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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-15
(54)【発明の名称】電気自動車のための熱管理システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240508BHJP
   G01C 21/26 20060101ALI20240508BHJP
   B60L 58/24 20190101ALI20240508BHJP
【FI】
B60L3/00 N
G01C21/26 C
B60L58/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562517
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2022059054
(87)【国際公開番号】W WO2022233524
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】102021111961.8
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ビラート・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アルベルツ・エステル
(72)【発明者】
【氏名】フクス・ジモーネ
【テーマコード(参考)】
2F129
5H125
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129CC18
2F129CC19
2F129CC20
2F129EE59
2F129EE81
2F129EE94
2F129GG02
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC22
5H125BC19
5H125CA18
5H125CD05
5H125CD09
5H125EE52
5H125EE62
5H125EE63
5H125EE64
(57)【要約】
本発明に本質的なのは、熱管理関連の様々な決められた構成要素、特に高電圧貯蔵部および電気機械を備えた電気自動車のための熱管理システムであって、制御モジュールにより制御可能な少なくとも一つの熱モジュールを、決められた構成要素ごとに備え、ナビゲーションシステムを備え、制御モジュールおよび予測モジュールを有する少なくとも一つの電子制御ユニットを備える、熱管理システムにおいて、予測モジュールの適切な構成により、走行中に、
- 設定期間に取得された、ナビゲーションシステムの複数の熱管理関連のデータに基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの、履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移(加熱または冷却の作用の推移)が特定され、
- 同じ設定期間に、ルート区間に関係する、履歴による時系列的な温度の推移(温度の推移)が、センサにより各構成要素について取得され、
- 少なくとも一つの設定されたホライズンについてナビゲーションシステムの予想可能な熱管理関連のデータに基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの予測される加熱作用または冷却作用の推移が特定され、
- 履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移と、履歴による時系列的な温度の推移と、予測される加熱作用または冷却作用の推移とに基づいて、予測される温度の推移が、各構成要素について求められる
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱管理関連の様々な決められた構成要素(K1,K2;HV,EM)、特に高電圧貯蔵部(HV)および電気機械(EM)を備えた電気自動車のための熱管理システムであって、
制御モジュール(“エージェント”)により制御可能な少なくとも一つの熱モジュール(TM_HV,TM_EM)を、決められた構成要素(HV,EM)ごとに備え、ナビゲーションシステム(NAV)を備え、前記制御モジュール(“エージェント”)および予測モジュール(PM)を有する少なくとも一つの電子制御ユニット(SE)を備える、熱管理システムにおいて、
前記予測モジュール(PM)の適切な構成により、走行中に、
- 設定期間に取得された、前記ナビゲーションシステム(NAV)の複数の熱管理関連のデータ(State NAV_hist)に基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの、履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移(1)が特定され、
- 同じ設定期間に、ルート区間に関係する、履歴による時系列的な温度の推移(2)が、センサにより各構成要素(HV,EM)について取得され、
- 少なくとも一つの設定されたホライズン(H1,H2)について前記ナビゲーションシステム(NAV)の予想可能な熱管理関連のデータ(State NAV_praed)に基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)が特定され、
- 前記履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移(1)と、前記履歴による時系列的な温度の推移(2)と、前記予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)とに基づいて、予測される温度の推移(4)が、各構成要素(HV,EM)について求められる
ように構成されている
熱管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱管理システムにおいて、前記予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)を求める際に、前記構成要素(HV,EM)それぞれの予測される自己発熱が合わせて考慮されることを特徴とする熱管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱管理システムにおいて、各構成要素(HV,EM)について、予測される温度の推移(4)が、確率分布(W)の形で求められることを特徴とする熱管理システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の熱管理システムにおいて、前記制御モジュール(“エージェント”)を適切に構成することにより、前記構成要素(HV,EM)の前記熱モジュール(TM_HV,TM_EM)の制御のための格納された加熱および/または冷却閾値(Thvs_S,Tem_S)が、前記予測される温度の推移(4)に比例して変更可能であることを特徴とする熱管理システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の熱管理システムのための電子制御ユニット(SE)。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の熱管理システムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高電圧貯蔵部と、熱管理関連の他の様々な構成要素とを備えた電気自動車のための熱管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱管理システムは、例えば、特に電気自動車の車内空間および/または高電圧貯蔵部を調温する(加熱および/または冷却する)ヒータ設備および/または環境温度調節設備の形で既に一部知られている。電動車両の車内空間および高電圧貯蔵部のための熱管理は、例えば特許文献1から公知である。
【0003】
電動車両またはハイブリッド車両を駆動するために、この種の車両は、エネルギー供給用のエネルギー貯蔵部を備えたドライブトレインを有している。エネルギー貯蔵部は通常、然るべく適切に寸法設定された高電圧バッテリであり、以下ではこれを高電圧貯蔵部とも称する。高電圧貯蔵部は、充電プロセスまたは放電プロセスの際に発熱するのが通常であり、発熱し過ぎると、特に、性能が永久に劣化したり、高電圧貯蔵部の耐用年数が短くなったりするおそれがある。このため、高電圧貯蔵部は、普通は稼動中に適切に冷却され、そのために、車内空間の環境温度調節(空調)にも使用される車両の環境温度循環系に接続されることが多い。この環境温度循環系には、所定の性能、つまり、車内空間と高電圧貯蔵部を冷却するために当てにできる所定の最大冷却能力がある。これら二つの構成要素が必要とする冷却によっては、高電圧貯蔵部と車内空間をそれぞれ必要なだけ冷却するのに冷却能力が追いつかないという一種の競合が生じかねない。この場合、冷却能力を振り分ける優先順位によっては、高電圧貯蔵部の熱負荷が増加するか或いは車内空間の快適性が失われるかのいずれかを覚悟しなければならない。
【0004】
電動車両またはハイブリッド車両において、車内空間の環境温度調節時のエネルギー消費を削減するため、そして、高電圧貯蔵部からのエネルギーの取り出しを低減することにより車両の航続距離を延ばすために、従来技術により、乗員室の環境温度調節のための装置と、エネルギー貯蔵部とが、冷媒を交換するために、例えば互いに熱的に結合される。これにより、特定の状況では、環境温度調節のために装置を起動する代わりに、これら二つの構成要素間で先ず熱を交換することが可能になる。例えば、エネルギー貯蔵部の熱エネルギー、特に廃熱を受け取り、乗員室の環境温度調節のための装置に引き渡す。これが、乗員室の実際の温度が予め設定した温度範囲内にある限り行われる。このようにして、環境温度調節のための装置を起動しなくても、エネルギー貯蔵部の冷却が行われる。取り去られた熱は、乗員室に放出されるものの、その温度が予め設定した温度範囲にある場合に限られる。
【0005】
上述の従来技術では、電動車両またはハイブリッド車両は、車内空間並びに高電圧貯蔵部を備え、これらのいずれも、車両の環境温度調節設備によって環境温度調節することができ、その環境温度調節設備は、所定の冷却能力を備えている。ここで、高電圧貯蔵部(HVS)は、実際のHVS温度があり、車内空間は、実際の車内空間温度がある。事前調節モードでは、高電圧貯蔵部の事前調節のために、高電圧貯蔵部が環境温度調節設備によってHVS動作温度よりも低いHVS温度まで過冷却される。
【0006】
これにより、高電圧貯蔵部に関する冷却の必要性がそのときにちょうど存在せずとも、しかも、実際のHVS温度がHVS動作温度を下回る値を示していても、環境温度調節設備によって高電圧貯蔵部が冷却される。こうして、有利にも高電圧貯蔵部のHVS動作温度を下回る高電圧貯蔵部の過冷却が行われる。このいわば事前調節により、有利なやり方で冷温バッファが作り出され、これにより、高電圧貯蔵部での冷却の必要性が生じ得る時点が時間的に後ろにずれる。冷温バッファのおかげで、極端な温度上昇による性能劣化を生じさせることなく高電圧貯蔵部の温度を上昇させることができ、高電圧貯蔵部の冷却のために環境温度調節設備を利用する必要がない。これにより、特に、車内空間を冷却するためだけに、全ての冷却能力を自由に使うことができるようになる。このようにして、高電圧貯蔵部は、それ自身の環境温度調節に関して冷温貯蔵タンクにもなる。高電圧貯蔵部の事前調節は、特に、通常なら高電圧貯蔵部の冷却が行われないか或いは僅かな冷却しか行われないであろう段階で予め予想をして行われる。
【0007】
事前調節モード以外では、性能劣化や損傷を避けるために、特に、HVS温度は、適切なHVS動作温度範囲内にあるHVS動作温度に制御される。
【0008】
特許文献1では、要するに、走行中の車内空間のための環境温度調節設備のエネルギー需要の負荷を軽減するために、高電圧貯蔵部を冷温バッファとして考慮しながら、高電圧貯蔵部の事前調節が行われる。
【0009】
このとき、ナビゲーションデータに基づいて車内空間と高電圧貯蔵部の将来の温度を過冷却時に考慮する可能性について予め検討する。
【0010】
さらに、特許文献2より、見込みの滞在期間や天候などの有用なデータに基づいて、事前調節への要望を予測することが知られている。車両ユーザは、通知を受け取り、推奨される事前調節を確認する必要がある。
【0011】
最後に、特許文献3は、温度制御の品質を根本的に改善するために、いわゆる“強化学習(Reinforcement Learning)”の方法を環境温度調節設備の熱管理と組み合わせて応用する先行技術となっている。
【0012】
出願人の未公開の独国特許出願第102021101513号には、車内空間および高電圧貯蔵部を備えた電気自動車のための環境温度調節システムとしての熱管理システムであって、環境温度調節設備および電子制御ユニットを有し、環境温度調節設備は、車内空間および高電圧貯蔵部の両方の環境温度を調節するように形成され、制御ユニットは、走行開始前に停車した車両を充電しながら事前調節モードを実行するための事前調節モジュールを備えている熱管理システムが記載されている。事前調節モジュールは、少なくとも走行ルートの道のりと、その走行ルートの道のりに沿った外気温とが予報可能で、この予報に応じて、高電圧貯蔵部が畜熱部として或いは畜冷部として利用できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】独国特許出願公開102014226514号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/238389号
【特許文献3】米国出願公開第2019/0390867号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、走行中の効率と最適化に関して、高電圧貯蔵部を含む、電気自動車内のエネルギーを消費する様々な構成要素の熱管理を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、本発明により、独立特許請求項の特徴部により解決される。有利な態様、発展形態および変形例が従属請求項の主題である。
【0016】
本発明に本質的なのは、熱管理関連の様々な決められた構成要素、特に高電圧貯蔵部および電気機械を備えた電気自動車のための熱管理システムであって、制御モジュールにより制御可能な少なくとも一つの熱モジュールを、決められた構成要素ごとに備え、ナビゲーションシステムを備え、制御モジュールおよび予測モジュールを有する少なくとも一つの電子制御ユニットを備える、熱管理システムにおいて、予測モジュールの適切な構成により、走行中に、
- 設定期間に取得された、ナビゲーションシステムの複数の熱管理関連のデータに基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの、履歴による時系列的な(ヒストリカルな)加熱作用または冷却作用の推移が特定され、
- 同じ設定期間に、ルート区間に関係する、履歴による時系列的な(ヒストリカルな)温度の推移が、センサにより各構成要素について取得され、
- 少なくとも一つの設定されたホライズン(地平)についてナビゲーションシステムの予想可能な熱管理関連のデータに基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの予測される加熱作用または冷却作用の推移が特定され、
- 履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移と、履歴による時系列的な温度の推移と、予測される加熱作用または冷却作用の推移とに基づいて、予測される温度の推移が、各構成要素について求められる
ように構成されている熱管理システムである。
【0017】
本発明は、以下の考えに基づいている:
【0018】
本発明は、好ましくは、基本的に機械学習の方法として知られている所謂“Reinforcement Learning”(“強化学習”)を利用する。従って、いつ車載エネルギーシステムの高電圧貯蔵部および他の熱管理関連のハードウェア構成要素を冷却または加温する(必要がある)のかを予見して制御することを目的としている。
【0019】
熱流と、その結果生じる部品温度と車内空間温度は、(個別の)走行プロファイル並びに(例えば道路プロファイルや気象条件に起因する)外的な影響のある車両の使用に強く依存する。さらに、構成要素と乗員には、その最適な運転温度並びに異なる熱的質量(若しくは時定数)に対する様々な要求がある。これらの構成要素間の熱伝達効率および冷却体と熱源の出力係数も、様々な内的および外的な影響によって決まる。
【0020】
従って、車内空間および車載エネルギーシステムのハードウェア構成要素の最適化された熱管理は、外的な影響も含めた複雑な相互依存関係に従わなければならないが、その相互依存関係は、目下の運転戦略によって考慮されない或いは少なくとも不完全にしか考慮されない。この相互依存関係は、車両への外的影響と走行プロファイルに対する最適な熱管理の方策を見つけるために、好ましくは、強化学習アプローチを用いることで考慮することができる。熱管理関連の構成要素の一部は、高電圧貯蔵部、電気モータ、車両乗員キャビン並びにさらに他の加熱要素および冷却要素であってもよい。実際の熱管理システムでは、これらの加熱および冷却の構成要素は、電気ヒータ、ポンプ、電気的な冷媒コンプレッサ、吸気ダンパおよび冷却ファンであってもよい。
【0021】
技術的問題:
現在の熱管理の方策は、顧客および顧客の運転特性(例えば、期間、加速)に最適に適正化されていない。その熱管理の方策は、これから走る走行ルートや運転者の特性に関する情報など、走行中の外的な影響(の組み合わせ)を全て扱ってはいない。構成要素と乗員の最適な温度に対する個別の要求、部分的には相反する要求を考慮して、より複雑な熱管理の方策を導き出さなければならない。
【0022】
例えば、熱管理の各構成要素に関する個別の特性マップ表を用いるなどといった現在の手法では、システム全体と外的な影響との複雑な絡みにおいて特性とニーズが考慮されないため、エネルギーが無駄になる。さらに、現在のシステムは、全構成要素にわたる全エネルギー消費の最適点に注目していない。というのも、これらの構成要素の成績係数(COP)の依存性と、外的因子による構成要素間の熱伝達の効率の依存性とが無視されているからである。
【0023】
熱管理の方策によって対処しなければならない組み合わせと状況が大量にあるため、状況ごとに最適な方策を特定できる知的アルゴリズムに対する要求が高まってきている。それとは対照的に、現在の実装では、極めて単純化された関数が使用され、その結果、相互依存関係を正確にモデル化して適切かつ柔軟に対処することができない。しかしながら、現在のシステムでは、可能な組み合わせとトリガーのセットが限られているため、多様な要求や状況に対する立ち入った検討ができない。さらに、非常にダイナミックな走行特性に至るまで、最適な走行パフォーマンスを全ての顧客に届けるという現在の戦略には、中程度の加速要請における効率の最適化が欠けている。そのため、個別の戦略をドライバごとに導出する必要がある。
【0024】
本発明の基本原理(基本的考え方):
本発明による基本的な考え方は、いつ車載エネルギーシステムのハードウェア構成要素を能動的に冷却または加温すべきかを予見するために、強化学習問題として問題をモデル化するというものである。
【0025】
“強化学習”では、いわゆる“エージェント”が、報酬と罰に基づいた行動を取ることを学習する(図4には、数学的方法としての“強化学習”(RL)のそれ自体公知の原理が描かれている。)。
【0026】
「技術的問題」の箇所で説明したような要求は、例えば、回避すべき温度に対する負の報酬および最適な温度に対する(より高い)正の報酬を用いるなどして、個々の報酬によりモデル化することができる。これは、例えば、高電圧バッテリは、低温では内部抵抗が増加し、つまり利用可能な出力が低下し、高温では経年劣化が進むといったことである。構成要素の要求を満たすことに加えて、全エネルギー消費を最小限に抑え、さらに熱伝達効率を考慮する必要がある。熱管理の方策は、システムまたはその一部の冷却または昇温をもたらす熱管理システムの構成要素の起動および制御などの対策を含むことができる。知的アルゴリズムの(例えば強化学習による)行動(Action)は、状況に応じて、これらの構成要素の組み合わせを動作開始させることができる。そのような状況は、気象情報、ナビゲーションデータ、キャビンおよび構成要素に関する情報を含み得る様々な周辺パラメータまたは状態によって定義される。
【0027】
本発明の実用化例:
以下に、主要な態様のみ述べる。本発明の有利な実施形態を図面を参照してより詳細に説明する:
- 周辺は、複数の車載信号によりモデル化される。
- 現在および以前の状態に基づいて、“エージェント”は、ガイドライン(Richtlinie)に従って対策を講じる。
- 報酬は、いくつかの因子によって影響を受ける。
- ガイドラインを学習するために、本発明により、状態に基づいて行動(Action)を(状態、行動のペアに対してq値を推定することにより)出力するネットワーク(DQN;ニューラル・ネットワーク)を訓練することが提案される。
【0028】
以下、実施例に基づいて図面を用いながら本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による熱管理システムのかなり単純化したブロック図である。
図2】高電圧貯蔵部に関する(NAV_histおよびNAV_praedからの)履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移、履歴による時系列的な温度の推移および予測される加熱作用または冷却作用の推移に基づいた高電圧貯蔵部に対して予測される温度の推移の実施例を示す図である。
図3】いくつかの決められたルート区間を有する予測される走行ルートの一例を示す図である。
図4】“強化学習”(基本的に先行技術)のスキームに関する模式的な概観を示す図である。
図5】本発明により“強化学習”のスキームを用いる場合の信号(Signal),行動(Action)及び“報酬(Reward)”を示す図である。
図6】先行技術による熱的な熱モジュールの制御フローおよびその作用を、図7に示される本発明による熱的な熱モジュールの制御フローおよびその作用と比較するための図である。
図7】本発明による熱的な熱モジュールの制御フローおよびその作用を示す図である。
図8】熱管理関連のナビゲーションデータの考えられ得る処理シーケンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1には、本発明による熱管理システムがブロック図として模式的に示されている。
【0031】
本発明による熱管理システムは、熱管理関連の複数の様々な決められた構成要素K1,K2(ここでは例えば高電圧貯蔵部HVおよび電気機械EM)などのために設けられている。熱管理システムは、本例では、制御モジュール(ここでは“強化学習”から“エージェント”と呼ばれる。)により制御可能な、加熱および/または冷却を行う二つの熱モジュールTM_HVおよびTM_EMを、決められた構成要素HVおよびEMごとに備えている。さらに、熱管理部は、ナビゲーションシステムNAVおよび電子制御ユニットSEを含み、この電子制御ユニットは、制御モジュール“エージェント”および予測モジュールPMを内蔵する。
【0032】
予測モジュールPMは特に、適切なプログラミング(コンピュータプログラム製品)により、次のように構成されている(図2および図3も参照):走行中に、
- 設定期間(図2中の“履歴”;図3のH1,H2)に取得された、ナビゲーションシステムNAVの複数の熱管理関連のデータ“State NAV_hist”に基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの、履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移(1)が特定され、
- 同じ設定期間(履歴)に、ルート区間に関係する、履歴による時系列的な温度の推移(2)が、センサ(“状態センサ”)により各構成要素HVおよびEMについて取得され、
- 第一のホライズンH1および第二のホライズンH2についてナビゲーションシステムNAVの予想可能な熱管理関連のデータState NAV_praed(「ae」はaウムラウト)に基づいて、ルート区間に関係する少なくとも一つの予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)が特定され、
- 履歴による時系列的な加熱作用または冷却作用の推移(1)と、履歴による時系列的な温度の推移(2)と、予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)とに基づいて、予測される温度の推移(4)が、各構成要素HVおよびEMについて求められる。
【0033】
“熱管理関連のデータ”“State NAV”は、例えば以下のようなルート属性である:
- 車両速度
- 道のタイプ(路面被覆物/地面の凸凹を含む)
- 傾斜/勾配
- 降坂走行または登坂走行
- カーブ半径
- 外気温
- 天候(日差し,氷,雪,…)
- トンネル走行
- RTTI(リアルタイム道路情報)(渋滞,危険箇所およびさらに他の警告)
- エネルギー消費
- 等々
【0034】
“熱モジュール”とは、付属の構成要素を冷却したり加熱したりできる制御可能なモジュール(例えば“熱交換器”)である。
【0035】
“ルート区間”は、例えば図3にS1乃至S4で示されているような、ナビゲーションシステムNAVにより予想可能な決められた走行ルートセグメントである。“ルート区間に関係する”とは、このようなセグメントS1乃至S4に関係付けられていることを意味する。
【0036】
予測モジュールPMは、各構成要素HVおよびEMに対して、部分予測モジュールP_HVおよびP_EM若しくは多変量予測のための部分構成要素を含むことができる。
【0037】
図3に示すように、予測される加熱作用または冷却作用の推移(3)を求める際に、構成要素HVおよびEMの予測される自己発熱が合わせて考慮される。
【0038】
“加熱作用または冷却作用の推移”とは、特に、ルート属性による温度への影響を意味する。ルート属性は、いわば、構成要素に依存しない仮想的な追加の熱モジュールのように作用する。
【0039】
予測される温度の推移(4)は、好ましくは、(時間について)確率分布Wの形で求められる。
【0040】
ここで、好ましくは“ニューラルネットワーク”および“強化学習”が数学的関数モジュールとして用いられる。
【0041】
制御モジュール“エージェント”を適切に構成することにより、特に、構成要素HVおよびEMの熱モジュールTM_HVおよび熱モジュールTM_EMを制御するための、格納された加熱閾値および/または冷却閾値Thvs_SおよびTem_Sが、予測される温度の推移(4)に比例して変更可能である。
【0042】
図3には、予測される温度の推移(4)に基づいて走行中に構成要素の熱モジュールに対して冷却ヒステリシス若しくは温度閾値の必要な適合化を行うための例示的なルート属性を備える走行ルートの例が示されている:
【0043】
周囲の条件が変化していく走行が模式的に示されている。ルート区間S1乃至S4には、特定のルート属性若しくは熱管理関連のデータ若しくは特徴M1,M2,M3およびM4が割り当てられ、例えば:
M1:登坂走行:高い自己発熱
M2:降坂走行:低い自己発熱
M3:高速ルート(例えば高速道路):高い自己発熱
M4:市街地走行:低い自己発熱
【0044】
さらに他のルート属性P1およびP2を考慮することもでき、例えば:
P1:走行終了または休憩:低い自己発熱
P2:充電プロセス:高い自己発熱
【0045】
異なる構成要素K1,K2,K3などに対して、異なる予想ホライズンH1(例えば、電気モータEMの場合)およびH2(高電圧貯蔵部HVの場合)を設定することができる。
【0046】
冷却ヒステリシスの変更A1,A2およびA3が、制御モジュール(若しくはAIモジュール、“エージェント”またはコントローラ)により、それぞれの予測ホライズンに基づいて行われる。
A1:次に来る自己発熱の低い降坂走行:冷却ヒステリシスをより高く
A2:その後の高速道路で自己発熱が高くなり過ぎる場合:冷却ヒステリシスをより低く
A3:自己発熱の低いその後の市街地走行若しくは走行終了:冷却ヒステリシスをより高く
【0047】
ナビゲーションシステムにおいてルートの目的地を入力することなく、以前の、決められた車両使用データの分析が実行可能である。
【0048】
例えば、最短が見込まれる走行ルートの予報のために、以前の、決められて保存された車両使用データが分析可能である。
【0049】
図4および図5には、本発明の基本的な考え方に対する強化学習法の応用が説明されている。図4は、“強化学習”の原理についての大まかな概観を示している。本発明により“強化学習”のスキームを応用した場合にあり得る信号(Signal)、行動(Action)および“報酬(Reward)”の詳細な一例が図5に示されている。
【0050】
予想 環境:
後の状態“State St+1”:
“状態(State)”:入力信号(センサ信号,ナビ出力データ,…)
構成要素の温度
- 高電圧貯蔵部(HVS)
- 電子制御モジュール
- 電気モータ
- パワーエレクトロニクス
- 充電ユニット
- 電流ケーブル
キャビンの温度
- 実際温度
- 目標温度
ルート情報
- 傾斜
- 速度制限
- 推定速度(例えば、交通条件)
- 来歴
- 動作中のナビゲーション(移動時間,充電ターミナル,目的地)
気象情報
- 周辺温度
- 湿度
- 風
- 日差し
エネルギー消費
- 全ての構成要素,特に“行動(Action)”において指定された構成要素。
【0051】
報酬関数“報酬(Reward)rt+1”:
構成要素温度&キャビン温度の報酬関数
- 現在および予見される温度枠の遵守と温度スパイクの回避。
- 温度に依存した経年劣化と出力限界に対する影響の考慮。
“報酬関数”は、例えば、個々の効率と総エネルギー消費量の、現在および予見による考慮を行うことである。
【0052】
いわゆる“エージェント”は、方策が予め設定されたコントローラのように、割り出された次の(後の)状態と“報酬関数”に基づいて制御介入(:=“行動(Action)”)を生成する、より優れた学習が行われた方策を発展させる。
【0053】
いわゆる“行動(Action)”は、本願では、新たに学習した温度閾値(例えば、図1中のThvs_S,Tem_S)を設定することによって、加熱または冷却のために構成要素K1およびK2の熱モジュールTM_HVおよびTM_EMを操作することである。
【0054】
図6および図7により、従来技術による熱的な熱モジュール制御フローおよびその作用(図6)と、“強化学習”(Reinforcement Learning RL)を好適に応用した本発明による熱的な熱モジュール制御フローおよびその作用(図7)との間の違いが大まかに説明されている。
【0055】
図8には、履歴による時系列的な及び予測される加熱作用または冷却作用の推移(1)および(3)(図2も参照)を求めるための基礎としての熱管理関連のナビゲーションデータ“State NAV”(図1も参照)の可能な一つの処理シーケンスが示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】