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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-20
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240513BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568242
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022062299
(87)【国際公開番号】W WO2022234094
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】21172625.2
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フォン フィーアント, リーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブール, キャタリン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K030
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF22
3C046FF25
4K030AA04
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA02
4K030BA18
4K030BA20
4K030BA22
4K030BA35
4K030BA38
4K030BA41
4K030BA43
4K030BA49
4K030BB01
4K030BB12
4K030CA03
4K030DA03
4K030FA10
4K030JA01
4K030LA22
(57)【要約】
本発明は、1~25μmのコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた基材を備える切削工具に関し、前記基材は超硬合金またはサーメットであり、前記コーティングは1つまたは複数の層を備え、少なくとも1つの層はW(C1-x層であり、式中、0.6≦x≦0.8かつ1.1≦y≦1.8であり、層厚は1~20μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~25μmのコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた基材を備える切削工具であって、前記基材は超硬合金またはサーメットであり、前記コーティングは1つまたは複数の層を備え、少なくとも1つの層はW(C1-x層であり、式中、0.6≦x≦0.8かつ1.1≦y≦1.8、好ましくは0.67≦x≦0.72かつ1.17≦y≦1.76であり、厚さは1~20μmである、切削工具。
【請求項2】
W(C1-x層が、六方晶相である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
W(C1-x層が、柱状である、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記W(C1-x層が、Cu Kα照射およびθ-2θ走査を使用したX線回折により測定される、Harrisの式、
[式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)である]に従って定義される組織係数TC(hkl)を示し、I(hkl)は、Z.Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づいて計算された標準強度であり、nは、計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は、(0 0 1)、(1 0 0)、(1 0 1)、(1 1 0)、(1 1 1)、(1 0 2)、(2 0 1)、(1 1 2)、(2 1 0)、(2 1 1)および(1 0 3)であり、TC(100)≧2.5、TC(110)≧2.5かつTC(210)≧2.5である、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削。
【請求項5】
TC(100)≧3、TC(110)≧3かつTC(210)≧3である、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記W(C1-x層が、Cu Kα照射およびθ-2θ走査を使用したX線回折により測定される、Harrisの式、
[式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)である]に従って定義される組織係数TC(hkl)を示し、I(hkl)は、Z.Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づいて計算された標準強度であり、nは、計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は、(0 0 1)、(1 0 0)、(1 0 1)、(1 1 0)、(1 1 1)、(1 0 2)、(2 0 1)、(1 1 2)、(2 1 0)、(2 1 1)および(1 0 3)であり、TC(100)≧6、好ましくは≧7である、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
W(C1-x層が、基材に隣接している、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
W(C1-x層が、コーティングの最外層である、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
基材が、超硬合金であり、超硬合金中の金属結合剤含有量が、3~20重量%、好ましくは5~15重量%、最も好ましくは5~10重量%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項10】
コーティングが、TiN、TiCN、TiCNO、TiCO、AlTiN、ZrCN、TiB、α-Al、κ-Al、ならびに任意の組合せのα-Alおよび/またはκ-Alを含む複層から選択される1つまたは複数の層をさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項11】
Alの層が、切削工具の最外表面と前記W(C1-x層との間に位置する、請求項1から10のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項12】
Al層が、α-Al層である、請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
コーティングが、基材からW(C1-x、TiN、TiCN、TiCNO、α-Alの層を順番に備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項14】
W(C1-x層が、CVD層である、請求項1から13のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされた切削工具に関する。切削工具はCVDコーティングされ、基材は超硬合金またはサーメットであり、CVDコーティングはW(C1-xの層を備える。
【背景技術】
【0002】
金属機械加工用の切削工具の技術分野において、CVDコーティングの使用は、工具の耐摩耗性を向上させるための周知の方法である。一般的に使用されるCVDコーティングは、TiN、TiC、TiCNおよびAl等のコーティングである。
【0003】
本発明の目的は、金属切削における寿命が増加した切削工具を提供することである。また、本発明の目的は、鋼の金属切削中の逃げ面摩耗およびチッピングに対する高い抵抗性を有する切削工具を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
上述の目的の少なくとも1つは、請求項1に記載の切削工具により達成される。好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0005】
本発明は、1~25μmのコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた基材を備える切削工具に関し、前記基材は超硬合金またはサーメットであり、前記コーティングは1つまたは複数の層を備え、少なくとも1つの層はW(C1-x層であり、式中、0.6≦x≦0.8かつ1.1≦y≦1.8、好ましくは0.67≦x≦0.72かつ1.17≦y≦1.76であり、厚さは1~20μmである。
【0006】
超硬合金材料は、高い靭性と組み合わされたその高い硬度および高い耐摩耗性に起因して、極めて要求の厳しい用途に有用である。超硬合金は、粉末冶金法により製造され、出発粉末は、混合され、ミリングされ、素地に成形され、予備焼結され、焼結される。
【0007】
超硬合金材料は、一般に、例えばCoまたはNiおよびFeと組み合わされたCoの金属結合剤中のWCの硬質構成物質、ならびに任意選択の炭化物および/または窒化物、例えばTiC、NbC、TiNからなる。超硬合金組成、および特に金属結合剤組成は、化学分析により分析され得る。
【0008】
驚くべきことに、0.6≦x≦0.8かつ1.1≦y≦1.8であるW(C1-x層は、金属切削用の切削工具上の摩耗層として高い性能を示すことが判明した。本発明のW(C1-x層中の多量のCおよびNは、通常高圧および高温が示唆される金属切削用途にコーティングが曝露された場合でも、安定な耐摩耗層に寄与すると考えられる。
【0009】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、六方晶相である。六方晶W(C,N)の熱膨張係数はWCの熱膨張係数に類似しているため、これは有利である。これは、コーティングされた切削工具の製造における熱亀裂の形成を防止し得、また、切削工具は通常、断続切削等の切削における使用中に熱サイクルに曝露されるため、工具の寿命に対する影響を有し得る。六方晶相とは、本明細書において、δ-WC六方晶相を意味する。
【0010】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、柱状である。それにより、コーティングは、柱状粒を含む。好ましくは、コーティングは、柱状粒からなる。柱状とは、本明細書において、粒幅に対する粒長のアスペクト比が1超であることを意味する。粒長は、層において層の成長方向に延在し(すなわち基材の表面法線に平行)、一方粒幅は、層の成長方向に垂直な方向に沿っている。
【0011】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、Cu Kα照射およびθ-2θ走査を使用したX線回折により測定される、Harrisの式に従って定義される組織係数TC(hkl)を示し、
式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)は、Z.Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づいて計算された標準強度であり、nは、計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は、(0 0 1)、(1 0 0)、(1 0 1)、(1 1 0)、(1 1 1)、(1 0 2)、(2 0 1)、(1 1 2)、(2 1 0)、(2 1 1)および(1 0 3)であり、TC(100)≧2.5、TC(110)≧2.5かつTC(210)≧2.5である。
【0012】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、TC(100)≧3、TC(110)≧3かつTC(210)≧3の組織係数を示す。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記W(C1-x層は、Cu Kα照射およびθ-2θ走査を使用したX線回折により測定される、Harrisの式に従って定義される組織係数TC(hkl)を示し、
式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)は、Z.Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づいて計算された標準強度であり、nは、計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は、(0 0 1)、(1 0 0)、(1 0 1)、(1 1 0)、(1 1 1)、(1 0 2)、(2 0 1)、(1 1 2)、(2 1 0)、(2 1 1)および(1 0 3)であり、TC(100)≧6、好ましくは≧7である。
【0014】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、基材に隣接している。
【0015】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、コーティングの最外層である。
【0016】
本発明の一実施形態において、超硬合金中の金属結合剤含有量は、3~20重量%、好ましくは5~15重量%、最も好ましくは5~10重量%である。
【0017】
本発明の一実施形態において、コーティングは、TiN、TiCN、TiCNO、TiCO、AlTiN、ZrCN、TiB、α-Al、κ-Al、ならびに任意の組合せのα-Alおよび/またはκ-Alを含む複層から選択される1つまたは複数の層をさらに備える。
【0018】
本発明の一実施形態において、Alの層は、切削工具の最外表面と前記W(C1-x層との間に位置する。一実施形態において、前記Al層は、α-Al層である。
【0019】
本発明の一実施形態において、コーティングは、基材からW(C1-x、TiN、TiCN、TiCNO、α-Alの層を順番に備える。
【0020】
本発明の一実施形態において、W(C1-x層は、CVD層である。
【0021】
本発明のさらに他の目的および特徴は、添付の図面と併せて考慮される以下の定義および例から明らかとなる。
【0022】
方法
W(C1-x層の組成
表面法線に対して67.5°の入射角度、および45°の反跳粒子検出角度で36MeVの1278+ビームを利用して、ToF-ERDA(飛行時間型弾性反跳粒子検出分析)によりW(C1-x層の元素組成を分析した。ガスイオン化チャンバ検出器は、散乱1278+イオンの数およびエネルギーの両方を検出するが、より重要なことには、試料からの反跳原子もまた検出する。この分析は、エネルギー検出と共に原子質量の計算も可能にする飛行時間型分析器と組み合わされた。それにより、コーティングの元素深さプロファイルが得られた。
【0023】
データ分析は、Potkuソフトウェアを使用して行った。試料表面から約30~200nmの深さプロファイルを積分することにより、250×1015~2000×1015原子/cmの濃度が計算された。
【0024】
W(C1-x層の形態および断面分析
電界放出銃(FEG)を備えたZeiss Merlin走査型電子顕微鏡で、W(C1-x層の上面形態を分析した。画像化には、3kVの加速電圧、200pAのプローブ電流、およびレンズ内二次電子検出器を使用した。
【0025】
Zeiss Supra 55VP顕微鏡を使用して、W(C1-x層の断面をSEMで精査した。加速電圧は3kVであり、プローブ電流は300pAであった。
【0026】
W(C1-x層の相および配向分析
W(C1-x層の相組成および組織構造または配向を調査するために、PIXcel検出器を備えたPANalytical CubiX3回折計を使用して、切削工具インサートの逃げ面に対してX線回折を行った。コーティングされた切削工具インサートを試料ホルダに装着し、切削工具インサートの逃げ面が試料ホルダの基準表面に平行になり、また逃げ面が適切な高さになることを確実にした。Cu Kα照射を測定に使用し、電圧は45kV、電流は40mAであった。1/2度の散乱防止スリットおよび1/4度の発散スリットを使用した。コーティングされた切削工具からの回折強度は、20°~140° 2θの範囲、すなわち10~70°の入射角度θ範囲にわたり測定した。
【0027】
δ-WC層の異なる成長方向に対する組織係数、TC(hkl)を、Harrisの式(1)に従って計算した。
式中、I(hkl)=hkl反射の測定(積分面積)強度であり、I(hkl)=Z. Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づく計算回折図に従う標準強度であり、nは、計算で使用される反射の数である。この場合、W(C1-xコーティングに対して、{0 0 1}、{1 0 0}、{1 0 1}、{1 1 0}、{1 1 1}、{1 0 2}、{2 0 1}、{1 1 2}、{2 1 0}、{2 1 1}、{1 0 3}の面群のhkl反射を使用し、全部でn=11の反射であった。
【0028】
ピークの重複は、X線回折分析において生じ得る現象であり、W(C1-x層のいくつかの反射は、ピーク幅に依存して重複し得ることに留意されたい。重複し得る反射は、0 0 1と1 0 0;1 1 0と0 0 2;1 1 1と2 0 0および1 0 2;2 1 0と0 0 3および2 0 2;2 1 1と1 0 3である。これらの重複は全て、微小粒に起因して幅広いピークを有する{0 0 1}組織構造試料に対して考慮する必要があった。他の2つの試料の回折図は、ほとんどの場合十分に分離したピークを有し、そのうちいくつかのピークは強度がゼロに近かった。重複するピークを別個のピークとしてフィッティングし、フィッティング結果の妥当性を、平行またはほぼ平行な面のピークと相対的なピーク強度によって制御した。
【0029】
PANalyticalのX’Pert HighScore Plus3.0bソフトウェアを使用して、データのバックグラウンドフィッティングおよびプロファイルフィッティングを含むデータ分析を行った。Cu Kα照射強度はフィッティング前にストリッピングしなかったが、代わりにCu Kαピークをフィッティングに含め、最終的にCu Kαピーク強度のみを組織係数計算に使用した。コーティングは一般に有限の厚さを有するため、異なる2θ角におけるピークの対の相対強度は、層を通る経路長の差に起因して、バルク試料に対するものとは異なる。したがって、通常薄膜補正を適用する必要があり、それによって、層の線吸収係数もまた考慮して、TC値を計算する前にプロファイルフィッティング曲線の抽出された積分ピーク面積強度が補正される。この特定の場合においては、5μm以上のフィルムのTC値を計算する際の補正は全ての角度に対して少なくとも0.95であると計算されたため、積分ピーク面積は薄膜補正されなかった。同様の理由により、ピークが観察され得る最大θ角であっても20分の1の強度低下をもたらす重なったW(C1-x層での吸収に起因して、基材に由来する強度は無視された。それ以外では、これらのピークは全てコーティングピークと重複する。
【0030】
本発明の実施形態は、付属の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】試料AのW(C1-x層を示す断面SEM顕微鏡写真である。
図2】試料BのW(C1-x層を示す断面SEM顕微鏡写真である。
図3】試料CのW(C1-x層を示す断面SEM顕微鏡写真である。
図4】試料AのW(C1-x層のSEM上面画像である。
図5】試料BのW(C1-x層のSEM上面画像である。
図6】試料CのW(C1-x層のSEM上面画像である。
【実施例
【0032】
本発明の実施形態は、以下の実施例に関連してより詳細に開示される。実施例は例示であり、実施形態を制限しないと解釈されるべきである。以下の実施例において、コーティングされた切削工具(インサート)は、切削試験で製造、分析および評価された。
【0033】
基材
超硬合金基材を、約7.20重量%のCo、1.80重量%のTi、2.69重量%のTa、0.41重量%のNb、0.09重量%のNおよび残りのWCの組成を有する粉末混合物から製造した。粉末混合物をミリングし、乾燥させ、圧縮して1450℃で焼結した。焼結超硬合金基材は、基材表面から、光学顕微鏡で測定される立方晶炭化物を本質的に含まない本体内への約23μmの深さまでのCoに富む表面ゾーンを備えていた。焼結超硬合金基材は、約7.2重量%のCoを含んでいた。超硬合金基材の断面のSEM顕微鏡写真では、遊離グラファイトまたはイータ相は観察されなかった。超硬合金基材の形状は、旋削用のISO型CNMG120408の形状であった。
【0034】
W(C1-xの堆積
コーティングの堆積前に、全ての基材を穏やかなブラストステップで清浄化して、表面から最外金属を除去した。また、堆積の前に、基材をエタノール浴中で30分間清浄化した。
【0035】
J. Gerdin Hulkko、MuspelおよびSurtr:CVD system and control program for WF chemistry、Licentiate thesis、Monograph、Uppsala University、2019において詳細に説明されているホットウォール横型管状炉反応器内で、W(C1-x層を堆積させた。ここで、反応器システムの主な特性を説明する。管は、Kanthalからのフェライト鉄-クロム-アルミニウム合金で作製されたものである。等方性黒鉛で作製された内側管は、外側管の広範囲のエッチングを防止し、47mmの内径を有する。管は、炉に到達する前に長さ175mmの低温ゾーンを有する。炉は、130mmの非加熱ゾーンに続いて、250mm、500mm、250mmの3つの別個の加熱ゾーン、そして最後に130mmの非加熱ゾーンを有する。加熱ゾーン内の温度は、Eurotherm 3216 PIDコントローラにより制御され、K型熱電対が反応器管の外側および炉の内側の各ゾーンの中央に設置される。中央ゾーンの内側温度は、3mmのOリング封止ポートを通して挿入されたK型熱電対を用いて較正された。プロセス中、3つの加熱ゾーンは同じ温度に維持された。
【0036】
前駆体流量は、WF(5.5純度)、H(5.6純度)およびAr(6.0純度)についてはMKS GM50Aマスフローコントローラにより制御され、CHCN(>99.9%純度)については40℃の温度に維持されたMKS 1152Cマスフローコントローラにより制御される。CHCNエバポレーターシリンダは25℃に維持され、シリンダとマスフローコントローラとの間のパイプは45℃に維持される。他の全てのガスは、シリンダ内で室温に維持される。ガスは316ステンレススチールパイプ内で運搬され、接続部には銀めっきVCRまたは銅ガスケットが使用される。バルクガス(Arで希釈されたH)は、反応器正面で直接反応器管に進入する。他の2つの前駆体(Arを含むWFおよびArを含むCHCN)は、別個のInconel600パイプ内で第1の加熱ゾーンを通して運搬され、反応器管に中央加熱ゾーンの25mm内側に進入する。Ebara technologiesからのS20Nルーツポンプ(最大容量100m/時、最終圧力3.75×10-2Torr)により低圧が維持される。ガス流量はOリング封止バタフライ弁(MKS153D)によりスロットル調整され、PID真空制御システム(MKS946)により調節される。圧力測定には、1Torrフルレンジ温度安定化キャパシタンスマノメータ(MKS627B)が使用される。圧力の読み出しは、ターボ分子ポンプによりシステムを高真空範囲までポンピングすることにより較正された。
【0037】
堆積ゾーンはガス混合点から90~230mmの間であり、均一な厚さ、同じ結晶相および同じ支配的組織構造のコーティングを得ることができた。
【0038】
試料AのW(C1-xは、3.7体積%のWF、1.2体積%のCHCN、25体積%のHおよび残りのArを使用して、715℃および133Paの圧力で堆積させた。全ガス流量は350sccmに設定し、堆積速度は約0.5μm毎時であった。
【0039】
試料BのW(C1-xは、0.8体積%のWF、1.2体積%のCHCN、25体積%のHおよび残りのArを使用して、715℃および133Paの圧力で堆積させた。全ガス流量は350sccmに設定し、堆積速度は約1μm毎時であった。
【0040】
試料CのW(C1-xは、1.8体積%のWF、1.2体積%のCHCN、5.7体積%のC、25体積%のHおよび残りのArを使用して、715℃および133Paの圧力で堆積させた。全ガス流量は350sccmに設定し、堆積速度は約0.5μm毎時であった。
【0041】
W(C1-x層の分析
試料A、BおよびCを、断面図および上面図の両方についてSEMで精査した。図1~6を参照されたい。試料AおよびBは、畝状の上面形態を有し、試料AのW(C1-x層は、試料Bの試料W(C1-x層のW(C1-x層より大きい粒サイズを有する。試料Cは微細粒を有し、微細粒は、互いの上に柱状に成長し、典型的には星状の上面形態を有していた。組織係数をX線回折により分析した。試料の概要を、SEMで測定されたW(C1-x層厚と共に表1に示す。全ての計算TC値を表2に示す。
【0042】
W(C1-x層の組成を基準試料に対するERDAにより決定したが、これを表3に示す。
【0043】
θ-2θX線回折を使用して、W(C1-x層の相を分析した。回折図は、コーティング中に六方晶相のみが存在したことを示しており、立方晶WC1-xまたはWN(0.5≦y≦2)反射は特定されず、またタングステンに富むWC相(六方最密充填W副格子および八面体空隙の半分におけるC原子)の反射は特定されなかった。ピーク位置および標準強度を、Z.Anorg.Allg.Chem.(1926)156、27~36に基づいて計算した。計算は、P.Villars、K.Cenzual、Pearson’s Crystal Data-Crystal Structure Database for Inorganic Compounds、Release 2016/17、ASM International、Materials Park、Ohio、USAを使用して行った。次いで、以下の標準強度をTC計算に使用した:I(0 0 1)=426、I(1 0 0)=1000、I(1 0 1)=958.5、I(1 1 0)=213.7、I(1 1 1)=240.9、I(1 0 2)=218.4、I(2 0 1)=193.5、I(1 1 2)=155.5、I(2 1 0)=131.2、I(2 1 1)=298.6およびI(1 0 3)=154.8。
【0044】
W(C1-x層をSEMで精査すると、試料AおよびBにおけるW(C1-x粒が柱状であることが分かった。
【0045】
切削試験
切削工具を、高合金鋼であるSS2310加工対象物材料での縦方向旋削操作において試験した。切削速度Vcは90m/分であり、送り量fnは、切削試験1では0.072mm/回転、切削試験2では0.125mm/回転であり、切削深さaは2mmであり、水に混和性の切削流体を使用した。寿命尺度の終わりに達するまで、機械加工を継続した。切削工具当たり1つの切削刃を評価した。
【0046】
工具寿命尺度は、一次もしくは二次逃げ面摩耗>0.35mm、またはクレーター面積>0.2mmに設定した。これらの尺度のいずれかが満たされたらすぐに、試料が寿命に達したとみなした。切削試験の結果を表4に示す。
【0047】
表4に見られるように、試料Aは、第1の切削試験において、二次逃げ面における改善された耐摩耗性および改善されたチッピング抵抗性の結果、試料BおよびCと比較して延長された寿命を示す。さらに、切削試験2においても、試料Aは、二次逃げ面における改善された耐摩耗性および改善されたチッピング抵抗性の結果、最も長い工具寿命を示す。
【0048】
本発明を様々な例示的実施形態に関連して説明したが、本発明は開示された例示的実施形態に限定されず、逆に、添付の特許請求の範囲内の様々な修正および同等の構成を包含することが意図されることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】