(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-14
(54)【発明の名称】プラズマを生成するための中空カソードシステムおよびこのような中空カソードシステムの作動方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/34 20060101AFI20240507BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H05H1/34
C23C14/32 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566738
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022057255
(87)【国際公開番号】W WO2022228778
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】102021111097.1
(32)【優先日】2021-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク フラスケ
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】マタウシュ ゲスタ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴァイス
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー キルヒホフ
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト ツィマーマン
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ラビツケ
(72)【発明者】
【氏名】イェアク クーブッシュ
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084AA04
2G084AA05
2G084AA07
2G084BB14
2G084BB23
2G084CC23
2G084DD17
2G084DD23
2G084DD25
2G084DD67
2G084FF13
4K029CA03
4K029DD05
4K029DD06
4K029EA06
(57)【要約】
本発明は、プラズマを生成するための中空カソードシステムと、このような中空カソードシステムの作動方法と、に関する。ここでは、アノード装置(13)、カソード細管(11a;11b)とアノード装置(13)との間に接続される電圧を供給するための電力供給装置(14)、および、カソード細管(11a;11b)を通流するガスを供給するための少なくとも1つのガス貯蔵部(15)を使用し、互いに導電接続された少なくとも2つのカソード細管(11a;11b)を使用し、それぞれのカソード細管(11a;11b)には別々のアクチュエータ(17a;17b)を対応付け、このアクチュエータ(17a;17b)を用いて、それぞれのアクチュエータ(17a;17b)に対応付けられたカソード細管(11a;11b)を通流するガスの量を調整する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカソード細管(11a;11b)、アノード装置(13)、前記カソード細管(11a;11b)と前記アノード装置(13)との間に接続される電圧を供給するための電力供給装置(14)、および、前記カソード細管(11a;11b)を通流するガスを供給するための少なくとも1つのガス貯蔵部(15)を含む、プラズマを生成するための中空カソードシステムにおいて、
前記中空カソードシステムは、互いに導電接続されている少なくとも2つのカソード細管(11a;11b)を有し、それぞれのカソード細管(11a;11b)には、別々のアクチュエータ(17a;17b)が対応付けられており、前記アクチュエータ(17a;17b)を用いて、前記アクチュエータ(17a;17b)に対応付けられた前記カソード細管(11a;11b)を通流するガス量が調整可能であることを特徴とする、
中空カソードシステム。
【請求項2】
少なくとも2つの前記カソード細管(11a;11b)の管軸線(12a;12b)は、互いに平行に配向されているか、または、最大5°の角度を互いに有することを特徴とする、
請求項1記載の中空カソードシステム。
【請求項3】
少なくとも2つの前記カソード細管(11a;11b)を通るガス流方向は、同じであることを特徴とする、
請求項1または2記載の中空カソードシステム。
【請求項4】
隣接したカソード細管(11a;11b)は、最大20mmの間隔を互いに有することを特徴とする、
請求項1から3までのいずれか1項記載の中空カソードシステム。
【請求項5】
前記アノード装置の少なくとも1つの要素(23)は、環状に形成されており、前記アノード装置の少なくとも1つの前記要素(23)は、少なくとも2つの前記カソード細管(21a;21b;21c)を取り囲んでいることを特徴とする、
請求項1から4までのいずれか1項記載の中空カソードシステム。
【請求項6】
アノード装置(13)、カソード細管(11a;11b)と前記アノード装置(13)との間に接続される電圧を供給するための電力供給装置(14)、および、前記カソード細管(11a;11b)を通流するガスを供給するための少なくとも1つのガス貯蔵部(15)を使用する、中空カソードシステムの作動方法において、
互いに導電接続された少なくとも2つのカソード細管(11a;11b)を使用し、それぞれのカソード細管(11a;11b)に別々のアクチュエータ(17a;17b)を対応付け、前記アクチュエータ(17a;17b)を用いて、それぞれの前記アクチュエータ(17a;17b)に対応付けられた前記カソード細管(11a;11b)を通流する前記ガスの量および/または種類を調整することを特徴とする、
方法。
【請求項7】
少なくとも、第1のカソード細管(11a)では、第1のアクチュエータ(17a)を用いて、前記第1のカソード細管(11a)を通流する第1のガス量であって、前記第1のカソード細管(11a)と前記アノード装置(13)との間にアーク放電を点弧するのに適した第1のガス量を調整することを特徴とする、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも、第2のカソード細管では、第2のアクチュエータを用いて、前記第2のカソード細管を通流する第2のガス量であって、前記第2のカソード細管と前記アノード装置との間にアーク放電を点弧するのに適していない第2のガス量を調整することを特徴とする、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
少なくとも、第1のカソード細管(11a)と前記アノード装置(13)との間にアーク放電が形成される前記第1のカソード細管(11a)では、前記アーク放電を終了させ、
少なくとも、第2のカソード細管(11b)と前記アノード装置(13)との間にアーク放電が形成されない前記第2のカソード細管(11b)では、前記アーク放電を点弧することを特徴とする、
請求項6記載の方法。
【請求項10】
少なくとも2つのカソード細管(11a;11b)により、それぞれのカソード細管に対して別々に調整可能な電流強度によって、前記アノード装置(13)に向かって同時にアーク放電を維持することを特徴とする、
請求項7から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
別々の前記アクチュエータ(17a;17b)を用いて、それぞれの前記アクチュエータ(17a;17b)に対応付けられた前記カソード細管(11a;11b)を通流するガスの種類も調整することを特徴とする、
請求項6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真空条件下での基板表面のコーティングまたは加工の際に使用されるプラズマを生成するための中空カソードシステムと、このような中空カソードシステムの作動方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
中空カソード・プラズマ源は、多様な課題、例えば、PVDプロセスのプラズマ活性化の際、PECVDプロセスの励起の際、表面の層除去、清浄化もしくは物理化学的改質の際、アーク蒸着を実現する際に利用され、または加熱源としても利用される。中空カソード放電の機能方式では、互いに傾斜しているカソード表面間で特に効率的なプラズマ励起が行われ、ここではカソード表面の中間空間には、作動ガスが通流している(独国特許出願公開第102010011592号明細書)。プラズマ領域から出たイオンは、カソード内壁に衝突し、これにより、放電のために2次電子放出(中空カソードグロー放電)によって、もしくは熱電子放出(中空カソードアーク放電)によって電子が供給されるが、これにはさまざまな摩耗メカニズムがつきものである。イオン打ち込みにより、2つの放電タイプにおいて、中空カソードの連続的なスパッタリングが行われる(スパッタリング作用)。中空カソードが典型的には管状に形成されているアーク放電の場合には、高い作動温度により、スパッタリング速度の上昇、材料の蒸発、再結晶化および脆化が付随し、ならびに作動中の反応性プロセスでは化学補助による損傷が付随する。しかしながら同時に、点弧フェーズも特に摩耗をはらんでいる。というのはここでは、低温のアークによる材料の噴霧が発生することが多いからである。したがってこのようなプラズマ源の寿命は、(作動特性およびプロセス条件に応じて)わずかに数時間しかない。1週間にわたる、場合によっては2週間にもわたる、工業において通例の連続的な作動には、これはあまりに短すぎる。一般に、カソード寿命が短いことは、多くの時間損失を意味する。というのは、摩耗部分の交換には、プロセスの中断およびプロセスチャンバの換気が必要であり(プロセス環境の汚染)、これによりさらに、引き続いて再調節が必要となってしまうからである。複数のプラズマ源全体を格納すること、またスライドバルブによってプロセスチャンバから真空技術的にそれらを切り離すことは、極めて手間がかかりかつコストがかかってしまいかねず、したがって経済的なオプションではない。
【0003】
摩耗の問題または寿命の問題の他に、プラズマ出力のスケールアップもさらなる問題である。中空カソードアーク放電における放電電流は、溶融温度に達する前の中空カソード材料の最大達成可能な放射電流密度により、ならびに限定された放射面積によって制限される(放電は、いわゆる活性領域に、すなわち、作動ガス圧力とプラズマ電子の自由経路長とが互いに良好に適合する、中空カソードの特定の軸線方向領域に集中する)。したがって放電出力の著しい増大は一般に、中空カソード源の負荷をより大きくすることによっては達成することはできず、並行して動作される複数のプラズマ源を、コストをかけて実装することによってのみ達成することができる。
【0004】
独国特許出願公開第102006027853号明細書からは、カソード細管が、少なくともガス流出開口部の端部において、環状アノードと環状マグネットコイルとによって取り囲まれている中空カソードシステムが公知である。このような中空カソードシステムを用いて、従来の中空カソード・プラズマ源よりも高いプラズマ強度を達成することができる。国際公開第2013/091927号には、2つの中空カソードを含むプラズマ源が開示されており、ここでは2つの中空カソードの流出開口部は互いに向き合っている。2つの中空カソードの間には、交流電圧を供給する電力供給装置が接続されており、これにより、2つの中空カソードは、中空カソードアーク放電のカソードもしくはアノードとして交互に機能する。このようなプラズマ源によっても、2つの中空カソードの間に、ただ1つの中空カソードだけを備えたプラズマ源よりもより強いプラズマを生成することができる。しかしながら、前に説明した2つの中空カソードシステムにおいても、カソード細管の寿命によって作動時間が制限されてしまう。
【0005】
中空カソードシステムにおける第3の問題は、摩耗部分に対する多大な材料コストにある。摩耗は実質的に活性領域だけに集中しているにもかかわらず、頻繁に交換されるべき中空カソードは、常に全体が交換されてしまう。
【0006】
したがって本発明の根底にある技術的課題は、従来技術の欠点を克服することができる、プラズマを生成するための中空カソードシステムと、このような中空カソードシステムの作動方法と、を創出することである。特に、本発明による中空カソードシステムを用い、また本発明による方法を用い、従来技術に比べてより長い作動持続時間を可能にすることができるようにしたい。さらに、本発明による中空カソードシステムを用い、また本発明による方法を用いて、本発明による中空カソードシステムを用いて生成されるプラズマの強度を変更できるようにしたい。
【0007】
この技術的課題の解決手段は、特許請求の範囲の請求項1および6の特徴を備えた対象によって得られる。本発明の別の有利な実施形態は、従属請求項から得られる。
【0008】
プラズマを生成するための、本発明による中空カソードシステムは、電力供給装置を用いて、カソード細管とアノード装置との間に電圧が印加される装置のジャンルに属する。同時に、第1のガス貯蔵部に準備された作動ガスがカソード細管を通流する場合、アーク放電は、真空チャンバ内でカソード細管とアノード装置との間に形成可能である。本発明による中空カソードシステムは、この中空カソードシステムが、互いに導電接続されている少なくとも2つのカソード細管を有することが特徴である。好ましくは、カソード細管は、円形の内側断面を有する。しかしながら、本発明による中空カソードシステムにおけるカソード細管の内側断面は択一的に、任意の別の幾何学形状を有していてよい。個々のカソード細管間の導電性コンタクトは、例えばコンタクト要素を用いて形成可能であるか、またはカソード細管が互いに隣接して配置されている場合には接触コンタクトによって形成可能でもある。したがって、本発明による中空カソードシステムの全てのカソード細管は、常に同じ電位を有する。さらに、本発明による中空カソードシステムでは、それぞれのカソード細管に別々のアクチュエータが対応付けられており、このアクチュエータを用いて、アクチュエータに対応付けられたカソード細管を通流する、第1のガス貯蔵部に準備されたガスの量および/またはガスの種類を調整することができる。
【0009】
カソード細管を通流するガスの量を調整するための別々のアクチュエータが、それぞれのカソード細管に対応付けられていることによって、またそれぞれのカソード細管によって別々に、アノード装置に向かって中空カソードアーク放電を点弧することもできる。ここでは、本発明による中空カソードシステムのそれぞれのカソード細管に、中空カソードアーク放電を形成するための同一のアノード装置が対応付けられている。従来技術から公知であるのは、真空チャンバ内に複数のアノード要素を配置することにより、プラズマの形状を成形できることである。したがって、本発明による中空カソードシステムのアノード装置には、1つの実施形態において、複数のアノード要素が含まれてもよい。別の1つの実施形態では、アノード装置の要素が環状に形成されており、この要素は、少なくともカソード細管・ガス流出開口部の側で全てのカソード細管を取り囲んでいる。
【0010】
従来技術から公知であるのは一般に、中空カソードを点弧するための補助装置が、例えば、中空カソードの周りに巻回されておりかつ加熱電圧を供給するために関連する電力供給装置に接続されている加熱コイル等が使用されることである。このような補助装置にはまた、中空カソード内に、また中空カソードの周りを取り囲んで、磁場を生成するための磁場コイルもしくは永久磁石が、または中空カソードとアノード装置との間に高電圧パルスを生成するための装置が含まれていてもよい。本発明による中空カソードシステムのそれぞれのカソード細管にも、アーク放電を点弧するためのこのような補助装置が対応付けられていてよい。この際には、従来技術においても中空カソードアーク放電を点弧するために使用される、あらゆる補助装置が使用可能である。
【0011】
本発明による中空カソードシステムでは、それぞれのカソード細管を起点として、別々のアーク放電を点弧して維持することができ、これにより、それぞれのカソード細管を用いて、プラズマも形成できることは既に説明した。この際には、個々のカソード細管を用いて形成される全てのプラズマは可能な限り、同じ体積を通り抜けるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、1つの実施形態では、少なくとも2つのカソード細管の管軸線は互いに平行に配向されているか、または最大5°の角度を互いに有し、ガスは、少なくとも2つのカソード細管を通って、同じガス流れ方向でガス貯蔵部から流れる。
【0013】
少なくとも2つのカソード細管を用いて生成されるプラズマが、可能な限り同じ体積を通り抜けるために、隣接したカソード細管が、最大20mmの間隔を互いに有する場合も有利である。
【0014】
アノード装置、カソード細管とアノード装置との間に接続される電圧を供給するための電力供給装置、および、カソード細管を通流するガスを供給するための少なくとも1つの第1のガス貯蔵部を使用する、中空カソードシステムを作動させる本発明による方法は、互いに導電接続された少なくとも2つのカソード細管を使用し、それぞれのカソード細管に別々のアクチュエータを対応付け、このアクチュエータを用いて、それぞれのアクチュエータに対応付けられたカソード細管を通流するガスの量および/または種類を調整する、という特徴を有する。
【0015】
本発明による中空カソードシステムは実質的に2つのモードで作動可能である。第1作動モードでは、少なくとも1つの第1のカソード細管を用いてアーク放電を点弧し、例えば、少なくとも1つの第1のカソード細管の寿命が終わるまでこれを維持する。このために少なくとも、第1のカソード細管では、第1のアクチュエータを用いて、第1のカソード細管を通流する第1のガス量であって、第1のカソード細管とアノード装置との間にアーク放電を点弧して維持するのに適した第1のガス量を調整する。少なくとも1つの第1のカソード細管が摩耗したか、もしくはその寿命が終わった場合には、第1のカソード細管からのアーク放電を消弧し、引き続き、少なくとも1つの第2のカソード細管を起点としてアーク放電を点弧する。このようにして、本発明による中空カソードシステムの作動持続時間は、中空カソードが摩耗した後、真空チャンバを開放して、中空カソードを交換しなければならない従来技術に比べて延長可能である。前に説明したアプローチでは、カソード細管において一度、アーク放電を点弧し、カソード細管の作動時間が終わるまでこれを維持する。択一的には、寿命について、部分サイクルにおいてそれぞれ交互かつ順次に、関与するカソード細管を活性化することも可能であり、これにより、関与する全てのカソード細管は、常にほぼ等しい摩耗状態を有し、このことは、均一なプロセス条件の維持に有利な結果をもたらす。
【0016】
本発明による中空カソードシステムの第2作動モードでは、とりわけ、その作動持続時間を延長することではなく、中空カソードシステムを用いて生成されるプラズマの強度を変化させることが問題となる。本発明による中空カソードシステムの個々のカソード細管のプラズマは実質的に、真空チャンバ内の同じ体積を通り抜けることは既に説明した。既に少なくとも1つのアーク放電が、第1のカソード細管によって燃焼している場合に第2のカソード細管を付加的に活性化することにより、もしくは少なくとも1つの第1のカソード細管および第2のカソード細管によってアーク放電が燃焼している場合に第2のカソード細管を非活性化することにより、プラズマが通り抜ける体積におけるプラズマの強度を変更することができる。したがって、第2作動モードでは、少なくとも一時的に、少なくとも2つのカソード細管によって同時に、アノード装置に向かうアーク放電を維持し、これによって一方のカソード細管だけによってアーク放電が燃焼する場合よりも、いっそう強いプラズマを形成することができる。
【0017】
以下では、実施例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による中空カソードシステムの概略図である。
【
図2a】第1の択一的なカソード細管・構成の概略断面図である。
【
図2b】第1の択一的なカソード細管・構成の別の概略断面図である。
【
図3】第2の択一的なカソード細管・構成の概略断面図である。
【
図4】第3の択一的なカソード細管・構成の概略断面図である。
【
図5】第4の択一的なカソード細管・構成の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明による中空カソードシステム10が略示されている。中空カソードシステム10には、最大20mmの寸法で互いに離隔されている第1のカソード細管11aと第2のカソード細管11bとが含まれている。ここでは、2つのカソード細管11aおよび11bのそれぞれの管軸線12aおよび12bは、互いに平行に配向されている。中空カソードシステム10には、さらにアノード装置13および電力供給装置14が属しており、この電力供給装置14により、アーク放電を形成するために、一方の第1のカソード細管11aおよび/または第2のカソード細管11bと、他方のアノード装置13と、の間に電圧が供給される。2つのカソード細管11aおよび11bならびにアノード装置13は、見やすくするために
図1には示されていない真空チャンバ内に配置されている。
【0020】
中空カソードシステム10の作動中、作動ガスは、第1のカソード細管11aを通ってかつ/または第2のカソード細管を通って同じ流れ方向に流れ、作動ガスは、第1のガス貯蔵部15に準備されており、ガス管路16によってガス貯蔵部からカソード細管11aおよび11bへと導かれる。ここでは、第1のカソード細管11aに第1のアクチュエータ17aが、また第2のカソード細管11bに第2のアクチュエータ17bが対応付けられている。アクチュエータ17aおよび17bを用いて、それぞれのアクチュエータに対応付けられたカソード細管を通流するガスの量を別々に調整することができる。2つのカソード細管11aおよび11bは、コンタクト要素18を用いて互いに導電接続されており、したがって常に同じ電位を有している。コンタクト要素18は、例えば、導電性材料から成るソケット要素として形成されていてもよく、このソケット要素にカソード細管11aおよび11bがねじ込まれる。2つのカソード細管間に少なくとも1つの持続的な接触コンタクトが形成されるように2つのカソード細管11aおよび11bが密に並べて配置される場合、コンタクト要素18は省略可能である。したがって、2つのアクチュエータ17aおよび17bを用いることにより、中空カソードシステム10では、2つのカソード細管11aおよび11bのそれぞれを起点として別々にアノード装置13に向かってアーク放電を形成することができる。
【0021】
方法の第1変形形態ではまず、第1のアクチュエータ17aを用いて、第1のカソード細管11aを通流するガス量であって、第1のカソード細管11aとアノード装置13との間にアーク放電を形成するのに適したガス量を調整する。これにより、第1のカソード細管11aとアノード装置13との間でアーク放電が点弧されて維持される。アーク放電の形成に関与しているカソード細管は、以下では、活性化されたカソード細管とも称される。したがって、前述したように、第1のカソード細管11aからアノード装置13に向かってアーク放電が形成される場合、まず、カソード細管11aだけが、活性化されたカソード細管であるのに対し、カソード細管11bは非活性である。これにより、真空チャンバに配置された1つまたは複数の基板はまず、第1のカソード細管11aによって生成されるプラズマと連携して加工可能である。第1のカソード細管11aの寿命もしくは作動時間が経過するとまず、第1のカソード細管11aとアノード装置13との間のアーク放電を消弧する。引き続き、第2のアクチュエータ17bを用いて、第2のカソード細管11bを通流するガス量であって、第2のカソード細管11bとアノード装置13との間でアーク放電を形成するのに適したガス量を調整し、対応するアーク放電を点弧して維持し、これにより、真空チャンバ内の1つまたは複数の基板の加工プロセスは、第2のカソード細管11bを用いて生成されるプラズマと連携して継続可能である。このようにして、真空チャンバを開放する必要なく、従来技術に比べて中空カソードシステムの作動時間を延長することができる。択一的には、カソード細管11aおよび11bが常にほぼ同じ摩耗状態を有するように、カソード細管11aおよび11bを交互に順次に部分サイクルで活性化することもできる。好ましくは、第2のカソード細管は、第1のカソード細管が非活性化された後にはじめて活性化される。しかしながら択一的には、第2のカソード細管は、第1のカソード細管の非活性化の前または非活性化と共に活性化されてもよい。
【0022】
方法の第2変形形態では、既に前で第1変形形態において説明したようにまず、第1のアクチュエータ17aを用いて、第1のカソード細管11aを通流するガス量であって、第1のカソード細管11aとアノード装置13との間にアーク放電を形成するのに適しているガス量を調整する。したがってまず、第1のカソード細管11aだけを活性化し、これによりプラズマを生成し、それと連携して、真空チャンバ内の1つまたは複数の基板を加工することができる。後の時点で、真空チャンバ内での基板の加工に、より強いプラズマが必要とされる場合、第2のアクチュエータ17bを用いて、第2のカソード細管11bを通流するガス量であって、第2のカソード細管11bとアノード装置13との間にアーク放電を形成するのに適しているガス量を調整し、これにより付加的なプラズマ雲を生成する。この際、それぞれのカソード細管について、それぞれのアーク放電を維持するための電流強度が別々に調整可能である。2つのカソード細管11aおよび11bが互いに近接していることに起因して、それらのプラズマ雲が少なくとも部分的に互いに通り抜けるため、より高い出力を有する全体プラズマを生成することができる。後の時点で、より小さな出力を有するプラズマが必要とされる場合には、この時点で活性化された2つのカソード細管11aおよび11bの1つのアーク放電を消弧することができる。
【0023】
本発明による中空カソードシステムの、
図1に記載した実施例では、カソード細管・構成には合わせて2つのカソード細管が含まれている。しかしながら、本発明による中空カソードシステムでは、ただ2つのカソード細管よりも多くのカソード細管が含まれる、カソード細管・構成も使用可能である。本発明では、カソード細管の個数には上限が設定されていない。本発明において重要であるのはただ、カソード細管が互いに導電接続されており、かつ直接に隣接したカソード細管が、最大20mmの間隔を互いに有することである。
【0024】
図2aには、本発明による例示的なカソード細管・構成20が断面図で略示されており、このカソード細管・構成20は、3つのカソード細管21a~21cを有する。カソード細管21a~21cは、コンタクト要素28a~28cを用いて互いに導電接続されている。
図1の装置10について既に説明したように、本発明によると、カソード細管21a~21cのそれぞれには、別々のアクチュエータが対応付けられており、これを用い、対応付けられたカソード細管を通るガス流を別々に制御することができる。したがって、カソード細管21a~21cのそれぞれから、アノード装置に向かってアーク放電を別々に形成することもでき、これにより、
図1による実施例について前で説明した、方法の2つの変形形態において、カソード細管・構成20により、本発明による中空カソードシステムを作動させることも可能である。同じことは、以下で説明する全てのカソード細管・構成を有する、本発明による中空カソードシステムにも当てはまる。
図2bには、
図2aから周知のカソード細管・構成20が、再度、断面図で略示されている。
図2bによる実施形態では、カソード細管・構成20は少なくとも、カソード細管の流出開口部が位置している、カソード細管の端部において、このカソード細管に関連するアノード装置の環状要素23によって取り囲まれている。このように配置された環状のアノードを用いて、本発明による中空カソードシステムのカソード細管は、例えば独国特許出願公開第102006027853号明細書に記載されているような方法を用いて作動させることもできる。アノード装置の環状要素23は、前に説明したまた以下で説明される全てのカソード細管・構成においても使用可能であり、ここで環状要素はそれぞれ、少なくともカソード細管のガス流出開口部が位置する、カソード細管の端部において少なくとも、カソード細管・構成の全てのカソード細管を取り囲んでいる。
【0025】
前に説明した全ての実施例では、本発明による中空カソードシステムのカソード細管は、コンタクト要素を用いて互いに導電接続されている別々の細管として形成されている。
図3には、カソード細管・構成30が断面図で略示されており、ここでは、導電性材料から成るブロック38を通り、合わせて4つの円筒状の切り抜き部31a~31dが、ブロック38の全長を通って延在している。ここでは、ブロック38の円筒状の周囲面を有する4つの切り抜き部31a~31dは、アーク放電を形成するために作動ガスが通って流れるカソード細管として機能する。ここでは、それぞれの切り抜き部31a~31dには別々のアクチュエータが対応付けられており、このアクチュエータにより、対応付けられた切り抜き部を通るガス流を別々に制御することができる。
【0026】
前に既に一度、示したように、中空カソードシステムには一般に、補助装置、例えば、関連する電流供給装置を備えた加熱コイル等が含まれており、これを用いて、カソード細管においてアーク放電が点弧可能である。前に説明した、本発明の全ての実施例においても、アーク放電を点弧するためのこのような補助装置が、カソード細管に対応付けられていてもよい。したがって、例えば、
図1~
図2bによる実施例の場合のように、カソード細管が別個の細管として形成されている実施例では、それぞれのカソード細管の周りに別々の加熱コイルが巻き付けられるか、もしくはそれぞれのカソード細管に別々の加熱要素が対応付けられてよい。
図3による実施例では、例えば、ブロック38の周りに加熱コイルを巻き付けることができる。
【0027】
図4には、コンタクト要素48a~48dを用いて互いに導電接続されている4つのカソード細管41a~41dを含むカソード細管・構成40が断面図で略示されている。カソード細管41a~41dを用い、前に説明したアプローチに対応して、真空チャンバ内でプラズマを生成することができ、このプラズマを用い、真空チャンバ内で少なくとも1つの基板を加工することができる。4つのカソード細管41a~41dの中央には、別のカソード細管49が配置されており、このカソード細管49は、4つのカソード細管41a~41dに対して電気的に絶縁されて形成されておりかつこのカソード細管49にはアーク放電を形成するための別々の電力供給装置が対応付けられている。カソード細管・構成40を含む、本発明による中空カソードシステムの作動中、まずはカソード細管49によってアーク放電が点弧され、これによってプラズマが生成される。しかしながら、カソード細管49を用いて生成されるプラズマは、カソード細管41a~41dを用いて形成可能なプラズマよりも低い強度で形成される。カソード細管49を用いて生成されるプラズマは表向きには基板の加工の際に関与せず、主にカソード細管とアノード装置との間の空間において、カソード細管41a~41dの少なくとも1つの点弧を容易にする荷電担体を供給するのに使用される。
【0028】
カソード細管49を用いて生成されるプラズマは、小さな強度しか有さないため、カソード細管49が被る摩耗もカソード細管41a~41dよりも少ない。したがって、カソード細管49を用いることにより、カソード細管・構成40を有する、本発明による中空カソードシステムの全作動時間中、カソード細管41a~41dが順次にもしくは交互に活性化される間にアーク放電を維持することができる。
【0029】
本発明による中空カソードシステムでは、中空カソードシステムの作動中、例えば、少なくとも1つの第1のカソード細管が活性化されていてよい一方で、少なくとも1つの第2のカソード細管が非活性である、少なくとも2つのカソード細管が関与することは既に説明した。第2のカソード細管が非活性である期間では、ガスは、まったく第2のカソード細管を通って流れることができないか、それとも第2のカソード細管と、関連するアノード装置と、の間にアーク放電を形成するのに適していない少量のガスが、第2のカソード細管を通って流れることができる。ここでは、アーク放電を形成するために必要なガス量よりも少ないガス量による第2のカソード細管の通流は、第2のカソード細管のパージに使用され、ひいては、第2のカソード細管は、例えば、活性化された第1のカソード細管によって払われた粒子、または真空チャンバ内で基板をコーティングするためのコーティング材料に由来し得る粒子によってふさがれてしまうことがない。活性化されていないカソード細管用のパージガスとしては、例えば、第1のガス貯蔵部内に準備された作動ガスが使用可能であり、この作動ガスはアーク放電を形成するためにカソード細管も通って流れる。択一的には、カソード細管のパージのために、第2のガス貯蔵部に準備された別のガス、好適には不活性ガスも使用可能である。
【0030】
アーク放電を点弧および維持するためのガスとは異なるガスが、カソード細管のパージに使用される場合、例えば、それぞれのカソード細管を通るガス流量も調整するアクチュエータを用いて、それぞれのカソード細管を通流すべきガスの種類を調整することができる。択一的には、それぞれのカソード細管を通流すべきガスの種類は、別々のアクチュエータを用いて調整することも可能である。
【0031】
図1、
図2a、
図2bおよび
図4による実施例では、カソード細管は、別々の細管として、また
図3による実施例では円筒状の切り抜き部として材料ブロックに形成されているのに対し、
図5では、カソード細管・構成50は、長手方向断面図で略示されており、このカソード細管・構成50は、別々のカソード細管と、材料ブロックの切り抜き部と、から成る混合形態を形成している。カソード細管・構成50には、導電性材料から成る基部要素58が含まれており、この基部要素58では、基部要素58の全長を通って延在する、円筒状の2つの切り抜き部59aおよび59bが作製されている。しかしながら切り抜き部59aおよび59bは、カソード細管のために必要とされる全長にわたって延在していない。したがってまた、さらには、カソード細管・部分要素51aの管軸線52aと、円筒状の切り抜き部59aの円筒軸線とが同一であり、かつカソード細管・部分要素51bの管軸線52bと、円筒状の切り抜き部59bの円筒軸線と、が同一であるように、好適には取り外し可能な結合を用いて、カソード細管・部分要素51aおよび51bも基部要素58に取り付けられている。択一的には、切り抜き部の円筒軸線と、関連するカソード細管・部分要素の管軸線と、は、例えば、真空チャンバの内部からのあらゆる種類の放射を屈折させるためにオフセットを有していてもよい。取り外し可能な結合として、カソード細管・部分要素51aおよび51bは、例えば、基部要素58にねじ込まれる雄ねじ山を有していてよい。したがって、切り抜き部59aと、関連するカソード細管・部分要素51aと、は、結合体において第1のカソード細管を形成し、切り抜き部59bと、関連するカソード細管・部分要素51bと、は、第2のカソード細管を形成する。カソード細管・構成50には、例示的に2つのカソード細管だけ含まれているが、択一的な実施形態では、ただ2つよりも多くのカソード細管を含むこともできる。
【0032】
上で既に一度、説明したように、摩耗は、中空カソードにおいて主に、局所的に限定された活性領域内で生じ、この活性領域は、カソード細管・構成50を有する中空カソードシステムでは、カソード細管・部分要素51aおよび51b内に局限されている。したがって、カソード細管・構成50では、摩耗したカソード細管・部分要素だけを交換すればよく、カソード細管をいっぺんに交換する必要がなく、これにより、材料が節約される。ここでは、切り抜き部59aおよび59bの長さが、切り抜き部の長さと、関係するカソード細管・部分要素の長さと、の和から得られる寸法のそれぞれ少なくとも30%である場合に、著しい材料節約が達成される。
【国際調査報告】