(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-15
(54)【発明の名称】骨髄異形成症候群を治療するための抗マラリア性エンドペルオキシド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/357 20060101AFI20240508BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/541 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/539 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/4525 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20240508BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K31/357
A61P7/00
A61P35/02
A61K31/506
A61K31/496
A61K31/5377
A61K31/541
A61K31/539
A61K31/4709
A61K31/4525
A61K31/4196
A61K31/4178
A61P7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572603
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 US2022072339
(87)【国際公開番号】W WO2022251788
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】クレマー,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,シダ
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ピーター・ジー
(72)【発明者】
【氏名】ボロング,マイケル・ジェイ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA14
4C086BC21
4C086BC28
4C086BC38
4C086BC50
4C086BC60
4C086BC73
4C086CA01
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZA55
(57)【要約】
本明細書では、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者を治療することにおいて、及び、該対象者におけるMDSが進行して急性骨髄性白血病(AML)の発症に至るのを遅らせるか又は予防することにおいて、アルテミシニンなどの抗マラリア性エンドペルオキシド化合物を使用する方法が開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄異形成症候群(MDS)に罹患している対象者における骨髄異形成症候群(MDS)を治療する方法であって、その対象者に治療有効量の抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
対象者における白血病の発症を遅らせる又は予防する方法であって、ここで、該方法は、その対象者に治療有効量の抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み、ここで、該対象者は、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者である、前記方法。
【請求項3】
前記白血病が急性骨髄性白血病(AML)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エンドペルオキシド化合物が、アルテミシニン及びその誘導体、1,2,4-トリオキサン環を含んでいる化合物、1,2,4-トリオキソラン環を含んでいる化合物、1,2,4,5-テトラオキサン環を含んでいる化合物及びそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記エンドペルオキシド化合物が、アルテミシニン及びその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルテミシニン及びその誘導体又はその薬学的に許容される塩が、以下の表:
【表1】
から選択されるものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エンドペルオキシドが、1,2,4-トリオキサン環を含んでいる化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1,2,4-トリオキサン環を含んでいる前記化合物又はその薬学的に許容される塩が、以下の表:
【表2】
から選択されるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エンドペルオキシドが、1,2,4-トリオキソラン環を含んでいる化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
1,2,4-トリオキソラン環を含んでいる前記化合物又はその薬学的に許容される塩が、以下の表:
【表3】
から選択されるものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エンドペルオキシドが、1,2,4,5-テトラオキサン環を含んでいる化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
1,2,4,5-テトラオキサン環を含んでいる前記化合物又はその薬学的に許容される塩が、以下の表:
【表4】
から選択されるものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記MDSが原発性MDSである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記MDSが続発性MDSである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記MDSが、不応性貧血(RA)、環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)、多血球系異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD)、多血球系異形成と環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症(RCMD-RS)、過剰芽球を伴う不応性貧血(RAEB)、未分類の骨髄異形成症候群(MDS-U)、及び、孤立したdel(5q)に関連するMDSから選択される1以上のサブタイプである、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年5月24日に出願された米国仮特許出願第63/202,036号に対する優先権の利益を主張し、ここで、この出願は、あたかも本明細書中において完全に記載されているかのように、その全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
骨髄異形成症候群(MDS)は、血球減少及び芽細胞数の増加を引き起こす無効な造血を特徴とする、クローン性幹細胞障害である。MDS患者の約3分の1は、その後、急性骨髄性白血病(AML)に進行する。過去数十年にわたる進歩により、MDSの遺伝的原因が明らかになった: 現在は、造血前駆細胞(HPC)における体細胞変異(例えば、TET2、RUNX1、DNMT3A)が造血の異常な制御をもたらすということが理解されている。現在まで、MDSの治療に関してFDAが承認した唯一の医薬品は、アザシチジン及びデシタビンなどの、細胞毒性をもたらす細胞のエピジェネティックな変化を促進する、再利用されたAML薬だけである。
【0003】
貧血は大多数のMDS患者に影響を及ぼし、疲労、生活の質の低下及び基礎となる心血管疾患の不安定化を引き起こす。その結果、典型的には、MDS患者は長期にわたる輸血が必要である。しかしながら、輸血依存に起因する鉄過剰は、生存率の低下及び急性骨髄性白血病への進行の増大にも関連している。
【0004】
MDSに対する薬剤の米国FDAによる最後の承認は、2006年に行われ、5q欠失を有する低リスク又は中リスクのMDSに対するレナリドミドの承認であった。それ以前には、アザシチジン及びデシタビンが、それぞれ、2004年と2005年に承認された。これらの薬剤は、ブレイクスルーであり、そして、MDS患者集団の寿命を延ばすのに役立っているが、病気の再発がほぼ確実である殆どの患者にとっては、治療的ではない。MDSに対する唯一の既知治療法は同種造血幹細胞移植であるが、典型的なMDS患者は高齢であること及び併存疾患を付随していることにより、その使用は限られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一実施形態において、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者における骨髄異形成症候群(MDS)を治療する方法を提供することにより、MDS治療のこれらの欠点を克服する。この方法は、当該対象者に治療有効量の抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含んでいる。
【0006】
別の実施形態では、本開示は、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者における白血病の発症を遅らせるか又は予防するための方法を提供する。この方法は、当該対象者に治療有効量の抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含んでいる。
【0007】
本開示は、さらなる実施形態において、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者における骨髄異形成症候群(MDS)を治療するための抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩も提供する。
【0008】
さらに別の実施形態では、本開示は、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者における白血病の発症を遅らせるか又は予防するための抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】骨髄異形成症候群において観察される分化の障害及びそれに対するエンドペルオキシド化合物の効果を示す概略図。
【
図2】MDS-L細胞を使用してMDS分化の阻害剤を確認するための高スループットマルチパラメトリックフローサイトメトリーに基づくアッセイ。
【
図3】代表的な抗マラリア性エンドペルオキシド化合物は、MDS-L細胞における有効な分化誘導剤である。
【
図4】
図4A~
図4C: ヘムの枯渇は、MDS-L細胞の最終分化を誘導する。A:示されている濃度のNMPPによる96時間の処理に応答したGlyA陽性MDS-L細胞の相対的誘導。B:示されている化合物で処理されたMDS-L細胞のヘムレベル。C:アルテミゾン及びヘミンによる96時間の処理の後のGlyA陽性細胞の相対的誘導。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、部分的には、MDS疾患において観察される分化の障害を修正し、それによって、下流の血液系統の適切な補充(これは、標準的な化学療法薬では達成できない効果である)を可能にする再利用される薬剤に関する。より特定的には、本開示は、MDS芽球様細胞における分化の有効な誘導剤としての、既知の抗マラリア薬の治療的使用に関する。本開示はいかなる特定の理論にも拘束されないが、誘導はヘム枯渇を伴う機構を介して起こると考えられている。
【0011】
MDS患者における無効な赤血球生成は、主に、最終赤血球の分化及び成熟の異常な調節に起因する。HPCにおけるMDS関連変異の特徴的なレパートリーは、階層的分化樹の後の段階で「分化の障害」を引き起こす。赤血球前駆細胞における赤血球生成誘導刺激(例えば、エリスロポエチン(EPO))に応答した最終赤血球の分化と成熟の再刺激が、MDSに関する機能的治癒の基礎にある。この目的のために、本開示は、MDSを患っている患者における赤血球生成を機能的に救済するための高スループット表現型スクリーニングから再利用薬物を確認する(
図1)。
【0012】
定義
本明細書中で使用されている場合、文脈から異なっていることが明らかでない限り、又は、別途指定されていない限り、用語「化合物」は、化合物又はその薬学的に許容される塩を包含するという点において、包括的である。
【0013】
本開示において、「薬学的に許容される塩」は、本明細書中に記載されている化合物の薬学的に許容される有機又は無機の酸塩又は塩基塩である。代表的な薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類塩、アンモニウム塩、水溶性塩及び水不溶性塩、例えば、酢酸塩、アムソン酸塩(4,4-ジアミノスチルベン-2,2-ジスルホネート)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物塩、酪酸塩、カルシウム塩、エデト酸カルシウム塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、クラブラン酸塩(clavulariate)、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート塩、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル塩、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1-メテン-ビス-2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸塩、アインボネート)、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩(sulfosaliculate)、スラメート塩(suramate)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド塩及び吉草酸塩などを挙げることができる。薬学的に許容される塩は、その構造内に2個以上の荷電原子を有することができる。この場合、薬学的に許容される塩は、複数の対イオンを有することができる。従って、薬学的に許容される塩は、1個以上の荷電原子及び/又は1以上の対イオンを有することができる。
【0014】
用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」及び「治療(treatment)」は、疾患又は疾患に関連する症状の改善又は根絶を示している。様々な実施形態において、この用語は、本明細書中に記載されている1以上の予防用化合物又は治療用化合物をそのような疾患を患っている患者に投与することに起因する、疾患の広がり又は悪化を最小限に抑えることを示している。
【0015】
用語「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」及び「予防(prevention)」は、本明細書中に記載されている化合物を投与することに起因する、患者における疾患の発症、再発又は広がりの予防を示している
用語「有効量」は、疾患の治療若しくは予防において治療的利益若しくは予防的利益を提供するのに充分な、又は、疾患に関連する症状を遅延させるのに若しくは最小限に抑えるのに充分な、本明細書中に記載されている化合物又は他の活性成分の量を示している。さらに、本明細書中に記載されている化合物に関連する治療有効量は、疾患の治療又は予防において治療上の利益をもたらす、単独の治療薬又は他の治療法と組み合わせた治療薬の量を意味する。本明細書中に記載されている化合物と関連して使用される場合、この用語は、全体的な治療を改善する量、疾患の症状若しくは原因を軽減若しくは回避する量、又は、別の治療薬の治療効果を増強する若しくは別の治療薬と相乗作用する量、を包含し得る。
【0016】
「患者」又は「対象者」は、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、子羊、ブタ、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ又はモルモットなどの動物を包含する。いくつかの実施形態によれば、該動物は、非霊長類及び霊長類(例えば、サル及びヒト)などの哺乳動物である。一実施形態では、患者は、ヒトの乳児、小児、青年又は成人などのヒトである。本開示において、用語「患者」及び「対象者」は、交換可能に使用される。
【0017】
使用方法
いくつかの実施形態では、本開示は、骨髄異形成症候群(MDS)を患っている対象者における骨髄異形成症候群(MDS)を治療する方法を提供する。この方法は、その対象者に治療有効量の抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含んでいる。
【0018】
添付の実施例によって例証されているように、スクリーニングヒットにより、MDSの状況において何らかの治療活性を有することがこれまで知られていなかったが、治療的ではあるが病理学的に無関係な抗マラリア用途が実証されたエンドペルオキシド化合物が確認された。従って、いくつかの実施形態によれば、該エンドペルオキシド化合物は、植物クソニンジン(Artemisia annua)由来の天然アルテミシニンであるか、又は、半合成誘導体を包含する任意の既知のアルテミシニン誘導体である。様々な実施形態ごとに、これらの化合物の非限定的な例が表1に示されている。
【表1】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
別の実施形態では、該抗マラリア性エンドペルオキシド化合物は、1,2,4-トリオキサン環を含んでいる化合物である。様々な実施形態によれば、この構造的特徴を有するそのような化合物の例は、当技術分野で知られており、そして、表2に示されている。
【表2】
【0023】
本開示の方法において有用な抗マラリア性エンドペルオキシド化合物の別のサブクラスは、1,2,4-トリオキソラン環を含んでいる化合物である。様々な実施形態において、例示的な化合物には、表3に示されている化合物が包含される。
【表3】
【0024】
【0025】
【0026】
さらに追加の実施形態では、該抗マラリア性エンドペルオキシド化合物は、1,2,4,5-テトラオキサン環を含んでいる化合物である。様々な実施形態によれば、そのような化合物の非限定的な例が、表4に示されている。
【表4】
【0027】
【0028】
投与される化合物、その用量、投与形態及び全体的な治療計画は、患者におけるMDSの診断に部分的に基づいて、治療する臨床医によって選択される。これに関して、MDSは、その分類及びサブタイプを参照して記述され得る。従って、いくつかの実施形態によれば、MDSの1つの分類は、原発性MDSであり、これは、患者に明らかな危険因子が存在しないことを特徴とする。危険因子の例としては、以下のものなどを挙げることができる: 患者の高齢(MDSは、50歳未満の患者ではまれであり、MDSの殆どは、少なくとも70歳又は80歳の患者で発症する); 患者の性別(MDSは、男性で、より一般的である); 以前の癌治療、例えば、化学療法、放射線療法、又は、その両方; 遺伝性症候群(例えば、ファンコニ貧血、シュワッハマン・ダイアモンド症候群、ダイアモンド・ブラックファン貧血、骨髄性悪性腫瘍の傾向を伴う家族性血小板障害、重度の先天性好中球減少症、及び、先天性角化異常症)の存在; 家族性MDS; 喫煙;及び、環境曝露、例えば、原子炉事故又は原子爆弾の爆発による放射線;及び、化学産業又は石油産業におけるベンゼン又は他の既知発癌性物質への長期にわたる職場曝露。
【0029】
MDSの別の分類は、続発性MDSであり、これは、多くの場合、別の病状の治療のために患者に以前に施された化学療法及び/又は放射線療法による患者のDNAへの損傷によって引き起こされる。続発性MDSは、そのような治療の2~10年後に発症する可能性があり、多くの場合、より複雑な染色体異常を伴う。
【0030】
いくつかの実施形態では、MDSは、そのサブタイプを参照することによって特徴付けることも可能である。MDSサブタイプとしては、以下のものなどがある:不応性貧血(RA)、環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)、多血球系異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD)、多血球系異形成と環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症(RCMD-RS)、過剰芽球を伴う不応性貧血(RAEB)、未分類の骨髄異形成症候群(MDS-U)、及び、孤立したdel(5q)に関連するMDS。
【0031】
MDSに罹患している対象者は、さらに、急性骨髄性白血病(AML)への疾患進行のリスクも有する。例えば、そのリスクは、RAEBと診断された対象者では特に高い。従って、一実施形態では、本開示は、MDSに罹患している対象者における白血病(例えば、AML)の発症を遅らせるか又は予防するための方法も提供し、ここで、該方法は、その対象者に、本明細書中に記載されている抗マラリア性エンドペルオキシド化合物又はその薬学的に許容される塩を投与することを含んでいる。臨床医は、対象者のMDSを診断し、そして、受け入れられている基準に従って、対象者がAMLを発症するリスクを予測する。例えば、臨床医は、国際予後スコアリングシステム(IPSS-R)を利用してリスク因子を評価することが可能である: そのようなリスク因子としては、対象者の骨髄内で見いだされる芽球の割合、染色体変化の種類と範囲、並びに、赤血球中で見られるヘモグロビンのレベル、血小板のレベル及び好中球のレベルなどがある。より低いIPSS-Rスコアは、MDSを患っている対象者のAML発症のリスクがより低く、全体的な生存予後がより高いことと相関しており、その場合、積極的な治療はそれほど必要ではない。対照的に、より高いIPSS-Rスコア(例えば、高リスクMDSの対象者における高いIPSS-Rスコア)は、より積極的な治療が必要であることを示している可能性がある。
【0032】
医薬組成物
本開示は、さらに、場合により本明細書中に記載されている方法と組み合わせて使用するための、治療有効量の本明細書中に記載されている1以上の化合物又は薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体と混合して含んでいる、医薬組成物も提供する。いくつかの実施形態では、該組成物は、薬学的配合の許容される慣行に従って、1以上の付加的なの治療薬、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、アジュバント、安定剤、乳化剤、保存剤、着色剤、緩衝剤、風味付与剤をさらに含んでいる。
【0033】
一実施形態では、該医薬組成物は、表1~表4において例示されているものから選択される化合物又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含んでいる。
【0034】
本開示の医薬組成物は、適正な医療行為と調和する方法で製剤され、投薬され、投与される。これに関連して考慮すべき要素としては、治療される特定の障害、治療される特定の対象者、該対象者の臨床状態、該障害の原因、該薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール及び医師に知られている他の要因などがある。
【0035】
投与される化合物又はその薬学的に許容される塩の「治療有効量」は、そのような考慮事項によって決定され、そして、MDSを患っている患者において正常な赤血球生成を回復させるのに必要な最少量、MDS-L細胞の分化を誘導するのに必要な最少量、ヘム生合成を阻害するのに必要な最少量、又は、それらの任意の組み合わせに必要な最少量である。そのような量は、正常細胞又は全体としての対象者に対して毒性である量を下回り得る。一般に、投与される本開示の化合物の初期治療有効量は、1日当たり患者の体重1kg当たり約0.01~約200mg又は約0.1~約20mgの範囲内であり、典型的な初期範囲は約0.3~約15mg/kg/日である。錠剤及びカプセル剤などの経口単位投与形態は、約0.1mg~約1000mgの本開示の化合物を含有し得る。別の実施形態では、そのような投与形態は、約50mg~約500mgの本開示の化合物を含有する。さらに別の実施形態では、そのような投与形態は、約25mg~約200mgの本開示の化合物を含有する。さらに別の実施形態では、そのような投与形態は、約10mg~約100mgの本開示の化合物を含有する。さらなる実施形態では、そのような投与形態は、約5mg~約50mgの本開示の化合物を含有する。前述の実施形態のいずれにおいても、該投与形態は、1日1回又は1日2回投与することができる。
【0036】
本開示の組成物は、投与単位製剤で、経口的に、局所的に、非経口的に、吸入若しくはスプレーにより、又は、直腸的に投与することができる。本明細書中で使用されている用語「非経口的」には、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内への注射技術又は注入技術が包含される。
【0037】
本明細書中に記載されている適切な経口組成物としては、限定するものではないが、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性若しくは油性の懸濁液剤、分散性の粉末剤若しくは顆粒剤、エマルション剤、硬カプセル剤若しくは軟カプセル剤、シロップ剤又はエリキシル剤などがある。
【0038】
一実施形態では、本開示の化合物又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含んでいる単回単位投与量に適した医薬組成物も包含される。
【0039】
経口使用に適した本開示の組成物は、医薬組成物の製造に関して当技術分野で知られている任意の方法に従って調製することができる。例えば、本開示の化合物の液体製剤は、本開示の化合物の薬学的に風味がよい製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤及び保存剤からなる群から選択される1以上の作用物質を含んでいる。
【0040】
錠剤組成物の場合、本開示の化合物は、錠剤を製造するために、非毒性の薬学的に許容される賦形剤と混合して使用される。そのような賦形剤の例としては、限定するものではないが、以下のものなどがある: 不活性希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、又は、リン酸ナトリウム; 造粒剤及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ、又は、アルギン酸; 結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン、又は、アカシア;及び、潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又は、タルク。該錠剤は、コーティングされていなくてもよいし、又は、胃腸管内での崩壊及び吸収を遅らせ、それによって所望の期間にわたって持続的な治療作用を提供するために、既知コーティング技術によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を使用することができる。
【0041】
経口使用のための製剤は、さらに、当該活性成分が不活性固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリン)と混合される硬ゼラチンカプセル剤としても、又は、当該活性成分が水又は油性媒体(例えば、落花生油、流動パラフィン又はオリーブ油)と混合される軟ゼラチンカプセル剤としても、提供することができる。
【0042】
水性懸濁液剤の場合、本開示の化合物は、安定な懸濁液を維持するのに適した賦形剤と混合させる。そのような賦形剤の例としては、限定するものではないが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム及びアカシアゴムなどを挙げることができる。
【0043】
経口懸濁液剤は、さらに、分散剤又は湿潤剤、例えば、天然に存在するリン脂質(例えば、レシチン)又はアルキレンオキシドと脂肪酸の縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)又はエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)又はエチレンオキシドと脂肪酸及びヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエート)も含有することができる。該水性懸濁液剤は、さらに、1以上の保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル)、1以上の着色剤、1以上の香味剤及び1以上の甘味剤(例えば、スクロース又はサッカリン)も含有することができる。
【0044】
油性懸濁液剤は、本開示の化合物を植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油又はココナッツ油)又は鉱物油(例えば、流動パラフィン)に懸濁させることによって製剤することができる。該油性懸濁液剤は、増粘剤、例えば、蜜蝋、硬質パラフィン又はセチルアルコールを含むことができる。
【0045】
風味のよい経口調製物を提供するために、甘味剤(例えば、上記で記載したもの)及び香味剤を添加することができる。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加することによって保存することができる。
【0046】
水を添加することによって水性懸濁液を調製するのに適した分散性粉末剤及び顆粒剤は、分散剤又は湿潤剤、懸濁化剤及び1以上の保存剤と混合した本開示の化合物を提供する。適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤は、既に上記で述べたものによって例示される。付加的な賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤及び着色剤なども存在させることができる。
【0047】
本開示の医薬組成物は、さらに、水中油型エマルション剤の形態にあることもできる。その油相は、植物油(例えば、オリーブ油又は落花生油)又は鉱油(例えば、流動パラフィン)又はこれらの混合物であることができる。適切な乳化剤は、天然に存在するゴム(例えば、アカシアゴム又はトラガカントゴム)、天然に存在するリン脂質(例えば、ダイズ、レシチン)及び脂肪酸とヘキシトール、無水物から誘導されるエステル又は部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)及び前記部分エステルとエチレンオキシドの縮合反応生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)であることができる。該エマルション剤は、さらに、甘味剤及び香味剤も含むことができる。
【0048】
シロップ剤及びエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はスクロースを用いて製剤することができる。そのような製剤は、さらに、粘滑剤、保存剤、香味剤及び着色剤も含有することができる。
【0049】
該医薬組成物は、無菌注射剤、水性懸濁液剤又は油性懸濁液剤の形態にあることができる。この懸濁液剤は、上記で記載した適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、既知技術に従って製剤することができる。該無菌注射用調製物は、さらに、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒の中の無菌注射用溶液又は懸濁液(例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液)であることもできる。使用することが可能な許容されるビヒクル及び溶媒は、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液などである。さらに、無菌の固定油は、溶媒又は懸濁媒体として慣習的に使用される。この目的のために、合成モノグリセリド又は合成ジグリセリドを包含する、任意の刺激の少ない固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も、注射剤の調製に使用される。
【0050】
本明細書中に記載されている化合物は、薬物の直腸投与用の坐剤の形態で投与することもできる。これらの組成物は、該薬物を、常温では固体であるが直腸温度では液体であり、従って直腸内で溶けて該薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と混合させることによって調製することができる。そのような材料は、カカオバター及びポリエチレングリコールである。
【0051】
非経口投与用の組成物は、無菌媒体中で投与される。使用されるビヒクル及び製剤中の薬物の濃度に応じて、その非経口製剤は、懸濁液剤であり得るか、又は、溶解した薬物を含んでいる溶液剤であり得る。局所麻酔薬、防腐剤及び緩衝剤などのアジュバントも、非経口組成物に添加することができる。
【実施例】
【0052】
実施例
以下の非限定的な実施例は、本開示をさらに説明する追加の実施形態である。
【0053】
本開示に記載されている全てのエンドペルオキシド化合物は、商業的供給源から入手されるか、又は、公開された手順に従って合成される。例えば、「M. Rudrapal et al. Drug Design, Development and Therapy 10 (2016) 3575-3590」、「D. M. Opsenica et al. J. Serb. Chem. Soc. 74(11) (2009) 1155-1193」及びそれらの中で引用されている参考文献を参照されたい。
【0054】
MDS-L分化アッセイ
患者サンプルの数が限られており、各生検からの収量が低いことを考慮すると、初代細胞を使用して高スループットのスクリーニングを実施することは扱いにくい。従って、本発明者らは、CD34+MDS HPCから単離されたMDS-Lと称される細胞系統を取得した。これは、適切なサイトカインを補充すると分化能を有すことが以前に実証されている(J. Fang et al., Nat. Med. 22(7) (2016) 727-734; K. Tohyama et al., Br. J. Haematol. 91(4) (1995) 795-799)。
【0055】
スクリーニングアッセイを確立するために、本発明者らは、レチノイン酸(ATRA)、ブレキナール及びホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)を含む、急性骨髄性白血病細胞の既知分化誘導剤を選択した。本発明者らは、全ての薬剤がより末端の血液系統への分化を誘導するのに有効であることを見いだした。この測定は、384ウェルFACSベースのアッセイにおいて抗GlyA指向性抗体に対する細胞免疫陽性によって評価された。これらの中で、本発明者らは、ATRAが、生死細胞ゲーティングによる読み出しとして最小限の細胞毒性を示しながら、分化誘導に非常に有効であることを見いだした(
図2)。これらの理由により、ATRAは、スクリーニング作業に適した陽性対照として機能した。この確立された小型アッセイを用いて、本発明者らは、細胞毒性が最小限でありながらMDS-L細胞の分化を誘導するこれまで注釈のなかった薬剤に対して、包括的な薬物再利用ライブラリReFRAMEについてスクリーニングを実施した。このスクリーニングで実証された上位のヒットの中には、MDS細胞における細胞周期停止を誘導することに関する既知機序を代表する分子(これは、とりわけ、トポイソメラーゼ阻害剤、チューブリン標的化剤、DNA損傷化学療法剤及び多くの受容体チロシンキナーゼ阻害剤を包含する)が含まれていた。
【0056】
驚くべきことに、MDS生物学においてこれまで報告されていない活性を有するスクリーニングヒットは、アルテミシニン(これは、確立された抗マラリア薬である天然に存在するエンドペルオキシドである)の2つの半合成誘導体であった。従って、本発明者らは、ジヒドロアルテミシニン、アルテエーテル(arteether)、アルテミゾン(artemisone)、アルテスネート(artesunate)及び合成トリオキソランアルテフェノメル(trioxolane artefenomel)などを包含する代表的なエンドペルオキシドについて評価した。MDS-Lは、フェノールレッドを含まず、2mMグルタミン及び10%FBSを補足したRPMI(17-105-CV、Corning)の中で培養した。細胞を、最初に、IL-3中で70%コンフルエントになるまで増殖させ、その後、IL-3(200-03、PeproTech)、GCSF(300-23、PeproTech)及びEPO(287-TC、R&D Systems)を用いて14日間プレコンディショニングして、赤血球と骨髄の分化を促進した。表現型アッセイでは、ウェルあたり10,000個の細胞密度を使用した。MDSL細胞を遠心し、処理培地をAPC Anti-CD235a(GlyA)(551336、BD Biosciences)(50μLテストあたり1.25μL)を含んでいる培地で置き換え、4℃で1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、次いで、100μLあたり1μMのSYTOX-Greenで対比染色し、その後、フローサイトメトリー分析に付した。用量反応及び薬理学的アッセイは、Everestソフトウェアを備えたZE5 Cell Analyzer(BioRad)を使用して分析した。FlowJov10.7.2ソフトウェアを使用して、単一の生きた細胞をGlyA発現について分析した。結果は、表5に示されている。試験した全ての化合物は、MDS-L細胞におけるGlyA陽性誘導を誘導するのに有効であった; これらの薬剤の最大半減効力は、2桁以上変動した(
図3)。
【表5】
【0057】
【0058】
同様に、本発明者らは、例示的なアルテミシニン化合物であるアルテミゾン(aretmisone)及びアルテエーテルが、CFUアッセイにおいてBFU-E型コロニー、CFU-GM型コロニー及びCFU-GEMM型コロニーの数を減少させながら、MDS-L細胞のCFU-Esへの最終的な分化を効果的に誘導することを実証した。さらに、アルテミゾン及びアルテエーテルは、CD71の喪失を効果的に促進し、そして、20μM未満ではアポトーシスの有意な誘導を示さなかった。総合して、これらの結果は、MDS芽球細胞における多系統分化に対する機能的且つ非毒性の影響を示している。対照的に、ペルオキシドを含まない分子2-デオキシ-アルテミシニンは、分化アッセイにおいて不活性であった。
【0059】
ヘム枯渇は、MDS-L細胞の最終的な分化を誘導する。この実施例の目的は、MDSにおいて治療活性が知られていないエンドペルオキシドが、驚くべきことに、MDS芽細胞の分化を誘導するのにどのようにして効果があるのかについて、薬理学的理解を確立することである。2-デオキシ-アルテミシニンはこの目的に対しては不活性であるので、当該スクリーニングで確認された活性分子のエンドペルオキシドコアがその活性に対応し、アルテミシニンがマラリア原虫の損傷(compromise)を誘導する仕組みと同様の機序を示していると、本発明者らは推論した。この治療上異なる状況において、アルテミシニンは、ヘム鉄によって活性化され(これは、エンドペルオキシドの切断を触媒する触媒イベントである)、フリーラジカルを生成し、寄生虫の生存に必要な必須タンパク質を不活化することが可能な反応種を形成することが知られている。
【0060】
この機序のさらなる結果は、アルテミシニンのヘムへのアルキル化であり、その機能的不活化をもたらす。当該スクリーニングでは、活性ヒットとして、他の反応性酸素種(ROS)誘導物質やアルキル化剤が見いだされなかったので、ヘム枯渇がアルテミシニンがこの細胞集団の分化を促進する方法であると推論した。さらに説明すると、フェロケラターゼ阻害薬NMPP(N-メチルプロトポルフィリン)による処理によりMDS-L細胞内のGlyA陽性率が増加することが判明したので、本発明者らは、ヘム生合成の阻害がMDS分化を効果的に誘導することを見いだした(
図4A)。同様に、本発明者らは、NMPP及び代表的なアルテミシニン誘導体アルテミゾンによる処理によって、MDS-L細胞内の不安定ヘムのレベルが関連する期間にわたって効率的に低下することを見いだした(
図4B)。さらに、本発明者らは、ヘミンの形態にある外因性ヘムを添加することで、MDS-L細胞の分化を誘導するアルテミゾンの能力が抑制されることを見いだした(
図4C)。これらの結果は、例えば直接結合による又はその生合成を阻害することによる、薬理学的なヘムの枯渇を、MDS関連細胞型の分化を誘導する手段及びMDSに対する分化誘導療法の手段として位置付ける。
【国際調査報告】