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特表2024-519446調整用のトポロジカル・スピン・テクスチャを有する磁性層を備えた抵抗メモリ・デバイス
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  • 特表-調整用のトポロジカル・スピン・テクスチャを有する磁性層を備えた抵抗メモリ・デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-14
(54)【発明の名称】調整用のトポロジカル・スピン・テクスチャを有する磁性層を備えた抵抗メモリ・デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20240507BHJP
   G06N 3/065 20230101ALI20240507BHJP
   G11C 11/54 20060101ALI20240507BHJP
   G11C 11/16 20060101ALI20240507BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20240507BHJP
【FI】
H10B61/00
G06N3/065
G11C11/54
G11C11/16 100A
H10N50/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562497
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 CN2022087835
(87)【国際公開番号】W WO2022233235
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】17/308,499
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(74)【復代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、セヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン、ミング
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119BB01
4M119BB20
4M119CC05
4M119DD42
5F092AC11
5F092AD03
5F092AD25
5F092AD30
5F092BB22
5F092BB34
5F092BB35
5F092BB36
5F092BB43
(57)【要約】
抵抗メモリ・デバイスは、磁気トンネル接合構造体を含む。磁気トンネル接合構造体は、自由磁性層を含む。自由磁性層は、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗メモリ・デバイスであって、
自由磁性層を含む磁気トンネル接合構造体を備え、前記自由磁性層は、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含むデバイス。
【請求項2】
前記磁気トンネル接合構造体が、
第1の固定磁性層と、
前記第1の固定磁性層と前記自由磁性層との間に配置された絶縁材料の非磁性層とを含み、
前記第1の固定磁性層と前記自由磁性層とが垂直磁気異方性を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記磁気トンネル接合構造体が、第2の固定磁性層を更に含み、前記自由磁性層が、前記第1の固定磁性層と前記第2の固定磁性層との間に配置される、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1の固定磁性層と前記第2の固定磁性層が、それぞれ前記自由磁性層のフットプリント面積よりも小さいフットプリント面積を備える、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記自由磁性層が多層構造を含み、前記多層構造は、第1の重金属層と、第2の重金属層と、前記第1の重金属層と前記第2の重金属層との間に配置されたキラル磁性層とを含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層がコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、前記第2の重金属層がタンタルを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層がコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、前記第2の重金属層がイリジウムを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層が鉄を含み、前記第2の重金属層がイリジウムを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項9】
前記自由磁性層が、単一の非中心対称性キラル磁性層を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記単一の非中心対称性キラル磁性層が、コバルト-鉄-シリコン合金、および鉄-ゲルマニウム合金のうちの一方を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、スキルミオンを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
少なくとも1つの不揮発性抵抗メモリ・セルが、抵抗メモリ・デバイスを含み、前記抵抗メモリ・デバイスが、自由磁性層を含む磁気トンネル接合構造体を含み、前記自由磁性層が、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含む、不揮発性抵抗メモリ・セルのアレイを備えるデバイス。
【請求項13】
前記抵抗メモリ・デバイスの前記磁気トンネル接合構造体が、
固定磁性層と、
前記固定磁性層と前記自由磁性層との間に配置された絶縁材料の非磁性層とを含み、
前記固定磁性層と前記自由磁性層とが、垂直磁気異方性を備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記自由磁性層が多層構造を含み、前記多層構造は、第1の重金属層と、第2の重金属層と、前記第1の重金属層と前記第2の重金属層との間に配置されたキラル磁性層とを含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項15】
前記自由磁性層が、単一の非中心対称性キラル磁性層を含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項16】
前記デバイスが、ニューロモルフィック・コンピューティング・デバイスを含み、不揮発性抵抗メモリ・セルの前記アレイが、人工シナプス素子のアレイを含み、前記少なくとも1つの不揮発性抵抗メモリ・セルが、前記少なくとも1つの不揮発性メモリ・セルの前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス値によって符号化可能なシナプス重みを含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項17】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、スキルミオンを含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項18】
自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャを構成して抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように、プログラミング・パルスに応答する前記自由磁性層を含む前記抵抗メモリ・デバイスに、1つまたは複数の前記プログラミング・パルスを印加することを含む方法。
【請求項19】
前記自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャを構成して前記抵抗メモリ・デバイスの前記コンダクタンス状態を調整するように、前記抵抗メモリ・デバイスに1つまたは複数のプログラミング・パルスを印加することは、
前記抵抗メモリ・デバイスを通る第1の方向の電流フローの結果として、前記自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャの形成を誘導するように、1つまたは複数の増強プログラミング・パルスを印加することと、
前記第1の方向と反対の前記抵抗メモリ・デバイスを通る第2の方向の電流フローの結果として、前記自由磁性層に1つまたは複数存在するトポロジカル・スピン・テクスチャの消滅を生じさせるように、1つまたは複数の抑制プログラミング・パルスを印加することと
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、磁気スキルミオンを含み、前記自由磁性層が、キラル磁性層を含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ニューロモルフィック・コンピューティング用の不揮発性アナログ抵抗メモリ・セル、および不揮発性アナログ抵抗メモリ・セルの抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンスを調整するための技術に関する。ニューロモルフィック・コンピューティング・システムおよび人工ニューラル・ネットワーク・システムなどの情報処理システムは、認知認識およびコンピューティング用の機械学習および推論処理などの様々な用途で活用されている。このようなシステムは、一般的に、多数の高度に相互接続された処理要素(「人工ニューロン」と称する)を含み、並列に機能させて様々な種類の計算を実行するハードウェア・ベースのシステムである。人工ニューロン(例えば、シナプス前ニューロンおよびシナプス後ニューロン)は、人工シナプス・デバイスを使用して結合され、この人工シナプス・デバイスによって人工ニューロン間の結合強度を表すシナプス重みが提供される。シナプス重みは、不揮発性で多値メモリ特性を示す調整可能な抵抗メモリ・デバイスなどのアナログ・メモリ素子を使用して実装することができる。
【発明の概要】
【0002】
本開示の実施形態は、磁気スキルミオンなどのトポロジカル・スピン・テクスチャをホストして抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンスを調整することができるように構成された磁性層を備える抵抗メモリ・デバイス、および不揮発性抵抗メモリ・セル、ならびにそのような抵抗メモリ・デバイスを実装するコンピューティング・システムを含む。
【0003】
例示的な実施形態では、抵抗メモリ・デバイスは、磁気トンネル接合構造体を含む。磁気トンネル接合構造体は、自由磁性層を含む。自由磁性層は、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含む。
【0004】
他の実施形態は、添付の図面と共に読まれる、以下の例示的な実施形態の詳細な説明に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本開示の例示的な実施形態により、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを使用して実装することができる、不揮発性抵抗メモリ・セルのアレイを含む抵抗処理ユニット(RPU:resistive processing unit)コンピューティング・システムを概略的に示す。
図2】本開示の例示的な実施形態による、メモリ内コンピューティング動作を実行するためのRPUシステムの例示的な構成を概略的に示す。
図3】本開示の例示的な実施形態による、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを実装したアナログ抵抗メモリ・セルを概略的に示す。
図4】本開示の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。
図5A】本開示の例示的な実施形態による、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスに磁気スキルミオンを生成および消滅させるための増強プログラミング動作と抑制プログラミング動作とを概略的に示す。
図5B】本開示の例示的な実施形態による、垂直磁気異方性を有する磁性材料の層に生成された磁気スキルミオンを概略的に示す。
図5C】本開示の例示的な実施形態による、垂直磁気異方性を有する磁性材料の層に生成された磁気スキルミオンを概略的に示す。
図6】本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。
図7】本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。
図8】本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。
図9】本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。
図10】本開示の例示的な実施形態による、ハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングのRPUシステムを利用してニューロモルフィック・コンピューティング・アプリケーションを実行するように構成されたシステムをホストすることができるコンピューティング・ノードの例示的なアーキテクチャを概略的に示す。
図11】本開示の例示的な実施形態によるクラウド・コンピューティング環境を図示する。
図12】本開示の例示的な実施形態による抽象化モデル・レイヤを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
ここで、磁気スキルミオンなどのトポロジカル・スピン・テクスチャをホストして抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンスを調整することができるように構成された磁性層を備える抵抗メモリ・デバイス、および不揮発性抵抗メモリ・セル、ならびにそのような抵抗メモリ・デバイスを実装するコンピューティング・システムに関して、本開示の実施形態を更に詳細に説明する。下記で更に詳細に説明するように、本開示の例示的な実施形態は、磁気スキルミオンなどのトポロジカル・スピン・テクスチャをホストするように構成された自由磁性層を実装する多状態抵抗メモリ・デバイスを含み、そのような抵抗メモリ・デバイスの状態は、自由磁性層のトポロジカル・スピン・テクスチャを生成または消滅させるために、プログラミング電流を使用して変調される。当技術分野で公知のように、磁気スキルミオンとは、トポロジカル特性を示す渦状の磁気テクスチャ、特に、渦状の磁気構造を有する磁気モーメントのノンコリニア構造の一種である。例示の目的のために、抵抗メモリ・デバイスの磁気抵抗を変調するために、抵抗メモリ・デバイスの磁気トンネル接合構造体の自由磁性層における磁気スキルミオンの形成/消滅を利用する、スキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイス(またはより一般的には、スキルミオン抵抗メモリ・デバイス)を参照して、本開示の例示的な実施形態を説明する。しかしながら、本明細書に開示されたものと同じまたは類似の技術を利用して、所与の用途に好適な様々な種類の安定なトポロジカル・スピン・テクスチャの1つをホストすることができる自由磁性層を備える多状態抵抗メモリ・デバイスを実装することができることを理解されたい。
【0007】
添付図面に示されるような様々な特徴は、縮尺通りに描かれていない概略図であることを理解されたい。加えて、例証および説明を容易にするために、抵抗メモリ・デバイスを実装するために一般に使用されるタイプの1つまたは複数の層、構造体、領域、特徴など、ならびに図面に概略的に示されるような他のデバイスまたは構造体およびシステムの構成要素は、所与の図面に明示的に示されていない場合がある。これは、明示的に示されていない任意の層、構造体、領域、特徴などが、実際のデバイスまたは構造体から省かれることを意味するものではない。更に、同一または類似の参照番号が、同一または類似の特徴、要素、または構造体を示すために図面全体にわたって使用されており、従って、同一または類似の特徴、要素、または構造体についての詳細な説明は、図面の各々では繰り返さない。更に、本明細書で使用する場合、「例示的」という用語は、「例、実例、または例証としての役割を果たす」ことを意味する。「例示的」として本明細書に記載されるいかなる実施形態または設計も、他の実施形態または設計よりも好ましいか、または有利であると解釈されるべきでない。別の特徴に対する所与の特徴の配向を説明するために本明細書で使用する場合、「に対して」という語は、所与の特徴が、他の特徴に「直接」(即ち、直接接触して)配置もしくは形成され得ること、または、所与の特徴が、所与の特徴と他の特徴との間に配置された1つまたは複数の介在する特徴により他の特徴に「間接的に」配置もしくは形成され得ることを意味する。
【0008】
更に、1つまたは複数の機能を実行するか、または別の方法で何らかの機能性を提供する回路、構造体、要素、構成要素などと共に使用される場合、「ように構成される」という語句は、回路、構造体、要素、構成要素などが、ハードウェア、ソフトウェア、もしくはそれらの組み合わせまたはその両方で実装され、ハードウェアを含む実装形態において、ハードウェアがディスクリート回路素子(例えば、トランジスタ、インバータなど)、プログラマブル素子(例えば、ASIC、FPGAなど)、処理デバイス(例えば、CPU、GPUなど)、1つまたは複数の集積回路、もしくはそれらの組み合わせまたはその両方を含み得る実施形態を包含することが意図されることを理解されたい。従って、単に例として、回路、構造体、要素、構成要素などが、特定の機能性を提供するように構成されていると定義される場合、限定されるものではないが、回路、構造体、要素、構成要素などが、動作状態にある(例えば、システムに接続されているかもしくは別の方法で配備されているか、電力が供給されているか、入力を受信しているか、または出力を生成しているか、またはそれらの組み合わせを行っている)ときに特定の機能を実行することを可能にする要素、処理デバイス、もしくは集積回路またはその両方から構成される実施形態を網羅することが意図され、同様に、回路、構造体、要素、構成要素などが、非動作状態にある(例えば、システムに接続されず別の方法で配備もされないか、電源が供給されないか、入力を受信しないか、または出力を生成しないか、またはそれらの組み合わせを行わない)ときの実施形態、または部分的な動作状態にあるときの実施形態を網羅することが意図される。
【0009】
本開示の例示的な実施形態は、いくつかの計算タスクを実行するために、データの格納およびデータの処理という2つの目的のために不揮発性アナログ・メモリ・セルのアレイを利用する、コンピューティング・システムまたは計算メモリ・システムを含む。いくつかの実施形態では、不揮発性アナログ・メモリ・セル(例えば、抵抗処理ユニット)は、最小コンダクタンス(Gmin)から最大コンダクタンス(Gmax)の範囲にわたる可変コンダクタンス状態を有する調整可能なコンダクタンス(G)を有する磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを実装する。磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスおよび磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを記憶素子として実装した不揮発性メモリ・セルの例示的な実施形態を、図3図4図6図7図8、および図9と共に更に下記で詳細に説明する。前述したように、ニューロモルフィック・コンピューティング・システムおよび人工ニューラル・ネットワーク・システムは、2つの人工ニューロン間の結合の強度を表すシナプス重みを提供するための人工シナプス・デバイスを使用して人工ニューロンが結合されている、メモリ内コンピューティング・システムの一種である。シナプス重みは、本明細書で開示されるような、調整可能な磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを使用して実装することが可能であり、シナプス重みを表し、計算を実行するために、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスの可変コンダクタンス状態を利用する。磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態により、シナプス重みを符号化することができ、または別の方法でマッピングすることができる。
【0010】
ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)および畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)などの様々な種類の人工ニューラル・ネットワークには、画像認識、物体認識、音声認識などの機械学習アプリケーションのために、ニューロモルフィック・コンピューティング・アーキテクチャが実装されている。このようなニューラル・ネットワークに関連するメモリ内計算としては、例えば、訓練データセットを処理することによって抵抗メモリ・セルのシナプス重みを最適化する訓練計算と、例えば、入力データの分類や、入力データに基づいたイベントの予測などの目的のために、訓練されたニューラル・ネットワークを使用して入力データを処理する前向き推論計算とが含まれる。
【0011】
DNNの訓練は、一般に3つの繰り返しサイクルである、順方向、逆方向、および重みの更新を含む誤差逆伝播アルゴリズムに依拠し、収束基準が満たされるまで何度も繰り返される。順方向および逆方向サイクルは、主に順方向および逆方向のベクトル行列乗算の計算に関与する。この演算は、アナログ抵抗メモリ・セルの2Dアレイ上で実行することができる。順方向サイクルでは、2Dアレイ内の抵抗メモリ・デバイスの格納されたコンダクタンス値が行列を形成し、2Dアレイの各入力行により入力ベクトルが電圧パルスとして伝送され、行列ベクトル乗算演算を実行する。逆方向サイクルでは、電圧パルスが入力として列から供給され、行列の転置行列で行列とベクトルの積を計算する。重みの更新は、2Dアレイ内の各抵抗メモリ・セルで局所的に実行される乗算の演算と増分の重みの更新とからなるベクトル-ベクトル外積の計算を伴う。
【0012】
RPUセルのアレイを含む、確率的に訓練されたDNNは、本開示の例示的な実施形態による、調整可能な磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを使用して実装されたシナプス重みを有し得る。DNNを適切に訓練し、高い精度を達成するためには、調整可能な抵抗デバイスの動作特性が、所与のDNNアルゴリズムが重大なエラー・ペナルティを伴うことなく許容することが可能な、受け入れ可能なRPUデバイス・パラメータの厳格な一連の規格を満たす必要がある。これらの規格には、例えば、特定の数(例えば、1つまたは複数)の増強/抑制パルスに起因する最小増分コンダクタンス変化(±Δgmin)、上下のコンダクタンス変化の対称性、調整可能なコンダクタンス値の範囲などの、抵抗メモリ・デバイスのスイッチング特性における変動が含まれる。特に、DNNを訓練するための1つの重要な規格は、RPUセルが比較的多数(例えば、100、1000、またはそれ以上)のコンダクタンス・レベル(またはステップ)の分解能(またはダイナミック・レンジ)を有する調整可能なコンダクタンスを有する必要があることであり、コンダクタンス・レベルは、アナログで対称的に増分するような方法で(最大コンダクタンス状態と最小コンダクタンス状態との間に少なくとも1桁のコンダクタンスの大きさの差(オン/オフ比)がある状態で)最低のコンダクタンス状態から最高のコンダクタンス状態に(1ナノ秒のパルスによって)スイッチングすることができる。RPUセルの最小単位重量値(±Δwmin)の上下の変化の対称性を達成するために、RPUセルの関連するコンダクタンス・レベルにおける各々の増分の増加(ステップアップ,Δg min)および増分の減少(ステップダウン,Δg min)は、同一の量か、または5%以下のミスマッチ・エラーの範囲内で同様の量でなければならない。言い換えれば、性質的にアナログである調整可能な抵抗RPUデバイスでは、同一ではあるが逆のパルス刺激が提供された場合、上下のコンダクタンス変化が対称に反応しなければならない。特に、上下の対称性である、Δg min/Δg minは、1.0±0.05と等しくなければならない。パラメータΔg± minは、周辺回路によって定義された増幅率により、パラメータΔw± minに比例することに留意されたい。
【0013】
しかしながら、これらの必要要件にもかかわらず、調整可能な抵抗デバイスは、限られたダイナミック・レンジおよび分解能を示すだけでなく、調整/プログラミング特性の変動を示す可能性があり、コンダクタンス・レベルの範囲(最小~最大)にわたる対称的な重みの更新を達成することを困難なものにしている。そのため、RPUアーキテクチャのハードウェア実装は簡単なことではない。より具体的には、実際に、ほとんどの抵抗メモリ・デバイスは、対称的なスイッチング動作を示さず、むしろ、連続的に印加されるパルスの数の関数としてのコンダクタンスの高度な非線形変化を示す。これにより、重みの更新に重大なエラーが生じる。一方、抵抗変化の線形性は、入力パルスの繰り返しによるシナプス重みが同様に増分的に調整されることを表しており、パルス・カウント数のみを用いてシナプス重みの変化を決定することによる簡便なニューロン回路の演算を用いて高速学習を行うには非常に望ましい。また、シナプス増強および抑制のためにシナプス重みを対称的に調整することは、同一の振幅と持続時間(例えば、同一のプログラミング・パルス方式と称する)を有するが、増強と抑制とで異極性を有する電圧パルスをニューロン回路が生成することが可能となるため好ましい。
【0014】
図1は、本開示の例示的な実施形態により、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを使用して実装することができる、不揮発性抵抗メモリ・セルのアレイを含む抵抗処理ユニット(RPU)コンピューティング・システムを概略的に示す。特に、図1は、抵抗処理ユニットのクロスバー・アレイを使用して実装されたニューロモルフィック・コンピューティング・システムを概略的に示す。コンピューティング・システム100は、複数の行R1、R2、R3、…、Rm、および複数の列C1、C2、C3、…、Cn内に配列されたRPUセル110の2次元(2D)クロスバー・アレイを備える。各行R1、R2、R3、…、Rm内のRPUセル110は通常、それぞれの行制御線RL1、RL2、RL3、…、RLm(総称して行制御線RL)に接続されている。各列C1、C2、C3、…、Cn内のRPUセル110は通常、それぞれの列制御線CL1、CL2、CL3、…、CLn(総称して列制御線CL)に接続されている。各RPUセル110は、それぞれの行線と列線の交点(または交差点)で(およびそれらの間に)接続されている。1つの例示的な実施形態では、RPUシステム100は、4,096×4,096のRPUセル110のアレイを備える。
【0015】
コンピューティング・システム100は更に、行制御線RL1、RL2、RL3、…、RLmに接続された周辺回路120と、同様に、列制御線CL1、CL2、CL3、…、CLnに接続された周辺回路130とを備える。更に、周辺回路120は、データ入出力(I/O)インタフェース・ブロック125に接続され、周辺回路130は、データI/Oインタフェース・ブロック135に接続されている。コンピューティング・システム100は更に、コンピューティング・システム100を動作させるために、電力分配信号と、制御信号と、クロック信号とを供給するための電力回路、クロック回路、バイアス回路、およびタイミング回路などの、様々な種類の回路ブロックを含む制御信号回路140を備える。
【0016】
いくつかの実施形態では、コンピューティング・システム100の各RPUセル110は、アクセス・トランジスタを含む不揮発性抵抗メモリ・セルと、不揮発性抵抗メモリ・セルの記憶素子として機能する磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスとを備える。いくつかの実施形態では、RPUセル110は、図3と共に更に下記で詳細に説明するように、例示的な不揮発性抵抗メモリ・セルのフレームワークを使用して実装される。更に、いくつかの実施形態では、更に下記で詳細に説明される図4、6、7、8、または9に概略的に示すように、RPUセル110には、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスのフレームワークの例示的な実施形態の1つを有する磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスが実装されている。
【0017】
ニューロモルフィック・コンピューティング・アプリケーションでは、RPUセル110は、前ニューロンと後ニューロンとの間に重み付けされた結合を提供する人工シナプスを備える。複数の前ニューロンおよび後ニューロンは、RPUセル110の2Dクロスバー・アレイを介して接続されており、当然のことながら、これは完全に結合されたニューラル・ネットワークを表している。いくつかの実施形態では、コンピューティング・システム100は、DNNまたはCNN計算を実行するように構成されており、各RPUセル110のコンダクタンスは、周辺回路120および130の動作によって更新またはアクセスすることができる行列要素、即ち重みWijとなる(ここで、WijはRPUセル110のアレイにおけるi番目の行とj番目の列の重みの値を意味する)。典型的には、DNNは単純な確率的勾配降下法(SGD:stochastic gradient decent)方式を用いて訓練されるが、この方式では、3つの繰り返しサイクルである、順方向サイクル、逆方向サイクル、および重みの更新サイクルから構成される誤差逆伝播アルゴリズムを使用して各パラメータに対する誤差勾配が計算される。コンピューティング・システム100は、誤差逆伝播プロセスの3つのサイクル全てを並列に実行するように構成することができ、従って、場合によっては電力が低く計算リソースが削減された状態でDNN訓練に著しい高速化がもたらされる。コンピューティング・システム100は、行列ベクトル乗算演算をアナログ領域で並列に実行するように構成することができる。
【0018】
行制御線RLおよび列制御線CLは、図示を容易にするために、図1では単一の線としてそれぞれ示されているが、各々の行および列制御線は、RPUセル110の実装形態および特定のアーキテクチャに応じて、それぞれの行および列内のRPUセル110に接続された2本以上の制御線を含み得ることを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、各々の行制御線RLは、RPUセルの構成に応じて、所与のRPUセル110に対して単一のワード線(WL)またはワード線の相補的なペアを含むことができる。更に、各々の列制御線CLは、例えば、1本以上のソース線(SL)および1本以上のビット線(BL)を含む複数の制御線から構成されてもよい。
【0019】
周辺回路120および130は、RPUセル110の2Dアレイ内のそれぞれの行および列に接続され、かつ(ニューラル・ネットワークを訓練するための)誤差逆伝播処理の順方向、逆方向、および重みの更新演算、ならびに訓練されたニューラル・ネットワークを用いた推論処理を実装するためにベクトル行列乗算関数、行列ベクトル乗算関数、および外積更新演算を実行するように構成された各種回路ブロックを備える。例えば、いくつかの実施形態では、RPUセルの読取り/感知動作(例えば、所与のRPUセル110の重量値の読取り)をサポートするために、周辺回路120および130は、順方向/逆方向サイクル中に受信した入力ベクトル値(読取り入力値)に応答してパルス幅変調(PWM:pulse-width modulation)読取りパルスを生成し、RPUセル110に印加する、PWM回路および読取りパルス・ドライバ回路から構成される。
【0020】
より具体的には、いくつかの実施形態では、周辺回路120および130は、(行または列に印加される)デジタル入力ベクトルを受信し、このデジタル入力ベクトルを、変動するパルス幅の入力電圧で表されたアナログ入力ベクトル値に変換するように構成されたデジタル-アナログ(D/A:digital-to-analog)変換回路を備える。いくつかの実施形態では、入力ベクトルが調整可能な持続時間(例えば、パルス持続時間が1ナノ秒の倍数であり、入力ベクトルの値に比例する)を有する固定振幅Vin=1Vパルスで表される場合、時間符号化方式が使用される。行(または列)に印加される入力電圧により、出力電流で表される出力ベクトル値が生成され、この出力電流を測定することによってRPUセル110の重みが読み出される。
【0021】
周辺回路120および130は、接続されたRPUセル110から出力されて累積した読取り電流(IREAD)を積分し、この積分した電流を後続の計算のためにデジタル値(読取り出力値)に変換する、電流積分回路およびアナログ-デジタル(A/D:analog-to-digital)変換回路を更に備える。特に、RPUセル110によって生成された電流は、列(または行)で合計され、この全電流は、周辺回路120および130の電流読出し回路によって測定時間であるtmeasにわたって積分される。電流読出し回路は、電流積分器およびアナログ-デジタル(A/D)変換器から構成される。いくつかの実施形態では、各電流積分器は、コンデンサ上の所与の列(または行)から出力された電流(または負と正の重みを実装するRPUセルのペアからの差動電流)を積分する演算増幅器と、積分された電流(例えば、アナログ値)をデジタル値に変換するアナログ-デジタル(A/D)変換器とから構成される。
【0022】
更に、周辺回路120および130は、プログラミング動作中に使用されるプログラミング電圧を生成して、RPUセルに実装される磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成された、電圧発生器およびドライバ回路を備える。いくつかの実施形態では、周辺回路120および130は、図3図4および図5Aを参照して下記で更に詳細に説明するように、RPUシステム100のワード線、ビット線およびソース線上に制御信号およびプログラミング・パルスを生成して、例示的なプログラミング動作を実行するように構成される。
【0023】
データI/Oインタフェース125および135は、デジタル処理コアと相互作用するように構成されており、このデジタル処理コアは、コンピューティング・システム100(ニューラル・コア)への入出力を処理して、異なるRPUアレイ間でデータをルーティングするように構成されている。データI/Oインタフェース125および135は、(i)デジタル処理コアから外部制御信号およびデータを受信し、この受信した制御信号およびデータを周辺回路120および130に提供し、(ii)周辺回路120および130からデジタル読取り出力値を受信し、このデジタル読取り出力値を処理のためにデジタル処理コアに送信するように構成される。いくつかの実施形態では、デジタル処理コアには、ニューラル・ネットワークの次の層または前の層に提供されるデータで活性化関数(例えば、シグモイド・ニューロン関数、ソフトマックスなど)および他の算術演算を計算する非線形関数回路が実装されている。
【0024】
図2は、本開示の例示的な実施形態による、メモリ内コンピューティング動作を実行するためのRPUシステムの例示的な構成を概略的に示す。特に、図2は、RPUセル205(またはRPUアレイ205)のクロスバー・アレイから構成されるRPUコンピューティング・システム200を概略的に示す。いくつかの実施形態では、RPUアレイ205内の各RPUセル210は、RPUセル210の記憶素子として磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを実装する。図2では、RPUセル210の各記憶素子は、各々の行(R1、R2、…、Rm)および列(C1、C2、…、Cn)の交点に調整可能なコンダクタンスGを有する可変抵抗器として表される。図2に図示されるように、RPUセル205のアレイは、それぞれのRPUセル210のコンダクタンス値Gij(ここで、iは行インデックスを表し、jは列インデックスを意味する)によって符号化される、例えば行列値、人工シナプス・デバイスなどの重みへとマッピングされるコンダクタンス値Gijの行列を提供する。
【0025】
図2は、コンピューティング・システム200の周辺回路内のマルチプレクサが、線ドライバ回路220を行線R1、R2、…、Rnに選択的に接続するように作動する、例示的な構成を示している。線ドライバ回路220は、それぞれの行線R1、R2、…、Rnに接続された、複数のデジタル-アナログ(DAC)回路ブロック222-1、222-2、…、222-m(総称してDAC回路ブロック222)で構成されている。加えて、コンピューティング・システム200の周辺回路内のマルチプレクサは、読出し回路230を列線C1、C2、…、Cnに選択的に接続するように作動する。読出し回路230は、それぞれの列線C1、C2、…、Cnに接続された、複数の読出し回路ブロック230-1、230-2、…、230-nから構成されている。読出し回路ブロック230-1、230-2、…、230-nは、それぞれの電流積分回路232-1、232-2、…、232-nと、それぞれのアナログ-デジタル(ADC)回路234-1、234-2、…、234-nとから構成されている。電流積分回路は、電流積分回路ブロックから構成され、各電流積分器は、入力電流(総列電流)を電流積分回路の出力ノード上で出力電圧に変換するための負の容量性帰還を用いる演算相互コンダクタンス増幅器(OTA:operational transconductance amplifier)から構成され、各ADC回路は、積分期間の終了時に、それぞれの電流積分回路の出力ノードで生成された出力電圧をラッチし、この出力電圧を量子化してデジタル出力信号を生成する。
【0026】
図2は、(コンダクタンス値Gijによって符号化された)重みの行列をデジタル入力ベクトルX=(x、x、…、x)で乗算して、得られた出力ベクトルY=(y、y、…、y)を生成するように実装することができる例示的な行列ベクトル乗算処理を示す。入力ベクトルXの要素x、x、…、xは、それぞれのDAC回路ブロック222-1、222-2、…、222-mに入力され、それぞれの行線R1、R2、…、Rへの入力時にアナログ電圧V、V、…、Vが生成される。アナログ電圧V、V、…、Vは、それぞれ、入力ベクトル要素x、x、…、xの値に比例する。いくつかの実施形態では、DAC回路ブロック222-1、222-2、…、222-mは各々、それぞれの行線R1、R2、…、Rmに印加されるパルス幅変調(PWM)読取りパルスV、V、…、Vを生成するように構成されるパルス幅変調回路およびドライバ回路を備える。
【0027】
より具体的には、いくつかの実施形態では、DAC回路ブロック222-1、222-2、…、222-mは、入力ベクトルが調整可能な持続時間による固定振幅パルス(例えば、V=1V)で表される時間符号化方式を使用してデジタル-アナログ変換処理を実行するように構成されており、パルス持続時間は、あらかじめ指定された時間周期(例えば、1ナノ秒)の倍数であり、入力ベクトルの値に比例する。例えば、0.5のデジタル入力値であると仮定すると、4ナノ秒の電圧パルスで表すことができるが、1のデジタル入力値は80ナノ秒の電圧パルスで表すことができる(例えば、1のデジタル入力値は、積分時間Tmeasと等しいパルス持続時間でアナログ電圧パルスに符号化することができる)。図2に示すように、得られたアナログ入力電圧V、V、…、V(例えば、PWMパルス)が、行線R1、R2、…、Rmを介してRPUセル205のアレイに印加される。
【0028】
行列ベクトル乗算を実行するために、アナログ入力電圧V、V、…、Vmが行線R1、R2、…、Rmに印加され、各々のRPUセル210によって対応する読取り電流IREAD=V×Gij(オームの法則に基づく)が生成され、式中、Vは、所与の行i上の所与のRPUセル210に印加されるアナログ入力電圧を意味し、Gijは、(所与の行iおよび列jにおける)所与のRPUセル210のコンダクタンス値を意味する。図2に示すように、各々の列jのRPUセル210によって生成される読取り電流を(キルヒホッフの電流則に基づいて)共に合計し、それぞれの列C1、C2、…、Cnの出力時にそれぞれの電流I、I、…、Iを生成する。このようにして、得られた列電流I、I、…、Iは、行列ベクトル乗算演算の結果を示している。
【0029】
それぞれの列C1、C2、…、Cnの出力時に得られた総読取り電流I、I、…、Iは、読出し回路230のそれぞれの読出し回路ブロック230-1、230-2、…、230-nに入力される。それぞれの電流積分回路232-1、232-2、…、232-nで総読取り電流I、I、…、Iを積分して、それぞれの出力電圧を生成し、この電圧をそれぞれのADC回路234-1、234-2、…、234-nで量子化し、(行列ベクトル乗算演算の結果を示す)得られた出力ベクトルYのそれぞれのデジタル出力信号y、y、…、yを生成する。
【0030】
図3は、本開示の例示的な実施形態による、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを実装したアナログ抵抗メモリ・セルを概略的に示す。特に、図3は、アクセス・トランジスタ310と、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス320(または磁気スキルミオン・メモリスタ・デバイス)とから構成される不揮発性アナログ抵抗メモリ・セル300を概略的に示す。メモリ・セル300は、トランジスタ310がメモリ・セル300の選択トランジスタとして動作し、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス320がメモリ・セル300の記憶素子として動作する1T-1Rアーキテクチャから構成される。いくつかの実施形態では、抵抗メモリ・デバイス320は、磁性層を有する2端子プログラマブル抵抗メモリ素子を含み、抵抗メモリ・デバイス320は、複数の異なる導電性状態のうちの1つを有するようにプログラム可能であり、コンダクタンス状態の数nは、4以上(例えば、n≧4)であるか、またはより好ましくは100以上のコンダクタンス状態、例えばn≧100であり、その数nは、磁性層に存在する磁気スキルミオンの数を増減することによって調整することができる。
【0031】
図3に示すように、アクセス・トランジスタ310(本明細書では代替的に選択トランジスタ310と称する)は、ゲートG端子、ドレインD端子、およびソースS端子から構成される。ゲートG端子はワード線WLに結合され、ソースS端子はソース線SLに結合され、ドレインD端子は抵抗メモリ・デバイス320の第1の端子に結合されている。抵抗メモリ・デバイス320は、ビット線BLに結合された第2の端子を備える。この点に関して、抵抗メモリ・デバイス320は、ビット線BLとアクセス・トランジスタ310のドレインD端子との間に接続されている。メモリ・セル300は、例えば、人工ニューラル・ネットワークまたはニューロモルフィック・コンピューティング・システムなどを実装するために、コンピューティング・システム100(図1)のRPUセルとして実装することができる。抵抗メモリ・デバイス320は、調整可能なコンダクタンス状態(または調整可能な抵抗状態)を有するように構成され、このコンダクタンス状態は、プログラム上で複数の異なるコンダクタンス・レベルの範囲内で調整され、不揮発性アナログ抵抗メモリ・セル300の重量を調節することができる。
【0032】
図4は、本開示の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400を概略的に示す。いくつかの実施形態では、図4は、図3の不揮発性アナログ抵抗メモリ・セル300に実装することができる抵抗メモリ・デバイス320の例示的な実施形態を示す。図4に概略的に示すように、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400は、第1の電極402と、第2の電極404と、第1の電極402と第2の電極404との間に配置された磁気トンネル接合(MTJ:magnetic tunnel junction)構造体410とを備える。MTJ構造体410は、固定磁性層420と、トンネル障壁層430と、自由磁性層440とから構成される。
【0033】
本開示の例示的な実施形態により、自由磁性層440は、室温および抵抗メモリ・デバイスの動作温度で安定な、スキルミオンなどのトポロジカル・スピン・テクスチャをホストすることが可能な磁性材料を含む、少なくとも1つの磁性層から構成される。本文脈では、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストする磁性層(例えば、スキルミオンをホストする磁性層)とは、例えば、安定なトポロジカル・スピン・テクスチャの形成を可能にする磁性材料の結晶構造および磁気特性により、磁性層内に安定なトポロジカル・スピン・テクスチャ(例えば、磁気スキルミオン)が実現(例えば、生成、実在、存在など)することを可能にする磁性材料を有する磁性層のことである。
【0034】
より具体的には、当技術分野で公知のように、磁性材料内の磁気モーメント(スピン)により、スピン・テクスチャとして公知の様々な構造体を形成することができる。典型的な磁性材料では、隣り合う原子のスピンが互いに平行または反平行に整列する傾向があり、それによってそれぞれ強磁性体または反強磁性体がもたらされる。しかしながら、キラル磁性材料などの一部の磁性材料では、スピンがトポロジカル・スピン・テクスチャ内で整列した、特定の結晶構造または多層構造に起因するスピン間の特定の種類の物理的相互作用が存在する。磁気スキルミオンとは、トポロジカル・スピン・テクスチャ(トポロジー的に安定なスピン・テクスチャ)の共通した型であり、構成するスピンが全方向を指して単位球面を包む、即ち、磁気スキルミオンのスピン・パターンが、球体に投射することが可能であり、かつ球体の全表面を包むパターンとなる、小さく渦巻く磁気構造を有する磁気モーメントのノンコリニア構造を含むものである。磁気スキルミオンのトポロジーは、従来のハイゼンベルグの直接交換相互作用(例えば、強磁性交換相互作用)と、ジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用(またはDMI)と称する反対称交換相互作用との間で競合する磁気相互作用から生じるものであり、これらの競合相互作用により、スピン構造の磁気モーメントが互いに対して90°に配向する。
【0035】
磁気スキルミオンでは、スピンの配向は、スピン・テクスチャの端における上方向からスピン・テクスチャの中央における下方向へ、またはその逆へと漸進的に回転する。より具体的には、磁気スキルミオンでは、磁化はスピン構造の内部では湾曲し、スピン構造のコアおよび周辺では面外方向に沿って最大限に達しており、磁気スキルミオンのコア領域のスピン方向は、磁気スキルミオンの周辺領域のスピン方向と対向する。DMIによって安定化されたスキルミオンは、一般的にブロッホ型スキルミオンまたはネール型スキルミオンと称される。磁気スキルミオンの特性は、ヘリシティ、極性、およびトポロジカル・チャージによって特徴付けることができる。特に、ヘリシティは、磁気スキルミオンのz軸周りの大域的回転の角度として定義される。ネール型スキルミオンの場合、ヘリシティはゼロとみなされる。極性特性は、磁気スキルミオンのコアにおける磁化方向、例えば、磁化が磁気スキルミオンのコアにおいて正(p=1)または負(p=-1)のz方向を指すかどうかを定義する。トポロジカル・チャージは、スピン・テクスチャの磁気モーメントがマッピング内の単位球面の周りをどれくらいの回数で巻き付いているのかを示すものであり、トポロジカル・チャージは-1または+1であり得る。ブロッホ型およびネール型スキルミオン構造では、トポロジカル・チャージと極性とが等しい(Q=p)が、ヘリシティの違いによって、ブロッホ型とネール型スキルミオン構造は互いに区別される。他方では、DM相互作用によって安定化された磁気テクスチャは、アンチスキルミオンのように、反対のトポロジカル・チャージと極性を有することもある(Q=-p)。
【0036】
いくつかの実施形態では、自由磁性層440は、磁気スキルミオンなどの安定なトポロジカル・スピン・テクスチャをホストすることができるキラル磁性層から構成される。キラル磁性材料は、固定されたキラリティ(掌性)を持つノンコリニア磁気モーメント配置を、物理的な反対称交換相互作用(DM相互作用)によって安定化させることができる磁性材料から構成される。具体例として、DM相互作用に起因する螺旋磁性を示すキラル磁性材料内に、磁気スキルミオンを生成およびホストすることができる。上記で述べたように、磁気スキルミオンは、磁場で生じるトポロジカル・スピン・テクスチャである。磁気スキルミオンは、螺旋(ブロッホ型)構造、またはヘッジホッグ(ネール型)構造と称する異なる構造で存在することができ、これらはDM相互作用により安定化される。磁気スキルミオンは、性質的にはトポロジカルであり、サイズが小さく(例えば、1nm~300nm)、エネルギー消費が少ないことを示しており、磁気スキルミオンは、極めてエネルギー効率の良いデータ・ストレージ・デバイス、処理デバイス、および伝送デバイス、ならびに他のスピントロニクス・デバイスの有望な候補となっている。
【0037】
MTJ構造体410は、スピン電流を使用してMTJ構造体410の磁気抵抗状態を変化させるためにスピン・トランスファー・トルク(STT:spin-transfer torque)現象を利用する、磁気抵抗メモリ素子を備える。STT MTJ構造体410は、情報を保存するためにトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magnetoresistance)を利用する。MTJ構造体410の基本的な構造は、電子が通り抜けることができる薄い絶縁層で隔てられた2つの薄い磁性層を含む。STT現象は、自由磁性層440が非固定磁化を有し、固定磁性層420(または参照層)が固定磁化を有するMTJ構造体410で実現される。MTJ構造体410は、自由磁性層440の磁化状態をスイッチングすることによって情報を保存する。自由磁性層440の磁化方向が固定磁性層420の磁化方向と平行である場合(平行(P)状態と称する)、MTJ構造体410は「低抵抗」状態にある。逆に、自由磁性層440の磁化方向が固定磁性層420の磁化方向と反平行である場合(反平行(AP)状態と称する)、MTJ構造体410は「高抵抗」状態にある。トンネル電流は、典型的に、2つの磁性層420および440の磁気モーメントが平行である場合に高くなり、2つの磁性層420および440の磁気モーメントが反平行である場合に低くなる。
【0038】
スピン・トランスファー・トルク現象は、スピン偏極電流を使用して自由磁性層440の磁気配向を変化させる効果を有する。当技術分野で公知のように、電荷キャリア(電子など)は、キャリアに固有の微小な角運動量である「スピン」として公知の特性を有する。一般に、電流は無極性であるが(50%のスピンアップ電子と50%のスピンダウン電子から構成される)、スピン偏極電流では、より多くのスピンアップ電子またはスピンダウン電子を有する。スピン偏極電流は、固定磁性層420を通して電流を流すことにより発生させることができる。スピン偏極電流は、自由磁性層440の磁気配向を変化させる効果を有する。
【0039】
本開示の例示的な実施形態により、スピン偏極電流をキラル磁性層から構成される自由磁性層440を通して流すことにより、キラル磁性層に磁気スキルミオンの生成または消滅が引き起こされる。自由磁性層の強力な磁気異方性に起因する従来のSTT-MTJデバイスでは、この自由磁性層の電流に誘起されたスイッチングによって、2つの安定した磁化状態(APまたはP)が生じる。しかしながら、自由磁性層440内のキラル磁性材料の層を利用することにより、スピンが偏極したスピン電流を利用して自由磁性層440に複数のスキルミオン状態を誘導することが可能となり、それにより、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400をニューロモルフィック・コンピューティング用の抵抗メモリ素子として効果的に利用することが可能となるように、MTJ構造体410の磁気抵抗を調整することができる。
【0040】
磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400の種々の層および構造体は、所与の用途に好適な材料で形成することができる。例えば、いくつかの実施形態では、第1の電極402および第2の電極404は、タンタル、窒化タンタル、ルテニウム、チタンなどの好適な導電性材料(単数または複数)で形成される。更に、いくつかの実施形態では、固定磁性層420は、コバルト(Co)もしくは鉄(Fe)、ホウ素(B)、またはそれらの任意の組み合わせなどの磁性材料の層から構成される。例えば、固定磁性層420は、CoFeBまたはCoFeで形成することができる。いくつかの実施形態では、トンネル障壁層420は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(AlO)、もしくは酸化チタン(TiO)などの非磁性絶縁材料、または任意の他の好適な材料で形成される。
【0041】
自由磁性層440は、多層構造であっても、または単層構造であってもよい。例えば、自由磁性層440は、第1の重金属層と、第2の重金属層と、第1の重金属層と第2の重金属層の間に配置されたキラル磁性層とから構成される多層構造であってよい。いくつかの実施形態では、第1および第2の重金属層は対向するDMIを有しており、協働してMTJ構造体のDMIを全体的に増強する。他の実施形態では、自由磁性層440は、単一のキラル磁性層、例えば、FeCoSi、FeGeなどの比較的強力なDMIを有する単一の非中心対称性磁性層を含む。当技術分野で公知のように、非中心対称性磁性層は、磁性材料の結晶構造に反転中心のない磁性材料から構成されている。自由磁性層440は、磁気スキルミオンを自然に形成することが可能な、任意の好適な非中心対称性磁性層で形成することができる。キラル磁性層を含む多層構造または単層構造から構成される自由磁性層を備える磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを実装するための他の例示的な実施形態を、図6、7、8および9と共に下記で更に詳細に説明する。
【0042】
図4は、磁気スキルミオンなどのトポロジカル・スピン・テクスチャをホストするように構成された自由磁性層を実装する多状態抵抗メモリ・デバイスの例示的な実施形態を示すものであり、抵抗メモリ・デバイスの状態は、自由磁性層440に存在するトポロジカル・スピン・テクスチャを生成または消滅させるようにプログラミング電流を使用して変調されることを理解されたい。例示の目的のために、スキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイスを本明細書に記載しているが、自由磁性層440は、抵抗メモリ・デバイス400のMTJ構造体410の磁気抵抗を変調するのに好適な、様々な種類の安定したトポロジカル・スピン・テクスチャの1つをホストするように構成可能な任意の好適な磁性材料を使用して実装することができることを理解されたい。
【0043】
図4は、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400を通って流れ、(i)増強プログラミング動作中、自由磁性層440に磁気スキルミオンを生成し(抵抗メモリ・デバイス400の抵抗を目標となる抵抗状態まで増加させ)、(ii)抑制プログラミング動作中、自由磁性層440に存在する磁気スキルミオンを消滅させる(抵抗メモリ・デバイス400の抵抗を目標となる抵抗状態まで減少させる)ように生成することが可能な双方向性電荷電流IおよびIを概略的に示す。いくつかの実施形態では、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400が図3のメモリ・セル300に実装されると仮定すると、第1の(上側の)電極402はビット線BLに結合され、第2の(下側の)電極404はアクセス・トランジスタ310のドレインD端子に結合されることになる。
【0044】
このような構成において、例示的な増強プログラミング動作は、例えば、(i)ソース線SLに接地(GND)電圧レベル(例えば、0V)を印加し、(ii)増強プログラミング動作中、アクセス・トランジスタ310を(飽和モードで)作動状態に維持するのに十分な正の電圧レベルをワード線WLに印加し、(iii)1つまたは複数の正の電圧パルスのシーケンスをビット線BLに印加し、これによって抵抗メモリ・デバイス400を通って第1の電極402から第2の電極404に至る正の電流フローIを生じさせる荷電電流パルスのシーケンスを生成することによって実行することができる。上記で述べたように、いくつかの例示的な構成では、固定磁性層420から自由磁性層440に至る正の電流フローIにより、自由磁性層440に磁気スキルミオンを発生させる要因となるスピン電流が発生する。
【0045】
他方では、例示的な抑制プログラミング動作は、例えば、(i)ビット線BLに接地(GND)電圧レベル(例えば、0V)を印加し、(ii)抑制プログラミング動作中、アクセス・トランジスタ310を(飽和モードで)作動状態に維持するのに十分な正の電圧レベルをワード線WLに印加し、(iii)1つまたは複数の正の電圧パルスのシーケンスをソース線SLに印加し、抵抗メモリ・デバイス400を通って第2の電極404から第1の電極402に至る負の電流フローIを生じさせる荷電電流パルスのシーケンスを生成することによって実行することができる。上記で述べたように、いくつかの例示的な構成では、自由磁性層440から固定磁性層420に至る負の電流フローIにより、自由磁性層440で磁気スキルミオンの消滅が生じる。
【0046】
磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400の状態を読み取るために、ソース線SLを接地し、ワード線WLに正の電圧レベルを印加してアクセス・トランジスタ310を作動させ、ビット線BLに読取り電圧信号を印加することにより、読取り動作を実行することができる。読取り電圧信号は、ビット線BL上に読取り電流を生成するのに十分な大きさと持続時間(パルス幅)を有しており、この読取り電流の大きさは、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400のコンダクタンス状態(または、より具体的には、MTJ構造体410の磁気抵抗状態)に相当するものであり、これを使用してコンダクタンス状態を判断する。読取り電流の大きさは、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400のコンダクタンス状態に変化を生じさせることなく、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス400のコンダクタンス状態を読み取るくらいに十分に小さいものである。
【0047】
図5Aは、本開示の例示的な実施形態による、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスに磁気スキルミオンを生成および消滅させるための増強プログラミング動作と抑制プログラミング動作とを概略的に示す。より具体的には、図5Aは、同一のプログラミング・パルスのシーケンスを使用する増強および抑制プログラミング動作中における、図4の抵抗メモリ・デバイス400の例示的なMTJ構造体410の磁気分極状態の漸進的なスイッチングを概略的に示している。図5Aは、自由磁性層440に存在する磁気スキルミオンの数に基づく、MTJ構造体410の異なる磁気分極状態500-1、500-2、および500-3を概略的に示す。
【0048】
例えば、図5Aは、固定磁性層420と自由磁性層440とが垂直磁気異方性(PMA:perpendicular magnetic anisotropy)を有しており、PMAでは固定磁性層420の磁気分極ベクトル422と自由磁性層440の磁気分極ベクトル442とが固定磁性層420と自由磁性層440の平面に対して垂直方向に配向されている、MTJ構造体410の初期磁気分極状態500-1を概略的に示す。MTJ構造体410の初期磁気分極状態500-1は、自由磁性層440の磁気分極ベクトル442が固定磁性層420の磁気分極ベクトル422と同一方向に配向された平行(P)状態(低抵抗状態)として概略的に示される。
【0049】
更に、図5Aは、MTJ構造体410の更なる磁気分極状態500-2および500-3を概略的に示しており、この状態は、自由磁性層440に磁気スキルミオンを生成または消滅させるために増強または抑制プログラミング動作を実行した結果として、自由磁性層440に存在する磁気スキルミオン505の数を変化させることによって達成される。例示の目的のために、MTJ構造体410の磁気分極状態500-2は、自由磁性層440が1つの磁気スキルミオン505を有する磁気分極状態となるように概略的に示されており、MTJ構造体410の磁気分極状態500-3は、自由磁性層440が2つの磁気スキルミオン505を有する磁気分極状態となるように概略的に示されている。図5Aには特に示されていないが、自由磁性層440の磁気スキルミオン505の数を増加させることによって(例えば、3つ以上)、MTJ構造体410の更なる磁気分極状態を生じさせることができる。
【0050】
初期磁気分極状態500-1と比較して、MTJ構造体410の磁気分極状態500-2は、自由磁性層440に少なくとも1つの磁気スキルミオン505が存在する結果として、より大きな磁気抵抗を有する。同様に、磁気分極状態500-2と比較して、MTJ構造体410の磁気分極状態500-3は、自由磁性層440に少なくとも2つの磁気スキルミオン505が存在する結果として、より大きな磁気抵抗を有する。上記で述べたように、自由磁性層440の磁気スキルミオン505の数を増加させることにより、MTJ構造体410の磁気抵抗を増大させる役割を果たし、それにより、多値抵抗メモリ・デバイスを実装するためにMTJ構造体410を複数の抵抗/コンダクタンス状態を有するようにプログラムすることが可能となる。
【0051】
図5Aは、MTJ構造体410を通る第1の方向の電流フローの結果として、増強プログラミング・パルス510を印加して自由磁性層440に磁気スキルミオン505の形成を誘導することによって実行される増強プログラミング動作を概略的に示す。特に、図5Aは、上記で説明したように、ソース線SLを接地した状態でビット線BLに印加し(図3)、これによって抵抗メモリ・デバイス400を通って第1の電極402から第2の電極404に至る正の電流フローIを生じさせる荷電電流パルスのシーケンスを生成することができる、同一の振幅+VPPおよびパルス幅Wを有する同一の増強パルスのシーケンスを示している。
【0052】
例示の目的のために、図5Aは、自由磁性層440に生成されるスキルミオン505の数が、増強プログラミング・パルスの数の増加(即ち、パルス・カウント(PC)の増加)と共に増加する、例示的な増強プログラミング動作を示す。特に、図5Aに図示されるように、MTJ構造体410の磁気分極状態500-2は、(初期磁気分極状態500-1から開始して)2つのプログラミング・パルス(例えば、PC=2)を印加し、自由磁性層440に少なくとも1つの磁気スキルミオン505の発生を生じさせた後に達成される。更に、MTJ構造体410の磁気分極状態500-3は、(磁気分極状態500-2から開始して)2つの更なる増強プログラミング・パルス(例えば、PC=4)を印加し、自由磁性層440に磁気スキルミオン505の数を増加させた後に達成される。図5Aには特に示されていないが、自由磁性層440に磁気スキルミオン505の数を増加させ(例えば、3つ以上)、これによって抵抗メモリ・デバイス400の磁気抵抗を増大させることで、MTJ構造体410に更なる磁気分極状態を生じさせることができる。最終的に、十分な数の増強パルスを印加した後に、自由磁性層440の多数の磁気スキルミオン505が強制的に組み合わされてAP状態を達成することができ、その結果、自由磁性層440の磁気分極ベクトルが、固定磁性層420の磁気分極ベクトル422の方向とは反対の方向に配向されたAP状態がもたらされる。
【0053】
加えて、図5Aは、MTJ構造体410を通る(磁気スキルミオンの形成をもたらす電流フローの第1の方向とは反対の)第2の方向の電流フローの結果として、自由磁性層440の磁気スキルミオン505を消滅させるために、抑制プログラミング・パルス520を印加することによって実行される抑制プログラミング動作を概略的に示す。特に、図5Aは、上記で説明したように、ビット線BLを接地した状態でソース線SLに印加し(図3)、これによって、抵抗メモリ・デバイス400を通って第2の電極404から第1の電極402に至る負の電流フローIを生じさせ、自由磁性層440に磁気スキルミオンの消滅を引き起こす荷電電流パルスのシーケンスを生成することができる、同一の振幅+VDPおよびパルス幅Wを有する同一の抑制パルスのシーケンスを示している。
【0054】
例示の目的のために、図5Aは、自由磁性層440から消滅するスキルミオン505の数が、抑制プログラミング・パルスの数の増加(即ち、パルス・カウント(PC)の増加)と共に増加する、例示的な抑制プログラミング動作を示す。特に、図5Aに図示されるように、MTJ構造体410の磁気分極状態500-3は、(図示されていないが、磁気抵抗が更に高いMTJ構造体410の別の磁気分極状態から開始して)所与の数nの抑制プログラミング・パルス(例えば、PC=n)を印加し、自由磁性層440に1つまたは複数の磁気スキルミオン505の消滅を生じさせた後に達成され、自由磁性層440が2つの磁気スキルミオン505を含む磁気分極状態500-3が生じる。更に、MTJ構造体410の磁気分極状態500-2は、(磁気分極状態500-3から開始して)2つの更なる抑制プログラミング・パルス(例えば、PC=n+2)を印加し、自由磁性層の磁気スキルミオン505の数を消滅および減少させた後に達成され、自由磁性層440が1つの磁気スキルミオン505を含む磁気分極状態500-2が生じる。初期磁気分極状態500-1を達成するために、更なる抑制プログラミング・パルスを印加することができる。
【0055】
図5Aは、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスの線形双方向性のコンダクタンスの調整を達成するために、同一のプログラミング・パルスを使用する例示的な増強/抑制プログラミング方式を示す。例えば、図5Aは、増加するパルス・カウントに対して生成される多数のスキルミオンが線形である、例えば、2つの増強パルスに対して1つのスキルミオンが生成される線形増強プログラミング方式、ならびに、増加するパルス・カウントに対して消滅する多数のスキルミオンが線形である、例えば、2つの抑制パルスに対して1つのスキルミオンが消滅する線形抑制プログラミング方式を示している。図5Aに示すような増強および抑制プログラミング動作は、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスの抵抗状態を調整するためのプログラミング動作の原理を単に例示的に示すものに過ぎず、そのような抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンスの調整における線形性は、増強および抑制プログラミング・パルスの大きさおよびパルス幅、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスの様々な構成要素の構造的および電気的特性、磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態のダイナミック・レンジ(例えば、数)などを含むがこれらに限定されない様々な要因に応じて変動することを理解されたい。この点に関して、増強および抑制プログラミング・パルスの大きさおよびパルス幅は、所与の用途に必要とされる所望のコンダクタンス調整動作を達成するように最適化することができることを理解されたい。
【0056】
図5Aは、一般に、磁気分極が自由磁性層440のPMA分極442と反対の方向を指す矢印として磁気スキルミオン505を示しているが、自由磁性層440に形成される磁気スキルミオン505は、図5Bおよび図5Cに示されるようなトポロジカル構造および分布を有することができる。特に、図5Bおよび図5Cは、本開示の例示的な実施形態による、垂直磁気異方性を有する磁性材料の層に生成される磁気スキルミオンの例示的な構造を示す。図5Bは、PMA磁気分極を有する自由磁性層440に形成される複数の磁気スキルミオン505を示す。磁気スキルミオン505は、自由磁性層440のPMAベクトル場442の様々な領域に形成されたトポロジカル・スピン・テクスチャとして概略的に示されている。磁気スキルミオン505は反発的な磁力を有しており、磁気スキルミオン505が形成されると、それらは分離されたまま保持され、プログラミング動作中に自由磁性層440の領域上を動的に移動する。
【0057】
更に、図5Cは、PMA磁性層440のネール型構造(またはヘッジホッグ構造)を有する磁気スキルミオン505の例示的なテクスチャを示す。図5Cに示すように、磁気スキルミオン505のコア領域505-1は、磁気スキルミオン505の外周および自由磁性層440を取り囲むPMA磁場442(図5B)における磁気分極ベクトルの方向と反対(即ち、反平行)の方向に配向された磁気分極ベクトルから構成される。より具体的には、図5Cに概略的に示すように、スピンの配向は、磁気スキルミオン505の周辺における上方向(例えば、正のz方向)から、磁気スキルミオン505のコア505-1における下方向(例えば、負のz方向)まで漸進的に回転する。例示的な実施形態では、磁気スキルミオンは負極性(p=-1)(コアのスピンが負のz方向を指す)とQ=-1のトポロジカル・チャージとを有する。
【0058】
図5Bおよび図5Cは、PMAを有する磁性層に特定の磁気スキルミオン構造を有する例示的なトポロジカル・スピン・テクスチャを示すものであることを理解されたい。しかしながら、本開示の他の実施形態による抵抗メモリ・デバイスは、他の好適な種類のトポロジカル・スピン・テクスチャ、例えば、バイスキルミオン、アンチスキルミオン、メロン、スパイラル・スピン・テクスチャ、ヘリカル・スピン・テクスチャ、コニカル・スピン・テクスチャ、およびPMA構成または面内磁気構成を有する自由磁性層にホストされ得る、例えばSTT技術を使用して生成/消滅させることのできる他の種類の安定なトポロジカル・スピン・テクスチャを使用して実装することができることを理解されたい。
【0059】
図6は、本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。特に、図6は、第1の電極602と、第2の電極604と、第1の電極602と第2の電極604との間に配置されたMTJ構造体610とを備える磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス600を概略的に示す。MTJ構造体610は、固定磁性層620と、トンネル障壁層630と、自由磁性層640とから構成される。自由磁性層640は、第1の重金属層642と、キラル磁性層644と、第2の重金属層646とから構成される多層構造である。いくつかの実施形態では、第1および第2の重金属層は対向するDMIを有しており、協働してMTJ構造体610の自由磁性層640のDMIを全体的に増強する。
【0060】
いくつかの実施形態では、第1の電極602と、第2の電極604と、固定磁性層620と、トンネル障壁層630とは、上記で説明したように、抵抗メモリ・デバイス400(図4)の対応する要素と同一か、または同様の材料で形成される。いくつかの実施形態では、第1の重金属層642は白金を含み、キラル磁性層644はコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、第2の重金属層646はタンタルを含む。いくつかの実施形態では、第1の重金属層642は白金を含み、キラル磁性層644はコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、第2の重金属層646はイリジウムを含む。いくつかの実施形態では、第1の重金属層642は白金を含み、キラル磁性層644は鉄を含み、第2の重金属層646はイリジウムを含む。
【0061】
図7は、本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。特に、図7は、第1の電極702と、第2の電極704と、第1の電極702と第2の電極704との間に配置されたMTJ構造体710とを備える磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス700を概略的に示す。MTJ構造体710は、固定磁性層720と、トンネル障壁層730と、単一のキラル磁性層からなる自由磁性層740とから構成される。いくつかの実施形態では、自由磁性層740は、追加の層(例えば、重金属層)を必要とせずに安定な磁気スキルミオンを形成することができる、十分に強力なDMIを有する単一の非中心対称性キラル磁性層を含む。いくつかの実施形態では、単一の非中心対称性キラル磁性層は、コバルト-鉄-シリコン合金、または鉄-ゲルマニウム合金などを含む。
【0062】
図8は、本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。特に、図8は、第1の電極802と、第2の電極804と、第1の電極802と第2の電極804との間に配置されたMTJ構造体810とを備える磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス800を概略的に示す。MTJ構造体810は、第1の偏光子層820(例えば、第1の固定磁性層)と、第1の絶縁層822(例えば、酸化シリコン層)と、第1のトンネル障壁層830と、自由磁性層840と、第2のトンネル障壁層850と、第2の偏光子層860(例えば、第2の固定磁性層)と、第2の絶縁層862とから構成される。自由磁性層840は、第1の重金属層842と、キラル磁性層844と、第2の重金属層846とから構成される多層構造である。上記で述べたように、いくつかの実施形態では、第1の重金属層842および第2の重金属層846は対向するDMIを有しており、協働してMTJ構造体810の自由磁性層840のDMIを全体的に増強する。
【0063】
例示的なスキルミオン抵抗メモリ・デバイス800は、2つの固定磁性層(例えば、第1の偏光子層820および第2の偏光子層860)の間に配置された自由磁性層840から構成される。第1の偏光子層820および第2の偏光子層860は、スピン偏極電流を生成してキラル磁性層844の磁気分極を変調し、キラル磁性層844に磁気スキルミオンの形成または消滅を誘導することにより、増強および抑制プログラミングを促進する役割を果たす。例えば、増強プログラミング動作中にプログラミング電流が抵抗メモリ・デバイス800を通って第1の電極802から第2の電極804に流れる場合、第1の偏光子層820は、キラル磁性層844に磁気スキルミオンの形成を誘導するスピン偏極電流を生成する役割を果たす。他方では、抑制プログラミング動作中にプログラミング電流が抵抗メモリ・デバイス800を通って第2の電極804から第1の電極802に流れる場合、第2の偏光子層860は、キラル磁性層844に磁気スキルミオンの消滅を誘導するスピン偏極電流を生成する役割を果たす。
【0064】
いくつかの実施形態では、図8に示すように、第1の偏光子層820および第2の偏光子層860は、それぞれ、MTJ構造体810の他の層のフットプリント面積よりも小さいフットプリント面積から構成されている。第1の偏光子層820および第2の偏光子層860の横方向サイズ(フットプリント)が小さいことで、偏光子層820および860の領域に整列したMTJ構造体810の中央領域付近の電流密度を局所的に増加させる役割を果たす。電流密度がスキルミオンを生成する閾値電流を上回って増加することにより、MTJ構造体810のキラル磁性層844の中央領域に磁気スキルミオンが局所的に生成される。磁気スキルミオンは、それらの間に反発力を有するため、増強プログラミング動作中に、連続した増強プログラミング・パルスによってキラル磁性層844の中央領域に他の磁気スキルミオンが生成されると、キラル磁性層844付近およびその中央領域に存在する磁気スキルミオンがキラル磁性層844の周辺領域に対して反発することになる。
【0065】
同様に、抑制プログラミング動作中、電流密度がスキルミオンを消滅させる閾値電流を上回って増加することにより、MTJ構造体810のキラル磁性層844の中央領域で磁気スキルミオンが局所的に消滅する。磁気スキルミオンは、それらの間に反発力を有するため、抑制プログラミング動作中に、キラル磁性層844付近およびその中央領域に存在する磁気スキルミオンが消滅すると、キラル磁性層844の周辺領域の磁気スキルミオンは、キラル磁性層844の中央領域に対して反発し、連続した抑制プログラミング・パルスによって消滅させることができる。この構造上の構成は、プログラミング動作中に発生または消滅する磁気スキルミオンの数に対してより良好な制御をもたらすのに役立つ一方で、所与の絶対電流量を使用してプログラミングのための電流密度を向上させるものでもある。
【0066】
図9は、本開示の別の例示的な実施形態による磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイスを概略的に示す。特に、図9は、第1の電極902と、第2の電極904と、第1の電極902と第2の電極904との間に配置されたMTJ構造体910とを備える磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス900を概略的に示す。MTJ構造体910は、第1の偏光子層920(例えば、第1の固定層)と、第1の絶縁層922(例えば、酸化シリコン層)と、第1のトンネル障壁層930と、自由磁性層940と、第2のトンネル障壁層950と、第2の偏光子層960(例えば、第2の固定層)と、第2の絶縁層962とから構成される。自由磁性層940は、追加の層(例えば、重金属層)を必要とせずに安定な磁気スキルミオンを形成することができる、十分に強力なDMIを有する単一の非中心対称性キラル磁性層を含む。いくつかの実施形態では、上記で述べたように、単一の非中心対称性キラル磁性層940は、コバルト-鉄-シリコン合金、または鉄-ゲルマニウム合金などを含む。
【0067】
図9は、固定磁性層(例えば、第1の偏光子層920および第2の偏光子層960)の間に配置された単一のキラル磁性層940を備えた磁気スキルミオン抵抗メモリ・デバイス900の例示的な実施形態を示す。図8の例示的な実施形態のように、第1の偏光子層920および第2の偏光子層960は、スピン偏極電流を生成してキラル磁性層940の磁気分極を変調し、キラル磁性層940に磁気スキルミオンの形成または消滅を誘導することにより、増強および抑制プログラミングを促進する役割を果たす。更に、図8の例示的な実施形態と同様に、偏光子層920および960のフットプリントが小さいことで、第1の偏光子層920および第2の偏光子層960の領域に整列したMTJ構造体910の中央領域付近の電流密度を局所的に増加させる役割を果たし、それによってMTJ構造体910のキラル磁性層940付近およびその中央領域における磁気スキルミオンの生成および消滅が促進される。
【0068】
本明細書で説明されるような例示的な抵抗メモリ・デバイス(例えば、スキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイス)は、RPUアレイのコンダクタンス状態(例えば、シナプス重み)を双方向線形的に調整することができるように、RPUシステムの不揮発性抵抗メモリ・セルのRPUアレイ内の記憶素子として容易に実装することができることを理解されたい。スキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイスの双方向線形調整特性により、図3に示すような1T-1Rアーキテクチャを有するRPUメモリ・セルの実装が可能となる。例えば、本明細書で説明されるようなスキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイスを実装するRPUシステムは、様々な種類のニューロモルフィック・コンピューティング・アプリケーション(例えば、機械学習アプリケーション、画像分類アプリケーション、ニューラル・ネットワーク訓練アプリケーション、人工知能アプリケーションなど)をサポートするように利用することができるか、または別の方法で、RPUシステムを利用するデジタル処理システム(フォン・ノイマン・アーキテクチャ・ベースのプロセッサ)と共にハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングのためのサポートを提供し、行列ベクトル演算、ベクトル-ベクトル乗算演算、データもしくは画像分類演算、もしくはRPUシステムを使用するハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングによってアナログ領域で実行することができる乗累算(MAC:multiply-accumulate)演算を必要とする他の種類のメモリ内演算のようなメモリ内計算を実行するために利用することができる。このような場合、コンピューティング・システムは、デジタル処理コアと、ニューロモルフィック・コンピューティング・システム(例えば、RPUシステム)とを一体化することによって実装することができる。
【0069】
この点に関して、本開示の例示的な実施形態は、あらゆる考えられる技術的詳細レベルが一体化したシステム、方法、もしくはコンピュータ・プログラム製品、またはそれらの組み合わせであってよい。コンピュータ・プログラム製品は、プロセッサに本発明の態様を実行させるための、その中にコンピュータ可読プログラム命令を有するコンピュータ可読ストレージ媒体(単数または複数)を含み得る。
【0070】
コンピュータ可読ストレージ媒体は、命令実行デバイスによって使用される命令を保持および保存することができる有形デバイスであってよい。コンピュータ可読ストレージ媒体は、例えば、限定するものではないが、電子的ストレージ・デバイス、磁気的ストレージ・デバイス、光学的ストレージ・デバイス、電磁的ストレージ・デバイス、半導体ストレージ・デバイス、または前述の任意の好適な組み合わせであってよい。コンピュータ可読ストレージ媒体のより具体的な例の非網羅的なリストとしては、ポータブル・コンピュータ・ディスケット、ハード・ディスク、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、リード・オンリ・メモリ(ROM)、消去可能プログラマブル・リード・オンリ・メモリ(EPROMもしくはフラッシュ・メモリ)、スタティック・ランダム・アクセス・メモリ(SRAM)、携帯型コンパクト・ディスク・リード・オンリ・メモリ(CD-ROM)、デジタル汎用ディスク(DVD)、メモリ・スティック(登録商標)、フレキシブル・ディスク、パンチカードまたはそこに記録された命令を有する溝内に隆起した構造などの機械式コード化デバイス、および前述の任意の好適な組み合わせが挙げられる。本明細書で使用するとき、コンピュータ可読ストレージ媒体は、それ自体が、電波もしくは他の自由に伝搬する電磁波、導波路もしくは他の伝送媒体を通じて伝搬する電磁波(例えば光ファイバ・ケーブルを通る光パルス)、または電線を通じて伝送される電気信号などの一時的な信号であると解釈されるべきではない。
【0071】
本明細書に記載されるコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ可読ストレージ媒体からそれぞれのコンピューティング/処理デバイスにダウンロードすることができ、またはネットワーク、例えばインターネット、ローカル・エリア・ネットワーク、ワイド・エリア・ネットワーク、もしくは無線ネットワーク、またはそれらの組み合わせを経由して外部コンピュータもしくは外部ストレージ・デバイスにダウンロードすることができる。ネットワークは、銅伝送ケーブル、光伝送ファイバ、無線伝送、ルータ、ファイアウォール、スイッチ、ゲートウェイ・コンピュータ、もしくはエッジ・サーバ、またはそれらの組み合わせを含み得る。各コンピューティング/処理デバイス内のネットワーク・アダプタ・カードまたはネットワーク・インタフェースは、それぞれのコンピューティング/処理デバイス内のコンピュータ可読ストレージ媒体にコンピュータ可読プログラム命令を保存するために、コンピュータ可読プログラム命令をネットワークから受信して転送する。
【0072】
本発明の動作を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令は、アセンブラ命令、命令セット・アーキテクチャ(ISA)命令、機械語命令、機械依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、集積回路用コンフィギュレーション・データ、またはSmalltalk(登録商標)、C++などのようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語もしくは同様のプログラミング言語などの手続き型プログラミング言語を含む、1つまたは複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されるソース・コードもしくはオブジェクト・コードのいずれかであってよい。コンピュータ可読プログラム命令は、完全にユーザのコンピュータ上で実行されてもよく、部分的にスタンドアロン・ソフトウェア・パッケージとしてユーザのコンピュータ上で実行されてもよく、部分的にユーザのコンピュータ上および部分的にリモート・コンピュータ上で実行されてもよく、または完全にリモート・コンピュータもしくはサーバ上で実行されてもよい。後者のシナリオでは、リモート・コンピュータは、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)もしくはワイド・エリア・ネットワーク(WAN)を含む任意の種類のネットワークを通じてユーザのコンピュータに接続されてもよく、または外部コンピュータに(例えば、インターネット・サービス・プロバイダを使用するインターネットを通じて)接続されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の態様を実施するために、例えばプログラマブル論理回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、またはプログラマブル論理アレイ(PLA)を含む電子回路により、コンピュータ可読プログラム命令の状態情報を利用して電子回路を個別化することによってコンピュータ可読プログラム命令を実行してもよい。
【0073】
本発明の態様は、本発明の実施形態による方法、装置(システム)、およびコンピュータ・プログラム製品のフローチャート図もしくはブロック図またはその両方を参照して本明細書に記載される。フローチャート図もしくはブロック図またはその両方の各ブロック、およびフローチャート図もしくはブロック図またはその両方におけるブロックの組み合わせは、コンピュータ可読プログラム命令によって実装することが可能であることが理解されよう。
【0074】
これらのコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラム可能データ処理装置のプロセッサを介して実行される命令が、フローチャートもしくはブロック図またはその両方の1つまたは複数のブロックにおいて指定される機能/動作を実装するための手段を作成するように、コンピュータ、または他のプログラム可能データ処理装置のプロセッサに提供されてマシンを生成するものであってよい。これらのコンピュータ可読プログラム命令はまた、コンピュータ可読ストレージ媒体中に保存された命令を有するコンピュータ可読ストレージ媒体が、フローチャートもしくはブロック図またはその両方の1つまたは複数のブロックにおいて指定される機能/動作の態様を実装する命令を含む製造品を含むように、コンピュータ可読ストレージ媒体中に保存され、コンピュータ、プログラム可能データ処理装置、もしくは他のデバイス、またはそれらの組み合わせに特定の方法で機能するように指示することができるものであってよい。
【0075】
コンピュータ可読プログラム命令はまた、コンピュータ、他のプログラム可能データ処理装置、または他のデバイス上で実行する命令が、フローチャートもしくはブロック図またはその両方の1つもしくは複数のブロックにおいて指定される機能/動作を実装するように、コンピュータ、他のプログラム可能データ処理装置、または他のデバイス上にロードされ、コンピュータ、他のプログラム可能装置、または他のデバイス上で一連の動作ステップを実行させて、コンピュータ実装プロセスを生じさせてもよい。
【0076】
図中のフローチャートおよびブロック図は、本発明の様々な実施形態によるシステム、方法、およびコンピュータ・プログラム製品の実行可能な実装形態のアーキテクチャ、機能、および動作を図示するものである。この点に関して、フローチャートまたはブロック図における各ブロックは、指定された論理的機能(単数または複数)を実装するための1つまたは複数の実行可能命令を含むモジュール、セグメント、または命令の一部を表し得る。いくつかの代替的な実装形態では、ブロック内で言及される機能は、図中で言及される順序に関係なく発生する場合がある。例えば、連続的に示されている2つのブロックが、実際には1つのステップとして完了してもよく、同時に実行されてもよく、部分的にもしくは全体的に時間的に重なるように実質的に同時に実行されてもよく、または関与する機能に応じてブロックが逆の順序で実行されることがあってもよい。ブロック図もしくはフローチャート図またはその両方におけるそれぞれのブロック、およびブロック図もしくはフローチャート図またはその両方におけるブロックの組み合わせは、指定された機能もしくは動作を実施するか、または専用ハードウェアおよびコンピュータ命令の組み合わせを実行する、専用ハードウェア・ベースのシステムによって実装され得ることにも留意されたい。
【0077】
図10を参照しながらこれらの概念を説明するが、図10では、本開示の例示的な実施形態による、ハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングのRPUシステムを利用してニューロモルフィック・コンピューティング・アプリケーションを実行するように構成されたシステムをホストすることができるコンピューティング・ノードの例示的なアーキテクチャが概略的に示されている。図10は、他の多数の汎用または専用コンピューティング・システム環境または構成によって動作可能な、コンピュータ・システム/サーバ1012を含むコンピューティング・ノード1000を示す。コンピュータ・システム/サーバ1012と共に使用するのに好適であり得る、よく知られたコンピューティング・システム、環境、もしくは構成、またはそれらの組み合わせの例としては、パーソナル・コンピュータ・システム、サーバ・コンピュータ・システム、シン・クライアント、シック・クライアント、ハンドヘルドまたはラップトップ・デバイス、マルチプロセッサ・システム、マイクロプロセッサ・ベースのシステム、セット・トップ・ボックス、プログラム可能な家庭用電化製品、ネットワークPC、ミニコンピュータ・システム、メインフレーム・コンピュータ・システム、および上記のシステムまたはデバイスのいずれかを含む分散クラウド・コンピューティング環境などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
コンピュータ・システム/サーバ1012は、プログラム・モジュールなどのコンピュータ・システム実行可能命令がコンピュータ・システムによって実行されるという一般的な文脈で説明することができる。一般に、プログラム・モジュールは、特定のタスクを実行するか、または特定の抽象データ型を実装するルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、ロジック、データ構造などを含み得る。コンピュータ・システム/サーバ1012は、通信ネットワークを介して連結されたリモート処理デバイスによってタスクが実行される分散クラウド・コンピューティング環境で実行されてもよい。分散クラウド・コンピューティング環境では、プログラム・モジュールは、メモリ・ストレージ・デバイスを含むローカルおよびリモートの両方のコンピュータ・システムのストレージ媒体に配置することができる。
【0079】
図10では、コンピューティング・ノード1000内のコンピュータ・システム/サーバ1012が、汎用コンピューティング・デバイスの形態で示される。コンピュータ・システム/サーバ1012の構成要素としては、限定するものではないが、1つまたは複数のプロセッサまたは処理ユニット1016、システム・メモリ1028、およびシステム・メモリ1028を含む様々なシステム構成要素をプロセッサ1016に結合するバス1018を挙げることができる。
【0080】
バス1018は、メモリ・バスまたはメモリ・コントローラ、周辺バス、アクセラレイテッド・グラフィックス・ポート、および様々なバス・アーキテクチャのいずれかを使用するプロセッサまたはローカル・バスを含む、いくつかの種類のバス構造のいずれかのうちの1つまたは複数を表す。限定するものではなく例として、そのようなアーキテクチャとしては、インダストリ・スタンダード・アーキテクチャ(ISA)バス、マイクロ・チャネル・アーキテクチャ(MCA)バス、拡張ISA(EISA)バス、ビデオ・エレクトロニクス・スタンダーズ・アソシエーション(VESA)ローカル・バス、およびペリフェラル・コンポーネント・インターコネクト(PCI)バスが挙げられる。
【0081】
コンピュータ・システム/サーバ1012は、典型的に、様々なコンピュータ・システム可読媒体を含む。そのような媒体は、コンピュータ・システム/サーバ1012によりアクセス可能な任意の利用可能な媒体であってよく、揮発性媒体および不揮発性媒体、取り外し可能媒体および取り外し不可能媒体のどちらもが含まれる。
【0082】
システム・メモリ1028としては、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)1030もしくはキャッシュ・メモリ1032またはその両方などの、揮発性メモリの形態のコンピュータ・システム可読媒体を挙げることができる。コンピュータ・システム/サーバ1012は、他の取り外し可能/取り外し不可能な揮発性/不揮発性コンピュータ・システム・ストレージ媒体を更に含み得る。単に例として、(図示されておらず、典型的には「ハード・ドライブ」と呼ばれる)取り外し不可能な不揮発性磁気媒体から読み取り、かつこれに書き込むためのストレージ・システム1034を設けることができる。図示しないが、取り外し可能な不揮発性磁気ディスク(例えば、「フレキシブル・ディスク」)から読み取り、かつこれに書き込むための磁気ディスク・ドライブ、およびCD-ROM、DVD-ROM、または他の光媒体などの取り外し可能な不揮発性光ディスクから読み取り、かつこれに書き込むための光ディスク・ドライブを設けることができる。そのような場合、1つまたは複数のデータ媒体インタフェースにより、各々をバス1018に接続することができる。本明細書に図示および記載されるように、メモリ1028は、本発明の実施形態の機能を実行するように構成された、プログラム・モジュールのセット(例えば、少なくとも1つ)を有する少なくとも1つのプログラム製品を含み得る。
【0083】
プログラム・モジュール1042のセット(少なくとも1つ)を有するプログラム/ユーティリティ1040は、限定するものではなく例として、オペレーティング・システム、1つまたは複数のアプリケーション・プログラム、他のプログラム・モジュール、およびプログラム・データと同様に、メモリ1028内に保存することができる。オペレーティング・システム、1つまたは複数のアプリケーション・プログラム、他のプログラム・モジュール、およびプログラム・データまたはそれらのいくつかの組み合わせの各々は、ネットワーキング環境の実装形態を含み得る。プログラム・モジュール1042は、一般に、本明細書に記載されるように、本開示の実施形態の機能もしくは方法論またはその両方を実行する。
【0084】
コンピュータ・システム/サーバ1012はまた、キーボード、ポインティング・デバイス、ディスプレイ1024などの1つまたは複数の外部デバイス1014、ユーザにコンピュータ・システム/サーバ1012とやり取りすることを可能にする1つまたは複数のデバイス、もしくはコンピュータ・システム/サーバ1012に1つまたは複数の他のコンピューティング・デバイスと通信することを可能にする任意のデバイス(例えば、ネットワーク・カード、モデムなど)またはそれらの組み合わせと通信することができる。そのような通信は、入出力(I/O)インタフェース1022を介して行うことができる。更にまた、コンピュータ・システム/サーバ1012は、ネットワーク・アダプタ1020を介して、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)、一般的なワイド・エリア・ネットワーク(WAN)、もしくはパブリック・ネットワーク(例えば、インターネット)またはそれらの組み合わせなどの1つまたは複数のネットワークと通信することができる。図示されるように、ネットワーク・アダプタ1020は、バス1018を介してコンピュータ・システム/サーバ1012の他の構成要素と通信する。図示されないが、コンピュータ・システム/サーバ1012と共に、他のハードウェアもしくはソフトウェアまたはその両方の構成要素を使用することができることを理解すべきである。例としては、マイクロコード、デバイス・ドライバ、冗長処理ユニット、外部ディスク・ドライブ・アレイ、RAIDシステム、SSDドライブ、およびデータ・アーカイバル・ストレージ・システムなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
加えて、本開示には、クラウド・コンピューティングについての詳細な説明が含まれているが、本明細書に明示された教示の実装形態は、クラウド・コンピューティング環境に限定されるものではないことを理解されたい。むしろ、本発明の実施形態は、現時点で公知の、または後に開発される任意の他の種類のコンピューティング環境と共に実装することができる。例えば、ニューロモルフィック・コンピューティング・アズ・ア・サービスまたは人工知能アズ・ア・サービス(AIaaS)などのクラウド・サービスは、本明細書で説明されるような例示的なスキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイスを利用したRPUシステムを実装することができる。
【0086】
クラウド・コンピューティングは、最小限の管理労力またはサービス・プロバイダとの対話によって迅速にプロビジョニングおよびリリースすることができる、構成可能なコンピューティング・リソース(例えば、ネットワーク、ネットワーク帯域幅、サーバ、処理、メモリ、ストレージ、アプリケーション、仮想マシンおよびサービス)の共用プールに対し、便宜的なオンデマンドのネットワーク・アクセスを可能にするためのサービス配信モデルである。このクラウド・モデルには、少なくとも5つの特徴、少なくとも3つのサービス・モデル、および少なくとも4つのデプロイメント・モデルが含まれ得る。
【0087】
特徴は、以下の通りである。
【0088】
オンデマンド・セルフサービス:クラウド利用者は、サービス・プロバイダとの人的介入を必要とせずに、必要に応じて自動的にサーバ時間およびネットワーク・ストレージなどのコンピューティング機能を一方的にプロビジョニングすることができる。
【0089】
広範なネットワーク・アクセス:機能はネットワークを通じて利用可能であり、異機種のシン・クライアント・プラットフォームまたはシック・クライアント・プラットフォーム(例えば、携帯電話、ラップトップ、およびPDA)による使用を促進する標準的な機構を介してアクセスされる。
【0090】
リソース・プーリング:プロバイダのコンピューティング・リソースは、異なる物理リソースおよび仮想リソースを要求に応じて動的に割り当て再設定するマルチテナント・モデルを使用して、複数の利用者に供給するためにプールされる。一般に、利用者は、提供されるリソースの正確な場所について制御することも知ることもないという点で、場所に依存していない感覚を有するが、より高度な抽象化レベルで場所を特定することも可能であり得る(例えば、国、州、またはデータ・センタ)。
【0091】
迅速な融通性:機能は、高速にスケールアウトするために迅速かつ弾性的に、場合によっては自動的にプロビジョニングすることが可能であり、高速にスケールインするために迅速にリリースすることが可能である。利用者にとって、多くの場合、プロビジョニングに利用可能な機能が無制限であるように表示され、いつでも任意の量を購入することができる。
【0092】
サービスの測定:クラウド・システムは、計測機能を導入することによって、サービスの種類(例えば、ストレージ、処理、帯域幅、およびアクティブなユーザ・アカウント)に適切なある程度の抽象化レベルでリソースの使用を自動的に制御し、最適化する。リソースの使用状況は監視、制御、および報告することが可能であり、利用されたサービスのプロバイダおよび利用者の双方に透明性をもたらす。
【0093】
サービス・モデルは、以下の通りである。
【0094】
ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS):利用者に提供される機能は、クラウド・インフラストラクチャ上で実行されるプロバイダのアプリケーションを使用することである。アプリケーションは、ウェブ・ブラウザ(例えば、ウェブベースの電子メール)などのシン・クライアント・インタフェースを介して、各種クライアント・デバイスからアクセスできる。利用者は、限られたユーザ固有のアプリケーション構成設定の考えられる例外を除き、ネットワーク、サーバ、オペレーティング・システム、ストレージ、または更に個々のアプリケーション機能を含む基盤となるクラウド・インフラストラクチャを管理することも、または制御することもない。
【0095】
プラットフォーム・アズ・ア・サービス(PaaS):利用者に提供される機能は、プロバイダによってサポートされるプログラミング言語およびツールを使用して作成された、利用者が作成または取得したアプリケーションをクラウド・インフラストラクチャ上にデプロイすることである。利用者は、ネットワーク、サーバ、オペレーティング・システム、またはストレージを含む、基盤となるクラウド・インフラストラクチャを管理することも、または制御することもないが、デプロイされたアプリケーション、場合によってはアプリケーション・ホスティング環境構成を制御することができる。
【0096】
インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(laaS):利用者に提供される機能は、処理、ストレージ、ネットワーク、および他の基本的なコンピューティング・リソースをプロビジョニングすることであり、利用者は、オペレーティング・システムおよびアプリケーションを含み得る任意のソフトウェアをデプロイして実行することができる。利用者は、基盤となるクラウド・インフラストラクチャを管理することも、または制御することもないが、オペレーティング・システム、ストレージ、デプロイされたアプリケーションを制御することができ、場合によっては選択されたネットワーク・コンポーネント(例えば、ホスト・ファイアウォール)を限定的に制御することができる。
【0097】
デプロイメント・モデルは、以下の通りである。
【0098】
プライベート・クラウド:このクラウド・インフラストラクチャは、1つの組織のためだけに運用される。プライベート・クラウドは、組織またはサード・パーティによって管理されてもよく、オンプレミスまたはオフプレミスで存在してもよい。
【0099】
コミュニティ・クラウド:このクラウド・インフラストラクチャは、複数の組織によって共有され、懸念材料(例えば、ミッション、セキュリティ要件、ポリシー、およびコンプライアンスに関する考慮事項)を共有している特定のコミュニティをサポートする。コミュニティ・クラウドは、組織またはサード・パーティによって管理されてもよく、オンプレミスまたはオフプレミスで存在してもよい。
【0100】
パブリック・クラウド:このクラウド・インフラストラクチャは、一般公衆または大規模な業界団体が使用できるようになっており、クラウド・サービスを販売する組織によって所有されている。
【0101】
ハイブリッド・クラウド:このクラウド・インフラストラクチャは、固有のエンティティを維持しているが、データおよびアプリケーションの移植を可能にする標準化または専有技術(例えば、クラウド間の負荷バランスを調整するためのクラウド・バースティング)によって互いに結合された2つ以上のクラウド(プライベート、コミュニティ、またはパブリック)の複合体である。
【0102】
クラウド・コンピューティング環境は、ステートレス性、疎結合性、モジュール性、およびセマンティック相互運用性に重点を置いた、サービス指向の環境である。クラウド・コンピューティングの中心になるのは、相互接続されたノードのネットワークを含むインフラストラクチャである。
【0103】
ここで、図11を参照すると、例示的なクラウド・コンピューティング環境1100が図示されている。図示されるように、クラウド・コンピューティング環境1100は、1つまたは複数のクラウド・コンピューティング・ノード1150を含み、これによって、例えば、携帯情報機器(PDA)もしくはセルラ電話1154A、デスクトップ・コンピュータ1154B、ラップトップ・コンピュータ1154C、または車載コンピュータ・システム1154N、またはそれらの組み合わせのクラウド利用者に使用されるローカル・コンピューティング・デバイスが通信することが可能となる。ノード1150は互いに通信することができる。それらは、上記で記載されるようなプライベート・クラウド、コミュニティ・クラウド、パブリック・クラウド、もしくはハイブリッド・クラウド、またはそれらの組み合わせなどの1つまたは複数のネットワークに物理的にまたは実質的に分類されてもよい(図示せず)。これによって、クラウド・コンピューティング環境1100は、インフラストラクチャ、プラットフォームもしくはソフトウェアまたはその両方を、クラウド利用者がローカル・コンピューティング・デバイス上のリソースを維持する必要のないサービスとして提供することができる。図11に示されるコンピューティング・デバイス1154A~Nの種類は、単に例示的なものに過ぎないことが意図され、コンピューティング・ノード1150およびクラウド・コンピューティング環境1100は、任意の種類のネットワーク、もしくはネットワーク・アドレス指定可能な接続またはその両方を通じて(例えば、ウェブ・ブラウザを使用して)任意の種類のコンピュータ化デバイスと通信することができることが理解されよう。
【0104】
ここで図12を参照すると、クラウド・コンピューティング環境1100(図11)によって提供される機能的な抽象化レイヤのセットが示されている。図12に示されるコンポーネント、レイヤおよび機能は、単に例示的なものに過ぎないことが意図され、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではないということをあらかじめ理解すべきである。図示される通り、以下のレイヤおよび対応する機能が提供される。
【0105】
ハードウェアおよびソフトウェア・レイヤ1260は、ハードウェア・コンポーネントおよびソフトウェア・コンポーネントを含む。ハードウェア・コンポーネントの例としては、メインフレーム1261、RISC(縮小命令セット・コンピュータ)アーキテクチャ・ベースのサーバ1262、サーバ1263、ブレード・サーバ1264、ストレージ・デバイス1265、ならびにネットワークおよびネットワーク・コンポーネント1266が挙げられる。いくつかの実施形態では、ソフトウェア・コンポーネントには、ネットワーク・アプリケーション・サーバ・ソフトウェア1267およびデータベース・ソフトウェア1268が含まれる。
【0106】
仮想化レイヤ1270は、抽象化レイヤを提供するものであり、以下の仮想エンティティの例、すなわち仮想サーバ1271、仮想ストレージ1272、仮想プライベート・ネットワークを含む仮想ネットワーク1273、仮想アプリケーションおよび仮想オペレーティング・システム1274、ならびに仮想クライアント1275を提供することができる。
【0107】
一実施例では、管理レイヤ1280は、下記に記載される機能を提供することができる。リソース・プロビジョニング1281は、クラウド・コンピューティング環境内でタスクを実行するために使用されるコンピューティング・リソースおよび他のリソースの動的な調達を提供する。計測および価格設定1282は、クラウド・コンピューティング環境内でのリソースの使用に伴うコスト追跡、およびこれらのリソースの消費に対する課金または支払請求を提供する。一実施例では、これらのリソースは、アプリケーション・ソフトウェア・ライセンスを含み得る。セキュリティは、クラウド利用者およびタスクのための本人確認、ならびにデータおよび他のリソースの保護を提供する。ユーザ・ポータル1283は、利用者およびシステム管理者にクラウド・コンピューティング環境へのアクセスを提供する。サービス水準管理1284は、要求されるサービス水準を満たすようにクラウド・コンピューティング・リソースの割り当ておよび管理を提供する。サービス水準合意(SLA)の計画および履行1285は、クラウド・コンピューティング・リソースの事前配置およびその調達を提供するものであり、これによってSLAに従った将来的な要件を予測する。
【0108】
ワークロード・レイヤ1290は、クラウド・コンピューティング環境が使用される可能性のある機能性の例を提供する。このレイヤから提供される可能性のあるワークロードおよび機能の例としては、マッピングおよびナビゲーション1291、ソフトウェア開発およびライフサイクル管理1292、仮想クラスルーム教育配信1293、データ分析処理1294、トランザクション処理1295、ならびに機械学習アプリケーション、画像分類アプリケーション、ニューラル・ネットワーク訓練アプリケーション、人工知能アプリケーションなどを含むがこれらに限定されないニューロモルフィック・コンピューティング・アプリケーションをサポートし、または別の方法で、本明細書で説明されるような本開示の例示的な実施形態による、例えば、スキルミオン・ベースの抵抗メモリ・デバイスを実装する不揮発性抵抗メモリ・セルのアレイから構成されたRPUシステムを使用するハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングのサポートを提供するための様々な機能1296が挙げられる。更に、いくつかの実施形態では、ハードウェアおよびソフトウェア層1260には、そのようなハードウェア・アクセラレイテッド・コンピューティングおよびアナログでのメモリ内計算を実行するための様々なワークロードおよび機能1296を実装するか、または別の方法でサポートするための、図1および図2のコンピューティング・システム100および200が含まれる。
【0109】
例示の目的のために、本開示の様々な実施形態の説明を提示してきたが、包括的であること、または開示された実施形態に限定されることを意図しない。多数の修正および変形が、記載された実施形態の範囲から逸脱することなく、当業者には明らかとなろう。本明細書で使用された用語は、実施形態の原理、実用的用途もしくは市場で見出される技術に対する技術的な改善を最もよく説明するために、または、他の当業者が本明細書に開示される実施形態を理解することを可能にするために選択されたものである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗メモリ・デバイスであって、
自由磁性層を含む磁気トンネル接合構造体を備え、前記自由磁性層は、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含むデバイス。
【請求項2】
前記磁気トンネル接合構造体が、
第1の固定磁性層と、
前記第1の固定磁性層と前記自由磁性層との間に配置された絶縁材料の非磁性層とを含み、
前記第1の固定磁性層と前記自由磁性層とが垂直磁気異方性を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記磁気トンネル接合構造体が、第2の固定磁性層を更に含み、前記自由磁性層が、前記第1の固定磁性層と前記第2の固定磁性層との間に配置される、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1の固定磁性層と前記第2の固定磁性層が、それぞれ前記自由磁性層のフットプリント面積よりも小さいフットプリント面積を備える、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記自由磁性層が多層構造を含み、前記多層構造は、第1の重金属層と、第2の重金属層と、前記第1の重金属層と前記第2の重金属層との間に配置されたキラル磁性層とを含む、請求項2~4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層がコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、前記第2の重金属層がタンタルを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層がコバルト-鉄-ホウ素合金を含み、前記第2の重金属層がイリジウムを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1の重金属層が白金を含み、前記キラル磁性層が鉄を含み、前記第2の重金属層がイリジウムを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項9】
前記自由磁性層が、単一の非中心対称性キラル磁性層を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記単一の非中心対称性キラル磁性層が、コバルト-鉄-シリコン合金、および鉄-ゲルマニウム合金のうちの一方を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、スキルミオンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
少なくとも1つの不揮発性抵抗メモリ・セルが、抵抗メモリ・デバイスを含み、前記抵抗メモリ・デバイスが、自由磁性層を含む磁気トンネル接合構造体を含み、前記自由磁性層が、トポロジカル・スピン・テクスチャをホストして前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように構成可能な磁性材料を含む、不揮発性抵抗メモリ・セルのアレイを備えるデバイス。
【請求項13】
前記抵抗メモリ・デバイスの前記磁気トンネル接合構造体が、
固定磁性層と、
前記固定磁性層と前記自由磁性層との間に配置された絶縁材料の非磁性層とを含み、
前記固定磁性層と前記自由磁性層とが、垂直磁気異方性を備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記自由磁性層が多層構造を含み、前記多層構造は、第1の重金属層と、第2の重金属層と、前記第1の重金属層と前記第2の重金属層との間に配置されたキラル磁性層とを含む、請求項12または13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記自由磁性層が、単一の非中心対称性キラル磁性層を含む、請求項12~14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記デバイスが、ニューロモルフィック・コンピューティング・デバイスを含み、不揮発性抵抗メモリ・セルの前記アレイが、人工シナプス素子のアレイを含み、前記少なくとも1つの不揮発性抵抗メモリ・セルが、前記少なくとも1つの不揮発性メモリ・セルの前記抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス値によって符号化可能なシナプス重みを含む、請求項12~15のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、スキルミオンを含む、請求項12~16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャを構成して抵抗メモリ・デバイスのコンダクタンス状態を調整するように、プログラミング・パルスに応答する前記自由磁性層を含む前記抵抗メモリ・デバイスに、1つまたは複数の前記プログラミング・パルスを印加することを含む方法。
【請求項19】
前記自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャを構成して前記抵抗メモリ・デバイスの前記コンダクタンス状態を調整するように、前記抵抗メモリ・デバイスに1つまたは複数のプログラミング・パルスを印加することは、
前記抵抗メモリ・デバイスを通る第1の方向の電流フローの結果として、前記自由磁性層に1つまたは複数のトポロジカル・スピン・テクスチャの形成を誘導するように、1つまたは複数の増強プログラミング・パルスを印加することと、
前記第1の方向と反対の前記抵抗メモリ・デバイスを通る第2の方向の電流フローの結果として、前記自由磁性層に1つまたは複数存在するトポロジカル・スピン・テクスチャの消滅を生じさせるように、1つまたは複数の抑制プログラミング・パルスを印加することと
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記トポロジカル・スピン・テクスチャが、磁気スキルミオンを含み、前記自由磁性層が、キラル磁性層を含む、請求項18または19に記載の方法。
【国際調査報告】