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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-15
(54)【発明の名称】二重特異性抗体薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240508BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240508BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240508BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20240508BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240508BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/30
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K45/00
A61K38/07
A61P35/00
A61P1/02
A61P1/04
A61P1/16
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/04
A61P13/10
A61P15/00
A61K47/68
A61K47/55
A61K47/65
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565593
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2022089229
(87)【国際公開番号】W WO2022228422
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110452948.0
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521330323
【氏名又は名称】スアンズ バイオファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521467939
【氏名又は名称】ベイジン スアンズ カンビオ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】チュー、シャオドン
(72)【発明者】
【氏名】イエ、ジントン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ホー、ウェイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC10
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC27
4C076EE51
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA10
4C084BA16
4C084BA23
4C084DA32
4C084NA10
4C084ZA341
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZB261
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA27
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート、及び上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートを含む医薬組成物、並びにがんの予防及び/又は治療のための薬物の製造における、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲート及びその医薬組成物の応用に関する。上記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含み、上記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類を含み、上記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーを含み、選択的に、上記毒素及び/又はリンカーのうちの1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物であって、
前記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含み、前記二重特異性抗体は、Fab-Ig、Ig-Fab、又はヘテロ二量体Igの形態であり、好ましくは、前記二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Igの形態であり、
前記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類から選ばれ、
前記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーから選ばれ、前記切断可能なリンカーは、化学的に切断可能なリンカー及び酵素的に切断可能なリンカーを含むが、これらに限定されず、前記酵素的に切断可能なリンカーは、ペプチド成分を含むリンカーを含み、
オプションとして、前記毒素及び/又はリンカーのうちの1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化されることを特徴とする。
【請求項2】
前記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、そのうち、
(1)前記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
前記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
a)S56Y/T/Aのいずれか、
b)N30S/Aのいずれか、
c)T94W/F/Yのいずれか、
d)H91Y/F/Wのいずれか、
e)P96Y/F/Wのいずれか、又は
f)a)~e)の5つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
前記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
(2)前記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
前記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
i)T30A/S/N/Dのいずれか、
ii)G56A/S/Tのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
前記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
i)N54T/S/Aのいずれか、
ii)D98S/W/T/Rのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含むことを特徴とする、請求項1に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項3】
前記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域が、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項4】
前記二重特異性抗体の2つのFc領域は、M428Lからなる置換を含む改変されたFc領域であることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項5】
前記二重特異性抗体のFcは、
(1)抗体依存性細胞傷害(ADCC)効果を増加させるFc、又は、
(2)抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を増加させるFc、又は、
(3)補体依存性細胞傷害(CDC)活性を増加させるFcを含むことを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項6】
前記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体であり、好ましくは、前記脱フコシル化抗体は、フコシル化欠損を有する宿主細胞から産生されることによって得られ、前記フコシル化欠陥は、Fut8遺伝子ノックアウトであることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項7】
前記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、
好ましくは、前記knob部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366Wの改変を含み、前記hole部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、
最も好ましくは、前記knob部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、前記hole部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変を含み、且つ、前記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含むことを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項8】
前記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58から選ばれ、又は、
前記二重特異性抗体は、脱フコシル化T51(T51-AF)、脱フコシル化T52(T52-AF)、脱フコシル化T53(T53-AF)、脱フコシル化T54(T54-AF)、脱フコシル化T55(T55-AF)、脱フコシル化T56(T56-AF)、脱フコシル化T57(T57-AF)、及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項9】
前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチン、アマヌリン、アマニン、アマニンアミド、γ-アマニン、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、カリケアミシンγ、デュオカルマイシンA、adozelesin及びCC-1065、並びにそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びモノメチルアウリスタチンF、並びにそれらの重水素化物から選ばれ、
前記酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれることを特徴とする、
請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項10】
二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物であって、
(1)前記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58から選ばれ、好ましくは、前記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF、及びT58-AFであり、
(2)前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びモノメチルアウリスタチンF、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
(3)前記リンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記リンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれることを特徴とする。
【請求項11】
前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(I’)に示される通りである:
【化3】
そのうち、
(1)
【化2】
は、請求項10に記載の二重特異性抗体を表し、
(2)中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略称される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して前記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介して最も右側のDrug(毒素部分)に連結され、
前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
(3)nは、前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)を表し、1~6から選ばれることを特徴とする、請求項10に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項12】
前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである:
【化4】
そのうち、
(1)
【化2】
は、請求項10に記載の二重特異性抗体を表し、
(2)[ ]における構造は、リンカー毒素部分Vc-MMAEであり、Vcは、6-マレイミドヘキサン酸を介して前記二重特異性抗体に連結され、Vcは、p-アミノベンジルアルコールを介して毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結され、
(3)nは、DAR値であり、1~6から選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項13】
前記二重特異性抗体は、T54、T58、脱フコシル化T54(T54-AF)又は脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれることを特徴とする、
請求項10~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物又は重水素化物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物、及び薬学的に許容されるベクター又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
がんの予防及び/又は治療のための薬物の製造における、請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項14に記載の医薬組成物の、応用。
【請求項16】
前記がんは、HER2を発現するがんであり、好ましくは、前記がんは、HER2が中レベルから低レベルまで発現されるがんであり、好ましくは、前記がんは、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、胃がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、胆管がん及び結腸直腸がんを含む、
ことを特徴とする、請求項15に記載の応用。
【請求項17】
抗腫瘍併用製剤の製造における、請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項14に記載の医薬組成物の応用であって、前記併用製剤において、
(1)HER2以外の他の標的を標的とする薬物、
(2)細胞治療薬、
(3)免疫療法薬という腫瘍を治療するための任意の活性成分も含まれる、応用。
【請求項18】
がんの予防及び/又は治療のための方法であって、それを必要とする患者に、治療有効量の請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項14に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記がんは、HER2を発現するがんであり、好ましくは、前記がんは、HER2において低レベルで発現されるがんであり、好ましくは、
前記がんは、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、胃がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、胆管がん及び結腸直腸がんを含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
がんの治療における、請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項14に記載の医薬組成物の応用であって、
(1)HER2以外の他の標的を標的とする薬物、
(2)細胞治療薬、
(3)免疫療法薬、
(4)手術、
(5)放射線療法などの物理療法というがんを治療する医薬又は治療レジメンと組み合わせて使用されることを特徴とする、応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体医薬技術分野に属し、具体的に、二重特異性抗体薬物コンジュゲートに関し、及び上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートを含む医薬組成物、並びにがんの予防及び/又は治療のための薬物の製造における上記二重特異性抗体薬物コンジュゲート及びその医薬組成物の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2、ErbB2とも呼ばれる)は、チロシンプロテインキナーゼ受容体ErbBファミリーのメンバーである。それは、単一チャネル膜貫通ドメイン、細胞外ドメイン及び細胞質キナーゼドメインを有するI型膜タンパク質である。HER2遺伝子は、乳がん患者の約20%において(HER2)に増幅される。モノクローナル抗体によるHER2の標的化は、HER2増幅乳がん患者の治療において非常に有効であることが証明されている。
【0003】
トラスツズマブ(mAb4D5、ハーセプチンHerceptin(登録商標))は、HER2 ECDのドメインIVに結合するヒト化抗HER2モノクローナル抗体であり、HER2乳がんの治療のために1998年にFDAにより承認された。
【0004】
ペルツズマブ(rhuMab2C4、PERJETA(登録商標))は、別のヒト化抗HER2モノクローナル抗体であるが、トラスツズマブのエピトープとは別々のHER2上のエピトープであるHER2 ECDのドメインIIに結合する。HER2 ECDのドメインIIが二量体化に関与するため、ペルツズマブのHER2への結合は、HER2と別の受容体(EGFR、HER3又はHER4など)の二量体化を阻止する。
【0005】
ペルツズマブとトラスツズマブとの組み合わせは、トラスツズマブ単独又はペルツズマブ単独よりも優れた効力を示し、FDAによりHER2転移性乳がんのために承認されており(2012)、1年後にHER2乳がんのネオアジュバント化学療法のために承認されている(2013)。
【0006】
国際特許公開公報WO2018191188A1は、HER2 ECDのドメインII及びHER2 ECDのドメインIVを同時に標的とする、共通の軽鎖を含む二重特異性抗体を開示した。
【0007】
抗体編集(Mab Edit)は、抗体糖鎖における糖のノックアウト、置換及び付加、抗体payloadの部位特異的又は非部位特異コンジュゲーション、抗体FabとFcエンジニアリングの正確な改善などの方式を含む抗体に対する配向性の正確な修飾及び改変を指す。抗体編集は、正確な修飾及び改変を強調し、抗体の各機能領域及び異なるモジュールを充分に利用・調節する。天然又は操作された抗体分子の抗体編集により、糖鎖改変抗体、ADCsなど、多様な分子構造を有する新規な多機能抗体を構築することができる。
【0008】
抗体薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugates、ADCs)は、標的特性を有する抗体と細胞毒性の強い薬物をコンジュゲートした新規な抗腫瘍薬であり、一般的に「生物学的ミサイル」と呼ばれる。ADCsは、抗体の標的化作用により、抗原陽性の腫瘍細胞膜に特異的に結合し、薬理作用を発揮することができ、腫瘍細胞エンドサイトーシスによってエンドソームを形成して細胞内に入ることもでき、細胞質に入ったエンドソームは、リソソームと結合し、コンジュゲートした小分子毒素を解離させてその固有性質を回復させることにより、腫瘍細胞を死滅させる。
【0009】
ADCsは、プロドラッグと見なすことができ、標的を絞った方法で小分子毒素を腫瘍細胞に導入し、腫瘍細胞における小分子毒素の暴露を増加させ、正常組織への暴露を減少させ、このような小分子毒素の安全性ウインドウ(治療ウインドウ)を拡大することができる。
【0010】
ADCsは主に、標的化抗体、コンジュゲートした毒素、抗体と毒素の間のリンカー(linker)という3つの部分で構成され、その作用の標的は通常、腫瘍細胞表面の関連抗原又は特定の受容体である。ADCにおけるmAbは、(1)小分子毒素をコンジュゲートした後に自身の特性を維持可能なこと、(2)抗原に対する標的性が高いこと、(3)標的細胞の抗原のみに結合すること、(4)抗原と結合した後にmAbに対してネガティブフィードバックをしないこと、(5)他の細胞への非特異的結合が非常に少ないこと、という特徴を有する必要がある。
【0011】
トラスツズマブ-emtansineコンジュゲート(TDM1)は、小分子毒素DM1とトラスツズマブを連結して得られた抗体薬物コンジュゲートである。2013年2月に、TDM1(Kadcyla)は、HER2陽性進行転移性乳がんの治療のためにFDAによって承認された。2019年に、TDM1は、中国に入る最初のADC薬物となっている。
【0012】
二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、2つの異なる標的、又は同じ標的の2つの異なるドメインを同時に標的とすることができ、その治療効果が期待される。しかし、二重特異性抗体を用いるADCには、依然として満足されない臨床的必要性が大きく残っている。二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、2つの異なる標的、又は同じ標的の2つの異なるドメインを同時に標的とすることができ、その治療効果が期待される。しかし、二重特異性抗体を用いるADCには、依然として満足されない臨床的必要性が大きく残っている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、上記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含み、上記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類から選ばれ、上記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーから選ばれ、オプションとして、上記毒素及び/又はリンカーのうちの1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化される。
【0014】
好ましくは、上記重水素化物は、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)における毒素及び/又はリンカーのうちの1つ又は複数の水素原子が任意選択的に重水素化されていることを意味する。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含む。
【0017】
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
a)S56Y/T/Aのいずれか、
b)N30S/Aのいずれか、
c)T94W/F/Yのいずれか、
d)H91Y/F/Wのいずれか、
e)P96Y/F/Wのいずれか、又は
f)a)~e)の5つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つという配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示される。
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
i)T30A/S/N/Dのいずれか、
ii)G56A/S/Tのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
i)N54T/S/Aのいずれか、
ii)D98S/W/T/Rのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含む。
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、Fab-Ig、Ig-Fab、又はヘテロ二量体Igの形態である。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Igの形態である。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体におけるFc領域は、knob部分のFc領域及びhole部分のFc領域である2つの相補的なFc領域を含むノブ・イントゥ・ホール構造(knobs-into-holes)である。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体の2つのFcは、M428Lからなる置換を含む改変されたFc領域である。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体のFcは、
(1)抗体依存性細胞傷害(ADCC)効果を増加させるFc、又は
(2)抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を増加させるFc、又は
(3)補体依存性細胞傷害(CDC)活性を増加させるFcを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体である。
いくつかの実施形態において、上記脱フコシル化抗体は、フコシル化欠損を有する宿主細胞から産生されることによって得られる。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記フコシル化欠損は、FUT8遺伝子ノックアウトである。
いくつかの実施形態において、上記脱フコシル化抗体は、抗体のFcドメインにおいてS239D、I332E、A330L置換(Kabat番号付け)を有すること、又はこれらの変異の任意又は全ての組み合わせによって得られる。
【0025】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366Wの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、また上記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、且つ上記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含み、
上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、上記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含み、
上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、上記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含み、
且つ、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体である。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57、及びT58から選ばれる。
【0029】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化T51(T51-AF)、脱フコシル化T52(T52-AF)、脱フコシル化T53(T53-AF)、脱フコシル化T54(T54-AF)、脱フコシル化T55(T55-AF)、脱フコシル化T56(T56-AF)、脱フコシル化T57(T57-AF)、及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる。
【0030】
上記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0031】
いくつかの実施形態において、上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチン、アマヌリン、アマニン、アマニンアミド、γ-アマニン、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、カリケアミシンγ、デュオカルマイシンA、adozelesin及びCC-1065、並びにそれらの重水素化物から選ばれる。
【0032】
上記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーから選ばれ、上記リンカーにおける1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化され、上記切断可能なリンカーは、化学的に切断可能なリンカー及び/又は酵素的に切断可能なリンカーを含むが、これらに限定されず、上記酵素的に切断可能なリンカーは、例えばペプチド成分を含むリンカーである。
【0033】
いくつかの実施形態において、上記酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、
上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含み、
上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、上記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含み、
上記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体であり、
上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
上記リンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0035】
いくつかの実施形態において、本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、
上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、
上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含み、
上記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール構造によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、上記knob(ノブ)部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、上記hole(ホール)部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、上記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含み、
上記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体であり、
上記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びその重水素化物から選ばれ、
上記リンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれる。
いくつかの実施形態において、本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、
(1)上記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58から選ばれ、いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF、及びT58-AFであり、
(2)上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、いくつかの実施形態において、上記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びその重水素化物から選ばれ、
(3)上記リンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、いくつかの実施形態において、上記リンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物である。
【0036】
いくつかの実施形態において、本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、
(1)上記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58並びに脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF及びT58-AFから選ばれ、
(2)上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
(3)上記リンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を提供し、
(1)上記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58並びに脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF及びT58-AFから選ばれ、
(2)上記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びその重水素化物から選ばれ、
(3)上記リンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれる。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記バリン-シトルリンリンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介してモノメチルアウリスタチンE毒素に連結される。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)は、約1~6、例えば、約1、2、3、4、5、6、例えば、約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5である。
【0040】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(I)に示される通りである:
【化1】
そのうち、
【化2】
は、上記二重特異性抗体を表し、中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略称される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介して最も右側のDrug(毒素部分)に連結される。
【0041】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造においてさらに明確されるDAR値(n)は、以下の式(I’)に示される通りである:
【化3】
そのうち、
【化2】
は、上記二重特異性抗体を表し、中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略称される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介して最も右側のDrug(毒素部分)に連結され、上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
nは、平均薬物:抗体比(DAR)を表し、nは、1~6から選ばれ、例えば、約1、2、3、4、5、6、例えば、約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5である。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(I’)に示される通りである:
【化3】
そのうち、
【化2】
は、二重特異性抗体を表し、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57、及びT58、並びに脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF、及びT58-AFから選ばれ、中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介して最も右側のDrug(毒素部分)に連結され、上記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
nは、平均薬物:抗体比(DAR)を表し、nは、3~4から選ばれ、例えば、約3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4である。
【0043】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである:
【化4】
そのうち、
【化2】
は、上記二重特異性抗体を表し、[ ]における構造は、リンカー-毒素部分Vc-MMAEであり、Vcは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、Vcは、p-アミノベンジルアルコールを介して毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結される。式中、nはDAR値であり、nは1~6、例えば約1、2、3、4、5、6、例えば3~4、例えば約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.65、3.7、3.75、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5である。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)は、3~4、例えば、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.65、3.7、3.75、3.8、3.9、4である。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである:
【化4】
そのうち、
【化2】
は、二重特異性抗体を表し、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58、並びに脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF及びT58-AFから選ばれ、[ ]における構造は、リンカー-毒素部分Vc-MMAEであり、Vcは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、Vcは、p-アミノベンジルアルコールを介して毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結される。式中、nはDAR値であり、nは、3~4から選ばれ、例えば、約3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4である。
【0046】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである:
【化4】
そのうち、
【化2】
は、二重特異性抗体を表し、T54、T58、並びに脱フコシル化抗体T54-AF及びT58-AFから選ばれ、[ ]における構造は、リンカー-毒素部分Vc-MMAEであり、Vcは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、Vcは、p-アミノベンジルアルコールを介して毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結される。式中、nはDAR値であり、nは、3~4から選ばれ、例えば、約3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4である。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57、及びT58から選ばれる。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化T51(T51-AF)、脱フコシル化T52(T52-AF)、脱フコシル化T53(T53-AF)、脱フコシル化T54(T54-AF)、脱フコシル化T55(T55-AF)、脱フコシル化T56(T56-AF)、脱フコシル化T57(T57-AF)、及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、T54、T58、脱フコシル化T54(T54-AF)、及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる。
【0050】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、脱フコシル化T54(T54-AF)及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、T51-MMAE、T52-MMAE、T53-MMAE、T54-MMAE、T55-MMAE、T56-MMAE、T57-MMAE、T58-MMAE、及び対応する脱フコシル化二重特異性抗体薬物コンジュゲートT51-AF-MMAE、T52-AF-MMAE、T53-AF-MMAE、T54-AF-MMAE、T55-AF-MMAE、T56-AF-MMAE、T57-AF-MMAEとT58-AF-MMAEである。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、T54-MMAEとT58-MMAE、及び対応する脱フコシル化二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAEとT58-AF-MMAEである。
【0053】
本発明の別の態様によれば、上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物又はその重水素化物、及び薬学的に許容されるベクター又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0054】
本発明の別の態様によれば、がんの予防及び/又は治療のための薬物の製造における、上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は上記の医薬組成物の応用を提供する。
いくつかの実施形態において、上記がんは、HER2を発現するがんである。
いくつかの実施形態において、上記がんは、HER2が中レベルから低レベルまで発現されるがんである。
いくつかの実施形態において、上記がんは、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、胃がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、胆管がん及び結腸直腸がんを含む。
【0055】
本発明は、抗腫瘍併用製剤の製造における、上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は医薬組成物の応用に関し、上記併用製剤において、任意選択的に、
(1)HER2以外の他の標的を標的とする薬物、
(2)細胞治療薬、
(3)免疫療法薬という腫瘍を治療する活性成分も含まれる。
【0056】
本発明の別の態様によれば、がんの予防及び/又は治療のための方法であって、それを必要とする患者に、治療有効量の上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は上記の医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
いくつかの実施形態において、上記がんは、HER2を発現するがんである。
いくつかの実施形態において、上記がんは、HER2が中レベルから低レベルまで発現されるがんである。
いくつかの実施形態において、上記がんは、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、胃がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、胆管がん及び結腸直腸がんを含む。
【0057】
本発明は、がんの治療における、上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は医薬組成物の応用であって、がんを治療する以下の薬物又は治療レジメンと組み合わせて使用されることを特徴とする応用に更に関する:
(1)HER2以外の他の標的を標的とする薬物、
(2)細胞治療薬、
(3)免疫療法薬、
(4)手術、
(5)放射線療法などの物理療法。
【0058】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
(1)本発明による二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物又はその重水素化物は、優れた抗腫瘍活性を有し、特定の用量で、複数の異なるタイプのマウス腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性がTDM1(又はDS8201)よりも優れており、TDM1(又はDS8201)と比べ、同じ用量で、より短い時間で腫瘍の増殖をより良好に阻害することができる。
(2)本発明による二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物又はその重水素化物は、良好な耐性及び低い毒性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】抗体A及び抗体Bから設計された相同軽鎖を有する二重特異性抗体のFab-Ig形態の概略図である。
図2】抗体A及び抗体Bから設計された相同軽鎖を有する二重特異性抗体のIg-Fab形態の概略図である。
図3】ノブ・イントゥ・ホール構造によって連結された、抗体A及び抗体Bから設計された、相同軽鎖を有する二重特異性抗体のヘテロ二量体IgG形態の概略図である。
図4】静電ステアリング機構によって連結された、抗体A及び抗体Bから設計された相同軽鎖を有する二重特異性抗体のヘテロ二量体IgG形態の概略図である。
図5】横軸が時間(min)を示し、縦軸が吸光度値(mAU)を示す、抗体T54(5A)及びT54-AF(5B)のSEC純度を示すグラフである。
図6】横軸が時間(min)を示し、縦軸が吸光度値(mAU)を示す、抗体薬物コンジュゲートT54-MMAE(6A)及びT54-AF-MMAE(6B)のSEC純度を示すグラフである。
図7】横軸が時間(min)を示し、縦軸が吸光度値(mAU)を示す、抗体T54のHIC-HPLC結果を示すグラフである。
図8】横軸が時間(min)を示し、縦軸が吸光度値(mAU)を示す、抗体薬物コンジュゲートT54-MMAE(8A)及びT54-AF-MMAE(8B)のHIC-HPLC結果を示すグラフである。
図9】横軸が濃度の対数を示し、縦軸がOD450値を示す、陽性対照ADC(DS8201)、T54-AF及びT54-AF-MMAE(T54-AF-ADC)とHER2抗原との結合曲線グラフである。
図10】横軸が濃度の対数を示し、縦軸が乳がん細胞SKBR3の細胞生存率を示す、乳がん細胞SKBR3に対する抗体herceptin、T54、及びそれぞれ対応するコンジュゲートTDM1、T54-MMAEの増殖阻害曲線を示すグラフである。
図11】横軸が濃度の対数を示し、縦軸が胃がん細胞N87の細胞生存率を示す、胃がん細胞N87に対する抗体herceptin、T54及びそれぞれに対応するコンジュゲートTDM1、T54-MMAEの増殖阻害曲線を示すグラフである。
図12】(A)がBT474細胞株、(B)がNCI-H2170細胞株、(C)がMDA-MB-175VII細胞株、(D)がSKOV-3細胞株、(E)がMCF-7細胞株、(F)がMDA-MB-435細胞株、(G)がNCI-H446細胞株である、各細胞株に対するT54-AF-MMAE、DS8201、T54-AF、herceptin、perjeta、Isotype(アイソタイプ対照、陰性抗体として)の阻害効果を検出する図である。
図13】横軸が腫瘍移植後の日数を示し、縦軸が腫瘍体積(mm)を示す、抗体薬物コンジュゲートTDM1及びT54-MMAEによる治療開始後のヒト乳がん異種移植モデルBT474の増殖曲線を示すグラフである。
図14】横軸が腫瘍移植後の日数を示し、縦軸が腫瘍体積(mm)を示す、陽性対照ADC(DS8201)及び脱フコシル化二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAE(T54-AF-ADC)による治療開始後のヒト乳がん異種移植モデルBT474の増殖曲線を示すグラフである。
図15】横軸が腫瘍移植後の日数を示し、縦軸が腫瘍体積(mm)を示す、陽性対照ADC(DS8201)及び脱フコシル化二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAE(T54-AF-ADC)による治療開始後のヒト異種移植胃がんモデルN87の増殖曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物を開示し、上記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合し、且つHER2のドメインIVを認識及び/又は結合し、上記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類から選ばれ、上記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーから選ばれ、上記毒素及び/又はリンカーにおける1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化される。
【0061】
本明細書で使用されるように、「抗体」という用語は、天然に存在する哺乳動物免疫グロブリン(Ig)(IgGがその例である)の一般的な構造を有する分子を指す。即ち、1つの可変ドメイン及び1つの定常ドメインを含む2本の同一軽鎖、及び1つの可変ドメイン及び3つの定常ドメインを含む2本の同一重鎖である。軽鎖及び重鎖は、それらの可変ドメイン、並びに軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメインによって互いに結合される。これらの2本の重鎖は、第2及び第3の定常ドメインによって互いに結合される。抗体の抗原結合部位は、2つの可変ドメインによって形成され、特に各可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)によって形成される。抗体が分子と特異的に相互作用し、分子に吸着することができると、抗体が分子(抗原)に結合すると称される。抗体結合は、非特異的又は低親和性相互作用を含まない。「抗体」の意味は、天然に存在する免疫グロブリンの構造を指すが、キメラ、CDR移植、及びヒト化抗体などのそのような一般的な構造を保持する設計分子も含む。
【0062】
本明細書で使用されるように、「エピトープ」という用語は、抗体(又は抗体構築物)の抗原結合部位との接触によって、抗原の抗体(又は抗体構築物)への特異的結合を媒介する、抗原上の部分を指す。
【0063】
本明細書で使用されるように、「パラトープ」という用語は、抗原のエピトープとの接触によって、抗体(又は抗体構築物)への抗原の特異的結合を媒介する、抗体(又は抗体構築物)上の部分を指す。
【0064】
本明細書で使用されるように、「改変」、「変異」及び「置換」(及びそれらの文法的形態)という用語は、アミノ酸配列における操作された変化を指す。文脈上別段の指示がない限り、変異は、人的支援による生物学的プロセスによって引き起こされる配列変化を指す。従来、置換は、参照配列中のアミノ酸の一文字コード、参照配列での位置、及び生成された配列中のアミノ酸の一文字コードの3つの部分で表される。例えば、A26Sは、参照配列の26番目のアラニン(A)が、生成された配列においてセリン(S)に変更されたことを示す。
【0065】
本明細書で使用するように、「相同」という用語は、2本以上のペプチド鎖のアミノ酸配列が完全に同一であることを意味する。
本明細書で使用されるように、「異種」という用語は、2本以上のペプチド鎖のアミノ酸配列が異なり、完全に同一ではないことを意味する。
【0066】
本明細書で使用されるように、「重水素化物」、「重水素化」という用語は、抗体薬物コンジュゲート構造中の1つ又は複数の水素原子(H-1)が重水素原子(H-2)で置換された構造を指す。
【0067】
本発明における化合物の任意の原子は、特に指定しない限り、この原子の任意の安定な同位体を表すことができる。特に明記しない限り、構造内のある位置がH、即ち水素(H-l)と定義される場合、その位置は、天然に存在する同位体のみを含む。同様に、特に明記しない限り、構造内のある位置がD、即ち重水素(Η-2)と定義される場合、その位置に含まれる同位体の含有量は、天然に存在する同位体の含有量(0.015%)より少なくとも3340倍多く(即ち、少なくとも50.1%の重水素同位体を含む)、本願の化合物の構造内のある位置又はそれ以上の位置がD、即ち重水素(Η-2)と定義される場合、その構造によって示される化合物の含有量は、少なくとも52.5%、少なくとも60%、少なくとも67.5%、少なくとも75%、少なくとも82.5%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%であってもよい。
【0068】
本願の化合物の重水素化率は、天然に存在する同位体の含有量に対する標識合成された同位体の含有量の比を指す。本願の化合物の指定された各重水素原子の重水素化率は、少なくとも3500倍(52.5%)、少なくとも4000倍(60%)、少なくとも4500倍(67.5%)、少なくとも5000倍(75%)、少なくとも5500倍(82.5%)、少なくとも6000倍(90%)、少なくとも6333.3倍(95%)、少なくとも6466.7倍(97%)、少なくとも6566.7倍(98.5%)、少なくとも6600倍(99%)、少なくとも6633.3倍(99.5%)であってもよい。
【0069】
本願におけるアイソトポローグ(isotopologues)とは、化学構造的に同位体組成のみが異なる化合物を意味する。特定の位置に重水素を含む本願の化合物は、その位置における水素アイソトポローグも非常に少なく、本願の重水素化化合物における重水素化位置の水素アイソトポローグの含有量は、重水素化試薬(D2O、D2、NaBD4、LiAlD4など)の重水素同位体の純度、及び重水素同位体を導入する合成方法の有効性を含む多くの要因に依存する。しかし、前述のように、このような重水素化位置の水素アイソトポローグの総含有量は49.9%未満になる。本願の重水素化化合物における重水素化位置の水素アイソトポローグの総含有量は、47.5%、40%、32.5%、25%、17.5%、10%、5%、3%、1%又は0.5%未満になる。
【0070】
本願において、重水素と指定されていない任意の各原子は、その天然同位体存在度で存在する。
本願において、軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列、及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列の番号付けは、いずれもVajdos et al.、J.Mol.Biol.320:415(2002)に基づいており、Kaba番号付けを使用する(Kabat et al.、NIH publication no.91-3242、pp662、680、689)(1991)。
【0071】
二重特異性抗体
本発明の二重特異性抗体は、多くの異なる全体構造を採用することができる。いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、同じ抗原又は異なる抗原における2つのエピトープに対して特異的である。いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、2つのパラトープを有する。
【0072】
重鎖が、同数のパラトープの形成を促進する、例えば3、4、5、又はそれ以上の可変ドメインを含むように、各重鎖に追加の可変ドメインを付加することができることを理解すべきである。これらの多重パラトープ抗体において、第3のパラトープは、抗体が三重特異性を有するように第3のエピトープに特異性を付与し得る。或いは、第3のパラトープは、抗体が依然として二重特異性を有するが、エピトープのうちの1つの価数を増加させるように、最初の2つのパラトープのいずれかによって認識されたエピトープのうちの1つに特異的であり得る。同様に、第4のパラトープは、抗体構築物が四重特異性を有するように第4のエピトープに特異的であり得るか、又は抗体構築物が三重特異性又は二重特異性を有するように最初の3つのパラトープのいずれかによって認識されたエピトープのうちの1つに特異的であり得る。
【0073】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含む。
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、上記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
a)S56Y/T/Aのいずれか、
b)N30S/Aのいずれか、
c)T94W/F/Yのいずれか、
d)H91Y/F/Wのいずれか、
e)P96Y/F/Wのいずれか、又は
f)a)~e)の5つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つという配列改変を含み、
上記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示される。
上記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
(1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
i)T30A/S/N/D、
ii)G56A/S/T、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
(2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、
i)N54T/S/A、
ii)D98S/W/T/R、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
いくつかの実施形態において、上記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、上記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含む。
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、Fab-Ig、Ig-Fab、又はヘテロ二量体Igの形態である。
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Igの形態である。
【0075】
本明細書で使用される「Fc領域」、「Fc」又は「Fcドメイン」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。当該用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む。本明細書で特に明記しない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムによるものである。
【0076】
定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)は、IgG、IgM、IgA、IgDのようなヒト免疫グロブリンであり、又はIgG及びそのアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の定常ドメインであり、又はこれらのタイプ及びアイソタイプから組換えられたCH1、CH2及びCH3ドメインの組み合わせである。
【0077】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体のFcは、Fc受容体(CD16a、CD16b、CD32a、CD16b、CD64及びC1qタンパク質など)に対する結合親和性の増加又は減少により、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)又は補体依存性細胞傷害(CDC)活性が増加したFcを含む。これには、ADCCで強化された脱フコシル化抗体が含まれるが、これに限定されず、取得方法は以下の通りである:(1)フコシル化欠損(FUT8遺伝子のノックアウトなど)を有する宿主細胞において二重特異性抗体を産生することによる(Yamane-Ohnuki N et al.、Biotechnol Bioeng.87(5):614-22、2004)、(2)抗体のFcドメインにおいてS239D、I332E、A330L置換(Kabat番号付け)又はこれらの変異の任意又は全ての組み合わせを有する(Lazar GA et al.、Proc Natl Acad Sci USA.103(11):4005-4010、2006)、又は(3)中国特許出願CN201610194325.7に示される通りである。
【0078】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、ADCC活性又はCDC活性を低下させるために、Fcドメインにおいて変異を含む。これらには、Fcドメインにおいて、(1)限定されないが、N297A、N297GなどのN297の変異、(2)L234A、L234GなどのL234の変異、及び/又はL235A又はL235GなどのL235の変異、(3)P329GなどのP329の変異、又は(4)D265AなどのD265の変異、又は任意又は全てのこれらの位置での置換の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0079】
いくつかの実施形態において、Fc変異(全ての番号付けは、いずれもKabat番号システムのEuインデックスである)は、血清半減期を増加させる変異を含む。一実施形態において、Fcは、CH3におけるT250Q、又はM428L、又はT250Q/M428L二重変異 (Hinton et al.、J Biol Chem.279(8):6213-6、2004)という置換を有する。別の実施形態において、二重特異性抗体のFcは、M252Y/S254T/T256E三重変異を有する(Dall’Acqua WF et al.、J Immunol169(9):5171-80,2002)。別の実施形態において、二重特異性抗体のFcは、N434A変異(Petkova SB et al.、International Immunology18(12):1759-1769、2006.)又はM428L/N434S二重変異、又はM428L/N434A二重変異(Zalevsky J et al.、Nat Biotechnol.28(2):157-159、2010)を有する。
【0080】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体のFc領域は、その血清半減期を増加させるように既に改変されている。いくつかの実施形態において、血清半減期を増加させる改変はM428Lである。
【0081】
本発明の二重特異性抗体は、Fab-Ig(図1に示す)又はIg-Fab(図2に示す)などのホモ二量体形態(2つの同じ重鎖を含む)であってもよい。アダプター、任意の組成の0~100アミノ酸からなる。いくつかの実施形態において、アダプター(adapter)は、例えば(GS)であり、そのうち、nは、1~20の間の任意の数である(表8に示す)。
【0082】
本発明の二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Igの形態であってもよい。2つの異なる抗体からの2つの異なる重鎖は、ノブ・イントゥ・ホール構造(knobs-into-holes、図3に示す)、静電ステアリング機構(図4に示す)などを含むがこれらに限定されない当該技術分野において記載される技術により、ヘテロ二量体を形成することができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、国際特許公開WO2018/191188A1号に開示されたものから選ばれる。
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57、及びT58から選ばれる。
【0084】
T51~T58という8つの二重特異性抗体において、T54及びT58は、ヘテロ二量体Igの形態であり、ノブ・イントゥ・ホール構造(knobs-into-holes)を採用し、残りの6つは、いずれもホモ二量体形態であり、そのうち、T53及びT57は、Ig-Fab形態であり、T51、T52、T55及びT56は、Fab-Ig形態である。
【0085】
T51~T58という8つの二重特異性抗体に対応する重鎖のコード及びそれらのアミノ酸配列を、表8及び表9に示す。
【0086】
T51~T58の相同軽鎖は、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインから出発し、部位変異により得られ、変異方法として、例えば、N30からS(N30S)、S56からY(S56Y)、又はT94からW(T94W)への変異、又はN30S/S56Y、N30S/T94W、S56Y/T94W、N30S/S56Y/T94Wなどの上記突然変異のうちの2つ又は3つの任意の組み合わせであってもよい。T51~T58に対応する軽鎖のコードを表8に示し、基本としてのトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列を配列番号5に示す。
【0087】
本明細書により開示される二重特異性抗体は、組換え方法によって産生することができる。組換え生産のための方法は、当該技術分野において周知であり、原核細胞及び真核細胞におけるタンパク質発現、その後の二重特異性抗体の単離、及び通常は薬学的に許容される純度への精製を含む。宿主細胞における上記抗体の発現のために、抗体配列をコードする核酸は、標準的方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母又は大腸菌(E.coli)細胞などの適切な原核生物又は真核生物宿主細胞において行われ、抗体は、細胞(溶解した細胞又は上清)から回収される。
【0088】
従って、本明細書により開示されるいくつかの実施形態は、a)抗体をコードする核酸分子を含む少なくとも1つの発現ベクターで宿主細胞を形質転換するステップと、b)抗体分子の合成を可能にする条件下で宿主細胞を培養するステップと、c)培養物から抗体を回収するステップとを含む、二重特異性抗体を製造するための方法を含む。
【0089】
抗体は、プロテインA-アガロースゲル、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地から適切に単離される。
【0090】
本明細書で使用されるように、「細胞」、「細胞系」及び「細胞培養物」という表現は、交換可能に使用され、このような名称は、すべて子孫を含む。「形質転換株」及び「形質転換細胞」という用語は、初代試験細胞及び継代回数に関係なく、それに由来する培養物を含む。また、意図的な又は意図しない変異のために、全ての子孫のDNA含有量が完全に同一でない可能性があることも理解される。子孫は、元の形質転換細胞においてスクリーニングされ、同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫を含む。別個の名称が意図されている場合は、「細胞」、「細胞系」又は「細胞培養物」であることは、文脈から明らかに理解される。
【0091】
本明細書で使用されるように、「形質転換」という用語は、ベクター/核酸を宿主細胞に形質転換するプロセスを指す。強力な細胞壁バリアを有さない細胞を宿主細胞として用いると、例えば、リン酸カルシウム沈殿法によってトランスフェクトすることができる。しかし、核注入又はプロトプラスト融合による方法などの、DNAを細胞に導入するための他の方法を用いることもできる。原核細胞や堅い細胞壁構造を有する細胞を用いると、例えば、トランスフェクション法として、塩化カルシウムによるカルシウム処理が挙げられる。
【0092】
本明細書で使用するように、「発現」は、核酸がmRNAに転写されるプロセス、及び/又は転写されたmRNA(転写物とも呼ばれる)が続いてペプチド類、ポリペプチド、又はタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。転写物及びコードされたポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と称されてもよい。ポリヌクレオチドがゲノムDNAから由来する配列を含むと、真核細胞における発現は、mRNAのスプライシングを含むことができる。
【0093】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を宿主細胞内に、及び/又は宿主細胞間に移送する核酸分子、特に自己複製核酸分子である。この用語は、細胞へのDNA又はRNAの挿入(例えば、染色体組み込み)に主に使用されるベクター、DNA又はRNAの複製に主に使用される複製ベクター、並びにDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳に使用される発現ベクターを含む。1種以上の上記機能を提供するベクターを更に含む。
【0094】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入される場合、ポリペプチドに転写・翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」は、一般に、所望の発現産物を産生するために使用され得る発現ベクターを含む、適切な宿主細胞を指す。
【0095】
本明細書で使用されるように、「宿主細胞」という用語は、本明細書に開示の抗体を産生するように操作され得る任意のタイプの細胞系を指す。いくつかの実施形態において、HEK293細胞及びCHO細胞は、宿主細胞として使用される。
原核生物に適した調節配列は、例えば、プロモーター、任意選択的にオペレーター配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0096】
核酸が別の核酸配列と機能的関係にある場合、この核酸は、「操作可能に連結されている」。例えば、リーダー配列又は分泌リーダーのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現されると、そのDNAは、ポリペプチドをコードするDNAに操作可能に連結され、プロモーター又はエンハンサーが配列の転写に影響を及ぼすと、そのプロモーター又はエンハンサーは、コード配列に操作可能に連結され、或いは、リボソーム結合部位が翻訳を容易にするために位置づけられると、そのリボソーム結合部位は、コード配列に操作可能に連結される。一般に、「操作可能に連結されている」とは、連結されているDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合には連続しており、且つリーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、必ずしも連続的である必要はない。同様に、いくつかの場合において、イントロンは、操作可能に連結された核酸配列間に存在してもよい。連結は、好都合な制限部位での連結反応によって達成される。このような部位が存在しないと、従来の実施のように、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はアダプターを利用する。
【0097】
抗体をコードする核酸配列は、文献から容易に得ることができるか、又は予想される宿主細胞の好ましいコドンを参照して、逆翻訳によって得ることができる。コード核酸は、化学的に合成されたポリヌクレオチド及び/又は予めクローニングされた抗体コードDNAから、おそらく部位特異的変異によって、組み立てられてもよい。
【0098】
抗体の組換え生産のために、この抗体をコードする核酸を単離し、更なるクローニング(DNA増幅)又は発現のために複製可能なベクターに挿入することができる。抗体をコードするDNAは、従来のプロセスを用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離及び配列決定を行うことができる。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は、一般にシグナル配列、複製起点、1つ又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列のうちの1つ又は複数を含むが、それらに限定されず、例えばUS5,534,615に記載されているように、タンパク質発現に関する全ての開示は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0099】
ベクターにおいてDNAをクローニング又は発現するのに適した本明細書の宿主細胞は、前述した原核細胞、酵母又は高等真核細胞である。この目的のために適した原核生物としては、例えば、グラム陰性生物及びグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、大腸菌(E.coli)などのエスケリキア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、ネズミチフス菌(S.typhimurium)などのサルモネラ属(Salmonella)、セラチア・マルセッセンス(S.marcescans)などのセラチア属(Serratia)及びシゲラ属(Shigella)、並びに枯草菌(B.subtilis)及びバチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)などのバシラス属(Bacilli)、緑膿菌(P.aeruginosa)などのシュードモナスのようなシュードモナス属(Pseudomonas)及びストレプトマイセス属(Streptomyces)などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)が挙げられる。例示的な大腸菌クローニング宿主は、大腸菌294(ATCC31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31,537)及び大腸菌W3110(ATCC27,325)などの他の株も好適である。これらの例は、例示的であり、限定的ではない。
【0100】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物も、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)は、よく見られているパン酵母であり、下等真核宿主微生物において最も一般的に使用されている酵母である。しかし、多くの他の属、種及び株も、本明細書ではよく見られており、利用可能であり、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス・ラクチス(K.lactis)、クリベロミセス・フラギリス(K.fragilis)(ATCC12,424)、クルイベロマイセス・ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC16,045)、K.wickeramii(ATCC24,178)、K.Waltii(ATCC56,500)、クルベロミセス・ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36,906)、クルイベロミセス・サーモトレランス(K.thermotolerans)及びクルイベロミセス・マルキシアヌス(K.marxianus)などのクルイベロミセス(Kluyveromyces)宿主、ヤロウイア属(Yarrowia)(EP402,226)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(EP183,070)、トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234)などのカンジダ(Candida)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、シュワニオマイセス・オシデンタリス(S.occidentalis)などのシュバニオマイセス属(Schwanniomyces)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)などの糸状菌、アスペルギルス・ニジュランス(A.nidulans)及びアスペルギルス・ニガー(A.niger)などのアスペルギルス属(Aspergillus)宿主である。
【0101】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、植物及び昆虫細胞などの無脊椎動物細胞を含む多細胞生物に由来する。数多くのバキュロウイルス株及び変異体、並びにツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)(毛虫)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びカイコ(Bombyx mori)などの対応する許容される昆虫宿主細胞は、既に同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変異体及びカイコ(B.mori)NPVのBm-5株が公的に入手可能であり、このようなウイルスは、特に、ツマジロクサヨトウ細胞のトランスフェクションのための、本発明による本明細書のウイルスとして用いることができる。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト及びタバコの植物細胞培養物は、宿主として用いられてもよい。
【0102】
しかし、脊椎動物細胞に対する関心は最も高く、培養物(組織培養物)における脊椎動物細胞の増殖は、従来のプロセスとなっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL1651)、ヒト胚性腎臓株(293又は浮遊培養物での増殖のためにサブクローニングされた293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO)、マウス支持細胞(sertoli cells)(TM4)、サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA、ATCC CCL2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL3A、ATCC CRL1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75)、ヒト肝がん細胞(Hep G2、HB8065)、マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51)、TRI細胞、MRC5細胞、FS4細胞が挙げられる。
【0103】
宿主細胞は、抗体産生のために上記発現ベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適した、改変された従来の栄養培地で培養される。
抗体を産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地で培養されてもよい。Ham’s F10、最小必須培地(MEM)、RPMI-1640及びDulbecco改変Eagle培地(DMEM)などの市販の培地は、宿主細胞を培養するのに適している。更に、US4,767,704、US4,657,866、US4,927,762、US4,560,655又はUS5,122,469、WO90/03430、WO87/00195又はUSRe.30,985に開示されている培地は、宿主細胞の培地として用いることができる。これらの培地のいずれかは、いずれも必要に応じてホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン又は上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシンTMなど)、微量元素(一般的にマイクロモルの範囲において最終濃度で存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は同等のエネルギー源を補充することができる。任意の他の必要なサプリメントも、当業者に既知の適切な濃度で含まれてもよい。温度、pHなどの培養条件は、発現のために以前に選ばれた宿主細胞によって使用されるものであり、当業者には明らかである。
【0104】
組換え技術が用いられる場合、抗体は、細胞内、ペリプラズム空間において産生されるか、又は培地に直接分泌されてもよい。抗体が細胞内で産生される場合、第1のステップとして、粒子断片は、宿主細胞であっても溶解断片であっても、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去することができる。
【0105】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーは、好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種類及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる。全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3について、タンパク質Gを使用することが推奨される。アフィニティーリガンドが付着するマトリックスは、アガロースであることが最も多いが、他のマトリックスも存在する。制御細孔ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成可能なものよりも速い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂は、精製に用いられてもよい。回収される抗体に応じて、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSETMのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂上のクロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラムなど)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿などの他のタンパク質精製技術も利用可能である。
【0106】
任意の予備精製ステップ(1つ以上のステップ)の後、目的の抗体及び汚染物質を含む混合物は、pHが約2.5~4.5の溶出緩衝液を使用して、低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供されてもよく、好ましくは低塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で行う。
【0107】
精製されると、抗体は、任意の薬学的に許容される緩衝液、塩、又は他の賦形剤を含む水性溶媒に溶解することができる。溶解した抗体は、使用前に冷蔵又は冷凍することができる。或いは、凍結乾燥し、使用直前に再構成することもできる。
【0108】
毒素
抗体とのコンジュゲーションに用いられる毒素は、一般に、以下の3つの条件を満たす必要がある。(1)有糸分裂の遮断及びDNA損傷の誘発などの作用メカニズムが明らかである。(2)EC90が1nmol・L-1未満であることが、一般的に要求される高活性である。(3)化学的にコンジュゲートし、腫瘍細胞内で高活性な毒素自体又はその高活性誘導体を放出することができる。
【0109】
本発明で使用される毒素は、当該技術分野で通常使用される任意の毒素であってもよく、例えば微小管阻害剤、DNA損傷剤、及び他の毒素分子であってもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、例えば、メイタンシン類(maytansine)、ヘミアスタリン(hemiasterlin)類、アマニチン(amanitin)類、アウリスタチン(auristatin)類、カリケアミシン(calicheamicins)類又はデュオカルマイシン(Duocarmycins)類など、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0110】
マイタンシン類は、ADCにおいて広く使用される細胞毒素であり、チューブリンの重合作用を阻害することにより、細胞を細胞周期のG2/M期に停止し、細胞の有糸分裂の進行を阻害し、アポトーシスを引き起こす。
【0111】
マイタンシン誘導体は、例えば、DM1、DM4、及びそれらの重水素化物であってもよい。
【化5】
【化6】
【0112】
ヘミアスタリン類は、上記元の天然製品であるヘミアスタリンで修飾されたトリペプチドであり、チューブリン重合阻害剤であり、チューブリンのビンブラスチン部位に非競合的に結合することができる。
【0113】
ヘミアスタリン誘導体は、例えば、E7974(エーザイ)、HTI-286(ワイス)、及びそれらの重水素化物であってもよい。
【化7】
【0114】
アマニチン類は、毒キノコから抽出され、哺乳動物RNAポリメラーゼIIに効率的に結合できる二環式オクタペプチドであり、DNA転写を停止させることにより細胞を死滅させ、このような分子は、高い親水性及び高い選択毒性を有する。
アマニチン類は、例えば、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチン、アマヌリン又はアマヌリン酸のジデオキシ変異体、又はアマニン、アマニンアミド、γ-アマニン又はγ-アマニンアミドのモノデオキシ変異体など、及びそれらの重水素化物であってもよい。
【0115】
アウリスタチン類は、アプリシアトキシン10の合成誘導体であり、チューブリン重合を阻害することによって、効果的な有糸分裂阻害作用を達成する。アウリスタチン類は、例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEVB(AEVB)及びアウリスタチンFフェニレンジアミン(AFP)、並びにそれらの重水素化物であってもよい。
【化8】
【化9】
【0116】
カリケアミシン類には7つの主要な誘導体があり、その中でもカリケアミシンγの活性が最も高く、臨床的に最も多く使用される。カリケアミシンは、オリゴ糖、カリケアミシン、及びメチルトリスルフィドの3つの部分を含み、メチルトリスルフィドは、イニシエーターとして機能し、還元後にBergman転位反応を開始し、DNA切断をもたらす。
【0117】
デュオカルマイシン類は、DNAの小溝を特異的に認識し、DNA塩基のアデニンのN3位を効率的にアルキル化することができ、高い抗がん活性を有する。デュオカルマイシン類は、例えば、デュオカルマイシンA、adozelesin、CC-1065、及びそれらの重水素化物であってもよい。
【化10】
【化11】
【化12】
【0118】
本発明で使用される毒素は、例えば、デュオカルマイシン類、ドキソルビシン類(例えば、モルホリノ-ドキソルビシン及びシアノモルホリノ-ドキソルビシン)、ドラスタチン、dolestatin-10、コンブレタスタチン、カリケアミシン、tubulysins、disorazole、エポチロン、パクリタキセル、ドセタキセル、SN-38、トポテカン、リゾキシン、エキノマイシン、コルヒチン、ビンブラスチン、ビンデシン、メトプテリン、セマドチン、eleutherobin、メトトレキサート、メチル葉酸、ジクロロメトトレキサート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、メルカプトプリン、メルファラン、ビンロイロシン、leurosideine、アクチノマイシン、ダウノルビシン及びダウノルビシンコンジュゲート、マイトマイシンC、マイトマイシンA、カルミノマイシン、アミノプテリン、タリソマイシン、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド又はエトポシドリン酸塩)、ビンクリスチン、カンプトテシンなど、及びそれらの重水素化物であってもよい。
【0119】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、マイタンシン類及びそれらの重水素化物、例えばDM1、DM4、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0120】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、ヘミアスタリン類及びその重水素化物、例えば、E7974、HTI-286、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、アマニチン類及びその重水素化物、例えば、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチンなど、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0122】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、ウリスタチン及びそれらの重水素化物から選ばれ、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEVB(AEVB)、及びアウリスタチンFフェニレンジアミン(AFP)、並びにそれらの重水素化物を含むが、これらに限定されない。
【0123】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)及びその重水素化物である。いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びその重水素化物である。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、カリケアミシン類及びそれらの重水素化物、例えば、カリケアミシンγ及びその重水素化物から選ばれる。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、デュオカルマイシン類及びそれらの重水素化物、例えば、デュオカルマイシンA、adozelesin、CC-1065、及びそれらの重水素化物から選ばれる。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明の毒素は、例えば、メイタンシン類(例えば、DM1、DM4)、ヘミアスタリン類(例えば、E7974、HTI-286)、アマニチン類(例えば、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチン)、アウリスタチン類(例えば、MMAE、MMAF、AEB、AEVB及びAFP)、カリケアミシン(例えば、カリケアミシンγ)、デュオカルマイシン(例えば、デュオカルマイシンA、adozelesin、CC-1065)など、及び上記これらの毒素の重水素化物から選ばれる。
【0127】
リンカー
本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートにおいて、二重特異性抗体と毒素の連結は、リンカーによって達成される。本発明のリンカーは、単一の毒素分子を抗体上の単一部位に連結する単官能性であってもよく、2つ/複数の毒素分子を抗体上の単一部位に連結するか、又は1つの毒素分子を抗体上の2つ/複数の部位に連結する多官能性であってもよい。
【0128】
抗体薬物コンジュゲートであるリンカーは、少なくとも以下の2つの条件を満たす必要がある:(1)体内で十分に安定し、毒素の血液循環中の脱落がなく、毒素の脱落による毒性を回避する。(2)毒素を標的で効率的に放出する。
【0129】
リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーに分類することができ、上記リンカーのうちの1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化される。切断可能なリンカーはまた、化学的に切断可能なリンカー及び酵素的に切断可能なリンカーの両方を含む。
【0130】
いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、切断可能なリンカー又はその重水素化物である。切断可能なリンカーは通常、細胞内条件下で、例えばリソソームによって容易に切断される。
【0131】
いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、化学的に切断可能なリンカー又はその重水素化物である。
【0132】
いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、酵素的に切断可能なリンカー又はその重水素化物である。
【0133】
酵素的に切断可能なリンカーは、例えば、ペプチド成分を含むリンカーであってもよく、上記ペプチド成分は、2つ以上のアミノ酸を含み、リソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼなどの細胞内プロテアーゼによって切断されてもよい。ペプチド成分は、天然アミノ酸残基及び/又はマイナーアミノ酸及び/又はシトルリンなどの非天然アミノ酸類似体を含んでもよい。ペプチド成分は、腫瘍関連プロテアーゼ、カテプシンB、C若しくはD又はプラスミンプロテアーゼなどの特定の酵素による酵素的切断のために、設計及び最適化することができる。
【0134】
酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit)又はフェニルアラニン-リジン(Phe-Lys)を含むリンカーなどのジペプチドを含むリンカーであってもよい。リンカーに含まれる適切なジペプチドの更なる例としては、Val-Lys、Ala-Lys、Me-Val-Cit、Phe-homoLys、Phe-Cit、Leu-Cit、Ile-Cit、Trp-Cit、Phe-Arg、Ala-Phe、Val-Ala、Met-Lys、Asn-Lys、Ile-Pro、Ile-Val、Asp-Val、His-Val、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Val-(D)Asp、NorVal-(D)Asp、Ala-(D)Asp、Me3Lys-Pro、フェニルGly-(D)Lys、Met-(D)Lys、Asn-(D)Lys、Pro-(D)Lys及びMet-(D)Lysが挙げられる。切断可能なリンカーは、トリペプチド、テトラペプチド、又はペンタペプチドなどのより長いペプチド成分を含んでもよい。例としては、トリペプチドMet-Cit-Val、Gly-Cit-Val、(D)Phe-Phe-Lys、及び(D)Ala-Phe-Lys、並びにテトラペプチドGly-Phe-Leu-Gly及びAla-Leu-Ala-Leuが挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit)又はフェニルアラニン-リシン(Phe-Lys)、及びそれらの重水素化物から選ばれる。いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit、Vc)又はその重水素化物から選ばれる。
【0136】
いくつかの実施形態において、本発明のリンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit、Vc)であり、毒素はMMAEであり、即ち、本発明のリンカー-毒素はVc-MMAEである。Vc-MMAE(mc-Vc-PAB-MMAE、Maleimidocaproyl-valine-citrulline-p-aminobenzyloxycarbonyl monomethylauristatinE、Vedotin)の構造は、以下に示される通りである。
【化13】
【0137】
本発明のVc-MMAE(mc-Vc-PAB-MMAE)の各リンカーブロック及び毒素MMAEは、いずれも市販の方法によって得ることができる。
【0138】
本発明に記載の「mc」とは、6-マレイミドヘキサン酸、又はそれが二重特異性抗体及び/又はリンカーと、化学結合によって連結された基を意味する。
6-マレイミドヘキサン酸(mc)の構造式は、以下の通りである:
【化14】
【0139】
本発明に記載の「PAB」とは、p-アミノベンジルアルコール、又はそれがリンカー及び/又は毒素と、化学結合によって連結された基を意味する。
【0140】
p-アミノベンジルアルコール(PAB)の構造式は、以下の通りである:
【化15】
【0141】
二重特異性抗体薬物コンジュゲート
本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートにおいて、抗体は、上記の任意の二重特異性抗体であってもよく、リンカーは、バリン-シトルリン(Val-Cit)又はフェニルアラニン-リジン(Phe-Lys)を含むリンカーなどのジペプチドを含むリンカーなど、上記の任意のリンカーであってもよく、毒素は、DM1、DM4、MMAE、MMAFなどの上記の任意の毒素であってもよい。
【0142】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)は、約1~6である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)は、例えば、約1、2、3、4、5、6である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートのDARは、約2、3、4、5である。いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートのDARは、3~4である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートのDARは、約3、4である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートのDARは、約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5などである。
【0143】
二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(I)に示される通りである:
【化1】
そのうち、
【化2】
は、二重特異性抗体を表し、中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vc)部分であり、最も右側のDrugは、毒素部分を表す。
【0144】
還元型抗体上の遊離スルフヒドリル基は、マレイミド基(例えば、6-マレイミドヘキサン酸(mc))と作用することにより、抗体とリンカー(Val-Cit、Vc)との間の連結を実現することができる。
【0145】
リンカーは、p-アミノベンジルアルコールを介して、最も右側のDrug(毒素部分)に連結されている。
【0146】
式(I)の二重特異性抗体
【化2】
は、上記の二重特異性抗体である。
【0147】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造においてさらに明確されるDAR値(n)は、以下の式(I’)に示される通りである:
【化3】
そのうち、
【化2】
は、上記の二重特異性抗体を表し、中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略称される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して上記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介して最も右側のDrug(毒素部分)に連結され、nは、平均薬物:抗体比(DAR)を表し、nは、1~6から選ばれ、例えば、約1、2、3、4、5、6、例えば、約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5である。
【0148】
二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである。
【化4】
そのうち、
【化2】
は、二重特異性抗体を表し、[ ]における構造は、リンカー-毒素部分Vc-MMAEであり、n(即ち、平均薬物:抗体比DAR値)は、例えば、約1~6、例えば、1、2、3、4、5、6、例えば、3~4、例えば、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5などであってもよい。
【0149】
いくつかの実施形態において、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)は、3~4、例えば、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.65、3.7、3.75、3.8、3.9、4である。
【0150】
還元型抗体上の遊離スルフヒドリル基は、マレイミド基(例えば、6-マレイミドヘキサン酸(mc))と作用することにより、抗体とリンカー(Val-Cit、Vc)との間の連結を実現することができる。
【0151】
リンカーは、p-アミノベンジルアルコールを介して、最も右側の毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結されている。
【0152】
式(II)の二重特異性抗体
【化2】
は、上記の二重特異性抗体である。
【0153】
いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、T51-MMAE、T52-MMAE、T53-MMAE、T54-MMAE、T55-MMAE、T56-MMAE、T57-MMAE、T58-MMAEであってもよい。これらの二重特異性抗体薬物コンジュゲートにおける二重特異性抗体T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58は、脱フコシル化(即ち、T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF及びT58-AF)されたものであってもよく、対応する二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、T51-AF-MMAE、T52-AF-MMAE、T53-AF-MMAE、T54-AF-MMAE、T55-AF-MMAE、T56-AF-MMAE、T57-AF-MMAE及びT58-AF-MMAEである。
【0154】
本発明に記載の「T54-MMAE」は、二重特異性抗体薬物コンジュゲートを指し、具体的な構造は、T54-(mc-vc-PAB-MMAE)nであり、そのうち、nは、平均薬物:抗体比(DAR)であり、T54、mc、vc、PAB及びMMAEは、上記で定義された通りである。
【0155】
本発明に記載の「T54-AF-MMAE」は、二重特異性抗体薬物コンジュゲートを指し、具体的な構造はT54-AF-(mc-vc-PAB-MMAE)nであり、そのうち、nは、平均薬物:抗体比(DAR)であり、T54-AF、mc、vc、PAB及びMMAEは、上記で定義された通りである。
【0156】
T51-MMAE、T52-MMAE、T53-MMAE、T55-MMAE、T56-MMAE、T57-MMAE、T58-MMAEについて、「T54-MMAE」の定義と同様になるように理解される。
【0157】
T51-AF-MMAE、T52-AF-MMAE、T53-AF-MMAE、T55-AF-MMAE、T56-AF-MMAE、T57-AF-MMAE、T58-AF-MMAEについて、「T54-AF-MMAE」の定義と同様になるように理解される。
【0158】
二重特異性抗体薬物コンジュゲートの製造
本開示のADCは、当該技術分野で既知のいくつかの経路の1つによって、当業者に既知の有機化学反応、条件及び試薬を用いて製造することができる(例えば、Bioconjugate Techniques(G.T.Hermanson、2013、Academic Press、及び本明細書に提供される実施例を参照されたい))。例えば、コンジュゲーションは、(1)抗体の求核基又は求電子基を二官能性リンカーと反応し、共有結合を介して抗体-リンカー中間体を形成した後、活性化毒素(例えば、DM1、DM4、MMAE、MMAFなど)と反応すること、又は(2)毒素の求核基又は求電子基をリンカーと反応し、共有結合を介してリンカー-毒素を形成した後、抗体の求核基又は求電子基と反応することによって達成することができる。
【0159】
本開示のADCは、当該技術分野で既知のいくつかの経路の1つによって、当業者に既知の有機化学反応、条件及び試薬を用いて、製造することができる(例えば、Bioconjugate Techniques(G.T.Hermanson、2013、Academic Press、及び本明細書に提供される実施例を参照されたい))。例えば、コンジュゲーションは、(1)抗体の求核基又は求電子基を二官能性リンカーと反応し、共有結合を介して抗体-リンカー中間体を形成した後、活性化毒素(例えば、DM1、DM4、MMAE、MMAFなど)と反応すること、又は(2)毒素の求核基又は求電子基をリンカーと反応し、共有結合を介してリンカー-毒素を形成した後、抗体の求核基又は求電子基と反応することによって達成することができる。
【0160】
上記のように、毒素は、ADCを提供するために適切なリンカーを介して、抗体上の各基にコンジュゲートされてもよい。例えば、コンジュゲーションは、抗体表面のリジンによって、又は酸化された炭水化物によって、又は1つ又は複数の鎖間ジスルフィド結合の還元によって放出されたシステイン残基によって、行われてもよい。或いは、抗体は、他のシステイン残基、又はセレノメチオニン、p-アセチルフェニルアラニン、ホルミルグリシン、又はp-アジドメチル-L-フェニルアラニンなどの、反応性ハンドルを提供する非天然アミノ酸を含むように修飾されてもよい。このような修飾は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第7,521,541号、8,455,622号及び9,000,130号、Hoferら、Biochemistry、48:12047~12057号(2009)、Axupら、PNAS,109:16101~16106号(2012)、Wuら、PNAS,106:3000~3005号(2009)、Zimmermanら、Bioconj.Chem.,25:351~361号(2014)を参照されたい)。
【0161】
いくつかの実施形態において、本開示のADCは、適切なリンカーを介して、1つ又は複数の鎖間ジスルフィド結合の還元によって放出された二重特異性抗体上のシステイン残基にコンジュゲートされたアウリスタチン類毒素(例えば、MMAE、MMAF)を含む。
【0162】
システイン残基とのコンジュゲーションのために、抗体鎖間ジスルフィド結合の部分還元を行い、その後リンカー-毒素とコンジュゲートすることができる。適切な還元剤は、当該技術分野において既知であり、例えば、ジチオスレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、2-メルカプトエタノール、システアミン、及び多くの水溶性ホスフィンを含む。
【0163】
ADCの平均DARは、UV/VIS分光分析、ELISAベースの技術、クロマトグラフィー技術(疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)など)、UV-MALDI質量分析(MS)、及びMALDI-TOF MSなどの標準的な技術によって決定することができる。なお、薬物結合形態の分布(例えば、DAR0、DAR1、DAR2などの種類の百分率)は、当該技術分野で既知の様々な技術によって分析することができ、上記技術は、MS(クロマトグラフィー分離ステップを伴ってもよく、伴わなくてもよい)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相HPLC、又は等電点電気泳動(IEF)を含む(例えば、Sunら、Bioconj Chem.、28:1371-81(2017)、Wakankarら、mAbs、3:161-172(2011)を参照する)。
【0164】
いくつかの実施形態において、ADCの平均DARは、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)技術によって測定される。
【0165】
コンジュゲートした後、ADCは、当該技術分野で既知の精製方法によって精製され、コンジュゲートしていない反応物及び/又は任意のコンジュゲート凝集体からも単離されてもよい。このような方法としては、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、イオン交換クロマトグラフィー、クロマトフォーカス、限外濾過、遠心限外濾過、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0166】
本発明は、更に、上記の二重特異性抗体薬物コンジュゲートを含む医薬組成物に関する。
【0167】
「治療」という用語は、(1)この状態、疾患又は病症に罹患する可能性があるか、又は罹患する傾向があるが、この状態、疾患又は病症の臨床的又は亜臨床的症状を経験していないか、又は示していない被験者において進行するこの状態、疾患又は病症の少なくとも1つの臨床的又は亜臨床的症状の発生を予防するか又は遅延させること、
或いは、(2)この状態、疾患又は病症を阻害し、即ち疾患の進行又はその再発(治療を維持している場合)、又はその少なくとも1つの臨床的症状又は亜臨床的症状を阻止したり、減少させたり、遅延させたりすること、
或いは、(3)疾患を軽減し、即ち、この状態、疾患又は病症、若しくはその臨床的又は亜臨床的症状の少なくとも1つの軽減をもたらすことを含む。治療を受けている被験者によって得られる利益は、統計的に有意であるか、又は少なくとも患者又は医師にとって知覚可能である。
【0168】
本明細書で使用されるように、用語「治療的に有効な」又は「有効な」が用量又は量に適用されることは、状態、疾患、又は病症を治療(例えば、予防又は改善)するために被験者に投与される場合、そのような治療又は予防が有効な結果を生じるのに十分な化合物又は医薬組成物の量を指す。「治療有効量」は、投与される化合物又は細菌若しくは類似体、並びに疾患及びその重症度、並びに治療される哺乳動物の年齢、体重、身体状態及び応答状態に応じて変化する。
【0169】
本開示の組成物と共に使用される「薬学的に許容される」という語句は、そのような組成物の分子実体及び他の成分が生理学的に許容され、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与された場合に有害反応を通常は生じないことを意味する。
【0170】
「医薬製剤」又は「医薬組成物」という用語は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にする形態であり、製剤が投与される被験者に対して、許容できない毒性を有する追加の成分を含まない製剤又は組成物を指す。
【0171】
「ベクター」という用語は、化合物を投与するための希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。そのような医薬ベクターは、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物、又は合成原料を含む水及び油などの無菌液体であってもよい。特に注射可能な溶液の場合、ベクターとして、水又は水溶液、塩水溶液、並びに水性グルコース及びグリセロール水溶液が使用される。或いは、ベクターは、1種以上の(ペレットを圧縮するための)結合剤、流動促進剤、封入剤、香味剤、及び着色剤を含むが、これらに限定されない固体剤形ベクターであってもよい。適切な医薬ベクターは、E.W.Martinの『レミントン薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)』に記載されている。
【0172】
他の実施形態は、がんの予防及び/又は治療のための、本開示の二重特異性抗体薬物コンジュゲート又はそれを含む医薬組成物の応用に関する。別の実施形態において、がんの予防及び/又は治療のための医薬の製造における二重特異性抗体薬物コンジュゲートの応用を提供する。いくつかの実施形態において、上記応用は、がんの治療のためのものである。他の類似の実施形態は、がんを予防及び/又は治療する方法であって、それを必要とする患者に治療有効量の二重特異性抗体薬物コンジュゲートを投与することを含む方法である。いくつかの実施形態において、被験者は哺乳動物である。幾つかの実施形態において、被験体はヒトである。
【0173】
本明細書に記載のがんは、例えば、HER2を発現するがん、例えば、HER2が中レベルから低レベルまで発現されるがん、例えば、HER2乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、胃がん、食道がん、肺がん、頭頸部がん、膀胱がん、胆管がん、及び/又は結腸直腸がんであるが、これらに限定されない。
【0174】
本発明の二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、単独投与されるか、又は、がんの治療に適した他の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。例えば、上記二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、例えば、化学療法若しくは標的療法のため、又は免疫療法のためなどの他の療法と組み合わせて使用することができる。同様に、それらは、放射線療法又は外科手術と組み合わせて使用することができる。
【0175】
二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、任意の適切な経路によって送達することができる。いくつかの実施形態において、当該コンジュゲートは、注射若しくは注入によって、皮膚パッチによって、デポ/ポンプ装置によって、又は吸入によって送達される。これらの実施形態の様々な態様において、当該コンジュゲートは、静脈内、腹腔内、皮下、又は筋肉内に投与される。
【0176】
いくつかの実施形態におけるコンジュゲートは、1日1回又はそれ以下の頻度で投与することができる。例えば、いくつかの実施形態において、二重特異性抗体薬物コンジュゲートは、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、又は6ヶ月に1回投与される。
【0177】
有効分子の最適な用量レベルは、患者の年齢、体重、身体状態、他の薬物との可能な組み合わせ、及び病状の重症度を含む様々な要因に依存する。具体的な用量は、当業者が具体的な状況に応じて決定することができる。
【0178】
試薬キット、単位剤形及び製造物品
本開示は、本明細書に記載のコンジュゲート又はその組成物を含む試薬キット、単位剤形、及び製造物品を更に提供する。試薬キット、単位剤形、及び製造物品は、例えば、本明細書に記載のコンジュゲートのバイアル(例えば、密閉バイアル)、プレフィルドシリンジ、及び自己注射器(ペン型)を含んでもよい。
アミノ酸は、IUPAC-IUB生化学命名法委員会のアミノ酸に共通する3文字記号又は1文字(単一文字)記号に従って、本明細書において参照される。
【実施例
【0179】
以下、具体的な実施例を参照しながら、本発明の技術的解決手段を説明し、本発明の上記内容を更に詳細に説明するが、これは、本発明の上記主旨の範囲が以下の実施例のみに限定されると理解すべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、いずれも本発明の範囲に属する。
【0180】
実施例1 二重特異性抗体の製造
エレクトロトランスフェクション技術を利用し、二重特異性抗体重鎖プラスミド及び二重特異性抗体軽鎖プラスミドを、それぞれCHO-K1細胞に同時トランスフェクトした。細胞を新鮮なopti培地(グルタミンを含まず、市販により得られる)で再懸濁し、96ウェルプレートに播種し、37℃、5%COのインキュベーターで24時間培養して回復させた。24時間回復した後、25μMのMSXを含む新鮮なopti培地で再懸濁し、3日ごとに新鮮な培地を交換し、25μMのMSXの圧力下で2~4週間培養し続け、生存している混合細胞クローンを選択した。有限希釈法によって混合細胞を新鮮なopti培地で希釈し、96ウェルプレートに0.5細胞/ウェルの密度で播種し、37℃、5%COのインキュベーターで2週間ほど培養し、ELISA法により抗体を発現できるクローンを検出し、限界希釈法による2回スクリーニングを行い、最終的に抗体T54を発現できるモノクローナルが得られた。
【0181】
中国特許出願CN201610194325.7に記載の方法を参照し、CHO-K1細胞からTALENによってFUT8遺伝子をノックアウトし、LCAによって加圧し、フコースノックアウト細胞株D57を構築し、細胞株D57を利用し、実施例1でT54を製造するものと同様の方法によって、脱フコシル化二重特異性抗体T54-AFを製造した。
【0182】
二重特異性抗体の安定化系を数日間培養した後、上清に対してprotein Aアフィニティ精製及び陽イオン交換精製を行い、二重特異性抗体T54、T54-AFが得られた。
【0183】
上記実施例1と同様の方法により、対応する二重特異性抗体の重鎖プラスミド及び軽鎖プラスミドを利用してそれぞれCHO-K1細胞に同時トランスフェクトし、抗体T51、T51-AF、T52、T52-AF、T53、T53-AF、T55、T55-AF、T56、T56-AF、T57、T57-AF、T58、T58-AFを製造した。
【0184】
実施例2 二重特異性抗体薬物コンジュゲートの製造
実施例1で得られた二重特異性抗体T54を、コンジュゲーションための緩衝液(25mMのNa/25mMのNaCl、1mMのDTPA、pH7.4)に透析し、限外濾過によって濃度が5mg/mL以上になるまで濃縮し、濃度を5mg/mLに調整した。還元剤TCEPを加え、25℃の水浴で2時間反応させた。
【0185】
Vc-MMAE(mc-Vc-PAB-MMAE)の各リンカーブロック及び毒素MMAEは、いずれも市販の方法によって得ることができる。
【0186】
そのうち、「mcブロック」とは、6-マレイミドヘキサン酸を指し、6-マレイミドヘキサン酸の構造式は、以下の通りである:
【化14】
【0187】
「PAB」とは、p-アミノベンジルアルコールを指し、p-アミノベンジルアルコール(PAB)の構造式は、以下の通りである:
【化15】
【0188】
Vc-MMAE(mc-Vc-pab-MMAE)の化学構造式は、以下の通りである:
【化13】
各ブロックの化学的コンジュゲーションは、いずれも当該技術分野における従来のエステル化又は脱水反応によって完成すればよい。
【0189】
mc-vc-pab-MMAEを10mMになるまでDMSOに溶解した。mc-vc-pab-MMAEを抗体と10:1のモル比で混合し、25℃の水浴で、2時間反応させてコンジュゲートした。
【0190】
コンジュゲートした産物を透析緩衝液(20mMのHis-acetate、pH5.5)に透析し、0.22μm膜で濾過し、二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-MMAEが得られた。
【0191】
上記実施例2と同様の方法を利用し、二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAE、T51-MMAE、T51-AF-MMAE、T52-MMAE、T52-AF-MMAE、T53-MMAE、T53-AF-MMAE、T55-MMAE、T55-AF-MMAE、T56-MMAE、T56-AF-MMAE、T57-MMAE、T57-AF-MMAE、T58-MMAE、T58-AF-MMAEを製造した。
【0192】
実施例3 二重特異性抗体T54、T54-AF及び二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-MMAE、T54-AF-MMAEの特徴付け
二重特異性抗体T54、T54-AF及び二重特異性抗体薬物コンジュゲートT54-MMAE、T54-AF-MMAEに対して、SEC純度分析及びHIC-HPLC分析を行った。
【0193】
SEC純度分析に使用される機器及び条件は、以下の通りである:
機器:Thermo Ultimate3000
カラム:Waters、XBridge BEH200Å SEC3.5μm(7.8×300mm)
移動相:15%イソプロパノールのPBS、pH7.4
流速:0.5mL/min、30min
ローディング量:40μg。
HIC-HPLC分析に使用される機器及び条件は、以下の通りである:
カラム:Thermo MAbPac HIC-Butyl
移動相:
移動相A:50mMのNaPO、1.5Mの(NHSO、5%イソプロパノール、pH6.95
移動相B:50mMのNaPO、5%イソプロパノール、pH6.95
流速:0.5mL/min
ローディング量:100μg。
【0194】
1.二重特異性抗体及びそのコンジュゲートの検出結果
抗体T54及びそのコンジュゲートT54-MMAEに対して、それぞれSEC純度分析を行い、結果をそれぞれ図5A図6Aに示す。図から分かるように、T54及びT54-MMAEのポリマー含有量は、それぞれ1.95%、0.24%であり、モノマー含有量は、それぞれ97.17%、96.75%であり、両者のモノマー含有量の差は大きくない。
【0195】
抗体T54及びそのコンジュゲートT54-MMAEに対して、それぞれHIC-HPLC分析を行い、結果をそれぞれ図7図8Aに示す。図から分かるように、抗体薬物コンジュゲートT54-MMAEは、異なる数の毒素をコンジュゲートしており、そのうち、4つの毒素をコンジュゲートした割合は、73.31%であり、平均DAR値は、3.70であり、具体的なデータを表1-1に示す。
【0196】
【表1-1】
【0197】
2.脱フコシル化二重特異性抗体及びそのコンジュゲートの検出結果
抗体T54-AF及びそのコンジュゲートT54-AF-MMAEに対して、それぞれSEC純度を行い、結果をそれぞれ図5B図6Bに示す。図から分かるように、T54-AF及びT54-AF-MMAEのポリマー含有量は、それぞれ0.72%、0.17%であり、モノマー含有量は、それぞれ99.28%、99.83%であり、モノマー含有量の差は、大きくない。
【0198】
抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAEのコンジュゲートした毒素の数をHIC-HPLCによって分析し、結果を図8Bに示す。図から分かるように、抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAEは、異なる数の毒素をコンジュゲートしており、そのうち、4つの毒素をコンジュゲートした割合は、66.61%であり、平均DAR値は、3.46であり、具体的なデータを表1-2に示す。
【0199】
【表1-2】
【0200】
実施例4 HER2との結合活性の測定
分析対象:
抗体T54-AF
抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAE
陽性対照ADC DS8201(Trastuzumab Deruxtecan、Her2を標的とする抗体薬物コンジュゲートであり、ヒト化抗Her2抗体Trastuzumabからテトラペプチド(GGFG)linkerを介して、トポイソメラーゼ-I阻害剤であるカンプトテシン誘導体(DX-8951誘導体DXd)にコンジュゲートして得られた)。
【0201】
抗体、抗体薬物コンジュゲートと抗原HER2の結合活性を、ELISAの方法によって検出した。抗原HER2(2μg/mL)を、1ウェルあたり100μLで、4℃で一晩コーティングした。300μLのPBSを加えて4回繰り返し洗浄し、3%BSAを含むPBSを300μL加え、37℃で2時間ブロッキングし、PBSで4回繰り返し洗浄した。検出すべき抗体を100μL加え、37℃で1時間インキュベートした。PBSで4回繰り返し洗浄し、希釈した二次抗体を100μL加え、37℃で1時間インキュベートし、二次抗体を捨て、PBSで4回繰り返し洗浄した。100μLのTMB発色液を加え、37℃で5~10分間インキュベートした。50μLの希硫酸停止液を加えて反応を終了した。マイクロプレートリーダーによってOD450を検出した。
【0202】
データを分析し、抗体T54-AF及び抗体薬物コンジュゲートT54-AF-MMAE、DS8201とHER2抗原の結合活性曲線を図9に示し、EC50値を表2に示す。
【0203】
【表2】
【0204】
実施例5 HER2発現陽性腫瘍細胞(SKBR3、N87)の増殖阻害試験
対数増殖期のHER2発現陽性腫瘍細胞(SKBR3、N87)をPBSで洗浄し、パンクレアチンを加えて消化させた後、10%FBS培地(DMEM、RPMI1640)でパンクレアチンを中和した後、遠心分離し、標的細胞を対応する10%FBS培地(DMEM、RPMI1640)で再懸濁し、細胞密度を2E4に調整し、96ウェルプレートを1ウェルあたり100μLで加え、24時間培養した後、培地で希釈した異なる濃度の薬物を1ウェルあたり100μL(初期濃度300μg/mL、8倍希釈、8つの濃度)で加えた。72時間後、細胞上清を吸引し、cck8を添加した培地を100μL加え、4時間インキュベートし、OD450を検出した。
【0205】
1.二重特異性抗体及びそのコンジュゲートの検出結果
(1)乳がん細胞SKBR3の増殖阻害
ソフトウエアGraphPad5.0を用いてデータを分析し、乳がん細胞SKBR3に対する各抗体、抗体薬物コンジュゲートの阻害曲線を図10に示し、IC50値を表3に示す。結果から分かるように、T54、T54-MMAE、TDM1、Herceptinは、いずれもSKBR3腫瘍細胞の増殖を阻害する作用を有するが、抗体薬物コンジュゲートTDM1、T54-MMAEは、腫瘍細胞に対する阻害がより明らかであり、最大阻害率が80%以上に達することができ、T54阻害効果は次に高く、最大阻害率が52.51%に達することができ、Herceptinは最も弱く、最大阻害率がわずか33.54%である。
【0206】
【表3】
【0207】
(2)胃がん細胞N87の増殖阻害
ソフトウエアGraphPad5.0を用いてデータを分析し、胃がん細胞N87に対する各抗体、抗体薬物コンジュゲートの阻害曲線を図11に示し、IC50値を表4に示す。結果から分かるように、T54、T54-MMAE、TDM1は、N87腫瘍細胞の増殖を阻害する作用を有するが、抗体薬物コンジュゲートTDM1、T54-MMAEは、腫瘍細胞に対する阻害がより明らかであり、最大阻害率が70%以上に達することができ、T54阻害効果は次に高く、最大阻害率が55.6%に達することができる。Herceptinは、N87に対して明らかな阻害効果を有しない。
【0208】
【表4】
【0209】
2.脱フコシル化二重特異性抗体及びそのコンジュゲートの検出結果
対数増殖期の腫瘍細胞をPBSで洗浄し、パンクレアチンを加えて消化させた後、10%FBSを含む培地(DMEM、RPMI1640、MEMなど)でパンクレアチンを中和した後、遠心分離し、標的細胞を対応する10%FBS培地(DMEM、RPMI1640、MEMなど)で再懸濁し、細胞密度を4×10/mLに調整し、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLで加え、24時間培養した後、培地で希釈した異なる濃度の薬物を1ウェルあたり100μL(初期濃度100μg/mL、6倍希釈、8つの濃度)で加えた。72時間後、細胞上清を吸引し、cck8を添加した培地を100μL加え、4時間インキュベートし、OD450を検出した。
【0210】
HER2の発現レベルが高、中、低の腫瘍細胞に対するT54-AF-MMAE、DS8201、T54-AF、herceptin、perjeta、Isotype(アイソタイプ対照、陰性抗体として)の増殖阻害活性をそれぞれ検出し、データを分析し、結果は、図12に示すように、HER2発現が陽性の異なる腫瘍細胞に対するT54-AF-MMAEの増殖阻害効果がいずれもDS8201及びT54-AF、herceptin、perjetaモノクローナル抗体よりも優れていることが示された。
【0211】
実施例6 マウス体内におけるBT474乳がん腫瘍細胞の増殖阻害試験
1.二重特異性抗体薬物コンジュゲートの検出結果
(1)細胞培養
BT474腫瘍細胞は、ATCCから購入され、番号がHTB-20TMである。腫瘍細胞を、不活化10%ウシ胎児血清、1mMのNapyr、1XのMEM-NEAA、1XのMEM VITAMIN、10μg/mLのヒトインスリンを含むRPMI 1640培地で37℃、5%COのインキュベーターで培養し、細胞が満ちた3~4日ごとに、フラスコに分けて継代し、対数増殖期にある腫瘍細胞を体内腫瘍の接種に用いた。
【0212】
(2)腫瘍細胞の接種及び群分け
BT474腫瘍細胞をPBS+Matrigel(1:1)で再懸濁し、濃度が1×10/mLであり、実験動物の右側前肋部皮下に100μL/匹で接種し、平均体積が111mm程度になるまで腫瘍が増殖する時に群分けして投与し、合計3群であり、1群あたり5匹であり、具体的な投与レジメンを表5-1に示す。
【0213】
【表5-1】
【0214】
(3)マウス体重の測定及び実験指標
週に2回腫瘍の長径及び短径をノギスで測定し、腫瘍体積計算式:体積=0.5×長径×短径に従って腫瘍体積を計算した。腫瘍体積を測定したと同時に、マウス体重を秤量した。マウス体重の変化と投与時間の関係を記録した。同時に、投与期間中の動物の活動、摂食などの一般的状態のような、マウスの生存状況及び健康状態を観察した。
【0215】
T/C値を腫瘍体積から計算し、そのうち、Tは、ある被験物処理群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値であり、Cは、溶媒対照群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値である。RTVは、投与後と投与前の腫瘍体積の比である。腫瘍増殖阻害率(%)=(1-T/C)×100%であり、腫瘍増殖阻害率≧60%であり、統計分析により、p<0.05である。
【0216】
(4)サンプル採取及び処理
実験終了後、各群のマウスを安楽死させ、腫瘍組織を剥離し、腫瘍組織を秤量した後に整然と並べて写真を撮った。
【0217】
各群のマウスの腫瘍増殖曲線及び腫瘍増殖阻害率を図13、表6-1に示す。TDM1(2mg/kg)、T54-MMAE(2mg/kg)は、ヒト乳がん異種移植モデルBT474において、いずれも強力な抗腫瘍作用を示し、腫瘍増殖を効果的に阻害した。T54-MMAEの腫瘍阻害効果はTDM1よりも優れていた。投与前後には、腫瘍担持マウスの体重は減少せず、被験物に対していずれも良好な耐性を示した。
【0218】
【表6-1】
【0219】
2.脱フコシル化二重特異性抗体薬物コンジュゲートの検出結果
(1)細胞培養
BT474細胞を、不活化10%ウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン並びに2mMのグルタミンを含むRPMI-1640培地で37℃、5%COのインキュベーターで培養し、細胞が満ちた3~4日ごとに、フラスコに分けて継代し、対数増殖期にある腫瘍細胞を体内腫瘍の接種に用いた。
【0220】
(2)腫瘍細胞の接種及び群分け
腫瘍細胞をPBSで2回洗浄した後、PBS:Matrigel(体積比1:1で混合)で再懸濁し、細胞濃度を1×10/mLに調整し、実験動物の右側前肋部皮下に100μL/マウス、即ち1×10/マウスで接種した。実験動物に、接種前日から安息香酸エストラジオール注射液(2mL:4mg、寧波第二ホルモン工場)を40μg/匹、週に1回皮下注射した。平均腫瘍体積が113mmに達するまで腫瘍が増殖した時、腫瘍体積に応じて群分けして投与し、合計7群であり、各群は5匹の動物であり、具体的な投与レジメンを表5-2に示す。
【0221】
【表5-2】
【0222】
(3)マウス体重の測定及び実験指標
週に2回腫瘍の長径及び短径をノギスで測定し、腫瘍体積計算式:体積=0.5×長径×短径に従って、腫瘍体積を計算した。腫瘍体積を測定したと同時に、マウス体重を秤量した。マウス体重の変化と投与時間の関係を記録した。同時に、投与期間中の動物の活動、摂食などの一般的状態のような、マウスの生存状況及び健康状態を観察した。
【0223】
T/C値を腫瘍体積から計算し、そのうち、Tは、ある被験物処理群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値であり、Cは、溶媒対照群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値である。RTVは、投与前と投与後の腫瘍体積の比である。腫瘍増殖阻害率(%)=(1-T/C)×100%であり、腫瘍増殖阻害率≧60%であり、統計分析によりp<0.05である。
【0224】
(4)サンプル採取及び処理
実験終了後、各群のマウスを安楽死させ、腫瘍組織を剥離し、腫瘍組織を秤量した後に整然と並べて写真を撮った。
【0225】
(5)実験結果
各群のマウスの腫瘍増殖曲線及び投与後の腫瘍増殖阻害状況を図14、表6-2、続きの表6-2-1及び続きの表6-2-2に示す。結果から分かるように、ヒト乳がん異種移植モデルBT474において、
1)ブランク対照(賦形剤)に比べて、4mpkのT54-AF-MMAEは、D26に顕著な腫瘍阻害作用を示し始め、1mpkのT54-AF-MMAEは、D33(2回目の投与の7日後)に顕著な腫瘍阻害作用を示し始め、
2)同じ用量の対照薬(DS8201)と比べ、T54-AF-MMAE高(4mpk)は、D26(1回目の投与の7日後)及びD33(2回目の投与の7日後)に顕著な有効性を示した。
【0226】
治療中に,腫瘍担持マウスは、高用量、中用量、低用量の二重特異性抗体-ADC試験薬物に対していずれも良好な耐性を示し、各群のマウスは、体重が正常であり、異常な徴候がなく、一般的状態が良好である。
【0227】
【表6-2】
【0228】
【表6-2-1】
【0229】
【表6-2-2】
【0230】
実施例7 マウス体内におけるN87胃がん腫瘍細胞の増殖阻害試験
(1)細胞培養
腫瘍細胞を、不活化10%ウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン並びに2mMのグルタミンを含むRPMI-1640培地で37℃、5%COのインキュベーターで培養し、細胞が満ちた3~4日ごとに、フラスコに分けて継代し、対数増殖期にある腫瘍細胞を
体内腫瘍の接種に用いた。
【0231】
(2)腫瘍細胞の接種及び群分け
腫瘍細胞をPBSで2回洗浄した後、細胞濃度を1×10/mLに調整し、実験動物の右側前肋部皮下に100μL/マウス、即ち1×10/マウスで接種した。平均腫瘍体積が80~120mmに達するまで腫瘍が増殖した時、腫瘍体積に応じて群分けして投与し、合計8群であり、各群は8匹の動物であり、具体的な投与レジメンを表7-1に示す。
【0232】
【表7-1】
【0233】
(3)マウス体重の測定及び実験指標
週に2回腫瘍の長径及び短径をノギスで測定し、腫瘍体積計算式:体積=0.5×長径×短径に従って腫瘍体積を計算した。腫瘍体積を測定したと同時に、マウス体重を秤量した。マウス体重の変化と投与時間の関係を記録した。同時に、投与期間中の動物の活動、摂食などの一般的状態のような、マウスの生存状況及び健康状態を観察した。
【0234】
T/C値を腫瘍体積から計算し、そのうち、Tは、ある被験物処理群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値であり、Cは、溶媒対照群の相対腫瘍体積(RTV)の平均値である。RTVは、投与前と投与後の腫瘍体積の比である。腫瘍増殖阻害率(%)=(1-T/C)×100%であり、腫瘍増殖阻害率≧60%であり、統計分析によりp<0.05である。
【0235】
(4)サンプル採取及び処理
実験終了後、各群のマウスを安楽死させ、腫瘍組織を剥離し、腫瘍組織を秤量した後に整然と並べて写真を撮った。
【0236】
(5)実験結果
各群のマウスの腫瘍増殖曲線及び投与後の腫瘍増殖阻害状況を図15及び表7-2に示す。結果から分かるように、ヒト胃がん異種移植モデルN87において、
1)1mpkのDS8201、0.25mpk、1mpk及び4mpkのT54-AF-MMAE は、NCI-N87腫瘍の増殖を顕著に阻害することができた。
2)同じ用量で、T54-AF-MMAE(1mpk)は、腫瘍阻害効果がDS8201(1mpk)より顕著に優れ、p=0.005(Student’s t test)である。
【0237】
治療中に,腫瘍担持マウスは、高用量、中用量、低用量の二重特異性抗体-ADC試験薬物に対していずれも良好な耐性を示し、各群のマウスは、体重が正常であり、異常な徴候がなく、一般的状態が良好である。
【0238】
【表7-2】
【0239】
実施例8 本願の各二重特異性抗体の構造及び配列
本願に係る二重特異性抗体T51~T58の構造及び配列をそれぞれ表8、9に示す。
【0240】
表8には示されていないが、二重特異性抗体T51~T58及びその対応する脱フコシル化二重特異性抗体T51-AF~T58-AFは、二重特異性抗体の血清半減期を増加させるためにFc領域においてM428L置換を含んでいた。
【0241】
表8中の「重鎖#1」の列の具体的なアミノ酸配列を、表9に示した。
【0242】
【表8】
【0243】
【表9-1】
【0244】
【表9-2】
【0245】
【表9-3】
【0246】
【表9-4】
【0247】
【表9-5】
【0248】
【表9-6】
【0249】
他の説明
本願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、「配列表-二重特異性抗体薬物コンジュゲート」というファイル名の配列表を含む。
【0250】
別段の指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲において使用される、成分の量、分子量などの性質、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。本明細書で使用されるように、「約」及び「およそ」という用語は、10~15%以内、好ましくは5~10%以内を意味する。従って、反対のことが示されない限り、明細書及び添付される特許請求の範囲において提案された数値パラメータは、本発明によって求められる所望の特性に応じて変更され得る近似値である。また、少なくとも本特許請求の範囲の均等物の適用を限定するためのものではなく、各数値パラメータは、少なくとも与えられた有効数字に基づき、通常の四捨五入法を用いて構成されるべきである。本発明の広範囲を説明する数値範囲及びパラメータは近似値であるが、特定の実施例に与えられた数値は可能な限り正確である。しかし、任意の数値は、必然的にそれぞれの測定尺度に存在する標準偏差によって引き起こされる一定の誤差を本質的に含む。
【0251】
本明細書において別段の指示がない限り、又は文脈から明らかに矛盾しない限り、本発明の文脈(特に添付される特許請求の範囲の文脈)で使用される用語「1つ」、「1種」、「上記/当該」、及び類似の指示語は、単数形も複数形も含むと解釈されるべきである。本明細書における数値範囲の記載は、この範囲に含まれる個々の値を参照する略記法(shorthand method)として単に使用されることを意図している。本明細書において別段の指示がない限り、個々の値は、本明細書に個別に組み込まれるかのように、明細書に組み込まれる。本明細書において別段の指示がない限り、又は文脈から明らかに矛盾しない限り、本明細書に記載の全ての方法は、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意の及び全ての実施例、又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、別段の指定がない限り、単に本発明をより良く説明することを意図しており、本発明の範囲を限定するものではない。明細書における全ての言語は、本発明の実施に必要な任意の非請求要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0252】
本明細書に開示された本発明の代替的な要素又は実施形態のグループ分けは、限定と解釈されるべきではない。グループの個々のメンバーは、単独で、又は上記グループの他のメンバー又は本明細書の他の要素との任意の組み合わせで参照され、特許請求されてもよい。グループの1又は複数のメンバーは、利便性及び/又は特許性の理由から、グループに含まれてもよく、又はグループから削除されてもよいことが想定される。任意のそのような包含又は削除が起こる場合、本願は、添付される特許請求の範囲で使用される全てのマルクーシュグループの書面による説明を満たすように、修正されたグループを含むと考えられる。
【0253】
本明細書では、発明者に知られている本発明を実施する最良のモードを含む、本発明のいくつかの実施形態について説明する。当然ながら、上記の説明を読んだ後、これらの記載された実施形態の変形は、当業者には明らかである。本発明者らは、当業者がそのような変形を適切に採用し得ることを想定しており、本発明者らは、本発明を本明細書の特定の説明とは異なる方法で適用することを意図している。従って、適用可能な法律が許すように、本発明は、添付される特許請求の範囲に記載された主旨の全ての修正及び均等物を含む。また、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、本発明は、上記要素を、全ての可能な変形の任意の組み合わせで包含する。
【0254】
本明細書に開示される特定の実施形態は、特許請求の範囲において、…から構成されるか、又は実質的に構成される言語を使用することによって更に限定することができる。特許請求の範囲で使用される場合、提出されたか補正によって追加されたかにかかわらず、「…で構成される」という移行用語は、特許請求の範囲で明示されていない任意の要素、ステップ又は成分を除外する。「実質的に…で構成される」という移行用語は、請求項の範囲を、特定の材料又はステップ、及び基本的および新規な特性(1つ又は複数)に実質的に影響を与えない材料又はステップに制限する。特許請求される本発明の実施形態は、本明細書に内在的又は明示的に記載され、実現される。
【0255】
なお、本明細書の全体を通して、多数の特許及び印刷された刊行物が参考文献として引用されている。上記の各参考文献及び印刷された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0256】
最後に、本明細書に開示された本発明の実施形態は、本発明の原理を例示するためにのみ使用されることを理解すべきである。採用できる他の修正も本発明の範囲内である。従って、本発明の代替的な構成は、限定ではなく例として、本明細書の教示に従って利用することができる。従って、本発明は、正確に示され、記載された内容に限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A-D】
図12E-G】
図13
図14
図15
【配列表】
2024519523000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物であって、
前記二重特異性抗体は、HER2のドメインIIを認識及び/又は結合することができる第1のパラトープと、HER2のドメインIVを認識及び/又は結合することができる第2のパラトープとを含み、前記二重特異性抗体は、Fab-Ig、Ig-Fab、又はヘテロ二量体Igの形態であり、好ましくは、前記二重特異性抗体は、ヘテロ二量体Igの形態であり、
前記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、そのうち、
(1)前記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
前記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
a)S56Y/T/Aのいずれか、
b)N30S/Aのいずれか、
c)T94W/F/Yのいずれか、
d)H91Y/F/Wのいずれか、
e)P96Y/F/Wのいずれか、又は
f)a)~e)の5つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、N30S、S56Y及びT94Wの3つの改変のいずれか1つ、2つ、又は3つの配列改変を含み、
前記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
(2)前記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
1)一方の重鎖可変ドメインは、配列番号3に示す配列を有する未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
前記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
i)T30A/S/N/Dのいずれか、
ii)G56A/S/Tのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T30A及び/又はG56Aを含み、
2)他方の重鎖可変ドメインは、配列番号7に示す配列を有する未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメイン又は改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインから選ばれ、
前記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、
i)N54T/S/Aのいずれか、
ii)D98S/W/T/Rのいずれか、又は
iii)i)及びii)の2つのタイプの改変方法の任意の組み合わせを含み、
好ましくは、前記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、N54T及び/又はD98Sを含み、
前記毒素は、メイタンシン類、ヘミアスタリン類、アマニチン類、アウリスタチン類、カリケアミシン類又はデュオカルマイシン類から選ばれ、
前記リンカーは、切断可能なリンカー及び非切断可能なリンカーから選ばれ、前記切断可能なリンカーは、化学的に切断可能なリンカー及び酵素的に切断可能なリンカーを含むが、これらに限定されず、前記酵素的に切断可能なリンカーは、ペプチド成分を含むリンカーを含み、
オプションとして、前記毒素及び/又はリンカーのうちの1つ又は複数の水素原子は、任意選択的に重水素化されることを特徴とする。
【請求項2】
前記二重特異性抗体は、1対の相同軽鎖と、2つの異なる重鎖可変ドメインを含む1対の異種重鎖とを含み、そのうち、
(1)前記1対の相同軽鎖は、改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインを含み、
前記改変されたトラスツズマブ軽鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、N30S及びS56Yを含み、前記未改変のトラスツズマブ軽鎖可変ドメインの配列は、配列番号5に示され、
(2)前記2つの異なる重鎖可変ドメインにおいて、
1)一方の重鎖可変ドメインは、改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインであり、前記改変されたペルツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のペルツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T30A、又はT30A/G56Aを含み、前記未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインの配列は、配列番号3に示され、
2)他方の重鎖可変ドメインは、改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインであり、前記改変されたトラスツズマブ重鎖可変ドメインは、未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、N54T及びD98Sを含み、前記未改変のトラスツズマブ重鎖可変ドメインの配列は、配列番号7に示される、
ことを特徴とする請求項1に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項3】
前記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、
好ましくは、前記二重特異性抗体の2つのFc領域は、M428Lからなる置換を含む改変されたFc領域であり、
好ましくは、前記二重特異性抗体のFcは、
(1)抗体依存性細胞傷害(ADCC)効果を増加させるFc、又は
(2)抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を増加させるFc、又は
(3)補体依存性細胞傷害(CDC)活性を増加させるFcを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項4】
前記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体であり、好ましくは、前記脱フコシル化抗体は、フコシル化欠損を有する宿主細胞から産生されることによって得られ、前記フコシル化欠陥は、Fut8遺伝子ノックアウトである、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項5】
前記二重特異性抗体は、2本の異種重鎖のFc領域がノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)によって連結されるヘテロ二量体Igの形態であり、
好ましくは、前記knob部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366Wの改変を含み、前記hole部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域であるか、又はT366S、L368A及びY407Vの改変の任意の組み合わせを含み、
最も好ましくは、前記knob部分のFc領域は、未改変のペルツズマブ重鎖Fcに基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T366W及びM428Lの改変を含み、前記hole部分のFc領域は、未改変のトラスツズマブ重鎖Fc領域に基づき、配列改変を含み、前記配列改変は、T366S、L368A及びY407Vの改変を含み、且つ、前記二重特異性抗体は、hole部分のFc領域においてM428Lの改変を更に含む、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項6】
前記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58から選ばれ、又は、
前記二重特異性抗体は、脱フコシル化T51(T51-AF)、脱フコシル化T52(T52-AF)、脱フコシル化T53(T53-AF)、脱フコシル化T54(T54-AF)、脱フコシル化T55(T55-AF)、脱フコシル化T56(T56-AF)、脱フコシル化T57(T57-AF)、及び脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項7】
前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、α-アマニチン、β-アマニチン、γ-アマニチン、ε-アマニチン、アマヌリン、アマニン、アマニンアミド、γ-アマニン、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、カリケアミシンγ、デュオカルマイシンA、adozelesin及びCC-1065、並びにそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びモノメチルアウリスタチンF、並びにそれらの重水素化物から選ばれ、
前記酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記酵素的に切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれる、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項8】
二重特異性抗体、毒素及びリンカーを含む二重特異性抗体薬物コンジュゲート(ADC)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物であって、
(1)前記二重特異性抗体は、T51、T52、T53、T54、T55、T56、T57及びT58から選ばれ、好ましくは、前記二重特異性抗体は、脱フコシル化抗体T51-AF、T52-AF、T53-AF、T54-AF、T55-AF、T56-AF、T57-AF、及びT58-AFであり、
(2)前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記毒素は、モノメチルアウリスタチンE及びモノメチルアウリスタチンF、及びそれらの重水素化物から選ばれ、
(3)前記リンカーは、バリン-シトルリン、又はフェニルアラニン-リシン、及びそれらの重水素化物から選ばれ、好ましくは、前記リンカーは、バリン-シトルリン及びその重水素化物から選ばれることを特徴とする。
【請求項9】
前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(I’)に示される通りである:
【化3】
そのうち、
(1)
【化2】
は、請求項に記載の二重特異性抗体を表し、
(2)中間部分は、リンカーとしてのバリン-シトルリン(Val-Cit、Vcと略称される)部分であり、リンカーは、6-マレイミドヘキサン酸を介して前記二重特異性抗体に連結され、p-アミノベンジルアルコールを介してDrug(毒素部分)に連結され、
前記毒素は、DM1、DM4、E7974、HTI-286、モノメチルアウリスタチンF、モノメチルアウリスタチンE、アウリスタチンEB、アウリスタチンEVB、アウリスタチンFフェニレンジアミン、又はそれらの重水素化物から選ばれ、
(3)nは、前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの平均薬物:抗体比(DAR)を表し、数値範囲は1~6である
ことを特徴とする請求項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項10】
前記二重特異性抗体薬物コンジュゲートの構造は、以下の式(II)に示される通りである:
【化4】
そのうち、
(1)
【化2】
は、請求項に記載の二重特異性抗体を表し、
(2)[ ]における構造は、リンカー毒素部分Vc-MMAEであり、Vcは、6-マレイミドヘキサン酸を介して前記二重特異性抗体に連結され、Vcは、p-アミノベンジルアルコールを介して毒素としてのモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に連結され、
(3)nはDAR値であり、数値範囲は1~6である、
ことを特徴とする請求項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物。
【請求項11】
前記二重特異性抗体は、T54、T58、脱フコシル化T54(T54-AF)又は脱フコシル化T58(T58-AF)から選ばれる、
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物又は重水素化物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はその重水素化物、及び薬学的に許容されるベクター又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
癌の予防及び/又は治療のための薬物の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項12に記載の医薬組成物の、応用。
【請求項14】
前記癌は、HER2を発現する癌であり、好ましくは、前記癌は、HER2が中レベルから低レベルまで発現される癌であり、好ましくは、前記癌は、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、胃癌、食道癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、胆管癌及び結腸直腸癌から選ばれる
ことを特徴とする請求項13に記載の応用。
【請求項15】
抗腫瘍併用製剤の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体薬物コンジュゲート、その薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくはその重水素化物、又は請求項12に記載の医薬組成物の応用であって、前記併用製剤において、
(1)HER2以外の他の標的を標的とする薬物、
(2)細胞治療薬、
(3)免疫療法薬という腫瘍を治療するための任意の活性成分も含まれる、応用。
【国際調査報告】