055】
図2は、ハウジング1の側壁を取り除いた図1の検査装置を示している。特に、ハウジング1の底部23と頂部24のみが示されている。したがって、本装置の内部要素が見える。本装置は、接触要素2を備えており、この接触要素は、本実施形態においては、板状の形状を有し、水平面において実質的に円形の断面を有している。接触要素2はスチール製で、音響波を測定するために試験体に機械的に連結するように構成されている。
【0056】
接触要素2は、ハウジングにねじ止めされた固定要素21によって、ハウジング1、特に底部23に取り付けられている。好ましくは、接触要素2は、減衰要素(例えば図5参照)を介してハウジングに取り付けられ、上述のようにハウジングから機械的に切り離される。
【0057】
本装置はさらに、電源としてバッテリー22、例えば、上述したような充電式バッテリーを備えている。
【0058】
図3には、上述したのと同じ要素を備えた装置の切断面が示されている。特に、図3は、固定部11がハウジング1の凹部とその凹部を貫通する小さなロッドによって形成され、それによって例えばリボンを取り付けるためのループが形成される様子を示している。
【0059】
接触要素2は、突出部を備え、この突出部は、ハウジング1から、特にハウジングの底部23から、例えば少なくとも2mm突出している。突出部は、丸みを帯びた形状を有し、あるいは円錐形であってもよい。これにより、接触要素と試験体との良好な連結が保証される。
【0060】
さらに、接触要素2は、音響波センサ(図3には示されていない)を取り付けるためのスロットの形態のキャビティ25を備える。キャビティ25の形状および寸法は、音響波センサの形状および寸法に適合されていることが好ましい。代表的な寸法は上記の通りである。
【0061】
図4は、接触要素2と、接触要素2のスロット内の可撓性キャリア31に取り付けられた音響波センサ3を備えたハウジングの底部23を示している。センサ3はMEMS加速度センサであり、上述のように高感度で周波数範囲が広い。あるいは、センサ3は、上述のように、例えば板状および杭状の試験体を試験するために、関連する周波数範囲の音響波を感知するように構成された、異なるタイプの、例えば圧電センサであってもよい。
【0062】
センサ3は、全体がキャビティ25内に取り付けられていることが好ましい。換言すれば、センサ3のいかなる部分もキャビティ25から突出していない。さらに、センサ3はキャビティに、特に接触要素2の衝撃方向に平行なキャビティの少なくとも1つの側壁に固定して接着される。これは特に、センサ3およびキャビティ25を覆うグローブトップによって達成することができる。接触要素2にセンサ3を取り付けるこのような方法は、センサ3がスプリアス周波数、即ち、例えばセンサ3自体またはキャリア31の振動から、試験体内の音響波を示さない信号を拾うことを回避する。
【0063】
キャリア31は、音響波センサ3に接続するリード線を備え、特にセンサ3と通信モジュールおよびバッテリーを接続する。キャリア31は可撓性を有すること、例えばフレックスプリントであることが好ましいが、これは、これにより、例えばハウジングからのスプリアス振動がキャリアを介してセンサ3に伝播するのを最小限に抑えることができるからである。
【0064】
図5は、前掲の図の装置の下部を切断したものである。接触要素2は、固定要素21を介してハウジングの底部23に取り付けられている。この目的のため、接触要素2は円周方向の突出部33を備え、この突出部33は固定要素21によってハウジング、特に底部23に保持される。概して、突出部33は接触要素2の全周に亘って延在することなく、円周の一部のみを覆うようにしてもよい。あるいは、接触要素2は、接触要素2をハウジングに取り付けるのに適合した複数の突起を備えていてもよい。
【0065】
図5において、接触要素2とハウジング、特にハウジングの底部23との間には、例えばゴム製のOリング32が配置されている。このようなOリングは減衰要素を形成し、減衰要素を介して伝播する振動、特にハウジングからの振動を減衰させるように適合されている。換言すれば、減衰要素は、少なくともある程度、例えば少なくとも50%または90%、接触要素2をハウジングから機械的に切り離す。さらに、Oリング32は、装置内部を保護するためのシール要素として機能し、特にハウジングを防滴・防塵にする。
【0066】
突出部33の反対側には、別のOリング34が配置され、接触要素2を固定要素21から分離し、機械的に切り離す。この別のOリング34は、音響波センサによって測定される外部振動、例えばハウジングからの振動によるスプリアス周波数を回避する。概して、別のOリング34は必要でない場合もあり、例えば、固定要素21自体が減衰特性を示す場合には、減衰要素として1つのOリング32で十分な場合もある。
【0067】
概して、上述した各特徴は、検査装置を広い周波数範囲、例えば、0~35kHz、特に100Hz~20kHzの音響波に対して感度を有するようにすることに寄与する。従って、このような検査装置は、上述したように、例えばIE法およびアルゴリズムを用いて板状の試験体を調べるだけでなく、例えばPIT法およびアルゴリズムを用いて杭状の試験体を調べるためにも使用することができる。
【0068】
図6は、実施形態による検査システムを示す。この検査システムは、例えば上述したような検査装置5を備えている。概して、検査装置5は、試験体4と機械的に接触して音響波を測定するように構成された音響波センサ51を備える。上述したように、試験体4は、板状や杭状など様々な形状を有し、コンクリート、金属、木材など様々な材料であってよい。センサ51によってデータを取得するために、装置5は通常、特に良好な連結を確立するために、例えば手で試験体の表面に対して保持される。PITでは、より良い連結のために、好ましくはパテまたはゲルを検査装置5、特にその接触要素と試験体表面との間に塗布する。IE測定の場合、接触要素は一般的にドライポイントコンタクト、即ちパテやゲルのようなカプラントを用いずに、特に試験体表面に押し付ける必要がある。
【0069】
システムは、さらに、装置5から生データを受信して処理するように構成された処理ユニット6を備える。このような処理装置は、例えば、現場や試験場で使用するのに便利なラップトップやタブレットコンピュータであってもよい。あるいは、処理ユニット6を装置5に内蔵することもできる。好ましくは、装置5は、生データを処理ユニット6の通信モジュール63に送信するように構成された通信モジュール52、例えばブルートゥース(登録商標)送信機を備える。あるいは、装置5と処理ユニット6をケーブルで接続してもよいし、処理ユニット6を検査装置5と一体化、即ち同じ筐体内に配置してもよい。
【0070】
好ましくは、処理ユニット6は、上述したように、IEアルゴリズムなどの第1の処理アルゴリズムを実行するための第1の処理手段61と、PITアルゴリズムなどの第2の処理アルゴリズムを実行するための第2の処理手段62と、を備える。第1および第2の処理手段61、62は、例えば、2つの別個の、または、1つの共通のCPUまたはFPGAとして実装することができる。
【0071】
さらに、処理ユニット6は、第1および第2の処理手段61、62に接続され、かつ、生データまたは処理されたデータのグラフィカル表示をユーザに表示するように構成されたディスプレイ64を備えることができる。特に、処理ユニット6は、図7に関して上述され、さらに以下に詳述されるような方法を実行するように構成され得る。
【0072】
このような検査システムは、特に、生データに異なるタイプの解析、例えば、時間領域や周波数領域での解析を適用することにより、異なる形状や材料の試験体を調べるために使用できるという利点がある。したがって、ユーザは、現場や試験場でNDT検査を実施するために、1つの検査システム、即ち1つの検査装置と処理ユニットのみを必要とする。これは、少なくとも2台の検査装置を必要とする従来の解決策よりも便利であり、時間と費用の節約になる。
【0073】
図7は、上述のシステムによって実施され得る、試験体のNDT検査方法の実施形態を示す。準備ステップS1において、システムがセットアップされる。これには、検査装置の電源を入れ、装置と処理ユニットとの間の通信を確立し、検査装置を測定位置で試験体に接触させることが含まれる。
【0074】
ステップS2において、試験体内を伝播した音響波を示す生データが、検査装置から処理ユニットによって受信される。音響波には通常、反射波、例えば単反射または多重反射が含まれ、上述したように、これを利用して試験体に関する知見を得ることができる。特に、音響波は、測定位置近傍の衝撃位置、例えば4~50cmの距離、特に測定位置から5~10cmの距離で衝撃を加えるインパクター、例えば手打ちハンマーによって発生する。
【0075】
ステップS3において、ユーザは、生データを処理するための異なる選択肢、特に第1および第2の処理アルゴリズムを明示的に提供され得る。この場合、ユーザは、例えば、試験体の形状および/または材料に応じて、処理アルゴリズムのうちの1つを選択することができる。あるいは、例えば周波数コンテンツや決定された移動時間などの生データの特徴に基づいて、適用可能な処理アルゴリズムを自動的に選択することもできる。別の実施形態においては、例えば、生データが第1および第2の処理アルゴリズムの両方によって処理されるため、処理アルゴリズムの選択が一切できない場合もある。
【0076】
ステップS4は、第1および第2の処理アルゴリズムの少なくとも一方による生データの実際の処理を含む。
【0077】
任意のステップS5において、処理されたデータ、および例えば生データは、例えば処理ユニットのディスプレイ上のGUIを介して、ユーザに表示され得る。好ましくは、処理と表示はリアルタイムで行われ、例えば生データを受信するまでの時間的な遅延は10秒未満、あるいは1秒未満である。従って、ユーザは、現場で取得したデータを直接評価し、必要であれば破棄して測定を繰り返すことができる。特に、本方法は、生データおよび/または処理されたデータを、時間領域および周波数領域で、例えば同時にユーザに表示することを含んでよい。
【0078】
さらに、本方法は、信号品質を改善し、より良い結果、例えば、試験体の厚さや長さのより正確な推定値や、試験体内の欠陥に関するより多くの情報を得るために、フィルタリングステップやウィンドウステップなど、ユーザによって調整可能な処理ステップを含むことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】